ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲XVIII:11(ハイドン)

珍しいアルバムを見つけました。ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲です。この触れ込みでギュンター・ヴァントの伴奏のものだろうと思った方はかなりのハイドン通ですが、今回見つけたのはその演奏ではありません。

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ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノ、アゴスティーノ・オリツィオ(Agostino Orizio)指揮のブレシア・ベルガモ国際音楽祭室内管弦楽団(Orchestra da Camera del Festival Internationale di Bresia e Bergamo)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11とボッケリーニの交響曲ニ短調Op.12-4「悪魔の家(La Casa del Diavolo)」の2曲を収めたアルバム。収録の詳細はこのアルバムには記載されていませんが、ハイドンに関しては同じソースだと思われる別のアルバムには1988年2月21日、ミラノのミラノ音楽院のヴェルディ・ホール(Sala Verdi)でのライヴとの記載があります。レーベルははじめて手に入れる、φωνη fonè。なんと読むのかわかりません(笑)

ニキタ・マガロフのアルバムは少し前に取り上げていて、その気品に溢れた演奏が印象に残っています。

2017/02/18 : ハイドン–ピアノソナタ : ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

前回取り上げたソナタの演奏が1960年とマガロフの壮年期である48歳頃の録音だったのに対し、今回取り上げる協奏曲は亡くなる4年前の76歳頃の録音ということで、時代がかなり下ってからのもの。演奏スタイルがどのように変化したかも興味深いところでしょう。

気になるのは見たことのないレーベルであるφωνη fonè。もう消えてしまったレーベルかと思いきや、バリバリ現役のレーベルでした。

Fonè Records

レーベルは創立30年近くになるクラシックとジャズを主体とする音質にこだわったレーベル。ウェブサイトによると、現在はフィレンツェとピサの間にあるペッチョリ(Peccioli)という田舎町が本拠地のようです。SACDやLPまでリリースしている本格的なレーベルでした。

今日取り上げるアルバムは廃盤のようですが、この録音の1楽章のみ別途リリースされているベスト盤に収録されていますので、自信のある録音ということなのでしょうね。確かに録音にはこだわりを感じます。TELARKのようなダイナミックさを求める録音ではなく演奏のライヴ感を重視した録音。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
いきなり透明感の高いオーケストラの響きが広がります。指揮者のアゴスティーノ・オリツィオは知らない人ですが、オーケストラコントロールはキリリと引き締まったリズムを基調とした堅実でキレもあるもの。オケは迫力十分。驚くのがニキタ・マガロフのピアノの瑞々しさ。落ち着いたテンポで堂々としていながら、キラメキ感に満ちた素晴らしいタッチ。70歳代の演奏ゆえリズムに鈍さを感じるところもなくはないのですが、それを上回る覇気に満ちた演奏。ハイドンの曲を味わいながら演奏しているのがよくわかります。フレーズの一つ一つを丁寧にこなしながら、全体にしっかりとしたエネルギーが込められ、実に気品と風格に溢れた演奏。まるでベートーヴェンを演奏しているような推進力と覇気に圧倒されます。オケの方もマガロフの気合に触発されて輝きを増していきます。名ピアニストの力演を支えよとする、こちらも奏者のエネルギーを感じます。カデンツァでもマガロフの放つオーラにホール中の聴衆が集中していることがわかります。
続くアダージョは力をスッと抜いたオケの伴奏の爽やかさに気を取られているうちにマガロフの磨き抜かれた美音によるメロディーが入ります。特に高音の澄んだ響きの美しさが印象的。老練なタッチから生み出されるしなやかな音楽。マガロフの意を汲んでか、オケが実に情感溢れるいい伴奏を聴かせます。ピアノに劣らず雄弁な伴奏にマガロフも高揚している様子。繰り返しゆったりと訪れる波のような起伏が音楽を心地良いものに感じさせます。そしてとどめはあまり聴いたことのない実に気品に溢れたカデンツァ。マガロフ自身のものでしょうか。
フィナーレは予想通り落ち着いた、そしてじっくりとした演奏。噛みしめるようにピアノとオケが旋律を展開させていきながら、ハイドンのアイデアの変化の面白さを次々と繰り出していきます。それぞれのフレーズに揺るぎない意味が込められていることがよくわかる演奏。ピアノからオケ、オケからピアノへ受け渡されるメロディーの面白さを存分に味わえます。マガロフのピアノのタッチはどんどん冴えてきて最後は鮮やかさで観客を圧倒。最後の音が消えるのを待たずに万雷の拍手に包まれます。

続くボッケリーニもはじめて聴く曲ですが、変化に富んだ奇妙な展開が繰り返される実に興味深い曲。ピアノが入る訳ではないので、オケの力量を示すものですが、こちらも見事なコントロールで拍手喝采。

ニキタ・マガロフの晩年の充実した演奏をたっぷりと楽しめる素晴らしいアルバムでした。堂々とた正統派のピアノの揺るぎない響きがこれほどまでに音楽を活き活きとさせる稀有な事例と言っていいでしょう。このアルバムはネットショップを探しても見当たらないことから既に廃盤かもしれませんので、なかなか入手は難しいかと思いますが、こうしたアルバムこそ、手に入るようにしておく価値がありますね。当ブログがその真価の証を刻んでおくべきでしょう。見かけたら是非入手をおすすめいたします。評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ライヴ録音

【新着】ヴィヴィアヌ・シャッソのアコーディオンによるピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は変り種なんですが、聴いてびっくり、演奏は驚くべきもの。

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ヴィヴィアヌ・シャッソ(Viviane Chassot) のアコーディオン、バーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)による、ハイドンのピアノ協奏曲など4曲(Hob.XVIII:11、XVIII:4、XVIII:3、XVIII:7)を収めたアルバム。収録は2016年9月19日から21日にかけて、フライブルクとバーゼルのちょうど中間あたりにあるドイツのミュールハイム(Müllheim)にあるマーティン教会(martinskirche)でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ハイドンの協奏曲はピアノ、オルガン、ヴァイオリン、チェロ、ホルン、トランペットなど様々な楽器用の曲が作曲されていますが、それぞれ対象の楽器の特性や音色をしっかりと踏まえて書かれており、ソロのメロディーはその楽器でこそといえる響きが存分に活かされたもの。ホルン協奏曲に見られるホルンの低音を聴かせるところなど、まさにそうしたハイドンの周到な筆致の一例です。そうした協奏曲を他の楽器に置き換えて演奏する例は過去にもありました。

鍵盤楽器はオルガン、ハープシコード、フォルテピアノ、ピアノと時代のパースペクティヴを楽しむことができますし、楽器をなかな用意できないリラ・オルガニザータをフルートとオーボエで置き換えたりする例もあります。またピアノ協奏曲をハープで弾くなど、レパートリーの少ない楽器での例などもあります。

今回はピアノ協奏曲とオルガン協奏曲をアコーディオンで演奏するというもの。ハイドンの新譜をチェックしている際にこのアルバムをみかけて、アコーディオンでピアノ協奏曲を演奏するという企画は珍しいもののさして期待もせず、ちょっと美人奏者のルックスに気が緩んでポチりとしましたが、到着して聴いてみてびっくり。アコーディオンという楽器の表現力に驚くばかり。

そもそもアコーディオンは手動でフイゴをコントロールするオルガンのようなものですが、ポイントは2つ。1つは音を出した後に音量を自由に上げ下げできること。アコーディオンといえばピアソラでしょうが、あの多彩な響きはアコーディオンのこの特徴によるものですね。そして今回わかったのがアコーディオンの反応の俊敏さ。オルガンの長いパイプを空気が移動する時間、そして鍵盤からメカニックを通じて弦を打つまでのフリクションにくらべ、アコーディオンの俊敏さは比較にならないほど。このアルバムを聴くと、これまで鍵盤楽器で聴いていた協奏曲とはソロの俊敏さが段違い。鮮やかなメロディーの展開に圧倒されます。もちろん音色は皆さんの想像するアコーディオンの音色であり、ピアノやフォルテピアノとは雰囲気が一変しますが、なによりその俊敏さによって、曲に別の魂が入ったよう。これはすごい。

