オットー・マツェラート/ヘッセン放送響の95番(ハイドン)

このところ古い録音の交響曲を続けて取り上げています。昔はLPをリリースするためにかなりの労力が必要だったからか、それぞれ素晴らしい完成度であることに今更ながらに驚きます。

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オットー・マツェラート(Otto Matzerath)指揮のヘッセン放送交響楽団(Symphonieorchester des Hessischen Rundfunks)の演奏でハイドンの交響曲95番他を収めたLP。収録情報は記載がありませんし、ネットを調べてもこのアルバムの情報に巡り合いませんが、マツェラートの略歴とステレオ収録であることから1957年から61年あたりの録音だと思います。レーベルはCHRISTOPHORUS。

このアルバムも最近オークションで仕入れたもの。指揮者のマツェラートは全く未知の人。オケの方は現在hr交響楽団と呼ばれ、しばらく前まではフランクフルト放送交響楽団と呼ばれていた楽団。インバルによるマーラーの交響曲の録音で日本でも知られていますね。この楽団の首席指揮者は2013年までパーヴォ・ヤルヴィが務めていましたが、そこから遡るとパリセットの名録音があるヒュー・ウルフ、ドミトリー・キタエンコ、エリアフ・インバル、ディーン・ディクソンそして1955年から61年までが今日取り上げるアルバムの指揮者であるオットー・マツェラート。この辺りの経緯はWikipediaのhr交響楽団のページをご参照ください。

オットー・マツェラートは現代の日本ではほとんど知る人がいないのではないでしょうか。調べてみると1914年デュッセルドルフに生まれたドイツの指揮者。地元デュッセルドルフの現ロベルト・シューマン音楽院でヴァイオリンとピアノ、オペラを学び、指揮は独学とのこと。歌劇場で経験を積み1942年、フルトヴェングラーによりコンサート指揮者として見出され、ベルリンフィルなども振っていたそう。戦後もドイツを中心に活躍し、先に触れた通り、1955年から61年までヘッセン放送響の指揮をしていたようです。その後なんと1963年9月から読響の首席指揮者となりましたが、直後の11月、相模原のキャンプ座間の米軍病院で亡くなったそうです。日本とも関係があった人ですが、わずか2ヶ月で急死してしまったということで、記憶に残っている方も少ないのではないかと思います。

さて、そのマツェラートの振るハイドンですが、堂々としたオーソドックスな名演奏として見事なものでした。

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Hob.I:95 Symphony No.95 [c] (1791)
このころの録音に共通する引き締まったオケの響き。オーソドックスさがそのまま演奏の特徴となっているような正統派の演奏。各パートはバランスよく鳴り響き、細密画のように一糸乱れぬ見事なアンサンブルで指揮者の律儀さが伝わって来るよう。各パートのメロディーが実によく聴こえます。1楽章はまるで教材のような完璧なアンサンブル。
続くアンダンテでもメロディーラインのクリアさを保ちながら、しなやかさも加わりしっとりとした情感が乗ってこの曲の陰りがよく表現されています。実に緻密な演奏。
ハイドンの交響曲の楽しみはメヌエット。曲毎に千変万化するメロディーの想像力にいつもながら驚かされます。マツェラートはザクザクとではなく、しっとりとしたメヌエットできました。律儀なフレージングの中にほっこりとするような安らぎを感じるメヌエット。
そしてフィナーレもオーソドックスなアプローチながらくっきりとしたメロディーが印象に残ります。フーガの幽玄さを感じさせながら徐々にオケに力が漲っていきますが、最後まで余裕を失わず、古典の均衡を守ったクライマックスで曲を閉じます。

なんとなくもう一歩踏み込んで欲しい感は残りますが、ハイドンの交響曲の演奏としては、バランスの良くまた各パートの動きもクリアに追えるレベルの高い演奏です。オットー・マツェラートという指揮者の清廉な音楽が浮かび上がってきているのでしょう。それがこの95番という振り方によっては険しさに焦点が当たりすぎる曲の穏当な解釈として貴重な存在とも言えます。評価は[++++]とします。ネットの情報ではこの95番の他にも何曲かハイドンの交響曲の録音があるようですので、気長に探してみたいと思います。

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tag : 交響曲95番 ヒストリカル

リステンパルト/ザール室内管の交響曲21番、マリア・テレジア(ハイドン)

その存在を最近知ったアルバム。LPの音がこれほどまでに美しいとは。

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カール・リステンパルト(Karl Ristenpart)指揮のザール室内管弦楽団(Chamber Orchestra of The Saar)の演奏で、ハイドンの交響曲21番、48番「マリア・テレジア」と、ギュンター・ヴァント(Günter Want)指揮のギュルツェニヒ交響楽団(Gürzenich Symphony Orchestra of Cologne)の演奏で交響曲82番「熊」の3曲を収めたアルバム。リステンパルトの方の収録は同じ音源と思われるマリア・テレジアのCDの収録情報から1965年1月、ドイツ南部のフラウラウターン(Fraulautern)でのセッション録音。レーベルは優秀録音で知られる米nonsuch。(2017/11/23収録情報を修正:cherubinoさんご指摘ありがとうございます!)

今日はリステンパルトの演奏を取り上げましょう。リステンパルトのハイドンは私の溺愛する演奏の一つ。ブログ最初期にホルン信号の記事を書いて以来、録音が手に入ると取り上げてきました。今年の夏に気まぐれで始めたザロモンセットの名演奏では時計のベスト盤にリステンパルトを選んでいます。

2017/08/20 : Best Choice of Works : 【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(後編)
2015/12/31 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルト/ザール室内管の81番、王妃(ハイドン)
2013/01/07 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルトの驚愕、軍隊、時計
2010/02/04 : ハイドン–交響曲 : 絶品! リステンパルトのホルン信号

今日取り上げるアルバムに含まれる演奏のうち、マリア・テレジアはホルン信号のアルバムにも収録されていますので、初出は21番だけということになりますが、ホルン信号の記事を書いた頃には具体的なレビューを書いておりませんので、改めてマリア・テレジアもちゃんと取り上げることにします。最初の記事に書いた通り、「一言でいうとごく普通の演奏なんですが、まろやかなオケの音色、中庸なテンポ、すべての奏者の息がぴたりと合って大きな音楽を奏でていて、これ以上の演奏はないというような完成度。」といえも言われぬ演奏を期待してしまいますね。

