ジュリア・クロードのピアノソナタ全集第4巻(ハイドン)

最近入手した気になるアルバム。またまた宝物に出会いました。

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ジュリア・クロード(Julia Cload)のピアノによるハイドンのピアノソナタ9曲(Hob.XVI:8、XVI:2、XVI:12、XVI:14、XVI:25、XVI:42、XVI:46、XVI:20、XVI:32)を収めた2枚組のCD。収録に関する情報は記載されていませんがPマークが2009年と記載され、ハイドンのアニヴァーサリーイヤーであるこの年にコンサートも開いたとのこと。レーベルは英Meridian。

ジュリア・クロードのピアノソナタ集はこれまでに3巻がリリースされていましたが、それぞれ1985年、1989年、1990年のリリースということで、第3巻から20年近く経ってから第4巻がリリースされたことになります。ということで第3巻を記事に取り上げた際には完結などと書いてしまいましたが、どっこいまだ完結していなかったことになりますね。以前に取り上げた際の記事はこちらをご参照ください。

2013/10/03 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集完結
2010/09/25 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集

ジュリア・クロードはハイドン研究の大家、ロビンス・ランドンが推薦していたピアニスト。そのあたりのことは完結の方の記事をご参照ください。これまでにリリースされたアルバムの演奏はランドンが推すだけのことはあって、くっきりとした右手のメロディーの輝きを感じさせるなかなかの演奏でした。この度手に入れたアルバムはこれまでリリースされたアルバムとは時代が変わって、ジャケットのデザインも変わり、録音も比較的最近のものということでクロードのくっきりとした演奏にさらに磨きがかかったものであろうと想像して、アルバムを聴き始めました。ライナーノーツを見てみると、ハイドンのピアノのソナタ「全」集の第4巻とはっきりと書かれているので、この第4巻のリリースによって停滞していたと思われた全集化の歩みは止まっていなかったわけですね。

Hob.XVI:8 Piano Sonata No.1 [G] (before 1760)
ごく初期の練習曲のようなシンプルなソナタですが、豊かな残響の中にピアノがくっきりと浮かび上がる見事な録音によって、シンプルなメロディーがくっきりとしかも豊かにに響きわたります。ジュリア・クロードはかなりリラックスして、このシンプルなソナタをまるで小人の国で遊びまわるように楽しげに演奏していきます。オルベルツのような芯のしっかりした面もあり、それでいて響きの美しさは超一級。これまでの3巻の演奏から奏者の熟成を感じる素晴らしい演奏。ピアノはヤマハのCFIIIですが、これほど研ぎ澄まされたヤマハの音を聴くのは初めて。Meridianの素晴らしい録音によって初期のソナタの美しさが最上の形に仕上がっています。

Hob.XVI:2 Piano Sonata No.11 [B flat] (c.1762)
初期のソナタが続きますが構成は随分進歩して、楽章間の対比もよりはっきりとしてきています。研ぎ澄まされた響きの美しさは変わらず、そしてハイドンの仕組んだリズムの面白さや、ふとした瞬間の翳り、ハッとするようなアイデアを丹念に拾って美音に包みこんだ名演奏。そして表現も深みを帯びてきました。少し前に取り上げた、エイナフ・ヤルデンの演奏が知性に訴えるような美しさだったのに対し、ジュリア・クロードの演奏は優しさに包まれた響きの美しさ。揺りかごに揺られながら聴く音楽のような安堵感に包まれます。

Hob.XVI:12 Piano Sonata No.12 [A] (before 1765)
入りの気配から洗練の極み。いつもながらハイドンの創意の多彩さに驚かされますが、それも極上の美音で聴くと一段と冴えて聴こえます。メロディーもリズムもハーモニーも全てが信じられないような閃めきの彼方からやってきたよう。脳の全神経が音楽に揺さぶられて覚醒。短いソナタにもかかわらず、なんと刺激に満ちた音楽なのでしょう。それも優しさと機知に飛んだユーモラスな刺激。この演奏によってこのソナタにこれほどの魅力があると気づかされました。

Hob.XVI:14 Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
曲を追うごとに創意の多彩さに打ちのめされるのがハイドンのソナタ集の常。予想外に展開する音楽に呑まれます。音符を音にしているのではなく音符に宿る魂を音楽にしているがごとき見事なクロードの魔術にかかっているよう。タッチのデリケートさは尋常ではなくこれ以上繊細にコントロールするのは難しいとも思える領域での演奏。散りばめられたそれぞれの音が溶け合ってまばゆい光を放っています。こればかりは聴いていただかなくては伝わりませんね。2楽章のメヌエットから3楽章のアレグロへの変化は誰にも想像がつかない見事な展開。独創的な3楽章に改めて驚きます。

Hob.XVI:25 Piano Sonata No.40 [E flat] (1773)
これまでの曲よりも少し下った時代の曲。曲の展開とメロディーの構成は一段と緊密になりますが、これまでの曲のシンプルさもハイドンらしい音楽として見事に仕上げてきていますので、聴き劣りしていたわけではありません。フレーズごとの描き分けはさらに巧みになり、音楽の起伏も大きくなっていきますが、聴きどころがクロードの演奏の見事さから、曲自体の素晴らしさに移ってきているようにも感じます。この曲から聴き始めていたら、もう少し普通の演奏に感じたかもしれません。それだけシンプルな曲におけるクロードの表現が素晴らしいということです。もちろんこの曲でもクロードのデリケートな表現力は変わらず素晴らしいものがあります。

