【新着】イッサーリス/ドイツ・カンマーフィルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

珍しく新着アルバムが続きます。

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スティーヴン・イッサーリス(Steven Isserlis)のチェロと指揮、ドイツ・カンマーフィル・ブレーメン(Deutsche Kammerphilharmonie Bremen)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、モーツァルトの歌劇「偽の女庭師」(K.196)より「ああ小鳥は嘆く」(編曲:イッサーリス)、C.P.E.バッハのチェロ協奏曲H.439、ハイドンのチェロ協奏曲2番、ボッケリーニのチェロ協奏曲(G.480)よりアダージョの5曲を収めたアルバム。収録は2016年9月25日から27日にかけて、ブレーメンのカンマー・フィルハーモニーでのセッション録音。レーベルは英hyperion。

スティーヴン・イッサーリスははじめて取り上げます。1958年ロンドン生まれのチェリストで、ガット弦による個性的な音色で有名な人とのこと。イッサーリスはこのアルバムの前にRCAに1996年にノリントンの振るヨーロッパ室内管をバックにハイドンの協奏曲2曲と協奏交響曲などを録音しています。今回あらためて聴きなおしてみると、ノリントンの楽天的に良く響くオケに乗ったオーソドックスな名演奏。ノリントンはリズミカルにオケをのびのびと鳴らして演奏の主導権を握っており、どちらかというとノリントンペースの演奏という感じ。イッサーリスは、ノリントンの快活なオケに乗ってキレよく妙技を披露していますが、このアルバム入手当時はなんとなくそれがそそくさとして踏み込みが足りない印象を残していたため、記事にしなかった次第。ただ、今あらためて聴きなおしてみると、これはこれでハイドンの晴朗さを表すユニークな名演奏という印象。こちらの器が大きくなったのでしょう。

今回の録音は指揮者をおかず弾き振りによるもの。前録音から20年の時が流れており、チェロの熟成と自身のオケのコントール能力が問われる録音と言っていいでしょう。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765–67)
序奏のオケはノリントンのキリリと明確なリズム感を持ったものとは異なり、ゆったりと美しく壮麗な響きでチェロの入りを待ちます。イッサーリスは楽器をよく鳴らしてこちらもゆったりと入ります。やはりというか、この演奏を聴いてかえってノリントンのユニークさがよくわかりました。今回の演奏はオケとソロが一体となって美しい響きを自在に鳴らす演奏。あえてリズムの刻みを強調することなく微妙にテンポを揺らしながらこの曲の真髄に触れに行きます。オケの方はヴィブラートを抑えて透明感ある響きを作っているのはノリントン譲りですが、指揮者の個性が異なることで音楽はまったく異なって聴こえますね。期待されたチェロの演奏は流石に20年の熟成を経て、実に落ち着いて味わい深いもの。深みのある柔らかな音色は流石イッサーリスといったところ。弾き振りだけにチェロが主導権を握る演奏となり、この曲の魅力を素直に堪能できる演奏。このアルバムに含まれる曲のカデンツァは全てイッサーリスによるもの。意外にオーソドックスな構成のものですがチェロの響きの美しさをしっかり踏まえたもの。
続くアダージョもこの曲のオーソドックスな演奏と言っていいでしょう。極上のオケの響きにイッサーリスの美音で紡がれるハイドンの名旋律を堪能できます。前録音がノリントンによる表現意欲に溢れた演奏だったのに対し、こちらは悟りを開いたかのような達観した境地に至っています。ハイドンの曲に全てを語らせようとするような純粋無垢な心情が感じられる演奏。
フィナーレもしなやかさが際立ちます。速いパッセージも余裕たっぷりにに弾き進め、オケとの掛け合いでは自在に音量を変えながら陶酔感を巧みに演出。力みや表現意欲から解放された虚心坦懐な陶酔。見事です。

この後モーツァルトとC.P.E.バッハが挟まりますが、モーツァルトの穏やかな歌とC.P.E.バッハの変幻自在な響きの坩堝を実に上手く表現していて両者とも見事な出来。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番が純粋無垢な素晴らしい出来だったので弥が上にも期待が高まります。

入りからオケの色彩感と響きの美しさが際立ちます。基本的にはノンヴィブラートの現代楽器による演奏なんですが、その前の世代のロマンティックな演奏の延長線上の良さもあり、非常にバランスの良くチェロもオケもよく鳴っていて、まさにこの曲の決定盤的演奏。もちろん最新の録音だけに演奏の良さが鮮明に録られています。イッサーリスのチェロは自在さを極め、所謂ゾーンに入って完全にハイドンの音楽と一体化しています。ライヴでもこのような域に達することは希なレベル。カデンツァは1番とは打って変わってかなり踏み込んだ表現でチェロの音色の限りを使って攻めてきます。1楽章から期待を大きく超える神がかったような演奏で聴いていて鳥肌がたつよう。
2番のアダージョは深さよりも華やかさを感じるもの。オケの華やかな音色にチェロの深みのある音色がこの曲の潜む色気のようなものに迫る見事な表現。フレーズごとに表現を磨き抜いた達意の表現が繰り返されていくうちにどっぷりとハイドンの音楽の魅力を味わっていることに気づきます。
そしてフィナーレもソロとオケの一体感がさらに高まり、迫力の隙にこの曲独特の郷愁のようなものをさりげなく感じさせる演奏で曲を終えます。

最後に置かれたボッケリーニのチェロ協奏曲の緩徐楽章も静けさと翳りの表現が秀逸な見事なものでした。

スティーヴン・イッサーリス2度目のハイドンのチェロ協奏曲集。前作のノリントンに合わせたチェロの妙技も悪くはなかったんですが、今度のアルバムはイッサーリス渾身の演奏で現代のチェロ協奏曲の録音としては理想的なもの。過度に現代風ではなくチェロ協奏曲の伝統的な演奏の延長上にありながら、響きの洗練と深みを両立させた見事な演奏でした。録音も良いのでチェロ協奏曲の入門盤としても広くお勧めできるものです。もちろん評価は両曲とも[+++++]としました。



(参考アルバム)
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こちらのアルバムの聴きどころは協奏交響曲。ノリントンらしい吹っ切れた明るさがこの曲の持つ晴朗さを実に見事に表現できており、えも言われぬ愉悦感が味わえます。評価を付け直して[+++++]としました。

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tag : チェロ協奏曲

ダヴィド・ゲリンガス/RIASシンフォニエッタのチェロ協奏曲1番(ハイドン)

今日は最近手に入れたLPです。

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロ、レオポルド・ハーガー(Leopold Hager)指揮のRIASシンフォニエッタ・ベルリン(RIAS-Sinfonietta Berlin)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、ボッケリーニのチェロ協奏曲、ヴィヴァルディのチェロ協奏曲1番の3曲を収めたLP。収録は1977年5月、ベルリンのRIASスタジオでのセッション録音。レーベルはeurodisc。

名チェリストゲリンガスのアルバムはこれまでにも結構取り上げています。

2017/07/13 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/07/05 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チューリンゲン・ヴァイマル室内管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

ゲリンガスの素晴らしさを知ったのはCANYONからリリースされていたチェコフィルとのチェロ協奏曲集で、その後、出会うたびに色々集めてきたというのが正直なところ。協奏曲については2番の方がチェコフィルとの演奏の他に2組あったのに対し、1番の方はチェコフィル番のみ。おそらく1番の方も録音があろうと思っていたところに出会ったもの。オークションで見かけた時は若干過呼吸気味(笑)。しかも手元のゲリンガスの録音としてはもっとも古い1977年の録音ということで、ゲリンガスのオリジンに迫る録音であることがわかりました。1946年生まれのゲリンガスの30代の頃の録音ということになります。ジャケットに写るゲリンガスもレオポルド・ハーガーも実に若いですね。

