【新着】ヴィヴィアヌ・シャッソのアコーディオンによるピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は変り種なんですが、聴いてびっくり、演奏は驚くべきもの。

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ヴィヴィアヌ・シャッソ(Viviane Chassot) のアコーディオン、バーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)による、ハイドンのピアノ協奏曲など4曲(Hob.XVIII:11、XVIII:4、XVIII:3、XVIII:7)を収めたアルバム。収録は2016年9月19日から21日にかけて、フライブルクとバーゼルのちょうど中間あたりにあるドイツのミュールハイム(Müllheim)にあるマーティン教会(martinskirche)でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ハイドンの協奏曲はピアノ、オルガン、ヴァイオリン、チェロ、ホルン、トランペットなど様々な楽器用の曲が作曲されていますが、それぞれ対象の楽器の特性や音色をしっかりと踏まえて書かれており、ソロのメロディーはその楽器でこそといえる響きが存分に活かされたもの。ホルン協奏曲に見られるホルンの低音を聴かせるところなど、まさにそうしたハイドンの周到な筆致の一例です。そうした協奏曲を他の楽器に置き換えて演奏する例は過去にもありました。

鍵盤楽器はオルガン、ハープシコード、フォルテピアノ、ピアノと時代のパースペクティヴを楽しむことができますし、楽器をなかな用意できないリラ・オルガニザータをフルートとオーボエで置き換えたりする例もあります。またピアノ協奏曲をハープで弾くなど、レパートリーの少ない楽器での例などもあります。

今回はピアノ協奏曲とオルガン協奏曲をアコーディオンで演奏するというもの。ハイドンの新譜をチェックしている際にこのアルバムをみかけて、アコーディオンでピアノ協奏曲を演奏するという企画は珍しいもののさして期待もせず、ちょっと美人奏者のルックスに気が緩んでポチりとしましたが、到着して聴いてみてびっくり。アコーディオンという楽器の表現力に驚くばかり。

そもそもアコーディオンは手動でフイゴをコントロールするオルガンのようなものですが、ポイントは2つ。1つは音を出した後に音量を自由に上げ下げできること。アコーディオンといえばピアソラでしょうが、あの多彩な響きはアコーディオンのこの特徴によるものですね。そして今回わかったのがアコーディオンの反応の俊敏さ。オルガンの長いパイプを空気が移動する時間、そして鍵盤からメカニックを通じて弦を打つまでのフリクションにくらべ、アコーディオンの俊敏さは比較にならないほど。このアルバムを聴くと、これまで鍵盤楽器で聴いていた協奏曲とはソロの俊敏さが段違い。鮮やかなメロディーの展開に圧倒されます。もちろん音色は皆さんの想像するアコーディオンの音色であり、ピアノやフォルテピアノとは雰囲気が一変しますが、なによりその俊敏さによって、曲に別の魂が入ったよう。これはすごい。

奏者のヴィヴィアヌ・シャッソは1979年、スイスのチューリッヒ生まれのアコーディオン奏者。12歳からアコーディオンのレッスンを受け、ベルン芸術大学のアコーディオン科に進み、その後様々な賞を受賞。アコーディオンのレパートリー拡大に努めており、デビュー盤はなんとハイドンのソナタ集だったとのことで、すかさず注文! その後ラモーのソナタ集やツィターとのアンサンブルなどの録音があり、このアルバムでメジャーレーベルであるSONY CLASSICALにデビューとのことです。

また、オケはバーゼル室内管ということで、古くはホグクッドの協奏交響曲などの録音によって知られたオケですが、最近では2032年の完結を目指して進められているジョヴァンニ・アントニーニのハイドンの交響曲全集をイル・ジャルディーノ・アルモニコと分担して録音することで知られたオケです。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
序奏は快速テンポで爽やかそのもの。指揮者は置いていませんが、見事な入りに期待が高まります。普段はピアノかフォルテピアノで聴くソロは、アコーディオン独特の音色で置き換えられますが、最初に書いたように、あまりに俊敏な反応にのけ反らんばかり。ピアノやフォルテピアノとは反応速度が全く異なります。オケが快速なのに合わせて、それを上回る俊敏さでソロがグイグイきます。しかも音量のコントロールもダイナミックに変えてきて、うねるように音量を変えてきます。あまりに鮮やかなタッチに楽器の音色の違いが気になるどころか、鮮やかな音色に圧倒されっぱなしの1楽章です。終盤に至るまでに幾度かの波を超えているので、すでに違和感はありません。カデンツァはアコーディオン独特のタッチによりだいぶスッキリとしたもので、聴いているうちに哀愁に包まれる見事なもの。
続く2楽章も入りは序奏の滑らかさが印象的ですが、ソロが入るとアコーディオン独特の音色と俊敏な反応に釘付けになります。聞き進むうちに中盤のアクセントの鮮やかさにさらに釘付け! さすがに自身でフイゴのコントロールをしているだけのことはあります。アコーディオンの音色には慣れてきましたが、俊敏な反応には唸りっぱなしです。やはりカデンツァはアコーディオン独特の世界に入ります。
フィナーレは前2楽章以上に反応の鮮やかさが際立ちます。ソロに触発されて、オケの反応も異次元のレベルに。協奏曲だけにオケの方もソロの勢いに負けじと感覚が冴え渡って火花が散ります。そしてその刺激がソロに戻り、アコーディオンを操るシャッツにも戻って刺激が刺激を呼ぶ展開。あまりに鮮やかな展開に驚くばかり!

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
1曲目で完全にペースを掴まれ、すでにノックアウト気味。何気にオケの方もソロとは関係なく異常に興奮した感覚を保ち、序奏からソロに宣戦布告する始末。もう冴えまくった感覚を競い合うようなシャープな応酬に唖然とするばかり。聴き慣れた曲が鮮やかに蘇り、まるで初めて聴くような新鮮な響きで迫ってきます。ソロのないところでもオケに魂が乗り移っているよう。中間の展開部に入って以降、さらに2段ロケットに点火したような冴え方。もはや鮮やかさを通り越して別の曲を聴くような感覚に陥ります。この曲のカデンツァのキレはもはや神業のレベル。もともとアコーディオンのためにこの曲が書かれたのかと錯覚するほど。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。穏やかな序奏が終わると、まるで中世の宗教音楽のような響きに今度は鳥肌が立つような思い。俊敏さだけではなく、こうした繊細な音色の感覚も持ち合わせていました。不思議な音色に包まれ、峻厳な雰囲気に一変します。アコーディオンという楽器の可能性を感じる楽章。
フィナーレは息を吹き返したようにオケとアコーディオンが乱舞。速いパッセージの音階のキレは他のどの楽器よりも鮮やか。この異次元の鮮やかさがキレまくり、ハイドンの書いたフィナーレのキレ味を飾ります。最後のカデンツァで我々の想像の彼方に行ってしまうことも忘れません(笑) こんなに高い音が出るんですね。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
次はどんな球が飛んでくるのドキドキしながら聴き始めます。すでに原曲がピアノやフォルテピアノのために書かれたことを忘れそうなほどアコーディオンの印象が刷り込まれてしまいました。軽やかな音階にキレ味鋭いアクセント、そしてグッと力むアクセントの連続攻撃にヘロヘロ。この曲ではソロもオケも少し力を抜いたような部分がさらに加わり、完全にペースを握られます。今更ながら同じメロディーからこれほど多彩な表情が生まれることに驚くばかり。アコーディオンという楽器の表現力に驚きます。めくるめくような展開の連続にすでにトランス状態に。音楽が脳にもたらす刺激としては最強の部類ですね。
2楽章は前曲同様、俊敏さではなく抑えた音色の冴えで聴かせる楽章。一定のテンポで訥々と進めていきますが、それでもアコーディオンという楽器の魅力がジワリと伝わります。ヴィヴィアヌ・シャッソという人、テクニックのみならず、音色に関する類い稀な感覚の持ち主と見ました。
フィナーレはこれまでの曲同様、鮮やかにまとめます。

Hob.XVIII:7 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
最後はオルガンのために書かれた曲。フォルテピアノよりもオルガンの方がアコーディオンと音色が近いですが、これまでオルガンで聴いてきた曲でも、これまでの演奏の印象が完全に塗り替えられるほどのインパクトがあります。オケの方も重厚なオルガンとの掛け合いではなく俊敏すぎるアコーディオン相手ということで、前曲までと同様冴えまくった状態で迎え撃ちます。もちろんオルガンの方が絶対音量は上でしょうが、強弱のダイナミクスはアコーディオンに分があり、それが大きな違いを生んでいます。鮮やかに吹き抜けるソロの印象が曲を支配します。
これまでの曲の緩徐楽章とは雰囲気が異なり、アコーディオンがオルガンを再現するような演奏になります。この変化の幅を聴かせるために最後にこの曲を持ってきたのでしょうか。最後までオルガン然とした演奏を保つ見識を持ち合わせているんですね。
そしてフィナーレも、これまでと異なるアプローチ。もちろんキレ味は変わらないんですが、オルガンの音色を意識しているようで、弾け飛ぶような展開には至らず。いやいやこの辺りのアプローチにはシャッソのこだわりを感じます。見事。

