オリヴィエ・ロベルティのピアノ協奏曲集(ハイドン)

少々間があいてしまいました。今日は知る人ぞ知るマイナー盤です(笑)

RobertiCon.jpg
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オリヴィエ・ロベルティ(Olivier Roberti)のピアノ、クルト・レーデル(Kurt Redel)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏でハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:9)、ピアノとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、ディヴェルティメント(Hob.XIV:8)、ピアノ協奏曲(Hob.XVIII:5)の4曲を収めたアルバム。収録は1993年1月28日から30日にかけて。収録場所は記載されていません。レーベルは仏PIERRE VERANY。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたもの。聴いてみてなかなか素晴らしい演奏ということで取りあげた次第です。同じ奏者による別のピアノ協奏曲集(Hob.XVIII:11、4、F2、XIV.4)が手元にあり、そちらは1991年の録音。今回聴き比べてみたところ、たった2年さかのぼった録音なだけですが、そちらはピアノもオケもキレがイマイチ。曲の仕上がりにかなりの差があります。前に出たアルバムを聴いてたいしたことないやと思って次にリリースされるアルバムに手を出さないというのはよくあることですが、今回のように、前のリリースよりもはるかにいい演奏という場合もあるので侮れません。

さて奏者の情報ですが、ピアノのオリヴィエ・ロベルティについてはライナーノーツにも情報の記載がなくネットにもあまり詳しい情報がありません。おそらくベルギー生まれのピアニストで、ブリュッセル王立音楽院、ジュネーブ音楽院などで学び、カルロ・ゼッキ、レオン・フライシャー、クラウディオ・アラウなどに師事しています。録音はこのハイドンの協奏曲2枚の他にはメンデルゾーンの協奏曲くらいしかない模様ですが、ヨーロッパでは広く演奏活動をしていたようで、2004年からは小澤征爾がスイスで設立した国際音楽アカデミーの音楽監督をしています。
指揮者のクルト・レーデルは1918年生まれのドイツの指揮者。終戦までドイツ領で現ポーランド領のブレスラウ(ウロツワフ)音楽院で指揮、フルートなどを学び、1938年、20歳の時にマイニンゲン州立オーケストラの首席フルート奏者になりました。1942年にはバイエルン国立オーケストラの首席奏者に就任、1952年にはミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団を創設し音楽監督となりエラートレーベルなどに多くの録音を残していますが、2013年に亡くなられています。日本では今ひとつ知られていない人ですね。

こういった未知の演奏者の素晴らしい演奏を聴くのは無上の喜びなんですね。

Hob.XVIII:9 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (before 1767)
みずみずしく小気味好いオケの序奏。残響は適度で響きの良い会場での録音のよう。オリヴィエ・ロベルティのピアノはオケのキレ味の良さを受けて、絶妙のリズム感。シンプルな曲ほどタッチのキレの鮮やかさが活きてきます。ピアノが実に軽々とリズムを刻み、曲の華やかさが浮かびあがります。この曲自体はハイドンの真作ではない可能性が高い曲ですが、晴朗なメロディーの美しさはなかなかのもの。ハイドンらしい凝った構成感や展開の意外さは少々劣りますが、なかなかいい曲です。鮮度の高い演奏で曲の面白さが際立ちます。
アダージョはしなやかで叙情的な曲。まるでロマン派の曲を聴くよう、オケもピアノもすっと沈み、音色も柔らか。ところどころで明るい響きが射すような微妙な表情の変化が実に美しい。ピアノとオケは完全に一体化して見事に息が合っています。とろけるようなひと時。カデンツァは程よい陰りと美しいピアノの響きがバランスよく表現されています。
フィナーレも力が抜けて余裕たっぷりに流す感じがいいですね。ロベルティのピアノもタッチの軽さを保ったままさらりといきます。そしてクルト・レーデルの振るイギリス室内管もさらりと受け、演奏自体を純粋に楽しむようなおおらかさが滲みます。これだけリラックスしたフィナーレはなかなかありません。1曲目から極上のリラックスした演奏。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
ヴァイオリン独奏は、マチェイ・ラコフスキ(Maciej Rakowski)。この曲でもみずみずしく小気味好いオケの序奏は変わらず。ソロもオケもうまく聴かせようというのではなく、やはり演奏を奏者自身で楽しむような愉悦感に溢れています。ロベルティのピアノは前曲同様。ラコフスキのヴァイオリンはことさら存在感を感じさせるのではなく、ヴァイオリンパートがソロになったような自然なもので、ピアノやオケのとの掛け合いも自然。かえってこの曲のこの演奏ではいい感じにまとまってます。作曲年代的にはシュトルム・ウント・ドラング期のもので、まるでエステルハーザの楽団でニコラウス侯に聴いてもらうための演奏のような素朴なまとまり。
演奏によっては透徹した美しさを引き出してくる2楽章のラルゴですが、ここでも等身大の演奏するための音楽といった風情は変わらず、むしろ素朴な美しさの方が浮かび上がってきます。これはこれで素晴らしい演奏です。
フィナーレでも流れの自然さと余裕は変わりません。協奏曲とはステージ上ではなく、練習場で弾いて楽しむものかもしれないと思ってしまいます。表現意欲にあふれた演奏という感じではありませんが、抗しがたい魅力を持っています。

