フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの「五度」「皇帝」(ハイドン)

このところ新譜も色々聴いているのですが、結果的に古い録音のばかりを取り上げています。やはり、時を経て聴き続けられるだけあって味わい深さが違います。

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amazon(別装丁盤)

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリン(Philharmonia Quartet Berlin)による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」、No.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録は1983年9月10日、11日、西ベルリンのジーメンス・ヴィラでのセッション録音。レーベルはDENON。

このアルバム、最近ディスクユニオンで手に入れたもの。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンによるハイドンは以前に一度取り上げています。

2012/06/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉

こちらは1999年の録音ということで、今日取り上げるアルバムから約16年あとの録音。フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンはご想像の通り、ベルリンフィルの団員で構成されたクァルテットですが、メンバーはチェロが替わっていないだけで他の3人は入れ替わっています。この録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:エドワルド・ジェンコフスキー(Edward Zienkowski)
第2ヴァイオリン:ワルター・ショーレフィールド(Walter Scholefield)
ヴィオラ:土屋邦雄(Kunio Tsuchiya)
チェロ:ヤン・ディーゼルホルスト(Jan Diesselhorst)

第1ヴァイオリンのエドワルド・ジェンコフスキーはベルリンフィルに在籍していましたが、この録音時にはケルン放送交響楽団のコンサートマスターに転出していました。土屋邦雄さんはカラヤン時代のベルリンフィルのヴィオラ奏者として有名ですね。

上の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は冷徹なまでに冴え冴えとしたまさにベルリンフィルらしい精緻な演奏でした。この録音の前、1989年にカラヤンが亡くなり、1990年からアバド時代に突入しており、まさにアバドがベルリンフィルに持ち込んだ精緻な音楽を象徴するような演奏と言ってもいいでしょう。今日取り上げる方の録音はカラヤンの晩年のベルリンフィルのメンバーによる録音ということで、メンバーも含めてクァルテットの背景も異なりまうす。カラヤンが指揮した録音は特に晩年は徹底的にカラヤン流に仕立てられ、レガートを効かせて磨き込んでいますが、ライヴは意外にオケに任せている印象があります。今日のアルバムもまさにメンバーが演奏を楽しむような屈託のなさを感じる演奏です。

String Quartet Op.3 No.5 "Serenadequartett" [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
最初はハイドンの真作ではないですが、有名な「セレナード」。この曲のみ違うパッケージで2種の録音が手元にあったため、馴染みの演奏。腕利き揃いの奏者が軽々と演奏を楽しむような力の抜けた余裕たっぷりの演奏。この力の抜け方こそが、ハイドンの音楽を楽しむポイントだと見抜いての確信犯的演奏ですね。どの楽章も見事に軽々と演奏して、この美しいメロディーの曲をさらりと仕上げています。曲に対するスタンス自体ですでに勝負あったと言っていいでしょう。攻め込もうとか表現を極めようなどという無粋なことは一切頭の中になく、ただただ演奏を楽しむという一貫した姿勢が生む素晴らしい説得力。メインディッシュたるOp.76からの名曲2曲の前座としては十分な演奏です。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
前曲と同様、力の抜けた演奏が冒頭から心地よいのですが、曲が真正面から切り込むようなタイトなものだけに、同じような演奏でも若干テンションが上がって聴こえます。耳をすますと演奏の精度が高いわけではなく、適度に荒いところもあり、これが緊張感を高めすぎず、おおらかな印象を保っているよう。適度な緊張感と適度に楽天的な絶妙なバランスを保っています。
素晴らしいのが続く2楽章。実にカジュアルな語り口で淡々と進め、あえてメリハリを抑えているようですが、そのような演奏がハイドンの素朴な音楽の魅力を引き立てているよう。彫り込みを深くすることだけが音楽を深めるわけではないという好例。ボブ・ディランの歌が、彼の素朴な声の魅力で成り立っているのと同様、この語り口はを聴いていただかなくてはわからないかもしれませんね。
メヌエットもあえて表現の幅を抑えた演奏。淡々を進む音楽からメロディーのおもしろさが滲みます。中間部の弦楽器の音が重なりあう面白さの表現も聴かせどころを集中させているからこそ際立つもの。音の重なりの推移の面白さだけが際立つようにあえて仕組まれています。
フィナーレもさらりとしたもの。抑えた表現から音楽が湧き上がります。もちろん力みも変な表現意欲のかけらもなく、ただただ素直な演奏こそがハイドンの音楽の魅力を伝えると確信を持っているように弾き続けます。短調の陰りも過度にとらえず、最後まで一貫したスタンスを貫き、余裕たっぷりの演奏で結びます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
名曲「皇帝」。もちろんこちらも力ヌケヌケ! まるで練習でもしているようにやさしく自然な演奏。ただし流石はベルリンフィルの一流どころだけあって、締めるところはキリリと締めてきます。力んだ演奏は無粋だとでもいいたげな気楽さ。ピシッとしていながらどこか楽天的な音楽はまさにハイドンの音楽の肝そのもの。名手がさらりと演奏する余裕を楽しみます。ところどころ音階のキレを楽しむような部分で遊び心を見せながらも、純粋無垢な心境を映すような演奏にほくそ笑みます。
有名な2楽章もちょっと枯れ気味になりそうなほど力を抜いた自然な音楽を楽しみます。変奏は蝶が優雅に花の間を飛び回るがごとき風情。適度にくだけた弓づかいが生み出すしなやかなフレージング。酔拳のようなふらつきの美学も感じさせます。技は音楽にあらずという信念が感じられる優雅さが満ちています。実に味わい深いひととき。音楽を知り尽くしているからこその達観した境地。
夢から覚まされたかのように筋の通ったメヌエットの入りで、我にかえります。媚びない素朴な演奏は前曲同様、かえってメヌエットのメロディーの面白さが際立ちます。淡々サラサラ枯淡の境地。
曲の締めくくりのフィナーレでもやはり力みは皆無。八分の力でカジュアルにアンサンブルを楽しむ余裕があります。一貫して素朴さが生み出す味わい深さが聴きどころの演奏。最後もアンサンブルを精緻にキメようというような感じは全くなく、複雑な音階の絡みあいの複雑さを楽しむがごとき境地に至っています。