このLPを聴く前に手元にあるチェコフィルとの1993年録音のCDの1番を聴き直してみましたが、指揮もゲリンガスが担当するだけにオケとの一体感が見事なのに加え、ゲリンガスの達観したかのような澄み切った表情とオケの透明感ある響きが素晴らしく、比較のために聴いたのにとろけちゃいました(笑)。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765–67)
さて、肝心の当盤。レオポルド・ハーガーの振るオケの響きは穏やかで、鮮度抜群のチェコフィルの序奏と比べると若干おとなしい感じ。ゲリンガスのチェロもそれにつられて穏やかな入り。ただ、ゲリンガスのチェロの美音はこの頃から健在で、特に高音の伸びやかさはロストロポーヴィチ門下であることを感じさせます。ハーガーの落ち着いた伴奏に、ゲリンガスも落ち着いて美音で応えていくやり取りは円熟を感じさせるもの。聴き進むうちにめくるめくような暖かな楽興に包まれていきます。1楽章も終盤に至り、カデンツァの伸びやかな美音でクライマックスに。
続くアダージョは、ハーガーも思い切りテンポを落としてゲリンガスの伸びやかな美音の受け入れ態勢を整えます。ゲリンガスの弾き振りとは異なり、この辺りの阿吽の呼吸が協奏曲の醍醐味。ゲリンガスも老成したかのように達観しきった孤高のソロで応えます。演奏スタイルとしては時代がっかた印象もありますが、ゲリンガスの圧倒的な存在感の前にスタイル如何は消し飛んでしまいます。遅めのテンポから生み出される深い呼吸のメロディーによってこの曲のメロディーの美しさが完璧に描ききられます。カデンツァでの音量を落としてチェロの美音を極めます。
そして静寂を断ち切るようにフィナーレが鮮やかなメロディーが鳴り響くと雰囲気が一変。この対比の鮮やかさは見事。ゲリンガスはオケの鮮やかさを引き立てるように控え目に入りますが、徐々にボウイングに力が漲り、曲が進むにつれて陶酔の坩堝に突入。この変化に富んだテンポ設定、やはりハーガーの戦略でしょうか。ゲリンガスもその流れに見事に対応して素晴らしいクライマックスに至ります。最後はキレ良くまとめました。

ダヴィド・ゲリンガスのおそらく最初のチェロ協奏曲の録音。ゲリンガスは31歳ということで、若さ溢れる演奏かと思いきや、むしろ後年の録音よりも老成したような円熟味を感じさせる演奏でした。チェコフィルとの演奏が弾き振りだったのに対して、こちらはレオポルド・ハーガーの存在が協奏曲のソロとオケとの掛け合いの面白さに繋がっています。チェコフィル盤も廃盤となっていますが、Apple Musicなどで聴くことができますので、ご興味のある方は是非。このLPの評価は[+++++]とします。

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ダヴィド・ゲリンガス/北ドイツ放送響のチェロ協奏曲2番(ハイドン)

お宝アルバム、見つけました! ディスクユニオンの店頭で見かけたとき、もちろん過呼吸気味(笑)

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)のチェロ、ヴォルデマール・ネルソン(Woldemar Nelsson)指揮の北ドイツ放送交響楽団(Das Sinfonieorchester des Norddeutschen Rundfunks)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、プロコフィエフのチェロ協奏曲Op.132の2曲を収めたLP。収録は1979年7月、ハンブルクにてとだけ記されています。レーベルはeurodisk。

ダヴィド・ゲリンガスといえばチェロの名手。特にハイドンの演奏はどれも素晴らしいもので、当ブログでも色々取り上げています。

2014/07/05 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チューリンゲン・ヴァイマル室内管のチェロ協奏曲2番(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

今日取り上げるチェロ協奏曲の2番については、レビューに取り上げた2002年録音のチューリンゲン・ヴァイマル室内管との演奏、1993年録音のチェコフィルとの演奏の2種よりさらに古く1979年の録音。ゲリンガスは1946年生まれということで、33歳という年齢での録音となります。ジャケットに写るゲリンガスの姿も若い! これまでも色々な奏者の演奏を色々聴いてきましたが、後年有名になった奏者の若い頃の録音はおしなべて覇気に溢れた素晴らしい演奏であることが多いですので、今回入手したアルバムも期待すること大であります。

ゲリンガスの略歴についてはチェコフィルとの協奏曲の記事をご参照ください。

指揮者のヴォルデマール・ネルソンははじめて聴く人。1946年、ウクライナやベラルーシ国境に近いロシアのクリンツィ(Klinzy)生まれの指揮者で、1976年に西ドイツに亡命し、以後国際的に活躍した人とのこと。ロシア時代はヴァイオリニストとして中央ロシアのノヴォシビルスク交響楽団で活躍し、その後指揮を学んで、コンドラシンに見出されてモスクワフィルのアシスタント指揮者となり、オイストラフ、ロストロポーヴィチ、クレーメルなどの奏者と共演したり、ペルトやシュニトケと親交を持ったそう。亡命後はこのアルバムのオケである北ドイツ放送響とツアーを行い、西ドイツに定住。それまでオペラを振った経験がないにもかかわらずバイロイトに招かれローエングリンやさまよえるオランダ人を振ったそう。またカラヤンの招きでザルツブルク音楽祭に参加し、ペンデレツキのオペラを初演するなど、日本ではあまり知られていないもののなかなかの経歴の持ち主ですね。亡くなったのは2006年とのことです。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
LPのコンディションは最高。柔らかなオケの序奏が心地よく響きます。律儀でオーソドックスなオケの入り。ゲリンガスのチェロはいきなりむせび泣くように入ります。健康的に響くオケに対しちょっと影のある音色で深みを感じさせます。徐々にオケの各パートもゲリンガスの音色に寄り添うようになっていくのが面白いところ。徐々にゲリンガスは深みのある響きを繰り出し、非凡なところを感じさせ始め、特に高音域の独特の輝きが眩しくなってきます。オケの方も純度の高い音色でゲリンガスのソロに呼応。オケは迫力よりは純度というか透明感で聴かせる感じ。これがヴォルデマール・ネルソンのセンスでしょう。中盤からはゲリンガスの美音とのびのびとしたボウイングに釘付け。この若さですでに至芸と言っていいでしょう。常に冷静に室内楽のように精妙にサポートするオケも非常にいい感じ。聴き進むうちにハイドンのめくるめくような名旋律の美しさにのまれるよう。1楽章のカデンツァはゲリンガスの自作。ここにきてゲリンガスの表現意欲が炸裂。糸を引くように美音を重ねて孤高の演奏が続きます。力まずまるで老成した奏者のような自在なボウイングの魅力を聴かせます。なんでしょう、この気高さは。
アダージョは、もはや燻し銀の響きと言っていいでしょう。1楽章では律儀に振っていたネルソンもここではゆったりと深い音楽を創り、ゲリンガスの音楽にスタイルを合わせてきます。ゲリンガスもネルソンも枯淡の境地。この楽章のカデンツァ、深い。オケの響きが消えた後の静寂にゲリンガスのチェロの響きだけが静かに置かれる名演奏。心が鎮まる音楽です。
そしてフィナーレでもオケはしなやかなまま。ゲリンガスのボウイングは力が抜けて魂そのものの音楽のように昇華されていきます。途中からオケが襟を正すように響きがフレッシュになって響きを引き締めることで曲が締まります。最後のカデンツァは音量を落として神がかったような透明感。ゾクゾクします。最後もオケがキリリと締まって曲を終えます。