冒頭に書いた通り、何気なく手にいれたアルバムでしたが、これは驚きの素晴らしい出来。ハイドンの協奏曲のアルバムの中でも特別な一枚と言っていいでしょう。これまでピアノやフォルテピアノなどで聴いてきた曲が、初めからアコーディオンのために書かれたような説得力を持った演奏です。テクニックはもとより、曲ごとに演奏スタイルもしっかりと考えて演奏しており、ヴィヴィアヌ・シャッツという人の音楽性も類い稀なものです。このアルバム、すべての人に聴いていただく価値がある名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]とします。

このアルバムの記事を書きかけたところで、カンブルランのコンサートに出かけたため、途中のままコンサートの記事を先にアップしたところ別記事のコメントにこのアルバムの凄さを知らせていただく書き込みがありました。いやいや、書いている最中にその記事を予測されたという展開に驚きました(笑)

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ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)

当ブログの読者の皆さまならご存知の通り、トーマス・ファイが倒れる前に録音した交響曲のアルバムのリリース予告されています。予定のリリース日から少し遅れているようですが、そろそろ来るのではないかと心待ちにしております。そのファイのハイドンのアルバムは全て手元にあると思っていたのですが、意外に盲点があり、このアルバムが未入手だと最近気づき、あわてて注文した次第。新たなアルバムが到着するまで、こちらでしのぎます(笑)

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ゲリット・ツィッターバルト(Gerrit Zitterbart)のピアノ、トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は1999年6月、フランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSICS。

トーマス・ファイの振るハイドンの交響曲のシリーズですが、これまで取り上げた回数は10記事にもなります。

2014/08/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のの98番、太鼓連打(ハイドン)
2013/12/01 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲99番,軍隊(ハイドン)
2013/04/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のラメンタチオーネ他
2012/11/20 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!
2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

オケに着目すると、これまでリリースされた22枚のうち、第2巻が今日取り上げるアルバムと同じシュリアバッハ室内管である他はすべてハイデルベルク交響楽団。ハイデルベルク交響楽団の前身がシュリアバッハ室内管ということで、録音時期が1999年以降のアルバムからハイデルベルク響になっているという感じです。ということで、この協奏曲のアルバムは交響曲シリーズの第2巻の「告別」「時の移ろい」を収めたアルバムとともにファイのハイドンの録音の最初期のものということになります。ちなみアルバムの番号を比べてみるとこちらが98.354なのに対し、交響曲の第2巻の方は98.357と若干後。ということでもしかしたら、このアルバムがファイのハイドンの最初の録音ということかもしれませんね。そういった意味でも非常に興味深いアルバムです。

ピアノのソロはゲリット・ツィッターバルト、初めて聴く人かと思いきや、調べてみるとアベッグ・トリオのピアノを担当する人でした。1952年、ドイツのゲッティンゲン(Göttingen)に生まれ、カール・エンゲル、ハンス・ライグラフ、カール・ゼーマンら高名なピアニストに師事し、ドイツ音楽カウンシルのサポートを受けて若手芸術家のためのコンサートシリーズなどに出演。その後いくつかのコンクールで優勝してヨーロッパ各国で活躍するようになりました。1976年にアベッグ・トリオを設立後は室内楽の分野で活躍しています。ファイとはハイドンの前にモーツァルトのピアノ協奏曲の録音があり、ファイのお気に入りのピアニストだったのでしょう。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
ファイの演奏の記憶と比べると随分オーソドックスな伴奏の入り。オケは適度にリズミカルで快活。なんとなくこれからキレキレになりそうな予感を感じさせながらも穏やかさを保ちます。ツィッターバルトのピアノはファイのスタイルをピアノに移したように、適度なコントラストをつけながらクリアにリズムを刻んでいきます。オケもピアノもそこここにキラリと光る輝きがあり、ハイドンの晴朗な曲を爽快さ満点で描いていきます。まるでリズムに戯れて遊んでいるよう。凡庸さは全くなくフレーズの隅々まで閃きに満ちており、これに後年キレがくわわっていったわけですね。ツィッターバルトもかなり表現力。特に高音の抜けるような軽やかさを聴かせどころにして縦横無尽に鍵盤上を走り回る感じがこの曲にぴったり。カデンツァに入るところくらいから、ちょっとスイッチが入り表現意欲に火がつきましたね。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。スイッチの入ったツィッターバルトは冒頭からタッチが冴え渡ります。ピアノの美しいメロディーをシンプルな伴奏で支え、ファイもここはツィッターバルトの引き立て役に徹します。このさりげないメロディーの美しさこそハイドンの真骨頂。絶品です。
フィナーレで攻守交代。ツィッターバルトのタッチのキレは変わらないのですが、今度はファイがこれまで抑えていた才気が解き放たれたように自在にオケを操り、とくにコントラバスの鋭いアクセントをかませながらテンポを上げ、ピアノを煽ります。火花散るようなデッドヒートを繰り広げながらも戯れて遊ぶような余裕があります。いやいや、この頃からキレていますね。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
もうだめです(笑) 完全にファイのペースに引きこまれました。ゾクゾクするような序奏の入りもファイならではのアイデア満載です。ハイドンの書いた曲が完全にファイ流に再構成され、冒頭から冴え渡るリズム感。オケも様々に趣向を凝らしているんですが、ツィッターバルトのピアノもそれに呼応して軽やかさが際立つタッチで応じます。アクセントのつけ方がこれまでの演奏とは全くアプローチが異なり、スリリングさ満点。微妙にテンポを上げ下げしたり、アクセントの変化をつけたりといろいろやりますが、全てが痛快にハマって気持ちのいいことといったらありません。この曲ではカデンツァは時代もスタイルも超えてやりたい放題。ここまでやると逆に吹っ切れていいですね。
続く2楽章は、弱音器付きの弦楽器の潤いをあえて廃した抑えた序奏から入り、ツィッターバルトのピアノの雄弁さに主役を譲ります。あっさりとした伴奏がかえって深みをもたらしているよう。やはりファイは只者ではありません。
フィナーレはこれも痛快なほどの速さでめくるめくように音階の上下を繰り返しながらキレよく曲をまとめていきます。終盤、突然ぐっとテンポを落とすことでカデンツァを引き立たせるあたりの演出は流石です。キレキレで終了。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は有名曲。どうくるかと身構えていると、それをひるがえすようにオーソドックスに入ります。ただし、伴奏の各パートのアクセントのつけ方はファイならではのもので、聴いているうちにどんどんスリリングになっていきます。気づいてみると速めのテンポでグイグイ攻めるファイペース。一貫してトレモロのようにさざめくような音色に乗りながら寄せては返す波のように音楽の波が襲ってきます。これぞファイマジック!
続く2楽章はあえて表情を抑えて曲自体に語らせる大人な対応。この緩徐楽章を一貫して抑え気味にしてくることで、どの曲も両端楽章の冴え方が際立つわけですね。
フィナーレは予想どおり快速テンポで痛快なアクセント連発。ツィッターバルトのピアノもよくぞこれほど指が回ると驚くほどのめくるめくような冴え方。ファイとの呼吸もピタリで、大胆なデフォルメをそこここに散りばめ、もはや溶けてバターになっちゃいそう(ちびくろサンボ!) やはり只者ではありませんね。

ファイの最初期のハイドンの録音であるこのアルバムですが、すでにファイの魅力が満ち溢れていました。この録音のあとに22巻までつづく、いや、今度23巻がリリースされようとしている交響曲全集の録音が始まったわけです。この1枚を聴くだけでもファイの類い稀な才能がよくわかります。ピアノのゲリット・ツィッターバルトもファイと共通する音楽性を持った人で、ピアノもキレキレ。ファイのハイドンの原点たるこのアルバムの出来がその後の交響曲の録音を決定したことがよくわかりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

さて、ファイの新譜はいつ手元につきますやら。ますます楽しみです。

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【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

最近リリーズされたばかりのアルバム。

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リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)とマクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)の指揮するイル・ポモ・ドーロ(Il Pomo D'Oro)によるハイドンの協奏曲などを収めた2枚組のアルバム。収録曲によって指揮者と演奏者がいろいろなので、曲目は下記のレビューをご参照ください。収録は2014年2月7日から26日まで、イタリアヴェネト州ヴィツェンツァ県のロニーゴ(Lonigo)という街のヴィラ・サン・フェルモ(Villa San Fermo)でのセッション録音。

