【新着】ジェニファー・ヴィヴィアンの歌曲集(ハイドン)

ちょっと流れを変えてヒストリカルの新着アルバム。

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ジェニファー・ヴィヴィアン(Jennifer Vyvyan)のソプラノ、ハリー・ニューストン(Harry Newstone)指揮のハイドン管弦楽団(The Haydn Orchestra)の演奏で、ハイドンのベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」、チェチーリア・ミサからグローリア、モーツァルトの歌曲などを収めたアルバム。ハイドンの収録は1957年5月7日、8日、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはDECCAで、ライナーノーツによるとどうやら初CD化とのことです。

このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が絶品だからということに他なりません。

ジェニファー・ヴィヴィアンは、1925年、イングランドの東南端にあるブロードステアーズ(Broadstairs)生まれのコロラトゥーラ・ソプラノ。当初は王立音楽アカデミーでピアノを学んでいましたが、在学中にメゾ・ソプラノに転向、そしてソプラノ歌手を目指すようになりました。卒業後、ミラノ、ジュネーヴなどで学び、1951年、ジュネーヴ国際歌唱コンクールで優勝。歌手としての最初のキャリアはベンジャミン・ブリテン率いる英国オペラグループでスタートさせ、その後英国を中心に、オペラ、コンサートなどで活躍しました。1974年、長年の気管支炎のため49歳という若さで亡くなったとのこと。

指揮者のハリー・ニューストンとハイドン管弦楽団については一度交響曲の演奏を取り上げていますので、情報はそちらの記事を御覧ください。

2014/03/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)

Hob.XXIVa:10 Scena di Berenice "Berenice, che fai" ベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」 [D-f] (1795)

1957年としては最上の録音。若干の古さは感じさせるものの、それがいい味も含む深みのある音。DECCAの面目躍如。ハリー・ニューストン率いるハイドン管のみずみずしい音色に痺れます。そしてジェニファー・ヴィヴィアンのソプラノの美しいこと。転がるように鮮やかに歌い上げます。この名曲をじっくりと描くオケにのって、まさに名人芸。特にゆったりとした部分のオケと歌唱の美しさは筆舌に尽くしがたいもの。この録音がCD化されずに眠っていたというのが信じがたいことです。後半劇的に展開する部分に入るところでもヴィヴィアンは余裕たっぷり。コロラトゥーラだけあって、高音の伸びの素晴らしさは半端ではありません。最上のオペラのアリアを聴く悦びが溢れてきます。

Hob.XXII:5 Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」 (1766)
続いてはチェチーリアミサの第2曲のグローリアからソプラノソロが活躍するLaudamus teとQuoniam。前曲のオペラティックな展開から、ぐっと神々しい雰囲気に変わり、ヴィヴィアンの歌唱も折り目正しい歌唱に変わります。もちろんニューストンの方のコントロールもミサ曲にふさわしい端正な雰囲気になりますが、やはりハイドンの曲に不可欠な気配というか間のようなものを踏まえていて、実に落ち着いたオーケストラコントロール。この雰囲気に癒されるんですね。一部の指揮者だけがもつこの気配。ハイドンの音楽を完全に掌握して自在にコントロールする境地。アドレナリン噴出です。非常に短い2曲ですが、ハイドンの真髄に触れられる素晴らしい演奏でした。

初CD化であり、ジャケットにはMOST WANTED!と誇らしげに記されているだけある演奏でした。ソプラノのジェニファー・ヴィヴィアンの歌唱は絶品。この声で夜の女王のアリアを歌われたらノックアウトでしょう。そしてさらに素晴らしいのがハリー・ニューストン指揮のハイドン管弦楽団。ハイドンの名を冠したオケだけに、ハイドンの音楽をイキイキと演奏し、完璧な伴奏。こうした素晴らしい仕事こそ、多くの人に聴いていただく価値があろうというものです。評価はもちろん[+++++]。ただし、ライナーノーツがデータだけというのがちょっと寂しいところ。演奏者の解説くらいはつけてほしいところでした。

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tag : オペラアリア チェチーリアミサ ヒストリカル