奏者のヴィヴィアヌ・シャッソは1979年、スイスのチューリッヒ生まれのアコーディオン奏者。12歳からアコーディオンのレッスンを受け、ベルン芸術大学のアコーディオン科に進み、その後様々な賞を受賞。アコーディオンのレパートリー拡大に努めており、デビュー盤はなんとハイドンのソナタ集だったとのことで、すかさず注文! その後ラモーのソナタ集やツィターとのアンサンブルなどの録音があり、このアルバムでメジャーレーベルであるSONY CLASSICALにデビューとのことです。

また、オケはバーゼル室内管ということで、古くはホグクッドの協奏交響曲などの録音によって知られたオケですが、最近では2032年の完結を目指して進められているジョヴァンニ・アントニーニのハイドンの交響曲全集をイル・ジャルディーノ・アルモニコと分担して録音することで知られたオケです。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
序奏は快速テンポで爽やかそのもの。指揮者は置いていませんが、見事な入りに期待が高まります。普段はピアノかフォルテピアノで聴くソロは、アコーディオン独特の音色で置き換えられますが、最初に書いたように、あまりに俊敏な反応にのけ反らんばかり。ピアノやフォルテピアノとは反応速度が全く異なります。オケが快速なのに合わせて、それを上回る俊敏さでソロがグイグイきます。しかも音量のコントロールもダイナミックに変えてきて、うねるように音量を変えてきます。あまりに鮮やかなタッチに楽器の音色の違いが気になるどころか、鮮やかな音色に圧倒されっぱなしの1楽章です。終盤に至るまでに幾度かの波を超えているので、すでに違和感はありません。カデンツァはアコーディオン独特のタッチによりだいぶスッキリとしたもので、聴いているうちに哀愁に包まれる見事なもの。
続く2楽章も入りは序奏の滑らかさが印象的ですが、ソロが入るとアコーディオン独特の音色と俊敏な反応に釘付けになります。聞き進むうちに中盤のアクセントの鮮やかさにさらに釘付け! さすがに自身でフイゴのコントロールをしているだけのことはあります。アコーディオンの音色には慣れてきましたが、俊敏な反応には唸りっぱなしです。やはりカデンツァはアコーディオン独特の世界に入ります。
フィナーレは前2楽章以上に反応の鮮やかさが際立ちます。ソロに触発されて、オケの反応も異次元のレベルに。協奏曲だけにオケの方もソロの勢いに負けじと感覚が冴え渡って火花が散ります。そしてその刺激がソロに戻り、アコーディオンを操るシャッツにも戻って刺激が刺激を呼ぶ展開。あまりに鮮やかな展開に驚くばかり!

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
1曲目で完全にペースを掴まれ、すでにノックアウト気味。何気にオケの方もソロとは関係なく異常に興奮した感覚を保ち、序奏からソロに宣戦布告する始末。もう冴えまくった感覚を競い合うようなシャープな応酬に唖然とするばかり。聴き慣れた曲が鮮やかに蘇り、まるで初めて聴くような新鮮な響きで迫ってきます。ソロのないところでもオケに魂が乗り移っているよう。中間の展開部に入って以降、さらに2段ロケットに点火したような冴え方。もはや鮮やかさを通り越して別の曲を聴くような感覚に陥ります。この曲のカデンツァのキレはもはや神業のレベル。もともとアコーディオンのためにこの曲が書かれたのかと錯覚するほど。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。穏やかな序奏が終わると、まるで中世の宗教音楽のような響きに今度は鳥肌が立つような思い。俊敏さだけではなく、こうした繊細な音色の感覚も持ち合わせていました。不思議な音色に包まれ、峻厳な雰囲気に一変します。アコーディオンという楽器の可能性を感じる楽章。
フィナーレは息を吹き返したようにオケとアコーディオンが乱舞。速いパッセージの音階のキレは他のどの楽器よりも鮮やか。この異次元の鮮やかさがキレまくり、ハイドンの書いたフィナーレのキレ味を飾ります。最後のカデンツァで我々の想像の彼方に行ってしまうことも忘れません(笑) こんなに高い音が出るんですね。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
次はどんな球が飛んでくるのドキドキしながら聴き始めます。すでに原曲がピアノやフォルテピアノのために書かれたことを忘れそうなほどアコーディオンの印象が刷り込まれてしまいました。軽やかな音階にキレ味鋭いアクセント、そしてグッと力むアクセントの連続攻撃にヘロヘロ。この曲ではソロもオケも少し力を抜いたような部分がさらに加わり、完全にペースを握られます。今更ながら同じメロディーからこれほど多彩な表情が生まれることに驚くばかり。アコーディオンという楽器の表現力に驚きます。めくるめくような展開の連続にすでにトランス状態に。音楽が脳にもたらす刺激としては最強の部類ですね。
2楽章は前曲同様、俊敏さではなく抑えた音色の冴えで聴かせる楽章。一定のテンポで訥々と進めていきますが、それでもアコーディオンという楽器の魅力がジワリと伝わります。ヴィヴィアヌ・シャッソという人、テクニックのみならず、音色に関する類い稀な感覚の持ち主と見ました。
フィナーレはこれまでの曲同様、鮮やかにまとめます。

Hob.XVIII:7 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
最後はオルガンのために書かれた曲。フォルテピアノよりもオルガンの方がアコーディオンと音色が近いですが、これまでオルガンで聴いてきた曲でも、これまでの演奏の印象が完全に塗り替えられるほどのインパクトがあります。オケの方も重厚なオルガンとの掛け合いではなく俊敏すぎるアコーディオン相手ということで、前曲までと同様冴えまくった状態で迎え撃ちます。もちろんオルガンの方が絶対音量は上でしょうが、強弱のダイナミクスはアコーディオンに分があり、それが大きな違いを生んでいます。鮮やかに吹き抜けるソロの印象が曲を支配します。
これまでの曲の緩徐楽章とは雰囲気が異なり、アコーディオンがオルガンを再現するような演奏になります。この変化の幅を聴かせるために最後にこの曲を持ってきたのでしょうか。最後までオルガン然とした演奏を保つ見識を持ち合わせているんですね。
そしてフィナーレも、これまでと異なるアプローチ。もちろんキレ味は変わらないんですが、オルガンの音色を意識しているようで、弾け飛ぶような展開には至らず。いやいやこの辺りのアプローチにはシャッソのこだわりを感じます。見事。

冒頭に書いた通り、何気なく手にいれたアルバムでしたが、これは驚きの素晴らしい出来。ハイドンの協奏曲のアルバムの中でも特別な一枚と言っていいでしょう。これまでピアノやフォルテピアノなどで聴いてきた曲が、初めからアコーディオンのために書かれたような説得力を持った演奏です。テクニックはもとより、曲ごとに演奏スタイルもしっかりと考えて演奏しており、ヴィヴィアヌ・シャッツという人の音楽性も類い稀なものです。このアルバム、すべての人に聴いていただく価値がある名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]とします。

このアルバムの記事を書きかけたところで、カンブルランのコンサートに出かけたため、途中のままコンサートの記事を先にアップしたところ別記事のコメントにこのアルバムの凄さを知らせていただく書き込みがありました。いやいや、書いている最中にその記事を予測されたという展開に驚きました(笑)

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:4 ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:7 アコーディオン

ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

当ブログの読者の皆さまならご存知の通り、トーマス・ファイが倒れる前に録音した交響曲のアルバムのリリース予告されています。予定のリリース日から少し遅れているようですが、そろそろ来るのではないかと心待ちにしております。そのファイのハイドンのアルバムは全て手元にあると思っていたのですが、意外に盲点があり、このアルバムが未入手だと最近気づき、あわてて注文した次第。新たなアルバムが到着するまで、こちらでしのぎます(笑)

