絶品! バルトーク四重奏団のひばり、皇帝、日の出(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲のアルバムですが、少々古めのもの。先日ディスクユニオンで入手しました。

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バルトーク四重奏団(The Bartók Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」、Op.78のNo.4「日の出」の3曲を収めたアルバム。収録は1993年5月12日から15日にかけて、富山湾の東端にある富山県下新川郡入善町の入善コスモホールでのセッション録音。レーベルはCANYON Classics。

バルトーク四重奏団は1957年にブダペストのフランツ・リスト音楽院の卒業生によって設立されたクァルテット。設立当初は第1ヴァイオリンのペータル・コムロシュの名前をとってコムロシュ四重奏団と名乗っていましたが、1962年にバルトークの未亡人の同意を得てバルトーク四重奏団と改名しました。1963年にブダペストで開催されたワイナー室内楽国際コンクールで優勝、翌1964年にはベルギーのリエージュ国際弦楽四重奏コンクールでも第1位、さらに1963年までに数多くの国際コンクールに優勝し、世界的に注目されるようになりました。レパートリーはバルトークはもちろん現代ハンガリーの作曲家の作品から、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ラヴェル、ドビュッシー、シェーンベルクなどと幅広く、膨大な録音が残されているとのこと。日本には1971年の初来日以来、度々来日していたとのことで、実演に接した方もいるかもしれませんね。2006年のバルトークの弦楽四重奏曲全曲演奏会を最後に解散しています。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ペータル・コムロシュ(Péter Komlós)
第2ヴァイオリン:ゲーザ・ヘルギタイ(Geza Hargitai)
ヴィオラ:ゲーザ・ネーメト(Géza Németh)
チェロ:ラースロー・メズー(László Mezö)

膨大な録音を残し、日本との関わりも深いバルトーク四重奏団ですが、私はこのアルバムで初めて演奏を聴きます。なおヴィオラのゲーザ・ネーメトはHUNGAROTONからヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲のアルバムのヴィオラを弾いていて、以前に取り上げています。

2012/06/05 : ハイドン–室内楽曲 : デーネシュ・コヴァーチュ/ゲーザ・ネーメトによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

このバルトークの名を冠したクァルテットによるハイドン、さぞかしキレ味鋭い演奏が聴かれるだろうと思って、聴きはじめたところ、さにあらず。いやいや実に趣深い燻し銀の演奏でした。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広い空間に伸び伸びと響くクァルテットの音色。落ち着いたテンポでゆったりと音楽が流れます。非常にリラックスして演奏しているのがわかります。奏者が演奏を存分に楽しんでいる感じ。もちろん第1ヴァイオリンのコムロシュのボウイングは伸びやかで他のパートから首一つ抜け出してくっきりとメロディーを奏でていきます。まさに折り目正しい一級品の演奏。ひばりの1楽章がこれほど伸びやかかつキレのいい響きで始まろうとは思っていなかっただけに、驚きに近い衝撃がありました。まさに晴天の中、囀りながら空高く飛び回るひばりの気分。
続くアダージョ・カンタービレは歌う歌う。伸びやかさの限りを尽くした演奏に聴いているこちらまで伸びやかな気分になります。まるでバルトークと違って、技巧を凝らさなくていいことを余裕たっぷりに楽しんでいるような演奏。よくぞこれだけリラックスできるものかと唸ります。
メヌエットでも楽器が思い切りよく鳴り響き、晴朗かつ屈託のない響きにハイドンの曲の本質が宿ります。これぞメヌエットという鮮明な響き。中間部で一旦トーンをすっと落として翳りを見せたかと思うと、再び陽光の下に輝かしい音楽が蘇ります。このテンションの変化が実に心地良い、見事なメヌエット。
さざなみのように峙つヴァイオリンの伴奏に乗ってメロディーが弾む最後のヴィヴァーチェ。適度な揺らぎの中メロディーが飛び回る感じがライヴ感に溢れた演奏。1曲目から驚きの名演奏でした。まるで古典をホームグラウンドとするような均整の取れた演奏。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
続く皇帝もリラックスした演奏は変わらず、揺るぎない安定感を伴い、またまた歌う歌う。音符がひとりでに遊びまわるような愉悦感。あまりの見事さに息を飲みます。4本の楽器が鬩ぎ合いながらも一体となって音楽を作っていく様子はスリリングながら、音楽は楽しげに弾んで行きます。圧倒的な音楽の完成度に唸り続けます。これほど見事な皇帝の1楽章は初めて。
有名なドイツ国歌の2楽章は、少しテンションを落として質実な響きを聴かせます。これは変奏に入ると少しづつ自在さを加えて展開していく面白さのためのわかり、設計の確かさにまたまたまた唸ります。変奏ごとに長く間を取り変化を深く印象付けます。ただでさえ美しいメロディが孤高の美しさを帯びて輝きます。一つのメロディに宿る美しさに様々な角度からスポットライトを当てて味わい尽くす見事な演出。最後は枯淡の境地へモーフィング。絶品。
美しさの限りを尽くした2楽章の余韻を慈しむかのように少し寂しげに響くメヌエット。この辺りの感情の変化はデリカシーに富んでいてまさにハイドンが楽譜に込めた魂を汲んでいるよう。途中からさっと霧が晴れ、陽の光が差し込むような変化も見事。メヌエットだけでも曲ごとの描き分けの巧みさにこのクァルテットの表現力を思い知らされます。
激しく鋭い終楽章も、余裕たっぷりに入ります。険しい音楽もあえて少し緩めに演奏することで、バランスを保ち、力が入り過ぎるのを抑えて終えます。

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
最後の日の出。すでにこのクァルテットの素晴らしさに酔っています。ゆったりと溜めを効かせてざっくりと刻む音楽が心地よい響きに感じられ、まるでライヴを聴いているような不思議な一体感に包まれます。これぞ弦楽四重奏の醍醐味。よく聴くとこの曲ではざっくりとした織目の感触の面白さがポイントと見えてきます。手編みのような味わい深いテクスチャーと織り出される模様のリズムが絶妙。この味わい深さはまさに燻し銀。
さらに圧巻なのは続くアダージョ。4本の楽器の織りなす綾のデリケートな変化が生み出す豊かな音楽。まさに至福のひととき。単なる音符にあらず、人の温もりを感じる生きた音楽が滔々と流れ、完全にバルトーク四重奏団の音楽になっています。天上の世界を垣間見たような感覚に襲われます。
そしてこの曲のメヌエットは入りから安らぎと幸福感に満ちたもの。どうしたらメヌエットからこのような感情を呼び起こせるのでしょうか。魔法をかけられたよう。ほんの少しのニュアンスの付け方で音楽がこれほどまでにいきいきとしてくる不思議さ。中間部のゆったりとした緊張感! 完全に彼らの音楽に仕上がっています。
そしてフィナーレは爽快に来る演奏が多い中、リズムの面白さを強調して、メリハリをつけてきました。ざっくりと始まったこの曲をリズミカルな終楽章で締めるなかなかの組み立て。最後はサラサラと流すサラサラ感をかなり強調した、これまた創意に溢れた演出。味わい深いばかりではなく、さらりと見せるアイデアのセンスの良さにも唸ります。

バルトーク四重奏団という名前から想像した演奏とはあまりに異なり、実に味わい深い演奏にノックアウト。このハイドンは現代音楽を得意とするクァルテットから想像される鋭角的な響きは皆無。むしろどのクァルテットの演奏よりもハイドンの真髄を射抜く絶妙な演奏と言っていいでしょう。選曲もハイドンの有名曲の組み合わせで入門盤としても最適なもの。もちろん評価は[+++++]を進呈いたします。ただし、現在入手しやすいとは言えない状況なのが残念なところ。これは是非再販してほしいですね。

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tag : ひばり 皇帝 日の出 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76