Hob.XVI:42 Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
CD1の最後の曲。有名曲ですので聴き覚えのある方も多いはず。クロードの演奏は洗練の極み。この曲の私の刷り込み盤はブレンデル。この曲で最初に手に入れたアルバムだけに鮮明に覚えていますが、クロードの演奏を聴いてしまうと、今まで磨き込まれた名演だと思っていたブレンデルの演奏が無骨に聴こえてしまうほど透き通るような透明感に溢れた演奏です。ハイドンのソナタがこれほどの輝きを持つことに驚きます。ゆったりと語られる一音一音にそれぞれ意味が込められ、まさに絶妙に磨き込まれた孤高の響き。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
CD2は1770年代の名曲が3曲並びます。空中にピアノの美音が漂うような雰囲気満点の録音。磨き抜かれた宝石のようなピアノの美音が転がりだしてきます。この曲は、構成の面白さ、アイデアの豊富さ、メロディーの美しさなどこれまでの曲よりさらに一段高いレベルの曲ですが、このジュリア・クロードの演奏はその中でも響きの美しさとメロディーの美しさに踏み込んだ演奏。曲の骨格よりもハーモニーの美しさを追い込んでいきます。この演奏によってハイドンが最も生み出すのが難しいものと語ったメロディーの類稀な美しさにスポットライトが当たります。特にデリケートなタッチによってヂュナーミクの変化は無限の階調とも言えるしなやかさを帯び、ハイドンがまるでエンヤの音楽のように漂います。ちょっとやりすぎのような気がしなくもありませんが、これはこれでハイドンのソナタの一つの姿とも言えるでしょう。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きなXVI:20。一歩一歩踏みしめるようなたどたどしい入りに驚きます。響きの深さはこのアルバムに共通ですが、表現が少しづつ深くなります。徐々に歩みを速めていきますが、聴き進む間にテンポを自在に変化させ、ソナタの格にふさわしい表現の深さを聴かせます。まさに詩情あふれる演奏とはこのこと。2楽章のアンダンテが聴きどころと思っていたところ、その前にやられてしまいます(笑)。そして2楽章は予想どおり美しさを極めた演奏となります。クロードのタッチはこの曲でもデリカシーに富んだものですが、曲が曲だけにそのレベルは極まった感じ。フィナーレの達観したかのような落ち着きも見事。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
最後も有名曲。タッチのキレに初めて殺気のような迫力を感じます。テンポが次々と変わり、CD2に入って自在な表現を極めてきた感じ。響きの美しさばかりでなく1楽章中盤からの畳み掛けるような迫力も加わり、過去に録音された3巻よりも明らかに表現のスケールが大きくなり円熟を感じます。より曲の本質に迫ろうとする意欲が音楽に乗っているのがわかります。メヌエットも直裁なキレを聴かせたかと思うと穏やかな膨らみで和ませ、キレ味を引き立てる見事な展開。そしてフィナーレは全方角から音の雫が降り注ぐようなこれも見事な表現に参ります。

1985年のシリーズ第1巻の録音から24年後、直近の第3巻の1990年の録音から19年を経て2009年に録音された2枚組の第4巻ですが、その間の時の流れを経ての録音であるとの説得力を感じさせる、円熟味が加わった見事な演奏。ジュリア・クロードというピアニストが人生を賭けてハイドンのソナタに取り組んでいるとわかる素晴らしい演奏でした。はじめは数曲取り上げるだけにしておこうかと思って聴きはじめましたが、あまりの面白さに3日かけてしっかり聴き通して記事にした次第。もちろん評価は全曲[+++++]とします。
これまでのリリース間隔から想像するに、すぐに第5巻がリリースされるとはいかないでしょうが、それでも2009年の録音から8年が経過しており、第5巻がそろそろリリースされてもおかしくないでしょう。次のアルバムが待ち遠しいですね。

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VPI HW-16.5でのレコードクリーニング作法

最近LPを聴く頻度が上がっているのは当ブログの読者の皆様ならご存知の通り。世の中ハイレゾやネット配信がはびこる中、高齢者の懐古趣味とも思えるLPですが、どっこい最近は若者にもレコードの良さが認められつつあり、クラシック以外のジャンルでも新譜がLPで発売されたり、レコードプレーヤーなども新たな商品がどんどん発売されるなど、懐古趣味にとどまらないムーヴメントになりつつあります。かく言う私もディスクユニオンやオークションでLPを仕入れては針を落として、長年の時の流れをくぐり抜けた円盤から湧き出る音楽に浸って楽しんでいる次第。CDが世に出た以降は音楽を楽しむのはCDが中心でしたが、このところLPを聴き直してみると音楽を聴くという行為はやはりLPに分がありますね。

しかも昔はレコードのパチパチノイズに一喜一憂していたのですが、最近はノイズは気になりません。無論、加齢により高音域の聴力が落ちていることも一因ですが(笑)、やはり、VPIのレコードクリーナーを入手して以来、レコードをクリーニングして、盤を綺麗にして楽しんでいることも大きいですね。

このような境地に至るまでに色々と試行錯誤はしましたが、現在行ってるクリーニング方法でレコードのクリーニングについては一定のノウハウがたまりましたので、ここでまとめて紹介しておこうと思って本記事をまとめました。

