【新着】スーザン・ハミルトンのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲の新着アルバム。着いてビックリ、素晴らしいアルバムでした。

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スーザン・ハミルトン(Susan Hamilton)のソプラノ、マンフレート・クレーマ(Manfredo Kreamer)率いるレア・フルーツ・カウンシル(The Rare Fruits Council)の演奏で、ハイドンの編曲したスコットランド歌曲集から11曲、フランチェスコ・ジェミニアーニのスコットランド民謡を元にした曲11曲のあわせて22曲を収めたアルバム。収録はハイドンの没後200年である2009年の2月19日から23日にかけて、ベルギーのナミュール近郊のフラン=ワレ城近くのサン・レミ教会でのセッション録音。レーベルはludi musici。

もともとハイドンの歌曲は好きな方なので、未入手のアルバムを見かけると手に入れるようにはしてるんですが、歌手がスーザン・ハミルトンと知りすぐにamazonに注文。到着してビックリ。たしか1枚組のCDなのにずしりと重いではありませんか。開梱してまたビックリ。150ページ近くある4カ国語で書かれた非常に美しい印刷のブックレットにCDがさらりと挟んである体裁。このアルバムのコンセプトに、曲の解説、歌詞、そして間にはスコットランドを想起させる美しい絵画がふんだんに差し込まれており、体裁上は書籍がメインでCDがオマケといってもいいくらいの力の入りようです。ハイレゾにネット配信全盛の中、このプロダクションは見事。プロダクションとしての完成度は素晴らしいものがあります。

スーザン・ハミルトンがスコットランド歌曲集を歌うアルバムは以前に別のアルバムを取り上げていますが、このアルバムでノックアウトされた口です。

2010/07/23 : ハイドン–声楽曲 : スコットランド歌曲集、マリーの夢

スーザン・ハミルトンはスコットランド出身の歌手で、バロックから現代音楽までをこなす歌手とのこと。以前のアルバムでもネイティヴなスコットランド人らしい発音と透き通るような声がまさにスコットランド民謡のメロディーと溶け合ってえも言われぬ雰囲気を醸し出していました。

そして、このアルバムでは、前アルバムと重なる曲もあるにもかかわらず、そして前アルバムの2002年の録音から7年しか経過していないにもかかわらずリリースされたということで、その存在価値があるからこそのリリースだと思われます。
そもそもハイドンのスコットランド歌曲集はこれまでにも多くのアルバムがリリースされているのはご存知の通りですが、組み合わされたジェミニアーニはハイドンより半世紀近く前に生まれたイタリアの作曲家で、最後はイギリスやアイルランドで活動していたようですが、そのスコットランド民謡を基にした曲はあまり知られていないものかもしれません。そのような2人の作曲家の曲を組み合わせてアルバムを企画したところにこのアルバムの面白さがあるわけです。これがまた絶妙に合う。性格の異なるモルトのブレンドで香り高いウイスキーができるようなイメージでしょう。

伴奏を担当するのはレア・フルーツ・カウンシル。訳すと「珍果実評議会」あるいは「早熟果実評議会」となりますが、なんだかふざけた名前の団体。リーダーのマンフレート・クレーマーはアルゼンチン生まれのヴァイオリン奏者、指揮者。1986年から91年までムジカ・アンティクァ・ケルンのリーダーを務め、その後名だたる古楽器オケ、指揮者と共演を重ね、1996年に古楽器アンサンブルのレア・フルーツ・カウンシルを設立したとのこと。

ジェミニアーニの曲もなかなか面白いのですが、今日はハイドンの曲をピックアップしてコメントしておきましょう。メンバーや編成は曲名のリンク先の所有盤リストの情報をご覧ください。

ジェミニアーニの曲もスコットランドの風景が浮かび上がるようないい曲ばかり。その中にハイドンの曲がランダムに散りばめられた構成です。

Hob.XXXIa:18 - JHW XXXII/1 No.18 "My boy Tammy" 「私の坊やタミー」 (Hector Macnaill)
ヴァイオリン、チェロ、ハープシコードの伴奏。冒頭からスーザン・ハミルトンの独特の声に癒されます。険しさが畳み掛けてくるような曲想の曲を切々と歌います。伴奏は古楽器のキレの良さがそのまま活きています。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 "The ploughman" 「農夫」 (Robert Burns)
軽快なテンポに乗って農夫の日常を描く曲。今度はチェロは抜きでハープシコードがフォルテピアノに変わりますが、それだけで響のニュアンスが大きく変わります。

Hob.XXXIa:45 - JHW XXXII/1 No.45 "The gard'ner wi' his paidle" 「鍬の手をもつあの農夫」(Robert Burns)
徐々に心に沁みるいい曲になってきました。スーザン・ハミルトンの抜けるような自然な高音の魅力がすばらしく、聴いていながらゆりかごで揺られているような夢見心地になってきます。

Hob.XXXIa:71 - JHW XXXII/1 No.71 "Young Damon" 「若きデイモン」 (Robert Fergusson)
まさにスコットランドの空気を吸いながら聴いているような気にさせられる名曲。朗々と歌う自然な低音から高音への発声が実に爽やか。ヴァイオリンが寄り添うように伴奏し、ハープシコードは音量を抑えて優しく包み込むよう。

Hob.XXXIa:219bis - JHW XXXII/3 No.186 "The night her silent sable wore" "She rose, and let me in" 「彼女は立ちあがり、招き入れてくれた」
Brilliantのスコットランド歌曲集の第1巻の2曲目に配された曲なので、それこそ擦り切れるほど聴きました。ハイドントリオ・アイゼンシュタットの演奏に比べて陰影が深く、スコットランドらしい雰囲気はこちらが上でしょう。録音も素晴らしくまさに絶品。

Hob.XXXIa:143bis - JHW XXXII/3 No.254 "Morag" 「モラグ」 (Robert Burns)
寂しげなフォルテピアノの伴奏に、突き抜けるような素晴らしい高音の歌声が印象的な曲。シンプルな曲から詩情が溢れ出してきます。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 "Sleepy bodie" 「眠れる人」
前曲と対比させるように明るい入りの曲。伴奏のヴァイオリンとフォルテピアノが躍動。そしてスーザン・ハミルトンも本来の弾むこ声を聴かせます。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
名曲。ヴァイオリンの序奏から沁みます。スーザン・ハミルトンの以前の録音にも含まれていた曲。訥々とした語り口から積む気出される詩情、風景、風、そして波。5分弱の曲に込められたドラマ。あんまりいいのでモルトウィスキーをちびりながらスコットランドの風景を想いながら聴きます。

Hob.XXXIa:149 - JHW XXXII/2 No.149 "O'er the hills and far away" 「丘を越え彼方へ」
癒しから疾風のような曲に転じます。曲の配置もよく考えられていますね。見事に曲想の変化に合わせていくヴァイオリンのマンフレート・クレーマの器の大きさがわかります。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 "John Anderson" 「ジョン・アンダーソン」(Robert Burns)
入りの印象的なヴァイオリンソロが曲の深さを象徴するよう。そのあとつづくスーザン・ハミルトンの孤高の歌唱が引き立ちます。

Hob.XXXIa:1bis - JHW XXXII/3 No.201 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
先ほどの同名曲の異なるヴァージョン。やはり沁みます。こういう曲はスーザン・ハミルトン以外では聴けない体になりつつあります。美しいメロディーにつけられたハイドンの伴奏が曲の美しさを引き立てます。

スーザン・ハミルトンの歌う、スコットランド民謡をハイドンが編曲した歌曲集。ハイドンが最晩年に人助けからはじめたスコットランド民謡の編曲の仕事ですが、ハイドンの晩年の楽しみの一つだったのでしょう。1曲1曲に素晴らしい伴奏がつけられ、メロディーだけでなく伴奏も相まってスコットランドの自然を想起させる素晴らしい曲に仕上がっています。そしてハミルトンの歌で聴くこれらの曲は、その最良の演奏でもあります。冒頭にふれたようにプロダクションとしても素晴らしいものに仕上がっていますので、歌曲が好きな方には絶対のオススメ盤です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : スコットランド歌曲 古楽器

カスタリアン・バンドのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲。歌曲の未入手盤を見かけることもあまりない中、オークションで手に入れたアルバム。

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カスタリアン・バンド(Castalian Band)によるハイドンが編曲を担当したスコットランド歌曲集から12曲(曲名別記)とピアノソナタを編曲したヴァイオリンソナタ(XVI:24)、ピアノ三重奏曲(XV:23)を収めたアルバム。収録は1990年12月、ロンドン西方の街、ニューベリー(Newbury)にあるイースト・ウッドヘイ教会でのセッション録音。レーベルは独musicaphon。

演奏者のカスタリアン・バンドはソプラノ、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの4人組。ジャケットを開いてみるとメンバーの写真があり、男性1人、女性3人の組みあわせ。よく見ると見覚えのある顔が。そう、Brilliantのスコットランド歌曲全集で美声を聴かせるロルナ・アンダーソンではありませんか。

調べてみると、カスタリアン・バンドは1988年に設立され、バロックから古典期に書かれたソプラノとトリオのための音楽をレパートリーとしています。創立メンバーは全員スコットランド出身であることから、スコットランドの音楽に格別の愛着を持っています。そもそもカスタリアン・バンドという名前はスコットランドのジェームズ6世(イングランドのジェームズ1世)統治下の16世紀末の詩人、音楽家の集まりに因んで付けられたものとのことです。メンバーは次の通り。

ソプラノ:ロルナ・アンダーソン(Lorna Anderson)
ヴァイオリン:リチャード・グウィルト(Richard Gwilt)
チェロ:イモージェン・セス=スミス(Imogen Seth-Smith)
フォルテピアノ:ルーシー・キャロラン(Lucy Carolan)

このアルバム、Brilliantの全集のロルナ・アンダーソンの素晴らしい歌唱そのまま。このアルバムがあったことでBrilliantが全集に起用したのではないかと想像しています。声質も美しいのですが、スコットランド風の英語の発音もあって歌にスコットランドの魂が宿っているように感じます。演歌はサブちゃん、レゲエはボブ・マーリー、スコットランド歌曲はロルナ・アンダーソンです。伴奏も古楽器の腕利き揃いでしっとりと見事なもの。曲数が多いので、曲ごとに簡単なコメントを。