いやいや絶品。ゲリンガスのこの曲の演奏の中で最もゲリンガスの個性が良く出た演奏と言っていいでしょう。サポートするヴォルデマール・ネルソン指揮の北ドイツ放送響も実に味わい深い演奏で華を添えます。今一度ジャケットに写るゲリンガスの表情を眺めると、ほのかに微笑むような優しい表情でこちらを見つめていますが、その表情にこの演奏の味わい深い響きがオーバーラップして見えるのは私だけでしょうか。若きゲリンガスが世に問うた素晴らしい演奏と言っていいでしょう。これは宝物になりそうです。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

【新着】クレメンス・ハーゲン/1B1室内管のチェロ協奏曲(ハイドン)

このところ意識して新着アルバムを聴いています。今日は久しぶりのコンチェルト。

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クレメンス・ハーゲン(Clemens Hagen)のチェロ、ヤン・ビョーランゲル(Jan Bjøranger)指揮の1B1室内管弦楽団の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、モーツァルトの協奏交響曲(K.364)の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は2016年2月15日から17日にかけて、ノルウェーの南西端に近いスタヴァンゲル(Stavanger)のコンサートホールのファーティン・ヴァーレンホールでのセッション録音。

チェリストのクレメンス・ハーゲンは、ご存知4人兄弟のハーゲン四重奏団のチェロ奏者。1966年ザルツブルク生まれで、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院でハインリッヒ・シフらにチェロを学びます。ハーゲン四重奏団の他にクレーメルのクレメラータ・ムジカに定期的に出演しているそう。ソリストとしても世界の有名オケとの共演も多く、室内楽だけでなくソリストとしても活躍しているようですね。1989年以降はザルツブルク・モーツァルテウム音楽院でチェロと室内楽を教えています。

このアルバム、チェロをハーゲン四重奏団のクレメンス・ハーゲンが弾いているということで手に入れたものですが、よく見てみると、オケは1B1という不思議な名前のオケで、しかも本拠地はノルウェーのはずれにあるスタヴァンゲルという港町という超ローカルなアルバムでした。

スタヴァンゲルについてWikipediaなどで調べてみると、北海沿岸に位置しており、北海油田に近いことから石油産業や魚の缶詰工場などが主産業の町。人口12万人と小さな町ですが、このアルバムの録音されたスタヴァンゲルコンサートホールは非常に立派な建物。

Stavanger Konserthus

またそのホールの名前になっているファーティン・ヴァーレン(Fartein Valen)はこのスタヴァンゲルに生まれた作曲家の名前とのこと。そしてオケの1B1という不思議な名前ですが、このオケの本拠地の住所であるBjergsted 1(ビェルグステ1番地)からとったもので、設立時はEnsemble Bjergsted 1(EnB1)と名乗っていたそうですが、それが現在は1B1となっているということです。Googleマップでその住所を調べてみると、スタヴァンゲルコンサートホールに隣接する公園の中の建物。ここが本拠地なんですね。2008年にスタヴァンゲルがヨーロッパ文化の首都に選ばれたのを契機に設立され、メンバーはスタヴァンゲル大学の教師、優秀な学生、スタヴァンゲル交響楽団の団員などとのこと。

スタヴァンゲルを単なる単なる田舎町と思い込んで超ローカルと紹介しましたが、ヨーロッパ文化の首都とみなされるほど文化に力を入れているのは、おそらく石油産業で豊かな財政から文化に投資し続けてきた成果だと思われます。地理的にはかなりの僻地ながら、人口12万人の町にしては超立派なホールがあり、そして、驚くほどレベルの高いオーケストラがある理由がなんとなくわかってきました。

このアルバム、チェロもいいのですが、恐ろしくキレのいいオケも聴きどころです。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
冒頭から非常にフレッシュなオケの序奏に驚きます。ノンヴィブラートのオケ特有の鮮度の高い透き通るような響き。ただでさえ晴朗なハ長調のハイドンのコンチェルトが、抜けるような青空のもと、くっきりと浮かび上がるよう。そしてクレメンス・ハーゲンのチェロもテンポよく溜めることなくサラサラと進みます。楽器は1698年作のストラディヴァリウスとあって、響きの余韻も絶品。なんとなくこの清々しい演奏にノルウェーらしい印象を感じるのは私だけでしょうか。ソロもオケも演奏自体は非常にオーソドックスながら、鮮度抜群に聴こえるところがすごいところ。リズムのあまりのキレの良さがそう聴こえさせます。クレメンス・ハーゲンはあまり冒険はせず、楽譜に忠実にメロディーを奏でていき、オケも誠実そのもの。よく聴くとオケのアクセントのキレの良さもフレッシュな印象を強くしていますね。カデンツァはノルウェーの作曲家でヴァイオリニストのヘニング・クラッゲルード(Henning Kraggerud)のもの。古典のハイドンの良さに現代音楽のような精妙な響きをちりばめた、なかなか深い音楽。もちろん技巧を尽くした部分もありますが、それほどアクロバティックなものではなくよくまとまっています。
続くアダージョは美しいメロディーの宝庫。キレの良いソロとオケを活かして速めに来るかと思いきや、じっくりとテンポを落とす正攻法できました。ゆったりとリラックスした音楽が流れます。丁寧にフレーズを膨らまし、そして弱音部にも緊張感が張りつめる素晴らしい演奏。クレメンス・ハーゲンも見事な弱音のコントロールで精妙かつ美しいメロディーが妖艶に輝きます。特にチェロの高音を意識的に鳴かせる訳ではなく、バランス良いボウイング。2楽章のカデンツァも前楽章同様ヘニング・クラッゲルードのもので、今度は低音弦の美しい響きを聴かせる、こちらもなかなかのもの。
そして、絶品なのがフィナーレ。これほどさわやかな入りはなかなか聴けません。チェロのキレの良さはご想像通りだと思いますが、オケがまことに素晴らしい。まるで本当のそよ風のような軽さを感じさせる見事なもの。ライナーノーツの写真を見るとメンバーは若手中心ですが、速いパッセージの切れ味と響きのクリアさは素晴らしい。欧米の一流オケでもなかなかこうはいきません。

この後のモーツァルトのヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲ですが、こちらも見事。ソロは1B1の音楽監督であるヤン・ビョーランゲルのヴァイオリンに、ラーシュ・アネシュ・トムテルのヴィオラ。オーソドックスながらキレ味抜群の演奏でモーツァルトの名曲がいきいきと浮かび上がります。

ノルウェーのスタヴァンゲルという町のオケによるハイドンとモーツァルトのコンチェルト。さすがにヨーロッパ文化の首都に選ばれただけのことはある、非常にレベルの高い演奏でした。ハイドンのハ長調協奏曲はこれまで名盤がたくさんありますが、オーソドックスな新しい演奏のファーストチョイスとしてもいいレベルの素晴らしさ。この演奏によってハイドンのこの曲の素晴らしさを再認識しました。もちろん評価は[+++++]。こうなるとどうしてもこのコンビでニ長調の方も聴いてみたくなりますね。文句なしのオススメ盤です!