マルク・ミンコフスキ/ルーブル宮音楽隊によるチェチーリア・ミサ

今日も最近手に入れたアルバム。

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マルク・ミンコフスキ(Marc Mincowski)指揮のルーブル宮音楽隊、同合唱団の演奏で、パーセルの聖セシリアの祝日のためのオード「万歳、輝かしいセシリア」、ヘンデルの聖セシリアの祝日のための頌歌、ハイドンの「チェチーリア・ミサ」の3曲を収めたアルバム。収録は2009年1月、グルノーブルの総合芸術施設MC2でのセッション録音。ルーブル宮音楽隊の本拠地のようです。レーベルはnaïve。

ミンコフスキのハイドンはこのブログの初期の頃にザロモンセットを取りあげています。

2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 流石だったぜ、ミンコフスキ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 古楽器新世代、弾む機知
2010/05/14 : ハイドン–交響曲 : ミンコフスキのザロモンセット到着

ミンコフスキはハイドン没後200年の2009年に来日し、その素晴らしい演奏が話題になりました。また、上で取りあげたハイドンのザロモンセットのライヴ盤ですが、独特の遊び心溢れるダイナミックな演奏がハイドンの交響曲の新境地を示した演奏でした。

今日取り上げるアルバムは、その存在は知っていたものの、丁寧なつくりのアルバム故か非常に値段が高く、HMV ONLINEで在庫ありだったにもかかわらず、長らく入手していなかったもの。先日たまったポイントを利用して、ようやく手に入れました。

ソリストは次のとおり。

ソプラノ:ルーシー・クロウ(Lucy Crowe)
コントラルト:ナタリー・シュトゥッツマン(Nathalie Stutzmann)
テノール:リチャード・クロフト(Richard Croft)
バス:ルカ・ティットート(Luca Tittoto)

アルバムの企画はHMV ONLINEの解説によると、音楽の守護神である聖セシリアにちなんだ作品を集めたもの。

3曲目におかれたハイドンのチェチーリアミサは1766年と、傑作の多いシュトルム・ウント・ドラング期の作品。この年ハイドンはエステルハージ家の楽長に昇進した年。それまでは前楽長が宗教音楽の作曲を担当しており、副楽長だったハイドンには作曲の機会を与えられていなかったため、ミサ曲に対するハイドンの創作意欲が一気に爆発したような曲です。

Hob.XXII:5 / Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」 (1766)
冒頭のキリエは非常に純度の高い磨き抜かれたコーラスから入ります。すぐにミンコフスキらしいダイナミックに弾む音楽がはじまります。中間部に登場するテノールのリチャード・クロフトは小気味好いテンポ感と古楽器に合う独特の輝きのある声。絡み合うオケとコーラスの純度の高さが透明感溢れる演奏につながっています。重厚というよりは小気味好く弾む演奏。キリエの後半はメロディーが織物の縦糸と横糸のように絡み合うことで表現される音楽の面白さをクッキリと描きます。
グロリアに入るとぐっとテンポを上げ、エネルギー感も上がります。オケの分離が良いので、クッキリした表情は崩しません。ヴァイオリンのメロディーラインは古楽器特有の爽やかな音色で鮮烈なリズムを刻んでゆくので、吹き抜けるそよ風のよう。ソプラノのルーシー・クロウも光沢感のある比較的厚みのある声。声質に癖はありますが声量が素晴らしく、存在感のある歌を聴かせます。ソプラノの歌が終わると今日は荘重な曲調に変わりますが、ミンコフスキのコントロールは一貫して速めのテンポでクッキリとメロディーを描いていくので、重くなる事はなく逆に華美な印象すら与えて、純粋にハイドンのメロディーメーカーとしての才能を浮かび上がらせているよう。
続くドミネ・ディウスはコントラルト、テノール、バスの三重唱。コントラルトのナタリー・シュトゥッツマンも非常特徴的な響きの声を持つ人。豊かな低音域の響きでこちらも素晴らしい声量。ここまで歌手は声質が非常ににそろっています。ミンコフスキの好みか清透な感じの人ではなく、豊かに響く声の人をそろえていますね。中ではバスのルカ・ティットートが比較的素直な声質。
クイ・トリスに至り、クッキリさから神々しさを感じさせるようになり、徐々にミサ曲らしい雰囲気が出てきました。特に音量を抑えた部分で印象的な表現が見られるようになり、表現の起伏が大きくなってきます。この曲は音量を抑えた部分の出来が秀逸。ぞくっとする瞬間がそこここにあります。
次のトラック(15)は一転してダイナミックに。チェチーリア・ミサの中でもわかりやすいメロディーなので特徴的に聴こえる部分です。祝祭的な雰囲気が盛り上がります。クロウのソプラノが華を添えます。
グロリアの終結にむかうフーガに入ると、ミンコフスキはクッキリとコントロールしながらも荘重さを加えていき引き締めにかかります。フーガの最後をあえて軽目に終わるところがなかなかのセンス。
最後のクレドはテノール、コントラルト、バスによってじっくり歌い継がれる静かな歌が印象的。これまでの曲が軽さとキレを主体とした表現だったのに対し、ここにきてしっかりと沈み込むじっくりとした表現。そして終曲の祝祭感溢れる喜びの爆発に入る鮮やかな展開。この曲でもっともエネルギーに満ちた表現。この展開の鮮やかさは見事。弾むリズム、吹き上がるオケのエネルギー、コーラスの大波。最後は大迫力の響きの洪水で終わります。