Hob.XXXIa:115bis - JHW XXXII/3 No.239 "The minstrel" (Mr Pickering)
広い空間に古楽器の弦楽器とフォルテピアノの仄暗くも味わい深い伴奏が響き渡り、ロルナ・アンダーソンが入ります。いきなり素晴らしい歌唱にうっとり。minstrelとは吟遊詩人のこと。いきなりスコットランドの空気に包まれるよう。録音も歌曲にふさわしいしっとりとした響きの表情をうまくとらえたもの。

Hob.XXXIa:20bis - JHW XXXII/3 No.212 "Fy let's a' to the bridal - The blithsome(blythsome) bridal"
陽気な結婚式とでも訳したらいいのでしょうか、速めのテンポの快活な曲調の曲。アンサンブルも伴奏に徹して艶やかな響きでアンダーソンを支えます。

Hob.XXXIa:232 - JHW XXXII/4 No.289 "The border widow's lament" (Walter Scott)
隣の未亡人の嘆きという意味でしょうか。この曲は伴奏がフォルテピアノのみ。伴奏のフォルテピアノから滲みでる情感の深さが印象的。ロルナ・アンダーソンの歌の美しいことと言ったらありません。これは名曲。絶品。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
前半4曲の締めにあたる曲。聴いているうちにちょっと感極まるような美しい曲。この曲にはスーザン・ハミルトンの名盤がありますが、聴き比べてみたところ、ハミルトンが透き通るような声の美しさで聴かせたのに対し、このロルナ・アンダーソンの方がオーソドックスな良さがあります。伴奏もこちらの方が味わい深く、この曲のベストと言っていいでしょう。ハミルトン盤はアーティスティック過ぎるかもしれません。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
4曲の歌曲の後に、ピアノソナタXVI:24をヴァイオリンとフォルテピアノのためのに編曲した曲が挟まります。もともとピアノソナタの演奏が刷り込まれているので、フォルテピアノ主体の演奏にヴァイオリンがちょっとした伴奏を加えているように聴こえてしまいます。軽い曲想を生かした演奏。フォルテピアノはあまり大きく抑揚をつけず、ヴァイオリンの音色が加わることによる華やかさで聴かせる演奏。古楽器による雅な音色の美しさと、大らかな表情の変化がかえって心地よいですね。歌曲の合間の箸休め的演奏と割り切れる面白さがあります。

Hob.XXXIa:226 - JHW XXXII/4 No.226 "The braes of Ballochmyle" (Robert Burns)
中盤の4曲の歌曲に入ります。バロックマイルの丘という曲。バロックマイルはグラスゴーの南にある街。穏やかな丘陵を思わせるしっとりとした曲。

Hob.XXXIa:227 - JHW XXXII/3 No.229 "O wise and valiant Willy" "Rattling roaring Willy" 「おおかしこき勇敢なウィリー」 (Anne Grant)
1分ちょっとの短い曲。この曲も伴奏はフォルテピアノのみ。軽快なテンポのフォルテピアノに合わせてロルナ・アンダーソンも軽快に歌います。

Hob.XXXIa:229 - JHW XXXII/3 No.213 "Sleep'st thou, or wak'st thou" "Deil tak' the wars" 「眠っているの、それとも起きているの?」 (Robert Burns)
中盤の聴きどころ。穏やかな曲ながら、郷愁を感じるメロディーがしっとりと響きます。伴奏が時に非常にシンプルになりますが、それが実にセンスが良く、曲を引き立てます。流石ハイドン。

Hob.XXXIa:28 - JHW XXXII/1 No.28 "Up in the morning early" (Robert Burns)
中盤最後の曲。スコットランド歌曲の中では比較的録音が多く、先に触れたスーザン・ハミルトン盤があります。軽快な中に独特の雰囲気が宿り、伴奏と歌が掛け合いながら曲が展開します。

Hob.XV:23 Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
そして、今度は短調のピアノトリオを1曲挟みます。短調による影のある入りですが、曲が進むにつれて適度な鮮やかさと適度にリラックスしたアンサンブルとわかり、こちらの聴き方もゆったりしながら聴きます。こちらも単独で演奏する時のように攻め込む様子はなく、歌曲の箸休め的な配置なんですね。最近冴えたトリオの演奏が多かったので、対峙して聴くスタンスになっちゃってたことを少し反省。ピアノトリオはこうしてリラックスした演奏もいいものです。展開部も余裕たっぷりに繰り広げられる演奏にゆったりと身を任せます。
素晴らしいのが続く2楽章。ゆったりしていながら深みを感じる展開。特にフォルテピアノのルーシー・キャロランの表現力によるものでしょう。しなやかなタッチから繰り出させる慈しみ深い響き。
フィナーレはいつもながらハイドンの想像力に驚かされるところ。先ほどからルーシー・キャロランのフォルテピアノに耳をそばだてながら聴き入りますが、ここでも見事なタッチで演奏を支えます。キャロランの穏やかなたちがヴァイオリンとチェロを引き立てます。

Hob.XXXIa:201 - JHW XXXII/3 No.251 "The tears of Caledonia" (Tobias Smollet)
終盤の歌曲4曲に入ります。カレドニアの涙という曲。カレドニアとはグレートブリテン島の北部を指す言葉とのこと。ゆったりとした哀愁に満ちた伴奏から情感がこもります。ロルナ・アンダーソンの美声がそれに乗って物憂げな美しいメロディーを置いていきます。メロディーの美しさだけでグッとくる曲。

Hob.XXXIa:247 - JHW XXXII/4 No.285 "Happy Dick Dawson" (Hector Macneill)
幸せ者、ディック・ドーソンとでも訳すのでしょうか。穏やかな明るい曲調に影を感じるロルナ・アンダーソンの声が乗って、なんとも言えない柔らかい曲。

Hob.XXXIa:81bis - JHW XXXII/4 No.81bis "Macgregor of Ruara's lament" (translated from the Gealic by Anne Grant)
終盤で一番美しい曲。典雅の極み。ロルナ・アンダーソンの声質に合っているからでしょうか、高音の響きの美しさは素晴らしいものがあります。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 "Jenny's bawbee" 「ジェニーのボービー」 (Alexander Boswell)
最後は明るい有名曲を持ってきました。最後にさらりとした曲で終わるこの配置はハイドンらしいですね。

スコットランド出身の歌手と奏者による、スコットランド民謡にハイドンが伴奏をつけたスコットランド歌曲集。歌も伴奏も録音も非常にレベルが高く、そして、本場物らしい説得力もある素晴らしいアルバムでした。評価は全曲[+++++]とします。途中で触れたスーザン・ハミルトン盤は伴奏も一流どころですがオーセンテックさを強調した演奏のため、オーソドックスな演奏を楽しむには、このカスタリアン・バンド盤かキャサリーン・ボット盤がオススメです。特にこのカスタリアン・バンド盤は選曲がよく、名曲ぞろい。スコットランド歌曲集のファーストチョイスとしてもオススメできます。が、古いアルバム故、手に入るうちにどうぞ。

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ガメリート・コンソートのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

最近すっかりピアノトリオの魅力にとり憑かれています。ということでピアノトリオの名盤、ただし激マイナー盤を取り上げます。

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ガメリート・コンソート(Gamerith Consort)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:12)、弦楽四重奏曲「皇帝」の2楽章をハンマーフリューゲルで弾いたもの、スコットランド歌曲集の2曲を編曲したもの、ロンドン・トリオの2番(Hob.IV:2)、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:24)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1982年。レーベルは今は亡きKOCH傘下のedito pro musica。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたものですが、かなり困った造りなんです。このアルバムがリリースされた1982年といえばLP全盛期にCDがはじめてリリースされた年。CD最初期のリリースですが、ジャケットにライナーノーツは完全にLP用のものを無理やりCDの大きさに縮小したもの。つまり字がすんご〜い小さい。今までここまで小さい字のライナーノーツには出会ったことがありません。すなわち米粒に書いた文字を読むがごとき苦労をともなうもので、初期とはいえ老眼症候群の私には非常に読みづらい(笑) それでも、ルーペを駆使して極小フォントの英文を読んでみると、1982年とはハイドンの生誕150年のアニヴァーサリーということで録音されたもののようで、ハイドンがエステルハージ家で過ごした最後の10年間に作曲された作品を集めたものだとわかりました。

奏者のガメリート・コンソートのピアノトリオのアルバムは実は手元にもう一枚あって、そちらもなかなかいい演奏なんですが、今日取り上げるアルバムは、さらにいい演奏なのでレビューに取り上げた次第。

ガメリート・コンソートは1967年に設立された団体で、主に17世紀の作品を古楽器で演奏するアンサンブルとのこと。小さい字をさらに読んで、所有盤リストに登録すべく奏者などを調べていると、ハンマーフリューゲルを弾いているのは、ニコラス・マギーガン。マギーガンといえば、当サイトで主催するH.R.A. Award 2015の交響曲部門を見事射止めたニコラス・マギーガンです。さらにびっくりしたのが、このマギーガン、4曲目に収録されているロンドントリオでは、フラウト・トラヴェルソまで吹いています。あわてて元から手元にある方のガメリート・コンソートのアルバムを取り出して調べてみると、録音は1988年でハンマーフリューゲルはフランツ・ツェビンガーという別人でした。ということで、1982年当時のガメリート・コンソートのメンバーがマギーガンだったということですね。

2015/12/31 : H. R. A. Award : H. R. A. Award 2015
2015/05/09 : ハイドン–交響曲 : 絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)
2011/09/03 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

マギーガンの略歴はロンドンの記事を御覧ください。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
まずはピアノトリオの傑作を冒頭にもってきました。この曲と最後の曲のメンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ゲルトラウド・ガメリート(Gertraud Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)
ハンマーフリューゲル:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)