Hob.XIV:8 Divertimento [C] (c.1768/72)
3楽章で10分弱の小曲。これまでの協奏曲同様の演奏ですが、小編成な分、より響きが純粋になり、虚心坦懐な演奏。ロベルティとレーデルの特質がより活きて、しなやかな演奏。これ以上のどのような演奏も必要ないような説得力に満ちた自然さ。純粋無垢な奏者の心を写したような演奏。絶品です。

Hob.XVIII:5 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
このアルバム最後の曲。完全にロベルティとレーデルの術中にはまっています。冴え冴えとしたテクニックを聴かせるばかりが音楽ではないと言われているよう。演奏する喜びが満ち溢れ、手作りの音楽の素朴な美しさがハイドンの真髄なのでしょう。聴いているうちにメロディーの美しさ、ピアノの響きの美しさ、管弦楽のとろけあうハーモニーの美しさと、音楽のもっとも基本的な魅力の絶大な威力に圧倒されて、聴いているこちらがとろけてしまいそう。オケもピアノも演奏のイメージが完全に重なってソロとオケの対決姿勢など微塵もなく、平和そのもの協奏曲。
つづく2楽章のアンダンテはオケの温かい響きとピアノの響きが溶け合いながら癒しに満ちたメロディーを紡いでいき、そしてフィナーレでは、ピアノが晴れ晴れとしたクリアな響きでオケをリードしながら美しい響きの響かせ合いのごとき風情。さらりと終えるところもなかなかのセンスです。

聴き終えると音楽の喜びに満たされたような幸せな気持ちになる素晴らしいアルバム。もちろん、これだけの演奏をするにはかなりのテクニックが必要だとは思いますが、そういったことをまったく感じさせない自然な音楽が満ち溢れ、純粋にハイドンの書いた音楽の素晴らしさに触れられるような演奏です。これはピアノのオリヴィエ・ロベルティと指揮のクルト・レーデルの目指す音楽が完全に一致しているからこそのものと思います。私は激気に入りました。もちろん全曲[+++++]をつけさせてもらいます。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:9 ピアノ協奏曲XVIII:5 ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6

カスパール・フランツ/カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルのピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は協奏曲のアルバム。こちらも湖国JHさんから送り込まれたもの。

CasparFrantz.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

カスパール・フランツ(Caspar Frantz)のピアノ、カレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブル(Solistenensemble Kaleidoskop)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:11、XVIII:9、XVIII:2)と、ピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロのためのディヴェルティメント(Hob.XIV:1)の4曲を収めたSACD。収録は2009年1月、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルは独Ars Produktion。

このアルバム、ちょっと聴いてみた印象はキレのいいオーソドックスな演奏で、取り立てて個性的な印象はなく、レビューに取り上げるつもりはなかったんですが、何回か聴いてるうちにジワリと良さを感じてきたもの。SACDらしく透明感あふれる鮮明な録音であるのもいいところです。

カスパール・フランツは1980年、ドイツのデンマーク国境に近い港町キール(Kiel)に生まれたピアニスト。ドイツ国内は言うに及ばず、世界的に活躍しており、ソリストのみならず室内楽の分野でも活躍しているとのこと。彼のサイトを貼っておきましょう。