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レコードのクリーニングは、以前はたいていの方がそうであるように、乾式のクリーナーでホコリを取るだけでしたが、それだとノイズにまみれた盤はどうしようもありません。大昔はノイズのひどいアルバムは水で洗ったり、ボンドパックなども試してみたことがありますが、かける労力ほどの効果があるわけではなく、また音楽をのんびりと楽しむ雰囲気ではなくなってしまうので、私にはちょっと合いませんでした。またレイカのバランスウォッシャーを使っていたこともありますが、そこそこの効果はあるものの1枚仕上げるのに随分な労力がかかり、こちらも長続きせず。レイカで盤を磨くのはさながら修行のような感じでした。

2014/04/04 : オーディオ : 【番外】LPレコードクリーナー到着

流れが変わったのはVPIのクリーナーを入手してから。爆音を立てて汚れた液を吸引してくれるのはむしろ快感。しかも盤もかなり綺麗になり明らかにノイズが減少し、物によっては新品同様の素晴らしい状態に生まれ変わります。ただし、VPIのクリーナーについてもそのまま使っただけよりも、いくつかの工夫をすることで、効果はかなり上がります。現在のクリーニング方法で大抵のアルバムはピカピカになりますので、その作法を公開します。なお、バキューム式のクリーナーはVPIの他にもかなり高額なもののあり、私はVPI以外は使ったことはありませんが、とりあえずVPIで十分な効果があり、コストをかける価値は十分にあると思います。



<ハイドン音盤倉庫式レコードクリーニング作法>

①検盤
LPを手に入れたらまず検盤です。ディスクユニオンでLPを手に入れる時にはカウンターでLPを目視検盤しますが、その検盤ではありません。レコードを手に入れ家に帰ったら、まずターンテーブルに乗せ、そしておもむろに顕微鏡を取り出します。顕微鏡といっても本格的なものではなく、こちら。



1000円ちょっとで買える、主に子供の学習用のものですが、これが絶妙に素晴らしい。まずは顕微鏡で音溝を覗いた画像をお見せします。

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これは上の顕微鏡の接眼レンズにiPhoneのカメラのレンズを近づけて撮っただけの写真ですのでコントラストなどはかなり低く見えますが、実際にこの顕微鏡で見ると、クッキリと音溝が見える上に、顕微鏡についているLEDライトによって埃がまるでダイヤモンドのようにクッキリと光り輝いて見えます。どうしてまず検盤かというと、レコードの汚れは音溝の奥まで達する汚れと表面的な汚れ、キズなど様々なものがあり、手に入れたLPの状態と、それをクリーニングした後の音、状態を知ることで、表面的に肉眼で見るLPの状態から、それがクリーニングで消えるものかどうかの勘を養うためなんです。古いLPの中には見た目は結構汚れているアルバムもありますが、意外とクリーニングで綺麗になり、ノイズもほとんどなくなるアルバムも多いものです。ですから店頭での検盤で良盤を見分ける力を養うために検盤が必要なんですね。写真はほぼ綺麗なアルバム。クリーニング後もこの程度ならノイズはほぼない状態になります。

顕微鏡の使い方ですが、拡大率が60〜120倍と高いため、最初はちょっと綺麗に見るのが難しいですが、コツは下記の通り。

・まずLEDライトをオンして、倍率は最高の120倍にセットします。
・それを机などの上に置き、机の表面にピントが合うよう調節します。これは簡単。
・LPには顕微鏡がプラスチック製で軽いことから、私はLPの盤面に直接置いてしまいます。そうすることでピントがピタリと合った状態で盤面を確認できます。

最初は顕微鏡を浮かした状態で見ようとしていましたが、浮かした状態でピントを確保するのは至難の技。そっと置いてしまうのが一番確実です。なお、顕微鏡は置く前にエアダスターでホコリなどを吹き飛ばしておくと精神衛生上もいいですね。

②レコードクリーニング(VPI HW-16.5)
検盤が終わったら、クリーニングです。クリーニングにもコツがあります。

まずはクリーニング液。VPI HW-16.5本体に純正のクリーニング液がついていますが、これはなかなか高価な上に、クリーニング効果についても下記する液の方が高いです。このクリーニング液の作り方はネットで知ったものですが、安価でかつ効果も高くお気に入りです。

(クリーニング液)
精製水6、50%イソプロピルアルコール4、その混合液にドライウェル数滴たらします。
作り方は空の純正のクリーニング液ボトルに2/5イソプロピルアルコールを入れ、それを精製水で満たして作ります。

精製水はドラックストアで簡単に手に入ります。イソプロピルアルコールは消毒用としてこれもネットなどで手に入ります。またドライウェルは富士フィルム製でこれもネットで手に入ります。ドライウェルは昔はモノクロネガフィルム現像後の水切りに使いました。昔はコダックのTRY-XやPLUS-X、フジのネオパンSSなど、自分でよく現像したものです。純正液は匂いはあまり気になりませんが、この液はアルコール特有の消毒臭い匂いがしますので、換気には十分気をつけて使った方が良いでしょう。(自己責任でお願いします)

