ノルベルト・デュヒテルのオルガン協奏曲集(ハイドン)

協奏曲のアルバムが続きます。

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ノルベルト・デュヒテル(Norbert Düchtel)のオルガン、ミュンヘン・ラルパ・フェスターテ・バロックオーケストラ(L'arpa Festante Barockorchester München)の演奏で、ハイドンのオルガン協奏曲5曲(Hob.XVIII:5、XVIII:2、XVIII:10、XVIII:7、XVIII:8)を収めたアルバム。収録は2002年5月21日から23日、ドイツ中部、ニュルンベルクの近郊にあるマリア・リムバッハ(Maria Limbach)にあるワルファールツ教会(Wallfahrtskirche)でのセッション録音。レーベルは独ARS MUSICI。

このアルバム、実は同じ演奏者のオルガン協奏曲のVol.2を湖国JHさんから貸していただいているのですが、正体不明のオルガン協奏曲が含まれており、ちょっとその曲を調べ切れていないことから、たまたま手元の未聴盤ボックスにあった、Vol.1の方を取り上げた次第。Vol.2の方にはHob.deestというヘ長調(元の記述はイ長調としましたが誤りでしたので修正いたしました)の曲が含まれ、このアルバム以外にはこの曲の情報はなく、いろいろ調べているのですがいまひとつよくわかりません。どなたか情報をお持ちでしたら是非教えてください。

さて、気をとりなおして演奏者の情報を調べておきましょう。

ノルベルト・デュヒテルは1949年生まれのオルガン奏者。ドイルのヴュルツブルクの州立音楽院で教会音楽、作曲とオルガンを学び、その後ミュンヘン音楽大学に進みます。ドイツ国内の様々な高名なオルガニストに師事しオルガンの腕を磨き1979年からはミュンヘンのカトリック教会でオルガン演奏と即興演奏の講師を務めたほか、レーゲンスブルク、デトモルトなどでも教えています。南ドイツでは有名な存在ということです。
オケのミュンヘン・ラルパ・フェスターテ・バロックオーケストラは1983年に設立された古楽器オーケストラ。聴くのは初めてですが国際的に活躍しているとのこと。

一聴して堅実かつ、端正な印象。オルガンもオケも実に味わい深い音楽を奏でます。

Hob.XVIII:5 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
教会らしく豊かな残響を伴いますが録音は鮮明で非常に聴きやすい響き。オケの序奏はゆっくり目ですが、キリリと引き締まった端正なもの。オケを存分に鳴らしていますが、テンポは揺らさず一貫して律儀な演奏。デュヒテルのオルガンも教科書的端正さを持った演奏。オルガンの音色はハイドンの協奏曲にふさわしいコミカルな陶酔感にあふれたもの。このアルバムに含まれるオルガン協奏曲はどれもメロディーラインの面白い小曲ゆえ、この端正な演奏によってそれぞれのメロディーの面白さが自然に浮かび上がるという寸法です。まさに必要十分な演奏と言えるでしょう。こう書くと手堅い演奏に思われるかもしれませんが、さにあらず。オルガンとオケの色彩感は素晴らしく、音楽を演奏する喜びが噴き出してくるよう。レビューのために何度か聴くうちにすっかりこの演奏の魅力にハマりました。千変万化する美しいオルガンの音色が律儀なオケに乗って楽しめます。ゆったりしたという感じではなく、落ち着いた心境による穏やかなキビキビ感という印象。1楽章の快活さ、2楽章のアンダンテの穏やかなリズムの魅力で聴かせ、そしてフィナーレも落ち着いて引き締めてきます。まさにこの曲の見本のような演奏。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
オルガンのトランス状態のような陶酔感が聴きどころの曲。前曲同様落ち着き払った安定した演奏。なぜか前曲よりオケの響きが少し薄くなり、オルガンが強くなります。そのせいか1楽章の延々と続くオルガンの高音の音階を聴いているうちに、予想通り陶酔感につつまれてきます。淡々と弾かれることでかえって陶酔感が強まるよう。12分近くと長い2楽章のアダージョ・モルトは夢の国のよう。ここではゆったりと音楽が流れ、オルガンが自在にメロディーを揺らしながら音を乗せていきます。しばらく続くオルガンのメロディーがぐっと音程を下げるあたりの面白さはこの曲ならでは。堅実な演奏ゆえ中だるみすることなくこの曲の面白さをしっかり伝えます。フィナーレはしっかりと落ち着いた足取り。オルガンもオケも水も漏らさぬ堅実さでで進みます。オルガンの陶酔感は変わらず、オケがくっきりとメリハリをつけてサポートします。展開部で転調を重ねて上昇するあたりはこの曲のもう一つの聴かせどころ。淡々と進めることで、やはり曲の面白さが強調されます。いやいやこれは素晴らしい。

残りの3曲も安定した演奏ゆえ、曲の聴きどころなどを簡単に触れるだけにしておきましょう。

Hob.XVIII:10 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1771,1760?)
オルガンの音色を変え、壮麗な響きで始まります。基本的に前2曲と変わらぬ落ち着いた演奏ですが、前曲に比べ、少々オルガンのタッチが重い感じ。音色を変えることによってタッチが変わるということなのでしょうか。聴き進めるうちにデュヒテルのオルガンの魅力に引き込まれます。聴きどころは2楽章のアダージョのメロディーラインの面白さ。あいかわらず淡々とした語り口で曲の魅力に迫ります。

Hob.XVIII:7 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
快活な1楽章とフィナーレに挟まれた、陰りのある短いアダージョの表情の深さが聴きどころ。両端楽章の穏やかな明るさを引き立てるようにしっかりと陰りを表現。楽章間の表情の変化で聴かせる曲。

Hob.XVIII:8 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1766)
最後の曲。伴奏にオルガンが最初から寄り添い、不思議が音を重ねていきます。オルガンが再び堂々と響きわたります。オルガンの音色の変化もこのアルバムの聴きどころの一つ。ライナーノーツには曲ごとのオルガンの設定などにも触れられていますが、こちらが詳しくないのでよくわかりません(苦笑) ただしオルガンの音色の変化は鮮明な録音も相まって十分楽しめます。この曲も2楽章の曲想の面白さがポイントでしょうか。少々コミカルな表情を見せ、最後にウィットを効かせるよう。

ドイツのオルガニスト、ノルベルト・デュヒテルによるハイドンのオルガン協奏曲5曲を収めたアルバム。奏者の落ち着いた心情から立ち上る穏やかな音楽に癒されるような演奏。テンポは少し遅めで、畳み掛けるようなところはなく、スリリングでもないのに音楽にはメリハリがあり、そして抑えた表情がかえってメロディーの面白さを引き立てるよう。実に味わい深い演奏です。ハイドンのオルガン協奏曲には独特の音色感というか高揚感がありますが、抑えた表現でもその高揚感は十分つたわるいぶし銀の演奏です。評価は3曲目は重さを少し割り引いて[++++]、残りは[+++++]とします。

手に入るうちにどうぞ!

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tag : オルガン協奏曲

ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)

今日は好きなディヴェルティメント集。

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ディヴェルティメント・ザルツブルク(Divertimento Salzburg)の演奏による、ハイドンのディヴェルティメント3曲(Hob.II:11、II:16、II:22)とマーティン・ハーゼルベックがオルガンソロをつとめたクラヴィーア協奏曲(Hob.XVIII:10)、それにアンネグレート・ディートリヒセンのヴァイオリンソロが加わったクラヴィーアとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)の5曲を収めたアルバム。ディヴェルティメントの収録は1982年2月27日、3月2日、オーストリア放送ザルツブルクスタジオでのセッション録音。協奏曲2曲は1982年6月11日から12日にかけて、オーストリア東部のシュッツェン・アム・ゲビルゲという街の教会でのセッション録音です。レーベルは独ORFEO。

このマイナーなアルバムは、マイナー盤好きな当方の所有盤リストにない、特にマイナーなアルバムを選りすぐって貸していただく湖国JHさんから送り込まれたもの。いつもながら、送り込まれるアルバムの素晴らしさは折り紙付き。

ディヴェルティメント・ザルツブルクは1978年、このアルバムの協奏曲でヴァイオリンソロを弾いているアンネグレート・ディートリヒセンが設立した室内楽アンサンブル。メンバーはザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団のメンバーが中心で、オーストリアでも最も早くから古楽器演奏に取り組んだ団体の一つということです。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトなどの室内楽曲ということです。
オルガンを弾くマーティン・ハーゼルベックはおなじみでしょう。当ブログでも過去に同じくORFEOへのこのアルバムと同時期に録音されたオルガン協奏曲集などを一度取りあげています。

2012/12/14 : ハイドン–協奏曲 : マーティン・ハーゼルベック/ディヴェルティメント・ザルツブルクのオルガン協奏曲集
2012/12/11 : ハイドン–声楽曲 : ウィーン少年合唱団/ウィーン響の大小オルガンミサ

特にオルガン協奏曲のアルバムはオケも同じディヴェルティメント・ザルツブルク。ハーゼルベックの略歴などはそちらの記事をご参照ください。

ということで、今日取り上げるアルバムはハーゼルベック得意のオルガン協奏曲のみならず、ディヴェルティメント・ザルツブルクによる文字通りディヴェルティメントに存在価値がかかっている訳です。一般的には地味な存在であるディヴェルティメントですが、ハイドン好きな皆さんは、このゆったりとした音楽の楽しみを知っているので、このアルバムへの興味も尽きないはず。ディヴェルティメントを中心にレビューいたしましょう!

