【新着】フランチェスコ・コルティのソナタ集(ハイドン)

今日はハープシコードによるソナタ集。

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フランチェスコ・コルティ(Francesco Corti)のハープシコードによる、ハイドンのファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:37、XVI:31、XVI:32、XVI:46、XVI:26)、カプリッチョ「豚の去勢にゃ8人がかり」(XVII:1)の7曲を収めたアルバム。収録はパリのピエール・マルボスというピアノ販売店の4'33ホールでのセッション録音。レーベルは初めて手に入れるevidenceというレーベル。

フランチェスコ・コルティという人は初めて聴く人。調べてみると、何と今週近所で行われる調布音楽祭に来日するとのこと。いつものように略歴をさらっておきましょう。イタリアのフィレンツェの東南にあるアレッツォで1984年に生まれ、ペルージャでオルガン、ジュネーブとアムステルダムでハープシコードを学びました。2006年ライプツィヒで開催されたヨハン・セバスチャン・バッハ・コンクール、2007年に開催されたブリュージュ・ハープシコード・コンクールで入賞しているとのこと。2007年からはマルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴルのメンバーとして活躍している他、主要な古楽器オケとも多数共演しているそうで、ハープシコード界の若手の注目株といったところでしょうか。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
速めのテンポでハープシコード特有の雅な音色が響き渡ります。使っている楽器はDavid Ley作製の1739年製のJ. H. Gräbnerと記載されています。録音は割と近めにハープシコードが定位するワンポイントマイク的なもので、ハープシコードの雅な響きを堪能できる録音。約6分ほどの小曲ですが、ハープシコードで聴くとメロディーラインが全体の響きの中に調和しつつもくっきりと浮かび上がり、この曲の交錯するメロディーラインの面白さが活きます。しかも速めにキリリと引き締まった表情がそれをさらに強調するよう。最後に音色を変えるところのセンスも出色。普段ピアノやフォルテピアノで聴くことが多い曲ですが、ハープシコードによる演奏、それもキレキレの演奏によってこの曲のこれまでと違った魅力を知った次第。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
軽快なテンポは変わらずですが、今度は所々でテンポをかなり自在に動かしてきます。また、休符の使い方も印象的。ちょっとした間を効果的に配置して、ソナタになると少し個性を主張してきます。速いパッセージのキレの良さは変わらず、ハープシコードという楽器につきまとう音量の変化の幅の制限を、テンポと間の配置で十分解決できるという主張でしょうか。次々と繰り出される実に多彩なアイデアに驚くばかり。ピアノとは異なる聴かせどころのツボを押さえてますね。驚くのが続く2楽章。予想に反してグッとテンポを落とし、一音一音を分解してドラマティックに変化します。ハープシコードでここまでメリハリをつけてくるとは思いませんでした。そしてフィナーレでは軽快さが戻り、見事な対比に唸ります。フィナーレもハイドンの機知を上手く汲み取ってアイデア満載。見事なまとめ方です。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
冒頭のメロディーのハープシコードによるクリアな響きが印象的。この曲では落ち着いた入り。一音一音のタッチをかみしめるように弾いて行きながら、徐々にタッチが軽くなっていく様子が実に見事。曲想に合わせて自在にタッチを切り替えながら音楽を紡いでいきます。瞬間瞬間の響きに鋭敏に反応しているのがわかります。ここでも印象的な間の取り方で曲にメリハリがしっかりとつきます。アレグレットの2楽章は壮麗な曲の構造を見事に表現、そしてフィナーレではハープシコードの音色を生かしたリズミカルな喧騒感と楽章に合わせた表現が秀逸でした。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
ピアノでの演奏が耳に残る曲で、低音の動きの面白さが聴きどころの曲ですが、コルティのハープシコードで聴くと、新鮮な響きでその記憶が刷新されるよう。ハイドンはハープシコードの華やかな響きも考慮して作曲したのでしょうか。古楽器では迫力不足に聴こえる演奏も少なくない中、そういった印象は皆無。むしろキレのいいタッチの爽快感が上回ります。続くメヌエットでは調が変わることによる気配の変化が印象的に表現されます。ピアノではここまで変化が目立ちません。そして短調のフィナーレは目眩くような爆速音階が聴きどころ。コルティ、テクニックも素晴らしいものを持っていますね。最後の一音の余韻に魂が漲ります。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
初期のお気に入りの曲。壮麗な1楽章、この曲が持つ静かな深みのような不思議な気配を見事に捉えたタッチに引き込まれます。メロディ中心の穏やかな曲想だけに、落ち着いたタッチで穏やかに変化する曲想をじっくり楽しむことができます。やはり曲想に応じて巧みにタッチをコントールしており、その辺りの音楽性がハイドンの真髄を捉えているのでしょう。特に高音のメロディの研ぎ澄まされた美しさを聴かせどころで披露するあたりも見事。そして、アダージョではさらに洗練度が上がり、響の美しさは息を呑むほど。このアルバム一番の聴きどころでしょう。微視的にならずに曲全体を見渡した表現に唸ります。比較的長い1楽章と2楽章をこれだけしっかり聴かせるのはなかなかのものですね。そしてそれを受けたフィナーレは爽快さだけではなく、前楽章の重みを受けてしっかりとしたタッチで応じ、最後に壮麗な伽藍を見せて終わります。

