【新着】ルドルフ・ケンペ/ベルリンフィルの校長先生ライヴ(ハイドン)

TESTAMENTの新譜。いつもながら、モノクロームのジャケットから浮かび上がる奏者の写真がえも言われぬ味わい。つい手を出してしまう好企画。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ルドルフ・ケンペ(Rudolf Kempe)指揮のベルリンフィルの演奏で、ハイドンの交響曲55番「校長先生」、ベートーヴェンののピアノ協奏曲4番(独奏:ニキタ・マガロフ)、モーツァルトの交響曲39番の3曲を収めたアルバム。収録は1962年8月16日、ザルツブルクのモーツァルテウムでのライヴ。レーベルは復刻にかけては第一線の英TESTAMENT。

このアルバム、まさに入荷したてのもの。冒頭に触れたTESTAMENT独特のジャッケットに、ザルツブルク音楽祭の赤いロゴマークが燦然と輝き、演奏当時の空気をそのまま運んでくれそうな素腹らしいプロダクション。ジャケットから音楽が溢れ出してくるようです。

ケンペのハイドンの録音は少ないながらも、いくつか取りあげています。

2011/07/05 : ハイドン–交響曲 : ルドルフ・ケンペ/フィルハーモニア管1956年のロンドン
2010/10/10 : ハイドン–交響曲 : ルドルフ・ケンペのロンドン

何れもロンドンですが、フィルハーモニア管とBBC交響楽団との演奏。今回は相手がベルリンフィルで、ザルツブルク音楽祭のライヴということで、俄然期待が高まります。

Hob.I:55 / Symphony No.55 "Der Schulmeister" 「校長先生」 [E flat] (1774)
録音はモノラル。残念ながらかなりカマボコ型のハイ落ち、ロー落ちの録音。安定感は悪くありません。ヴォリュームを上げて演奏会場の雰囲気に近づけるよう調整。ハイドンの中期の交響曲のシンプルながら面白い表情をさらりと聴かせながら、流れの良さを印象づける正統派のもの。録音がもう少しリアリティがあれば、かなり楽しめる演奏でしょう。録音を脳内で補正して聴くと、小曲ながら表情の多彩さ、快活さはなかなかのもの。1楽章はテンポ感の良さで聴かせきってしまいます。
続くアダージョに入ると、録音のハンディがあまり目立たなくなり、ゆったりした音楽に集中することができます。校長先生という曲名の元になった規則正しい音楽。そのメロディが次々と変奏として重なりますが、その表情が実にいい。メロディーが活き活きとして、表情豊か。オケは一糸乱れることなくケンペのコントロールに忠実にメロディーを置いていきます。いつも火を噴くベルリンフィルもケンペに完全に掌握されてます。この統率力は見事で、シンプルな曲に素晴しく豊かなニュアンスが重なります。
メヌエットも旋律はシンプルなものながら、ケンペの手にかかると、その旋律が活き活きと躍動します。曲の核心をつく解釈。力が抜けているのに音楽は躍動します。途中でチェロのソロが登場しますが、軽々とした弓さばきが見事。ケンペ独特の穏やかながら活気あるコントロール。
フィナーレは敢えて力をかなり抜いて、羽毛布団のような肌触りでコミカルなメロディーを重ねていきます。このスタンスこそケンペらしいところでしょう。音楽に潜む本質的な気配を汲みとり、音にして行くセンスの鋭敏さ。この曲の機知を見事に捉えています。最後に突然クリアになってフィニッシュ。観客もそれに反応して拍手まで音楽のよう。

つづくベートーヴェンの4番のコンチェルトに入ると、ニキタ・マガロフのピアノが驚くほど鮮明に響いてビックリします。これは鮮明な録音。オケは校長先生と同様ですが、ピアノの鮮明さは驚くほど。味わい深いピアノが印象的。
そしてモーツァルトの39番は独特の高揚感と燻し銀の響きに痺れます。これも名演奏。

1962年と言えば私の生まれた年。今から51年前、ザルツブルク音楽祭の行われたモーツァルテウムの空気がそのまま家に届くような雰囲気のアルバムです。この日のコンサートではハイドンの校長先生は前座的な位置づけですが、すこしぼやけた録音を通しても、その粋な演奏の真髄は伝わります。ケンペと言う指揮者の誠実かつ曲に対する謙虚な姿勢がつたわる良いアルバムです。校長先生の評価は、録音の分差し引いて[++++]というところでしょう。このアルバム、やはり聴き所はベートーヴェンとモーツァルトです。51年前のザルツブルクを想像しながら楽しみました。

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tag : 校長先生 ライヴ録音 ヒストリカル ベルリンフィル ザルツブルク音楽祭

ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!

今日はちょっと前にディスクユニオンで手に入れたCD-R。

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サー・ゲオルク・ショルティ(Sir George Solti)指揮のウィーンフィルの演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、ベートーヴェンの交響曲2番の2曲を収めたアルバム。収録は1996年8月23日とだけ記載されています。ん、、、8月ということは、、、もしかしてザルツブルク音楽祭では? と思っていつものようにザルツブルク音楽祭のサイトのアーカイヴを調べてみると、ありました。

ザルツブルク音楽祭:1996年8月23日、24日のプログラム(英文)

ザルツブルク音楽祭の1996年8月23日、24日にモーツァルテウムにて行われたコンサートのようです。当日は収録された2曲の他にバルトークの弦楽のためのディヴェルティメントSz.113がプログラムに載っています。

CD-Rですので、当時の放送録音が元でしょうか。レーベルは何枚か持っているアメリカのGNPというレーベル。

ショルティのアルバムはこれまで2回、3つの記事で取りあげています。

2011/03/27 : ハイドン–交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

私はショルティの魔笛やワーグナーなど一部の演奏は評価していたものの、これまであまり積極的に評価してきていませんでした。転機となったのが上の指揮者デビュー録音となるロンドンフィルとの太鼓連打、102番、軍隊の演奏の素晴らしいエネルギーを聴いて、ショルティの真髄を知った次第。