Hob.II:11 / Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
プレスト-アンダンテ-メヌエット-フィナーレの4楽章。2楽章は「夫婦」と名付けられ、「誕生日」という呼称とともに古い筆写譜に記載されていたとのこと。最近聴き慣れたメロディーから入りますが、テンポはゆっくり。噛み締めるようにじっくりとした入りが録音年代を物語ります。古楽器の演奏ではありますが、音を聴く限りそうは感じません。2楽章はユーモラスなメロディーの面白さを誇張するように表情をつけていきます。そして3楽章のメヌエットも一貫してゆったりとしたテンポで濃い表情。フィナーレの変奏曲に入っても屈託なくメロディーラインの面白さを描いて行きます。良く聴くと音量的なメリハリや構成よりも、メロディーをしっかり描いて行くことに集中しているよう。次々に楽器を変えてメロディーを受け継いでいくあたりは、スリリングではなく確実なバトンリレーを見せられているよう。ディヴェルティメントとはこう演奏するものとのメッセージのようでもあります。奏者の愉悦感が伝わってくるような躍動感。変奏が進むにつれて音楽にグイグイ引き込まれていきます。最後の高揚感も素晴しいものがあります。

Hob.XVIII:10 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1771,1760?)
録音に若干古めかしい響きを感じますが、すぐに、やはりゆったりとしながらもがっちりと堅固な音楽の魅力に引き込まれます。ハーゼルベックのオルガンソロは、以前聴いたアルバム同様、キレキレ。オルガンと言う楽器独特の音色の魅力が立ちのぼります。バリトントリオ同様、音色のもつ神秘的な響きにトランス状態に引き込まれそう。テンポが落ち着いている分、メロディーと音色の魅力が引き立ちます。ディヴェルティメントもそうでしたが、このアルバムの演奏、テンポの変化は極力抑えることで、メロディーのもつ魅力にピシッとフォーカスがあたります。2楽章のアダージョもじっくりとした表情づけで音楽の面白さが際立ちます。敢えて構成の変化やダイナミクスを抑えているようです。フィナーレも同様。この演奏を聴いてこうしたアプローチの有効性に気づかされました。実に雄弁な音楽。少し古いスタイルとは思いますが、音楽の濃さはそれを越えた価値をもつように感じます。

Hob.II:16 / Divertimento [F] (1760)
再びディヴェルティメント。この曲は録音が少ないので貴重。手元には他にマンフレッド・フス盤くらいしかありません。リラ・オルガニザータ協奏曲のようなオモチャっぽい推進力のある響きが特徴。すでにディヴェルティメント・ザルツブルクのスタイルに馴れてきていますので、じっくりと奏でられる彼らの音楽がすっと耳に入ってきます。この曲はアレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレと5楽章構成。音楽の濃さは相変わらずで、特にアダージョのゆったりとした美しさは出色。このアルバムの中では珍しく抑えた表現を上手く挟んでいます。後半のメヌエットは木管とホルンによるコミカルな表情がいい味をだしています。フィナーレは2本のホルンが活躍。えも言われぬ感興。曲調からか、この曲では表現を極めるというより演奏を楽しむ感じで、いい意味で楽天的な印象です。これがディヴェルティメント本来の姿でしょう。

Hob.XVIII:6 / Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
好きな曲。オルガンとヴァイオリンの掛け合いとともに、独特の高揚感のある曲です。ハーゼルベックのオルガンはまたしてもキレキレ。ディートリヒセンのヴァイオリンは燻らしたような味のある音色が特徴。やはり全体に落ち着いたテンポで、じっくりと曲を描いていきます。演奏をリードするのはハーゼルベックのオルガンで、ヴァイオリンは伴奏のようにオルガンに付き従うスタイル。1楽章の祝祭感と高揚感はハーゼルベックのオルガンによるもの。
アダージョは夜空の星のきらめきのような美しい曲ですが、研ぎすまされた美しさというよりは、等身大の音楽の美しさで聴かせる感じ。主役はやはりハーゼルベックのオルガン。よく聴くとオルガンの表情の多彩さに気づきます。ヴァイオリンソロとオケがうまく寄り添ってオルガンの奏でるメロディーに変化をつけていくよう。
フィナーレはかなり力を抜いて流すような演奏。今度はヴァイオリンとオケが少し前に出てきてオルガンより先にメロディーを置いて行きます。だんだんオルガン、ヴァイオリン、オケが溶け合うように高揚して終了。

Hob.II:22 / Divertimento [D] (1760-62)
最後のディヴェルティメント。プレスト-メヌエット-ラルゴ・カンタービレ-メヌエット-フィナーレの5楽章構成。やはり2本のホルンの音色が独特の表情。ホルンの響きが加わることで音楽がこれほど豊かになるとは、ハイドンの楽器の音色に関する鋭敏な感覚に唸るばかり。この曲では楽章ごとの演奏スタイルにきっちりメリハリをつけて、特にラルゴ・カンタービレの抑えた美しさにこだわっているよう。ここに来てディートリヒセンの突き抜けるような伸びやかな高音を披露。後半のメヌエットも実に落ち着いた音楽。最後のフィナーレは短いながらも非常に面白い音階の構成に釘付け。

ディヴェルティメント・ザルツブルクによる、ハイドンのディヴェルティメント3曲とオルガン協奏曲など2曲の協奏曲をあわせたアルバム。これぞハイドンの音楽の楽しみといわんばかりの演奏。腕利き奏者の集まりに違いありませんが、音楽のフォルムにこだわった精緻な演奏ではなく、音楽とは素朴なものであると言わんばかりの、実にくだけた演奏。前半の曲は大きな造りでグイグイと聴かせると思って聴いていると終盤は繊細な面ものぞかせ、聴くものを飽きさせません。選曲といい、演奏といい、まさに玄人好みのアルバムです。評価は真ん中に置かれたディヴェルティメントHob.II:16が[++++]、他は[+++++]とします。このアルバムも現在では入手が難しい貴重なものとなってしまっていますね。

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tag : ディヴェルティメント 誕生日 古楽器 オルガン協奏曲

マーティン・ハーゼルベック/ディヴェルティメント・ザルツブルクのオルガン協奏曲集

前記事でとりあげたウーベ・クリスチャン・ハラーの大小オルガンミサで抜群のオルガンを聴かせていたマーティン・ハーゼルベックですが、彼のオルガンをもう少し聴きたくなって取りあげたアルバム。

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マーティン・ハーゼルベック(Martin Haselböck)のオルガン、ディヴェルティメント・ザルツブルク(Divertimento Salzburg)の演奏による、ハイドンのオルガン協奏曲3曲(Hob.XVIII:2、XVIII:7、XVIII:8)を収めたアルバム。収録は1982年6月11日から14日、XVIII:2とXVIII:8がオーストリアのアイゼンシュタットの聖マーティン教会、XVIII:7がすぐ近くのシュッツェン・アム・ゲビルゲの教会でのセッション録音。レーベルは名門ORFEO。

マーティン・ハーゼルベックは1954年ウィーンに生まれたオルガン奏者、指揮者、作曲家。指揮者としてハイドンの交響曲の録音も何枚かあります。ウィーンやパリで音楽を学んだ後、最初はオルガンのソリストとして国際コンクールで頭角を現し、アバドやムーティ、マゼール等との共演を通して世界的に有名になりました。オルガンソロでリリースされたアルバムは50枚以上とのこと。ウィーンでは宮廷オルガニストとして教会音楽を極めながら、その後指揮もこなすようになり、1985年には自ら古楽器オーケストラのウィーン・アカデミーを創設。ムジーク・フェラインでの通年コンサートサイクルを開催したり、ウィーン交響楽団をはじめに世界各地のオーケストラに客演し、多くのアルバムをリリースするなど多岐にわたって活躍しています。

