【新着】ダリア・グロウホヴァのハイドンのピアノソナタ集第3巻(ハイドン)

ショパンのようにハイドンを弾く人、ダリア・グロウホヴァのソナタ集の3枚目がリリースされました。

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ダリア・グロウホヴァ(Daria Gloukhova)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:6、XVI:34、XVI:14、XVI:40、XVI:37)を収めたアルバム。このアルバムのタイトルは「ハイドンのお気に入りのソナタ」。収録は2012年11月、これまでの2枚と同じ、モスクワ議会議事堂のラジオ放送収録第1スタジオでのセッション録音。レーベルは米CENTAUR。

短期間に3枚リリースされ、今回のアルバムも有名曲を集めたものではないことことを考えると、もしかして全集を企てているのでしょうか。

2013/12/30 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ダリア・グロウホヴァのハイドンのピアノソナタ集新盤(ハイドン)
2013/12/02 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】ダリア・グロウホヴァのピアノソナタ集(ハイドン)

いずれにせよ、ハイドンのピアノソナタに新風を吹き込むグロウホヴァの新盤は気になるものということで、迷わずゲットし、迷わずレビューと言う流れです。

Hob.XVI:6 / Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
ごく初期のソナタ。4楽章構成。いつものように軽やかな入り。テンポを自在に動かし、サラサラとメロディーを置いていきます。いつものようにまさにショパンを弾くような詩情が溢れます。ハイドンの古典的な美しいメロディーと簡潔な構成の曲に花の香りをまぶしたような華やかさ。きらめくような高音の音階、疾走するような鮮やかなパッセージとふと力を抜いた間のコントラストが絶妙ですね。リズムを強調せず流すように弾いていくことでメロディーの美しさと構成の面白さをさらりと表現しています。
すっとメヌエットに入り、しっとりと落ちついた景色が広がります。中間部は敢えてすこし刺激を残すようなアクセントを織り交ぜ、ふたたび癒されるようにしっとりとした音楽に戻ります。さりげない変化が音楽を豊かにしています。
お気に入りのソナタというタイトルに偽りなし。このアダージョのデリカシーに富んだタッチは曲の魂に近づいたような渾身の演奏。なんと澄みきった音楽。なんとデリケートなタッチ。この初期のソナタの楽譜からこれほどの香しい音楽が流れ出そうとは。
フィナーレは広がった癒しを片付けるようにさらりと表情を変え、聴くものの脳に創意というものを教えるような機転。軽やかに進むメロディーの純粋に音楽的な響きに安堵。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
一転してだいぶ後の時代の有名なソナタ。この曲はブレンデルのアルバムの冒頭に置かれていたので、ブレンデルの演奏で刷り込まれたもの。やはりブレンデルの骨太な楽興とはことなり、速めのテンポで力感ではなく流れの良さで聴かせる。ブレンデルがそば粉の噛見応えで聴かせるのに対し、グロウホヴァはそうめんの喉越しで聴かせているよう(笑) このソナタに込められたしなやかな流れの部分にスポットライトを当てて、これまでのこのソナタのイメージとは違った余韻を残します。
アダージョは流れの良さを出そうとしているのか、かなり速めのテンポで入りますが、この速めのテンポでメロディーの一音一音が天の川のきらめきのようなきめ細かな音のシャワーのようになって降り注ぎます。満天の星空を眺めるような澄みきった心境になります。終盤の起伏も迫力ではなくドラマティックに間をとります。
フィナーレはやはりきらめくようなメロディーの美しさが際立ちます。美しいタッチから生まれる控えめな推進力と響きのデリケートな変化。この繊細なニュアンスのコントロールこそグロウホヴァの真骨頂でしょう。この曲をリズムと力感で聴かせる演奏が多かったのでグロウホヴァのさらりとした演奏になじめないかと思いきや、聴いてみると、すっと心に染み込みました。