Hob.XVI:26 Piano Sonata No.41 [A] (1773)
ソナタの最後はリズムの面白さが際立つハイドンらしい曲。コルティは機知を汲み取り、リズムの変化を楽しむかのようにスロットルを自在にコントロールしていきます。そして明るさと陰りが微妙に入れ替わるところのデリケートなコントロールも見事。途中ブランデンブルク協奏曲5番の間奏のようなところも出てきますが、これぞハープシコードでの演奏が活きるところ。曲が進むにつれて繰り出されるアイデアの数々。コルティの多彩な表現力に舌を巻きます。メヌエットは端正なタッチで入りますが、終盤音色を変えてびっくりさせ、非常に短いフィナーレではさらに鮮やか。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「豚の去勢にゃ8人がかり」 [G] (1765)
最後はユーモラスなテーマの変奏曲。この曲を最後に持ってくるあたりにコルティのユーモアを感じざるを得ません。ハープシコードでの演奏に適したソナタ数曲のまとめに、軽い曲を楽しげに演奏するあたり、かなりハイドンの曲を研究しているはずですね。もちろん演奏の方はソナタ同様素晴らしいものですが、力を抜いて楽しんでいる分、こちらもリラックスして聴くことができます。まるでソナタ5曲をおなかいっぱい味わった後のデザートのよう。聴き進むとデザートも本格的なものでした! 最後はびっくりするような奇怪な音が混じるあたりにコルティの遊び心とサービス精神を味わいました。

久々に聴いたハープシコードによるソナタ集。まるで眼前でハープシコードを演奏しているようなリアルな録音を通してフランチェスコ・コルティの見事な演奏を存分に楽しめました。これは名盤ですね。評価は全曲[+++++]とします。調べてみると、これまでにも色々とアルバムをリリースしているようですので、私が知らなかっただけだと思いますが、若手の実力派と言っていいでしょう。コルティのウェブサイトにもリンクしておきましょう。

Francesco Corti

これは是非実演を聴いてみたいところですが、折角近所で行われる調布音楽祭にコルティが出演する6月14日も17日もあいにく都合がつきません。次回の来日を期待するとしましょう。

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テレーズ・デュソーのピアノソナタ集(ハイドン)

なんだかピアノの響きにはLPが合うようで、ピアノソナタの名録音がつづきます。

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テレーズ・デュソー(Thérèse Dussaut)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ2曲(Hob.XVI:49、XVI:52)とファンタジア(Hob.XVII:4)の3曲を収めたLP。収録についてはネットで色々調べるとおそらく1972年にリリースされたもののよう。レーベルはARION。

こちらも先日ディスクユニオン新宿店で仕入れたもの。LP売り場は適度に分類されているんですが、交響曲や弦楽四重奏曲はハイドンのコーナーがあるもののピアノ曲はH前後のいろいろな作曲家のアルバムが混ざっており、LP時代には現在もCD化されていない未知のピアニストのアルバムがまだまだあるようで、売り場構成と相まって宝探し的楽しみがあります。このアルバムもそうして発見した一枚。

ジャケットをよく見ると古いスケッチですが、明らかにハイドンのような顔をした男がフォルテピアノの横に座り、鍵盤の前には貴婦人が立っているスケッチ。調べてみるとフランスの画家、ドミニク・アングルの1806年の習作「森の家族」とのこと。アングルは1780年、南仏のモントーバン(Montauban)生まれで、トゥールーズ、パリで学んだのち、当時の若手の登竜門だったローマ賞を受賞し、政府給費留学生として1806年にローマに渡ります。この絵がパリトローマのどちらで書かれたのかはわかりませんが、ハイドンはパリにもローマにも行っていませんので、実際の場面ではなく、当時ヨーロッパ中で知られていたハイドンから音楽を学んでいる姿を想像してスケッチしたものでしょうね。当時のハイドンの人気を物語るものでしょう。LPの魅力はこうしたジャケットにもあるわけで、たかが印刷ですが、なんとなくいい雰囲気が漂うわけです。

さて、本題に戻って、奏者のテレーズ・デュソーについて調べてみます。

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テレーズ・デュソーは1939年、ヴェルサイユ生まれのピアニスト。父は作曲家のロベール・デュソー(Robert Dussaut)、母も作曲家のエレーヌ・コルヴァティ(Hélène Corvatti)。フランスでマルグリット・ロンとピエール・サンカンにピアノを学び、ドイツではロシアのピアニスト、ウラディミール・ホルボフスキに師事しました。1957年には国際ARDコンクールで優勝し、以後はコンサートピアニストとして活躍、現代音楽にも積極的に取り組んできたそうです。近年は教育者として活躍しているとのこと。

Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
しっとりとしたタッチから流れ出る音楽。女性奏者らしいタッチの柔らかさが印象的。サラサラと流れながらも要所でのアクセントはくっきりとつけていきます。まさに気品に溢れた演奏。LPだからか研ぎ澄まされたピアノの音色の美しさが際立ちます。ハイドンの曲のメロディーの美しさも展開の面白さもアイデアの豊富さもすべて折り込んでさらりと美しくまとめいる感じ。ジャケットのスケッチが、女性ピアニストが演奏を終え、ハイドンが満足げに微笑んでいる姿にも見えてきました(笑) 実に品のいい演奏。
アダージョに入ると、実際の音量以上に静けさを感じさせます。楽章がかわって、気配も変わった感じ。聴き手を包み込むようなオーラが発散しています。心に沁み渡るような浸透力。仄暗い部屋の真ん中でスポットライトを浴びながら静かにピアノの響きと向き合うッデュソーの心境がつたわるようです。後半の左手のアクセントの連続は澄み渡るような美しさ。実際の力感ではなく、力感を表現するのは音の対比のみでできるのだとでも言いたげなほど、力が抜けているのに音楽の起伏は険しく感じられる演奏。美しすぎるアダージョ。
3楽章はメヌエット。ことさら演奏スタイルを変えることなくさらりと入り、淡々と進めていきます。キラメキを増す右手にと、絶えず静けさを保ち続ける冷静さのバランスが絶妙。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
こだまのようにメロディーが響き合う小曲。テンポよくすすむ曲想にあわせてタッチのキレも一段と鮮やかになりますが、なにより素晴らしいのが可憐な雰囲気に満ちていること。やはりデュソーの演奏の特徴はこの気品にあります。時折前曲のソナタの演奏では見せなかった激しいアクセントが姿を現してちょっとびっくりしますが、この小曲でのメリハリをきっちりつけようということでしょう。最後の終わり方もちょっと驚く間をとって遊び心をみせます。最後まで透徹したタッチとしなやかさが感じられる名演奏です。

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Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
曲の構えが大きい分、ぐっと迫力を増した入り。最初の曲ではしなやかさが印象的だったんですが、この曲では力感は十分。素晴らしい迫力に圧倒されます。もちろん繊細な響きの魅力は保っていますので気品に満ちた迫力です。この曲ではやはり力感の表現がポイントとみたのでしょう、1楽章はしなやかな中にも迫力が満ち溢れ、力で押していくようなところもある演奏。
そしてアダージョも打鍵の余韻を実に品良く響かせます。余韻の隅々までしっかりコントロールされた演奏。ところどころでかなり力を抜いた音階をちりばめたり、アクセント、特に左手のメロディーをデフォルメしたりすることで、この優雅な曲にくっきりとした表情の変化をつけていき、音楽の彫りを深くしていきます。
終楽章のプレストへの入りが実に印象的。連続音から始まるこの曲の表情を見事に演じます。タタタタと続く音を実に表情豊かにしあげてきます。このセンスこそデュソーの演奏の真骨頂。全編に気品が満ちているのは音の響きに関する鋭敏な感覚があってのことでしょう。この曲でも一つとして同じ音をならさぬようタッチは非常にデリケート。速い音階の滑らかさとアクセントの対比も見事。突然テンポを落としたりとハイドンのしかけた機知にも呼応します。曲の読みが深いですね。この曲も見事の一言。

ディスクユニオンの売り場から掘り起こしたアルバムですが、これは宝物レベルの名盤でした。まったくしらなかったテレーズ・デュソーというピアニストによるハイドンでしたが、ジャケットに移る美麗な姿そのままの気品に溢れた名演奏でした。音に対する鋭敏なセンスを持ち合わせ、ハイドンのソナタから実に深い音楽を引き出す腕前の持ち主。1曲目のXVI:49ではそのセンスの良さで聴かせ、ファンタジアではタッチのキレのよさ、そして最後のXVI:52では迫力と彫りの深さで圧倒されました。LPのコンディションも悪くなく、美しいピアノの響きを堪能できました。評価は全曲[+++++]とします。

このところの陽気でだんだん目の周りが痒くなってきました。魔のシーズン突入ですね(笑) めげずに頑張ります!

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【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-2(ハイドン)

前記事のつづき。

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リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)とマクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)の指揮するイル・ポモ・ドーロ(Il Pomo D'Oro)によるハイドンの協奏曲などを収めた2枚組のアルバム。

今日はCD1から指揮者が変わったCD2を取り上げます。アルバムや奏者については前記事をご参照ください。

2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

CD2から指揮はハープシコードを弾くマクシム・エメリャニチェフ。今年の1月から前任のリッカルド・ミナーシの後を継いでイル・ポモ・ドーロの首席指揮者となった人。録音時の2014年は26歳という若さです。