ミンコフスキによるチェチーリアミサ。ハイドンのミサ曲に込められた創意をミンコフスキが見事に引き出し、これまでのどの演奏とも異なる姿を描いています。現代楽器によるオーソドックスな演奏もいいですが、こうした斬新な視点による古楽器演奏もいいですね。ミンコフスキ、トーマス・ファイ、ギィ・ヴァン・ワースなど新世代の古楽器による演奏によってハイドンの新たな魅力が表現されつづけています。ハイドンが亡くなってから200年以上たちますが、時代が変わっても生気を吹き込む価値があるという事でしょう。評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : チェチーリアミサ 古楽器

オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送響のチェチーリア・ミサ

今日も最近手に入れたアルバム。

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オイゲン・ヨッフム(Eugen Jochum)指揮のバイエルン放送交響楽団と合唱団の演奏でハイドンのチェチーリア・ミサなどを収めたアルバム。他にクーベリックの戦時のミサなどをセットした2枚組の廉価盤。今日はヨッフムのチェチーリア・ミサを取りあげます。チェチーリア・ミサの収録は1958年10月、ミュンヘンのヘラクレス・ザールでのセッション録音。レーベルは天下のDeutsche Grammophoneです。歌手は下記のとおり。

ソプラノ:マリア・シュターダー(Maria Stader)
コントラルト:マルガ・ヘフゲン(Marga Höffgen)
テノール:リヒャルト・ホルム(Richard Holm)
バス:ヨゼフ・グリンドル(Josef Greindl)

チェチーリア・ミサは1766年作曲ということでシュトルム・ウント・ドラング期の作品。作品の解説は下のインマゼール盤の解説をご参照ください。

2011/04/03 : ハイドン–声楽曲 : インマゼールの聖チェチーリアミサ
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンのチェチーリアミサ
2010/09/20 : ハイドン–声楽曲 : ミシェル・コルボのチェチーリアミサ

あまり知らないアルバムでしたが、調べたところ現役盤のようですね。ヨッフムは紹介の必要はないでしょう。ヨッフムの1958年のチェチーリア・ミサと聞いただけで、ちょっと期待が高まります。ヨッフム全盛期の覇気が漲る演奏が脳裏に浮かびます。はたしてその期待に応える演奏でしょうか。

Hob.XXII:5 / Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」
キリエ
1958年の録音ということで、年代なりの音響なんでしょう。冒頭のコーラスの響きは若干古びた感じを与えるものの、ヴァイオリンのキレの良いメロディーが進むにつれ、徐々にダイナミックさが顔をのぞかせます。穏やかな川の流れのように一貫したテンポ感に支配されているような演奏。まずはリヒャルト・ホルムの安定感抜群かつ心地よい響きのテノールが最初の聴き所でしょう。落ち着いたコントロールのなかでも徐々に色彩の変化を楽しめるような大人の演奏。起伏は程々で、ヨッフムの演奏に多いインテンポでスピーディーなものではなく、逆に落ちつき、ゆったりしたテンポでじっくり慈しむようなコントロール。