古楽器によるテンポ良い曲の入り。古楽器の演奏から想像される典雅なものではなく、かなりダイナミックなもの。しかも、この前取り上げたヴィヴェンテ三重奏団ばりの推進力とキレを彷彿させるもの。もちろんその原動力はニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲル。1楽章は速めのテンポに乗って鮮やかに冴え渡るタッチで一気に描き上げる快演。アクセントのキレかたも尋常ではありません。全員のキレが冴えすぎて怖いくらい。
素晴らしいのがつづくアンダンテの沈み方。キレ良い1楽章から見事に切り替え、じっくりと音楽を造っていきます。まさに緩急自在の孤高の美しい音楽。フレーズごとに巧みにテンポを揺らすマギーガンのハンマーフリューゲルに合わせて、ゲルトラウド・ガメリートの伸びやかな古楽器のヴァイオリンが寄り添います。ヴァイオリンの音色の雅な美しさも聴きどころ。チェロもリズムがキレていて鮮度抜群。途中踏み込んだ抑揚で音楽を盛り上げます。
3楽章で再び冴えたリズムを取り戻し、素晴らしい吹き上がりで聴くものを圧倒、徐々にテンションを上げながら頂点にむかっていることを敢えて意識させる高度な演出。終盤の迫力は圧倒的。古楽器でこれほどのダイナミクスを聴かせるとは。自在なタッチのマギーガンのハンマーフリューゲルが出色の出来。なんというキレ。1曲目から圧倒されます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
2曲目は有名な皇帝の2楽章をマギーガンのハンマーフリューゲル独奏で。ピアノトリオの嵐のような演奏から一転、しっとりと落ち着いた演奏。テンポもテンションも落として、じっくりと主題を描いたあとは、変奏で曲の多層構造を克明に描いていきます。流石にマギーガン、フレーズ毎の表情の演出が実に巧み。まさに自在な演奏。変奏から溢れる詩情に蒸せ返るよう。訥々とした演奏から湧き上がる郷愁の念。ハンマーフリューゲルの響きの美しさに聴き入ります。

Hob.XXXIa:176 - JHW XXXII/3 No.263 "The blue bell of Scotland" 「スコットランドの青い鐘」 (Anne Grant)
続いてゲルトラウド・ガメリートのヴァイオリンとマギーガンのハンマーフリューゲルによる、スコットランド歌曲の「スコットランドの青い瞳」(Hob.XXXIa:176)と「好きなあの娘はまだ小娘」(XXXIa:194) の2曲をもとにハイドンが編曲した変奏曲。この曲がスコットランド歌曲の美しいメロディーを生かした素晴らしい曲。素朴なメロディーをヴァイオリンの伴奏に乗ってハンマーフリューゲルゲルが自在に奏でます。5分少々の曲ですが、一気にスコットランドへの郷愁溢れる雰囲気に。演奏している方も楽しそう。

Hob.IV:2 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
この曲ではマギーガンがハンマーフリューゲルからフラウトトラヴェルソに持ち替えます。

フラウトトラヴェルソ:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)
フラウトトラヴェルソ:ウォルフガング・ガメリート(Wolfgang Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)

歌曲の「貴婦人の姿見」の美しいメロディーを使った1楽章構成の曲。この曲はクイケン三重奏団による素晴らしい演奏がありますが、もちろんテクニックと深みはクイケンですが、逆に素朴な曲の面白さはこちらに分があります。ゆったりとした雰囲気のなか2本のフラウトトラヴェルソによる実に素朴で美しいメロディーが流れ、曲の美しさに引き込まれます。マギーガンのフラウトトラヴェルソ、悪くないどころか、かなりいい線いってます。クイケンのアーティスティックさに対し、こちらは癒しで聴かせる音楽。心に沁みます。

Hob.XV:24 Piano Trio (Nr.38/op.73-1) [D] (1795)
最後に再びピアノトリオ。1曲目同様、全編にみなぎるエネルギーとキレ。アルバムの最初と最後にこの素晴らしいトリオの演奏をもってくるあたり、まるで一夜のコンサートを聴くような構成。アルバムの完成度という意味でも素晴らしい構成。演奏も絶品。1楽章からのキレに加えてうねるようなエネルギーのコントロール、堂々とした風格、そして軽々と音階を上下するマギーガンの鮮やかなタッチと言うことなし。古楽器によるピアノトリオの頂点と言っていい素晴らしさ。

ガメリート・コンソートによるハイドン晩年のピアノ三重奏曲などの室内楽を収めたアルバム。若き日のニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲルとフラウトトラヴェルソを聴ける貴重なアルバムですが、正攻法のピアノトリオを最初と最後に置き、間に美しいメロディーの曲を散りばめるといったアルバムの構成も、もちろん演奏のクオリティも絶品のアルバム。CD草創期のプロダクツゆえ、ジャケットの造りはかなり無理があるものですが、演奏の素晴らしさに目をつむりましょう。まだ手に入りそうですので、室内楽、特にピアノトリオが好きな方(笑)は是非ご入手ください! 評価は全曲[+++++]とします。

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【新着】野々下由香里/桐山建志/小倉貴久子の歌曲集(ハイドン)

今日は最近仕入れた珍しいアルバム。

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浜松市楽器博物館コレクションシリーズ52「スクエアピアノとイギリス家庭音楽の愉しみ」と題されたアルバム。収録曲目はハイドンの歌曲3曲、クラヴィーアソナタ1曲、他にクレメンティ、ヨハン・クリスチャン・バッハのクラヴィーアソナタ、モーツァルトの歌曲、キラキラ星変奏曲などを収めたアルバム。収録は2013年1月2日から4日、アクトシティ浜松音楽工房ホールでのセッション録音。浜松市楽器博物館オリジナルプロダクション。

もちろんハイドンの曲目当てということで手に入れたアルバムです。まずはこのアルバムをリリースしている浜松市楽器博物館について調べてみます。

浜松市楽器博物館

浜松といえヤマハ、カワイ、ローランドなど音楽に関係する企業の本社があるため、浜松市も「音楽のまち」として音楽で町おこしをしています。浜松駅前のアクトシティには立派なコンサートホールが2つもあり、また、この楽器博物館もそうした音楽振興の一環でつくられたものでしょう。浜松駅の北口からすこしのところに博物館があるそうで今年で20周年とのこと。今日取り上げるアルバムジャケットの右上にも楽器博物館20周年と誇らしげに記されています。ウェブサイトを見てみると収集している楽器はヨーロッパのみならずアジアやオセアニア、もちろん日本のものもあり、雅楽器から現代の洋楽器、電子楽器までと幅広いコレクション。そしてお気づきだと思いますが、今日取り上げるアルバムは浜松市楽器博物館コレクションシリーズのなんと52巻目ということで、楽器収集のみならず、こうしたプロダクションにもかなり力を入れていることがわかります。

このアルバムは楽器博物館の所蔵品である1805年クレメンティ社によって発売されたトーマス・ラウド(Thomas Loud)制作のスクエアピアノを演奏したもの。1806年といえばまだハイドンが存命、と言っても最晩年ですが、同じ時代のもの。スクエアピアノは現代のグランドピアノのような大型のものと異りリーズナブルな価格やコンパクトな形状からこの頃以降、イギリスの中産階級の家庭で大流行したとのことで、このピアノで歌曲などを楽しむというのは誠に理にかなったもの。所有する楽器の楽しみ方を心得たプロダクションですね。ライナーノーツには楽器の詳細な解説、演奏者の情報、曲目解説、歌詞まできちんと載せられ、しっかりとしたプロダクションであることがわかります。

演奏者について触れておきましょう。
スクエアピアノは小倉貴久子さん。コンサートや録音でご存知の方も多いでしょう。芸大、アムステルダム音楽院を卒業後、1993年ブルージュ国際古楽コンクールのアンサンブル部門、1995年同フォルテピアノ部門で1位となり、以後国際的に活躍しています。
ヴァイオリンの桐山建志さんは、芸大、フランクフルト音楽大学を卒業後、1998年同じくブルージュ国際古楽コンクールソロ部門で1位となった人。
そしてソプラノの野々下由香里さんは、芸大、パリのエコール・ノルマル音楽院を卒業、バッハ・コレギウム・ジャパンのソプラノソリストとして多くのアルバムの録音に参加しているのでご存知の方も多いでしょう。

Hob.XXXIa:112bis - JHW XXXII/3 No.262 "Green sleeves" (Robert Burns)
古楽器のヴァイオリン特有の鋭い音色と、フォルテピアノのような音色のスクエアピアノによる伴奏から入ります。ハイドンの編曲によるスコットランド歌曲集では本来チェロが入るのでしょうが、このアルバムではヴァイオリンが加わるのみ。ヴァイオリンの桐山建志さんは非常に存在感のある音色。メロディはシンプルなのにぐっと沁みるヴァイオリン。よく聴くとスクエアピアノはフォルテピアノと比べて特に低音部の迫力は抑え気味、楽器の大きさからでしょうか、優しい音色ですね。ただ驚くのは音色のピュアさ。よほど調律が追い込まれているのでしょう、響きに濁りがなく、高音から低音まで、実に気持ちよく響きます。録音はこうした楽器に焦点を合わせたプロダクションとしてはちょっと異例で、ホールでゆったり音楽を楽しむような残響が比較的多めの録音。もう少しスクエアピアノの音色をオンマイクで拾っても良いかもしれませんが、ゆったりと音楽を楽しむには絶好のもの。
ここまで歌に触れずにきましたが、このアルバムの聴きどころは野々下由香里さんの歌でしょう。出だしから素晴らしい歌唱。日本人の歌唱だと言われなければ気づかないほど自然な英語で、しかも古楽器に合う透明感のある声。私は野々下さんは初めて聴く人、と思ってバッハ・コレギウム・ジャパンの手元のアルバムを何枚か見てみたら、野々下さんの参加しているアルバムがありました。ということで、私は野々下さんは「意識して」聴くのは初めて、ということになります(笑)
このグリーン・スリーブスはおなじみのヴォーン・ウィリアムスのメロディーのものとは違う曲ですが、スコットランド歌曲集の特徴である郷愁を感じさせる独特な雰囲気を持っています。小倉貴久子さんのスクエアピアノは実に端正。最初はちょと踏み込み不足に聴こえなくもありませんが、聴きなおすと、清々しさを感じさせるような心地良さがあり、リズム感も抜群、そして音の粒が揃って、理想的な演奏。完璧な自然さとでも言ったらいいでしょうか。1曲目から素晴らしい演奏に酔います。

