ロンドン・ウィンド・ソロイスツのディヴェルティメント集(ハイドン)

勝手に室内楽の秋に突入しています(笑)

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ジャック・ブライマー(Jack Brymer)指揮のロンドン・ウィンド・ソロイスツ(London Wind Soloists)による、ハイドンの2本のオーボエ、2本のホルン、2本のバスーンのためのディヴェルティメント7曲(Hob.II:D23、II:15、II:3、II:D18、II:G8、II:23、II:7)を収めたLP。収録情報はPマークが1968年と記載されていますが、同音源からCD化されたTESTAMENTのアルバムには1967年9月17日〜20日、25日、27日〜29日、ロンドンのウエスト・ハムステッド・スタジオ(West Hampstead Studios, London)でのセッション録音との記載があります。レーベルは英DECCA。

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こちらは手元にある同内容を収めたTESTAMENTのCDです。収録曲は同一ですが、なぜか曲順が異なり、指揮者の表記はありません。こちらはまだ入手可能です。

このアルバムに収められている曲は、ハイドンが1760年ごろに書いた管楽のための6声のディヴェルティメントで、一部ハイドンが書いたものではないものが混じっています。楽器はオーボエ、ホルン、ファゴット各2本。1760年ごろといえば、ハイドンが20代の終盤。1759年にボヘミアのモルツィン伯爵に仕えはじめ、同年に交響曲1番を作曲し、その2年後の1761年にはアイゼンシュタットのエステルハージ侯爵の副楽長に就任するという、ハイドンの創作期のごく初期に当たります。後年の成熟した筆致は見られないものの、すでに楽器の音色に関する鋭敏な感覚や、展開の面白さは十分に感じられる作品群です。

演奏するロンドン・ウィンド・ソロイスツは、LPのプロデューサーだったエリック・スミスによるライナーノーツによると、当時エリック・スミスがグライドボーン歌劇場で聴いたモーツァルトのオペラのオーボエのフレーズが歌手の歌よりも心にしみると感じたことをきっかけに、モーツァルトの管楽作品を録音するために結成されたアンサンブル。メンバーはトーマス・ビーチャムが創設したロイヤルフィルの精鋭管楽奏者で構成され、このアルバムの指揮を担当したジャック・ブライマーがメンバーをまとめたとのこと。このメンバーによりモーツァルト、ベートーヴェンの管楽作品が録音され、それに続いてこのアルバムが録音されたと記されています。メンバーは次の通り。

オーボエ:テレンス・マクドナー(Terence Macdonagh)
オーボエ:ジェームズ・ブラウン(James Brown)
ホルン:アラン・シヴィル(Alan Civil)
ホルン:イアン・ハーパー(Ian Harper)
ファゴット:ロジャー・バーンスティングル(Roger Birnstingl)
ファゴット:ロナルド・ウォーラー(Ronald Waller)

演奏を聴くと、ビーチャムの振るハイドンの交響曲同様、中庸のバランスを保つ味わい深い響きが流れます。

Hob.II:D23 Divertimento [D] (1757/60) (Forgery 偽作)
いきなりハイドンの作でない曲から入ります。録音年代当時は真贋を判断できる状況ではなかったものと推定されます。アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、プレストの4楽章構成。録音はDECCAだけに鮮明。TestamentのCDも悪くありません。管楽六重奏ということで主に高音のメロディーがオーボエ、リズムをファゴット、そしてホルンが響きを華やかにする役割。ハイドンの作といわれてもわからない明確な構成と美しいメロディーが特徴の曲。そう言われて聴くとちょっと展開が凡庸な気もしなくはありません。まずは耳慣らし。

Hob.II:15 Divertimento [F] (1760)
これはハイドンの真作。プレスト、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストとハイドンのディヴェルティメントの典型的な構成。明るく伸びやかな1楽章のメロディーから、ほのぼのとしたメヌエットに移る絶妙な感じ、これぞハイドンでしょう。音数は少ないもののメロディーの美しさは見事。そしてアダージョのホルンのなんという伸びやかさ。演奏の方も管楽器の音色の深みを存分に活かした素晴らしいもの。2つ目のメヌエットはその伸びやかさをさらりとかわす涼風のように入ります。楽器が少ないからこそ各パートのデュナーミクの微妙なコントロールの見事さがよく分かります。そしてフィナーレの軽やかな躍動感。奏者の鮮やかなテクニックを楽しみます。

Hob.II:3 Divertimento (Parthia) [F] (1958?)
アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。入りのリズムのキレの良さ印象的。メヌエットの中間部に漂う異国情緒のような雰囲気が独特な曲。そしてアンダンテの中間部にもその余韻が感じられるユニークなメロディー。曲ごとに全く印象が変わりながら、しっかりとまとまっているのはハイドンの真骨頂。このような初期の曲からその特徴が見られます。2つのメヌエットのくっきりとした構成感が印象的。そしてフィナーレはホルンの超絶技巧が仕込まれていました。ホルン奏者はことも無げにこなします。これは見事。

Hob.II:D18 Divertimento (Cassatio/Parthia) [D] (1757/60)
アレグロ、スケルツォ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、アレグロの6楽章構成。ファゴットの刻む軽快なリズムに乗って、オーボエが滑らかに、ホルンがくっきりとメロディーを乗せていきます。短いスケルツォを挟んで、なぜか旅情を感じるようなメランコリックなメヌエットの美しいメロディーに移ります。メヌエットの中間部はファゴットの印象的なメロディーが繰り返されます。どうしてこのようなメロディーのアイデアが湧いて来るのかわかりませんが、独創的な構成。そしてあまりに見事なアダージョに入ります。管楽合奏の美しさを極めた絶美の音楽。ハーモニーの美しさにノックアウト。メヌエットできりりと引き締めて、フィナーレは一瞬で終わりますが、見事に曲を結ぶ傑作でしょう。

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Hob.deest(II:G9,II:G8) Divertimento [G] (1760)
LPをひっくり返して5曲目。LPもCDもHob.II:G8との表記ですが、他のアルバムではdeestと記載され、大宮真琴さんの新版ハイドンではII:G9と記載されています。アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。1楽章は落ち着いた曲調で入ります。しなやかなメロデぃーに沿ってホルンが心地よく響くのが印象的。1楽章の曲想を踏まえたメヌエットでは、中間部に入るとファゴットが音階を刻みながらハモってメロディーを重ねるのがユニーク。3楽章はアダージョではなくアンダンテ。それでもゆったりとしたハーモニーを聴かせながら流します。2つ目のメヌエットを経て音階を駆使したフィナーレで曲を閉じます。

Hob.II:23 Divertimento (Parthia) [F] (1760?)
アレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。優雅な入りからリズミカルな展開が軽快な曲。ホルンとオーボエのメロディーがシンプルながら実に心地よく絡み合います。メヌエットメロディーの展開の面白さはアイデアに富んでいてディヴェルティメントならでは。そしてまたしても管楽器が絶妙に重なり合って美しい響きを作っていくアダージョ。それを受けるようにゆったりと入るメヌエット。フィナーレはポストホルンのようにホルンが活躍し、各パートが絡み合ってくっきりとしたメロディーを描いていくところは流石ハイドン。

Hob.II:7 Divertimento (Feld-Parthie) [C] (1757/60)
最後の曲。この曲もアレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。冒頭のメロディーをキーにリズミカルに展開していく音楽。楽器ごとの響きの対比をそこここに配置して響きの違いに耳を向けさせます。同じ構成なのにいつも通り全く異なるアイデアで曲を作っていきます。メヌエットも一筋縄では行かず、どうしてこのようなメロディーを思いつくのかと唸るばかり。このアルバムを通じてメヌエットの構成の面白さは格別のものがあります。型にはまりつつもその中での崩しというか変化の面白さを追求する大人の世界。そしてまたまた美しさに磨きがかかったアダージョに引き込まれます。2つ目のメヌエットの中間部も驚きの展開。そしてアルバムの終結にふさわしい壮麗なフィナーレで曲を結びます。

弦楽四重奏曲やピアノトリオなどに比べるとぐっと地味なディヴェルティメントで、しかも管楽六重奏とさらにマイナーな曲ながら、ハイドンの創意のオリジンに出会えるような見事な曲を収めたアルバム。聴けば聴くほど味わいを感じる見事な演奏です。奏者の腕も素晴らしいのに加えて、実に音楽性豊かな演奏で、ハイドンの曲を楽しむことができます。幸いCD化もされていますので、この演奏を非常にいいコンディションで楽しむことができます。ハイドンの室内楽の面白さの詰まった名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]
とします。

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tag : ヒストリカル ディヴェルティメント

トン・コープマンのクラヴィーア四重奏曲集(ハイドン)

