【新着】絶品! トリオ・ヴァンダラーのピアノ三重奏曲集第2弾(ハイドン)

今日は新着アルバムです。

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トリオ・ヴァンダラー(Trio Wanderer)による、ハイドンのピアノ三重奏曲集の第2巻。収録曲目はHob.XV:14、XV:18、XV:21、XV:26、XV:31の5曲。収録は2017年1月19日から22日にかけて、ベルリンのテルデクス・スタジオ(Teldex Studio Berlin)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi。

トリオ・ヴァンダラーのピアノ三重奏曲は思い出のアルバム。ブログを書き始める前はボザール・トリオのアルバムなどを時折り漫然と聴くだけだったのが、ブログを書き始めてからは記事を書くためにしっかり聴くようになり、ピアノトリオも、このトリオ・ヴァンダラーのアルバムを聴いて、その真の素晴らしさに目覚めることになったという記念すべきアルバム。

2011/02/16 : ハイドン–声楽曲 : ホルツマイア/トリオ・ヴァンダラーのスコットランド歌曲
2011/02/12 : ハイドン–室内楽曲 : トリオ・ヴァンダラーのピアノ三重奏曲集

その、トリオ・ヴァンダラーのピアノ三重奏曲集を録音したのは2001年、そしてそのあとの歌曲集の伴奏を録音したのが2007年ということで、ハイドンのピアノトリオは16年ぶり、ハイドンの録音は10年ぶりということになります。この間メンバーは変わらず。

ヴァイオリン:ジャン=マルク・フィリップス・ヴァイジャベディアン(Jean-Marc Philips-Varjabédian)
チェロ:ラファエル・ピドゥ(Raphaël Pidoux)
ピアノ:ヴァンサン・コック(Vincent Coq)

ちなみに、聴き比べのために2001年録音の旧三重奏曲集をさらっと聴いてみたところ、やはり若々しい魅力があるものの、録音は最新のものの方が明らかに鮮度としなやかさがあるように聴こえますね。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
鮮度抜群で美しい残響に包まれる見事な録音。以前の録音も悪くなかったんですが、ピアノの低音の厚みがあり、比べて聴くと解像力も段違い。そして演奏の方は流石に円熟を感じさせ、ハイドンのピアノトリオを余裕たっぷりに楽しんで弾いている様子がよくわかる演奏。冒頭から力が抜けて、おおらかなオーラに包まれるような演奏。しなやか、軽妙洒脱に自在なリズムで遊びまわるように弾き進むピアノにヴァイオリンとヴィオラも楽しげに寄り添う感じ。おおらかなだけではなく弱音部のデュナーミクの実に繊細なコントロールも行き届いて、極上の室内楽を楽しめます。火花散るような迫力ではないんですが、各奏者がお互いの演奏に耳を傾けて、非常に鋭敏な感覚でアンサンブルを構成し、結果として癒しを感じさせるような見事な一体感を感じさせます。
アダージョは言うまでもなく孤高のしなやかさ。ピアノのヴァンサン・コックのタッチのデリケートなニュアンスの深さに、ヴァイオリンとチェロも負けていません。そしてフィナーレはこれまでの充実感保ちながらも、徐々に力を抜いて冷ますように流します。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
冒頭の鋭い和音に驚きますが、すぐにまろやかな音色のサンサンブルが戻ります。もはや安心して聴いていられる状態になりましたので、ハイドンの音楽に集中できます。宝石のように輝くピアノとしなやかなヴァイオリン、チェロが相俟ってゆったりとした音楽を紡ぎ出していきます。特徴的な3楽章の見事な軽やかさが印象的。最後はたたみかけるようにクライマックスを盛り上げて終わります。

Hob.XV:21 Piano Trio (Nr.35/op.71-1) [C] (before 1795)
穏やかなる入りに聴き惚れているところに、超軽快な主題が割り込んできて、以後は軽やかなる音楽が充満していきます。1楽章途中での転調の鮮やかさ、くっきりとメロディーが浮かび上がるところの見事さは変わらず。曲によって演奏スタイルを変えることはせず、すべて極上のアプローチ。フィナーレはコミカルさに少し振ってきました。

Hob.XV:26 Piano Trio (Nr.40/op.73-3) [f sharp] (1795)
足早な悲しみが深さを纏い、その雰囲気を色濃く残す入り。起伏が徐々に大きくなりながら冒頭のメロディーに戻ってくるところの推移は、明暗交錯して非常に面白い。2楽章は交響曲102番の緩徐楽章のメロディーですが、大抵の演奏のようにしなやかにまとめてこないところにハッとさせられます。その心は、フィナーレの落ち着かない感じにつなげる意図だったのでしょう。ここに来て少しコンセプチュアルなところが顔を出します。曲の構成を見抜いた見事な解釈。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
最後になかなか深い曲を持って来ました。仄暗い入りから徐々にニュアンスが変化していく様子を実に丁寧に描いていきます。音楽の構成の複雑さを感じさせることなく、まるで車窓の景色が流れるように自然に聴かせて行くあたりにこのトリオの実力が垣間見えます。途中から入るヴァイオリンの高音の伸びやかなメロディーのなんと爽やかなこと。ピアノに代わって主導権を奪うほどの活躍。この曲は2楽章構成。最後の楽章は「ヤコブの夢」と呼ばれる難しい音階がある楽章。もちろんそんなことは感じさせずに、むしろスパッと終わるキレの良さを聴かせました。

いやいや、旧盤も素晴らしかったんですが、この新盤は期待を大きく上回る見事な演奏でした。旧盤の録音からの16年を経て演奏は熟成を重ね、極めてデリケートなレベルで互いの演奏を聴いて呼応し合う奇跡のようなアンサンブルでまとめてきました。すでに技術のレベルは通り越し、余裕を感じさせながらハイドンの音楽の真髄を見通して曲ごとに演奏を楽しんでいることがよくわかります。録音も極上。ピアノトリオの入門盤としてもおすすめです。絶品! 評価はもちろん全曲[+++++]とします。



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トッド・クロウのピアノソナタ集(ハイドン)

素晴らしいマイナー盤を発掘しました!

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トッド・クロウ(Todd Crow)のピアノによるハイドンのピアノソナタ4曲(Hob.XVI:50、XVI:29、XVI:38、XVI:20)、ピアノ三重奏曲Hob.XV:22のアダージョのピアノ編曲版の合わせて5曲を収めたCD。収録時期は記載されていませんが、解説などの内容から2002年頃の収録と思われ、ニューヨークのマンハッタンの約100キロ北にあるポキプシー(Poughkeepsie)にあるヴァッサー大学(Vasser College)のスキナー・ホール(Skinner Hall)でのセッション録音。レーベルは米MUSICIANS SHOWCASE RECORDINGS。

最近オークションで仕入れたアルバムですが、いつものようにちょっとジャケットに霊気を感じたアルバム(笑) うっすらと微笑むピアニストの姿にピピっと来た次第。なんとなくこの手のアルバムに名演奏が多いという経験則があり、意外に当たるんですね。

奏者のトッド・クロウはもちろん初めて聴く人。欧米では評価されている人のようで、ニューヨークタイムスは「英勇的で無限の才能、音色、スタミナを感じさせるピアニスト」、英タイムス紙は「背筋が凍るほど爽快」、ウォールストリートジャーナル紙は「驚くほどの制御能力と素晴らしい音楽の構築力」と各紙絶賛。1945年、カリフォルニアのサンタ・バーバラ生まれで、カリフォルニア大学、ジュリアード音楽院などで学び、十代から頭角を現し、以後ピアニストとして様々な音楽祭やオケなどとの共演を含めて活動するとともに、現在はこのアルバムの録音会場となったニューヨーク州のヴァッサー大学で教職についています。アルバムも多数リリースされていますが、ハイドンの録音はこのアルバムのみのようです。ただし、有名曲を集めただけという選曲ではなく、ハイドン通を唸らせる見事な選曲ゆえ、ハイドンについてはかなり研究していることを窺わせます。

Hob.XVI:50 Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
自然な響きのホールでステージからちょっと離れた席で演奏を楽しむような録音。先に紹介した各紙の評価からは豪腕ピアニストのような印象もなくはないのですが、このハイドンは落ち着きながらも、音楽の起伏をしっかりと描く、まさにくっきりと構築感を感じさせる演奏。フレーズがイキイキと弾みながらも、程よくバランスを保ちながら淡々と音楽を進めてゆく名演奏。4月のHaydn Disc of the monthに取り上げたマクダーモットが研ぎ澄まされた美しさで聴かせたのに対し、クロウはそこにも頼らず力感の変化やフレーズのクッキリ感で聴かせる男らしい(笑)演奏。さらりと自然ながら雄弁な語り口は聴いているうちになるほどと唸らされます。アダージョに入るとさらに語り口は訥々と神妙になり、まさにハイドン自身が語りかけるように聴こえます。一音一音のタッチはデリケートさを極め、表面的な美しさとは真逆のじわりとくる音楽。そしてフィナーレも優しい風が吹き抜けるような入りからしっかりと展開させて見事な結びを描きます。雰囲気ではなく音楽の面白さで描き切る見事な演奏でした。

