フランツペーター・ゲーベルスのソナタ集(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。今日は最近オークションで手に入れたLP。

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フランツペーター・ゲーベルス(Franzpeter Goebels)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:6)、カプリッチョ「8人のへぼ仕立屋に違いない」(XVII:1)、ピアノソナタ(XVI:48)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の4曲を収めたLP。収録は1981年10月、ハイデルベルクの音楽スタジオとフランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルはmusicaphon。

なんとなくスッキリとしたデザインのLPジャケットに惹かれて手に入れたもの。いつものようにLPをVPIのレコードクリーナーと必殺超音波極細毛美顔ブラシで丁寧にクリーニングして針を落としてみると、ジャケットのデザインのイメージそのままのスッキリとした響きが流れ出します。律儀な普通の演奏にも聴こえますが、何度か聴くうちに実に深い演奏であることがわかり取り上げた次第。

奏者のフランツペーター・ゲーベルスは1920年、ドイツ東部のミュールハイム(Mülheim an der Ruhl)に生まれたピアニスト、フォルテピアノ奏者、教育者。修道院のオルガン奏者の父を持ち、ピアノを学ぶ他、音楽学、文学、哲学などを学びました。1940年からはドイツ放送(Deutschlandsender)のソロピアニストととして活躍しましたが、兵役に徴収されたのち収監されました。戦後はデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院で教鞭をとるようになり、1958年からはデトモルトの北西ドイツ音楽アカデミーでピアノとハープシコード科の教授を1982年の定年まで勤めたそう。亡くなったのはデトモルトで1988年とのこと。ほぼ教職の人ということで、あまり知られた存在ではありませんが、演奏はまさに教育者の演奏と感じられる手堅さに溢れています。

Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
鮮明に録られたフォルテピアノの響き。LPならではのダイレクトな響きによってフォルテピアノを眼前で弾いているようなリアリティ。一定の手堅いテンポでの演奏ながら、硬めの音と柔らかめな音を巧みに組み合わせて表情を変化させていきます。純粋に内声部のハーモニーの美しさが実に心地良い。素直な演奏によってフォルテピアノの木質系の胴の響きの余韻と曲の美しさが際立ちます。
続くメヌエットは左手の音階を短く切ってアクセントをつけます。ちょっと音量を落としたところの響きの美しさが印象的。高音の典雅な響きも手伝って、リズミカルな中にも優雅な雰囲気が加わります。実に素朴なタッチからニュアンス豊かな響きが生まれます。鍵盤から弦を響かせるフリクションの範囲での穏当な表現ですが、この音色の変化は見事。妙に沁みる演奏です。
そしてこの曲で最も美しいアダージョ楽章。ピアノの澄んだ響きとは異なり、微妙に音程が干渉するようなフォルテピアノ独特の音色が味わい深い響きを生んでいきます。楽器と訥々と会話するような孤高の響きの連続に心が安らぎます。
フィナーレは軽すぎず、穏当な表現が心地良いですね。しっかりと音を響かせながら決して焦らず、一音一音をしっかり響かせての演奏。さりげない終わり方もいいセンス。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「8人のへぼ仕立屋に違いない」 [G] (1765)
ユニークなメロディーを変奏で重ねていく7分弱の曲。今度は音色をあまり変えることなく、ちょっとギクシャクした印象を伴いながらもフレーズごとのメリハリをつけながら弾き進めていきます。変奏の一つ一つを浮かび上がらせるというよりは、渾然一体となったメロディーを訥々と弾いていく感じ。終盤はバッハのような印象まで感じさせて、これはこれで面白いですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
LPをひっくり返して再びソナタに戻ります。晩年の傑作ソナタの一つ。今度は間をしっかりとっての演奏。ソナタによってしっかり演奏スタイルを変えてきますが、それでもすっきりとしたゲーベルスのタッチの特徴は残しています。ソリストというよりは教育者としての演奏といえば雰囲気が伝わるでしょうか。かといって教科書的な厳格さではなく、抑えた表現の深みと円熟を感じるすっきりさ。やはりLPならではの響きの美しさが最大の魅力となる演奏ですね。眼前でフォルテピアノが鳴り響く快感。
2楽章のロンド、3楽章のプレストとも落ち着いたタッチからジワリと音楽が流れ出します。噛みしめるような音楽。フォルテピアノをしっかりと鳴らし切った演奏に不思議に惹きつけられます。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後は名曲。予想通り、さりげなく入り淡々とした演奏です。まさにハイドンの書いた音楽自身に語らせようとする自然体の演奏。この曲はそうした演奏スタイルが最も曲の良さが映えますね。流石に変奏の一つ一つの扱いは丁寧で、フレーズごとに素朴な詩情が立ち上り、曲の美しさが際立っていきます。まさにいぶし銀の演奏。A面の変奏曲とは扱いが全く異なります。このアルバムの演奏の中では最も音色とダイナミクスの変化をつけた演奏で、変奏毎の表情の変化の多彩さが印象的。最後までフォルテピアノの美しい音色による演奏を堪能できました。

実はこのアルバム、前記事を書いてからほぼ毎日、なんとなく針を落として聴いていました。最近仕事の帰りが遅いので、聴いているうちに寝てしまうのですが、最初はただのさりげない演奏のように聴こえていたものが、だんだんと深みを感じるようになり、特に音色の美しさが非常に印象に残るようになりました。ということで、私にしては珍らしく聴き込んだ上で取り上げたものですが、書いた通り、実に良い演奏です。フランツペーター・ゲーベルスという人の演奏は初めて聴きますが、なかなか含蓄のある演奏で、流石に教育者という演奏。どう表現しようかというスタンスではなく、曲の真髄に迫る演奏スタイルを地道に探求するようなスタンスですね。私は非常に気に入りましたので、評価は全曲[+++++]とします。

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ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

なんだかLPの勢いが止まりません。こうなったら今月はLPに特化します!

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amazon(別装丁CD)

ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ベートーヴェンのピアノソナタ30番、リストの「パガニーニによる大練習曲」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、同音源を収録したCDの情報によると1960年8月のおそらくセッション録音。レーベルはPHILIPSの日本盤ですが、フォノグラムではなく日本ビクター時代のもの。解説にソナタが奏鳴曲と記されているところに時代を感じますね。

このLPは最近オークションで手に入れたもの。手元にマガロフの弾くハイドンのアルバムはヴァントが伴奏を務めるピアノ協奏曲くらいで、その演奏もあまり記憶にありませんでした。ところが最近記事にした、フレデリク・マインダースのピアノソナタを聴いて、マインダースのしなやかな演奏の原点がマガロフに師事していたというところにあるような気になり、マガロフのソナタを聴いてみたいと思っていたところ、タイミングよくオークションで見つけて手に入れたという次第。こうした巡り合わせもあるもんですね。

2017/02/03 : ハイドン–ピアノソナタ : フレデリク・マインダースのピアノソナタXVI:49(ハイドン)

ピアニストの演奏の個性というのはなんとなく師事したピアニストの影響を受けるもの。ブログを始めたばかりの頃、カルメン・ピアッツィーニの演奏が師事したハンス・レイグラフの演奏にそっくりだったので調べたらレイグラフに師事していたことがわかりびっくりしたことが、当ブログで奏者の略歴などをいちいち調べるようになったきっかけとなりました。

2010/02/15 : ハイドン–ピアノソナタ : ピアノソナタ全集のあれこれ

ということで、マインダースの、ハイドンの演奏としては珍しくリズムよりもしなやかさに聴きどころを持ってきた背景には師事したマガロフの影響があるだろうとの仮説を検証するためにマガロフを手に入れたという、歴史を遡る仮説検証的興味が脳内に充満している状態。ハイドン以外に特段詳しくもない私でも、ニキタ・マガロフといえばショパンを得意としていたようであるというくらいの感触は持っていて、仮説もそれほど的外れなものではなさそうであるとの憶測もあり、興味津々といったところ。

さらに歴史を遡るわけではありませんが、一応マガロフの略歴もwikipediaなどからさらっておきましょう。

ニキタ・マガロフは1912年、ロシアのサンクト・ペテルスブルクでジョージア(グルジア)貴族の家系に生まれたピアニスト。1918年に家族共々ロシアを離れてフィンランドに渡ります。家族ぐるみの付き合いだったプロコフィエフに刺激を受け、ウクライナ出身のピアニスト、アレクサンドル・ジロティとともに音楽を学び、その後パリ音楽院に進みピアノ学部長のイシドール・フィリップに師事、またパリ音楽院を卒業した1929年にはラヴェルに才能を認められます。マガロフも恩師であるイシドール・フィリップから優雅で折り目正しい趣味のよさを受け継いでいるとのこと。ピアニストとして活躍し始めたのは戦後になってからで、やはり、ショパンの演奏で知られるようになり、特に1974年から78年にかけてPHILIPSレーベルに録音したショパンのピアノ音楽全集は、初めての全曲録音としてのみならず、録音も良く、またマガロフの叙情的かつ端正な演奏が評判となった名盤とのことです。
教育者としても有名で、1949年、あのディヌ・リパッティの後任として1949年から1960年までジュネーブ音楽院の教授を務め、教え子にはマルタ・アルゲリッチ、マリア・ティーポ、イングリット・ヘブラーなど錚々たるピアニストがいます。
私生活ではヨーゼフ・シゲティの伴奏を務めていた縁で、シゲティの娘と結婚し、スイスのジュネーブに居を構えました。亡くなったのは1992年、スイスレマン湖畔のヴェヴェイトのこと。

