【新着】トム・ベギンのハイドン鍵盤独奏曲全集

久々の大物です。先週HMV ONLINEで届きましたが、全容を把握するのに苦労しました。

Beghin.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

トム・ベギン(Tom Beghin)がハープシコード、クラヴィコード、スクエアピアノ、フォルテピアノ、ピアノ(現代のピアノではなく19世紀のイギリスのピアノ)などを弾き分け、ハイドンのピアノソナタと変奏曲など演奏したアルバム。CD12枚組とメイキング映像などを収めたDVD1枚をあわせた13枚組。収録は2007年4月から10月と2008年の6月、カナダのモントリオールのマッギル大学「音楽メディアと技術に関する学際研究センター(CIRMMT)」でのセッション録音。レーベルは廉価盤勃興の祖NAXOSです。

月並みな紹介から入りましたがこのアルバムは凄いものです。ハイドンの鍵盤独奏曲全集を今、世に問うというだけでも労作なのですが、このアルバムの企画は壮大です。

まずは楽器ですが、奏者であるトム・ベギンがハイドンの時代と曲想から7つの楽器を選んで録音しています。DVDのメイキング映像で詳しく触れられているのですが、時代考証をもとにした演奏当時の楽器を選定いるのみならず、曲のイメージにあわせて楽器が選ばれています。古くはハープシコード、クラヴィコードから、スクエアピアノ、フォルテピアノ、ピアノに至るまで、今回の録音のために周到な準備の上に楽器を選定している事がわかります。各楽器は楽器修復家を呼び寄せて録音のために調整させたり、あらたに造ったりしている事がわかります。クラヴィコードなどの雅な響きはこれまで様々なアルバムで音としては聴いていますが、今回のメイキング映像を通して、映像として理解できるのは貴重な事ですね。

そしてこのアルバムの真髄は録音。上記のとおり演奏はモントリオールで収録されているのですが、そのコンセプトにビックリです。アルバムタイトルはジャケット写真を見ていただいてもわかるとおり「ザ・ヴァーチャル・ハイドン」。モントリオールでの演奏録音は、ハイドンにゆかりのあるアイゼンシュタットなどの9カ所を選んで、その場所での残響をデジタルデータで記録し、モントリオールのスタジオで、その場所の残響を再現しながら収録すると言うもの。デジタル時代ならではのまさにヴァーチャルな響きですね。

アルバム全体は10のプログラムに分けられており、7つの楽器と9の会場からテーマに応じて、主に作曲年代順にソナタと変奏曲が並べられています。それぞれの演奏は思い切りのよい奏法、テンポ、音色の変化を交えた演奏で、時代考証を主眼としたものではなく、現代の視点で時代も一要素として再構築されたもの。トム・ベギンの多彩な視点と創意が感じられて非常に興味深い演奏。まだ何枚かつまみ聴きしたのみですが、古楽器によるハイドンのソナタ全集としては一番のおすすめ盤となるでしょう。

録音は響きは素晴らしいもののオーディオ的な耳で聞くと2チャンネル録音としての定位感までは再現できていないようです。最新録音らしく響きの鮮度は高く非常に聴きやすい録音。楽器の音が比較的オンマイクで捉えられ、それぞれの会場の残響が付与されたもの。スピーカーの間に楽器が定位するという感じよりは、スピーカーの間に巨大な楽器が曖昧なまま浮かび上がるような特殊な定位感。これは致し方ないでしょう。

秀逸なのはDVD。ちゃんとした日本語字幕がついているので情報も十分です。この映像だけでもこのアルバムを手に入れる価値は十分です。トム・ベギンをはじめとするスタッフが今回のプロダクションにかける情熱がつたわってくる素晴らしいもの。メイキング映像の最後はハイドンが亡くなる直前に弾いたとされる現ドイツ国歌の「神よ、皇帝フランツを守り給え」をハイドンゆかりの部屋で弾くシーンは何とも感動的なもの。映像のプロダクションもきちんとしており、決してオマケと言うようなものではありません。もともとがブルーレイの映像とブルーレイオーディオのマルチチャンネル音声のアルバムとしてリリースされていたようですので、もしかしたらマルチチャネル音声のほうが聴き応えがあるかもしれませんね。