Hob.XVI:29 Piano Sonata No.44 [F] (1774)
リヒテルの演奏が刷り込みの曲ですが、力感のみならず、軽やかに弾む入りが秀逸。音楽が活きてます。ごく自然ながらくっきりと曲想の面白さを浮かび上がらせて活きます。この曲でも語り口の面白さに惹きつけられます。軽妙洒脱なだけでなく、しっかりとした構築感が背後にあることを感じさせ、テクニックではなく音楽性が聴かせどころ。この曲でもアダージョは音楽の大きさを見せつけ、詩的でかつ叙事的な音楽。ハイドンのアダージョがこれほどまでに雄弁な音楽だったとは。トッド・クロウ、只者ではありませんね。フィナーレはもう身を任せるだけ。楽器の存在が消え、自らの言葉で音楽を紡いでいくよう。心地よいどっぷりと音楽に浸ります。

Hob.XVI:38 Piano Sonata No.51 [E flat] (before 1780)
もはやトッド・クロウの演奏に身をさらすだけ。さらりと雄弁なのは変わらず、次々と演奏する曲の面白さを純粋に楽しむことができます。ハイドンの曲に仕込まれた構成の妙、機知、変化の面白さをこれほど見事に語る演奏はありません。この曲では短調から入って徐々に明るさが射してくるアダージョのニュアンスのなだらかな変化が聴きどころ。フィナーレも言うことなし。

Hob.XV:22 Piano Trio (Nr.36/op.71-2) [E flat] (before 1795)
ここにこの曲を持ってくるとは見事なセンス。まるで原曲がピアノのために書かれたような自然な美しさに満ちた演奏に驚きます。ここにきて純粋に美しい響きに特化した音楽で心が洗われるよう。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
最後にこの曲を持ってくるとは。一瞬にしてこの曲独特の雰囲気に包まれます。まさにハイドンの天才を物語る曲。もちろんクロウの絶妙な語り口によってこの曲の広がりというか空間に引きずり込まれる感じ。憂いに満ちた美しさと明確な構成はハイドンの創作期の最初の頂点であるシュトルム・ウント・ドラング期ならでは。そしてハイドンのソナタで最も美しい緩徐楽章であるアンダンテは、予想通り音色の美しさだけに媚びない、構成の美しさで聴かせる絶品の音楽。この曲だけても展開の起承転結が見事に決まっただけでなく、このアルバムの最後にふさわしい堂々たる表情でフィナーレを締めくくります。

何度も言いますが、トッド・クロウ、只者ではありません。ジャケットを見る限りただのおじさんですが、その紡ぎ出す音楽の豊かな表情は見事の一言。このハイドンのソナタ集を聴けばその手腕は一目瞭然。最初に紹介したニューヨークタイムズなどの評価に偽りはありません。もう少し名が売れていてもおかしくありませんが、音楽業界も演奏の内容のみならずスター性も重要な訳ですね。トッド・クロウの紡ぎ出す音楽は、ミケランジェリほど究極に研ぎ澄まされているわけではありませんし、エマールほどの前衛を感じさせるわけでもなく、グールドのように個性が突き抜けているわけでもありません。しかし、ハイドンのソナタをこれほど雄弁かつ自然に演奏できるのはクロウだけかもしれません。当ブログがクロウのハイドンの見事さを世に問いましょう。もちろん評価は全曲[+++++]とします。ピアノ好きな方、是非聴いてみてください。まだ手に入ると思います。

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長原幸太/宮田大/田村響のジプシーロンド(所沢市民文化センターミューズ)

12月23日天皇誕生日は、チケットを取ってあったコンサートへ。

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所沢市民文化センターミューズ:ミューズ主催公演 長原幸太[ヴァイオリン]×宮田大[チェロ]×田村響[ピアノ]

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会場は所沢と自宅からはちょっと遠いホールでのコンサートでしたが、ハイドンのピアノトリオがプログラムに入っているということと、奏者がよく聴いている読響のコンサートマスター長原幸太さんということ、また、会場の所沢のミューズも休みの日でないと行けない場所ということで、チケットを取った次第。プログラムは下記の通り。

ハイドン:ピアノ三重奏曲 Hob.XV:25「ジプシー・ロンド」
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 Op.7
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 Op.97「大公」

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メンバーの長原幸太はよくコンサートに行っている読響のコンアートマスターとして私にはお馴染みな人でしたが、今回調べて見ると生まれは1981年ということでまだ30代半ば。見た目より若いですね(笑)。小学生時代から頭角を現し、全日本学生音楽コンクール全国大会(小学校の部)で1位となり、以降名門藝大を出て、こちらも名門ニューヨークのジュリアード音楽院に留学、最年少でサイトウキネンオーケストラに入団するなど才能に溢れた人。2004年から大阪フィルの首席客演コンサートマスター、2006年より同首席コンサートマスター、2014年から読響のコンサートマスターとなっています。

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宮田大は、以前小澤征爾の振る水戸室内管弦楽団とハイドンのチェロ協奏曲を演奏した映像が放送され、Blu-rayディスクもリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。1986年生まれで、同じく若い頃からチェロを学び、桐朋学園を卒業し、2009年日本人として初めて、ロストロポーヴィチチェロコンクールで優勝した経歴の持ち主。
ピアノの田村響も同じく1986年生まれ、ザルツブルクのモーツァルテウムで学び、2007年、パリで開催されたロン=ティボー国際コンクールピアノ部門で優勝しています。現在は京都市立芸術大学の講師とのこと。

ということで、メンバーは皆若手実力派というところ。



この日はホールまで遠いので結構早めに家を出ましたので、ホールに着いたのは開場時間のかなり前。ここは大ホール、中ホール、小ホールなどいろいろある総合施設で、ぶらりと歩きまわって見るとレストランがありましたので、時間つぶしに寄ってみます。

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食べログ:響

自宅で昼食をとって出かけてきましたので、14時前のこの時間はお腹が空いているわけではありません。ということで頼んだのは地ビールの所沢ビールの4種テイスティングセット! 野老ゴールデン、スモーキン、ダークホース、ファラオの4種ですが、これがちょっといけません。ビールはいいと思うのですが、グラスがビールに全く合わず、泡も切れた状態で供され、ビール好きな人からしたら、出し方が台無です。しかも最初に3種出てきて、残りは結構経ってからということで、せっかくの地ビールが残念な感じでした。

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つまみのピクルス。こちらは浅い漬かり具合。ビールのつまみにするにはもう少ししっかり漬かっていた方がいいでしょう。

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嫁さんはあんみつ! この日はポカポカ陽気でしたので正解です。

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あんみつにはお茶でしょうが、ここは狭山茶の産地ということで、極上狭山茶「極」。こちらはまあまあでした。

ひとしきりのんびりして、時刻は開演30分前くらいになりましたのでホールに移動します。

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この日の席はステージ前の左側の前から3列目。ミューズの大ホール、アークホールは平面を見るとウィーンのムジークフェラインそっくりのシューボックス型。1993年オープンということでもう20年以上経っていますが、それほど古びた感じもなく、ホールはかなり本格的な作りで綺麗。正面には本格的なパイプオルガンがあり、その両脇には彫像が立つなどバブル期に計画されたと思わせる豪華な感じ。設計は公共建築の多い石本建築事務所。ホールの音響設計はヤマハとのこと。初めて聴くホールなので色々気になります。



この日のお客さんの入りは5割程度だったでしょうか。この演目で都心から離れたこのホールとしては健闘しているところでしょう。開演時刻になると、3人の奏者がステージに上がり、簡単なチューニングを済ませると、すぐにハイドンの名曲です。

冒頭から非常にキレのいい演奏。まるで録音を聴いているような完璧な演奏に驚きます。ヴァイオリンの長原さんは冒頭から安定感抜群。オケではソロの部分は多くはありませんが、こうして聴くと素晴らしいテクニックの持ち主であることがわかります。美音を轟かせながらも、どっしりと揺るぎない堅固な演奏。他の2人もキレ味抜群。何よりピアノトリオとしてのアンサンブルのまとまりは録音を含めて一流どころに劣るどころか、1、2を争うような素晴らしい出来。3人とも若手にモカ関わらず、鮮度抜群な上に非常に冷静に音楽を造っていく才能に溢れ、アンサンブルの絶妙な掛け合いの魅力も、繊細な表情の変化も聴かせる完璧な出来。今日初めて聴くピアノの田村さん、こちらもリズムの安定感とタッチのキレが素晴らしく、トリオの骨格を見事に支えていました。ステージにかなり近い席だったせいか、強音の後の余韻がホールに吸い込まれていく響きの美しさは惚れ惚れするほど。3人のアンサンブルが絶妙に美しく響き渡ります。これでこそピアノトリオ。
胸のすくような1楽章のアンサンブルから、ゆったりと宝石のように輝くポコ・アダージョに入ると。ピアノの田村さんの繰り出すまさに転がりながら光り輝くピアノの音にうっとり。ちょっと怖い人のような風体ですが、流れ出す音楽のピュアさはかなりのもの。ヴァイオリンとチェロが代わる代わる美しいメロディーを紡いでいきますが、メランコリックになることなく、透明感溢れる音楽を維持します。
そしてフィナーレのジプシーロンドは再び、ヴァイオリンとチェロの快刀のごとき弓使いに圧倒される楽章。速いパッセージのキレ味は火花が散るよう。そしてジプシー風のメロディーに入ると長原さんの弓が飛び回るように走ります。以前聴いたリッカルド・ミナーシの路上パフォーマンスのような砕け方はしないものの、手に汗握るようなパフォーマンスは流石なところ。最後の一音をかき消すように拍手が降り注ぎました。いやいや、若手実力者が揃ったとはいえ、ここまでの完成度だとは思いませんでした。実演の迫力も手伝って、この曲のベストの演奏を聴いた気分。