CASPAR FRANTZ

また、オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルは2006年にチェロ奏者のミカエル・ラウター(Michael Rauter)と指揮者のジュリアン・クエルティ(Julian Kuerti)が設立したベルリンに本拠地を置く若手中心の室内オーケストラ。ライナーノーツには精鋭のイケメンと美女が写っており、本当に若手中心だとわかります(笑) こちらもサイトを貼っておきましょう。

Solistenensemble Kaleidoskop

モノクロのサイトデザインがイケてます。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ハイドンの最も有名なピアノ協奏曲。オケは小編成らしいキビキビとしたもの。速めのテンポの序奏に乗ってカスパール・フランツも小気味良いタッチの非常にキレのいいピアノで応じます。オーソドックスながらリズムの冴えが素晴らしい演奏。録音が鮮明なので、アンサンブルの精緻さが手に取るようにわかります。キレ味ばかりではなく、フレーズごとの微妙なニュアンスの変化も巧みで、非常にクォリティの高い仕上がり。カデンツァも短いながらキラリと光るセンスがあって唸らされます。
続くウン・ポコ・アダージョも爽やかさ保ちながら、じわりと情感を漂わせるもの。特にフランツのピアノの磨き込まれたクリスタルのように青白く光る冷徹な美しさがたまりません。この楽章ではテンポを比較的自在に動かしてメロディーを唄わせますが、キリリと引き締まった表情はしっかり保ちます。
フィナーレは再びキレ味抜群。オケの軽々とした吹き上がりが痛快。キレ味とデリケートさを両面持ち合わせたピアノが華を添えます。ピアノの鮮やかなタッチと展開部の高揚感、骨格のしっかりした構成と言うことなし。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
ハイドンの真作ではない可能性からか録音の少ないHob.XVIII:9ですが、この演奏で聴くと実に面白い。序奏からユニークな曲想に手に汗握る面白さ。フランツは前曲とはスタンスを変えて、曲想の面白さを際立たせるべく、実に自在に表情をコントロール。基本的にタッチの鮮やかさを保ちながら、オケとの絶妙な掛け合いを演じます。それにしてもこの曲のアイデアの多彩さには驚くばかり。
続くアダージョは短調でロマンティック。フランツは曲を楽しむように美しい音色を響かせます。
終楽章はTempo di Minuettoの指示のとおり、終楽章としてはゆったりとしたテンポで音楽を楽しむように、おおらかに起伏をつけながら時折アクセントを利かせてサラリとまとめます。

Hob.XVIII:2 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
元々オルガン協奏曲ですが、あえてピアノで弾いてくるところ、前曲のような曲を選曲してくるところになんとなくこのアルバムの意図が見えてきた感じ。耳に残るオルガンの音色での曲想を洗い流すようなクリアなピアノのタッチの美しさが際立ちます。オケも非常に純度が高く、相当な腕利き揃いでソロイスツ・アンサンブルの呼称に偽りなし。この曲ではピアノに増してオケの表現の幅の大きさが聴きどころ。各パートがフレーズごとに新鮮な響きを創ることにこだわっているよう。
続く2楽章は、もともとオルガンの音色の陶酔感で聴かせる楽章ですが、ここでもピアノのキリッとしたメロディーと、響きに変化をつけたオケの掛け合いで、この曲の違った魅力にスポットライトを当てています。1曲目の純粋なキレの良さとは全く異なった演奏は、曲ごとにコンセプトをしっかりもって演奏を組み立てている感じ。オルガンの低音で聴かせるところも、しっかりピアノで演出できていますが、少々無理がある感じで、このあたりは逆に楽器の特性を踏まえて作曲していたハイドンの巧みな手腕をかえって際立たせている感じ。
最後のアレグロは驚くほどさらりとした速めのテンポで意表をついた序奏。ピアノが入るとオルガンよりもキレのいいところを生かして快速テンポで、この曲の高揚感というかトランス状態のような音階の繰り返しをオルガン以上の面白さで表現。オケも恐ろしいほどのキレ味でささえ、この楽章はピアノのでの演奏の面白さ満点。見事です。

