ルドガー・レミーのブロードウッドピアノによるソナタ集(ハイドン)

今日はハイドンが活躍していた時代のピアノで演奏したピアノソナタを取り上げます。

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ルドガー・レミー(Ludger Rémy)のピアノによる、ハイドンの晩年のピアノソナタ3曲(Hob.XVI:52、XVI:51、XVI:50)を収めたアルバム。ピアノは1794年製のブロードウッドピアノ(John Broadwood 1794)。収録情報はPマークが1987年とだけ記載されています。レーベルはaudio max。

このアルバムに興味を持ったのは、もちろんブロードウッドピアノで弾かれているから。現代のピアノの透徹した響きの美しさもいいものですが、ハイドンが作曲していた頃、どのような響きをイメージして曲を書いたのかということにも興味は尽きません。こうした興味が本格的に生まれたのはクラヴィコードで弾かれたハイドンの素晴らしい演奏を聴いてからです。

2013/01/27 : ハイドン–ピアノソナタ : デレク・アドラムのクラヴィコードによるソナタ集

そのような興味が生まれると、色々と楽器に興味が湧いてくるわけで、その後楽器の変遷を見に、浜松の楽器博物館にも詣でております。

2015/09/15 : 旅行・温泉巡り : 【番外】浜松市楽器博物館詣で+うなぎ!

このアルバムの演奏に使われているのは1794年製のブロードウッドピアノですが、浜松市楽器博物館の所蔵楽器をウェブサイトで調べてみると、なんと7台ものブロードウッドのピアノがヒットします。いずれも1800年以降のものですが、資料番号K-0041、K-0022あたりの楽器がこの演奏に使われたものに近いのではないかと想像しております。

浜松市楽器博物館:所蔵資料データベース:検索=Broadwood

一応ブロードウッドピアノの歴史をWikipediaなどから紐解いておきましょう。
1732年にスコットランドに生まれたジョン・ブロードウッドが1952年にロンドンに移り、チェンバロ製作者のバーカット・シュディの元で働き始めたのが興り。シュディの娘と結婚し1773年にシュディが亡くなりピアノの制作を始め、1780年にはオリジナルなピアノを完成。1795年には息子もピアノ制作に加わりブロードウッド&サンとなります。ブロードウッドピアノの特徴は、それまで手や膝で操作していたペダルを脚で操作する方式を導入するなどの革新をもたらしているとのこと。ブロードウッド社のウェブサイトに掲載されている歴史を辿ると1774年にウィーンのハイドンにハープシコードを届けているという記載が見られるのに加え、1791年の最初のロンドン旅行の際にブロードウッドの楽器を使用しているとのことで、ハイドンとも浅からぬ関係があったようです。

このフォルテピアノから現代のピアノへの進化の途上にあるブロードウッドピアノによって、ハイドンの晩年のソナタがどう響くのか興味津々ですね。

奏者のルドガー・レミーは調べてみると手元の以前レビューしたアルバムでフォルテピアノを弾いていました。

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ルドガー・レミーは1949年、ドイツのオランダ国境に近いカルカー(Kalkar)生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者、音楽学者。フライブルク、パリなどで学び、メインは17世紀から18世紀のドイツ音楽の研究などドイツでの教職のようです。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
ブロードウッドピアノはフォルテピアノよりも音に力強さと厚みがあり、冒頭の力強いタッチから始まる曲の迫力が十分伝わります。ルドガー・レミーは楽器が良く鳴る勘所を踏まえて、楽器のキャパシティいっぱいのダイナミックレンジを使って鮮烈な響きを引き出してきます。フォルテピアノによる雅な響きとは力感が異なり、ピアノに近いダイナミクスで音色はフォルテピアノに近いと言ったらいいでしょうか。手元にある浜松楽器博物館の制作で小倉貴久子さんの弾く1802年製のブロードウッドピアノ(コレクションシリーズ38)と音色は近いんですが、浜松の楽器の方が調律が気持ちよく決まっていて、響きに濁りがありません。逆にルドガー・レミーの演奏の方が力強さを感じますので一長一短というところでしょうか。ピアノに負けないダイナミクスを感じさせます。まさにハイドンがこの曲に込めたダイナミクスはこのブロードウッドピアノがあってのことかもしれません。ピアノの演奏に耳は慣れていますが、この演奏を聴いてフォルテピアノの世界から扉が一つ開いたところを想像します。1楽章のダイナミクスがまさにその象徴のように思えてきました。
続くアダージョも所々に力強いタッチとその余韻を楽しむような曲想であり、進化途上のブロードウッドピアノの響きがそのタッチの魅力をかえって浮かび上がらせるよう。耳をすますとこの先進化を遂げていくピアノの音色に近い響きも聴き取れ、なかなか想像力に訴える演奏。響の濁りも含めてなんだかとても聴き心地がよくなってきました。ルドガー・ラミーは訥々と語りかけるように弾き進め、ブロードウッドピアノならではの響きの余韻も十分に取り入れたダイナミックかつ詩的なニュアンスも踏まえた演奏で応えます。音色になれると演奏の深みがわかってきます。
3楽章に入ると鮮やかなタッチと絶妙な間のコントラストを効かせながらハイドンの素晴らしい音階の交錯による音楽が冴えてきます。澄みきりすぎた現代のピアノからは失われてしまったデリケートな響きのニュアンスもあるのだと知ります。

