カスパール・フランツ/カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルのピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は協奏曲のアルバム。こちらも湖国JHさんから送り込まれたもの。

CasparFrantz.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

カスパール・フランツ(Caspar Frantz)のピアノ、カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブル(Solistenensemble Kaleidoskop)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:11、XVIII:9、XVIII:2)と、ピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロのためのディヴェルティメント(Hob.XIV:1)の4曲を収めたSACD。収録は2009年1月、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルは独Ars Produktion。

このアルバム、ちょっと聴いてみた印象はキレのいいオーソドックスな演奏で、取り立てて個性的な印象はなく、レビューに取り上げるつもりはなかったんですが、何回か聴いてるうちにジワリと良さを感じてきたもの。SACDらしく透明感あふれる鮮明な録音であるのもいいところです。

カスパール・フランツは1980年、ドイツのデンマーク国境に近い港町キール(Kiel)に生まれたピアニスト。ドイツ国内は言うに及ばず、世界的に活躍しており、ソリストのみならず室内楽の分野でも活躍しているとのこと。彼のサイトを貼っておきましょう。

CASPAR FRANTZ

また、オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルは2006年にチェロ奏者のミカエル・ラウター(Michael Rauter)と指揮者のジュリアン・クエルティ(Julian Kuerti)が設立したベルリンに本拠地を置く若手中心の室内オーケストラ。ライナーノーツには精鋭のイケメンと美女が写っており、本当に若手中心だとわかります(笑) こちらもサイトを貼っておきましょう。

Solistenensemble Kaleidoskop

モノクロのサイトデザインがイケてます。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ハイドンの最も有名なピアノ協奏曲。オケは小編成らしいキビキビとしたもの。速めのテンポの序奏に乗ってカスパール・フランツも小気味良いタッチの非常にキレのいいピアノで応じます。オーソドックスながらリズムの冴えが素晴らしい演奏。録音が鮮明なので、アンサンブルの精緻さが手に取るようにわかります。キレ味ばかりではなく、フレーズごとの微妙なニュアンスの変化も巧みで、非常にクォリティの高い仕上がり。カデンツァも短いながらキラリと光るセンスがあって唸らされます。
続くウン・ポコ・アダージョも爽やかさ保ちながら、じわりと情感を漂わせるもの。特にフランツのピアノの磨き込まれたクリスタルのように青白く光る冷徹な美しさがたまりません。この楽章ではテンポを比較的自在に動かしてメロディーを唄わせますが、キリリと引き締まった表情はしっかり保ちます。
フィナーレは再びキレ味抜群。オケの軽々とした吹き上がりが痛快。キレ味とデリケートさを両面持ち合わせたピアノが華を添えます。ピアノの鮮やかなタッチと展開部の高揚感、骨格のしっかりした構成と言うことなし。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
ハイドンの真作ではない可能性からか録音の少ないHob.XVIII:9ですが、この演奏で聴くと実に面白い。序奏からユニークな曲想に手に汗握る面白さ。フランツは前曲とはスタンスを変えて、曲想の面白さを際立たせるべく、実に自在に表情をコントロール。基本的にタッチの鮮やかさを保ちながら、オケとの絶妙な掛け合いを演じます。それにしてもこの曲のアイデアの多彩さには驚くばかり。
続くアダージョは短調でロマンティック。フランツは曲を楽しむように美しい音色を響かせます。
終楽章はTempo di Minuettoの指示のとおり、終楽章としてはゆったりとしたテンポで音楽を楽しむように、おおらかに起伏をつけながら時折アクセントを利かせてサラリとまとめます。