マガロフの録音履歴を見ると、1950年代後半からポツポツと録音され始めていますので、今日取り上げるアルバムも1960年とごく初期のもの。しかも、ジャケットにもレーベル面にも誇らしげに”HI-FI STEREO”とグィーンと表示されており、ステレオ初期のもの。このレーベルは珍しいですね。

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Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
盤のコンディションはそこそこでしたが、2度ほどクリーニングしてノイズは綺麗さっぱり無くなり、演奏に集中できます。多少歴史を感じる雰囲気はありますが、ピアノの響きは非常にいい感じ。しなやかさは期待通りですが、叙情的すぎず、落ち着いたタッチから紡ぎ出されるピアノの音色が心地よいですね。前の記事のハンス・シュタットルマイアの演奏でも感じた「気品」に満ちた演奏。端正な中にも程よい芳香が感じられる演奏。この録音当時48歳くらいですので、この味わい深さは流石です。
このソナタは2楽章構成。2楽章に入ると、クッキリとメロディーを浮かび上がらせるタッチのキレを感じさせます。曲の勢いよりも少し遅れて盛り上がる独特の雰囲気。早いパッセージもさりげなくこなしますが、どこかに力の抜けた感じを伴い、優雅さがあります。ハイドンのソナタからは展開の面白さを強調する演奏が多い中、あえてさり気なく弾き進め、メリハリはメロディーを浮かび上がらせるところくらいで、やはりしなやかかつ雰囲気を重視した演奏。そう、仮説通り、フレデリク・マインダースの演奏の原型を感じさせる演奏でした。ただ鍵盤へのタッチから音がなるだけのピアノですが、こうした気配や魂のようなものが師から弟へ受け継がれていくわけですね。

つづいてベートーヴェンの30番、B面はリストの「ラ・カンパネッラ」を含む「パガニーニによる大練習曲」。ベートーヴェンも力感よりも味わいが勝る、まさに気品に満ちた演奏。そして、ショパンとともに得意としていたリストでは、驚くようなきらめきに満ちた演奏でした。これはいいですね。

わたしは、あまりイメージのなかったニキタ・マガロフでしたが、ひょんなきっかけから興味をもち、マガロフという人のことを調べ、その音楽を聴き、なんとなくこの人の音楽というか、独特の美学にふれたような気になりました。また、このところいろいろピアノの古い演奏を聴き、ピアノという楽器の表現力の幅広さをあらためて知った気がします。さらっと聴くとなにげない演奏ですが、実に深い演奏でした。ベートーヴェンとリストと組み合わされたハイドンという構図もいいですね。いいアルバムを手にいれることができました。評価は[+++++]とします。

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tag : LP ピアノソナタXVI:48 ヒストリカル

【新着】ジョン・オコーナーのピアノソナタ集(ハイドン)

今日はピアノの美しい響きをとことん味わえるアルバム。

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ジョン・オコーナー(John O'Conor)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:32、XVI:23、XVI:46、XVI:20、XVI:23)を収めたアルバム。収録は2016年8月29日、ニューヨークのスタインウェイホールでのセッション録音。レーベルはピアノで有名なSTEINWAY & SONS。

最近リリースされたアルバムをチェックしていて、何気なく手に入れたアルバムですが、ピアノメーカーのスタインウェイが自らリリースしているアルバムということで、ちょっと気になる存在でした。世界中の一流のピアニストに弾かれる楽器ゆえ、多くのピアニストの中から、スタインウェイの美音を最も美しく響かせる演奏に違いないとの想像力も働きます。

ピアニストのジョン・オコーナーは1947年、アイルランドのダブリン生まれのピアニストで教育者。ダブリンのベルヴェデーレ・カレッジでピアノを学んだ後、オーストリア政府の奨学金でウィーンに留学、ディーター・ウェーバーの元で学びました。その間、ケンプにベートーヴェンの演奏の教えを受け、1973年にウィーンで開催された国際ベートーヴェンピアノコンクールで優勝、1975年にはベーゼンドルファーコンクールで優勝し、世界に知られるようになったとのこと。今回アルバムをリリースしているスタインウェイとはライバル関係にあるベーゼンドルファーのコンクールで優勝しているのも何かの因果でしょうか(笑)

これまでにリリースされているアルバムを調べてみると、TELARKレーベルからベートーヴェンのピアノソナタ全集、協奏曲全集、モーツァルトの協奏曲全集などがリリースされており、やはりベートーヴェンを得意としているようですね。

ということで、早速聴いてみます。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
流石に最新の録音だけあってピアノの臨場感は素晴らしいものがあります。自然な響きと鍵盤の重みが伝わってくるような録音。このところエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなど、ハイドンの機知をアーティスティックに表現したピアノを聴いてきましたが、このジョン・オコーナーは実にオーソドックスで変な自己顕示欲は皆無。淡々とハイドンの書いた音楽をピアノに乗せていく感じの演奏で、安心して演奏を楽しむことができます。オコーナー自身もリラックスして演奏を楽しんでいる感じ。かといってオルベルツほど枯れてもおらず、程よくバランスのとれた演奏。先生が楽しげに見本で演奏しているような感じ。この「楽しげに」というのが大事なところ。タッチが精緻を極めるわけでもなく、このすっかりリラックスしてストイックさとは無縁の表情がハイドンの面白さを引き立てるわけです。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
軽いタッチで入る曲。まるで朝飯前だとでも言いだしそうなカジュアルな入り。これが曲想にピタリ。よく聴くと一音一音が磨かれていて、流石にピアノの音色は絶品です。1楽章は流れるように一貫して軽めにサカサカ弾き進めていくのが乙なところ。
素晴らしいのが続くアダージョ。軽さを保ちながらも、ぐいぐい響きが深く変化して行きます。デリケートな表情の変化に引き込まれます。音の長さを絶妙にコントロールして曲の一貫性を保ちながら表情を変えていく表現が素晴らしい。
そして軽いフィナーレ。同じ軽さでもわずかな曇りを帯びさせて曲想に合わせているのがわかります。ピアノの響きをリアルに伝える録音だからこそ、こうしたデリケートな変化を味わえます。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
同じく軽くくるのかと思いきや、実に滑らかしっとりとした表情にハッとさせられます。ピアノの響きの表情の変化を実に巧みに表現してくる、さすがスタインウェイという演奏。ふとしたフレーズの切り替えのアクセントの一音の変化で響きが実に新鮮に聴こえます。こうしたところを控え目にさりげなく挟んでくるのが流石なところ。静寂の中に浮かび上がるハイドンのメロディーの美しさが際立ちます。徐々にタッチがチョコがとろけるように流れ出したり、千変万化するオコーナーのタッチに聴き惚れます。この曲からこれまで聴いたことのないような多彩な響きがあふれ出します。
前曲同様、アダージョの美しさは絶品。とりわけピアノの響きの美しさは鳥肌もの。凜と澄んだ夜空に浮かぶ天の川を眺めるよう。細かい星雲に無数の表情が宿り、美しい音楽が心に刺さります。
対比のためにあえて繊細さを避けるようにグイグイとくるフィナーレで曲を引き締めます。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きな曲。入りは意外に少し重め。この短調の入りを厳かなコントラストで強調しようということでしょう。もちろんふと力を抜いたり、さりげないアクセントで曲の変化の面白さを炙り出してくるところはこれまで同様。力の抜き際のタッチの鮮やかさが徐々に印象的になり、曲にグイグイ引き込まれて行きます。最初の重さから徐々にキレてくる絶妙な演出。聴き進むうちにオコーナーの意図がなんとなくわかってきました。
ハイドンのソナタの緩徐楽章の中でも一二を争う美しい楽章。期待どおり、あまりの美しさに言葉になりません。この詩情あふれる楽章がオコーナーの手にかかると、美しさも極まり、一音一音が宝石のごとく輝きます。ピアノという楽器の素晴らしさを思い知らされる感じ。
フィナーレはアンダンテの余韻をすっと断ち切り、気配を一瞬にして変えるマジックのよう。全く異なる音楽の魅力を突合させるハイドンのアイデアとそれを鮮やかに演出するオコーナーの技にやられました。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
最後の曲は唯一晩年の曲。最後は余裕たっぷりに有名曲の演奏を楽しむスタンス。自分の指から繰り出される多彩な響きを自ら楽しんでいるよう。ピアノの余韻が消え入る美しさを存分に味わえます。聴き進むうちに後年の作曲であるアンダンテと変奏曲を先取りするような曲想を感じさせる大きな構えの音楽であることに気づきます。
そして、絶妙な軽さのタッチでのロンド。このタッチの変化の幅の大きさと自然さがオコーナーの魅力でしょう。重さも軽さも自在に使い分けながらピアノという楽器の表現の幅を生かしきった演奏。ハイドンだけにダイナミクスの表現の幅は上品な範囲でこなしていくところが良識的です。最後はカッチリとした響きで締めました。