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ゲリット・ツィッターバルト(Gerrit Zitterbart)のピアノ、トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は1999年6月、フランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSICS。

トーマス・ファイの振るハイドンの交響曲のシリーズですが、これまで取り上げた回数は10記事にもなります。

2014/08/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のの98番、太鼓連打(ハイドン)
2013/12/01 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲99番,軍隊(ハイドン)
2013/04/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のラメンタチオーネ他
2012/11/20 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!
2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

オケに着目すると、これまでリリースされた22枚のうち、第2巻が今日取り上げるアルバムと同じシュリアバッハ室内管である他はすべてハイデルベルク交響楽団。ハイデルベルク交響楽団の前身がシュリアバッハ室内管ということで、録音時期が1999年以降のアルバムからハイデルベルク響になっているという感じです。ということで、この協奏曲のアルバムは交響曲シリーズの第2巻の「告別」「時の移ろい」を収めたアルバムとともにファイのハイドンの録音の最初期のものということになります。ちなみアルバムの番号を比べてみるとこちらが98.354なのに対し、交響曲の第2巻の方は98.357と若干後。ということでもしかしたら、このアルバムがファイのハイドンの最初の録音ということかもしれませんね。そういった意味でも非常に興味深いアルバムです。

ピアノのソロはゲリット・ツィッターバルト、初めて聴く人かと思いきや、調べてみるとアベッグ・トリオのピアノを担当する人でした。1952年、ドイツのゲッティンゲン(Göttingen)に生まれ、カール・エンゲル、ハンス・ライグラフ、カール・ゼーマンら高名なピアニストに師事し、ドイツ音楽カウンシルのサポートを受けて若手芸術家のためのコンサートシリーズなどに出演。その後いくつかのコンクールで優勝してヨーロッパ各国で活躍するようになりました。1976年にアベッグ・トリオを設立後は室内楽の分野で活躍しています。ファイとはハイドンの前にモーツァルトのピアノ協奏曲の録音があり、ファイのお気に入りのピアニストだったのでしょう。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
ファイの演奏の記憶と比べると随分オーソドックスな伴奏の入り。オケは適度にリズミカルで快活。なんとなくこれからキレキレになりそうな予感を感じさせながらも穏やかさを保ちます。ツィッターバルトのピアノはファイのスタイルをピアノに移したように、適度なコントラストをつけながらクリアにリズムを刻んでいきます。オケもピアノもそこここにキラリと光る輝きがあり、ハイドンの晴朗な曲を爽快さ満点で描いていきます。まるでリズムに戯れて遊んでいるよう。凡庸さは全くなくフレーズの隅々まで閃きに満ちており、これに後年キレがくわわっていったわけですね。ツィッターバルトもかなり表現力。特に高音の抜けるような軽やかさを聴かせどころにして縦横無尽に鍵盤上を走り回る感じがこの曲にぴったり。カデンツァに入るところくらいから、ちょっとスイッチが入り表現意欲に火がつきましたね。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。スイッチの入ったツィッターバルトは冒頭からタッチが冴え渡ります。ピアノの美しいメロディーをシンプルな伴奏で支え、ファイもここはツィッターバルトの引き立て役に徹します。このさりげないメロディーの美しさこそハイドンの真骨頂。絶品です。
フィナーレで攻守交代。ツィッターバルトのタッチのキレは変わらないのですが、今度はファイがこれまで抑えていた才気が解き放たれたように自在にオケを操り、とくにコントラバスの鋭いアクセントをかませながらテンポを上げ、ピアノを煽ります。火花散るようなデッドヒートを繰り広げながらも戯れて遊ぶような余裕があります。いやいや、この頃からキレていますね。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
もうだめです(笑) 完全にファイのペースに引きこまれました。ゾクゾクするような序奏の入りもファイならではのアイデア満載です。ハイドンの書いた曲が完全にファイ流に再構成され、冒頭から冴え渡るリズム感。オケも様々に趣向を凝らしているんですが、ツィッターバルトのピアノもそれに呼応して軽やかさが際立つタッチで応じます。アクセントのつけ方がこれまでの演奏とは全くアプローチが異なり、スリリングさ満点。微妙にテンポを上げ下げしたり、アクセントの変化をつけたりといろいろやりますが、全てが痛快にハマって気持ちのいいことといったらありません。この曲ではカデンツァは時代もスタイルも超えてやりたい放題。ここまでやると逆に吹っ切れていいですね。
続く2楽章は、弱音器付きの弦楽器の潤いをあえて廃した抑えた序奏から入り、ツィッターバルトのピアノの雄弁さに主役を譲ります。あっさりとした伴奏がかえって深みをもたらしているよう。やはりファイは只者ではありません。
フィナーレはこれも痛快なほどの速さでめくるめくように音階の上下を繰り返しながらキレよく曲をまとめていきます。終盤、突然ぐっとテンポを落とすことでカデンツァを引き立たせるあたりの演出は流石です。キレキレで終了。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は有名曲。どうくるかと身構えていると、それをひるがえすようにオーソドックスに入ります。ただし、伴奏の各パートのアクセントのつけ方はファイならではのもので、聴いているうちにどんどんスリリングになっていきます。気づいてみると速めのテンポでグイグイ攻めるファイペース。一貫してトレモロのようにさざめくような音色に乗りながら寄せては返す波のように音楽の波が襲ってきます。これぞファイマジック!
続く2楽章はあえて表情を抑えて曲自体に語らせる大人な対応。この緩徐楽章を一貫して抑え気味にしてくることで、どの曲も両端楽章の冴え方が際立つわけですね。
フィナーレは予想どおり快速テンポで痛快なアクセント連発。ツィッターバルトのピアノもよくぞこれほど指が回ると驚くほどのめくるめくような冴え方。ファイとの呼吸もピタリで、大胆なデフォルメをそこここに散りばめ、もはや溶けてバターになっちゃいそう(ちびくろサンボ!) やはり只者ではありませんね。

ファイの最初期のハイドンの録音であるこのアルバムですが、すでにファイの魅力が満ち溢れていました。この録音のあとに22巻までつづく、いや、今度23巻がリリースされようとしている交響曲全集の録音が始まったわけです。この1枚を聴くだけでもファイの類い稀な才能がよくわかります。ピアノのゲリット・ツィッターバルトもファイと共通する音楽性を持った人で、ピアノもキレキレ。ファイのハイドンの原点たるこのアルバムの出来がその後の交響曲の録音を決定したことがよくわかりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

さて、ファイの新譜はいつ手元につきますやら。ますます楽しみです。

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エミール・ギレリスのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11(ハイドン)

ピアノの演奏が続きますが、今日はヒストリカルなもの。

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エミール・ギレリス(Emil Gilels)のピアノ、ルドルフ・バルシャイ(Rudorf Barshai)指揮のモスクワ室内管弦楽団(Moscow Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)、モーツァルトのピアノ協奏曲21番(KV.467)の2曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットでギレリスのディスコグラフィを調べて見ると1959年の1月とのこと。レーベルはМелодия(Melodiya)。

このアルバムも先日オークションで手に入れたもの。もちろんギレリスのピアノがお目当てでした。エミール・ギレリスはみなさん良くご存知でしょう。あまりハイドンを演奏する人とのイメージはありませんが、数少ない録音のうち、当ブログでも2枚ほど取り上げています。

2015/10/29 : ハイドン–ピアノソナタ : エミール・ギレリスのXVI:20 1962年ライヴ(ハイドン)
2011/11/08 : ハイドン–室内楽曲 : ギレリス/コーガン/ロストロポーヴィチのピアノ三重奏曲

いずれもギレリスの「鋼鉄のタッチ」によってハイドンの音楽が揺るぎない格調高さを聴かせる名演奏。1950年代のギレリスの素晴らしさは深く記憶に刻まれておりますので、今日取り上げるアルバムを見つけるや否や迷わず入手した次第。早速針を落としてみます。