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ギレルミナ・スッジア/バルビローリのチェロ協奏曲(ハイドン)

ちょっとLPにかまけておりましたのでCDに戻ります。

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ギレルミナ・スッジア(Guilhermina Suggia)のチェロで、ハイドン、ブルッフ、ラロ、サンマルティーニのチェロ作品を収めたアルバム。ハイドンはチェロ協奏曲2番でジョン・バルビローリ(John Barbirolli)指揮のオーケストラの演奏。収録はなんと1928年7月12日から13日で、ヒストリカルな演奏を素晴らしい音質で復刻する英DUTTON LABORATORIESのCD。

最近オークションで手に入れたアルバムですが、DUTTONの復刻はなかなかいいものが多いので入札した次第。先に書いたように録音は1928年ということで今から90年近く前。パチパチまみれかと思いきや、抜群に聴きやすい素晴らしい状態に復刻されており、とても90年近く経たものとは思えません。指揮がバルビローリというのも食指が動いた理由ですが、肝心のチェリストのギレルミナ・スッジアは全く未知の人。

ということで、いつものようにさらっておきましょう。

ギレルミナ・スッジアは1885年生まれのポルトガルのチェロ奏者。カザルスとともいパリで学び、その後国際的に活躍するようになりました。主に特に評価の高かったイギリスで活動、生活するようになりました、1939年に引退、戦後の1950年に亡くなっています。ということでこのアルバムの演奏時は43歳くらい、バルビローリは1899年生まれなので29歳と非常に若い時期の録音ということになります。バルビローリがイギリスで指揮者に転向したのが1925年、ニューヨークフィルの首席指揮者となったのが1936年ということで、バルビローリはデビュー後の活気あふれる時期ということになります。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
とても1928年の録音というのが信じられないしっかりとした響き。もちろんモノラルですが、音に厚みと鮮度があり、実に聴きやすい。バルビローリの伴奏は実に柔らかい響きですが、徐々に自在に変えながら愉悦感に溢れた踏み込んだ伴奏であることがわかります。肝心のスッジアのチェロはやはりポルタメントを多用した時代がかったものですが、不思議とバルビローリの伴奏で聴くと、アーティスティックな掛け合いに聴こえてきて、悪くありません。現在の古典的なハイドン像とは異なり、むしろ前衛的な演奏という印象を感じます。楽譜からエキセントリックな響きを見抜いて音にしていくよう。スッジアもバルビローリの自在な呼応して、かなり自在な弓さばきで応えます。ときおりぐいぐい巻くように勢いをつけて推進するかと思いきや、すっと力を抜いて、まさに緩急自在。スッジアもバルビローリも老成している頃ではなく、むしろ若い時の演奏ですが、恍惚たるいぶし銀の世界を見事に描いていきます。見事なのはカデンツァでのスッジアの濃厚な表現。チェロの深く沈む音色で深い陰影を感じさせたかと思うと、すぅっと伸びる高音を聴かせる見事な弓さばき。1楽章からいにしえの響きに引き寄せられます。
アダージョは枯淡の表情を聴かせるのかと思いきや、意外と快活でチェロもさらりとした弓さばき。古い演奏らしく音程をかなり動かしながら鳴くチェロですが、不思議とさっぱりとしていて純音楽的に聴こえます。このアルバム、低音の処理がうまく、チェロの低音が実に深く響き、スッジアの分厚いチェロを堪能できます。
そしてフィナーレも、無理に郷愁を強調することなく、こちらも自在に伸びやかに弾いているのに冷静なコントロールが行き渡った演奏。スッジアの自在な弓さばきを今度は几帳面に支えるバルビローリ。現代の演奏とはかなり異なるざっくりとした音楽の中に、これもハイドンの音楽の一時の理想的な姿だと感じさせるものがあります。スッジアとバルビローリの妙技を堪能した満足感が残ります。

時代とともに演奏スタイルは変わりますが、時代ごとにハイドンの真髄にせまろうとする意欲は変わらず、この90年近く前の演奏にもはち切れんばかりのエネルギーが詰まっています。もちろん演奏スタイルには時代を感じさせるものがありますが、素晴らしい復刻により、この時代の演奏なのに十分鑑賞に耐える演奏となっています。この演奏は手元にあるハイドンのニ長調協奏曲では録音年不明のものをのぞき最古の演奏。記録として重要なばかりでなく、現在聴いても刺激的な演奏です。実に豊かな気持ちになる音楽といっていいでしょう。評価は[+++++]をつけます。こちらも手にはいるうちにどうぞ。

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マリア・クリーゲル/シュミット=ゲルテンバッハ/ポーランンド室内管のチェロ協奏曲集(ハイドン)

相変わらず、年度末の仕事にまみれております。ようやくひと段落したのでLPを聴いています。

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マリア・クリーゲル(Maria Kliegel)のチェロ、フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハ(Volker Schmidt-Gertenbach)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polnisches Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、1番の2曲を収めたLP。収録に関する情報は記載されておりませんが、ネットなどで調べたところ1982年にリリースされたアルバムのようです。レーベルは独aperto。

マリア・クリーゲルといえば、NAXOSからリリースされたチェロ協奏曲のアルバムがあまりに素晴らしく、昨年のH. R. A. Awardに輝いたことは当ブログの読者の皆さんならご記憶のことでしょう。私もマリア・クリーゲルのチェロをはじめて聴いて、その類まれな表現力にノックアウトされたくちです。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

そのマリア・クリーゲルがチェロを弾く若い時のアルバムということで、俄然興味が湧いたわけですが、このアルバムへの興味はそれだけではありません。伴奏はなんとフォルカー・シュミット=ゲルテンバッハではありませんか! 以前取り上げた「悲しみ」の素晴らしい演奏で鮮明な印象が残っています。特に彫りの深い弦楽器のキレキレの演奏は他の演奏とは次元の違うものでした。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

その印象的な2人が顔を合わせたアルバムということで、聴く前から脳にアドレナリンが噴出されるのを待っている状態。クリーゲルの新盤は2000年録音ということで本盤は18年前、クリーゲル30歳頃の録音、フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハの「悲しみ」は1991年録音ということで本盤は9年前、41歳頃の録音ということで、それぞれの若さが演奏に宿っていることでしょう。奏者の情報はぞれぞれの前の記事をご覧ください。