このアルバムの録音はウィーン・アカデミーの創設前であり、オケはディヴェルティメント・ザルツブルクとなっていますが、このオケ、ライナーノーツにもネットにもほとんど情報はなく、このオケが参加しているアルバムはちらほらあるのみ。おそらく録音用のオケなのではないかと想像しています。指揮はヴァイオリンの アングレット・ディードリヒセン(Annegret Diedrichsen)が担当しています。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
オケは古楽器の音色ですが、奏法は古楽器らしいものと言うよりは現代楽器に近い印象。小編成オケの小気味好いキレを感じさせる序奏から入ります。オルガンは前記事のオルガンミサでのソロと近く、特に音階についてはオルガンをかなりテンポ良くコントロールして、独特の恍惚感を表現するハーゼルベックならではのフレージングを聴かせます。この曲はアイゼンシュタットの聖マーティン教会のオルガン。特に気張ったところはなく淡々と恍惚感を深めていくような演奏。音階が繰り返されるうちに独特の奮起になります。ハーゼルベックのオルガンソロのキレが聴き所でしょう。
続く2楽章のアダージョ・モルトも淡々。オルガンソロのキレの良さが浮かび上がり、オケは完全に伴奏に徹していますが、よけいな事をしない分、ヴァイオリンをはじめとする各楽器の淀みない演奏と響きの美しさに集中できる感じ。途中オルガンのメロディーラインがぐっと低域に沈み込む場面の自然な流れは、作為のなさが美しさを際立たせている感じ。
薄化粧の美人を見るようなフィナーレ。素材としての曲の美しさを包み隠さずそのまま表現したような感じ。テンポやアクセントでは踏み込まず、落ち着き払って曲自体の美しさを楽しむ余裕が感じられます。オルガンのこの曲独特の陶酔感はなかなかのもの。踏み込んだ個性がある訳ではありませんが、最初の曲から程よく力が抜けていい感じ。

Hob.XVIII:7 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
録音会場が変わってシュッツェン・アム・ゲビルゲの教会になります。オルガンの音色も変わって、より素朴な響きに。オケは弦楽器のみ。演奏も前曲のオルガンがグイグイ引っ張る演奏から、非常に大人しく穏やかな音楽に変わります。曲調は練習曲のような雰囲気も感じさせる素直なもの。曲調を考えて録音会場とオルガンを選んでいるものと推察されます。短調の短い印象的なアダージョを挟んでフィナーレへ。この曲では不思議とオルガンのスタンスが前曲と異なってソロとして牽引する役割からオケの一部分のような役割。もちろん音量的には主役ですが、オケに溶け込もうとしているように聴こえます。曲によってこれだけ演奏スタンスが変わるのは珍しいですね。オルガン協奏曲というよりオルガンつきのディヴェルティメントといった風情。

Hob.XVIII:8 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1766)
再びアイゼンシュタットでの録音。管楽器が最初から加わる事で前曲とは響きの豪華さが異なります。1曲目と同様オルガンが存在感を発揮。ハーゼルベック独特の高揚感のあるオルガンが戻ってきました。オケも前曲とはノリが違います。適度にキレとノリを感じる活き活きとした響きが痛快。音楽のつくりが大きくなり、曲の立体感が素晴らしいですね。このアルバムでも一番いい演奏。心なしかオケの響きの美しさも上がっています。
2楽章のアダージョはオルガンとオケの掛け合いの間の妙が楽しめます。火花飛ぶというわけではなく、落ち着いた中にも実に慈しみ深い掛け合い。ハーゼルベックもオケのディヴェルティメント・ザルツブルクも演奏を楽しんでいる様子が手に取るようにわかります。古楽器なのに古楽器を意識させない自然なソノリティが美しさのポイントでしょうか。
フィナーレはオルガンの壮麗さが一層輝かしくなり、教会中に美しい響きが満ちる感じ。オルガン音楽を聴く楽しみに溢れた演奏とはこのことというような演奏。

マーティン・ハーゼルベックとディヴェルティメント・ザルツブルクによるオルガン協奏曲集。やはりハーゼルベックのオルガンは前記事の大小オルガンミサを聴いて気になった通り、独特の高揚感を感じさせるキレのいい演奏であり、オルガンの腕は確かなものでした。プロダクションとしてはハイドンゆかりのアイゼンシュタット近郊で、曲想にあわせて2つの会場とオルガンを使い分けた録音で、なかなか工夫したものに仕上がっていますが、個人的には3曲ともアイゼンシュタットで録ってもよかったのではと思いました。2曲目については、両端の曲とは明らかに演奏スタンスを変えていますが、結果的に両端の曲の面白さが浮かび上がったような形になっています。評価は1曲目のXVIII:2が[++++]、2曲目のXVIII:7が[+++]、3曲目のXVIII:8は[+++++]とします。久々に評価が曲ごとに割れましたね。やはり3曲目の仕上がりは素晴らしく、ハイドンのオルガン協奏曲の面白さをうまく表現できていると思います。

数日前のニュースで知りましたが、インドのシタール奏者、ラヴィ・シャンカールが92歳で亡くなったとのこと。シャンカールのシタール協奏曲は思い出深いLPなので、たまに取り出して聴いています。訃報ではじめて知ったのですがシャンカールの娘さんはノラ・ジョーンズなんですね。これは知りませんでした。全く違う音楽でも才能は受け継がれているということでしょう。ご冥福をお祈りします。

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tag : オルガン協奏曲 古楽器

ガーボル・ラホトカ/ブダペスト・ストリングスのオルガン協奏曲集

今日は久しぶりのオルガン協奏曲。心を洗われるような1枚です。

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ガーボル・ラホトカ(Gábor Lehotka)のオルガン、カーロイ・ボトヴァイ(Károly Botvay)指揮のブダペスト弦楽合奏団(The Budapest Strings)の演奏でハイドンのオルガン協奏曲3曲(Hob.XVIII:1、XVIII:5、XVIII:8)とチェンバロ小協奏曲をオルガンで弾いたもの2曲(XIV:11、XIV:12)の合わせて5曲を収めたアルバム。収録は1988年9月27日~30日、ハンガリーのブダペストの北約30kmの街バーツ(Vác)にあるフランシスコ会教会でのセッション録音。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

このアルバムはちょっと前にオークションで手に入れたもの。ネットや店頭でハイドンのアルバムはいろいろ探していますがほとんど見かけないため、あまり流通していないものと思います。レビューのために調べたところHMV ONLINEでは現役盤でした。HMV ONLINEでもジャケット写真が掲載されていないのであまり印象が湧かなかったわけですね。ジャケットはアルバムの顔ですので重要です。

オルガンを弾くガーボル・ラホトカは1938年、ハンガリーのこのアルバムの録音された街バーツ生まれのオルガン奏者、作曲家。ネットにあまり情報がないと思って調べていたら本人のサイトがありました。

Lehotka Gábor hivatalos weboldala
(英文他)

ガーボル・ラホトカ公式ウェブサイト。サイトにいくと頑固一徹な鬼教師のような表情でこちらをにらむラホトカさんの姿が。なにやらただならぬ霊気を感じます。履歴をを読んでいると、2009年12月に長年の闘病の末亡くなられているとのことです。ご冥福をお祈りします。

ガーボル・ラホトカは故郷のバーツで小学生時代にバーツカテドラルのオルガニストから音楽を学んだことがその後音楽を志すきっかけになったようです。1953年からブダペストのベラ・バルトーク音楽院、1958年からブダペストのフランツ・リスト・アカデミーで音楽、オルガン、作曲などを学び、1963年からソリストとして活躍するようになります。ハンガリー国内から海外(ドイツ、フランス、旧ソビエト連邦など)ででもコンサートを開くようになります。ラホトカが特に気に入っていたのが南仏の古都グリニャンでのコンサートで、晩年の20年間は毎年コンサートを開いていたそうです。自身の音楽人生に大きな影響があり、自然も人もオルガンも非常に気に入っていたようですね。1969年からベラ・バルトーク音楽院、1975年からはフランツ・リスト・アカデミーでオルガンを教えていました。地元HUNGAROTONには1965年以降50枚のアルバムの録音があるそうです。

オケのブダペスト・ストリングスは1975年にブダペストのフランツ・リスト・アカデミーの卒業生を中心に結成された室内楽オーケストラ。こちらもサイトがありましたので紹介しておきましょう。