振り返ってみると、冒頭の「セレナーデ」が一番きっちりした演奏。本命たるOp.76からの2曲は、力をかなり抜いて、奏者がアンサンブルを楽しむような演奏でした。このアルバム自体は3,800円との値付けを見ればわかる通り、CD発売初期の1984年にリリースされたもの。その後この中の「セレナーデ」が他の演奏とセットされて発売されたのに対して、Op.76の方は他の演奏に置き換えられたことを見ても、「セレナード」の方が一般受けするとの判断があったのでしょう。しかし、私はこのアルバムの聴きどころはOp.76の方だと思います。一般受けは「セレナード」だと思いますが、Op.76の方はハイドンのクァルテットの演奏スタイルとしては実に興味深く、クァルテット好きなベテランにこそ聞いていただきたい演奏です。綺麗に響かせるとかくっきり響かせるというところではなく、屈託ない音楽を演奏して楽しむとはこのような演奏のことだと言いたげなほど飾り気も外連味もなく、さりとて凡庸な演奏でもなく、実に味わい深い音楽が流れます。ハイドンの音楽の多様性を示す好例と言ってもいいでしょう。ということで評価は全曲[+++++]をつけます。

このところ所有盤リストの修正に明け暮れ、ちょっと記事をアップするまで間が空いてしまいました。もう少しペースアップせねば、、、

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tag : ハイドンのセレナード 五度 皇帝 ベルリンフィル

シェレンベルガー/パユのスケルツァンド集(ハイドン)

今日はアイドル路線なんですが、曲は珍しいもの。

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ハンスイェルク・シェレンベルガー(Hansjörg Schellenberger)指揮のハイドン=アンサンブル・ベルリン(Haydn-Ensemble Berlin)の演奏で、ミヒャエル・ハイドンのフルート協奏曲、ハイドンのスケルツァンド(Hob.II:33、34、35、36、37、38)、かつてハイドン作とされたレオポルド・ホフマン作曲のフルート協奏曲の3曲を収めたアルバム。フルート独奏はエマニュエル・パユ(Emmanuel Pahud)。収録は1997年6月、ベルリンの東南部オーバーシェーネヴァイデ(Oberschöneweide)のキリスト教会でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。

このアルバムをなぜ取りあげたかというと、まずはスケルツァンドの最新のアルバム、デニス・マッカルディンの2枚組のアルバムを聴いて、このスケルツァンドという曲自体の面白さに気づき、手元にあるアルバムをいろいろ聴いて確認したところ、意外にこのアルバムが良い演奏だと気づいたことから。アルバム自体はベルリンフィルのイケメンフルーティスト、エマニュエル・パユの顔写真をあしらった、いかにもアイドル売り路線のアルバム故、これまで踏み込んで聴いていなかったのが正直なところ。

エマニュエル・パユは1970年、スイスのジュネーヴ生まれのフルート奏者。バーゼルで名フルーティスト、ペーター=ルーカス・グラーフにフルートを師事、その後パリ音楽院で学び、1990年首席卒業。1989年から92年までバーゼル放送交響楽団の首席フルート奏者、そして1992年以降はご存知、ベルリンフィルに入団、93年からは首席奏者を務めています。仕事量の多さから2000年に一度退団したそうですが、2002年に復帰とのこと。

このアルバムで指揮を担当しているハンスイェルク・シェレンベルガーも1980年以来、ベルリンフィルの首席オーボエ奏者。2001年に退団し、現在は教育者として活躍しているとのこと。

オケのハイドン=アンサンブル・ベルリンはシェレンベルガーの発案でベルリンリンフィルの15人の奏者によって1991年に設立された室内オケということです。

このスケルツァンドは1765年に発刊された、ブライトコップ目録に記載され、1750年代に作曲された小交響曲集の一部と考えられているそう。オーボエ2、ホルン2にヴィオラをのぞく弦楽三声部と言う編成で4楽章構成の曲6曲のセット。すべての曲で2楽章がメヌエット、そのトリオのソロがオーボエに代わってフルートが用いられており、パユの腕の見せ所となっています。

いつも通りヨゼフ・ハイドンの曲のみ取りあげます。

Hob.II:33 / Scherzando No.1 [F] (c.1760)
流石ベルリンフィルの腕利き奏者の集まり。弦、ホルン、オーボエが寸分違わぬ精度でキビキビとした音楽を奏でていきます。愉悦感溢れる演奏。メヌエットに入ると、パユのフルートは一際華やか。数フレーズのみなのに、花が咲いたような明るさを感じさせるのは流石。続くアダージョの濃い音楽に、フィナーレは再び恐ろしい精度でリズムも快活。ここまできっちりあわせられると快感すら覚えます。

Hob.II:34 / Scherzando No.2 [C] (c.1760)
モーツァルトの初期交響曲に近い軽さと推進力のある曲。ハイドンの交響曲よりもずっとモーツァルトに近い感じ。途中でほの暗さも感じさせるのところもモーツァルト風。メヌエットはハイドン風とハッキリわかるもの。トリオは陰のある不思議な響きですが、ここでもパユが入ると空気が変わります。ゆったりした音楽なのに一人だけ浮かびあがります。パユの人気の秘密がわかったよう。アダージョは演奏の一貫性を保ったまま、実に自然にギアチェンジして、しっかり沈みます。この小曲なのに楽章感の対比は見事。フィナーレは30秒の小曲ですが、箱庭のような楽しさがある曲です。

Hob.II:35 / Scherzando No.3 [D] (c.1760)
だんだん、ハイドンの手中にハマってきました。ここまでホルンが、見事に裏方に廻って響きをまろやかにする役に徹している。3曲目に入って、前2曲とはまったく異なるメロディーの構成に驚きいるばかり。特にフルートが登場するメヌエットの面白さが際立ちます。まさに曲ごとの変化の楽しさに釘付け。各曲のアダージョの豊かな曲想にも引き込まれます。最後に鮮度抜群のオケの響きで曲が締まります。

Hob.II:36 / Scherzando No.4 [G] (c.1760)
後半3曲は簡単に。今度は色彩感の際立つ曲。メヌエットのフルートも蝶が飛ぶような間と華やぎがあるもの。アダージョはピチカートが印象的。

Hob.II:37 / Scherzando No.5 [E] (c.1760)
再びモーツァルト風の流麗な曲。この曲が1950年代の作曲だとするとモーツァルトはまだ生まれたばかりの頃。ハイドンのこの曲などをモーツァルトが聴いていたのでしょうか。快活な1、2楽章に対して、深く沈むアダージョの対比は、後年の成熟を予感させるもの。良く聴くとこの曲、名曲ですね。演奏も変わらず完璧。