ワルシャワ・シンフォニアの天地創造、ジラール四重奏団のひばり(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)

昨日5月4日は、このところ毎年出かけているラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンへ。

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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016 「la nature ナチュール - 自然と音楽」

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンも今年で11年目とのこと。東京のゴールデンウィークの風物詩として定着しています。毎年決まったテーマでプログラムが組まれ、今年は 「la nature ナチュール - 自然と音楽」。当初は作曲家やお国をテーマとしていて、モーツァルトを特集した年には、おまけでハイドンも随分取り上げられましたが、最近は幅広い音楽を取り上げられるテーマ設定になっており、毎年ハイドンもパラパラとプログラムに入っています。ここ数年で聴いたコンサートの記事は下記のとおり。

2015/05/04 : コンサートレポート : ジャン=クロード・ペヌティエの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ラ・フォル・ジュルネ)
2014/05/06 : コンサートレポート : トリオ・カレニーヌのピアノトリオ(ハイドン)、アンヌ・ケフェレックの「ジュノム」(ラ・フォル・ジュルネ)
2014/05/04 : コンサートレポート : アルゲリッチ、クレーメルによる動物の謝肉祭(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)
2013/05/05 : コンサートレポート : 【番外】ラ・フォル・ジュルネで衝撃のブーレーズライヴ

今年もプログラムを見て、気になるコンサートをいくつかチェックして、つながりなどを考えてチケットを取ったのが2つのコンサート。

公演番号:236 ジラール四重奏団の「ひばり」、「ラズモフスキー2番」
公演番号:216 ワルシャワ・シンフォニアの「天地創造」

5月4日の19:30始まりで、間に15分おいた2つのコンサートということで予約した次第。もちろんお目当てはワルシャワ・シンフォニアの「天地創造」に他なりません。ワルシャワ・シンフォニアはラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンでは毎年出演しているオケですが、私が生で聴くのははじめて。他の方は知りませんが、私はこのオケに格別な関心があります。それは、フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハの振る「悲しみ」の超絶の名演を聴いたから。自然さを保ったなかでもヴァイオリンパートの切れ味は恐ろしいほど。これまでのレビューを通して、ポーランドのオケは自然で雄大な響きをつくるのが上手い印象ですが、このアルバムは別格の完成度。ということで天地創造をワルシャワ・シンフォニアが演奏すると知り、すかさずチケットをとりました。

2012/07/17 : ハイドン–交響曲 : ヴィシュニエフスキ/アメリカン・ホルン四重奏団+ワルシャワ・シンフォニアのホルン信号
2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

プログラムを見ると、ワルシャワ・シンフォニアはラ・フォル・ジュルネの期間中、今年は3日ですべて異なるプログラムを8公演もこなす激務。その内の一つが大曲天地創造。プロとはいえ重労働ですね。



さて、4日は天気も良く、コンサートの始まりも遅い時間帯だったので、ちょっと早めに家をでて、近くのマリオンで開催されていた、イタリア映画祭で映画を見てからの出陣。

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朝日新聞社 - イタリア映画祭2016

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こちらも今年で16回目を迎えるゴールデンウィークの定番イベントということですが、私ははじめて。毎年見ている友人に誘われて、コンサート前の時間を狙ってチケットをとっておきました。見たのは「俺たちとジュリア」というコメディー映画(作品情報)。これが実に面白かった。それぞれイマイチな人生を送っていた3人が何の因果かイタリアの片田舎の不動産を共同購入することになり、夢のようなホテルを創るというお話。長年サラリーマンをやってきた私も身につまされる話です。オチはマフィアの国イタリアらしいもの。イタリア語のテンポのよいセリフと手慣れたつくり込みが秀逸でした。



映画を楽しんだあと、イトシアの地下でカジュアルなイタリアンを楽しみ、いざ夜の東京国際フォーラムへ。

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いつものように中庭には屋台がたくさん出て賑やか。開演時刻がまもないため人混みをかき分けて最初のコンサートのあるB5ホールへ急ぎます。B5ホールは256席の室内楽用の規模のホール。本来は会議用途なのでかなりデッドであり室内楽を楽しむには少々難ありです。

奏者はジラール弦楽四重奏団(Quatuor Girard)。このクァルテットのアルバムは以前一度記事にしています。略歴などは記事を御覧ください。

2013/11/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ジラール四重奏団のOp.76のNo.5

記事にも書いたとおり、なんと4人は兄弟姉妹。メンバーの内何人かが兄弟というクァルテットはたまにありますが、4人とも兄弟とは珍しい。上のアルバムは2008年とデビュー早々の録音で、評価も今ひとつでしたが、この日の演奏はなかなか聴き応えがありました。
1曲目のハイドンの「ひばり」は、まさにこのクァルテットの現在の実力を表すいい演奏でした。優雅な曲調の曲ですが、各パートのボウイングがそろってしなやか。第1ヴァイオリンが目立つ演奏が多い中、4人の息がそろって穏やかな演奏。楽器もしくは会場の音響のせいか、第1ヴァイオリンの高音の伸びは今ひとつながら、非常に丁寧にフレーズを一つ一つ表現してバランスも良く、古典的な均衡を保った演奏。力まず力のいれ方の緩急も洗練されており、緊張感を保った演奏でした。フィナーレでようやくぐっと踏み込むところもいいセンス。上の記事の演奏から8年が経過して腕もかなり上がってきたということでしょう。

2曲目のベートーヴェンのラズモフスキー2番に入るとハイドンの演奏の時とは異なり、ぐっとボウイングに力が入るところがそこここにあり、演奏精度もなかなかのもの。現在ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集の録音に取り掛かっているとのことで、やはり得意としているのでしょう。このベートーヴェンを聴くと、ハイドンでは古典的な整然とした響きを狙っていたことがわかります。ベートーヴェンの方も4人の精度の高いアンサンブルでレベルの高い演奏を楽しみました。やはり間近で聴くクァルテットはいいですね。

拍手もそこそこに席を立ち、15分で隣の巨大なホールAに移動しなくてはなりませんので、先を急ぎます。エスカレーターで1階まで降りて、東京駅側のホールAのエントランスへ。またまたエスカレーターでホールまで上がります。

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ホールAは5000席の大ホール。席は18列のほぼ中央ということで、いい席でした。こちらは残響は多め。

ガブリエル/エヴァ(ソプラノ):リュシー・シャルタン (Lucie Chartin)
ウリエル(テノール):ファビオ・トゥルンピ (Fabio Trümpy)
ラファエル/アダム(バリトン):アンドレ・モルシュ (André Morsch)
アルト:ゾエリーヌ・トロイエ (Zoéline Trolliet)
ローザンヌ声楽アンサンブル(Lausanne Vocal Ensemble)
ダニエル・ロイス(Daniel Reuss)指揮のワルシャワ・シンフォニ(Sinfonia Varsovia)

ワルシャワ・シンフォニアは先に触れたとおりですが、指揮のダニエル・ロイスは全く知らない人。公演のチラシによれば現在ローザンヌ声楽アンサンブルの芸術監督を務めている人。経歴をみてもRIAS室内合唱団、エストニア室内フィル合唱団など振っていた経歴もあり、合唱指揮の人ですね。歌手も知らない人ばかりでしたが、それぞれかなりの実力者でした。

開演が20:45と普通のコンサートの終わるような時間。しかも休憩なしで「天地創造」を演奏するということで、オケにとってはかなりの重労働ですね。隣のホールから移動して着席してすぐ、定刻通りに演奏がはじまりました。