東京もめっきり涼しくなってきたので、涼やかな響きを楽しめる室内楽のアルバムを取り上げます。

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トン・コープマン(Ton Koopman)のハープシコード、ラインハルト・ゲーベル(Reinhard Goebel)、アルダ・ストゥーロプ(Alda Stuurop)のヴァイオリン、チャールズ・メドラム(Charles Medram)のチェロで、ハイドンのクラヴィーア四重奏曲6曲(Hob.XIV:12、XIV:3、XVIII:F2、XIV:8、XIV:9、XIV:4)を収めたLP。収録年はLPには記載がありませんが、同じ音源を収めたと思われるCDも手元にあり、Pマークは1980年、82年と記載があります。レーベルは蘭PHILIPS。

このLPは最近手に入れたものですが、同音源を含む下のCDはかなり前から手元にあります。

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こちらのCDは上のLPにクラヴィーア協奏曲なども加えた2枚組の廉価盤です。こちらも廃盤のようですが、amazonではまだ入手可能のようです。これまでコープマンについて取り上げた記事は下記の通り。

2016/06/23 : コンサートレポート : トン・コープマン オルガン・リサイタル(ミューザ川崎)
2011/03/12 : 徒然 : 追悼:アヴェ・ヴェルム・コルプス
2011/01/14 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】コープマン3度目のオルガン協奏曲
2010/09/23 : ハイドン–交響曲 : 新着! コープマンの97、98番

コープマンはハイドンの録音を色々残していますが、97番、98番の記事にも書きましたが、交響曲の録音はなんとなくイマイチで、モーツァルトの交響曲のキレの良さと比べると、ちょっと聴き劣りするもの。そんな中ででもオルガン協奏曲やクラヴィーア協奏曲の古い録音はなかなかいいんですね。今日取り上げるアルバムもコープマンの面目躍如。才気迸るとはこのことでしょう。

共演者のラインハルト・ゲーベルは1952年生まれてムジカ・アンティクァ・ケルンの創設者。アルダ・ストゥーロプの情報は見つかりませんでしたが、ハイドンの録音ではリチェルカール・コンソートのバリトン八重奏曲のアルバムやエステルハージ四重奏団のメンバーとして録音を残すなどで知られた人。チェロのチャールズ・メドラムは1949年、トリニダード・トバゴ出身でモーリス・ジャンドロン、ニコラウス・アーノンクールに師事した人と、古楽器の名手揃い。

収録されている曲は元はディヴェルティメントやコンチェルティーノ(小協奏曲)などと呼ばれていますが、編成はハープシコードにヴァイオリン2、チェロということで、ピアノ四重奏曲、あるいはクラヴィーア四重奏曲というのがわかりやすいでしょう。ピアノ三重奏曲が晩年の作品が多いのに比べ四重奏の方は1760年代と若い頃の作品が多いのが特徴でしょう。

Hob.XIV:12 Concertino [C] (c.1760)
いきなり鮮明な響きにつつまれます。コープマンのハープシコードの音色がくっきりと浮かび上がり、その周りにヴァイオリンとチェロがこちらもくっきり定位。LPのコンディションも最高。流石PHILIPSでしょう。この演奏、LPもいいんですが、CDの方も廉価盤であるにもかかわらず素晴らしい録音が堪能できます。同じPHILIPSのDUOシリーズのコリン・デイヴィスの交響曲集がLPとは異なる鈍い響きで失望させられたのに比べると雲泥の仕上がり。曲の構成は3楽章構成でアレグロ、アダージョ、アレグロ。初期の作品らしくシンプルでメロディーも明快。テンポは揺らさずキリリと引き締まった音楽が流れます。特にアダージョのメロディーラインの美しさが印象的。

Hob.XIV:3 Divertimento [C]
この曲もまるで練習曲のように屈託のないシンプルさ。アレグロ・モデラート、メヌエット、アレグロ・ディ・モルト。非常に短い曲ですがハイドンの作品らしく構成は明快。3楽章には足を踏み鳴らすような音が入り、ハイドンの遊び心に呼応します。

Hob.XVIII:F2 Concertino [F] (c.1760)
ホーボーケン番号では協奏曲に分類される曲ですが、今はクラヴィーア四重奏の仲間と見做されています。モデラート、アダージョ、アレグロ・アッサイの3楽章。作曲年代は前2曲と変わらないためか、前2曲と変わらぬ構成感ですが、音階の美しさや、構成の変化の付け方にだんだん磨きがかかってきたようにも思えます。演奏の方もヴァイオリンがかなり踏み込んだアクセントをつけて、アンサンブルの緊張感も上がります。

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LPをひっくり返して後半3曲。

Hob.XIV:8 Divertimento [C] (c.1768/72)
アレグロ・モデラート、メヌエット、フィナーレの3楽章。いつもながらハイドンの曲の書き分けの巧みさには驚くばかり。1楽章ではリズムをためる面白さを強調しますが、何も仕込みがないところの鮮やかなタッチがあってこそ、このリズムの変化が面白く聞こえます。ハイドンが仕込んだネタをしっかりと汲み取って、しっかりと響かせます。所々で短調の響きが交錯する面白さを拾います。4人は軽々と演奏しているようですが、こうした演奏のポイントをしっかり踏まえていきます。

Hob.XIV:9 Divertimento [F] (before 1767)
アレグロ、メヌエット、アレグロ・モルト。冒頭からコミカルなリズムが弾みます。演奏の方も愉悦感たっぷりにハイドンの書いたリズムを汲み取っていきます。もはや曲に没入しての演奏ですが、推進力は徐々に上がってアンサンブルの呼吸もピタリと揃います。細かいリズムの変化がパート間でしっかりと受け継がれる快感が味わえます。

Hob.XIV:4 Divertimento [C] (1764)
あっと言う間に最後の曲。アレグロ・モデラート、メヌエット、フィナーレの3楽章構成、最後だからか心なしか落ち着いて演奏しているように聞こえます。コープマンはリズムを自在に動かしてフレーズの終わりをなぜか今までの曲よりしっかりと間を取り、一歩一歩踏みしめながら歩いていくような足取り。ヴァイオリンもそれに合わせてメリハリをしっかりとつけます。これはオリジナルのLPの曲の配置だからわかることでしょう。

トン・コープマンの若き日のハイドンのクラヴィーア四重奏曲集の録音。それぞれの曲はやはり若書きゆえ深みがあるとは言えませんが、それでもハイドンならではの構成の面白さは満喫できます。そしてこのアルバムのポイントはコープマンの自在なハープシコードさばきに加えて弦楽器の3人の端正な演奏が生み出す、室内楽の面白さが詰まったアンサンブル。古楽器ならではの繊細な響きから、クッキリとした音楽が浮かび上がる快感。CDでもこの面白さは味わえますが、LPになると鮮明な定位と実体感ある響きの力強さで、さらに楽しめます。評価は全曲[+++++]といたします。

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tag : 古楽器 ディヴェルティメント

ドイツ弦楽三重奏団のソナタ集(ハイドン)

8月最初のレビューは、涼風を感じるような演奏。久々にCDです(笑)

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ドイツ弦楽三重奏団(Deutsches Streichtrio)による、ハイドンのピアノソナタの編曲の弦楽三重奏曲3曲(Hob.XVI:40、XVI:41、XVI:42)と現在はミヒャエル・ハイドンの作と判明している弦楽三重奏曲(Hob.V:Es1)、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.V:8)の5曲を収めたCD。収録情報はPマークが1981年とだけ記載されています。レーベルは独INTERCORD。

このアルバム、当ブログにいつも含蓄に富んだコメントをいただくSkunJPさんから、かなり前にいただいたもの。レビュー候補の棚に置いたまま結構な時間が経ってしまいました。最近改めて聴き直してみると、これがなかなかの演奏だったんですね。というわけで結構時間が経った今、タイムマシン的に取り上げます(笑)

奏者のドイツ弦楽三重奏団ははじめて聴きます。1972年にシュツットガルトで設立されたアンサンブル。メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ハンス・カラフース(Hans Kalafusz)
ヴィオラ:クリスチャン・ヘドリッヒ(Christian Hedrich)
チェロ:ライナー・ギンツェル(Reiner Ginzel)

ヴァイオリンのハンス・カラフースは1940年オランダ生まれのヴァイオリニスト。チェロのライナー・ギンツェルはミュンヘン音楽演劇大学で教鞭をとる人というくらいの情報しかわかりませんでした。

このアルバムに収録されている弦楽三重奏曲の3曲は元はピアノソナタを原曲としたもの。この3曲については以前に一度グリュミオーらの演奏を取り上げたことがあります。

2012/08/29 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】グリュミオー三重奏団のピアノソナタ編曲集

Hob.XVI:40 Piano Sonata No.54 [G] (c.1783)
ピアノソナタでおなじみの穏やかなメロディーですが、こうして弦楽三重奏で演奏されても全く違和感のない見事な編曲。原曲のピアノソナタ自体はニコラウス・エステルハージII世侯の妻、マリア妃のために書かれたものですが、編曲はハイドン自身によるものか、出版を担当したホフマイスターによるものか判明していないとのこと。出だしは3人のバランスの良いオーソドックスなアンサンブルに聴こえましたが、曲が進むにつれてハンス・カラフースの弾くメロディーがくっきりと浮かび上がってきて、徐々にそのテクニックと美音が明らかになります。ヴィオラとチェロが伴奏に徹する中、赤熱してくるメロディー。演奏から別格のオーラが立ち上ります。
この曲集は3曲とも2楽章構成。2楽章のプレストは軽やかな弓さばきを聴かせながらも美音をチラつかせる巧みな演奏。速い音階のキレっぷりは見事。ピアノではキレを聴かせるように感じないところですが、ヴァイオリンで弾くと鮮やかな音階にうっとり。いやいや見事です。

