【新着】コワン&アンサンブル・バロック・ド・リモージュのリラ協奏曲など

弦楽四重奏曲をちょっとお休みして、実に楽しい新着アルバム。このアルバム、ハイドン好きな方に是非聴いていただきたいですね。

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クリストフ・コワン(Christophe Coin)指揮のアンサンブル・バロック・デ・リモージュ(Ensemble Baroque de Limoges)の演奏で、リラ・オルガニザータのための曲を集めたアルバム。ハイドンのノットゥルノ2曲(Hob.II:25、II:26)、リラ・オルガニザータ協奏曲(Hob.VIIh:3)、モーツァルトの作とされてきた2つのリラ・オルガニザータのための協奏曲、ヴィンツェンツォ・オルジターノのシンフォニア第3番、イグナツ・プレイエルの2つのリラ・オルガニザータのためのノットゥルノなど6曲。収録は2008年10月、フランス中部のリモージュ近郊のラ・ボリ(la Borie)のスタジオ・ラ・ボリでのセッション録音。伝モーツァルトの曲は2009年9月13日、アイゼンシュタットのエステルハージ宮殿のハイドン・ザールでのハイドンフェスティバルのライヴです。レーベルはリモージュのLA BORIE。

アルバムにつけられたタイトルは「ナポリのリラ」。ナポリの王、フェルディナンドIV世が好んだリラ・オルガニザータという楽器のために、王がハイドンを含む同時代の作曲家に依頼して作曲させた曲を集めたアルバムです。リラ・オルガニザータという楽器の解説は、以前の記事をご参照ください。

2012/08/26 : ハイドン–室内楽曲 : ラルキブデッリ、モッツァフィアートによるナポリ王のための8つのノットゥルノ
2012/01/11 : ハイドン–協奏曲 : シュツットガルト・ソロイスツのリラ・オルガニザータ協奏曲、オルガン協奏曲
2011/09/02 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】ウォルフガング・シュルツによるリラ・オルガニザータ協奏曲
2011/04/29 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘン/モーツァルテウムのリラ・オルガニザータ協奏曲、84番

珍しい曲にしては意外にいろいろ取りあげていますね。

リラ・オルガニザータの曲は、通例、ハイドン自身の編曲により、フルートとオーボエに置き換えた版で演奏されることが多いのですが、このアルバムでは、リラ・オルガニザータを復元して演奏しているようです。演奏の様子は上のHMV ONLINEのリンクをご覧ください。

実は手元には音楽の友社の「新版ハイドン」の著者としておなじみの大宮真琴さんの著した「ハイドン全集の現場から」という本があり、これはハイドンのリラ・オルガニザータ曲の研究書です。少し紐解いてみましたが、徐々に大森林のような情報と緻密な論考が展開され、とても日頃のレビューのために読めるような平易なものではありません。この本を紐解いたのは、「新版ハイドン」でもリラ・オルガニザータと言う楽器が弦楽器のような姿だと書かれているのが、先のHMV ONLINEの写真では四脚の据え置き型の楽器のように見えることに疑問をもったから。大宮さんの研究書を読んでも四脚のリラ・オルガニザータは出てきません。リラ・オルガニザータは農民や女性が弾くための楽器として、奇行で知られたナポリ王フェルディナンドIV世が好んだということで、元は弦楽器のような姿の楽器を、演奏が容易なように四脚の形に復元したということでしょうか、、、

素人があまり専門的な領域に踏み込んでケガをしてもいけませんので(笑)、純粋に音楽として楽しむ事に致しましょう。

Hob.II:25 / Notturno No.1 [C] (1789/90)
行進曲 - アレグロ - アダージョ - フィナーレという4楽章構成。まさに行進曲のリズムから入ります。フレーズをかなり細切れにして楽器間でつないでいきます。リラ・オルガニザータはまさに手回しオルガンのようなコミカルな音色。ハイドンの協奏曲のソロパートは楽器の音色に対する鋭敏な感覚にうらづけられたメロディーの面白さがあることが知られていますが、まさに、この曲はリラ・オルガニザータの音色を知って書かれたとよくわかる曲。リラ・オルガニザータのおとぎの国のような音色に耳を奪われます。
アレグロに入ると少し落ち着いて聴けるようになります。楽しげな演奏のためかどうか、リズムのキレはさほどではなく、手作りの音楽風の演奏。まさに仲間内で演奏者同士が楽しんでいるような風情です。アダージョに入ると一層その感を強くします。フィナーレの早いパッセージではリラ・オルガニザータの不思議な音色の面白さが際立ちます。楽器の構造からか、音階を奏でるたびに何かパタパタ鳴っているのが微笑ましいですね。このフィナーレはハイドンの複雑な音階が絡み合う成熟した筆致。なかなか充実した曲ですね。