Hob.XVI:51 Piano Sonata No.61 [D] (probably 1794)
今度は落ち着き払った入り。噛みしめるようにしっとりとブロードウッドピアノをしっとりと鳴らしながらハイドンの素朴な音楽を奏でていきます。フレーズごと微妙に明るさと翳りが変化する様子を巧みに表現していき、ピアノでは表現できない音色の多彩さがあることに気づきます。やはりフォルテピアノよりもわずかにダイナミクスの表現に秀でていることの大きさが効いています。抑えた部分では音色の美しさ、強音では弱音との音色の変化の大きさがピアノ以上にダイナミクスを感じさせます。穏やかな1楽章に対して、少しタッチを強める2楽章への変化も実に面白く聴こえます。

Hob.XVI:50 Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
そして冒頭のXVI:52とともにハイドンのソナタの頂点をなすこの曲では、さらにタッチの強弱の絶妙な力加減がブロードウッドピアノをとうして生む音色の変化の面白さに耳を奪われます。ルドガー・レミーのタッチも精緻を極め、ブロードウッドピアノという楽器を知り尽くした人だけが、楽器の響きを活かし尽くすように操る妙技。音楽に創意がみなぎり、タッチは自在の極致へ至ります。久々に脳内にアドレナリンが溢れてきます。完全にルドガー・レミーの音楽に圧倒されます。1楽章のタッチとリズムの変化、2楽章の抑制された美しさ、3楽章の軽妙さと、どれをとっても現代ピアノでの表現の幅を上回る豊穣な音楽が湧き出てきます。これは見事。絶品です。

ルドガー・レミーがハイドン存命時の楽器であるブロードウッドピアノで弾いた最後の3つのソナタ。この演奏を聴いて、新たな時代の楽器の潜在力がハイドンのこの3つのソナタの作曲に際して大きな影響があったというふうに思えるような素晴らしい演奏でした。特に最後のXVI:50は絶品。現代ピアノに比べればダイナミクスでも音色の統一感でもまだまだ進化途上のものですが、逆にハイドンのこのこれらのソナタには、タッチの強さによる音色の変化や、響きの美しさが際立つ面白さがあることがわかります。これは是非皆さんに聴いていただきたいアルバムですね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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ギャリック・オールソンのピアノソナタ集(ハイドン)

今日も湖国JHさんから送り込まれた刺客。恐ろしいキレ者でした。

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ギャリック・オールソン(Garrick Ohlsson)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集。Hob.XVI:50、XVI:51、XVI:52、アンダンテと変奏曲XVII:6、アダージョXVII:9の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1992年、ニューヨークのコンコルディア・カレッジでのセッション録音。レーベルは米ARABESQUE RECORDINGS。

ギャリック・オールソンは私ははじめて聴く人。ネットをみてみると、ショパン、ベートーヴェンなどのアルバムがかなりリリースされていますので、知っている人も多いでしょう。