Hob.XIV:1 Quintett [E flat] (c.1760)
最後の曲はピアノ、2本のホルン、ヴァイオリン、チェロによるディヴェルティメント。ハイドンのディヴェルティメントらしい愉悦感に富んだ音楽。フランツのキリリとしたピアノを中心にホルンとヴァイオリン、チェロが楽しげにメロディーを重ねます。協奏曲とはまったく異なる音楽の楽しさがありますね。かなり初期の曲ゆえ、ピアノトリオともまた異なり、素朴な面白さ。この曲がなくても協奏曲3曲でアルバムが成立するはずですが、あえてこの曲を収めてきたところは、ピアノをキーにハイドンの音楽の多様性をあえて表現したいということではないかと想像しています。演奏の方は、完全にリラックスして掛け合いを楽しむような演奏。

1曲目の正攻法のキリリと引き締まった演奏を聴いて、冒頭にふれたようにオーソドックスな演奏と感じたわけですが、聴き進むうちにこのアルバムの企画意図の深さがわかってきました。ピアノのカスパール・フランツはかなりの腕前の持ち主。しかも曲に応じて演奏スタイルも明確な意図をもっており、音楽性も確かなものがあります。オケのカレイドスコープ・ソロイスツ・アンサンブルも腕利き揃いで見事なサポート。私は非常に気に入りました。特に3曲目については意見が分かれるところかもしれませんが、オルガン協奏曲をあえてピアノで弾くという意味がある演奏であり、フランツの意図は買いです(笑) 評価は協奏曲は3曲とも[+++++]、ディヴェルティメントは[++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:2 ピアノ協奏曲XVIII:9 ピアノ五重奏曲 SACD

セバスティアン・クナウアーのピアノ協奏曲集(ハイドン)

意外に手元になかったアルバムを入手。

SebastianKnauer.jpg
TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

セバスティアン・クナウアー(Sebastian Knauer)のピアノ、ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲4曲(Hob.XVIII:3、XVIII:11、XVIII:4、XVIII:9)を収めたアルバム。収録は2007年2月15日から18日、ケルンのドイツ放送室内楽ホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

NAXOSのハイドンに関する録音はほとんど手元にある「はず」だったんですが、このアルバムを売り場で見かけて手元の所有盤リストをチェックすると、掲載されていません。コレクションに穴はあるものだということで入手した次第。NAXOSはリリースされ始めた頃は廉価版然とした演奏が多かったんですが、今ではメジャーレーベルもビックリの素晴らしい演奏も少なくないことは皆さんお気づきでしょう。かく言うハイドンの録音に関しても、コダーイ四重奏団の弦楽四重奏曲全集やヤンドーのピアノソナタ全集、交響曲でもニコラス・ウォード指揮のものをはじめとしてレベルの高い演奏が多いですし、最近取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集などは本当にビックリするほどの名演と名盤目白押しです。そのNAXOSのピアノ協奏曲は他に1992年の別の奏者の録音があるのですが、あえてこのアルバムをリリースしてきたということはそれなりの出来で、コレクションをリニューアルする意図があってのことでしょう。

ピアノを弾くセバスティアン・クナウアーははじめて聴く人。調べてみるとBerlin ClassicsやDGなどから何枚かのアルバムをリリースしており、それなりに有名な人のようです。ウェブサイトが見つかりましたのでリンクしておきましょう。

ARTIST - Sebastian Knauer

ちょいワルオヤジのような風貌ですが、私より年下でした(笑) 1971年ハンブルク生まれで、4歳からピアノをはじめ、フィリップ・アントルモン、アンドラーシュ・シフ、クリストフ・エッシェンバッハ、アレクシス・ワイゼンベルクなど名だたるピアニストに師事、13歳でデビューしますが、デビュー曲はこのアルバムにも収録されているハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)。その後はソリストとして世界的に活躍し、直近では2001年に始まったマルセイユ音楽祭の芸術監督を務めているとのことです。

指揮のヘルムート・ミュラー=ブリュールはNAXOSのハイドンの録音では中核を担う人。これまでにいくつかのアルバムを取り上げていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)
2012/03/22 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲
2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

特にマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲で見事な伴奏を聴かせたヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管がサポートということで期待の演奏です。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
軽快な序奏から入ります。室内管弦楽団らしい透明感あふれる響きがリズミカルで心地よいですね。ヘルムート・ミュラー=ブリュールの飾らない誠実な伴奏。クナウアーのピアノは実にオーソドックスで誠実なものですが、リズムのキレが良く、適度な抑揚がハイドンの曲にピタリ。力をぬいてのしなやかな音階の部分などをさらりとこなすあたり、軽々と演奏を楽しむ感じで非常にいいですね。このさりげない感じが絶妙です。ソロとオケの息がピタリと合ってこの小協奏曲のファンタジーのような世界を描いていきます。よく聴くとクナウアーのピアノはリズムに微妙な緩急の変化をつけて楽しんでいるよう。カデンツァでもことさらテクニックを誇示することなく、音と戯れるような無邪気さがあります。流石にハイドンの協奏曲でデビューしただけあってハイドンのツボをバッチリ押さえています。
続くラルゴ・カンタービレ。抑えたミュラー=ブリュールの伴奏にさらに抑えたクナウアーのピアノが磨き抜かれた美しいメロディーを置いていきます。デリケートなタッチから生まれる美しさの限りを尽くした素晴らしいメロディーに酔いしれます。なんという幸福感。
そしてそよ風のように爽やかなフィナーレに入ります。ソロもオケも全く力まず、軽やかさを失わずに進みます。次々と変化する曲想を楽しみながら演奏しているよう。抑揚の変化の鮮やかさとソロとオケの絶妙な掛け合いの面白さに痺れます。1曲目から完全にノックアウト。完璧です。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
クナウアーのデビュー曲。ここでもさりげないヘルムート・ミュラー=ブリュールの伴奏は万全。フレーズ毎に表情の変化をつけながら軽快に躍動する伴奏だけでもオケの見事さがわかります。ピアノが入るところふっとテンポ落としますが、クナウアーが軽快なテンポに引きもどし、オケもそれに追随。遊び心満点の入りにニンマリ。クナウアーの速いパッセージのビロードのようにしなやかなタッチが印象的。このタッチがリズムのキレにつながって軽快な印象を保っていることがわかります。アルゲリッチのような火を吹くようなキレ味ではなく穏やかさを伴うキレ味。キレのいいピアノに刺激されてかオケも鮮やかに反応。この曲でもカデンツァはしなやかなタッチと曲想をコラージュしたようなユニークなもの。
前曲で美しさの限りを極めた2楽章ですが、この曲でもクナウアーのピアノの音色の美しさは見事。穏やかな伴奏に乗って、穏やかに描く美しいメロディー。特にカデンツァは息を呑むような孤高の美しさ。このXVIII:11のみパウル・バドゥラ=スコダのカデンツァでそれ以外はクナウアーのオリジナル。
そしてフィナーレは想像どおり軽快。ピアノとオケの掛け合いは軽妙洒脱。この曲をベートーヴェンのように壮大に演奏するものもありますが、本来はこのウィットに富んだ軽さにあるのだとでも言いたそう。聴きなれたこの曲が実に新鮮に響きました。

残りの2曲は簡単に。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
やはり遊び心に満ちた演奏。クナウアーとミュラー=ブリュールがニンマリと微笑みながら演奏している様子が想像できるようです。余裕たっぷりにさらりと演奏している感じが最高です。ゆったりと沈み込む2楽章に、リズムのキレが際立つフィナーレ。こちらも完璧。

Hob.XVIII:9 Concerto per violino, cembalo e orchestra [G] (before 1767)
録音数が極端に少ない曲ですが、ハイドンの真作ではない可能性が高い曲とのこと。曲想、ひらめきなど、他の曲とは異なる感じです。演奏の質は変わらないですが、ツボを押さえた感じまではしないのは曲の問題でしょうか。

セバスティアン・クナウアーとヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管によるハイドンのピアノ協奏曲集ですが、ハイドンの協奏曲でデビューしたクナウアーとハイドンを数多く演奏してきたミュラー=ブリュールの息がピタリとあった名演でした。2人ともハイドンの曲の面白さを知り尽くしているからか、まさに軽妙洒脱な演奏。そればかりではなく2楽章の磨き抜かれた美しい響きも絶品。メジャーレーベルのトップアーティストによる演奏に引けをとるどころか、こちらこそハイドンの曲の真髄に迫る演奏といってもいいほど。テクニックの使いどころが違います。本盤、以前取り上げたマリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集同様、NAXOSレーベルを代表する名盤として多くの方に聴いていただきたい素晴らしい仕上がりです。評価は最後の曲をのぞいて[+++++]です。最後の曲も悪くはありませんがオマケという感じでしょうか。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:3 ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノ協奏曲XVIII:4 ピアノ協奏曲XVIII:9

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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