今日取り上げるアルバムは1996年のザルツブルク音楽際のライヴですが、ショルティが亡くなったのが翌1997年の9月5日ということで、最晩年の録音の一つでしょう。指揮者デビューの鮮烈な演奏と、最晩年、しかもウィーフィルとのロンドンという交響曲の最高傑作の演奏は、50年近くという時を経た二つの演奏はどのような違いと成熟を聴かせるのか、興味は尽きません。

交響曲104番「ロンドン」(Hob.I:104)1795年作曲
ウィーンフィル特有の柔らかな音色の弦楽器による序奏。柔らかではあっても非常に良くそろってテンションの高い響き。録音はライヴ盤としては上出来。若干デッド気味ながら厚みもあり聴きやすい録音。序奏以降は予想通りショルティらしい速めのテンポに変わりぐいぐい行きます。ただ晩年の演奏らしく力みはなく、まだ豪腕は表に出しません。全体から発せられるオーラのようなものは流石ショルティ。オケ全体にエネルギーが満ちあふれ、オケもそのエネルギーをホール中に発散しています。
2楽章のアンダンテはかなりさっぱりとした表情を意図しているんでしょう。速めのテンポで奏でられる柔らかな弦と木管の美しい響きは流石ウィーンフィル。途中からの盛り上がりは巨大なものを表現するような大きなうねり。終始速めのテンポが曲の真髄を捉えきります。
3楽章のメヌエットはこの曲で最もさりげない楽章ですが、ショルティの手にかかると聴き応え十分。起伏とキレとバランスと円熟の高度な融合。ライヴの荒削りな感じもいいですね。
フィナーレはようやくショルティ豪腕が牙を剥きます。ホール中に轟音が響き渡りますが、ハンガリー出身のショルティらしくハイドンにふさわしい品格も感じさせます。老年のショルティのにらみが効いてオケは素晴らしい緊張感。特に弦楽器のキレは最高。ウィーンフィルの弦楽セクションが松ヤニ飛び散らせながら弓をフルに使ってエネルギー大爆発。最後は万来の拍手に包まれます。当日のモーツァルテウムの興奮はいかほどだったでしょうか。会場にいたらさぞかし素晴らしい演奏に痺れたことでしょう。

つづくベートーヴェンの2番にも聴き入ってしまいました。83歳という年齢が信じられない素晴らしい統率とエネルギー。ショルティの魂が音楽に乗り移ったような素晴らしい覇気。1楽章の推進力の凄まじいこと。あまりのオーラに打ちのめされそう。音楽の神様、今日はこっちにも降りてきてます! ショルティはスタジオ盤より明らかにライヴがいいですね。このライヴは凄いですね。

貴重なショルティ最晩年のロンドンのライヴ、もちろん評価は[+++++]です。老いてもショルティのエネルギーはデビュー盤のころから衰えることなく、保たれていました。ロンドンフィルとのザロモンセットがショルティのハイドンの交響曲の定番ですが、デビュー録音とこの晩年のライヴはスタジオ盤を遥かに上回るエネルギーを放出する類いまれな演奏。ショルティという音楽家を語る上ではずすことのできない素晴らしい演奏だと思います。

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ヨゼフ・メスナー/モーツァルテウム、ヴンダーリヒの戦時のミサ

今日はヒストリカルなアルバム。

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ヨゼフ・メスナー(Joseph Messner)指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の演奏でモーツァルトのアンティフォナ「レジナ・チェリ」とハイドンの戦時のミサ(Hob.XXII:9)の2曲を収めたアルバム。収録は1959年8月16日、ザルツブルク音楽祭でのライヴ収録。ソロ陣はソプラノがローレンス・デュトワ、アルトがゲルトルーデ・ピツィンガー。そしてこのアルバムの目玉、テノールがフリッツ・ヴンダーリヒ、バスはフランツ・パッハーの4名、合唱はザルツブルク教会合唱団。

このアルバムを選んだのは単純に最近手に入れたということもありますが、前記事で取りあげたボルトンの演奏がとても良かったので、ザルツブルク・モーツァルテウム管の昔の演奏を聴いてみたくなったから。

指揮者のヨゼフ・メスナーは1893年生まれのオーストリアの作曲家・オルガニスト。幼いときから歌・ヴァイオリン・ピアノ・オルガンのレッスンを受け、後にミュンヘンで作曲とオルガンを学んだとのこと。1920年代にはドイツで作曲家・オルガニストとして成功を収め、1924年にはデュイスブルクで「ヨーゼフ・メセナーの日」が開かれて自作のシンフォニエッタが初演されたとのこと。1969年に亡くなられてますので、もうずいぶん前のことになります。