ベテランピアニスト、ジョン・オコーナーによるハイドンのソナタ集。最初はオーソドックスな演奏かと思いきや、これは深い演奏です。途中で触れたように、最近聴いたエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなどハイドンの曲に潜む機知をアーティスティックに表現した演奏とは表現の方向が異なり、自然な美しさの範囲での表現ですが、円熟の技がもたらすその美しさはかなりのもの。ピアノメーカーであるスタインウェイがリリースするアルバムだけあって、ピアノという楽器がもつ響きの美しさを存分に活かした演奏となりました。これはこれで素晴らしいもの。非常に気に入りました。XVI:20も良かったんですが、その前のXVI:46は、この曲の素晴らしさを改めて知ることになった秀演です。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

これほど美しい音色ゆえ、できればSACDでリリースすべきでしょうね。

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ボビー・ミッチェルによるソナタ集(ハイドン)

今日はフォルテピアノによるソナタ集。

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ボビー・ミッチェル(Bobby Mitchell)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ3曲(Hob.XVI:23、XVI:28、XVI:48)、アダージョ(Hob.XVII:9)、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)の5曲を収めたアルバム。収録は2014年1月13日から15日、ベルギーのブリュージュ音楽堂でのセッション録音。レーベルはouthere MUSICグループのAlpha Productions。

このアルバム、タワーレコード新宿の店頭で見かけて手に入れたもの。マーキュリーが輸入盤に解説をつけてパッケージしたもの。いつもながら輸入盤そのままの雰囲気に丁寧な翻訳、解説をつけたパッケージングがありがたいですね。

ジャケットは意表を突く犬がフォルテピアノのような楽器を弾く姿の油彩。解説を見てみると、これはハイドンと同時代のフィリップ・レイネグルという人が描いた「びっくりするくらい音楽がわかる、とある犬の肖像」というもの。この謎めいたジャケットからこのアルバムに込められた創意が伝わってくるようで聴く前から実に興味深いもの。

奏者のボビー・ミッチェルは1985年生まれのアメリカのピアニスト。マイアミのインターロッケン芸術アカデミー、ニューヨークのイーストマン音楽院などで学びました。その後渡欧し、オランダのデン・ハーグ王立音楽院でピアノ、歴史的ピアノ奏法などを学び、ドイツのフライブルク音楽院でロバート・ヒルに師事。2013年にベルギーのブリュージュ古楽コンクールで入賞し、本盤の録音につながったとのことです。このアルバムにはボビー・ミッチェル自身による「21世紀の今、ハイドンの作品を録音するということ」という記事が掲載され、その内容が実に深い洞察を含むもの。彼の主張を要約すると、ハイドンの時代の楽器と、その演奏スタイルを意識して演奏するが、自分自身から湧き出てくる音のことばとして読み解き、そのことばで流暢に語ることにこだわっているということ。そして、それゆえ当時よく行われてきたように、曲間やフェルマータの箇所で即興を挟み、それは作曲家と張り合おうということではなく、そうした混沌を挟むことによって作曲家の作品の素晴らしさを際だたせようとしているといことです。彼の演奏はフォルテピアノによるありきたりな演奏ではなく、彼のことば通り、ハイドンの音楽の多様な魅力を際だたせようとそこここに即興を挟み、大きな川の流れのように感じさせるもの。ハイドンに対するアプローチの角度が非凡。なんとなく「びっくりするくらい音楽がわかる、とある犬の肖像」をジャケットに使った意図もわかってきました。

この録音に使われている楽器はハイドンが活躍していた18世紀末のオーストリア、ドイツ南部のヨハン・アンドレアス・シュタイン作のモデルと良く似た作者不詳の楽器とのこと。コンディションは非常によく、フォルテピアノの録音としては理想的なものですね。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
ホールに自然にフォルテピアノの響きが広がる名録音。音の粒立ちというか鮮度は抜群で、楽器がよく鳴っているのがわかります。ボビー・ミッチェルはクッキリとメリハリをつけながらもテンポを自在に揺らし、最初から即興的なタッチの面白さを感じさせ、ハイドンの曲に仕込まれた機知を十分踏まえているよう。スピードコントロールの自然な加減を楽しむような風情。速い部分でタッチのキレを見せたかと思うと、しっとりと長い休符をとり、曲の立体感をしっかり際だたせるあたり、そしてそれがハイドンの曲の真髄をふまえたものと感じさせる手腕は見事なものです。
続くアダージョはさらに見事。ミッチェルがまさに自身から湧き出てくる音のことばとして弾いているのがよくわかります。ミッチェルの指にハイドンの魂が乗り移ったような活き活きとした音楽。そしてフィナーレに入る瞬間のえも言われぬ絶妙さ。この冴え渡るセンスはミッチェルのただならぬ才能を感じさせるところ。ちょとした修飾と間の取り方でこのソナタがこれだけ冴えた表情を見せるということがミッチェルの非凡さを物語ります。

そして曲の結びの余韻を踏まえた短い即興が入りますが、これがまた絶妙。ソナタとソナタを実に見事につなぎます。

Hob.XVI:28 Piano Sonata No.43 [E flat] (1776 or before)
すっかりミッチェルの術中にハマって、ミッチェル自身の音のことばにどっぷり浸かります。ミッチェルはハイドンの楽譜の上で自在に遊びまわるよう。本当に自在。それがミッチェルの独りよがりに聴こえないのが凄いところ。聴いていただければわかりますが、演奏自体は実に自然な印象を保っていますが、これまでフォルテピアノの演奏でここまで自在な演奏は聴いたことはありません。奏者によってここまでの表現に行き着くということを思い知ります。前曲よりさらに踏み込んだ境地に達しています。
つづくメヌエットは遠い日の記憶のような不思議な入り。曲に潜む気配のようなものをえぐり出す才があるようです。音量を落として静かに語るようなタッチの妙。
そしてフィナーレは非常に個性的な曲想をこれもえぐり出すように際だたせ、冴え渡るタッチで描いていきます。いつ聴いても不思議なメロディーですが、その不思議さを際だたせるという常人離れした解釈。う~ん、凄いです。

ふたたび即興。現代音楽的な冷たさがなく、不思議とホッとする瞬間。そして次のソナタへの絶妙なつなぎ。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
聴きなれた有名曲ですが、これまで聴いた演奏が踏み込み不足に聴こえるほど旋律に説得力が漲ります。ハイドンへのリスペクトからか、この有名曲では自在な表現の振れ幅は少し抑えてオーソドックスに演奏していきますが、それでも表情のキレは素晴らしく、古楽器でのこの曲の演奏のベストといってもいい出来。終盤にちょっと加えた装飾音の機転と、1楽章最後の和音の幸福感にこの演奏の真髄を感じます。
2楽章構成の2楽章。右手のメロディーの冴え渡り方が尋常ではありません。脳内にアドレナリンが噴出。この短いロンドがものすごい陰影がついてクッキリと浮かび上がります。これまた見事。

このあとはかなり激しく盛り上がる即興。すっと引いたと思うと、つづくアダージョにつながります。

Hob.XVII:9 Adagio [F] (before 1792)
ブレンデルの演奏が刷り込みの曲。ピアノの演奏もいいものですが、ミッチェルのフォルテピアノでの演奏は、すこし溜めながら、幽玄なメロディーをしっとりと綴っていく、これも曲自体の気配をよく踏まえたもの。曲に合わせて表現の幅をかなり意図的にコントロールしていることがわかります。すっと心になじむ純粋さがあります。

なぜかこのあとに即興は入らず、最後は名曲アンダンテと変奏曲。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
表現というより音色をかなり巧みに変えながらの入り。フォルテピアノの音色をどう変えるのかは詳しくありませんが、乾いたキレのいい音としっとりと曇った柔らかい音をフレーズ毎に入れ替え、フレーズ毎に千変万化する表情。もともと変奏曲だけに、こうしたアプローチは自然ですが、変化の幅が大きいので面白さが際立つわけです。変奏が進むにつれてミッチェルが音楽に込めるエネルギーが増してくる様子が手に取るようにわかります。力むわけではなく、そのエネルギーが虚心坦懐な表現として曲自体の魅力をしっかり伝えます。20分強あるこの曲があっという間に感じられる至福の時間。だんだん変奏間の間が長くなって終盤の盛り上がりの後は枯淡の境地に。そして最後はカデンツァのような即興をたっぷり聴かせて終わります。

アメリカの若手ピアノ奏者、ボビー・ミッチェルによるハイドンのソナタ集。あまり期待せずに聴いたのですが、このアルバム、絶品です。ミッチェルのウェブサイトを見てみると、このアルバムがデビュー盤のようですね。フォルテピアノに限らずピアノも弾くようですが、その彼がデビュー盤でフォルテピアノでハイドンに挑み、しかもしっかりとしたコンセプトを持った演奏。恐ろしい才能の持ち主と見ました。このアルバムを聴く限り、テクニックはかなりのものですが、テクニックの誇示といった感じはまったくなく、それを上回る音楽的な才能を持った人ですね。このアルバム、最近聴いたフォルテピアノによるハイドンでは一押しです。久々にハイドンに聴かせたいと思った次第。偉大な作曲者は現代の若者のこの演奏にきっと驚くでしょう。評価はもちろん全曲[+++++]とします。御一聴あれ!