Hob.I:83 Symphony No.83 "La Poule" 「雌鶏」 [C] (1785)
1曲目はなぜか交響曲で「雌鶏」。マクシム・エメリャニチェフが得意としているということでしょうか。金管をかなり象徴的に鳴らして古楽器の音色の面白さを強調した入り。オケは同じですが、オケの音色はCD1から変わります。マクシム・エメリャニチェフの指揮はリッカルド・ミナーシよりも金管の音色以外は全般にオーソドックス。古楽器による均整のとれたバランスの良い演奏。金管の鳴らし方が変わらないので若干単調な印象もなくはありません。どちらかと言うとリッカルド・ミナーシの方が若々しい印象です。安全運転な感じ。
アンダンテも実に落ち着いた演奏。CD1の面白さを味わっているので、もう少し踏み込みを期待してしまうところ。演奏は端正でオケのアンサンブルも精度高く質の高い演奏ですが、やはり少々かしこまった感じ。
メヌエットからフィナーレも実にオーソドックスな展開。もちろん古楽器による適度な力感、高揚感、バランス感覚もあり、それなりに盛り上がりを見せますが、あと一味工夫が欲しいところ。そしてフィナーレの終盤、オケがこれまでとは異なり、ちょっと乱れるところもあり、指揮者のコントロール力は少々差があるというのが正直なところ。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
CD2の2曲目はマクシム・エメリャニチェフのハープシコードソロでファンタジア。こちらは音量差のつきにくいハープシコードを縦横無尽に弾きまくった陶酔感を感じさせる部分と余韻で聴かせる部分のコントラストがクッキリとついたなかなかの演奏。先ほどの雌鶏のオーソドックスさとは異なり表現意欲に溢れた演奏です。途中、若干調律のずれたように聴こえる部分がありますが、何らかのペダル操作の影響でしょうか。このへんは楽器にくわしくないためわかりません。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
そして、CD2のハイライトの最も有名なコンチェルト。なぜか序奏から別次元の生気! オケの精度は今ひとつながら、明らかに演奏に気合が漲っています。リッカルド・ミナーシのコントロールに近い印象もありますが、ちょっと荒いでしょうか。ソロのハープシコードは流石にキレキレ。ここでも雌鶏同様、金管が独特の音色を聴かせて格別の存在感を呈しますが、鳴らし方が単調な印象。オケは全般に表現意欲旺盛でアクセントもガッチリキメてきます。指揮者の若さがそのまま音楽に乗っている感じと言えばいいでしょう。それなりにスリリングでたのしめます。
2楽章も同様、適度に荒いところが面白さにつながり、冷静にタッチを進めるハープシコードに対してオケがかなり自在なサポートを聴かせます。リズムがちょっと前のめりになったり、意外なバランスを聴かせたりするところもあって、本当にスリリング。一転カデンツァでははっとするような新鮮な響きを引き出したり、なかなか先の読めない面白さがあります。オケの各奏者が周りの出方を探りながら演奏している感じ。
フィナーレは若さと才気が素直にエネルギーとなって表出したような演奏。相変わらずオケは自在。弾き振りなのにソロとオケの微妙なズレによる緊張が走ります。ハープシコードの見事さと、オケの素人っぽいところの対比が妙に面白い演奏です。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
最後はヴァイオリンとハープシコードが活躍する曲。両指揮者がソロでも腕くらべといったところでしょう。リッカルド・ミナーシの存在があるからか、前曲のようにオケが暴れることもなく、適度な生気とバランスの保たれた伴奏に乗って2人のソロは冴え冴えとメロディーを奏でます。やはり変化に富んだボウイングのミナーシと繊細なキレを聴かせるエメリャニチェフのソロは非常に聴き応えがあります。ソロとオケ、表現意欲とバランス、静と動のうまく噛み合ったいい演奏。
つづくラルゴの序奏は抑えていたエメリャニチェフの表現意欲が噴出。いきなりグッと力が入ります。美しいメロディーのヴァイオリンとハープシコードが絡みながらのソロはやはり流石。何となくソロよりオケが前に出てソロ以上に存在感を出そうとしています(笑) この辺はまだまだ指揮者の経験不足というところでしょうか。普段聴く協奏曲とは異なるアプローチに、逆に協奏曲のオケの演奏のツボを教わった感じがします。そういう意味ではいろいろ考えさせられる演奏であります。
このアルバム最後のフィナーレは適度なキレと力感がバランスした演奏。2楽章でちょっと踏み込んだ以外はなかなかバランスの良い演奏でした。

ちょっとCD1とは違うトーンのレビューとなりましたが、このアルバム、2枚組ですが価格はレギュラー盤1枚の値段。しかも前記事で書いたとおり、リッカルド・ミナーシの振ったCD1は素晴らしい出来ということで、アルバム自体はオススメしていいものです。CD2の方はソロはともかく指揮はまだまだこれから経験を積む必要があることを感じさせるもの。最近レビューで取り上げるアルバムは厳選された一級のアルバムばかりでしたので、こうしたレビューは久しぶり。逆に聴く方の脳はいろいろ考えさせられるという意味で刺激的なもののでした。素晴らしい演奏も、これからの成長を期待する演奏も聴けるという意味でも面白いアルバムだと思います。ちなみにCD2の評価ですが、ファンタジアと最後のHob.XVIII:6は[++++]、残り2曲は[+++]とします。

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tag : 雌鶏 ファンタジアXVII:4 ピアノ協奏曲XVIII:11 ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6 古楽器

リースベト・ドフォス/リュカス・ブロンデールの「ナクソスのアリアンナ」など

久々に歌曲のアルバムを。

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リュカス・ブロンデール(Lucas Blondeel)のピアノ、リースベト・ドフォス(Liesbeth Devos)のソプラノで、ハイドンのピアノソナタ(XVI:49)、ファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:48)、カンタータ「ナクソスのアリアンナ」、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の5曲を収めたアルバム。収録は2009年12月28日から31日、ベルギー、ブリュッセルのフラジェ・スタジオ1。ライナーノーツには音響のいいスタジオとして知られていると記載されています。レーベルはcypres。シプレーと読むそう。

