ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)

今日はかなり渋めのマイナー盤。これ以上渋い盤はあり得ないほど(笑)

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ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)、エミール・クライン(Emil Klein)のチェロによる、ロッシーニの2台のチェロのためのデュエット、ハイドンのバリトンニ重奏曲4曲(Hob.X:11、XII:4、XII:1、XII:3+5)の5曲を収めたアルバム。収録はベルリンの20kmほど北にあるオラニエンブルク(Oranienburg)にある北方教会でのセッション録音。

こちらのアルバムも湖国JHさんに貸していただいているもの。チェロの名手、ゲリンガスとクラインの2人がデュエットでバリトン用の2重奏曲を弾いたもの。実は湖国JHさんには以前にもバリトン二重奏曲のアルバムを貸していただいています。

2013/05/03 : ハイドン–室内楽曲 : イジー・ホシェク、ドミニカ・ホシュコヴァーによるバリトン二重奏曲集

このアルバム、実にいい演奏だったのは上の記事を読んでいただければわかると思います。チェコのチェリスト親子による息の合ったデュエットでした。ということで、その後注文して今は我がCDラックに鎮座しております。こうした激マイナーなアルバムは非常に貴重なもの。

今回のアルバムは、チェリストとしてはずっと格上のゲリンガスと、その弟子、エミール・クラインによるデュエットということで、更なる名演が期待できます。

ゲリンガスの情報はこれまでの記事をご覧ください。

2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集

そして、エミール・クラインの演奏もいくつか取りあげています。

2013/05/04 : ハイドン–管弦楽曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/06/19 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集

このアルバムを聴く前に、イジー・ホシェク、ドミニカ・ホシュコヴァー盤を取り出し、聴き直してみましたが、親子2人のチェロの掛け合いが実にいい具合の演奏。チェロの音の安定感はほどほどながら、演奏から滲み出る素朴な良さで聴かせる演奏でした。それに対し今日取り上げるアルバムは、教会の録音らしく、豊かな残響のなかに盤石の安定感のチェロが伸びやかに、かつ爽快に掛け合う見事なもの。2人のチェロの分離はホシェク盤の方が良いので、掛け合いの様子はホシェク盤のほうがよくわかりますが、演奏はやはりゲリンガス盤でしょう。

これらのバリトン曲の作曲はハイドンがエステルハージ家の楽長に就任した直後のもの。ゲリンガスは自身でバリトンも弾きますが、クラインがバリトンが弾けるかどうかわかりません。バリトンの不可思議な音色の魅力も捨て難いのですが、チェロ2台で弾くほうが、メロディーラインがよくわかるかもしれませんね。以下曲ごとに簡単にレビューを。

冒頭にはロッシーニのチェロ二重奏曲が置かれていますが、オペラの一場面の音楽のような優雅な展開は流石ロッシーニ。ゲリンガスとクラインものびのびとした演奏でテクニックを披露。特にチェロの胴鳴り美しさに圧倒される演奏。このあと冷静に古典に戻る、不思議な曲順。個人的にはハイドンの後にロッシーニが良いと思うのですが、、、

Hob.X:11 : Bryton Duet [D] (c.1766-69)
ホシェク盤では二人のチェロの音色の違いがよくわかったんですが、このアルバムでは二人の音色と演奏が良くそろってどちらがどちらかわかりません。豊かな残響の中にチェロが交互にメロディーを奏でていきますが、脳内ではなぜかバリトンの摩訶不思議な音が鳴り響きます。この曲に仕込まれたスイッチが脳のバリトン中枢を刺激しているということでしょうか(笑) テンポは軽快。リズムのキレも良く、交互にメロディーを渡し合う様子は実に微笑ましいもの。ハイドンが仕えたニコラウス候が愛好したバリトンをニコラウス侯と弾いたのでしょうか。モデラート - メヌエット - フィナーレの3楽章構成。軽やかなメヌエットにフィナーレの最後の充実した盛り上がりは流石名手たち。

Hob.XII:4 : Bryton Duet [G] (c.1766-69)
この曲が唯一自筆譜が残っている曲。ホシェク盤でも最も構成が見事と感じた曲。モデラート - アレグロ - メヌエットの3楽章構成。最初のモデラートが主題と2つの変奏による構成で、ハイドンならでは素朴な展開を2人の名手が楽しんでいるような演奏。チェロの低音域の豊かな響きが実にいい雰囲気。つづくアレグロも非常に変わったもの。ピチカートでバリトンのような響きを加えながらの演奏。曲によって構成がいろいろ変わり、聴く側の予想が追いつかないほど。この曲も3楽章の中間部で急に短調に転調します。短い曲でも飽きさせない素晴しい筆。

Hob.XII:1 : Bryton Duet [A] (c.1766-69)
アダージョ・カンタービレ - アレグロ・モルト - メヌエットの3楽章構成。チェロがどんどんバリトンの響きに近くなって行きます。1楽章の深い呼吸のメロディーはさすがゲリンガスとクライン。このゆったりした楽章の音が漂うような雰囲気こそ、バリトンの音色を想起させるのでしょうね。2,3楽章のコミカルなメロディーラインも奏者が微笑みながら弾いているのがわかるような演奏