このアルバムの目玉はジャケットを見てわかる通りヴンダーリヒにほかなりません。ヴンダーリヒは1930年の生まれなので、この演奏時は29歳ということになります。

戦時のミサ(Hob.XXII:9)1794年作曲
ちょっと古めの録音ゆえ、音もそれなりに歴史を感じさせる録音です。微風のような独特の入りの部分、オケゆったりとローテンションな入り。むしろオケよりも合唱の厚みと迫力を聴くべきアルバムかも知れません。全体にテンポは遅めで、変化もほどほどな展開。コーラスが入るとコーラスにひっぱられ俄然テンションが高まります。HMV ONLINEの情報によれば合唱のスペシャリストのようですので、この展開は合点が行きますね。
1曲目のキリエはソプラノのデュトワの柔らかく美しい声が印象的。朗々とした歌唱。
2曲目はすこし痩せた音を通して当時の響きを想像で補いながら聴く感じ。もう少し迫力がつたわると印象も変わるかもしれません。
3曲目は逆に古い録音の向こうにパッハーの図太いバスとコーラスの存在感が際立ちます。
4曲目は混濁感がちょっと残念ですが曲が進むと突然の凄いギアチェンジでスピードが上がりビックリ。メスナーがこうゆうことをするキャラクターとは思いませんでした。
5曲目はクレド。前曲のトリッキーなギアチェンジが幻だったかのようなオーソドックスな演奏で逆にまたビックリ。
6曲目は休符を長くとった深い呼吸が印象的な楽章。そろそろエンジンがかかってきたでしょうか。メロディーの背景に潜む闇のようなものまで描いているような演奏。
7曲目は一転勢いを感じさせる速めのテンポと途中から現れる上昇音階の無限の上昇感のようなものが湧き出る快活な演奏。
8曲目はソロの掛け合いのメロディーラインの絡み合いが聴き所。この楽章もエネルギー感の表現が見事。
9曲目はサンクトゥス。この曲の途中になってはじめてヴンダーリヒの美声がクッキリ現れます。
10曲目はベネディクトス。短調の美しい旋律をソプラノを皮切りに歌い継いでいく構成。このアルバム一番の聴き所でしょう。後半に入りメスナーはテンポの変化をつける部分が増え、表現の幅も広がっています。
11曲目はアニュス・デイ。背景からしのびよる太鼓の音が不気味な迫力。
12曲が終曲。大団円的展開。拍手はなし。

ヴンダーリヒの写真をあしらったジャケットからはヴンダーリヒの美声を堪能できるディスクであると期待されたんですが、テノールのソロで聴かせる部分が少なく、いささかジャケットは誇大広告的(笑)なものに見えてきました。メスナーも昔の職人風で割と自在な音楽を聴かせますが、コントロールが粗く、ライヴとしてもちょっと物足りないところ。前記事でとりあげた最近のモーツァルテウム管とくらべると、その質の違いは明らか。ちょっと期待先行な感じでした。評価は[++]としたいと思います。Orfeoレーベルということで期待したんですが、、、

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グールド1959年のザルツブルク音楽祭ライヴ

いやはや、木曜日は飲み会、金曜日は仕事が忙しくちゃんとした更新がままなりませんでした。今週は激務でしたね。今日は気分転換を兼ねて、久しぶりにハイドン以外で好きなアルバムを取り上げましょう。

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グレン・グールドの1959年8月25日、ザルツブルク音楽祭でのコンサートのライヴ。プログラムはスウェーリンクのファンタジア、シェーンベルクのピアノのための組曲作品25、モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330、そしてバッハのゴルドベルク変奏曲との痛快なプログラム。収録はザルツブルクのモーツァルテウムです。

ご存知のとおり、グレン・グールド(Glenn Gould)は1932年、カナダのトロント生まれのピアニスト。グールドが有名なのは、誰も真似の出来ない突き抜けた個性と、その個性を超越した、バッハを中心としたポリフォニックな音楽の素晴らしさによって。また、コンサートを捨てて録音というプロセスも含めて自身の演奏を再構成した創造行為によってその真価をつたえたことでも有名。グールドはコンサートで弾くことをやめてしまったので、ライヴ収録されたものは若い時のもの中心なんですね。このアルバムはグールド27歳の時の録音。

グールドについては書籍も多く出版され、私も興味津々で何冊か読みました。生前に出版されたジェフリー・ペイザントの「グレン・グールド なぜコンサートを開かないか」(初版1981年)は最初にグールド像を知った本。家にあるのは82年の2刷。今取り出してみたら、付箋がついていたり、気になる文に線が引かれていたり精読した痕跡が。昔は真面目に本を読んでいたんですね(笑)。この本からもグールドの狂気のような創造活動が伝わってきます。それから「WAVE37グレン・グールド(改訂版)」(1993年)。今は六本木ヒルズになってしまった六本木WAVEで買いましたが、グールドについて多くの記事をまとめたもの。編集が秀逸でグールド像が浮かび上がる素晴らしい構成。同じシリーズの「カルロス・クライバー」も素晴らしい出来で今でもたまに取り出します。そして、オットー・フリードリックの「グレン・グールドの生涯」(1992年)。おそらくグールドの伝記をまとめたものでは決定版という存在でしょう。グールドの音楽は、その音楽自体を聴いて得られる研ぎすまされた芸術性、突き抜けた個性と、書籍などから得られるその創造のプロセス、思考などの背景の両面を理解すると一層その大きさが理解できます。

グールドが亡くなったのが1982年、50歳という若さでしたが、気づいてみると来年2012年はグールド没後30年となるため、もしかしたらいろいろなアルバムが再発売されたり、雑誌や書籍がリリースされたりするのでしょうね。こちらも楽しみではあります。

グールドについては当ブログ立ち上げ初期にハイドンのソナタの演奏をを簡単に紹介しています。

ハイドン音盤倉庫:グールド最晩年の輝き

昔は簡単なレビューだったんですね(笑)

今日取り上げるアルバムはこれはインヴェンションとシンフォニアのスタジオ録音盤に並ぶ私のグールドの愛聴盤。このコンサートを生で聴いていたらグールドの恐ろしいまでの集中力と狂気にノックアウトされていたでしょう。基本的にセッション録音よりもライヴの方が好みゆえ、グールドのライヴはいろいろ手を出しましたが、私の聴く限りこのアルバムが突き抜けて素晴らしい出来です。

