プラハ四重奏団の「皇帝」、「セレナード」(ハイドン)

まだまだ真価を知らなかった演奏はいろいろあるものですね。今日は弦楽四重奏の名演奏を。

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プラハ四重奏団(Prager Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドン作の「セレナード」の2曲を収めたLP。収録は1972年5月、プラハでとのみ記載されています。レーベルは日本のキングレコードによるeurodiscの国内盤。

プラハ四重奏団は1956年、プラハ交響楽団の首席奏者であったブレティスラフ・ノヴォトニーを中心に結成されたクァルテット。結成当初はプラハシティ四重奏団と呼ばれており、プラハ四重奏団と名乗るようになったのは1965年からとのこと。結成直後の1958年にはベルギーのリエージュで開催された国際コンクールで優勝し、国際的に注目されるようになり、活躍の場は世界に広がりました。メンバーは、結成後1957年、1968年にノヴォトニー以外のメンバーが入れ替わって、このアルバム演奏時の下記のメンバーとなりました。

第1ヴァイオリン:ブレティスラフ・ノヴォトニー(Bretislav Novotny)
第2ヴァイオリン:カレル・ブジビル(Karel Pribyl)
ヴィオラ:リュボミール・マリー(Lubomir Mary)
チェロ:ヤン・シルツ(Jan Sirc)

日本にも1965年をはじめに度々来日しており、日本で録音したアルバムも多数リリースされているということで、年配の方にはおなじみのクァルテットかもしれませんね。レパートリーはモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェンなどの古典から現代ものまで幅広く、ハイドンについてはこのアルバムの他にもOp.20のNo.5、Op.54のNo.2があるそうです。

ちなみにこのアルバムは最近オークションで手に入れたもの。eurodiscの国内盤ですが、ミントコンディションの盤面に針を落とすと、いきなり鮮烈、華やかな演奏に引き込まれました!

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
鮮烈に響く4本の弦楽器。緊密かつ華やかにリズムを刻み、音楽がイキイキと弾みます。演奏によってここまで躍動するのかと関心しきり。そして交錯するメロディーの美しさが浮かび上がります。緊密なハイドンも鋭いハイドンもいいものですが、やはり明るく華やかに弾むハイドンの楽しさに勝るものはないとの確信に満ちた演奏。陽光のもとに輝く骨格が圧倒的な美しさで迫ります。1楽章は別格の出来。
そして有名な2楽章はヴィブラートがしっかりかかった弦のハーモニーがしっとりと沁みる演奏。訥々と変奏を重ねて行く毎に枯淡の境地に至り、色数をだんだん減らし淡色の景色に変わります。最後はモノクロームの透徹した美しさに。よく見るとモノクロなのに色が見えるような豊かさも感じさせるアーティスティックな世界。絶品。
メヌエットでは、躍動感はそこそこながらしなやかに流れるメロディーを丁寧になぞりながら曲そのものの美しさをしっかりと印象付け、フィナーレでは精緻すぎることなく手作り感を程よく残しての迫力でまとめます。適度な音程のふらつきも手作り感に繋がっているんですね。クァルテットの勘所を押さえた実に見事な演奏でした。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
1楽章の弾むような華やかさは皇帝と同じですが、こちらの方は曲の作りも手伝って、より気楽さを感じさせる演奏。演奏する方も楽しんで演奏しており、奏者もリラックスしているように聴こえます。ハイドンの作ではないことがわかっていますが、長年ハイドンの曲として演奏されてきた伝統もあり、実にこなれた演奏。この力の抜け具合がこのクァルテットの実力を物語っています。
ピチカートに乗ったセレナードも同様、リラックスして実に楽しげ。このさりげない美しさこそハイドンの本質でもあります。簡単そうに見えて、この境地に至るには並みの力では及びません。やはりこの曲は名曲ですね。
メヌエットも見事に力が抜けて軽やか。そして終楽章のスケルツァンドも同様。曲自体に込められたウィットを見抜いて全編を貫く軽やかさで包んできました。この辺りも手慣れた感じながら、曲の本質を突く見事なアプローチです。

プラハ四重奏団による皇帝とセレナード。名演奏揃いのこの曲の中でも指折りの名演奏と言っていいでしょう。やはりハイドンの演奏にはこの明るさ、軽やかさが似合います。鬼気迫る精緻なハイドンもいいものですが、このような演奏を聴くと、ハイドンはこう演奏するのが粋なのだとでも言いたげな余裕を感じます。おそらくCD化はされていないものと思いますので、このLPが彼らのハイドンの貴重な証ということでしょう。評価はもちろん両曲とも[+++++]とします。



最近手元には幸松肇さんの「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」というシリーズものの書籍があり、それを参照するとクァルテットの情報はかなりわかりますので調べるのに苦労することは少なくなりました。こちらは第3巻の東欧諸国編です。



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tag : 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.76 LP

シュトラウス四重奏団の騎士、皇帝(ハイドン)

新着アルバムが2枚続きましたので、最近聴いてよかったLPを取り上げます。先日オークションで手に入れたもの。

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シュトラウス四重奏団(Strauss Quartett)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.3「皇帝」、伝ハイドンによるセレナード(Op.3のNo.5)の3曲を収めたLP。収録年も場所も記載がありませんが、いろいろ調べて見ると1960年代の録音との情報が出てきました。レーベルは独TELEFUNKEN。

シュトラウス四重奏団ははじめて聴くクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ウルリッヒ・シュトラウス(Ulrich Strauss)
第2ヴァイオリン:ヘルムート・ホーヴァー(Helmut Hoever)
ヴィオラ:コンラート・グラーエ(Konrad Grahe)
チェロ:エルンスト・シュトラウス(Ernest Strauss)

クァルテットの名前は第1ヴァイオリンとチェロのシュトラウス兄弟からとったもの。1957年から80年代まで、主にドイツ西部のエッセンにあるフォルクヴァンク美術館をで活動していたとのこと。録音は今日取り上げるLP以外にはハイドンの「日の出」と「ラルゴ」があるくらいのようで、知る人ぞ知る存在という感じでしょうか。

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このアルバム、TELEFUNKENの黒地に金文字の厳かなデザインがなかなかいいですね。いつものように、VPIのクリーナーでクリーニングして針を落とすと、スクラッチノイズもほぼ消え、ちょっと古風ながらドイツ風の質実剛健な弦の響きがスピーカーから流れ出してきました。

