長原幸太/宮田大/田村響のジプシーロンド(所沢市民文化センターミューズ)

12月23日天皇誕生日は、チケットを取ってあったコンサートへ。

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所沢市民文化センターミューズ:ミューズ主催公演 長原幸太[ヴァイオリン]×宮田大[チェロ]×田村響[ピアノ]

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会場は所沢と自宅からはちょっと遠いホールでのコンサートでしたが、ハイドンのピアノトリオがプログラムに入っているということと、奏者がよく聴いている読響のコンサートマスター長原幸太さんということ、また、会場の所沢のミューズも休みの日でないと行けない場所ということで、チケットを取った次第。プログラムは下記の通り。

ハイドン:ピアノ三重奏曲 Hob.XV:25「ジプシー・ロンド」
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 Op.7
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 Op.97「大公」

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メンバーの長原幸太はよくコンサートに行っている読響のコンアートマスターとして私にはお馴染みな人でしたが、今回調べて見ると生まれは1981年ということでまだ30代半ば。見た目より若いですね(笑)。小学生時代から頭角を現し、全日本学生音楽コンクール全国大会(小学校の部)で1位となり、以降名門藝大を出て、こちらも名門ニューヨークのジュリアード音楽院に留学、最年少でサイトウキネンオーケストラに入団するなど才能に溢れた人。2004年から大阪フィルの首席客演コンサートマスター、2006年より同首席コンサートマスター、2014年から読響のコンサートマスターとなっています。

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宮田大は、以前小澤征爾の振る水戸室内管弦楽団とハイドンのチェロ協奏曲を演奏した映像が放送され、Blurayディスクもリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。1986年生まれで、同じく若い頃からチェロを学び、桐朋学園を卒業し、2009年日本人として初めて、ロストロポーヴィチチェロコンクールで優勝した経歴の持ち主。
ピアノの田村響も同じく1986年生まれ、ザルツブルクのモーツァルテウムで学び、2007年、パリで開催されたロン=ティボー国際コンクールピアノ部門で優勝しています。現在は京都市立芸術大学の講師とのこと。

ということで、メンバーは皆若手実力派というところ。



この日はホールまで遠いので結構早めに家を出ましたので、ホールに着いたのは開場時間のかなり前。ここは大ホール、中ホール、小ホールなどいろいろある総合施設で、ぶらりと歩きまわって見るとレストランがありましたので、時間つぶしに寄ってみます。

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食べログ:響

自宅で昼食をとって出かけてきましたので、14時前のこの時間はお腹が空いているわけではありません。ということで頼んだのは地ビールの所沢ビールの4種テイスティングセット! 野老ゴールデン、スモーキン、ダークホース、ファラオの4種ですが、これがちょっといけません。ビールはいいと思うのですが、グラスがビールに全く合わず、泡も切れた状態で供され、ビール好きな人からしたら、出し方が台無です。しかも最初に3種出てきて、残りは結構経ってからということで、せっかくの地ビールが残念な感じでした。

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つまみのピクルス。こちらは浅い漬かり具合。ビールのつまみにするにはもう少ししっかり漬かっていた方がいいでしょう。

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嫁さんはあんみつ! この日はポカポカ陽気でしたので正解です。

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あんみつにはお茶でしょうが、ここは狭山茶の産地ということで、極上狭山茶「極」。こちらはまあまあでした。

ひとしきりのんびりして、時刻は開演30分前くらいになりましたのでホールに移動します。

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この日の席はステージ前の左側の前から3列目。ミューズの大ホール、アークホールは平面を見るとウィーンのムジークフェラインそっくりのシューボックス型。1993年オープンということでもう20年以上経っていますが、それほど古びた感じもなく、ホールはかなり本格的な作りで綺麗。正面には本格的なパイプオルガンがあり、その両脇には彫像が立つなどバブル期に計画されたと思わせる豪華な感じ。設計は公共建築の多い石本建築事務所。ホールの音響設計はヤマハとのこと。初めて聴くホールなので色々気になります。



この日のお客さんの入りは5割程度だったでしょうか。この演目で都心から離れたこのホールとしては健闘しているところでしょう。開演時刻になると、3人の奏者がステージに上がり、簡単なチューニングを済ませると、すぐにハイドンの名曲です。

冒頭から非常にキレのいい演奏。まるで録音を聴いているような完璧な演奏に驚きます。ヴァイオリンの長原さんは冒頭から安定感抜群。オケではソロの部分は多くはありませんが、こうして聴くと素晴らしいテクニックの持ち主であることがわかります。美音を轟かせながらも、どっしりと揺るぎない堅固な演奏。他の2人もキレ味抜群。何よりピアノトリオとしてのアンサンブルのまとまりは録音を含めて一流どころに劣るどころか、1、2を争うような素晴らしい出来。3人とも若手にモカ関わらず、鮮度抜群な上に非常に冷静に音楽を造っていく才能に溢れ、アンサンブルの絶妙な掛け合いの魅力も、繊細な表情の変化も聴かせる完璧な出来。今日初めて聴くピアノの田村さん、こちらもリズムの安定感とタッチのキレが素晴らしく、トリオの骨格を見事に支えていました。ステージにかなり近い席だったせいか、強音の後の余韻がホールに吸い込まれていく響きの美しさは惚れ惚れするほど。3人のアンサンブルが絶妙に美しく響き渡ります。これでこそピアノトリオ。
胸のすくような1楽章のアンサンブルから、ゆったりと宝石のように輝くポコ・アダージョに入ると。ピアノの田村さんの繰り出すまさに転がりながら光り輝くピアノの音にうっとり。ちょっと怖い人のような風体ですが、流れ出す音楽のピュアさはかなりのもの。ヴァイオリンとチェロが代わる代わる美しいメロディーを紡いでいきますが、メランコリックになることなく、透明感溢れる音楽を維持します。
そしてフィナーレのジプシーロンドは再び、ヴァイオリンとチェロの快刀のごとき弓使いに圧倒される楽章。速いパッセージのキレ味は火花が散るよう。そしてジプシー風のメロディーに入ると長原さんの弓が飛び回るように走ります。以前聴いたリッカルド・ミナーシの路上パフォーマンスのような砕け方はしないものの、手に汗握るようなパフォーマンスは流石なところ。最後の一音をかき消すように拍手が降り注ぎました。いやいや、若手実力者が揃ったとはいえ、ここまでの完成度だとは思いませんでした。実演の迫力も手伝って、この曲のベストの演奏を聴いた気分。

次はピアノなしの、コダーイのヴァイオリンとチェロのための二重奏曲。この曲は初めて聴きますが、技巧が凝らされた複雑な曲だけに演奏は極めてむずかしそう。演奏は神がかったような集中力を伴ったもの。2人のテクニックを存分に活かした素晴らしいもので、2人が織りなす素晴らしいア濃密なアンサンブルを堪能できました。これにはハイドンを上回る拍手が降り注ぎました。

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休憩を挟んで、後半は再びピアノトリオになりベートーヴェンの大公。もちろん素晴らしい演奏だったんですが、曲自体を苦手としているためか、あるいは前半の鮮烈なキレの良い演奏に対して、後半のプログラムの曲想がしなやかなものだったので、3人のアンサンブルの緻密な魅力が映えなかったからか、前半ほどのインパクトは感じられませんでした。ベートーヴェンの代表的なピアノトリオですが、ハイドンのシンプルな曲想に比べてどうも音符に無駄が多く、曲の緻密さの違いから楽しめなかったのかもしれません。まあ、ハイドンのブログということでお許しいただきたいと思います。もちろん会場からは割れんばかりの拍手がふりそそき、何度か拍手に促されて登壇したのちにアンコールということで、最初のジプシーロンドの3楽章を再度演奏。もちろんアクロバティックな弓さばきに拍手喝采でコンサートを終えました。

後半のベートーヴェンにちょっと難癖つけちゃいましたが、この日のコンサートは大満足。特に前半は今まで聴いた室内楽のコンサートではベストのものでした。何より若手3人の息の合った精緻なアンサンブルの素晴らしさは録音を含めても非常にレベルが高く、欧米の一流どころに引けをとるものではありませんね。いいコンサートでした。また所沢のミューズも素晴らしい響きということがわかりましたので、機会があればまた来てみたいところですね。

さて、もうクリスマスになっちゃいましたネ。いよいよ年の瀬です。

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tag : ピアノ三重奏曲

トリオ・ヴィエナルテのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々に湖国JHさんからアルバムの束が届きました。今日はその中からの一枚。

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TOWER RECORDS / ローチケHMVicon

トリオ・ヴィエナルテ(Trio Viennarte)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)を収めたアルバム。収録は2000年4月、旧自由ベルリン放送(現ベルリン=ブランデンブルク放送)第3ホールでのセッション録音。レーベルは独CAMPANELLA Musica。

このアルバム、ジャケットを見ると、手元にあると思って所有盤リストを見てみてもありません。ただし、このジャケットは確かに見覚えがあると思ってCDラックを探してみると、ありました! 実は同じレーベルの別のアルバム。同じような雰囲気のレイアウトでハイドンのモノクロの肖像画をあしらったジャケットゆえ既視感満点。ということで、これまでもいろいろなところで見かけても、手元にあると勘違いして注文もしてこなかったということです。こういうこともありますね。

さて、奏者のトリオ・ヴィエナルテは美人女性3人によるトリオ。いつもながら、それをアイドル路線でアルバムにしてくるのではなく、しっかりとしたプロダクツに仕立ててくるところにレーベルの見識を感じます。ジャケットの扉を開けるとこの写真が。