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【新着】宇山ブヴァール康子のソナタ、音楽時計曲集

今日もすばらしいアルバムを紹介しましょう。先日HMV ONLINEから到着したばかりのアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

宇山ブヴァール康子(Yasuko Uyama Bouvard)のフォルテピアノの演奏で、ハイドンのピアノソナタ48番、49番、アンダンテと変奏曲(XVIII:6)、オルガンの演奏で、音楽時計曲8曲(XIX:11、14、12、13、10、24、15、9)を収めたアルバム。収録年はPマークが2012年とだけ表記されています。フォルテピアノはフランス南部、トゥールーズの県庁舎のサロン、音楽時計の方はトゥールーズのサン・ピエール・カルトゥジオ修道会教会堂(saint pierre des chartreux a toulouse)での録音。レーベルは仏EDITIONS HORTUSという未知のレーベル。

フォルテピアノによるピアノソナタとオルガンによる音楽時計曲という非常に珍しい構成のアルバム。一聴してフォルテピアノもオルガンも楽器を美しく響かせることに関して、非常に鋭敏な感覚をもった人との印象を受けました。しかも演奏は非常に自然で、ハイドンの音楽の豊かさがにじみ出てくるもの。良いアルバムそうですね。

奏者の宇山ブヴァール康子さんについて、ライナーノーツやらネットやらで調べてみたところ、現在はトゥールーズのトゥールーズ地方音楽院(Conservatoire à rayonnement régional de Toulouse)のハープシコードとフォルテピアノの教授とのこと。このアルバムでオルガンを弾いているサン・ピエール・カルトゥジオ修道会教会堂のオルガニストでもあるそうです。京都生まれで東京芸術芸大学でオルガンを学び、1976年に渡仏、フランスのオルガン奏者、ピエール・コシュロー(Pierre Cochereau)との出会いで大きな影響をうけたとのこと。フランスではオルガンとハープシコードをさらに学び、パリ国立高等音楽院でヨス・ファン・インマゼールにフォルテピアノを学び、フォルテピアノにも開眼。ハープシコードとオルガンでは国際コンクールで1等をとるなどの成果につながりました。その後、鍵盤楽器全般のソリストや室内楽の鍵盤楽器奏者として活躍し、録音もいろいろあるようです。このアルバムを聴いてまずピンと来た、楽器の音色に関する鋭敏な感覚、おそらくインマゼールから学んだものでしょう。インマゼールと似た透徹した感覚の持ち主とみました。

音楽時計については以前に2度ほど取りあげていますので、楽器や曲の解説は下記リンク先をご覧ください。

2011/06/13 : ハイドン–室内楽曲 : ペーター・アレキサンダー・シュタットミュラーの音楽時計曲集
2011/02/11 : ハイドン–協奏曲 : マルタン・ジュステルのオルガン曲集-2

レビューは収録順に記載します。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
フォルテピアノは1785年製のアントン・ワルターのコピーで、2003年クリストファー・クラーク(Christopher Clarke)の作。録音会場は18世紀の板張りのサロンということで、状態の良い楽器が適度な大きさ、適度な残響のサロンで良く鳴っている録音。フォルテピアノがスピーカーの奥に定位してコンサートの席で聴くよう。流石インマゼール門下という素晴しい楽器の響き。一般的には残響がちょっと多めの録音ですが、聴きにくくはありません。宇山さんの演奏はゆったりとしたテンポで、メリハリを適度につけながら楽器の響きを自身で楽しんでいるよう。それでいてハイドンの書いた楽譜に込められた創意をくまなく拾い上げて、旋律の受け渡しや対比を楽しむ余裕があります。非常に穏やかな心情の持ち主なのでしょう、表現にはかなりのメリハリがつけられているのに、一貫して穏やかに曲が進みます。
2楽章のアダージョも同様。時折軽やかに装飾音を加えますが、メロディーラインがしっかり一貫しているので音楽の流れにぶれがありません。日本人ならではの清らかさも感じますが、表現の陰影が深いので、ともすると単調になりがちなところを、深い情感も帯びて聴き応え十分。深いアダージョの呼吸に打たれます。
フィナーレはテンポを速めますが、やはり楽器の響きを楽しむように落ち着いてハイドンの創意を響かせていきます。楽器のダイナミックレンジは素晴しく、強音の響きも澄みきっていて、弱音の繊細さも見事なもの。今まで聴いたフォルテピアノのの中でも最高のコンディションのものの一つでしょう。楽器の音響を踏まえた打鍵強度のコントロールも見事なもの。透明感ある表情から浮かび上がるハイドンの傑作ソナタを存分に楽しめる秀演と言っていいでしょう。

Hob.XIX:11 MS. Wien No.1 Allegretto [C] (before 1789)
Hob.XIX:14 MS. Wien No.4 Menuett [C] (before 1789)
Hob.XIX:12 MS. Wien No.2 Andante [C] (before 1789)
Hob.XIX:13 MS. Wien No.3 Vivace [C] (before 1789)
音楽時計曲は収録通り4曲まとめて。それぞれ1分少々の短い曲。このオルガンも実に美しい響き。オルガンの技術的なことは詳しくはありませんが、録音で聴けるオルガンの最上の響きと言って良いでしょう。曲ごとに音色をかなり変えて変化を付けます。フォルテピアノによるソナタと同様、演奏には揺るぎない安定感というか、非常に穏やかな心境で一貫して演奏していくのが印象的。この方、達観されていますね。音楽時計という細工物のために書かれた、微笑ましい小曲を、音楽時計以上に微笑ましく演奏していきます。本来壮麗、重厚であろうオルガンからおとぎ話のようなメロディーを紡ぎ出し、文字通りおとぎ話のような音楽。録音も鮮明で言うことなしです。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
再びフォルテピアノの演奏に戻ります。楽器が変わっても音楽の穏やかさは一貫しています。間を十分にとって、この曲潜む詩的な表情を浮かび上がらせます。ブレンデルのピアノの演奏や、インマゼールのフォルテピアノの演奏がこの曲の刷り込み盤ですが、良く聴くと宇山さんの素直な響きの演奏もそれに勝るとも劣らない素晴しいもの。力強さも、詩情も負けていませんね。むしろ曲自体を楽しむにはこちらの方が良いほど。ちょっとハマってしまう良さ。2楽章構成のこの傑作ソナタを完全に手中に収めた素晴らしい演奏です。

Hob.XIX:10 Andante [C] (????)
Hob.XIX:24 MS. Niemecz No.3 Presto [C] (1789)
Hob.XIX:15 MS. Wien No.5 Allegro ma non troppo [C] (before 1789)
Hob.XIX:9 (Hob.III:57-III) Menuetto, Allegretto [C] (1788)
再び音楽時計曲4曲。今度はパパゲーノの吹く笛のような音色で来ました。やはり楽器の音色に関しては非常に鋭い感覚をもたれています。聴く人の想像力をかき立てる音色の変化。こればかりは聴いていただかなくてはわからないでしょう。たかが音楽時計のための曲と片付けられない深みを感じます。音楽とは音を楽しむものなりと諭されているよう。これまできいた音楽時計曲の演奏の中で間違いなく一番洗練され、一番楽しめる演奏です。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後は再びフォルテピアノの演奏。間違いなくハイドンの最高傑作の一つです。この曲を最後にもってくるということは、ハイドンのことを熟知されているからに他ならないでしょう。前2曲のソナタと同様の一貫した演奏スタイルですが、テンポは前2曲より自由にとって、フレーズひとつひとつを噛み締めるように弾き進めていきます。右手のきらめき感も素晴しく、儚さをを帯びた美しいメロディーを繊細な表情と落ち着いた心で音にしていきます。淡々と変奏を重ねながら静かに心に刺さってきます。終盤の盛り上がりの力強さ、混濁感のない美しい響き、波の満ち引きの演出の巧みさ、そして穏やかな心境に裏付けられた、美しい音楽。この曲のフォルテピアノの演奏のなかでも飛び切り美しい演奏の一つでしょう。