出だしのスウェーリンクのファンタジア。スウェーリンク(1562-1621)はルネサンス末期からバッロック期のオランダの作曲家とのこと。10分弱の小曲。ルネサンス期のゴールドベルク変奏曲のような曲。まずプログラムに最初にこの曲をもってくるというのが凄い発想。最後におかれたゴールドベルク変奏曲との関連を暗示させる曲想と、バッハとは異なる響きの奥深さ、歴史のパースペクティブの深遠さを感じる選曲。一音目から狂気と殺気が漲る恐ろしいまでの集中力。ホールの聴衆全員が静寂の中、グールドの指先から奏でられる旋律に惹き付けられているようすが伝わります。ルネサンス期の音楽らしい祈りにもにた純粋さを感じるシンプルな旋律を重ねて行き、徐々にポリフォニッックな展開になっていくにつれて、グールド特有のすべての旋律が独立してコントロールされているような完璧なコントロールに。おそらく聴衆はその音楽に打ちのめされているんでしょう。一曲目からグールドという天才奏者に完全に支配された奇跡的な瞬間に出会うこととなったこの日の聴衆がうらやましいです。曲が進むとグールド流のエクスタシーにも近い恍惚とした流れに。最後はその恍惚を断ち切るけじめのような終わり方。拍手が会場の興奮を伝えます。

つづいてシェーンベルクのピアノのための組曲作品25。スウェーリンクの響きに潜む現代音楽にも似た響きの韻を踏むような選曲。この曲の他の奏者の演奏は数例しか聴いたことはありませんが、音楽の濃さは別次元。ヴェーベルンまで音を分解する前のメロディーを少し残したシェーンベルクの曲を、グールド流にポリフォニックな関連を色濃く描いていきます。特に左手の強い打鍵が印象的。途中トラック6の時計のリズムのような曲想の部分では宇宙のような空間の広がりを感じさせる閃き。この曲も全体で10分少しの小曲ながら、会場はグールドの音楽に完全に支配されています。脳のシナプスからアドレナリンが噴射するようすをみるような覚醒と狂気。ライヴ独特の素晴らしい緊張感。これはグールドのセッション録音盤から味わえない魅力ですね。途中グールドの声も出始めています。スウェーリンクの時は静かでした(笑)

このアルバムで最もキレた演奏は次のモーツァルト。冒頭のなんという絶妙な入り。シェーンベルクの余韻もさめやらぬ中、まるで奏者が変わったかのような完璧なスタイルチェンジ。羽毛のような軽さと可憐さとその奥に潜む暗黒の狂気のようなものまで暗示させる、抑制の美学。私はモーツァルトのK.330でこの演奏が最も好きな演奏です。1楽章はおそらく5分程度の力で、おそらく凄まじい集中力で指先をコントロールしていることでしょう。コントロールされた軽さと言えば良いでしょうか。2楽章は同様の力感ですが、バッハのポリフォニーの一部のみを取り出したような旋律のコントロール。曲想も手伝って孤高の音楽がしばらく続きます。これだけ少ない音符からこれだけ濃い音楽を、限られたデュナーミクとリズムの変化の中で表現できるのはものすごいことなんでしょう。3楽章にはいるとテンポが上がってグールドの指はキレまくります。グールドの歌声も激しさを増します。モーツァルトの音楽からグールドが乗ったときに見せる恍惚感すら感じさせ、最後の音をカチッと強調して終了。おそらく会場はグールドマジックに包まれているでしょう。

おそらく休憩を挟んでのことと思いますが、最後はグールドの十八番、ゴールドベルク変奏曲。1955年のスタジオ録音盤で衝撃的なデビューとなったグールド故、そのアルバムがグールドの代表的なアルバムとなっていますが、私はライヴの緊張感もあり、このアルバムの方の演奏の方が好きです。初めてグールドの演奏を手に入れたのは晩年の方のゴールドベルク変奏曲のLP。こちらもすり切れるまで聴いた愛着ある演奏ですが、その後55年盤を聴いた時の衝撃は忘れられません。55年盤の自由闊達さのエネルギーの凄さに圧倒されました。そしてこのライヴには55年盤の創意に加えてライヴの感興が加わり、録音もこの時代のライヴとしては申し分ない鮮明さ。長くなりましたので、ゴールドベルク変奏曲は是非聴いてそのすばらしさを味わっていただきたいと思います。

ジャケットの出来も含めてこのアルバムはグールドの数多いアルバムの中でも私は一押しのおすすめ盤です。健全だった若い時のグールドの迸る狂気をそのまま真空パックで自宅に持ち込めるようなすばらしいプロダクション。ピアノ音楽の可能性の一つの極致をしめしたものではないかと思ってます。

朝飯は味の干物をつまみに近所の床屋さんにいただいた山形蕎麦をすすってます。せっかくの土曜ですが今日はこれから仕事に出かけます(涙)。できれば夜、ハイドンのレビューを一本書きたいと思います。

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tag : モーツァルト スウェーリンク シェーンベルク バッハ ライヴ録音 おすすめ盤 ザルツブルク音楽祭

アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団の87番ライヴ

昨夜は痛飲して帰ったため(笑)、ブログ更新をお休みさせていただきました。東北の地酒に飲まれた格好。日高見を頼んで岩手盛岡出身の店員さんと絡み始めてスイッチが入っちゃいました。すすめられるままに美味しい日本酒を堪能。今日も仕事で遅くなったので、短い曲のレビューですみません。

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アンドレ・プレヴィン(Andre Previn)指揮のロンドン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲87番の演奏。1977年7月31日ザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。いつものようにザルツブルク音楽祭のウェブサイトで調べてみました。

ザルツブルク音楽祭:1977年7月31日

プログラムはハイドンのこの演奏を皮切りに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲2番(ピアノ:ミシェル・ベロフ)、ラフマニノフの交響曲第2番というプログラム。アルバムの方にはもう1曲プレヴィンの振るフィルハーモニア・オーケストラとチョン・キョンファのヴァイオリンで、ウォルトンのヴァイオリン協奏曲が収められており、こちらは1982年3月29日のライヴ。