Budapest Strings
(英文他)

こちらはセンスの良いデザインでまとめられたサイト。ハンガリーの団体ですがトップページから英語で書かれているところを見ると国際的に活躍しているのでしょう。このオケですが1995年からエステルハージ宮殿でハイドン・フェスティバルを毎年開催している、ハイドンにとつながりが深い団体のようです。サイトが良く出来ていますので、ぜひご一覧ください。

さて、前振りが長くなったのでレビューに入りましょう。

Hob.XVIII:1 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (1756)

冒頭のオケの演奏は瑞々しさのあるものですが、HUNGAROTONの録音によくあるザラッとした粗さがあるのが少々残念です。オルガンが入ると入ると状況一変。非常に鮮明かつ天にも昇るような透明感の高いオルガンが、寸分違わぬテンポでキリッと入ってきます。ラホトカの故郷バーツでのおそらく弾き慣れたオルガンだからでしょうか、オルガンのアクションの先にある共鳴管の先から空気が出て音を鳴らすまでがすべて手中にあるような素晴らしいコントロール。演奏は正確無比。淡々とメロディーを刻んでいくだけですが、そこから生まれる音楽は敬虔さに満ちあふれた、素晴らしく豊かなもの。オケもラホトカの刻む鋭利さを隠したカミソリのようなリズムに刺激されて溌剌とついてきます。オルガンの音階の続くところはまさにトランス状態になりそうな素晴らしいもの。冒頭から絶品です。
2楽章のラルゴはオケが深い呼吸で大きくフレーズを膨らまして美しいメロディーの序奏でオルガンのソロの入りを待ちます。オルガンは一音目から圧倒的なインパクト。入りの一音で鳥肌がたつほどの美音が教会内に轟きます。なんという美しい響き。序奏で整えられた空間に、ぐさりと心に刺さる一音。オルガンの音がこれほど美しく鳴り響くこの曲は知りません。ラホトカはおそらく楽譜通りに淡々と弾いているのでしょうが、淡々とした演奏からは豊かな音楽がにじみ出ています。カデンツァはもはやオルガンの天上に届かんばかりの孤高の響きに打たれっぱなしです。オルガンのエネルギーがオケにも乗り移り、オケも素晴らしいサポート。
3楽章は落ち着いたテンポで入ります。鮮烈な響きを聴かせながらも落ち着いたオケ。やはりオルガンは正確無比なメロディーを奏でます。自身のウェブサイトにあったにらみをきかせた写真そのものの、誠実かつ厳格なのにどこか暖かい演奏。やはりオルガンの音階の醸し出す音楽的興奮がたまらない演奏。ハイドンが24歳で書いた協奏曲の素晴らしい出来を味わう名演であるとともにラホトカのオルガン演奏の真髄を味わえる演奏。

Hob.XIV:11 / Concertino [C] (1760)

コンチェルティーノということでチェンバロあるいはオルガンのために書かれた小協奏曲。前曲より少し後の1960年に作曲されたもの。オケとオルガンがいきなり掛け合うところからはじまる曲。軽快なメロディーですが、オルガンの低音がゆったりと厚く響き、そこそこの迫力。このオルガン、高音域の良く通る音の美しさは素晴らしいものがあります。
2楽章のアダージョは暗さと郷愁を帯びた美しいメロディー。変わらず正確なリズムで淡々と弾き進めるラホトカのオルガンですが、オルガンの表現を熟知しているだけに、音楽の濃さは素晴らしいの一言。
フィナーレは軽々と楽しげなメロディーをこなして終了。

Hob.XIV:12 / Concertino [C] (c.1760)
前曲同様コンチェルティーノ。こちらの曲の方が音階の魅力が良く出た曲。オルガンの音色の美しさとオルガンが奏でる弾むメロディーの魅力が素晴らしいですね。音階のオルガンとオケの受け渡しの面白さがポイントの曲でしょう。あまり聴き込んだ曲ではありませんでしたが、この曲はなかなか面白い。
2楽章のアダージョは慈しみに溢れた美しいメロディーがじわりと来る曲。曲が進むにつれて徐々に感興も深まっていきます。カデンツァも実に味わい深い演奏。
フィナーレはコンチェルティーノらしく、軽快な曲調。オルガンを主体にオケがシンプルな伴奏を担当。音楽を自身で弾く立場で楽しむ曲のようですね。

Hob.XVIII:5 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
再び協奏曲に戻ります。聴くと前曲のXIV:12に良く似た入りで、メロディーも良く似ています。なぜか演奏はすこし落ち着いて、キレよりも少しゆったり感を感じるものに変化。オルガンソロもすこし落ち着いて、曲を噛み締めるような演奏。オケも情が乗って演奏が深くなってきています。
入りが大人し目ですこし危惧したんですが、逆に2楽章のアンダンテは幸福感溢れるメロディーをじっくり奏でて音楽が深くなります。オルガンの淡々とした響きが心に刺さります。
3楽章はこの曲も軽快な曲調。コンチェルティーノと変わらない軽快さです。

Hob.XVIII:8 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1766)
冒頭から金管やティンパニが加わって重厚な響きの曲。ただし、オルガンの正確な演奏は変わらず、メロディーを良く通る音で奏でていき、オーケストラも完全にオルガンにリードされている感じは変わりません。キリッと刻まれるリズムがこのアルバムを通して保たれています。
この2楽章も感動的。誠実なオルガンの奏でる心を現れるようなメロディーが続きます。ちょっと変わったメロディーラインが淡々と続くうちに音楽に包まれる不思議な感覚はこのアルバムの2楽章に共通したもの。
フィナーレはもう少し流麗でもいいかと思うほどリズムを強調した演出。金管とティンパニが加わった壮麗な音響のオケがしっかりとリズムを刻み古典の矜持を保った渾身の演奏でしょう。

ガーボル・ラホトカのオルガンによるハイドンのオルガン協奏曲を集めたアルバム。オケのブダペスト・ストリングスはハイドンに関係の深いオケです。このアルバムの聴き所はラホトカの素晴らしいオルガン。心を洗われるような素晴らしい音色と、キリッと引き締まった演奏。オケもそれに応えて渾身の演奏。オルガン協奏曲のアルバムをいろいろ聴いていますが、このオルガンは見事の一言です。ハイドンが若い頃に書いた協奏曲ですが、いろいろな協奏曲を聴くにつけハイドンが楽器の音色に鋭敏な感覚をもっていた事がわかります。このチェンバロもしくはオルガンのために書かれた協奏曲ですが、オルガンの旋律の美しさをこれだけうまく表現した演奏はありません。評価はガーボルのオルガンの素晴らしさに全曲[+++++]とします。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オルガン協奏曲 チェンバロ四重奏曲

オリヴィエ・ヴェルネ/アンサンブル未開人によるオルガン協奏曲集

今日もマイナー盤。

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オリヴィエ・ヴェルネ(Olivier Vernet)のオルガン、ジェレミー・ローレル(Jérémie Rhorer)指揮のアンサンブル未開人(Ensemble ”Les Sauvages”)の演奏でハイドンのオルガン協奏曲(Hob.XVIII:1)、ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、オルガン協奏曲(Hob.XVIII:2)の3曲を収めたアルバム。収録は2001年5月24日~27日フランス西部のナントの東にあるサン=ルー=シュル=トゥエ教会でのセッション録音。レーベルはフランスのLigia Digital。

なんとなく最近、協奏曲を多く取りあげています。このアルバムも最近ディスクユニオンで手に入れたもの。ジャケットからは怪しい妖気が漂ってますが、この上にオレンジ色のモダンなデザインのカバーがかかっており、妖気を感じて買ったものではなく、買って開けたら妖気が漂っていたというのが正確なところ。妖気の元は不敵な笑みとケルト文様のような不思議なフォント。

オルガンを弾くオリヴェエ・ヴェルネは1964年、フランス中部リヨンの西およそ100kmの街、ヴィシー(Vichy)生まれのオルガニスト。私と同世代です。若い頃からオルガンに情熱を傾け、パリ近郊のサン=モール=デ=フォッセ市立音楽院で学び、いくつものオルガンコンクールで優勝したとのこと。同じくパリ近郊のリュエイユ=マルメゾン市立音楽院でマリー=クレール・アラン、パリ市立音楽院でミシェル・シャピュイらといったフランスの大家のもとで学び、その後も数々の国際コンクールで1位を獲得したオルガンの名手。現在はオルガンのソリストとして国際的に活躍し、このアルバムをリリースしているLigia Digitalからは多数のアルバムがリリースされています。バッハやリストのオルガン音楽全集などを録音しているなど、膨大なレパートリーを誇っています。