Hob.XVIII:2 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
元々オルガン協奏曲ですが、あえてピアノで弾いてくるところ、前曲のような曲を選曲してくるところになんとなくこのアルバムの意図が見えてきた感じ。耳に残るオルガンの音色での曲想を洗い流すようなクリアなピアノのタッチの美しさが際立ちます。オケも非常に純度が高く、相当な腕利き揃いでソロイスツ・アンサンブルの呼称に偽りなし。この曲ではピアノに増してオケの表現の幅の大きさが聴きどころ。各パートがフレーズごとに新鮮な響きを創ることにこだわっているよう。
続く2楽章は、もともとオルガンの音色の陶酔感で聴かせる楽章ですが、ここでもピアノのキリッとしたメロディーと、響きに変化をつけたオケの掛け合いで、この曲の違った魅力にスポットライトを当てています。1曲目の純粋なキレの良さとは全く異なった演奏は、曲ごとにコンセプトをしっかりもって演奏を組み立てている感じ。オルガンの低音で聴かせるところも、しっかりピアノで演出できていますが、少々無理がある感じで、このあたりは逆に楽器の特性を踏まえて作曲していたハイドンの巧みな手腕をかえって際立たせている感じ。
最後のアレグロは驚くほどさらりとした速めのテンポで意表をついた序奏。ピアノが入るとオルガンよりもキレのいいところを生かして快速テンポで、この曲の高揚感というかトランス状態のような音階の繰り返しをオルガン以上の面白さで表現。オケも恐ろしいほどのキレ味でささえ、この楽章はピアノのでの演奏の面白さ満点。見事です。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
最後の曲はピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロによるディヴェルティメント。ハイドンのディヴェルティメントらしい愉悦感に富んだ音楽。フランツのキリリとしたピアノを中心にホルンとヴァイオリン、チェロが楽しげにメロディーを重ねます。協奏曲とはまったく異なる音楽の楽しさがありますね。かなり初期の曲ゆえ、ピアノトリオともまた異なり、素朴な面白さ。この曲がなくても協奏曲3曲でアルバムが成立するはずですが、あえてこの曲を収めてきたところは、ピアノをキーにハイドンの音楽の多様性をあえて表現したいということではないかと想像しています。演奏の方は、完全にリラックスして掛け合いを楽しむような演奏。

1曲目の正攻法のキリリと引き締まった演奏を聴いて、冒頭にふれたようにオーソドックスな演奏と感じたわけですが、聴き進むうちにこのアルバムの企画意図の深さがわかってきました。ピアノのカスパール・フランツはかなりの腕前の持ち主。しかも曲に応じて演奏スタイルも明確な意図をもっており、音楽性も確かなものがあります。オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルも腕利き揃いで見事なサポート。私は非常に気に入りました。特に3曲目については意見が分かれるところかもしれませんが、オルガン協奏曲をあえてピアノで弾くという意味がある演奏であり、フランツの意図は買いです(笑) 評価は協奏曲は3曲とも[+++++]、ディヴェルティメントは[++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:2 ピアノ協奏曲XVIII:9 ピアノ五重奏曲

ラ・ディヴィナ・アルモニアの協奏曲集(ハイドン)

12月最初のアルバムは古楽器もの。聴くと幸せになる演奏です。

LaDivinaArmonia.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ロレンツォ・ギエルミ(Lorenzo Ghielmi)指揮のラ・ディヴィナ・アルモニア(La Divina Armonia)の演奏で、ハイドンのオルガン協奏曲(Hob.XVIII:2)、ヴァイオリン協奏曲(VIIa:4)、ヴァイオリン、オルガンと弦楽合奏のための協奏曲(VIII:6)、オルガン協奏曲(VIII:10)の4曲を収めたアルバム。ヴァイオリン協奏曲のヴァイオリンはステーファノ・バルネスキ(Stefano Barnesch)。収録はイタリア北部のロンバルディア州ソンドリオ県ヴァッレ・ディ・コロリーナにある聖囚人聖堂でのセッション録音。レーベルはベルギーのpassacaille。

このアルバムはTOWER RECORDS新宿店で先日手に入れたもの。ネットでは国内盤と輸入盤がありますが、国内盤は輸入盤にマーキュリーが和訳解説をつけてパッケージしたものですので、実質は同じもので、日本語解説の有無のみの違いです。ちなみに私はマーキュリーのものは国内仕様を買うことにしています。少々値段は上がりますが、こうして丁寧に国内向けに地道な仕事をしてくれる会社を応援したいからという趣旨です。ちなみに国内盤に起こしたものはなんとなくアルバムから香る雰囲気まで抜けてしまうような気がしてイマイチ好きになれませんので、こうして輸入盤に国内向けの解説をつけてくれるだけでも十分であり、十分というより、これがベストだと思います。