Hob.I:21 Symphony No.21 [A] (1764)
いつものようにVPIのクリーナーで綺麗にクリーニングしてアルバムに針を落とした途端、まさにとろけんばかりのまろやかなオケの響きに包まれます。1楽章はアダージョで、弦はまろやかな上に分厚い低音をベースに無限に広がるような広い空間にゆったりと響きわたり、木管、金管陣はクッキリと浮かび上がります。いきなり脳内が快楽物質で満たされます。続く2楽章に入ると未曾有の推進力に満ち溢れ、さらに空間が広がります。何でしょう、このエネルギーに満ちた軽快さは。LPから素晴らしいエネルギーが湧き出てきます。そしてそのエネルギーがキレの良さに変わる3楽章のメヌエット。フレーズの一つ一つが波打つように弾みます。そしてフィナーレに到るまでキレキレのオケはエネルギーを放ち続けます。恐ろしいまでの集中力。これはこれまで聴いたリステンパルトのハイドンの中でも別格の素晴らしさ。そして超絶的名録音。

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Hob.I:48 Symphony No.48 "Maria Theresia" 「マリア・テレジア」 [C] (before 1769?)
そしてCDでも聴いているマリア・テレジアですが、このエネルギー溢れる音はLPならでは。このエネルギーはデジタルでは出ません! 日曜の夜だからか、アンプも絶好調でゾーンに入って、スピーカーからオケのピラミッドのような分厚い低音をベースとした響きが轟きます。続く2楽章は弱音器付きの弦楽器のしっとりとした入りからホルンのメロディーが重なっていきますが、ホルンの響きのなんたる美しさ。静寂の中に各楽器の織りなす綾が光沢を伴って揺らめきます。絶美。
2楽章の終わりでLPをひっくり返します。メヌエットはゆったりとしたテンポで余裕たっぷりの演奏と思いきや、すぐにずしりと響く迫力を帯びて険しさを垣間見せます。そしてメヌエットの力感を抜くように、爽やかにフィナーレに入りますが、弦楽器の恐ろしいまでのボウイングのキレの迫力ですぐに図太い流れを作ります。このLP、特に低音の迫力が見事でした。

この後に収められたヴァントの熊ですが、録音は高音がこもり気味で今ひとつ。というより、前2曲が素晴らしすぎました。

カール・リステンパルト指揮のザール室内管による交響曲2曲でしたが、素晴らしい演奏と素晴らしい録音が揃った超名盤と言っていいでしょう。nonesuchといえば長岡鉄男さんが民族音楽などの名録音盤を数多く紹介していたこともあって録音の素晴らしさで知られるレーベルですが、このアルバムはこれまで聴いたnonesuchの中でも飛び抜けて素晴らしいもの。1966年のプロダクションですが、現在でもこれを超える録音は見つからないでしょう。もちろん演奏もリステンパルトのハイドンの最上のもの。これは宝物レベルのアルバムですね。もちろん評価は2曲とも[+++++]です。LPの再生環境がある人はこのアルバムを是非入手して、リステンパルトとnonesuchの陶酔を味わってほしいものです。

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シャルル・ミュンシュ/ボストン響の太鼓連打、ロンドン(ハイドン)

最近手に入れたヒストリカルなCD。最近CD化されたものです。

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TOWER RECORDS(Charles Munch - The Complete RCA Album Collection) / amazon

シャルル・ミュンシュ(Charles Munch)指揮のボストン交響楽団(Boston Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」、ヘンデルの組曲「水上の音楽」ハーティ版の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は太鼓連打が1950年12月26日、27日、ロンドンが1950年4月10日、11日、いずれもボストンのシンフォニーホールでの録音と記されています。レーベルはRCAですが日本盤で2016年の12月にシャルル・ミュンシュの芸術1000というシリーズでリリースされたもの。帯にはハイドンは「世界初CD化」「日本初発売」と記されています。

シャルル・ミュンシュと言えば幻想交響曲の鬼気迫る録音が印象に残っています。もちろんフランス物というイメージが強くハイドンを振るイメージはありませんね。ただし録音はいくつかあり、あの鬼気迫る棒でハイドンを料理したらどうなるだろうと言う興味からこれまでに3度ほどミュンシュのハイドンを取り上げています。

2011/05/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】シャルル・ミュンシュ/ボストン響の98番ライヴDVD
2011/02/19 : ハイドン–交響曲 : シャルル・ミュンシュの102番爆演
2010/03/07 : ハイドン–その他 : ANDaNTE:懐かしの名演奏集

ANDaNTEのアルバムに含まれるのは1938年パリ音楽院管弦楽団との協奏交響曲、102番は1956年のボストン響との演奏、そして98番は1960年のもの。ミュンシュは1891年生まれで、ボストン響の常任指揮者に就任したのが1949年ですので、今日取り上げる演奏は、ボストン響への就任直後でミュンシュが60歳になろうとする頃の演奏です。ちなみに名演の誉れ高いパリ管との幻想交響曲のEMIへの録音は1967年、同じくパリ管とのブラームスの1番は1968年の録音で、ミュンシュは1968年にパリ管とのアメリカツアー中に急逝したとのことです。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
1950年の録音ということでもちろんモノラルですが、録音はなかなか良く比較的シャープな響き。これはLPで聴いてみたくなります。入りの太鼓は遠雷タイプ。厳かな序奏が終わるとミュンシュらしいインテンポでキレの良い主題をザクザクと刻んでいきます。いきなり流石ミュンシュと思わせる迫力。ヴォリュームを上げて聴くと怒涛の迫力に圧倒されます。それでいて古典の枠から外れることなく、筋を通しているあたりが一流どころと唸らされます。そこここに鋭いアクセントが楔のように打たれ曲をタイトに引き締めます。1楽章を聴くだけで流石ミュンシュとわかる演奏。
続くアンダンテは表現を抑えて淡々とした入り。それでもメロディーにはほんのりと覇気が漲り、終盤にかけてのクライマックスでは弦が徐々に赤熱していくのがわかります。優雅にメヌエットをやり過ごして最後のフィナーレはミュンシュの面目躍如。速めのテンポでグイグイ来ました! 今度は本格的に赤熱。まさに痛快。オケもミュンシュの棒に完璧に反応して素晴らしいフィナーレ!

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
続いてロンドン。太鼓連打とは少し印象が異なり、荘厳な序奏のまま主題に入ってもテンポを上げません。この曲の雄大さをさらに強調するかのようにゆったりとした歩みのまま、表現がさらに壮大になっていきます。パワーが無限にあるような素晴らしい集中力。中盤以降に入るとギアを上げてさらにパワーアップ。またまた来ました、ミュンシュ豪快な煽りに乗って1楽章は未曾有の盛り上がり。
続くアンダンテは、テンポを落としたまま。おそらくこのロンドンというハイドン最後の交響曲のスケールの大きさを表現しようとしているのでしょう。フレーズの一つ一つを噛みしめるように丁寧に進みます。中間部はザクザクと鉈を振るうような大胆な演奏。メヌエットはこのアルバムの中ではテンポも表現も最もオーソドックスな演奏ですが、それでもミュンシュらしいキレを感じさせます。そしてフィナーレは再びインテンポでキレキレに畳み掛けながら突き抜けるようにクライマックスへ向かいます。やはりここぞのキレの鋭さはミュンシュならではですね。

やはりミュンシュのハイドンはキレていました。この演奏がこれまでCD化されて来なかったのは、RCAにはフリッツ・ライナーのハイドンの演奏があったからではないかと想像しています。同じく爆演系のライナーに対して、パリ管との録音ではEMIに行ってしまったミュンシュはRCAにとってはむしろ商売敵になってしまっていたのかもしれませんね。1950年の録音から66年後にCD化はされましたが、日本では初回限定生産で既に廃盤。RCAのミュンシュのコンプリートコレクションと言うボックスには収録されておりますので、ミュンシュファンの方はこちらを手に入れるべきかもしれませんね。この演奏、私は評価します。もちろん[+++++]です!