オケのイル・ポモ・ドーロは2012年に設立された若手中心の古楽器オーケストラ。活動はオペラが中心のようです。オケの名前は17世紀に活躍したイタリアのオペラ作曲家アントニオ・チェスティ(Antonio Cesti)のオペラ「黄金のリンゴ(Il Pomo D'Olo)」にちなんだものとのこと。

il pomo d'oro

オケのウェブサイトの写真を見ると本当に若いメンバーばかり。このアルバムは2枚組のCDですが、CD1がヴァイオリンソロも担当するリッカルド・ミナーシの指揮、CD2はハープシコードソロを担当するマクシム・エメリャニチェフの指揮と担当を分けています。ウェブサイトのオーケストラの略歴を見てみると、なんと2016年の1月までの首席指揮者がリッカルド・ミナーシで、新たな首席指揮者がマクシム・エメリャニチェフになるとのこと。このアルバムの録音は2014年ですが、この指揮者の円満な交代を象徴するように、交代の時期を狙ってアルバムを準備してリリースしてきたものと思われます。

リッカルド・ミナーシは1978年ローマ生まれのヴァイオリン奏者、指揮者。これまで、ジョルディ・サヴァール率いるル・コンセール・デ・ナシオン、アッカデミア・ビザンティーナ、コンチェルト・イタリアーノ、イル・ジャルディーノ・アルモニコなどのコンサートマスターを務めてきた実力派。また指揮者としてもリヨン国立歌劇場管弦楽団と合唱団、チューリッヒ室内管など多くのオケを振った経験がありますが、イル・ポモ・ドーロは設立された2012年から2015年まで首席指揮者を務めました。教育者としてもパレルモのベリーニ音楽院やニューヨークのジュリアード音楽院、ヘルシンキのシベリウス音楽院などでマスタークラスなどを開いています。

ハープシコードを弾くマクシム・エメリャニチェフは1988年ロシアのジェルジンスク生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者。まだ若いですがロシア国内の多くのコンクールでの優勝経験があり、またロシアではかなりの数のオーケストラの指揮経験があるようです。最近話題のクルレンツィス指揮ムジカ・エテルナの「フィガロの結婚」で通奏低音フォルテピアノを担当しています。

では、CD1から。指揮はリッカルド・ミナーシ。

Hob.VIIa:4 Violin Concerto [G] (c.1765/70)
まずは、ミナーシ自身がヴァイオリンを弾くヴァイオリン協奏曲。若々しく溌剌とした序奏。古楽器オケですが表現はダイナミックでどちらかというと楽天的な響きが特徴。すぐにミナーシのヴァイオリンソロが入りますが、弾き振りだけにオケとまったく同じスタイルでの演奏。演奏は自由闊達なもので、かなり自在なボウイングで適度な節度をもちながらも随所にアドリブを利かせます。型にはまった音楽とは正反対に、創意を凝らします。録音は鮮明なんですが、ちょっとマイクセッティングが独特なのか、ソロの響きに濁りというかキリリと定位しないきらいがあります。カデンツァも即興性が溢れ出す感じ。なかなか面白い。
アダージョも実に新鮮。ミナーシのヴァイオリンはさすがに実力者だけあって、音色の美しさは格別。しかもしなやかに躍動しながら、音楽が豊かに膨らみます。リズムの角が滑らかに削られ、木質系のしなやかな響きとおおらかな盛り上がり。そしてふと気づくとミナーシの美音の余韻が消え入る美しさに気づきます。弱音のデリケートさ、音量のしなやかなコントロールにうっとり。
フィナーレは古楽器の豊かな響きが速いテンポで引き締められ、豊かな疾走感に溢れた演奏。録音会場に響きわたる強音の余韻と千変万化する響きに打たれます。いやいや、これは新時代の古楽器演奏。音楽が実に楽しく響きます。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
続いてホルン協奏曲。ホルンのソロはヨハンネス・ヒンターホルツァー(Johannes Hinterholzer)。ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、ウィーン・アカデミー、ルーヴル宮音楽隊のホルンを務める人とのこと。オケは全曲同様、弾むリズムで楽天的かつ自在さに富んだ序奏を聴かせます。ヒンターホルツァーのホルンはあえてソロを浮き彫りにするというより、オケの1パートのような素朴な演奏。朗々という感じではなく、雅な音色を活かしてキレ良く聴かせるホルン。テクニックは確かで音が外れるような危うさはありません。実に楽しげなソロ。小気味良いテンポが古楽器ならでは。ホルンのカデンツァは古楽器のホルンから実に多彩な響きを聴かせ、テクニックも万全。
聴かせどころのアダージョは、素朴な古楽器の音色の魅力がしっかり伝わります。ホルンの音程が下がるところの響きのなんとスリリングなこと! 磨き抜かれた演奏とは真逆で、楽器それぞれの音色の微妙な響きの綾と、奏者それぞれの響きの違いを楽しめと言っているよう。これまで聴いた古楽器による演奏とはちょっと聴かせる角度が違います。結果的に実に豊かな音楽が流れます。再びホルンの音程が下がるところでオケの響きの中にホルンが吸い込まれていくような独特の雰囲気。ゾクゾクします。そしてカデンツァでは逆にオケの響きの中からホルンがすっと響いてくる面白さ。響きの変化に耳が集中。
そしてフィナーレもこのホルンとオケの響きの変化に引き込まれつづけます。一貫したリズムで落ち着いてテンポ刻みますが、ソロとオケが完全に一体化してめくるめく響きを繰り出してきます。これほど面白いホルン協奏曲は久しぶり。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
そして、指揮はミナーシ、ハープシコードソロは次期指揮者のエメリャニチェフの組み合わせ。この曲オケの刻むのリズムの面白さが聴きどころ。この曲、手元の所有盤を確認したところ、ピアノかフォルテピアノで弾かれるのが普通で、ハープシコードで弾いているのはコープマン盤ぐらい。ソロが聴き劣りするかと思いきや、まったくそうは感じさせません。エメリャニチェフはハープシコードの繊細な音色を活かしながら、しなやかに響きを変化させ、楽器の音量の限界などを感じさせず、逆に繊細な響きの魅力で聴かせてしまいます。エメリャニチェフはハープシコードのリズムも自在にコントロールして、表現密度でオケに負けません。オケの方も静かなハープシコード相手ということで、若干音量を控えながらも、起伏に富んだダイナミックなサポート。
アダージョは草書体のような筆使いのオケのん伴奏。エメリャニチェフのソロは1楽章以上に実に表現力豊か。しっとりと弾かれる美しいメロディーに静かに聴き入ります。ハープシコードのソロがここまで心に響くとは思いませんでした。
一転してキレのいいフィナーレ。オケに溶け込むように繊細な音色のハープシコードが鮮やかなタッチで飛び回ります。オケとの音色差が大きいのでしっかり分離して聴こえます。もちろん力感は完全にオケ優先ですが、音域のせいか浮かびあがるのはハープシコード。この響きの面白さこそ、ピアノやフォルテピアノでは出せない面白さでしょう。そして最後のカデンツァも素晴らしく鮮やかなハープシコードの音階の嵐に惚れ惚れ。迎えに来たオケとの掛け合いも見事に決まってフィニッシュ。いやいやこの曲の新たな魅力を発見したような新鮮な気持ちになりました。

変わってCD2。今度はハープシコードを弾くマクシム・エメリャニチェフが指揮をとりますが、記事が長くなってきたので、久々に記事を分けて次の記事とすることにしましょう。

ということでCD1の3曲の演奏は全曲[+++++]とします。続きをお楽しみに!

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エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)

年始最初のアルバムは爽やかな音楽を。大好きなクイケンのアルバム。

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エヴァルト・デマイヤー(Ewald Demeyere)のフォルテピアノ、シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のラ・プティット・バンド(La Petite Band)の演奏で、ハイドンのハープシコード協奏曲(Hob.XVIII:4)、ディヴェルティメント(II:20)、ハープシコード協奏曲(XVIII:3)の3曲を収めたSACD。収録は2006年10月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。

クイケンのハイドンのアルバムはほとんど手元にあると思っていたんですが、今日取り上げるアルバムはコレクションの穴でした。慌てて手に入れた次第。

クイケンのアルバムはブログの初期からいろいろ取り上げています。古楽器演奏の草分けの一人ですが、淡々とした演奏から音楽の喜びが滲み出てくるような演奏がハイドンの曲の面白さをあぶり出してくれます。昔の演奏もいいんですが、特に最近のクイケンの演奏は基本的なスタイルは維持しながらも、どこか新機軸を打ち出そうという意欲のようなものが感じられて興味深いんですね。

2015/08/28 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2015/07/19 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン三兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2012/11/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】クイケン/ラ・プティット・バンドの「朝」、「昼」、「晩」
2011/11/23 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」
2011/09/14 : ハイドン–声楽曲 : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのテ・デウム
2011/07/04 : ハイドン–オラトリオ : クイケン/ラ・プティット・バンド1982年の天地創造ライヴ
2011/07/02 : コンサートレポート : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲
2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット
2010/03/21 : ハイドン–交響曲 : クイケンのパリ交響曲集

