ワシリー・シナイスキー/読響定期演奏会(サントリーホール)

昨日5月17日は読響の定期公演を聴きにサントリーホールへ。この日の指揮はワシリー・シナイスキーということでチケットをとった次第。学生時代にFM放送で聴いたプロコフィエフの5番の演奏があまりにも素晴しかったので覚えていた人ですが、そのシナイスキーが生で聴けると言う事に加えて、プログラムはプロコフィエフにリヒャルト・シュトラウスということで、ハイドンではないのにグッときたという次第。

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読売日本交響楽団:第537回定期演奏会

ワシリー・シナイスキー(Vassily Sinaisky)は1947年、ロシア東北部のコミ共和国生まれの指揮者。レニングラード音楽院出身で、卒業後、モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団でキリル・コンドラシンの助手として指揮をはじめたとの事。1973年に西ベルリンで開催されたカラヤン・コンクールで金メダルを受賞し、その後、1991年から96年までモスクワフィルの音楽監督、2000年から2002年までロシア国立交響楽団(ソ連国立交響楽団の後身)の音楽監督、2007年から2011年までスウェーデンのマルメ交響楽団の首席指揮者、2010年から2013年までボリショイ劇場の音楽監督として活躍しています。読響には2007年、2011年と過去2回客演しているそうです。

協奏曲のヴァイオリンソロはワディム・グルズマン(Vadim Gluzman)という人。こちらははじめて聴く人。1973年、現在紛争地になってしまったウクライナ生まれのヴァイオリニスト。米ジュリアード音楽院の出身で、日本での評判は知りませんが、世界の有名オケとの共演歴は錚々たるものです。楽器はシカゴのストラディヴァリ協会から貸与された1690年製のストラディヴァリウスということでした。

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この日は土曜だったので開演は18:00。平日ではないので、早めにアークヒルズに到着し、向かいのオーバッカナルのテラス席で風を楽しみながら一杯。夕方の爽やかな風が気持ちよい時間帯です。程なくサントリーホールの開場を知らせるパイプオルゴールが鳴り、ホール前が賑わいます。

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人の流れが一段落したところで入場。席はお気に入りのRA席です。この日のプログラムは下記のとおり。

プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士」組曲

今日は8割すこしくらいの席の埋まり具合でしょうか。日本での知名度は今ひとつなのでしょう。今日来られなかった方は惜しいことをしました!

1曲目のプロコフィエフの1番は好きな曲。父がよく聴いていたのを思い出します。前衛で知られたプロコフィエフが「もしもハイドンが今でも生きていたら書いたであろう作品」として作曲した曲。ワシリー・シナイスキーは、拍手に迎えられて入場すると、さっと手を上げ、指揮棒なしでさっと合図を出して入ります。この人がこれほど指揮が上手いとは知りませんでした。体全体をゆらして、次々と奏者に非常にわかりやすく指示を出していきます。特に第1ヴァイオリンへの指示は綿密。抑えるところをかなり明覚に指示してプロコフィエフの諧謔的なメロディーにクッキリとメリハリをつけていきます。ヴァイオリンの軽やかなフレーズはヴァイオリンパート全員がシナイスキーの指示に従って異次元の軽やかさで弓を運びます。遥か昔にFM放送で聴いた鮮烈なイメージそのままでした。実に巧みなオーケストラコントロール。読響も厳しい練習を経たのか、今日はいつもよりも精度が上がりリズムのキレは抜群。そしてロシア人らしくここぞというときの迫力は流石。1楽章の小気味良い展開、2楽章の穏やかな前衛、ハイドンがメヌエットを常用した3楽章はガヴォットも本質的に機転が利いて、古典的なものへのオマージュになってます。そしてハイドンが得意とした複雑にメロディーをからめたフィナーレは、その形骸を受け継ぎ、コミカルなメロディーをテクニカルにからめた面白さに昇華。最後の吹き上がるようなアタックのキレでホールが吹き飛ばんばかり。シナイスキーのクライバー張りの見事な指揮と、読響の見事な演奏でプロコフィエフ前衛がホールに充満。1曲目から、これからさらに盛り上がる素晴しいコンサートの幕開けにふさわしい興奮に酔います。