アンドレ・プレヴィンのハイドンは以前一度取り上げています。

ハイドン音盤倉庫:プレヴィン/ウィーンフィルのオックスフォード

アンドレ・プレヴィンは1929年生まれということで、今年81歳、このアルバムのコンサートの時は48歳と覇気溢れる年代。

交響曲87番は86番と並んで好きな曲。82番から87番までの6曲をパリ・セットと呼びますが、作曲は番号順ではなく、87番、85番「王妃」、83番「雌鶏」、84番、86番、82番「熊」の順で、最初の3曲が1785年、それ以降が翌年の1786年の作曲ということで、パリのオーケストラ、コンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックのために作曲された曲。87番はその冒頭を飾る曲ということですね。

1楽章は最初から木質系の分厚いオケの響きと推進力に圧倒されます。低音弦の特徴的な音階のアクセントも明解でプレヴィンのコントロールは冒頭からキレまくってます。1楽章のメロディーとアクセントの入り組んだ面白さが浮き彫りになる演奏。ホールに響き渡るオケの大音響を的確に捉えた録音もなかなか。咳や会場ノイズが聴こえますが適度な範囲で鑑賞には全く問題なし。ライヴ感満点の素晴しい録音。後半はプレヴィンがオケを煽っているのがわかりますね。スタジオ録音とは面白さの次元が異なります。
2楽章は中庸なテンポでオケのフレージングの面白さ、美しさを堪能できる演奏。冒頭のフルートのメロディーラインからオーボエにつながる流れだけでも素晴しい緊張感。豊かな陰影感と時折長い休符を織り交ぜてアダージョの繊細なメロディーラインを織り上げていきます。盛り上がる瞬間に力を抜いたり、巧みなデュナーミクのコントロールが行き届いて至福のアダージョ。
3楽章のメヌエットは荒々しい雰囲気をちょっとだけ感じさせて、変化を付けます。テンポは中庸、アクセントもほどほどながら、こちらも味わい深い演奏。
フィナーレも木質系のオケの響きが美しい、じっくり楽しめるフィナーレ。流石プレヴィンですね。曲自体で楽しませるツボを押さえてます。これほど柔らかな聴き応えのあるフィナーレは滅多にありません。最後は割れんばかりの拍手喝采。当日の幸運な聴衆がうらやましいですね。

評価は[+++++]です。プレヴィンらしい、一聴して個性的な演奏ではないんですが、きわめて味わい深い演奏。このコンサート興奮をダイレクトに伝える録音の良さもあり、良いアルバムです。ライヴの好きな方には絶対のおすすめ盤ですね。

明日も忘年会ですが、開始が早いのでレビューを一本書けるかもしれません。

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tag : 交響曲87番 ライヴ録音 ザルツブルク音楽祭 CD-R

シャーンドル・ヴェーグの時計、102番ライヴ

先日につづきシャーンドル・ヴェーグの交響曲集。

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木曜に取り上げた103番「太鼓連打」と104番「ロンドン」を聴いて、ヴェーグの引き締まった演奏がもう少し聴いてみたくなった次第。今日は前記事と同様、ヴェーグとカメラータ・アカデミカ・ザルツブルクの演奏でハイドンの交響曲101番「時計」と102番。録音は「時計」が1994年8月25日、102番が1994年8月23日のザルツブルク音楽祭のコンサートのライヴ収録です。

シリーズものなので、早速レビューに。「時計」から。

「時計」は昨日取り上げた「ロンドン」のちょうど1週間後の録音。音響的は「ロンドン」と「太鼓連打」の中間のような印象で、デッドな音響空間にタイトなオーケストラの響き。序奏から緊張感溢れる小節をきっちり利かせたフレージング。ヴァイオリンの音はちょっと濁り気味で、明らかに聴こえるミスがいくつかあります。少ない人数で演奏するリスクでしょうか。そういったミスも畳み掛ける迫力で吹き飛ばしてしまいます。
2楽章はゆっくり気味にはじまりますが、普通のテンポの範疇。適度なメリハリをつけながら、適度に美しい演奏。小規模オケの魅力を楽しめる部分。音量を上げる展開部も平常心を保ちながら落ち着いて進めます。長い休符を経て押さえた部分と、再び力を込めた部分との対比も鮮明です。
3楽章のメヌエットはヴェーグのコントロールが最も曲調にマッチしてる楽章。音量や厚みというよりフレージングで醸し出される迫力で聴かせるというヴェーグならではのコントロール。
そしてフィナーレ。序奏は爆発を予感させる抑制。途中からフルスロットルになり、弦楽器のメリハリをつけまくったボウイングが殺気すら感じさせる迫力。途中から畳み掛けまくってパンチアウト。盛大な拍手とブラヴォーに迎えられて終了。

続いて102番。こちらは「時計」の2日前のコンサート。流石に音響とオケのコンディションは非常に良く似ています。ヴァイオリンのちょっとした濁りは「時計」とも「ロンドン」とも共通。ただ、緊張感というか気合いの漲り具合はこちらの方が上と聴きました。おそらく102番の曲調のせいでしょう、序奏から中間部にかけて、徐々に力感が増していく推移が手に汗握る感じです。こちらの方はミスもなく素晴しい演奏ですね。
2楽章はゆっくり目ですが、こちらも普通のテンポの範囲。間を長めにとりながらフレーズを刻み、深い深い呼吸で美しいメロディーを噛み締めながら描きます。先日の「太鼓連打」ではちょっと遅すぎて曲想を維持できていなかったんですが、こちらは見事。楽章の本質をついた素晴しい表現。最後の和音の美しい余韻にうっとり。
3楽章のメヌエット。頭の中でキレまくっている弦のボウイングを想像しながら聴きます。アクセントに変化をもたせて新鮮な響きに。中間部の木管の柔らかいフレージングが前後の厳しい弦との対比で癒しの時間を提供。
フィナーレは期待通り、ヴェーグの演奏の神髄に迫る演奏。すばらしい推進力、オケ全員のフォーカスがぴたりと一致して、ハイドンの天才的な楽想を怒濤の勢いで演奏。音量と言う意味では迫力に限界はありますが、演奏の迫力は素晴しいの一言。