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ボロディン四重奏団のひばり(ハイドン)

月末ですが、一本追加です!

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ボロディン四重奏団(Borodin Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」、モーツァルトの弦楽四重奏曲KV421(417b)、クラリネット五重奏曲KV581の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1958年。レーベルは露Мелодия(Melodiya)。

ボロディン四重奏団や、メンバーの一部で構成されたボロディン三重奏団の演奏はこれまで4度ほど取り上げています。

2012/09/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉
2012/07/02 : ハイドン–室内楽曲 : ボロディン三重奏団のXV:27
2011/08/21 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ボロディン四重奏団のロシア四重奏曲
2011/08/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ボロディン弦楽四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉ライヴ

一番下の記事に書いたように、ボロディン四重奏団は終戦の年1945年に結成されたクァルテットですが、メンバーを替え現在も活動している世界でも最も活動期間の長いクァルテットの一つ。最初に取り上げた「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のライヴは鋼のような引き締まりまくった素晴らしい演奏が鮮明に印象に残っています。そのあと比較的最近の録音を取り上げていますが、今日取り上げるアルバムは手元の録音の中でも最も古い1958年の録音。ボロディン四重奏団のオリジンに迫ることができるでしょうか。
この演奏のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ロスティラフ・ドゥビンスキー(Rostislav Dubinsky)
第2ヴァイオリン:ヤロスラフ・アレクサンドロフ(Yaroslav Alexandrov)
ヴィオラ:ディミトリー・シェバリーン(Dmitri Shebalin)
チェロ:ユーリ・トゥロフスキー(Yuri Turovsky)

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
なんと禁欲的な入りでしょう。各パートが引き締った音色を重ねますが、滲みも厚みも皆無。デッドな録音であることも手伝って非常にタイトなアンサンブル。鋭利な響きが耳に刺さります。ひばりという優雅な曲から優雅さを取り払って、真剣による居合いの勝負のような険しい響きになっちゃってます。アンサンブルの険しさは類を見ないほど。ヴァイオリンのドゥビンスキーのボウイングに隙はなく、他のメンバーもそれに触発されて全く隙のない緻密な演奏にこちらも襟を正さざるを得ません。
続くアダージョでも、張りつめた緊張感はかわらず。本来は癒されるような音楽なのに、それとは正反対に緊張を強いるテンションの高さ。そう思って聴いているとチェロばぐっと踏み込んできて、音楽に厚みをもたらし、少し緊張をほぐしてくれます。緻密なアンサンブルだけにこうしたちょっとした変化が鋭敏に察せれ、それが音楽の豊かさをもたらします。
メヌエットでも鋭利な表現は変わらず。リズミカルなんですが鋭利さが鋭いアタックを印象づけ、舞曲とは感じられませんが、この曲の本質には関係ありません。パートごとにメロディーを重ねていくところでは滲みのない鮮明な録音によって重なりのおもしろさが鮮明によみがえります。そしてフィナーレは上下する音階を完璧に再現して、複雑な楽譜がさも簡単に演奏されているが如き磐石の安定感でまとめます。

こちらが想像した通りのボロディン四重奏団のタイトな響が聴かれtました。このあとのモーツァルトのクァルテットとクラリネット五重奏曲もこのクァルテットらしくタイトなものですが、最後に収められたクラリネット五重奏曲が絶品です。こちらは録音のせいかあじわい深い演奏。

ボロディン四重奏団のオリジンを知るべく取り上げた1958年メロディアによる録音。予想どおり超タイト、超辛口の演奏を堪能する事ができました。ボロディン四重奏団のオリジンはやはりこの引き締ったタイトさにありましたね。メンバーを替えて今もこの往時の響きがこのクァルテットの個性の雛形になっているということで、クァルテットの個性はメンバーのみにあらずということを証明しているようでもあります。もちろん評価は[+++++]とします。

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ロンドン・ウィンド・ソロイスツのディヴェルティメント集(ハイドン)

勝手に室内楽の秋に突入しています(笑)

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ジャック・ブライマー(Jack Brymer)指揮のロンドン・ウィンド・ソロイスツ(London Wind Soloists)による、ハイドンの2本のオーボエ、2本のホルン、2本のバスーンのためのディヴェルティメント7曲(Hob.II:D23、II:15、II:3、II:D18、II:G8、II:23、II:7)を収めたLP。収録情報はPマークが1968年と記載されていますが、同音源からCD化されたTESTAMENTのアルバムには1967年9月17日〜20日、25日、27日〜29日、ロンドンのウエスト・ハムステッド・スタジオ(West Hampstead Studios, London)でのセッション録音との記載があります。レーベルは英DECCA。

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こちらは手元にある同内容を収めたTESTAMENTのCDです。収録曲は同一ですが、なぜか曲順が異なり、指揮者の表記はありません。こちらはまだ入手可能です。

このアルバムに収められている曲は、ハイドンが1760年ごろに書いた管楽のための6声のディヴェルティメントで、一部ハイドンが書いたものではないものが混じっています。楽器はオーボエ、ホルン、ファゴット各2本。1760年ごろといえば、ハイドンが20代の終盤。1759年にボヘミアのモルツィン伯爵に仕えはじめ、同年に交響曲1番を作曲し、その2年後の1761年にはアイゼンシュタットのエステルハージ侯爵の副楽長に就任するという、ハイドンの創作期のごく初期に当たります。後年の成熟した筆致は見られないものの、すでに楽器の音色に関する鋭敏な感覚や、展開の面白さは十分に感じられる作品群です。

演奏するロンドン・ウィンド・ソロイスツは、LPのプロデューサーだったエリック・スミスによるライナーノーツによると、当時エリック・スミスがグライドボーン歌劇場で聴いたモーツァルトのオペラのオーボエのフレーズが歌手の歌よりも心にしみると感じたことをきっかけに、モーツァルトの管楽作品を録音するために結成されたアンサンブル。メンバーはトーマス・ビーチャムが創設したロイヤルフィルの精鋭管楽奏者で構成され、このアルバムの指揮を担当したジャック・ブライマーがメンバーをまとめたとのこと。このメンバーによりモーツァルト、ベートーヴェンの管楽作品が録音され、それに続いてこのアルバムが録音されたと記されています。メンバーは次の通り。