Hob.XII:3+5 / Bryton Duet [D] (c.1766-69)
ホシェク盤には含まれていなかった曲。アダージョ - メヌエット - フィナーレの3楽章構成。アダージョは主題と3つの変奏。冒頭しばらくのところでちょっと少女のような声が聴こえるような気がします。演奏は相変わらず余裕たっぷりの素晴しいもの。弾むメヌエットに、フィナーレはちょっと想像だにしなかったメロディー。ちょっとジプシー風でしょうか。

ダヴィド・ゲリンガスとエミール・クラインというチェロの大御所2人がロッシーニとハイドンのデュエットを演奏したアルバム。演奏は極度にリラックスして、まさに演奏を楽しんでいるのがつたわるような素晴しいもの。ハイドンについては以前聴いたホシェク盤も素晴しかったんですが、こちらのほうが技術的にも表現も上でしょう。ただ、ホシェク盤には技術では表せない素朴な良さもあります。両盤ともにこれらの曲を録音する必然を感じる素晴しいプロダクションといっていいでしょう。ハイドンマニアの方は、手に入れるべき価値のあるアルバムです。評価は[+++++]です、もちろん。

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tag : バリトン二重奏曲

イジー・ホシェク、ドミニカ・ホシュコヴァーによるバリトン二重奏曲集

今日も湖国JHさんからお借りしたアルバム。しかもハイドンマニア以外の方にはお薦めしにくい超マニアックなアルバム。

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イジー・ホシェク(Jiří Hošek)、ドミニカ・ホシュコヴァー(Dominika Hošková)のチェロによる、ハイドンのバリトン二重奏曲3曲(Hob.X:11、XII:4、XII:1)とハイドンの教え子であるアントン・クラフト(Anton Kraft)の2つのチェロのためのソナタOp.1のNo.1、No.2、No.3、2つのチェロのためのディヴェルティメントOp.7のNo.3の合わせて7曲を収めたアルバム。収録は2002年6月25日から26日、チェコのプラハにあるフス教会でのセッション録音。レーベルはチェコのMUSIC varsというレーベル。

このアルバム、ちょっと見、ごく普通のアルバムに見えるのですが、ライナーノーツを開いてみると、ハイドンとその弟子でもあったアントン・クラフトへのリスペクトがものすごいエネルギーで立ちのぼっています。

ライナーノーツを開けるとまずはハイドンの肖像とエステルハージ宮殿の写真に「チェロ奏者アントン・クラフトの作曲の教師」との記載され、裏表紙にはアントン・クラフトの生地、チェコのロキツァニ(Rokycany)の紋章と市庁舎のイラストが記載されています。そして裏表紙の裏にはハンガリー国立博物館所蔵の1750年J. J. Stadlmann作のバリトンの写真に演奏者のイジー・ホシェクの「父に捧げる」との言葉が添えられています。バリトンの頂部の渦巻きの部分には日本のカッパのようなユーモラスな頭部の彫刻があります。今一度ジャケットをよく見ると左下に"World Pewmiere Recording"とあるではありませんか。なにやら特別なアルバムのようす。

バリトンといえば、ハイドンが仕えたエステルハージ家のニコラウス侯が偏愛した楽器。いつも紐解く大宮真琴さんの「新版ハイドン」をみてみると、ハイドンは侯爵自身が演奏するために、ニコラウス侯の求めに応じて膨大なバリトンのための曲を作曲しています。作品リストにはバリトン協奏曲、バリトン八重奏曲、そして有名なバリトン・トリオ、その他にこのアルバムに収められたバリトン二重奏曲などがあり、現存している曲だけでも136曲にのぼるとのこと。ニコラウス侯のバリトンへの飽くなき興味に応えるにはハイドン一人の力では足りず、当時エステルハージ家お抱えのバリトン奏者であったビヒルもバリトン四重奏曲を148曲作曲し、また当時バリトンの名手とされていたアントン・クラフトやリドル、フランツといった奏者たちや、エステルハージのヴァイオリニストだったトマッシーニなどもニコラウス侯のバリトンのお相手を務め、ハイドン自身もヴィオラで演奏に加わったとのことです。

このアルバムのキーとなるアントン・クラフトは1749年、先程紹介したチェコのロキツァニ生まれのチェロ、バリトン奏者。ハイドンの推挙により1774年頃アイゼンシュタットのエステルハージ家のオーケストラに入った人。チェロやバリトンの名手とされ、ハイドンのチェロ協奏曲2番はアントン・クラフトのために書かれたということです。クラフトはハイドンに作曲も習い、作品を残していますが、このアルバムに収められているのがその一部ということでしょう。ハイドンのバリトン二重奏曲も手元の所有盤リストでは最も早い時期の録音、またおそらくアントン・クラフトの曲も初録音ということで、ジャケットに世界初録音と表記されているものだと思います。