広大なホールですが、程よく残響をともなったオケの響きはホールの大きさにもまけず、力強いもの。指揮のダニエル・ロイスはじっくり遅めのテンポで雄大に天地創造の第1部の混沌を描いていきます。肝心のワルシャワ・シンフォニアは職人オケらしく指揮者の指示に忠実に、どちらかといえばおおらかに天地創造の各場面を描いていきます。奇をてらうようなところは全くなく、逆に弱音部のコントロールや間の取り方が丁寧で、雄大さばかりでなく緻密な音楽を聴かせ、次々の場面のかわる絵巻物を一貫した描写で描いていくよう。天地創造という美しいメロディーの宝庫たる音楽を楽しむのに最適な演奏といったところでしょう。歌手はソプラノのリュシー・シャルタンが絶品。聴きどころの第6曲のガブリエルのアリアの美しいこと。コケティッシュな魅力のある伸びのある美声を振りまいてました。そしてラファエルのアンドレ・モルシュは、話題のショーンなんとかさん似のイケメンバリトン歌手。声量も迫力もありテンポ感も良く、天地創造の引き締め役を見事に演じていました。ウリエルのファビオ・トゥルンピも柔らかさをもった軽さのあるテノールで役に相応しい声。おそらく指揮者のダニエル・ロイスが役に相応しい歌手を選んでいるのでしょう。一番よかったのはある意味当然ですが、コーラスを担当したローザンヌ声楽アンサンブル。ここぞというところの迫力と透き通るような透明感あふれるハーモニーの美しさは流石なところ。この天地創造、指揮者は合唱指揮出身ということでオケに雄弁に語らせるというより一貫してハーモニーの美しさとうねるようような大きな起伏を描くことに集中して、オケの力みは皆無。こんなにしなやかで力まない天地造像はある意味珍しいほど。第一部のクライマックスはもちろん盛り上がりますが、程よい力感で収めます。曲間の間の取り方もうまく、さっと次に移るので曲が途切れる印象がありません。第2部は美しいメロディーの宝庫らしく、歌の美しさを最重要視したおだやかなオーケストラコントロールが印象的。そして奏者のみ2〜3分の休憩をとったあとの第3部の2つのアダムとエヴァのデュエットも絶品。最後の終曲でコーラスの端にいたアルトのゾエリーヌ・トロイエが前に出てソロに加わるあたりは定番の演出ですが、終曲はテンポを落として堂々とした迫力を描き、それまでのしなやかな流れとは少しギアを入れ替え神々しさを強調します。天地創造とはもともと聖書の創世記などを描いた宗教劇ではありますが、このコンサートのタイトルは「大自然のスペクタクル〜天地創造の壮大な歌劇」とあり、ラ・フォル・ジュルネ全体のテーマに合わせて自然の描写をテーマにおいています。テーマに合わせて演奏を変えたわけではないでしょうが、この楽天的で自然な演奏は、宗教劇というよりは、まさに自然を描写したものという印象がぴったりとくるものでした。

天地創造は公演ではアーノンクールの最後の来日の際の演奏を聴いていますし、録音のレビューは随分な数取り上げていますが、これほどのびのび朗々とした演奏はありませんでした。自然さというか無欲の純心な演奏という意味ではペーター・シュライアー指揮の映像を思い起こさせるもの。お目当てのワルシャワ・シンフォニアは、「悲しみ」でのタイトさとは異なり、安定感抜群の職人オケとして長大な曲を手堅く演奏するプロという印象でした。終演後は万雷の拍手。ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンという企画上、天地創造をはじめて聴くお客さんも少なくなかったでしょうが、曲の魅力をしっかりと伝える演奏がお客さんの心に残るいいコンサートだったといっていいでしょう。

終演は22:40頃とかなり夜もふけ、東京国際フォーラムの中庭も屋台が終わって静けさをとりもどしていました。

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ゴールデンウィークもあと少し。脚の怪我もだいぶおちついたので本日はスポーツクラブで泳いで体力回復に努めます(笑)

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tag : ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 東京国際フォーラム 天地創造 ひばり

ウィハン弦楽四重奏団の「ひばり」(ハイドン)

お宝盤発掘!

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ウィハン弦楽四重奏団(Wihan Streichquartett)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」他、モーツァルト、ブリテン、ドヴォルザーク、ヤナーチェク、ラヴェルの弦楽四重奏曲を収めた2枚組のアルバム。 収録は1991年から94年にかけて、収録場所は記載されていません。レーベルは独CANTUS CLASSICS。

このアルバム、たまたまディスクユニオンの店頭で最近発見したもの。妙に凝ったタイポグラフィーでクァルテット名が書かれ、デザインもそれなりに凝ったジャケットを一目見て、「これ持ってない」とすぐにわかりましたので購入。帰って冒頭のひばりをちょっと聴いてみたところ、鳥肌が立つような恍惚とした入りに名演奏を確信。一気に聴いてしまいました。

ウィハン弦楽四重奏団は私ははじめて聴く団体です。チェコのクァルテットで2015年で設立30年を迎えるそうです。amazonを検索してみるとスメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクなどのお国ものの他、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集、シューベルトなどのアルバムがリリースされており、またビートルズの曲を弦楽四重奏曲の編曲したようなポピュラーな選曲のアルバムもあり、活動はかなり幅広いようです。コンクールの受賞歴も数多く、その中には「大阪室内楽フェスタ」という記載もあることから日本でもご存知の方も多いかもしれませんね。

このアルバムの録音時のメンバーは下記のとり。

第1ヴァイオリン:レオシュ・チェピツキィー(Leoš Čeoický)
第2ヴァイオリン:ヤン・シュルマイスター(Jan Schulmeister)
ヴィオラ:イジィー・ジィックモンド(Jiří Žigmund)
チェロ:アレシュ・カスプジーク(Aleš Kaspřík)

Welcome to the official website of the Wihan Quartett

ウェブサイトを見てみると現在ヴィオラは別の奏者に変わっているようです。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
ひばりの有名な導入のフレーズが実に癒しに満ちて響きます。さらっと軽快なリズムで実にしなやかに音階を行き来します。冒頭の1フレーズから愉悦感に富んだ美しい音楽に吸い寄せられるよう。これまでここまで美しい導入があったでしょうか。すぐに適度にキリリとした磨き抜かれたレオシュ・チェピツキィーのヴァイオリンがクッキリとさえずります。完璧なバランスで響きあう4本の楽器。このアンサンブルの絶妙なセンスこそがこうしたメロディーの美しい曲に命を吹き込みます。曲が進むにつれて、アンサンブルに力が漲り、弦楽器の胴鳴りまで加わって素晴らしい迫力。印象的な長い休符をあしらい、中庸を保ちながらも詩情が香り立つような演奏。味わい深いオーソドックスさ。1楽章から絶品です。
続くアダージョもすっと自然に入ります。この絶妙な入りのセンスにぞくぞくします。各楽器がしっかりとフレーズを膨らませて弓の弾き始めから終わりまでの強弱の変化を巧みにコントロールしているので、メロディーの味わいの深さは格別。ヴィブラートのかけ方ひとつとっても実にセンスがいい。録音も聴きやすいもので、響きの良い木造教会で演奏しているような実にいい雰囲気。
メヌエットも入りの自然さから打たれます。この各楽章のすっとなじんで入るところはなかなか真似できるものではありませんね。テンポに変化をつけながらも、自然なフレージングを乱すことなく進み、中間部のちょっと変わった音階に変わるところでさっと気配を変えるところなども絶妙。フレーズごとにしっかりと表情をコントロールしきっています。
そしてテクニックの見せ所のフィナーレでは、別格の表現力。音階がキレがいいのはもちろん、そういう次元ではなく、早いパッセージでも音楽が踊り、しっかりコントロールされた味わい深い響きを造っています。最後はコミカルさも加えて、すっと力を抜く大人の技。やはりセンスの良さに脱帽。