Hob.XVI:41 Piano Sonata No.55 [B] (c.1783)
2曲目は冒頭からカラフースのヴァイオリンが抜群の存在感。ドイツらしい気骨と華美になりすぎないヴァイオリンの美音がカラフースの特徴でしょうか。楽器が良いのか、実に図太く深いに音色を繰り出します。ピアノでの演奏以上にメロディーの美しさが際立つ素晴らしい演奏。1楽章はカラフースの独壇場。ヴィオラとチェロも一歩下がって、慎み深くアンサンブルを支えます。
この曲でも2楽章のボウイングは見事。何気にヴィオラが影のようにヴァイオリンにピタリと寄り添い、チェロは少し離れて自在なところを聴かせてこの曲のコミカルな印象を垣間見せます。アンサンブルの完成度は非常に高く、表現が考えつくされていますね。

Hob.XVI:42 Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
録音の雰囲気が少し変わって、鮮明になります。この曲もピアノの印象が強いんですが、弦楽合奏で聴くと、この版がオリジナルと言われても疑いようがないくらいよくまとまっています。ヴァイオリンの奏でるメロディーはピアノよりもメロディーの美しさ、翳りの両面を描けるところが強み。曲が進むとチェロがこれまでにない活躍ぶりで、グッと前に出てきます。時折りうっとりするような美音を聴かせるところをみると、チェロも相当の腕の持ち主と見ました。クァルテットより楽器が少ないことからハーモニーよりもメロディーをくっきりと描くのに向いた編成なんでしょう。
美音の後は軽快なボウイングの妙技に酔いしれます。カラフースのボウイングは冴えまくって変幻自在。短い曲ですがあっという間にクライマックスに到達!

続くミヒャエル・ハイドンの曲は少し雰囲気が変わって、ヴァイオリンの美音よりも穏やかなアンサンブルを楽しめと言われているようにゆっくりと進みます。ハイドンほどのヒラメキを感じることはありませんが、これはこれでいい曲でしょう。

Hob.V:8 No.8 Divertimento for 2 Violins and Violoncello [Es] (1765)
一転、穏やかな入り。アダージョ、メヌエット、フィナーレの3楽章構成。前3曲のピアノソナタよりもだいぶ前に書かれたものなので、曲の起伏も比較にならないほど簡単。ただしこのディヴェルティメント自体が、演奏して楽しむような用途の作品ですので、これが本来の姿なのかもしれません。この曲では作品を鑑賞するというよりは、演奏しているような気になりながら聴くのがふさわしいでしょう。1楽章は次々と展開する変奏が聴きどころ。2楽章のメヌエットは後年の自在な筆致の萌芽は見られませんが、中間部がいきなり突き抜けるのがハイドンらしいところ。素朴なメロディーの美しさが聴きどころ。そしてフィナーレではハイドンのユニークなメロディーメーカーとしての才能がすでに開花。よくぞこのメロディーを思いついたと唸るばかりの進行。アンサンブルは力を抜いて演奏を楽しむように弾いてゆくので、こちらも非常にリラックスして聴くことができました。

ドイツ弦楽三重奏団によるハイドンのピアノソナタを原曲とする曲集。見事な編曲により、原曲以上にメロディーの美しさが感じられ、新たな発見がありました。演奏はヴァイオリンのハンス・カラフースの妙技が聴きどころ。ヴァイオリンはグリュミオーに劣るどころか、グリュミオーとは異なる輝きを放つ素晴らしいもの。アンサンブルの精度も素晴らしく、聴きごたえ十分でした。評価は最後の曲が[++++]、それ以外のピアノソナタを原曲とする3曲は[+++++]とします。クァルテットもいいものですが、トリオもいいですね〜。

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tag : 弦楽三重奏曲 ディヴェルティメント

ドイツ・バロックゾリステンによるディヴェルティメント「誕生日」(ハイドン)

今日は軽めのアルバム。先輩愛好家に教えていただいたアルバムが気になって、amazon.co.uk で注文したもの。

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ドイツ・バロックゾリステン(Die Deutschen Barocksolisten)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント「誕生日」(Hob.II:11)、フローリアン・レオポルド・ガスマンのオーボエ、ヴィオラ、チェロ、バッソのための四重奏曲、グレゴール・ヨゼフ・ヴェルナーのフルート、ヴァイオリン、通奏低音のための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1977年10月29日から30日、ドイツのケルンの西のブラウヴァイラー(Brauweiler)にあるブラウヴァイラー修道院(Abtei Brauweiler)でのセッション録音。レーベルは独FSM ADAGIO。

このアルバム、タイトルは”Galante Musik aus Wien”ということで、「ウィーンのギャラント様式音楽」とでも訳すのでしょうか。このアルバムは18世紀中盤、ハプスブルク家によって音楽の中心都市として栄えたウィーンにおけるバロックから古典期への移行期、装飾的な音楽から明晰な音楽への移行期の音楽を表すギャラント様式や多感様式の音楽音楽を集めたもの。このころウィーンの音楽は特に歌劇においてイタリアから大きな影響を受けつつありました。

ハイドンは18世紀中頃は、来たるシュトルム・ウント・ドラング期を前にして、1761年にエステルハージ家の副楽長に就任、その時の楽長がヴェルナーであったことは皆さまご存知のとおり。ヴェルナーは1693年生まれでハイドンが副楽長に就任した3年後の1766年に亡くなります。そしてこのアルバムに曲が収められたガスマンはウィーンで活躍したチェコの作曲家で、サリエリの師匠だったそう。1729年生まれとハイドンより3歳年長ですが、1774年と早くに亡くなっています。この18世紀中頃にウィーンの周りで活躍した3人の音楽家の作品を並べるという企画です。

ハイドンについては18世紀中盤、ハイドンの作品の中では初期の作品からギャラント様式を感じさせる曲を選んだということでしょう。もともとギャラントとは「軽快で優美な」との意ゆえ、ディヴェルティメントはそうした印象に最も近い曲と言っていいでしょう。だいぶ時を経た現代からみると、ハイドンだけが歴史の荒波を超えて聴き継がれてきたものであり、他の2曲とはやはり出来が違います。

ハイドンのこの曲は1763年ごろの作曲とされ4楽章構成で6声部のディヴェルティメント。既に1765年頃には多くの楽譜が出版され、広く知られた曲となっていたようです。このディヴェルティメントには「誕生日」というニックネームがついていますが、2楽章では2丁のヴァイオリンがオクターブはなれて、まるで夫婦のように寄り添って誕生日を祝うようすが描かれているとの事。この2楽章は「夫婦」とも呼ばれています。これはハイドン自身によって仕込まれたユーモアだと思われており、こうした特徴によって曲が有名になったものと思われています。

手元にはこのアルバムを含めて7組のアルバムがあり、そのうち4組はこれまでに記事にしています。

2014/08/11 : ハイドン–室内楽曲 : ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/05/17 : ハイドン–室内楽曲 : シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/03/08 : ハイドン–管弦楽曲 : リンデ・コンソートのディヴェルティメント集(ハイドン)
2012/09/26 : ハイドン–室内楽曲 : ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツの「誕生日」

また、奏者のドイツ・バロックゾリステンはドイツ系の名手の集まりのようで、他のアルバムでもソロを担当する奏者が名を連ねます。

Hob.II:11 Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
入りから優雅の極み。まさに演奏を楽しむような愉悦感に富んだ演奏。ゆったりとしたテンポに合わせて、フラウトトラヴェルソにバロックオーボエが歌い、弦楽器陣が控えめながら楽しげにサポート。表現を追い込むなどという野暮なことはせず、ゆったりと演奏していきます。
2楽章のアンダンテは弱音器付きのオクターブはなれたヴァイオリンがさえずる鳥のように控えめな幸せを表現しているよう、メロディーもハーモニーもシンプルそのものですが、単調な印象はなく、実に奥行きのある音楽。これぞハイドンの真骨頂というところ。まさに夫婦が誕生日を祝いあうようなやりとりと聴こえます。
つづく3楽章のメヌエットもメロディーはシンプルそのものですが、丁寧な演奏から浮かび上がる音楽の楽しさ。中間部の変化もゆったりとした流れの中で聴かせる名人芸。この演奏、音楽の楽しさを表現することにかけてはこれ以上の演奏はありえないほど完成度が高く、実に微笑ましい。
そして終楽章は変奏曲。最初のテーマをもとに次々と変奏が進みます。まずはチェロがメロディーを繰り返し、そしてフラウトトラヴェルソが続き、装飾音を加えて華やかさを増します。そしてヴァイオリンソロ。バロックオーボエと続きますが、バロックオーボエの響きの艶やかさがひときわ鮮やか。再びヴァイオリンソロ、そしてこれまでの楽器が次々とメロディーを受け継いでアンサンブルの面白さが浮かび上がります。変奏のアイデアが次々と広がり、これほどシンプルな曲なのに音楽的な完成度は素晴らしいものがあります。最後は最初のテーマの提示部と同様の響きに戻って曲を閉じます。練習曲のように簡単な曲なのにハイドンの魔法がかかって素晴らしい音楽に仕上がります。