Hob.II:38 / Scherzando No.6 [A] (c.1760)
最後の曲もモーツァルトの曲といっても誰も気づかないでしょう。明るい曲調と華やかな音階に彩られた推進力溢れる曲。パユのフルートの軽やかな響きも素晴しいのですが、この曲の聴き所は、儚い響きのアダージョ。明るい響きなのに儚さを感じる実に繊細な曲。まさにハイドンの真骨頂。このころからこれだけ素晴しいメロディが聴かれることにいまさらながら驚きます。

このスケルツァンド、パユの華やかなフルートソロも素晴しかったんですが、シェレンベルガー率いるハイドン=アンサンブル・ベルリンの演奏が出色の演奏。これ以上精度の高いアンサンブルはあり得ないほどの見事なアンサンブル。ベルリンフィルの安定感ある音色で奏でられる、ハイドンの千変万化する小交響曲集。これほど楽しい曲だとあらためて気づきました。評価は全曲[+++++]としました。

冒頭のミヒャエル・ハイドンのフルート協奏曲はパユの超絶テクニックが楽しめます。たんなるアイドル路線のアルバムではなく、音楽を楽しめる良いアルバムでした。おすすめです。

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tag : スケルツァンド ベルリンフィル

【新着】ルドルフ・ケンペ/ベルリンフィルの校長先生ライヴ(ハイドン)

TESTAMENTの新譜。いつもながら、モノクロームのジャケットから浮かび上がる奏者の写真がえも言われぬ味わい。つい手を出してしまう好企画。

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ルドルフ・ケンペ(Rudolf Kempe)指揮のベルリンフィルの演奏で、ハイドンの交響曲55番「校長先生」、ベートーヴェンののピアノ協奏曲4番(独奏:ニキタ・マガロフ)、モーツァルトの交響曲39番の3曲を収めたアルバム。収録は1962年8月16日、ザルツブルクのモーツァルテウムでのライヴ。レーベルは復刻にかけては第一線の英TESTAMENT。

このアルバム、まさに入荷したてのもの。冒頭に触れたTESTAMENT独特のジャッケットに、ザルツブルク音楽祭の赤いロゴマークが燦然と輝き、演奏当時の空気をそのまま運んでくれそうな素腹らしいプロダクション。ジャケットから音楽が溢れ出してくるようです。

ケンペのハイドンの録音は少ないながらも、いくつか取りあげています。

2011/07/05 : ハイドン–交響曲 : ルドルフ・ケンペ/フィルハーモニア管1956年のロンドン
2010/10/10 : ハイドン–交響曲 : ルドルフ・ケンペのロンドン

何れもロンドンですが、フィルハーモニア管とBBC交響楽団との演奏。今回は相手がベルリンフィルで、ザルツブルク音楽祭のライヴということで、俄然期待が高まります。

Hob.I:55 / Symphony No.55 "Der Schulmeister" 「校長先生」 [E flat] (1774)
録音はモノラル。残念ながらかなりカマボコ型のハイ落ち、ロー落ちの録音。安定感は悪くありません。ヴォリュームを上げて演奏会場の雰囲気に近づけるよう調整。ハイドンの中期の交響曲のシンプルながら面白い表情をさらりと聴かせながら、流れの良さを印象づける正統派のもの。録音がもう少しリアリティがあれば、かなり楽しめる演奏でしょう。録音を脳内で補正して聴くと、小曲ながら表情の多彩さ、快活さはなかなかのもの。1楽章はテンポ感の良さで聴かせきってしまいます。
続くアダージョに入ると、録音のハンディがあまり目立たなくなり、ゆったりした音楽に集中することができます。校長先生という曲名の元になった規則正しい音楽。そのメロディが次々と変奏として重なりますが、その表情が実にいい。メロディーが活き活きとして、表情豊か。オケは一糸乱れることなくケンペのコントロールに忠実にメロディーを置いていきます。いつも火を噴くベルリンフィルもケンペに完全に掌握されてます。この統率力は見事で、シンプルな曲に素晴しく豊かなニュアンスが重なります。
メヌエットも旋律はシンプルなものながら、ケンペの手にかかると、その旋律が活き活きと躍動します。曲の核心をつく解釈。力が抜けているのに音楽は躍動します。途中でチェロのソロが登場しますが、軽々とした弓さばきが見事。ケンペ独特の穏やかながら活気あるコントロール。
フィナーレは敢えて力をかなり抜いて、羽毛布団のような肌触りでコミカルなメロディーを重ねていきます。このスタンスこそケンペらしいところでしょう。音楽に潜む本質的な気配を汲みとり、音にして行くセンスの鋭敏さ。この曲の機知を見事に捉えています。最後に突然クリアになってフィニッシュ。観客もそれに反応して拍手まで音楽のよう。

つづくベートーヴェンの4番のコンチェルトに入ると、ニキタ・マガロフのピアノが驚くほど鮮明に響いてビックリします。これは鮮明な録音。オケは校長先生と同様ですが、ピアノの鮮明さは驚くほど。味わい深いピアノが印象的。
そしてモーツァルトの39番は独特の高揚感と燻し銀の響きに痺れます。これも名演奏。

1962年と言えば私の生まれた年。今から51年前、ザルツブルク音楽祭の行われたモーツァルテウムの空気がそのまま家に届くような雰囲気のアルバムです。この日のコンサートではハイドンの校長先生は前座的な位置づけですが、すこしぼやけた録音を通しても、その粋な演奏の真髄は伝わります。ケンペと言う指揮者の誠実かつ曲に対する謙虚な姿勢がつたわる良いアルバムです。校長先生の評価は、録音の分差し引いて[++++]というところでしょう。このアルバム、やはり聴き所はベートーヴェンとモーツァルトです。51年前のザルツブルクを想像しながら楽しみました。

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tag : 校長先生 ライヴ録音 ヒストリカル ベルリンフィル ザルツブルク音楽祭

カラヤン/ベルリンフィルの「ジュピター」1956年ライヴ

今日12月5日はモーツァルトの命日。モーツァルトは1791年12月5日に亡くなりました。ハイドンとモーツァルトが互いに尊敬しあっていたのは有名なのでご存知のことでしょう。折角の記念日なので、久しぶりにモーツァルトのお気に入り盤を取りあげます。

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ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトの交響曲41番「ジュピター」K.551、35番「ハフナー」K.385、ピアノ協奏曲20番K.466の3曲を収めたアルバム。収録はジュピターとピアノ協奏曲が1956年1月21日、ベルリンのツェーレンドルフ、パウロ派教区信徒会館でのライヴ、ハフナーは1955年2月27日、アメリカ、ワシントンでのライヴ。レーベルは伊JOKER。