Hob.XVI:14 / Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
再びごく初期のソナタ。最初の1音の醸し出す癒しにいきなりノックアウト。この音色の感覚、冴え渡っています。千変万化する響きの魅力にやられっぱなし。指一本一本のタッチのコントロールの繊細さに驚きます。この記事を書きながらジャケット写真に目をやると、こちらの心に灯をともすようなグロウホヴァの視線にぐらっときます(笑) なんでしょう、この豊かな音楽。ハイドンのソナタのハイドン自身が書いた音楽に魔法をかけ、妖艶な魅力を与えてしまったよう。フォルテピアノの時代に書かれた音楽が、現代の艶やかなピアノの音色で、艶かしく、そして突き抜けるように清透な響きを帯びて流れていきます。繰り返し奏でられるメロディーが麻薬のように脳の癒し中枢を麻痺させていきます。
続くメヌエットは足早に。流れる音階の快感。そして時折きらめき、時折慌てながら、ハイドンのメヌエットのメロディーと構成の面白さを早送りで見せるような機転。この辺の演出の上手さも唸らされるところです。
フィナーレはメヌエットの流れを受け、早送りのイメージを引き継ぎます。やはり曲を完全に読みこなしてこそのアプローチでしょう。

Hob.XVI:40 / Piano Sonata No.54 [G] (c.1783)
初期のソナタと後年のソナタを交互に配置しているのですね。1783年頃作曲された2楽章構成のソナタ。長調のソナタなんですがすぐに短調に変わる光と影をあらわすような曲調。今までの曲のなかでは一番あっさりとした入り。初期のソナタに素晴しく豊かなニュアンスを与えたのに対し、このソナタでは少し枯れたような表情を垣間見せます。右手と左手のメロディーをすこしずらして聴かせるなど、はっとさせられる部分もあり、この曲ではすこしアプローチがこれまでと変わったようです。豊かなニュアンスを耳が期待しますが、逆に高音の透明感と良く響くピアノの響きの複雑さが聴こえてきます。
プレストに入ると鮮やかなタッチで活き活きとした音階を奏で、特に右手のキレの良い隈取りが音楽に輝きを与えます。2楽章構成のこの曲想に合わせて、響きのデリケートさよりも透明感のある軽やかなキレを聴かせたかったようです。

Hob.XVI:37 / Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
最後の曲は前曲よりも3年ほど遡った1780年頃の曲。アルバムの最後を飾るのに相応しい、色彩感と力感。グロウホヴァ独特の豊かなニュアンスが戻ってきました。速いパッセージなのにタッチのデリケートさと豊かな色彩感が出色。音楽に宿る気配から表情を引き出す鋭い感覚があるのでしょう。一気に弾き進める演奏も多い中、このような速いパッセージでも素晴しく豊かな表情が際立ちます。
つづくラルゴは好きな曲。ゆったりと沈み込む情感が特徴の曲ですが、グロウホヴァは沈み込まず、メロディの美しさを聴かせようとしているのか、フレーズのつなぎ目に間をおかずさらさらと流れる音楽に仕立て上げます。間をおかず軽やかなフィナーレに入りますが、こんどは途中で絶妙にリズムに重さををまぶし、一筋縄ではいかないというところを聴かせます。これも機知。ハイドンが仕込んだのとは異なる機知を織り込んできます。おそらくハイドンが聴いたら、この新しい才能を見抜き、自らの曲に新たな息吹を吹き込むこの奏者を気に入る事でしょう。

ダリア・グロウホヴァのハイドンのソナタ集の3枚目ですが、詩情溢れるグロウホヴァの魅力炸裂の素晴しい出来でした。とりわけ最初の3曲はタッチの繊細さが素晴しい超名演です。アルバムタイトルの「ハイドンのお気に入りのソナタ」に偽りなし。グロウホヴァ自身がソナタの中でもお気に入りの曲を選んで演奏しただけのことはあります。最近の若手ピアニストのなかでもハイドンの演奏にかけては右に出る人がいないほどでしょう。この美貌とこの演奏、ブレイクしそうですね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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ウルリカ・ダヴィッドソンのソナタ集