このクリーニング液は安価に作れますので、私は純正液の指定量よりも多目に使います。

(ブラシ)
ブラシは重要なポイントです。特にクリーニング後の盤面を顕微鏡でチェックするとブラシが重要であることがわかります。私は純正ブラシは使わず、こちらのブラシを使います。



2015/12/14 : オーディオ : LPは黒光りするほど綺麗に!(VPIレコードクリーナー用新兵器)

以前の記事で紹介したブラシは今も使っていますが、バージョンが変わり、現在はこのブラシが販売されています。私も予備に新型を2個購入してあります(笑) 本来は美顔用途のブラシなんですが、これがLPのクリーニングに絶妙な効果を発揮します。まずは毛先が非常に細く、音溝の奥に入ること。レコードのクリーニングをされている方の中にはデンターシステマ歯ブラシを使われている方がいらっしゃいますが、こちらは毛の細さは同等以上で密度と量は圧倒的。しかも電動で超音波振動しますので、まるでLPのクリーニングのために作ったかのような素晴らしさ。顕微鏡でクリーニング後の盤面をチェックすると純正のブラシとは効果が全く違います。

この私製クリーニング液と美顔ブラシを使ったクリーニング方法は下記の通り。

(液垂らし)
LPをVPIにセットしてターンテーブルを回します。そして私製クリーニング液をLP外周から内周に向けて垂らします。垂らす時に気をつけることは、最外周から1cmくらいのエリア、レーベル際がら1cmくらいのエリアには垂らさないこと。外周ギリギリに垂らすとブラシでこすった時にクリーニング液が外に溢れて裏側の盤面を汚します。また内側はレーベル面に液がかからないためです。液を垂らさない外周縁部、内周部には後でブラシで液を広げるようにすれば大丈夫です。垂らす量はブラシで伸ばした時に盤面全体が液で十分に覆われる量ですが、これはクリーニングを始める最初の面ではかなりの量になります。純正ボトルから内周、真ん中、外周にそれぞれ10cmくらい液を垂らすイメージです。というのも美顔ブラシがかなり液を吸いますので、最初の面は液をケチると液で面を覆うまでになりません。2面目以降はブラシが十分に液を含んでいますのでその1/2から1/3で良いでしょう。何れにしても液は多めの方がクリーニング効果は高いです。

(液伸ばし)
液を垂らし終わったら、外周1cm残した内側に、スイッチを入れてブルブル震えている美顔ブラシを下ろし、1周させブラシを上げます。このときは力はまったく入れず、液が盤面に広がるように伸ばすだけです。これで盤面の外側1/3に液が広がります。続いてLPの外周と内周の間の部分が1周するまでブラシを下ろして液を伸ばします。これで真ん中1/3。そして内周をレーベルの際から1cmくらいまでを1周。これで内側1/3。これで盤面の最外周1cm、最内周1cmを残して液が表面を覆う状態になりました。続いて最外周と最内周に液を伸ばします。最外周は盤の縁から1〜2mmのところまで攻めます(笑) 針を落とした時に最初にノイズを気にする部分ですので。ここでも液が覆うことだけ考えて力を入れません。レーベル側も同様、最内部の音溝まで攻めます。これで、盤面全体に程よく液が広がった状態になります。スプレーを使った盤などの中には盤面が液を弾いてしまう盤もありますが、多少弾いたところが残っても問題ありません。

(洗浄)
液が盤面を覆ったらクリーニング開始です。先ほどまでは液を伸ばすことだけを目的にしていましたので、力は入れず、ブラシを盤面に置くくらいの力でよかったんですが、これからクリーニング開始です。クリーニングは内周からやります。これは伸ばした液がホコリや付着物に染み込む時間を考慮すると、液を広げてから時間がたった方がクリーニング効果が高いため、外周を重視するとまずは内周から始めた方がいいわけです。かなり汚れた盤ではクリーニングを綿密にすると徐々にノイズがなくなっていきますので、それなりに根拠はあります。

まずは最内周、レーベルの際にブラシが触れない程度の位置にブラシを落とし、4〜5周ブラシを盤面に押し付けます。押し付ける強さは経験上、ブラシの毛が多少たわむ程度が良いでしょう。あまり強いと毛が寝てしまいますので音溝の奥まで届かない可能性もあります。またブラシを少し傾けてブラシ面と盤面が並行よりも少し手元が高くなるようにすると、ブラシの盤面への圧力が弱い部分から強い部分になるので良いような気がします。このようにして内周4〜5周、中周4〜5周、外周4〜5周というのが普通のパターンです。ブラシ自体が振動していますので、ブラシを支える手は動かさず、ブラシの振動で汚れを落とすイメージです。綺麗な盤では短め、逆に汚れた盤では長めに時間をとります。

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(ヴァキューム)
上記が終わったらブラシを置き、VPIの真骨頂、ヴァキュームに入ります。私はヴァキュームは4周と決めています。液の吸い取り漏れがなくなるのが4周くらいですね。

これで、一連のクリーニング作業は終わりですが、もう一つポイントを。

VPIのターンテーブル面はコルクが貼り付けられていますが、このコルク面、ホコリが目立たなくて良いのですが、逆にホコリが溜まりやすいんですね。クリーニング前のLPはホコリがついていることも多いので、まず片面をクリーニングした時、クリーニング前の面がコルクに接しているわけです。そしてもう片面のクリーニングのためにLPをひっくり返すと、今クリーニングした面がホコリだらけのコルク面に触れることになります。というわけで、このコルク面をクリーニングのたびに綺麗にする必要があります。私はエアダスターを手元に置いて、クリーニングの度にシュッとひと吹きコルク面のホコリを払うようにしています。