このアルバム、手に入れたのはずいぶん前。たしか今は亡き六本木WAVEで入手したものです。それもモーツァルト没後200年の1991年頃だったと記憶しています。手に入れた当初は、カラヤンのモーツァルトということで、さして期待していませんでしたが、冒頭に置かれたジュピターを聴き始めたところ、もの凄いエネルギーに満ちた演奏でビックリ。しかも、そのエネルギーが徐々に高まり、終楽章は圧倒的な迫力。後年はスタイリッシュかつスタティックな演奏が多かったカラヤンですが、50年代は違いました。

1956年と言えばモーツァルト生誕200年の年。モーツァルトの誕生日は1月27日ですから、まさに誕生日の少し前、生誕200周年のアニヴァーサリーに沸いていた頃でしょう。まさにモーツァルトの生誕を祝うコンサートということで、カラヤン自身も尋常なテンションではなかったことと想像しています。

以来、このアルバムは愛聴盤として、ラックの取り出しやすいところに置いてたまに楽しんでいましたが、流石にハイドンのブログをはじめてからは手にとっていませんでしたので、久しぶりに聴く事になります。今日はこのジュピターです。

モーツァルト 交響曲41番「ジュピター」
音質はモノラル、時代なりですが、そこそこ聴きやすいもの。入りはカラヤンらしく整ったフォルムで整然とした印象。徐々にベルリンフィル弦楽器が力を帯びてきます。カラヤンらしい迫力を帯びても余裕がある表情。曲全体を見渡した造形。きりりと引き締まったリズムにのって、オケが輝きます。音量を上げて聴くと陽光に輝く大理石の神殿のごとき威容。どこをとっても完璧なプロポーション。このころのカラヤンはレガートを多用せず、むしろフレージングはさっぱりして、音楽の骨格をクッキリ表現しているよう。1楽章は実に気高い演奏。
2楽章に入ると、きっちり流麗なテンポに乗って、ダイナミックレンジを大きく取って弦楽器陣がフレーズではなく音楽の振幅を聴かせるような迫力ある演奏。カラヤン時代のベルリンフィルの特徴である分厚い弦楽器の響き。唸るように歌いますが、気高さを保って情に流されないところは流石。ライヴのためかオケは適度に荒れていますが、それが妙に迫力につながっています。後年は室内楽的な透明感を帯びるような演奏も多かったですが、この覇気は貴重。
メヌエットに入ると、さらに迫力が増しますが、オケにはまだ余裕があるのが流石。カラヤンの曲全体を見渡した骨格設計は完璧。カラヤンの覇気が吹き出してきそう。大迫力なのに優雅。
フィナーレに入ると、明らかにオケにスイッチが入ります。ここでようやく本気モード。録音に少々混濁感がともないますが、それも迫力のうち。フーガのフレーズが次々と唸るように襲ってきて、素晴しい推進力。適度に荒れた表情のベルリンフィルが髪を振り乱してカラヤンのコントロールにあわせて爆音を轟かせます。最後はホール中に轟く音塊に圧倒されます。このときカラヤン48歳。最も覇気が溢れていたときのカラヤンとベルリンフィルの底力を思い知らされます。最後は拍手入り。

モーツァルトの生誕200年を祝うコンサートに登場したカラヤンとベルリンフィル。この前年の1955年にベルリンフィルの終身首席指揮者兼芸術総監督に就任し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃でしょう。古い録音を通してさえ、その時の空気のようなものが伝わってくる演奏でした。このアルバム、紹介したJOKER盤はおそらく海賊盤で入手は難しいでしょうが、同じソースだと思われるaudite盤は流通しています。こちらは未聴なので録音の程度がどうかはわかりませんが、そこそこ楽しめる物だと想像しています。

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tag : モーツァルト ヒストリカル ライヴ録音 ベルリンフィル

【珍盤】トヨタ・フィルハーモニック・マスター・プレイヤーズ・ベルリンの交響曲47番

今日は超珍盤です。非常に珍しいアルバム!

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トヨタ・フィルハーモニック・マスター・プレイヤーズ・ベルリン(Toyota Philharmonic Master Players, Berlin)の演奏で、バッハのブランデンブルク協奏曲第3番、ハイドンの交響曲47番、モーツァルトの交響曲40番の3曲を収めたアルバム。収録は1997年1月6日から8日にかけて、ベルリンのTELDECスタジオでのセッション録音。制作はトヨタ自動車でジャケットには「非売品」との記載があります。

ジャケット写真からわかるとおりトヨタの創立60周年を記念して制作されたもの。ライナーノーツを紐解いてみると、1997年の11月3日が創立60周年の日で、このために特別にベルリンフィルのOBによって編成されたオケによって、コンサートが開催され、合わせて記念CDが制作されたということです。この取り組みはウィーンの「ヘルベルト・フォン・カラヤン・センター」の賛同により実現したとの記載もあります。収録情報からわかる通り、収録はスタジオなので、この演奏とは別に、97年の7月に日本でツアーが行われたとの記載があります。もしかしたら、このツアーのコンサートを聴かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。

当ブログのマニアックな読者ならお気づきのこととおもいますが、この種の企画ものは以前に一度取りあげた事があります。

2010/11/15 : ハイドン–オラトリオ : サヴァリッシュ、N響の天地創造ライヴ

そう、バブル成熟期の1991年の日本で行われた、BMWジャパンによる天地創造のコンサートの模様を収めたBMWジャパンの創立10周年記念アルバムです。その91年から6年後に、今度は世界のトヨタが創立60周年を記念して、ベルリンフィルのOBを起用してこのアルバムを制作した訳ですが、サヴァリッシュとN響を起用したBMWを上回る覇気を見せつけようとの意図も見え隠れするような企画。トヨタの企画陣がBMWを意識したか、真偽のほどは定かではありませんが、私はなんとなくトヨタの企画サイドにはそんな意図があったのではと邪推しております(笑)

戯言はともかく、BMWがハイドンの天地創造を、トヨタもバッハ、モーツァルトに加えてハイドンの曲を記念アルバムに採用してきたことは、流石の見識と言うべきでしょう。

ライナーノーツにはオケのメンバー表が記載されており、26名の奏者で構成されています。音楽監督を務めたのはカラヤン時代のベルリンフィルを支えた名コントラバス奏者のライナー・ツェペリッツで、指揮者は置かれなかったようです。チェンバロはハンス・マルティン・シュナイトとの記載があります。