このアルバム、先日新宿タワーレコードに立ち寄った際、マーキュリーが輸入するアルバムがセールになっていたので、すかさず未入手のハイドンのアルバムを探して求めたもの。輸入盤の方が安いのですが、マーキュリーの輸入するアルバムは解説が充実しているので、つい国内仕様盤を手に入れてしまいます。

このアルバムにもライナーノーツに記載されたピアニストのリュカス・ブロンデールの長文の解説やナクソスのアリアンナの歌詞等つけられていて、このアルバムの理解を深めるのに役立ちます。英文も辞書を引きながら読めない訳ではありませんが、最近老眼が進み、小さい字の英文はかなりしんどいです(苦笑)

さて、このアルバム、よく見るとアルバムのタイトルは「マリアンネに」と気になるもの。以前取りあげた、ヌリア・リアルのアルバムを思い起こさせます。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集

このアルバムタイトルのマリアンネとは、ハイドンが晩年に恋心を抱いた、マリア・アンナ・フォン・ゲツィンガーという人の事。ハイドンの同僚のゲツィンガーという医師の夫人。ハイドンが57歳の1789年、マリアンネ夫人からハイドンに届いた1通の手紙にはハイドンの作品をピアノ独奏曲に夫人自身が編曲した楽譜がそえられていました。その出来の見事さに驚いたハイドンが返事を書いたことから文通がはじまり、ハイドンの恋心に火がついたのですが、それから4年後のマリアンネ夫人の急死によって、静かな友愛は終わりを迎えたとの事。その間、ハイドンの作曲活動は頂点を極めた時期にあたります。1790年にはニコラウス・エステルハージ候が亡くなり、ウィーンに転居した後、第1回目のロンドン旅行に出発、翌1791年にはロンドンでザロモン演奏会が開かれ、交響曲の93番から98番までが作曲されました。

このアルバムに収められた曲もすべて、この4年間に作曲された曲で、ハイドンがマリアンネ夫人のことを想ってかいたと想像される曲が選ばれています。詳しくはこのアルバムを実際に手に入れて解説を読まれるのがよいでしょう。

演奏者ですが、2人ともベルギーの人。ピアノのリュカス・ブロンデールは1961年ベルギーのブリュッセル生まれ。アントウェルペン音楽院、ベルリン芸術大学などで学び、アントウェルペンで開かれたエマニュエル・デュルレ国際ピアノコンクールで優勝、ベルリンで開かれたシュナーベル・コンクールで3位、チューリヒで開かれたクルト・ライマー・コンクールで優勝などの経歴があります。ソロ活動や室内楽や歌曲の伴奏などにも感心が高く、バイロイトで開かれたラ・ヴォーチェ・コンクールでは最優秀伴奏者賞を受賞。また古楽器の演奏をインマゼールとバルト・ファン・オールトなどに師事し、古楽のアプローチを現代楽器でも生かしているとのこと。
ソプラノのリースベト・ドフォスは1983年オランダのベーフェレン=ワースの生まれ。ベーフェレン=ワースの音楽舞台芸術大学、アントウェルペン音楽院、エリザベート王妃音楽院などで学び、地元オランダを中心に歌劇場で活躍しています。
2人は2004年以来デュオを組んでベルギー、オランダ、ドイツ、フランス、スペインなどで活躍しているとのことです。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
最初はソナタ。ピアノはなんとヤマハ(YAMAHA CFIIIS)です。響きのよいスタジオとのふれこみ通り、PHILIPSレーベルがラ・ショー=ド=フォンで録ったような磨き抜かれた宝石のような音色。適度な残響が非常に美しい録音。中低音のちょっとゴリッとした感触がヤマハの特徴でしょうか。リュカス・ブロンデールのピアノはハイドンの曲の面白さを適度に表現する、ブレンデルの演奏に近いもの。ブレンデルよりも全体の流れの良さを意識してかテンポが全般に速めで、メリハリはかなり付けているのに爽やかな印象を残しています。この曲はハイドンがマリアンネ夫人のために書いた曲であるとハイドンの手紙に書かれ、2楽章の深い情感がハイドンのマリアンネ夫人に対する想いを現しているようです。ブロンデールのピアノはその想いを美しい想い出にしたようなキラキラした美しい演奏でまとめます。フィナーレもいい意味で軽妙なタッチが、ハイドンの想いを昇華させるような、爽やかな演奏。