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この写真はアルバムの内側なので、このアルバムをもし店頭で見かけたとしても見られません。こちらを表にした方が売り上げに貢献したかもしれませんね(笑) メンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ヴェロニカ・シュルツ(Veronika Schulz)
チェロ:ジュリア・シュライフォーゲル(Julia Schreyvogel)
ピアノ:マリア・ロム(Maria Rom)

トリオ・ヴィエナルテは1996年に設立されたトリオ。メンバーは1970年から74年にウィーン生まれで、ウィーンで音楽を学んだ人。ウィーンのコンツェルトハウスで開催された青少年音楽コンクールでのデビューコンサートは非常に高く評価され、その後「若者の表彰台(Podium of Youth)」と題された一連のコンサートはヨーロッパ各国や南アフリカで開催されました。またシャーンドル・ヴェーグ・アカデミーではメナム・プレスラーやアルバン・ベルク四重奏団のメンバーに師事していました。なお、ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツは、ウィーンフィルの首席フルート奏者を長く勤めたウォルフガング・シュルツの娘とのこと。今回調べてみると、ウォルフガング・シュルツは2013年に亡くなっていたんですね。録音はこのアルバムの他にcamerataレーベルにブラームスのピアノトリオがあるくらいで、トリオのウェブサイトも見当たらないことから、現在は活動していないかもしれませんね。

さて、名盤ひしめくピアノトリオであり、しかもハイドン絶頂期の名曲3曲ということで。聴く方もちょっと前のめり気味(笑)

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
録音は残響が多めですが鮮明。鋭利な刃物で音楽を切り取っているような鮮度抜群な演奏。各パートが火花を散らしながらしのぎを削る感じがまさにライヴのよう。これは好みのタイプです! 各パートの精度はほどほどなんですが、勢いというかエネルギーはものすごいことになっています。マグマが噴出するような熱いエネルギーがほとばしります。この3曲セットの冒頭を飾るアレグロから見事の一言。
続くアンダンテでこのトリオの表現の幅を確認しようとする意図で聴きますが、意外にさりげないさっぱりとしたタッチできます。そうこうするうちにやはりライヴ的な盛り上がりに包まれます。やはりこのトリオ、ライヴ感が信条のようです。極上のライヴを楽しんでいるような至福の境地。
フィナーレも一貫した演奏。特にピアノのマリア・ロムの鮮やかなタッチが印象的。ヴァイオリンのヴェロニカ・シュルツも鮮やかなボウイングでキレの良さを見せつけ、チェロのジュリア・シュライフォーゲルも深みよりキレのタイプ。終盤の盛り上がりの集中度合いも見事なもの。1曲目からノックアウトです。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
1曲目とまったく同じくライヴ感満点の演奏。音楽が活き活きと弾みダイナミックに展開します。どこかのパートが目立つということではなくアンサンブルとしてバランスが良く、ハイドンのピアノトリオの理想的な演奏。これは外連味なくキレのいいピアノの功績でしょうか。室内楽としての演奏の完成度が非常に高いということでしょう。耳を澄ますとピアノは早いパッセージをクリアにではなく流れるようなタッチで滑らかに弾いてきますが、それが過度に目立たぬことに貢献しているよう。覇気に満ちたピアノもいいものですが、こうして音楽の骨格を支えるピアノこそバランスの良い演奏の基本ですね。
続くアレグレットは前曲同様さっぱりとした表情で入りますが、その中から慈しみ深さが滲み出てくるような演奏です。ここではピアノの自然ながら彫りが深い美しいタッチが圧倒的な存在感。ヴァイオリンとチェロも寄り添いながら終盤にグッと力が入ります。
前楽章のエネルギーをさらりと受けて再びさっぱりとした入り。落ち着いた演奏からハイドンの終楽章のアイデアに満ちた構成の面白さが浮かび上がります。前曲同様非常に完成度の高いアンサンブル。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
演奏が安定しているので、曲を存分に楽しむことができます。大波の合間に時計を刻むような瞬間が挟まれる独特の曲想の面白さが浮かび上がります。3人とも各パートの演奏はかなりダイナミックで、それが響きあうように重なり、3人の演奏なのに室内楽を超えるようなダイナミックさに聴こえます。この3曲の中でも格別構成感を感じさせる1楽章が見事に引き締まります。
すっと力を抜いた2楽章の入り。落ち着いた響きがこれまでのエネルギーを覚まし、ハイドンが書いた曲想の展開の面白さを鮮やかに印象付けます。曲の流れを踏まえていい具合に力が抜け続けているのがポイントでしょう。そしてそのまま終楽章に入ります。この3曲の結びのように華麗なメロディーが明るく鳴り響き、それにヴァイオリンとチェロがいい具合に寄り添います。展開部でアーティスティックに振りますが、最後はリラックスして爽やかに終えます。

トリオ・ヴィエナルテによるハイドンの傑作ピアノトリオ集、ライヴ感あふれる見事な演奏でした。際立つのはアンサンブルとしてのまとまりの良さ。全員が腕利き揃いなのに加え、室内楽としての呼吸がピタリと合って絶妙の演奏。セッション録音ながらライヴ収録と言われてもわからないくらいの活き活きとした表情が魅力の演奏です。これはウィーンを同郷とする同世代の女性のトリオだからでしょうか。残念なのはこのアルバムともう一枚のブラームス以外にアルバムがリリースされていないこと。これだけの才能を持つトリオゆえ、ぜひハイドンの録音ももう少し期待したいところです。評価は3曲とも[+++++]と致します。

湖国JHさん、今回もいきなりいいアルバム、ありがとうございます!

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tag : ピアノ三重奏曲 美人奏者

【新着】ミナーシ、エメリャニチェフ、トッファーノによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

待望のピアノトリオの新着アルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMV

リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)のヴァイオリン、マクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)のフォルテピアノ、フェデリコ・トッファーノ(Federico Toffano)のチェロで、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:25、XV:38、XV:13、XV:1)を収めたアルバム。収録は2013年8月2日から5日にかけて、イタリア、ジェノヴァの西の街モンドヴィ(Mondvi)にあるアカデミア・モンティス・レガリスのホールでのセション録音。レーベルはdeutsch harmonia mundi。

このアルバム、最近リリースされたものですが、奏者の名前に見覚えがあり、注文したもの。ヴァイオリンのリッカルド・ミナーシとフォルテピアノのマキシム・エメリャニチェフの演奏は今年協奏曲集で取り上げています。

2016/02/16 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-2(ハイドン)
2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

2人の情報はリンク先の記事を参照いただきたいのですが、リッカルド・ミナーシは指揮者としても素晴らしい力を持っており、マキシム・エメリャニチェフは最近話題のクルレンツィスによるフィガロの結婚で通奏低音を担当するなどなかなかの実力者です。チェロのフェデリコ・トッファーノは2009年にヴェネチア音楽院を卒業した若手チェリスト。すでに2005年からヴェネト音楽院管弦楽団の主席チェリストを務め、2010年にはアバドが創設したグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団、モーツァルト管弦楽団、またヴェローナで毎年開催されるアレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭にも参加するなどかなりの実力者。2012年にロンドンの王立音楽院でバロックチェロを学ぶと、以降はミンコフスキ率いるグルノーブル・ルーヴル宮音楽隊や前記事で取り上げたイル・ポモ・ドーロなどで活躍しています。

実力者3人が揃ってのハイドンのピアノトリオの演奏、これがなかなかのものでした。

Hob.XV:25 Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
ピアノトリオの代表格のこの曲が、今まで聴いたことのないような不思議が雰囲気で始まります。リッカルド・ミナーシのヴァイオリンは、ハイドンではなくまるで中東の音楽のような不思議な響きで入り、エメリャニチェフのフォルテピアノはゆったりと装飾音のようにヴァイオリンにまとわりつきます。ゆったりとしたテンポで瞑想の音楽のように豊かな残響の中にメロディーが漂います。この曲からこの雰囲気をつくっていく発想に脱帽です。まったく想像だにしなかった音楽にびっくり。じきにそのような気配からハイドン自体の音楽が浮かび上がってきて、いつもの愉悦感に包まれていきます。温泉につかってしばらくで体に癒しが回ってきたときのような心境。そういえば冒頭から実に癒しに満ちた音楽という印象でした。
ヴァイオリンの和音の温かい音に包まれるようなポコ・アダージョ。もちろん前楽章以上にゆったりと漂うような音楽が流れます。エメリャニチェフのフォルテピアノはキレの良いタッチではなく鍵盤をなぞるように音を置いていきます。チェロのトッファーノは息の長い音をこちらもゆったりと漂わせます。音楽が熟成しきってゆったりとゆったりと進みますが、ここぞというところでミナーシのヴァイオリンが突然輝きに満ちた美音を轟かせ、はっとさせられます。
これまでの雰囲気を断ち切るようにキレたフィナーレに入り、本当のジプシーの路上パフォーマンスのように、悪く言うと見世物のような誇張された演奏ですが、これが実に面白い。クラシックの本格的な教育を受けた人の演奏ではなく路上でチップが集められる演奏と言えばいいでしょうか。ジプシーロンドとはこう演奏するものだと初めて気づかされました。見事!