このあとは、曲が変わりモーツァルトの「不協和音」が不気味に響きわたります。こちらもモーツアルトらしい天真爛漫さが絶品です。

ふと出会ったウィハン弦楽四重奏団の「ひばり」。冒頭の一音から最後の余韻が消えるまで含めて、絶妙なセンスでまとめられた名演奏。これまで多くの演奏を聴いてきましたが、この演奏の完成度というか、素朴な味わい深い良さは、ちょっと他の演奏とは差がつくのが正直なところ。レオシュ・チェピツキィーのヴァイオリンの伸びやかな音色も聴きどころなんですが、いい意味で目立ちすぎず、程よい美しさなのがとてもいいですね。このひばり、万人にオススメできる演奏といっていいでしょう。ひばりの美しいメロディーを最も洗練されたオーソドックスな演奏で楽しめるのはこのアルバムです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

巌本真理弦楽四重奏団のひばり(ハイドン)

今日はお宝盤。邂逅とはこのことでしょう。

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巌本真理弦楽四重奏団の演奏でハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲Op.96「アメリカ」の2曲を収めたアルバム。収録は1974年6月6日、7日、Chiba Public Hallとありますが千葉市民会館もしくは千葉県文化会館のどちらかでの録音ということでしょうか。レーベルは日本のVictor。

巌本真理四重奏団のひばりは以前に取り上げていますが、そちらは録音年不詳。収録時間もレーベルも異なることから別の演奏だということで入手した次第。

2012/02/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 巌本真理弦楽四重奏団のひばり

今日取り上げるアルバム自体は国内盤で日本語解説もついているのですが、巌本真理四重奏団についてとメンバーの略歴のみで、肝心のこの演奏の背景については触れられていません。奏者については前記事を参照願います。

レビューのためにCDプレイヤーにかけたとたん、素晴らしいヴァイオリンの響きに釘付けとなったのが正直な所。このアルバム、音楽の神様が降りてきています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
以前取り上げたアルバムも良かったんですが、こちらはさらに上を行きます。収録時間も全楽章が少し長めなことからわかるとおり、前盤よりもゆったりとした演奏。録音は残響が若干多く、鮮明さは前盤に軍配があがるものの、しっかりと実体感があり音楽としてはこちらの方が楽しめます。几帳面な感じの曲の入りも雰囲気満点。すぐにヴァイオリンの音色に釘付け。巌本真理のヴァイオリンの輝かしさは圧倒的。この曲の演奏見本と言ってもよいくらいオーソドックスですが、ヴァイオリンの磨き抜かれた音色の存在感は素晴らしいものがあります。日本人による弦楽四重奏曲の演奏の一つの頂点と言っていいでしょう。この曲のメロディーの素晴らしさを改めて堪能。1楽章から完全に引き込まれます。
つづくアダージョ・カンタービレでも巌本真理のヴァイオリンの浸透力に打ちのめされるような迫真の演奏。ハイドンの音楽に純真に従いながらもヴァイオリンを奏でる弓には確信に満ちた力が宿り、まったく迷いなく旋律を描いていきます。ゆったりとした気分ながらヴァイオリンの図太い音色にグイグイ攻め込まれます。
そしてメヌエットでもオーソドックスなテンポによる飾り気のない演奏ながら奏者の気迫に圧倒される感じは変わらず。ライヴを聴いているような緊張感に包まれます。中間部ですっと力を抜いてメリハリをつけますが、徐々に迫力とメロディーを取り戻します。
そしてフィナーレ。意外に遅めのテンポ出入りフーガのように展開しますが、各パートとも円熟の境地という感じでさらりとこなして行きます。副旋律の伴奏を際立たせながら、自然に終盤にたどり着きます。最後はピタリと息を合わせて終わります。

巌本真理弦楽四重奏団のハイドンが正直これほど素晴らしいものとは思っていませんでした。このアルバムで聴かれるひばりは他のどの奏者の演奏よりも確信に満ちた演奏であり、揺るぎない説得力をともなった演奏です。特にヴァイオリンの磨き抜かれた響きの気高さは他のものを寄せ付けない孤高の存在。この堂々とした音楽は、日本人の演奏という但し書きをなくしても一二を争うほどのものと言っていいでしょう。ネットを調べてもこのアルバムは容易に手に入りそうもありません。ディスクユニオンの新着アルバムの棚をたまには丹念に探してみて良かったと思える出会いでした。存命時にはその素晴らしさを知ることはありませんでしたが、巌本真理弦楽四重奏団の存在がいかに大きなものだったかを改めて知った次第。心に深く刻まれました。評価は[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり

ロザムンデ四重奏団の皇帝、ひばり、騎士(ハイドン)

このところ良くコメントをいただくSkunjpさんオススメのアルバム。当方のコレクションにありませんでしたので、早速注文して届いたもの。

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TOWER RECORDS / amazon(mp3) / HMV ONLINEicon

ミュンヘン・ロザムンデ四重奏団(Rosamunde Quartett München)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲からOp.76のNo.3「皇帝」、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」と有名曲ばかり3曲を収めたアルバム。収録は、ベルリンの南の街ランクヴィッツ(Lankwitz)にあるジーメンス・ヴィラ(Siemens-Villa)という古い教会のような建物でのセッション録音。レーベルはBerlin CLASSICS。

ロザムンデ四重奏団のアルバム手元にECMレーベルからリリースされている「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がありますが、堅実な演奏との認識で、これといって強く印象に残る感じはしませんでした。今日取り上げるアルバムは冒頭に触れたとおり、ハイドン愛好家のSkunjpさんのオススメのアルバム。もちろんそう言われて黙っているわけにもいかず、早速注文を入れてみた次第。実はこの演奏、当ブログへのコメントで教えていただいた直後に調べたところApple Musicにも登録されていて、通勤帰りにちょっと聞いてみたりしたのですが、正統派の折り目正しい演奏と聴きましたが今一つイメージがパッとしません。この手の演奏はアルバムでちゃんと聴くと印象も異なることがあるということでCDのほうも注文したという流れです。

ロザムンデ四重奏団は1992年に設立されたクァルテット。クアルテットのウェブサイトが見つかりましたが、2009年以降更新されておらず、もしかしたら現在は活動していないかもしれませんね。このアルバム収録当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンドリアス・ライナー(Andreas Reiner)
第2ヴァイオリン:ダイアン・パスカル(Diane Pascal)
ヴィオラ:ヘルムート・ニコライ(Helmut Nicolai)
チェロ:アンヤ・レチーナー(Anja Lechner)