1曲目のブランデンブルク協奏曲3番は、ベルリンフィルOBらしい穏やかなキレを感じさせる演奏。指揮者なしということで、踏み込んだ表現は聴かれず、音楽自体に淡々と語らせる演奏。

Hob.I:47 / Symphony No.47 [g] (1772)
ブランデンブルク協奏曲の終了から間をほとんどとらずにはじまります。小規模オケの良さを感じさせるクリアな響き。テンポは一貫していて、やや速めに感じます。ところどころに明確にレガートを強調してカラヤン時代の名残りを感じさせる演奏。キビキビとした各楽器の粒立ちの良さは流石にベルリンフィル出身者揃いという感じです。シュトルム・ウント・ドラング期独特の濃密な雰囲気はあまり感じさせず、逆にさっぱりとした表情。ハイドンの音楽を純音楽的な透明感のある響きでまとめていこうというスタイルでしょうか。音楽が進んでくるとヴァイオリンのキレ、各楽器のアクセントのキレの良さがじわりと伝わってきます。
2楽章も速めのテンポで音楽の流れの見通しの良さを強調した展開。弱音器をつけた弦楽器が繰り出す音階が様々に交錯する綾を楽しみます。弦楽器のフレージングからは不思議と厚みとキレの両立した全盛期のベルリンフィルらしさがにじみ出てくるのが不思議なところ。これが伝統というものでしょうか。2楽章でこうした味わいが出てくるとは予想しませんでした。穏やかながら深みもある良い演奏。
メヌエットも前楽章同様速めのテンポで流れの良い演奏。音楽が進むのにつれてオケの一体感も上がり、1楽章で感じられた固さもほぐれてきます。淀みなく流れるハイドンの美しいメヌエットのフレーズ。
フィナーレに入ってもギアチェンジなし。穏やかに音楽が流れ、じわりと沸き上がってくる高揚感。楽章間のメリハリをあえて抑えているようですが、単調さはなく、逆に音楽が切れ目なく流れる一貫した良さを感じさせます。この辺が普通のオケとは違う所でしょう。音楽の非常にデリケートな部分できっちり表情をつけていける表現力があるということでしょう。良く聴くとフレーズにはしっかりとメリハリがついており、各奏者が深い部分で音楽を共有していることがわかります。この辺は、同じ指揮者なしでもオルフェウス室内管などとちょっと異なるところ。1楽章ではすこしギクシャクしていたところが、最後はしっかりまとまってくるのは流石というところでしょう。

続くモーツァルトの40番も同様の演奏スタイル。詩情が迸る劇的な演奏ではなく、きっちりとオケが響きを重ねながらじわりと味わいを感じさせる演奏。こちらも悪くありません。

今や世界を代表するトヨタ自動車の創立60周年を記念して16年前に制作されたアルバム。BMWジャパンが、サヴァリッシュとN響による天地創造のライヴという記念アルバムで、通なクラシックファンにも通じる入魂の企画で勝負してきたのに対し、トヨタはベルリンフィルというネームバリュー、指揮者なしのスタジオ録音という企画を当ててきたのは、なんとなく両者のブランドの狙いも反映しているようで非常に興味深いところです。アルバム作りについても、曲間が妙に短かったりして、制作がクラシックになじみのない人が担当していたような印象もありますが、肝心の演奏はきちんとしたクォリティを保っているあたり、流石トヨタというところでしょう。冒頭に非常に珍しいアルバムと記載しましたが、もしかしたらこの頃トヨタ車を買った方には大量に配られていたりすると、多くの人が聴いた演奏という可能性もありますが、この辺のところはちょっとわかりません。肝心の演奏は、トヨタ車同様隙のない仕上がりです。評価は[++++]としておきましょう。

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tag : 交響曲47番 ベルリンフィル

ハンス・ロスバウト/ベルリンフィルのオックスフォード、ロンドン

前記事で聴いたアーノンクール/ベルリンフィルの熊があまりにも素晴しかったので、手元にあるベルリンフィルの演奏をあれこれ物色。そして選んだのがこれ。

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ハンス・ロスバウト(Hans Rosbaud)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲4番、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。ヴァイオリン独奏はウォルフガング・シュナイダーハン。収録はオックフフォードが1956年3月、ロンドンが1957年3月、何れもベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルは名門Deutsche Grammophone。

手元の所有盤リストでベルリンフィルのハイドンの交響曲の演奏を探すと、もちろんカラヤン、ラトル、以前ライヴを取りあげたザンデルリンクなどが出てくるのですが、あとはチェリビダッケやリヒターといったところ。これまで取りあげた事のない指揮者という意味てロスバウトを選んだ次第。

ライナーノーツには、冒頭に高名なハイドン研究者であるロビンス・ランドンが1950年代に書いた批評が紹介されています。ランドンはこのロスバウトのオックスフォードとロンドンの演奏のことを「Grammophoneの録音の歴史上、これから録音されるであろう数多の演奏も含めて、最も完成度の高い演奏である」との言葉を残しているそう。これはちょっと気になります。

そのハンス・ロスバウトですが、1895年、オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。母はピアニストで、フランクフルトのホーホ音楽院に進み、1920年からはマインツ市立音楽学校の校長となります。指揮者としては1929年にフランクフルト交響楽団の音楽監督となり、ヒンデミット、バルトーク、ストラヴィンスキー、シェーンベルクらの作品を上演して、現代音楽を積極的に紹介しました。戦後はミュンヘンフィル、南西ドイツ放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管の指揮者として活躍し、1962年にスイスのルガーノで亡くなっています。エルネスト・ブールとともに指揮者としてのピエール・ブーレーズに影響を与えたということです。