1948年、アメリカ、ニューヨーク州のマンハッタンの30kmほど北方にあるホワイト・プレインズ生まれのピアニスト。1966年にブゾーニコンクール、1968年にモントリオール・ピアノコンクールに優勝、1970年にはワルシャワで行われたショパンコンクールで金賞を受賞し国際的に有名になりました。ショパンのピアノ曲をすべてレコーディングしている他、レパートリーは広大で、80曲もの協奏曲を弾くことができるとのことです。

オールラウンダーたるオールソンのハイドン、これが素晴しかった。このアルバム以外にハイドンの録音はなさそうですが、選曲はハイドン山脈の頂上をいきなり目指す意欲的なもの。

Hob.XVI:50 / Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
広いホールの残響をたっぷりと含んだピアノの響き。冒頭から尋常ならざるキレ。オールソン、テクニシャンらしくクッキリとハイドンの最晩年のソナタを軽々と演奏していきますが、テクニックの誇示のような印象はなく、ハイドンのソナタと戯れているよう。ハイドンに対する畏敬のようなもの感じられる真摯な姿勢も感じます。このキレは素晴しいですね。ところどころで大きくメリハリつけるので、曲の構造がクッキリと浮かび上がり、キリリと構成感を表現。迫力も十分。冒頭から圧倒的な演奏にのけぞります。
素晴しかったのがこのアダージョ。ハイドンの美しい煌めくようなメロディーが次々と奏でられ、まるで満天の夜空をながめるよう。テンポをしっかり落とし、ゆったりと濃密な音楽が流れます。溢れんばかりの香しい詩情にうっとり。
フィナーレではやはり、自在に加減速をコントロールしながら、抜群のキレ味のタッチ。この人、只者ではありませんんね。最後はふっと力を抜いた見事な終わり方。1曲目からノックアウトです。

Hob.XVI:51 / Piano Sonata No.61 [D] (probably 1794)
2楽章構成の曲。実に伸びやかな入り。キレよくしなやかなタッチは変わらず、クッキリとしたメリハリもあり、ピアノが鳴りきっています。このXVI:51は今ひとつ落ち着かない演奏も多いのですが、曲の聴かせどころをしっかり把握して見事な演奏。ベートーヴェンの曲のようなダイナミックさではあるのですが、不思議と違和感はなく、ピアノによるハイドンのソナタの理想的な響きと言っていいでしょう。

Hob.XVI:52 / Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
これまでの演奏とかわらず、素晴しい集中力。この曲に求められるダイナミックさと軽やかさ、しなやかさ、古典的な規律、そしてハイドンらしい微笑ましさまで、すべてが高次にまとめられた演奏と言っていいでしょう。聴いていてエクスタシーを感じるほどのキレ味。ひとつひとつのフレーズを完璧に描き分ける驚愕のコントロール。ビアノの分厚い響きの最後の余韻までコントロールされているような、完璧な制御。これだけの表情が自然にまとまっているあたり、恐ろしく鋭敏な感覚の持ち主なのでしょう。
このアダージョでは確信犯的に変化を抑え、孤高の境地に達するよう意図しているよう。ピアノによるこの演奏でこれ以上の高みはあるのでしょうか。ゆったりと演奏をすすめるうちに、高みは成層圏の濃紺の空のよう。
フィナーレの入りのフレーズにほっと一息つきますが、この曲のこれからの展開をオールソンのカミソリのようなキレ味で演奏されることを想像すると穏やかではありません。すぐにキレが炸裂。広いホールに広がるピアノ響きにただただ打たれます。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
これまでのオールソンの圧倒的な演奏から、この曲を聴く前から殺気を感じるほど。いったいどこまで澄みきった演奏を聴かせるのでしょうか。丁寧に丁寧に変奏を磨き込んでいくような演奏。ピアノ響きは磨き抜かれたキラ星のごとき美しさ。この長い変奏を完全に掌握して、演奏はオールソン流に完璧に仕上げてきます。隙もゆるみも一切なく、揺るぎない自信に溢れた演奏。変奏一つ一つの描き分けは見事と言う他ありません。ハイドンがたどり着いた、ベートーヴェンへとつながる音楽の歴史の一つの頂点を聴くような感慨を覚えるほどの説得力。この雄弁さ、余人の演奏とは一段レベルが違う感じです。この長い変奏を実にうまくまとめて、クライマックスを築いた後、最後は響きの純度が限りなく透明に近くなってすっと終わります。ピアノの美しい響きの余韻が耳にこだまします。

