【新着】ヴィニシウス・ペレスのリュートによるソナタ(ハイドン)

本日は珍しいアルバム。リュートでハイドンのソナタを演奏しているアルバムです。

ViniciusPerez.jpg
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ヴィニシウス・ペレス(Vinícius Perez)の13弦リュートによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:10)、カール・コハウト(Karl Kohaut)のリュートソナタ、モーツァルトのディヴェルティメント(KV439b/II)、クリスティアン・ゴットリーブ・シャイドラー(Christian Gottlieb Scheidler)のモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の主題による変奏曲の4曲を収めたアルバム。収録は2015年5月9日、10日、スイスのバーゼルの南の街バインウィルにあるバインウィル修道院(Kloster Beinwil)でのセッション録音。レーベルは独ライプツィヒのklanglogo。

ハイドンのピアノソナタが鍵盤楽器以外で演奏されるのは非常に珍しいこと。ブログを始めた頃にアコーディオンで弾いたアルバムを取り上げたことはありますが、これも鍵盤楽器の範疇でしょう。

2010/02/02 : ハイドン–ピアノソナタ : 珍盤! アコーディオンソナタ

さて、リュートといえば当ブログによくコメントをいただくmichaelさんの縄張り(笑)。私自身はリュートに詳しいわけでもなく、たまに聴く程度なんですが、リュートやギターは好きな楽器です。特にリュートの吸い込まれてしまうような雅な響きは格別魅力的です。普段ハイドンばかり聴いているのですが、ちょっと確認してみたところ、リュートのアルバムも以前に2度ほど取り上げています。

2011/05/16 : ハイドン–室内楽曲 : ヤコブ・リンドベルイのリュートによる室内楽
2010/06/28 : ハイドン以外のレビュー : ポール・オデットのリュート

特にポール・オデットのアルバムは手元に何枚かあり、時折リュートの音色が恋しくなった時にかけて楽しんでおります。

今日取り上げるアルバムでリュートを引いているヴィニシウス・ペレスは、まったく初めて聴く人。ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ生まれで幼少時からギターを学び、その後リュートなどの古楽器へ興味を持つようになります。スイスのバーゼルのスコラ・カントルム・バジリエンシスでその道の権威であるホプキンソン・スミスに師事し、現在はソリストやコンティニュオ奏者として活躍しているとのこと。どうやらこのアルバムがデビューアルバムということのようです。

最新の録音らしく鮮明な響きでリュートの美音が楽しめるアルバムです。例によってハイドンの曲のみレビュー。

Hob.XVI:10 Piano Sonata No.6 [C] (before 1760)
ピアノソナタをペレスがリュート演奏用に編曲したもの。もちろんメロディーは同じですが、音色が異なるだけで雰囲気はまったく異なり、中世の曲を聴いているような気になります。このソナタの冒頭はピアノで弾くとリズムのキレで聴かせるのですが、リュートの弦を弾くの若干のリズムの重さが逆にアルカイックな雰囲気を濃く感じさせます。静かな修道院のホール響き渡るリュートの響き。スピーカーの前にリュートが定位。比較的近くで弾いている感じです。右手の位置を巧みに変え、音色を変化させるのはギター同様の手法。音色と音量を巧みに操り、またリュートらしい余韻の長い響きに包まれながらの演奏。フレーズごとに表情を少しずつ変えることで音楽の彫りが深くなっていくところも流石です。1楽章は落ち着いた表情を保ちながら実にデリケートなコントロール。終盤の高音の美しい響きさらりと聴かせ、また音量をすっと落として、吸い込まれるような魅力を振りまきます。
続くメヌエットは音楽の流れの良さで聴かせます。微妙なリズムの変化の面白さに集中します。中間部のトリオではじっくりとメロディーを焼き付けるような印象的な演奏。ハイドンらしい美しいメロディーに中世のお化粧を施したよう。そして再びメヌエットのメロディーがサラサラと流れます。
フィナーレでは程よく快適な速さながら落ち着きを保った演奏。高音の主旋律だけがクッキリと浮かび上がるよう、右手のタッチは見事なもの。フレーズごとに音色が次々と変わりますが、流れの良さはしっかり保つことで、曲がまとまります。最後の一音の余韻が空間に消えていくようすを楽しんで終わります。