今日はクラヴィコードとフォルテピアノによるソナタ集。

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ウルリカ・ダヴィッドソン(Ulrika Davidsson)のクラヴィコードとフォルテピアノによる、ハイドンのピアノソナタ6曲(Hob.XVI:14、XVI:2、XVI:28、XVI:44、XVI:23、XVI:52)を収めたアルバム。収録は2005年8月2日から9日、ニューヨーク州北部オンタリオ湖沿いのロチェスターという街にあるイーストマン音楽学校でのセッション録音。レーベルは米ワシントン州のLOFT RECORDINGS。

奏者のウルリカ・ダヴィッドソンは、主に教育畑の人のようです。90年代はスウェーデンのヨーテボリ大学の音楽教室の教員であり、その後、イーストマン音楽学校の歴史的鍵盤楽器の准教授、ドイツのブレーメン芸術大学でクラヴィコードを教師などを担当。フォルテピアノ、ハープシコード、クラヴィコード、オルガン、ピアノなどをこなし、コンサートでは広く欧米で開き、日本にも来ているようです。もちろん私ははじめて聴く人。

このアルバムは2009年と割と最近リリースされたもの。フォルテピアノとクラヴィコードでハイドンのソナタを弾き分けているところに興味をもって手に入れたと言う流れです。こう言ったマイナーな録音でも、何気に素晴しい演奏が多いことは、当ブログの読者の方なら先刻ご承知の事でしょう。このアルバムも、埋もれた名演盤発掘をモチベーションに入手したということです。演奏のほうはどうでしょうか。

最初の2曲がクラヴィコードでの演奏。楽器は1766年製Johen David Gerstenberg(ライプツィヒ大学楽器博物館蔵)のコピーで、2001年ヨーテボリ・オルガン芸術センターのワークショップで製作されたもの。

Hob.XVI:14 / Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
録音で音量が調整されているようで、音量は問題ありません。クラヴィコードの中では音質、音量はかなり安定したもので、クラヴィコード独特の高音の繊細感がありながら、中低音域もわりとしっかりした音色。ウルリカ・ダヴィッドソンの演奏はまさに教科書通り。クラヴィコードの音色とダイナミックレンジを踏まえて、柔らかいタッチで的確に演奏していきます。個性的な部分はほとんどなく、逆に楽譜通りに揺るぎない正確性で音にしていきます。クラヴィコードの雅な音色を十分に堪能することができます。録音が優秀なせいか、鍵盤を操作する動きの気配、空気感の超低音が録られており、不思議に迫力を増しています。
2楽章はメヌエット。楽章が変わっても淡々と演奏が続き実に繊細な音色によって紡ぎ出されるハイドンの名旋律に身を委ね安心できる演奏。フィナーレに入っても同様。確かなテクニックなんでしょう、実に自然なニュアンスの演奏が続きます。テンポが速い分、キレも増して、小曲なのになかなかの立体感。クラヴィコードの演奏としてはかなりダイナミックさがある方でしょう。

Hob.XVI:2 / Piano Sonata No.11 [B flat] (c.1762)
選曲が上手く、この曲もクラヴィコードの繊細な音色が合います。この曲では主旋律に上手くヴィブラートをかけて、クラヴィコードならではの高音の繊細感を強調。前曲とは演奏のスタンスが少々変わり、主旋律を歌わせる感じが強くなります。これぞクラヴィコードと言う演奏でしょう。すこしスケール感を意識して溜める部分、メリハリを強調する部分もあり、前曲より音楽のつくりが大きくなっています。
続くラルゴでも同様、主旋律にかなり意識的にヴィブラートをかけて、主旋律と伴奏の対比を強調。クラヴィコードのデリカシーに富んだ音色が聴かせる詩情が絶妙。妙に聴き入ってしまいます。
この曲は3楽章がメヌエット。前楽章の深みを洗うようにさっぱりとした表情に戻り、さらさらと音楽をすすめます。確かなテクニックなんでしょう。さりげない演奏にもキリッと引き締まった印象が残ります。