Hob.XXVIa:25 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
おなじみの曲。この曲の伴奏はスクエアピアノのみ。小倉貴久子さんの華麗な伴奏に乗って野々下さんも気持ち良さそうに歌います。スクエアピアノの音階が宝石のように光り輝き、美しく躍動します。この曲の伴奏の中ではピカイチ。前曲同様、非常に楽器の響きが澄んでいますね。3分少々の曲ですが既にうっとり。

Hob.XVI:41 Piano Sonata No.55 [B] (c.1783)
2曲の歌曲の後に2楽章のピアノソナタが入りますが、このあたりでスクエアピアノの音色を純粋に楽しめということでしょう。ここでも小倉貴久子さんのタッチは冴え渡って、まるで自分が所有する楽器のように馴染んでます。非常に演奏しやすそう。先日生で聴いたクラヴィコードもそうでしたが、家庭などの少人数で楽しむには必要十分というより、むしろ、この身近さがよりふさわしいと言ったほうがよいのでしょう、ほどほどのダイナミクスに透明な響き、楽器のそばで演奏を楽しむという意味ではピアノやフォルテピアノよりもふさわしいと思わせる説得力がある音色。それにしてもコピーではなく実際に1806年に製造された楽器ということで、この楽器のコンディションは驚異的。高音から低音までの音の素晴らしい音のバランス。ビリつきは皆無。実に澄んだ音色と三拍子そろっています。そして小倉さんの素晴らしい演奏で、楽器も喜んでいることでしょう。まさに自宅でハイドンのソナタを楽しむ境地。絶品。

この後、クレメンティ、クリスチャン・バッハ、モーツァルトの曲が挟まりますが、中でもクリスチャン・バッハのクラヴィーアソナタ(Op.5-3)のスクエアピアノから繰り出される色彩感豊かな響きと、モーツァルトのおなじみのキラキラ星変奏曲の純粋無垢な音色は秀逸。スクエアピアノのニュアンス豊かな響きに引き込まれます。

Hob.XXXIa:218 - JHW XXXII/5 No.388 "Auld lang syne" (Robert Burns)
アルバムの最後に置かれたスコットランド歌曲集から蛍の光。ヴァイオリンとスクエアピアノに乗って野々下さんの歌う、スコットランド風の蛍の光。いやいや、スコットランドの草原に立って風を浴びているような心境になりますね。名手3人が繰り出す自然な音楽の浸透力の素晴しさに打たれます。音楽の力とはすごいものですね。日本では卒業式の合唱か閉店のBGMのメロディでしょうが、こうしてソプラノとヴァイオリン、スクエアピアノでハイドンの手による伴奏で聴く蛍の光の深さはまったく異なる力をもっていることがわかります。いやいや、いいアルバムです。

まことに失礼ながら、浜松市楽器博物館コレクションシリーズというプロダクションから想像される出来とは異なり、まことに素晴らしいプロダクションでした。貴重なコレクションであろうこのスクエアピアノの素晴らしさを完璧に伝える好企画。しかも演奏者、選曲、楽器のコンディション、調律、録音、すべてお見事。公共の仕事でここまでレベルの高い仕事はそうあるものではありませんね。評価は全曲[+++++]です。これはこのシリーズの他のハイドンの録音、聴かなくてはなりません。

期待を込めてあえて一つだけ課題をあげればジャケットでしょうか。タイトルもスクエアピアノの写真をメインとしたデザインも悪いわでではありませんが、このアルバムの中身の素晴しさ、演奏者の素晴しさを伝え切れていない感じも残ります。このプロダクションにデザインの力が加われば世界で勝負できると思います。今後に期待です。

そして、この楽器博物館、一度訪れてみなくてはなりませんね。このアルバムから伝わる制作者の心意気、しっかり受け止めました。当ブログの読者のハイドン好きな皆さん、このアルバムは買いです。ハイドンの時代の空気を吸ったような気持ちになります。

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tag : スクエアピアノ スコットランド歌曲 英語カンツォネッタ集 ピアノソナタXVI:41

【新着】ウェルナー・ギュラのスコットランド歌曲集(ハイドン)

歌曲のアルバムが続きます。テノールによるスコットランド歌曲集。

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ウェルナー・ギュラ(Werner Güra)のテノール、クリストフ・ベルナー(Chirstoph Berner)のフォルテピアノ、ジュリア・シュレーダー(Julia Schröder)のヴァイオリン、ロエル・ディールティエンス(Roel Dieltiens)のチェロによる、ハイドンのスコットランド歌曲集から13曲とピアノ三重奏曲(Hob.XV:27)のあわせて14曲を収めたアルバム。収録は2012年3月、ドイツ南部のノイマルクトにあるライトシュターデル文化センターでのセッション録音。レーベルは名門仏harmonia mundi。

歌手のウェルナー・ギュラはジャケット写真を見る限り、いい感じのおじさん。調べてみると、1964年ドイツのミュンヘン生まれとの事。同世代です(笑)。手元のアルバムでは、ルネ・ヤーコプスの四季、アーノンクールの四季の新盤でルーカスを歌っている他、アーノンクールの「騎士オルランド」にも登場しています。ザルツブルク・モーツァルテウムで学んだ後、バーゼル、アムステルダムでクルト・ヴィドマー、テオ・アダムらに師事しました。フランクフルト歌劇場、バーゼル歌劇場に客演したのち、1994年から99年までドレスデンのゼンパー・オーパーで主にモーツァルト、ロッシーニ歌いとして活躍、1998年以降はベルリン国立歌劇場に客演しています。録音ではルネ・ヤーコプスやアーノンクールの他、フィリップ・ヘレヴェッヘなどのアルバムにも登場し、主に古楽系のアーティストとの共演が多いようですね。ソロをちゃんと聴くのははじめての人。

フォルテピアノのクリストフ・ベルナーはウィーン生まれの若手。弾いているのはCollard & Collardのフォルテピアノ。ヴァイオリンのジュリア・シュレーダーは1978年南ドイツのシュトラウビング生まれ。チェロのロエル・ディールティエンスは1957年ベルギーに生まれのベテラン。聴く限り皆かなりのテクニシャンです。

なぜかこのところスコットランド歌曲集のアルバムないろいろリリースされています。一つ前のレビューで取りあげたドロテー・ミールズのアルバムでもソプラノによる素晴しいスコットランド歌曲が聴かれました。このウェルナー・ギュラの歌うアルバムもそれに負けず劣らず魅力的。もちろん、スコットランド歌曲集にはBrilliant Classicsの全集という燦然と輝く名盤がありますが、この素朴なメロディーにハイドンが創意を凝らしてピアノトリオの伴奏をつけた膨大な曲集には、様々な演奏が光を当てて多様な美しさを演出する価値があります。

このギュラ盤はフォルテピアノと古楽器による伴奏ですが、Collard & Collardの響きはフォルテピアノといってもかなり現代ピアノに近い響きのもので、古楽器らしい雅な魅力ではなく、古楽器を感じさせるオーセンティックな音色による、精緻な躍動感と多彩なデュナーミクのコントロールを感じさせるもの。ギュラの声も豊かな響きで堂々としながら、この素朴な歌曲のデリケートなニュアンスを実に良く汲んだもの。ときおり見せるくだけた表情も表現の幅を感じさせ、歌うことを心から楽しんでいるように聴こえます。

収録曲は下記のとおり。独特なのが、1曲含まれているピアノトリオが、1楽章ずつ細切れにされ、スコットランド歌曲の間にはさまれていること。当時はこうした形で演奏されたということなのでしょうか。そして、曲を登録していて気づいたのですが、このアルバムに収録された13曲のスコットランド歌曲のうち、実に6曲がBrilliant Classicsの全集の一番最初にリリースされた第1巻に含まれる曲。私がスコットランド歌曲集の魅力に取り憑かれたのもBrilliant Classicsの第1巻があまりに素晴しかったからで、それこそ擦り切れるほど聴いたアルバムです。

ということで、このアルバム、名門harmonia mundiが、新興勢力であるBrilliant Classicsの後塵を拝することになってしまったスコットランド歌曲集という分野での起死回生の刺客という位置づけかもしれません。重なる曲の出来を聴けといわれているような気分になります。そういった視点でも面白い企画ということが出来るでしょう。

主だった曲のみコメントをつけます。

Hob.XXXIa:31bis - JHW XXXII/3 No.152 / "The lea-rig" 「リー・リグ」 (Robert Burns)
いきなりスコットランドの空気につつまれるよう。Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。フォルテピアノはかなりリズムに抑揚をつけて、爽やかながら豊かな表情をリード。晴朗さで聴かせるBrilliant Classics盤とはアプローチが異なり、精緻な録音と相俟って彫りの深い音楽が流れます。

Hob.XXXIa:143bis - JHW XXXII/3 No.254 / "Morag" 「モラグ」 (Robert Burns)
重くたれ込める鉛色の雲の無限の階調を詩情深く歌うような曲。陰る表情の余韻の美しさが際立ちます。フォルテピアノの音色の美しさが印象的。この曲もBrilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。

Hob.XXXIa:229 - JHW XXXII/3 No.213 / "Sleep'st thou, or wak'st thou" "Deil tak' the wars" 「眠っているの、それとも起きているの?」 (Robert Burns)
同様第1巻に含まれています。ホーボーケン番号がBrilliant Classics盤と合いません。ここではBrilliant Classicsの番号で記載しています。

Hob.XXXIa:227 - JHW XXXII/3 No.229 / "O wise and valiant Willy" "Rattling roaring Willy" 「おおかしこき勇敢なウィリー」 (Anne Grant)

この間にピアノトリオの1楽章が挟まりますが、まとめて最後に記載します。

Hob.XXXIa:11bis - JHW XXXII/3 No.166 / "Twas at the hour of dark midnight" "Barbara Allan" 「それは暗い真夜中のことだった」 (Sir Gilbert Elliot of Minto)
ピアノトリオの快活な響きからさっと切り替え、しっとりと沈んだ表情の曲。叙情的になりすぎることなく、キレ味の鋭い沈み方。ヴァイオリンとチェロがフォルテピアノのテンポに寄り添うように音を重ねていきます。ギュラの歌唱は余裕があり、フレーズごとの表情をかなりくっきりとつけて、曲の流れをしっかりとコントロールし、歌手と伴奏の音楽が見事に呼応しています。こうゆう遅い曲を表情豊かに演奏するのはかなりの腕と見ました。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 / "Jenny's bawbee" 「ジェニーのボービー」 (Alexander Boswell)