フルトヴェングラーの急逝によってカラヤンがベルリンフィルの芸術監督となったのが1955年ということですから、このロスバウトの演奏はその直後の録音ということになります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
現代音楽が得意と聞いてこの入りを聴くと、実に緻密なコントロールに聴こえるのが不思議なところ。朝陽が差すような淡いトーンからオケが踏み込んでくるまでの序奏の変化は非常に巧みな演出だと感じます。ちょっと古びた音色に違いありませんが、録音を脳内補正して聴くと、オケはやはりベルリンフィルらしい覇気に満ちあふれています。実に引き締まった良い表情。引き締まったタイトな響き。ベルリンフィルはベルリンフィルなんですね。
流石なのが続くアダージョ。音楽の流れが大きくなり、深い呼吸としっとりした響きがえも言われぬ柔らかさ。タイトさとこの柔らかさの対比が絶妙。そしてメヌエットは、沈着冷静な進行。出来るだけ客観的に演奏しようとしているのか、テンポは揺らさず、淡々と、しかし引き締まったダイナミックさは保とうとしているよう。
フィナーレの有名な入りは弾む感じとキレ、推進力の高度なバランスを保った演奏。速めのテンポで快活が前面に出ます。オケの吹き上がりは流石ベルリンフィル、意外に端正なロスバウトの指揮に、オケの方から煽りを入れてくるような印象もあります。オケがインテンポで次々と畳み掛けてきます。オケのキレを楽しめる素晴しいフィナーレ。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
変わってハイドン最後の交響曲「ロンドン」。録音は1年新しいのですが、音のクォリティーはさして変わらず。なんとなくロンドンの方がスケール感のある演奏を期待して、同じレベルの録音なのに、耳がスケール感を求めてしまって損している感じ(笑)
オックスフォードのリズムがキレていたので、ロンドンの1楽章は若干重い感じに聴こえます。ただ、淡々と立体感溢れる音楽を紡ぎ出してくるあたりは流石の出来です。聴き進むと重さもスケール感を出そうとしてのことだとわかります。1楽章は徐々に盛り上がって最後は覇気炸裂。
アンダンテはかなり大胆にテンポを落とします。一貫してキリッとした表情から、覇気が滲み出してくる演奏。やはりベルリンフィルの合奏力あってのコントロールでしょう。こうゆうオケを指揮するのは楽しいのでしょうね。
そしてメヌエットも録音年代を考えるとモダンな演奏。オケの合奏力によるメリハリが素晴しいので、淡々とした表情が活きます。
フィナーレは言わずもがな。耳が慣れて録音をちゃんと割り引いて、当時の響きを聴き取ろうとしてますので、迫力は十分。この余裕のある覇気はベルリンフィル独特のものでしょう。素晴しい陶酔感すら感じるフィナーレの展開。途中、テンポをかなり意識的に落として沈み込むあたり、ハイドンを知り尽くした至芸と聴こえます。最後は響きの坩堝のようになって終了。

ハンス・ロスバウトの指揮するベルリンフィルは、1950年代にもかかわらず、ベルリンフィルらしい素晴しい覇気のある演奏でした。オケの伝統とはこれほどの歴史があるものと再認識。オケの響きは長年かかってそのオケらしい音が形作られていくものだとあらためて再認識した次第。この録音をちゃんと聴くとベルリンフィルの素晴らしさがよくわかります。評価は両曲とも[+++++]としました。

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tag : オックスフォード ロンドン ヒストリカル ベルリンフィル

アーノンクール/ベルリンフィルの熊ライヴ

9月に入りました。久々の交響曲のアルバム。先日ディスクユニオンの店頭で探し当てたもの。

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ニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトの「音楽の冗談」ベートーヴェンとモーツァルトのバリトン向けアリア4曲、そしてハイドンの交響曲82番「熊」を収めたアルバム。バリトン独唱はジェラルド・フィンレイ(Gerald Finley)。収録は2001年4月29日、ベルリンフィルハーモニー大ホールでのライヴ。レーベルはCD-Rの米GNP。

この日のコンサートの記録はベルリンフィルの公式サイトのカレンダーでも確認できます。

Berliner Philharmoniker - Concert Calender - 29 April 2001

アーノンクールの演奏は天地創造の実演も聴いていますし、これまで声楽曲などを中心にいろいろ取りあげていますが、交響曲の演奏はブログをはじめた頃に簡単に取りあげたのみ。

2010/04/07 : ハイドン–交響曲 : アーノンクールの初期交響曲集
2010/02/28 : ハイドン–交響曲 : 新着! ウィーンフィルの交響曲集

今回は2001年と比較的最近、しかも相手はベルリンフィルということで、アーノンクールがベルリンフィルをどう操っているか興味津々。いつもの手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスばりに刺激音炸裂なのでしょうか。

1曲目のモーツァルトの音楽の冗談から、アーノンクールやり放題(笑) テンポをかなり自在に動かし、ベルリンフィルの奏者に好き放題にやらせてます。小節がキツいのがアーノンクール流。ただ聴いていくうちにアーノンクールの術中にハマったのか、間延び寸前のテンポが妙に心地良く聴こえるようになります。最後はめちゃくちゃな不協和音にベルリンフィルハーモニーのお客さんも笑いと拍手の嵐。真の意味での遊び心炸裂を楽しんだ事でしょう。続くベートーヴェンとモーツァルトのアリアで、コミカルな音楽の正統な魅力を再認識させ、いざ最後にハイドンの熊です。アリアのフィンレイ、かなりの役者ぶりを発揮。おそらくハイドンの交響曲はコンサートの最初に演奏される事は多いものの、最後に演奏されるのはオールハイドンプログラムくらいじゃないでしょうか。

Hob.I:82 / Symphony No.82 "L'Ours" 「熊」 [C] (1786)
ここまでの演奏でオケが温まったのか、ベルリンフィルのキレの良さ炸裂です。アーノンクール流の癖はありますが、あまりにベルリンフィルの鳴りが良いので陶酔感すら感じる入り。最後のハイドンこそ古典の頂点とばかりにアーノンクールは厳かな印象も加え、ベルリンフィルもそれに万全に応えます。フィルハーモニーに響き渡る轟音、弾むリズム、音の塊が過ぎ行き静けさが訪れ、そして音塊が繰り返し襲ってきます。オケのあまりのキレの良さに聴き惚れます。正直これだけの威容で立ちはだかる熊の1楽章は初めて。アーノンクールは落ち着き払って、まるでハイドンが乗り移ったかのように純音楽的に澄みきります。フィルハーモニーにハイドンの圧倒的な音楽が満ちあふれ、ホール内が異様な迫力にのまれます。
アンダンテはすこし足早な穏やかさ。1楽章の火照りを鎮めるように進みますが、山は中間部にありました。鮮烈な響きを何度か響かせてアクセントをしっかりつけます。徐々にベルリンフィルの威力が増し、アーノンクールはテンポをダイナミックに変化させ、曲にメリハリをつけていきます。
メヌエットは予想通り小節を効かせたアーノンクール流のものですが、相手がベルリンフィルだけに、アーノンクールの意図を俊敏に察知して見事な反応。フィルハーモニーに響き渡る音塊が痛快。ホールがざわめきます。
クライマックスのフィナーレ。木管群の素晴しいプレゼンス。弦楽器群は唸るような弩迫力。カラヤン時代のような分厚いベルリンフィルを彷彿させる素晴しい合奏力。キレの良いアーノンクルールのコントロールにベルリンフィルが恐ろしい迫力で応じます。アーノンクールは要所でテンポと間を切り替え、鳴りまくるベルリンフィルを制御。ハイドンの楽譜に込められた機知に反応して、ベルリンフィルハーモニーを響きの渦に巻き込み、観客を異様な集中に放り込みます。最後はかなり大胆にリズムを変えて場内を圧倒。観客もここまで変化させてくるとは思わず、拍手が先走ります。いやいや圧倒的な演奏とはこのことでしょう。