オーボエ:テレンス・マクドナー(Terence Macdonagh)
オーボエ:ジェームズ・ブラウン(James Brown)
ホルン:アラン・シヴィル(Alan Civil)
ホルン:イアン・ハーパー(Ian Harper)
ファゴット:ロジャー・バーンスティングル(Roger Birnstingl)
ファゴット:ロナルド・ウォーラー(Ronald Waller)

演奏を聴くと、ビーチャムの振るハイドンの交響曲同様、中庸のバランスを保つ味わい深い響きが流れます。

Hob.II:D23 Divertimento [D] (1757/60) (Forgery 偽作)
いきなりハイドンの作でない曲から入ります。録音年代当時は真贋を判断できる状況ではなかったものと推定されます。アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、プレストの4楽章構成。録音はDECCAだけに鮮明。TestamentのCDも悪くありません。管楽六重奏ということで主に高音のメロディーがオーボエ、リズムをファゴット、そしてホルンが響きを華やかにする役割。ハイドンの作といわれてもわからない明確な構成と美しいメロディーが特徴の曲。そう言われて聴くとちょっと展開が凡庸な気もしなくはありません。まずは耳慣らし。

Hob.II:15 Divertimento [F] (1760)
これはハイドンの真作。プレスト、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストとハイドンのディヴェルティメントの典型的な構成。明るく伸びやかな1楽章のメロディーから、ほのぼのとしたメヌエットに移る絶妙な感じ、これぞハイドンでしょう。音数は少ないもののメロディーの美しさは見事。そしてアダージョのホルンのなんという伸びやかさ。演奏の方も管楽器の音色の深みを存分に活かした素晴らしいもの。2つ目のメヌエットはその伸びやかさをさらりとかわす涼風のように入ります。楽器が少ないからこそ各パートのデュナーミクの微妙なコントロールの見事さがよく分かります。そしてフィナーレの軽やかな躍動感。奏者の鮮やかなテクニックを楽しみます。

Hob.II:3 Divertimento (Parthia) [F] (1958?)
アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。入りのリズムのキレの良さ印象的。メヌエットの中間部に漂う異国情緒のような雰囲気が独特な曲。そしてアンダンテの中間部にもその余韻が感じられるユニークなメロディー。曲ごとに全く印象が変わりながら、しっかりとまとまっているのはハイドンの真骨頂。このような初期の曲からその特徴が見られます。2つのメヌエットのくっきりとした構成感が印象的。そしてフィナーレはホルンの超絶技巧が仕込まれていました。ホルン奏者はことも無げにこなします。これは見事。

Hob.II:D18 Divertimento (Cassatio/Parthia) [D] (1757/60)
アレグロ、スケルツォ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、アレグロの6楽章構成。ファゴットの刻む軽快なリズムに乗って、オーボエが滑らかに、ホルンがくっきりとメロディーを乗せていきます。短いスケルツォを挟んで、なぜか旅情を感じるようなメランコリックなメヌエットの美しいメロディーに移ります。メヌエットの中間部はファゴットの印象的なメロディーが繰り返されます。どうしてこのようなメロディーのアイデアが湧いて来るのかわかりませんが、独創的な構成。そしてあまりに見事なアダージョに入ります。管楽合奏の美しさを極めた絶美の音楽。ハーモニーの美しさにノックアウト。メヌエットできりりと引き締めて、フィナーレは一瞬で終わりますが、見事に曲を結ぶ傑作でしょう。

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Hob.deest(II:G9,II:G8) Divertimento [G] (1760)
LPをひっくり返して5曲目。LPもCDもHob.II:G8との表記ですが、他のアルバムではdeestと記載され、大宮真琴さんの新版ハイドンではII:G9と記載されています。アレグロ、メヌエット、アンダンテ、メヌエット、プレストの5楽章構成。1楽章は落ち着いた曲調で入ります。しなやかなメロデぃーに沿ってホルンが心地よく響くのが印象的。1楽章の曲想を踏まえたメヌエットでは、中間部に入るとファゴットが音階を刻みながらハモってメロディーを重ねるのがユニーク。3楽章はアダージョではなくアンダンテ。それでもゆったりとしたハーモニーを聴かせながら流します。2つ目のメヌエットを経て音階を駆使したフィナーレで曲を閉じます。

Hob.II:23 Divertimento (Parthia) [F] (1760?)
アレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。優雅な入りからリズミカルな展開が軽快な曲。ホルンとオーボエのメロディーがシンプルながら実に心地よく絡み合います。メヌエットメロディーの展開の面白さはアイデアに富んでいてディヴェルティメントならでは。そしてまたしても管楽器が絶妙に重なり合って美しい響きを作っていくアダージョ。それを受けるようにゆったりと入るメヌエット。フィナーレはポストホルンのようにホルンが活躍し、各パートが絡み合ってくっきりとしたメロディーを描いていくところは流石ハイドン。

Hob.II:7 Divertimento (Feld-Parthie) [C] (1757/60)
最後の曲。この曲もアレグロ、メヌエット、アダージョ、メヌエット、プレストという典型的な構成。冒頭のメロディーをキーにリズミカルに展開していく音楽。楽器ごとの響きの対比をそこここに配置して響きの違いに耳を向けさせます。同じ構成なのにいつも通り全く異なるアイデアで曲を作っていきます。メヌエットも一筋縄では行かず、どうしてこのようなメロディーを思いつくのかと唸るばかり。このアルバムを通じてメヌエットの構成の面白さは格別のものがあります。型にはまりつつもその中での崩しというか変化の面白さを追求する大人の世界。そしてまたまた美しさに磨きがかかったアダージョに引き込まれます。2つ目のメヌエットの中間部も驚きの展開。そしてアルバムの終結にふさわしい壮麗なフィナーレで曲を結びます。

弦楽四重奏曲やピアノトリオなどに比べるとぐっと地味なディヴェルティメントで、しかも管楽六重奏とさらにマイナーな曲ながら、ハイドンの創意のオリジンに出会えるような見事な曲を収めたアルバム。聴けば聴くほど味わいを感じる見事な演奏です。奏者の腕も素晴らしいのに加えて、実に音楽性豊かな演奏で、ハイドンの曲を楽しむことができます。幸いCD化もされていますので、この演奏を非常にいいコンディションで楽しむことができます。ハイドンの室内楽の面白さの詰まった名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]
とします。

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ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)