グローリア
グローリアに入ってヨッフムらしいあっさりとしながらもインテンポで推進する音楽になってきました。ソプラノのマリア・シュテューダーはいい意味で声に軽さがあり、爽やかな色気を感じさせる声。トラック6のグラティアスは荘厳なコーラスが圧巻。重量感ではなくクリアな響きが聴かせる爽快な荘厳さといった感じ。これはヨッフムならではの音楽でしょう。各声部が複雑に絡み合い、弦楽セクションとコーラス、オルガンの重なりが独立しつつもよく溶け合い絶妙な音楽。コントラルトのマリア・ヘフゲンは素晴らしい声量。図太い声の存在感は圧巻。バスのヨゼフ・グリンドルは柔らかく綺麗な響きの乗った角のとれた声。4人がかわるがわるフレーズを引き継いで安定したソロを楽しめます。トラック8のクイ・トリスで再び大河のごときコーラスが出現。バイエルン放送合唱団の素晴らしいコーラスはこの演奏のポイントでしょう。続くクオニアムではシュテューダーがリズミカルで起伏十分なオケの伴奏にのって圧倒的な歌唱。オケもヴァイオリンを中心に落ち着きながらもキレた演奏でシュテューダーを支えます。そして、グローリアの終曲は圧倒的なエネルギーの塊のような演奏。息を飲むとのこの事でしょう、素晴らしいオケとコーラスの響きの渦。

クレド
もはや、オケもコーラスもソロも素晴らしい状態故、グローリアの後半から満ちてきたエネルギーが放出されつづけてクレドも完璧な音楽の流れ。中間部はリヒャルト・ホルムのソロですが、ここでも巧いですね。憂いにみちた弦楽器の伴奏にのって切々と歌うメロディーの美しさは筆舌に尽くし難いもの。テノールにこれだけ痺れるのは久しぶりですね。終盤はホルムとオケとコーラスの響宴。言うことなし。

サンクトゥス
2分弱と短い曲。導入は極端に音量を抑えてこの曲の宝石のような美しさを表現。

ベネディクトゥス
この曲がシュトルム・ウント・ドラング期のものと思い出させるほの暗さと明るさと起伏を併せ持つ名曲。ヨッフムのコントロールはもはや硬軟織り交ぜ、表現の限りを尽くして曲の美しさを浮かび上がらせている感じ。この曲の美しさ、深さ、陰りをこれだけ自然に表した演奏はないでしょう。穏やかなのに険しく、静かなのに激しい音楽。超絶的な美しさ。

アニュス・デイ
終曲は74分もあるこの曲の興奮を鎮めるような曲。我にかえったように冷静なコントロールで淡々とした演奏。グリンドルの孤高の表情のソロが印象的。最後は遠くから忍び寄るコーラスの寄せては返す波のような音楽。

名曲チェチーリア・ミサのオイゲン・ヨッフムの1958年のセッション録音というだけで、期待が膨らむ演奏でしたが、期待以上どころかこの曲の決定盤ともいえる素晴らしい演奏でした。やはり全盛期のヨッフムの演奏は凄いですね。交響曲なども含めてヨッフムのハイドンの演奏では一押しの名演奏と言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]とします。このアルバムを今まで聴いていなかったのは痛恨事です。

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tag : チェチーリアミサ ヒストリカル ハイドン入門者向け

インマゼールの聖チェチーリアミサ

今日は久々のミサ曲。

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ジョス・ファン・インマゼール(Jos van Immerseel)の指揮する手兵、アニマ・エテルナ(Anima Eterna)の演奏でハイドンの初期のミサ曲「聖チェチーリアミサ」(Hob.XXII:5)の演奏。2008年6月21日、ドレスデンの聖母教会でのライヴ録音。収録曲目は「聖チェチーリアミサ」1曲のみ。ソロはソプラノがリディア・トイシャー(Lydia Teuscher)、アルトがマリアーネ・ベアート・キーラント(Marinne Beate Kielland)、テノールがマルクス・シェーファー(Markus Schäfer)、バスはハリー・ファン・デル・カンプ(Harry van der Kamp)の4名。