Hob.III:74 String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
聴き慣れた騎士の入りのフレーズ。速めのテンポでサクサクと入りますがフレーズごとにテンポと表情をくっきりと変えてくるので、実にニュアンス豊かな演奏に聴こえます。険しい響きの中から明るいメロディーがすっと浮かび上がる面白さ。一人一人のボウイングが適度に揺れているので、かっちりとしたハーモニーを作るのではなく、旋律のざっくりとしたリズミカルな綾の味わい深かさが聴きどころの演奏。
騎士の白眉であるラルゴは前楽章以上に味わい深いハーモニーを堪能できます。力が抜け、ゆったりとリラックスできる演奏。LPならではのダイレクトな響きの美しさに溢れています。途中からテンポをもう一段落としてぐっと描写が丁寧になったり、アドリブ風に飛び回るようなヴァイオリンの音階を挟んだり、軽妙洒脱なところも聴かせるなかなかの表現力。
続くメヌエットはこのクァルテットの味わい深くもさりげなくさらさらとした特徴が一番活きた楽章。この表現、この味わい深さに至るには精緻な演奏よりも何倍も難しいような気がします。
その味わい深さを保ったままフィナーレに突入。サクサクさらさらと楽しげに演奏していきます。どこにも力みなく、どこにも淀みなく流れていく音楽が絶妙な心地良さ。それでいてフレーズ毎に豊かな表情と起伏が感じられる見事な演奏。騎士のフィナーレは力む演奏が多い中では、この軽やかさは貴重。まるでそよ風のように音楽が吹き抜けていきます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲皇帝も前曲同様、比較的速めのテンポでさらりとした入り。音楽をどう表現しようかというコンセプトを考える前に、体に染みついているハイドンのメロディーが自然に音楽になって流れ出している感じ。この自然体の演奏スタイルなのに、音楽に躍動感と気品のようなものがしっかりと感じられるのが素晴らしいところ。よく聴くとアンサンブルもまったく乱れるところはなく、音楽の推進力に完全に身を任せているよう。
レコードをひっくり返してドイツ国歌の2楽章。媚びないさっぱりと演奏から滲み出る情感に咽びます。この悟りきったような自然さがこのクァルテットの真髄でしょう。よく聴くとヴァイオリンのみならず、ヴィオラ、チェロもかなりのしなやかさ。全員のボウイングのテイストがしっかり統一されていて、それぞれが伸びやかに演奏することから生まれる絶妙なハーモニー。第1ヴァイオリンのウルリッヒ・シュトラウスは1929年生まれなので録音当時は30代ですが、その年代とは思えない達観した演奏。
メヌエットも前曲同様屈託のないもの。そしてさっとフィナーレに入り、劇的なフィナーレをさらりとまとめてくるのも同様。この曲のクライマックスは2楽章であったとでも言いたげに、さらりとやっつけます。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ご存知セレナーデ。速めなテンポは同様。味わい深さもさらりとした展開も同様。ただそれだけならばそれほど聴き応えのある演奏にはならないのですが、音色の美しさとフレーズ一つ一つがイキイキとしているので不思議と引き込まれるのも同様。特に2楽章のピチカートの響きの美しさはかなりのもの。こちらも素晴らしい演奏でした。

実にさりげない演奏なんですが、実に味わい深く、LPであることも手伝って美しい響きに包まれたハイドンの名曲をさらりと楽しめる、通向けの演奏。ハイドンのクァルテットをいろいろ聴いてきた人にはこの味わい深さはわかっていただけるでしょう。入手はなかなか容易ではないでしょうが、中古やオークションでは見かける盤ですので、みかけた方は是非この至福の自然体を味わっていただきたいと思います。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 騎士 皇帝 ハイドンのセレナード 弦楽四重奏曲Op.74 弦楽四重奏曲Op.76 ヒストリカル LP

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの「五度」「皇帝」(ハイドン)

このところ新譜も色々聴いているのですが、結果的に古い録音のばかりを取り上げています。やはり、時を経て聴き続けられるだけあって味わい深さが違います。

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amazon(別装丁盤)

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリン(Philharmonia Quartet Berlin)による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、No.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録は1983年9月10日、11日、西ベルリンのジーメンス・ヴィラでのセッション録音。レーベルはDENON。

このアルバム、最近ディスクユニオンで手に入れたもの。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンによるハイドンは以前に一度取り上げています。

2012/06/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉

こちらは1999年の録音ということで、今日取り上げるアルバムから約16年あとの録音。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンはご想像の通り、ベルリンフィルの団員で構成されたクァルテットですが、メンバーはチェロが替わっていないだけで他の3人は入れ替わっています。この録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:エドワルド・ジェンコフスキー(Edward Zienkowski)
第2ヴァイオリン:ワルター・ショーレフィールド(Walter Scholefield)
ヴィオラ:土屋邦雄(Kunio Tsuchiya)
チェロ:ヤン・ディーゼルホルスト(Jan Diesselhorst)

第1ヴァイオリンのエドワルド・ジェンコフスキーはベルリンフィルに在籍していましたが、この録音時にはケルン放送交響楽団のコンサートマスターに転出していました。土屋邦雄さんはカラヤン時代のベルリンフィルのヴィオラ奏者として有名ですね。

上の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は冷徹なまでに冴え冴えとしたまさにベルリンフィルらしい精緻な演奏でした。この録音の前、1989年にカラヤンが亡くなり、1990年からアバド時代に突入しており、まさにアバドがベルリンフィルに持ち込んだ精緻な音楽を象徴するような演奏と言ってもいいでしょう。今日取り上げる方の録音はカラヤンの晩年のベルリンフィルのメンバーによる録音ということで、メンバーも含めてクァルテットの背景も異なりまうす。カラヤンが指揮した録音は特に晩年は徹底的にカラヤン流に仕立てられ、レガートを効かせて磨き込んでいますが、ライヴは意外にオケに任せている印象があります。今日のアルバムもまさにメンバーが演奏を楽しむような屈託のなさを感じる演奏です。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
最初はハイドンの真作ではないですが、有名な「セレナード」。この曲のみ違うパッケージで2種の録音が手元にあったため、馴染みの演奏。腕利き揃いの奏者が軽々と演奏を楽しむような力の抜けた余裕たっぷりの演奏。この力の抜け方こそが、ハイドンの音楽を楽しむポイントだと見抜いての確信犯的演奏ですね。どの楽章も見事に軽々と演奏して、この美しいメロディーの曲をさらりと仕上げています。曲に対するスタンス自体ですでに勝負あったと言っていいでしょう。攻め込もうとか表現を極めようなどという無粋なことは一切頭の中になく、ただただ演奏を楽しむという一貫した姿勢が生む素晴らしい説得力。メインディッシュたるOp.76からの名曲2曲の前座としては十分な演奏です。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
前曲と同様、力の抜けた演奏が冒頭から心地よいのですが、曲が真正面から切り込むようなタイトなものだけに、同じような演奏でも若干テンションが上がって聴こえます。耳をすますと演奏の精度が高いわけではなく、適度に荒いところもあり、これが緊張感を高めすぎず、おおらかな印象を保っているよう。適度な緊張感と適度に楽天的な絶妙なバランスを保っています。
素晴らしいのが続く2楽章。実にカジュアルな語り口で淡々と進め、あえてメリハリを抑えているようですが、そのような演奏がハイドンの素朴な音楽の魅力を引き立てているよう。彫り込みを深くすることだけが音楽を深めるわけではないという好例。ボブ・ディランの歌が、彼の素朴な声の魅力で成り立っているのと同様、この語り口はを聴いていただかなくてはわからないかもしれませんね。
メヌエットもあえて表現の幅を抑えた演奏。淡々を進む音楽からメロディーのおもしろさが滲みます。中間部の弦楽器の音が重なりあう面白さの表現も聴かせどころを集中させているからこそ際立つもの。音の重なりの推移の面白さだけが際立つようにあえて仕組まれています。
フィナーレもさらりとしたもの。抑えた表現から音楽が湧き上がります。もちろん力みも変な表現意欲のかけらもなく、ただただ素直な演奏こそがハイドンの音楽の魅力を伝えると確信を持っているように弾き続けます。短調の陰りも過度にとらえず、最後まで一貫したスタンスを貫き、余裕たっぷりの演奏で結びます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲「皇帝」。もちろんこちらも力ヌケヌケ! まるで練習でもしているようにやさしく自然な演奏。ただし流石はベルリンフィルの一流どころだけあって、締めるところはキリリと締めてきます。力んだ演奏は無粋だとでもいいたげな気楽さ。ピシッとしていながらどこか楽天的な音楽はまさにハイドンの音楽の肝そのもの。名手がさらりと演奏する余裕を楽しみます。ところどころ音階のキレを楽しむような部分で遊び心を見せながらも、純粋無垢な心境を映すような演奏にほくそ笑みます。
有名な2楽章もちょっと枯れ気味になりそうなほど力を抜いた自然な音楽を楽しみます。変奏は蝶が優雅に花の間を飛び回るがごとき風情。適度にくだけた弓づかいが生み出すしなやかなフレージング。酔拳のようなふらつきの美学も感じさせます。技は音楽にあらずという信念が感じられる優雅さが満ちています。実に味わい深いひととき。音楽を知り尽くしているからこその達観した境地。
夢から覚まされたかのように筋の通ったメヌエットの入りで、我にかえります。媚びない素朴な演奏は前曲同様、かえってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。淡々サラサラ枯淡の境地。
曲の締めくくりのフィナーレでもやはり力みは皆無。八分の力でカジュアルにアンサンブルを楽しむ余裕があります。一貫して素朴さが生み出す味わい深さが聴きどころの演奏。最後もアンサンブルを精緻にキメようというような感じは全くなく、複雑な音階の絡みあいの複雑さを楽しむがごとき境地に至っています。