次はピアノなしの、コダーイのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲。この曲は初めて聴きますが、技巧が凝らされた複雑な曲だけに演奏は極めてむずかしそう。演奏は神がかったような集中力を伴ったもの。2人のテクニックを存分に活かした素晴らしいもので、2人が織りなす素晴らしいア濃密なアンサンブルを堪能できました。これにはハイドンを上回る拍手が降り注ぎました。

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休憩を挟んで、後半は再びピアノトリオになりベートーヴェンの大公。もちろん素晴らしい演奏だったんですが、曲自体を苦手としているためか、あるいは前半の鮮烈なキレの良い演奏に対して、後半のプログラムの曲想がしなやかなものだったので、3人のアンサンブルの緻密な魅力が映えなかったからか、前半ほどのインパクトは感じられませんでした。ベートーヴェンの代表的なピアノトリオですが、ハイドンのシンプルな曲想に比べてどうも音符に無駄が多く、曲の緻密さの違いから楽しめなかったのかもしれません。まあ、ハイドンのブログということでお許しいただきたいと思います。もちろん会場からは割れんばかりの拍手がふりそそき、何度か拍手に促されて登壇したのちにアンコールということで、最初のジプシーロンドの3楽章を再度演奏。もちろんアクロバティックな弓さばきに拍手喝采でコンサートを終えました。

後半のベートーヴェンにちょっと難癖つけちゃいましたが、この日のコンサートは大満足。特に前半は今まで聴いた室内楽のコンサートではベストのものでした。何より若手3人の息の合った精緻なアンサンブルの素晴らしさは録音を含めても非常にレベルが高く、欧米の一流どころに引けをとるものではありませんね。いいコンサートでした。また所沢のミューズも素晴らしい響きということがわかりましたので、機会があればまた来てみたいところですね。

さて、もうクリスマスになっちゃいましたネ。いよいよ年の瀬です。

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トリオ・ヴィエナルテのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々に湖国JHさんからアルバムの束が届きました。今日はその中からの一枚。

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トリオ・ヴィエナルテ(Trio Viennarte)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)を収めたアルバム。収録は2000年4月、旧自由ベルリン放送(現ベルリン=ブランデンブルク放送)第3ホールでのセッション録音。レーベルは独CAMPANELLA Musica。

このアルバム、ジャケットを見ると、手元にあると思って所有盤リストを見てみてもありません。ただし、このジャケットは確かに見覚えがあると思ってCDラックを探してみると、ありました! 実は同じレーベルの別のアルバム。同じような雰囲気のレイアウトでハイドンのモノクロの肖像画をあしらったジャケットゆえ既視感満点。ということで、これまでもいろいろなところで見かけても、手元にあると勘違いして注文もしてこなかったということです。こういうこともありますね。

さて、奏者のトリオ・ヴィエナルテは美人女性3人によるトリオ。いつもながら、それをアイドル路線でアルバムにしてくるのではなく、しっかりとしたプロダクツに仕立ててくるところにレーベルの見識を感じます。ジャケットの扉を開けるとこの写真が。

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この写真はアルバムの内側なので、このアルバムをもし店頭で見かけたとしても見られません。こちらを表にした方が売り上げに貢献したかもしれませんね(笑) メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ヴェロニカ・シュルツ(Veronika Schulz)
チェロ:ジュリア・シュライフォーゲル(Julia Schreyvogel)
ピアノ:マリア・ロム(Maria Rom)

トリオ・ヴィエナルテは1996年に設立されたトリオ。メンバーは1970年から74年にウィーン生まれで、ウィーンで音楽を学んだ人。ウィーンのコンツェルトハウスで開催された青少年音楽コンクールでのデビューコンサートは非常に高く評価され、その後「若者の表彰台(Podium of Youth)」と題された一連のコンサートはヨーロッパ各国や南アフリカで開催されました。またシャーンドル・ヴェーグ・アカデミーではメナム・プレスラーやアルバン・ベルク四重奏団のメンバーに師事していました。なお、ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツは、ウィーンフィルの首席フルート奏者を長く勤めたウォルフガング・シュルツの娘とのこと。今回調べてみると、ウォルフガング・シュルツは2013年に亡くなっていたんですね。録音はこのアルバムの他にcamerataレーベルにブラームスのピアノトリオがあるくらいで、トリオのウェブサイトも見当たらないことから、現在は活動していないかもしれませんね。

さて、名盤ひしめくピアノトリオであり、しかもハイドン絶頂期の名曲3曲ということで。聴く方もちょっと前のめり気味(笑)

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
録音は残響が多めですが鮮明。鋭利な刃物で音楽を切り取っているような鮮度抜群な演奏。各パートが火花を散らしながらしのぎを削る感じがまさにライヴのよう。これは好みのタイプです! 各パートの精度はほどほどなんですが、勢いというかエネルギーはものすごいことになっています。マグマが噴出するような熱いエネルギーがほとばしります。この3曲セットの冒頭を飾るアレグロから見事の一言。
続くアンダンテでこのトリオの表現の幅を確認しようとする意図で聴きますが、意外にさりげないさっぱりとしたタッチできます。そうこうするうちにやはりライヴ的な盛り上がりに包まれます。やはりこのトリオ、ライヴ感が信条のようです。極上のライヴを楽しんでいるような至福の境地。
フィナーレも一貫した演奏。特にピアノのマリア・ロムの鮮やかなタッチが印象的。ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツも鮮やかなボウイングでキレの良さを見せつけ、チェロのジュリア・シュライフォーゲルも深みよりキレのタイプ。終盤の盛り上がりの集中度合いも見事なもの。1曲目からノックアウトです。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
1曲目とまったく同じくライヴ感満点の演奏。音楽が活き活きと弾みダイナミックに展開します。どこかのパートが目立つということではなくアンサンブルとしてバランスが良く、ハイドンのピアノトリオの理想的な演奏。これは外連味なくキレのいいピアノの功績でしょうか。室内楽としての演奏の完成度が非常に高いということでしょう。耳を澄ますとピアノは早いパッセージをクリアにではなく流れるようなタッチで滑らかに弾いてきますが、それが過度に目立たぬことに貢献しているよう。覇気に満ちたピアノもいいものですが、こうして音楽の骨格を支えるピアノこそバランスの良い演奏の基本ですね。
続くアレグレットは前曲同様さっぱりとした表情で入りますが、その中から慈しみ深さが滲み出てくるような演奏です。ここではピアノの自然ながら彫りが深い美しいタッチが圧倒的な存在感。ヴァイオリンとチェロも寄り添いながら終盤にグッと力が入ります。
前楽章のエネルギーをさらりと受けて再びさっぱりとした入り。落ち着いた演奏からハイドンの終楽章のアイデアに満ちた構成の面白さが浮かび上がります。前曲同様非常に完成度の高いアンサンブル。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
演奏が安定しているので、曲を存分に楽しむことができます。大波の合間に時計を刻むような瞬間が挟まれる独特の曲想の面白さが浮かび上がります。3人とも各パートの演奏はかなりダイナミックで、それが響きあうように重なり、3人の演奏なのに室内楽を超えるようなダイナミックさに聴こえます。この3曲の中でも格別構成感を感じさせる1楽章が見事に引き締まります。
すっと力を抜いた2楽章の入り。落ち着いた響きがこれまでのエネルギーを覚まし、ハイドンが書いた曲想の展開の面白さを鮮やかに印象付けます。曲の流れを踏まえていい具合に力が抜け続けているのがポイントでしょう。そしてそのまま終楽章に入ります。この3曲の結びのように華麗なメロディーが明るく鳴り響き、それにヴァイオリンとチェロがいい具合に寄り添います。展開部でアーティスティックに振りますが、最後はリラックスして爽やかに終えます。

トリオ・ヴィエナルテによるハイドンの傑作ピアノトリオ集、ライヴ感あふれる見事な演奏でした。際立つのはアンサンブルとしてのまとまりの良さ。全員が腕利き揃いなのに加え、室内楽としての呼吸がピタリと合って絶妙の演奏。セッション録音ながらライヴ収録と言われてもわからないくらいの活き活きとした表情が魅力の演奏です。これはウィーンを同郷とする同世代の女性のトリオだからでしょうか。残念なのはこのアルバムともう一枚のブラームス以外にアルバムがリリースされていないこと。これだけの才能を持つトリオゆえ、ぜひハイドンの録音ももう少し期待したいところです。評価は3曲とも[+++++]と致します。

湖国JHさん、今回もいきなりいいアルバム、ありがとうございます!