つづくコハウト、モーツァルト、シャイドラーの演奏も落ち着いた深い響きを存分に楽しめる名演奏。ヴィニシウス・ペレス、若いのにじつに穏やかな音楽を聴かせる人でした。

リュートという楽器にはなにか特別な神々しい雰囲気を感じさせます。ハイドンという作曲家が英知を尽くして書いた曲なんですが、作曲家の個性を上回る響きの個性が曲に満ちることで、ハイドンの音楽というよりリュートの音楽に聴こえてしまうのが不思議なところ。心に触れる高音の典雅な響き、長く漂う余韻、微妙に変化する音色。ヴィニシウス・ペレスという人は、このリュートの魅力をふまえて、控えめな表現で静かに深い音楽を奏でる人でした。この深さは思慮深い控えめさがポイントなのでしょう。これからが楽しみな人ですね。ハイドンの評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノソナタXVI:10 古楽器 リュート

【新着】オリヴィエ・カヴェーによるピアノソナタ集(ハイドン)

最近リリースされ、届いたばかりのアルバムです。

OlivierCave.jpg
TOWER RECORDS / amazon

オリヴィエ・カヴェー(Olivier Cavé)のピアノによるハイドンとスカルラッティのピアノソナタ集。ハイドンのソナタはHob.XVI:37、XVI:6、XVI:10、XVI:23、XVI:24の5曲でハイドンとスカルラッティの短いソナタ5曲が交互に置かれた珍しい構成。収録は2015年1月4日から6日にかけて、ブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはæon。

このアルバム、”chiaro e scuro”とイタリア語でタイトルがつけられていますが「明暗」とでも訳すのでしょうか。いままでありそうであまり見かけなかったハイドンのソナタとスカルラッティのソナタを交互に構成したアルバム。ハイドンとスカルラッティといえば当ブログにコメントをいただくpascal_apiさんの提唱する「ハイドン良ければ、スカルラッティもまた良し」という法則がありますが、その法則を知ってのこのアルバムを構成したわけではないでしょう。ただしハイドンのソナタの演奏に必要なセンスというかバランス感覚とスカルラッティに必要なそれに共通するものがあるというのは頷けるところでしょう。

このアルバムのライナーノーツにはアルバムのコンセプトとその辺の核心に触れる記述が冒頭に記されていますので、訳して載せておきましょう。なかなか難しい文章なので、アルバムをお持ちで英語の才がある方、訂正などあれば宜しくお願いします。

ハイドンとスカルラッティに共通する芸術的感覚があることはあまりにも知られていなさすぎます。変幻自在な多様性、リズムの創意、哀愁への展開、変化に富んだ表情の二拍子を好んで用いたことなど、絶えず私たちに音楽的発見をもたらしてくれます。私たちは創造の喜びを実感しています。加えて2人の作曲家は、作曲技法よりも聴衆の求めにどれだけ応えられるかに細心の注意を払い、このことに関して驚くほど類似した方法で自己表現しているのです。


時代は大分異なるものの、ハイドンとスカルラッティに共通するものがあることは世界的にもあまり知られていないなか、日本のハイドンコミュニティでは、すでにそれを見抜いていたということでしょう。

ピアニストのオリヴィエ・カヴェーはスイス人ながらナポリにルーツを持つ人のようです。アルド・チッコリーニ、マリア・ティーポらナポリ出身のイタリア人ピアニストらに師事し、デビューしたのは1991年、メニューヒン率いるカメラータ・リジー・グシュタートとの共演。メニューヒンの愛弟子、アルベルト・リジーのヴァイオリンによるヴァイオリン協奏曲の演奏は以前取り上げ、素晴らしい演奏が記憶に新しいところ。近年では2008年、このアルバムと同じaeonからリリースされたスカルラッティのソナタ集が評判を呼び、その後クレメンティのソナタ集、バッハの協奏曲集をリリース。このハイドンとスカルラッティのソナタ集が4枚目のリリースとなります。