振り返ってみると、冒頭の「セレナーデ」が一番きっちりした演奏。本命たるOp.76からの2曲は、力をかなり抜いて、奏者がアンサンブルを楽しむような演奏でした。このアルバム自体は3,800円との値付けを見ればわかる通り、CD発売初期の1984年にリリースされたもの。その後この中の「セレナーデ」が他の演奏とセットされて発売されたのに対して、Op.76の方は他の演奏に置き換えられたことを見ても、「セレナード」の方が一般受けするとの判断があったのでしょう。しかし、私はこのアルバムの聴きどころはOp.76の方だと思います。一般受けは「セレナード」だと思いますが、Op.76の方はハイドンのクァルテットの演奏スタイルとしては実に興味深く、クァルテット好きなベテランにこそ聞いていただきたい演奏です。綺麗に響かせるとかくっきり響かせるというところではなく、屈託ない音楽を演奏して楽しむとはこのような演奏のことだと言いたげなほど飾り気も外連味もなく、さりとて凡庸な演奏でもなく、実に味わい深い音楽が流れます。ハイドンの音楽の多様性を示す好例と言ってもいいでしょう。ということで評価は全曲[+++++]をつけます。

このところ所有盤リストの修正に明け暮れ、ちょっと記事をアップするまで間が空いてしまいました。もう少しペースアップせねば、、、

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tag : ハイドンのセレナード 五度 皇帝 ベルリンフィル

ヤナーチェク四重奏団の「冗談」「五度」「セレナード」(ハイドン)

今週末はちょっと体調がすぐれず、金曜日に家に帰ると38度くらいの熱。葛根湯やらを飲んでちょっと落ち着き、土曜日には元気に歌舞伎に出かけて楽しみました。特に具合は悪くありませんでしたが今日、日曜の朝起きてみると体の節々が痛い。熱も一時39度台まで上がり、心配して休日診療に出かけ、インフルエンザの検査をしてもらったところ、陰性。なんだかよくわかりませんが、とりあえず1日静かにしておりました。今月は記事数も伸びていないため、熱っぽい中記事を書きます(気合!)

今日はオークションで手にいれた LP。

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amazon(CD)

ヤナーチェク四重奏団(Janáček Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.2「冗談」、伝ハイドン作の弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたLP。1963年5月、ウィーンのソフィエンザールでのセッション録音。レーベルはLONDON。

このLP、ただのLPではなくアナログ全盛期にキングレコードがリリースしていた"THE SUPER ANALOGUE DISC"というシリーズの1枚。同じシリーズのLPでメータとロスフィルによる「シエェラザード」が手元にありますが、当時のシステムで聴いてもスピーカーのウーファーを吹き飛ばさんばかりの重低音が刻まれており、愛聴したものです。若い頃は迫力に弱かったわけですね(笑)。今回手に入れたLPはほぼ新品というか完璧なコンディション。盤面も綺麗でジャケットにも微塵も古びたところがありません。中には「スーパーアナログディスクについて」というちらしが入っており、マスターテープから調整卓をスルーして真空管カッティングアンプにダイレクトにつなぎカットされたとの説明があります。プレスは米国。もちろんずしりと重い180gの重量盤。

あまりの見事なコンディションにためいきをつきつつ、一応VPIのクリーナーで洗浄の上針を落とすと、見事な響きが部屋に満ちます。スクラッチノイズゼロ。CDでは絶対に聴くことのできない実体感あるキレ味。そして音量を上げると録音会場の周りを車が走っているのでしょうか、低い暗騒音も加わり、迫力十分。このLPがリリースされたのが1996年ということでちょうど20年前になりますが、デジタルでもハイレゾでもこの痛快なキレ味を再現することは難しいのではないかと思います。あまりの迫力に熱も吹き飛びそうですが、そうはうまくいきません(笑)

ヤナーチェク四重奏団のハイドンは以前にも一度CDを取り上げています。

2012/07/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ヤナーチェク弦楽四重奏団の「冗談」

こちらは録音も新しく2000年のもの。よく見てみると、メンバーは一人も共通しておらず、世代が変わっているのですね。今日取り上げる演奏の奏者は下記の通り。

第1ヴァイオリン:イルジー・トラヴニチェク(Jiri Traviniček)
第2ヴァイオリン:アドルフ・シーコラ(Adolf Sykora)
ヴィオラ:イルジー・クラトホヴィル(Jiri Karatachvil)
チェロ:カレル・クラフカ(Karel Krafka)

ヤナーチェク四重奏団の創立は1947年とのことですが、このLPの録音時のメンバーのうち第2ヴァイオリンのアドルフ・シーコラ以外は創立時からのメンバーということで、今回のアルバムは創立時に近い響きが聴かれるわけですね。