ドレスデンの聖母教会はルター派プロテスタント教会で、戦争で破壊されたものが再建された教会。1726年に建設が開始され1743年に完成。1945年2月13日のドレスデン大空襲と火災で崩壊。1996年から再建が始められ2004年7月に建物の外部が完成、2005年10月30日には内部を含む全てが完成した教会の完成を祝う式典が行なわれたとのこと。ジャケット写真からもわかる通り大空間の聖堂。

インマゼールは紹介の必要がないでしょう。私はモーツァルトのピアノ協奏曲全集の一押しはインマゼールのもの。古楽器の演奏の中では柔らかな音色で、またフォルテピアノなのに音量の変化と非常にデリケートなフレージングが特徴的な素晴らしい全集。特に20番以前の曲の響きの美しさは別格。モーツァルトの初期のピアノ協奏曲の魅力を最も表現できている全集だと言えるでしょう。

聖チェチーリアミサはハイドンがエステルハージ家の楽長に昇進した1766年に作曲された曲。いわゆるシュトルム・ウント・ドラング期の作品です。いつものように中野博詞さんの「ハイドン復活」を紐解いてみると、この年になるまでは、前楽長ヴェルナーがエステルハージ家の教会音楽の作曲と演奏を担当していたため、ハイドンには教会音楽を作曲する機会にはほとんど恵まれず、実際に副楽長時代にはミサ曲は全く作曲していなかったとのこと。長年にわたって押さえつけられてきたハイドンのミサ曲に対する創作意欲、教会音楽をも担当するようになる楽長昇進を機に、この曲によって一気に爆発したのかもしれないと指摘されています。この時期のハイドンの作品に共通する影のある美しいメロディーに溢れた傑作ミサ曲です。

キリエ
古雅な音色ですが、弾むリズム、特に瞬発力のあるアクセントが印象的な演奏。ヴァイオリンの音色は古楽器特有の摺れるような音色。リズム感を重視して流麗さよりリズムのキレを表現。入りは万全。第2曲はテノールのシェーファーのよくコントロールされた、良く通る声がいい感じ。オルガンの音色が雅な感じを濃くしています。ソロとオケのリズム感はよくそろって導入部の規律を保っています。第3曲はコーラスの重厚さがよく出たコーラスの聴かせどころ。寄せては返す波のようなコーラスのメロディー。まだまだ大人しい範囲なんですがふつふつと沸き上がる感興が垣間見えます。

グローリア
推進力が一気に増して7曲構成のグローリアに移ります。ティンパニの活躍で一気に活気が増してきます。リズムは律儀な感じなんですが、不思議と沸き上がる感動の気配。インマゼールのコントロールは冷静に抑えられていますが、その演奏からは大きな波が襲ってくるような迫力があります。グローリアの2曲目はソプラノのトイシャーのほのかに可憐な透明な声が聴き所。オケも徐々に熱気を帯びてきたような感触があります。グローリアの3曲目は静謐な祈りを感じる厳かな曲。曲が進むごとに少しずつこのミサ曲の世界に引き込まれていくような不思議な魅力を感じます。ここまで、テンポは極めて自然体、響きも自然なものゆえ、個性的な演奏とはいえないんですが、じわりと響く感動。つづくグローリアの4曲目はアルトのキーラントとテノールのシェーファーのソロの掛け合い。落ち着いたテンポでの落ち着いた掛け合いの妙。オケも冷静さを保っています。グローリアの5曲目は短調の険しい表情から、ほのかにさす光のような救いのメロディーに移り変わる曲の美しい表情に打たれます。キーラントのアルトの堂々とした声が心に刺さります。この曲の最も崇高な瞬間でしょうか。ただただ響きに打たれる至福の瞬間。6曲目は序奏からオケの聴かせどころ。なんという間の生かし方。トイシャーのソプラノは余裕たっぷりに朗々とした歌唱。転調の妙味を加えてティンパニの楔に首がびくびく拍子を打つような素晴らしいメロディーライン。グローリアの最後は教会中に響き渡るコーラスから入り、フーガ風の厳粛なメロディー。トランペットの天上へ響き渡るアクセント。最後のクライマックスは不器用なほどのザクザクとした盛り上がりですが、最後の一音の伽藍に響き渡る余韻の消え入る様子が印象的。