4月のベスト盤を選んだと思っていたら世の中はすっかりゴールデンウィークです。こちらは例年通り渋滞を避けて歌舞伎見物をしたり、地元の温泉に行ったりと、近場でのんびり楽しんでおります。今日は最近手に入れたヒストリカルなアルバムです。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(Vienna State Opera Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲97番、ウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)の演奏で交響曲1番、45番「告別」の3曲を収めたアルバム。収録は97番が1953年、他2曲が1951年のセッション録音。録音場所の記載はありません。レーベルはSPURAPHON原盤の日本コロムビア。

スワロフスキーの録音は何点かあったと思って、所有盤リストを検索してみると、1点もヒットしません。おかしいなと思って確認すると、当アルバムのスワロフスキーの綴りが間違っていました。ジャケットには堂々と”SWAROWSKI”と記載されていますが、正しくは”SWAROWSKY”。そう末尾が違います。他のアルバムやネットでは全て”SWAROWSKY”ですので、このアルバムが間違いですね。ちなみにガラスによる宝飾品のスワロフスキーは”SWAROVSKI”。オーストリアのチロル地方の創業で、こちらは末尾は”I”ですが、途中の”W”が”V”となります。ということで正しい綴りで検索し直すと、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との「軍隊」、「太鼓連打」、アルフレート・ホラーのソロによるトランペット協奏曲、そして同じくウィーン国立歌劇場管弦楽団を振った「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」全曲などのアルバムがあり、軍隊、太鼓連打のアルバムは過去に取り上げています。スワロフスキーの略歴などは下記の記事をご参照ください。

2012/02/21 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の軍隊、太鼓連打(ハイドン)

リンク先の記事にも書いたように、スワロフスキーは指揮法の「名教師」としても名高い人で、ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との演奏自体も、現在聴いてもそのコントロールの素晴らしさを堪能できるものです。

そのスワロフスキーのハイドンの未入手の録音と知ってオークションで手に入れたもの。日本コロムビアの「ハンス・スワロフスキーの芸術」というシリーズの第4巻になります。綴りの間違いはイマイチですが、良いシリーズをリリースしてくれたものです。このアルバム自体のリリースは1997年です。

Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)
1953年録音ということで、もちろんモノラル録音ですが、音質は充分みずみずしく聴きやすい録音。ゆったりした序奏の後、主題に入ると恐ろしいほどのキレ味で畳み掛けてきます。現代でもこれだけのキレを聴かせるコントロールは滅多にありません。インテンポで物凄い勢いで攻め込まれますが、ゆったりとした休符を挟むので力ませに聴こえない素晴らしいバランス感覚。と思いきや曲の変わり目は休符を半分にしたくらい被せてきます! オケはスワロフスキーに煽られて赤熱する鉄塊のようにヒートアップ。このど迫力、同じくど迫力の名盤、アンチェルの93番を上回るもの。音量を上げて聴くとトップギアのウィーン国立歌劇場管弦楽団の奏者の汗が飛び散ってきそうなほどの迫力。特に弦楽器のボウイングは驚愕の力感。
続く2楽章はリラックスした演奏で入ります。テンポは速めで見通しの良い演奏。典雅な演奏とはこのことでしょう。キリリと引き締まったリズムに乗って秩序正しい演奏。展開部に入ると、オケが牙を剥き始めます。それでも全体的に気品すら感じさせる落ち着いた構成を保って入るのが流石なところ。
メヌエットはちょっとテープのコンディションが悪く、冒頭から少々音程がふらつくところがあります。演奏は前楽章がリズムの軽さを感じさせていたのに対し、こちらは適度な重量感を加えて迫力を増します。音量の対比と表情の変化を一定のリズムにまとめる素晴らしいコントロール。
そして期待のフィナーレは冒頭から冴え渡るオケの音色に釘付け。徐々に赤熱してくるオケ。1楽章の未曾有のキレの再現に耳が集中しますが、今度はキレた流麗さで驚かせます。速めのテンポも手伝って爽快そのもの。オケは余裕たっぷりにキレまくります。ちょっと音が飽和するところもありますが、最後は期待通りオケがキリリと引き締めて終わります。いやいや見事。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
オケがウィーン交響楽団に変わります。ハイドン最初の交響曲ですが、手元の所有盤リストでは、その1番でも最も録音年代が古いもの。97番の異常とも言える冴え方とは異なり、こちらは平常心(笑)での演奏。ハープシコードが入ります。ただこの曲でも迫力と流麗さは充分に感じられ、やはりバランスの良さを感じさせます。オケも流石にウィーン響ゆえ典雅な音色でスワロフスキーの指示に応えます。1楽章の覇気、2楽章のしっとりとした表情、3楽章のじっくりとした描写と文句なし。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
このアルバムのもう一つの聴きどころはこの告別でした。冒頭の97番の突き抜けたど迫力の演奏に対し、この告別は実に趣深い名演です。録音年代が信じられないほどニュートラルな演奏。オケの精度はウィーン国立歌劇場管弦楽団には及びませんが、情感の濃さはこちらが上。1楽章から旋律のしっとりとした美しさと見通しのよい構成感が両立する素晴らしい演奏。そして2楽章のアダージョに入ると情感はさらに色濃くなりメロディーの美しさに絶妙の翳りが加わり得も言われぬ雰囲気に。そしてあえてさらりとしたメヌエットで気分転換。中間部の陰りが続く終楽章を暗示させるのが流石なところ。
聴きどころの終楽章。前半はインテンポで畳み掛けますが、響きに独特の味わいが乗って迫力ばかりではなく趣深い音楽になります。そして奏者が一人ずつ去っていく有名なアダージョはゆったり優雅な音楽なんですが、スワロフスキーのコントロールには物悲しさを助長するように木管楽器をくっきりと浮かび上がらせます。最初は柔らかく暖かい弦の音色に包まれながらも、楽器が減っていくごとに徐々に響きの純度が上がっていき、テンポも少しずつ遅くなっていきます。最後に残るヴァイオリンの音色の美しさが印象的。この曲の美しさを知り尽くした演奏と言っていいでしょう。

アバドやメータ、アダム・フィッシャーなど名指揮者を育てたハンス・スワロフスキーの振るハイドンの交響曲3曲を収めたアルバムでしたが、このアルバム、「ハンス・スワロフスキーの芸術」というアルバムタイトル通り、スワロフスキーという人の芸術を堪能できる素晴らしいアルバムでした。97番はこれまで聴いたどのアルバムよりも踏み込んだオーケストラコントロールで97番という曲に込められたエネルギーを爆発させたような素晴らしい演奏。ウィーン国立歌劇場管弦楽団がこれほどまでに赤熱した演奏は聴いたことがありません。一方ウィーン響を振った交響曲1番と告別は趣深い名演奏。どちらも古い録音ながら、聴き続けられるべき価値を持った素晴らしい演奏です。評価は全曲[+++++]とします。

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カール・ゼーマンのピアノソナタ(ハイドン)