録音のことばかり書きましたが、このアルバム、演奏も超一級品です。

Hob.III:38 String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
冒頭から素晴らしい覇気。切れ込み鋭いタイトな響きに惚れ惚れ。落ち着いたテンポで入りますが、実体感あふれる4人のアンサンブルの緊密さに圧倒されます。4人ともに音色が揃い、じっくりと進みます。つづくスケルツォでもじっくりと畳み掛けるような充実した響きに聴き入るのみ。中間部の軽やかなメロディーも実に味わい深い音色なので高貴に聴こえます。絶品なのが3楽章のラルゴ。チェロの胴鳴りの美しい響きに乗ってゆったりとヴァイオリンがメロディーを乗せていきます。4人が織り上げる響きの美しさがLP独特のダイレクトな響きによって際立ちます。そしてコミカルな終楽章も4本の弦楽器の絶妙な響きの美しさに彩られ、一気に聴かせきってしまいます。演奏もさることながら、この素晴らしいLPの響きの魅力は圧倒的。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ホフシュテッターの作曲によるセレナード。1楽章は前曲同様落ち着いたテンポで弦楽器のダイレクトな響きで聴かせます。肝心の2楽章のセレナードもピチカートの音色が冴えまくって絶品。ヴァイオリンがこれほど豊かに響くことに驚かされるような鮮明な録音。弱音器付きのヴァイオリンのメロディーがピチカートに乗ってアーティスティックに響きわたります。続くメヌエットは音楽が優美に弾み、明るいメロディーが次々に登場します。ハイドンのメヌエットの緊密さとはやはり異なりますね。そしてコミカルなフィナーレ。ヤナーチェク四重奏団のタイトな演奏によって、このセレナードもフォーマルに響きます。聴き応え十分。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
一転して重厚な入り。あいかわらず録音の良さは惚れ惚れするほど。主旋律ではないパートの音色の多彩さまでしっかりと伝わるので響きが実に豊かに聴こえます。曲の構成はより緊密となり、骨格ががっしりとした演奏により迫力も素晴らしいものがあります。畳み掛けるように進む1楽章では、優秀な録音もあって、見事な構成感。
この曲のアンダンテでもピチカートの音色の美しさが冴え渡ります。曲が進むにつれて様々な表情を見せますが、フレーズごとに各パートの豊かな響きが微妙に表情に影響を与え、たった4本の弦楽器なのに実に多彩な表情をつくります。演奏はどちらかといえばオーソドックスなんですが、音楽は豊か。
メヌエットは実にユニークなメロディー。チェロパートに耳を傾けて聴くとユニークさが際立ちます。そしてフィナーレは軽やかに入りますが、すぐに構成の緊密さに引き込まれます。最後は力強いフィニッシュ。

このヤナーチェク四重奏団によるスーパーアナログディスク、実に考えさせられるLPでした。演奏は一級品ですが、なによりその響きが素晴らしいんですね。CDでは絶対に味わえないタイトでダイレクトな響き。ビニールの円盤に溝を刻んだだけのLPから、このように迫力あふれる響きが聴かれるのに対し、技術の粋を尽くしたデジタル録音からはこのような心に刺さる響きは聴こえません。おそらく物理特性などではハイレゾなどまで含めればLP時代とは段違いのものが実現されているのでしょうが、音楽の完成度はLP時代の方が高かったのではないかと思わざるを得ません。このLPは家宝にします。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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tag : 冗談 五度 ハイドンのセレナード LP

ウィーンコンツェルトハウス四重奏団のOp.20-5聴き比べ(ハイドン)

ご存知のようにウィーン・コンツェルトハウス四重奏団には、WestminsterとPREISER RECORDSからかなりの数のハイドンの弦楽四重奏曲の録音がリリースされています。PREISER RECORDSからリリースされたアルバムにつけられた解説にはWestminsterの他にVanguardやDeutsche Grammophone、そしてコロムビアにも録音がある旨記されていて気になっていたもの。

こちらが先日ディスクユニオンで手に入れたアルバム。

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ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(Wiener Konzerthaus Quartett)の演奏による伝ハイドンのセレナード、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.5、モーツァルトの弦楽四重奏曲KV.458「狩」の3曲を収めたアルバム。収録は1960年11月、東京とだけ記されていますが、セッション録音のようです。レーベルはDENON。

このアルバムに収録された当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:ヴァルター・ヴェラー(Walter Weller)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:ルートヴィヒ・バインル(Ludwig Beinl)

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こちらはご存知PREISER RECORDSの全3巻のハイドンの弦楽四重奏曲集の第2巻。この2枚目に上のDENONのアルバムに収められているOp.20のNo.5が収録されています。収録年、収録場所などは記載されていませんが、解説などから1956年以前の収録でしょう。

PREISER RECORDSの解説によれば、WestminsterとPREISER RECORDSの録音はすべて1956年以前のもので、メンバーも1934年創設当時のメンバーとのこと。

第1ヴァイオリン:アントン・カンパー(Anton Kamper)
第2ヴァイオリン:カール・マリア・ティッツェ(Karl Maria Titze)
ヴィオラ:エーリッヒ・ヴァイス(Erich Weiss)
チェロ:フランツ・クワルダ(Franz Kwarda)

比較的近い間にいろいろなレーベルに録音しているウィーン・コンツェルトハウス四重奏団ですが、その違いはどのようなものか、興味は尽きません。当ブログでは過去2回レビューで取りあげていますが、何れもWestminster盤。

2013/08/23 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.6
2011/10/08 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のOp.64のNo.2

Westminster盤は鮮明ながら耳に刺さるような鋭い響きが特徴で、このクァルテット独特の味わい深い響きを楽しむのには向かないのが正直なところ。今回手に入れたDENON盤は日本での録音のため、また違った響きが聴かれそうですね。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
シュトルム・ウント・ドラング期の頂点である1772年に作曲された短調の傑作。最初は、聴き慣れたPREISER RECORDS盤からいきましょう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の一番の特徴である、アントン・カンパーのゆったりと、まったりとしながらもところどころで伸び伸びとした美しい響きを聴かせるヴァイオリンの音色が心地良い演奏。全体にゆったりとした間が支配し、この曲がはらむ緊張感のようなものは前に出てこず、逆に優雅なえも言われぬ雰囲気に包まれる演奏。録音はもちろんモノラルで、Westminster盤のような尖ったところはなく、実にマイルド。時代なりですが、非常に聴きやすいもの。ヴァイオリンも鮮明さよりも中音の響きの厚さが良く出て、良い味わいが感じられます。ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の演奏スタイルにぴったり。
2楽章のメヌエットはアダージョのような風情。ポルタメントを効かせるほどではありませんが、演奏は古き良き時代を感じさせるもの。アンサンブルは良くそろっているのですが、エッジが立っていないので、リズムではなく響きを乗せているようなアンサンブル。これはこれで他のパートの響きをよく聴いての演奏でしょう。じっくりと燻らしたように音楽が進みます。燻製が出来上がるのを煙を見ながら待つような心境。
3楽章のアダージョはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のゆったりとした音楽が最もマッチした楽章。この曲のこの時代を代表する演奏でしょう。優雅に響く弦楽器の響きにとろけそう。これぞ古き良きウィーンの香り。ハイドン弦楽四重奏のヒストリカルな演奏に我々が期待する美しさすべて詰まっています。技術を超えた音楽がここにあります。
終楽章はフーガの旋律を実に堂々と奏でて、メロディーが象徴的にそびえ立つように感じる入り。演奏が進むにつれて味わい深いアンサンブルの魅力に包まれますが、メロディーラインの複雑に絡み合うようすをわかりやすく整理して聴かせてくれているようで、主旋律がクッキリ、堂々と描かれることで音楽の印象も現代の印象とはだいぶ異なって聴こえます。