いやいや、本当に生で聴きたかった人ですね。評価は「時計」が[++++]、102番は[+++++]です。私自身102番は好きな曲ですが、大規模オケでの素晴しい盛り上がりも良いものですが、この演奏は102番の音楽をエッセンスが凝縮されたような素晴しい表現。オルフェウス室内管や先日「朝」、「昼」、「晩」を取り上げたセント・ルークス室内アンサンブルのような音符に忠実な精度、解像度の高い演奏とは全く異なる方向の演奏で、かなり灰汁の強い演奏ですが、こちらもイドンの交響曲の演奏としての素晴らしさは負けていませんね。

ずいぶん昔に手に入れた(おそらく10年以上前)ので、別のラックにホコリをかぶって保管してありましたが、ホコリまみれにしたことを詫びるべき良いアルバムです。

こうなると、初期の交響曲を含む1枚もレビューするべきでしょうね。しばらくしたら取り上げますのでお楽しみに(笑)

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tag : 時計 交響曲102番 ライヴ録音 おすすめ盤 ザルツブルク音楽祭

シャーンドル・ヴェーグの太鼓連打、ロンドンライヴ

今日はシャーンドル・ヴェーグのハイドンを。

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ORFEOレーベルからリリースされている、シャーンドル・ヴェーグ(Sándor Végh)の指揮するカメラータ・アカデミカ・ザルツブルクの演奏でハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。ザルツブルク音楽祭のライヴ録音で、いつものようにザルツブルク音楽祭のサイトで調べてみると「太鼓連打」が1996年8月11日、「ロンドン」が1994年の8月18日のコンサートを収録したものですね。

ヴェーグは1912年生まれのハンガリー生まれのヴァイオリニスト、指揮者、そして教育者。1997年に84歳で亡くなっていますので、このライヴは最晩年に近い録音。80歳を過ぎた音楽家の指揮するハイドンということですね。ヴェーグのハイドンのライヴはこの他にも3枚、計4枚がORFEOからリリースされていますが、現代楽器の小規模オケのハイドンとしては骨のある演奏です。今日はその中から代表的な一枚を選んだ次第。

まずは、「太鼓連打」から。ティンパニの一撃からただならぬ緊張感。規模の小さなオケゆえ響きの厚みはないんですが、劇的なデュナーミクにより迫力は十分。デッド気味な録音が迫力をさらに増し、主題は素晴しい風格。弦楽器の弓さばきの鋭さが伝わるよう。松ヤニが飛び散りまくりのような弦の迫力。ストイックな魅力炸裂ですね。80歳をすぎてこのような音楽を奏でるとは。自分が同じ年になったときにこのような音楽を奏でる心境になれるかどうか、教育者としての強靭な信念のなせるところでしょうか。最後のドラム・ロールも気合い十分。1楽章の充実はすばらしいですね。会場が凍り付くような緊張感につつまれているようです。
2楽章はいきなり超低速運転でビックリ。1楽章とのコントラストつきすぎです(笑) 表情付けも適度な範囲で音量をぐっと絞る部分で聴かせる以外はわりと単調に進めます。終盤に音量を上げ充実した響きを取り戻しますが、ちょっと重さを感じるところもあり、少々無理なテンポという印象も残してしまいますね。
3楽章は普通のテンポに戻って、オケキレキレ。素晴しい迫力のメヌエット。
フィナーレはメヌエットからの流れを受けて、いいテンポで入ります。ティンパニ大活躍でアクセントの鋭い表現が素晴しい迫力。クライマックスに向けての盛り上がりも素晴しいですね。最後はエクスタシーの坩堝。会場の拍手が演奏の素晴しさを物語ってますね。生で聴いたらさぞかし素晴しいことでしょう。

つづいて「ロンドン」。「太鼓連打」の2年前のザルツブルク音楽祭でのライヴ。こちらは太鼓連打に比べると比較的オーソドックスな入り。「太鼓連打」より落ち着いた演奏に感じますが、弦の純度がちょっと落ちた感じというか、録音の鮮明度が若干落ちることの影響かもしれません。ただ、演奏は冒頭から溜めはたっぷりととり、ヴェーグ特有のタイトな進行。「ロンドン」らしく堂々としたというより、筋肉質のボディービルダーのような演奏。やはり弦楽器のボウイングのキレはなかなかいいですね。
2楽章は「太鼓連打」と同様の、、、と身構えましたが、至って普通のテンポで安心しました。「太鼓連打」より2年前の演奏ですが、演奏を聴く限り、こちらの方が老成した感じ。コンディションというか体調というか、雰囲気なんでしょうか。
3楽章のメヌエット。ここまではオーソドックスな演奏の範疇。もしかしたら曲に応じて演奏スタイルを変えているのではとの想像も働きます。多くのこれまでのロンドンの演奏がこのような演奏をする型枠のような存在になっているのかもしれませんね。
「ロンドン」のフィナーレはハイドンにしては長い曲。ここにきて演奏のテンションがぐっと高まってきました。弦楽器のはじけ度合いもあがり、指揮もクライマックスに向けてムチが入ってます。最後は少人数オケがはじけきってフィニッシュ。こちらも盛大な拍手とブラヴォーが会場の興奮をつたえます。

評価は両曲とも[++++]としました。「太鼓連打」は2楽章を除けば[+++++]ですが、惜しいですね。「ロンドン」は「太鼓連打」ほどキレてないため[++++]という評価でしょうか。小編成オケのタイトな音響を楽しむべき、玄人向けの演奏といえるでしょう。