つづくガスマンの曲もシンプルながら華やかさとなかなか緻密な構成が魅力的な曲。ですが、ハイドンの曲のあまりの素晴らしさの前にはやはりレベルの差はついてしまうところ。そして、ハイドンの前任の楽長ヴェルナーの曲はかなり古風。時代もレベルもかなりの差があるのが正直なところ。

「ウィーンのギャラント様式音楽」と名付けられたアルバムですが、3人の作曲家の作品からこの時代の空気のようなものが浮かび上がってくる好企画と言っていいでしょう。そして結果的にはハイドンの先進性というか音楽性が際立つことになりました。ドイツ・バロックゾリステンの演奏は実に落ち着いたもので、この曲の魅力を完璧に表現する素晴らしい演奏。この演奏を聴くと、音楽とは技巧により成り立つものではないと改めて思い知らされます。技術的には難しいところは一つもなさそうな曲ですが、これほどに豊かな音楽を感じさせる演奏はそうできるものではありませんね。評価は[+++++]とします。

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tag : ディヴェルティメント ヴェルナー ガスマン

ロベール・ヴェイロン=ラクロワ/オーリアコンブ/トゥールーズ室内管の協奏曲集(ハイドン)

またしてもLPにぐっときました。

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ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(Robert Veyron-Lacroix)のハープシコード、ルイ・オーリアコンブ(Louis Auriacombe)指揮のトゥールーズ室内管弦楽団(Toulouse Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのハープシコードとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、ハープシコード五重奏曲(XIV::1)、ハープシコード小協奏曲(XIV:4)の3曲を収めたLP。収録の情報は記載されていませんがLPのリリーズは1978年。レーベルは米SERAPHIM。

さて、いつものように奏者の情報をさらっておきましょう。まずはハープシコードの独奏を務めるロベール・ヴェイロン=ラクロワですが、1922年にパリで生まれ、パリ音楽院ピアノ科を卒業。ジャン=ピエール・ランパルの伴奏者として知られる人。ハープシコードではバッハ、クープラン、ラモーなどを得意としていました。1991年に亡くなっています。ハイドンの演奏はこのアルバムの他に協奏曲集がもう1枚あるようです。

指揮者のルイ・オーリアコンブは1917年、フランスのスペイン国境に近い街ポー (Pau) に生まれた指揮者。トゥールーズ音楽院で学び、指揮はイーゴリ・マルケヴィチに師事しました。1953年にトゥールーズ室内管弦楽団を結成、程なく世界に知られるようになり、多くの録音を残しました。1982年に亡くなっています。

今はあまり顧みられていない2人よるハイドンですが、LPで聴くとリステンパルトなどと同様、えも言われぬ味わい深い演奏に触れることができます。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
実に華やかな伴奏。これぞフランスのオケというクッキリとした表情。ピアノではなくハープシコードだから醸し出される雅な雰囲気。ヴェイロン=ラクロワのハープシコードはキリリとしたテンポの小気味良い演奏。ヴァイオリンソロはジェラール・ジャリー(Gérard Jarry)ですが、オケとともにクッキリとした表情を創っていく感じが悪くありません。安定したテンポに安定した演奏が創る至福の味わい。1楽章からじわりと伝わる音楽の心。
その音楽は続くラルゴに入ると、もはや染み入るような浸透力を帯びてきます。ピチカートの伴奏にのったヴァイオリンとハープシコードの典雅なやりとりは言葉にできないほどの癒しに満ちています。LPも素晴らしいコンディションでノイズなくゆったりと音楽を生み出していきます。空間に消え入るピチカートの響きの余韻に吸い込まれそうになります。そして深く響く弦楽器のくすんだ音色。ハープシコードとヴァイオリンのクッキリとした表情を伴奏が引き立てます。
フィナーレは適度に溌剌としたオケの響きが癒しに満ちた雰囲気を塗り替えます。ソロとオケは見事な一体感で演奏を進めますが、クッキリと浮かぶハープシコードがオケの演奏を引き立てます。最後は絢爛豪華な絵巻物の最後の場面のような華やかな終結。抜群の安定感につつまれたハイドンでした。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
LPを裏返すと今度はホルン2本、チェロ、ヴァイオリン、ハープシコードの5重奏。録音時期の違いか、少々音が痩せ気味というか、録音場所がデッドな環境に変わった感じ。実際の音量バランスではホルンがもう少し存在感がありそうですが、ハープシコードとヴァイオリンを強調して、ホルンは脇役として奥で控えめに鳴ってます。編成が小さい分小気味良さはこちらが上回りますが、デッドな響きで少し潤いが足りない印象。ただしそれぞれのパートの演奏は皆素晴らしいもので、完成度は非常に高くまとまっています。ハープシコードの演奏がモデラート、メヌエット、プレストと各楽章の表情を鮮明に描き分けます。ホルンもキレ味よくリズムを刻みます。アンサンブルの精度で聴かせる、この小曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。

Hob.XIV:4 Divertimento [C] (1764)
このアルバムで一番録音が鮮明。ワクワクするような推進力に煽られて、ハープシコードが自在な音程を飾ります。1曲目よりもハープシコードのタッチが冴え渡り、オケに格別な立体感が宿ります。安定感の素晴らしさは変わらず、オーリアコンブの率いるオケも抜群の仕上がりで一糸乱れぬアンサンブルを聴かせます。単純な曲想の曲ですが、演奏と録音の見事さにつられて一気に聴いてしまいます。
つづくメヌエットは、足音が聞こえそうなほど人間の歩くさまをリズムにしたような不思議な曲。中間部で短調に転調する切り替えの見事さ、落ち着いたリズムの運びの巧みさ、そしてメヌエットらしい雰囲気。どれをとっても素晴らしい演奏。
フィナーレはヴェイロン=ラクロワのハープシコードの妙技に圧倒されます。間断なく繰り出される音階の堅固な表情は、この曲をハープシコードで弾くからこそ浮かび上がる表情。最後まで痛快さを失わない素晴らしい演奏でした。

フランス人奏者による、ハイドンの協奏曲などを収めたLPでしたが、あふれんばかりのフランスの香りが漂う演奏でした。独墺系の演奏とは一味も二味も異なるセンスに包まれ、ハイドンがフランスの貴婦人向けにも通用する曲を書いていたのだと思わせるものがあります。ハイドンがこうした雰囲気を想像していたかどうかはわかりませんが、このアルバムで聴かれる演奏はまったく不自然ではなく、むしろ実に自然に聴こえてくるのが不思議なところ。やはりこれはロベール・ヴェイロン=ラクロワのハープシコードの印象が大きいでしょう。私は気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6 ディヴェルティメント ピアノ五重奏曲 LP

エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)

年始最初のアルバムは爽やかな音楽を。大好きなクイケンのアルバム。

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エヴァルト・デマイヤー(Ewald Demeyere)のフォルテピアノ、シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のラ・プティット・バンド(La Petite Band)の演奏で、ハイドンのハープシコード協奏曲(Hob.XVIII:4)、ディヴェルティメント(II:20)、ハープシコード協奏曲(XVIII:3)の3曲を収めたSACD。収録は2006年10月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。

クイケンのハイドンのアルバムはほとんど手元にあると思っていたんですが、今日取り上げるアルバムはコレクションの穴でした。慌てて手に入れた次第。

クイケンのアルバムはブログの初期からいろいろ取り上げています。古楽器演奏の草分けの一人ですが、淡々とした演奏から音楽の喜びが滲み出てくるような演奏がハイドンの曲の面白さをあぶり出してくれます。昔の演奏もいいんですが、特に最近のクイケンの演奏は基本的なスタイルは維持しながらも、どこか新機軸を打ち出そうという意欲のようなものが感じられて興味深いんですね。

2015/08/28 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2015/07/19 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン三兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2012/11/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】クイケン/ラ・プティット・バンドの「朝」、「昼」、「晩」
2011/11/23 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」
2011/09/14 : ハイドン–声楽曲 : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのテ・デウム
2011/07/04 : ハイドン–オラトリオ : クイケン/ラ・プティット・バンド1982年の天地創造ライヴ
2011/07/02 : コンサートレポート : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲
2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット
2010/03/21 : ハイドン–交響曲 : クイケンのパリ交響曲集