久しぶりにPREISER RECORDSの美音を堪能。つづいて今回手に入れた日本での録音。

比較すると録音は鮮明さが上がって、ステレオ空間に各楽器がクッキリ定位するもの。ライナーノーツにはマスターテープの保存状態が悪く、このCDはLPから起こしたものと記載されています。スクラッチノイズなどは皆無で品質は悪くありません。響きはデッドで、スタジオでの録音でしょうか。PREISER RECORDSのえも言われぬ味わい深い音色とはことなり、音が少し痩せて、線が細い感じ。特にヴァイオリンなどの高音の線が細い感じ。演奏の基調はゆったりとヴァイオリンをならしていくアントン・カンパーが握り、演奏自体の方向性は変わらないものの、録音によって音楽の印象は大きく異なります。鮮明な分、音程の粗がちょっと目立ったり、乾いた感じの弦の音色がが雰囲気を冷静にさせていますが、逆に鮮明な分、各パートがクリアに浮かびあがってボウイングが手に取るようにわかります。録音の違いを脳内で補正すると演奏はほぼ同じ方向性。録音による古き良き時代のウィーンの印象ではなく、演奏自体からにじみ出るエッセンスがウィーン風であったことっがわかり、日本での録音ということで、その貴重さもつたわって来ます。
2楽章のメヌエットはPREISER RECORDS盤よりもテンションが高く、タイトさが緊張感ををはらみます。アンサンブルも今度はエッジがクッキリとして、ざらついた各弦楽器の浸透力のある響きが呼応。チェロの弓さばきも鮮明に録られ、非常に鮮明に各楽器が響きます。
聴き所のアダージョは、前盤が録音の雰囲気の影響が色濃く出た、味わいの深さだったのに対し、このアルバムでは録音のベールをはがし、演奏自体のもつ響きの強さに裏付けられた味わいが聴こえてきます。かなり鮮明に録られていますが、味わいの深さはもしかたら前盤以上。音量を上げて聴くと心に刺さるよう。奏者の息づかいが聴こえてくるような鮮明さ。
フィナーレのフーガのメロディーの象徴的な扱いは前盤同様。まるでバッバを聴いているような厳粛な気持ちになります。ゆったり刻むテンポで逆に迫力を増し、かなり克明なメリハリがついたフィナーレ。冬の陽で立体感が際立つ山容を見るよう。

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の時期を違えた2種の録音。PREISER RECORDSのアルバムはまろやかな録音と相俟って、このクァルテットに我々がイメージする古き良きハイドンの弦楽四重奏曲の理想的な響きが聴かれます。久しぶりに聴き直してみると、この演奏の貴重さをあらためて感じた次第。とくにアダージョ楽章のえも言われぬ陶酔感は貴重ですね。一方、1960年の来日時に録音されたであろうDENON盤は、響きが鮮明なぶん、このクァルテットの演奏自体の貴重なスタイルを解き明かしているよう。各奏者の音色やボウイングまで鮮明に録られており、PREISER RECORDS盤と同様の味わいの秘密に近づいた気にさせるもの。人によってはこちらの鮮明な響きを好まれる方も少なくないのではないかと想像しています。評価は両盤[++++]とします。古き良きウィーン情緒を感じたいのなら、間違いなくPREISER RECORDSをお薦めします。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 ヒストリカル 偽作 ハイドンのセレナード

驚愕の名演 シャロン四重奏団の冗談、五度(ハイドン)

皆さま、明けましておめでとうございます。地道にハイドンの名演奏発掘を志すマイナーなブログですが、本年もよろしくお願いいたします。

年始一発目はこちら。

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シャロン四重奏団(THe Sharon Quartet)の演奏による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5、いわゆる「ハイドンのセレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.5「冗談」、Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ドイツ、ケルンの聖ヨハネ教会でのセッション録音。レーベルはDISCOVER INTERNATIONAL。

DISCOVER INTERNATIONALといえば、先日取りあげたワリド・アクルのピアノソナタ集などをリリースしているレーベル。アクルのアルバムでは"KOCH" DISCOVER INTERNATIONALとKOCHの名前が入っていたのですが、このアルバムにはKOCHの名前が入っていません。今日取り上げるアルバムの方が録音年代が古いことを考慮すると、この後このレーベルをKOCHが傘下に収めたということでしょうか。この辺の状況はわかりません。KOCH自体ももう存在しませんが、KOCHといえばハイドンマニアの方は、マンフレッド・フスによる室内楽、管弦楽の素晴しい演奏の数々を思い浮かべるでしょう。そう、ハイドンマニアには注目のレーベルなんですね。幸いフスの録音は現在スゥエーデンのBISからかなりの量リリースされていおり、現在も流通しているものと思います。

前振りが長くなりましたが、このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいたもの。地味なジャケットですが、かく言う背景から、DISCOVER INTERNATIONALのロゴにアンテナがピンときました。

演奏者のシャロン四重奏団はもちろんはじめて聴く団体。設立は1984年で、第1ヴァイオリンがギル・シャロンということが楽団名の由来のようです。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ギル・シャロン(Gil Sharon)
第2ヴァイオリン:ロディカ=ダニエラ・チョチョイ??(Rodica-Daniela Ciocoiu)
ヴィオラ:ゲオルク・ハーグ(Georg Haag)
チェロ:カタリン・イレア=マイアー(Catalin Ilea-Meier)

第1ヴァイオリンのギル・シャロンはどうやらルーマニアの人のよう。ブカレストで学び、ルーマニア国内各地を演奏してまわったそう。1961年イスラエルに渡り、テル・アヴィヴ大学のルービン・アカデミーで引き続き学びます。その後イスラエル軍弦楽四重奏団の創設メンバーとなり、ダヴィド賞を受賞、1971年にはロンドンで開催されたエミリー・アンダーソン国際ヴァイオリンコンクール優勝しました。その後、マーストリヒト交響楽団のコンサートマスター、バルセロナ交響楽団の客演コンサートマスターなどとして活躍すると同時にソロヴァイオリニストとしても活動し、ヨーロッパ各国、イスラエルなどでコンサートを開いています。室内楽ではこのシャロン四重奏団とアマティ・アンサンブルを創設して活動しているとのことです。