Hob.XVII:4 / Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
この曲はハイドンがロンドンでの出版のため、楽譜をマリアンネ夫人に送ってもらったとされています。軽妙な曲想とブロンデールの爽やかな語り口が合って、ユーモラスな表情の面白さが味わえます。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
マリアンネ夫人との文通をはじめる前に作曲がはじめられた作品。女性に想いを馳せながら書いた曲だと知って聴くと、なるほどこの研ぎすまされたハイドン成熟期の音楽の美しさの理解も深まります。ブロンデールは起伏は大きくないものの、磨かれたピアノの響きで詩情溢れる演奏。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」 [E flat] (c.1789)
ブロンデールのピアノは、流石、最優秀伴奏者賞を受賞しただけのことはあります。静けさのなかに情感がこもった穏やかな伴奏から入り、歌手を引き立てることに細心の注意が払われています。ソロとはまた違ったブロンデールのピアノの魅力が見えました。ソプラノのリースベト・ドフォスはちょっと芯の堅い癖のある声ですが、声量とヴィブラートが良くかかった響きは魅力です。表情を抑えながらも雄弁なブロンデールのピアノに乗って、絶唱。安定感は文句なしですが、声質が強いせいか、歌自体に少々固さが感じられます。もう一段リラックスして力を抑えた方が歌に余裕が出るのではと感じた次第。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
そして最後は名曲です。なんとこの曲、マリアンヌ夫人が亡くなった直後に書かれ、この曲独特の深みは、マリアンヌ夫人を失った深い悲しみを現しているのではないかとされています。ブロンデールのピアノはやはり、ことさら重くなる事はなく、磨かれた美音で淡々とすすめていきます。かえってこうした抑えた表情の方が、深い悲しみを表すように感じられるのが不思議なところ。ハイドン自身が本当にどう感じていたのかは、今となってはわかりませんが、やはり禁断の恋の終わりを透徹した美しさで昇華させたというところではないでしょうか。

このアルバムの解説はブロンデール自身によって書かれていますが、非常に面白い。こうした曲の背景を理解してまとめられた企画ものは貴重ですね。最新の鮮明な録音で、ピアノの美しい響きとキリリと締まったソプラノの美しい響きを味わえるいいアルバムであることは間違いありません。実力派のベルギー人デュオによるナクソスのアリアンナも感慨深いもの。評価はピアノソナタ2曲とアンダンテと変奏曲が[+++++]、他2曲は[++++]とします。

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エフゲニー・スドビンのピアノソナタ集

これも最近入手したアルバム。BISからリリースされたピアノソナタ集。ピアニストは未知の人ながら、良いプロダクションの多いBISレーベルの魅力に惹かれて手に入れたもの。

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エフゲニー・スドビン(Yevgeny Sudbin)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集。ピアノソナタ3曲(Hob.XVI:32、XVI:50、XVI:34)とファンタジア(Hob.XVII:4)、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)そして弦楽四重奏曲Op.64のNo.5「ひばり」のフィナーレの6曲。収録はHob.XVI:32とXVI:50が2009年2月、XVI:34とファンタジア、ひばりのフィナーレが2009年6月、アンダンテと変奏曲が2010年1月、イギリス西部のブリストルにある聖ジョージ教会でのセッション録音。レーベルはスェーデンのBIS。

最近のtwitterによると「ハイドンが上手なピアニストはスカルラッティも良い」との法則があり、演奏の頻度から言うと、おそらく「スカルラッティが上手なピアニストはハイドンも良い」との逆法則も成り立つとの盲目的邪推も成り立ちます。このスドビンはスカルラッティを弾いたデビューアルバムが絶賛されたとのふれこみだったのでHMV ONLINEに注文していたもの。元の法則は以前取りあげたチェスのサイトを運営するpascal_apiさんのつぶやきですが、いいところをついていると思います。

エフゲニー・スドビンは1980年サンクトペテルブルク(私の世代にはレニングラードの方がなじみます)生まれのピアニスト。幼い頃から音楽的才能を知られ、1987年にサンクトペテルブルク音楽院、1990年にベルリン、1997年よりロンドン王立音楽院でピアノを学びました。マレイ・ペライヤやレオン・フライシャーに師事し、その後ヨーロッパ、アメリカ、カナダツアーで名を知られるように。2005年にスカルラッティのソナタ集のデビュー盤が好評を博し、その後ラフマニノフ、チャイコフスキーとメトネル、スクリャービンなどのアルバムのリリース。このハイドンのソナタ集はそれに続くもの。2011年1月には初来日しているのでコンサートを聴かれた方もいるのではないでしょうか。

このアルバムのジャケットには若々しい奏者がカジュアルな服装で写っており、もしかしたらアイドル系との憶測もありますが、とりあえずスカルラッティがいいと聞けば、当ブログで取りあげない訳にはいかないと思った次第。

Hob.XVI:32 / Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
ちょっと几帳面な感じはするものの、ピアノを上手く響かせてハイドンの曲の良さを上手い具合に表現する人との第一印象。速い音のつながりのコロコロころがるような心地よさと、左手の迫力ある低音のコントラストがなかなか。一貫して推進力にあふれた進行。ハイドンの前進する力感をうまく表現しています。
2楽章は素晴らしいきらめき感。ちょっと手作り感のあるものですが、それが実にいい味わいを醸し出しています。1楽章とは異なり、つぶやくようなゆったりとしたテンポ。この楽章の音楽性は本物ですね。音を聞かせようという意図ではなく音楽を聴かせようとする姿勢を感じる演奏。実に深い呼吸。なかなか大物ですね。
フィナーレも一音一音が立っているような粒立ちのよさと推進力が素晴らしい演奏。速いパッセージのキレは抜群。この若さでこのハイドンの表現の深さは見事。勢いの良さを最後まで保つかと思いきや、最後の音は思い切り力を抜いたもの。