まだ、つまみ聴きの段階なので評価はしていませんが、所有盤リストへの登録はこの週末に全曲終わりましたので、徐々に評価をつけていきたいと思います。

NAXOSはすでにヤンドーでピアノの演奏によるハイドンのソナタ全集を完成させているのに、今回のこの全集をリリースするとは驚きです。最近バリトントリオやスコットランド歌曲集の全集でハイドンファンの心を鷲掴みにしたBrilliant Classicsに一矢報いた格好になりましたね。これだけ素晴らしいボックスセットが、5000円もせずに手に入るのですから、ほんとに良い時代になったものです。しばらくはこのアルバムの演奏を楽しみたいと思います。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタ全集 古楽器 ハイドン入門者向け スクエアピアノ クラヴィコード 皇帝讃歌 DVD

ピアノソナタ全集のあれこれ

このところ、ピアノソナタのCDの棚卸しで、あれこれとつまんで聴いてます。
その中で気になったものをいくつか。

1つ目はピアッツィーニ。

Piazzini.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

これはARTE NOVAレーベルから1枚づつリリースされていたものをまとめた9枚組の全集。手に入れたときには、あまり印象に残らなかったものですが、今回あらためて何枚か聴いてみました。

特に録音年月の古いものほど、ゆっくりした楽章が、どこかで聴いたようなフレーズ。
そうです。1月19日に取り上げた(http://haydnrecarchive.blog130.fc2.com/blog-entry-2.html)レイグラフとそっくりなんです。
そこで恐る恐るライナーノーツを紐解いてみると、ピアッツィーニはアルゼンチンのブエノスアイレス出身で、ドイツに渡り、ケンプの支援のもとレイグラフに長年師事したとのこと。納得です。

まさに「鍵盤を一つ一つ確かめるように、音をおいていくような演奏」です。最後の2枚については、レイグラフの影響から少し離れて、自身の演奏スタイルを見いだしたようなところもありますが、全般にレイグラフの影響を大きく受けていることは間違いありません。落ち着いて味わい深いハイドンの全集として、おすすめ出来る選択です。


2つ目は、NAXOSのヤンドー盤です。

Yando.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

こちらも、10枚にわたってリリースされてきたものを最近ボックスとしてまとめてリリースされたもの。

こちらも入手時に聴いたときはテクニックは確かだけど、これといって特徴のない演奏という印象。ところが、あらためていろいろ聴き直してみると、これが非常にいい。ピアノによる演奏では、ベーシックな選択としてどなたにもお勧めできるもの。どの曲もバランスよく、曲の面白さがよく表現できていると思います。

どちらのセットもボックスで入手すれば非常に安いものですので、ピアノの演奏でハイドンのソナタを楽しむための入門盤としておすすめできます。ちなみにどちらかと言えば、私はヤンドー盤をとりますかね。

ピアノによる全集にはまだまだ選択肢がありますが、整理中ゆえ、またの機会に紹介しましょう。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタ全集

先生と生徒

ショルンスハイムのハイドンのピアノソナタ全集。

Schornsheim.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

ハイドンのピアノソナタを時代に応じてクラヴィコード、ハープシコード、フォルテピアノなどを弾き分けて録音したもの。2003~2004年の録音。
初期のもはハープシコードやクラヴィコードで淡々と弾いていき、後期のものはフォルテピアノに。時代とともに響きが変わり、響きと強弱が豊かになっていきます。楽器の変遷を追って多彩な響きが楽しめます。
この全集の聞き所は、2曲はいっている連弾用ソナタで、特にXVIIa:1「先生と生徒」が秀逸。連弾はおそらくショルンスハイムより格上だと思いますがシュタイアーが担当。本来なら、シュタイアーの全集の連弾にショルンスハイムが登場するところでしょう。不思議な企画です。(シュタイアーは別に選集がDeutsche Harmonia Mundiからでています)
おそらくシュタイアーがリードしているんでしょう、他の曲の録音とは次元の違う自由闊達な演奏で、なぜか携帯電話の着信音や声の効果音が入るサービス満点な演出。
このアルバム自体が先生と生徒の合作のような趣です(笑)

あと、意外と良かったのが、皇帝の2楽章の変奏曲。フォルテピアノの弦のびり付きまでリアルにとらえた録音と叙情的な表現が決まってます。

前半のクラヴィコード、ハープシコードでの演奏はハイドンの曲の楽しさを表現しきれていないもどかしさがつきまとうものの、後期のソナタでは明らかに奏法を変え、表現の幅が広がっています。

全集としては作りもしっかり、ライナーノーツも緻密なつくりですが、様々な全集がでている中、ファーストチョイスにはおすすめしにくいです。ピアノソナタを聞き込んだベテラン向けのセットという位置づけでしょう。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタ全集 古楽器 クラヴィコード 皇帝讃歌

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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