このアルバム、聴くとシャロンの落ち着いたヴァイオリンをベースとしたのどかな音楽が流れてきます。最近非常に凝った表現のアルバムが多いなか、テンポはほとんど揺らさず、メリハリもそこそこ、かといって一本調子になるでもなく、じつに落ち着いた音楽が流れ、癒されるようなハイドン。そういった意味で貴重な演奏でしょう。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
久しぶりに聴く「ハイドンのセレナード」。録音は時代なり。教会での演奏らしく、適度に残響がのった聴きやすい録音。先に触れた通り、非常にオーソドックスな弦楽四重奏。キリリと締まった表情、テンポ良く進め、外連味は一切なく堅実この上ない演奏。4人の奏者の息はぴったりですが、やはり第1ヴァイオリンのギル・シャロンの美音が印象的な演奏。このオーソドックスな演奏がかえって新鮮です。
有名な二楽章のアンダンテ・カンタービレは速めのテンポでこれ以上ない安定感。デリケートに抑えられた3人のピチカートに乗って、ギル・シャロンが優雅にメロディーを奏でます。良く聴くと素晴しい完成度。美しい音楽だけが流れます。これは絶品。
メヌエットも4楽章のスケルツァンドも速めで音楽の見通しは極めてよく、久しぶりに粋な演奏を聴いたという感想。まったく力まず、軽々と音楽を奏でていき、特に4楽章は踊り出すような活き活きとした表情をつくっていきます。この演奏の良さは、弦楽四重奏曲を聴き込んだ人にはわかると思います。1曲目からあまりに見事な演奏に驚きます。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
シャロン四重奏団の演奏スタイルが絶対に映えそうな選曲。予想通り軽やかなメロディーが流れてきます。前曲同様、1楽章から素晴しい音楽。どの楽章も速めのテンポで、楽章間の対比をつけるような意図はなく、一貫した音楽が流れますが、ただただ美しい音楽が見通しよく流れていき、聴いているうちに実に幸せな気分になります。1、2楽章は予想通りだったんですが、驚いたのは3楽章のラルゴ。これほど美しいラルゴを聴けるとは。冒頭から信じられないような美音で、ようやく深くテンポを落としてじわりと心に迫ってきます。チェロとビオラの奏でる伴奏の美しさったらありません。またそれに乗ってギル・シャロンのボウイングが冴え渡ります。まさに至福のラルゴ。お正月気分が吹き飛びます。またもや絶品。
そして、この曲の聴き所。過度にくだける事はなく、凛々しい印象のまま、軽々とフレーズを刻んでいきます。まさに正統派の演奏。すべてのクァルテットの教科書になりそうな、見事な完成度。最後の聴かせどころも素晴しいセンスでまとめます。

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
すでに完全にノックアウトされています。この完成度で五度を聴かされたらと思いながら、まさにワクワク感満点で聴き始めます。速めのテンポは変わらず。そしてバランスの良い落ち着いた演奏スタンスも変わらず、五度の最も美しい冒頭の部分を畳み掛けるように進めていきます。この素晴しい完成度、神々しいというのが相応しいでしょう。素晴しい音楽が流れていきます。良く聴くと時折、ぐっと音量をしぼっているので、引き締まった印象が保たれている事がわかります。
やはり、この曲でもアンダンテが沁みます。情に流されない素晴しいアンサンブル。ヴァイオリンの美音。ハイドンのアンダンテはこのように演奏するのだと諭されているよう。なぜか心にぐっさりささる音楽。終盤の孤高の境地。
五度でもっとも表現が難しいと思われるメヌエット。野暮な演奏で聴くと、ただ荒々しいだけの殺伐とした音楽に成り下がってしまうリスクをはらみますが、流石シャロン四重奏団はツボを押さえて、心に刺さると同時に気高さも感じるタイトな音楽に仕立てました。
フィナーレはこのアルバムで最も力の入った演奏。力が入ったというより、力感の表現が秀逸だといったほうが正しいでしょう。斬り込むような鋭い音色が続きますが、クッキリとまとめて音楽の一体感が際立ちます。いやいや参りました。湖国JHさんが苦手だったこの曲をこの演奏を聴いて好きになったというのが頷ける演奏です。

実はこのアルバム、年末から何度も聴いていてあまりの素晴しさに打たれ続けていたもの。やはりお正月最初に取りあげるのが相応しいとの思いで、レビューを先送りしてきました。弦楽四重奏曲はたった4本の弦楽器のアンサンブルですが、その表現の幅はまことに広く、実に様々な演奏があります。今日とりあげたシャロン四重奏団のハイドンは、まさにハイドンの弦楽四重奏の原点、それも容易には真似の出来ない恐ろしいまでに完成された原点たる演奏といって良いでしょう。このすばらしさは多くの人に聴いていただく価値があります。残念ながら現役盤ではありませんが、amazonなどではまだ手に入るようですので、是非! 3曲とも決定盤、評価は[+++++]以外にはあり得ません。新年の幕開けに相応しい名盤でした。

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tag : ハイドンのセレナード 冗談 五度 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.76

ウィーン・モーリス・ラヴェル室内管による「ハイドンのセレナード」など

今日は思いっきりマイナー盤。先日オークションで手に入れたアルバム。

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ジャン・フィリップ・ローション(Jean Philippe Rouchon)指揮のウィーン・モーリス・ラヴェル室内管弦楽団の演奏で、ラモーの六声のコンセール第2番・第6番とハイドンの作曲とされてきた弦楽四重奏曲Op.3のNo.5、ホフシュテッター作曲の通称「ハイドンのセレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.2のNo.5の4曲を収めたアルバム。収録は1988年10月、ウィーンのドミニカ会館のトーマス・ホールでのセッション録音。レーベルはウィーンのDIVERTIMENTO。

弦楽合奏による所謂「ハイドンのセレナード」と弦楽四重奏曲Op.2のNo.5というハイドンのごく初期の弦楽四重奏曲を収めたアルバムですが、ウィーン・モーリス・ラヴェル室内管弦楽団という初めて聞くオケの演奏。なんとなくただならない感じがするのは私だけでしょうか。ジャケットにも不可思議な雰囲気が漂っています。キュビズムの影響のある風景画を配した妙に淡い色合いのやはりちょっと気になるデザイン。もちろんこうしたアルバムは迷う事なく入手します。

演奏者の情報がライナーノーツに簡単に触れられていましたので紹介しておきましょう。

オケのウィーン・モーリス・ラヴェル室内管弦楽団はこの演奏に先立つこと3年、1985年にフランス人の演奏者を集めてフランスの音楽を国外に知らしめるために設立されたオーケストラ。活動の場はウィーンのフランス文化省が企画したイベントなどで、スコットランドのアバディーン音楽祭やモロッコなどにも出向いているそうです。
指揮者のジャン・フィリップ・ローションはパリのエコール・ノルマルを卒業した、このオケの創立以来指揮を担当している人とのこと。

演奏者についてはほぼ無名と言っていいでしょう。その演奏者によるラモーとハイドン。要はフランスものとオーストリアものを組み合わせたという企画でしょう。演奏者のオリジンを考えると合点のいく選曲です。さて、肝心の演奏はどうでしょうか。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
有名なホフシュテッター作曲の「ハイドンのセレナード」。分厚い低音弦の心地よい響きから入ります。弦楽四重奏曲とは異なり、弦に厚みがあり、響きも重厚。意外と言っては失礼ですが、堅実かつ華やかさもあわせもったなかなかの演奏。初期の弦楽四重奏曲を弦楽合奏が演奏したものとしてはエミール・クライン盤の素晴らしい演奏を取りあげましたが、この演奏、それに勝るとも劣らない演奏。どちらかというとクライン盤の方が少々のどかで明るい印象。こちらはそれに比べると、オケの響きがキリッとしてドイツ的というかオーストリア的な感じ。ただストイックな印象は皆無で、比べてみたらというわずかな差。要はなかなかいい演奏だということです。
有名なセレナードは実にオーソドックス。良く聴くとやはり名曲ですね。ゆったり響くピチカートにのって、柔らかな弦の旋律が流れます。さりげない演奏ですが実にバランスがよく、完成度は非常に高いです。なにも欠けたものはありません。
続くメヌエットも同様。必要十分と言っては申し訳ありませんが、まさにそうした印象。さらっと演奏しているようですが、デュナーミクもクッキリついて実に豊かな陰影がついています。ゆったりとしていながら推進力もあり、なにより音楽が活き活きとしています。
フィナーレはハイドンの作といってもおかしくないような曲想の面白い展開が聴き所ですが、やはりハイドン作とは音楽の深みで差があるような気がします。いずれにせよ、これはなかなかのアルバムですね。