Hob.II:26 / Notturno No.2 [F] (1789/90)
伝モーツァルトの曲を挟んで2曲目のノットゥルノ。今度は3楽章構成。リラ・オルガニザータによる静かな序奏に続いてすぐに軽快なディヴェルティメント風の曲。やはり木管楽器ではなくリラ・オルガニザータ自体の手回しオルガンのような音色だからこそ醸し出される独特の雰囲気が楽しいですね。
2楽章のアダージョは2台のリラ・オルガニザータがまるでリコーダーのアンサンブルのよう。つづくフィナーレはリラ・オルガニザータの軽快なパッセージを主体とした短い曲ですが、終盤のハッとするような転調が効果的。

この後置かれたヴィンツェンツォ・オルジターノのシンフォニアが実に面白い。こればかりは聴いていただかなくてはわからないですね。曲想はさほど複雑でないのですが、センスがいいというか、聴いていて楽しい曲。終楽章はトルコ趣味のような曲。この曲もリラ・オルガニザータの面白さをかなり活かした曲。

Hob.VIIh:3 / Concerti per la lira organizzata [G] (No.5) (1786/7)
このアルバムの目玉、リラ・オルガニザータ協奏曲。やはりノットゥルノとはソロの引き立てかたが違います。リラ・オルガニザータのユニークな音色からかなりのインスピーレーションを得ています。途中宇宙との交信のような不思議なメロディーが現れたり、音程の上がりきらないところを逆に面白く聴かせたりと、聴かせどころがふんだんにちりばめられています。
2楽章は軍隊の2楽章と同じメロディー。本来ならば打楽器炸裂なところですが、逆にリラ・オルガニザータのコミカルな音色で奏でられると、紙芝居で戦争の物語を見ているような気分になります。ナポリ王を喜ばせようと仕込んだネタでしょうか。
フィナーレは穏やかでしっとっりとしたリラ・オルガニザータの音色に吸い込まれるような曲。そこそこの構成感と華やぎがある曲。1楽章からの展開を考えると、ちょっと不思議な締め方ですね。

このあとプレイエルの曲でアルバムが終わりますが、これも楽しげな曲。

このアルバム、ナポリ王フェルディナンドIV世が当時の何人かの作曲家に自分の好きなリラ・オルガニザータのための曲を作曲してもらったものを収めるという企画もの。このアルバムからつたわるのは、農民の楽器、リラ・オルガニザータを愛したナポリ王の趣味に合わせたのか、ハイドン以外の作曲家の作品も、非常に楽しげで、音楽を演奏する悦びを感じられるような曲ばかりであること。演奏のほうもそれを狙ったのか、精緻というより、かなりカジュアルな印象。この企画にしてこの演奏ということでしょう。評価は全曲[++++]としますが、アーティスティックという視点では捕らえきれない面白さがあるアルバムです。ハイドン好きな皆さんは気に入ってくださると思います。

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tag : ノットゥルノ リラ・オルガニザータ協奏曲 古楽器

ラルキブデッリ、モッツァフィアートによるナポリ王のための8つのノットゥルノ

今日は夜想曲を。

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マルテン・ルート(Marten Root)のフルート、ミカエル・ニーゼマン(Michael Niesemann)のオーボエ、モッツァフィアート(Mozzafiato)とラルキブデッリ(L'Archibudelli)の演奏で、ハイドンのリラ・オルガニザータのためのノットゥルノ集。通称「ナポリ王のための8つのノットゥルノ」。収録は1996年10月27日から30日、オランダ、ハールレムのルター教会でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

この曲は、もともとリラ・オルガニザータという楽器のために書かれた曲。この曲ははじめて取りあげますが、リラ・オルガニザータは協奏曲の方を3度取りあげています。楽器の解説等はウォルフガング・シュルツの記事をご参照ください。

2012/01/11 : ハイドン–協奏曲 : シュツットガルト・ソロイスツのリラ・オルガニザータ協奏曲、オルガン協奏曲
2011/09/02 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】ウォルフガング・シュルツによるリラ・オルガニザータ協奏曲
2011/04/29 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘン/モーツァルテウムのリラ・オルガニザータ協奏曲、84番

前の記事え触れたように、ナポリの王フェルディナンド四世はリラ・オルガニザータという楽器をノルベルト・ハドラヴァという人に教わり、国王がハラドヴァと一緒に演奏できるように様々な作曲家に2台のリラ・オルガニザータのため協奏曲の作曲を委嘱しました。ハイドンのリラ・オルガニザータのための協奏曲5曲は、国王がハイドンに委嘱して作曲されたもの。この曲を作曲した後、国王からナポリの宮廷を訪問するよう招請されましたが、訪問は実現せず、その代わりに、今日取り上げる曲のうちの最初の6曲の作曲をされたもの。さらに3曲を作曲し、そのうち1曲は消失したとされており、その8曲が今日のアルバムの収録曲ということになります。

もともとリラ・オルガニザータのために作曲されたもの。ハイドンがロンドンを訪問した際に演奏しようとしましたが、ロンドンにはリラ・オルガニザータという珍しい楽器をを演奏できる奏者がおらず、ハイドン自身がリラ・オルガニザータの独奏パートをフルートとオーボエに書き換えて、ロンドン版が出来、以後このロンドン版によって演奏され続けています。