Hob.XV:38 Piano Trio (Nr.13) [B flat] (before 1760)
ぐっと時代が遡った初期の曲。今度は初期の曲を余裕たっぷりに演奏を楽しむような入り。音楽とは楽しむために演奏するものだと言わんばかり。このトリオの恐ろしいばかりの才能に気づかされます。すべてのフレーズがイキイキと踊るような躍動感あふれる演奏。今度はエメリャニチェフが主導権をとって愉悦感を存分に表現したタッチで先導します。ミナーシのヴァイオリンは引きずるような流動的なボウイングで新体操のリボンの軌跡のようにメロディーを置いていきます。明るさと仄暗さの間を行き来する実にデリカシーに富んだ音楽の素晴らしさがじわりとつたわってきます。
続くアンダンテはリズムのキレを基調とした演奏。曲ごとに自在にスタイルを変えてきます。キリリと引き締まったリズムに乗りながらもミナーシのヴァイオリンが飛び回って喜びを振りまきます。耳を澄ますとトッファーノのチェロもチェロとは思えなほどのかなりのキレ味。
初期の曲ながらフィナーレの展開の面白さは圧倒的。いつもながらハイドンの発想の豊かさには度肝を抜かされます。その発想にインスパイアされた3人がリズムとメロディーが高度に交錯した見事な演奏で応えます。あまりの見事さに呆然と聴き惚れます。ブラヴォー!

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
前曲のフィニッシュの興奮を鎮めるようなしっとりとした短調の入り。曲の配置もよく考えられています。ミナーシのヴァイオリンの奏でるメロディーのあまりの美しさにきき惚れます。エメリャニチェフとトッファーノの伴奏も完全に息が合っていて完璧。3人の表現のベクトルが微塵もずれることなく調和して、よどみなく音楽が流れます。聴き手の魂を揺さぶる深い音楽。
この曲の2楽章も不思議な音楽ですが、この演奏を聴いてはじめてハイドンの真意を理解したような気になります。冒頭から荒れんばかりの激しい曲調。この曲には、少し前に聴いたヴィヴェンテ三重奏団の見事な演奏がありますが、これは表現の深さでヴィヴェンテを上回るものがあります。次々と変化していく曲に合わせて千変万化する演奏。まるでハイドンの創意を追いかけているような刺激に満ちた演奏。クライマックスに向けてテンションが徐々に上がっていくようすは痛快そのもの。楽器が響ききっていく様子の見事さは圧倒的です。

Hob.XV:1 Piano Trio (Nr.5) [g] (c.1760-62?)
ハイドンのピアノトリオの初期の作品の素晴らしさを際立たせようというのでしょうか。挨拶代わりにジプシーロンドを冒頭に置いたあとは全て初期の曲。しかもいずれの曲もその曲のベストと言ってもいい素晴らしい演奏をならべてきて、最後にXV:1をもってきました。掴みもオッケー、そしてアルバム自体の企画も冴え渡ります。この曲がこれほど面白く響くことを再認識。雄弁なミナーシのヴァイオリン、エメリャニチェフのフォルテピアノの自在なタッチの変化、そして、他の2人の演奏の陰でリズムのキレで演奏を支えるトッファーノと3人とも完璧。印象的なアクセントが響き渡る間に音楽が心に刺さってきます。古楽器の表現力に対するこちらの想像の範囲を完全に超えた演奏。もちろん音色には雅なところもありますが、演奏は現代楽器以上にダイナミックに感じます。
メヌエットにはいるとさらにダイナミック。曲に潜むエネルギーを蘇らせているよう。フォルテピアノもチェロも鋭いアタックで音楽を引き締めています。そして間をおかずにフィナーレに移ります。エネルギーはそのまま、短いながらも創意に満ちた音楽を嵐のような勢いと完璧なコントロールでまとめます。最後まで演奏のレベルは最高な状態を保ったままでした。

イタリア人奏者3人によるハイドンのピアノトリオ4曲の演奏。古楽器によるハイドンのピアノトリオのベスト盤と言っていいでしょう。演奏の技術、精度はもちろん、そうしたことを全く意識させない圧倒的な表現力による素晴らしい演奏でした。エメリャニチェフは前記事の協奏曲集では今ひとつなところもあったのですが、このアルバムでは非の打ち所がありません。3人の息が完全に合った完璧な演奏でした。トリオの名前がなく3人の名前でアルバムをリリースしているところから、今後の録音がどうなるかはわかりませんが、是非ハイドンのピアノトリオをもう少し録音してほしいものです。評価はもちろん[+++++]とします。ピアノトリオに格別な愛着を持つ読者の方、必聴です!

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ガラテア三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々にピアノトリオです!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ガラテア三重奏団(Trio Galatea)によるハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)にクレメンティのソナタOp.27-No.2の4曲を収めたアルバム。収録は2004年5月24日から26日にかけて、 ベルギーのブリュッセルの東方の街、シント=トロイデン(Sint-Truiden)のアカデミーホールでのセッション録音。レーベルはET'CETERA。

このアルバム、ゴールデンウィーク中に前記事で書いたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンのコンサートのために有楽町に行った際、ついでに立ち寄った山野楽器銀座本店で偶然見つけて手に入れたもの。山野楽器はネット系のTOWER RECORDSやamazonとは品揃えが異なるので、たまに行くと見たことのないアルバムが見つかるので侮れません。ただし値段は少々高め。円高のこの頃ですので、もうちょっと安いと戦闘意欲も増してくるのですが、ネット系とかなり価格差があり、何枚も物色するような気にならないのは致し方なしでしょう。このアルバムはネット系にももちろん出回っていますが、売り場で手にとってみると、ピアノフォルテはなんと、あの、トム・ベギンではありませんか。ネットでは意図して検索しないとこういう出会いはなかなかありません。

2011/12/06 : ハイドン–声楽曲 : アンドレア・フォラン/トム・ベギンによるハイドンの歌曲集
2011/11/27 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】トム・ベギンのハイドン鍵盤独奏曲全集

さて、このガラテア三重奏団ですが、ネットを調べてもウェブサイトが見つかりませんので、現在は活動を継続していないかもしれませんね。ライナーノーツを読んでみると、設立は2000年で、埋もれていた18世紀の鍵盤楽器の伴奏をともなうソナタの演奏を意図したトリオとのことで、主にアメリカ東海岸の音楽祭や放送で活動していたようです。メンバーばは下記の通り。

ピアノフォルテ:トム・ベギン(Tom Beghin)
ヴァイオリン:エリザベス・ブルーメンストック(Elizabeth Blumenstock)
チェロ:エリザベス・ル・グイン(Elisabeth LeGuin)

ヴァイオリンとチェロは多くの録音に参加しているベテラン奏者とのことです。このアルバム、やはり聴きどころはトム・ベギンのピアノフォルテでしょう。このレコーディングに使用されたのはハイドンの時代のクレメンティ・ピアノのレプリカ。

Chris Caene, Ruiselede, 2004, after Longman & Clementi,1798

さて、最近はピアノトリオの名演盤をいろいろ聴いて耳が肥えております。トム・ベギンのクレメンティ・ピアノは如何に!

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
聴き慣れたフォルテピアノとはほんのすこし異なる響きに感じるクレメンティ・ピアノ。言われなければ違いはわかりませんが、高音が少々こもり気味、低音は逆に力強くに聴こえます。トム・ベギンのタッチはアクセントが明快で迫力もあり、早いパッセージの軽やかさもあり、冒頭の一音からキレのよいもの。ヴァイオリンもチェロもキレの良い演奏で質の高いアンサンブルを聴かせます。古楽器としてはかなり踏み込んだ躍動感を感じさせるのは、やはりトム・ベギンのリードによるものでしょう。ただし、トム・ベギンの演奏には終始冷静な視点を感じさせ、指先を自在にコントロールして躍動感を冷静に演出しているような印象があります。全体が見えているのでしょうね。
続くアンダンテでは自在にテンポを動かしながら、ハイドンの書いたメロディーのフレーズ一つ一つにくっきりと表情をつけていきます。トム・ベギンがかなり強めのアクセントと時折深い溜めを挟んで音楽を刻んでいきますが、くどい印象は皆無で、むしろ音楽がキリリと引き締まります。耳を澄ますとヴァイオリンもチェロも非常に堅実。無理に聴かせどころを作ろうとせず、しっかりと寄り添いながら適度にキレる見事な演奏。この曲の素晴らしいところは明るさと陰りが微妙に交錯しながら変化していくところ。そのあたりを落ち着いてさばくデリケートさが見事。
フィナーレはベギンのタッチの鮮やかさが聴きどころ。やはりヴァイオリンの堅実な寄り添いっぷり、チェロの見事な脇役ぶりが印象的。いますこしの輝かしさを追求してしまいたくなるのでしょうが、コントロールされた堅実さがぐっとくる演奏といえばわかりますでしょうか。聴かせどころはトム・ベギンに譲っているということでしょう。3人の高い技巧に裏付けられた素晴らしいアンサンブル。最後は響きに溺れそうになるような変わった響きに包まれる部分もあり、ヴィヴェンテとはまた異なる聴かせどころをもった演奏といっていいでしょう。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
続く曲では、とぼとぼと進むトム・ベギンのクレメンティ・ピアノに合わせて入りは朴訥な雰囲気に包まれます。曲に潜む気配を察しての表現でしょうが、それをぐっと踏み込んで来るあたりに自信が窺えます。徐々に音量と迫力を増しながら曲が進み、テンポ感もだんだん良くなります。途中、一瞬、前曲最後に聴かせた柔らかな響きを聴かせてアッと言わせ、テンポを戻して落ち着いた展開。1楽章から余裕のあるアイデアで落ち着いて攻めてきます。
2楽章のアレグレットは短調の単調なリズムの入りにトム・ベギンが硬直気味にメロディーを乗せてきますが、微妙な明るさの変化のみが聴かせどころとして、リズムを刻んでいきます。このあたりは曲の構造を見通した表現でしょう。やはり間を十分にとって曲の面白さを存分に表現します。
フィナーレでも緩急自在の表現は健在。静けさをただよわせながら冷静な表現意欲がほとばしる不思議な感覚。音楽は勢いでも美しさだけでもなく気配の再現だとでも言いたげな演奏。最後をゆったりと締めるベギンのアプローチに脳が覚醒します。