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Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ルドルフ・バルシャイの振るモスクワ室内管の序奏は実に軽やか。理想的な入りです。ギレリスのピアノは、ピアノの胴に響くような余韻を伴いながらこちらも最初は軽やかなタッチでリズミカルに音楽が進みますが、徐々に音量が上がってくると、ギレリスらしいキレの良い鋭いタッチが顔を覗かせてきます。バルシャイは一貫して爽やかな演奏でサポート。ギレリスのタッチの変化が聴きどころだと踏まえて、伴奏に徹している感じ。勢いを保ったまま、大きくうねるように表情を変化させていくギレリスのピアノ。速いパッセージの鮮やかなキレも抜群。指が回りまくってます! このコンチェルトは爽快さこそがポイントと踏まえたような演奏。
素晴らしいのが続く2楽章。バルシャイもぐっとテンポを落として音楽にえも言われぬ深みが宿ります。ギレリスもそれに応えて、じっくりとメロディーを紡いていきますが、ここにきてギレリスのタッチから生み出されるピアノの鋭くも深い音色が燦然と輝きだします。同じピアノなのにギレリスが弾くと、峻厳さ、孤高さを感じさせるところがすごいところ。バルシャイもそれに触発されて、伴奏も深く深く集中していきます。夢のような音楽が流れていきます。カデンツァは抑えた音量でピアノを鳴らしながら天上に登っていくような凝縮された時間が流れます。ピアノ1台から繰り出される音楽が、オケも含めて全員を惹きつける素晴らしいカデンツァ。
フィナーレで再びリズムと推進力を取り戻しますが、ここでもギレリスのピアノの鋼鉄のタッチが素晴らしい躍動感を帯びて圧倒的な存在感。コンチェルトのソロでテクニックではなく演奏の集中力でここまで他を圧倒する存在感を感じさせる演奏は滅多にありません。バルシャイもそれを踏まえて、控えめながら味わい深い伴奏で支えます。最後はキレのいいピアノの響きを轟かせて終了。いやいや素晴らしい演奏でした。

やはりギレリスはギレリス。奏者によって様々な響きを聴かせるピアノですが、ギレリスが弾くと、はっきりギレリスの音楽とわかる音楽が流れ出すのがすごいところ。鋼鉄のタッチでも、爽快な響きも孤高の響きもグイグイ推進する響きも自在に繰り出しながら、音楽を作っていきます。このコンチェルトでは、テクニックではなく音楽の深さで圧倒的な存在感を示し、特に2楽章のカデンツァでは微かなタッチの紡ぎ出す音楽の存在感に圧倒されました。録音も鮮明で1950年代のギレリスの魅力を余すところなく捉えた素晴らしいもの。これは文句なしの名演盤です。もちろん評価は[+++++]とします。

裏面のモーツァルトもこれまた素晴らしい演奏。バルシャイはハイドンの時よりも踏み込み、ギレリスのピアノも冴えまくってます。こちらもオススメです! 中古で見かけたら即ゲットですね。

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【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-2(ハイドン)

前記事のつづき。

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リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)とマクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)の指揮するイル・ポモ・ドーロ(Il Pomo D'Oro)によるハイドンの協奏曲などを収めた2枚組のアルバム。

今日はCD1から指揮者が変わったCD2を取り上げます。アルバムや奏者については前記事をご参照ください。

2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

CD2から指揮はハープシコードを弾くマクシム・エメリャニチェフ。今年の1月から前任のリッカルド・ミナーシの後を継いでイル・ポモ・ドーロの首席指揮者となった人。録音時の2014年は26歳という若さです。

Hob.I:83 Symphony No.83 "La Poule" 「雌鶏」 [C] (1785)
1曲目はなぜか交響曲で「雌鶏」。マクシム・エメリャニチェフが得意としているということでしょうか。金管をかなり象徴的に鳴らして古楽器の音色の面白さを強調した入り。オケは同じですが、オケの音色はCD1から変わります。マクシム・エメリャニチェフの指揮はリッカルド・ミナーシよりも金管の音色以外は全般にオーソドックス。古楽器による均整のとれたバランスの良い演奏。金管の鳴らし方が変わらないので若干単調な印象もなくはありません。どちらかと言うとリッカルド・ミナーシの方が若々しい印象です。安全運転な感じ。
アンダンテも実に落ち着いた演奏。CD1の面白さを味わっているので、もう少し踏み込みを期待してしまうところ。演奏は端正でオケのアンサンブルも精度高く質の高い演奏ですが、やはり少々かしこまった感じ。
メヌエットからフィナーレも実にオーソドックスな展開。もちろん古楽器による適度な力感、高揚感、バランス感覚もあり、それなりに盛り上がりを見せますが、あと一味工夫が欲しいところ。そしてフィナーレの終盤、オケがこれまでとは異なり、ちょっと乱れるところもあり、指揮者のコントロール力は少々差があるというのが正直なところ。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
CD2の2曲目はマクシム・エメリャニチェフのハープシコードソロでファンタジア。こちらは音量差のつきにくいハープシコードを縦横無尽に弾きまくった陶酔感を感じさせる部分と余韻で聴かせる部分のコントラストがクッキリとついたなかなかの演奏。先ほどの雌鶏のオーソドックスさとは異なり表現意欲に溢れた演奏です。途中、若干調律のずれたように聴こえる部分がありますが、何らかのペダル操作の影響でしょうか。このへんは楽器にくわしくないためわかりません。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
そして、CD2のハイライトの最も有名なコンチェルト。なぜか序奏から別次元の生気! オケの精度は今ひとつながら、明らかに演奏に気合が漲っています。リッカルド・ミナーシのコントロールに近い印象もありますが、ちょっと荒いでしょうか。ソロのハープシコードは流石にキレキレ。ここでも雌鶏同様、金管が独特の音色を聴かせて格別の存在感を呈しますが、鳴らし方が単調な印象。オケは全般に表現意欲旺盛でアクセントもガッチリキメてきます。指揮者の若さがそのまま音楽に乗っている感じと言えばいいでしょう。それなりにスリリングでたのしめます。
2楽章も同様、適度に荒いところが面白さにつながり、冷静にタッチを進めるハープシコードに対してオケがかなり自在なサポートを聴かせます。リズムがちょっと前のめりになったり、意外なバランスを聴かせたりするところもあって、本当にスリリング。一転カデンツァでははっとするような新鮮な響きを引き出したり、なかなか先の読めない面白さがあります。オケの各奏者が周りの出方を探りながら演奏している感じ。
フィナーレは若さと才気が素直にエネルギーとなって表出したような演奏。相変わらずオケは自在。弾き振りなのにソロとオケの微妙なズレによる緊張が走ります。ハープシコードの見事さと、オケの素人っぽいところの対比が妙に面白い演奏です。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
最後はヴァイオリンとハープシコードが活躍する曲。両指揮者がソロでも腕くらべといったところでしょう。リッカルド・ミナーシの存在があるからか、前曲のようにオケが暴れることもなく、適度な生気とバランスの保たれた伴奏に乗って2人のソロは冴え冴えとメロディーを奏でます。やはり変化に富んだボウイングのミナーシと繊細なキレを聴かせるエメリャニチェフのソロは非常に聴き応えがあります。ソロとオケ、表現意欲とバランス、静と動のうまく噛み合ったいい演奏。
つづくラルゴの序奏は抑えていたエメリャニチェフの表現意欲が噴出。いきなりグッと力が入ります。美しいメロディーのヴァイオリンとハープシコードが絡みながらのソロはやはり流石。何となくソロよりオケが前に出てソロ以上に存在感を出そうとしています(笑) この辺はまだまだ指揮者の経験不足というところでしょうか。普段聴く協奏曲とは異なるアプローチに、逆に協奏曲のオケの演奏のツボを教わった感じがします。そういう意味ではいろいろ考えさせられる演奏であります。
このアルバム最後のフィナーレは適度なキレと力感がバランスした演奏。2楽章でちょっと踏み込んだ以外はなかなかバランスの良い演奏でした。