初めて聴いた宇山ブヴァール康子さんの演奏ですが、これは素晴しい。フォルテピアノの演奏は、古楽器の弱点を一切感じさせない磨き抜かれた演奏。そして音楽時計曲もこれほどの完成度の演奏は聴いた事がありません。加えて素晴しいのがアルバムのプロダクションとしての完成度の高さ。初めて手にするレーベルですが、デザインのセンスもタイポグラフィーも素晴しいですね。昔ジュピターレコードでACCENTの美しいLPを手にした時と同じような悦びを感じます。評価はすべての曲を[+++++]とします。このアルバムのフォルテピアノの演奏、古楽器の演奏を苦手としている人にも聴いていただきたいですね。この雄弁なフォルテピアノによる深い詩情は、きっと気に入ると思います。

最近取りあげるアルバムが素晴しいので、レビューも楽しいです。

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【新着】エカテリーナ・デルジャヴィナのピアノソナタ全集

今月はメジャーな交響曲のアルバムを取りあげていますが、今日はお休みして新着アルバムを。

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エカテリーナ・デルジャヴィナ(Ekaterina Derzhavina)のピアノによるハイドンのピアノソナタ全集を収めた9枚組のアルバム。収録は1993年から2008年にかけて、ドイツ、ザールブリュッケンにあるザールランド放送の室内楽スタジオおよび放送大ホールでのセッション録音。レーベルは独Profil。

デルジャヴィナはまったくはじめて聴く人。今までその存在も知りませんでしたが、いきなりハイドンのピアノソナタ全集がリリースされビックリしたのが正直なところ。ハイドンのピアノソナタ全集を出されて、放っておく訳にはまいりません。

エカテリーナ・デルジャヴィナ1967年モスクワ生まれのロシア人ピアニスト。6歳の頃からピアノを学び始めました。モスクワにあるグネーシン音楽大学、グネーシン音楽アカデミーに進み1989年ロシアピアノコンクールで3位とロマン派ピアノ演奏特別賞を受賞、また1992年ザールブリュッケンで開催されたバッハピアノコンクールで90人のピアニストのなかから1位に輝きました。1993年から2006年までの間出身校であるグーネシン音楽大学で講座をもち、また、モスクワのチャイコフスキー音楽院でも2003年以降教職の立場にあるとのことです。

日本には2012年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンに出演して話題となったそうです。このアルバムの他にはメトネルなどの演奏をはじめとして数枚のアルバムがリリースされているくらいで、あまり知られた存在ではない模様です。ルックスはロシア人というより、東洋の血が混じった人のように見受けられ、ライナーノーツに多数載せられた写真はおじさんの心を射止めているようです。
※当ブログ読者のあるおじさんのからカミングアウトがありました(笑)

今日は全集のなかでも録音年代が最近の2曲を取りあげましょう。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
2008年とこのアルバムの中では最新の録音。ハイドン晩年の2楽章のソナタ。ライプツィヒの出版社クリストフ・ゴットロープ・ブライトコップの依頼で作曲された曲。女流らしい華麗なピアノを想像していたところ、1楽章のアンダンテはかなり力強いタッチで朴訥な音楽を奏でる人。遅めのテンポでじっくりとメロディーを単音単位で積み上げ、一音一音をかなりはっきり区別しながら、ミニマルな響きで詩情を乗せていきます。和音の響きよりも単音の独立性がかなり印象に残ります。ハイドンの演奏としてはかなり個性的なもの。ハイドンのソナタを古典期の曲として描くと言うよりは現代音楽のような孤高の表情も垣間見せます。放送ホールでの録音らしくオンマイクの直接音重視の鮮明なもの。もう少し残響があるほうが潤いがあっていいように思います。
続くプレストはテンポあがるものの、ゴリッとした力強さはそのまま。すこし荒っぽいところもありますが、かなりバリバリと弾き進めていくところの力強さはかなりのもの。あまり細かいところにこだわらず曲の勢いを描く事を重視しているようです。思ったより男性的な演奏でした。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
こちらは2006年の録音。荒々しく迫力重視で弾き進めていくところは前曲同様。力強いタッチでメロディーラインに隈取りをクッキリつけて描いていき、キレのいいアクセントが特徴。どちらかというと強音で押していく演奏。指はかなり良く回る方で、音階のクリアさはありますが、一音一音のツブがそろっている訳ではなく、いい意味で弾き散らかしていくようなところが迫力を生んでいるのでしょう。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。音量を落としたところで、ようやく繊細な表情が見えてきました。繊細な中にも音を一音一音独立させて構成していくデルジャヴィナの特徴は保たれていて、独特の表情は健在。中間部の大きな盛り上がりでは再び鋼のような強音を聴かせて、クリア強音を印象づけます。
フィナーレは本当にミニマルミュージックのような印象が強くなります。左手の伴奏が信号音のように単純化された響きを繰り返し、それに乗ったメロディーもクッキリ、間をしっかりとってかなりの存在感。良く聴くとピアノの一音一音が透き通った氷のような純度の高い音。

エカテリーナ・デルジャヴィナのハイドンのピアノソナタ全集から2曲ばかりを選んで聴きましたが、ルックスから想像される可憐な演奏とは異なり、かなり力強く個性的な演奏。ハイドンのソナタに新たな光を当てようと言う斬新なアプローチでしょう。ただ、これまでのハイドンの演奏から聴かれる豊穣な響き、流麗な表情や機知に富んだ解釈の多様性が失われ、整理されすぎてしまった感もなきにしもあらず。ちょっと評価が割れそうな演奏です。もしかしたら、この演奏に対する評価は、こちらの耳や心の柔軟性が問われているのかもしれませんね。まだまだ数枚取り出して聴いているだけですので、これからゆっくりデルジャヴィナのハイドンを解きほぐして行かなくてはなりません。この2曲の評価は[++++]とします。

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リースベト・ドフォス/リュカス・ブロンデールの「ナクソスのアリアンナ」など

久々に歌曲のアルバムを。

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リュカス・ブロンデール(Lucas Blondeel)のピアノ、リースベト・ドフォス(Liesbeth Devos)のソプラノで、ハイドンのピアノソナタ(XVI:49)、ファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:48)、カンタータ「ナクソスのアリアンナ」、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の5曲を収めたアルバム。収録は2009年12月28日から31日、ベルギー、ブリュッセルのフラジェ・スタジオ1。ライナーノーツには音響のいいスタジオとして知られていると記載されています。レーベルはcypres。シプレーと読むそう。

このアルバム、先日新宿タワーレコードに立ち寄った際、マーキュリーが輸入するアルバムがセールになっていたので、すかさず未入手のハイドンのアルバムを探して求めたもの。輸入盤の方が安いのですが、マーキュリーの輸入するアルバムは解説が充実しているので、つい国内仕様盤を手に入れてしまいます。

このアルバムにもライナーノーツに記載されたピアニストのリュカス・ブロンデールの長文の解説やナクソスのアリアンナの歌詞等つけられていて、このアルバムの理解を深めるのに役立ちます。英文も辞書を引きながら読めない訳ではありませんが、最近老眼が進み、小さい字の英文はかなりしんどいです(苦笑)

さて、このアルバム、よく見るとアルバムのタイトルは「マリアンネに」と気になるもの。以前取りあげた、ヌリア・リアルのアルバムを思い起こさせます。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集

このアルバムタイトルのマリアンネとは、ハイドンが晩年に恋心を抱いた、マリア・アンナ・フォン・ゲツィンガーという人の事。ハイドンの同僚のゲツィンガーという医師の夫人。ハイドンが57歳の1789年、マリアンネ夫人からハイドンに届いた1通の手紙にはハイドンの作品をピアノ独奏曲に夫人自身が編曲した楽譜がそえられていました。その出来の見事さに驚いたハイドンが返事を書いたことから文通がはじまり、ハイドンの恋心に火がついたのですが、それから4年後のマリアンネ夫人の急死によって、静かな友愛は終わりを迎えたとの事。その間、ハイドンの作曲活動は頂点を極めた時期にあたります。1790年にはニコラウス・エステルハージ候が亡くなり、ウィーンに転居した後、第1回目のロンドン旅行に出発、翌1791年にはロンドンでザロモン演奏会が開かれ、交響曲の93番から98番までが作曲されました。

このアルバムに収められた曲もすべて、この4年間に作曲された曲で、ハイドンがマリアンネ夫人のことを想ってかいたと想像される曲が選ばれています。詳しくはこのアルバムを実際に手に入れて解説を読まれるのがよいでしょう。