このアルバム、最近オークションで手にいれたものですが、盤は非常に綺麗な状態ですが、いつものようにVPIのクリーニングマシンと必殺美顔ブラシで綺麗に磨きあげてプレーヤーに乗せると、ノイズレスの極上の状態になりました。A面に2番が収録されているので2番から聴きます。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
録音は鮮明。ポーランド室内管は非常に柔らかいしなやかな響きの序奏で入ります。シュミット=ゲルテンバッハは実に落ち着いたテンポでオーソドックスに序奏をまとめますが、そこはかとない華やかさが感じられます。クリーゲルのチェロも実にしなやかで柔らかい響き。入りはオケの様子を伺うように大人しめです。NAXOS盤で聴かれた味わい深さはこのアルバムでも共通しており、30歳とは思えない円熟の境地を感じさせます。全般に力が抜けて、軽々と、しかもしっとりと弓を操っている感じです。シュミット=ゲルテンバッハもそれに応えるように、羽毛のような優しいタッチでクリーゲルを支えます。「悲しみ」での力感に満ちた表現とはまったく異なります。ソロに合わせて絶妙なサポート。聴き進むにつれてソロとオケがお互いに非常にデリケートに調和して響いていることに驚きます。クリーゲルもシュミット=ゲルテンバッハもやはり只者ではありませんでした。この演奏が最晩年の録音だといわれてもおかしくない、真に力の抜けた、音楽だけが響く純粋無垢な響き。シュミット=ゲルテンバッハの操るポーランド室内管も絶品。クリーゲルの演奏の本質を見抜いて、完璧に調和させようという意図を感じます。ただのおじさん風の風貌(悲しみのジャケット参照!)から溢れ出る優しい音楽。なんという優しさ。なんというデリケートなフレージング。絶品です。そして最後のカデンツァはクリーゲルのチェロから繰り出される音楽の陰影の深さに圧倒されます。オケが迎えにくるまでにノックアウト。1楽章からあまりの素晴らしさに、脳に溜まっていたアドレナリン全噴出!
この演奏でアダージョが悪かろうはずもなく、冒頭からシュミット=ゲルテンバッハの癒しに満ちたオーケストラコントロールに身をまかせます。クリーゲルも安心して伴奏に身を任せながら演奏しているのがわかります。ゆったりとうねる大波に浮かぶような心境。音量を抑えたところでのクリーゲルのチェロの見事なコントロールはこの楽章の聴きどころでしょう。そして音階の滑らかさ、無理なく伸び伸びと響くチェロの美音。完璧です。
ほのかな郷愁を感じさせるフィナーレの入り。クリーゲルは速いパッセージもあえて丁寧に弾いて、音楽をしっかりと印象付けます。シュミット=ゲルテンバッハとの息の合ったやりとりも変わらず、互いのイメージしている音楽が完全に重なり見事な一体感。少し遅めでメロディーをしっかり演奏していく方向は一貫していて、終楽章のメロディーの美しさが脳裏に焼きつきます。いやいや、期待はしていましたが、ここまで素晴らしい演奏とは思いませんでした。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
レコードをひっくり返して、今度は1番。オケのしなやかさは変わらず、2番のゆったりした感じから、リスムを少しはっきりさせて晴朗さに振ったようなテイスト。こころでもシュミット=ゲルテンバッハはサポートに徹してクリーゲルを迎えます。クリーゲルは独特の燻らせたような音色で、やはり力の抜けたボウイングで味わい深くフレーズを刻んでいきます。2番よりも高音の伸びやかな鳴きを聴かせる頻度が高いのでチェロの美音が印象的。どこにも無理はなく、淡々と音楽を進めていきますが、音楽自体は実にしなやか。ソロもオケも癒しに包まれ、特に伴奏に乗ってクリーゲルが自在に演奏している感じがいいですね。クリーゲルのカデンツァはあまりに伸びやかで深みのある演奏に再び驚きます。晴朗さに満ちた1番の1楽章が天上の音楽のごとき神々しさに包まれました。
もっと驚いたのがアダージョ。2番とは明らかに異なり、この楽章、深く深く沈む情感を表すがごとく、テンポをかなり落として呼吸も深まり、情感が滲み出します。明らかに2楽章に聴きどころを設定している感じです。クリーゲルのチェロはもはや枯淡の彼方へ。楽譜に潜む気配をさっして思い切り踏み込んできました。チェロの音色は美しさの限りを尽くして鳴き続けます。そしてシュミット=ゲルテンバッハもともに沈み込み、祈りのような時間が流れます。いままで聴いた1番のアダージョでは最も深い音楽。
静寂を振り切るようにフィナーレは快活なオケが新鮮に響きます。よく聴くとオケはさすがにシュミット=ゲルテンバッハのコントロールらしく、特に弦楽器のキレが見事。しなやかさを帯びているのでキレばかりが目立つわけではありませんが、流石シュミット=ゲルテンバッハというところでしょう。クリーゲルも鮮やかな弓裁きで応報。オケも徐々にキレが冴え渡り、陶酔の極致へ。タッチの軽さを保ったままクライマックスへ至る素晴らしい流れ。力みは皆無で音楽が旋回して見えなくなるほどの溶け合いかた。1番も2番とは異なる聴かせどころをもった圧倒的な名演奏でした。

いやいや参りました。このアルバムでのクリーゲル、弱冠30歳ではありますが、演奏は円熟の極み。今更ながらジャケットをよく見てみると、チェロを抱えて笑顔で映るクリーゲルの左には1981年パリで開催されたロストロポーヴィチコンクールで優勝との記載があり、このアルバムはそれを踏まえて録音されたものでしょう。私の見立てはハイドンに関してはロストロポーヴィチも他の演奏も超える決定盤としてもいい絶品の演奏です。クリーゲルばかりでなくフォルカー・シュミット=ゲルテンバッハの振るポーランド室内管もクリーゲルに劣らず絶品。お互いの音楽を深く理解しあった、協奏曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。偶然見かけて手にいれたLPでしたが、宝物となりました。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

コレクションの穴だったアルバムです。

MariaKliegel.jpg
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マリア・クリーゲル(Maria Kliegel)のチェロ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、ハイドンの作とされたチェロ協奏曲(Hob.VIIb:4)、ハイドンのチェロ協奏曲1番の3曲を収めたアルバム。収録は2000年5月22日から25日にかけて、ケルンのドイツ放送の放送ホールでのセッション録音。レーベルは廉価盤中興の祖、NAXOS。

このアルバム、リリースは2001年とかなり前のものですが、なぜか手元になかったもの。NAXOSのハイドンのアルバムは交響曲、弦楽四重奏曲、ピアノソナタなど逐一リリースされる度に集めていたのですが、このアルバムはなぜか見逃していました。最近それに気づいて注文していたもの。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはハイドン好きな方ならご存知でしょう。NAXOSのハイドンの交響曲全集リリースの中期以降8枚のアルバムを手兵ケルン室内管と担当している他、協奏曲の伴奏も何枚か担当し、NAXOSのハイドン録音の中核指揮者といった存在です。キレのよい響きをベースとした手堅い演奏をする人です。当ブログでもNAXOSの交響曲から1枚と、1966年録音のシャルランレコードの1枚をレビューしています。略歴などは交響曲72番の記事の方をご覧ください。

2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

今日取り上げるアルバムの目玉はなんといってもチェロのマリア・クリーゲルでしょう。アルバムの帯によるとクリーゲルもNAXOSの中核アーティストとのこと。ネットで検索してみると、NAXOSではバッハのチェロソナタ、ベートーヴェンのチェロソナタ、ピアノトリオ、ドヴォルザークのチェロ協奏曲のほか、現代音楽までかなりのレパートリーを担当していることがわかりました。彼女も名実ともにNAXOSの看板アーティストと言っていいでしょう。

マリア・クリーゲルは1952年ドイツのヘッセン州ディレンブルク生まれのチェリスト。アメリカインディアナ大学で名手ヤーノシュ・シュタルケルに師事。1981年にロストロポーヴィチ国際コンクールでグランプリ輝き、その後ロストロポーヴィチの指揮でアメリカ、フランスでコンサートツアーを行ったとのことです。楽器はフランスのモーリス・ジャンドロンが使っていたストラディバリウス「エクス・ジャンドロン」を使っているいうことです。