流石アーノンクール。ベルリンフィルハーモニーをハイドンの熊で圧倒。世界最高峰のオケを自分がコントロールすれば、ハイドンでホールを圧倒できるのだと言わんばかり。トリックスターの面目躍如です。間違いなくアーノンクールの振るハイドンの交響曲のベストです。当日の観客はこの伝説的な演奏に酔いしれたことでしょう。録音で聴くと癖の目立ってしまう演奏が多いアーノンクールですが、この演奏はベルリンフィルという名オケとのライヴだけに、周到に準備して臨んだことでしょう。見事というほかありません。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : ベルリンフィル ライヴ録音 CD-R

カラヤン/ベルリンフィルの「軍隊」

前記事でスヴェトラーノフによるベルリンフィルの雄々しい響きを聴いて、これを久しぶりに聴いてみたくなりました。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan)指揮のベルリンフィルの演奏で、ハイドンのパリセットとザロモンセットを収めたアルバム。今日はこの中から交響曲100番「軍隊」を取りあげます。軍隊の収録は1982年1月、ベルリンのフィルハーモニーでのセッション録音。レーベルは名門Deutsche Grammophone。

スヴェトラーノフとのライヴが1989年3月でしたので、その約7年前の録音ということになります。筋骨隆々のベルリンフィルをスヴェトラーノフが振ると、やはりもの凄いパワーを秘めた煮えたぎるマグマのような迫力を帯びていきますが、やはりカラヤンが振ると、レガートを効かせたカラヤンの音楽になります。カラヤンのハイドンは世評は高いものの、特にこのDGの晩年のベルリンフィルとの録音については、ちょっと人工的ですらあるカラヤン一流の磨き込まれた音楽が、ハイドンの交響曲の演奏として相応しいかどうかと言われると、個人的にはちょっと冷静な立場になるのが正直なところでした。その辺は過去の記事にも書いてあります。

2012/06/18 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルの86番
2011/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルのロンドン旧録
2011/01/18 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ウィーフィルのロンドン
2010/12/16 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ウィーフィルの太鼓連打
2010/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤンのハイドン再考

ただし、いろいろな演奏を聴きつつ、聴く耳も心も変化していきます。スヴェトラーノフが描いた軍隊を、カラヤンは同じオケでどのように描いたのかという興味も湧いてきたので、久々にカラヤンの軍隊を聴いてみたくなった次第。何か発見があるかもしれませんね。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
テンポの遅さはスヴェトラーノフと同様ですが、こちらはカラヤン。序奏から美しく磨き込まれたビロードのような手触りの演奏。流麗な演奏とはこのこと。すぐにダイナミックレンジの幅一杯にクレッシェンドして、ベルリンフィルがフルスロットルで威力を見せつけます。主題に入ると、スタイリッシュにメロディーを刻んでいきますが、流石ベルリンフィルだけあって合奏精度は見事なもの。ロンドンではカラヤンらしさが過ぎて、ちょっと鼻につくところもありましたが、軍隊では不思議とそう感じません。やはりベルリンフィルの威力はただものではありませんね。強奏部分の力感と、カラヤンのダイナミックな音量変化に余裕たっぷりでついてくるところは流石です。特に低音弦の唸るような迫力はベルリンフィルならでは。力でねじ伏せる感じです。
2楽章のアレグレットはレガートを効かせたカラヤン流の演出。今聴くと意外とメロディーラインの演出は単調というか、意識は完全に音量のコントロールに行っているようです。打楽器群の爆発はスヴェトラーノフよりも迫力がありますが、曲として聴くと、スヴェトラーノフの方が迫力があるように聴こえるのが不思議なところ。カラヤンの演奏は完全にコントロールされたもので、スヴェトラーノフのようにスリリングな印象がないからでしょうか。オケは気持ち良く響き、演奏も楽天的ですらあるように安定したもの。もちろん大爆発。
メヌエットに入ってもカラヤンはフレージングはあまり凝らず、磨き込まれた力感を重視しているよう。堂々とした立派なメヌエットですが、音楽の面白さはメロディーラインの表情やリズムの変化などいろいろな要素で成り立っているのに、堂々とした迫力に偏ってしまっているようにも聴こえます。
フィナーレはベルリンフィルのテクニックとパワーをカラヤン流にまとめてスタイリッシュな迫力を演出。前半はすこしセーブ気味にすすめて、終盤の爆発に備えているのでしょうか。カラヤンは極めて冷静にオケをドライブしていき、オケもそれに応えますが、終盤に至り、凝縮されたパワーが炸裂します。カラヤンの好みか、この曲の迫力を担うグランカッサがほとんど聴こえません。弦楽器のレガートを効かせた分厚い音色の迫力で押し通した感じです。

カラヤンの軍隊をあらためて聴き直すと、これまで抱いていた先入観よりはカラヤン流の演出がくどくかんじることはなく、意外と流れのよい演奏に聴こえました。やはりダイナミクスのコントロールは流石カラヤンとベルリンフィルというところでしょう。それでもやはりカラヤンのハイドンという面が強いのは正直なところで、ハイドンの書いた音楽の演奏としては、かなり個性的なものであるのは間違いありません。おそらくベートーヴェンのほうがカラヤンのこういった演奏スタイルでの違和感は少ないと思いますし、リヒャルト・シュトラウスなどでは、カラヤンの演奏スタイルがよりマッチしたものとなるのでしょう。これまでいろいろな演奏者によって、ハイドンの交響曲の様々な豊かさを知る身としては、これもハイドンの交響曲の一断面なのだと理解しています。評価は[++++]とします。

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tag : 軍隊 ベルリンフィル

【新着】スヴェトラーノフ/ベルリンフィル「軍隊」ライヴ!