フォルテピアノを弾くエヴァルト・デマイヤーは、私ははじめて聴く人。1974年生まれのベルギーのフォルテピアノ奏者。アントワープ王立音楽院で音楽理論、ヨス・ファン・インマゼールにハープシコードを学び、卒業後すぐに同音楽院で和声、対位法、フーガを教えるようになりました。2002年にはインマゼールの後を継いでハープシコードの教授に就任。その後はクイケン兄弟などと共演するようになり、ラ・プティット・バンドのメンバーでもあるとのこと。ACCENTからも多くのアルバムがリリースされているということでACCENTの看板奏者といったところでしょう。

普段はピアノで聴くことが多い協奏曲2曲ですが、このアルバムの演奏は、ある意味期待の裏をかかれた感じ。程よい躍動感を期待してアルバムを聴き始めましたが、逆にスタティックな魅力に光を当てた演奏。こちらが持つ曲のイメージをいい意味で壊してくれた感じ。同じ楽譜でもピアノで弾くのとハープシコードで弾くのはアプローチが違うんだよとクイケンがほくそ笑んでいるようです。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
序奏は予想したより遅めのテンポで、溜め気味にゆったりと入ります。録音はACCENTらしい鮮度の高い精緻なもの。デマイヤーのフォルテピアノは典雅そのもの。ゆったりとしたオケに乗って、ハイドンより前の時代の伝統を踏まえたようなクラシカルなテイストに満ちています。リズムも前のめりにならず、逆にすこし遅れ気味に入る非常にリラックスした演奏。ハープシコードの雅な音色の美しさを存分に聴かせようということでしょうか。このテイストに慣れてくると、曲の展開に集中出来るようになってきます。徐々にオケのじわりとつたわるキレの良さに耳が慣れてきます。小細工などなく淡々と進めるあたりがクイケンのコントロールでしょう、テイストだけでいうとブランデンブルク協奏曲の5番を聴いているような気分になります。1楽章は実に落ち着いたもの。
つづくアダージョは癒しというより、孤高の音楽。遅めのテンポと全般に静寂に支配された音楽。無音の部分が多いというのではなく、音楽自体に澄み切った静けさを感じるという意味です。ハイドンがこのような表現を意図していたとは思えませんが、間違いなくこの曲の新境地に踏み込もうとしているように感じます。ゆったりと響くハープシコードの音階の存在感が際立ちます。だんだんクイケンの術中にはまってきました。
フィナーレも思ったほどテンポを上げず、じっくりと弾き進めていきます。ハープシコードの音階にグルグル巻きに絡まれていくよう。デマイヤーの堅実なタッチに加え、オケも安定感抜群で、まったく破綻する気配すらない演奏。

Hob.II:20 Divertimento [F] (1755-57)
つづいてディヴェルティメントから。ごく初期の作品で、ハイドンがシュテファン大聖堂の合唱団を離れ、モルツィン伯爵に仕えるまでの間に作曲したもの。もちろんフォルテピアノは入りません。アレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレの5楽章構成。同じく落ち着いた演奏ながら協奏曲よりはキビキビとしているところを見ると、クイケンの意思といよりデマイヤーの意思で協奏曲が遅めのテンポ設定だった可能性がありますね。メヌエットに入ると純粋に演奏を楽しんでいるように自然な感興が心地よいですね。若書きとはいえ、楽器間のメロディーの受け渡しには早くもハイドンの創造力の萌芽が感じられ、演奏もそうしたアイデアをそこここに感じさせるもの。アダージョはこの曲の聴きどころ。少ない楽器のアンサンブルの中に生気が宿る素晴らしい音楽。すでにメロディーの閃きがキレてます。途中に入るピチカートのなんと美しいこと。息をのむような瞬間。またしてもクイケンの術中にはまった感じ。再び前半のメヌエットとは少し構成を変えながらも、同じように響くメヌエット。ホルンや木管が気持ち良く響きわたり、演奏する喜びがはち切れるよう。ディヴェルティメントの最上の姿でしょう。フィナーレはハッとするような転調と、そうくるのかと驚くような楽器間のメロディーの受け渡しにハイドンのいたずら心が透けて見えるような音楽。いやいや、素晴らしい!

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
再び協奏曲。ゆったりと溜めたリズムは1曲目から予想済みですが、実際に聴くと、音楽の豊かさに圧倒されます。耳がなれたというか、演奏者の創造力と聴き手の創造力の勝負のような緊張感に包まれます。これまでの演奏の垢を落として再構成したような新鮮な音楽に聴こえるのがクイケンのすごいところ。1曲目よりも慣れたせいか、音楽がまとまり、素晴らしい説得力に圧倒される感じ。よく聴くとデマイヤーのハープシコードは落ち着いているばかりではなく、着実なタッチでグイグイ攻めてくるよう。8×10の超細密で階調豊かな写真を見る快感のようなものを感じます。あまりの完成度に鳥肌がたちます。
研ぎ澄まされた美しいメロディーの宝庫であるラルゴ・カンタービレ。ピアノによる美しい演奏に慣れてはいますが、このハープシコードの演奏も全く異なる美しさを持っています。あえてメリハリを強調して、ハープシコードらしさをきアピールしているよう。これまでのどの演奏とも異なる美しさの表現。デマイヤーの音楽もキレてます。
フィナーレは快活キレキレ。このアルバムの総決算のようにデマイヤーの指さばきも一段と鮮やかになり、鮮明な録音にソロとオケが浮かび上がります。落ち着いた中にも漲る生気。最後に鮮やかな手腕を披露して終わります。

シギスヴァルト・クイケン率いるラ・プティット・バンドによる協奏曲とディヴェルティメント。ディヴェルティメントの方は文句なく楽しめる名演奏。協奏曲2曲は、これまでの曲の刷り込みにこだわる人には違和感のある演奏かもしれませんが、私は大いに刺激を受けました。音楽の構成はだれの影響も受けることなく自身の創造力から生み出されたもののようで、これまでの演奏とは異なる、新たな価値を感じるもの。聴き手の創造力が試されるような趣もありますので、人によっては評価が分かれるでしょう。私は全曲[+++++]をつけます。いつもながらクイケンにやられたといったところでしょう。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:4 ディヴェルティメント SACD

ジェルノ・ジュスムース/シンフォニア・クラシカの哲学者、受難など(ハイドン)

今日は交響曲ですが、アルバムにはディヴェルティメントと弦楽四重奏曲の管弦楽版が含まれた変わった趣向のもの。

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ジェルノ・ジュスムース(Gerno Süssmuth)指揮のシンフォニア・クラシカ(Sinfonia Classica)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.X:3)、交響曲22番「哲学者」、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1の管弦楽版、交響曲49番「受難」の4曲を収めたアルバム。収録は2007年、イングランド南西部のタウストック(Tawstock)にある教区教会でのセッション録音。レーベルは英LandorRecords。

このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいているもの。だだの交響曲のアルバムと思いきや、そうではありませんでした。指揮者のジェルノ・ジェスムースは、以前取り上げたペターセン四重奏団の第2ヴァイオリン奏者。ペターセン四重奏団といえば、ハイドンの最初の弦楽四重奏曲Op.1のあまりに見事な演奏が記憶に新しいところです。

2014/08/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)

その緻密な構成をオケで再現したらと思うと、ちょっとゾクゾクします。しかも収録曲には管弦楽の演奏にもかかわらず、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1まで含まれており、否が応でも期待が高まります。はやる期待を抑えて奏者の情報をライナーノーツなどからさらっておきましょう。

シンフォニア・クラシカは、2003年イングランド南西部のヨーヴィル(Yeovil)とバーンスタプル(Barnstaple)のホールでEU室内管弦楽団のメンバーとはじめてコンサートを行った新進オケ。以来この2都市で毎年のように演奏しています。今日取り上げるアルバムがデビュー盤のようです。
指揮者のジェルノ・ジュスムースは9歳でハイドンのヴァイオリン協奏曲を演奏会で演奏したという経歴があり、また若い演奏者のための様々なコンクールの入賞歴があります。1980年にベルリンのハンス・アイスラー音楽院に入学し、旧東独にあった音楽院のオケのリーダーを務めました。その後ベルリン放送交響楽団のコンサートマスターとして働き始め、2003年にはザルツブルクとイギリスで新ベルリン室内管弦楽団を率いてコンサートを開いています。先に触れたペターセン四重奏団には1991年から1999年まで所属し、その間多くの賞を受賞しており、フィレンツェで行われたヴィットリオ・グイ室内楽コンクールで1等を獲っているとのこと。以後バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場で首席奏者、ワイマール国立歌劇場でコンサートマスターなどを務めました。近年ではハンス・アイスラー音楽院で教職についています。