間にクレメンティのソナタを挟んで、最後の曲。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最初の和音からいきなり長い間をとって、コンセプチュアルな入り。ハイドンに仕組まれた音楽上の機知をセンス良くデフォルメして、象徴的な印象を与え、曲に新鮮な表情をつけていくのが実に楽しそう。愉快犯的アプローチでしょう。とは言っても不自然さは皆無で、音楽の流れを保っているので聞く方にも違和感はありません。ピアノトリオの迫力ばかりではなく、じっくりと曲を味わい尽くすのに向いたアブローチ。いままで聴いてきたピアノトリオの演奏とは全く異なる静かなる感興に酔わされる演奏。いまさらながらトム・ベギンの表現力に舌を巻く次第。
2楽章はハイドンが晩年にたどり着いた枯淡の境地を代表するような枯れた美しさをを感じさせる名曲ですが、その境地を実に深い音楽として聴かせる素晴らしい演奏。穏やかながら、深い陰りを感じさせる曲。
短い2楽章が終わると、さっと気配を切り替えて明るい音階をゆったりと行き来するフィナーレに入り、2楽章との表情の対比を見事なコントラストで焼き付けます。曲の構造を印象付けるためか、かなり溜めを効かせた表現も痛快。次々と変化するフレーズを見事に描きわけ、最後は冒頭のメロディーの変奏を見事にこなしてフィニッシュ。いやいや名シェフによっていつもと違う個性的なハイドンに仕立てあげられました。

いやいや、見事な演奏でした。ガラテア三重奏団、ヴァイオリンもチェロも素晴らしい演奏ですが、なんと言ってもこのトリオの個性はトム・ベギンのクレメンティ・ピアノによるところが大きいでしょう。ハイドンのピアノトリオでは流麗、ダイナミックな演奏は多いですが、このアルバムの演奏の饒舌な語り口と、メロディーや仕組まれた機知を象徴的に響かせ面白く聴かせるコンセプチュアルなアプローチは類例がありませんでした。ピアノ・トリオの演奏を楽しむ次元が広がったような新鮮さ。このアルバム、室内楽好きな諸兄に是非聴いていただきたい名盤と言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]といたします。このような演奏を聴くと音楽の楽しみは無限に広がっていることがわかりますね。

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tag : ピアノ三重奏曲 古楽器

ギドン・クレーメル/ユーリ・スミルノフのヴァイオリンソナタ(ハイドン)

またまたLP。オークションで素晴らしいアルバムを手に入れました。

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ギドン・クレーメル(Gidon Kremer)のヴァイオリン、ユーリ・スミルノフ(Youri Smirnov)のピアノで、コレルリのヴァイオリンソナタOp.5のNo.1、ハイドンのヴァイオリンソナタ(ピアノトリオHob.XV:31の編曲)、ショーソンの詩曲Op.25、ヴィエニヤフスキの創作主題による華麗なる変奏曲Op.15の4曲を収めたLP。収録情報は記されていませんが、ネットで調べると1975年にリリースされたもよう。レーベルは旧ソ連のMelodiya。

ジャケットに写るクレーメルが若い! ジャケットの解説には短いクレーメルの紹介文がロシア語に加えて英語でも記されていますが、クレーメルは1969年、イタリアジェノヴァで開催されたパガニーニ国際コンクールで優勝、翌1970年、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールでも優勝しています。レーベル面をよく見てみると、チャイコフスキー国際コンクールの優勝者ギドン・クレーメルと記されており、このLPがそれを受けて録音されたものであろうことがわかります。今でこそ世界最高のヴァイオリニストの1人であることに誰も疑いを持つ人はいないでしょうが、クレーメルが世にその才能を知られるようになった時期の録音であり、しかもそのアルバムにハイドンの曲が含まれているということに運命を感じます。

ちなみにクレーメルのハイドンの録音はほとんどなく、これまで唯一と言ってもいいものが以前取り上げたものです。

2010/07/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : クレーメルの「十字架上のキリストの七つの言葉」

こちらもクレーメルの孤高の才気に触れられる名演奏でした。

さて、今日取り上げるこのアルバム、レコードに針を落とした途端、クレーメルの狂気を帯びたようなヴァイオリンの音色に圧倒されます。1曲目はコレルリのヴァイオリンソナタですが、いきなり圧倒的な存在感。そして伴奏のユーリ・スミルノフもクレーメルの霊気に触発されて神がかったような伴奏。弱音に恐ろしいほどの集中力が宿り、奇跡的なセッション。LPも極上のコンディションゆえ、斬りこむようなヴァイオリンの音色に一瞬にして心を奪われました。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
肝心のハイドンです。1曲目のコレルリのあまりの衝撃に耳を奪われていたからか、ハイドンの自然な入りが、やけに大人しく聴こえますが、耳を澄ますとクレーメル独特のえぐるような殺気は健在。徐々にヴァイオリンの響きも強まります。素晴らしいのがユーリ・スミルノフのピアノ。控えめな音量ながら、クレーメルと完全に呼吸が合い、サラサラと伴奏を進めます。クレーメルのヴァイオリンの音色はものすごい浸透力。こちらの耳でははく脳髄を直撃するような音色。デュナーミクの変化の幅の広さ、表情の多彩さ、抑制の効いたボウイング、どれをとっても常人離れしています。演奏からアーティスティックなオーラが出まくっています。
2楽章構成の2楽章はゆったりとしたリズムでスミルノフが入りますが、クレーメルが入ると鋭い音色で緊張感が一気に高まります。特に低い音の迫力がものすごいですね。眼前でヴァイオリンを弾いているようなリアルな録音。最後の弓裁きは神業的。もう言うことありません。

このアルバム、人類の至宝です。デビュー当初のクレーメルの才気あふれる演奏を真空パックで現代にそのまま持ってきたような素晴らしい録音。クレーメルもスミルノフも絶品。この演奏はハイドンの曲の名演奏ではなく、クレーメルという天才ヴァイオリニストのデビュー当時のはちきれんばかりのエネルギーを収めた演奏として貴重だということです。カルロス・クライバーが驚愕を振ったライヴにも同じような印象を抱きましたが、稀有な音楽的才能を持った人だけがなしうる奇跡的な演奏の貴重な記録ということですね。ebayなどでこの演奏を含むドイツ盤などは見かけましたが、このアルバム自体は入手は結構難しいのではないかと思います。出会いに感謝ですね。評価は[+++++]というか、もう一段上げたいくらいです。音源が残っていたら是非CD化すべきアルバムですね。

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tag : ピアノ三重奏曲 ヴァイオリンソナタ LP

アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいましたが、年度末の仕事と花粉にまみれてなかなか記事の執筆に時間が割けずにおりました。このところアルバムはいろいろ仕入れていますが、グッとくるものに巡りあえずにいたということもあります。あまり間を空けてもなんなので、手持ちのアルバムから、記事にしていない名盤を取り上げる次第。

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アンドラーシュ・シフ(András Schiff)のピアノ、塩川 悠子(Yuuko Shiokawa)のヴァイオリン、ボリス・ペルガメンシコフ(Boris Pergamenschikow)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:27、XV:31、XV:14、XV:29)を収めたアルバム。収録は1994年9月12日から15日にかけて、ウィーンのムジークフェラインのブラームス・ザールでのセッション録音。レーベルはDECCA。

このアルバムはかなり以前から手元にあり、ピアノ三重奏の名演奏ということでわりと気に入っているもの。同時期に収録したもう一枚のアルバムと合わせて8曲の録音があることになります。今日は両盤を聴き比べてオススメの方であるこちらを取り上げた次第。

アンドラーシュ・シフは有名なピアニストなのでご存知の方も多いでしょう。一応略歴をさらっておくと、1953年ブダペスト生まれのハンガリーのピアニスト。フランツ・リスト音楽アカデミーなどで学び、ロンドンではジョージ・マルコムに学びました。その後1974年にチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るとデジェー・ラーンキ、ゾルターン・コチシュらとともにハンガリーの若手三羽烏とよばれ、国際的に活躍。手元にはDECCAのバッハのピアノ音楽集、ヴェーグ/カメラータ・アカデミカとのモーツァルトのピアノ協奏曲、ハイドンのピアノソナタ集(DENON、TELDEC)などがあり、モダンなスタイルのピアノながら深い情感を帯びたピアノが印象に残っています。とりわけ印象的だったのが、L'OISEAU-LYREに入れたモーツァルトの生家の彼のフォルテピアノ(アントン・ワルター)で演奏したソナタ集。てっきり現代ピアノ専門の人かと思いきや、実にデリケートなタッチでフォルテピアノから陰影深い変化に富んだ響きを引き出し、感心したことを覚えています。

ハイドンでは上に触れたとおり、ソナタを1978年にDENONに3曲、1997年にTELDECに10曲録音していますが、これまで当ブログでも取り上げておりませんので、そのうち取り上げねばなりませんね。

塩川 悠子さんは1946年、東京生まれのヴァイオリニストでアンドラーシュ・シフの奥さん。5歳でヴァイオリンを始め、その後家族でペルーに移住、ペルーでヴァイオリンの勉強を続け、1963年からミュンヘン、1968年からザルツブルクで学び、ザルツブルクではシャーンドル・ヴェーグに師事しています。その後日米欧で活躍しています。