演奏者ですが、2人ともベルギーの人。ピアノのリュカス・ブロンデールは1961年ベルギーのブリュッセル生まれ。アントウェルペン音楽院、ベルリン芸術大学などで学び、アントウェルペンで開かれたエマニュエル・デュルレ国際ピアノコンクールで優勝、ベルリンで開かれたシュナーベル・コンクールで3位、チューリヒで開かれたクルト・ライマー・コンクールで優勝などの経歴があります。ソロ活動や室内楽や歌曲の伴奏などにも感心が高く、バイロイトで開かれたラ・ヴォーチェ・コンクールでは最優秀伴奏者賞を受賞。また古楽器の演奏をインマゼールとバルト・ファン・オールトなどに師事し、古楽のアプローチを現代楽器でも生かしているとのこと。
ソプラノのリースベト・ドフォスは1983年オランダのベーフェレン=ワースの生まれ。ベーフェレン=ワースの音楽舞台芸術大学、アントウェルペン音楽院、エリザベート王妃音楽院などで学び、地元オランダを中心に歌劇場で活躍しています。
2人は2004年以来デュオを組んでベルギー、オランダ、ドイツ、フランス、スペインなどで活躍しているとのことです。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
最初はソナタ。ピアノはなんとヤマハ(YAMAHA CFIIIS)です。響きのよいスタジオとのふれこみ通り、PHILIPSレーベルがラ・ショー=ド=フォンで録ったような磨き抜かれた宝石のような音色。適度な残響が非常に美しい録音。中低音のちょっとゴリッとした感触がヤマハの特徴でしょうか。リュカス・ブロンデールのピアノはハイドンの曲の面白さを適度に表現する、ブレンデルの演奏に近いもの。ブレンデルよりも全体の流れの良さを意識してかテンポが全般に速めで、メリハリはかなり付けているのに爽やかな印象を残しています。この曲はハイドンがマリアンネ夫人のために書いた曲であるとハイドンの手紙に書かれ、2楽章の深い情感がハイドンのマリアンネ夫人に対する想いを現しているようです。ブロンデールのピアノはその想いを美しい想い出にしたようなキラキラした美しい演奏でまとめます。フィナーレもいい意味で軽妙なタッチが、ハイドンの想いを昇華させるような、爽やかな演奏。

Hob.XVII:4 / Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
この曲はハイドンがロンドンでの出版のため、楽譜をマリアンネ夫人に送ってもらったとされています。軽妙な曲想とブロンデールの爽やかな語り口が合って、ユーモラスな表情の面白さが味わえます。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
マリアンネ夫人との文通をはじめる前に作曲がはじめられた作品。女性に想いを馳せながら書いた曲だと知って聴くと、なるほどこの研ぎすまされたハイドン成熟期の音楽の美しさの理解も深まります。ブロンデールは起伏は大きくないものの、磨かれたピアノの響きで詩情溢れる演奏。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」 [E flat] (c.1789)
ブロンデールのピアノは、流石、最優秀伴奏者賞を受賞しただけのことはあります。静けさのなかに情感がこもった穏やかな伴奏から入り、歌手を引き立てることに細心の注意が払われています。ソロとはまた違ったブロンデールのピアノの魅力が見えました。ソプラノのリースベト・ドフォスはちょっと芯の堅い癖のある声ですが、声量とヴィブラートが良くかかった響きは魅力です。表情を抑えながらも雄弁なブロンデールのピアノに乗って、絶唱。安定感は文句なしですが、声質が強いせいか、歌自体に少々固さが感じられます。もう一段リラックスして力を抑えた方が歌に余裕が出るのではと感じた次第。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
そして最後は名曲です。なんとこの曲、マリアンヌ夫人が亡くなった直後に書かれ、この曲独特の深みは、マリアンヌ夫人を失った深い悲しみを現しているのではないかとされています。ブロンデールのピアノはやはり、ことさら重くなる事はなく、磨かれた美音で淡々とすすめていきます。かえってこうした抑えた表情の方が、深い悲しみを表すように感じられるのが不思議なところ。ハイドン自身が本当にどう感じていたのかは、今となってはわかりませんが、やはり禁断の恋の終わりを透徹した美しさで昇華させたというところではないでしょうか。

このアルバムの解説はブロンデール自身によって書かれていますが、非常に面白い。こうした曲の背景を理解してまとめられた企画ものは貴重ですね。最新の鮮明な録音で、ピアノの美しい響きとキリリと締まったソプラノの美しい響きを味わえるいいアルバムであることは間違いありません。実力派のベルギー人デュオによるナクソスのアリアンナも感慨深いもの。評価はピアノソナタ2曲とアンダンテと変奏曲が[+++++]、他2曲は[++++]とします。

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キャロル・セラシのフォルテピアノ/クラヴィコードによるソナタ集

3月に入りましたね。しばらく弦楽四重奏曲を取りあげてきましたので、少し雰囲気を変えて。

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キャロル・セラシ(Carole Cerasi)のフォルテピアノとクラヴィコードによる「変奏曲の芸術」とタイトルがつけられたハイドンのピアノソナタ4曲(XVI:48、XVI:40、XVI:19、XVI:42)と「アンダンテと変奏曲」(XVII:6)の5曲を収めたアルバム。XVI:19のみクラヴィコードで、それ以外はフォルテピアノによる演奏。収録はクラヴィコードによる演奏が2009年6月5日、ロンドンの北の街、ハートフォードシャーのプレストン教区教会、フォルテピアノによる演奏が同年6月17日から18日、イギリス西部、ブリストル近郊のダイラム・パークでのいずれもセッション録音。レーベルは英METRONOME。

このアルバムは以前取りあげたクラヴィコード奏者で製作者でもあるデレク・アドラムの演奏を聴いて、クラヴィコードの素晴らしさに開眼し、クラヴィコードの演奏によるハイドンのソナタのアルバムをいろいろHMV ONLINEに注文していたものがようやく到着したもの。全5曲のうちクラヴィコードによる演奏は1曲のみですが、フォルテピアノの演奏とクラヴィコードによる演奏の響きの違いが鮮明に聴き取れ、しかも演奏も極上のもの。古楽器奏者の演奏にはいろいろなタイプがありますが、響きの細部にわたるまで完全にコントロールされた精緻な演奏。あえて言えばインマゼールの演奏に近いでしょうか。しかも録音も非常によく、フォルテピアノとクラヴィコードの音色を存分に楽しむ事ができます。

奏者のキャロル・セラシについて調べておきましょう。オフィシャルサイトはこちら。

Carole Cerasi's Website

キャロル・セラシはセファルディ(中世にスペインとポルトガルに居住したユダヤ人の子孫)とトルコ人を親にもち、スウェーデンに生まれたフォルテピアノ奏者。しかもフランス語環境で育ったという特異なオリジンを持つ人。1982年からロンドンを拠点に活動しています。
11歳でハープシコードの演奏に興味をもつようになり、しばらくしてアントワープのケネス・ギルバートのコースに最年少で参加しています。その後師事したジル・セヴァーズに音楽的に決定的な影響を受け、またグスタフ・レオンハルトやトン・コープマンの薫陶も受けたとのこと。現在はユーディ・メニューイン・スクールのハープシコード講座の教授、ギルドホール音楽学校と王立音楽アカデミーでハープシコードとフォルテピアノの講座の教授として活躍しています。セラシの最初のソロアルバムである、エリザベト=クロード・ジャケ=ド=ラ=ゲール(Élisabeth-Claude Jacquet de la Guerre)のクラブサン曲集は英グラモフォン・アワードのバロック器楽部門賞を受賞して有名になったとのことです。

セラシのアルバムはすべてMETRONOMEレーベルからリリースされていて、このハイドンが8枚目ということになります。

最初の2曲はフォルテピアノの演奏。楽器は1795年頃に造られたウィーンのヨハン・シャンツ(イギリスのバースにあるホルバーン美術館所蔵のもの)で、シャンツといえば、以前にパウル・バドゥラ=スコダのソナタ集で取りあげましたが、ハイドン自身が「シャンツこそ最も優れたフォルテピアノ工房である」と言っている楽器です。

2013/01/13 : ハイドン–ピアノソナタ : ハイドンの時代の響き パウル・バドゥラ=スコダのフォルテピアノ作品集

クラヴィコード目当てで手に入れたアルバムですが、なにやらフォルテピアノの方も気になってきました(笑)

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
適度な残響を伴った鮮明な録音。良く響く部屋で収録されているようです。ワンポイントマイクによる収録のような広大な空間にフォルテピアノが浮かび上がります。楽器の音色はハイドンの言葉がうなずける素晴らしいもの。鮮明なタッチとその余韻が心地よく広がります。この楽器、中低音のしっかりとした音色は、楽器の骨格の堅牢さを感じさせる素晴らしい安定感。キャロル・セラシの演奏はピアノに近いダイナミックさを感じさせながらも古楽器である事を踏まえた節度もあります。ゆったりとしたテンポとフレーズごとにしっかりとの表情をつけていく事で、ハイドン成熟期の詩情溢れる音楽が立ちのぼります。非常におちついた大人の演奏。
2楽章は転がるような速いテンポのパッセージのキレが見事。音楽のメリハリもしっかりついて、躍動感も十分。楽器の響きの隅々までコントロールして、ダイナミクスも楽器のキャパシティー十分に踏まえたもの。音が割れる寸前まで楽器を鳴らし、駆け抜けるような見事な指の回転。1曲目から、相当の実力者とわかる圧倒的な制御力。

