ロベール・ヴェイロン=ラクロワ/オーリアコンブ/トゥールーズ室内管の協奏曲集(ハイドン)

またしてもLPにぐっときました。

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ロベール・ヴェイロン=ラクロワ(Robert Veyron-Lacroix)のハープシコード、ルイ・オーリアコンブ(Louis Auriacombe)指揮のトゥールーズ室内管弦楽団(Toulouse Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのハープシコードとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、ハープシコード五重奏曲(XIV::1)、ハープシコード小協奏曲(XIV:4)の3曲を収めたLP。収録の情報は記載されていませんがLPのリリーズは1978年。レーベルは米SERAPHIM。

さて、いつものように奏者の情報をさらっておきましょう。まずはハープシコードの独奏を務めるロベール・ヴェイロン=ラクロワですが、1922年にパリで生まれ、パリ音楽院ピアノ科を卒業。ジャン=ピエール・ランパルの伴奏者として知られる人。ハープシコードではバッハ、クープラン、ラモーなどを得意としていました。1991年に亡くなっています。ハイドンの演奏はこのアルバムの他に協奏曲集がもう1枚あるようです。

指揮者のルイ・オーリアコンブは1917年、フランスのスペイン国境に近い街ポー (Pau) に生まれた指揮者。トゥールーズ音楽院で学び、指揮はイーゴリ・マルケヴィチに師事しました。1953年にトゥールーズ室内管弦楽団を結成、程なく世界に知られるようになり、多くの録音を残しました。1982年に亡くなっています。

今はあまり顧みられていない2人よるハイドンですが、LPで聴くとリステンパルトなどと同様、えも言われぬ味わい深い演奏に触れることができます。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
実に華やかな伴奏。これぞフランスのオケというクッキリとした表情。ピアノではなくハープシコードだから醸し出される雅な雰囲気。ヴェイロン=ラクロワのハープシコードはキリリとしたテンポの小気味良い演奏。ヴァイオリンソロはジェラール・ジャリー(Gérard Jarry)ですが、オケとともにクッキリとした表情を創っていく感じが悪くありません。安定したテンポに安定した演奏が創る至福の味わい。1楽章からじわりと伝わる音楽の心。
その音楽は続くラルゴに入ると、もはや染み入るような浸透力を帯びてきます。ピチカートの伴奏にのったヴァイオリンとハープシコードの典雅なやりとりは言葉にできないほどの癒しに満ちています。LPも素晴らしいコンディションでノイズなくゆったりと音楽を生み出していきます。空間に消え入るピチカートの響きの余韻に吸い込まれそうになります。そして深く響く弦楽器のくすんだ音色。ハープシコードとヴァイオリンのクッキリとした表情を伴奏が引き立てます。
フィナーレは適度に溌剌としたオケの響きが癒しに満ちた雰囲気を塗り替えます。ソロとオケは見事な一体感で演奏を進めますが、クッキリと浮かぶハープシコードがオケの演奏を引き立てます。最後は絢爛豪華な絵巻物の最後の場面のような華やかな終結。抜群の安定感につつまれたハイドンでした。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
LPを裏返すと今度はホルン2本、チェロ、ヴァイオリン、ハープシコードの5重奏。録音時期の違いか、少々音が痩せ気味というか、録音場所がデッドな環境に変わった感じ。実際の音量バランスではホルンがもう少し存在感がありそうですが、ハープシコードとヴァイオリンを強調して、ホルンは脇役として奥で控えめに鳴ってます。編成が小さい分小気味良さはこちらが上回りますが、デッドな響きで少し潤いが足りない印象。ただしそれぞれのパートの演奏は皆素晴らしいもので、完成度は非常に高くまとまっています。ハープシコードの演奏がモデラート、メヌエット、プレストと各楽章の表情を鮮明に描き分けます。ホルンもキレ味よくリズムを刻みます。アンサンブルの精度で聴かせる、この小曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。