NAXOSの録音は廉価盤にもかかわらず質の高い録音が多いのですが、中には廉価盤という但し書きをなしにしても、素晴らしいレベルの演奏があります。ハイドンの交響曲ではニコラス・ウォードのしっとりとした名演が記憶に残るところですが、このマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲もそのレベルです。実に素晴らしい演奏にうっとり。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
冒頭は2番。ミュラー=ブリュールの操るケルン室内管はいつも通りオーソドックスな折り目正しい響き。序奏から癒しに満ちたしなやかな響きに聞き惚れます。マリア・クリーゲルのチェロは冒頭から燻し銀。落ち着き払ってゆったりとメロディーを奏でていきますが、ハイドンの書いたこの曲のメロディーに潜む枯淡の気配のようなものを踏まえて、実に味わい深いフレージング。いきなり巨匠の風格を感じさせます。ミュラー=ブリュールの完璧なサポートによりそって自在にチェロを操り、天上の音楽のごとき癒し。シュタルケルから灰汁の強さを除いたような風格もあり、なにものにも影響されない独自性もあります。爽やかさ、味わい深さが凄みさえ感じさせるレベル。フレーズをひとつひとつ味わい深く丁寧に重ねていきながら、ゆったりと音楽を織り上げていく快感を味わえます。素晴らしいのがカデンツァ。静寂の中にエクス・ジャンドロンの美音が響きわたり、クリーゲルの至芸を堪能できます。放送ホールでの録音にしては残響は豊かで、チェロの録音としては理想的。チェロの美音にアドレナリン噴出しっぱなし。見事。
アダージョはクリーゲルのチェロの独壇場。ゆったりと奏でられる音楽。ハイドンの書いた美しいメロディーの髄を置いていくように切々と弾いていくクリーゲル。クリーゲルの孤高の表現をあえてゆったりとオーソドックスに支えるミューラー=ブリュールの完璧なコンビネーション。1楽章と表現は変わらず一貫した音楽。
フィナーレに入ると若干テンポを上げ、ほのかに活気を感じさせますが、究極のしなやかさは保たれ、達人の草書のようなクリーゲルの筆の見事さに聴き惚れます。この楽章独特の郷愁を感じさせる曲想が一層際立ち、時折り聴かせる高音の枯れたような美音にドキッとさせられます。最後はチェロとオケがとろけるように一体となって終わります。いやいや、ここまで見事なチェロを聴かせるとは思いませんでした。

Hob.VIIb:4 Cello Concerto [D] (previously attributed to Haydn)
現在ではハイドンの作品ではないと確定している曲。手元には他に2種の録音がありますが、ハイドンの時代の空気のようなものを感じる音楽。ミュラー=ブリュールの折り目正しい伴奏によってこの曲の面白さはかなり伝わります。クリーゲルは前曲とは異なり、かなり気さくな演奏。メロディーをしっかりとトレースしながら演奏を楽しむよう。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
そして1番。相変わらず安定感抜群のミュラー=ブリュールの伴奏を聴きながら2番は曲想の真髄を捉えた燻し銀の演奏でしたが、この晴朗な1番ではクリーゲルがどう来るか興味津々。クリーゲルは出だしから今度は少々インテンポでハツラツさを感じさせる入り。曲想を踏まえてスタイルを変えてきました。音色の美しさと力のぬけたボウイングは健在。徐々に表現の幅が広がり、すぐにクリーゲルのチェロの魅力に惹きつけられます。ここでもミュラー=ブリュールの伴奏は完璧。控えめながら折り目正しく、色彩感も保ち、クリーゲルのソロを支えることに徹します。中盤以降の美しいメロディーの演出は2番では感じなかった軽快さも加わり、まさに桜の花の香りを乗せたそよ風のよう。高音の磨き抜かれた音色の美しさは鳥肌が立つほど。1楽章のカデンツァに至り、もはやこの世のものとは思えない自在なチェロの美音に包まれ、至福の極致。参りました。これほど美しいチェロの音色には滅多にお目にかかれません。
アダージョではぐっとテンポを落として沈みます。2番での表現とは異なり、ここはかなりの変化。晴朗な曲想から一転、三途の河の向こう側のような世界。チェロのゆったりとゆったりと深い音色が心に響きます。かなり遅めのテンポがこの曲の新たな魅力を際立たせます。表現を含めてこれほど深く沈み込むこの楽章は聴いたことがありません。
そして再び、快活なフィナーレ。夕立のあとの青空のように晴朗さが際立ちます。この変化をさらりと聴かせるミュラー=ブリュールも見事。時折踏み込んでチェロを震わせる音色を織り交ぜながら軽やかにメロディーをこなすクリーゲル。この楽章ではボウイングのキレの良さを印象付けます。ただし並みのチェロ奏者とは一線を画す味わい深い音色をもっているので、ただキレが良いだけではなく、音楽としてのキレの良さを感じさせるレベル。最後はぐっとためて曲を終えます。

NAXOSの看板チェリスト、マリア・クリーゲルと同じく看板指揮者ヘルムート・ミュラー=ブリュールによるハイドンのチェロ協奏曲集。そのレッテルから想像される演奏とは全く異なり、このアルバム、ハイドンのチェロ協奏曲のベスト盤といってもいい素晴らしい出来です。ハイドンのチェロ協奏曲には名盤が多く、有名なところではデュプレ、ロストロポーヴィチ、ゲリンガスなど巨匠と呼ばれるチェリストの名演、最近ではアルトシュテットやマリー=エリザベート・へッカーなどの名演がひしめいています。このマリア・クリーゲル盤、それらの名演と比べても劣るどころかそれらを凌ぐ素晴らしいものです。ハイドンのチェロ協奏曲の現代楽器による演奏として、ファーストチョイスとしておすすめしてもいいくらい。オーソドックスながら1番、2番ともに踏み込んだ表現で、曲の魅力を余すところなく伝える素晴らしいアルバムです。これまで聴いたNAXOSのハイドンの演奏では間違いなくベスト。評価も[+++++]以外につけようがありません。未聴の方、是非。

これは月末がたいへんですね。今月は本当に素晴らしい演奏が続きます。

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tag : チェロ協奏曲

マクシミリアン・ホルヌングのチェロ協奏曲集(ハイドン)

SONY CLASSICALから続々とリリースされているハイドンの新譜からの1枚。

Hornung.jpg
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マクシミリアン・ホルヌング(Maximilian Hornung)のチェロ、アントネッロ・マナコルダ(Antonello Maanacord)指揮のポツダム室内アカデミー(Kammerakademie Potsdam)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、ラトヴィアの作曲家、ヴァージャ・アザラシヴィリのチェロ協奏曲を挟んでハイドンのチェロ協奏曲2番の曲を収めたアルバム。収録は2014年3月5日から7日、ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

最近続々とハイドンの新譜をリリースしているSONY CLASSICAL。このアルバムも例に漏れずなかなか質の高いプロダクションに仕上がってます。

ネットをいろいろ調べてみるとチェロのマクシミリアン・ホルヌングは1986年、ドイツのアウグスブルク生まれの若手チェリスト。8歳からチェロを始め、あのダヴィド・ゲリンガスにも師事。2005年にはドイツ音楽評議会のコンクールで入賞して頭角を現わします。その後テックラー・トリオ(Tecchler Trio)のチェリストとして2011年まで活躍します。2007年にはARD音楽コンクールで優勝。2010年からはSONY CLASSICALと専属録音契約を結び、最初にリリースしたアルバムでエコー・クラシックで年間最優秀新人賞受賞、そして翌年リリースしたセバスチャン・テヴィンケル指揮のバンベルク響とのドヴォルザークのチェロ協奏曲のアルバムで同じくエコー・クラシックの年間最優秀チェロ協奏曲賞を受賞するなど目覚ましい活躍ぶりです。2009年から2013年までバイエルン放送響で首席チェロ奏者を務めたほか、アンネ=ゾフィー・ムター財団からも支援を受けるなど、すでに大物への道を歩んでいるようです。2014年に来日しているのでおなじみの方もいるでしょう。また今年の7月にも来日予定が組まれています。

指揮者のアントネッロ・マナコルダは2010年よりこのアルバムのオケであるポツダム室内アカデミーの首席指揮者であり、ヨーロッパの名だたるオケ、歌劇場に客演している人。日本での知名度はイマイチですが、録音を聞く限りスッキリとした音楽を作る人というところでしょう。