奏者についても少し触れておきましょう。

イジー・ホシェクは1955年チェコ生まれのチェロ奏者プラは音楽院やハンガリー、フランスで学び、1980年プラハの春国際コンクールのチェロ部門の優勝者。チェコ放送交響楽団の首席チェロ奏者やプラハ舞台芸術アカデミーの音楽学科の准教授などを務めた人です。チェコでは知られた人でしょう。

ドミニカ・ホシュコヴァーは美人チェリストですね。1982年生まれ。解説やネットを読んでいたらイジー・ホシェクの娘だとわかりました。父の勧めで4歳からチェロを弾き始め、プラハやオーストリアのリーツェンでのコンクールで入賞するなど活躍、コンサートやテレビへの出演多数とのことです。近年は父とのチェロのデュオでの活動もしているそうです。ドミニカの方はウェブサイトがありましたので紹介しておきましょう。

DOMINIKA HOSKOVA - Offcial websites of the Czech violonecellist

今日取り上げるバリトン二重奏曲は非常に珍しいものですね。今までバリトンに関するアルバムは何度か取りあげています。もちろんバリトン二重奏は初めてのこと。

2011/11/25 : ハイドン–その他 : ハイドンとアビンドン卿
2011/06/30 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】バレストラッチのバリトン三重奏曲集
2010/12/21 : ハイドン–室内楽曲 : 【年末企画】アンサンブル・リンコントロのバリトン・トリオ
2010/02/01 : ハイドンねた : 今最も重要なレーベルは?

ハイドンのバリトン二重奏曲は6曲作曲され、原曲が残っているのは1曲のみ。2曲は消失し、残りの曲はハイドン以外が三重奏用に編曲したもののみが残っているとのこと。

Hob.X:11 : Bryton Duet [D] (c.1766-69)
この曲は編曲が残っていたもの。モデラート - メヌエット - プレストの三楽章構成。全体で7分ちょっとの短い曲。チェロの雄弁なメロディをもう一本のチェロが追いかけて行く曲想。チェロ(本来はバリトン)2本と言う構成で、それほど難しくないメロディーを重ねていく音楽的にも面白い曲。ハイドンがニコラウス侯に演奏しやすく、美しいメロディーを楽しめるように工夫しているのがよくわかります。ニコラウス侯がにこやかに演奏するようすが想像できるようです。演奏は流石に親子だけあってピタリと息のあったもの。メインはおそらく父のイジー・ホシェクだと思われますが、伸びのある美しい音色。チェロ2本のえも言われぬ響き。かなりメリハリをつけて、繊細な部分と迫力ある部分の両面を聴かせます。1曲目から素朴な美しさに満ちた曲にうっとり。

Hob.XII:4 : Bryton Duet [G] (c.1766-69)
この曲が唯一原曲が残る曲。チェロの演奏ながらピチカートを使ってまるでバリトンのような響き。やはり曲の充実度は前曲より一段上。演奏も緊張感が一段上がります。チェロが次々とメロディーを重ねながら楽興を深めていきます。この曲は表現が深く、フレーズひとつひとつがクッキリと浮かび上がり、短い曲なのに幽玄、深遠な印象まで醸し出します。チェロの音色の深さが心にエコーのように響き渡ります。抑えた部分の精妙な表情が曲を引き締めます。やはりハイドンの書いた原曲の完成度は素晴しいですね。それを知ってか演奏も神憑ってきました。kの曲はモデラート - メヌエット - アレグロですが、楽章間の変化と、それぞれの楽章の表情も豊かで非常に聴き応えがあります。バリトン二重奏曲のしかもチェロによる演奏がこれほど面白いとは思っていなかっただけに、感慨も一入。

Hob.XII:1 : Bryton Duet [A] (c.1766-69)
一曲目と同様、編曲が残っていたもの。演奏の特徴はかわらず、息のあったチェロ2本によるアンサンブルですが、やはり前曲とくらべると構成感、メロディーの変化の面白さはちょっと劣りますでしょうか。曲自体はハイドンが書いたものの編曲から復元したものだと思いますので骨格はハイドン作でしょうが、曲としての完成度にはディテールのいろいろな要素が影響するのでしょうから、他人の手を経たものだとハイドンの創意の真髄が削がれてしまっているのかもしれませんね。

このあと収められたアントン・クラフトによる曲は明るく快活なメロディーの美しい曲ですが、チェロと言う楽器の真髄をとらえると言う意味でハイドンの作とはやはり格がちがうというのが正直なところ。快活な練習曲という感じです。

湖国JHさんからお借りしたマニアックなアルバム。アルバムから立ちのぼるハイドンとクラフトに対する想いと、チェコのチェリスト親娘による息のあったアンサンブルによるハイドンの珍曲の素晴しい演奏が印象的な素晴しいものでした。これはハイドンファンなら是非手に入れるべき、貴重なアルバムです。私も手に入れるべくリサーチをはじめました。評価は全曲[+++++]とします。中でも2曲目のXII:4は素晴しいですね。

いやいや、このアルバムには参りました。湖国JHさん、ありがとうございました。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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