ROSAMUNDE QUARTETT

クァルテットの行方はともかく、このアルバムの演奏を紐解いてみましょう。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
もちろんApple Musicと同じ演奏なんですが、音の広がりや定位感、実在感はCDのほうが上。実にオーソドックスな演奏ゆえ、Apple Musicではちょっと凡庸に聴こえなくもありませんでしたが、CDで聴くとしっかりとした芯のある音色と、堅実な弓裁きの魅力が伝わります。テンポはカッチリと決め、これ以上几帳面な演奏は難しいほどに規律正しい演奏。たしかに何もしていないんですが、何もせず、きっちり演奏することでハイドンの魅力が浮かび上がるという確信に満ちた演奏。音量を上げて聴くと素晴らしいリアリティーに打たれます。教科書的という言葉をアーティスティックにデフォルメしたような冴えわたる規律正しさ。この演奏に一旦ハマると他の演奏が軟派に聴こえるかもしれません。揺るぎないリズムの刻みに圧倒されます。表現の角度は異なりますが、この一貫性はクナのワーグナーのような雄大さを感じさせなくもありません。
ドイツ国家のメロディーとなった2楽章も言ってみれば何もしていませんが、キリリとした表情でクッキリと陰影をつけアダージョが冬の日差しに峻厳と輝くアルプス山脈のような迫力で迫ってきます。辛口というテイストの問題ではなく、まさにリアリズムの世界のよう。終盤ちょっとテンションを緩めた変奏部分が妙に沁みます。各パートとも磨き抜かれ、冷徹なまでに冴え渡ります。
もちろんメヌエットもキレキレ。青白い刀の刃の輝きのような冴えが全編に漂います。リアルなクァルテットの響きにゾクゾクします。
切れ込むような鋭い響きからはいるフィナーレ。あちこちに切れ込みながら音楽が進み、険しい表情を張り詰めた音色で描いていきます。力の入った演奏ですが、力任せすぎず、鋭利さとバランスを絶妙に保ちながらの演奏。このバランス感覚の存在こそたロザムンデ四重奏団の特徴でしょう。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
名曲3点セット的選曲です。つづくひばりは予想どおりバランスの良い几帳面なリズムから入ります。冒頭のキリッとしたリズムの刻みと、伸びやかなヴァイオリンはまさに想像したとおり。演奏スタイルは一貫しており前曲を聴いて頭に描いたイメージどおりです。録音がクリアなので、クァルテットの響きの冴えを十二分に味わうことができます。主題の繰り返し部分では表情を変えることがないのですが、逆に再び登場するメロディーがまったく同じように響く快感を味わえます。途中からチェロがクッキリと浮かびあがり、見事に解像するアンサンブルの快感も味わえます。終盤再び繰り返されるメロディーのキレのいいことと言ったらありません。
つづくアダージョもテンションはそのまま、ゆったりとしたメロディーながら響きはタイトなまま切れ込みます。一貫したスタイルが売りものですが、ここまで一貫しているとは。メヌエットもまったく揺るぎない展開。
そしてフィナーレでは若干柔らかめに入りますが、テンポの安定感は変わらず、徐々にテンションが上がり、タイトな音色の連続にトランス状態に入りそうな勢い(笑)。短いフィナーレの最後はグッと音量を上げてクライマックスに至ります。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
最後も名曲「騎士」。もはやこの一貫したスタイルの魅力に押され気味。カッチリとした表情、余人を寄せ付けない緊張感、手綱をすこしだけ緩めて起伏を表現するスタイル。いずれもロザムンデ四重奏団の突き抜けた個性です。このテンションの高さだけの連続だったら単調にも聴こえたでしょうが、そうは感じさせない表現のコントロールもあります。この曲に潜む陰りのようなものの表現は秀逸。冴え冴えとした表情だからこそ陰の部分の陰影が深い。
精妙なアンサンブルが聴きどころの2楽章。アルバン・ベルクではちょっと作った感じに聴こえたこの楽章が、自然さを保ちながらの精妙さに至り、活き活きとした表情に感じられます。よく聴くとボウイングに呼吸のような自然さが宿っており、ただタイトな響きではないことがわかります。このあたりがクァルテットの難しいところ。硬さを表すのに柔らかさが必要なんでしょう。この騎士では弱音と間の美しさも感じられます。
そしてメヌエットも前2曲よりも心なしかしなやか。リズムのキレはそのままにすこし力を抜いて粋なところを聴かせます。
最後のフィナーレは松ヤニが飛び散りそうなヴァイオリンの弓裁きを堪能できます。各パートそれぞれの音のエッジが立って際立つスリリングさ。この騎士だけがすこし力を抜いた面白さを加えてきました。

ロザムンデ四重奏団によるハイドンの名曲集。クッキリと浮かび上がる各パートの緊張感のあるやりとりとタイトな響きの魅力に溢れた演奏でした。Skunjpさんのコメントにある、「主旋律にからむ対位旋律、副旋律、伴奏型のすべてが雄弁で、4人が精密かつ有機的に共鳴し合う」という意味がよくわかりました。クァルテットの演奏は千差万別。ハイドンの名曲の様々な面に光を当て、現代にあってもその魅力を表現し尽くした感はありません。ハイドンの皇帝、ひばり、騎士のオーソドックスなスタイルの名演奏としてハイドン好きな皆さんにも一度聴いていただきたい演奏ですね。評価は3曲とも[+++++]とします。

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tag : 皇帝 ひばり 騎士 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.74

珍盤 カスバル・ダ・サロ四重奏団のひばり、皇帝など(ハイドン)

ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたアルバム。

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カスバル・ダ・サロ四重奏団(Caspar Da Salo Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の表記はなくPマークが1988年とだけ記載されています。レーベルはDigital Concerto。

このアルバム、音楽専門のレーベルではなく、量販店で売られるクラシックベスト的な感じの造りで、なんとなく怪しい雰囲気のもの。日本向けのものではなく解説は英語のみですが、ハイドンに関する短い解説と、このシリーズの有名作曲家による名曲を集めたシリーズの一覧カタログが載ったもの。ジャケットの下部には誇らしげに”60+ MINUTES”と書かれているあたりも思いっきり安っぽい感じです(笑)

店頭で見かけた時は、もちろん手に入れるのを躊躇しましたが、ハイドンのコレクションを充実させるという目的のみで入手。しばらく未聴盤ボックスに寝かしてありましたが、先日何気なしに聴いてみると、意外や意外、なかなかいい演奏なんです、これが!

あわててネットで奏者であるカスバル・ダ・サロ四重奏団について調べてみても情報はなし。メンバーもわかりません。英語のサイトをいくつかたどると、気になる書き込みがあり、このクァルテット名は恐らく仮名で、実際は別のクァルテットではないかとのこと。このアルバムこうした廉価盤として長らく流通しており、おそらく欧米では知られた存在なのでしょう。なんだかよくわかりませんが、実際の演奏は素直な名演奏ということで、取り上げることにしました。たまには珍盤も良いでしょう。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
木質系の弦楽器の直裁な響きがダイレクトにつたわる素直な録音。やや速めのテンポでサクサクと進めていくことで非常に快活な印象。ハイドン最初の弦楽四重奏曲の面白さが実に素直に表現されています。先日聴いたペターセン四重奏団はアーティスティックなまでに昇華された見事な演奏でしたが、こちらはまさにオーソドックスな演奏。弦楽四重奏曲の見本のような端正さ。とても廉価盤レーベルの録音とは思えない、なかなかいい演奏です。奏者間のバランスと対比も見事。
この曲は5楽章構成のはずですが、このアルバムではなぜか4トラック。聴いてみると4楽章と5楽章が一緒になっているのはいいのですが、本来2楽章はメヌエットで、3楽章がアダージョであるところ、2楽章はアダージョで3楽章はメヌエットとの表記。この辺も廉価盤レーベルならではということでしょう。演奏がいいだけに惜しいところです。続くメヌエットでは一糸乱れぬアンサンブルの緻密さ、アダージョに入ると誰だかわからない第1ヴァイオリンの落ち着きながらもピンと張り詰めたヴァイオリンの美音にグッときます。しっとりと染み渡るような演奏。これはかなりの腕前です。4楽章のメヌエットは程よいメリハリ、そしてフィナーレでは自然な流れで壮麗な雰囲気をうまく描いていきます。なかなか聴き応えのある演奏でした。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
前曲同様速めのテンポであっさりとしながらも勘所を抑えた入り。有名なこの曲も実に堅実な音楽に引き込まれます。演奏の安定感というか、スタンスの一貫性も流石なところ。ちょっとやそっとの腕前ではここまで安定した音楽を奏でることはできません。テンポのせいか、非常に見通しの良い音楽となっています。ハイドンの音楽は素直な演奏ほどその良さが生きるということでしょうが、聴き進むとフレーズごとの表情付けも見事で、この一貫性とそのなかでの音楽の造りかたのバランスは絶妙。前曲以上に演奏の上手さに驚きます。
続くアダージョ・カンタービレは圧巻。一貫したスタイルはそのままに、大きく波打つ音楽を凛々しく表現。弦楽四重奏曲の真髄に迫る鬼気迫る音楽を奏でます。ここまでの演奏が聴けるとは思いませんでした。他の一流どころの演奏に引けをとるどころか、全く遜色ないもの。この楽章でこれほどの音楽を聴かせる演奏は滅多にありません。
すっかり奏者のペースにはまってしまっています。メヌエットも、各奏者が代わる代わるメロディーを引き継いでいくところのやりとりの見事さに耳を奪われます。そしてフィナーレに続きますが、ほどよいキレと少し溜めるような音階の表現が最後に個性を残すよう。いやいや見事なひばりでした。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
最後は名曲皇帝。すでに耳は鋭敏になり、前のめりで聴きます。相変わらず速めのテンポでサクサク入ります。すぐにアンサンブルの面白さに引き込まれます。よく聴くと、速めのサクサク進める部分と、ゆったりとメロディーを奏でる部分の対比をうまく使いわけて音楽に活気を保っていることがわかります。それが実に自然に変化するので実に味わい深い音楽になって聴こえるということでしょう。
ドイツ国歌の2楽章は自然なしっとり感を残した柔らかな表情で淡々と耳に残るメロディーを奏でていきます。ゆったりと歌われるメロディー。チェロのちょっと燻らしたような音色が独特の味わいを加えています。この楽章の深みも見事なもの。これだけの深い淵を聴かせる演奏はそうはありません。絶品!
一転、軽いタッチの音楽に変わります。自ら奏でる音楽の範囲の中での安定した表情の変化。安心して音楽に没頭することができます。メヌエットでも描き方で音楽の印象が大きく変わりますが、この安定感は流石です。そしてフィナーレは前曲同様、華やかさだけを狙うのではなく、あえて少し重さもともなった落ち着いたもの。技巧重視でくるとグイグイ攻め立ててくるパターンもありますが、この落ち着いたフィナーレこそ、曲の流れを崩さないものと言いたげです。終盤すこし音程が落ち着かないところもありますが、よくまとまった演奏でした。