前半2曲目はプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲2番。個人的にはほとんどなじみのない曲ゆえ、かなり新鮮に聴く事ができました。作曲は1935年。先の古典交響曲が1916~17年ということで、だいぶ後の作曲。
1楽章はいきなりソロから入る珍しい入り。ソロのワディム・グルズマンはシナイスキーが連れてきた人でしょうか、派手さはありませんが大きな体を目一杯使って、楽器を非常に良く響かせる人。彼の使っているストラディヴァリウスは素晴しい音色。サントリー・ホールに楽器全体から発散される美しい胴鳴りが響き渡り、ちょっと聴いたことがないくらいいい音。
曲は難解というより、プロコフィエフ独特の象徴的な美しいメロディーをキーにした展開ではなく、様々な要素が渾然一体となって迫ってくるような曲。グランカッサ、トライアングル、カスタネットなどが使われ、特にグランカッサはかなり活躍。3楽章の最後には不思議なメロディーがグランカッサに乗って繰り返されプロコフィエフらしい前衛的な響きをつくっていました。グルズマンはこの難曲を軽々と弾きこなし、万来の拍手を浴びていました。何度かのカーテンコールの後、アンコールにはバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ1番の冒頭のアダージョを披露。響きの渦のようなプロコフィエフの興奮から一転、静謐な空間にストラディヴァリウスの惚れ惚れするような響きが満ちます。楽器の響きを活かして、鋭さはほどほど、バッハのメロディーを淡々と奏でるスタイル。堅実な演奏に好感を持ちました。なかなかいい感覚の持ち主ですね。

休憩の間に、ステージ上はこれからはじまるリヒャルト・シュトラウスに備えて席が増やされ、サントリーホールのステージが奏者席で埋め尽くされます。

後半最初の「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は圧巻の出来でした。シナイスキーの巧みなコントロールで、細かいメロディーが複雑に交錯するこの変化に富んだ交響詩が一巻の絵巻物のような構築感でまとまりました。個々のフレーズのそれぞれ明解な表情を強弱硬軟織り交ぜながら組み上げていく手腕は見事というほかありません。そしてここぞというところでのティンパニの炸裂するような一撃が加わり大オーケストラから風圧のような大音響が轟き観客を圧倒しました。プロコフィエフ目当てで来たのですが、リヒャルト・シュトラウスは完全にそれを上回る出来。最後の爆発の風圧をブラヴォーがかき消します。いやいや、今まで聴いたどのアルバムのティルよりも見事な演奏。シナイスキーのオーケストラコントロールの腕前の見事さは素晴しいものがあります。

そして、ハープやチェレスタのメンバーが加わり、最後の薔薇の騎士組曲。前曲の興奮冷めやらぬ中、シナイスキーは登場の拍手が止まぬ前から、まるでカルロス・クライバーのようにいきなり曲をはじめます。バラの騎士はカルロス・クライバーのはじめの序曲から陶酔の絶頂にいきなり放り込まれる素晴しいDVDが刷り込みですが、めくるめく感じはクライバー以上。オケの精度も完璧で大オーケストラの迫力と相俟って、前曲を超える絢爛豪華な絵巻物のような陶酔感。前半のプロコフィエフ同様、抑えるところを効果的に使って力任せではない深い陰影と、ロシア人らしいヴァナキュラーな迫力、そして曲がもつ華やかさと陶酔感が高い次元でまとまった素晴しい演奏でした。ワシリー・シナイスキー、類いまれなバトンテクニックで大オーケストラを掌握して、ホールをびりつかせる弩迫力とリヒャルト・シュトラウスの陶酔で観客を魅了していました。もちろん最後はブラヴォーの嵐。気さくにカーテンコールに応じ、主だった奏者をにこやかに紹介する様も人柄がでているようで微笑ましかったです。気さくそうに見えて、読響をこれだけの精度でコントロールするあたり、そうとう練習には厳しいのではないかと想像しています。今日の読響は私の聴いた中ではオケの精度は最高の出来でした。シナイスキー、またの来日の際には行かねばなりませんね。



さてさて、コンサートも終わり、最近お気に入りのカジュアルなイタリアンで反省会です。

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食べログ:プレーツ アーク森ビル店

ここはサントリーホールの真向かいのお店。カジュアルなお店で、コンサートがはけたあとでもすぐに入れて、料理もすぐにでてきて、そこそこいい味。そのうえセットメニューはワインとコーヒーまでついてかなりカジュアルなお値段なので、コンサート後にぴったりなんですね。

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前菜盛り合わせ。鴨のハムがワインのつまみにいいですね。

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パスタはミートソースをチョイス。胡椒が利いてこれも悪くありません。

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ピッツァはマリナーラ。

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そして別に頼んだホエー豚のロースト。これは豚の旨味が濃厚で美味かった。