Hob.XVI:50 / Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
名曲XVI:50。やはり素晴らしい力感から入りました。この大作ソナタを軽々と、しかも抜群の粒立ちで弾きこなしていきます。低音部が重要なソナタですが、左手の表情はかなり豊かでキレのいい低音を重ねていきます。録音はSACDの最新のものだけあって十分。BIS独特の北欧の空気のような澄んだ音響が心地よいです。スドビンはハイドンの楽譜を楽しみながら弾き進めていくような余裕があり、装飾音を加えたり、リズムを変化させたり、構えたところはなく自在な演奏。
この曲もアダージョの音楽性はピカイチ。夕暮れに星が瞬き始めるようなかすかなきらめきをが絶妙。抑えながらも表現は濃い瞬間。オーロラの揺らめきのようにうっすらと表情を変えていく、まさに推移の芸術。
3楽章は2楽章の静かな感動から覚醒するように鮮烈なリズムを刻みます。キレのいいタッチと自在なリズムを重ねてあっという間に曲を結びます。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
この曲も名曲。かなりスタッカート気味にはじまります。ブレンデルの演奏では低音から沸き上がる音階の面白さに焦点があたっていたものを、スドビンは音符配置の面白さを強調しているよう。高音の音階はまるで編み機から繰り出されるように滑らかなもので、左手の音階と、右手の音階の表情が全く異なる魅力を放つテクニカルな表現。またしても右手から繰り出される転がるような音階は痛快そのもの。途中、おそらくわざとでしょうが、たどたどしさを感じさせる部分もあって、なかなか興味深い演奏。
この曲もアダージョの表現は秀逸。高音のきらめきの美しさはスドビンの持ち味ですね。この曲でもめくるめく美しさが素晴らしいものです。
ハイドンのソナタのフィナーレの中でも非常に覚えやすいメロディーのこの曲。聴き慣れたメロディーラインを自在に変化をつけて、生まれたてのメロディーのように刻んでいきます。

Hob.XVII:4 / Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
弾き散らかすがごとき切れ味で入るファンタジア。音符を完全に自身のものとして自在に弾き進めます。速い音階の切れ味、リズムの切れ味、表現の切れ味の三拍子そろった演奏。途中非常に長い休符をとって表現力を見せつけます。この曲は素晴らしいテクニックと自在な音楽性を嫌というほど見せつけるような素晴らしい演奏です。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
古くから名演奏の多いこの曲ですが、スドビンは冒頭から詩情あふれるきらめきで圧倒。やはり只者ではありませんね。最初は軽い響きから入りますが、音楽の濃さは別格。伝統の重さを知っているからか、この曲では表現はオーソドックスな範囲にとどめているよう。指のキレは相変わらす素晴らしいものがあり、曲自体を最高の演奏で楽しむような極上のひと時。この曲がこれほど高音のメロディーが美しい曲だったと再認識させられるような素晴らしい演奏。最後の渾身の響きも鋼のような見事なものでした。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
最後は弦楽四重奏曲のフィナーレをピアノに編曲したもの。3分少々の曲ですが、この腕にしてこの曲を選んだと唸らされるもの。原曲ももちろんいいんですが、このピアノ版も、この演奏でしか聴く事のできない驚きに満ちています。このアルバムのアンコールピースのようなアクロバティックな要素も持つ演奏。


最近聴いた若手のハイドンのピアノソナタの中ではピカイチの出来。エフゲニー・スドビンの演奏によるハイドンのピアノソナタ集はハイドンのソナタの真髄をえぐる素晴らしい演奏でした。スカルラッティを弾いたデビューアルバムが評判となった人だけあって、ハイドンのソナタも自然かつアーティスティックな魅力をもつ素晴らしい演奏でした。これは将来が楽しみな人。若手でこれだけ表情豊かなハイドンを弾くとは驚きにに近い印象です。評価はもちろん[+++++]とします。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタXVI:32 ピアノソナタXVI:50 ピアノソナタXVI:34 ファンタジアXVII:4 アンダンテと変奏曲XVII:6 弦楽四重奏曲Op.64 ひばり スカルラッティ SACD

ヨス・ファン・インマゼールのソナタ集

今日は古楽器の音色が恋しくなって選んだアルバム。古楽器の音色を最も美しく表現する人といえばこの人です。

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ヨス・ファン・インマゼール(Jos van Immerseel)の演奏による、モーツァルトとハイドンのピアノソナタ集。ハイドンはファンタジア(Hob.XVII:4)、ピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ピアノソナタ(Hob.XVI:49)の3曲。収録は1989年5月、ベルギーのアントウェルペン(アントワープ)のエルゼンフェルト・ホテルのゴシック教会でのセッション録音。レーベルはオランダのGLOBE。