カスバル・ダ・サロ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。奏者の実態もわからず、廉価盤然とした造りにもかかわらず、演奏は一級品と言っていいでしょう。特に「ひばり」は見事の一言。オーソドックスな演奏ではかなりいい線いっています。このアルバム、他の有名なクァルテットの演奏のコピーである可能性も否定できませんが、手元のアルバムのタイミングを見ても近いものがなく、その線はなさそう。逆に腕利きの奏者たちが、なんらかの理由で名を明かさずに録音したものかもしれません。その辺は想像しているうちが楽しいわけであります。万一このアルバムの出自がわかる方がありましたら教えていただければと思います。さて、評価はひばりが[+++++]、残り2曲は[++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.1 弦楽四重奏曲Op.64 弦楽四重奏曲Op.76 ひばり 皇帝

ヘンシェル四重奏団のひばり、鳥、騎士

最近、弦楽四重奏曲の演奏について、haydn totalの演奏の登録を機に、クァルテット名だけでなく各奏者の名前も記載する事にして、少しづつ登録済みのアルバムも追記しています。その整理の途上、ふと思って聴き直した所、なかなか素晴しい演奏だと再認識したアルバム。

HenschelQ64.jpg

ヘンシェル四重奏団(Henschel Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.33のNo.3「鳥」、Op.74のNo.3「騎士」の3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1995年、収録場所はスイスのチューリッヒの西にあるゼオン(Seon)という街でのセッション録音。レーベルは独MEDIAPHON。

ヘンシェル四重奏団は1988年に設立したクァルテット。国際的に活躍するようになったのは1993年、この演奏時のメンバーとなってからとのこと。来年それから20周年になります。メンバーの名前をみると3人がヘンシェル姓ということで、この3人は兄弟と思われます。

第1ヴァイオリン:クリストフ・ヘンシェル(Christoph Henschel)
第2ヴァイオリン:マルクス・ヘンシェル(Markus Henschel)
ヴィオラ:モニカ・ヘンシェル(Monika Henschel)
チェロ:マティアス・D・ベイヤー(Mathias D. Beyer)

HENSCHEL QUARTETT

この演奏が録音された1995年には、フランスのエヴィアン、カナダ、アルバータ州のバンフ、ザルツブルクで開催された国際コンクールで次々と優勝して有名になりました。師事したのはアマデウス四重奏団、メロス四重奏団、アルバンベルク四重奏団など一流どころ。何と2012年には来日して、サントリーホールでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を演奏したとのことで、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

今日取り上げるアルバムは、国際的に活躍し始めた頃のもの。いろいろ調べましたが現在は中古以外では流通していない模様です。

アルバムを見て気になるのは左下に”20bit PROCESSING”と誇らしげにロゴが表示されている事。最新の録音ではありませんが、音質にこだわったプロダクションであることがわかります。また、使用している楽器はヴァイオリンがストラディヴァリウス、ヴィオラはグァルネリ、チェロはグランチーノと、これまた誇らしげに記載されております。聴いてみると、これらの記載に負けない美音が炸裂するんですね。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
広々とした空間に艶やか、芳醇な弦楽器の音色が浮かび上がります。まさに魚沼産コシヒカリのようなモチモチ感(笑) 非常に伸びやかな演奏。最上の楽器を実に上手く鳴らしきっています。ハイドンの晴朗さを存分に表現し、陰りとか燻し銀と言うような雰囲気はなし。このひばりという曲の抜けるような魅力の真髄をとらえた演奏と言っていいでしょう。
アダージョに入ると,伸びやかさに加えて彫りの深さが加わります。第1ヴァイオリンだけでなく、他の楽器の鳴りも負けず劣らず素晴しい陰影。それぞれの楽器の音の存在感が際立ちます。まさに美音の響宴。
メヌエットは一転して少し流すように力を抜いて、楽器を自在に鳴らします。この緻密さと粗さのコントロールが実に見事。メヌエットは通例迫力で聴かせる演奏が多い中、このように逆に粗さを活かすとは、かなりの確信犯でしょう。
フィナーレも入りから聴かせます。ゆったり入りそうな一音目から急加速してサラサラと音楽が溢れ出してきます。精緻な演奏ではないんですが、力が抜けて音楽が勝手に湧き出てくるような活き活きとした演奏。この曲の面白さを踏まえて、全員が踊っているような躍動感。これは見事です。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
続いて鳥。自分たちの音楽の魅力をよくわかっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲の中でも伸びやかな曲想の曲をそろえてきています。演奏は前曲同様、美音を活かした自在な演奏。速めのテンポで素晴しい勢いの演奏。唸るような弦楽器の美音に打たれまくりです。
この曲ではスケルツォの抑えた表現が秀逸。良く鳴る楽器を押さえ込んでさかさかと抑えたボウイングで入ります。中間のヴァイオリンはわざとつっかえるような遊びの表情、そして再び抑えた表現。曲の面白さを知り尽くした円熟の表現。当時は若手だったはずですが、じつに味わい深い表現に驚きます。
アダージョはクッキリしながらも表現をおさえてオーソドックスにもってきました。この楽章事の弾き分けも実に良く考えられて、ハイドンが曲に仕込んだ機知をクッキリと浮かび上がらせるよう。
フィナーレはさざめくようなデリケートな音楽から入り、徐々に曲の面白さがにじみ出てくるよう。細かい音階が抑えながらも素晴しいキレ味で迫ってきて、力感はほどほどなのに表現の鋭さで攻めて来るよう。見事。

Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
名曲騎士。前2曲と比べると険しい表情の多い曲。曲と演奏のマッチングは前2曲の方がいいですね。このクァルテットの豊穣な音色の特徴が、1楽章では少しスポイルされている印象ですが、静謐な曲想が魅力の2楽章に入ると、これまでとは違ったじっくりと染み込むような魅力をもっていることがわかります。この曲を最後に持ってきた意味が何となくつかめました。鳴りの良さばかりが我々の音楽ではないよとでも言いたそう。
この曲のメヌエットはがらっと変わって、精緻な演奏。曲ごとのアプローチの違いも実に面白い。繰りかえし軽く楔を打つような表現が畳み掛けてきます。良く聴くとソフレーズ毎の音色のコントロールも緻密。
そして独特の表情をもつフィナーレは硬軟織り交ぜて、軽さをあらわす部分のキレとクッキリしたメロディーの見事な対比で聴かせます。