Hob.XIV:4 Divertimento [C] (1764)
このアルバムで一番録音が鮮明。ワクワクするような推進力に煽られて、ハープシコードが自在な音程を飾ります。1曲目よりもハープシコードのタッチが冴え渡り、オケに格別な立体感が宿ります。安定感の素晴らしさは変わらず、オーリアコンブの率いるオケも抜群の仕上がりで一糸乱れぬアンサンブルを聴かせます。単純な曲想の曲ですが、演奏と録音の見事さにつられて一気に聴いてしまいます。
つづくメヌエットは、足音が聞こえそうなほど人間の歩くさまをリズムにしたような不思議な曲。中間部で短調に転調する切り替えの見事さ、落ち着いたリズムの運びの巧みさ、そしてメヌエットらしい雰囲気。どれをとっても素晴らしい演奏。
フィナーレはヴェイロン=ラクロワのハープシコードの妙技に圧倒されます。間断なく繰り出される音階の堅固な表情は、この曲をハープシコードで弾くからこそ浮かび上がる表情。最後まで痛快さを失わない素晴らしい演奏でした。

フランス人奏者による、ハイドンの協奏曲などを収めたLPでしたが、あふれんばかりのフランスの香りが漂う演奏でした。独墺系の演奏とは一味も二味も異なるセンスに包まれ、ハイドンがフランスの貴婦人向けにも通用する曲を書いていたのだと思わせるものがあります。ハイドンがこうした雰囲気を想像していたかどうかはわかりませんが、このアルバムで聴かれる演奏はまったく不自然ではなく、むしろ実に自然に聴こえてくるのが不思議なところ。やはりこれはロベール・ヴェイロン=ラクロワのハープシコードの印象が大きいでしょう。私は気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6 ディヴェルティメント ピアノ五重奏曲 LP

カスパール・フランツ/カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルのピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は協奏曲のアルバム。こちらも湖国JHさんから送り込まれたもの。

CasparFrantz.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

カスパール・フランツ(Caspar Frantz)のピアノ、カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブル(Solistenensemble Kaleidoskop)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:11、XVIII:9、XVIII:2)と、ピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロのためのディヴェルティメント(Hob.XIV:1)の4曲を収めたSACD。収録は2009年1月、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルは独Ars Produktion。

このアルバム、ちょっと聴いてみた印象はキレのいいオーソドックスな演奏で、取り立てて個性的な印象はなく、レビューに取り上げるつもりはなかったんですが、何回か聴いてるうちにジワリと良さを感じてきたもの。SACDらしく透明感あふれる鮮明な録音であるのもいいところです。

カスパール・フランツは1980年、ドイツのデンマーク国境に近い港町キール(Kiel)に生まれたピアニスト。ドイツ国内は言うに及ばず、世界的に活躍しており、ソリストのみならず室内楽の分野でも活躍しているとのこと。彼のサイトを貼っておきましょう。

CASPAR FRANTZ

また、オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルは2006年にチェロ奏者のミカエル・ラウター(Michael Rauter)と指揮者のジュリアン・クエルティ(Julian Kuerti)が設立したベルリンに本拠地を置く若手中心の室内オーケストラ。ライナーノーツには精鋭のイケメンと美女が写っており、本当に若手中心だとわかります(笑) こちらもサイトを貼っておきましょう。