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【新着】ミナーシ、エメリャニチェフ、トッファーノによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

待望のピアノトリオの新着アルバム。

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リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)のヴァイオリン、マクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)のフォルテピアノ、フェデリコ・トッファーノ(Federico Toffano)のチェロで、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:25、XV:38、XV:13、XV:1)を収めたアルバム。収録は2013年8月2日から5日にかけて、イタリア、ジェノヴァの西の街モンドヴィ(Mondvi)にあるアカデミア・モンティス・レガリスのホールでのセション録音。レーベルはdeutsch harmonia mundi。

このアルバム、最近リリースされたものですが、奏者の名前に見覚えがあり、注文したもの。ヴァイオリンのリッカルド・ミナーシとフォルテピアノのマキシム・エメリャニチェフの演奏は今年協奏曲集で取り上げています。

2016/02/16 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-2(ハイドン)
2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

2人の情報はリンク先の記事を参照いただきたいのですが、リッカルド・ミナーシは指揮者としても素晴らしい力を持っており、マキシム・エメリャニチェフは最近話題のクルレンツィスによるフィガロの結婚で通奏低音を担当するなどなかなかの実力者です。チェロのフェデリコ・トッファーノは2009年にヴェネチア音楽院を卒業した若手チェリスト。すでに2005年からヴェネト音楽院管弦楽団の主席チェリストを務め、2010年にはアバドが創設したグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団、モーツァルト管弦楽団、またヴェローナで毎年開催されるアレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭にも参加するなどかなりの実力者。2012年にロンドンの王立音楽院でバロックチェロを学ぶと、以降はミンコフスキ率いるグルノーブル・ルーヴル宮音楽隊や前記事で取り上げたイル・ポモ・ドーロなどで活躍しています。

実力者3人が揃ってのハイドンのピアノトリオの演奏、これがなかなかのものでした。

Hob.XV:25 Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
ピアノトリオの代表格のこの曲が、今まで聴いたことのないような不思議が雰囲気で始まります。リッカルド・ミナーシのヴァイオリンは、ハイドンではなくまるで中東の音楽のような不思議な響きで入り、エメリャニチェフのフォルテピアノはゆったりと装飾音のようにヴァイオリンにまとわりつきます。ゆったりとしたテンポで瞑想の音楽のように豊かな残響の中にメロディーが漂います。この曲からこの雰囲気をつくっていく発想に脱帽です。まったく想像だにしなかった音楽にびっくり。じきにそのような気配からハイドン自体の音楽が浮かび上がってきて、いつもの愉悦感に包まれていきます。温泉につかってしばらくで体に癒しが回ってきたときのような心境。そういえば冒頭から実に癒しに満ちた音楽という印象でした。
ヴァイオリンの和音の温かい音に包まれるようなポコ・アダージョ。もちろん前楽章以上にゆったりと漂うような音楽が流れます。エメリャニチェフのフォルテピアノはキレの良いタッチではなく鍵盤をなぞるように音を置いていきます。チェロのトッファーノは息の長い音をこちらもゆったりと漂わせます。音楽が熟成しきってゆったりとゆったりと進みますが、ここぞというところでミナーシのヴァイオリンが突然輝きに満ちた美音を轟かせ、はっとさせられます。
これまでの雰囲気を断ち切るようにキレたフィナーレに入り、本当のジプシーの路上パフォーマンスのように、悪く言うと見世物のような誇張された演奏ですが、これが実に面白い。クラシックの本格的な教育を受けた人の演奏ではなく路上でチップが集められる演奏と言えばいいでしょうか。ジプシーロンドとはこう演奏するものだと初めて気づかされました。見事!

Hob.XV:38 Piano Trio (Nr.13) [B flat] (before 1760)
ぐっと時代が遡った初期の曲。今度は初期の曲を余裕たっぷりに演奏を楽しむような入り。音楽とは楽しむために演奏するものだと言わんばかり。このトリオの恐ろしいばかりの才能に気づかされます。すべてのフレーズがイキイキと踊るような躍動感あふれる演奏。今度はエメリャニチェフが主導権をとって愉悦感を存分に表現したタッチで先導します。ミナーシのヴァイオリンは引きずるような流動的なボウイングで新体操のリボンの軌跡のようにメロディーを置いていきます。明るさと仄暗さの間を行き来する実にデリカシーに富んだ音楽の素晴らしさがじわりとつたわってきます。
続くアンダンテはリズムのキレを基調とした演奏。曲ごとに自在にスタイルを変えてきます。キリリと引き締まったリズムに乗りながらもミナーシのヴァイオリンが飛び回って喜びを振りまきます。耳を澄ますとトッファーノのチェロもチェロとは思えなほどのかなりのキレ味。
初期の曲ながらフィナーレの展開の面白さは圧倒的。いつもながらハイドンの発想の豊かさには度肝を抜かされます。その発想にインスパイアされた3人がリズムとメロディーが高度に交錯した見事な演奏で応えます。あまりの見事さに呆然と聴き惚れます。ブラヴォー!

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
前曲のフィニッシュの興奮を鎮めるようなしっとりとした短調の入り。曲の配置もよく考えられています。ミナーシのヴァイオリンの奏でるメロディーのあまりの美しさにきき惚れます。エメリャニチェフとトッファーノの伴奏も完全に息が合っていて完璧。3人の表現のベクトルが微塵もずれることなく調和して、よどみなく音楽が流れます。聴き手の魂を揺さぶる深い音楽。
この曲の2楽章も不思議な音楽ですが、この演奏を聴いてはじめてハイドンの真意を理解したような気になります。冒頭から荒れんばかりの激しい曲調。この曲には、少し前に聴いたヴィヴェンテ三重奏団の見事な演奏がありますが、これは表現の深さでヴィヴェンテを上回るものがあります。次々と変化していく曲に合わせて千変万化する演奏。まるでハイドンの創意を追いかけているような刺激に満ちた演奏。クライマックスに向けてテンションが徐々に上がっていくようすは痛快そのもの。楽器が響ききっていく様子の見事さは圧倒的です。

Hob.XV:1 Piano Trio (Nr.5) [g] (c.1760-62?)
ハイドンのピアノトリオの初期の作品の素晴らしさを際立たせようというのでしょうか。挨拶代わりにジプシーロンドを冒頭に置いたあとは全て初期の曲。しかもいずれの曲もその曲のベストと言ってもいい素晴らしい演奏をならべてきて、最後にXV:1をもってきました。掴みもオッケー、そしてアルバム自体の企画も冴え渡ります。この曲がこれほど面白く響くことを再認識。雄弁なミナーシのヴァイオリン、エメリャニチェフのフォルテピアノの自在なタッチの変化、そして、他の2人の演奏の陰でリズムのキレで演奏を支えるトッファーノと3人とも完璧。印象的なアクセントが響き渡る間に音楽が心に刺さってきます。古楽器の表現力に対するこちらの想像の範囲を完全に超えた演奏。もちろん音色には雅なところもありますが、演奏は現代楽器以上にダイナミックに感じます。
メヌエットにはいるとさらにダイナミック。曲に潜むエネルギーを蘇らせているよう。フォルテピアノもチェロも鋭いアタックで音楽を引き締めています。そして間をおかずにフィナーレに移ります。エネルギーはそのまま、短いながらも創意に満ちた音楽を嵐のような勢いと完璧なコントロールでまとめます。最後まで演奏のレベルは最高な状態を保ったままでした。

イタリア人奏者3人によるハイドンのピアノトリオ4曲の演奏。古楽器によるハイドンのピアノトリオのベスト盤と言っていいでしょう。演奏の技術、精度はもちろん、そうしたことを全く意識させない圧倒的な表現力による素晴らしい演奏でした。エメリャニチェフは前記事の協奏曲集では今ひとつなところもあったのですが、このアルバムでは非の打ち所がありません。3人の息が完全に合った完璧な演奏でした。トリオの名前がなく3人の名前でアルバムをリリースしているところから、今後の録音がどうなるかはわかりませんが、是非ハイドンのピアノトリオをもう少し録音してほしいものです。評価はもちろん[+++++]とします。ピアノトリオに格別な愛着を持つ読者の方、必聴です!

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ガラテア三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々にピアノトリオです!