インマゼールのハイドンはこれまで指揮者としてチェチーリア・ミサを取りあげています。

2011/04/03 : ハイドン–声楽曲 : インマゼールの聖チェチーリアミサ

ヨス・ファン・インマゼールは1945年はベルギーのアントウェルペン生まれのフォルテピアノ奏者、指揮者。アントウェルペン音楽院にてピアノ、オルガン、チェンバロを学び、ケネス・ギルバートらに師事。地元アントウェルペンに古楽アンサンブル、コレギウム・ムジクムを設立し、レパートリーはルネサンス、バロック音楽から、後に古典派から初期ロマン派音楽まで広がりました。1987年にはアニマ・エテルナを設立し、モーツァルトのピアノ協奏曲全集などを録音、また1999年には指揮者としてベートーヴェンの交響曲のヨーロッパ・ツアーを行い、その後交響曲全集の録音も残しました。

インマゼールはいまやヨーロッパ中でコンサートに引っ張りだこ。即興演奏の名手としても知られているそうです。また、自身のフォルテピアノを運んで演奏旅行をすることでも有名だそうです。

私が愛聴しているモーツァルトのピアノ協奏曲全集の録音もフォルテピアノの非常に研ぎすまされた音色、アニマ・エテルナの繊細な響きが心地よい演奏。古楽器の音色にことさら鋭敏な感覚をもった人との印象です。そのインマゼールの弾くハイドンのピアノソナタということで、期待が高まる演奏です。

この3曲はほぼ同年代に作曲された曲を集めたもの。

Hob.XVII:4 / Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)

期待通りのフォルテピアノの雅さが際立つ宝石のような素晴らしい響き。録音も澄み切った静寂な空間にフォルテピアノがしっかり定位する素晴らしいもの。楽器の胴鳴りも聴こえてくるようなリアルな響き。インマゼールの演奏はテンポはわりと自在に動かしながらも、自然なフレージングが印象にのこるもの。先日いきなりソナタ全集をリリースしたトム・ベギンがテンポを動かすことを強調というか、少し癖を感じるフレージングなのに対し、インマゼールはあくまで自然なフレージングと自然さを大事にした響きに意識が集中しているように聴こえます。主旋律をクッキリ浮かび上がらせ、アクセントもクッキリつけるのですが、嫌みさは皆無。即興演奏も得意としているだけに、この辺の鋭敏な感覚は流石なもの。途中音色の変化をつける部分のキレも流石。終盤は迫力ある音階の下降と、一瞬の静寂を経てさらりとしたフィニッシュ。

Hob.XVI:48 / Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
聴き慣れたメロディーが雅な音色で流れます。冒頭から抜群の集中力。一音一音の力感の変化に耳を峙てます。ゆったりと言うより、静寂を聴けと言われているように訥々と進みます。すべての音のフォルテピアノの響きの消え入る様子をゆったり楽しめる演奏。フォルテピアノの音域ごとの音色のの変化を音階を通して虹の色の変化のように楽しめます。特にしっかりとした中音域と軽めの高音域の音色の変化の織りなす彩は素晴らしい美しさ。古楽器の音色を極め尽くしているインマゼールならではの至芸と言うべきでしょう。1楽章最後のくだけた落ち着きは流石の表現。
この曲は2楽章構成。フォルテピアノのエネルギーを浴びる要な演奏。テンポの変化は保ちながら、素晴らしい迫力と音色の美しさが同居。ピアノの演奏でもこれだけの畳み掛ける迫力が出せるかどうかわからないほど楽器を鳴らしきっています。途中指が引っかかるような表現の部分がありますが、セッション録音故、意図した表現なんでしょう。一気呵成に吹き抜けてゆく圧巻の演奏でした。

Hob.XVI:49 / Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
前曲のエネルギーを引き継いだような力の入った入り。フォルテピアノの演奏としては異例の迫力でしょう。ちょっとヴォリュームを大きめにして、部屋にフォルテピアノが出現したような音響を楽しみます。この曲では次々と現れるアクセントの変化を楽しむような演奏。大山脈の峰の連なりを眺めながら縦走する感じです。後半ではアクセントに変化をつけて音楽に驚きを与えます。ここでもインマゼールの鋭敏な感覚は素晴らしいキレ。
瞬時に柔らかな音色に切り替わり、2楽章のアダージョ・カンタービレに移ります。今度は慈しむようにメロディーを刻み、宝石のように磨かれた音色をデリケートなタッチで表現。尾根から眺める深い青の湖のような趣。済んだ湖の青の深さの変化が聴き所。深い深い演奏。
フィナーレは軽いタッチではいります。軽さを楽しむうちに音色な徐々にクリアに変化するあたりは素晴らしいアイデア。同じメロディが聴いているうちに別の響きで再現され、また戻りと音色の変化が脳に刺激を与えます。ここが聴かせどころかと驚きました。最後は力強さを帯びて、そしてすっと引くような秀逸な最後。いや、インマゼールの魔法にかかったようなひと時でした。

ヨス・ファン・インマゼールの弾くモーツァルトとハイドンのピアノソナタ集。ハイドンの演奏は期待通りというか、久しぶりに聴き直して、その鋭敏な感覚と多彩な音色の変化に圧倒されました。やはり古楽器を知り尽くした人との認識をあらたにしました。評価は3曲とも[+++++]としました。古楽器によるハイドンのピアノソナタのおすすめ盤として広く聴いていただきたい1枚です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタXVI:48 ピアノソナタXVI:49 ファンタジアXVII:4 古楽器

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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