クレド
クレドは3曲。1曲目は一気にエネルギーが満ちてくるような曲調に変化。そしてテノールとアルト、バスのソロの素晴らしい掛け合いの2曲目。2曲目のメロディーラインの美しさは筆舌に尽くし難いほど。そして最後の3曲目は再びエネルギーの爆発。弾むリズムと推進力。

サンクトゥス
コーラスの響きの美しい導入。テンポを上げてエネルギーを増します。1分ちょっとの短い曲。

ベネディクトゥス
このミサ曲で最も美しい曲。合唱とオケの織りなすほの暗く流麗なメロディーに打たれます。最後は明るく転調し畳み掛けるように終了。

アニュス・デイ
最後はバスのファン・デル・カンプのフィッシャー・ディースカウ張りの声の響きによるアニュス・デイ。終曲もあっさりとすすみながらこれまでの曲の総まとめ的な美しいコーラスの波また波。ティンパニの強打に導かれて曲を閉じます。

インマゼールによる疾風怒濤期の傑作ミサ曲、聖チェチーリアミサ。これまで取り上げたコルボ盤、プレストン盤に迫る演奏でしたが、コルボの天上にモーフィングしそうな透明な上昇感と、プレストンのミサとしての完成度に対して、素朴な音色のじっくり楽しむべき演奏という位置づけ。評価は[++++]としておきます。ライヴの一発性というスリリングな要素はあまりなく、堅実な演奏です。生で聴いていたら心にしみる演奏だったでしょう。

さてさて、ミサ曲はまだまだレビューが足りないんですが、聴くのにはエネルギーが必要。今月は意識してミサ曲を取り上げてみようかと思ってます。

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tag : チェチーリアミサ 古楽器 ライヴ録音

【年末企画】サイモン・プレストンのチェチーリアミサ

シュトルム・ウント・ドラング期の名曲を集中して取り上げている年末企画。今日はチェチーリアミサです。

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チェチーリアミサはハイドンがエステルハージ家の楽長に昇進した1766年の作曲。いつものように中野博詞さんの「ハイドン復活」を紐解いてみると、この年になるまでは、前楽長ヴェルナーがエステルハージ家の教会音楽の作曲と演奏を担当していたため、ハイドンには教会音楽を作曲する機会にはほとんど恵まれず、実際に副楽長時代にはミサ曲は全く作曲していなかったとのこと。長年にわたって押さえつけられてきたハイドンのミサ曲に対する創作意欲、教会音楽をも担当するようになる楽長昇進を機に、一気に爆発したのかもしれないと指摘されています。

チェチーリアミサについては、以前コルボ盤を取り上げていますので、そちらの記事もご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:ミシェル・コルボのチェチーリアミサ

今日取り上げたアルバムは、この曲の定番ともいえるアルバム。サイモン・プレストン(Simon Preston)指揮の古楽アカデミー(The Academy of Ancient Music)とオックスフォードキリスト教会合唱団。ソロがソプラノがユディス・ネルソン、コントラアルトがマーガレット・ケーブル、テノールがマーティン・ヒル、バスがデヴィッド・トーマスという布陣。オーケストラのメンバー表を見ると、第一ヴァイオリンにサイモン・スタンディジ、オルガンにはクリストファー・ホグウッドの名前が見られます。録音は手元のL'OISEAU-LYLEレーベルのアルバムには表記がなく、LONDONレーベルのミサ曲集の方には1977年~79年との表記があります。ロンドン近郊のハンプステッドの聖ユダ教会でのセッション録音。

コルボ盤が曲の魅力を透明感溢れるコルボ独特の音響で聴かせるのとは少しベクトルが変わって、純粋にミサ曲の古楽器による折り目正しい演奏の逸品という演奏。いつもメールをいただく横浜のYさんも激賞の演奏ゆえ、年末企画に取り上げました。

