ロバート・クンシャクのサルヴェ・レジーナ、テ・デウム

今日はマイナー盤というか、自主制作盤。最近オークションで手に入れたもの。

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ロバート・クンシャク(Robert Kunschak)指揮のディーセン聖チェチーリア室内合唱団(Der Kammerchor des Cäcilienvereins Dießen)とミュンヘン・レジデンス室内管弦楽団(Das Residenz-Kammerorchester München)の演奏でハイドンのサルヴェ・レジーナ(Hob.XXIIIb:2)、同じくロバート・クンシャク指揮のディーセン聖チェチーリア大合唱団(Der Große Chor des Cäcilienvereins Dießen)、バイエルン州立管弦楽団のメンバー(Mitglieder des Bayerischen Staatsorchesters)の演奏でハイドンのテ・デウム(Hob.XXIIIc:1)などを収めたアルバム。収録はサルヴェ・レジーナが1993年7月、ドイツのミュンヘンの西40kmほどのところにあるディーセンという街のディーセン・マリア聖堂(Marienmünster Dießen)でのセッション録音、テ・デウムの方は1992年10月、同じ教会でのライヴ。自主制作盤ですのでレーベル名はありません。

指揮のロバート・クンシャクをはじめとして、合唱団やオケの情報もネットでもあまり詳しい事はわかりません。ライナーノーツもドイツ語ですが、演奏者は名前のみの紹介。このアルバムは自主制作ということで、演奏者自身の記録として製作されたものと想像しています。層の厚いドイツのことですから、レコード会社からアルバムを出せるのは一握りの演奏者に限られるということでしょう。

このアルバムの収録曲は下記の通り。
1. アルビノーニのアダージョ
2. ハイドン/サルヴェ・レジーナ
3. モーツァルト/教会ソナタ(KV144)
4. モーツァルト/教会ソナタ(KV67)
5. モーツァルト/教会ソナタ(KV244)
6. ディーセン・マリア聖堂の歴史解説
7. ハイドン/テ・デウム(ライヴ)
8. ディーセン・マリア聖堂の鐘の音

アルバムの1曲目は有名なアルビノーニのアダージョです。オーソドックスな響きで、ヴァイオリンソロ、オルガンソロも含めて非常に落ち着いた演奏。控えめな表現から切々とした感情が滲む秀演。録音も聖堂の残響はありますが、程よく解像感もあり、聴きやすいものです。自主制作アルバムということで演奏の質はどうかという危惧がありましたが、これは商業リリースに耐える素晴らしさ。

Hob.XXIIIb:2 / Salve Regina 「サルヴェ・レジーナ」 [g] (1771)
この曲はまさにシュトルム・ウント・ドラング期最盛期の作曲。頂点をなす[告別】交響曲が1772年作曲ということで、その直前に作曲されたもの。曲想にはハイドンの絶頂期の創意が漲っています。ソロの歌手は下記の通り。

ソプラノ:アデルハイド・マリア・ターナー(Adelheid Maria Thanner)
アルト:バーバラ・ミュラー(Barbara Müller)
テノール:ロバート・ヴェルレ(Robert Wörle)
バス:ペーター・リカ(Peter Lika)
オルガン:クリスティアン・フリーゼ(Christian Friese)

聖堂に響き渡る心に沁みるようなオルガンの音色。こちらはセッション録音ですですが、ライヴのような緊張感が漲り、ハイドンの書いたメロディーの一音一音に神経が集中します。今更ながらこれは名曲ですね。テンポは中庸、演奏は1曲目のアルビノーニのアダージョ同様落ち着いたというか、非常にしっとりしたもの。録音の感じも同じく、1993年としては悪くありません。何より聖堂の録音としては十分な鮮明さがあり悪くありません。4人のソロは声色がそろって、アンサンブルの質は高いですね。唯一知っているバスのペーター・リカはキリリと引き締まった抜群の声量で存在感十分。4楽章構成の曲ですが、敬虔な心境をじっくりと歌い上げるソロ陣とそれを支える良く鳴るコーラス、そして非常にオーソドックスなオーケストラによる演奏が心を打つ演奏と言えるでしょう。

このあと、モーツァルトの教会ソナタが3曲続きますが、ハイドンの陰りのある静謐な音楽から、雲が晴れて、碧々と抜ける青空が顔を覗かせたような変化。晴朗な転がるような音階や巧みな転調から生まれる音楽的快感は麻薬的。やはりモーツァルトは天才なんでしょう。この曲の配置は見事。演奏もハイドン同様、非常に真面目な演奏がかえって心を打ちます。