腕利きのヴァイオリン奏者であるジュスムースが率いる新進のシンフォニア・クラシカがペターセン四重奏団ばりの緊密な音楽を生み出すのでしょうか。興味津々。

Hob.X:3 / Divertimento : Baryton Octet Nr.3 [a/A] (1775)
実はジャケットには曲名がHob.X:10と記載されているのですが、聴いてみると明らかに違う曲。X系列の曲を他のアルバムで確認するとこれはHob.X:3であることがわかりました。もともとバリトン八重奏曲として書かれた曲ですが、弦楽合奏にオーボエとホルンのソロが加わったもの。バリトンが加わった演奏は何種か手元にあるのですが、バリトンの不可思議な音色と古楽器の音色のハーモニーを楽しむ曲です。ところがこの演奏ではキレの良いオケによって、バリトンでの演奏で薄れがちなメロディーをしっかり描いた面白さが存分に味わえます。
テンポは中庸、短調のほの暗い響きから入ります。オケはキリリとリズムが引き締まりながらも適度にリラックスして余裕のある演奏。そう、私の好きなタイプの演奏です。アダージョ、アレグロ、アレグレットの3楽章構成で、最後のアレグレットが長い変わったもの。2楽章は晴朗、快活なハイドンらしい曲。こうした曲では演奏のキレの良さが引き立ち、まさに弾むような音楽。ペターセン四重奏団の精妙な演出にはちょっと敵わないとは思いますが、基本的に質の高い演奏。特に第1ヴァイオリンのキレっぷりは見事です。旋律がクッキリと浮かび上がり曲の構造が透けて見えるようです。3楽章はオーボエとホルンのソロが活躍。変奏が次々と進み、バリトン八重奏曲というよりは普通のディヴェルティメントのように聴こえます。こうして聴くと実に穏やかないい曲。音楽の造りはペターセン四重奏団と共通する全体の見通しの良さが感じられます。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章から独特の曲想がユニークな哲学者、聴き進むうちにトランス状態になりそうな実に穏やかな曲です。かなりクッキリとした規則正しい伴奏のリズムに乗って穏やかなメロディがホルンなどの楽器をつなぎながら奏でられていきます。特にヴァイオリンのメロディーのキレの良さが印象的なのは前曲同様。ハイドンの曲のツボを完全に掌握しています。各パートの丁寧な描写から穏やかな曲に潜む音楽の面白さがにじみ出るような秀演。やはり音楽の構成は精妙。
つづくプレストは竹を割ったような直裁な響きのオケが見事な一体感で攻めてきます。デュナーミクの精緻なコントロールが鮮やか。鮮明、クッキリなオケがグイグイ音楽をまとめていきます。一呼吸おいてさっとメヌエットに移ります。リズムの変化の繊細さも見事。途中から入るホルンも見事なアンサンブル。癖のない精緻なアンサンブルの魅力をストレートに聴かせてきます。フィナーレも慌てず、堅実なアンサンブルが続きます。最後に及んで、湧き上がる喜びのようなものを実にうまく表現していきます。メロディーのエッジをキリリと立てて隈取りクッキリ。素晴らしい推進力。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
弦楽四重奏の演奏とは次元の異なる分厚い響きに最初から圧倒されます。同じく弦楽合奏ではエミール・クライン盤も素晴らしい演奏でしたが、クライン盤が優雅かつ典雅な方向の演奏だったのに対し、こちらはタイトでダイナミックに切り込む感じ。穏やかなばかりの演奏ではありません。楽章ごとに音の厚みというか奏者の人数を変え、楽章間のコントラストはかなりきっちりつけて曲の構造をクッキリと印象づけます。1楽章は分厚くタイトに切れ込み弦楽四重奏では出しにくい力感を見事に描きます。2楽章は少し力を緩めてメヌエットを描きますが、素晴らしいのは中間部のピチカートの部分。ゾクゾクするような立体感。そしてアダージョは弦楽四重奏そのままのように楽器を絞って精妙なハーモニーを聴かせます。4楽章のメヌエットは静けさを切り裂くような弦の強音から入り、強弱の対比をつけながら曲を展開。印象に残る響きを創るのが非常に上手いですね。フィナーレはさっとキレ良く終了。この曲の新たな魅力をまた知った感じです。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最後にシュトルム・ウント・ドラング期の名曲を持ってきました。基本的に鮮明でキレの良いオケですが、音楽に一貫した姿勢があり表現過多には聴こえず、むしろ曲ごとに緻密な設計があって、それを忠実に表現しているよう。この曲では出だしの印象的なアダージョはキレの良さよりも、しっとりとしたほの暗さをうまく演出して、徐々に明るい光が射していく場面への変化も見事です。一貫した味わいのある現代楷書のよう。表現手法はオーソドックスなのに、表現にキレがあり全体のバランスも実にいい感じ。オケの経験と力量からすると、ジェスムースが緻密にコントロールしているということでしょう。
2楽章のアレグロ・アッサイに入ると力感が増しますが、冷静に細部をコントロールしているようでもあり、没入してしまうことはありません。適度な高揚感のもと響きを磨き込むことを意識して、クリアにまとめます。メヌエットはほの暗さを保ったまま、比較的穏やかにまとめ、フィナーレに備えます。期待通りフィナーレに入るとオケのテンションが上がりパート間でせめぎ合います。ただし、曲が進むにつれてテンションがさらに上がるかと思いきや、だんだん抑えてきて最後にあっさりと終わるさらりと粋なところを見せます。

ペターセン四重奏団のメンバーだったジェルノ・ジェスムースの振るシンフォニア・クラシカのデビューアルバム。オケとしての演奏の精度は見事なものがあり、他の有名指揮者による演奏と比べてもクッキリとした表情の描き方は素晴らしいものがあります。最初のディヴェルティメントと哲学者ではその辺の長所が活きて、曲ともマッチしていたのですが、3曲目の弦楽四重奏曲では、その演出がちょっと強くなった分、曲の新たな魅力を引き出す一方、曲自体の面白さを生かした他の演奏との印象の違いも少々気になる部分を残してしまいました。最後の受難では指揮者のもう一段の踏み込みがあってもいいかもしれないという印象でした。ということで評価は前半2曲は[+++++]、後半2曲は[++++]とします。受難はきっちりとまとまり良い表現に一段良い評価をする人もあるかと思いますが、ちょっと響きに関心が集中しすぎてるのではとの思いです。

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tag : ディヴェルティメント 哲学者 弦楽四重奏曲Op.1 受難

ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)

今日は好きなディヴェルティメント集。

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ディヴェルティメント・ザルツブルク(Divertimento Salzburg)の演奏による、ハイドンのディヴェルティメント3曲(Hob.II:11、II:16、II:22)とマーティン・ハーゼルベックがオルガンソロをつとめたクラヴィーア協奏曲(Hob.XVIII:10)、それにアンネグレート・ディートリヒセンのヴァイオリンソロが加わったクラヴィーアとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)の5曲を収めたアルバム。ディヴェルティメントの収録は1982年2月27日、3月2日、オーストリア放送ザルツブルクスタジオでのセッション録音。協奏曲2曲は1982年6月11日から12日にかけて、オーストリア東部のシュッツェン・アム・ゲビルゲという街の教会でのセッション録音です。レーベルは独ORFEO。

このマイナーなアルバムは、マイナー盤好きな当方の所有盤リストにない、特にマイナーなアルバムを選りすぐって貸していただく湖国JHさんから送り込まれたもの。いつもながら、送り込まれるアルバムの素晴らしさは折り紙付き。

ディヴェルティメント・ザルツブルクは1978年、このアルバムの協奏曲でヴァイオリンソロを弾いているアンネグレート・ディートリヒセンが設立した室内楽アンサンブル。メンバーはザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団のメンバーが中心で、オーストリアでも最も早くから古楽器演奏に取り組んだ団体の一つということです。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトなどの室内楽曲ということです。
オルガンを弾くマーティン・ハーゼルベックはおなじみでしょう。当ブログでも過去に同じくORFEOへのこのアルバムと同時期に録音されたオルガン協奏曲集などを一度取りあげています。

2012/12/14 : ハイドン–協奏曲 : マーティン・ハーゼルベック/ディヴェルティメント・ザルツブルクのオルガン協奏曲集
2012/12/11 : ハイドン–声楽曲 : ウィーン少年合唱団/ウィーン響の大小オルガンミサ

特にオルガン協奏曲のアルバムはオケも同じディヴェルティメント・ザルツブルク。ハーゼルベックの略歴などはそちらの記事をご参照ください。

ということで、今日取り上げるアルバムはハーゼルベック得意のオルガン協奏曲のみならず、ディヴェルティメント・ザルツブルクによる文字通りディヴェルティメントに存在価値がかかっている訳です。一般的には地味な存在であるディヴェルティメントですが、ハイドン好きな皆さんは、このゆったりとした音楽の楽しみを知っているので、このアルバムへの興味も尽きないはず。ディヴェルティメントを中心にレビューいたしましょう!