すでに名盤が数多あるチェロ協奏曲の新録音。新風を吹かせることができるでしょうか。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
速目のテンポでのそよ風のような心地良い入り。オケはかなり爽やか系。ところどころにキリリとアクセントを効かせてきますが、全く練らず、一貫して爽やかな伴奏。ホルヌングのチェロはそれを受けて、こちらも爽やか系。弓の抵抗が感じられないほどにサラサラとメロディーを置いていきます。まさに淡麗系の演奏。オケ同様よく聴くとアクセントはくっきり明快につけ、サラサラながらキリリとした表情を保ちます。さすがにチェロの高音の伸びは素晴らしく、時折ドキッとさせられます。1番のハ長調の晴朗さが、5月の湿度の低い爽やかな風を浴びて一層爽やかさを増しているように聴こえます。カデンツァではホルヌングの軽さを活かした美音の魅力をたっぷり聴かせます。
アダージョは爽やかな魅力を保ちつつ、ホルヌングの美音をゆったりと響かせる聴かせどころ。オケはかなり抑えてホルヌングのチェロの引き立て役に徹します。録音は自然な残響が美しいなかなかいい録音。さっぱりとスタイリッシュながら詩情も濃く乗った名演奏。
フィナーレはかなりエッジを立てて粒立ちの良さを鮮明にしようとしています。ヴァイオリンの音階をあえてクッキリと目立たせることでシャープな印象が際立ちます。ホルヌングのテクニックが冴え渡り、オケもそれに呼応。疾風のようなフィナーレでした。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番同様、ちょっと早めなテンポに乗って、爽やか系の演奏。もとより癒し系の2番ですが、ハイドンの曲自体よりも、このホルヌングとマナコルダのコンビによる演奏のキレの良さに耳がいきます。よく聴くとホルヌングのチェロは音色が刻々と変わり、変化の幅も見事なもの。ともすると単調になりがちな部分も実に爽やかにまとめてきます。特に速い音階の爽やかな切れ味が聴き所。ただし長大な1楽章の音楽の構造を前にすると表現が音色と演奏スタイルというちょっと表面的な部分で勝負しているように感じなくもありません。音色の美しさキレの良さの魅力が目立たちすぎて、音楽の深みにまで到達してこない印象も残してしまいます。カデンツァはホルヌングの美音とテクニックが堪能できるもの。
短いアダージョでは逆に音量を落として、音色ではなく音楽の深みが感じられるから不思議なものです。そしてフィナーレも晴れ渡る秋空のような爽やかでまとめました。

新進気鋭の若手チェリスト、マクシミリアン・ホルヌングによるハイドンのチェロ協奏曲集ですが、これまでの数多のこの曲の演奏のなかでは、やはり新しさを感じさせる演奏であり、このチェリストの才能はかなりのものとわかりました。1番はそうしたホルヌングの演奏がマッチしていましたが、2番では特に1楽章でちょっと音色の方に関心が移り、音楽の深遠さを感じさせるところまでいいっていない印象でした。ここがハイドンの演奏の難しいところでしょう。これだけの才能がある人ゆえ、歳を重ねていくにつれ、音楽に深みがでてくるでしょう。評価は1番が[+++++]、2番は[++++]としたいと思います。

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tag : チェロ協奏曲

ケイト・ディリンガムのチェロ協奏曲集(ハイドン)

今日はチェロ協奏曲。

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ケイト・ディリンガム(Kate Dillingham)のチェロ、ウラティスラフ・ブラコフ(Vladislav Bulakhov)指揮のモスクワ室内管弦楽団「四季」の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番、2番を収めたアルバム。収録は1999年11月17日から20日にかけて、モスクワ音楽院の大ホールでのセッション録音。レーベルは米Connoisseur Society。

淡色のいい雰囲気のジャケット。美人チェリストのアルバムということで、いつものように湖国JHさんから送り込まれた課題盤。何はともあれ、まずはチェロのケイト・ディリンガムのことを調べてみます。ネットを検索すると彼女のサイトがありました。

Kate Dillingham - Home Page

彼女のサイトには、ジャケットの絵画調の写真とは異なる清楚な姿の写真が載せられており、まさに美人チェリストという言葉がしっくりくる人。ただ、その路線でアルバムを造っていないところは好感がもてます。

ケイト・ディリンガムはアメリカ人チェリストですが、デビューは1998年ロシアで。このアルバムでも共演しているモスクワ室内管弦楽団「四季」のソリストとして招かれてのこと。この年、ペテルスブルグフィルとも共演しています。もともとアメリカニュージャージー州のラトガース大学でレオナルド・グリーンハウスに師事し、デビューアルバムはバッハ、シューマン、ブロッホ、ラヴェルの小品集。ロシアの現代音楽の曲も数多く演奏し、ロシアでのデビューの後はモスクワ音楽院のマリア・チャイコフスカヤに師事し、同氏のドイツのマスタークラスを卒業しています。今日取り上げるハイドンの協奏曲集はウラティスラフ・ブラコフとモスクワ室内管弦楽団「四季」とのデビュー以来の親交によって生まれたものということです。

経歴は地味ではありますが、その演奏はなかなかのものでした。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まずは1番から。オケの伴奏は手慣れたもの。テンポ良くハ長調の晴朗な序奏が鳴り響きますが、草書体のようにしなやかな伴奏。冒頭からテンポ良くチェロが入ります。チェロも草書体のようなしなやかな入り。最初からチェロがよく鳴り、ボウイングも鳴きを聴かせる演歌調。といってもくどいような演奏ではなくしっとりとしなやかさを感じさせるもの。もう少し鮮度重視の演奏かと想像していましたがさにあらず。糸を引くようにメロディーをつなぎ、低音をふくよかに鳴らす、最近流行の古楽風の演奏とは対極にあるような演奏。燻したような独特の表情が、音楽の成熟を表しているよう。まるで老成した奏者の演奏のような感じ。カデンツァもそうした力の抜けたボウイングで聴かせるもの。晩年のアラウのピアノのような澄みきった音楽に近づこうとしているのでしょうか。2番ではなく、1番からこの枯れ具合。渋いです。
アダージョは、予想通りぐっとテンポを落として、三途の川のこちら岸で最後に散歩するような風情。フレーズのひとつひとつを慈しむような演奏。美人チェリストの演奏として売り出すような雰囲気ではなく、まさに老成した音楽。楽器も良いのかチェロも実に深い響きを聴かせ、チェロ全体に響きが伝わり魂に触れるような音。ジャケット写真がコントラストを落とした淡いモノクロ調に仕上げている意図がなんとなくわかりました。奏者の霊が弾くような浮世離れした音楽です。カデンツァでは再び澄みきり、暗黒の淵とこの世の境を音楽にしたよう。
アダージョの尋常でない澄みきりかたがフィナーレのオケの鮮度を引き立てます。分厚く熟成したオケの響きにのって、チェロが今度は活き活きと弾む音楽を生み出します。ところどころにしっとりとアクセントを効かせ、しなやかなのに弾む音楽を創っていきます。速いフレーズはキレの良さではなくしなやかさで聴かせる芸風。独特のフレージングが心地良さを生んでいますね。最後までディリンガムのチェロに釘付け。