普段は輸入盤でも英語の解説やネットの情報をコツコツ調べて記事にしていますので、日本語の解説、しかも輸入盤の解説そのものの訳をつけてくれるありがたさは身にしみております(笑)

さて、せっかくなので解説からかいつまんで、奏者の情報を紹介しておきましょう。オケのラ・ディヴィナ・アルモニアはこのアルバムでオルガンと指揮を担当しているロレンツォ・ギエルミによって2005年に設立された古楽器オーケストラ。イタリアを中心に古楽器の腕利き奏者が集まったオケで、2008年以降、ヨーロッパで活躍しているそうです。なんと、昨年、2013年末には来日公演もあったそう。全く知りませんでした。
ロレンツォ・ギエルミはイタリアの古楽鍵盤奏者でオルガン奏者。1991年以来ミラノのサン・シンプリチアーノデイ聖堂のオルガンの奏者を務め、ここで1992年から94年にかけてバッハの作品の連続演奏会を開催して話題となりました。またドイツのブルーンスに関する研究書、フレスコバルディの楽譜の校訂、16~17世紀のオルガン音楽に関する記事の執筆など研究者としても活躍しています。それゆえミラノ市立音楽院での教職、バーゼルのスコラ・カントルムでオルガンの今日教授などの立場にあったそうです。日本には目白の東京カテドラルのオルガンの設置の監修を担当しています。
奏者としては先日ハイドンの第4の交響曲全集の作成に踏み切ったイル・ジャルディーノ・アルモニコの最初期のメンバーとして活躍していました。そんな中、2005年のラ・ディヴィナ・アルモニアを設立し、以後はその音楽監督として活躍しています。
ヴァイオリンのステーファノ・バネルスキはイル・ジャルディーノ・アルモニコのヴァイオリン奏者として活躍した人で、2011年からはイル・ジャルディーノ・アルモニコの音楽監督でもあるそうです。

イタリアの気鋭の古楽器奏者の集まったオケでのハイドンの協奏曲集。いかなる出来でしょうか。

Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
リズミカルに響く古楽器オケの序奏。最近では珍しい一貫したリズムに乗ったノリのよいオケ。ロレンツォ・ギエルミのオルガンも小気味良いリズムに乗ってキレの良い演奏。オルガン協奏曲ではコープマンの古くはPHILIPSの録音が懐かしいところですが、最新の古楽器の録音にしては珍しいオーソドックスな演奏。リズムに素直な演奏が微笑ましくもありますが、表現は徐々に幅が広くなり、色彩感に富んだ千変万化する響き。フレーズの描きかたも丁寧で実に味わい深い音楽です。オルガン協奏曲に共通するちょっとおもちゃっぽい響きの面白さが一貫したリズムでかえって強調されるよう。1楽章も終盤になるとかなりメリハリの効いたヴァイオリンが存在感を主張。オルガンとオケのリズミカルなメロディーのやりとりが続くことでトランス状態寸前に。
2楽章のアダージョ・モルト。1楽章でトランス状態になりかけたんですが、これぞ至福の境地。オルガンの不可思議なメロディーの面白さにすぐに引き込まれます。オルガンはキレの良さばかりではなく聴かせる演奏。途中で転調するところとぐっと音程を下げるところの表現が絶妙。オルガンの低音が出切らないところにゾクゾクします。このメロディーをどうやって描いたかを考えるとハイドンのとてつもない才能に今更驚きまます。オケはすでに癒しに満ちたサポート役に徹して、渾然一体となった素晴らしい音楽に酔いしれます。
フィナーレはこれ以上軽さをうまく表現できないような、そよ風のような入りですが、すぐにリズミカルに響き古楽器の魅力に包まれます。クッキリとアクセント効かせての演奏に慣れているせいか、ラ・ディヴィナ・アルモニアのエッジを落とした柔らかな響きがやけに新鮮に感じます。しなやかな伴奏とはこのこと。フィナーレはやはりオルガンとオケのトランス状態然とした演奏を楽しみます。オルガンという楽器の魅力を万全に表現したハイドンの筆致に感嘆。変奏がドンドン進んで最後は表現が大きくなって遊園地のコーヒーカップをぐるぐる回して目が回ってしまったような陶酔感に包まれます。めくるめく音楽の快感!