ヘンシェル四重奏団の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲、まさに美音を駆使した彫りの深い名演。特に印象的なのは抑えた音階のキレの良さと、強奏の見事な存在感の響きの対比でしょう。特に前2曲がいいと思いますが、何回か聴き直すと、騎士も実に深い演奏。これは名盤でしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。

ちなみにヘンシェル四重奏団のハイドンの演奏には十字架上のキリストの最後の七つの言葉があり、こちらも未入手でしたので早速注文を入れてみました。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.74 騎士

デンマーク弦楽四重奏団のひばり

最近手に入れたアルバム。若手による弦楽四重奏です。

DanishLark.jpg
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デンマーク弦楽四重奏団(Danish String Quartet)の演奏に寄るハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」とブラームスの弦楽四重奏曲Op.52のNo.2の2曲を収めたアルバム。収録は2012年3月、ミュンヘンのBR(バイエルン放送)の第2スタジオでのセッション録音。レーベルは独Avi-music。バイエルン放送との共同制作のようです。

若手のクァルテットによるハイドンは見つける度に手に入れるようにしています。やはり、古典であるハイドンの弦楽四重奏曲をどのように演奏するのかに興味があるためです。

このアルバムのデンマーク弦楽四重奏団は、2002年に設立された文字通りデンマークの四重奏団。2002年のコペンハーゲン・サマー・フェスティバルでデビューしました。2004年のデンマーク放送P2室内楽コンクールで優勝して以降は、クァルテットの名前通りデンマーク国内でも知られた存在となりました。その後数多の国際コンクールでの優勝経験を経て、2006年にはデンマーク放送のお抱えミュージシャンとなり、デンマーク放送交響楽団、デンマーク放送シンフォニエッタとともにエルガーなどを演奏することになり、また、デンマークの作曲家であるカール・ニールセンの弦楽四重奏曲を録音する機会にも恵まれました。最近ではニューヨークでのデビューが好評をもって受け入れられたとの事です。まさに評価されつつある若手クァルテットでしょう。彼らのウェブサイトを紹介しておきましょう。

The Danish String Quartet

メンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:ルネ・トンスガード・ソレンセン(Rune Tonsgaard Sørensen)
第2ヴァイオリン:フレデリク・オーランド(Frederik Øland)
ヴィオラ:アスビョルン・ノルガード(Asbjørn Nørgaard)
チェロ:フレデリク・、、読めません!(Fredrik Schøyen Sjölin)

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
おなじみのメロディー。非常にオーソドックスな演奏。録音は鮮明かつバランスの良いベストなもの。キレの良いボウイングから生み出されるハイドンの名旋律は、力みなく、リズミカルに進みます。鮮度の高さが若手らしい演奏。もう少し個性的な演奏を想像していたのですが、教科書通りのような正統派の演奏。ただし極上の鮮度で、メリハリもクッキリ。教科書通りではあるのですが、演奏のクォリティーは最高、リアルな表情に鳥肌が立つような緊張感がある素晴しいもの。この踏み込みは尋常ではありません。演奏スタイルではなくクオリティーで一歩踏み出した素晴しい演奏。数多の録音があるひばりを選んで、この鮮烈な演奏は驚きです。
アダージョに入っても、鮮烈さを保ちながら決してバランスを失わない感覚が素晴しいです。正統派の演奏とはこのことでしょう。4人のアンサンブルは非常に精度が高く、鮮明な録音を通してそれぞれの楽器の響きが鮮明に浮かび上がります。テンポを落とすところではじっくりと落とし、深い呼吸で音楽の要所をこなしていきます。
メヌエットは予想通り彼らの特徴が活きて、クッキリした表情が痛快。冷凍庫から取り出したばかりのアイスキャンディーのようなシズル感。燻し銀とは正反対の鮮烈さがまぶしい演奏。
フィナーレは来ました! やはり相当なテクニシャンだと思いましたが、速い音階をこともなげに、しかも抜群の安定感と、クッキリハッキリしたフレージングでこなしていきます。この音階は鳥肌もの。迫真の演奏。最後に牙を剥きましたね。見事。

やはり、若手の演奏を聴くのは格別の喜びがありますね。現代にあって、古典のハイドンをここまで正統的な表現で録音してくるあたり、相当の自信があってのことでしょう。個性的な演奏ではありませんが、このクオリティーは流石。名曲をこれ以上の演奏ができるかとの気合いをこめて録音してくるあたり、かなりの才能です。デンマーク弦楽四重奏団、記憶に残る名演奏でした。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : ひばり 弦楽四重奏曲Op.64

ガブリエリ弦楽四重奏団のひばり他

今日は弦楽四重奏曲。燻し銀の一枚。

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ガブリエリ弦楽四重奏団(Gabrieli String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、Op.54のNo.2の2曲の演奏を収めたアルバム。収録は1986年2月13日から15日にかけて、イギリス、ロンドンの北東にあるスネイプという街のモルティングというコンサートホール。オールドバラ音楽祭のメイン会場として知られたホールとのこと。レーベルは英CHANDOS。

ガブリエリ弦楽四重奏団は1966年に創設された弦楽四重奏団。特にイギリスでは良く知られた存在のようです。オールドバラ音楽祭、チェルトナム音楽祭、シティ・オブ・ロンドン音楽祭などの常連であり、またバービカン・センターで行われるモストリー・モーツァルト音楽祭にも毎年出演しているそう。ラジオやテレビにも頻繁に出演しています。1971年以降イングランド南東部のコルチェスターにあるエセックス大学に所属するクァルテットとなっています。録音も多く、このアルバムが録音された1986年以降CHANDOSと契約し、ブラームス、エルガー、ウォルトンなどの曲を録音したそうです。

このアルバムの演奏当時のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:ケネス・シリトー(Kenneth Silito)
第2ヴァイオリン:ブレンダン・オライリー(Brendan O'Reilly)
ヴィオラ:イアン・ジュェル(Ian Jewel)
チェロ:キース・ハーヴェイ(Keith Harbey)

このあと、ヴァイオリンの2人は他の人に替わっています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
実に間の上手くとれた入り。この曲独特の雰囲気を良くつかんで、軽々とした、しかも趣き深いリズム。いきなりぐっと心をつかまれたよう。ヴァイオリンの伸びやかさは流石名門。チェロの存在感も素晴しく、ハイドンの曲の面白さがクッキリ浮かび上がります。録音はCHANDOSだけに手慣れたもの。少し古びた印象がなくはありませんが、弦楽器独特のテンションの高さを上手く録っていて、かなり迫力ある音。オンマイク気味ながら弦の響きは失われていません。おそらく何度も演奏している名曲でしょう、聴かせどころは完全に掌握して、余裕たっぷりの演奏。
つづくアダージョ・カンタービレは、クァルテットらしい弦楽器同士の精妙な音の重なりを通して陰のある表情をじつに上手く表現していきます。手慣れているとはいっても、聴かせどころをきちんと落としてくるあたりは流石。ふっと明るさが射すところの絶妙な変化、ちょっとした間の効果的な配置、ふと力を抜くところなど、クァルテットを聴く悦びに溢れる楽章。
楽章間の変化も見事。メヌエットは刺さるようにクッキリと入り、前楽章の余韻を断ち切るよう。噛み締めるようにじっくりと溜めたリズムによって曲の構造を透視するよう。
フィナーレはあえて、ゆっくりと。速いパッセージをスローモーションで見せるような面白い効果。フレーズを次々と受け渡していく面白さがよくわかります。いやいや見事な演奏。