フォルテピアノを弾くエヴァルト・デマイヤーは、私ははじめて聴く人。1974年生まれのベルギーのフォルテピアノ奏者。アントワープ王立音楽院で音楽理論、ヨス・ファン・インマゼールにハープシコードを学び、卒業後すぐに同音楽院で和声、対位法、フーガを教えるようになりました。2002年にはインマゼールの後を継いでハープシコードの教授に就任。その後はクイケン兄弟などと共演するようになり、ラ・プティット・バンドのメンバーでもあるとのこと。ACCENTからも多くのアルバムがリリースされているということでACCENTの看板奏者といったところでしょう。

普段はピアノで聴くことが多い協奏曲2曲ですが、このアルバムの演奏は、ある意味期待の裏をかかれた感じ。程よい躍動感を期待してアルバムを聴き始めましたが、逆にスタティックな魅力に光を当てた演奏。こちらが持つ曲のイメージをいい意味で壊してくれた感じ。同じ楽譜でもピアノで弾くのとハープシコードで弾くのはアプローチが違うんだよとクイケンがほくそ笑んでいるようです。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
序奏は予想したより遅めのテンポで、溜め気味にゆったりと入ります。録音はACCENTらしい鮮度の高い精緻なもの。デマイヤーのフォルテピアノは典雅そのもの。ゆったりとしたオケに乗って、ハイドンより前の時代の伝統を踏まえたようなクラシカルなテイストに満ちています。リズムも前のめりにならず、逆にすこし遅れ気味に入る非常にリラックスした演奏。ハープシコードの雅な音色の美しさを存分に聴かせようということでしょうか。このテイストに慣れてくると、曲の展開に集中出来るようになってきます。徐々にオケのじわりとつたわるキレの良さに耳が慣れてきます。小細工などなく淡々と進めるあたりがクイケンのコントロールでしょう、テイストだけでいうとブランデンブルク協奏曲の5番を聴いているような気分になります。1楽章は実に落ち着いたもの。
つづくアダージョは癒しというより、孤高の音楽。遅めのテンポと全般に静寂に支配された音楽。無音の部分が多いというのではなく、音楽自体に澄み切った静けさを感じるという意味です。ハイドンがこのような表現を意図していたとは思えませんが、間違いなくこの曲の新境地に踏み込もうとしているように感じます。ゆったりと響くハープシコードの音階の存在感が際立ちます。だんだんクイケンの術中にはまってきました。
フィナーレも思ったほどテンポを上げず、じっくりと弾き進めていきます。ハープシコードの音階にグルグル巻きに絡まれていくよう。デマイヤーの堅実なタッチに加え、オケも安定感抜群で、まったく破綻する気配すらない演奏。

Hob.II:20 Divertimento [F] (1755-57)
つづいてディヴェルティメントから。ごく初期の作品で、ハイドンがシュテファン大聖堂の合唱団を離れ、モルツィン伯爵に仕えるまでの間に作曲したもの。もちろんフォルテピアノは入りません。アレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレの5楽章構成。同じく落ち着いた演奏ながら協奏曲よりはキビキビとしているところを見ると、クイケンの意思といよりデマイヤーの意思で協奏曲が遅めのテンポ設定だった可能性がありますね。メヌエットに入ると純粋に演奏を楽しんでいるように自然な感興が心地よいですね。若書きとはいえ、楽器間のメロディーの受け渡しには早くもハイドンの創造力の萌芽が感じられ、演奏もそうしたアイデアをそこここに感じさせるもの。アダージョはこの曲の聴きどころ。少ない楽器のアンサンブルの中に生気が宿る素晴らしい音楽。すでにメロディーの閃きがキレてます。途中に入るピチカートのなんと美しいこと。息をのむような瞬間。またしてもクイケンの術中にはまった感じ。再び前半のメヌエットとは少し構成を変えながらも、同じように響くメヌエット。ホルンや木管が気持ち良く響きわたり、演奏する喜びがはち切れるよう。ディヴェルティメントの最上の姿でしょう。フィナーレはハッとするような転調と、そうくるのかと驚くような楽器間のメロディーの受け渡しにハイドンのいたずら心が透けて見えるような音楽。いやいや、素晴らしい!

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
再び協奏曲。ゆったりと溜めたリズムは1曲目から予想済みですが、実際に聴くと、音楽の豊かさに圧倒されます。耳がなれたというか、演奏者の創造力と聴き手の創造力の勝負のような緊張感に包まれます。これまでの演奏の垢を落として再構成したような新鮮な音楽に聴こえるのがクイケンのすごいところ。1曲目よりも慣れたせいか、音楽がまとまり、素晴らしい説得力に圧倒される感じ。よく聴くとデマイヤーのハープシコードは落ち着いているばかりではなく、着実なタッチでグイグイ攻めてくるよう。8×10の超細密で階調豊かな写真を見る快感のようなものを感じます。あまりの完成度に鳥肌がたちます。
研ぎ澄まされた美しいメロディーの宝庫であるラルゴ・カンタービレ。ピアノによる美しい演奏に慣れてはいますが、このハープシコードの演奏も全く異なる美しさを持っています。あえてメリハリを強調して、ハープシコードらしさをきアピールしているよう。これまでのどの演奏とも異なる美しさの表現。デマイヤーの音楽もキレてます。
フィナーレは快活キレキレ。このアルバムの総決算のようにデマイヤーの指さばきも一段と鮮やかになり、鮮明な録音にソロとオケが浮かび上がります。落ち着いた中にも漲る生気。最後に鮮やかな手腕を披露して終わります。

シギスヴァルト・クイケン率いるラ・プティット・バンドによる協奏曲とディヴェルティメント。ディヴェルティメントの方は文句なく楽しめる名演奏。協奏曲2曲は、これまでの曲の刷り込みにこだわる人には違和感のある演奏かもしれませんが、私は大いに刺激を受けました。音楽の構成はだれの影響も受けることなく自身の創造力から生み出されたもののようで、これまでの演奏とは異なる、新たな価値を感じるもの。聴き手の創造力が試されるような趣もありますので、人によっては評価が分かれるでしょう。私は全曲[+++++]をつけます。いつもながらクイケンにやられたといったところでしょう。

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セバスティアン・クナウアーのピアノ協奏曲集(ハイドン)

意外に手元になかったアルバムを入手。

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セバスティアン・クナウアー(Sebastian Knauer)のピアノ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲4曲(Hob.XVIII:3、XVIII:11、XVIII:4、XVIII:9)を収めたアルバム。収録は2007年2月15日から18日、ケルンのドイツ放送室内楽ホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

NAXOSのハイドンに関する録音はほとんど手元にある「はず」だったんですが、このアルバムを売り場で見かけて手元の所有盤リストをチェックすると、掲載されていません。コレクションに穴はあるものだということで入手した次第。NAXOSはリリースされ始めた頃は廉価版然とした演奏が多かったんですが、今ではメジャーレーベルもビックリの素晴らしい演奏も少なくないことは皆さんお気づきでしょう。かく言うハイドンの録音に関しても、コダーイ四重奏団の弦楽四重奏曲全集やヤンドーのピアノソナタ全集、交響曲でもニコラス・ウォード指揮のものをはじめとしてレベルの高い演奏が多いですし、最近取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集などは本当にビックリするほどの名演と名盤目白押しです。そのNAXOSのピアノ協奏曲は他に1992年の別の奏者の録音があるのですが、あえてこのアルバムをリリースしてきたということはそれなりの出来で、コレクションをリニューアルする意図があってのことでしょう。

ピアノを弾くセバスティアン・クナウアーははじめて聴く人。調べてみるとBerlin ClassicsやDGなどから何枚かのアルバムをリリースしており、それなりに有名な人のようです。ウェブサイトが見つかりましたのでリンクしておきましょう。

ARTIST - Sebastian Knauer

ちょいワルオヤジのような風貌ですが、私より年下でした(笑) 1971年ハンブルク生まれで、4歳からピアノをはじめ、フィリップ・アントルモン、アンドラーシュ・シフ、クリストフ・エッシェンバッハ、アレクシス・ワイゼンベルクなど名だたるピアニストに師事、13歳でデビューしますが、デビュー曲はこのアルバムにも収録されているハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)。その後はソリストとして世界的に活躍し、直近では2001年に始まったマルセイユ音楽祭の芸術監督を務めているとのことです。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはNAXOSのハイドンの録音では中核を担う人。これまでにいくつかのアルバムを取り上げていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)
2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

特にマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲で見事な伴奏を聴かせたヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管がサポートということで期待の演奏です。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
軽快な序奏から入ります。室内管弦楽団らしい透明感あふれる響きがリズミカルで心地よいですね。ヘルムート・ミュラー=ブリュールの飾らない誠実な伴奏。クナウアーのピアノは実にオーソドックスで誠実なものですが、リズムのキレが良く、適度な抑揚がハイドンの曲にピタリ。力をぬいてのしなやかな音階の部分などをさらりとこなすあたり、軽々と演奏を楽しむ感じで非常にいいですね。このさりげない感じが絶妙です。ソロとオケの息がピタリと合ってこの小協奏曲のファンタジーのような世界を描いていきます。よく聴くとクナウアーのピアノはリズムに微妙な緩急の変化をつけて楽しんでいるよう。カデンツァでもことさらテクニックを誇示することなく、音と戯れるような無邪気さがあります。流石にハイドンの協奏曲でデビューしただけあってハイドンのツボをバッチリ押さえています。
続くラルゴ・カンタービレ。抑えたミュラー=ブリュールの伴奏にさらに抑えたクナウアーのピアノが磨き抜かれた美しいメロディーを置いていきます。デリケートなタッチから生まれる美しさの限りを尽くした素晴らしいメロディーに酔いしれます。なんという幸福感。
そしてそよ風のように爽やかなフィナーレに入ります。ソロもオケも全く力まず、軽やかさを失わずに進みます。次々と変化する曲想を楽しみながら演奏しているよう。抑揚の変化の鮮やかさとソロとオケの絶妙な掛け合いの面白さに痺れます。1曲目から完全にノックアウト。完璧です。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
クナウアーのデビュー曲。ここでもさりげないヘルムート・ミュラー=ブリュールの伴奏は万全。フレーズ毎に表情の変化をつけながら軽快に躍動する伴奏だけでもオケの見事さがわかります。ピアノが入るところふっとテンポ落としますが、クナウアーが軽快なテンポに引きもどし、オケもそれに追随。遊び心満点の入りにニンマリ。クナウアーの速いパッセージのビロードのようにしなやかなタッチが印象的。このタッチがリズムのキレにつながって軽快な印象を保っていることがわかります。アルゲリッチのような火を吹くようなキレ味ではなく穏やかさを伴うキレ味。キレのいいピアノに刺激されてかオケも鮮やかに反応。この曲でもカデンツァはしなやかなタッチと曲想をコラージュしたようなユニークなもの。
前曲で美しさの限りを極めた2楽章ですが、この曲でもクナウアーのピアノの音色の美しさは見事。穏やかな伴奏に乗って、穏やかに描く美しいメロディー。特にカデンツァは息を呑むような孤高の美しさ。このXVIII:11のみパウル・バドゥラ=スコダのカデンツァでそれ以外はクナウアーのオリジナル。
そしてフィナーレは想像どおり軽快。ピアノとオケの掛け合いは軽妙洒脱。この曲をベートーヴェンのように壮大に演奏するものもありますが、本来はこのウィットに富んだ軽さにあるのだとでも言いたそう。聴きなれたこの曲が実に新鮮に響きました。

残りの2曲は簡単に。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
やはり遊び心に満ちた演奏。クナウアーとミュラー=ブリュールがニンマリと微笑みながら演奏している様子が想像できるようです。余裕たっぷりにさらりと演奏している感じが最高です。ゆったりと沈み込む2楽章に、リズムのキレが際立つフィナーレ。こちらも完璧。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
録音数が極端に少ない曲ですが、ハイドンの真作ではない可能性が高い曲とのこと。曲想、ひらめきなど、他の曲とは異なる感じです。演奏の質は変わらないですが、ツボを押さえた感じまではしないのは曲の問題でしょうか。

セバスティアン・クナウアーとヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管によるハイドンのピアノ協奏曲集ですが、ハイドンの協奏曲でデビューしたクナウアーとハイドンを数多く演奏してきたミュラー=ブリュールの息がピタリとあった名演でした。2人ともハイドンの曲の面白さを知り尽くしているからか、まさに軽妙洒脱な演奏。そればかりではなく2楽章の磨き抜かれた美しい響きも絶品。メジャーレーベルのトップアーティストによる演奏に引けをとるどころか、こちらこそハイドンの曲の真髄に迫る演奏といってもいいほど。テクニックの使いどころが違います。本盤、以前取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集同様、NAXOSレーベルを代表する名盤として多くの方に聴いていただきたい素晴らしい仕上がりです。評価は最後の曲をのぞいて[+++++]です。最後の曲も悪くはありませんがオマケという感じでしょうか。

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【新着】ジャン=エフラム・バヴゼのピアノ協奏曲集(ハイドン)

ソナタ集を続々とリリースしているバヴゼの協奏曲集がリリースされました。早速レビュー。

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ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet)のピアノ、ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)指揮のマンチェスター・カメラータ(Manchester Camerata)の演奏によるハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は2013年10月14日と15日、英マンチェスターの王立ノーザン音楽大学のコンサートホールでのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

バヴゼのアルバムはソナタ集を過去に2度取り上げています。ソナタ集は現在第5巻までリリースされており、その途中で協奏曲集をリリースしたというところ。

2012/06/14 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.3
2012/05/22 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.1

これまでのソナタの演奏を聴く限り、フランスっぽい色彩感とドイツっぽい質実さを併せ持つ演奏スタイルの人。ソナタではピアニストの個性がそのまま出ますが、協奏曲ではオケとの丁々発止のやり取りがあり、指揮者やオケとの相性も加わるため、バヴゼの別の面が見えるかもしれませんね。

バヴゼの経歴などはソナタ集Vol.1の記事を御覧ください。指揮者のガボール・タカーチ=ナジは名前から予感はしてましたが、なんと、あのタカーチ四重奏団の元第1ヴァイオリン奏者。現在はマンチェスター・カメラータの音楽監督となっています。ということでバヴゼのピアノとともにガボール・タカーチ=ナジのコントロールするオケ、とりわけ弦楽セクションに関心が集まりますね。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
柔らかな肌触りのオケがしっとりとした伴奏を聴かせ、バブゼがクッキリとしたピアノで入ります。オケの生成りの音色に対し、クリアなバヴゼのYAMAHAのピアノの対比がわかりやすいですね。オケに比べてピアノのリアリティがちょっと弱いバランスの録音。鮮度は十分なので、これはバランスの問題でしょう。音量を上げると非常に鮮明な録音であることがわかります。バヴゼの転がるようなタッチが演奏に色彩感を与え、オケの方は実にタイトで堅実な演奏。パブゼはときおりアドリブをかまそうとしますが、オケの方は一貫して堅実。ノンヴィブラートの弦の透明感のある響きにときおりホルンの心地よい響きが加わり、いい感じ。カデンツァはバヴゼのオリジナルということでコンパクトにピアノのテクニックをさらりと聴かせるような粋なもの。
2楽章のラルゴ・カンタービレに入るとバヴゼのピアノの軽やかな色彩感がぐっと魅力を増します。メロディーを構成する音階もかなり表情をつけ、華麗な響きにしてしまいます。イケメンフランス人ピアナニストの本領発揮。すれ違いざまにコロンが香るような芳しい音楽。カデンツァはまるでドビュッシーの音楽のような夢の中にいるような天上の響き。
フィナーレはオケの鮮烈さが印象的。快速テンポに乗ってバヴゼのピアノはまさに自在に転がり回るよう。この曲がこれほどまでに迫力のある曲だと改めて気づかされるような演奏。ハイドンの曲ということを忘れてしまいそうになる芳しい爽快感。これは見事です。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
つづく曲も変わらず鮮度抜群のオケの序奏にいきなり引き込まれます。リズムの面白さが印象的な曲ですが、オケとピアノの豊穣な響きの魅力が素晴らしいですね。冒頭から爽やかな迫力に圧倒されます。やはりガボール・タカーチ=ナジのオーケストラコントロールは並のものではありませんでした。バヴゼの存在感を食うほどの迫力で耳に迫ってきました。
この曲でも2楽章のアダージョ・カンタービレの濃密な響きが特に印象に残ります。やはりオケが表情をつくり、その上でバヴゼが自在にメロディーを操るという構図は変わりません。さすがと思わせるのはバヴゼの個性をしっかりと踏まえてガボール・タカーチ=ナジがオケを操っているところ。
フィナーレは俊敏なオケのスロットルコントロールが聴きどころ。オーケストラコントロールにエクスタシーを感じるほどのキレ味。バヴゼもそれに詩情あふれるピアノの響きで応えます。切れ味を競いあうような緊迫感あるセッション。疾風のように駆け抜けます。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後はハイドンのピアノ協奏曲の代表曲。これまでの曲で聴かせた先鋭なアタックをすこし抑えて聴きなれたフレーズを演奏していますが、そこここにキレ味鋭い響きをちりばめ、隙あらばキレまくってしまいそうな不気味な迫力を感じさせながら演奏を進めます。徐々にバヴゼのピアノのアタックに迫力が増し、オケも鋭敏に反応するようになります。オーソドックスな演奏ながら尋常ではないキレ味がスリルを加えて実に見事な展開。カデンツァでは鮮やかな指さばきと和音の織りなす響きの変化を存分に聴かせて曲の成熟度合いに応じたスタンスの変化を聴かせる余裕ぶり。
曲の美しさに敬意をはらってか、前2曲よりも表現は穏やかになり、曲自体の美しさに語らせる演奏。バヴゼの詩情の表現はあいかわらず芳しく、スタイリッシュ。オケもエキセントリックに美麗な響きを聴かせます。
フィナーレの力感は期待通り。前2曲に近いエネルギーの凝縮とキレ。やはりオケの迫力が尋常ではありません。ともすると単調になりがちなこのフィナーレに迫力とテンポの波を持ち込み、フレッシュに再生。最後はオケの響きがぐっと凝縮して終わります。