Hob.XXXIa:1bis - JHW XXXII/3 No.201 / "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
お気に入りの曲。この曲はBrilliant Classics盤には2つのバージョンが収めらていますが、ドロテー・ミールズ盤とは違うホーボーケン番号のもの。曲の詳細はわかりませんが、この郷愁あふれる曲をギュラは凛々しくも朗々と歌い上げていきます。男声による歌も悪くありません。

このあとピアノトリオのアンダンテ。

Hob.XXXIa:219bis - JHW XXXII/3 No.186 / "The night her silent sable wore" "She rose, and let me in" 「夜に喪服を着て」
Brilliant Classics盤の第1巻の2曲目に収められた名曲。擦り切れるほど聴いた曲。ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットよりもすこし冷静な演奏。凛々しさが心に刺さるよう。響きの良いホールに余韻が広がる様が手に取るようにわかる素晴しい録音。

Hob.XXXIa:153 - JHW XXXII/3 No.159 / "William and Margaret" 「ウィリアムとマーガレット」 (David Mallet)
Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲。ほの暗い曲を、ざらついた音色のヴァイオリンのあえてくだけたボウイングがさらに表情を濃くして独特の雰囲気をつくります。

Hob.XXXIa:178bis - JHW XXXII/5 No.422 / "Bessy Bell and Mary Gary" 「ベッシー・ベルとメリー・グレイ」 (Allan Ramsay)

Hob.XXXIa:4bis - JHW XXXII/3 No.216 / "There was a lass" "Willie was a wanton wag" 「とある小娘」 (Robert Burns)
Brilliant Classicsの第1巻に含まれる曲はこの曲でおわり。

Hob.XXXIa:175 - JHW XXXII/3 No.245 / "Highland Air. The lone vale" 「孤立した谷」 (The Hon. Andrew Erskine of Kellie)
タイトルからハイランドのシングルモルトをいただきたくなるような曲。ちょうどハイランドモルトのように、強烈な個性のアイラと甘みのスペイサイドとは異なる、クラインリーシュのような気高い香りを感じるような曲。

Hob.XXXIa:194 - JHW XXXII/3 No.236 / "My Love she's but a lassie yet" 「好きなあの娘はまだ小娘」 (Robert Burns, Hector Macnail)
最後はギュラのくだけた表現で聴かせる曲。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
3つの楽章が歌曲の間にバラバラに収められているのですが、今はCD時代ゆえまとめて1曲として聴く事ができます。ちなみにこのピアノトリオの演奏も爽やかさを保ちながら曲の起伏をきっちり表現した名演奏。これだけでも伴奏の3人の素晴らしい腕がわかります。

ウェルナー・ギュラの歌うハイドンが伴奏をつけたスコットランド歌曲集。これまたすばらしい出来でした。響きの良いホールでのびのびと演奏する様子が鮮明な録音で録られています。ギュラははじめてちゃんと聴きましたが、表現に余裕があり、歌詞とメロディーを完全にコントロールしています。伴奏の3人も伴奏にしておくにはもったいないほどの腕前。やはり老舗レーベルのプロダクションと唸る出来映えです。スコットランド家曲のアルバムは良いアルバムがいろいろありますが、このアルバムも歌曲好きの人には絶対のオススメ盤ですね。評価はご想像のとおり、全曲[+++++]としました。

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【新着】ドロテー・ミールズの歌曲集

実に久しぶりのレビュー。先月末から約1ヶ月、関西への旅行をきっかけに旅行記にかまけて、レビュー記事をアップしておりませんでした。純粋にハイドンファンの皆様には大変ご無沙汰をしておりました。しばらくはハイドンのレビューに集中したいと思います。

さて、今日は最近手に入れたアルバムから、お気に入りの一枚を取りあげたいと思います。

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ドロテー・ミールズ(Dorothee Mields)のソプラノ、レサミ・ド・フィリッペ(Les Amis de Philippe)の伴奏による、ハイドンの英語カンツォネッタ集から6曲、スコットランド歌曲集から12曲のあわせて18曲を収めたアルバム。収録は2013年2月18日から21日にかけて、ドイツ,ブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはマイナーな曲を網羅的に録音している独cpo。

ドロテー・ミールズは1971年、ドイツのエッセン近郊の街、ゲルゼンキルヒェン生まれのソプラノ。バロック及び現代音楽をレパートリーとしているそうです。子供のころピアノとヴァイオリンを習い、歌をエッセンで習うとその後、いくつもの合唱団で経験を積み、ブレーメン芸術大学で声楽を学ぶようになります。大学では17世紀、18世紀の音楽に対する興味が増し、ハリー・ファン・デル・カンプ等に師事、卒業後はシュツットガルトでユリア・ハマリについて声楽を学びました。その後は古楽、現代音楽のコンサートで経験を積み、レパートリーはモンテヴェルディからブーレーズまでとかなり広く、手元のアルバムではヘンゲルブロックの天地創造でエヴァを歌っていました。

伴奏のレサミ・ド・フィリッペは、ヴァイオリン、ヴィオラ、フォルテピアノの3人から成る団体。メンバーは下記のとおり。

ヴァイオリン:エヴァ・サロネン(Eva Salonen)
チェロ:グレゴール・アンソニー(Gregor Anthony)
フォルテピアノ:ルドガー・レミー(Ludger Rémy)

この歌曲集、好きなハイドンの歌曲集ということで、注文を入れておりましたが、到着して聴いてみると、清透なドロテー・ミールズのソプラノの美しさのみならず、しっとりとした伴奏の美しさ、特に遅いテンポの曲に宿る静けさのようなものの表現の美しさにぐっときました。ハイドンが最晩年に手がけたスコットランド民謡への伴奏づけという仕事の面白さが手に取るようにわかる、実に見事な演奏。ちょっと旅ボケしていた私の、ハイドンの音楽の素晴しさを感じる脳の中枢のスイッチを入れ直してくれるような癒し系のアルバムです。

18曲もの曲が収められているので、曲ごとに簡単にメモを残しておきましょう。

Hob.XXVIa:32 / 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
カンツォネッタ集からの曲はフォルテピアノのみの伴奏。ルドガー・レミーのフォルテピアノは歌曲の伴奏ということを踏まえた雄弁すぎないサポート。清らかで良く延びるドロテー・ミールズのソプラノに対し、訥々と語りかけるようなタッチで寄り添います。切々としたほの暗い表情の美しさ際立つ曲。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲ですが、時折消え入るような伴奏の表現の幅の大きさが素晴しく、これまでの演奏の中でも、曲の劇性が際立って、特に静けさの表現が秀逸。歌曲における伴奏の重要さを再認識。しっとりとしているのに、素晴しい立体感を感じます。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
つづく名曲。この曲も入りの伴奏から、グッと惹き付けられます。ミールズの歌はそれに応えるように、しっとりと艶やかで、一貫して清楚。発音もドイツ人とは思えない自然さ。ここまでの3曲が英語カンツォネッタ集からの曲。

Hob.XXXIa:9 - JHW XXXII/1 No.9 / "The waefu' heart"
ここからはスコットランド歌曲。伴奏にヴァイオリンとチェロが加わりますが、フォルテピアノの雄弁さがヴァイオリンとチェロにも乗り移っているような、見事なしっとり感。スコットランド歌曲集といえば、Brilliant Classicsからリリースされているアイゼンシュタット・トリオの全集が決定盤ではありますが、キレのいいカッチリとした伴奏の魅力で聴かせるもの。こちらはそれにたいし陰りのようなものを実に旨く表現していて、スコットランド歌曲集の別の魅力を引き立てます。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 / "John Anderson" (Robert Burns)
徐々に、ミールズの歌と、レサミ・ド・フィリッペの伴奏の醸し出すえも言われぬ世界に魅力に引き込まれます。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 / "Mary's dream" (Alexander Lowe)
感極まったのがこの曲。以前聴いたスーザン・ハミルトン盤もすばらしかったのですが、再びノックアウト。スコットランドの魂に触れるような素晴しい曲。美しすぎるメロディー。スコットランドの鉛のような空の魅力をたっぷり含んだ名曲。ハイドンのつけた伴奏はこの曲の美しさを余すところ無く伝えます。

Hob.XXXIa:246 - JHW XXXII/3 No.230 / "The boatman" (Allan Ramsay)
前曲の余韻を昇華するように、さらりと明るい歌が脳の別の中枢を刺激。歌っている歌手、伴奏を担当する演奏者自身が微笑みながら演奏を楽しんでるようすが手に取るように伝わる素朴な音楽。音楽の楽しみの真髄はこうした素朴な音楽にあるのだとハイドンが微笑んでいるよう。

Hob.XXXIa:235 - JHW XXXII/3 No.257 / "Langolee" (John Tait)
聴き進むごとに、どっぷりとスコットランド歌曲の魅力に浸かっていきます。ドロテー・ミールズの豊かな表情づけの魅力を堪能。ヴァイオリンとチェロはくだけた表現で、ミールズの素朴な魅力をさらにもり立てます。

Hob.XXXIa:173 - JHW XXXII/3 No.181 / "Sensibility" (Robert Burns)
ミールズの高音の素朴な伸びの美しさが際立ちます。録音は最新のものですので、適度に控え目な残響のなかにしっかりと奏者が浮かびあがり、実体感溢れる安定したもの。

Hob.XXVIa:42 / "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
つづく3曲は再び英語カンツォネッタ集から。伴奏もフォルテピアノのみに戻ります。民謡から歌曲に戻ったことを印象づけるフォーマルな雰囲気に変わり、歌もタイトな表情に変わります。高音の音階の美しさを真摯に表現して、コントロール力を印象づけます。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
伴奏がシンプルになったことで、ミールズの歌に集中。あまりヴィブラートをかけないのびのびとした歌唱で、声の透明感が強調されますが、しなやかさが欠ける場合も多いものですが、ミールズの声質はもともとやわらかさをもっており、じつにしっとりと響きます。

Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
間に挟まれた3曲のカンツォネッタ集からの曲はいずれもフォーマルな佇まいをもつ曲。アルバムの中間において、変化をつけるという趣旨でしょう。なかなかいい発想です。