③乾燥
クリーニングしたLPはすぐに針は落としません。ヴァキュームしても溝の奥まで完全に乾いているとは限りませんので乾燥が必要です。ということで、LPを一定の枚数乾かすためにこれを使ってます。



なんとなく似たものは100円ショップにありそうですが(笑)、とりあえずこれを買って、クリーニング後の盤を立てかけて乾燥させます。しばらくしたら、やおら盤を手に取り、黒光りする盤面を目視チェックしてニンマリします。

④再検盤
クリーニングに慣れるまでは再度顕微鏡で検盤することをおすすめします。クリーニング前とクリーニング後でかなり変わりますので、それを確認して、クリーニング後のコンディションをチェックしましょう。

ちなみに、この時点でホコリがまだ多いようであれば、私はもう一度クリーニングします。かなり古めのモノラル盤などは、経過した時代なりに汚れているものもありますので、2度目のクリーニングは有効です。



如何でしょうか。ここまでのクリーニングですが、慣れると1枚に必要な時間は2〜3分です。私は中古盤を買った時は針を落とす前に必ずクリーニングして聴くようにしています。どんなに綺麗な盤でもこのクリーニングはしています。クリーニングした盤の方が伸びやかな音がする感じですし、汚れた盤よりは針を長持ちさせられそうな感じがするのが理由でしょうか。

こうして綺麗な盤面にクリーニングして聴くLPは時代を超えて演奏の息吹を伝えてくれます。レコードのコレクションをある程度お持ちの方はVPIを導入する価値はあると思います。手元の古びたアルバムが宝物に変わりますよ!





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アンドレ・ワッツ デビュー25周年記念ライヴ(ハイドン)

久々にCDです(笑)

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アンドレ・ワッツ(André Watts)のデビュー25周年記念で行われたカーネギー・ホールでのコンサートの模様を収録したアルバム。この1曲目にハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)が収められています。その他の収録曲はモーツァルトのK.332、シューベルトのD.784、ブラームスの4つの小品Op.119。収録は1988年4月6日、ニューヨークのカーネギーホールでのライヴ収録。レーベルは今は亡き英EMI。

アンドレ・ワッツは私にとっては懐かしい人。昔、父がFM放送から何曲かエアチェックしたカセットテープあり、好んで聴いましたが、それが誰の曲だったか、記憶があまりにもおぼろげでもはや覚えていません。その記憶以来ワッツの演奏を意識して聴いたことはありませんでしたが、このアルバムのジャケットでにこやかに微笑む姿を見て、懐かしく思った次第。特段ハイドンを演奏するという印象がある人ではありませんでしたが、このアルバムにハイドンの曲が含まれているとわかり手に入れました。

アンドレ・ワッツはWikipediaなどを調べてみると、1946年、ドイツのニュルンベルクでアフリカ系アメリカ人の父とハンガリー人の母の間に生まれました。フィラデルフィア音楽院でピアノを学び、何と9歳でフィラデルフィア管弦楽団とハイドンのピアノ協奏曲を演奏したそう。その後1963年、バーンスタインがCBSテレビの全国放送である「青少年コンサート」に招き、有名になりました。以来ワッツのコンサートはテレビ放送で幾度も取り上げられるなど、テレビによってキャリアを築いてきた人のようです。ワッツの録音を調べてみると、ハイドンのソナタを収めたディスクは他にもあり、コンサートでもハイドンを取り上げていたようです。今日取り上げるディスクはワッツのデビュー25周年を記念してニューヨークのカーネギー・ホールで開催されたリサイタルの模様を収めたものですが、同時期にリンカーンセンターでメータ指揮のニューヨークフィルとの共演 で、ベートーヴェン、リスト、ラフマニノフの協奏曲を演奏したコンサートも催され、こちらもテレビ中継されたとのこと。特にリストを得意とするということで、テクニックには自信があるようです。日本にも1969年に初来日しており、以降何度も来日しているようですので、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
カーネギーホールに降り注ぐ暖かい拍手から始まる雰囲気たっぷりの録音。非常にデリケートなタッチで優しく音を響かせて入ります。聴衆が耳を澄ましてワッツの美音に聴き入るピンと張りつめた気配包まれての演奏。美しい音階が特徴の曲ですが、その音階を力を抜いてサラサラと清水が流れるように響かせる円熟のタッチ。一音一音を丁寧に置いていきながら、余裕たっぷりに流れをコントールして、淀みを作ったり、さらりと流したりしながら、ハイドンの楽興の彼方に引き込まれていく快感。ホールの空気感が伝わる名録音。1楽章は未曾有の緊張感にしびれます。そして2楽章に入ると指が気持ちよく回り、ハイドンの曲を軽々と弾きこなしていきます。素晴らしいテクニックの持ち主が、力を抜いてさらりとこなす粋な演奏。殺気がみなぎるようなアムランとも異なり、シフのような濃い目の情感を伴うこともなく、純粋無垢な響きに包まれる演奏。純粋に音楽の躍動とハーモニーの透明感、そしてリズムの戯れを味わえる名演奏。最初の1曲目から聴衆を釘付けにする見事な演奏。拍手の前にブラヴォーが気持ちよく響きます。ハイドンのソナタの最上の姿にこの日の聴衆はいきなり幸福感に包まれたことでしょう。