ジャン=エフラム・バヴゼとガボール・タカーチ=ナジ指揮のマンチェスター・カメラータの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲集。タカーチ四重奏団を率いた指揮者のコントロールはもう少し弦を歌わせるものとの先入観を粉々に打ち砕く鮮烈なオーケストラコントロールで度肝を抜かれました。バヴゼのピアノソナタ集で感じた気品に傾いた演奏ではなく、バヴゼの個性をふまえてガボール・タカーチ=ナジがど迫力のオケでサポートする、個性と個性を重なりあわせて音楽の魅力が倍増しています。やはりオケの魅力が勝るでしょうか。バブゼには申し訳ありませんが、ソナタ集よりもこちらの方が気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。

さてさて、本日は月末ですが、この記事を書きかけたまま終わるわけにもいかず、まずはこの記事をアップします。今月の1枚は月をまたいでしまいますが、明日アップ予定です。

11月はまたもや湖国JHさんから送り込まれたアルバムが溜まっていますので、じっくり取り上げようと思います。

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デレク・ハン/ポール・フリーマン/イギリス室内管のピアノ協奏曲集

しばらく交響曲のメジャー盤を取りあげていたので、その間にオークション等で手に入れていたマイナー盤がたまってきました。今日はその中からの1枚。

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デレク・ハン(Derek Han)のピアノ、ポール・フリーマン(Paul Freeman)指揮のイギリス室内管弦楽団の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録年がアルバムに記載されていませんが、ネットなどを調べたところ1993年のようです。録音サイトはロンドンのヘンリー・ウッド・ホール。レーベルは米ジョージア州ロズウェルにあるFANFARE。

このアルバム、オークションで手頃な値段で未入手のハイドンのアルバムを捕獲するという私の日常的な活動で入手したもので、何気ないジャケットからちょっと怪しい妖気が感じられるもの。もしやと思ってCDプレーヤーにかけてみると、これがビックリの名演奏。恐ろしく鋭敏なリズム感をもつピアノときっちりしたオケの掛け合いの妙を楽しめる素晴しい演奏。また、素晴しいアルバムに出会いました。まだまだアンテナさびてませんね。

ピアニストのデレク・ハンは1957年、アメリカ、オハイオ州のコロンバス生まれの中国系アメリカ人ピアニスト。7歳からピアノをはじめ、10歳にはコロンバス交響楽団と早くも共演し、デビューしています。ジュリアード音楽院を卒業後、1977年アテネ国際ピアノコンクールで優勝し頭角を現しました。以後、モスクワフィル、セント・ぺテルスブルクフィル、フィルハーモニア管、このアルバムのイギリス室内管などと共演しています。1989年から1992年まで国立モスクワ交響楽団の芸術アドバイザーを務めました。

指揮のポール・フリーマンは1936年、アメリカ、ヴァージニア州リッチモンド生まれの指揮者。ニューヨーク州とチェスターにあるイーストマン音楽学校で博士課程まで学び、フルブライト奨学生の制度を利用してベルリン芸術大学へ2年間留学しました。帰国後アメリカン交響楽団でピエール・モントゥーについて指揮を学びました。その後ロチェスター歌劇場の音楽監督、ダラス交響楽団、デトロイト交響楽団の副指揮者、ヘルシンキフィルの客演指揮者等を経て、1979年から1989年までカナダのヴィクトリア交響楽団の音楽監督を務めました、1987年にはシカゴシンフォニエッタを設立し音楽監督となっています。最近では1997年からチェコ国立交響楽団の音楽監督及び首席指揮者の地位につくなど、叩き上げの実力者といったところでしょう。

このアルバムのジャケットには「デジタル・サラウンド・サウンド」との気になるコピーがつけられています。ライナーノーツにはスター・ウォーズなどの映画にも使われた音響処理との説明がありますが、これが録音上もちょっと変わったキャラクターとなっています。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
録音の良さをうたうだけあって、オケの響きが非常に生々しい、素晴しいプレゼンス。ヘンリー・ウッド・ホールの美しい響きが部屋の、しかも眼前のかなり近い位置に広がります。ちょっと違和感があるのは、オケとピアノの位置関係。双方ともかなり前に定位していますが、ピアノとオケが別の空間で録られて合成されたような、ちょっと不思議な感覚。良く聴くとホルンも鮮明に重なります。すべての楽器をワンポイントマイクで別々に録って合成したような濁りのない鮮明な定位感。録音は非常に優秀なものですが、定位感のみちょっと違和感を感じるもの。定位感を除けば超優秀Hi-Fi録音というところ。
長々と録音について触れましたが、演奏は冒頭に書いた通り、異次元の素晴しさ。フリーマンのコントロールするイギリス室内管は、まさに最上の伴奏。キリリと引き締まっていながら、味わい深い絶品の伴奏。そして驚くのがデレク・ハンのピアノの恐ろしく鋭敏なリズム感。鋭敏すぎて青い炎のような迫力をもつアムランを超えんばかりのキレ方。ピアノのタッチが恐ろしく正確で、マイクロ・セコンド単位で正確にハイドンの書いた音符を演奏していきます。機械的な演奏ではなく、醸し出される音楽は実に豊か。ピアノのタッチのキレの良さがあまりに素晴しく、メロディーがコロコロと転がっていくよう。これほど美しいソロは聴いたことがありません。絶品。
もう、ラルゴもフィナーレもキレっぱなし。あまりのピアノの素晴しさにのけぞります。指のフリクションがまったくなく、早いパッセージのキレ方は尋常ではありません。間違いなくこの曲のベスト。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
フリーマンのコントロールするイギリス室内管も素晴しい独奏者を得て、ノリにノッています。活き活きとした序奏から、ハンのピアノが入ると素晴しい感興が広がります。特に右手のキレ方が尋常じゃないです。メロディーラインのゾクゾクするような輝き。オケも完璧なサポート。前曲で感極まりましたが、この曲も最高。曲による演奏のばらつきはなく、集中力という言葉を通り越して、音楽自体と一体化した神憑った演奏。レビューする意味を見いだせなくなります、、、
この曲も間違いなくベストの演奏。これほどの演奏があり得たとは。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
そして、最後の名曲XVIII:11も素晴しい演奏。このアルバム、演奏のムラは全くなく、全曲、一点の曇りもない完璧な演奏。カデンツァは宇宙の幽玄さを感じさせるほどのもの。恐ろしく鋭敏な感覚をもって録音に望んでいるのでしょう。正確に弾こうとするあまりに音楽から生気が失われることもあるものですが、ピアノは全曲冴え渡り、圧倒的な輝きを放ち続けていきます。名演奏揃いのこの曲ですが、この曲でもベスト盤としていいでしょう。レビューを書くという思考回路にはもどれず、スリリングな演奏に打たれ続けてしまいました。

このアルバムの素晴しさを、多くのハイドンファンに伝えたいのですが、残念ながらCDとしては入手は難しそうです。amazonのmp3は入手可能ですが、この定位感に若干の違和感はあるものの素晴しい輝きのある録音がmp3でも聴けるかどうかはわかりません。このアルバムの衝撃はシュミット・ゲルテンバッハの「悲しみ」を聴いた時以上のもの。この素晴しさをハイドン自身に聴かせてあげたいですね。評価は全曲[+++++]としますが、これは世界遺産クラスの名演盤です。この演奏を埋もれさせておく訳にはいきませんね。

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【新着】マルカンドレ・アムランのピアノ協奏曲集

このところLP漬けの幸せな日々が続いていますが、ここらで下界に降りて新着アルバムを紹介しておきましょう。

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マルカンドレ・アムラン(Marc-André Hamelin)のピアノ、ベルナール・ラバディ(Bernard Labadie)指揮のル・ヴィオロン・ドゥ・ロワ(Les Violons du Roy)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲 (Hob.XVI:11、XVI:3、XVI:4)の3曲を収めたアルバム。収録は2012年10月1日から4日にかけて、カナダ東北部のケベック・シティーにあるパレモントカームでのセッション録音。レーベルは英hyperion。