Hob.XVII:9 / Adagio [F] (before 1792)
何と純粋な響き。今までブレンデル盤を愛聴してきましたが、ブレンデルよりもオールソンのほうが深いですね。シンプルな音楽の中に祈りにも似た無垢なものがあります。心が洗われるような演奏です。

ギャリック・オールソン、はじめて聴く人でしたが、衝撃を受けたというのが正直なところでしょう。これほどのハイドンに今まで触れてこなかったとは。まだまだ研鑽がたりませんね。このアルバムは現在、中古以外では流通していないようですが、ハイドンのピアノソナタが好きな方は必聴のアルバムです。ピアノによるハイドンのソナタの正統的な演奏の一つの理想のような演奏です。評価は言うまでもなく全曲[+++++]です。

湖国JHさん、参りました。

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ジャン=クロード・ペヌティエのピアノソナタ集

今日は昨日につづいてピアノソナタの最近入手したアルバムを紹介しましょう。

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昨夜、リヒテルの演奏いろいろ聴いて、ピアノソナタの心地よい響きが懐かしくなった次第。今月はワイゼンベルクのソナタを取り上げたくらいで、リヒテルを含めて3組目です。

取り上げたのは、ジャン=クロード・ペヌティエ(Jean-Claude Pennetier)のピアノの演奏による、ハイドンのピアノソナタXVI:50、XVI:51、XVI:52と変奏曲XVII:6の4曲。録音はソナタが1999年9月24~26日、変奏曲が2000年2月11日にマルセイユでのセッション録音。レーベルはLYRINXというレーベルのものですが、ジャケット裏面にはharmonia mundi distributionの記載が。harmonia mundi傘下になったということでしょうか。もう一つEnregistrement originarl DSDの表記がありますので、もともとDSD録音ということで音質については期待が高まりますね。

ピアニストのジャン=クロード・ペヌティエは、私はおそらくはじめて聴く人。1942年生まれのフランスのピアニスト。作曲家や指揮者としても活動している模様で、ピアニストとしてはフランスものなどが得意なようです。ネットを調べてみると、Tower Records Onlineに最近のインタビューが掲載されていましたのでリンクを張っておきましょう。

Jean-Claude Pennetier - インタビュー - TOWER RECORDS ONLINE

上の記事にもあるように、最近はフォーレのピアノ音楽全集の録音に着手しているようですね。他にはシューベルトのソナタ集が賞などをとっている模様ですね。

さて演奏です。このアルバムに収められた変奏曲は1793年、ソナタはすべて1794年~1795年とハイドンが61~63歳の頃の作品。この頃は1794年に第2回のロンドン旅行に出発し翌95年8月に帰途に着くと言う充実していた、かつ慌ただしかった頃の作品。ハイドンの傑作が多く生み出されていた頃ですね。

1曲目はXVI:50。音は非常に自然なもので、スタインウェイの迫力が十分つたわります。軽いタッチで1楽章の出だしの特徴的な曲想を描きます。テンポは中庸、途中から左手の低音のアクセントを強めにつけ、流れるような右手の高音のメロディーラインとの絡みの面白さを演出。ブレンデルに似たところもありますが、響きの変化の幅はブレンデルより若干大人しく、音量の変化はブレンデルよりメリハリがあると言う感じでしょうか。写真を見ると恰幅のよい人ですので、左手の低音の迫力はなかなかのもの。決して派手な演出ではなく、折り目正しい印象ものこしていますので、ハイドンのソナタとしては良い演奏だと思います。
続いて2楽章。これはなかなか見事ですね。リヒテルの澄み切った自然さには敵いませんが、つぶやくように奏でるフレーズはハイドンの傑作ソナタのアダージョを見事に聴かせています。最後の余韻が静寂に消え入るところは素晴しいですね。
3楽章は、2楽章の余韻を残しながらじっくり聴かせるパターン。フォルテッシモの部分の力強さと無音の静寂のコントラストの対比がポイントですね。