ちょっとCD1とは違うトーンのレビューとなりましたが、このアルバム、2枚組ですが価格はレギュラー盤1枚の値段。しかも前記事で書いたとおり、リッカルド・ミナーシの振ったCD1は素晴らしい出来ということで、アルバム自体はオススメしていいものです。CD2の方はソロはともかく指揮はまだまだこれから経験を積む必要があることを感じさせるもの。最近レビューで取り上げるアルバムは厳選された一級のアルバムばかりでしたので、こうしたレビューは久しぶり。逆に聴く方の脳はいろいろ考えさせられるという意味で刺激的なもののでした。素晴らしい演奏も、これからの成長を期待する演奏も聴けるという意味でも面白いアルバムだと思います。ちなみにCD2の評価ですが、ファンタジアと最後のHob.XVIII:6は[++++]、残り2曲は[+++]とします。

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カスパール・フランツ/カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルのピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は協奏曲のアルバム。こちらも湖国JHさんから送り込まれたもの。

CasparFrantz.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

カスパール・フランツ(Caspar Frantz)のピアノ、カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブル(Solistenensemble Kaleidoskop)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:11、XVIII:9、XVIII:2)と、ピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロのためのディヴェルティメント(Hob.XIV:1)の4曲を収めたSACD。収録は2009年1月、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルは独Ars Produktion。

このアルバム、ちょっと聴いてみた印象はキレのいいオーソドックスな演奏で、取り立てて個性的な印象はなく、レビューに取り上げるつもりはなかったんですが、何回か聴いてるうちにジワリと良さを感じてきたもの。SACDらしく透明感あふれる鮮明な録音であるのもいいところです。

カスパール・フランツは1980年、ドイツのデンマーク国境に近い港町キール(Kiel)に生まれたピアニスト。ドイツ国内は言うに及ばず、世界的に活躍しており、ソリストのみならず室内楽の分野でも活躍しているとのこと。彼のサイトを貼っておきましょう。

CASPAR FRANTZ

また、オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルは2006年にチェロ奏者のミカエル・ラウター(Michael Rauter)と指揮者のジュリアン・クエルティ(Julian Kuerti)が設立したベルリンに本拠地を置く若手中心の室内オーケストラ。ライナーノーツには精鋭のイケメンと美女が写っており、本当に若手中心だとわかります(笑) こちらもサイトを貼っておきましょう。

Solistenensemble Kaleidoskop

モノクロのサイトデザインがイケてます。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ハイドンの最も有名なピアノ協奏曲。オケは小編成らしいキビキビとしたもの。速めのテンポの序奏に乗ってカスパール・フランツも小気味良いタッチの非常にキレのいいピアノで応じます。オーソドックスながらリズムの冴えが素晴らしい演奏。録音が鮮明なので、アンサンブルの精緻さが手に取るようにわかります。キレ味ばかりではなく、フレーズごとの微妙なニュアンスの変化も巧みで、非常にクォリティの高い仕上がり。カデンツァも短いながらキラリと光るセンスがあって唸らされます。
続くウン・ポコ・アダージョも爽やかさ保ちながら、じわりと情感を漂わせるもの。特にフランツのピアノの磨き込まれたクリスタルのように青白く光る冷徹な美しさがたまりません。この楽章ではテンポを比較的自在に動かしてメロディーを唄わせますが、キリリと引き締まった表情はしっかり保ちます。
フィナーレは再びキレ味抜群。オケの軽々とした吹き上がりが痛快。キレ味とデリケートさを両面持ち合わせたピアノが華を添えます。ピアノの鮮やかなタッチと展開部の高揚感、骨格のしっかりした構成と言うことなし。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
ハイドンの真作ではない可能性からか録音の少ないHob.XVIII:9ですが、この演奏で聴くと実に面白い。序奏からユニークな曲想に手に汗握る面白さ。フランツは前曲とはスタンスを変えて、曲想の面白さを際立たせるべく、実に自在に表情をコントロール。基本的にタッチの鮮やかさを保ちながら、オケとの絶妙な掛け合いを演じます。それにしてもこの曲のアイデアの多彩さには驚くばかり。
続くアダージョは短調でロマンティック。フランツは曲を楽しむように美しい音色を響かせます。
終楽章はTempo di Minuettoの指示のとおり、終楽章としてはゆったりとしたテンポで音楽を楽しむように、おおらかに起伏をつけながら時折アクセントを利かせてサラリとまとめます。

Hob.XVIII:2 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
元々オルガン協奏曲ですが、あえてピアノで弾いてくるところ、前曲のような曲を選曲してくるところになんとなくこのアルバムの意図が見えてきた感じ。耳に残るオルガンの音色での曲想を洗い流すようなクリアなピアノのタッチの美しさが際立ちます。オケも非常に純度が高く、相当な腕利き揃いでソロイスツ・アンサンブルの呼称に偽りなし。この曲ではピアノに増してオケの表現の幅の大きさが聴きどころ。各パートがフレーズごとに新鮮な響きを創ることにこだわっているよう。
続く2楽章は、もともとオルガンの音色の陶酔感で聴かせる楽章ですが、ここでもピアノのキリッとしたメロディーと、響きに変化をつけたオケの掛け合いで、この曲の違った魅力にスポットライトを当てています。1曲目の純粋なキレの良さとは全く異なった演奏は、曲ごとにコンセプトをしっかりもって演奏を組み立てている感じ。オルガンの低音で聴かせるところも、しっかりピアノで演出できていますが、少々無理がある感じで、このあたりは逆に楽器の特性を踏まえて作曲していたハイドンの巧みな手腕をかえって際立たせている感じ。
最後のアレグロは驚くほどさらりとした速めのテンポで意表をついた序奏。ピアノが入るとオルガンよりもキレのいいところを生かして快速テンポで、この曲の高揚感というかトランス状態のような音階の繰り返しをオルガン以上の面白さで表現。オケも恐ろしいほどのキレ味でささえ、この楽章はピアノのでの演奏の面白さ満点。見事です。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
最後の曲はピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロによるディヴェルティメント。ハイドンのディヴェルティメントらしい愉悦感に富んだ音楽。フランツのキリリとしたピアノを中心にホルンとヴァイオリン、チェロが楽しげにメロディーを重ねます。協奏曲とはまったく異なる音楽の楽しさがありますね。かなり初期の曲ゆえ、ピアノトリオともまた異なり、素朴な面白さ。この曲がなくても協奏曲3曲でアルバムが成立するはずですが、あえてこの曲を収めてきたところは、ピアノをキーにハイドンの音楽の多様性をあえて表現したいということではないかと想像しています。演奏の方は、完全にリラックスして掛け合いを楽しむような演奏。

1曲目の正攻法のキリリと引き締まった演奏を聴いて、冒頭にふれたようにオーソドックスな演奏と感じたわけですが、聴き進むうちにこのアルバムの企画意図の深さがわかってきました。ピアノのカスパール・フランツはかなりの腕前の持ち主。しかも曲に応じて演奏スタイルも明確な意図をもっており、音楽性も確かなものがあります。オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルも腕利き揃いで見事なサポート。私は非常に気に入りました。特に3曲目については意見が分かれるところかもしれませんが、オルガン協奏曲をあえてピアノで弾くという意味がある演奏であり、フランツの意図は買いです(笑) 評価は協奏曲は3曲とも[+++++]、ディヴェルティメントは[++++]とします。

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セバスティアン・クナウアーのピアノ協奏曲集(ハイドン)

意外に手元になかったアルバムを入手。

SebastianKnauer.jpg
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セバスティアン・クナウアー(Sebastian Knauer)のピアノ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲4曲(Hob.XVIII:3、XVIII:11、XVIII:4、XVIII:9)を収めたアルバム。収録は2007年2月15日から18日、ケルンのドイツ放送室内楽ホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