Olivier Cavé

はたしてこのアルバム、pascal_apiさんの法則の普遍性を立証することになるのでしょうか。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
鮮烈な音色の感覚をもつ曲。実に輝かしいイタリア風の音色をもつ人。チッコリーニに師事したというのも頷けます。ハイドンのソナタの演奏に必要な軽さというか、機知に富んだタッチを身につけ、さらりとこなしていきます。くっきりとアクセントがついた旋律を速めのテンポでこなしていきますが、まるで陽光に輝くイタリアの風景のように感じる明るさがあります。タッチのキレも最高。
驚くのは2楽章のラルゴ。ぐっとテンポを落として深い淵を覗くような濃密な音楽に変わります。いきなり香り立つ詩情。1楽章で見せたキレと輝きからデリケートなタッチに急変。休符を長くとって音楽の陰影が一気に深まります。
静けさから光が射すように明るい音楽が戻るフィナーレ。強音のタッチのキレは素晴らしく、音楽のキレにつながっています。ハイドンの小曲のなかにこれだけの表情の変化を込めるあたり、かなりの実力と見ました。

間に挟まれたスカルラッティのKk 425は小曲ながらも鮮やかなタッチが眩しい演奏。

Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
このアルバムに収録されたハイドンのソナタは初期から中期のもの。前曲同様軽めのタッチが心地よい演奏。1楽章は速めの楽章をクッキリと明るく描き、特に高音の明晰な音色はこの人の特徴ですね。この曲は2楽章がメヌエットで3楽章がアダージョ。メヌエットではタッチの軽さと諧謔ささえ感じる表現の幅が冴えて短い楽章をじっくり聴かせます。そして短調のアダージョでは前曲のアダージョ同様ゆったりとした音楽のなかに閃きと深みを感じさせる至福の時間が流れます。そしてフィナーレでは再び軽さをとりもどしてまとめます。ハイドンのソナタのツボを完全に掌握して軽々と終えるあたり、流石です。

続くスカルラッティのKk 495は、ハイドンの軽快さを受けつぐようなタッチの軽さとメロディーの面白さに溢れた曲。途中無限ループに入ったような不思議な感覚を感じさせます。この軽さ、尋常ではありませんね。

Hob.XVI:10 Piano Sonata No.6 [C] (before 1760)
タッチのキレは安定しています。ハイドンの初期のソナタの面白さを存分に感じさせます。この曲は2楽章がメヌエットの3楽章構成。アダージョのじっくりした魅力を味わえないのが残念ですが、メヌエットが十分聴かせどころになるという凄腕。これほど表情豊かにしっとりと耳に入るメヌエットはなかなかありません。よほどに鋭敏な感覚を持った人ですね。

このあとのスカルラッティはKk 432と、鮮やかなタッチが印象的。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
シュトルム・ウント・ドラング期直後のソナタに入ります。これまでの演奏ですでにハイドン奏者としての才は把握しているつもりで聴き始めますが、この1楽章の恐ろしいほどのキレと落ち着きは予想を上回るもの。最近ではアムランのソナタ集が殺気を感じるほどの冴えを聴かせたんですが、アムランのハイドンにはハイドンの時代の空気のようなものは感じられず、あくまで現代の視点での演奏といった感じなのに対し、このカヴェーの演奏はハイドンの作品に潜む明るさや明晰さ、機知などの魅力をふまえたより音楽的な魅力をもっているように感じます。完全にカヴェーの術中にはまった感じ。2楽章のアダージョのしっとりと落ち着き払った佇まいも完璧。そしてフィナーレも余裕たっぷりに鮮やかなタッチでさっと終えます。

スカルラッティの4曲目はKk 342。多くの音符の織りなす綾のようなものをくっきりと浮かび上がらせて音楽的快感を感じる演奏。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
ハイドン最後のソナタ。前曲同様シュトルム・ウント・ドラング期直後のソナタ。軽いタッチで速いパッセージをキレよくクッキリとこなしていくところは前曲同様。この曲で素晴らしいのはやはりアダージョ。そっと鍵盤に触れるようなタッチから入り、ハイドンの書いた美しいメロディーを空間においていくよう。研ぎ澄まされた凜とした風情。これ以上の癒しはないほど。ふと暖かい表情の和音につつまれる瞬間の幸福感。絶品ですね。そしてその幸福感も時の流れだと言わんばかりに軽快なフィナーレに移り、サラリとフレーズをこなして終わります。いやいや本当に素晴らしい。