Solistenensemble Kaleidoskop

モノクロのサイトデザインがイケてます。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ハイドンの最も有名なピアノ協奏曲。オケは小編成らしいキビキビとしたもの。速めのテンポの序奏に乗ってカスパール・フランツも小気味良いタッチの非常にキレのいいピアノで応じます。オーソドックスながらリズムの冴えが素晴らしい演奏。録音が鮮明なので、アンサンブルの精緻さが手に取るようにわかります。キレ味ばかりではなく、フレーズごとの微妙なニュアンスの変化も巧みで、非常にクォリティの高い仕上がり。カデンツァも短いながらキラリと光るセンスがあって唸らされます。
続くウン・ポコ・アダージョも爽やかさ保ちながら、じわりと情感を漂わせるもの。特にフランツのピアノの磨き込まれたクリスタルのように青白く光る冷徹な美しさがたまりません。この楽章ではテンポを比較的自在に動かしてメロディーを唄わせますが、キリリと引き締まった表情はしっかり保ちます。
フィナーレは再びキレ味抜群。オケの軽々とした吹き上がりが痛快。キレ味とデリケートさを両面持ち合わせたピアノが華を添えます。ピアノの鮮やかなタッチと展開部の高揚感、骨格のしっかりした構成と言うことなし。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
ハイドンの真作ではない可能性からか録音の少ないHob.XVIII:9ですが、この演奏で聴くと実に面白い。序奏からユニークな曲想に手に汗握る面白さ。フランツは前曲とはスタンスを変えて、曲想の面白さを際立たせるべく、実に自在に表情をコントロール。基本的にタッチの鮮やかさを保ちながら、オケとの絶妙な掛け合いを演じます。それにしてもこの曲のアイデアの多彩さには驚くばかり。
続くアダージョは短調でロマンティック。フランツは曲を楽しむように美しい音色を響かせます。
終楽章はTempo di Minuettoの指示のとおり、終楽章としてはゆったりとしたテンポで音楽を楽しむように、おおらかに起伏をつけながら時折アクセントを利かせてサラリとまとめます。

Hob.XVIII:2 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
元々オルガン協奏曲ですが、あえてピアノで弾いてくるところ、前曲のような曲を選曲してくるところになんとなくこのアルバムの意図が見えてきた感じ。耳に残るオルガンの音色での曲想を洗い流すようなクリアなピアノのタッチの美しさが際立ちます。オケも非常に純度が高く、相当な腕利き揃いでソロイスツ・アンサンブルの呼称に偽りなし。この曲ではピアノに増してオケの表現の幅の大きさが聴きどころ。各パートがフレーズごとに新鮮な響きを創ることにこだわっているよう。
続く2楽章は、もともとオルガンの音色の陶酔感で聴かせる楽章ですが、ここでもピアノのキリッとしたメロディーと、響きに変化をつけたオケの掛け合いで、この曲の違った魅力にスポットライトを当てています。1曲目の純粋なキレの良さとは全く異なった演奏は、曲ごとにコンセプトをしっかりもって演奏を組み立てている感じ。オルガンの低音で聴かせるところも、しっかりピアノで演出できていますが、少々無理がある感じで、このあたりは逆に楽器の特性を踏まえて作曲していたハイドンの巧みな手腕をかえって際立たせている感じ。
最後のアレグロは驚くほどさらりとした速めのテンポで意表をついた序奏。ピアノが入るとオルガンよりもキレのいいところを生かして快速テンポで、この曲の高揚感というかトランス状態のような音階の繰り返しをオルガン以上の面白さで表現。オケも恐ろしいほどのキレ味でささえ、この楽章はピアノのでの演奏の面白さ満点。見事です。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
最後の曲はピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロによるディヴェルティメント。ハイドンのディヴェルティメントらしい愉悦感に富んだ音楽。フランツのキリリとしたピアノを中心にホルンとヴァイオリン、チェロが楽しげにメロディーを重ねます。協奏曲とはまったく異なる音楽の楽しさがありますね。かなり初期の曲ゆえ、ピアノトリオともまた異なり、素朴な面白さ。この曲がなくても協奏曲3曲でアルバムが成立するはずですが、あえてこの曲を収めてきたところは、ピアノをキーにハイドンの音楽の多様性をあえて表現したいということではないかと想像しています。演奏の方は、完全にリラックスして掛け合いを楽しむような演奏。

1曲目の正攻法のキリリと引き締まった演奏を聴いて、冒頭にふれたようにオーソドックスな演奏と感じたわけですが、聴き進むうちにこのアルバムの企画意図の深さがわかってきました。ピアノのカスパール・フランツはかなりの腕前の持ち主。しかも曲に応じて演奏スタイルも明確な意図をもっており、音楽性も確かなものがあります。オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルも腕利き揃いで見事なサポート。私は非常に気に入りました。特に3曲目については意見が分かれるところかもしれませんが、オルガン協奏曲をあえてピアノで弾くという意味がある演奏であり、フランツの意図は買いです(笑) 評価は協奏曲は3曲とも[+++++]、ディヴェルティメントは[++++]とします。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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