Hob.II:11 / Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
プレスト-アンダンテ-メヌエット-フィナーレの4楽章。2楽章は「夫婦」と名付けられ、「誕生日」という呼称とともに古い筆写譜に記載されていたとのこと。最近聴き慣れたメロディーから入りますが、テンポはゆっくり。噛み締めるようにじっくりとした入りが録音年代を物語ります。古楽器の演奏ではありますが、音を聴く限りそうは感じません。2楽章はユーモラスなメロディーの面白さを誇張するように表情をつけていきます。そして3楽章のメヌエットも一貫してゆったりとしたテンポで濃い表情。フィナーレの変奏曲に入っても屈託なくメロディーラインの面白さを描いて行きます。良く聴くと音量的なメリハリや構成よりも、メロディーをしっかり描いて行くことに集中しているよう。次々に楽器を変えてメロディーを受け継いでいくあたりは、スリリングではなく確実なバトンリレーを見せられているよう。ディヴェルティメントとはこう演奏するものとのメッセージのようでもあります。奏者の愉悦感が伝わってくるような躍動感。変奏が進むにつれて音楽にグイグイ引き込まれていきます。最後の高揚感も素晴しいものがあります。

Hob.XVIII:10 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1771,1760?)
録音に若干古めかしい響きを感じますが、すぐに、やはりゆったりとしながらもがっちりと堅固な音楽の魅力に引き込まれます。ハーゼルベックのオルガンソロは、以前聴いたアルバム同様、キレキレ。オルガンと言う楽器独特の音色の魅力が立ちのぼります。バリトントリオ同様、音色のもつ神秘的な響きにトランス状態に引き込まれそう。テンポが落ち着いている分、メロディーと音色の魅力が引き立ちます。ディヴェルティメントもそうでしたが、このアルバムの演奏、テンポの変化は極力抑えることで、メロディーのもつ魅力にピシッとフォーカスがあたります。2楽章のアダージョもじっくりとした表情づけで音楽の面白さが際立ちます。敢えて構成の変化やダイナミクスを抑えているようです。フィナーレも同様。この演奏を聴いてこうしたアプローチの有効性に気づかされました。実に雄弁な音楽。少し古いスタイルとは思いますが、音楽の濃さはそれを越えた価値をもつように感じます。

Hob.II:16 / Divertimento [F] (1760)
再びディヴェルティメント。この曲は録音が少ないので貴重。手元には他にマンフレッド・フス盤くらいしかありません。リラ・オルガニザータ協奏曲のようなオモチャっぽい推進力のある響きが特徴。すでにディヴェルティメント・ザルツブルクのスタイルに馴れてきていますので、じっくりと奏でられる彼らの音楽がすっと耳に入ってきます。この曲はアレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレと5楽章構成。音楽の濃さは相変わらずで、特にアダージョのゆったりとした美しさは出色。このアルバムの中では珍しく抑えた表現を上手く挟んでいます。後半のメヌエットは木管とホルンによるコミカルな表情がいい味をだしています。フィナーレは2本のホルンが活躍。えも言われぬ感興。曲調からか、この曲では表現を極めるというより演奏を楽しむ感じで、いい意味で楽天的な印象です。これがディヴェルティメント本来の姿でしょう。

Hob.XVIII:6 / Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
好きな曲。オルガンとヴァイオリンの掛け合いとともに、独特の高揚感のある曲です。ハーゼルベックのオルガンはまたしてもキレキレ。ディートリヒセンのヴァイオリンは燻らしたような味のある音色が特徴。やはり全体に落ち着いたテンポで、じっくりと曲を描いていきます。演奏をリードするのはハーゼルベックのオルガンで、ヴァイオリンは伴奏のようにオルガンに付き従うスタイル。1楽章の祝祭感と高揚感はハーゼルベックのオルガンによるもの。
アダージョは夜空の星のきらめきのような美しい曲ですが、研ぎすまされた美しさというよりは、等身大の音楽の美しさで聴かせる感じ。主役はやはりハーゼルベックのオルガン。よく聴くとオルガンの表情の多彩さに気づきます。ヴァイオリンソロとオケがうまく寄り添ってオルガンの奏でるメロディーに変化をつけていくよう。
フィナーレはかなり力を抜いて流すような演奏。今度はヴァイオリンとオケが少し前に出てきてオルガンより先にメロディーを置いて行きます。だんだんオルガン、ヴァイオリン、オケが溶け合うように高揚して終了。

Hob.II:22 / Divertimento [D] (1760-62)
最後のディヴェルティメント。プレスト-メヌエット-ラルゴ・カンタービレ-メヌエット-フィナーレの5楽章構成。やはり2本のホルンの音色が独特の表情。ホルンの響きが加わることで音楽がこれほど豊かになるとは、ハイドンの楽器の音色に関する鋭敏な感覚に唸るばかり。この曲では楽章ごとの演奏スタイルにきっちりメリハリをつけて、特にラルゴ・カンタービレの抑えた美しさにこだわっているよう。ここに来てディートリヒセンの突き抜けるような伸びやかな高音を披露。後半のメヌエットも実に落ち着いた音楽。最後のフィナーレは短いながらも非常に面白い音階の構成に釘付け。

ディヴェルティメント・ザルツブルクによる、ハイドンのディヴェルティメント3曲とオルガン協奏曲など2曲の協奏曲をあわせたアルバム。これぞハイドンの音楽の楽しみといわんばかりの演奏。腕利き奏者の集まりに違いありませんが、音楽のフォルムにこだわった精緻な演奏ではなく、音楽とは素朴なものであると言わんばかりの、実にくだけた演奏。前半の曲は大きな造りでグイグイと聴かせると思って聴いていると終盤は繊細な面ものぞかせ、聴くものを飽きさせません。選曲といい、演奏といい、まさに玄人好みのアルバムです。評価は真ん中に置かれたディヴェルティメントHob.II:16が[++++]、他は[+++++]とします。このアルバムも現在では入手が難しい貴重なものとなってしまっていますね。

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tag : ディヴェルティメント 誕生日 古楽器 オルガン協奏曲

リノス・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)

またまたマイナー盤(笑)

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リノス・アンサンブル(Linos Ensemble)の演奏で、ハイドンの管楽器と弦楽器のための室内楽曲4曲を収めたアルバム。ちょっと不思議な立ち位置のアルバムです。収録は1994年11月7日から10日にかけて、ミュンヘンのバイエルン放送の第2スタジオでのセッション録音。レーベルは独CAPRICCIO。

このアルバムは、いつもながら、湖国JHさんに貸していただいたアルバムなんですが、レビューを始めようと収録曲を調べ始めたところ、どうもこのアルバムだけに含まれる、、、というか、他のアルバムでは見かけない曲がいくつかふくまれているんですね。なんとなく調べあぐねていたところ、実は手元の未登録盤を保管してあるボックスに同じリノス・アンサンブルの演奏によるハイドンのフェルドパーティー曲集があり、こちらも同様、曲の特定に難航して長らく未登録盤ボックスの中に板と言う次第。おそらくハイドン作のものや、ハイドンの作と思われる曲を意図して集めて録音していると思われるアルバム。

ハイドンの曲ばかりを普段聴いているとはいえ、学者ではありませんので、こうゆう微妙な曲を扱っているアルバムについては、何となく落ち着きません。所有盤リストへの登録も、既知の曲であれば、ただ登録するだけなんですが、他のアルバムにない曲についてはいろいろ調べないと正体がわかりません。

このような微妙かつ激マイナーな曲を録音しているリノス・アンサンブルという団体、一体何者なんでしょう。

linos ensemble

彼らのサイトもドイツ語のみのため詳しいことはわかりませんが、1977年オーボエ奏者のクラウス・ベッカーが設立した管楽器を軸にしたアンサンブルで、レパートリーはバッハからシュトックハウゼンまで、編成はトリオから室内楽オーケストラまでということくらい。ということでわかる曲のレビューをしておきましょう。

Hob.II:F2 / Cassation
1曲目はカッサシオンのヘ長調。所有盤リストでカッサシオンのヘ長調を探すと、ホーボーケン番号でHob.II:F2というのがあり、エミール・クラインとハンブルク・ソロイスツの演奏が登録されていますが、このアルバムにあるだけで他に資料がない曲。5楽章構成でヴァイオリン、ヴィオラ、オーボエ、ファゴット、ホルン×2、コントラバスという編成。最近ディヴェルティメントをいろいろ聴いているせいか、出だしの1楽章のアレグロ・モデラートから軽快な音楽に引き込まれます。ホルンの加わった響きの美しさもかなりのもの。演奏は現代楽器によるオーソドックスなものですが、演奏から音楽が溢れ出してくるような活き活きとした歌が感じられるなかなかの演奏。一人一人のクッキリとメリハリのある演奏から、ソリストの腕はかなりのものでしょう。続いてメヌエット、アダージョ、メヌエット、ロンドと言う流れ。メヌエットはまさにハイドンの作というキレの良いもの。ファゴットのコミカルなメロディーの演出の上手さが光ます。アダージョはオーボエとコントラバスが活躍。ゆったりとしたリズムに乗ってオーボエが抜けるような上昇感のフレーズを奏でていきます。4楽章のメヌエットは最初のメヌエットとは異なりかなり展開していきます。フィナーレのロンドはハイドンの作風とはちょっと異なるような気もしますが、良くまとまってはいますし、展開に閃きもあり、私はハイドンの真作ではないかとの印象を持っています。