指揮のジェレミー・ローレルはハープシコード奏者でもあります。パリ国立音楽院で学び、ケネス・ギルバート、クリストフ・ルセなどに師事。エミール・チャカロフの薦めで指揮を学ぶようになり、Les Musiciens de la Preeという室内管弦楽団を設立し、現代音楽を含むレパートリーを演奏した。その後マルク・ミンコフスキのもとフランダース歌劇場、ラジオフランス・フィルハーモニー管弦楽団、マーラー室内管弦楽団などでアシスタント指揮者を務め、またクリストファー・ホグウッドやブルーノ・ヴァイルの助手も務めています。このアルバム録音当時は ルーヴル宮音楽隊やパリ室内フィルハーモニーの客演指揮者の地位。

Hob.XVIII:1 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (1756)
鮮烈、流麗なオケの伴奏、音色からすると古楽器ですね。オルガンも伴奏にあわせてソロの入りの前にも装飾を加えています。序奏からえも言われぬ楽興が漂います。オルガンはサン=ルー=シュル=トゥエ教会のベルナール・オーベルティン製のオルガン。ハイドンのオルガン協奏曲としては分厚く感じるデラックスな音色。豊富な装飾音によりオルガンの色彩感が濃く感じられます。オケは鮮度の高い演奏。やはりフランスらしさを感じる華やかさがあります。
2楽章のラルゴは弦楽器が引きずるような印象を与える入り。オルガンは音量を抑えてひとり自在に遊び回るような演奏。やはりオルガンの腕は素晴らしいですね。オルガンが音階を刻んで上下を繰り返すうちににトランス状態に入りそうな微妙な高揚感があります。かなり低い音まででていますので、部屋に重低音が流れます。カデンツァは音楽的に良く練れたもので曲に良く合っています。
フィナーレはやはりオルガンの色彩感が聴き所でしょう。ハイドンの曲の魅力というよりヴェルネの華やかなオルガンの演奏がポイントになる演奏。オケの方はことさら自己主張する事なくキビキビとした響きで上手くサポートできています。オルガンとオケの音色と華やかさが良くマッチしていると言っていいでしょう。曲の大きな構造を表現するというような演奏ではなく華やかな音色によるキビキビとした壮麗、自然な演奏という感じ。

Hob.XVIII:6 / Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
続いてヴァイオリンとオルガンのため協奏曲。ヴァイオリンの独奏はステファニー=マリー・デギャン(Stéphanie-Marie Degand)という人。サイトを見ると若い美人ヴァイオリニスト。演奏は基本的に前曲と同様、鮮烈なオケの伴奏とオルガンの織りなす華やかな音楽が基本で、ヴァイオリンソロもその流れにぴたっとはまったもの。ヴァイオリンは上手いですね。ヴァイオリンは全体の音楽の流れに合わせてかなりデリケートにデュナーミクをコントロールしてソロの音色を音楽に乗せている感じ。耳の良い人なんでしょうね。ヴェルネのオルガンは一貫してテンポ良く華やかなものです。なかなかいいですね。
2楽章のラルゴは、こちらも前曲同様抑えたオルガンによる自在なメロディーがえも言われぬ陶酔感をもたらしますが、やはりデギャンが素晴らしいヴァイオリンソロで華を添えます。この音色の変化と冷静客観的に音を乗せていくところは並の奏者ではありませんね。
フィナーレはオケとオルガンとヴァイオリンが素晴らしい精度のアンサンブルを繰り広げます。オルガンの音階のキレも見事、ヴァイオリンの自在な弓さばきも同様、そしてオケの起伏に富んだサポートも素晴らしいもので、力みはなく自然な音楽が進んでいきます。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
このコンビの演奏は安定感抜群。この曲の入りも期待通りのもの。ただし、この曲がもっとも色彩感が鮮やかでしょう。リズム感もよく、オケもヴェルネも乗っている感じです。前2曲よりもオルガンのソロがクッキリ浮かび上がり、推進力もアップしています。1楽章は一体感溢れる素晴らしい感興が感じられます。
圧巻は2楽章。もとももと好きな楽章ですが、この演奏は素晴らしいです。オルガンがこのアルバムのなかでは一番踏み込んだ演奏。フレージングにもかなりメリハリのあるアクセントが入って、絶妙な間合いを表現。オルガン協奏曲としてソロのオルガンの圧倒的な存在感が際立ちます。途中に聴かれる低い音域に沈み込むメロディーのあたりは鳥肌が立たんばかりの静寂感。
フィナーレはオケがキレまくってます。出だしから殺気を感じるようなただならぬ緊張感。それを受け継いでヴェルネのオルガンも素晴らしいノリ。指の動きがこちらもキレまくってます。そしてオケは鋭利な刃物のような素晴らしいアクセントのキレ。ここへ来てハイドンのすばらしい音楽の真髄にせまる音楽的興奮。この楽章も圧倒的な出来。いや素晴らしい。

ジャケットのただならぬ妖気はハッタリではありませんでした。ハイドンのオルガン協奏曲の新たな名盤です。やはりレパートリーが広い人らしく、ハイドンへの特別な没入感はなく、最初はフランス風の華やかな演奏という風に受け取りましたが、3曲目に至って羊の皮をぬいだオオカミに変身。音楽的に素晴らしいものでした。評価は1曲目が[++++]、2曲目はヴァイオリンのデギャンの素晴らしいソロ、3曲目はヴェルネもオケもキレまくっていることを鑑み[+++++]とします。世の中にはまだまだ素晴らしい演奏があるものですね。

最後に2曲目のヴァイオリンソロが良かったステファニー=マリー・デギャンのサイトへのリンクを張っておきましょう。

Stéphanie-Marie Degand(仏文)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オルガン協奏曲 ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲 古楽器 ハイドン入門者向け

シュツットガルト・ソロイスツのリラ・オルガニザータ協奏曲、オルガン協奏曲

マイナー盤が続きますがご容赦を。やはり未知のアルバムを聴くのはワクワクします。

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フランツ・レールンドルファー(Franz Lehrndorfer)のオルガン、ヒューゴ・ルフ(Hugo Ruf)のリラ・オルガニザータ、シュツットガルト・ソロイスツの演奏で、ハイドンのリラ・オルガニザータ協奏曲2曲(Hob.VIIh:2、VIIh:4)とオルガン協奏曲(Hob.XVIII:1)を収めたアルバム。収録は1970年とだけ記載されています。レーベルはTUXEDO MUSIC。

このアルバムはかなり以前にディスクユニオンで手に入れたもの。未聴盤ボックスに長らく入ってましたが、正月休みに聴いたところ、癖はありますが、なかなか面白い演奏ということで取りあげるに至った次第。

オルガンのフランツ・レールンドルファーは1928年ザルツブルク生まれのオルガニスト。ミュンヘン州立大学で教会音楽とオルガンを学び、その後ドイツのレーゲンスブルク大聖堂少年合唱団の指導者となり、その後母校のミュンヘン州立大学の教職につき1993年の定年まで働いたとの事。

リラ・オルガニザータを担当したヒューゴ・ルフは1925年ドイツ生まれのハープシコード奏者。フライブルク音楽大学でハープシコードを学び、その後ケルン音楽学校で生涯教職にあったとのこと。私も知りませんでしたがヘルムート・コッホとともにC. P. E. バッハの20世紀における復興に貢献した事で知られた存在との事。1999年に亡くなっています。

リラ・オルガニザータ協奏曲は前に取りあげていますので曲の解説、楽器の解説などはリンク先をご覧ください。

2011/09/02 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】ウォルフガング・シュルツによるリラ・オルガニザータ協奏曲
2011/04/29 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘン/モーツァルテウムのリラ・オルガニザータ協奏曲、84番

Hob.VIIh:2 / Concerti per la lira organizzata [G] (No.3) (1786)
冒頭からリラ・オルガニザータのサーカスの手回しオルガンのような音色とそれにマッチしたコミカルなメロディが独特の雰囲気にいきなり引き込みます。ただし、このアルバム録音が非常に変わっていて、古びてちょっと刺激が強く、位相がズレているような不思議な音。昔の機械でわざと安っぽい音を狙って録ったのかもと思わせる不思議なもの。音のエッジは感じるんですが、ざらつき気味でお世辞にも良い音とは言えません。ただし、それだけならこのアルバムは取りあげていません。なぜかこの安っぽい音が曲に非常にマッチして、えも言われぬ雰囲気を醸し出しているんですね。特にリラ・オルガニザータの音が実に安っぽくていい(笑) 弦楽器の演奏の精度も格別いい訳ではありませんが、こちらも安っぽさがいい。強いて言えばおとぎの国の音楽のような感じ。リズム感をわざと強調したようなメリハリのある演奏。
2楽章のアダージョは穏やかな気分になるというよりは、骨っぽい音に引っ張られおもちゃ箱の中身のような不思議な印象。
フィナーレはプレストからですが、遅めのテンポでリラの不思議な音色。孤高な感じがして、なぜか魅力ある演奏。この印象は言葉で説明するのは難しいですね。