Hob.XXIIIc:1 / Te Deum 「テ・デウム」 [C] (1764)
ハイドンにはテ・デウムが2曲残されており、この1764年作曲のものと1798年から1800と最晩年に作曲されたもので、どちらもハ長調。一般的には後者のものの方が有名で、手元の録音も後者の方が多いです。3楽章で10分ほどの小曲。1764年ということはもちろん、シュトルム・ウント・ドラング期の前夜という、ハイドンの気力が漲っていた時期の作品。曲自体も素晴らしい構成感とハイドン独特の美しいメロディーがふんだんに配された曲。

ソロはサルヴァ・レジーナからテノールとバスが入れ替わってます。

ソプラノ:アデルハイド・マリア・ターナー(Adelheid Maria Thanner)
アルト:バーバラ・ミュラー(Barbara Müller)
テノール:クリストフ・レーゼル(Christoph Rösel)
バス:ウォルフガング(Wolfgang Babl)
オルガン:クリスティアン・フリーゼ(Christian Friese)

こちらはライブ収録。この収録があってこの曲の前に置かれた曲の録音が企画されたのでしょう。前のセッション録音にくらべて多少の混濁感はありますが、それほど聴きにくい訳ではありません。ノイズも咳払い等がうっすら聴こえる程度。ライブならではの入りが少々ばらつくようなところはあるものの、いい意味で活き活きとした表情につながっており、この曲の祝祭感溢れる雰囲気を高めているように聴こえます。演奏の基調は前曲と同様、じっくりと慈しむような進行。個性的な演奏ではありませんが、むしろこのオーソドックスさがいい意味で曲の素朴な良さを引き立てています。テノールのクリストフ・レーゼルの柔らかく心地良い声が聴き所でしょう。小曲らしく力強く聖堂響きわたるような盛り上がりを聴かせて終了。拍手はカットされています。

このあと、最後のトラックにはディーセン・マリア聖堂の8種の鐘が打ち鳴らされる音が10分ほど鮮明に録られています。鳥の鳴き声や車の音もうっすらと聴こえるなか、我々日本人には新鮮に響く、大きく重い教会の鐘の響き。ヨーロッパの街で聴かれるあの響きです。このトラックもなにかこのアルバムの志を象徴するようなトラック。

ロバート・クンシャク指揮によるアルビノーニ、ハイドン、モーツァルトの宗教曲をミュンヘン近郊の美しいバロック様式の聖堂であるディーセン・マリア聖堂で収録したアルバム。自主制作ということで、演奏者や関係者に配られたものかとは思いますが、そのアルバムが巡り巡ってオークションを経由して手元に届きました。市販のアルバムはもちろん演奏者の自己表現もありますが、やはり売れる価値のあるものという側面もあるでしょう。このアルバムは自主制作ということから前者に特化したもの。演奏は慈しみ深いと言うか敬虔なというか、演奏者の純粋な心境が良く出たもの。そういう意味では実に興味深いものと言えます。評価はサルヴェ・レジーナが[+++++]、テ・デウムが[++++]とします。

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tag : サルヴェ・レジーナ テ・デウム ライヴ録音

マルタン・ジュステルのオルガン曲集

昨日カラヤンのロンドンという超メジャー盤を取り上げたので、今日はマイナー盤です。

GesterOrgan.jpg

マルタン・ジュステル(Martin Gester)のオルガン、指揮でハイドンのオルガンの入る曲を集めたアルバム。収録順に、サルヴェ・レジーナ(XXIIIb:2)、ピアノ(オルガン)ソナタ(XVI:37)、オルガン協奏曲(XVIII:7)、音楽時計のための曲5曲、オルガン協奏曲(XVIII:8)。オケはル・パルルマン・ドゥ・ムジーク(Le Parlement de Musique)、収録は1992年9月、フランス北部のランス近郊の街、フェール=アン=タルドゥノワの教会(Eglise Saint-Mâcre)で。レーベルはフランスのOpus111。ジャケットの周りをレーベル名で囲うデザインは古くはEMIフランスのPATHE MARCONIのLPでも特徴的でしたが、フランス好みなんでしょうか。残念ながらこのアルバムは廃盤のようです。

マルタン・ジュステルも、オケのル・パルルマン・ドゥ・ムジークこのアルバムではじめて聴きます。マルタン・ジュステルはフランス生まれの指揮者、オルガン奏者、チェンバロ/フォルテピアノ奏者。ストラスブール国立音楽院で音楽を学び、1990年にこのアルバムで演奏しているル・パルルマン・ドゥ・ムジークを設立して、17世紀、18世紀の音楽を得意としているよう。