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そして嫁さんが頼んだデザートのプリンアラモード。ノックアウト(量)です(笑)

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ひとしきりのんびりと食事を楽しんで、サントリーホール前に戻ると、すでに人は捌け、静かな時間になっていました。いいコンサートにのんびりと食事を楽しんで、いい週末でした。

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tag : サントリーホール プロコフィエフ リヒャルト・シュトラウス

【追悼】クラウディオ・アバド逝く

今朝、いつものように通勤電車の社内でiPhoneの日経電子版を読んでいました。今月は文化面の「私の履歴書」が小澤征爾さん。時代の空気がつたわるような語り口が興味深く、毎日楽しみに読んでいました。それから、電子版で設定したいくつかのキーワードで収集した自動記事収集のページを見ていると、「C・アバド氏死去」との見出しをみつけ、ちょっと言葉にならない驚きと同時に、やはりかとの想いも。

2013/09/12 : コンサートレポート : アバド/ルツェルン祝祭管来日中止

昨年の秋、来日予定だったアバドとルツェルン祝祭管。これが聴き納めだろうとなんとなく思って、普段は滅多に手を出さない高額チケットを嫁さんと2枚で予約し、チケットを手に入れた直後、来日中止になってしまったくだりは上の記事のとおり。今回は未完成とブルックナーの9番というどちらも作曲家絶筆の作品という意味深なプログラムの予定でした。晩年はアバドらしい精緻を極めたくっきりとしたオーケストラコントロールに鬼気迫る迫力が宿った演奏を聴かせたアバドですが、その響きを生で体験しておきたかったですね。

アバドは、ハイドンを好きになる以前から好きな指揮者でした。

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アバドを最初に聴いたのは、予備校生の頃、なんとプロコフィエフの「アレクサンドル・ネフスキー」のLP。長岡鉄男激賞の超鮮明録音として有名になったDGのアルバムです。殺気を感じるような静寂と床が吹き飛ぶようなグランカッサの重低音の迫力にビックリ。当時は父親のステレオを借りて、TANNOYのバークレーという38cmウーハーのスピーカーをブルブル言わせて聴いたものです。それまで親しんでいたFM放送でエアチェックしたゲンナジー・ロジェストヴェンスキーのロシア的ヴァナキュラーな演奏とは異次元の現代美術のような峻厳な構成。まったく異なる解釈にプロコフィエフの真価を知った次第。これでアバドの印象が決定的になりました。

その後、1983年のロンドン交響楽団の来日公演時に東京文化会館でラヴェルのラヴァルスとマーラーの5番を聴いています。このとき私は大学生。LPで聴いていたアバドのイメージと、ちょっとギクシャクした指揮振りがあまりにイメージが異なったのに当惑したのを覚えています。しかし音楽のシャープさはイメージ通り。

そして、その後ロンドン交響楽団とのストラヴィンスキーやフランスもの、そしてグルダと組んだウィーンフィルのモーツァルトの協奏曲などをLPで買い集めました。

なかでも、印象に残っているのは、ロンドン響とのモーツァルトのジュピターと40番のLP。それこそ擦り切れるほど聴いた愛聴盤。私のジュピターの刷り込みはアバド盤です。それまでの演奏史の垢と指揮者の情感を取り去って、オブジェとして再構成した音楽に、最後にイタリア風の晴朗な艶を加えたようなアバドの演出によって、透明感溢れる白亜のアポロン的神殿が浮かび上がる素晴しい演奏でした。終楽章のフーガの建築的美しさは今でもアバド盤を超えるものはないと思ってます。

アバドの音楽の本質は、クライバーの燃え滾る炎の塊のような直接情感に訴える演奏ではなく、大脳皮質に冷静に訴えるような知的な刺激をともなう演奏であり、時に覚めた印象や、振り切れない印象をもつこともありましたが、他の人にはない知的興奮をもたらす素晴しい音楽でした。アバドのハイドンもしかり。火を吹くようなキレ味の奇跡も愛聴盤です。

2013/05/18 : ハイドン–交響曲 : クラウディオ・アバドの98番、軍隊
2010/02/11 : ハイドン–交響曲 : アバドの「奇跡」

今日は久しぶりに「アレクサンドル・ネフスキー」のLPを取り出し知的興奮を味わってます。フレーズごとにめくるめく切り替わる音楽にアドレナリン大噴出。LPを最初に聴いたときの興奮が蘇り、なつかしさが溢れます。

偉大な才能が逝き、歴史となりました。ご冥福をお祈りします。

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tag : プロコフィエフ 長岡鉄男 LP

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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