Hob.VIIh:4 / Concerti per la lira organizzata [F] (No.2) (1786)
前曲より気持ち音質が改善していますが、基本的な傾向は同様、おとぎの国系です(笑) 以前の記事でも触れましたが、ゆっくりとメリハリをつけて弾くので、学校の練習曲のように聴こえます。作曲を依頼したナポリ王フェルディナンド4世が演奏を楽しむ姿が想像できますね。
2楽章のアンダンテはようやく詩的な雰囲気がでてきて本格的な曲の感じが出てきました。ヴァイオリンとリラの掛け合いと間の手を入れるホルンの響きの妙が楽しめます。ヴァイオリンの音色はヨゼフ・シゲティのようなテンションの強いもの。
フィナーレはキリッとしたテンポで非常に安定した演奏。前曲でざらついたりばらついた演奏がうそのように、落ち着いて精度の高い演奏。安定感のあるいい演奏になりました。最後はこれぞフィナーレと言う演奏で終了。

Hob.XVIII:1 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (1756)
ホグウッドの名演が耳に残るオルガン協奏曲。この曲もまた録音が変わってます。前曲で一旦持ち直した録音ですが、少し歪み感のある音で、高音のキレはあるんですが、鋭く薄い音。オルガンのメロディが鮮明に録られているんですが、実体感が希薄な音。実に不思議なアルバムです。オルガンの演奏はこうした録音を通して聴く事を脳内補正してみると、意外といい演奏。レールンドルファー、指導者として長年働いてきただけに非常に安定感のある演奏。ただ、オケとのスリリングが掛け合い等、この曲の魅力がうまく弾き出せているかというと、そうでもありません。どちらかというと手堅く安定感のある演奏。やはりホグウッドの名演を基準に聴いてしまっているのかもしれません。
2楽章のラルゴにはいるとオルガンの音階の部分でオルガンの弁の音でしょうか、フリクション音まで聴こえる鮮明さ。どんな楽器でどう弾いているのか非常に気になる録音。このアルバム、ズバリ不思議な録音が聴き所です。演奏は前楽章同様安定感あるものですが、変なところが気になって今一音楽に集中できません(笑) カデンツァは未知との遭遇の宇宙人との交信の場面のような不思議さも漂うもの。
そしてフィナーレはオルガンの音色が変わり、オルガンのソロパートは非常に聴き応えのあるもの。オケの人数が極端に少ない事がダイナミクスが感じられない理由でしょう。かえってオルガンの鮮明さを際立たせることになっています。まさにオルガン自体を聴くべき演奏ですね。

このアルバムは所謂珍盤に属するものでしょう。リラ・オルガニザータ協奏曲のある意味このアルバムでしか聴けない不思議なサウンドは非常にユニークなもの。そしてオルガン協奏曲の演奏もどことなくリラ・オルガニザータ協奏曲とのカップリングを意識して弾かれているように感じます。評価はリラ・オルガニザータ協奏曲の2曲目が[++++]、1曲目とオルガン協奏曲は[+++]とします。このレビュー記事を読んで、この演奏を聴いて見たいと思う人は、相当なハイドンマニアの方でしょう(笑)

最後にホグウッドのオルガン協奏曲の記事のリンクを張っておきましょう。題名はトランペット協奏曲ですが、ちゃんとオルガン協奏曲にも触れています。

2010/09/21 : ハイドン–協奏曲 : ホグウッドのトランペット協奏曲

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オルガン協奏曲 リラ・オルガニザータ協奏曲 珍盤

ジョルジュ・アタナシデのオルガン協奏曲

今日は久しぶりにオルガンものです。

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ジョルジュ・アタナシデ(Georges Athanasiadès)のオルガン、ジン・ワン(Jin Wang)指揮のユーラシア・シンフォニエッタの演奏で、ハイドンのオルガン協奏曲2曲(Hob.XVIII:1、Hob.XVIII:2)とプーランクのオルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は2009年2月24日~26日、フランクフルト東方約100kmのヴュルツブルクのヴュルツブルク大学、新教会のユリウス・マキシミリアンホールでのセッション録音。レーベルはスイス、チューリッヒのTUDOR。

ジョルジュ・アタナシデは1929年にフランス語圏スイスで生まれたオルガニスト。ギリシャ系でピアニストで合唱指揮者の父の影響で音楽を学ぶように。ハイデルベルク、フライブルク、ブライスガウの大学で独文学と音楽学を学んだ後、古典と神学を納め、ローザンヌ音楽院でオルガニストの腕を磨いたとのこと。世界各地の音楽祭にも招かれ、日本にも来ているようですので、ご存知の方も多いかもしれません。もちろん私はオルガンやその音楽自体に詳しい訳ではありませんのではじめて聴く人。いつものように奏者のサイトのリンクを張っておきましょう。

Georges Athanasiades - organiste

このアルバムは最近HMV ONLINEから届いたもの。古風なジャケットゆえ最近の録音ではないと思って注文したら、最新の録音だったと言う流れ。ハイドンの初期の協奏曲はオルガンもしくはチェンバロで弾くことを想定したものですが、個人的にはオルガンで弾いた方が合っている印象をもっています。このアルバムに収録された曲も、オルガンでの演奏の方がしっくり来ます。

Hob.XVIII:1 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (1756)
遅いテンポで始まるオルガン協奏曲。オケだけ聴くと、ちょっと時代がかったノリの演奏。メリハリはほどほどながら、じっくり落ち着いたテンポで序奏をすすめます。録音も最新のものにしては比較的地味な録音。決して悪い録音ではありません。弦楽器の主体のオケの響き。オルガンもじっくりとした演奏。古楽器の演奏風のキビキビした感じはなく、むしろ堂々とした演奏。オルガンの響きは鋭い高音と重厚な和音、図太い低音とオルガンマニアの方を満足させるなかなかの響き。聴いているうちに小細工がないぶんだんだん楽しめる演奏に聴こえてくるのが不思議なところ。テンポはほとんど揺らさず、デュナーミクの変化も大人しいもの。ただ単調に聴こえるわけでもなく、味のある金太郎飴のような不思議な演奏。ただただオルガンの音色を楽しめといっているよう。1楽章はじっくりあっさりした印象で終わります。
2楽章のラルゴは突如弦楽器のメロディーラインが雄弁になり、ここぞとばかりに自己主張。オルガンも自在さがすこし垣間見えて、ハイドンの美しいメロディーがゆったりと宇宙の幽玄さのように響き渡ります。この楽章は踏み込んだ表現。オケの弦楽器の切々とした響きもなかなか。オルガンはキリッとした演奏ではありませんが、不思議に味わい深く、中音の細かく上下するメロディーを刻んでいきます。中盤以降不思議な幸福感のある響きが加わり多彩な表情を加えます。
3楽章はキレが出てきてオケも瑞々しさを増します。オルガンは相変わらずゆったり目のテンポで独立独歩。オルガンの美しい音色が際立つ泰然とした演奏。くっきりしたオルガンとゆったりしたオケの音色のコントラストが聴き所でしょう。ハイドンのフィナーレとしては長めの楽章。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
曲想は前曲より変化がついて面白くなっていますが、演奏は依然おおらかなもの。最近の演奏では非常に珍しいスタイル。よく考えると今この弾き方はかなり珍しいと思います。オケもかなりおおらか、オルガンもおおらか。そうゆう意味ではかなり筋金入りの確信犯的なおおらかさなんでしょうか。途中オルガンの音色が透明感を増し、自然なオケとの掛け合いをじっくり聴かせて飽きさせないのは流石なところ。どんどんカオスのように響きが溶け合って引き込まれていきます。演奏のキレではなく曲自体の魅力で聴かせるまさに不思議な演奏。
前曲同様弦楽器の表情が雄弁に。フレーズごとの極端な強弱の変化を見せ、突然表現が深くなります。オルガンのメロディーは恍惚とした表情を加えて、徐々にトランス状態のような不思議な感覚に。この2楽章での深い表現はこの演奏の一番の聴き所。後半のオルガンの音程がぐっと下がるところはオルガンの音色の妙を楽しめる素晴らしい音楽。よく聴くとオルガンの音色を相当意識した曲づくりであることがわかります。ふと気づくハイドンの才能。最後の抑えた終わりは奏者のデリカシーを確認できたよう。
3楽章は前曲同様ゆったりした演奏。コープマン盤では速めのテンポでの恍惚の極致のような表情が印象的でしたが、このアルバムの演奏はあくまでゆったり感のなかでのオルガンとオケの響き溶け合いを楽しむような落ち着いた演奏。じっくり楽しめます。聴き慣れるとなかなか味わい深い演奏。アタナシデのじっくりした音楽の真髄がわかった気がします。