晴朗な1番が実に味わい深い演奏だったので、2番はさらに深みを聴かせてくれると期待。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
意外にサラッとした序奏。テンポも意外に速く、こちらの想像とはずいぶん違った演奏にちょっと驚きます。かなりインテンポで煽るオケ。チェロはどう入るのでしょうか。何と早めの序奏のテンポを切り、普通のテンポに戻して入ります。オケの推進圧力に抗するように落ち着いたチェロ。なんとなくテンポの駆け引きをしながらの演奏。これは面白い。演奏の燻し加減は前曲同様、両者ともに負けていませんが、堂々と自分のテンポで弾き進めるディリンガムに対し、オケがテンポを握るところではテンポを微妙に上げてきます。根負けしたのか中盤以降、オケもじっくりしたテンポに落ち着いてチェロに寄り添うようになり、音楽が落ち着きますが、もう少しオケに戦ってほしかったという心情になるのが不思議なもの(笑) 長大な1楽章は徐々に響きではなく音楽が枯れて、淡々とした進行になり、心情の起伏で聴かせます。終盤カデンツァ直前にちょっとテンポが噛み合ない瞬間がありますが、すぐにチェロが音楽を建て直し、孤高のソロで音楽を引き締めます。展開が実に面白い。
アダージョは予想通り、ゆったりと歌うチェロの鳴きが見事。ソロとオケも噛み合って、至福の境地。そしてフィナーレもいい余韻を引き継いで、ゆったりとした演奏が続きます。アダージョもフィナーレも起伏を抑えて淡々と演奏することで、枯淡の境地をうまく表現しています。最後はビシッと引き締めて終わります。

美人チェリスト、ケイト・ディリンガムのチェロ協奏曲集は非常に個性的な演奏でした。世の中にはいろいろンな才能を持つ人がいると感心しきり。メロディーを自分のものにして音楽をつくっていく能力は素晴しいものがあります。しかも時流に流されず、自分自身の音楽をしっかりと持っているよう。このハイドンの協奏曲は1999年の録音ですが、デビュー直後の録音としてはかなり枯れたものと驚きます。年を重ねて音楽がより深くなると思うと、将来が楽しみな人ですね。日本ではあまり知られていない人だと思いますが、要注目です。評価は素晴しい完成度の1番を[+++++]、スリリングなやり取りが興味深い2番は[++++]としておきます。

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tag : チェロ協奏曲

エアリング・ブロンダル・ベンクトソンのチェロ協奏曲2番旧盤(ハイドン)

今日も湖国JHさんから送り込まれたアルバム。

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モーゲンス・ヴェルディケ(Morgens Wöldike)指揮のデンマーク国立放送室内管弦楽団(The Chamber Orchestra of the Danish State Broadcasting Corp.)の演奏で、ハイドンの交響曲6曲(48番「マリア・テレジア」、44番「悲しみ」、50番、91番、43番「マーキュリー」、61番)とドイツ舞曲(Hob.IX:12)、そしてチェロ協奏曲2番の8曲を収めた2枚組のアルバム。チェロ協奏曲のチェロはエアリング・ブロンダル・ベングトソン(Erling Blöndal Bengtsson)。今日取り上げるのはチェロ協奏曲で、収録は1956年のセッション録音のようです。レーベルはデンマークのdanacord。

実はエアリング・ブロンダル・ベングトソンがチェロを弾くチェロ協奏曲のアルバムは、以前に一度取りあげたことがあり、そのアルバムも湖国JHさんから借りたもの。

2013/12/21 : ハイドン–協奏曲 : エアリング・ブロンダル・ベンクトソンのチェロ協奏曲集(ハイドン)

また、モーゲンス・ヴェルディケの振るハイドンについても、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との有名なアルバムを取りあげています。

2012/04/28 : ハイドン–交響曲 : モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」

どちらも演奏者の情報はそれぞれ前記事に記載しておりますので、そちらをご参照ください。

特にベンクトソンのチェロ協奏曲は、力の抜けた燻し銀のえも言われぬ高雅なチェロが素晴しく、湖国JHさんに借りてレビューして、その後自身でも手に入れたもの。以前レビューしたアルバムは1993年録音のもの。そして今日取り上げる演奏はそれから37年も前に収録されたチェロ協奏曲ということで、俄然興味がわきます。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
ヴェルディケの指揮するデンマーク国立放送室内管は実にゆったりとした入り。録音は1956年と言う年代にしては鮮明。モノラルですが鑑賞にはまったく問題ありません。響きは古風ですが折り目正しく、古き良き時代の演奏という感じ。ベンクトソンはゆったりとした伴奏に安心して合わせていきます。この演奏時は24歳くらいですが、すでに音楽は燻し銀。若いのに枯淡の境地に入ってます。若干リズムに重さがありますが、律儀なフレージングとオケに対して大きめの音量で存在感を誇示するような印象。演奏は一貫して堂々としています。1楽章の終盤には後年に聴かせる高音の美音を織り交ぜながら、自身の音楽にグイグイ引き込んで行くように音楽をドライブして行きます。後年の成熟の片鱗をすでに聴かせているあたり、流石ベンクトソンというところ。単なる古風な演奏とは異なります。カデンツァは音数を絞ったアーティスティックなものですでに孤高の境地。
アダージョは、過度に歌わず、さっぱりとした伴奏に乗って、純粋に伸び伸びとした音楽を奏でていきます。切々と語るような抑えた高音の表現にベンクトソンの美学があるよう。
フィナーレに入ってもベンクトソンの演奏スタイルは一貫して穏やか。抑えた表現の中で歌心を聴かせるあたりのこだわりはより大きな音楽の流れを求めているよう。ヴェルディケのコントロールするオケもそれを知ってか、一貫して穏やかなサポート。2人の演奏スタイルはそれぞれ異なるものの、方向は同じものを目指しているようで、緊張感ある一体感を感じさせます。

このアルバム、聴き所はヴェルディケの振る交響曲でしょうが、その演奏はあらためて取りあげたいと思います。というのも、このアルバムも非常に興味深く、すでに自身のコレクションとすべく注文を入れてしまいました。

意外に良かったのがCD2の冒頭に置かれたドイツ舞曲。こちらはレビューしておきましょう。

Hob.IX:12 / 6 Dances Allemandes "Tedeschi di ballo" (c.1792)
ハイドンが1792年に書いた12曲のドイツ舞曲からNo.1からNo.6の6曲を取り出したもの。6曲合わせても5分弱の短い曲。録音は1949年でモノラルですが、驚くのは音の良さ。ライナーノーツにもLPでのリリース当時もその新鮮な響きで話題になったとのこと。明るい典雅な曲調の曲が続きますが、このアルバムに収められたヴェルディケが振った交響曲が遅めのテンポで古風さを感じさせるのに対し、この曲での躍動感と鮮度はかなりのもの。調を変えながら舞曲が次々と奏でられ、まさに舞踏会のような雰囲気。この曲も他にミハエル・ディトリッヒ盤しか手元にないため貴重なものです。

エアリング・ブロンダル・ベングトソンの若き日のチェロ協奏曲2番の録音、後年の味わい深い演奏の片鱗を感じさせる、これも貴重なものでした。ベンクトソンのチェロもヴェルディケとデンマーク国立放送室内管の伴奏も一聴すると古風で、ダイナミックでもなければ磨き込まれたものでもありませんし、録音もモノラルで大人しいものですが、流れてくる音楽には不思議とジェントルな奏者の控えめな息吹のようなものが感じられ、妙に心に残る演奏です。音楽は技術だけではありませんね。名盤の多いチェロ協奏曲やベンクトソン自身の後年の素晴しい演奏と比べると、やはり差のつくところですが、この演奏にはわかる人にはわかる独特の良さがあります。評価は[++++]とします。また、オマケで取りあげたドイツ舞曲は[+++++]を進呈です。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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