TrioGalatea.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ガラテア三重奏団(Trio Galatea)によるハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)にクレメンティのソナタOp.27-No.2の4曲を収めたアルバム。収録は2004年5月24日から26日にかけて、 ベルギーのブリュッセルの東方の街、シント=トロイデン(Sint-Truiden)のアカデミーホールでのセッション録音。レーベルはET'CETERA。

このアルバム、ゴールデンウィーク中に前記事で書いたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンのコンサートのために有楽町に行った際、ついでに立ち寄った山野楽器銀座本店で偶然見つけて手に入れたもの。山野楽器はネット系のTOWER RECORDSやamazonとは品揃えが異なるので、たまに行くと見たことのないアルバムが見つかるので侮れません。ただし値段は少々高め。円高のこの頃ですので、もうちょっと安いと戦闘意欲も増してくるのですが、ネット系とかなり価格差があり、何枚も物色するような気にならないのは致し方なしでしょう。このアルバムはネット系にももちろん出回っていますが、売り場で手にとってみると、ピアノフォルテはなんと、あの、トム・ベギンではありませんか。ネットでは意図して検索しないとこういう出会いはなかなかありません。

2011/12/06 : ハイドン–声楽曲 : アンドレア・フォラン/トム・ベギンによるハイドンの歌曲集
2011/11/27 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】トム・ベギンのハイドン鍵盤独奏曲全集

さて、このガラテア三重奏団ですが、ネットを調べてもウェブサイトが見つかりませんので、現在は活動を継続していないかもしれませんね。ライナーノーツを読んでみると、設立は2000年で、埋もれていた18世紀の鍵盤楽器の伴奏をともなうソナタの演奏を意図したトリオとのことで、主にアメリカ東海岸の音楽祭や放送で活動していたようです。メンバーばは下記の通り。

ピアノフォルテ:トム・ベギン(Tom Beghin)
ヴァイオリン:エリザベス・ブルーメンストック(Elizabeth Blumenstock)
チェロ:エリザベス・ル・グイン(Elisabeth LeGuin)

ヴァイオリンとチェロは多くの録音に参加しているベテラン奏者とのことです。このアルバム、やはり聴きどころはトム・ベギンのピアノフォルテでしょう。このレコーディングに使用されたのはハイドンの時代のクレメンティ・ピアノのレプリカ。

Chris Caene, Ruiselede, 2004, after Longman & Clementi,1798

さて、最近はピアノトリオの名演盤をいろいろ聴いて耳が肥えております。トム・ベギンのクレメンティ・ピアノは如何に!

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
聴き慣れたフォルテピアノとはほんのすこし異なる響きに感じるクレメンティ・ピアノ。言われなければ違いはわかりませんが、高音が少々こもり気味、低音は逆に力強くに聴こえます。トム・ベギンのタッチはアクセントが明快で迫力もあり、早いパッセージの軽やかさもあり、冒頭の一音からキレのよいもの。ヴァイオリンもチェロもキレの良い演奏で質の高いアンサンブルを聴かせます。古楽器としてはかなり踏み込んだ躍動感を感じさせるのは、やはりトム・ベギンのリードによるものでしょう。ただし、トム・ベギンの演奏には終始冷静な視点を感じさせ、指先を自在にコントロールして躍動感を冷静に演出しているような印象があります。全体が見えているのでしょうね。
続くアンダンテでは自在にテンポを動かしながら、ハイドンの書いたメロディーのフレーズ一つ一つにくっきりと表情をつけていきます。トム・ベギンがかなり強めのアクセントと時折深い溜めを挟んで音楽を刻んでいきますが、くどい印象は皆無で、むしろ音楽がキリリと引き締まります。耳を澄ますとヴァイオリンもチェロも非常に堅実。無理に聴かせどころを作ろうとせず、しっかりと寄り添いながら適度にキレる見事な演奏。この曲の素晴らしいところは明るさと陰りが微妙に交錯しながら変化していくところ。そのあたりを落ち着いてさばくデリケートさが見事。
フィナーレはベギンのタッチの鮮やかさが聴きどころ。やはりヴァイオリンの堅実な寄り添いっぷり、チェロの見事な脇役ぶりが印象的。いますこしの輝かしさを追求してしまいたくなるのでしょうが、コントロールされた堅実さがぐっとくる演奏といえばわかりますでしょうか。聴かせどころはトム・ベギンに譲っているということでしょう。3人の高い技巧に裏付けられた素晴らしいアンサンブル。最後は響きに溺れそうになるような変わった響きに包まれる部分もあり、ヴィヴェンテとはまた異なる聴かせどころをもった演奏といっていいでしょう。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
続く曲では、とぼとぼと進むトム・ベギンのクレメンティ・ピアノに合わせて入りは朴訥な雰囲気に包まれます。曲に潜む気配を察しての表現でしょうが、それをぐっと踏み込んで来るあたりに自信が窺えます。徐々に音量と迫力を増しながら曲が進み、テンポ感もだんだん良くなります。途中、一瞬、前曲最後に聴かせた柔らかな響きを聴かせてアッと言わせ、テンポを戻して落ち着いた展開。1楽章から余裕のあるアイデアで落ち着いて攻めてきます。
2楽章のアレグレットは短調の単調なリズムの入りにトム・ベギンが硬直気味にメロディーを乗せてきますが、微妙な明るさの変化のみが聴かせどころとして、リズムを刻んでいきます。このあたりは曲の構造を見通した表現でしょう。やはり間を十分にとって曲の面白さを存分に表現します。
フィナーレでも緩急自在の表現は健在。静けさをただよわせながら冷静な表現意欲がほとばしる不思議な感覚。音楽は勢いでも美しさだけでもなく気配の再現だとでも言いたげな演奏。最後をゆったりと締めるベギンのアプローチに脳が覚醒します。

間にクレメンティのソナタを挟んで、最後の曲。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最初の和音からいきなり長い間をとって、コンセプチュアルな入り。ハイドンに仕組まれた音楽上の機知をセンス良くデフォルメして、象徴的な印象を与え、曲に新鮮な表情をつけていくのが実に楽しそう。愉快犯的アプローチでしょう。とは言っても不自然さは皆無で、音楽の流れを保っているので聞く方にも違和感はありません。ピアノトリオの迫力ばかりではなく、じっくりと曲を味わい尽くすのに向いたアブローチ。いままで聴いてきたピアノトリオの演奏とは全く異なる静かなる感興に酔わされる演奏。いまさらながらトム・ベギンの表現力に舌を巻く次第。
2楽章はハイドンが晩年にたどり着いた枯淡の境地を代表するような枯れた美しさをを感じさせる名曲ですが、その境地を実に深い音楽として聴かせる素晴らしい演奏。穏やかながら、深い陰りを感じさせる曲。
短い2楽章が終わると、さっと気配を切り替えて明るい音階をゆったりと行き来するフィナーレに入り、2楽章との表情の対比を見事なコントラストで焼き付けます。曲の構造を印象付けるためか、かなり溜めを効かせた表現も痛快。次々と変化するフレーズを見事に描きわけ、最後は冒頭のメロディーの変奏を見事にこなしてフィニッシュ。いやいや名シェフによっていつもと違う個性的なハイドンに仕立てあげられました。

いやいや、見事な演奏でした。ガラテア三重奏団、ヴァイオリンもチェロも素晴らしい演奏ですが、なんと言ってもこのトリオの個性はトム・ベギンのクレメンティ・ピアノによるところが大きいでしょう。ハイドンのピアノトリオでは流麗、ダイナミックな演奏は多いですが、このアルバムの演奏の饒舌な語り口と、メロディーや仕組まれた機知を象徴的に響かせ面白く聴かせるコンセプチュアルなアプローチは類例がありませんでした。ピアノ・トリオの演奏を楽しむ次元が広がったような新鮮さ。このアルバム、室内楽好きな諸兄に是非聴いていただきたい名盤と言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]といたします。このような演奏を聴くと音楽の楽しみは無限に広がっていることがわかりますね。

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ギドン・クレーメル/ユーリ・スミルノフのヴァイオリンソナタ(ハイドン)

またまたLP。オークションで素晴らしいアルバムを手に入れました。

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ギドン・クレーメル(Gidon Kremer)のヴァイオリン、ユーリ・スミルノフ(Youri Smirnov)のピアノで、コレルリのヴァイオリンソナタOp.5のNo.1、ハイドンのヴァイオリンソナタ(ピアノトリオHob.XV:31の編曲)、ショーソンの詩曲Op.25、ヴィエニヤフスキの創作主題による華麗なる変奏曲Op.15の4曲を収めたLP。収録情報は記されていませんが、ネットで調べると1975年にリリースされたもよう。レーベルは旧ソ連のMelodiya。

ジャケットに写るクレーメルが若い! ジャケットの解説には短いクレーメルの紹介文がロシア語に加えて英語でも記されていますが、クレーメルは1969年、イタリアジェノヴァで開催されたパガニーニ国際コンクールで優勝、翌1970年、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールでも優勝しています。レーベル面をよく見てみると、チャイコフスキー国際コンクールの優勝者ギドン・クレーメルと記されており、このLPがそれを受けて録音されたものであろうことがわかります。今でこそ世界最高のヴァイオリニストの1人であることに誰も疑いを持つ人はいないでしょうが、クレーメルが世にその才能を知られるようになった時期の録音であり、しかもそのアルバムにハイドンの曲が含まれているということに運命を感じます。

ちなみにクレーメルのハイドンの録音はほとんどなく、これまで唯一と言ってもいいものが以前取り上げたものです。

2010/07/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : クレーメルの「十字架上のキリストの七つの言葉」