サイモン・プレストンは1938年生まれのイギリスのオルガニスト、指揮者で作曲もするようです。お元気ならば72歳。クリストファーホグウッドよりも3歳年上ということになります。ウェストミンスター寺院の副オルガニストなどからキャリアを積み、有名教会のオルガニストとして活躍していたのでミサ曲などは仕事として多くの演奏に加わったのではないでしょうか。

プレストンの指揮はホグウッドが指揮したときの古楽アカデミーの独特の推進感とアクセントというか節回しの個性的な部分がなくなり、非常にオーソドックスな節回し。若干音を切り気味にしてキビキビ感を明確にするのが特徴と言えば特徴でしょう。オケの響きはホグウッドの指揮したときと同様、繊細なヴァイオリンの音と厚みは感じないんですが豊かな響きで、ミサ曲の魅力を十分につたえる音響。プレストンのほうが曲に素直なコントロール故曲の魅力がより明確になるようですね。

出だしのキリエ。この演奏の特徴となっている精妙な合唱がいきなり素晴しいハーモニーを歌い上げます。ヴァイオリンなどの弦楽器より遥かに存在感のある素晴しいコーラスがミサ曲の雰囲気を盛り上げます。一方弦楽器も古楽アカデミー独特の雅な響き。専門的なことはわかりませんが、古楽器にも弦の種類があってこのような音色になるんでしょうか。非常に繊細な音色で、響きに変化を加えます。テノールのマーティン・ヒルは非常に柔らかく流麗なほれぼれする歌唱。テンポは中庸、フレージングも個性的なところはないんですが、隙のない緊張感あふれる演奏です。キリエの最後は音階が複雑にからみあいながら上昇していく祈りのような瞬間が絶品です。

続くグローリア。テンポを上げ、ティンパニを鳴らすところでのアクセントを少し強調することで、推進感がいっそう高まります。キレのある弦と分厚いコーラスの対比で聴かせます。トラック5でソプラノ、ユディス・ネルソンのソロ。さきほどのテノールと同様、やわらかく流麗な歌唱。声質が完全にそろってます。トラック7はコントラアルト、テノール、バスなどのソロの掛け合い。トラック8のクイ・トリスは心に楔を打ち込むような印象的なはじまりでコーラスが天上にに届きそうな上昇感。心に残る素晴しい旋律。静寂と上昇するコーラスの対比。シュトルム・ウント・ドラング期特有のほの暗い旋律。この曲は名曲ですね。トラック9は一転晴朗な弾むリズムの曲。ソプラノのソロが美しさに華を添えます。グローリアの最後、トラック10。ハイドンの宗教曲に対するエネルギーの爆発のような迸りを感じる曲。壮麗な音響が教会内に満ちていくのがわかります。

続いてクレド。コーラスの嵐のような圧倒的なコーラスの存在感とオケの鳴動による感興。トラック12はテノールの、そしてトラック13はコントラアルトとバスによる静かなソロ。神秘的な雰囲気すら感じさせる静謐な時間。クレドの最後、トラック14はふたたびハイドンの筆が爆発。壮麗な音響に耳をゆだねます。

サンクトゥスは1分少々の小曲ですが、心が洗われるような印象的な響き。またも合唱の響きが天上に届きそうな上昇感。

続いてベネディクトゥス。前曲で良い気分になっていたら、こちらの方がもっと心が洗われるような曲でした。情感溢れるゆったりした旋律をオケとコーラスが刻んでいきますが、最後に明るく転調して結びます。

最後のアニュス・デイ。バスの穏やかなソロに続き終曲。最後までコーラスの素晴らしさは圧倒的。コーラス魅力で聴かせきってしまうような演奏。

評価はもちろん[+++++]です。以前は[++++]にしていたので、今回聴き直して、その素晴しさを再発見したというところです。プレストン指揮のアルバムは多くはありませんが、この演奏を聴くと素晴しいものがあります。ハイドンの誠実な曲想とプレストンのこれまた誠実なコントロールが絶妙の相性を見せているというこでしょう。