この後の4曲はフォルテピアノに変わります。楽器は1785年頃製作されたAnton Walterのコピーで2004年Monika May製作のもの。

Hob.XVI:28 / Piano Sonata No.43 [E flat] (1776 or before)
やはり比べると音のエネルギーが全く異なります。張りのある音で、音の粒立ちの冴えに耳を奪われます。楽器によって、聴かせどころが全く異なるのは致し方ありません。ダヴィッドソンはリズム面白さをことさら強調し、右手のメロディーラインをクッキリと浮かび上がらせます。ダイナミックレンジをフルに活用するように、強音に至る所でかなりはっきりとアクセントを付け、楽器の違いを楽しむように演奏します。低音の迫力がなかなか。テンポの変化の幅も広げて、表現の幅を広げようとしているよう。
メヌエットは、リズムの面白さを素直に活かした演奏。そしてフィナーレに入るとクラヴィコードでの穏やかな演奏とは異なり、自在なタッチでリズムとテンポ、ダイナミクスを変化させて、曲の面白さに鋭敏に反応します。それでも端正さを保っているあたりが、この人の特徴でしょうか。

Hob.XVI:44 / Piano Sonata No.32 [g] (c.1771)
楽器の違いに慣れてきたところで、短調の名曲。2楽章構成。さっぱりと端正なところもありながら、時折はっとさせるような変化を聴かせ、なぜかスリリングな印象もあります。きちんとした技術に裏付けられながらも、ふつふつと表現意欲が顔をのぞかせているというところでしょう。シュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの曲の特徴である、ほの暗いなかにも輝きのあるメロディーを詩情たっぷりに演奏していきます。多少たどたどしさがあるのが良い味わいに。

Hob.XVI:23 / Piano Sonata No.38 [F] (1773)
一転して明るい曲調に変わります。鮮やかな指さばきで早いパッセージをこともなげに弾き進めていきます。曲が成熟してきて、表現の幅もより求められてきているよう。ここまでくると、ピアノでの表現とも比較対象になるような演奏。大きな視点から、曲の構造をとらえて表現すると言う意味では、他の奏者と比較してニュアンスの豊かさ等はもう少し求められるのかもしれませんね。
穏やかな2楽章のアダージョはダヴィッドソンの端正な良さが出た演奏。フィナーレはXVI:28と同様、自在さが活きた演奏。

Hob.XVI:52 / Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
冒頭の一撃にかなりビックリ。フォルテピアノでこの迫力は出色。分厚い音色の和音の衝撃が押し寄せました。この曲を最後に置いたのは得意としているからでしょう。前曲まででこの人の演奏に対するニュアンスがわかったつもりでしたが、最後の一曲で認識を改めるべきだと思いました。ピアノ顔負けの力強さ。楽器のコンディションもあるでしょうが、この迫力は素晴しい。フォルテピアノ独特のあっさりした印象はあるものの音楽は濃密に変化します。フォルテピアノでこの曲を聴く快感のようなものに襲われます。1楽章でノックアウト。これは見事。
アダージョもこれまでの曲より一段踏み込んだ演奏。間の取り方が神がかってます。そしてフィナーレはこのアルバムの総決算。やはりこの人、テクニックは素晴しく、この入り組んだ曲を鮮明な響きで演奏します。楽器の響きを知り尽くしているので、アタックのコントロールも音が濁る寸前までの強度にコントロールし、フォルテピアノの限界まで響かせているよう。最後の一曲は納得の仕上がりでした。

ウルリカ・ダヴィッドソンのハイドンのソナタ集。クラヴィコードとフォルテピアノを弾き分け、それぞれの楽器の響きを活かした名演奏。普段教職にある人らしく、テクニックは確かなもの。その上でハイドンのソナタの演奏に必要な深みを加えることで、それぞれの曲に応じたテクニックで演奏をこなしていきます。評価はクラヴィコードの演奏と最後のXVI:52が[+++++]、その他の曲は[++++]とします。

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ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.3

先日第1巻を取りあげたバヴゼのピアノソナタ集。第3巻が手に入りました。

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ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ第3集。XVI:45、XVI:20、XVI:27、XVI:14の4曲を収めたアルバム。収録は2011年5月16日から18日、第1巻と同様ロンドンの北東約100Kmの街サフォークにあるポットン・ホールでのセッション録音。