両者のサイトがありましたのでリンクを張っておきますが残念ながらフランス語のみ。

Martin Gesterのオフィシャルサイト(仏語)
Le Parlement de Musique - Martin Gesterのオフィシャルサイト(仏語)

このアルバムを取り上げたのは、オルガンを含むハイドンの曲の良い演奏だからということではなく、2曲目におかれたピアノソナタ(XVI:37)のオルガンによる精妙な響きの面白さと、珍しい音楽時計のための曲が含まれているから。何れも非常に珍しいものです。

今日は時間があるので、このアルバムの全曲を紹介しましょう。

まずは、サルヴェ・レジーナ。ハイドンはサルヴェ・レジーナを3曲作曲していて、最初は1756年と非常に早い時期のもの(XXIIIb:1)。1756年と言えばハイドンがエステルハージ家の副楽長に就任する5年も前で24歳の頃、そしてモーツァルトが生まれた年でもあります。2曲目は1771年のもの(XXIIIb:2)。ハイドンがエステルハージ家の楽長に就任した5年後。まさにシュトルム・ウント・ドラング期の最盛期で同年に名曲交響曲44番「悲しみ」が作曲されています。そしてその2年後の1773年の1楽章のもの(XXIIIb:4)。このアルバムに含まれるのは2番目のものです。

演奏はソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱とヴァイオリン2人、とヴィオラ、チェロ、ヴィオローネ各1人、そしてオルガンという小編成での演奏。冒頭のオルガンの心地よい音色と室内楽のような古楽器の弦の張りつめた木質系の音色の織りなす雅なアンサンブル。ゆったりとしたというより一歩一歩踏みしめるようなテンポで入ります。声も合唱とは異なり一人一人の声がクッキリわかるオペラの重唱部分のような趣。合唱の厚みのある声の魅力ではなく一人一人のソリストの声の美しさを楽しめる声部。この時期のハイドンの曲に特徴的なうら悲しいメロディーを歌い上げていきます。編成からいってもダイナミクスよりも精妙なアンサンブルの魅力を楽しむべき演奏。オルガンの響きが宗教曲としての雰囲気を盛り上げます。テンポは一貫して遅めで演奏の精度も高く、この曲の別の一面を聴かせてくれるような演奏ですね。音だけ聴くとハイドンよりだいぶさかのぼった時代の音楽に聴こえます。実際の音量バランスはもう少しオルガンが目立つのでしょうが、録音だけに巧くまとめています。

つづいて注目のオルガンソロによるハイドンのピアノソナタXVI:37。この曲は先月ハスキルの名演奏を取り上げたばかり。ピアノの演奏でも2楽章の深い情感が非常に印象に残る名曲ですね。これをオルガンで弾くとどのような印象に変わるのかと思って聴くと、まるで最初からオルガンのために作曲されたようなハマり具合。
1楽章はキリッとした音調。いろいろな設定でオルガンの音色をコントロールできるのでしょうが、あまりオルガンの仕組みに詳しくありませんのでよくわかりません。こちらもバッハの時代にさかのぼったような響きでハイドンのメロディーが蘇ります。教会中に響き渡るオルガンの素晴らしい存在感。こちらも一定のテンポで堂々たる演奏。響きのカオスに襲われそうです。
2楽章は一転、非常にソフトな音色に設定され、静謐な音響。この音色で静かに始まる2楽章の情感深いメロディーはぴたりと決まって素晴らしい詩情。この曲はオルガンで弾くのがオリジナルではないかと思わせる説得力があります。オルガンの美しい音色に思わすハイドンの時代へトリップしたような気分に。
3楽章はふたたびキリッとした音調に戻り、ハイドンの特徴的なメロディーを透明感溢れる高音で、そして左手のアクセントはオルガンの地響きのような分厚い迫力音塊で表現してピアノとは全く異なる印象を浮かび上がらせます。このアルバムに含まれるピアノソナタはこの曲のみなんですが、抜群の選曲ですね。もしかしたら他の曲もオルガンによる演奏で全く新たな表情を魅せるんでしょうか。XVI:20の2楽章なんかもオルガンでの演奏を聴いてみたいものです。興味は尽きません。

評価はサルヴェ・レジーナは[++++]、ピアノソナタは[+++++]としておきましょう。この後もきちんと紹介すべき素晴らしい演奏故、ここで一旦記事をまとめます。夜にでも続きをアップします。

雪の降る中、ちょいと仕事に出かけます。

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tag : サルヴェ・レジーナ ピアノソナタXVI:37 古楽器 おすすめ盤

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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