昨夜は忘年会ではなかったんですが、連日帰りが遅く疲れ気味だったんで、記事はお休みさせていただきました。今日の記事は昨日の書きかけを補ってアップしたもの。今朝はお休みゆえ、昨夜の残りの鍋をあっためて、朝から塩竈、佐浦酒造の名酒「浦霞禅」を一杯。朝から良い気分です(笑)

もうすこし年末企画続けますので、お楽しみに。

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tag : チェチーリアミサ 古楽器

ミシェル・コルボのチェチーリアミサ

今日はもう一枚。こちらも最近入手のもの。

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ミシェル・コルボ指揮のリスボン・グルベンキアン合唱団&管弦楽団。ハイドンの聖チェチーリアミサとボンテンポのレクイエムの2曲を収めた2枚組。

久々のミサ曲です。ミシェル・コルボといえばエラート時代のフォーレのレクイエムの名盤が有名ですね。私もフランスエラート盤のLPをずいぶん聴きました。最近ではラ・フォル・ジュルネでたびたびの来日。私もモーツァルトを取り上げた年にレクイエムと、バッハを取り上げた年にロ短調ミサを実演で聴いていますが、東京国際フォーラムの大ホールの大きすぎる容積にもかかわらず、なかなかの名演でした。特にロ短調ミサは素晴しい出来で至福の一時。すぐに出たばかりの最新盤を買い求めましたが、やはり実演の興奮を家の中には持ち込めません。実演のトランペットの天上の響きと素晴しい合唱のハーモニーの余韻がいつまでも響き続けています。

私はこのロ短調ミサの実演でコルボを見直しました。というよりコルボの真価をはじめて知った次第。コンサートでは足を引きずっての登場だったのでどこか悪いのでしょう。コルボの実演はまた聴きたいですね。まだまだ来日して美しい音楽を聴かせてほしいものです。

コルボは1934年生まれとのことで、今年76歳。この録音のときは60歳前後ですね。コルボといえばローザンヌ室内管弦楽団というイメージが強いですが、このアルバムのリスボン・グルベンキアン合唱団&管弦楽団とも関係が深い模様。

さて、演奏ですが、流石コルボ。オケと合唱のコントロールはあのバッハのロ短調ミサを彷彿とさせる出来。冒頭からコルボ独特の穏やかな緊張感があり、オケも合唱もすばらしい出来。弱音のコーラスから始まるキリエ、合唱のハーモニーとオケの精度は抜群です。音楽の悦びが満ちあふれています。今まで聴いたことがなかったオーケストラと合唱だっただけに質に危惧もありましたが、オケも合唱も巧い。コルボ独特のテンポはあまり動かさず、ドイツ的でもフランス的でもイタリア的でもないのに生き生きと明るい音調で淡々と曲を進める、そしてオケとコーラスが一体となったあの感じです。コルボの良い点がすべて集約された演奏といえるでしょう。

合唱指揮者らしく、歌手の配置は盤石。ソロはなじみがない人ばかりですかそれぞれ素晴しいです。ソプラノはブリギッテ・フルニエ、非常に美しい可憐な声の持ち主。グローリアの2曲目トラック5はソプラノの美声が聴き所。アルトはベルナルダ・フィンク、テノールはチャールズ・ダニエルス、バスはマルコス・フィンク、それぞれ粒ぞろいで素晴しい歌唱。

1時間以上かかるこの大曲も集中して一気に聴いてしまう迫力。評価はやはり[+++++]ですね。所有盤のなかでは聖チェチーリアミサのベスト盤といってもいいでしょう。連日の素晴しい演奏との出会いに感謝です。

昨日がイタリアンとワインで幾分食べ過ぎ気味だったので、今日はおとなしくしてました(笑)
プールで先週のつかれと過栄養を吹き飛ばし、サウナですっきり。夜は軽く済まし、時代劇チャンネルの鬼平犯科帳特集をみながらのんびりしてます。今週末は鬼平つながりで、中村吉右衛門の俊寛を観に新橋演舞場に行く予定です。レビューはまたブログにて。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : チェチーリアミサ おすすめ盤

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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