Hob.II:22(III:11) / String Quartet Op.2 No.5 [D] (c.1760-62)
続くOp.2のNo.5。こちらはハイドン自身の作品です。5楽章構成でプレスト・メヌエット・ラルゴ・メヌエット・フィナーレという構成。6声のディヴェルティメントHob.II.22の編曲ということです。おそらくハイドンが20代の頃の作品で、後年の成熟した筆致はないものの、すでにメロディーの美しさはかなりのもの。この演奏を聴いているとそのような若書きの曲を実に上手くまとめて演奏しています。最初のプレストから、テンポはプレストながら雰囲気はゆったりとした音楽。適度に生気とクッキリ感もあり、実に無理のない演奏です。弦楽器が美しく聴こえるポイントを実に上手くコントロールして、絶妙の安定感。このリラックスしきった雰囲気はなんでしょう。これぞハイドンという実に暖かい音楽。
第一のメヌエットは暖かさを引き継いで、美しいメロディが途中で陰りをみせる陰陽の繊細な変化とゆったりしながらもくっきりとした旋律の浮かび上がらせ方の上手さがポイントでしょう。
そしてラルゴのメロディーはヴァイオリンが透き通るような美しさ。高音域の美しさはソロヴァイオリンのクッキリした感じとは異なり、シルキーなほどの滑らかな響き。この曲を弦楽四重奏ではなく弦楽合奏で演奏した意図が分かった気がします。この美しさは弦楽合奏ならではですね。指揮者のジャン・フィリップ・ローション、かなりの腕前とみました。
第二のメヌエットは第一のメヌエットと曲想は良く似ているものの変化をつけて、構成の面白さを際立たせます。
フィナーレも比較的ゆったりした音楽。しっかり溜めをつくりながら堅実な締め方。アーティスティックなまでに盛り上げる演奏もあるなか、曲自体はディヴェルティメントであり、まさに演奏して楽しむための弾き方。身の丈にあった演奏ということでしょう。

まったく知らなかった指揮者とオケによるハイドンの初期の弦楽四重奏曲と有名な「ハイドンのセレナード」の演奏ですが、予想外にすばらしい演奏でした。演奏者が自身を癒すような演奏と言ったら良いでしょうか。途中でも触れましたが、以前取りあげたエミール・クラインの演奏と非常に近い印象です。弦楽四重奏曲はタイトなせめぎ合いやソロ弦楽器の研ぎすまされた響きの魅力が聴き所ですが、このアルバムで取りあげられている曲自体がもつ美しいメロディーを実に磨き込まれたシルキーな響きをあぶり出し、曲の持つ魅力を別の角度からあぶり出した酔眼と言っていいでしょう。やはりただならぬ雰囲気をジャケットから感じたのは勘が冴えていたということでしょう。もちろん評価は両曲とも[+++++]とします。ハイドンの音楽の美しさを素直に楽しめるよいアルバムです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.2 ハイドンのセレナード

ウィーン弦楽四重奏団の五度、ひばり、セレナーデ

今日は弦楽四重奏曲にもどってウィーンものを。

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ウィーン弦楽四重奏団(The Wienna String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、Op.64のNo.5「ひばり」、そして「ハイドンのセレナーデ」と言われていたホフシュテッター作の弦楽四重奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1978年5月、ベルリンのテルデックスタジオでのセッション録音。レーベルはcamerataですが、ジャケットにはLisenced by BMG Fanhouseと書かれています。

このアルバム、先日ライムンドさんのブログで取りあげられていて興味を持ちましたが、手元になく探していました。行いがいいのか(笑)それほど時間がたたず先日運良く出会いました。

今でもしぶとく聴いています:ウィーン弦楽四重奏団 ハイドン・弦楽四重奏曲「ひばり」

ウィーン弦楽四重奏団は1964年ウィーンフィルのメンバー4人により創設されたクァルテット。それまで主役だったウィーン・コンツェルトハウス弦楽四重奏団、バリリ弦楽四重奏団などが活動をやめ、ウェラー弦楽四重奏団も陰りをみせ、まさに新旧交代といったところでしょう。第1ヴァイオリンのウェルナー・ヒンクは1964年にウィーンフィルに入団したばかりでしたが、その後1974年にはウィーンフィルのコンサートマスターに就任するなどウィーンフィルを代表するヴァイオリン奏者です。活動拠点はムジークフェラインのブラームスザールで定期的に演奏活動をする他、ザルツブルク音楽祭をはじめとして各地で演奏活動して、日本にもたびたび来ているようです。メンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:ウェルナー・ヒンク(Werner Hink)
第2ヴァイオリン:フーベルト・クロイザマー(Hubert Kroisamer)
ヴィオラ:クラウス・パイシュタイナー(Klaus Peisteiner)
チェロ:ラインハルト・レップ(Reinhard Repp)

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
ライムンドさんが書かれているとおり素晴らしい録音。まさにウィーンフィルの弦の音。演奏はやや速めのテンポで、まさに教科書的な楷書のようなフレージング。非常に伸び伸びとしたヴァイオリンの音色ですが、インテンポできっちりと拍子を刻みハイドンらしい規律も感じさせます。いままでいろいろなタイプの弦楽四重奏を聴いていますが、ウィーン弦楽四重奏団のこのスタイルはまさにハイドンの弦楽四重奏曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。柔らかな弦の音色で緊密に畳み掛けるようなインテンポと伸びのあるフレージング。隙なしです。
2楽章のアンダンテも素晴らしい入り。ただ、録音会場か機器の問題でしょうか、ごく低い音で騒音のようなものが入ってます。車の音でしょうか、演奏が素晴らしいだけにちょっと集中を削ぎます。ヒンクのヴァイオリンは純粋無垢な演奏。抜群のリズム感で曲が滔々と流れていきます。チェロの音程の動きも鮮明にわかるずばらしい音場。
メヌエットはさらにリズムを先鋭に表現。メロディーよりキリッとしたリズムの表現に全員が集中している感じです。まさに部屋にクァルテットが来て弾いているような抜群のリアリティ。この楽章でもやはり暗騒音がちょっと気になりますね。演奏は文句なし。
フィナーレはキレと起伏が一層クッキリとして抜群の生気。不安定なところは微塵もなく、鋭角的な感じもない自然さを保っています。これだけ踏み込んだ表現なのに変に強調感がなく自然さを保っているのはやはり音楽の流れに一貫性があるからしょう。まさにハイドンの弦楽四重奏曲の見本のような演奏。なおこの曲のみ第2ヴァイオリンがヘルムート・プッフラー(Helmuth Puffler)が担当しています。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
前曲同様素晴らしい録音で聴き慣れたひばりの1楽章のメロディーがくっきりと浮かび上がります。特に秀逸なのがレップのチェロの柔らかいのにキレのいい演奏。流石ウィーンフィルの奏者というところでしょう。演奏はテンポとキレ以上に音の迫力が素晴らしく、クァルテットの醍醐味も存分に味わえる名録音、名演奏というところ。ひばりが空を上昇するような旋律の美しさもさることながら弩迫力の弦楽四重奏団のリアルな音も心に迫ります。
2楽章のアダージョ・カンタービレはヒンクの美しいヴァイオリンの響きにただただ打たれる楽章。旋律を次々と受け渡していく様子はまさに室内楽の快感そのもの。どの楽器も抜群のテンポ感。たどたどしさは皆無です。完全なピラミッドバランスの音響。この美しい響きは何者にも変え難い魅力です。
ひばりのメヌエットは前曲とは異なり、ゆったりしたくつろぎを表現したような演奏。前曲ではリズムをキリッと表す事に集中していましたが、この曲では余裕ある表情を見せます。最後にふっと力を抜くあたりの表現も秀逸。
フィナーレはこの曲の総決算のような素晴らしいもの。これ以上正確に弾く事は出来ないほどの音階から入り、絡み合う各楽器による混沌と興奮。音階を刻みながら曲の大波を見事に表現。いやいや素晴らしい演奏。