バヴゼの紹介は前記事をご覧ください。

2012/05/22 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.1

このアルバムは好きなXVI:20が含まれているので聴きたかったもの。YAMAHAピアノの実体感ある響きで聴くXVI:20のアンダンテがどう響くでしょうか。

Hob.XVI:45 / Piano Sonata No.29 [E flat] (1766)
前記事のアルバムを聴いた時にはYAMAHAピアノの独特の音色と実体感と、フランス人ピアニストらしい色気のようなものとドイツ系の質実さもを感じましたが、基本的に前回聴いた第1巻と同様な傾向の演奏ながら、このアルバムでは速めのテンポでの推進力を基本とした非常にオーソドックスで無骨ささえ感じる部分が印象に残ります。おそらく厚みのあるピアノの響きと、一貫したテンポの演奏によるものでしょう。録音は最新のものらしく鮮明で眼前近くにピアノがかなりのリアリティで定位するもの。じわりとくる演奏。こうゆう演奏が飽きのこない演奏なんだと思います。
2楽章のアンダンテも同様、地道な推進力が印象的。あえてデュナーミクをあまりつけずに淡々と進めることで、ハイドンの音楽をじっくりと表現しているよう。叙事詩のような演奏と言えばいいでしょうか。淡々とメロディーを弾き進めていく事で、じわりと音楽がつたわるような演奏。バヴゼに最初抱いていた印象とは少し異なりますが、おそらく第1巻を今聴くと同じ印象を感じるのではないかと思います。要は演奏の違いというより先入観の違いのような気もしてます。
フィナーレもあっさりした演奏。ただピアニズムというか現代ピアノの響きの魅力は十分に感じられ、ダイナミクスを過度に強調しないことで古典的な均整を保っている感じ。男性ピアニストらしい、左手の力強さに支えられた迫力が聴き所でしょう。フィナーレは徐々に左手の堂々とした低音の力感がもりあがり、曲の面白さが増していくのが手に取るようにわかります。最後が頂点。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きなXVI:20。無骨なと感じたのはこの曲を最初に聴いたから。研ぎすまされた響きというよりはゴリッとした低音の迫力を感じる演奏。リズムが少し乱れたり朴訥だったりというのもそういった印象を強くしています。磨き込まない自然体のハイドン。
この曲で最も美しい2楽章。訥々と進むあたりは素朴な曲の魅力を上手く表しています。この曲では流石に音量を落として素朴な静けさを表しています。前記事でも書きましたが、少々音量を落として聴いた方が印象がいい不思議な録音。とぼとぼ歩くようなリズムとテンポは絶妙。この楽章の表現は流石聴かせどころを心得ており、波がひいては返す感じが幽玄とした印象をつくり、夕闇に瞬き始める星のようなこの曲の魅力を伝えています。
フィナーレは今度は上手く力がぬけて、力感ではなくリラックスで聴かせる演奏。バヴゼの演奏は力感よりも抜いた時のほうがしっくりする感じです。意外と楽譜を見ながら初見で弾いているような雰囲気もあり、さりげなさというか、一貫した素朴さがやはり印象にのこります。

Hob.XVI:27 / Piano Sonata No.42 [G] (1776 or before)
あと2曲は簡単に。だんだんさりげなさが魅力だと感じるように。ハイドンのソナタの演奏の一つのあり方かもしれません。この曲は音階の面白さが聴き所ですが、パヴゼはあくまでさらりと弾き進めるようなスタイルで、こだわりなくどんどん行きます。逆にそれが徹底されていておもしろ味が上がっています。初期のシンプルな曲想がバヴゼの演奏スタイルに合っている感じ。2楽章、3楽章も同様の印象。特に3楽章のあっさり感は見事。初期の曲とのほうが相性はいい感じ。この曲はドンピシャ。

Hob.XVI:14 / Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
最後はごく初期の曲。前曲同様相性の良さを感じさせます。複雑な曲ではないだけに、多少単調な要素はありますが、不思議と何の違和感もなく、逆に割り切りの良さが感じられむしろいい印象になります。この曲もドンピシャということでしょう。