こちらもクレーメルの孤高の才気に触れられる名演奏でした。

さて、今日取り上げるこのアルバム、レコードに針を落とした途端、クレーメルの狂気を帯びたようなヴァイオリンの音色に圧倒されます。1曲目はコレルリのヴァイオリンソナタですが、いきなり圧倒的な存在感。そして伴奏のユーリ・スミルノフもクレーメルの霊気に触発されて神がかったような伴奏。弱音に恐ろしいほどの集中力が宿り、奇跡的なセッション。LPも極上のコンディションゆえ、斬りこむようなヴァイオリンの音色に一瞬にして心を奪われました。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
肝心のハイドンです。1曲目のコレルリのあまりの衝撃に耳を奪われていたからか、ハイドンの自然な入りが、やけに大人しく聴こえますが、耳を澄ますとクレーメル独特のえぐるような殺気は健在。徐々にヴァイオリンの響きも強まります。素晴らしいのがユーリ・スミルノフのピアノ。控えめな音量ながら、クレーメルと完全に呼吸が合い、サラサラと伴奏を進めます。クレーメルのヴァイオリンの音色はものすごい浸透力。こちらの耳でははく脳髄を直撃するような音色。デュナーミクの変化の幅の広さ、表情の多彩さ、抑制の効いたボウイング、どれをとっても常人離れしています。演奏からアーティスティックなオーラが出まくっています。
2楽章構成の2楽章はゆったりとしたリズムでスミルノフが入りますが、クレーメルが入ると鋭い音色で緊張感が一気に高まります。特に低い音の迫力がものすごいですね。眼前でヴァイオリンを弾いているようなリアルな録音。最後の弓裁きは神業的。もう言うことありません。

このアルバム、人類の至宝です。デビュー当初のクレーメルの才気あふれる演奏を真空パックで現代にそのまま持ってきたような素晴らしい録音。クレーメルもスミルノフも絶品。この演奏はハイドンの曲の名演奏ではなく、クレーメルという天才ヴァイオリニストのデビュー当時のはちきれんばかりのエネルギーを収めた演奏として貴重だということです。カルロス・クライバーが驚愕を振ったライヴにも同じような印象を抱きましたが、稀有な音楽的才能を持った人だけがなしうる奇跡的な演奏の貴重な記録ということですね。ebayなどでこの演奏を含むドイツ盤などは見かけましたが、このアルバム自体は入手は結構難しいのではないかと思います。出会いに感謝ですね。評価は[+++++]というか、もう一段上げたいくらいです。音源が残っていたら是非CD化すべきアルバムですね。

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アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいましたが、年度末の仕事と花粉にまみれてなかなか記事の執筆に時間が割けずにおりました。このところアルバムはいろいろ仕入れていますが、グッとくるものに巡りあえずにいたということもあります。あまり間を空けてもなんなので、手持ちのアルバムから、記事にしていない名盤を取り上げる次第。

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アンドラーシュ・シフ(András Schiff)のピアノ、塩川 悠子(Yuuko Shiokawa)のヴァイオリン、ボリス・ペルガメンシコフ(Boris Pergamenschikow)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:27、XV:31、XV:14、XV:29)を収めたアルバム。収録は1994年9月12日から15日にかけて、ウィーンのムジークフェラインのブラームス・ザールでのセッション録音。レーベルはDECCA。

このアルバムはかなり以前から手元にあり、ピアノ三重奏の名演奏ということでわりと気に入っているもの。同時期に収録したもう一枚のアルバムと合わせて8曲の録音があることになります。今日は両盤を聴き比べてオススメの方であるこちらを取り上げた次第。

アンドラーシュ・シフは有名なピアニストなのでご存知の方も多いでしょう。一応略歴をさらっておくと、1953年ブダペスト生まれのハンガリーのピアニスト。フランツ・リスト音楽アカデミーなどで学び、ロンドンではジョージ・マルコムに学びました。その後1974年にチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るとデジェー・ラーンキ、ゾルターン・コチシュらとともにハンガリーの若手三羽烏とよばれ、国際的に活躍。手元にはDECCAのバッハのピアノ音楽集、ヴェーグ/カメラータ・アカデミカとのモーツァルトのピアノ協奏曲、ハイドンのピアノソナタ集(DENON、TELDEC)などがあり、モダンなスタイルのピアノながら深い情感を帯びたピアノが印象に残っています。とりわけ印象的だったのが、L'OISEAU-LYREに入れたモーツァルトの生家の彼のフォルテピアノ(アントン・ワルター)で演奏したソナタ集。てっきり現代ピアノ専門の人かと思いきや、実にデリケートなタッチでフォルテピアノから陰影深い変化に富んだ響きを引き出し、感心したことを覚えています。

ハイドンでは上に触れたとおり、ソナタを1978年にDENONに3曲、1997年にTELDECに10曲録音していますが、これまで当ブログでも取り上げておりませんので、そのうち取り上げねばなりませんね。

塩川 悠子さんは1946年、東京生まれのヴァイオリニストでアンドラーシュ・シフの奥さん。5歳でヴァイオリンを始め、その後家族でペルーに移住、ペルーでヴァイオリンの勉強を続け、1963年からミュンヘン、1968年からザルツブルクで学び、ザルツブルクではシャーンドル・ヴェーグに師事しています。その後日米欧で活躍しています。

チェロのボリス・ベルガメンシコフは1948年レニングラード生まれのロシアのチェリスト。名門レニングラード音楽院で学び、1970年にプラハの春国際音楽コンクールで優勝、1974年にモスクワ・チャイコフスキー国際コンクールでも優勝。その後ギドン・クレーメルが主宰するロッケンハウス音楽祭に定期的に出演するなど実力派のチェリストとして知られる存在でした。現代音楽を得意としており、来日経験もあるようですが2004年に55歳で急逝しています。

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
響きの良いホールの少し奥にトリオが定位して、冒頭から躍動感みなぎる展開。ピアノは流石にシフだけあって、キレ味抜群ながら落ち着きもともなう見事なもの。塩川悠子のヴァイオリンはピアノの引き立て役に徹しているよう。完全にピアノが主導権を握る演奏。速いパッセージのみならず、じっくりと展開する音楽の陰影の濃さは一段踏み込んだもの。徐々にピアノが前のめりに畳み掛け、1楽章のクライマックスへの演出も完璧。先日聴いたタカーチ四重奏団同様、全盛期のDECCAの底力を思い知らされる素晴らしい完成度の演奏。
続くアンダンテはピアノとヴァイオリンのゆったりした会話にチェロが図太い音色で割り込んでくる面白さが際立ってます。シフの左手のアタックも迫力十分。骨格のはっきりとした図太い音楽が流れます。まるでロマン派の音楽のような時間です。
フィナーレは再びキレの良いシフのピアノが戻り、堂々とした風情で展開します。ピアノという楽器の迫力をシフが自在に操り、まさに緩急自在。転がるような高音のトレモロを響かせながら音楽が激しく展開し、ヴァイオリンとチェロが機敏に寄り添う演奏。ここまでピアノが軸になりながらも音楽がきちんとまとまっているところが流石です。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
穏やかな入りの曲ですが、先日トリオ・ヴィヴェンテの旧盤の演奏で圧倒された曲。あらためてヴィヴェンテ盤を取り出して聴くと、あれだけ存在感のあったユッタ・エルンストのピアノがかなりおとなしく聴こえるのが不思議なところ。逆に静かな存在感が際立ちます。それだけこのシフの演奏はピアノ主体に録音されているということでしょう。シフの演奏で聴くと、やはりピアノが圧倒的な存在。そして演奏もかなりロマンティックで雄弁。ハイドンの時代の音楽の演奏としてはヴィヴェンテの方が説得力がありますでしょうか。何気にチェロのペルガメンシコフが迫力ある響きに貢献しているのもわかります。
2楽章は「ヤコブの夢」とのサブタイトルがついた曲。中音部が豊穣に響くヴァイオリンとしなやかに迫力を加えるチェロを伴って、シフのピアノが見事に響き渡ります。流石にDECCAの録音は見事。アンサンブルが実に美しく響きあいながらもそれぞれの楽器の響きも濁りません。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
こちらはヴィヴェンテの新盤に入っていた曲。シフはオーソドックスながら絢爛豪華にまとめてきます。余裕たっぷりのグランドマナーを見せつける感じ。テクニックも演奏の風格も見事という他ありません。加えて見事な録音と三拍子揃ってます。途中かなり長めで印象的な休符をはさんでハッとさせるなど、ハイドンらしいアイデアを盛り込むことも忘れません。冒頭のメロディーを何度か象徴的に響かせながら曲をすすめていきます。
チェロの音色が耳に印象的に響くアダージョ。ヴァイオリンも渋目の音色でゆったりと美しいメロディーを置いていきます。中間部でピチカートとピアノの戯れる部分のなんと美しいことでしょう。いつもながらハイドンのアイデアに驚くと同時に、この演奏、ハイドンのインスピレーションを完全に自らの音楽で置き換えている感じ。宝石を散らかしたような美しいピアノの音色に引き込まれます。静寂から浮かび上がるヴァイオリンのメロディーのゾクゾクするような気配。いまさらながらこのコンビの表現の深さに驚きます。
余韻にうっとりしているうちにフィナーレに入ります。軽いタッチの入りから展開して、メロディーを引き継ぎ、どんどん曲が発展していきます。何度かの意外性溢れる転調を経て曲を結びます。圧倒的な完成度に王者の風格が漂います。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最後の曲。もはや完全にシフペースにはまっています。冒頭から揺るぎない、自信に満ちた響きに圧倒されます。ほんの小さなフレーズの一つ一つに生気が宿り、脈々と音を変化させながら置いていくシフのピアノに聴き入らざるをえません。それぞれの曲を完全に掌握して、表現に隙がなく、どの曲も豪華、優雅に仕上げてきます。途中からリズムの波を強調して、身を乗り出すような躍動感をつくります。やはり圧倒的な余裕の存在が音楽を豊かにしていますね。
美しさと独特な曲想が印象的な2楽章も風格に満ち、ハイドンの仕込んだアイデアの一つ一つを丁寧にさらいながらゆったりと音楽を響かせます。そしてあっけらかんと明るく躍動するフィナーレへの展開も見事。それぞれの曲ごとに聴きどころをキリッと作ってくるあたりも見事でした。