曲の概要を紹介しながら簡単にレビューしていきましょう。

Hob.II:25 / Notturno No.1 [C] (1789/90)
音楽の楽しさに溢れた曲の入り。ノットゥルノというよりディヴェルティメントです。6曲目までの編成はフルート、オーボエ、クラリネット2本、ホルン2本、ヴィオラ2本、チェロ、コントラバスという非常に変わったもの。行進曲-アレグロ-アダージョ-プレストの4楽章構成。ナポリ国王の演奏を意識してか明るく歯切れ良くウキウキするような曲想。もともとのリラ・オルガニザータが手回しオルガンのようなオモチャっぽい響きを聴かせるためか、曲もそれに合わせたもののようです。曲の造りはかなり手がこんでいて、各楽器間のスリリングなやり取りが緊密。非常に聴き応えがあります。

Hob.II:26 / Notturno No.2 [F] (1789/90)
つづいて3楽章構成の曲。アダージョの序奏をもつアレグロ・スピリトーソ-アレグロ・コン・ブリオ。1楽章は厳かな序奏ではじまり、主題以降は祝祭感が漂うもの。奏者は腕利きらしく、それぞれのパートを活き活きと奏でます。この曲はアダージョの美しさが印象的。フルートとオーボエが交互に奏でるメロディーが非常に美しい。フィナーレは成熟したハイドンの筆致が感じられる素晴らしい陶酔感。

Hob.II:32 / Notturno No.3 [C] (1790)
コミカルな曲想が印象的な3楽章の曲。アレグロ・モデラート-アンダンテ-モルト・ヴィヴァーチェ。いつも感心するのは、このような曲集に一つとして同じ曲想がなく、どれもそれぞれ独特の個性をもっていること。国王もこれは気に入るでしょう。

Hob.II:31 / Notturno No.4 [C] (*1790)
このアルバムの最初の6曲の中でも最も充実した曲。こちらも3楽章。アレグロ-アダージョ-フィナーレという構成。木管の音色の特色の真髄をついた素晴らしい曲。1楽章から痺れます。やまびこのようにメロディが重なる美しい曲。ナポリ国王からの注文による曲ですが、手抜きなし。フィナーレの充実ぶりも素晴らしいものがあります。

Hob.II.29 / Notturno No.5 [C] (1790)
アレグロ-アンダンテ-フィナーレの3楽章構成。1楽章は少し影のある曲想。アンダンテでぐっとテンションを落として静けさをを表現。そしてフィナーレはフーガ。どこかで聞き覚えのあるメロディーをキーとしたものですが、思い出せません。

Hob.II.30 / Notturno No.6 (fragment) [G] (1790)
6曲セットの最後は断片ということで、2楽章構成。プレスト-アンダンテでフィナーレが消失しているとのこと。ここまでのなかでも、木管が目立つ曲。ちょっとモーツァルトのグラン・パルティータを思い起こさせます。

Hob.II:28 / Notturno No.7 [F] (1790)
この曲と次の曲は楽器構成が変わります。フルート、オーボエのソロは変わらずですが、クラリネット2本がなくなり代わりにヴァイオリン2本。ヴァイオリンはヴェラ・ベスとルーシー・ファン・ダールという名手。ヴァイオリンが加わることでアンサンブルの華やかさが一段と強調されますね。前の6曲が木管アンサンブルに近い響きだったのと明確に響きが変わります。アレグロ・モデラート-アダージョ-フィナーレという3楽章構成。曲調も落ち着いた方向に成熟しているよう。また曲も少し長くなってます。前6曲が祝祭感に溢れた音楽だったのに対して、この曲は本来の夜想曲に近いニュアンスをもっています。夜演奏して楽しむのに相応しい静寂感を持っています。アダージョは不思議な恍惚感があります。

Hob.II:27 / Notturno No.8 [G] (*1790)
ラルゴの序奏からアレグロ-アダージョ-フィナーレの3楽章。やはり最後の曲だけあって曲の充実ぶりが際立ちます。ハイドンは交響曲や弦楽四重奏曲などが有名ですが、こうした小品も良く聴くと素晴らしい充実ぶり。特に2台のヴァイオリンが交互にメロディーを掛け合うとところが秀逸。ヴァイオリンがさざめくような感じも繊細でいいですね。曲のスケールも大きく大きくなり、ナポリ王のほくそ笑む姿が目に浮かぶようです。

モッツァフィアートとラルキブデッリという古楽器の名手たちによるハイドンのノットゥルノ集。演奏は流石に名手ぞろいなので言うことなし。キレのいいリズムと鮮度の高い響きがハイドンの隠れた名曲の素晴らしさを見事に表現しています。こうした小曲集も良く聴くとハイドン特有の美しいメロディーと構成感があり、うなされるものがあります。評価は全曲[+++++]とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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