Hob.II:B4 Divertissement [B flat] (????) (Doubtful 疑作)
続く曲は、まったく知らなかった曲。ホーボーケン番号ではHob.II:B4と言う名前がついていますが。ちなみにこのアルバム以外では全く見かけない曲。オーボエの軽快な旋律から入る曲。ちなみに前々記事のシェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集の記事に対してHaydn2009さんからコメントいただいた情報によると、この曲の出だしから少しの部分が下記のTVCMに使われているとのことでした。

ハウス食品株式会社:商品・CM情報:ザ・ホテル・カレー

1楽章の演奏が軽やかに弾んでいるのは先に触れた曲同様。CMに使われることからも明らかなとおり、非常に流れが良く高揚感と推進力も十分。ハイドンの作にしては非常に滑らかな展開。演奏自体は非常に盛り上がり、リノス・アンサンブルの演奏によりクッキリとフレーズが浮かび上がりますが、構成感と言う点ではハイドンの筆によるものだとは断言できない曲ということでしょう。演奏は非常に緻密なもの。つづく2楽章はロンドで2楽章構成の曲ですが、なんとなくこの2楽章もハイドンではない人の作品のような気がします。

Hob.II:A4 Quartett [A] (before 1777)
つづいての曲はフルート四重奏曲イ長調。4楽章構成の曲。どことなくロンドン・トリオを思わせるフルートの音階が印象的。解説によればボルドー市立図書館で発見されたフルート四重奏曲6曲の中の1曲とのこと。2楽章のアダージョにはバッハのマタイ受難曲のアリアが引用されているのとのこと。この曲の構成と展開の面白さはハイドンそのもののように感じます。

Hob.II:25 / Notturno No.1 [C] (1789/90)
そして最後はようやく聴き慣れたノットゥルノ。いくらマイナー盤好きだからといっても、これだけ聴いたことがない曲が続くのはちょっとストレス(苦笑)。この曲ナポリ王フェルディナンドIV世の依頼で作曲した一連のノットゥルノやリラ・オルガニザータ協奏曲などは、過去に何度か取りあげていますので、メロディーに親しみがありますね。躍動感溢れる演奏はこういった機会音楽としては理想的な演奏。先日取りあげたシェーンブルン・アンサンブルよりも明るい調子でノリも良いので、一聴して楽しい雰囲気が伝わる演奏ですね。

シェーンブルン・アンサンブルにつづき、マイナー曲、埋もれた曲を活き活きと演奏するリノス・アンサンブル。ハイドンのディヴェルティメントはよく聴くと室内楽の喜びに溢れたいい曲が多いですね。情報の少なさ、アルバムの少なさからあまりつっこまずにいましたが、今回レビューしてみてその良さがわかりました。手元にはマンフレッド・フス盤やコンソルティウム・クラシクム盤もあり、挑み甲斐がありますね。こちらはまたの機会にでも取りあげることといたします。リノス・アンサンブルの今回の4曲、やはり[+++++]を進呈しないわけには参りませんね。

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シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)

ちょっと仕事やら飲みやらで間が空いてしまいました。

Schonbrunn.jpg
HMV ONLINEicon

シェーンブルン・アンサンブル(Schönbrunn Ensemble)の演奏による、ハイドンのディヴェルティメント3曲(Hob.II.11、II.D8、II:1)、ミヒャエルハイドンのディヴェルティメントハ長調の4曲を収めたアルバム。収録は1995年2月、オランダのユトレヒトでのセッション録音。レーベルは蘭GLOBE。

このアルバム、いつものように湖国JHさんから貸していただいているもの。ハイドンのディヴェルティメント集は音楽の楽しみを知った人こそのんびりと聴いて楽しめるものです。ハイドンと言えば交響曲に弦楽四重奏曲、そしてオラトリオやミサ曲が有名ですが、若い頃に書いたディヴェルティメントなども、実にいい曲が多く、収集欲をそそられます。私同様ハイドンマニアでいらっしゃる湖国JHさんの貴重なコレクションということで、楽しみをわかるものが食指をそそられるアルバムと言う感じです。つまり、一般的にはマイナー盤という位置づけであると言いたい訳です(笑)

演奏者のシェーンブルン・アンサンブルは、ウィーンのシェーンブルン宮殿のイメージからオーストリアの団体だと思っていましたが、オランダの団体。彼らのウェブサイトは、Ensemble Schönbrunn Amsterdamとなっており、最近はアムステルダムという地名をつけているようです。

Ensemble Schönbrunn Amsterdam

設立は25年以上前で、フレスコバルディからドビュッシーという幅広い時代のあまり知られていない曲を演奏するというのが彼らのスタイルのようで、リリースされているCD14点を見ると、まさにマイナー曲ばかり。その中にハイドンが2点あり、そのうちの1枚がこのアルバムです。これだけマイナー好みな団体ということで、非常に気になり、残りの1枚のハイドンのフルート三重奏曲集も注文し、入手済みです。やはりマイナー盤には目がありません(笑)

今日取り上げるアルバムの曲をよく見てみると2曲目のHob.II:D8と言う曲、手元の所有盤リストやハイドンマニアの聖書、大宮真琴さんの「新版ハイドン」にも記載がありません。ライナーノーツを見てみると、この曲、バーゼル大学図書館に保管されている作者不詳の18世紀の楽譜がもとになっており、1958年、ヘルマン・シェルヘンによってフルートと弦楽合奏のためのディヴェルティメントとして出版されたもので、ハイドンの作と考えられてきましたが、現在では真作とはみなされていないものでしょう。曲を聞くとメロディーの美しさと展開はなかなかいいのですが、構成にハイドンらしい閃きが欠けているような気がしなくもありません。ということで今日はハイドンの作曲と明らかになっている2曲を取りあげることとします。

Hob.II:11 / Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
ハイドンのディヴェルティメントでは有名な曲。フルート、オーボエ、ヴァイオリン×2、チェロ、コントラバスと6声のディヴェルティメント。シェーンブルン・アンサンブルの演奏は古楽器としては自然な音色で、落ち着いた演奏。適度にキビキビ感もあり曲の面白さを素直に味わう事ができます。録音も自然で鮮明。コントラバスの低音がリアルに響きます。1楽章のプレストは軽快、2楽章はハイドンらしい穏やかなかにも陰りを感じる静かなアンダンテ。そしてまさにハイドンらしい展開の要のメヌエットとつづきます。このメヌエットで楽章間にクッキリとコントラストがついているのを印象づけ、ディヴェルティメントの面白さをうまく演出しています。フィナーレはハイドン存命時に流行った夫婦という有名な歌のメロディーをもとにした変奏曲。奏者はそれぞれ腕利き揃いらしく、一貫して穏やかな音楽ながらメロディーがクッキリ浮かび上がります。最初は落ち着いていたものの、変奏がヴァイオリンのソロになったあたりから奏者も少し表現に力が入り、変奏の面白さに耳を奪われるようになります。ハイドンの機知に富んだ音楽の面白さの極致。曲の流れに応じての盛り上げ方が非常に上手いですね。

Hob.II:1 / Cassatio [G] (c.1755)
前曲よりも遡ってハイドンが20代前半の作曲によるディヴェルティメント。前曲と同じ編成による6声のディヴェルティメント。変わらず落ち着いた入り。アレグロを軽快にこなして行きます。古楽器の音色を素直に活かした演奏ですが、集中して聴くとかなりメリハリをつけているので、メロディーラインがクッキリと浮かび上がっていることがわかります。シェーンブルン・アンサンブルの演奏、穏やかにはじまり、要所で盛り上がるというのがわかっているので、つづくアンダンテ・モデラートのはじまりの素っ気なさは逆に期待を煽ります。徐々に伸びやかさが増して来て、ゆったりとした雰囲気に呑まれるようになります。ヴァイオリンの音階が静かに響き渡り、他の楽器が溶け合うように迎える、穏やかな掛け合い。感情の高ぶりはなく、平常心で音楽を楽しむ粋なひと時。技巧ではなく響きの美しさというか、余韻の美しさに聴き入るような演奏。三昧の境地ですな。メヌエットはチェロの聴かせどころを挟んでささっと駆け抜けます。そしてフィナーレはこちらも変奏曲。実に聴き応えのある穏やかなメロディー。ハイドン弱冠20代にしてこの冴えに驚きます。楽器の音色の本質を捉えたメロディーの受け渡し。それぞれの楽器がどう響くと美しいのかを完全に掌握して曲を書いています。シェーンブルン・アンサンブルは完璧な演奏でハイドンの静かな狂気を描いていきます。この変奏の見事さは筆舌に尽くし難い。いやいや、このような小曲でこれほどの冴え。音楽の喜びがすべて詰まっているような充実感。参りました。

シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集。はじめて聴く団体でしたが、マイナー曲を好んでレパートリーとしているだけあって、曲の真髄をとらえた音楽の深さは流石の実力ですね。ハイドンの小曲に描かれた音楽の素晴しさを残さず描ききっています。室内楽好きの方、必聴の素晴らしさです。心の中にじわりと幸福が満ちてくるような素敵なアルバムです。ハイドンの2曲の評価はもちろん[+++++]です。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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