久しぶりのオルガン協奏曲集。評価は2曲とも[++++]とします。最近の演奏にはめずらしい、おおらかかつゆったりとしたオルガンの音色を存分に楽しめる演奏。流行と無縁の演奏。一見おとなしく没個性に聴こえる演奏ですが、よく考えるとかなり一貫した音楽観に裏付けられた頑固一徹な演奏と聴きました。そういう意味では大変個性的な演奏と聴くことも出来ます。この演奏も聴き手の器を試すようなところがありますね。

様々な演奏を聴くたびにハイドンの曲の新たな魅力を知ることになります。これも音楽の楽しみの一つですね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オルガン協奏曲

マルタン・ジュステルのオルガン曲集-2

さて、前の記事の続きです。

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マルタン・ジュステル(Martin Gester)のオルガン、指揮でハイドンのオルガンの入る曲を集めたアルバム。収録順に、サルヴェ・レジーナ(XXIIIb:2)、ピアノ(オルガン)ソナタ(XVI:37)、オルガン協奏曲(XVIII:7)、音楽時計のための曲5曲、オルガン協奏曲(XVIII:8)。オケはル・パルルマン・ドゥ・ムジーク(Le Parlement de Musique)、収録は1992年9月、フランス北部のランス近郊の街、フェール=アン=タルドゥノワの教会(Eglise Saint-Mâcre)で。

今日はオルガン協奏曲(XVIII:7)からですが、先に音楽時計のための曲を取り上げましょう。

いつものように大宮真琴さんの「新版ハイドン」を紐解くと音楽時計のための曲の解説がありました。音楽時計(Flötenuhr)は、鋲つきの円筒、鞴(ふいご)、調律済みのパイプ列、捻子(ねじ)または錘り(おもり)で動作するオルガンのようなもので、オルゴールのオルガン版のようなものでしょうか。この装置にハイドンの音楽を刻んだものがいくつか残っており、そこに刻まれた音楽が音楽時計のための曲という訳です。ということでその再現はオルガンを演奏するということになります。

ハイドンの音楽を音楽時計に刻んだのは1780年にエステルハージ家の図書館長及び礼拝堂の司祭となったヨーゼフ・プリミティヴス・ニーメチェという人物で、ハイドンに作曲を学び、様々な楽器を演奏できた模様。彼が制作した音楽時計は3台が知られており、1789年製、1792年製、1793年製。その中に32曲の音楽が残されていたが、後に研究者のフェーダーによって26曲がハイドンの作とされた。後にもう1台1796年製の音楽時計もあること判明し、現在の音楽時計のための音楽が確定したようですね。

このアルバムにはその中から5曲がとりあげられており、収録順にXIX:10、XIX:11、XIX:15、XIX:27、XIX:28です。それぞれ1分から長くても3分弱の小曲ですが、これが音楽時計から聴こえてくるところを想像しながら楽しむのはなかなか乙な気分。サーカスで自転車につまれた手回しの自動オルガンの演奏のような風情。音域も限られたもので、テンポもゆらすべきものではありませんが、そのような限定のある中でも音楽として充実したものがあるのは驚きです。特殊な音楽であるのは正直なところですが、ハイドンの機知をつたえる貴重な録音ということができるでしょう。

そして最後に残ったオルガン協奏曲を2曲。まずは先に収録されたXVIII:7。

オルガン協奏曲といっても昨日の記事の冒頭で触れたサルヴェ・レジーナと同様のヴァイオリンが2人である以外は各楽器が1人というコンパクトな編成ゆえ、オケの響きは純粋そのもの。オルガンの圧倒的存在感が際立ち、リズムもオルガンが先導する感じですね。テンポは中庸、響きの透明度は最高、古雅な音色による落ち着いた演奏です。ヴァイオリンの奏でるメロディーラインとオルガンの決してスリリングという感じではない落ち着いた掛け合いが聴き所でもあります。
2楽章はオルガンの奏でる素朴なメロディーの美しさが非常に印象的。弦は完全に脇役にまわってます。決して広い音域を使っている訳ではありませんが、音楽の浸透力は流石。オルガンの響きの中に引き込まれそうです。
3楽章は厳かなテンポによる重厚な入り。決してまくることはなく、落ち着いた範囲での速めのテンポでフレーズを楽しみながら演奏している感じがよくでています。もともとリズミカルな曲想故推進力は必要十分。

そして最後はXVIII:8。前曲と曲想が似ており、ほとんどの要素が重なります。冒頭少し後に音程が少々ふらつく部分がありますが、こちらもそこそこ良い演奏。オルガン主体の協奏曲の良い演奏と言えるでしょう。

この記事で取り上げた曲の評価は、すべて[++++]というところでしょう。音楽時計のための曲は珍しいものですが、ハイドンの遊び心を感じるほのぼのとした曲。オルガン協奏曲の方は、小編成のオケによるオルガン協奏曲の模範的演奏という位置づけと感じました。



今日は雪の中仕事にでかけて、夕刻帰ってきました。先週とおなじく近所の鹿児島料理屋さんに直行。

食べログ:遊食友酒・菜

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雪でさむかったので暖かいものを頼もうかと思ったのですが、結局生ビールに。嫁さんはしその焼酎、鍛高譚のお湯割りを。今日は白子ポン酢から。

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今日のおすすめは水餃子。水餃子といっても本格的なものではないんですが、スープの中に豆腐や餃子、わかめ、葱などがこれでもかというほど入っていて、量は鍋2人前(笑)。暖まりました。

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こちらは豚モツ炒め。ホルモンの歯ごたえがなかなか。

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そしてたらの芽の天ぷら。先週と同じ銘柄の呑み比べを頼んで、程よくいい気分に。そろそろマスターか奥さんがこのページの存在に気づくはずなんですが(笑)

さきほど帰って、風呂に入りました。久しぶりに一時話題になった草津温泉ハップを入れて入浴。体が心から温まりますね(笑)

今週もハードでしたので今日は早めに休むことに致しましょう。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 音楽時計曲 オルガン協奏曲 古楽器 府中のお店 居酒屋 鹿児島料理

【新着】コープマン3度目のオルガン協奏曲

昨夜は新年会ゆえ更新をお休みさせていただきました。今日はコープマンの新着アルバムを。

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トン・コープマン(Ton Koopman)の指揮とオルガン、アムステルダム・バロック管弦楽団による、ハイドンのオルガン協奏曲(XVIII:1)、オルガンとヴァイオリンのための協奏曲(XVIII:6)、オルガン協奏曲(XVIII:2)の3曲を収めたアルバム。コンサート・ミストレスとオルガンとヴァイオリンのための協奏曲のヴァイオリンソロはキャサリーン・マンソン(Catherine Manson)。録音は2009年の9月、オランダ、アムステルダム近郊の街ハールレムのルター教会でのセッション録音。

コープマンのオルガン協奏曲は70年代から80年代に録音されたPHILIPSのもの、90年代に録音されたERATOのものに続く3度目の録音。録音が2009年ですのでハイドン没後200年ということで録音されたものかと思いますが、リリースは最近です。レーベルは最近コープマンの録音を出しているChallenge Classics。

以前の録音も非常にいい出来でしたので、今回のアルバムも期待が高まります。

まずはオルガン協奏曲(XVIII:1)から。いつもの中野博詞さんの「ハイドン復活」を紐解くとこの協奏曲は1756年、なんとハイドン24歳の時の作品。70歳近くなったハイドンは若い時に書いたこの曲の自筆譜に1756年と記入したことによって、作曲年代がほぼ確定しているということです。この年の翌年に交響曲1番が作曲されていることを考えると、ハイドンの最初期の作品であることがわかります。