続いて短い2楽章構成のXVI:51。無防備に近い、すんなりとした入り。この曲は多くの演奏がこのパターン。この無防備さから流し弾きのようなちょっと荒っぽい指使いでだんだん変奏が膨らんでいきます。良い意味で弾き散らかすような表現で、曲の面白さを伝えようと言うことでしょう。
2楽章は意外と軽めのタッチで前楽章の表現を受け継ぎます。さらさら弾いてあっという間に終了。

そして昨日リヒテルで聴いたXVI:52。こちらはオーソドックスに迫力重視の演奏。冒頭の一音から力感漲ります。前2曲と比べると若干速めのテンポ設定なんでしょう、緊密度も上がっています。あえて右手の高音のアルペジオをかなり柔らかめに漂うように弾くことで、左手のエネルギーとのコントラストをつけた展開。テンポの変化も大きめにつけて、曲を完全に掌握してコントロールしている感じですね。音量押さえる部分の抑制も十分効いて、コントラストも十分。このアルバムのなかで最も充実した表現でしょう。音響も十分美しく、いい1楽章ですね。
2楽章は最初のXVI:50と同様ですが、なぜかこちらの方が滑らかさに欠ける印象。リラックスしきらないような印象が残ります。1楽章が良かっただけにちょっと惜しいところ。
フィナーレは1楽章同様良いですね。すばらしい力感と速めのテンポ、気迫漲る感じです。最後はキレまくってうなり声のようなものが聴こえる部分もあります。終盤は早弾きのような快速テンポ。

最後は名曲、変奏曲XVII:6です。こんどはすこしゆっくり目で入り、わりと溜を効かせた弾き方で、フレーズごとの特徴をはっきりと描いて進めます。こちらは右手のメロディーラインの美しさを際立たせるように弾きます。
おそらくこのアルバムで一番の聴きものはこの変奏曲でしょう。テンポの揺らし方と曲想の表現がぴたりとあっていますね。時折みせる大きなうねりと強靭な響きも効果的。最後は素晴しい迫力で聴かせきってしまいます。

評価はソナタは全曲[++++]としました。XVI:52は[+++++]をつけても良いとは思ったんですが、2楽章の音楽性にちょっとマイナス要素となりましたね。通しで聴くと、やはり全体設計のような部分では1曲目のXVI:50の方が良い演奏かもしれませんね。変奏曲は[+++++]としました。

そろそろ月末に近づいてきましたので、今月のHaydn Disk of the Monthの心の準備をしておかなくてはなりませんね(笑)

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ジョアンナ・リーチのスクエアピアノ2枚目

以前取り上げて、雅な音色がとても良かったジョアンナ・リーチのハイドンのピアノソナタ。前回取り上げたアルバムの他にもう1枚ハイドンのソナタの録音があることを知り注文しておいたもの。だいぶかかりましたが無事入荷したのでレビューしておきましょう。

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http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=3789533

以前の記事はこちらをご覧ください。

ハイドン音盤倉庫 : ハイドン時代のスクエアピアノの音

本アルバムの収録曲目はソナタ5曲(XVI:37、36、23、34、51)とカブリッチョ(XVII:1)の6曲。前回取り上げたアルバムは曲ごとに違った楽器で弾いていたのがアルバムの演出でしたが、今回のアルバムは1823年製のスクエアピアノ(Stodart square piano)で通しています。修復者の名前もありアンドリュー・ランカスターという人。ついでに調律者はマーティン・ネスと言う人。収録年月日は記載がありませんが、2001年制作のアルバムとなっています。レーベルはイギリスのATHENE RECORDS。

出だしは非常にオーソドックスな古楽器でのソナタの演奏という感じ。フォルテピアノの音色と比べると、中音、高音域の音色が中心となり、低音域の伸びは今一つ。音色としての特徴というとやはり中高音の不思議な響きにあると言っていいでしょう。大正琴のようなというか何か不思議な雰囲気がします。XVI:37の1楽章はは律儀なテンポに乗って、まずは雅な音色で聴かせます。2楽章はぐっとテンポを落として、詩的な表情を際立たせます。3楽章は再び律儀な展開。1曲目から音色の魅力が十分発揮されます。クラヴィコードやチェンバロの場合、強弱の変化がなかなかつけられず平板な演奏になりがちですが、スクエアピアノの強弱の変化は思ったほど弱くなく、メリハリも十分ですね。