仕事がひと段落したので、LPをじっくり。

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カール・ゼーマン(Carl Zeemann)のピアノでハイドンのピアノソナタ2曲(XVI:31、XVI:38)とアンダンテと変奏曲(XVII:6)、ブラームスの16のワルツを収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットなどを調べてみると1959年制作のよう。手元のアルバムは米DECCAプレスですが元はDeutsche Grammophoneのプロダクションとのこと。

アルバムにはSonata No.30、No.35と表記されていますが、調性が合わないのでよく調べてみると、ライナーノーツに正しいソナタ番号が記載されており、上の収録曲目のとおり。

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カール・ゼーマンは1910年、ドイツのブレーメンに生まれたピアニスト。ライプツィヒで聖トーマス教会のカントルであったギュンター・ラミン(Günter Ramin)にオルガンを学び、ベルギー国境に近いドイツの街、フレンスブルクとブレーメン近くのフェルデンという街でオルガニストとして働いていました。1935年からピアニストに転向し、独奏のほか、高名なヴァイオリニスト、ウォルフガング・シュナイダーハンの伴奏者としても活躍しました。1960年代からは指導者としての活動が中心となり、1964年から1974年までフライブルク音楽大学の学長を務め、亡くなったのは1983年とのこと。ドイツのピアノの伝統を感じさせる人でしたが、同時代的にはリヒテル、ホロヴィッツ、ギレリスなどロシアのピアニストの存在感の影にかくれて地味な存在でしたが、近年なそのいぶし銀の演奏が再評価されているとのことです。

ゼーマンのハイドン、やはりいぶし銀という言葉がぴったり。揺るぎない安定感とドイツらしい質実剛健さが感じられる演奏でした。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
ステレオ最初期という録音年代を考えるとピアノの音に芯があってしっかりとしたいい音。軽々と弾いているようですがタッチのキレは良く、特にサラサラと流れの良い演奏。速いパッセージのタッチの鮮やかさは素晴らしいですね。2楽章のアレグレットに入ると徐々に詩情が溢れ出てきます。さりげない演奏ながら、メロディーに孤高の輝きと強さがあり、じわりと沁みてきます。ハイドン特有のハーモニーの変化の面白さもデリケートに表現してきます。3楽章のプレストに入るときの切り替えの鮮やかさもハイドンの面白さをわかってのこと。一瞬にして気配を変え、流れの良い音楽に入ります。ピアノの中低音の力強さが印象的。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
名曲アンダンテと変奏曲。予想通りかなりさらりとした入り。リズムをはやめに打つことでサラサラ感が際立ちます。ここでもタッチの鮮やかさが印象的。大きな起伏をともなう曲想ですが、ゼーマンは逆に起伏を抑え気味にして、フレーズ単位のメロディーのタッチの微妙な弾き分けに集中し、変奏をつぎつぎとこなしていきます。徐々に演奏にも勢いというか力強さが増してきて、大きなクライマックスをつくっていきます。後半に入るとタッチに力が漲り、まさに孤高の境地。一貫して速めの流れの良さを活かした演奏でした。

Hob.XVI:38 Piano Sonata No.51 [E flat] (before 1780)
優しいそよ風のようなしなやかな入り。曲想をふまえてタッチを自在にコントロールしてきます。速いパッセージのタッチのかっちりとした確かさはそのままに、淡々とした演奏から詩情が立ち上ります。アダージョも速めですが、不思議に力が抜けた感じがよく出ています。そしてプレストでは表情の変化を強弱に集中させ、リズムは一貫しているのに実に豊かな表情。ピアノの表現の奥深さを改めて知りました。

カール・ゼーマンの弾くハイドンのソナタですが、速めのテンポでさらりとした演奏ながら、くっきりとメロディーが浮かび、そしてハイドンのソナタらしいハーモニーの変化の面白さもしっかりと味わえる素晴らしい演奏でした。この高潔な表現はドイツのピアノの伝統なんでしょうね。古い演奏ではありますが、今聴いても古さを感じるどころか、新鮮そのもの。現代のピアニストでこれだけの透徹した音色を出せるひとがどれだけいるでしょうか。評価は3曲とも[+++++]とします。

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レイモン・レッパード/イギリス室内管の哲学者、47番(ハイドン)

はい、LPです(笑)

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レイモン・レッパード(Laymond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、22番「哲学者」、47番の3曲を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、別途リリースされているCDに含まれている47番が1968年12月の録音ということで、おそらく3曲とも1968年ころの録音だと思われます。レーベルは蘭PHILIPS。

このLPは先日開催した第2回ハイドンオフの当日、開催前の時間にディスクユニオンで仕入れたもの。レイモン・レッパードは地味な指揮者ですが、以前取り上げた演奏はなかなか良く、好きな指揮者の一人。そのレッパードのLPを見かけ、収録曲を所有盤リストで調べてみると、39番と47番は手許にCDがあるものの、哲学者については未所有音源だとわかり、手に入れたもの。しかも未所有の曲は好きな「哲学者」で、LPもオランダプレスのPHILIPS盤ということで、手に入れないわけには参りませんね。

2014/11/11 : ハイドン–交響曲 : レッパード、マッケラスの交響曲77番、34番、18番(ハイドン)
2014/03/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)
2013/06/01 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・ジャンドロンのチェロ協奏曲1番、2番
2012/08/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管のラメンタチオーネ
2011/02/20 : ハイドン–協奏曲 : アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン協奏曲
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集
2010/06/05 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパードのハイドン

レッパードの略歴などについてはラメンタチオーネの記事をごらんください。今日はこのアルバムに含まれている3曲のうち、冒頭の39番は米Haydn HouseのCD-Rを取り上げており、その原盤がこのLPということで、哲学者と47番を取り上げましょう。39番もCD-RとこのLPの音質比較などをする余地があるのですが、もともとHaydn HouseのCD-Rは湖国JHさんからお借りしていたものということで、手元にないため、比較は断念です。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
どうもこの曲は好みのツボがあるようで、冒頭から朴訥な音楽が流れると一瞬にしてハイドンの世界に引き込まれます。規則的に刻まれるリズムに乗って木管楽器と弦楽器によって奏でられるメロディーの心地よいこと。LPもミントコンディションで言うことなし。音量を絶妙にコントロールしながらゆったりとした起伏が描かれ、いきなりの味わい深さ。特に音量をスッとおとしながら弱音器つきの弦楽器が奏でるやさしい旋律に癒されます。何もしていないのですが、曲の真髄をえぐる演奏にアドレナリン噴出。
2楽章のプレストは実に落ち着いた演奏。キビキビとしているのですが、盤石の安定感で、オケも軽々と楽しみながら演奏しているよう。1楽章のアダージョでグッと聴かせたあとの爽快なプレスト。まさに展開の妙が味わえます。3曲入りのLPの2曲目ということで、2楽章の終わりでLPをひっくり返さねばなりません。

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3楽章のメヌエットも実に堂に入ったもので、コミカルかつ美しいメロディーの連続にハイドンの交響曲の楽しさが炸裂。適度にキレ良く、適度に弾み、適度に落ち着いたまさに名演奏。この自然さは素晴らしい。
そしてフィナーレに入るとここぞとばかりにオケが踊りだします。弾む弾む。これは演奏していたら楽しいですね。よくぞこれだけ曲に素直に楽しんで演奏できるものです。よく聴くとアクセントに独特なところもなくはないのですが、決して自己主張するようなことはなく、最後まで曲に素直な演奏で楽しませてくれます。これぞハイドン!