Hob.III:57 / String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
つづいて第一トスト四重奏曲集から。エステルハージ侯爵家の楽団にいたヨハン・トストというヴァイオリン奏者が、侯爵家を去ってパリに行くにあたり、楽長のハイドンにパリで演奏する弦楽四重奏曲と交響曲の作曲を依頼し、作曲された曲。弦楽四重奏曲はOp.54と55の6曲。ちなみに交響曲は88番、89番の2曲。
パリで演奏するこためかどうか、曲想もすこし変わっていて、アダージョのメランコリックな旋律が印象的な曲。前曲の老練なテクニックと安定した演奏を聴いているので、安心して身を任せることができます。1楽章はこちらも曲のツボを押さえて、弦楽四重奏曲の演奏の伝統の重さを感じさせるもの。クッキリとした表情で、次々とハイドンの旋律を描いていきながら、アンサンブルの精妙さを印象づける見事なもの。4人の音楽の方向性が完全に一致していて揺るぎない安定感。プロの技を見せつけます。
アダージョは霞のなかの景色を見るようなぼんやりとした表情が独特。ガブリエリ弦楽四重奏団は曲にあわせて、霞のような音楽をつくっていきます。この辺の表現の幅の広さはは伊達ではありません。意外と演奏が難しい楽章なんではないでしょうか。
霞が晴れて、緑がクッキリ浮かび上がってくるところを描いたようなメヌエットの入り。いつもながらハイドンの創意に感服ですが、それを非常にうまく音楽にするガブリエリも流石。軽さの表現が秀逸。盤石の解釈。
アダージョから入る珍しいフィナーレ。ゆったりした演奏ですが、耳を澄ますと各楽器の非常にデリケートなボウイングによるメロディーの交換が素晴しい音楽をつくっていきます。静かなクライマックス。大海原を波に揺られて進むような実に豊かな音楽。終盤のプレストはカッチリ決めて、再びアダージョに戻り、静かに曲を閉じます。

最初は手堅い演奏かと思いきや、聴き進めるにつれて音楽の豊かさとプロの技の素晴しさが印象的な演奏だとわかりました。ハイドンの弦楽四重奏曲のツボを押さえて、実に趣き深い演奏。説得力のある解釈に感服しました。イギリスの実力派クァルテットの底力を見た気がします。評価は両曲とも[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.54

ハンガリー弦楽四重奏団のOp.77のNo.2、「ひばり」

久々にヒストリカルもの。ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたもの。

HungarianStringQuartet.jpg
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ハンガリー弦楽四重奏団(Hungarian String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.2とOp.64のNo.5「ひばり」の2曲を収めたアルバム。収録は1957年とだけ記載されています。レーベルはスイスのTUXEDO MUSIC。

ハンガリー弦楽四重奏団はブダペスト・アカデミーで、ゾルタン・コダーイやイェネー・フバイに学んでいたメンバーであるシャーンドル・ヴェーグ(Sándor Végh)らによって、1934年に設立されたクァルテット。1935年にはデビューし、1938年にはヨーロッパの主要都市で知らぬもののいない存在となりました。バルトークを得意としているようで、バルトークの弦楽四重奏曲第5番を作曲家の指導のもとハンガリーで初演しました。ただしヴェーグは1940年にヴェーグ四重奏団を設立するために退団し、今日取り上げるアルバムを録音した頃にはメンバーではありません。このアルバムの録音当時のメンバーはアルバムには記載されていませんが、WIkipediaなどの情報を調べると次のようになります。

第1ヴァイオリン:ゾルターン・セーケイ(Zoltán Székely)
第2ヴァイオリン:アレキサンドレ・モゾコフスキ(Alexandre Moszkowsky)
ヴィオラ:デネーシュ・コロムサイ(Denes Koromzay)
チェロ:ガブリエル・マジャル(Gabor (Gabriel) Magyar)

コダーイやバルトークの薫陶を受けたという伝統のクァルテット故、ハイドンの演奏にも険しさを期待してしまいます。1957年の響きはどのようなものでしょうか。

Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
なんとステレオ録音です。冒頭から鋼のような険しい弦のタイトなアンサンブル。なるほどバルトークを得意としていることが頷けます。ハイドンの最後の創作期の作品なのに、もの凄いテンションでザクザク切り込みますが、不思議と踏み外したような印象はなく、古典の枠の中でのタイトさということでしょう。録音はハイテンションで切れ味抜群のヴァイオリンパートを中心にオンマイクで鮮明な響きをとらえています。おそらくLP音源ではたまげるようなリアリティを味わえるのではと想像しています。
2楽章のメヌエットの入り方に集中しますが、コミカルな印象もあるはずなのに、やはり荒々しさも感じさせる険しい入りで、メンバーにも緊張感が張りつめています。まるでバルトークのような険しさ。一貫して少し速めのテンポによって、楽章の行く末が俯瞰できるような気分に。
弦の音色はそのままに、一瞬にして音楽が一変。3楽章のアンダンテは諦観すら感じられる枯れた音楽。乾いた弦の音色とあっさりとしたフレージングが一層音楽の核に集中させます。この楽章の景色はハンガリー弦楽四重奏団のエッセンスを感じさせるもの。変奏が進んでも一貫して変わらぬ冷めた情感と、そこから沸き上がる音楽は、このアルバムが今も現役盤たる所以でしょう。ハイドンの最晩年にたどり着いた無垢な境地をここまで鬼気迫る演奏で聴かせるとは。
この曲の本質には楽章間のつながり等意図しなかったとも思わせる、かなり思い切った楽章間の変化。前の楽章の余韻を完全に断ち切るような鮮やかな変化。ここまではっきりと変化する演奏は滅多にありません。曲を完全に読み込んだ上での確信犯的解釈でしょう。険しい音色での演奏には神々しさすら感じさせるオーラが出ています。音楽の表情はこれ以上の険しさはないと思われるほどの青白く光る鋼のような鋭さ。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
旋律はおおらかなのに、変わらず鋭いボウイングでグイグイ迫ってくるタイトなメロディーライン。鋼のひばりです。往時のボロディン四重奏団を彷彿とさせる険しい音楽。ボロディンが鍛え抜かれた鋼だとすると、こちらは同じ鋼でも反射する光にほのかに色彩が映るようなニュアンスがあり、音楽がすこし膨らみます。聴き慣れたひばりの1楽章はやはり険しいばかりではなくほのかな色彩感も感じさせ、ハイドンの豊かな音楽が垣間見えます。
予想通り2楽章のアダージョ・カンタービレはこのアルバムでも最も歌った楽章。険しさばかりではないハンガリー弦楽四重奏団の器の大きさが伝わります。休符を長くとって音楽を印象的に。一人一人の演奏が実に呼吸が深く、4人のアンサンブルもピタリとそろいます。これほどの高みには容易には到達できません。
メヌエットは前楽章の覚醒を和らげるように、このアルバムでも最も楽天的な演奏。リズムに乗ってリラックスして音楽を楽しむようです。ただ音色は抽象芸術のようなミニマルな響きもあり、一筋縄では理解できない深さもあるのが流石。
フィナーレはそっと弦に触れるような、さざめくような軽さが印象的。メロディーが次々と受け継がれていくうちに混沌とした響きに昇華するような演奏。

1957年と今から56年も前の演奏ですが、音楽に古さは全く感じる事はありません。コダーイやバルトークを生んだハンガリーの伝統を感じる、タイトなのに色彩感もあり、古典的でありながら現代的でもある素晴らしい演奏。バルトークを得意としたハンガリー弦楽四重奏団の演奏ですが、弦楽四重奏の父ハイドンの曲も、孤高の高みを感じさせる素晴らしいものでした。演奏者によって光の当て方は様々。古楽器による演奏が多くなってきた現代におおいても、この演奏のもつ輝きは変わりません。いまだに現役盤である理由がよくわかりました。もちろん評価は両曲とも[+++++]とします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり 弦楽四重奏曲Op.77 ヒストリカル おすすめ盤

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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