チェロのボリス・ベルガメンシコフは1948年レニングラード生まれのロシアのチェリスト。名門レニングラード音楽院で学び、1970年にプラハの春国際音楽コンクールで優勝、1974年にモスクワ・チャイコフスキー国際コンクールでも優勝。その後ギドン・クレーメルが主宰するロッケンハウス音楽祭に定期的に出演するなど実力派のチェリストとして知られる存在でした。現代音楽を得意としており、来日経験もあるようですが2004年に55歳で急逝しています。

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
響きの良いホールの少し奥にトリオが定位して、冒頭から躍動感みなぎる展開。ピアノは流石にシフだけあって、キレ味抜群ながら落ち着きもともなう見事なもの。塩川悠子のヴァイオリンはピアノの引き立て役に徹しているよう。完全にピアノが主導権を握る演奏。速いパッセージのみならず、じっくりと展開する音楽の陰影の濃さは一段踏み込んだもの。徐々にピアノが前のめりに畳み掛け、1楽章のクライマックスへの演出も完璧。先日聴いたタカーチ四重奏団同様、全盛期のDECCAの底力を思い知らされる素晴らしい完成度の演奏。
続くアンダンテはピアノとヴァイオリンのゆったりした会話にチェロが図太い音色で割り込んでくる面白さが際立ってます。シフの左手のアタックも迫力十分。骨格のはっきりとした図太い音楽が流れます。まるでロマン派の音楽のような時間です。
フィナーレは再びキレの良いシフのピアノが戻り、堂々とした風情で展開します。ピアノという楽器の迫力をシフが自在に操り、まさに緩急自在。転がるような高音のトレモロを響かせながら音楽が激しく展開し、ヴァイオリンとチェロが機敏に寄り添う演奏。ここまでピアノが軸になりながらも音楽がきちんとまとまっているところが流石です。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
穏やかな入りの曲ですが、先日トリオ・ヴィヴェンテの旧盤の演奏で圧倒された曲。あらためてヴィヴェンテ盤を取り出して聴くと、あれだけ存在感のあったユッタ・エルンストのピアノがかなりおとなしく聴こえるのが不思議なところ。逆に静かな存在感が際立ちます。それだけこのシフの演奏はピアノ主体に録音されているということでしょう。シフの演奏で聴くと、やはりピアノが圧倒的な存在。そして演奏もかなりロマンティックで雄弁。ハイドンの時代の音楽の演奏としてはヴィヴェンテの方が説得力がありますでしょうか。何気にチェロのペルガメンシコフが迫力ある響きに貢献しているのもわかります。
2楽章は「ヤコブの夢」とのサブタイトルがついた曲。中音部が豊穣に響くヴァイオリンとしなやかに迫力を加えるチェロを伴って、シフのピアノが見事に響き渡ります。流石にDECCAの録音は見事。アンサンブルが実に美しく響きあいながらもそれぞれの楽器の響きも濁りません。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
こちらはヴィヴェンテの新盤に入っていた曲。シフはオーソドックスながら絢爛豪華にまとめてきます。余裕たっぷりのグランドマナーを見せつける感じ。テクニックも演奏の風格も見事という他ありません。加えて見事な録音と三拍子揃ってます。途中かなり長めで印象的な休符をはさんでハッとさせるなど、ハイドンらしいアイデアを盛り込むことも忘れません。冒頭のメロディーを何度か象徴的に響かせながら曲をすすめていきます。
チェロの音色が耳に印象的に響くアダージョ。ヴァイオリンも渋目の音色でゆったりと美しいメロディーを置いていきます。中間部でピチカートとピアノの戯れる部分のなんと美しいことでしょう。いつもながらハイドンのアイデアに驚くと同時に、この演奏、ハイドンのインスピレーションを完全に自らの音楽で置き換えている感じ。宝石を散らかしたような美しいピアノの音色に引き込まれます。静寂から浮かび上がるヴァイオリンのメロディーのゾクゾクするような気配。いまさらながらこのコンビの表現の深さに驚きます。
余韻にうっとりしているうちにフィナーレに入ります。軽いタッチの入りから展開して、メロディーを引き継ぎ、どんどん曲が発展していきます。何度かの意外性溢れる転調を経て曲を結びます。圧倒的な完成度に王者の風格が漂います。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最後の曲。もはや完全にシフペースにはまっています。冒頭から揺るぎない、自信に満ちた響きに圧倒されます。ほんの小さなフレーズの一つ一つに生気が宿り、脈々と音を変化させながら置いていくシフのピアノに聴き入らざるをえません。それぞれの曲を完全に掌握して、表現に隙がなく、どの曲も豪華、優雅に仕上げてきます。途中からリズムの波を強調して、身を乗り出すような躍動感をつくります。やはり圧倒的な余裕の存在が音楽を豊かにしていますね。
美しさと独特な曲想が印象的な2楽章も風格に満ち、ハイドンの仕込んだアイデアの一つ一つを丁寧にさらいながらゆったりと音楽を響かせます。そしてあっけらかんと明るく躍動するフィナーレへの展開も見事。それぞれの曲ごとに聴きどころをキリッと作ってくるあたりも見事でした。

久々に聴いたこのアルバム、オーソドックスなスタンスですが、あまりに豊かな音楽に圧倒されました。正攻法の演奏ですが、ベースにはシフのニュアンス豊かでダイナミック、流麗なピアノの圧倒的な存在があります。ヴァイオリンもチェロも見事なんですが、完全にシフにのまれている感じ。最近ピアノトリオは様々な名演奏を取り上げていますが、このアルバムもそれに負けずというより、新たな名演奏の数々に対し、王者として見守るくらいの立場にあるアルバムでしょう。まだ入手できるようですので、未聴の方は是非聴いてみてください。評価は[+++++]です。

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ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集旧盤(ハイドン)

先日取り上げた同じ奏者のアルバムのあまりの素晴らしさにこちらのアルバムを即時注文。やはりこちらもレビューしなくてはならないだろうということで選んだアルバム。

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ヴィヴェンテ三重奏団(Trio Vivente)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲5曲(Hob.XV:26、XV:18、XV:19、XV:20、XV:31)を収めたアルバム。収録は2001年、フランクフルトの近郊にあるフェステブルク教会(Festeburgkirche)でのセッション録音。レーベルはTACET傘下のEIGENART。

先日の記事はこちら。未読の方は是非お読みください。

2016/01/21 : ハイドン–室内楽曲 : ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

私自身も衝撃を受けたアルバムですが、その後当ブログの読者の方がその衝撃を追体験されたことはコメントを見ていただければわかる通りです。なによりそのコメントのディープさにこのアルバムの凄さがあらわれております。

今日取り上げるアルバムは、ヴィヴェンテ三重奏団のデビュー盤にあたり、前アルバムから5年遡る2001年の録音でメンバーは変わらず。

ヴァイオリン:アンネ・カタリーナ・シュライバー(Anne Katharina Schreiber)
チェロ:クリスティン・フォン・デア・ゴルツ(Kristin von der Goltz)
ピアノ:ユッタ・エルンスト(Jutta Ernst)

ジャケットの表にメンバーの姿はありませんが、裏面には3人がにこやかに写った写真が載せられています。ライナーノーツにも別の写真が2枚掲載されており、こちらでもあの睨みを利かせていたユッタ・エルンストも笑顔で写っています。デビュー盤では笑顔を見せていたものの、その後のアルバムでは演奏の質を世に問う厳しい姿勢に変わったということでしょうか。

肝心の演奏は、ヴィヴェンテらしいキレのいい演奏で、展開部での驚くような踏み込みもありながら、しっとりと滑らか音楽を聴かせるところも増えて、前のアルバムの火を吹くような鮮やかさが聴きどころだったのに対して、録音時期の早いこちらの方が逆に円熟を感じるほど。そう、こちらもいいんですね。

Hob.XV:26 Piano Trio (Nr.40/op.73-3) [f sharp] (1795)
聴き慣れた成熟期の名曲。これがデビュー盤とは思えない、躍動感に軽さと立体感としなやかさが高度にバランスした入り。非常に研ぎ澄まされた音楽が流れますが、気を緩めたところでピアノのユッタ・エルンストの楔を打つようなアクセントに驚きます。来ました来ました! 穏やかなだけでは済まされるわけはないとは思っていましたが、いきなりヴィヴェンテペースに引き込まれます。もちろんヴァイオリンもチェロも牙を剥くところはしっかり剥いてきます。ただし、穏やかな部分の美しさはかなりのもの。ハイドンの美しい音楽が磨き抜かれが響きで流れます。
そして交響曲102番と同じメロディーのアダージョは夢見るような美しさ。やはり時折はっとするようなアクセントをつけて美しいメロディーを引き締めます。険しささえ感じさせる孤高の美しさ。録音会場は近代的な造りの教会ですが、響きが美しく演奏が映えます。まるでラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueで録っているよう。
フィナーレは落ち着いて、ピアノのタッチのキレとヴァイオリン、チェロのアンサンブルの美しさを聴けといわれているよう。あえて牙は剥かずにじっくりと音楽と対峙させるあたり、恐ろしいばかりのセンスです。最後をキリリと締めて終わります。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
いやいや美しい。磨き抜かれたさりげない音楽。大排気量のロールスロイスがゆったり街中を走る時の余裕あるしなやかな走りのよう。持てる力がありながら、ハイドンの美しい曲を軽々と、しかも素晴らしい完成度で演奏していきます。それでも鋭いキレは隠しきれず、演奏は柳刃で切りたての刺身のような凜とした新鮮さを保っています。徐々にユッタ・エルンストがアンサンブルを煽るようにアクセントをつけ、それにヴァイオリンとチェロが応じます。これぞ室内楽アンサンブルの醍醐味。
そしてアンダンテですが、これほど美しい演奏がこれまであったでしょうか。短調の憂いに満ちたメロディーをユッタ・エルンストが綺羅星のように磨きぬかれた珠玉の音色で演奏、そしてヴァイオリンのアンネ・カタリーナ・シュライバーのしっとりと鋭利な音色でメロディーが引き継がれます。完全に抑制された表現でこそ浮かび上がる美しさ。とろけちゃいます。
そして絶妙に軽いのに躍動するフィナーレ。ヴァイオリンとピアノが完全にシンクロ。もちろん途中からチェロも鋭いアクセントで参戦。実に余裕たっぷりに疾走するアレグロをキレキレのアンサンブルで表現。この超絶的な軽さと疾走感。奇跡の表現と言っていいでしょう。2曲目にしてメルトダウン。素晴らしい。