NAXOSのハイドンに関する録音はほとんど手元にある「はず」だったんですが、このアルバムを売り場で見かけて手元の所有盤リストをチェックすると、掲載されていません。コレクションに穴はあるものだということで入手した次第。NAXOSはリリースされ始めた頃は廉価版然とした演奏が多かったんですが、今ではメジャーレーベルもビックリの素晴らしい演奏も少なくないことは皆さんお気づきでしょう。かく言うハイドンの録音に関しても、コダーイ四重奏団の弦楽四重奏曲全集やヤンドーのピアノソナタ全集、交響曲でもニコラス・ウォード指揮のものをはじめとしてレベルの高い演奏が多いですし、最近取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集などは本当にビックリするほどの名演と名盤目白押しです。そのNAXOSのピアノ協奏曲は他に1992年の別の奏者の録音があるのですが、あえてこのアルバムをリリースしてきたということはそれなりの出来で、コレクションをリニューアルする意図があってのことでしょう。

ピアノを弾くセバスティアン・クナウアーははじめて聴く人。調べてみるとBerlin ClassicsやDGなどから何枚かのアルバムをリリースしており、それなりに有名な人のようです。ウェブサイトが見つかりましたのでリンクしておきましょう。

ARTIST - Sebastian Knauer

ちょいワルオヤジのような風貌ですが、私より年下でした(笑) 1971年ハンブルク生まれで、4歳からピアノをはじめ、フィリップ・アントルモン、アンドラーシュ・シフ、クリストフ・エッシェンバッハ、アレクシス・ワイゼンベルクなど名だたるピアニストに師事、13歳でデビューしますが、デビュー曲はこのアルバムにも収録されているハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)。その後はソリストとして世界的に活躍し、直近では2001年に始まったマルセイユ音楽祭の芸術監督を務めているとのことです。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはNAXOSのハイドンの録音では中核を担う人。これまでにいくつかのアルバムを取り上げていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)
2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

特にマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲で見事な伴奏を聴かせたヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管がサポートということで期待の演奏です。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
軽快な序奏から入ります。室内管弦楽団らしい透明感あふれる響きがリズミカルで心地よいですね。ヘルムート・ミュラー=ブリュールの飾らない誠実な伴奏。クナウアーのピアノは実にオーソドックスで誠実なものですが、リズムのキレが良く、適度な抑揚がハイドンの曲にピタリ。力をぬいてのしなやかな音階の部分などをさらりとこなすあたり、軽々と演奏を楽しむ感じで非常にいいですね。このさりげない感じが絶妙です。ソロとオケの息がピタリと合ってこの小協奏曲のファンタジーのような世界を描いていきます。よく聴くとクナウアーのピアノはリズムに微妙な緩急の変化をつけて楽しんでいるよう。カデンツァでもことさらテクニックを誇示することなく、音と戯れるような無邪気さがあります。流石にハイドンの協奏曲でデビューしただけあってハイドンのツボをバッチリ押さえています。
続くラルゴ・カンタービレ。抑えたミュラー=ブリュールの伴奏にさらに抑えたクナウアーのピアノが磨き抜かれた美しいメロディーを置いていきます。デリケートなタッチから生まれる美しさの限りを尽くした素晴らしいメロディーに酔いしれます。なんという幸福感。
そしてそよ風のように爽やかなフィナーレに入ります。ソロもオケも全く力まず、軽やかさを失わずに進みます。次々と変化する曲想を楽しみながら演奏しているよう。抑揚の変化の鮮やかさとソロとオケの絶妙な掛け合いの面白さに痺れます。1曲目から完全にノックアウト。完璧です。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
クナウアーのデビュー曲。ここでもさりげないヘルムート・ミュラー=ブリュールの伴奏は万全。フレーズ毎に表情の変化をつけながら軽快に躍動する伴奏だけでもオケの見事さがわかります。ピアノが入るところふっとテンポ落としますが、クナウアーが軽快なテンポに引きもどし、オケもそれに追随。遊び心満点の入りにニンマリ。クナウアーの速いパッセージのビロードのようにしなやかなタッチが印象的。このタッチがリズムのキレにつながって軽快な印象を保っていることがわかります。アルゲリッチのような火を吹くようなキレ味ではなく穏やかさを伴うキレ味。キレのいいピアノに刺激されてかオケも鮮やかに反応。この曲でもカデンツァはしなやかなタッチと曲想をコラージュしたようなユニークなもの。
前曲で美しさの限りを極めた2楽章ですが、この曲でもクナウアーのピアノの音色の美しさは見事。穏やかな伴奏に乗って、穏やかに描く美しいメロディー。特にカデンツァは息を呑むような孤高の美しさ。このXVIII:11のみパウル・バドゥラ=スコダのカデンツァでそれ以外はクナウアーのオリジナル。
そしてフィナーレは想像どおり軽快。ピアノとオケの掛け合いは軽妙洒脱。この曲をベートーヴェンのように壮大に演奏するものもありますが、本来はこのウィットに富んだ軽さにあるのだとでも言いたそう。聴きなれたこの曲が実に新鮮に響きました。

残りの2曲は簡単に。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
やはり遊び心に満ちた演奏。クナウアーとミュラー=ブリュールがニンマリと微笑みながら演奏している様子が想像できるようです。余裕たっぷりにさらりと演奏している感じが最高です。ゆったりと沈み込む2楽章に、リズムのキレが際立つフィナーレ。こちらも完璧。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
録音数が極端に少ない曲ですが、ハイドンの真作ではない可能性が高い曲とのこと。曲想、ひらめきなど、他の曲とは異なる感じです。演奏の質は変わらないですが、ツボを押さえた感じまではしないのは曲の問題でしょうか。

セバスティアン・クナウアーとヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管によるハイドンのピアノ協奏曲集ですが、ハイドンの協奏曲でデビューしたクナウアーとハイドンを数多く演奏してきたミュラー=ブリュールの息がピタリとあった名演でした。2人ともハイドンの曲の面白さを知り尽くしているからか、まさに軽妙洒脱な演奏。そればかりではなく2楽章の磨き抜かれた美しい響きも絶品。メジャーレーベルのトップアーティストによる演奏に引けをとるどころか、こちらこそハイドンの曲の真髄に迫る演奏といってもいいほど。テクニックの使いどころが違います。本盤、以前取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集同様、NAXOSレーベルを代表する名盤として多くの方に聴いていただきたい素晴らしい仕上がりです。評価は最後の曲をのぞいて[+++++]です。最後の曲も悪くはありませんがオマケという感じでしょうか。

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エドウィン・フィッシャー/ウィーンフィルのピアノ協奏曲(ハイドン)

今日はヒストリカルなアルバム。

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エドウィン・フィッシャー(Edwin Fischer)のピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)などを収めたアルバム。収録は1942年10月28日ウィーンでのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICSですが、新星堂のThe Great Recordings of EMIというシリーズの一枚。

エドウィン・フィッシャーは高明なピアニストであり、手元にもバッハなど何枚かのアルバムがあったはずです。今回このアルバムを手に入れたの機に聴いてみようといろいろひっくりかえして探したのですが見つかりません(苦笑)