続いてモーツァルトのK.332。これまた素晴らしいモーツァルト。これほど美しく響くモーツァルトは久しぶり。ハイドンも絶品だったんですが、こちらも極上の演奏。まるでカーネギーホールで当時の興奮を味わっているような至福のひととき。自身の四半世紀の活躍の節目というタイミングのコンサートにワッツがどれだけの準備をしたのでしょうか。あまりに完璧な演奏にとろけそうです。そして、シューベルトもブラームスも集中力が途切れることなく完璧な音楽が流れます。

アンドレ・ワッツのデビュー25周年を記念したライヴですが、まさに宝物のようなアルバム。この日のコンサートを聴いた聴衆はワッツのピアノの素晴らしさに打ちひしがれたでしょう。冒頭に置かれたハイドンのソナタのなんたる美しさ。ワッツの円熟のタッチから生み出される美しい響きにノックアウトです。ピアノの好きな方は必聴のアルバムでしょう。もちろんハイドンの評価は[+++++]とします。てにはいるうちにどうぞ。

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tag : ピアノソナタXVI:48 ライヴ録音

シルヴィア・マーロウのハープシコードソナタ集(ハイドン)

見知らぬ奏者のアルバムを手に入れ、針を落とす時のときめきは今も変わりません。

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シルヴィア・マーロウ(Sylvia Marlowe)のハープシコードによる、ハイドンのハープシコードソナタ5曲(Hob.XVI:1、XVI:2、XVI:3、XVI:4、XVI:5)を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、Pマークは1981年とあります。レーベルはGASPARO。

見るからに古風なジャケットがいい感じ。奏者のシルヴィア・マーロウはまったくはじめて聴く人。調べてみると1908年ニューヨーク生まれのハープシコード奏者。パリのエコール・ノルマル音楽院でピアノ、オルガン、作曲を高名なナディア・ブーランジェに学び、またワンダ・ランドフスカのハープシコードに触発され、ハープシコードに興味を持つようになります。アメリカに戻ると、ピアノに代わって徐々にハープシコードに活動の軸を移し、レパートリーもバロック時代ものから現代の作曲家の作品やジャズまで広がったとのこと。1957年に自らハープシコード・ミュージック・ソサイアティを設立し、ハープシコードのための作品が書かれることを推進したり、ハープシコードを学んだり作品を書く学生に奨学金を提供するなどに尽力しました。亡くなったのは1981年ということで、今日取り上げるアルバムは最晩年の録音ということになります。現代の作曲家やジャズまで極めたマーロウが最晩年にハイドンのごく初期のソナタを録音しているということも興味深いですね。

Hob.XVI:1 Piano Sonata No.10 [C] (c.1750-1755)
いきなり鮮明。かっちりとしたハープシコードの音色が響き渡ります。速めのテンポでくっきりとしたメロディーを描いていきますが、耳を澄ますと非常にデリケートに表情がつけられ、それがクッキリ感を際立たせていることがわかります。2楽章のアダージョではゆったりとした音楽が流れ、バフ・ストップで音色に変化をつけます。そして3楽章のメヌエットはハイドンならではの緊密な構成感を感じさせます。短いソナタですが、円熟というよりは達観したような切れ味が心地良い音楽を作ります。

Hob.XVI:2 Piano Sonata No.11 [B flat] (c.1762)
続く曲はスタッカートのキレ味を誇るような入り。なんだか聴いているうちに鮮やかなタッチの凄みがようやくわかってきました。恐ろしくキレのいい音楽。しかも一貫してインテンポで攻めてくる迫力を感じます。ハープシコードの演奏でこのような迫力を感じるのははじめてのこと。続くラルゴではタッチのキレは逆に抑えて対比の効果を引き立てます。1楽章とのコントラストがつく一方、この楽章のメロディーの流れも立体的に描き、類い稀な表現力を見せつけます。音の強弱の表現の幅の狭いハープシコードでこれだけの表現力は見事というほかありません。この曲も3楽章がメヌエットで、クッキリとした表情で中間部を挟んだ定番の構成の面白さが曲のポイントとなります。後年メヌエットは終楽章に置かれることはなくなりますが、これはこれで非常にまとまりある構成であることがわかります。

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LPをひっくり返して3曲目。

Hob.XVI:3 Piano Sonata No.14 [C] (early 1760's)
1楽章は初期のソナタらしいシンプルな曲ですが、直裁でキレのいいタッチで爽快な響きを創っていきます。聴けば聴くほど見事なタッチ。続いて落ち着き払ったアレグレットは、フレーズごとにちょっとした変化をつけてメロディーに生気を吹き込みます。そしてこの曲の3楽章はメヌエットではなくプレストですが、A-B-Aの構成は変わらず。舞曲ではないだけで、堅固な印象は保ちます。

Hob.XVI:4 Piano Sonata No.9 [D] (before 1765)
同じく初期のソナタなんですが、展開の華やかさなどを聴くと確実に前曲よりも進歩しているように聴こえます。マーロウの迷いなく揺るぎないタッチによりメロディーラインがクッキリと浮かび上がるので曲の構造がよくわかります。またフレーズごとに次々と音色を巧みに変化させていて、こちらの期待以上に豊穣な音楽が流れます。この曲は2楽章構成で2楽章がメヌエット。舞曲にしてはリズムをためて濃いめの表情付け。ハイドンのメヌエットの面白さを見抜いた酔眼でしょう。