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
1曲目からノックアウトですが、頭をリセットしてヴァイオリン協奏曲に入ります。まるでハイドン遊園地で無心に遊びまわるような気分。音楽が躍動し、すべての音楽が耳に心地よく入ってきます。アーティスティックという印象ではなく、躍動する音楽が心にドンドン沁みてくる感じ。ヴァイオリンのステーファノ・バルネスキの弓裁きは自己主張ではなく、やはり遊びまわるような無邪気な音楽の面白さをストレートに表したもの。テクニックは確かで、あまりに自然なリズム感に技巧をまったく感じさせない、真のテクニシャンのよう。微笑みながら演奏を楽しんでいるような実に愉快なヴァイオリンソロ。これもギエルミの指示によるものでしょうか。実に楽しい協奏曲。カデンツァは音楽の神様にいたずら心を捧げるような自在な音楽。これほど聴いて幸せになるヴァイオリン協奏曲ははじめてです。凛々しいハイドンではなくいたずら心を素直に表すようなハイドン。
2楽章のアダージョは圧巻の出来。しなやかな音楽が天上の音楽のように響きます。ヴァイオリンの実にせつない弓裁きに聴き入りますが、オケも合わせてこちらの期待を超える浸透力で音楽をグイグイ進めていき、ただただ聴き惚れるのみ。
フィナーレは弓裁きの妙技を味わうような楽章。コープマンのリズムを超える自在な陶酔感。ヴァイオリンのテクニックも冴え渡りますが、テクニックを誇示するというよりは、あまりに見事なフレージングにテクニックを超越した音楽に到達。やはり遊びまわるような自在さにノックアウト。

Hob.XVIII:6 / Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
そして、名曲ヴィアオリンとオルガンのための協奏曲。演奏のスタイルは変わらず、完成度も完璧。なにより音楽の素朴な躍動に打たれっぱなし。遊びまわるようなヴァイオリンにトランス状態のようなオルガンに感極まりそうなのでレビューは中断(笑) あとは自身で聴いて楽しんで下さい! いやスバラシイ!

Hob.XVIII:10 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (before 1771,1760?)
最後は録音が少ないXVIII:10。曲想が複雑になりますが、ギエルミのオルガンもオケも程よくキレて素晴らしい演奏。この曲でも一貫して音楽を楽しむスタンスは抜群です。

ロレンツォ・ギエルミ操るラ・ディヴィナ・アルモニアの演奏ですが、古楽器かどうかなどまったく問題にならない、素晴らしい音楽への没入感。ハイドンの協奏曲でこれほど楽しい演奏ははじめてです。虚心坦懐に演奏を楽しんでいるのがよくわかります。まさに聴いていて幸せになる演奏です。ギエルミは先日ハイドンの交響曲全集の第1巻をリリースしたイル・ジャルディーノ・アルモニコの初期メンバーでもあり、そのイル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏にも共通するノリの良さを持っています。現代楽器演奏のアンチテーゼとしての古楽器演奏の時代は終わり、ファイに代表される自在な表現と、この演奏に見られる表現を超えた虚心坦懐な音楽を奏でる演奏の時代に突入したのでしょう。あまりの素晴らしさにびっくりしたというのが正直なところです。もちろん評価は全曲[+++++]。皆さん、この演奏を聴いて幸せを感じて下さい!

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:2 ヴァイオリン協奏曲 ヴァイオリンとピアノのための協奏曲XVIII:6 ピアノ協奏曲XVIII:10 古楽器

プロフィール

Daisy


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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

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