1楽章はオケの序奏の段階から多彩なオルガンの装飾音が入り、以前のコープマンの演奏よりも自由闊達さが増している印象。テンポは比較的ゆっくり目で、オケは以前の色彩感溢れる躍動的な印象からすこし大人しくなり、色彩感はほどほどながら、躍動感というより柔らかな感興を表す感じに変化しています。最新録音らしく、録音は万全の出来。特にコープマンの奏でるリアルなオルガンの音色の美しさはなかなかなもの。オケとオルガンのバランスも悪くなくオルガン協奏曲を存分に楽しむことができます。演奏からはコープマンがオルガンの演奏を存分に楽しんでいることがよく伝わってきます。
2楽章も比較的ゆっくり目。古雅な弦楽器の序奏にのって、コープマンの弾くオルガンがシンプルながら徐々に変化を帯びてくるメロディーを描いていきます。この楽章でもオルガンの装飾音の自在な変化が聴き所。24歳の人間が書いたとはとても思えない、円熟味を感じるシンプルながら深いメロディー。曲の造りの複雑さは求められないにしても、このメロディーの構成は見事という他ないでしょう。
フィナーレはオケの色彩感と躍動感が徐々に上がってきて、オルガンの音色とオケの音色が渾然一体となって魅力的に響きます。オルガンの音色は力が入り、逆にオケのほうは力が巧く抜けてさらっと流すような清涼感を帯びてきます。

2曲目はオルガンとヴァイオリンのための協奏曲(XVIII:6)。この曲は前曲の10年後の1766年の作曲で、本来オルガンのために作曲されたものの、ペダルを使用しないためチェンバロでも演奏可能とのことで、チェンバロで演奏されることも多い曲。

1楽章は前曲同様ゆっくり目に始まります。独奏楽器が2つあるためソロ間の掛け合いもあり、曲想が非常に面白い曲。オルガンとヴァイオリンが合わせたり掛け合ったりする面白さはなかなかのもの。マンソンのヴァイオリンはコープマンの自在なオルガンより個性は弱いですが、うまく寄り添って確実な演奏。コープマンはコープマンならではの愉悦感溢れる演奏。おそらく体を大きく揺らしながらニコニコしていつものコープマンスタイルで弾いているものと想像できます。
2楽章のラルゴ。オケの序奏の後、オルガンの伴奏に乗っていきなりヴァイオリンのソロが始まりますが、そのメロディーラインの美しさが印象的。オルガンに主役をバトンタッチしたり、戻したりしながらソロ主体の構成。協奏曲としてはかなり実験的なスタイルだと思いますが、見事に成功している感じ。
3楽章はソロの美しさが際立ちます。恍惚としたオルガンとヴァイオリンの美しい音色が高次の融合を果たした素晴らしい曲想。楽器の自然体の音色を存分に楽しめる演奏。マンソンのヴァイオリンの音色にうっとり出来る素晴らしい楽章。この曲の美しさを堪能できる素晴らしい演奏。

最後はオルガン協奏曲(XVIII:2)は1767年頃の作曲。だんだん曲想が豊かになり、ハイドンの技法が冴えてくるように感じます。

1楽章はこの曲も、比較的ゆっくり目に入り、古雅な音色の端正なオケに乗ってコープマンのオルガンが遊び回るような自在な演奏。オルガンの音色の美しさは変わらず、オケの中庸を得たサポートも前曲と全く同様。演奏自体の質は非常に高く、コープマン独特のトランス状態に入らんばかりのオルガンの陶酔感がこのアルバムを通した特徴でしょう。
2楽章はアダージョ。このアルバムの中でも一番の聴き所。オルガンが最高の陶酔。コープマンの面目躍如。この曲を同時代で聴いた人はどう思ったでしょうか。オルガンという楽器の音色を生かし尽くした素晴らしいメロディーライン。10分近い長い楽章ですがオルガンの音色に打たれる快感を味わい続けられる楽章。転調の度に訪れる素晴らしい瞬間。
フィナーレはリズムの面白さを際立たせる、これまた聴き応え十分な楽章。この曲は名曲ですね。この楽章のオルガンを聴くだけでハイドンの天才ぶりが際立ちます。激しい感情の突出もなければ、技巧を凝らしたものでもないんですが、音楽としての創意が突き抜けんばかりに溢れかえってます。まさに音を楽しむ快感。昇天です。

先日聴いたコープマンの97番と98番のアルバムが、今ひとつ生気に欠けていたため多少の危惧はあったんですが、得意のオルガン協奏曲だけあって、こちらのアルバムは素晴らしい仕上がり。3度のオルガン協奏曲の録音でコープマンが至った境地は、まさに無為の自然さ、作為を超えた絶対的音楽的快感という素晴らしい高み。まさにコープマンの魅力に溢れた素晴らしいアルバムということができるでしょう。評価はもちろん全曲[+++++]です。最新の録音で楽しめる素晴らしいオルガン協奏曲のアルバムということで、「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。

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ホグウッドのトランペット協奏曲

先日ホグウッドとコワンのチェロ協奏曲を取り上げた際に予告した通り、ホグウッドのトランペット協奏曲などを収めた1枚を取り上げます。

HogwoodConcert.jpg

収録曲目はハイドンのトランペット協奏曲、オルガン協奏曲(XVIII:1)、ホルン協奏曲(VIId:3)の3曲。オケはエンシェント管弦楽団。ソロはトランペットがフリードマン・インマー、オルガンがホグウッド、ホルンがティモシー・ブラウンです。録音は1986年8月と87年1月。残念ながら廃盤のようですね。

このアルバムはハイドンにハマり始めた頃に入手したもので、手に入れたときはずいぶん聴いた思い出深いもの。最近ブログをはじめて協奏曲をいろいろ聴き込んだ耳であらためて聴くと、今までとはだいぶ違って聴こえます。

トランペット協奏曲は、序奏から典雅な古楽器の響きに独特のアクセントをつけたホグウッドトーンのゾクゾクするような高揚感がたまりません。ホグウッド全盛期の演奏スタイルは協奏曲の序奏だけで素晴しい効果。ソロを食うほどの出来ですね。それに対してインマーのトランペットは古楽器独特の穏やかな音階で、オケの雅な響きの引き立て役のような位置づけの音響。キレは今ひとつながら、オケに巧く乗っている感じです。完全にホグウッドの支配する音響。1楽章のカデンツァはシンプルな音階を聴かせるだけでトランペットの音色の魅力を表現。1楽章でこの曲のソロとオケの構図が明確になってます。
2楽章は一転、押さえたオケと朗々としたトランペットの対比で聴かせます。
3楽章は再びホグウッドトーン全開。よく聴くとかなり明確なアクセントをつけたフレージングなのに典雅な範囲でおさまってしまう不思議なコントロール。トランペットの方は前楽章同様しっかりオケに乗っています。最後は響きの渦となって終了。

オケの印象は以前と変わりありませんが、最近巧いトランペットの協奏曲をいくつも聴いているせいか、ソロトランペットは古楽器ということを割り引いても少し聴きおとりがするのが正直なところですね。トランペット協奏曲というよりトランペットソロ付き管弦楽曲という印象ですね。

つづいてオルガン協奏曲。こちらはホグウッド自身がソロを担当しているため、音響的には完璧です。序奏から素晴しい高揚感。これこそホグウッドの最高な状態の演奏。素晴しい推進力、力漲るオケ。トランス状態に入らんばかりの素晴しい響き。私のオルガン協奏曲の刷り込みはこの演奏です。ホグウッドの弾くオルガンはフレーズごとの音色の変化のコントロールも見事。1楽章の楽興、2楽章の静謐、3楽章のバッハのごとき音階、あまり有名ではないこの曲の魅力を伝える名演奏ですね。

最後はホルン協奏曲。こちらも基本的にはホルンのソロの個性を聴くという構成というような感じではなく、オケに乗ってホルンが淡々と演奏する感じです。ホグウッドのコントロールによるオケのキレは相変わらず素晴しく、特に2楽章の叙情的な表現が心を打ちます。ホルンのティモシー・ブラウンも安定したテクニック。ナチュラルホルンとしては見事な演奏。こちらも2楽章の高音の安定した伸びと、この曲特有の低音の魅力も十分。

評価はトランペット協奏曲がホグウッドのオケに敬意を表して[++++]、オルガン協奏曲は文句なく[+++++]、そしてホルン協奏曲は[++++]としました。

私自身はホグウッドの交響曲集よりも協奏曲の方がホグウッドの良さが出ていると思ってます。そういえばこのブログでもホグウッドの交響曲集をちゃんと取り上げてませんでしたので、そのうち取り上げねばなりませんね。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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