Hob.XVI:40 / Piano Sonata No.54 [G] (c.1783)
次も2楽章構成。フレーズのメリハリの付け方が非常にうまく、ハイドンらしい古典の範疇での適度な立体感。一線を踏み越えると台無しになってしまいますので、この辺の音楽性、バランス感覚は確かなものでしょう。訥々と語っていくような絶妙な語り口でメロディーを重ねていきます。
2楽章は前曲と同様、クッキリとしたフレーズと吹き抜けるような速いパッセージが見事な、完璧な演奏。テクニックが確かなことは言うまでもありませんが、テクニックの誇示にならない理性が働き、爽やかな余韻が残る、言うことなしの出来です。

Hob.XVI:19 / Piano Sonata No.30 [D] (1767)
期待のクラヴィコード。音量は落ちますが、フォルテピアノの鮮明な響きに慣れた耳に、いきなり優しい音色がしっとりとしみ込んできます。クラヴィコードは1998年カリン・リヒターのもの(1771年頃に造られたクリスティアン・ゴットローブ・フーベルトのコピー)。フォルテピアノもクラヴィコードもa=415Hzに調律されています。録音会場も異なるため、音色も響く空間も異なります。フォルテピアノが少し遠くに定位していたのに対し、クラヴィコードは近くで弾いているように感じる録音。こちらも録音は見事。何より見事なのは曲と楽器の選択。前2曲がハイドン成熟期である1780年代のものなのに対し、クラヴィコードで弾かれたこの曲は1760年後半とシュトルム=ウント=ドラング期に入らんとする時期のもの。素朴な曲調に素朴な音色がマッチして、実に絶妙な響き。繊細な高音の響き、指のタッチそのままの柔らかいアタック感、張られた弦同士が微妙に響き合う事から生じる精妙さ、そして、限られた範囲で非常に繊細にコントロールされた音量の変化。クラヴィコードの響きの宇宙に引き込まれます。まるで別世界のような繊細きわまりない音楽に飲み込まれてしまったよう。キャロル・セラシはフォルテピアノとはタッチも演奏スタイルも見事に切り替えて、クラヴィコードの繊細な響きに合わせて音楽を創っていきます。自室で音楽を語り聞かされるような親密さです。デレク・アドラムのキレのよい語り口のクラヴィコードも良かったんですが、このセラシの精妙な響きに引き込まれるようなクラヴィコードも絶妙です。

Hob.XVI:42 / Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
フォルテピアノの鮮明な響きにもどり、夢から覚めたよう。この曲の刷り込みはピアノを色彩感豊かに響かせたブレンデル盤ですが、フォルテピアノでも素晴らしいな色彩感が得られることがわかります。ハイドンのソナタのなかでも格別濃い詩情が漂う名曲ですが、現代ピアノによる演奏に慣れた耳にも、フォルテピアノによる演奏の方が説得力があると思わせる素晴らしい演奏。最初の2曲でも触れましたが、フレーズひとつひとつの描き方が非常にうまく、落ち着いた古典の品格もある素晴らしい演奏。3楽章を通して、非常に安定感があり、セラシによる極上の演奏をただただ楽しむべき演奏という印象です。もはやこれを超える演奏は考えられないような神憑ったものと聴こえます。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後に名曲でアルバムを締めます。「変奏曲の芸術」とのタイトルをつけられている意味がここに来てはっきりわかりました。一つ一つの変奏の見事な描き分けの積み重ねが描く音楽の豊穣さがこのアルバムのテーマであったわけです。この最後の大曲でその表現を極めようということですね。これまでの曲と同様、丁寧なフレージングでじっくりと曲を描いていくばかりではなく、後半予想外にテンポを上げてダイナミックスさと荘厳な躍動感を極めようと言う意図まで見えてきて、セラシの音楽の大きさを思い知ることになりました。この人、只者ではありません。

初めて聴くキャロル・セラシのハイドンのソナタ集。クラヴィコードへの興味からたどり着いたアルバムでしたが、クラヴィコードの演奏のみならず、フォルテピアノの演奏も恐ろしく冴えたものでした。冒頭響きの細部までコントロールされているところをインマゼールの演奏に近いと例えましたが、レビューを通して得た印象は、ブラウティハムのダイナミックさをもちながらもより古典のバランスを踏まえた演奏であり、シュタイアーのような自在な表現力を持ちながら、過度な踏み込みを避けるバランス感覚を持ち合わせるなど、フォルテピアノの演奏者として、特にハイドンの演奏ではこれまで聴いた素晴らしい演奏に勝るとも劣らない素晴らしいものだと感じました。今まで全く知らない人ですが、要注目です。ハイドン以外にリリースされたアルバムも聴いてみたくなりました。評価はもちろん[+++++]とします。

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マーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるソナタ集

今日は古の響きへ。

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マーシャ・ハジマーコス(Marcia Hadjimarkos)のクラヴィコードによるハイドンのピアノソナタ6曲(Hob.XVI:32、XVI:44、XVI:48、XVI:20、XVI:41、XVI:42)を収めたアルバム。収録は1993年10月、スイスの北端バーゼル近郊のヴァルデンブルクという街でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi傘下のZIG ZAG TERRITOIRES。

マーシャ・ハジマーコスの参加したアルバムは、以前一度取りあげています。

2011/03/19 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】エマ・カークビーの歌曲集

ハジマーコスの略歴を前記事から引用しておきましょう。

マーシャ・ハジマーコスはアメリカ人のよう。幼少の頃からピアノに親しみ、マイケル・グレイブスのショートケーキのようなポストモダン建築の代表作、ポートランド市庁舎で有名なオレゴン州ポートランドで学び、ピアノとフランス文学をアイオワ州立大学で学んだよう。その頃ハープシコードなど古楽器への興味を持つようになったとのこと。後にヨーロッパに移り、フランス国立音楽院でインマゼールなどとともに学んだとのこと。その後はフォルテピアノとクラヴィコードのスペシャリストとして活躍しているようです。

前記事を書いた時に触れたハイドンのソナタ集というのが今日取り上げるアルバムです。このアルバムは先日ディスクユニオンでようやく見つけて手に入れたものです。

このアルバムの特徴は何といってもクラヴィコードというフォルテピアノやハープシコードよりも古い楽器による演奏ということでしょう。クラヴィコードは机上において弾く長方形の箱形の楽器で16世紀から18世紀に広く使われた楽器。音量はフォルテピアノよりも遥かに小さく、また音の強弱の幅もかなり限られます。ライナーノーツによれば、ハイドンより一世代前のC.P.E.バッハは自身の即興的な曲の演奏にクラヴィコードを推奨していたとの事。ハイドンの時代にもおそらくクラヴィコードは使われていたでしょうが、ハープシコードやフォルテピアノなど、よりダイナミックな演奏が可能な楽器も現れてきていたはずです。このアルバムはこのクラヴィコードによる雅な響きがポイントになるわけです。楽器はトーマス・シュタイナー(Thomas Steiner)という人の昨。

Hob.XVI:32 / Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
音量を上げて聴くと意外と張りのある音色。低域の強音はビリつき、明らかに楽器の限界を感じさせてしまいますが引き締まった音で鍵盤楽器というよりギターとかベースの強音に近い響き。ハジマーコスの演奏は速めのテンポでグイグイ攻め込むもの。楽器の限界はなんのそので、強音もかなりの力の入ったもの。この強音のビシッと引き締まったアクセントが特徴でしょう。フレーズの切れ目はすこしテンポを落とし、連続する音階に入ると素晴らしい推進力。この緩急の切り替えの面白さもハジマーコスの特徴かもしれません。
2楽章のメヌエットは楽器のダイナミックレンジが狭いので曲の構造を音量ではなくタッチの微妙な変化でつけていきます。繊細なフレーズコントロールがなかなか。
フィナーレはなぜか、それまでよりも残響が美しく響き、クラヴィコードの響きの魅力が一層引き立ちます。相変わらず左手の引き締まった強音がかなりの迫力で聴き応えがあります。楽器の限界を感じさせながらも、その範囲で楽器のキャパシティ一杯に弾きまくる感じ。後半は楽器が何度もビリつくほどのアタックで迫力溢れるもの。1曲目からクラヴィコードの演奏から予想した響きとはかなり異なるダイナミックな演奏でした。