最後のスカルラッティはKk 128。短調のうら悲しい表情が印象的なゆったりとした曲。ハイドンの曲と言われてもわからないような雰囲気もあります。5分少々とスカルラッティの中では最も長い曲。じっくりとメロディーをかみしめるような演奏でこの曲の芳しいような魅力が引き立ちます。

暗闇に不敵な笑みを浮かべてライティングで浮かび上がるオリヴィエ・カヴェーの姿が印象的なジャケット。ハイドンの新譜ということで何気なく手に入れたアルバムですが、よく見てみるとハイドンとスカルラッティを交互に組み合わせた、通好みの選曲。このアルバムの企画から、この演奏の素晴らしさは予想されたかもしれませんね。もちろんpascal_apiさんの法則の普遍性まで検証されたことになります。このアルバム、ハイドンの初期のソナタの魅力を余すところなくつたえる名盤として皆さんにオススメすべき名盤です。カヴェーはスイス人ということですが、チッコリーニやティーポに習い、スカルラッティがデビュー盤ということでイタリアナポリの血が流れているのではと思うほどです。評価はもちろん全曲[+++++]とします。スカルラッティも素晴らしいですよ。

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綿谷優子の初期ソナタ集(クラヴィコード&ハープシコード)

しばらく前にデレク・アドラムのクラヴィコードのソナタ集を取りあげましたが、そのアルバムを手に入れたころ集中的にクラヴィコードのアルバムを集めていました。今日はその中からの1枚。

YukoWataya.jpg
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綿谷優子のクラヴィコードとハープシコードによるハイドンの初期ピアノソナタ集。ごく初期のソナタ18曲を収めた2枚組のアルバム。収録は2001年6月、ベルギーのブリュッセル北西50kmほどのところにあるヘントのギルバート・スターボート(Gilbert Steurbaut)スタジオでのセッション録音。レーベルはベルギーのPAVANE RECORDS。

綿谷優子さんは桐朋学園大学ピアノ科卒のフォルテピアノ、クラヴィコード、オルガン奏者。1980年頃より国内外の演奏家らとの室内楽のを中心に演奏活動を活発に行い、その後、ベルギー王立ブリュッセル音楽学院で、ロバート・コーネン、アラン・ジェームスらにハープシコードの演奏を学び、1992年、同学院にて最高栄誉賞付ソリスト・ディプロマの学位を取得しました。以降、ベルギーを中心に演奏活動を続けている人。この方、かなり膨大なコンテンツのあるウェブサイトを運営されていますので紹介しておきましょう。

Yuko Wataya チェンバロ・クラヴィコード・ピアノフォルテ・オルガンへの招待

ウェブ草創期の香りの残るテキスト中心のサイト。構成がかなり入り組んでいて読むのに苦労しますが、いろいろなことがそこここに書き連ねてあり、必要な人には実に貴重な情報があるかもしれません。ハイドンに関する文献の訳もかなりの量が掲載されています。私は独特の視点の「綿谷優子のベルギー日記帳」(サイトのトップのWhat's New)をしばらく読みふけってしまいました。

さて、今日取り上げるこのアルバムですが、ポイントはクラヴィコードとハープシコードで弾き分けた初期のソナタがいかほどの完成度に仕上がっているかと言う事でしょう。このアルバムのCD1から何曲か取りあげましょう。

使用している楽器は次のとおり。

クラヴィコード:Jean Tournay(1994) after Hieronymus Haas, 1751(Christopher Hogwood Collection)
ハープシコード:Ivan de Halleux(2000) after Pascal Taskin, 1770(Yale Collection)