仕方なくライナーノーツなどから略歴を紹介しておきましょう。生まれは1886年、スイスのバーゼル。父はバーゼル市管弦楽団のオーボエ奏者とのこと。バーゼル音楽院でハンス・フーバーに師事、1904年に父が亡くなったのを機にベルリンに移り、シュテルン音楽院でリストの弟子だったマルティン・クラウゼに師事。次第にピアニストとして頭角を現します。同音楽院を卒業後演奏活動を開始すると同時にいきなり音楽院で教鞭をとることになります。1920年代以降ベルリン、リューベック、ミュンヘンなどで演奏活動を行い、当初はバッハを得意としていました。1931年、シュナーベルの後任としてベルリン音楽大学ピアノ科の教授に就任し、このころから積極的に録音を残すようになります。1933年にバッハの平均律、1934年にシューベルトの「さすらい人幻想曲」、1937年にフルトヴェングラーの「ピアノと管楽のための交響的協奏曲、そして1942年にフルトヴェングラーとブラームスのピアノ協奏曲2番を録音しています。このアルバムに収められたハイドンはまさにその頃の録音。その後ナチスから逃れるためスイスに戻り、1958年までルツェルン音楽院で教鞭をとります。1950年にはバッハの没後200年を記念してヨーロッパの主要都市でバッハの鍵盤用の全協奏曲を演奏、その後1954年まで演奏、録音活動を続けましたが神経性の腕の麻痺などに悩まされ、54年以降は録音から遠ざかり指揮などで活躍。亡くなったのは1960年、チューリッヒで。74歳でした。

同時代の演奏家である、コルトー、ギーゼキング、フルトヴェングラーと親交がありたびたび共演、またヴァイオリンのクーレンカンプ、チェロのマイナルディとはトリオを結成していた。クーレンカンプ没後シュナイダーハンが加わったとのこと。ピアニストのバドゥラ=スコダ、バレンボイム、ブレンデルはフィッシャー門下ということで教育者としても多くの名演奏家を育てた人でした。

このアルバムにはハイドンの協奏曲の他に、1937年収録のモーツァルトのピアノ協奏曲17番(K.453)、ダラバーゴの教会のための4声の協奏曲 作品2の9が収められています。ハイドン以外のオケはフィッシャー自身が1934年に結成した室内管弦楽団です。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
原盤は独ElectrolaのSP盤。ヒスノイズとわずかにスクラッチノイズが聴こえますが音質は良好。ちょっと低域が薄いですがキレは十分。もちろんモノラルです。速めの快活なテンポに乗ってウィーンフィルのキレのいい弦楽セクションが伴奏で入ります。フィッシャーのピアノは鮮烈なキレ味。速めのテンポに合わせて実に鮮やかなタッチで音階を刻んでいきます。くっきりとアクセントをつけて音楽が立体的に浮かび上がります。ちょっとドイツ風の重厚な演奏を想像していたのですが、ドイツ風のくっきりした面は感じさせつつもここまでキレたタッチを聴くことができるとは思いませんでした。録音の古さを脳内フィルターで除去するとドイツ風なアルゲリッチのようなピアノのキレ。いやいや見事なタッチです。さらりとしながらもくっきりと香り立つハイドンの古典的楽興。見事な1楽章です。
2楽章は先ほどまでの軽快さから一転、ぐっとウィーンフィルが沈み込み、なかなか深い情感を感じさせます。それに合わせてフィッシャーのピアノは今度は磨き抜かれた輝きを発します。ピークでちょっと音が歪むのはご愛嬌ですが、やはり脳内フィルターで録音のアラを除去すると素晴らしい音楽が流れます。ピアノのメロディーと伴奏のコントラストをかなりはっきりとつけるところなど、現代のピアニストでもこれだけの表現はなかなか聴くことができません。リリカルなメロディーが沁みますが、さすがフィッシャーとウィーンフィルの演奏だけあって高雅さも失いません。カデンツァはシンプルながらピアノの音の美しさは感極まるほど。極上のの輝き。ハイドンの協奏曲のピアノの輝きの極北。最後に暖かい音色のオケが向かいに来るところの安心感はすばらしいものがあります。
フィナーレは再びフィッシャーのピアノの鮮やかなタッチを堪能できます。ピアノの音階はまったく抵抗なく転がり、タッチが冴え渡ります。並のピアニストとは次元の違うタッチの冴え。これを実演で聴いたら鳥肌ものでしょう。最後は迫力よりもキレ味で聴かせて終わります。

このあとのモーツァルトのピアノ協奏曲もハイドン同様の魅力をもった素晴らしい演奏です。録音はさらに古いですが原盤のコンディションが良くノイズは逆に少なく聴きやすい録音です。こちらもオススメ。

エドウィン・フィッシャーのピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲でしたが、あらためてエドウィン・フィッシャーという人の偉大さを再認識した次第。今聴くと録音のアラが少々気にならなくはないですが、その録音の奥に広がる深淵な魅力は十分伝わります。冴え冴えとしたタッチ、くっきりと浮かび上がるメロディー、恐ろしく立体感にあふれた音楽、そして気高さもあり、ピアノという楽器の表現できる音楽の素晴らしさに打ちのめされた感じ。脳内にアドレナリンが充満です(笑)。もちろん評価は[+++++]。ヒストリカル好きな方は是非入手すべき素晴らしい演奏です。

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【新着】ジャン=エフラム・バヴゼのピアノ協奏曲集(ハイドン)

ソナタ集を続々とリリースしているバヴゼの協奏曲集がリリースされました。早速レビュー。

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ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet)のピアノ、ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)指揮のマンチェスター・カメラータ(Manchester Camerata)の演奏によるハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は2013年10月14日と15日、英マンチェスターの王立ノーザン音楽大学のコンサートホールでのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

バヴゼのアルバムはソナタ集を過去に2度取り上げています。ソナタ集は現在第5巻までリリースされており、その途中で協奏曲集をリリースしたというところ。

2012/06/14 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.3
2012/05/22 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.1

これまでのソナタの演奏を聴く限り、フランスっぽい色彩感とドイツっぽい質実さを併せ持つ演奏スタイルの人。ソナタではピアニストの個性がそのまま出ますが、協奏曲ではオケとの丁々発止のやり取りがあり、指揮者やオケとの相性も加わるため、バヴゼの別の面が見えるかもしれませんね。

バヴゼの経歴などはソナタ集Vol.1の記事を御覧ください。指揮者のガボール・タカーチ=ナジは名前から予感はしてましたが、なんと、あのタカーチ四重奏団の元第1ヴァイオリン奏者。現在はマンチェスター・カメラータの音楽監督となっています。ということでバヴゼのピアノとともにガボール・タカーチ=ナジのコントロールするオケ、とりわけ弦楽セクションに関心が集まりますね。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
柔らかな肌触りのオケがしっとりとした伴奏を聴かせ、バブゼがクッキリとしたピアノで入ります。オケの生成りの音色に対し、クリアなバヴゼのYAMAHAのピアノの対比がわかりやすいですね。オケに比べてピアノのリアリティがちょっと弱いバランスの録音。鮮度は十分なので、これはバランスの問題でしょう。音量を上げると非常に鮮明な録音であることがわかります。バヴゼの転がるようなタッチが演奏に色彩感を与え、オケの方は実にタイトで堅実な演奏。パブゼはときおりアドリブをかまそうとしますが、オケの方は一貫して堅実。ノンヴィブラートの弦の透明感のある響きにときおりホルンの心地よい響きが加わり、いい感じ。カデンツァはバヴゼのオリジナルということでコンパクトにピアノのテクニックをさらりと聴かせるような粋なもの。
2楽章のラルゴ・カンタービレに入るとバヴゼのピアノの軽やかな色彩感がぐっと魅力を増します。メロディーを構成する音階もかなり表情をつけ、華麗な響きにしてしまいます。イケメンフランス人ピアナニストの本領発揮。すれ違いざまにコロンが香るような芳しい音楽。カデンツァはまるでドビュッシーの音楽のような夢の中にいるような天上の響き。
フィナーレはオケの鮮烈さが印象的。快速テンポに乗ってバヴゼのピアノはまさに自在に転がり回るよう。この曲がこれほどまでに迫力のある曲だと改めて気づかされるような演奏。ハイドンの曲ということを忘れてしまいそうになる芳しい爽快感。これは見事です。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
つづく曲も変わらず鮮度抜群のオケの序奏にいきなり引き込まれます。リズムの面白さが印象的な曲ですが、オケとピアノの豊穣な響きの魅力が素晴らしいですね。冒頭から爽やかな迫力に圧倒されます。やはりガボール・タカーチ=ナジのオーケストラコントロールは並のものではありませんでした。バヴゼの存在感を食うほどの迫力で耳に迫ってきました。
この曲でも2楽章のアダージョ・カンタービレの濃密な響きが特に印象に残ります。やはりオケが表情をつくり、その上でバヴゼが自在にメロディーを操るという構図は変わりません。さすがと思わせるのはバヴゼの個性をしっかりと踏まえてガボール・タカーチ=ナジがオケを操っているところ。
フィナーレは俊敏なオケのスロットルコントロールが聴きどころ。オーケストラコントロールにエクスタシーを感じるほどのキレ味。バヴゼもそれに詩情あふれるピアノの響きで応えます。切れ味を競いあうような緊迫感あるセッション。疾風のように駆け抜けます。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後はハイドンのピアノ協奏曲の代表曲。これまでの曲で聴かせた先鋭なアタックをすこし抑えて聴きなれたフレーズを演奏していますが、そこここにキレ味鋭い響きをちりばめ、隙あらばキレまくってしまいそうな不気味な迫力を感じさせながら演奏を進めます。徐々にバヴゼのピアノのアタックに迫力が増し、オケも鋭敏に反応するようになります。オーソドックスな演奏ながら尋常ではないキレ味がスリルを加えて実に見事な展開。カデンツァでは鮮やかな指さばきと和音の織りなす響きの変化を存分に聴かせて曲の成熟度合いに応じたスタンスの変化を聴かせる余裕ぶり。
曲の美しさに敬意をはらってか、前2曲よりも表現は穏やかになり、曲自体の美しさに語らせる演奏。バヴゼの詩情の表現はあいかわらず芳しく、スタイリッシュ。オケもエキセントリックに美麗な響きを聴かせます。
フィナーレの力感は期待通り。前2曲に近いエネルギーの凝縮とキレ。やはりオケの迫力が尋常ではありません。ともすると単調になりがちなこのフィナーレに迫力とテンポの波を持ち込み、フレッシュに再生。最後はオケの響きがぐっと凝縮して終わります。