ジャン=エフラム・パヴゼのピアノによるハイドンのピアノソナタ集の第3巻は結果的に初期のシンプルな曲の良さにスポットライトを当てる形になりました。第1巻とは印象がだいぶ変わります。評価はHob.XVI:45とHob.XVI:20は[++++]、残り2曲は[+++++]としました。ピアノ演奏の奥行きがわかるいいアルバムだと思います。

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ピノックのソロ、ウィグモアホールライヴ

今日はHMV ONLINEから届いたばかりの新着アルバム。

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http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=3782760

ピノックは私自身がハイドンへ興味をもつきっかけとなった演奏家。現在はピノックのハイドンの演奏を高く評価している訳ではないのですが、思い入れは深いんですね。刷り込みの原点といったところです。このあたりの経緯はブログを開設して間もなく記事にしていますので、当時の記事へのリンクを張っておくことにします。

ハイドン音盤倉庫 - 私はなぜハイドンにはまったのか?
ハイドン音盤倉庫 - 私はなぜハイドンにはまったのか?-2
ハイドン音盤倉庫 - 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

そのピノックのハイドンのソナタを含むコンサートライヴ盤ということで、早速手に入れた訳です。以前の若々しい姿とはうってかわり、笑顔の初老紳士と行った風情のなかなかいいジャケット写真。ピノック自身は1946年生まれということで、今年64歳ということになりますね。

2009年5月10日、ロンドンのウィグモアホールでのライヴです。レーベルはWIGMORE HALL LIVEということでホールの自主制作盤のようですが、HMV ONLINEにも流通しているため、手に入れやすいと思います。
調べたところ、ロンドンのウィグモアホールはいろいろ活動をしておりアルバムのリリースにも熱心ですね。サイトのリンクを張っておきましょう。

WIGMORE HALL(英文)

収録曲はハイドンのピアノソナタからXVI:14、XVI:27の2曲と、アンコールにXVI:D1のフィナーレの計3曲。他にパーセル、ヘンデルの曲をあしらったもの。私の好きな拍手入りの収録です。

2曲目に配されたXVI:14はハイドン最初期のピアノソナタで1950年代の作曲。ピノックのハープシコードは安心して聴いていられます。先日のダントーネの前衛的ハープシコードの反動でしょうか、落ち着いた演奏を聴くと心が安らぎます。3楽章で10分少しの小曲ですが、スタジオ録音と言われても少しも疑う余地のない完成度の高い演奏。曲の終わりの拍手がなければ気づかないほどです。こういった小曲を名手が味わい深くさらりと弾いているというのはいいですね。特色は2楽章の音色の変化。なんという奏法か知りませんが、2楽章中間部で弱音器をつけたような音色に変化。ハイドンの創意が生きていますね。さらりと終わったのに会場は拍手喝采で盛り上がってます。

そして6曲目に配されたXVI:27。こちらは1776年の作曲。曲の構造もより明確にになり、ハープシコードによるハイドンのソナタの理想的な演奏といっていいでしょう。明らかにXVI:14より表現が深くなっており、また生気も増しています。こちらも2楽章の途中に音色に変化をもたせ、最高音域の音色をうまく使って印象的な響きを造り出せています。3楽章の快速な展開も見事。こちらも最後は割れんばかりの会場の拍手を誘い、アンコールにつなげます。

そして2曲演奏されるアンコールの1曲目がハイドンのXVII:D1のフィナーレ。リズミカルな曲想を十分に反映したこちらも快速な演奏。ショーピース的アンコールですが、2曲目はパーセルの落ち着いた3分少々の小曲。演奏が終わり消え入る余韻としばしの静寂、そして暖かく長く続く拍手にブラヴォー。当日の会場の興奮がつたわるいいライヴアルバムと言えるでしょう。台風の影響で各地で災害のニュース。痛ましい限りですが、季節が変わる節目でもありますね。秋の夜長にふさわしい大人の1枚ですね。

評価はピノックへの敬意を表して、3曲とも[+++++]としました。最近最高評価を乱発し過ぎですかね(笑)
所有盤リストを見ていただくと、悪い評価もかなりしているので、乱発ではないんですね。できるだけいい演奏をブログで紹介しているということとご理解ください。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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