Hob.XVI:5 Piano Sonata No.8 [A] (1750's)
変化に富んだハープシコードを楽しんでいるうちに、あっという間に最後の曲。これまでの曲では最もリズムの面白さを強調した曲。1楽章にも実に印象的な響きが散りばめられ、アルバムの最後にふさわしい力強さ。そして中間の2楽章がメヌエット。ここでは音量をサッと落として優しいタッチで音色を巧みに変化させます。ハープシコードでこれほどの音量差を引き分けるのは至難の技と推測されますが明と暗、硬と軟の対比を見事につけてきます。ハープシコードにこれほど表現力の幅があったのかと驚くばかり。終楽章で鮮明なタッチが戻り、ハープシコードのキャパシティいっぱいの音量をきりりと引き出します。

ハープシコードでのソナタの演奏は、少し前に最新のフランチェスコ・コルティのアルバムを取り上げました。コルティの最新録音の若さ溢れるウィットに富んだ見事な演奏に対し、シルヴィア・マーロウの演奏は奏者が亡くなる直前の73歳での録音ですが、古さを感じさせないばかりか、揺るぎないタッチと多彩な変化は見事の一言。自身がハープシコード・ミュージック・ソサイアティを設立し、ハープシコードの音楽の普及を牽引したという覇気が感じられる素晴らしい演奏でした。マーロウの演奏で聴くとハープシコードという現代楽器に比べると表現力の幅に限界のある楽器ながら、その表現力の範囲を自在にコントロールして変化に富んだ音楽を紡いでいることがよくわかります。これは名盤ですね。評価は全曲[+++++]といたします。

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ロンドン・ウィンド・ソロイスツのディヴェルティメント集(ハイドン)

勝手に室内楽の秋に突入しています(笑)

LondonWindSoloists.jpg

ジャック・ブライマー(Jack Brymer)指揮のロンドン・ウィンド・ソロイスツ(London Wind Soloists)による、ハイドンの2本のオーボエ、2本のホルン、2本のバスーンのためのディヴェルティメント7曲(Hob.II:D23、II:15、II:3、II:D18、II:G8、II:23、II:7)を収めたLP。収録情報はPマークが1968年と記載されていますが、同音源からCD化されたTESTAMENTのアルバムには1967年9月17日〜20日、25日、27日〜29日、ロンドンのウエスト・ハムステッド・スタジオ(West Hampstead Studios, London)でのセッション録音との記載があります。レーベルは英DECCA。

LondonWindSoloistsCD.jpg
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こちらは手元にある同内容を収めたTESTAMENTのCDです。収録曲は同一ですが、なぜか曲順が異なり、指揮者の表記はありません。こちらはまだ入手可能です。

このアルバムに収められている曲は、ハイドンが1760年ごろに書いた管楽のための6声のディヴェルティメントで、一部ハイドンが書いたものではないものが混じっています。楽器はオーボエ、ホルン、ファゴット各2本。1760年ごろといえば、ハイドンが20代の終盤。1759年にボヘミアのモルツィン伯爵に仕えはじめ、同年に交響曲1番を作曲し、その2年後の1761年にはアイゼンシュタットのエステルハージ侯爵の副楽長に就任するという、ハイドンの創作期のごく初期に当たります。後年の成熟した筆致は見られないものの、すでに楽器の音色に関する鋭敏な感覚や、展開の面白さは十分に感じられる作品群です。

演奏するロンドン・ウィンド・ソロイスツは、LPのプロデューサーだったエリック・スミスによるライナーノーツによると、当時エリック・スミスがグライドボーン歌劇場で聴いたモーツァルトのオペラのオーボエのフレーズが歌手の歌よりも心にしみると感じたことをきっかけに、モーツァルトの管楽作品を録音するために結成されたアンサンブル。メンバーはトーマス・ビーチャムが創設したロイヤルフィルの精鋭管楽奏者で構成され、このアルバムの指揮を担当したジャック・ブライマーがメンバーをまとめたとのこと。このメンバーによりモーツァルト、ベートーヴェンの管楽作品が録音され、それに続いてこのアルバムが録音されたと記されています。メンバーは次の通り。

オーボエ:テレンス・マクドナー(Terence Macdonagh)
オーボエ:ジェームズ・ブラウン(James Brown)
ホルン:アラン・シヴィル(Alan Civil)
ホルン:イアン・ハーパー(Ian Harper)
ファゴット:ロジャー・バーンスティングル(Roger Birnstingl)
ファゴット:ロナルド・ウォーラー(Ronald Waller)

演奏を聴くと、ビーチャムの振るハイドンの交響曲同様、中庸のバランスを保つ味わい深い響きが流れます。

Hob.II:D23 Divertimento [D] (1757/60) (Forgery 偽作)
いきなりハイドンの作でない曲から入ります。録音年代当時は真贋を判断できる状況ではなかったものと推定されます。アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、プレストの4楽章構成。録音はDECCAだけに鮮明。TestamentのCDも悪くありません。管楽六重奏ということで主に高音のメロディーがオーボエ、リズムをファゴット、そしてホルンが響きを華やかにする役割。ハイドンの作といわれてもわからない明確な構成と美しいメロディーが特徴の曲。そう言われて聴くとちょっと展開が凡庸な気もしなくはありません。まずは耳慣らし。