続くXVI:36は、低音弦のアタック感に特徴のある曲。意外に悪くありません。左手のアタック感は箱庭的な限界もありますが、箱庭ならではの緊密感がなくもありません。ただしフォルテッシモの音はちょっとビリ付き気味。楽器の限界を早くも感じさせてしまってもいます。2楽章、3楽章はちょっと大人しめの演奏と聴こえました。

XVI:23は、シンプルな曲調がスクエアピアノの音色にぴったり。1楽章からハイドンのメロディーをクッキリ生かすなかなかの緊張感。強弱の付け方もそれなりの巧さを感じます。2楽章も緊張感が続き、シンプルな音階の中から素晴しい叙情性を引き出していますね。3楽章のさらっとした感触も秀逸。この曲はこのアルバムの白眉。素晴しい集中力と音楽性。

XVI:34はどうしてもブレンデル盤の響きが耳についてしまいます。前曲同様演奏は悪くないんでしょうが、この曲の調性と調律の関係か、響きが濁るというか、特に高音の混濁感が最後まで耳にのこってしまいます。また、左手のアクセントも前曲ほどのキレもなくすこし流されているような演奏。2楽章はそれほど悪くありません。3楽章もジプシー風?の特徴あるメロディーが雅な雰囲気で奏でられますが、若干リズムが重くキレは今ひとつ。一聴してそれほどムラがあるようには聴こえないんですが、よく聴くと曲ごとにだいぶ善し悪しが分かれますね。

XVI:51は作曲年代からするとハイドン最後期のピアノソナタで2楽章の短い曲。アンダンテとプレストの構成でハイドンが力を抜いて作曲した気楽な曲との印象です。演奏もさっぱりとした曲調をそのまま再現したような演奏で曲調を生かしています。楽器の特徴に合っていますね。

最後はカプリッチョXVII:1。副題は「豚の去勢にゃ8人がかり」ということですが、あんまり意味はよくわかりません。カプリッチョは奇想曲とのことで軽快な器楽曲などにつけられるものとのことで、前曲同様、演奏もさっぱりしたもの。

評価は、XVI:37、51が[++++]、3曲目の23が[+++++]、残りのXVI:36、34、カプリッチョが[+++]としました。企画もの好きの私としては、スクエアピアノでのピアノソナタ演奏という本アルバムは基本的に好きな種類のもの。このアルバムも曲による出来に差はあるものの、それも音楽を聴く楽しみの一つと理解しています。このアルバムをリリースすること自体、ハイドンの曲にまた新しいスポットライトを当てようと言う素晴しい試み。この心意気を買わぬ訳にはいきませんね。

ハイドンを愛好する方には是非聴いてほしいアルバムですね。こうゆうアルバムは手に入るときに手に入れておかないと二度と手に入らないことになってしまいますよ~(笑)

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グールド最晩年の輝き

今日はグールドのハイドン。

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グールドといえばバッハ。バッハと言えばグールドです。
多くのバッハの録音を残したグールドですが、ハイドン後期のソナタも6曲録音してます。しかも死の迫る80年、81年の録音です。グールド特有のカチカチした乾いた感じのピアノで、うなり声を伴った録音。音は十分いい録音です(グールドは82年没)。

グールドのハイドンは、もはやハイドンな感じがしません。ハイドンの音符を解体してグールド流に再構築した壮大な構造物で、現代音楽のような存在感。ダイナミックな部分、トップスピードで飛ばす部分、止まりそうな超低速な部分が頻繁にギアチェンジして、ものすごいインパクトを持った演奏になってます。

ハイドンの楽譜からここまで突き抜けた解釈はグールド以外には出来ないでしょう。
ハイドンのソナタを初めて聴く人は絶対に手を出してはいけません。そのあと聴くグールド以外のすべての演奏がインパクト不足にきこえてしまいます。
私はこのアルバムは非常に気に入ってますので、高く評価してますが、間違いなくマニア向けのアルバムでしょう。グールドのコアなファンか、ハイドンを聞き込んだマニアか、恐いもの見たさでアルバムを買える人向けといったところでしょう。

あなたはだんだん聴きたくなってきた、、、(笑)

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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