Hob.XV:19 Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
穏やかな曲想の曲ですが、ディティールに輝きが満ちてアンサンブルの各パートが絶妙に絡みあいます。艶やかな音楽に身を任せる快感。ゆったりとした音楽に癒されます。音楽が進むにつれて徐々にコントラストがクッキリしてきて音楽の起伏が鮮明になってきます。力の抜けたユッタ・エルンストのピアノの音色の美しさに惚れ惚れ。そして終盤のアンネ・カタリーナ・シュライバーのヴァイオリンの音階のなんという軽さ。牙を剥く場面はないんですが、牙を剥いた以上のインパクトがあります。
2楽章はしなやかに流れる川のような滑らかなピアノの音階で聴かせます。迫力ばかりが聴かせどころではないのよと言いたげ。
フィナーレは適度なアクセントとしなやかさを保った落ち着いた演奏。デビュー盤なのに巨匠の演奏のように落ち着き払った音楽。

Hob.XV:20 Piano Trio (Nr.34/op.70-3) [B flat] (before 1794)
ハイドンの書いた曲の素晴らしさに聴衆の耳を集中させようとしているかのように、オーソドックスに攻めていきますが、これまでの曲同様、リズムのキレと、軽々としたタッチ、要所のキリリとたアクセントは隠せるはずもなく、実にバランスのいい演奏。奏者の創意と作曲者の創意のバランスがとてもいいところで保たれている印象。前のアルバムではキレ味で聴かせていましたが、この穏やかさも実にいいものです。まさに極上の音楽。
そして、つづくアンダンテ・カンタービレはXV:18同様、抑制されたタッチで描かれる究極の美しさ。絶品です。フィナーレも落ち着きを保ってなんとも言えない完成度。アンネ・カタリーナ・シュライバーの美音も華を添えます。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
最後の曲。アルバムの題名にもなった「ヤコブの夢」という副題がついた2楽章構成の曲。曲想からか、終始落ち着いた表現。牙はまったく剥かず、逆にアクセントは抑えてしなやかさを狙った演奏。枯淡の味わいすら感じさせます。ユッタ・エルンストも美しい音色を響かせることに集中している様子。アンネ・カタリーナ・シュライバーも艶やかにメロディーを奏でます。穏やかな音楽が実に心地よい楽章。
続くアレグロはピアノの適度なリズムの躍動に乗ってヴァイオリンとチェロが自在に駆け回ります。ここにきて目立つアクセントはまったくなく、音楽の起伏に沿った適度なメリハリを利かせて音楽を進めます。最後にキリリと引き締めて終わるところでようやくヴィヴェンテらしい響きをちらりと見せます。

通しで聴いてみると、前半には挨拶代わりか「あの」キレ味を聴かせますが、演奏が進むにつれて徐々に穏やかになり、ハイドンの音楽に素直な演奏になっていきます。キレこそヴィヴェンテの本領ですが、演奏の完成度というか音楽の完成度はこの穏やかなヴィヴェンテの方にあるように聴こえます。私はこちらのヴィヴェンテの方も気に入りました。奏者のテクニックは前アルバムで証明済みですが、このデビュー盤では表現意欲と音楽のバランスが絶妙で完成度はむしろこちらのアルバムの方が上かもしれません。録音の前後関係はこちらがデビュー盤で先ですが、演奏はこちらの方が円熟を感じるほど。デビュー盤でここまでの音楽を聴かせたということの驚きも大きいですね。もちろんこちらも全曲[+++++]。前盤でのけぞった方、こちらのアルバムも必聴です(笑) 手に入るうちにどうぞ!

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アンサンブル・トラゾムによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

本日は最近当サイトで盛り上がりをみせるピアノ三重奏の隠れた名演盤を取り上げます。

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アンサンブル・トラゾム(Ensemble Trazom)の演奏によるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:20、XV:19、XV:18、XV:9)を収めたアルバム。収録は1998年4月8日から10日、ドイツ北部のハノーファー近郊の街オーベルンキルヒェン(Obernkirchen)にある教会堂(Stift Obernkirchen)でのセッション録音。レーベルはARTE NOVA CLASSICS。

このアルバム、ずいぶん前から手元にあるのですが、たまたま最近同じ奏者による別のアルバムを手に入れ、聴いてレビューのために調べ始めたところ、手元に古い録音があることがわかり、聴き比べてみるとこちらの方がいいではありませんか! ということで手元にあってレビューしていなかったアルバムを取り上げる次第。

奏者のアンサンブル・トラゾムは18世紀から19世紀の音楽を古楽器で演奏するトリオ。トラゾムとはなんでもモーツァルトのつづりを逆にしたものとのことで、そのアウトローなセンスはオッケーです。脱線しますが、昔大学に出入りしていた文具業者が「ねずらむ」という会社でしたが、それは丸善のローマ字を逆から読んだもの。丸善出身の人が立ち上げた会社と聞いていました(笑) さて、奏者のウェブサイトがみつからないので現在は活動していないのでしょうか。この録音当時のメンバーは下記の通り。

フォルテピアノ:ウルテ・ルフト(Urte Lucht)
ヴァイオリン:エリザベス・ブンディース(Elisabeth Bundies)
チェロ:シュテファン・フックス(Stefan Fuchs)

フォルテピアノのウルテ・ルフトはグスタフ・レオンハルト、インマゼールなどに師事した人。ヴァイオリンのエリザベス・ブンディースはベルリンフィルの元コンサートマスターのライナー・クスマウル門下で、チューリッヒ・トーンハレのヴァイオリン奏者。チェロのシュテファン・フックスはミュンヘン、チューリッヒ、バーゼルなどで学び、クリストフ・コワン、アンナー・ビルスマ、ポール・トルトゥリエ、モーリス・ジェンドロンなど錚々たるチェリストに師事し、カールスルーエ音楽アカデミーで教職にある人とのこと。

経歴も腕もそれなりの人が集まっての演奏ですが、それだけではいい演奏ができるという保証はありません。3人の息と音楽のスタンスがピタリとあってこそのアンサンブルなんですね。

Hob.XV:20 Piano Trio (Nr.34/op.70-3) [B flat] (before 1794)
冒頭の一瞬の響から素晴らしい集中力が伝わります。尋常ならざる集中力。ハイドンのピアノトリオの名演奏に共通する、息を呑むようなキレ味に最初から圧倒されます。ARTE NOVAといえばNAXOSと並ぶ廉価盤の雄。アルバムの造りも奏者の知名度も目立つわけではありませんが、演奏は一流、キレてます。CDプレイヤーにかけてすぐにキレキレの音楽が噴出して仰け反ります。実にオーソドックスで、派手な演出はありませんが、キレ味は抜群でそれだけで満足というよりは、その純度の高さこそが素晴らしい演奏の証と言わんがばかり。録音も自然で鮮明。言うことなしの完璧な演奏。1トラック目から凄まじいキレ味に圧倒されます。
つづくアンダンテ・カンタービレ、いろいろな演奏を聴いていますが、ゆったりとしていながらも、緊張感を保ち、くっきりとした隈取りをつけた極めてバランスの良い演奏。オーソドックスな快感に身を委ねます。
フィナーレも一貫した明晰さが心地良いですね。教科書的というと型にはまったような印象もありますが、洋食屋さんでいただいたハンバーグが今まで食べたどのハンバーグよりも味わい深かったというような感じ。斬新でも、個性的でもないのに、実に深い音楽。これぞハイドンの名演奏と言っていいでしょう。1曲目から素晴らしい演奏に仰け反ります。

Hob.XV:19 Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
短調の入り。冒頭の一音から安定感抜群。ピアノやフォルテピアノ主導の演奏が多いなか、このアンサンブル・トラゾムはヴァイオリンとチェロの存在感が際立ち、フォルテピアノとまったく同格で主導権を譲りません。というか、この一体感の素晴らしさは何なんでしょう。完璧なアンサンブルで、奏者の創意も完全に合っています。まったく隙のない緊密なアンサンブルにうっとり。
2楽章は鮮やかなタッチの短いプレスト。あっという間に巻き取られて、続く3楽章のアダージョ。楽章間の切り替えも鮮やかで、揺るぎない説得力を帯びた演奏。アダージョはルフトのフォルテピアノの妙技を堪能できます。一つ一つのフレーズを丁寧に描くことで、曲の一貫した美しさを十分に表現しています。このあたりはインマゼールの影響でしょうか。そして本来のフィナーレであるプレストは相変わらずの安定感。まさに教科書通りで、演奏のクォリティは最高。言うことなし。

Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
曲ごとの描き分けよりは一貫した演奏スタイルで聴かせる演奏。冒頭の入魂の一撃のキレの良さは変わらず凄まじいもの。安定感も創意のレベルも揃って、この素晴らしいキレ味の演奏に耳が慣れてきていますが、よく聴くとやはり驚くべきキレ味。途中、ぐっとテンポを落として変化をつけ、神がかったような集中力を保って、ダイナミクスの幅いっぱいの表現に圧倒されます。
つづくアンダンテでようやく穏やかさを取り戻し、聴く方も落ち着きます(笑) 中間部に満ちる暖かい響きにうっとり。
フィナーレは快活なアンサンブルの魅力炸裂。いやいや素晴らしい演奏にグイグイ引き込まれます。フォルテピアノのキレもいいんですが、ヴァイオリンとチェロもそれ以上に素晴らしいキレ味。非常にレベルが高い演奏です。

Hob.XV:9 Piano Trio (Nr.22/op.42-1) [A] (1785)
最後に2楽章構成のの曲をもってきました。ピアノ三重奏曲としては比較的早期の曲ですが、ハイドンの筆致は成熟を極め、音楽は素晴らしい完成度。1楽章はアダージョでゆったりとしながらも、大きくうねる起伏の表現が見事。ハイドンの意図をすべて踏まえて自在に表現している感じ。ハーモニーの美しさもあり、メロディーの演出の巧さもあり、そして静寂も感じさせる素晴らしい楽章。チェロのくすんだ音色が格別の美しさ。
続くヴィヴァーチェは穏やかに変化するリズムをじっくり描きながら、フォルテピアノの音階が自在に上下。楽章ごとの聴かせどころを我々の想像力を超えたところから面白いように変えてくるハイドンの創意を実にうまく表現しています。フォルテピアノ以上にヴァイオリンとチェロも創意の限りを尽くしてアンサンブルを盛り上げます。時折キリリと鋭い音色でアクセントをつけるヴァイオリンに、ピアノトリオのチェロとしては異例に表現の幅の広いチェロが印象的。あっと言わせるような転調や、驚くようなメロディーの変化に聴く方の脳が冴え渡ります。何という想像力。

手元に眠っていたアルバムがこれほど素晴らしいことに今更気づいた次第。このところハイドンのピアノ三重奏曲のいいアルバムをいろいろ取り上げていますが、このアルバムもそれらと同格の素晴らしいもの。ARTE NOVAレーベルを代表する名盤と言っていいでしょう。もともとこのアルバムは非常に手に入れやすいものだったと思いますが、現在は廃盤のようで取り扱いはamazonのマーケットプレイスのみ。ハイドンの室内楽を好む方は、ぜひ入手すべき名盤です。先にふれたように同じ奏者によるもう一枚の方は、いい演奏ながらここまでのキレは聴けません。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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ガメリート・コンソートのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

最近すっかりピアノトリオの魅力にとり憑かれています。ということでピアノトリオの名盤、ただし激マイナー盤を取り上げます。

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ガメリート・コンソート(Gamerith Consort)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:12)、弦楽四重奏曲「皇帝」の2楽章をハンマーフリューゲルで弾いたもの、スコットランド歌曲集の2曲を編曲したもの、ロンドン・トリオの2番(Hob.IV:2)、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:24)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1982年。レーベルは今は亡きKOCH傘下のedito pro musica。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたものですが、かなり困った造りなんです。このアルバムがリリースされた1982年といえばLP全盛期にCDがはじめてリリースされた年。CD最初期のリリースですが、ジャケットにライナーノーツは完全にLP用のものを無理やりCDの大きさに縮小したもの。つまり字がすんご〜い小さい。今までここまで小さい字のライナーノーツには出会ったことがありません。すなわち米粒に書いた文字を読むがごとき苦労をともなうもので、初期とはいえ老眼症候群の私には非常に読みづらい(笑) それでも、ルーペを駆使して極小フォントの英文を読んでみると、1982年とはハイドンの生誕150年のアニヴァーサリーということで録音されたもののようで、ハイドンがエステルハージ家で過ごした最後の10年間に作曲された作品を集めたものだとわかりました。

奏者のガメリート・コンソートのピアノトリオのアルバムは実は手元にもう一枚あって、そちらもなかなかいい演奏なんですが、今日取り上げるアルバムは、さらにいい演奏なのでレビューに取り上げた次第。

ガメリート・コンソートは1967年に設立された団体で、主に17世紀の作品を古楽器で演奏するアンサンブルとのこと。小さい字をさらに読んで、所有盤リストに登録すべく奏者などを調べていると、ハンマーフリューゲルを弾いているのは、ニコラス・マギーガン。マギーガンといえば、当サイトで主催するH.R.A. Award 2015の交響曲部門を見事射止めたニコラス・マギーガンです。さらにびっくりしたのが、このマギーガン、4曲目に収録されているロンドントリオでは、フラウト・トラヴェルソまで吹いています。あわてて元から手元にある方のガメリート・コンソートのアルバムを取り出して調べてみると、録音は1988年でハンマーフリューゲルはフランツ・ツェビンガーという別人でした。ということで、1982年当時のガメリート・コンソートのメンバーがマギーガンだったということですね。

2015/12/31 : H. R. A. Award : H. R. A. Award 2015
2015/05/09 : ハイドン–交響曲 : 絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)
2011/09/03 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

マギーガンの略歴はロンドンの記事を御覧ください。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
まずはピアノトリオの傑作を冒頭にもってきました。この曲と最後の曲のメンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ゲルトラウド・ガメリート(Gertraud Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)
ハンマーフリューゲル:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)

古楽器によるテンポ良い曲の入り。古楽器の演奏から想像される典雅なものではなく、かなりダイナミックなもの。しかも、この前取り上げたヴィヴェンテ三重奏団ばりの推進力とキレを彷彿させるもの。もちろんその原動力はニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲル。1楽章は速めのテンポに乗って鮮やかに冴え渡るタッチで一気に描き上げる快演。アクセントのキレかたも尋常ではありません。全員のキレが冴えすぎて怖いくらい。
素晴らしいのがつづくアンダンテの沈み方。キレ良い1楽章から見事に切り替え、じっくりと音楽を造っていきます。まさに緩急自在の孤高の美しい音楽。フレーズごとに巧みにテンポを揺らすマギーガンのハンマーフリューゲルに合わせて、ゲルトラウド・ガメリートの伸びやかな古楽器のヴァイオリンが寄り添います。ヴァイオリンの音色の雅な美しさも聴きどころ。チェロもリズムがキレていて鮮度抜群。途中踏み込んだ抑揚で音楽を盛り上げます。
3楽章で再び冴えたリズムを取り戻し、素晴らしい吹き上がりで聴くものを圧倒、徐々にテンションを上げながら頂点にむかっていることを敢えて意識させる高度な演出。終盤の迫力は圧倒的。古楽器でこれほどのダイナミクスを聴かせるとは。自在なタッチのマギーガンのハンマーフリューゲルが出色の出来。なんというキレ。1曲目から圧倒されます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
2曲目は有名な皇帝の2楽章をマギーガンのハンマーフリューゲル独奏で。ピアノトリオの嵐のような演奏から一転、しっとりと落ち着いた演奏。テンポもテンションも落として、じっくりと主題を描いたあとは、変奏で曲の多層構造を克明に描いていきます。流石にマギーガン、フレーズ毎の表情の演出が実に巧み。まさに自在な演奏。変奏から溢れる詩情に蒸せ返るよう。訥々とした演奏から湧き上がる郷愁の念。ハンマーフリューゲルの響きの美しさに聴き入ります。

Hob.XXXIa:176 - JHW XXXII/3 No.263 "The blue bell of Scotland" 「スコットランドの青い鐘」 (Anne Grant)
続いてゲルトラウド・ガメリートのヴァイオリンとマギーガンのハンマーフリューゲルによる、スコットランド歌曲の「スコットランドの青い瞳」(Hob.XXXIa:176)と「好きなあの娘はまだ小娘」(XXXIa:194) の2曲をもとにハイドンが編曲した変奏曲。この曲がスコットランド歌曲の美しいメロディーを生かした素晴らしい曲。素朴なメロディーをヴァイオリンの伴奏に乗ってハンマーフリューゲルゲルが自在に奏でます。5分少々の曲ですが、一気にスコットランドへの郷愁溢れる雰囲気に。演奏している方も楽しそう。

Hob.IV:2 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
この曲ではマギーガンがハンマーフリューゲルからフラウトトラヴェルソに持ち替えます。

フラウトトラヴェルソ:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)
フラウトトラヴェルソ:ウォルフガング・ガメリート(Wolfgang Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)

歌曲の「貴婦人の姿見」の美しいメロディーを使った1楽章構成の曲。この曲はクイケン三重奏団による素晴らしい演奏がありますが、もちろんテクニックと深みはクイケンですが、逆に素朴な曲の面白さはこちらに分があります。ゆったりとした雰囲気のなか2本のフラウトトラヴェルソによる実に素朴で美しいメロディーが流れ、曲の美しさに引き込まれます。マギーガンのフラウトトラヴェルソ、悪くないどころか、かなりいい線いってます。クイケンのアーティスティックさに対し、こちらは癒しで聴かせる音楽。心に沁みます。

Hob.XV:24 Piano Trio (Nr.38/op.73-1) [D] (1795)
最後に再びピアノトリオ。1曲目同様、全編にみなぎるエネルギーとキレ。アルバムの最初と最後にこの素晴らしいトリオの演奏をもってくるあたり、まるで一夜のコンサートを聴くような構成。アルバムの完成度という意味でも素晴らしい構成。演奏も絶品。1楽章からのキレに加えてうねるようなエネルギーのコントロール、堂々とした風格、そして軽々と音階を上下するマギーガンの鮮やかなタッチと言うことなし。古楽器によるピアノトリオの頂点と言っていい素晴らしさ。