アムランはハイドンのピアノソナタを最近3集に渡って録音しており、ハイドンに格別な興味をもっているよう。現代曲を難なく弾きこなす素晴らしいテクニックの持ち主がハイドンに興味をもつと言う事にハイドンのソナタの特別な価値があるような気がします。以前に第3集は当ブログでも取りあげています。

2012/05/17 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】マルカンドレ・アムランのピアノソナタ集3

そのアムランの最新録音はピアノ協奏曲集。ソナタ集では器の大きさを見せつけたアムランですが、協奏曲においても冴え渡るアムランの静かな狂気のようなものが聴かれるでしょうか。

アムランの情報はリンク先の記事をご覧戴くとして、伴奏の方は指揮者もオケも初めて聞く名前故、ちょっと調べておきましょう。

ベルナール・ラバディは1963年、カナダケベック州生まれの指揮者で、ケベック・シティの聖シャルル・ガルニエ大学とラヴァル大学音楽科で学び、1984年彼自身が設立したこのアルバムのオケであるル・ヴィオロン・ドゥ・ロワと、こちらも1985年に設立したケベックオペラの音楽監督を務めている人。アメリカでは知られた人のようで、ニューヨークフィル、ロサンジェルスフィル、フィラデルフィア管などにも客演しているといるとのこと。アムランのサポートを担当するという事ですからそこその実力者でしょう。

さて、ソナタ同様の冴えが聴かれるでしょうか。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
むむむ。冒頭から素晴らしいキレ。アムランのソロが入る以前からオケがキレキレ。透明感溢れる超高精度のオケが抜群のリズムで入ります。もちろんアムランのソロはその伴奏にミクロン単位の精度で応えてピタリと入ります。冒頭の一音からもの凄いスリリングな展開。アムランの冴えは予想通りではありましたが、オケのキレは期待したものとは次元が異なります。むしろオケのキレにのけぞるような素晴らしい演奏。ピアノとオケの火花散る展開ですが、音楽のベクトルが一致しているので一体感もある希有なアンサンブル。これはスゴい。アムランはいつものようにソロだけで高みに達するような演奏ですが、オケも難なくついていきます。この曲のカデンツァは非常に変わったもので響きの変化を楽しめるものですが、ライナーノーツを見るとワンダ・ランドフスカのもの。
2楽章はアムランの恐ろしい精度のピアノの極限まで磨き込まれた美しい響きに支配されます。並のピアニストのリズム感とは次元が異なります。現代音楽に通じた冷徹な印象すら感じさせる険しさもありますが、ハイドンの書いた美しいメロディの陰影がクッキリ浮かび上がり、8X10の大型カメラで精密に録られた写真のような美しいディティールとトーンの変化の多彩さを感じさせる音楽。この楽章のカデンツァもランドフスカのもの。途中宝石箱を開けたような懐かしさと美しさが同居する瞬間もあり、ハイドンのこの曲の新次元を切り開くような素晴らしい演奏。
フィナーレは予想通り、冒頭のキレとキレの対決。なぜかピアノとオケ以外の音が伴奏に入ります。何かを叩いているよう。アムランもオケも冴えまくって聴いている方が切れそう。アムランのキレは古典期の曲の解釈の枠を遥かに飛び出した表現とも取れますが、不思議に違和感はまったくなく、本質を踏み外していないことがわかります。1曲目から圧倒的な迫力。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
続く2曲は簡単に。前曲よりも20年近く前の作曲。ピアノとオケのリズムの響宴。アムランのソロが入るとやはり
鋭いリズム感が冴えまくってます。オケは今度はサポートに徹するような柔らかさもありますが、各奏者のリズム感はかなり鋭敏で緊張感を保ちます。ラバディのコントロールは各パートをクッキリ浮かび上がらせ、各パートそれぞれがアムランのピアノと対峙すするような引き締まったもの。アムランは相変わらす、完璧なリズム感できらめくような美しいピアノの音を置いていきます。この曲のカデンツァはアムラン自身のもので、短くオーソドックス。
この曲の聴き所となる美しいラルゴ・カンタービレはもちろんアムランの独壇場。タッチの確かな抑えた美音の魅力が溢れます。アムラン自身のカデンツァもハッとするような転調を聴かせる見事なもの。
フィナーレは躍動感漲る素晴らしい演奏。再びアムランもオケもキレキレ。コンチェルトの快感がすべて詰まった素晴らしい感興。ピアノの速いパッセージのキレの良さは何も引っかからず、キレが良すぎて逆にさらさら流れていると感じるほど。2曲目も格の違いを見せつけます。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
最後の曲。わずかにピアノの調律が変わった感じがします。アムランも3曲目ということで、ワインでも一杯やってすこしリラックスして弾いているように感じます。もちろんリズムのキレの良さはそのまま。この曲では左手のアタックが特徴的。カデンツァはアムラン自身のものですが、前曲よりも踏み込んで、リズムの面白さと転調の妙を主体とした本格的なもの。ハイドンのコンパクトな協奏曲に華をもたせるようなカデンツァ。
2楽章のアダージョはアムラン自身が過去を懐かしむように、今までになく叙情的なピアノを聴かせます。ここにきて、暖かみのあるゆったりとしたフレージングになります。曲調を踏まえての判断か、最後の曲故の名残惜しさでしょうか。
フィナーレはもはや説明の必要はないでしょう。アムランとオケの絶妙なアンサンブル。鋭敏なリズム感は健在で、触ると切れそうなほどのキレ味。音量を下げたところの静寂感も素晴らしく、やはりこのコンビの素晴らしさをを証明するがごとき完成度でした。

マルカンドレ・アムランの最新作であるハイドンのピアノ協奏曲集。書いたようにアムランもオケも凄まじいばかりのキレを聴かせる名演奏です。アムランが描いたハイドンのピアノ協奏曲は、モーツァルトの美しくセンチメンタルな旋律に溢れたものでも、ベートーヴェンの力感と威厳に満ちたものでもなく、打鍵するピアノの構造の本質にせまる、リズムとピアノの音色の美しさを際立たせるものでした。まさにハイドンのピアノ協奏曲の本質的な魅力を知り尽くしているからこそ出来る名演奏。アムランが最近ハイドンの録音を集中的にこなしてきた意味がわかりました。このアルバム、ハイドンのピアノ協奏曲演奏の新次元を開く偉業と断定します。もちろん評価は[+++++]。オケと録音の優秀さも素晴らしいものでした。

たびたびで恐縮ですが、当ブログの読者であるコアなハイドンファンの皆様。買いです。このリズムのキレに打たれるべきです。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:4 ハイドン入門者向け

アンスネス/ノルウェー室内管のピアノ協奏曲集

今日も好きなアルバム。

Andsnes.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

レイフ・オヴェ・アンスネス(Leif Ove Andsnes)のピアノとノルウェー室内管弦楽団(Norwegian Chamber Orhestra)によるハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。アンスネスの弾き振りです。収録は1998年6月、ノルウェーの首都オスロのロメンダーレン教会でのセッション録音。レーベルは名門EMI CLASSICS。

アンスネスは1970年のノルウェーの南西端に近い街、カルモイ(Karmøy)生まれのピアニスト。ノルウェーのベルゲン音楽院で学び、1987年に地元オスロでデビューし、イギリスではその翌々年オスロフィルハーモニーとの共演でエジンバラ音楽祭に登場、そしてアメリカではネーメ・ヤルヴィの指揮によるクリーヴランド管弦楽団との共演でデビューするなど華々しい経歴の持ち主。