久しぶりに聴いたヴェーグのタイトな交響曲の演奏、もう一枚ぐらいそのうちレビューで取り上げる必要がありそうですね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 太鼓連打 ロンドン ライヴ録音 おすすめ盤 ザルツブルク音楽祭

ムーティ/ベルリン・フィルの十字架上のキリストの最後の七つの言葉

昨日、ブリュッヘンの演奏で曲の魅力を再認識。ここは現代楽器の演奏を取り上げなくては。

MutiBerliner7.jpg

リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti)指揮のベルリン・フィルの演奏。1991年2月、ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。このアルバムは残念ながら現在廃盤の模様。

ムーティはこの曲を得意としていたようで、録音もいくつかありますので列記しておきましょう。詳しくはリンクをご覧ください。

Orchestral, Concerto - Haydn Recordings Archive

Muti, Wiener Philharmoniker (25 August 1982/Live) [6'05/7'20/7'16/7'52/6'36/7'42/7'15/8'30] EMI CLASSICS 5 67423 2
Muti, Berliner Philharmoniker (February 1991) [6'00/6'43/6'37/7'05/5'42/6'33/6'42/6'11/1'46] PHILIPS 434 994-2
Muti, Filarmonica della Scala (20 November 2000/Live) [6'29/7'59/7'46/7'43/7'07/7'11/7'38/6'29/1'25] DVD EMI CLASSICS 7243 5 99401 9 9

最初が1982年のザルツブルク音楽祭でのウィーン・フィルとのライヴ。2番目が今日の演奏。そして3番目が2000年のスカラ座管弦楽団とのライヴを収めたDVD。セッション録音は今日のアルバムだけで、しかもベルリン・フィルとの組み合わせという豪華絢爛な組み合わせ。

ムーティは以前、天地創造のDVDを取り上げていますので、そのときの記事を貼付けておきます。

ハイドン音盤倉庫:天地創造 名演の映像

前に書いたとおり、昔はあまり好きな指揮者ではなかったんですが、最近は巨匠風の演奏をする最後の世代として演奏に華がある指揮者の代表のような存在となり、わりと好きな指揮者になりました。
やはりイタリアもののオペラの演奏など素晴しい統率で別格の存在ですが、意外とよかたのが、ウィーン・フィルと入れたモーツァルトの後期交響曲。柔らかく、色っぽく、力が抜けていい演奏でした。

さてさて、肝心のハイドンの演奏。

昨日のブリュッヘンの現代音楽を交えた凝った企画とは打って変わって、こちらは間奏曲も朗読もなく序奏から7つのソナタと最後の地震の場面までをゆったり演奏する普通のもの。

演奏の特徴はムーティの色っぽいダンディズムを根底に感じる、ベルリン・フィルの分厚い音色の弦セクションを中心としたイタリア人指揮者らしい流麗な演奏。テンポはゆったりで、フレージングはよく溜めながらしつこくなく力みも感じない、バランスのいい演奏です。セッション録音だけあって、全曲ムラのない仕上がり。
この頃のベルリン・フィルは1989年にカラヤンが亡くなり、1990年に始まるクラウディオ・アバドの時代が始まったばかり。カラヤン時代の重厚な唸る低音弦の魅力から、透明感と歌を主体としたアバドの時代に変わりつつあるものの、他のオケと比較して、弦楽セクションの厚みと芯のしっかりした音響はやはりベルリン・フィルと唸らされるもの。完全にムーティの支配下となり巨匠風の統率と秩序を与えられたベルリン・フィルの迫力は素晴しいものがあります。これはベルリン・フィルの分厚い響きに打たれるべき名演奏でしょう。

中でもトラック7の第6ソナタのクライマックスの盛り上がりと陰影の深いフレージングと、最後の地震の情景が見事。ブリュッヘンの地震がオケの響きの変化と松ヤニが飛び散らんばかりのキレのいい迫力だったのに対し、ムーティとベルリン・フィルの地震はベルリン・フィルの畳み掛けるような分厚い弦楽セクションの迫力で聴かせるもの。

録音はベルリン・フィルハーモニーではくイエス・キリスト教会なので、厚みも残響も豊かで絶好の録音。

評価はこちらも[+++++]としました。古楽器の演奏のような時代考証的視点はありませんが、実際に教会の空間で聴くとしたらムーティの颯爽とした演奏も説得力十分ですね。

明日は、会社を休んで(有休たまってます!)、両親をつれて一泊二日の伊豆旅行。そのためブログの更新もできません。次の更新は土曜日の夜だと思いますのでよろしくお願いします。

テーマ : クラシック
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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 おすすめ盤 ベルリンフィル ザルツブルク音楽祭

セルの1959年ザルツブルク音楽祭ライヴ

暑いですね。今日は昼食をとりに外を歩いたら生命の危機を感じるような危険な暑さ。
お年寄りに限らず、水分、塩分などをきちんと補給していないと熱中症になってしまいますね。

夏と言えばザルツブルク音楽祭でしょうか。今日はCDラックを眺めてふと手に取った1枚。

SzellSalzburg.jpg

ジョージ・セル指揮のフランス国立放送管弦楽団によるコンサートのライヴ盤。収録曲目はモーツァルトの交響曲35番ハフナー、ヴァイオリン協奏曲第5番、そしてハイドンの交響曲第92番オックスフォード。ヴァイオリン独奏はエリカ・モリーニ。1959年8月3日、モーツァルテウムの大ホールでのライヴ。

セルのハイドンはクリーブランド管弦楽団との交響曲が何枚かリリースされていますが、ハイドンの交響曲の規律と険しさを浮き彫りにするような表現。私自身は朴訥さとか、ユーモア、活気といった面が欠け過ぎているようにも感じられ、世評ほどには好きになれないといったところです。