Hob.XXXIa:91 - JHW XXXII/1 No.91 / "Jockie and Sandy" (Robert Burns)
やはり、このアルバムの主役はスコットランド歌曲集。ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏の饒舌さは素晴しいもの者があります。1分少しの曲なのに雰囲気を変えるインパクトをもっています。

Hob.XXXIa:3 - JHW XXXII/1 No.3 / "I love my love in secret" (Robert Burns)
語るような歌い口に伴奏もくだけて応じ、じつに楽しげな演奏。

Hob.XXXIa:13bis - JHW XXXII/3 No.214 / "Gramachree" (Said to have been written in Bedlam by a Negro)
終盤の名曲。再びスコットランドの魂にふれるような郷愁溢れるメロディーにぐっときます。繰り返し以降のすこし力を抜いた歌のはかない美しさは秀逸。伴奏は明らかに曲のメリハリを意識して、かなり弱音を緻密にコントロールしています。

Hob.XXXIa:168 - JHW XXXII/3 No.161 / "Auld Robin Gray"
そうとう考えた選曲なんでしょう。アルバムの終盤の曲にふさわしい、名残惜しさと機転を感じさせる曲。途中での短調への転調のキレ。そして静けさに徐々に包まれるような気配。

Hob.XXXIa:134 - JHW XXXII/2 No.134 / "What can a young lassie do" (Robert Burns)
そして、ヘザー・ハニーのような独特の芳香を放つ曲。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 / "Jenny's bawbee" (Alexander Boswell)
最後はコケティッシュなドロテー・ミールズの表現の幅の広さを印象づけます。ヴァイオリンは音程を狂わせるほどの演出で、このアルバムが皆を楽しませるための音楽であることを気づかせます。なかなか粋な演出です。

いやいや、このアルバム奥が深い。歌曲のアルバムは歌手の特徴がわかってしまうと、その個性をずっと引きずる単調さをはらむリスクがありますが、このアルバムでは、曲を変え、表現を変えて、ハイドンの歌曲の面白さと、ドロテー・ミールズの表現力を存分に楽しめる構成になっています。スコットランド歌曲集の面白さが際立ち、特にマリーの夢は名唱。伴奏もテクニックではなく味わいで聴かせる秀逸なもの。ハイドンの歌曲の入門盤としてもオススメです。評価は全曲[+++++]とします。

目の前には未聴盤の山。しばらくがんばります!

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アン・マッケイ/イギリスピアノ三重奏団のスコットランド歌曲集

今日は久々の歌曲。

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アン・マッケイ(Ann Mackay)のソプラノ、イギリスピアノ三重奏団の演奏でハイドンのスコットランド歌曲集から11曲とイギリスピアノ三重奏団によるピアノ三重奏曲2曲(Hob.XV:19、XV:21)を収めたアルバム。収録はPマークが1991年、ロンドンのモッティンガムにあるエドワード懺悔王教会でのセッション録音。レーベルは英Meridian。

Meridianは素晴らしい録音が多いレーベル。これまで取りあげたアルバムは、どれも非常に味わい深い名演奏です。また、録音も非常に良いのもいいですね。

2011/09/04 : ハイドン–声楽曲 : キャサリーン・ボット/メルヴィン・タンの歌曲集
2011/04/24 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】フー・ツォンのピアノ・ソナタ集-2 やはり絶品!
2011/04/23 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】フー・ツォンのピアノ・ソナタ集 絶品!
2010/09/25 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集

今日取り上げるこのアルバムは「ロンドンのハイドン」というタイトルがつけられ、ロンドン滞在時にハイドンが作曲、編曲した曲を集めたアルバム。ライナーノーツからアルバムのコンセプトに触れる部分を訳して紹介しておきましょう。

ハイドンは1791年と1794年の2度にわたってロンドンを訪れています。当時ハイドンの名は広くヨーロッパ中に知られており、ロンドンでは彼の来訪に大きな感心が集まっていたとの事。ハイドンはロンドンでの圧倒的な人気を受け、王室や貴族にたびたび招待されました。イギリス滞在中は、ウィンザー、ハンプトン・コート、ポーツマス、ワイト島、バース、ブリストルなど巡り、オックスフォードでは1791年7月に音楽博士を授与されました。ロンドンでのハイドンの創作活動は非常に印象深く、ザロモンの主催するコンサートのための作曲は多忙を極め、加えて多くの室内楽曲を作曲しました。ハイドン自身が手紙の中で「作曲から解放される日は1日たりともなかった」と書いたほどでした。
ロンドン滞在に関連して9曲のピアノ三重奏曲が作曲され、このアルバムに収録された2曲のピアノ三重奏曲は1794年、95年にかけてロンドンで出版されたものです。

ハイドンは、スコットランド民謡の編曲のうち最初の100曲を、破産しかけの音楽家であり出版社を営んでいたウィリアム・ネイピア(William Napier)への支援として作曲しました。出版からしばらくでネイピアの経済状況は好転しました。ハイドンはまたスコットランドの芸術と工芸を振興する評議会の代表であるジョージ・トムソン(Georg Thomson)からも編曲を依頼されました。この依頼はスコットランド民謡の保存・保護を目的としたものでした。当時の慣例に従い、鍵盤楽器とヴァイオリン、チェロの伴奏がつけられました。
1795年8月15日、ハイドンはイギリスに別れを告げました。伝記作家のグリージンガーによれば、ハイドンはたびたび「イギリス訪問があったからこそドイツで有名になった」と語っていたとのこと。ハイドンはイギリスでの生活は人生で最も幸せであったと感じていました。


アン・マッケイはイギリスのソプラノ歌手。ギルドホール音楽演劇学校出身で、あのエリザベート・シュワルツコップに師事。イギリスを中心に活動している人のようです。

またイギリスピアノ三重奏団もロンドンを活動拠点としている団体。メンバーは下記のとおり。

ピアノ:ティモシー・ラヴェンスクロフト(Timothy Ravenscroft)
ヴァイオリン:ジェーン・フォークナー(Jane Faulkner)
チェロ:マーク・シェリンデン(Mark Sherinden)

今日は歌曲の方を取りあげましょう。ピアノ三重奏曲はまたの機会に。

このアルバムに収められた歌曲はウィリアム・ネイピアのための編曲ということで、ハイドンの1回目のロンドン旅行の際、1791年から92年にかけて手がけられたものです。歌詞はロバート・バーンズによるものがほとんど。ロバート・バーンズ(Robert Burns)は1759生まれのスコットランドの国民的詩人。スコットランド語を使った詩作で知られ、スコットランド民謡の収集、普及にもつとめた人。ハイドンの27歳年下ですがが亡くなったのは1796年で、ハイドンよりだいぶ早くになくなっています。

Hob.XXXIa:45 - JHW XXXII/1 No.45 / "The gard'ner wi' his paidle" (Robert Burns)
アン・マッケイはイギリス人らしい透明感ある英語の発音と素直に響く伸びのいい高音をもつソプラノ。このスコットランド曲集にぴったりの声。歌は癖のない美しい声で、特に高い音の透き通るような魅力で聴かせるもの。イギリスピアノ三重奏団はピアノのラヴェンスクロフトの落ち着いた美しい響きによる伴奏が秀逸。ヴァイオリンとチェロは自己主張せず、寄り添うような演奏。Meridianらしく録音は非常に自然で我が家に奏者がやってきたようなプレゼンス。流石Meridianと思わせるまとまりですね。1曲目からスコットランドへの郷愁をかき立てる曲調にうっとり。

Hob.XXXIa:33 - JHW XXXII/1 No.33 / "Pentland Hills"
2曲目はエジンバラ近郊のペントランド丘陵のことを歌った曲。素朴なメロディーを几帳面に歌うアン・マッケイ。本格的な歌曲とは異なり、この素朴さが魅力でしょう。安定した歌と演奏故、あとは曲目と曲の特徴を紹介しておきましょう。

Hob.XXXIa:81 - JHW XXXII/1 No.81 / "Raving winds" (Robert Burns)
「荒れ狂う風」とか「嵐」とでも訳すのでしょうか。ただ曲はそのような言葉が似つかわしくない、しっとりとしたもの。

Hob.XXXIa:57 - JHW XXXII/1 No.57 / "The banks of Spey" (Robert Burns with Mrs McLehose)
シングル・モルトのスペイサイドで有名なスペイ川の「スペイ河岸」と題された恋の歌。ゆったりした伴奏に陰りのある美しいメロディーが朗々と歌われる曲。マッケイのソプラノが沁みます。

Hob.XXXIa:28 - JHW XXXII/1 No.28 / "Up in the morning early" (Robert Burns)
雪に覆われた冬の朝早くの空気を歌った曲。なんとなく寒い朝の空気を感じさせるリリカルな曲。

Hob.XXXIa:87 - JHW XXXII/1 No.87 / "I dream'd I lay" (Robert Burns)
花畑に横たわり夢を見る、、という歌詞からはじまるしっとりした曲。

Hob.XXXIa:30 - JHW XXXII/1 No.30 / "I'm o'er young to marry yet" (Robert Burns)
一転コミカルなメロディーの曲。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 / "John Anderson" (Robert Burns)
ジョン・アンダーソンという人への恋歌。ピアノの微妙な響きの変化と歌のえも言われぬアンサンブル。

Hob.XXXIa:48 - JHW XXXII/1 No.48 / "O can you sew cushions" 「クッションを作れるか」
短い曲ですが、なぜか非常に郷愁をそそる特徴的な曲。特に後半の”Hee o, wee o, what would I do wi' you?”というところの独特の響きが耳に残ります。

Hob.XXXIa:91 - JHW XXXII/1 No.91 / "Jockie and Sandy" (Robert Burns)
明るさの中に陰り、快活さの中に静けさのある不思議な曲。ソプラノの透明な響きが映えます。

Hob.XXXIa:22 - JHW XXXII/1 No.22 / "The white cockade" (Robert Burns)
しっとりした曲が続いた後で、このアルバム最後の曲は、快活な調子の曲。「白い帽子飾り」。ヴァイオリンの特徴的な伴奏が独特の雰囲気を醸し出しています。アルバムの最後にこの曲を持ってきた意図はなんでしょうか。