久々に聴いたこのアルバム、オーソドックスなスタンスですが、あまりに豊かな音楽に圧倒されました。正攻法の演奏ですが、ベースにはシフのニュアンス豊かでダイナミック、流麗なピアノの圧倒的な存在があります。ヴァイオリンもチェロも見事なんですが、完全にシフにのまれている感じ。最近ピアノトリオは様々な名演奏を取り上げていますが、このアルバムもそれに負けずというより、新たな名演奏の数々に対し、王者として見守るくらいの立場にあるアルバムでしょう。まだ入手できるようですので、未聴の方は是非聴いてみてください。評価は[+++++]です。

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tag : ピアノ三重奏曲

ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集旧盤(ハイドン)

先日取り上げた同じ奏者のアルバムのあまりの素晴らしさにこちらのアルバムを即時注文。やはりこちらもレビューしなくてはならないだろうということで選んだアルバム。

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ヴィヴェンテ三重奏団(Trio Vivente)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲5曲(Hob.XV:26、XV:18、XV:19、XV:20、XV:31)を収めたアルバム。収録は2001年、フランクフルトの近郊にあるフェステブルク教会(Festeburgkirche)でのセッション録音。レーベルはTACET傘下のEIGENART。

先日の記事はこちら。未読の方は是非お読みください。

2016/01/21 : ハイドン–室内楽曲 : ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

私自身も衝撃を受けたアルバムですが、その後当ブログの読者の方がその衝撃を追体験されたことはコメントを見ていただければわかる通りです。なによりそのコメントのディープさにこのアルバムの凄さがあらわれております。

今日取り上げるアルバムは、ヴィヴェンテ三重奏団のデビュー盤にあたり、前アルバムから5年遡る2001年の録音でメンバーは変わらず。

ヴァイオリン:アンネ・カタリーナ・シュライバー(Anne Katharina Schreiber)
チェロ:クリスティン・フォン・デア・ゴルツ(Kristin von der Goltz)
ピアノ:ユッタ・エルンスト(Jutta Ernst)

ジャケットの表にメンバーの姿はありませんが、裏面には3人がにこやかに写った写真が載せられています。ライナーノーツにも別の写真が2枚掲載されており、こちらでもあの睨みを利かせていたユッタ・エルンストも笑顔で写っています。デビュー盤では笑顔を見せていたものの、その後のアルバムでは演奏の質を世に問う厳しい姿勢に変わったということでしょうか。

肝心の演奏は、ヴィヴェンテらしいキレのいい演奏で、展開部での驚くような踏み込みもありながら、しっとりと滑らか音楽を聴かせるところも増えて、前のアルバムの火を吹くような鮮やかさが聴きどころだったのに対して、録音時期の早いこちらの方が逆に円熟を感じるほど。そう、こちらもいいんですね。

Hob.XV:26 Piano Trio (Nr.40/op.73-3) [f sharp] (1795)
聴き慣れた成熟期の名曲。これがデビュー盤とは思えない、躍動感に軽さと立体感としなやかさが高度にバランスした入り。非常に研ぎ澄まされた音楽が流れますが、気を緩めたところでピアノのユッタ・エルンストの楔を打つようなアクセントに驚きます。来ました来ました! 穏やかなだけでは済まされるわけはないとは思っていましたが、いきなりヴィヴェンテペースに引き込まれます。もちろんヴァイオリンもチェロも牙を剥くところはしっかり剥いてきます。ただし、穏やかな部分の美しさはかなりのもの。ハイドンの美しい音楽が磨き抜かれが響きで流れます。
そして交響曲102番と同じメロディーのアダージョは夢見るような美しさ。やはり時折はっとするようなアクセントをつけて美しいメロディーを引き締めます。険しささえ感じさせる孤高の美しさ。録音会場は近代的な造りの教会ですが、響きが美しく演奏が映えます。まるでラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueで録っているよう。
フィナーレは落ち着いて、ピアノのタッチのキレとヴァイオリン、チェロのアンサンブルの美しさを聴けといわれているよう。あえて牙は剥かずにじっくりと音楽と対峙させるあたり、恐ろしいばかりのセンスです。最後をキリリと締めて終わります。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
いやいや美しい。磨き抜かれたさりげない音楽。大排気量のロールスロイスがゆったり街中を走る時の余裕あるしなやかな走りのよう。持てる力がありながら、ハイドンの美しい曲を軽々と、しかも素晴らしい完成度で演奏していきます。それでも鋭いキレは隠しきれず、演奏は柳刃で切りたての刺身のような凜とした新鮮さを保っています。徐々にユッタ・エルンストがアンサンブルを煽るようにアクセントをつけ、それにヴァイオリンとチェロが応じます。これぞ室内楽アンサンブルの醍醐味。
そしてアンダンテですが、これほど美しい演奏がこれまであったでしょうか。短調の憂いに満ちたメロディーをユッタ・エルンストが綺羅星のように磨きぬかれた珠玉の音色で演奏、そしてヴァイオリンのアンネ・カタリーナ・シュライバーのしっとりと鋭利な音色でメロディーが引き継がれます。完全に抑制された表現でこそ浮かび上がる美しさ。とろけちゃいます。
そして絶妙に軽いのに躍動するフィナーレ。ヴァイオリンとピアノが完全にシンクロ。もちろん途中からチェロも鋭いアクセントで参戦。実に余裕たっぷりに疾走するアレグロをキレキレのアンサンブルで表現。この超絶的な軽さと疾走感。奇跡の表現と言っていいでしょう。2曲目にしてメルトダウン。素晴らしい。

Hob.XV:19 Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
穏やかな曲想の曲ですが、ディティールに輝きが満ちてアンサンブルの各パートが絶妙に絡みあいます。艶やかな音楽に身を任せる快感。ゆったりとした音楽に癒されます。音楽が進むにつれて徐々にコントラストがクッキリしてきて音楽の起伏が鮮明になってきます。力の抜けたユッタ・エルンストのピアノの音色の美しさに惚れ惚れ。そして終盤のアンネ・カタリーナ・シュライバーのヴァイオリンの音階のなんという軽さ。牙を剥く場面はないんですが、牙を剥いた以上のインパクトがあります。
2楽章はしなやかに流れる川のような滑らかなピアノの音階で聴かせます。迫力ばかりが聴かせどころではないのよと言いたげ。
フィナーレは適度なアクセントとしなやかさを保った落ち着いた演奏。デビュー盤なのに巨匠の演奏のように落ち着き払った音楽。

Hob.XV:20 Piano Trio (Nr.34/op.70-3) [B flat] (before 1794)
ハイドンの書いた曲の素晴らしさに聴衆の耳を集中させようとしているかのように、オーソドックスに攻めていきますが、これまでの曲同様、リズムのキレと、軽々としたタッチ、要所のキリリとたアクセントは隠せるはずもなく、実にバランスのいい演奏。奏者の創意と作曲者の創意のバランスがとてもいいところで保たれている印象。前のアルバムではキレ味で聴かせていましたが、この穏やかさも実にいいものです。まさに極上の音楽。
そして、つづくアンダンテ・カンタービレはXV:18同様、抑制されたタッチで描かれる究極の美しさ。絶品です。フィナーレも落ち着きを保ってなんとも言えない完成度。アンネ・カタリーナ・シュライバーの美音も華を添えます。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
最後の曲。アルバムの題名にもなった「ヤコブの夢」という副題がついた2楽章構成の曲。曲想からか、終始落ち着いた表現。牙はまったく剥かず、逆にアクセントは抑えてしなやかさを狙った演奏。枯淡の味わいすら感じさせます。ユッタ・エルンストも美しい音色を響かせることに集中している様子。アンネ・カタリーナ・シュライバーも艶やかにメロディーを奏でます。穏やかな音楽が実に心地よい楽章。
続くアレグロはピアノの適度なリズムの躍動に乗ってヴァイオリンとチェロが自在に駆け回ります。ここにきて目立つアクセントはまったくなく、音楽の起伏に沿った適度なメリハリを利かせて音楽を進めます。最後にキリリと引き締めて終わるところでようやくヴィヴェンテらしい響きをちらりと見せます。

通しで聴いてみると、前半には挨拶代わりか「あの」キレ味を聴かせますが、演奏が進むにつれて徐々に穏やかになり、ハイドンの音楽に素直な演奏になっていきます。キレこそヴィヴェンテの本領ですが、演奏の完成度というか音楽の完成度はこの穏やかなヴィヴェンテの方にあるように聴こえます。私はこちらのヴィヴェンテの方も気に入りました。奏者のテクニックは前アルバムで証明済みですが、このデビュー盤では表現意欲と音楽のバランスが絶妙で完成度はむしろこちらのアルバムの方が上かもしれません。録音の前後関係はこちらがデビュー盤で先ですが、演奏はこちらの方が円熟を感じるほど。デビュー盤でここまでの音楽を聴かせたということの驚きも大きいですね。もちろんこちらも全曲[+++++]。前盤でのけぞった方、こちらのアルバムも必聴です(笑) 手に入るうちにどうぞ!