お国柄かグリークを得意としているようですが、この人の他のアルバムを聴いた事はありません。ノルウェーらしいかどうかわかりませんが、氷の結晶のような独特の透明感をもったピアノのが印象的な人。以前取りあげたベルグルンドのハイドン同様、北欧の澄んだ空気のような素晴らしい透明感を感じる演奏で、好んで聴いてきたアルバムです。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
十分に彫りの深い現代楽器オケによる序奏。切れ味抜群の入りです。弾き振りならではのオケとソロが引き締まった響きを構成。ピアノはアンスネスらしい純度の高い氷の結晶のような響き。溜めはなくキビキビとした推進力に溢れた演奏です。ピアノのリズムの正確さはもとより、オケのコントロールも非常に緻密。オケ自体も俊敏な反応で、アバドの振るヨーロッパ室内管のような切れ味。特に低音弦群の引き締まった響きがオケのキレを一層タイトな印象にしています。きらめくピアノを鮮度の高いオケが支える理想的な演奏。
アダージョはゆったりしたというよりは純水のような純度の高さを感じさせる演奏。オケは抑え気味にしてピアノの響きの美しさに音楽を語らせるような展開。
フィナーレは期待どおり、クリアな響きによる爽快なもの。相変わらずのクッキリとしたメリハリと純度の高いピアノの響きが一気に吹き抜けるような楽章。1曲目からアンスネスらしさが非常に色濃く出た演奏です。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
曲の成熟にあわせてオケも鮮度重視から、すこししなやかさを増した印象。ピアノのクリアな響きは変わらず、おケも鮮度は相当な物。1998年の演奏ですが、オケの弦楽器はヴィブラートはかなり抑え気味なことが鮮度の高い響きにつながっているのでしょう。ノルウェー室内管、相当なテクニシャン揃いと見受けました。この曲ではピアノとオケの掛け合い的スリリングさも楽しめる演奏になってます。
2楽章のラルゴは詩情溢れる曲想ですが、アンスネスのコントロールは終始ピアノの淡々としたきらめきできかせようというもの。純音楽的な美しさで通します。決して緩まず、まさに透き通った氷の結晶のような音楽。2楽章の終わりは静けさに吸い込まれるように終わります。
フィナーレはその静けさを突き破るように切り込み、フルスロットルのオケとピアノの掛け合い。オケのプレゼンスはあくまでも引き締まったもの。ここまで緊張感をたもっているのはやはりアンスネスのコントロールが行き渡っているからでしょう。この曲も完璧。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
そして最後は名曲XVIII:11。どうしても過去の演奏の影響を感じさせてしまう演奏が多い中、アンスネスは純度の高いピアノの響きに加えてタイトなオーケストラをかなり禁欲的に引き締ることで、アンスネスの演奏という印象をきっちり作っています。ここでもオーケストレイションは見事。ピアノよりも指揮者としての腕前の方をほめたくなるくらいしっかりした伴奏。ピアノも清流のごときどこも引っかかりのない見事なタッチで流します。まさに音楽の純度を極めたような演奏。ハイドンの楽譜から磨き抜かれた音楽がクッキリと浮かび上がります。
緩徐楽章は抑制の美学の極み。どの音を抑えるかを巧みにコントロールして響きを削ぎ落しながらも、音楽は継続していきます。深みのあるフレージングではありませんが、磨き抜かれた響き自体に語らせるスタイル。美音に包まれる快感にどっぷり浸かる感じです。
フィナーレは言わずもがなです。自在に転がるピアノ美音と、コントロールが行き渡ったオーケストラによる澄み切った境地。決して勢いまかせにならないところが流石です。

レイフ・オヴェ・アンスネスとノルウェー室内管弦楽団によるハイドンのピアノ協奏曲はまるでダイヤモンドのような素晴らしい輝きのピアノと引き締まったオーケストラが渾然一体となった、極めて純度の高い演奏でした。ハイドンらしさ、古典らしさとはちょっと異なる印象。やはり北欧の澄んだ空気のようなものを感じさせるのが不思議なところです。我々の想像なのか、それともアンスネスの育った音楽環境の影響なのかはわかりませんが、この演奏には明らかに北欧を感じます。ハイドンのピアノ協奏曲の定番になりうるスタンダードなものではありませんが、ハイドンのピアノ協奏曲の演奏の一つの姿を極めた演奏である事に異論はありません。評価は3曲とも[+++++]とします。

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【新着】オリヴァー・シュニーダー/イギリス室内管のピアノ協奏曲集

いや、今週は仕事が忙しかったです。4日に分けてようやく書いた記事。
最近HMV ONLINEから届いたアルバム。

Schnyder.jpg
HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS

オリヴァー・シュニーダー(Oliver Schnyder)のピアノ、アンドリュー・ワトキンソン(Andrew Watkinson)指揮のアカデミー室内管弦楽団(Academy of St Martin in the Fields)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は2011年12月15日、16日、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでのセッション録音。レーベルは今やSONY MUSICグループとなったRCA RED SEAL。

ピアノのオリヴァー・シュニーダーは1973年、スイス、チューリッヒの北西の街、ブルック生まれの若手ピアニスト。チューリッヒ芸術大学でオメロ・フランセシュに、またマンハッタン音楽院でルース・ラレードに、ボルチモアでレオン・フライシャーにピアノを学びました。アメリカ、ワシントンD.C.のジョン・F・ケネディー・センターでのデビューを皮切りに世界中で活躍するピアニストです。

Oliver Schnyder Piano | Offical Site of Pianist Oliver Schnyder

私ははじめて聴く人。HMV ONLINEでは他に数枚のアルバムがあるのみで、このアルバムが看板アーティストとしての本格的なアルバムのようです。ここでハイドンを持ってくるあたりに、いわくがありそうですね。

指揮のアンドリュー・ワトキンソンはイギリス室内管弦楽団、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、ロンドン・シンフォニエッタなどロンドンに拠点をもつほとんどの室内オーケストラを振っている指揮者。このアルバムのオケであるアカデミー室内管弦楽団の音楽監督だった時期もありました。また、彼自身が設立したシティ・オブ・ロンドン・シンフォニアの音楽監督として15年以上にわたって演奏を続けているとのこと。実力派の一人でしょう。ワトキンソンもはじめて聴く人。

ということで、はじめて聴く2人の組み合わせによる協奏曲、どう響くでしょうか。

Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
最新のものらしくキレの良い録音。オケは現代楽器による弾むような響き。音符を切り気味にして爽快感を表現。シュニーダーのピアノはタッチの軽さ、打鍵のキレの良さに神経が行き届いたもの。落ち着いていながらもリズム感のよさはかなりのもの。小編成オケとキレのいいピアノのアンサンブルで表現されたハイドンのピアノ協奏曲。シュニーダーなりの古典の表現でしょう。ワトキンソンの指揮は低音弦の音階に独特の雰囲気のあるこの曲を上手く表現しています。オーソドックスながら今風のキレの良い響きでまとめる手腕はかなりの実力とみました。シュニーダーも後半になるにつれて恍惚感のようなものがにじみ出てきます。驚くのはカデンツァ。ハイドンの協奏曲のカデンツァとは思えない不思議な響き。まるでチックコリアのよう。はっきり言って違和感がある程変わったカデンツァですが、面白い事は面白いもの。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。ここはシュニーダーのテンポ感の良さが最良の形で発揮されます。オケのピチカートとピアノの掛け合いは孤高の響宴。これは見事。
フィナーレはもちろんテンポを上げますが、古典の均衡は崩れず、むしろ速いテンポの爽快感の上に古典の造形美を感じさせる、非常に美しい演奏。基本的に音楽に華があり、ちょっとしたフレーズにもきっちりとメリハリがついて見事な構成感。ピアノもオケも素晴らしいテクニックと音楽性を持ち合わせていることがわかりました。1曲目からグロッキーです。

Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
この曲でもリズムが活き活きと弾んで入り、前曲同様、古典の均衡を感じさせながらディテールはキレキレ。シュニーダーの意図がわかってきました。軽いタッチ、しっかりしたタッチと変幻自在、鮮度抜群のピアノ。やはりカデンツァではかなり踏み込んだ表現をして個性をアピール。それに合わせて、ワトキンソンのコントロールするオケも引き締まった響きでサポート。前曲よりも楽章間の緩急の対比が鮮明。躍動する1楽章、なだらかな丘を散策しながらきらめきを感じる2楽章。力感極まるフィナーレと続きます。ピアノのキレの極致を感じるほどの見事なタッチ。フィニッシュも素晴らしい勢い。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は名曲XVIII:11です。数多の演奏のイメージの交錯する曲ですが、先人の演奏の垢をすべて洗い流したような純粋な響き。オケの鮮度は抜群、ピアノのキレも素晴らしく、このアルバムの最後に相応しい演奏。速めのテンポでグイグイ攻めていきます。ピアノは左手の力感と右手のきらめき感が抜群のリズム感で結びついたもの。クッキリと浮かび上がるメロディーの面白さがうまく表現できています。カデンツァは意表をついたもので、もはやシュニーダーのトレードマークですね。
2楽章は、聴き慣れたこの曲から静けさを引き出し、ピアノ表情をよりクッキリ表しています。オケの表情は素朴でニュアンス豊かというより、響きの純粋さをベースとしたもの。その上でピアノは緩む事なくキリッとした引き締まった響きで規律あるアダージョ。
フィナーレは前曲よりも軽さを意識してメロディーが転がるような流麗さ。ピアノはまさにコロコロ転がるようなタッチです。敢えてすこしメリハリを抑えて流れの良さを強調しているよう。最後はすこし盛り上げてフィニッシュ。

はじめて聴くオリヴァー・シュニーダーのピアノでしたが、かなりの実力者と聴きました。演奏スタイルは、まさにハイドンにピタリと合ったもので、タッチの鮮やかさ、軽やかさはかなりのもの。決してコンセプチュアルなアプローチではありませんが、邪心もなく純粋に音楽を奏でようといういともしっかり伝わります。これからが楽しみなピアニスト。カデンツァで個性を印象づけることも怠らないあたりも、なかなかです。指揮のアンドリュー・ワトキンソンのコントロールもタイトで見事。最近のハイドンのピアノ協奏曲の中ではオススメのアルバムと言えるでしょう。評価は[+++++]とします。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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