このあとハイドンのセレナーデも秀逸。流石に作曲者の腕の違いか曲としての完成度には大きな差がありますが、2楽章のセレナーデの美しさはこの曲の演奏ではピカイチの出来。長い歴史を生き抜いてきた名旋律ですね。

ウィーン弦楽四重奏団のハイドンの「五度」と「ひばり」、そしてオマケで入っている「ハイドンのセレナーデ」どれをとってもこれまでのアルバムの中では最高の出来と言っていいでしょう。これ以上正統な演奏は出来ないのではないかと思わせる究極の完成度。ウィーンフィルのメンバーならではの素晴らしい音色、キリッとした几帳面さとのびのびとしたフレージング、そしてクァルテットの限界とも思わせる素晴らしい迫力。録音も暗騒音以外は素晴らしい出来です。もちろん評価は全曲[+++++]です。弦楽四重奏曲が好きな方は必聴の素晴らしいアルバムです。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 弦楽四重奏曲Op.64 五度 ひばり ハイドンのセレナード ハイドン入門者向け

ストリング・クァルテットARCOの「皇帝」

10月最初のアルバムは日本人クァルテットによる皇帝。

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先日ディスクユニオンで見つけたアルバム。

ストリング・クァルテットARCOによるモーツァルトの弦楽四重奏曲K.421(417b)、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76 No.3「皇帝」、そして「ハイドンのセレナーデ」として知られるホフシュテッターの弦楽四重奏曲のセレナーデの3曲を収めたアルバム。収録は2001年5月8日、9日、群馬の桐生の近くにある笠懸野文化ホール・パルでのセッション録音。

笠懸野文化ホール・パル

ストリング・クァルテットARCOはオーケストラの首席奏者など腕利きの奏者が集まり1996年に設立された弦楽四重奏団。設立以来、宮崎国際室内楽音楽祭、北九州国際音楽祭、JTアートホール室内楽シリーズでの活動やテレビ出演などの活動を重ねているそうです。私はもちろんはじめて聴くクァルテット。メンバーは下記の通りです。

第1ヴァイオリン:伊藤亮太郎
第2ヴァイオリン:双紙正哉
ヴィオラ:柳瀬省太
チェロ:古川展生

なぜかジャケットはちょい悪風な不思議な写真(笑) なんかしてやるぞとのオーラかもしれません。ジャケットが気になるアルバムには何かあるというのが経験則ですので迷わず入手しました。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
磨き込まれた美しい音色。楽器の音色がそれぞれ癖が異なりますが、完璧にそろったアンサンブルではなくそれぞれの楽器がかわるがわる存在感を示すような演奏。テンポは中庸、くっきりとメリハリをつけ、かなり起伏を大きく取った演奏。音色的に第1ヴァイオリンの鮮明さが一際はっきりしているのが特徴です。チェロは逆にレガートが多く柔らかい音色で全体の厚みを感じさせるような役。演奏自体は非常にまとまりの良いフレージングで推進力も十分。1楽章は豊かな表情に加えてキリッと引き締まった構成感のある演奏。なかなかいいですね。
有名な現ドイツ国歌のメロディーのポコ・アダージョは、最近の録音らしい鮮明な録音によって弦楽器の瑞々しい音色と音色の変化の魅力を堪能できます。奇を衒ったような表現は一切なく、かなりオーソドックスな演奏ですが、表情は非常に豊か。個々の技術、音楽性も確かなもので、アンサンブルとしても良く練られている演奏ですね。ジャケット写真のオーラはちょい悪ということではなく自信に溢れた表情だった訳ですね。後半の静寂感の表現も上手くハイドンのこの曲の良さを十分に表現できています。録音も万全。奏者がスピーカーの前に鮮明に定位し、適度な残響が音楽に潤いを与えています。オーディオ的にもいい録音だと思います。流石Victor。
続くメヌエットは堂々とした感じとちょっと長めの間の取り方がいいバランスを保って、次元の高い音楽性を感じさせます。フィナーレも鮮烈そのもの。ちょっと想像した演奏よりもかなり正統派の演奏。おそらく最初に指摘した楽器感の音色のムラは第2ヴァイオリンでしょうか、一台だけ楽器のランクが下がるのではないかと思います。主に低音域が独特の音色が混ざってちょっと濁りというな高雅さを乱している感じがしますね。テクニックが素晴らしいだけにちょっと惜しいところですね。最後は素晴らしい迫力で終えます。

String Quartet Op. 3 No.5 [F] (Composed by Roman Hoffstetter)
久しぶりに聴くハイドンのセレナーデ。この曲は最近イメチェンしてETVとなっている教育テレビの平日夜23時55分からやっている超人気5分番組「2355」の日めくりアニメのテーマ音楽と言ったほうがいいかもしれません(笑) 普段はBGMに使われることの多いメロディーですが、本格的なクァルテットの演奏で聴くとなかなか存在感のあるメロディー。ピチカートに乗って奏でられるヴァイオリンのメロディーは非常に艶やか。速めのテンポで淡々と弾き進めて名旋律をフォーマルに表現。流石に歴史を経て聴き続けられる名旋律だけあります。

もう少し日本人っぽい演奏を想像していましたが、キレもよくくっきりとメリハリある演奏で迫力も十分。音色のムラの問題はありますが、演奏としては十分素晴らしい演奏だと思います。評価は皇帝が[+++++]、セレナーデは[++++]としたいと思います。

今月はコレクションが薄い弦楽四重奏曲を多く取りあげて行こうと思っています。普段レビューに取りあげる機会が少ないのは、何となく6曲セットのアルバムは全曲セットで取りあげたるべきと勝手に思って躊躇していたんですが、あんまり気にせず曲を選べばよいと割り切っていこうと思います。秋の夜長に室内楽の調べは心地よい安らぎをもたらすでしょう。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.76 皇帝 ハイドンのセレナード

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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