Hob.I:47 Symphony No.47 [g] (1772)
つづいて47番。この曲はマリナーの名前付き交響曲集に含まれているのでこのLPではじめて聴くわけではありません。後記するようにこの曲にもニックネームがついているために、マリナーの選集を補完す役割を担わされたということでしょう。演奏のスタイルは哲学者と変わらないものの、曲想にあわせて、冒頭からキレよく入ります。哲学者でもそうでしたが、ホルンの音色が実に美しい。オケの音色に華やぎが加わります。曲が速い分、オケの精度は哲学者より少し荒い気がしなくもありませんが、そんなことが気になるような演奏でもなく、冒頭から曲に引き込まれっぱなし。リズムがイキイキと弾み、弦のボウイングも鮮やか。
2楽章は流石に「告別」と同時期のシュトルム・ウント・ドラング期の最盛期に書かれた曲だけあって、仄暗い陰りと深みに溢れた名曲。レッパードは相変わらず安定感抜群で、邪念なくハイドンの曲に込められたこの時代の空気を再現することに集中しているよう。変に感傷的になることもなく、味わい深くもありながら淡々と曲を進め、曲自体の魅力を聴かせる役に徹します。次々と展開するメロディーの面白さに耳が釘付け。さらさらと筆が運ばれるしなやかな筆致。
3楽章のメヌエットは途中から逆行するためこの曲にはパリンドロウム(回文)というニックネームがついています。短い曲ながらハイドンの遊び心が込められた名旋律。
そしてフィナーレは1楽章のキレ味と呼応するようにオケが鮮やかさを取り戻します。曲の規模に対してフィナーレの充実度が勝るように感じるほどフィナーレは展開していきます。レッパードもここにきて畳み掛けるように攻めて終わります。

レイモン・レッパードと手兵イギリス室内管によるハイドンの交響曲集ですが、レッパードの無欲のコントロールがハイドンの交響曲の魅力を上手く引き出している感じ。録音も流石はオランダプレスのPHILIPSだけあって、1960年代としては十分瑞々しく、曲を存分に楽しむことができます。ちなみに哲学者はやはり一歩味わい深さが違いますね。47番の方はそれに比べると少し劣る感じがします。ということで評価は哲学者を[+++++]、47番を[++++]といたしましょう。

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ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

なんだかLPの勢いが止まりません。こうなったら今月はLPに特化します!

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amazon(別装丁CD)

ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ベートーヴェンのピアノソナタ30番、リストの「パガニーニによる大練習曲」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、同音源を収録したCDの情報によると1960年8月のおそらくセッション録音。レーベルはPHILIPSの日本盤ですが、フォノグラムではなく日本ビクター時代のもの。解説にソナタが奏鳴曲と記されているところに時代を感じますね。

このLPは最近オークションで手に入れたもの。手元にマガロフの弾くハイドンのアルバムはヴァントが伴奏を務めるピアノ協奏曲くらいで、その演奏もあまり記憶にありませんでした。ところが最近記事にした、フレデリク・マインダースのピアノソナタを聴いて、マインダースのしなやかな演奏の原点がマガロフに師事していたというところにあるような気になり、マガロフのソナタを聴いてみたいと思っていたところ、タイミングよくオークションで見つけて手に入れたという次第。こうした巡り合わせもあるもんですね。

2017/02/03 : ハイドン–ピアノソナタ : フレデリク・マインダースのピアノソナタXVI:49(ハイドン)

ピアニストの演奏の個性というのはなんとなく師事したピアニストの影響を受けるもの。ブログを始めたばかりの頃、カルメン・ピアッツィーニの演奏が師事したハンス・レイグラフの演奏にそっくりだったので調べたらレイグラフに師事していたことがわかりびっくりしたことが、当ブログで奏者の略歴などをいちいち調べるようになったきっかけとなりました。

2010/02/15 : ハイドン–ピアノソナタ : ピアノソナタ全集のあれこれ

ということで、マインダースの、ハイドンの演奏としては珍しくリズムよりもしなやかさに聴きどころを持ってきた背景には師事したマガロフの影響があるだろうとの仮説を検証するためにマガロフを手に入れたという、歴史を遡る仮説検証的興味が脳内に充満している状態。ハイドン以外に特段詳しくもない私でも、ニキタ・マガロフといえばショパンを得意としていたようであるというくらいの感触は持っていて、仮説もそれほど的外れなものではなさそうであるとの憶測もあり、興味津々といったところ。

さらに歴史を遡るわけではありませんが、一応マガロフの略歴もwikipediaなどからさらっておきましょう。

ニキタ・マガロフは1912年、ロシアのサンクト・ペテルスブルクでジョージア(グルジア)貴族の家系に生まれたピアニスト。1918年に家族共々ロシアを離れてフィンランドに渡ります。家族ぐるみの付き合いだったプロコフィエフに刺激を受け、ウクライナ出身のピアニスト、アレクサンドル・ジロティとともに音楽を学び、その後パリ音楽院に進みピアノ学部長のイシドール・フィリップに師事、またパリ音楽院を卒業した1929年にはラヴェルに才能を認められます。マガロフも恩師であるイシドール・フィリップから優雅で折り目正しい趣味のよさを受け継いでいるとのこと。ピアニストとして活躍し始めたのは戦後になってからで、やはり、ショパンの演奏で知られるようになり、特に1974年から78年にかけてPHILIPSレーベルに録音したショパンのピアノ音楽全集は、初めての全曲録音としてのみならず、録音も良く、またマガロフの叙情的かつ端正な演奏が評判となった名盤とのことです。
教育者としても有名で、1949年、あのディヌ・リパッティの後任として1949年から1960年までジュネーブ音楽院の教授を務め、教え子にはマルタ・アルゲリッチ、マリア・ティーポ、イングリット・ヘブラーなど錚々たるピアニストがいます。
私生活ではヨーゼフ・シゲティの伴奏を務めていた縁で、シゲティの娘と結婚し、スイスのジュネーブに居を構えました。亡くなったのは1992年、スイスレマン湖畔のヴェヴェイとのこと。