アン・マッケイのソプラノとイギリスピアノ三重奏団によるスコットランド歌曲集から11曲などを収めたアルバム。Meridianのプロダクションは、イギリスっぽさというかスコットランドぽさ満点で、純粋にスコットランドの民謡をくつろいで楽しめる素晴らしいもの。イギリスピアノ三重奏団の演奏は非常に自然で豊かな音楽。そしてソプラノのアン・マッケイはほんの少し単調さを感じさせなくもありませんが、その歌は民謡の真髄をとらえた非常に素朴でピュアな高音の魅力に溢れたもの。アルバムとしては必要十分というか、かなり完成度の高い企画でしょう。歌曲が好きな方にはおすすめのアルバムです。評価は歌曲は全曲[++++]としておきます。歌曲に挟まれたピアノ三重奏曲2曲もかなりいい演奏なので、あらためてまた取りあげようと思います。

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ハイドンとアビンドン卿

前記事でアップしたクイケン・アンサンブルのロンドン・トリオがあまりに良かったので、ロンドン・トリオがらみの未聴のアルバムを取りあげます。

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デレク・マカロック(Derek McCulloch)カフェ・モーツァルト(Cafe Mozart)の演奏による、ハイドンとハイドンの友人でもあったのアビンドン卿の室内楽や歌曲まとめた企画もの。収録は2007年5月31日と6月1日、ロンドンの北約50キロのヒッチン(Hitchin)近郊の街プレストン(Preston)にあるテンプル・ディンスレー(Temple Dinsley)でのセッション録音。ご覧のとおりレーベルはNAXOS。

アルバムタイトルは「ハイドンのアビンドン卿」。アビンドン卿とは、第4代アビンドン伯爵、ウィロービー・バーティという人で1740年生まれのイギリスの貴族。イギリス中部のマンチェスター東方のゲインズバラ(Gainsborough)生まれで、政治記者をしていた上、音楽家にとってのパトロンであった他、自身も作曲をしていた人。義理の父の縁でクリスチャン・バッハなどと親交があった他、ハイドンの友人でもあったようで、作曲はハイドンがすすめたとされています。

このアルバムには30曲が収められていますが、約半数がアビンドン卿が作曲したもの。もちろんハイドンと比べると作品の質に差のあるのは当然のことながら、こうして200年以上経過してから録音されアルバムになるとはアビンドン卿自身も想像だにしなかった事でしょう。

今日はそのなかから、もちろんハイドンの曲を選んでレビューしましょう。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールはロジャーズ・カーヴィー=クランプ(Rogers Cobey-Crump)、伴奏はスクエア・ピアノでキャサリン・メイ(Katharine May)。イギリスっぽい発音の艶のあるテノールによる聴き慣れた曲。スクエア・ピアノの音はチェンバロっぽい音ですが、チェンバロとも少し違い箱っぽい音に感じます。朗々とした声の魅力で聴かせる歌ですが、スクエア・ピアノのリズムがちょっと重いのが惜しいところ。録音は鮮明で比較的オンマイクの音。前後に置かれたアビンドン卿の曲のリコーダーの音色が実に手作り感ある音楽だけに、この曲が逆に引き立つ感じなのが微笑ましいところ。

Hob.IV:9 / Op.38-4 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.4 [G] (1784)
バリトン・トリオの曲に由来するフルート三重奏曲。ロンドン・トリオ同様1794年に書かれた曲。演奏はフルートはエドウィナ・スミス(Edwina Smith)、ヴァイオリンがオリヴァー・センディグ(Oliver Sändig)、バス・ヴィオールがイアン・ガミー(Ian Gammie)の3人。バリトンの精妙な音色のイメージが濃い曲ですが、フルートの清涼な音色に変わり、曲のイメージも変わってきます。アンサンブルの精度はそれほど悪くありませんが、やはりリズムの重さが少々気になるところ。知り合いの演奏会のようなカジュアルな感じに聴こえます。ハイドンの演奏当時はみんなで演奏をこのように楽しんだのだと言われているような演奏。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
1曲目と同様テノールのカーヴィー=クランプとスクエア・ピアノのキャサリン・メイの組み合わせの歌曲。カーヴィー=クランプの声はハイドンの歌曲にぴったりの声。朗々としかし叙情的なニュアンスも感じさせるデリケートな歌唱。ここではスクエア・ピアノの箱庭的な音色も雅な感じがしてなかなか盛り上げます。訥々とつぶやくようなスクエア・ピアノがようやく本領発揮。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
歌手がソプラノのレイチェル・エリオット(Rachel Elliott)に替わります。非常に透明感のある伸びの良い声。ハイドンの歌曲のイメージにドンピシャで絶妙の美しさ。短い曲ながらこのアルバムの聴き所でもあります。

Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
ロンドン・トリオの2番の「貴婦人の姿見」のメロディーをフルート三重奏曲にしたものですが、ここでは最初のフレーズをテノールのカーヴィー=クランプ、指揮のデレク・マカロック、ヴァイオリンのミカエル・サンダーソンの3人が歌った導入という凝った演出。その後はフルートはジェニー・トーマス(Jenny Thomas)、エドウィン・スミス(Edwin Smith)とバス・ヴィオールがイアン・ガミーの3人の演奏。もちろん前記事のクイケン・アンサンブルの演奏の完成度には及びませんがなぜか手作り感のある演奏がとても印象に残ります。技術的な完成度だけが音楽を印象づけるものではないことを示してるような演奏。ハイドンの美しいメロディーを一生懸命演奏している汗を感じるような演奏。チェロではなくバス・ヴィオールの音色が変化を加えていますね。

Hob.XXVIa:16 / 12 Lieder No.4 "Gegenliebe" 「かなえられた恋」 [G] (1781)
先程美声に酔ったレイチェル・エリオットのソプラノに今度はイアン・ガミーのギターが伴奏を担当。やはり美しい声にうっとり。気に入りました。

Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
こちらは声の入らないフルート三重奏曲。2番のメンバーと同じメンバー。この演奏を聴くと逆にクイケン・アンサンブルの超自然的演奏の素晴らしさが際立ちます。もちろんこちらの演奏が悪い訳ではく、先程来の手作り感を感じるなかなかの演奏。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲「精霊の歌」をレイチェル・エリオットの透明な声とスクエア・ピアノの組み合わせで。表現の幅はそこそこながら、透明感溢れる声の美しさは絶品。特に高音域の自然な響きと伸びは素晴らしいもの。

Hob.XXXIa:180 - JHW XXXII/3 No.173 / "Tak your auld cloak about ye"
この曲は作品番号ではこれなんですが、アルバムの曲には"When icicles hang on the wall"とあり、スコットランド歌曲集には同名の作品が見当たりません。カーヴィー=クランプのテノールにヴァイオリン、スクエア・ピアノ、バス・ヴィオールの組み合わせ。1分少々の小品。不思議と叙情的な語るような歌。アルバムの最後に置かれた曲。

カフェ・モーツァルトという団体の「ハイドンとアビンドン卿」という企画もの。アビンドン卿の曲にはちゃんと触れませんでしたが、ハイドンの時代に同時代で聴いているようなくつろいだ雰囲気が味わえる好企画と言ってよいでしょう。どの曲も技術的にはまだまだ上があるような演奏ですが、不思議に懐かしい感じと技術の欠点が粗と映らないない素朴な音楽の楽しみを感じるアルバム。ハイドンが好きな方には一度聴かれる事をお薦めします。評価は全曲[++++]とします。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : スコットランド歌曲 ロンドン・トリオ 英語カンツォネッタ集 歌曲

キャサリーン・ボット/メルヴィン・タンの歌曲集

今日は最近手に入れた歌曲のアルバム。

BottScots.jpg
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キャサリーン・ボット(Catherine Bott)のソプラノによるハイドンの歌曲をまとめたアルバム。伴奏はメルヴィン・タン(Melvyn Tan)のフォルテピアノ、ヴァイオリンがアリソン・バリー(Alison Bury)、チェロがアンソニー・プリース(Anthony Pleeth)、フルートがリザ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)、ハープがフランシス・ケリー(Frances Kelly)。収録曲目はスコットランド歌曲集から7曲、英語によるカンツォネッタ集から3曲、天地創造の第一部のガブリエルのレチタティーヴォとアリア、そしてナクソスのアリアンナと名曲ぞろい。収録年、場所の記載がないのですが、Pマークは1985年なのでその前の録音でしょう。レーベルは先日フー・ツォンの素晴らしいピアノソナタの録音で存在感を示した英Meridian。

このアルバムは最近手に入れたものでが、気になったのは上のジャケット写真の右上の25という数字。よく見るとMeridianレーベルの25周年を記念して再発されたうちの何枚かの1枚。レーベルのアニヴァーサリーを記念して再発されるということは、マイナーで廃盤となりながらも再発、しかも記念碑的な価値を持つ演奏であるとの読み。

実は手に入れてちょい聴きしたときにはあまり印象に残らなかったんですが、この週末に所有盤リストに登録すべくライナーノーツなどを眺めながら聴き直してみたところ、これが素晴らしい演奏でした。やはりきちんとした演奏には音楽に向き合って真剣に聴かなくてはなりませんね。ご存知のようにこのブログを書き始めてから歌曲の魅力にハマり、ハイドンの歌曲は結構集めてます。人の声の魅力の素晴らしさを再認識。

このアルバムは今まで聴いてきた歌曲の聴き方に対する認識を改めさせるような演奏でした。詳しくは各曲のレビューで。

キャサリーン・ボットは1952年イギリス生まれの古楽と現代音楽もこなすソプラノ歌手。古楽のレコーディングも多くイギリスでは有名な人のよう。BBCのラジオ3でEarly Music Showという番組を持っているようですね。聴くとキリッと良く通るイギリスらしい美しい声。彼女自身のサイトへのリンクを張っておきましょう。超シンプルなサイト。

Catherine Bott(英文)

メルヴィン・タンは先日アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの歌曲の伴奏者としてレビューで紹介したばかり。シンガポール生まれのフォルテピアノ奏者です。彼のサイトも張っておきましょう。

Melvyn Tan - 2011(英文)