このアルバムも手に入れたのは遥か昔。手に入れた時には何度か聴いたもののその後ラックの肥となっていました。

1曲目はモーツァルトのハフナー。直接音重視のデッド気味の録音から聴こえるのは引き締まった弦のしかも統率の良い冒頭のメロディ。テンポは中庸、ほどほど歌い、フレーズの呼吸は平常の範囲。中庸の美学というところでしょう。聴かせどころはやはり終楽章。強奏部のキレ、速いパッセージの見事な分解ですね。

2曲目は同じくモーツァルトのヴァイオリン協奏曲。これが意外に味わい深くていい。オーケストラもさきほどのハフナーより弾む感じが良く出ています。録音のせいか少々線がほそいですが、ヴァイオリンはオケとの対決姿勢みたいなものを感じるソロ。ソロをもり立てようと言う意識が演奏を変えている感じですね。
エリカ・モリーニは1904年生まれのウィーンのヴァイオリニスト。59年の録音ですので、55歳での録音ということになります。円熟期の演奏ですね。
参考のためエリカ・モリーニの情報のリンクを張っておきましょう。

Wikipedia:Erica Morini(英文)

さて、本題のハイドンの交響曲92番オックスフォード。このアルバムの最後におかれただけあって、第1楽章からキレてますね。第1ヴァイオリンの旋律をクッキリ浮き立たせ、インテンポで畳み掛ける迫力満点の演奏。硬調ながら階調豊かなネガを軟調な印画紙にしっかり焼いたプロの手によるモノクロプリントを見るような見事なコントラスト。
第2楽章はハフナーとは異なり非常に情感豊かな演奏。展開部は1楽章同様クッキリしたコントラストで対比の妙で聴かせます。
続く第3楽章のメヌエットは大胆さが加わり、彫りの深い素晴らしい迫力。
終楽章冒頭の有名なメロディ。以前取り上げた朝比奈隆盤ほどの閃きはないものの、実直さと規律に裏付けられたストレートな表現で一気に聴かせます。アクセントのキレも最高。最後は豪腕を振り切ってフィニッシュ。盛大な拍手が会場の熱気を伝えます。

ラックの肥にしておいたのはもったいなかったですね。いい演奏です。評価はこれまでの不見識を詫びて[+++++]とつけ直しました。

もう叶うことはありませんが、セルの実演をコンサートホールで聴くとどういう印象なんでしょうか。夏の暑い夜に、51年前のザルツブルクの響きに想いを馳せるのも乙なものですね。
本日は休肝日ゆえ、しらふで想いを馳せます。(笑)

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : おすすめ盤 オックスフォード ヒストリカル ライヴ録音 モーツァルト ザルツブルク音楽祭

カラヤンの天地創造比較2

つづけて、さきほど取り上げたグラモフォン正規盤の5年前の1977年の、同じくザルツブルク音楽祭のライヴ盤。(CD-R)

KarajanCreation3.jpg

ザルツブルク音楽祭1977年8月15日のコンサート記録

ソリストは、マティス、シュライアー、ファン・ダムにウィーン国立歌劇場合唱団、ウィーンフィルという顔合わせ。

基本的にはアライザとシュライアーの違いだけです。
録音は観客席のざわめき、咳などが入っていたり、ピークがちょっと歪んでたり、ノイズがわずかに入るなどの傷はあるものの、音楽を楽しむにはこちらの方がリアリティがあっていいです。ソリストの声も明瞭です。ライヴ盤は客席のノイズなどを除去しないほうがいいですね。

これは、カラヤンも見事。ソリストをしっかり支えながら、オケのダイナミックさで聴かせるところもポイントをおさえてます。第一部のフィナーレの頂点への持っていき方もすばらしい統率で盛り上がります。低音弦を中心に弦の厚みを感じさせるところともカラヤン風です。同じザルツブルク音楽祭ライヴの5年間の隔たりは大きなものと言わざるを得ません。
ソリストは、シュライアーの規律を感じさせる透明感のあるテナー、ファンダムの深みのあるバリトン。マティスが若干控えめながら、安定感のある歌唱。
ライヴの魅力も存分に感じさせるいい録音だと思います。


そして、さらにさかのぼること12年。同じくザルツブルク音楽祭、1965年のライヴ盤。

KarajanCreationLive.jpg
HMV ONLINEicon

ザルツブルク音楽祭1965年8月29日のコンサート記録

これはグラモフォンの正規盤。ヴンダーリッヒ急逝直前のライヴです。

これはカラヤン全盛期のライヴ。カラヤンがオーケストラを緻密に指示しようとしていながら、ライヴだけにオケが最初から少々混乱している感じもあります。特にオケを押さえる部分をかなり押さえて、コントラストをきっちり表現したいというところに力点がおかれているように聴こえます。進むにつれてオケの調子も上がり、統率を取り戻していきます。第一部のフィナーレの盛り上がりは振り切れてすばらしいフィニッシュ。カラヤンの演奏にも帝王の風格を感じます。

この盤はジャケットに写真が載っていることからわかる通り、ヴンダーリッヒを聴くべき盤なんだと思いますが、ところがどっこい、ヴンダーリッヒ以上にプライとヤノヴィッツも激演です。特にヤノヴィッツにはノックアウトです。声質が好きなこともありますが、なんと可憐な歌声。ホールにピンと緊張感が張りつめるなか、ヤノヴィッツのソロが響き渡り、美しさに昇天です。
トラック5のガブリエルのソロが入った瞬間の清々しさ。トラック9のガブリエルのアリア、このような美しい音楽をここまで美しい声で歌われたら、、、この世のものとは思えないひと時です。

録音は65年ゆえ、流石に古さを感じさせ、オーケストラの音に厚みがたりず、その後の録音とくらべると若干聴きおとりするのは否めませんが、この盤はこの盤で、カラヤンの溢れんばかりの覇気と歌を来くべきすばらしい価値があると思います。

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tag : カラヤン ライヴ録音 天地創造 ウィーンフィル CD-R ザルツブルク音楽祭

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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