マガロフの録音履歴を見ると、1950年代後半からポツポツと録音され始めていますので、今日取り上げるアルバムも1960年とごく初期のもの。しかも、ジャケットにもレーベル面にも誇らしげに”HI-FI STEREO”とグィーンと表示されており、ステレオ初期のもの。このレーベルは珍しいですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
盤のコンディションはそこそこでしたが、2度ほどクリーニングしてノイズは綺麗さっぱり無くなり、演奏に集中できます。多少歴史を感じる雰囲気はありますが、ピアノの響きは非常にいい感じ。しなやかさは期待通りですが、叙情的すぎず、落ち着いたタッチから紡ぎ出されるピアノの音色が心地よいですね。前の記事のハンス・シュタットルマイアの演奏でも感じた「気品」に満ちた演奏。端正な中にも程よい芳香が感じられる演奏。この録音当時48歳くらいですので、この味わい深さは流石です。
このソナタは2楽章構成。2楽章に入ると、クッキリとメロディーを浮かび上がらせるタッチのキレを感じさせます。曲の勢いよりも少し遅れて盛り上がる独特の雰囲気。早いパッセージもさりげなくこなしますが、どこかに力の抜けた感じを伴い、優雅さがあります。ハイドンのソナタからは展開の面白さを強調する演奏が多い中、あえてさり気なく弾き進め、メリハリはメロディーを浮かび上がらせるところくらいで、やはりしなやかかつ雰囲気を重視した演奏。そう、仮説通り、フレデリク・マインダースの演奏の原型を感じさせる演奏でした。ただ鍵盤へのタッチから音がなるだけのピアノですが、こうした気配や魂のようなものが師から弟へ受け継がれていくわけですね。

つづいてベートーヴェンの30番、B面はリストの「ラ・カンパネッラ」を含む「パガニーニによる大練習曲」。ベートーヴェンも力感よりも味わいが勝る、まさに気品に満ちた演奏。そして、ショパンとともに得意としていたリストでは、驚くようなきらめきに満ちた演奏でした。これはいいですね。

わたしは、あまりイメージのなかったニキタ・マガロフでしたが、ひょんなきっかけから興味をもち、マガロフという人のことを調べ、その音楽を聴き、なんとなくこの人の音楽というか、独特の美学にふれたような気になりました。また、このところいろいろピアノの古い演奏を聴き、ピアノという楽器の表現力の幅広さをあらためて知った気がします。さらっと聴くとなにげない演奏ですが、実に深い演奏でした。ベートーヴェンとリストと組み合わされたハイドンという構図もいいですね。いいアルバムを手にいれることができました。評価は[+++++]とします。

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tag : LP ピアノソナタXVI:48 ヒストリカル

エミール・ギレリスのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11(ハイドン)

ピアノの演奏が続きますが、今日はヒストリカルなもの。

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エミール・ギレリス(Emil Gilels)のピアノ、ルドルフ・バルシャイ(Rudorf Barshai)指揮のモスクワ室内管弦楽団(Moscow Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)、モーツァルトのピアノ協奏曲21番(KV.467)の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットでギレリスのディスコグラフィを調べて見ると1959年の1月とのこと。レーベルはМелодия(Melodiya)。

このアルバムも先日オークションで手に入れたもの。もちろんギレリスのピアノがお目当てでした。エミール・ギレリスはみなさん良くご存知でしょう。あまりハイドンを演奏する人とのイメージはありませんが、数少ない録音のうち、当ブログでも2枚ほど取り上げています。

2015/10/29 : ハイドン–ピアノソナタ : エミール・ギレリスのXVI:20 1962年ライヴ(ハイドン)
2011/11/08 : ハイドン–室内楽曲 : ギレリス/コーガン/ロストロポーヴィチのピアノ三重奏曲

いずれもギレリスの「鋼鉄のタッチ」によってハイドンの音楽が揺るぎない格調高さを聴かせる名演奏。1950年代のギレリスの素晴らしさは深く記憶に刻まれておりますので、今日取り上げるアルバムを見つけるや否や迷わず入手した次第。早速針を落としてみます。

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Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ルドルフ・バルシャイの振るモスクワ室内管の序奏は実に軽やか。理想的な入りです。ギレリスのピアノは、ピアノの胴に響くような余韻を伴いながらこちらも最初は軽やかなタッチでリズミカルに音楽が進みますが、徐々に音量が上がってくると、ギレリスらしいキレの良い鋭いタッチが顔を覗かせてきます。バルシャイは一貫して爽やかな演奏でサポート。ギレリスのタッチの変化が聴きどころだと踏まえて、伴奏に徹している感じ。勢いを保ったまま、大きくうねるように表情を変化させていくギレリスのピアノ。速いパッセージの鮮やかなキレも抜群。指が回りまくってます! このコンチェルトは爽快さこそがポイントと踏まえたような演奏。
素晴らしいのが続く2楽章。バルシャイもぐっとテンポを落として音楽にえも言われぬ深みが宿ります。ギレリスもそれに応えて、じっくりとメロディーを紡いていきますが、ここにきてギレリスのタッチから生み出されるピアノの鋭くも深い音色が燦然と輝きだします。同じピアノなのにギレリスが弾くと、峻厳さ、孤高さを感じさせるところがすごいところ。バルシャイもそれに触発されて、伴奏も深く深く集中していきます。夢のような音楽が流れていきます。カデンツァは抑えた音量でピアノを鳴らしながら天上に登っていくような凝縮された時間が流れます。ピアノ1台から繰り出される音楽が、オケも含めて全員を惹きつける素晴らしいカデンツァ。
フィナーレで再びリズムと推進力を取り戻しますが、ここでもギレリスのピアノの鋼鉄のタッチが素晴らしい躍動感を帯びて圧倒的な存在感。コンチェルトのソロでテクニックではなく演奏の集中力でここまで他を圧倒する存在感を感じさせる演奏は滅多にありません。バルシャイもそれを踏まえて、控えめながら味わい深い伴奏で支えます。最後はキレのいいピアノの響きを轟かせて終了。いやいや素晴らしい演奏でした。

やはりギレリスはギレリス。奏者によって様々な響きを聴かせるピアノですが、ギレリスが弾くと、はっきりギレリスの音楽とわかる音楽が流れ出すのがすごいところ。鋼鉄のタッチでも、爽快な響きも孤高の響きもグイグイ推進する響きも自在に繰り出しながら、音楽を作っていきます。このコンチェルトでは、テクニックではなく音楽の深さで圧倒的な存在感を示し、特に2楽章のカデンツァでは微かなタッチの紡ぎ出す音楽の存在感に圧倒されました。録音も鮮明で1950年代のギレリスの魅力を余すところなく捉えた素晴らしいもの。これは文句なしの名演盤です。もちろん評価は[+++++]とします。

裏面のモーツァルトもこれまた素晴らしい演奏。バルシャイはハイドンの時よりも踏み込み、ギレリスのピアノも冴えまくってます。こちらもオススメです! 中古で見かけたら即ゲットですね。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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