さて、肝心の演奏。

最初の7曲はスコットランド歌曲集から。全曲歌かと思いきや、歌なしの曲もあり、意外と歌のない曲も素晴らしい演奏なんですね。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 / "The ploughman" (Robert Burns)
最初はタンのフォルテピアノとガット弦のヴァイオリンの伴奏に乗ったボットの歌。録音の良さを売りにしているMeridianレーベルらしく鮮明な録音。近くに鮮明に定位するソプラノとヴァイオリン。比較的デッドな音場なのでゆったり感があんまり感じられないんですが、ヴォリュームを上げて聴くと素晴らしい迫力。ボットの歌はイギリスならではの発声で歌曲の上手い歌い方というより、まさに民謡のような素朴なもの。高音の伸びと芯のある美声が特徴。

Hob.XXXIa:59 - JHW XXXII/1 No.59 / "The bonny brucket lassie" 「すてきな彼女、とてもやさしく」 (James Tytler)
2曲目を聴いてビックリ。歌はなくフルートとハープによる絶妙に美しい曲。地元の人がイギリスというかスコットランドへの郷愁を感じるのかはわかりませんが、我々日本人にはスコットランドへの憧れを感じる素晴らしいメロディー。2分少しの間に心はスコットランドにトリップ。何という素朴な美しさ。

Hob.XXXIa:73 - JHW XXXII/1 No.73 / "Logie of Buchan"
前曲で郷愁スイッチがオン。続く曲はヴァイオリン、チェロ、フルート、ハープば伴奏に加わり、ボットの良く通る声で歌われる素朴なスコットランド民謡。Meridianがこのアルバムを創立25周年に再発した理由が何となくわかりました。イギリス人はこれを聴いてどう思うのか聞いてみたいですね。

Hob.XXXIa:77 - JHW XXXII/1 No.77 / "My heart's in the Highlands" (Robert Burns)
再び器楽のみ。ヴァイオリンとチェロとタンのフォルテピアノによるスコットランド民謡の素朴なメロディー。2曲目と同様その素朴な美しさに心を奪われます。技術をベースとした音楽だけではない音楽の素晴らしさ。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 / "Sleepy bodie"
普通の編成にもどり、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏による歌曲。ボットの歌は先日聴いたアンネ・ゾフィー・フォン・オッターの素晴らしい歌唱も良かったんですが、ボットの歌唱こそスコットランド民謡の本流のように感じるようになってきました。なんでしょうか、この素晴らしい説得力。スコットランドの魂が曲になったようです。

Hob.XXXIa:48 - JHW XXXII/1 No.48 / "O can you sew cushions" 「クッションを作れるか」
冒頭のフルートの音色から痺れます。ハープが加わり彩りが増し、ボットと弦楽陣も加わって聞き覚えのある曲を、語るように歌い上げていきます。冒頭のスコットランド歌曲集から深い深いじわりと心に響く感動。

Hob.XXXIa:22 - JHW XXXII/1 No.22 / "The white cockade" (Robert Burns)
スコットランド歌曲集からの最後はヴァイオリンとチェロによってバグパイプの音色を模したような不思議な曲。まさに本場の響きでしょう。この曲がオーストリアの片田舎から来たハイドンの編曲によるものというだけで驚き。素晴らしい7曲でした。

つづいては英語によるカンツォネッタ集から3曲。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
聴き慣れた人魚の歌。既に耳はボットの素朴な歌とメルヴィン・タンのグランドマナーとは対極にある古めの音色のフォルテピアノによる軽い響きに十分に慣れています。歌の技術、録音、フォルテピアノの音色への視点がインターナショナルなものではなく、イギリスの民謡であることを今更ながらに思い知る演奏。素晴らしい素朴さ。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
前曲同様、スコットランド民謡とは異なり、少々フォーマルな歌曲ではありますが、にじみ出る郷愁。タンの伴奏は変化の幅はそこそこながら自在にテンポを動かして、非常にパーソナルな雰囲気で伴奏に徹します。曲の最後の装飾音はボットが遊びを効かせて。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テンポの速い曲。ボットもタンも表現の幅が極まってます。迫真のライヴを聴くような素晴らしい盛り上がり。歌曲の真髄にせまるような迫力。このアルバムの聴かせどころでもあります。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
天地創造の第一部のハイライト。ガブリエルのアリアとその前のレチタティーヴォの1フレーズ。こちらは原曲の壮大な構造の中で癒しを感じられる曲ゆえ、オペラティックな歌唱が刷り込まれているので、聴き始めは違和感を感じましたが、このアルバムの中で聴くと不思議と、違う座標のなかに浮かび上がるこの曲の魅力が見えてくるような気がします。ボットの透き通るようなヴィブラートのほとんどかからない声を堪能。フォルテピアノ伴奏で自宅でガブリエルのアリアを楽しめる感じ。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」[E flat] (c.1789)
最後は歌曲の大曲、ナクソスのアリアンナ。メルヴィン・タンの伴奏は最高。歌は先日のオッターとは全く異なる歌唱ながら、こちらも素晴らしい歌唱。歌手としての格はまったくちがいますが、例えて言うと「木綿のハンカチーフ」は太田裕美でなくちゃというくらいの説得力。美空ひばりが歌うと流石に絶品の上手さというのがオッターでしょう。なんだかめちゃくちゃな例えになっちゃいました。実はあんまりいいアルバムなので、先程からシングルモルトを少々。今日は先日ハイボール用に買ったスペイサイドのThe Glenlivet 12年。ちょっと効いてきましたね(笑)



ふとしたきっかけで手に入れたこのアルバム。素晴らしい出来です。歌曲が好きな人には絶対のおすすめ盤。ただし上に書いたように一聴するとさっぱりしたさりげない演奏に聞こえるかもしれません。歌曲をいろいろ聴いた違いのわかる方にすすめたいですね。評価は全曲[+++++]としました。この評価は視点がスコットランド民謡としてという明確な視点からのもの。演奏の質、歌の技術などの点からはまた異なる評価があるとは思いますが、心に響くという点では最近聴いたなかでもピカイチです。いいアルバムと出会いました。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : スコットランド歌曲 英語カンツォネッタ集 おすすめ盤 古楽器 歌曲 ナクソスのアリアンナ

【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽

今日はホグウッドの室内楽と歌曲などを集めたアルバム。

HogwoodEngland.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団の演奏によるハイドンの室内楽と歌曲。ハイドンがイギリスを訪問した際に作曲した曲を集めたアルバム。DECCAオーストラリアによる廉価盤のシリーズであるELOQUENCEシリーズの2枚組です。収録曲目は収録順にスコットランド歌曲5曲、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:18)、弦楽四重奏曲曲Op.71 No.3、英語による歌曲「貴婦人の鏡台」(Hob.XXXIc:17a)、ロンドン・トリオNo.2(Hob.IV:2)、英語による歌曲「牧歌」、「人魚の歌」、フォルテピアノのための小品、ロンドン・トリオNo.3(Hob.IV:3)、英語によるカンツォネッタ「おお、美しい声よ」(Hob.XXVIa:42)、そして最後は交響曲94番「驚愕」の室内楽編曲版。収録は1978年9月にロンドンのロスリン・ヒル教会で。

アルバムにはこの組み合わせでの初CD化との記載があります。今日はこのアルバムから歌曲を中心にいくつかの曲を取り上げましょう。歌はソプラノがユディス・ネルソン(Judith Nelson)、テノールがポール・エリオット(Paul Elliott)です。

ユディス・ネルソンは1939年アメリカシカゴ生まれのソプラノ。ミネソタ州ノースフィールドのSt. Olaf Collegeで音楽を学び、1979年ブリュッセルでモンテベルディの「ポッペアの戴冠」でオペラ界にデビュー、その後は欧米で活躍。ポール・エリオットは、1950年生まれのイギリスのテノール。最初はロンドンのセント・ポール寺院の合唱隊で歌っていたが、その後声楽のトレーニングを受けて実力をつけ古楽の世界で活躍するようになったとのこと。

CD1-4 「エジンバラの花」(Hob.XXXIa:90)
CD1枚目の冒頭に置かれたスコットランド歌曲5曲の中で抜群に美しい曲。ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏による序奏は郷愁に溢れたメロディー。伴奏は落ち着いた響き。ユディス・ネルソンの歌は非常に艶やかで表情豊か。この録音時39歳ということになりますが、非常に若々しい張りのある声。

CD2-1「貴婦人の鏡台」(Hob.XXXIc:17a)1794/5年作曲
先日取り上げたエマ・カークビーのアルバムにも取り上げられていた曲。フォルテピアノの伴奏による短い曲ですが、ネルソンの声の美しさが堪能できる曲。カークビーとはまた違った良さがありますね。驚くのは次の曲。

CD2-2 フルート3重奏曲「ロンドン・トリオ」No.2(Hob.IV:2)1794年作曲
これは「貴婦人の鏡台」と同じメロディー。2本のフルートとチェロによる美しいメロディのアンサンブル。声も良いのですが、美しいフルートの音色によるメロディーもいいもの。えも言われぬ至福感。つぎつぎと訪れるメロディーのさざ波。チェロの雅な響きとフルートの音色が醸し出す優しい響きが静かな感動を呼び起こします。

CD2-3 「牧歌」(Hob.XXVIa:27)「人魚の歌」(Hob.XXVIa:25)1794年作曲
こんどは英語によるカンツォネッタ集から2曲。ホグウッドのフォルテピアノによる伴奏にのってまたユディス・ネルソンの若々しい声の魅力を味わえる歌。ホグウッドは特に雄弁でもなく、さっぱりとした伴奏。

このアルバムに含まれる曲はライナーノーツによればすべて1978年9月の収録ということで、バラバラに収録されたものを集めたアルバムではなさそうです。「貴婦人の鏡台」「エジンバラの花」「おお、美しい声よ」がいい出来で[+++++]としました。その他の曲は[++++]です。ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲もなかなか聴き応えがあります。ハイドンがイギリスを訪問したときに作曲したものをまとめた企画ものという意味でも良いアルバムですですので、歌曲好き、室内楽好きの方にはおすすめの良いアルバムです。

(追記)後日聞き直したところ、ザロモンによる交響曲94番「驚愕」の室内楽編曲版も素晴らしい演奏ということで評価を[+++++]にしました。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : スコットランド歌曲 英語カンツォネッタ集 ピアノ三重奏曲 ロンドン・トリオ 弦楽四重奏曲Op.71 古楽器

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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