Hob.XVI:G1 / Piano Sonata No.4 [D] (before 1760)
最初はクラヴィコードの演奏。クラヴィコード独特の雅な音色。実際は音量はかなり低いものでしょうが、録音上はうまく処理して音量が気にならないよう後につづくハープシコードの音量とバランスがとられています。演奏は楽譜に忠実に淡々と弾き進めるもの。実に誠実かつ穏当な印象。良く聴くとフレーズごとに実にきめ細やかな表情付けがされ、クラヴィコードの繊細な響きを微妙に変化させ、大人しいながらも豊かな音楽をつくっていきます。クラヴィコードの演奏に見られる不安定さは微塵もなく、楽器のダイナミクスの範囲を巧く使って、非常に安定した演奏。音楽が淀みなく流れ、非常に豊かな気持ちにさせられます。鍵盤を打鍵するエネルギーのようなものがうまく録られ、間近で演奏しているように聴こえるなかなかの録音。ハイドンのごく初期のソナタの素朴さとクラヴィコードの音色がマッチしてえも言われぬ雰囲気です。

Hob.XVI:11 / Piano Sonata No.5 [G] (1750's)
この曲もクラヴィコードでの演奏。1楽章はリズムの面白さを活かした曲ですが、演奏の基本は前曲と変わりません。演奏の安定度は抜群で、曲ごとのムラはほとんどない、というかなかなかの集中力だと思います。クラヴィコードの音色、音量に慣れてくると、その中で起こる音楽のドラマに集中できます。やはり淡々と流れる音楽の深さがわかってきます。実に優雅な時間。クラヴィコードの魅力にすっかり打たれます。

Hob.XVI:10 / Piano Sonata No.6 [C] (before 1760)
クラヴィコードの演奏。ハイドンの時代にタイムスリップしたような気持ちになります。頭の中ではピアノの輝かしい音色の響きも鳴り響きますが、クラヴィコードで聴くこの曲は、メロディーの面白さがかえって引き立ちます。楽器の音色とメロディーが実によくマッチしています。綿谷さんのクラヴィコードの演奏は、実に素朴で、個性的と言う訳ではありませんが、曲のメロディーが活き活きと鳴り響く、実に玄人好みの演奏。穏やかな音楽の景に安定した技術と精神があるものと思います。

Hob.XVI:8 / Piano Sonata No.1 [G] (before 1760)
1曲飛ばして、こんどはハープシコードでの演奏。突然世界が変わったようなハープシコードのクリアな響き。曲と楽器の組み合わせには考えがあるのでしょう。音量や響きの美しさの聴き所が変わり、もちろん楽器の表現の幅も広がり、ハープシコード独特の金属っぽい響きによって、ハイドンのソナタがまったく別の表情を見せます。演奏の基本は楽器が変わってもやはり一貫しており、淡々と音を重ねて、深遠な世界を描いていきます。小手先の表現は最小限で、音をかさねていくことで描かれる大きな表情に神経が集中しているようです。ちょうどクイケンの指揮のハイドンの演奏と音楽の造りがにています。

時間の関係で、4曲をさらっと取りあげましたが、綿谷優子さんの演奏によるハイドンの初期ソナタ集は日本人らしい、岩清水のような清澄さと、鉋を掛けたての檜の柱のようなしなやかな表情が特徴の演奏でした。実に淡々と演奏を進めるなかに、音楽的な深みもあり、地味な演奏と聴く方もいらっしゃるかもしれませんが、私は非常に気に入りました。ハイドンの曲からバッハのような深遠な雰囲気すら感じる瞬間があります。クラヴィコードとハープシコードでハイドンの曲の魅力を双方から浮かび上がらせるというアルバムの企画も冴えています。評価は全曲[+++++]とします。入手は容易そうですので、ハイドンの初期ソナタの古楽器による演奏の入門盤、そしてクラヴィコードの音色を味わうアルバムとしてもオススメです。

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濃密な軽妙

Say.jpg
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昨日につづきピアノソナタです。ファジル・サイのはじめてのハイドンアルバム。以前に手に入れていたものをリストに追加です。

春の祭典をピアノでやったり、テクニックはものすごいものがありますが、不思議と気負いもなく、かなり自由にやる人だなとの印象があり、ハイドンは相性がいいはずとの予感は的中です。

軽妙な語り口なのに、濃密なところもありハイドンの仕組んだソナタの機知と変化を存分に楽しめます。サーカスを見に行って、ベテランピエロの至芸を見た気分を味わえます。昨夜の一枚が哲学の淵をかいま見せたのとは異なり、楽しめる名人芸といった感じです。

評価は[+++++]と高めにつけました。
皆さんの評価は如何に。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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