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アンサンブル・トラゾムによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

本日は最近当サイトで盛り上がりをみせるピアノ三重奏の隠れた名演盤を取り上げます。

Trazom.jpg
amazon

アンサンブル・トラゾム(Ensemble Trazom)の演奏によるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:20、XV:19、XV:18、XV:9)を収めたアルバム。収録は1998年4月8日から10日、ドイツ北部のハノーファー近郊の街オーベルンキルヒェン(Obernkirchen)にある教会堂(Stift Obernkirchen)でのセッション録音。レーベルはARTE NOVA CLASSICS。

このアルバム、ずいぶん前から手元にあるのですが、たまたま最近同じ奏者による別のアルバムを手に入れ、聴いてレビューのために調べ始めたところ、手元に古い録音があることがわかり、聴き比べてみるとこちらの方がいいではありませんか! ということで手元にあってレビューしていなかったアルバムを取り上げる次第。

奏者のアンサンブル・トラゾムは18世紀から19世紀の音楽を古楽器で演奏するトリオ。トラゾムとはなんでもモーツァルトのつづりを逆にしたものとのことで、そのアウトローなセンスはオッケーです。脱線しますが、昔大学に出入りしていた文具業者が「ねずらむ」という会社でしたが、それは丸善のローマ字を逆から読んだもの。丸善出身の人が立ち上げた会社と聞いていました(笑) さて、奏者のウェブサイトがみつからないので現在は活動していないのでしょうか。この録音当時のメンバーは下記の通り。

フォルテピアノ:ウルテ・ルフト(Urte Lucht)
ヴァイオリン:エリザベス・ブンディース(Elisabeth Bundies)
チェロ:シュテファン・フックス(Stefan Fuchs)

フォルテピアノのウルテ・ルフトはグスタフ・レオンハルト、インマゼールなどに師事した人。ヴァイオリンのエリザベス・ブンディースはベルリンフィルの元コンサートマスターのライナー・クスマウル門下で、チューリッヒ・トーンハレのヴァイオリン奏者。チェロのシュテファン・フックスはミュンヘン、チューリッヒ、バーゼルなどで学び、クリストフ・コワン、アンナー・ビルスマ、ポール・トルトゥリエ、モーリス・ジェンドロンなど錚々たるチェリストに師事し、カールスルーエ音楽アカデミーで教職にある人とのこと。

経歴も腕もそれなりの人が集まっての演奏ですが、それだけではいい演奏ができるという保証はありません。3人の息と音楽のスタンスがピタリとあってこそのアンサンブルなんですね。

Hob.XV:20 Piano Trio (Nr.34/op.70-3) [B flat] (before 1794)
冒頭の一瞬の響から素晴らしい集中力が伝わります。尋常ならざる集中力。ハイドンのピアノトリオの名演奏に共通する、息を呑むようなキレ味に最初から圧倒されます。ARTE NOVAといえばNAXOSと並ぶ廉価盤の雄。アルバムの造りも奏者の知名度も目立つわけではありませんが、演奏は一流、キレてます。CDプレイヤーにかけてすぐにキレキレの音楽が噴出して仰け反ります。実にオーソドックスで、派手な演出はありませんが、キレ味は抜群でそれだけで満足というよりは、その純度の高さこそが素晴らしい演奏の証と言わんがばかり。録音も自然で鮮明。言うことなしの完璧な演奏。1トラック目から凄まじいキレ味に圧倒されます。
つづくアンダンテ・カンタービレ、いろいろな演奏を聴いていますが、ゆったりとしていながらも、緊張感を保ち、くっきりとした隈取りをつけた極めてバランスの良い演奏。オーソドックスな快感に身を委ねます。
フィナーレも一貫した明晰さが心地良いですね。教科書的というと型にはまったような印象もありますが、洋食屋さんでいただいたハンバーグが今まで食べたどのハンバーグよりも味わい深かったというような感じ。斬新でも、個性的でもないのに、実に深い音楽。これぞハイドンの名演奏と言っていいでしょう。1曲目から素晴らしい演奏に仰け反ります。

Hob.XV:19 Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
短調の入り。冒頭の一音から安定感抜群。ピアノやフォルテピアノ主導の演奏が多いなか、このアンサンブル・トラゾムはヴァイオリンとチェロの存在感が際立ち、フォルテピアノとまったく同格で主導権を譲りません。というか、この一体感の素晴らしさは何なんでしょう。完璧なアンサンブルで、奏者の創意も完全に合っています。まったく隙のない緊密なアンサンブルにうっとり。
2楽章は鮮やかなタッチの短いプレスト。あっという間に巻き取られて、続く3楽章のアダージョ。楽章間の切り替えも鮮やかで、揺るぎない説得力を帯びた演奏。アダージョはルフトのフォルテピアノの妙技を堪能できます。一つ一つのフレーズを丁寧に描くことで、曲の一貫した美しさを十分に表現しています。このあたりはインマゼールの影響でしょうか。そして本来のフィナーレであるプレストは相変わらずの安定感。まさに教科書通りで、演奏のクォリティは最高。言うことなし。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
曲ごとの描き分けよりは一貫した演奏スタイルで聴かせる演奏。冒頭の入魂の一撃のキレの良さは変わらず凄まじいもの。安定感も創意のレベルも揃って、この素晴らしいキレ味の演奏に耳が慣れてきていますが、よく聴くとやはり驚くべきキレ味。途中、ぐっとテンポを落として変化をつけ、神がかったような集中力を保って、ダイナミクスの幅いっぱいの表現に圧倒されます。
つづくアンダンテでようやく穏やかさを取り戻し、聴く方も落ち着きます(笑) 中間部に満ちる暖かい響きにうっとり。
フィナーレは快活なアンサンブルの魅力炸裂。いやいや素晴らしい演奏にグイグイ引き込まれます。フォルテピアノのキレもいいんですが、ヴァイオリンとチェロもそれ以上に素晴らしいキレ味。非常にレベルが高い演奏です。

Hob.XV:9 Piano Trio (Nr.22/op.42-1) [A] (1785)
最後に2楽章構成のの曲をもってきました。ピアノ三重奏曲としては比較的早期の曲ですが、ハイドンの筆致は成熟を極め、音楽は素晴らしい完成度。1楽章はアダージョでゆったりとしながらも、大きくうねる起伏の表現が見事。ハイドンの意図をすべて踏まえて自在に表現している感じ。ハーモニーの美しさもあり、メロディーの演出の巧さもあり、そして静寂も感じさせる素晴らしい楽章。チェロのくすんだ音色が格別の美しさ。
続くヴィヴァーチェは穏やかに変化するリズムをじっくり描きながら、フォルテピアノの音階が自在に上下。楽章ごとの聴かせどころを我々の想像力を超えたところから面白いように変えてくるハイドンの創意を実にうまく表現しています。フォルテピアノ以上にヴァイオリンとチェロも創意の限りを尽くしてアンサンブルを盛り上げます。時折キリリと鋭い音色でアクセントをつけるヴァイオリンに、ピアノトリオのチェロとしては異例に表現の幅の広いチェロが印象的。あっと言わせるような転調や、驚くようなメロディーの変化に聴く方の脳が冴え渡ります。何という想像力。

手元に眠っていたアルバムがこれほど素晴らしいことに今更気づいた次第。このところハイドンのピアノ三重奏曲のいいアルバムをいろいろ取り上げていますが、このアルバムもそれらと同格の素晴らしいもの。ARTE NOVAレーベルを代表する名盤と言っていいでしょう。もともとこのアルバムは非常に手に入れやすいものだったと思いますが、現在は廃盤のようで取り扱いはamazonのマーケットプレイスのみ。ハイドンの室内楽を好む方は、ぜひ入手すべき名盤です。先にふれたように同じ奏者によるもう一枚の方は、いい演奏ながらここまでのキレは聴けません。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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