Hob.II:15 Divertimento [F] (1760)
これはハイドンの真作。プレスト、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストとハイドンのディヴェルティメントの典型的な構成。明るく伸びやかな1楽章のメロディーから、ほのぼのとしたメヌエットに移る絶妙な感じ、これぞハイドンでしょう。音数は少ないもののメロディーの美しさは見事。そしてアダージョのホルンのなんという伸びやかさ。演奏の方も管楽器の音色の深みを存分に活かした素晴らしいもの。2つ目のメヌエットはその伸びやかさをさらりとかわす涼風のように入ります。楽器が少ないからこそ各パートのデュナーミクの微妙なコントロールの見事さがよく分かります。そしてフィナーレの軽やかな躍動感。奏者の鮮やかなテクニックを楽しみます。

Hob.II:3 Divertimento (Parthia) [F] (1958?)
アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。入りのリズムのキレの良さ印象的。メヌエットの中間部に漂う異国情緒のような雰囲気が独特な曲。そしてアンダンテの中間部にもその余韻が感じられるユニークなメロディー。曲ごとに全く印象が変わりながら、しっかりとまとまっているのはハイドンの真骨頂。このような初期の曲からその特徴が見られます。2つのメヌエットのくっきりとした構成感が印象的。そしてフィナーレはホルンの超絶技巧が仕込まれていました。ホルン奏者はことも無げにこなします。これは見事。

Hob.II:D18 Divertimento (Cassatio/Parthia) [D] (1757/60)
アレグロ、スケルツォ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、アレグロの6楽章構成。ファゴットの刻む軽快なリズムに乗って、オーボエが滑らかに、ホルンがくっきりとメロディーを乗せていきます。短いスケルツォを挟んで、なぜか旅情を感じるようなメランコリックなメヌエットの美しいメロディーに移ります。メヌエットの中間部はファゴットの印象的なメロディーが繰り返されます。どうしてこのようなメロディーのアイデアが湧いて来るのかわかりませんが、独創的な構成。そしてあまりに見事なアダージョに入ります。管楽合奏の美しさを極めた絶美の音楽。ハーモニーの美しさにノックアウト。メヌエットできりりと引き締めて、フィナーレは一瞬で終わりますが、見事に曲を結ぶ傑作でしょう。

IMG_9712.jpg

Hob.deest(II:G9,II:G8) Divertimento [G] (1760)
LPをひっくり返して5曲目。LPもCDもHob.II:G8との表記ですが、他のアルバムではdeestと記載され、大宮真琴さんの新版ハイドンではII:G9と記載されています。アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。1楽章は落ち着いた曲調で入ります。しなやかなメロデぃーに沿ってホルンが心地よく響くのが印象的。1楽章の曲想を踏まえたメヌエットでは、中間部に入るとファゴットが音階を刻みながらハモってメロディーを重ねるのがユニーク。3楽章はアダージョではなくアンダンテ。それでもゆったりとしたハーモニーを聴かせながら流します。2つ目のメヌエットを経て音階を駆使したフィナーレで曲を閉じます。

Hob.II:23 Divertimento (Parthia) [F] (1760?)
アレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。優雅な入りからリズミカルな展開が軽快な曲。ホルンとオーボエのメロディーがシンプルながら実に心地よく絡み合います。メヌエットメロディーの展開の面白さはアイデアに富んでいてディヴェルティメントならでは。そしてまたしても管楽器が絶妙に重なり合って美しい響きを作っていくアダージョ。それを受けるようにゆったりと入るメヌエット。フィナーレはポストホルンのようにホルンが活躍し、各パートが絡み合ってくっきりとしたメロディーを描いていくところは流石ハイドン。

Hob.II:7 Divertimento (Feld-Parthie) [C] (1757/60)
最後の曲。この曲もアレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。冒頭のメロディーをキーにリズミカルに展開していく音楽。楽器ごとの響きの対比をそこここに配置して響きの違いに耳を向けさせます。同じ構成なのにいつも通り全く異なるアイデアで曲を作っていきます。メヌエットも一筋縄では行かず、どうしてこのようなメロディーを思いつくのかと唸るばかり。このアルバムを通じてメヌエットの構成の面白さは格別のものがあります。型にはまりつつもその中での崩しというか変化の面白さを追求する大人の世界。そしてまたまた美しさに磨きがかかったアダージョに引き込まれます。2つ目のメヌエットの中間部も驚きの展開。そしてアルバムの終結にふさわしい壮麗なフィナーレで曲を結びます。

弦楽四重奏曲やピアノトリオなどに比べるとぐっと地味なディヴェルティメントで、しかも管楽六重奏とさらにマイナーな曲ながら、ハイドンの創意のオリジンに出会えるような見事な曲を収めたアルバム。聴けば聴くほど味わいを感じる見事な演奏です。奏者の腕も素晴らしいのに加えて、実に音楽性豊かな演奏で、ハイドンの曲を楽しむことができます。幸いCD化もされていますので、この演奏を非常にいいコンディションで楽しむことができます。ハイドンの室内楽の面白さの詰まった名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]
とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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