ガメリート・コンソートによるハイドン晩年のピアノ三重奏曲などの室内楽を収めたアルバム。若き日のニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲルとフラウトトラヴェルソを聴ける貴重なアルバムですが、正攻法のピアノトリオを最初と最後に置き、間に美しいメロディーの曲を散りばめるといったアルバムの構成も、もちろん演奏のクオリティも絶品のアルバム。CD草創期のプロダクツゆえ、ジャケットの造りはかなり無理があるものですが、演奏の素晴らしさに目をつむりましょう。まだ手に入りそうですので、室内楽、特にピアノトリオが好きな方(笑)は是非ご入手ください! 評価は全曲[+++++]とします。

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tag : ピアノ三重奏曲 古楽器 ロンドン・トリオ 皇帝 スコットランド歌曲集

ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

予告どおり、湖国JHさんから送っていただいたアルバム。しかもピアノトリオということで、ぐっと期待が高まります。

TrioVivente.jpg
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ヴィヴェンテ三重奏団(Trio Vivente)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲5曲(Hob.XV:6、XV:14、XV:13、XV:5、XV:12)を収めたアルバム。収録は2006年、ドイツ西部、フランス国境に近いホンブルク(Homburg)のSaalbauでのセッション録音。レーベルはTACET傘下のEIGENART。

久々にジャケットからただならぬ妖気が立ち昇ってます。女性3人のトリオですが、中央の女性がアルバムを手にする人をにらみつけるような迫力が漂い、なにやら一家言ありそうな奏者のメッセージのよう。こうしたちょっと迫力のあるジャケットのアルバムは経験的にいい演奏のアルバムが多いんですね。

奏者のヴィヴェンテ三重奏団は1992年に設立され、1996年にはワイマールで開催されたヨゼフ・ヨアヒム国際室内楽コンクールで2等及び現代音楽演奏賞を受賞しています。デビュー盤は2002年にこのアルバムと同じEIGENARTからリリースされたハイドンのピアノトリオ。これが評判になり、何枚かのアルバムをリリースしています。メンバーは次のとおり。

ヴァイオリン:アンネ・カタリーナ・シュライバー(Anne Katharina Schreiber)
チェロ:クリスティン・フォン・デア・ゴルツ(Kristin von der Goltz)
ピアノ:ユッタ・エルンスト(Jutta Ernst)

ヴァイオリンのアンネ・カタリーナ・シュライバーは、フライブルクでベルリンフィルの元コンサートマスターだったライナー・クスマウルに学び、1988年以降フライブルク・バロック管弦楽団のメンバー。
チェロのクリスティン・フォン・デア・ゴルツはロンドンで学び、シノーポリ率いるニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン・フィルのメンバーであり、1991年から2004年までフライブルク・バロック管弦楽団に所属していました。現代楽器も古楽器もこなし、2006年以降はベルリン・バロック・ソロイスツのメンバーで、ベルリンフィル・アンサンブルのメンバーでもあるとのこと。
ピアノのユッタ・エルンストはヴュルツブルクの大学を卒業後、ザールブリュッケンでソリストとしての訓練を受け、TACETからリリースされたヒンデミットのアルバムが高い評価を受けています。室内楽ではリノス・アンサンブルのメンバーらと活動する他、2000年からはザールランド大学で教職についています。

ということで、実力派の女性3人によるアンサンブルがどのような演奏を聴かせてくれるでしょうか。

Hob.XV:6 Piano Trio (Nr.19/op.40-2) [F] (1784)
かっ飛ぶようにいきいきとした入り。ハイドンのピアノトリオはピアノがリズムの基調を刻むパターンが多いんですが、この演奏はピアノのタッチが非常に軽く、まさに韋駄天のように跳ね回ります。ジャケットでにらみを利かせていたユッタ・エルンスト、やはり只者ではありませんでした。この軽快感、並のテクニックではありませんね。しかも要所で尋常ならざるアタックを見せたかと思うと、響きの余韻を静寂まで聴かせ切るなど、表現の幅というか、聴かせどころをそこここに散りばめてきます。ヴァイオリンもチェロもエルンストの音楽に合わせてて周りを飛ぶ蝶のように華やかさを加えます。今まで聴いたどのピアノトリオとも異なる聴かせどころをもっています。
2楽章構成の2楽章。メヌエットですが、単調な音楽が流れるはずもなく、こちらの耳と脳が最高感度で曲の行方に追随します。この落ち着いた音楽にこれだけの緊張感をもたらすあたり、アーティスティックさが際立ちます。中盤からのヴァイオリンのメロディーは美しさだけでなく、タイトな音色の魅力を振りまきます。鮮明な録音により奏者がピンポイントで定位する快感が味わえます。

Hob.XV:14 Piano Trio (Nr.27/op.61) [A flat] (before 1790)
一筋縄ではいかないリズムとメロディー。聴きなれた曲ですが実に新鮮に響きます。メロディーを美しく響かせようというような単純なコンセプトではなく、メロディーとリズム、アンサンブルの妙をヴィヴェンテ流に高度に再構成して、独自の音楽を聴かせます。類い稀なセンスでまとめられ、ハイドンの時代を感じさせるのではなく、現代の視点で完全に作り変えている感じ。ストイックさで聴かせるクレーメルの音楽をすこし穏やかにしたような感じ。あまりの表現の語彙の多さに驚きます。リズムが決して重くなることがないので、爽やかさを失いません。
普通は癒す方向に向かうアダージョですが、ヴィヴェンテは切々としたメロディーを朗々と歌いながら、緊張感を保った美しさで聴かせます。ヴァイオリンも緊張感を失いません。そしてピアノは宝石箱をひっくりかえしたように、それぞれ美しいメロディーがバラバラと散らかしながら、その散らかり方のセンスの良さで聴かせるような演奏。こんな演奏はじめて! 非常に個性的ながら、素晴らしい説得力。ちょっとザラつき気味のヴァイオリンとチェロの音色が実にいい感触。3人とも相当鋭敏な感覚の持ち主とみました。
3楽章はロンド。切れ味のよいアンサンブルは聴き応え十分。最後は弓のキレが冴えまくり、ピアノもキレキレで終わります。

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
短調の落ち着いた入りも、くっきりとしたメロディーが浮かび上がり、最初のメロディーをピアノからヴァイオリンに移して曲を進めます。ゆったりとしながらもヴァイオリンの張り詰めた響きをチェロが支え、ピアノの方も程よい緊張感で駆け回ります。単なる高音のメロディーなのに実に表情豊かな演奏。ヴァイオリンも同様、表情の起伏が大きく飽きさせません。
この曲も2楽章構成。2楽章はアルバム冒頭の推進力と躍動が戻ってきました。ただ躍動するのではなく、要所でかなりテンポを落とし、フレーズごとに聴かせどころを微妙に変えてくるため、実にキレ味鋭い演奏になります。不思議な転調によって独特の雰囲気がこの曲の魅力の大元。要所でのはっとするような踏み込みはこのトリオの魅力の一つでしょう。ダイナミックというよりキレのいいアーティスティックな余韻が残ります。

Hob.XV:5 Piano Trio (Nr.18/Op.40-1) [G] (before 1784)
なんという大胆な入り。音に対する非常に鋭敏な感覚をもっていなければ、これだけ確信に満ちた演奏はできませんね。演奏の起伏も今までで一番、そして録音もこれまでのなかで一番響きに潤いがあります。このXV:5の魅力を再発見した感じ。
2楽章のアレグロはエネルギーの凝縮と推進力に圧倒されます。そして静けさのなかからピアノの美しい響きを際立たせる絶妙のセンス。全奏者の音がキレまくってます。ファイもアルゲリッチも真っ青なキレ方。この曲の真髄を突く快演。ピアノのタッチはもはや人間業とは思えません。そうかと思うと天上から降り注ぐようなキラメキを聴かせ、最後は快刀乱麻のごとし。
フィナーレもアレグロという珍しい構成、さっと軽い入りから、軽さを保ったまま進み、最後にバッサリ! 参りました。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
有名曲ですが、入りから入魂の一撃に圧倒されます。しかも相変わらずキレ味は名刀政宗のごとき鋭さ。すでにこれまでの演奏から完全に奏者ペース。全員が冴えまくったベストコンディションのクレーメルのようなキレ方。音の向こうに青白い炎がメラメラと見えてきます。火花も散りまくってハイドンの名曲を見事に切り刻んで料理しています。脳が覚醒しきってリスナーズ・ハイ状態。これがセッション録音とは思えない素晴らしい緊張感です。
アンダンテはアーティスティックな美しさの限りを尽くした演奏。深呼吸を挟みながら、ガラス細工のような繊細な美しさを保った演奏。
そしてアルバム最後の楽章は、キレを聴かせながらも余裕を感じさせる入りですが、この曲の最後の盛り上がりはもちろん、攻めてくるだろうと予測しながら手に汗握って聴き入ります。もちろん、予想どおりきました! 鋼を打つような鋭い一撃で終わります。

正直、これまで聴いたピアノ三重奏では一番衝撃を受けた演奏です。ジャケットの中央でこちらを睨みつけるピアノのユッタ・エルンストは、奏者としてアルバムを手にする人に真剣勝負を挑んでいるのだという表情だったのでしょう。そして両脇でうっすら笑みを浮かべるヴァイオリンとチェロ奏者は、このアルバムを聴いたあとの私たちを慰めるように、自信ありげに笑みを浮かべているよう。まるで「参ったでしょう?」とでも言いたげな表情に写ります。もちろん、参りました。久々に打ちのめされるような素晴らしい演奏に出会いました。毎度のことですが、湖国JHさんの隠し球にしてやられた感じです。もちろん評価は[+++++]。ハイドンの室内楽に目のない方、必聴です。もう一度言います。必聴盤です!

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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