ジャン=エフラム・バヴゼとガボール・タカーチ=ナジ指揮のマンチェスター・カメラータの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲集。タカーチ四重奏団を率いた指揮者のコントロールはもう少し弦を歌わせるものとの先入観を粉々に打ち砕く鮮烈なオーケストラコントロールで度肝を抜かれました。バヴゼのピアノソナタ集で感じた気品に傾いた演奏ではなく、バヴゼの個性をふまえてガボール・タカーチ=ナジがど迫力のオケでサポートする、個性と個性を重なりあわせて音楽の魅力が倍増しています。やはりオケの魅力が勝るでしょうか。バブゼには申し訳ありませんが、ソナタ集よりもこちらの方が気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

さてさて、本日は月末ですが、この記事を書きかけたまま終わるわけにもいかず、まずはこの記事をアップします。今月の1枚は月をまたいでしまいますが、明日アップ予定です。

11月はまたもや湖国JHさんから送り込まれたアルバムが溜まっていますので、じっくり取り上げようと思います。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:4 ピアノ協奏曲XVIII:11

【新着】アレクサンドル・タローのピアノ協奏曲(ハイドン)

今日は新着アルバム。ちょっと驚く演奏。

Tharaud.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アレクサンドル・タロー(Alexandre Tharaud)のピアノ、ベルナール・ラバディ(Bernard Labadie)指揮のレ・ヴィオロン・ドゥ・ロワ(Les Violons du Roy)の演奏で、モーツァルトのピアノ協奏曲9番「ジュノム」、コンサートロンド(K.386)、レチタティーヴォとアリア「どうしてあなたを忘れられよう」 (K.505)、ハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)の4曲を収めたアルバム。収録は2013年8月11日から15日にかけて、カナダのケベック州、ケベックシティーの北東のセントローレンス川沿いの宿泊施設、ドメーヌ・フォゲット(Domaine Forget)でのセッション録音。レーベルはERATO。

アレクサンドル・タローは初めて聴く人。調べてみると、最近かなり活躍している人のようです。1968年生まれのフランス人ピアニスト。パリ国立高等音楽院で学び、1989年ARDミュンヘン国際音楽コンクールで第2位となって以来国際的なに活躍しています。harmonia mundi、ERATO、NAXOSなどにかなりの録音があり、人気のほどが窺えます。普段ハイドンばかり聴いていますので、世情に疎いので知らなかったということでしょう(笑)

さて、このアルバム、前半にモーツァルトが3曲置かれているので、ジュノムから聴いてみると、最新の鮮明な録音で捉えられたキレのいいオケに、キラキラと輝くピアノが魅力的な演奏。ただ、リズムが意外に重く、テンポを自在に揺らして表現意欲は感じるのですが、もうひとキレ欲しいというのが正直なところ。新鮮な響きを意図している割にはオーソドックスにまとめてきました。ジュノムは名演が多いので、新鮮さだけでは、我々の耳をうならせるには十分ではありません。続くコンサートロンドに入ると、オケもピアノも一皮剥けたように表現の幅が広がります。実にしなやかにモーツァルトの曲を転がしていきます。ジュノムを聴き始めたときにはこのアルバムをレビューに取り上げるのを躊躇しましたが、少し持ち直した感じ。ということで、歌曲を飛ばしてハイドンの協奏曲にを聴き始めますが、、、 これはどうしたことでしょう!

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
冒頭から快速テンポで、しかも恐ろしいまでにオケがキレてます。素晴らしい推進力! このアルバムでなぜハイドンを冒頭にもって来なかったのかが疑問に感じるほどインパクトのある入り。モーツァルトとは別格の演奏です。オケのエネルギーに煽られるようにタローのピアノも生気がみなぎり、軽いタッチの音階も鬼気迫る感じ。速い部分とスロットルをもどす部分の対比をかなり明確につけていくのはモーツァルトと同様ですが、明らかにこちらの方がキレてます。しなやかに完成度高く構成する演奏とは全く異なり、推進力とキレの塊が噴出するような演奏。これまでこのタイプの演奏はいくつかありましたが、最も成功している例でしょう。カデンツァは現代風というよりは過去へのオマージュのような独特のもの。キレたオケが迎えに来て1楽章を終えます。
2楽章は固かったジュノムとは異なり、オケもピアノもしなやかで、そこここに閃きがちりばめられた秀演。ピアノの右手の輝きとさっぱりとキレの良いフレージングが実に心地よい音楽をつくっていきます。終盤ホールのせいかピアノの低音と低音弦がじつに豊かに鳴る音程があります。大波のように迫ってくる独特の響き。カデンツァを含めてこれまでに聴いたことのない独特の世界観。かなり個性的な演奏です。
期待のフィナーレは1楽章以上にオケもピアノもオケもキレて、ちょっとキレ過ぎなほど。なぜかどこかを叩く音が加わり、パーカッション的効果を生んでいます。キレたジャズの演奏を聴くような陶酔感。途中不協和音が混じるところでも山下洋輔が鍵盤を肘で叩くような音がします(笑) やりたい放題のキレっぷりですが、不思議と嫌味な感じはしません。驚いたのはカデンツァにトルコ行進曲のフレーズが登場、いやいや、これはすごい。最後はカミソリのようなキレを聴かせて終わります。

いやいや、これは驚きの演奏。最初に置かれたジュノム。おそらくこれは前座としてあえて置かれたのでしょう。ハイドンの協奏曲のこのキレっぷりに比べると、失敗としか言えないオーソドックスさ。このアルバムの構成はこれはこれで見事。このアルバムを買った人をどう驚かせようか苦心の跡が見えます(笑) ハイドンの曲は構成が緻密なだけに、中途半端に表現意欲を加えると、わざとらしくてイマイチなことが多いのですが、ここまで吹っ切れていると逆に新鮮です。私は気に入りました。このアレクサンドル・タローという人のアルバム、皆こうなのでしょうか、気になります(笑) 評価はもちろん[+++++]を進呈です。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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