ハジマーコスの演奏は曲によってスタイルは変化しますが、質はムラのないもの。以降各曲の聴き所のみ簡単にふれることにしましょう。

Hob.XVI:44 / Piano Sonata No.32 [g] (c.1771)
この曲は2楽章構成。短調の入りはクラヴィコードのほの暗い音色が似合います。聴き進むうちにすっかりクラヴィコードの音色の魅力にハマりました。曲想にあわせて、今度はとぼとぼとつぶやくような演奏。デリケートな音色とフレーズコントロールに耳を奪われますが、鮮明な録音によって楽器のフリクション音やハジマーコスの息づかいまで聴こえてきます。2楽章もとぼとぼとした感じが一貫して続きますが、やはり千変万化する響きに聴き入ります。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
この曲も2楽章構成。ブレンデルの磨き抜かれた現代ピアノの音のイメージが染み付いた曲ですが、そのイメージを一瞬にしてぬぐい去るような雅な響き。かなりピアノによる演奏を意識したような演奏。ピアノそのままのような弾き方で、ピアノと全く異なる余韻を楽しめと言っているよう。クラヴィコードの響きに聴き入ります。この曲は曲想もあって素直な演奏に聴こえます。2楽章に入るとかなり速めのテンポで颯爽と吹き抜けるよう。前曲ではたどたどしかったような指の引っかかりが嘘のように指が良く回ってます。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
2楽章の美しい調べが有名な曲。1曲目のダイナミックな演奏が嘘のようにしんみりと響くしとやかなクラヴィコードの音。この曲も短調の曲調に合わせた演奏スタイルでしょうか。期待の2楽章はおとぎ話のBGMのように沁みる響き。ピアノによるキラ星のような澄んだ美しさもいいですが、クラヴィコードの響きの余韻も悪くありません。3楽章は力強さと左手のアタックが戻って曲が締まります。

Hob.XVI:41 / Piano Sonata No.55 [B] (c.1783)
明るくダイナミックな演奏。冒頭から左手のアタック炸裂。1曲目同様音階部分とフレーズの切れ目の速度の変化が聴き所。終始切れのいい演奏。

Hob.XVI:42 / Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
どちらかというと3曲目のXVI:48に近い、ピアノの響きをトレースしたような演奏。速めのテンポで自然な余韻の美しさを上手く表現した演奏。

マーシャ・ハジマーコスのソナタ集はクラヴィコードという楽器での演奏の認識を改めるべきと感じた演奏。もとからダイナミックな音は表現できないものと思い込んでいましたが、逆に楽器の限界を感じさせることで、ダイナミックさを表現し、結果としては十分ダイナミックにも聴こえます。独特の音色と余韻は懐古趣味ということではなく、純粋に複雑かつデリケートな印象を生み、曲に新たな表情を与えます。曲によって演奏スタイルを変化させ、曲の聴き所のツボを見事にとらえています。聴き方によっては地味な演奏という評価もあるかと思いますが、私はこのアルバム、実に興味深く聴きました。従って評価は全曲[+++++]とします。

(2013年1月27日追記)
デレク・アドラムの演奏を聴き、全曲[++++]へ評価を修正しました。

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ヨス・ファン・インマゼールのソナタ集

今日は古楽器の音色が恋しくなって選んだアルバム。古楽器の音色を最も美しく表現する人といえばこの人です。

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ヨス・ファン・インマゼール(Jos van Immerseel)の演奏による、モーツァルトとハイドンのピアノソナタ集。ハイドンはファンタジア(Hob.XVII:4)、ピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ピアノソナタ(Hob.XVI:49)の3曲。収録は1989年5月、ベルギーのアントウェルペン(アントワープ)のエルゼンフェルト・ホテルのゴシック教会でのセッション録音。レーベルはオランダのGLOBE。

インマゼールのハイドンはこれまで指揮者としてチェチーリア・ミサを取りあげています。

2011/04/03 : ハイドン–声楽曲 : インマゼールの聖チェチーリアミサ

ヨス・ファン・インマゼールは1945年はベルギーのアントウェルペン生まれのフォルテピアノ奏者、指揮者。アントウェルペン音楽院にてピアノ、オルガン、チェンバロを学び、ケネス・ギルバートらに師事。地元アントウェルペンに古楽アンサンブル、コレギウム・ムジクムを設立し、レパートリーはルネサンス、バロック音楽から、後に古典派から初期ロマン派音楽まで広がりました。1987年にはアニマ・エテルナを設立し、モーツァルトのピアノ協奏曲全集などを録音、また1999年には指揮者としてベートーヴェンの交響曲のヨーロッパ・ツアーを行い、その後交響曲全集の録音も残しました。

インマゼールはいまやヨーロッパ中でコンサートに引っ張りだこ。即興演奏の名手としても知られているそうです。また、自身のフォルテピアノを運んで演奏旅行をすることでも有名だそうです。

私が愛聴しているモーツァルトのピアノ協奏曲全集の録音もフォルテピアノの非常に研ぎすまされた音色、アニマ・エテルナの繊細な響きが心地よい演奏。古楽器の音色にことさら鋭敏な感覚をもった人との印象です。そのインマゼールの弾くハイドンのピアノソナタということで、期待が高まる演奏です。

この3曲はほぼ同年代に作曲された曲を集めたもの。

Hob.XVII:4 / Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)

期待通りのフォルテピアノの雅さが際立つ宝石のような素晴らしい響き。録音も澄み切った静寂な空間にフォルテピアノがしっかり定位する素晴らしいもの。楽器の胴鳴りも聴こえてくるようなリアルな響き。インマゼールの演奏はテンポはわりと自在に動かしながらも、自然なフレージングが印象にのこるもの。先日いきなりソナタ全集をリリースしたトム・ベギンがテンポを動かすことを強調というか、少し癖を感じるフレージングなのに対し、インマゼールはあくまで自然なフレージングと自然さを大事にした響きに意識が集中しているように聴こえます。主旋律をクッキリ浮かび上がらせ、アクセントもクッキリつけるのですが、嫌みさは皆無。即興演奏も得意としているだけに、この辺の鋭敏な感覚は流石なもの。途中音色の変化をつける部分のキレも流石。終盤は迫力ある音階の下降と、一瞬の静寂を経てさらりとしたフィニッシュ。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
聴き慣れたメロディーが雅な音色で流れます。冒頭から抜群の集中力。一音一音の力感の変化に耳を峙てます。ゆったりと言うより、静寂を聴けと言われているように訥々と進みます。すべての音のフォルテピアノの響きの消え入る様子をゆったり楽しめる演奏。フォルテピアノの音域ごとの音色のの変化を音階を通して虹の色の変化のように楽しめます。特にしっかりとした中音域と軽めの高音域の音色の変化の織りなす彩は素晴らしい美しさ。古楽器の音色を極め尽くしているインマゼールならではの至芸と言うべきでしょう。1楽章最後のくだけた落ち着きは流石の表現。
この曲は2楽章構成。フォルテピアノのエネルギーを浴びる要な演奏。テンポの変化は保ちながら、素晴らしい迫力と音色の美しさが同居。ピアノの演奏でもこれだけの畳み掛ける迫力が出せるかどうかわからないほど楽器を鳴らしきっています。途中指が引っかかるような表現の部分がありますが、セッション録音故、意図した表現なんでしょう。一気呵成に吹き抜けてゆく圧巻の演奏でした。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
前曲のエネルギーを引き継いだような力の入った入り。フォルテピアノの演奏としては異例の迫力でしょう。ちょっとヴォリュームを大きめにして、部屋にフォルテピアノが出現したような音響を楽しみます。この曲では次々と現れるアクセントの変化を楽しむような演奏。大山脈の峰の連なりを眺めながら縦走する感じです。後半ではアクセントに変化をつけて音楽に驚きを与えます。ここでもインマゼールの鋭敏な感覚は素晴らしいキレ。
瞬時に柔らかな音色に切り替わり、2楽章のアダージョ・カンタービレに移ります。今度は慈しむようにメロディーを刻み、宝石のように磨かれた音色をデリケートなタッチで表現。尾根から眺める深い青の湖のような趣。済んだ湖の青の深さの変化が聴き所。深い深い演奏。
フィナーレは軽いタッチではいります。軽さを楽しむうちに音色な徐々にクリアに変化するあたりは素晴らしいアイデア。同じメロディが聴いているうちに別の響きで再現され、また戻りと音色の変化が脳に刺激を与えます。ここが聴かせどころかと驚きました。最後は力強さを帯びて、そしてすっと引くような秀逸な最後。いや、インマゼールの魔法にかかったようなひと時でした。

ヨス・ファン・インマゼールの弾くモーツァルトとハイドンのピアノソナタ集。ハイドンの演奏は期待通りというか、久しぶりに聴き直して、その鋭敏な感覚と多彩な音色の変化に圧倒されました。やはり古楽器を知り尽くした人との認識をあらたにしました。評価は3曲とも[+++++]としました。古楽器によるハイドンのピアノソナタのおすすめ盤として広く聴いていただきたい1枚です。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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