今日はメジャーな指揮者とメジャーなオケの共演。曲も含めた組み合わせはかなりニッチなもの。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

エフゲニー・スヴェトラーノフ(Evgeny Svetlanov)指揮のベルリンフィルの演奏で、ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番、ハイドンの交響曲100番「軍隊」、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲の3曲を収めたアルバム。収録は1989年3月4日、ベルリンフィルハーモニーでのライヴ。レーベルは英TESTAMNT。

このアルバム、HMV ONLINEの解説によれば、スヴェトラーノフとベルリンフィルが唯一の共演した貴重なコンサートをライヴ収録したものとのこと。1989年といえば、この年の4月にカラヤンがベルリンフィルの芸術監督と終身指揮者を辞任した激動の年。おそらくスヴェトラーノフがこのコンサートを振った3月は、カラヤンとベルリンフィルの関係は冷えきり、そのためスヴェトラーノフをはじめとして多くの指揮者がベルリンフィルに客演しているようです。スヴェトラーノフが振った4日後にはカルロス・クライバーがコンサートに客演し、翌4月には、ジュリーニ、ハイティンク、小沢征爾、バレンボイムなどがベルリンフィルと録音セッションをもったそうです。この年の10月にはベルリンフィルの団員の投票でクラウディオ・アバドが次期音楽監督に選ばれ、そして11月にはベルリンの壁崩壊と、まさに歴史の転換点だったわけですね。

指揮者のスヴェトラーノフはロシアの爆演系指揮者として有名ですね。ただしハイドンの録音はこれまでに見た事もなく、従って私もあまりなじみではありません。1928年モスクワ生まれで、モスクワ音楽院で学びました。1955年からボリショイ歌劇場で指揮をはじめ、1962年には首席指揮者となりました。1965年からソ連国立交響楽団(現ロシア国立交響楽団)首席指揮者に就任、1979年からはロンドン交響楽団の客演指揮者となるなど、ロシア以外でも活躍していました。晩年はフリーとなって世界各国のオケに客演、なかでも日本ではN響への客演でおなじみの方も多いのではないでしょうか。

ということで、爆演系のスヴェトラーノフが、キレ味鋭いベルリンフィルを振って、しかも曲はハイドンの交響曲でもことさら迫力ある演奏が映える「軍隊」とくれば、否応なしに期待してしまいます。スヴェトラーノフ、爆発するのでしょうか?

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
序奏はゆったりとしたテンポで、ベルリンフィルの線のそろった精度の高いアンサンブルで安定した入り。ただ、ちょっとすると、音に異様な力が漲ってきているのに気づきます。主題に入ると巨人がゆっくりと歩をすすめるような遅めのテンポで、じっくりと描いていきます。一貫して遅めのテンポで大きな造りの音楽。図太い筆で音楽を描いていくような雄々しい展開。どこかで爆発するかと思いきや、意外と冷静にじっくりと音楽をつくっていきます。ボディービルダーがまだまだ筋肉を完全に浮き上がらせるまで力を入れず、軽くポーズをとっているがごとき余裕。ただならぬ迫力の気配。
打楽器大活躍のアレグレットも、なにやら不気味な迫力を帯びた展開ですが、打楽器はほどほどの爆発。ただ、大爆発するよりもかえって迫力を感じるのが不思議なところ。豪腕投手が決め球を投げずに変化球で打者を翻弄しているような感じ。それでもベルリンフィルハーモニー一杯に図太い響きが充満。普段のドイツ系の指揮者とは音楽の造りが違います。既にホールはビリつき気味。
メヌエットに入ってもスヴェトラーノフは落ち着き払って、じっくりとオケを鳴らしていきます。ベルリンフィルもスヴェトラーノフのタクトに素直に応えて、図太い響きでホールを満たしていきます。スヴェトラーノフのこのオーソドックスなオケのコントロールはハイドンへの敬意を表しているのでしょうか。
そして、フィナーレ。そろそろアクセルを踏み込んでくるころ。早いパッセージに入り、にわかにオケにスイッチが入ってきました。ベルリンフィルが本領発揮で、キレと迫力が一段上がり、めくるめく音の洪水。打楽器奏者のバチさばきが見えるような素晴しいキレ。最後はまさに爆風のような迫力で締めくくります。会場からも嵐のような拍手が降り注ぎます。

演奏を聴く前に期待した大爆発は聴かれませんでしたが、スヴェトラーノフ=爆演というこちらの安直な想像とは異なり、スヴェトラーノフのハイドンに対する視点は極めて真っ当なもので、ベルリンフィルから引き締まった音楽をうまく引き出した流石の指揮というところ。フィナーレの最後にずばっと豪速球を見せるあたりのセンスも抜群です。やはり指揮者にとってハイドンとは音楽の原点をなすものなのでしょう。スヴェトラーノフの酔眼にやられたという感じです。直前にアバドのキレで聴かせるスタイリッシュな軍隊を取りあげましたが、スヴェトラーノフの軍隊はやはり迫力で聴かせる演奏の代表格。スヴェトラーノフという豪腕指揮者にとっても、ハイドンには規律と機知に溢れたものでした。ベルリンフィル激動の時代の貴重な記録と言う意味でも素晴しい価値をもったアルバムだと思います。ハイドンの交響曲好きの皆様、是非お聴きいただくべきかと。評価は[+++++]です。

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フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉

今日は弦楽四重奏曲。

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フィルハーモニア・クァルテット・ベルリン(Philharmonia Quartett Berlin)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は1999年10月31日、ベルリンフィルハーモニーの室内楽ホールでのライヴ。レーベルはIPPNW CONCERTSという珍しいレーベル。

フィルハーモニア・クァルテット・ベルリンはベルリンフィルの主要な奏者がメンバーとなっている四重奏団。オフィシャルサイトがありましたのでリンクを張っておきましょう。

Philharmonia Quartett Berlin(独英文)

設立は1984年。当時のベルリンフィルのコンサートマスターと弦楽セクションのリーダーというベルリンフィルの一線級のソリストによる四重奏団。カラヤンが亡くなったのが1989年ですから、その5年前に設立されたことになります。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ダニエル・シュターブラヴァ(Daniel Stabrawa)
第2ヴァイオリン:クリスチャン・シュターデルマン(Christian Stadelmann)
ヴィオラ:ナイハルト・レーザ(Neithard Resa)
チェロ:ヤン・ディーゼルホルスト(Jan Diesselhorst)

だだ、チェロのディーゼルホルストは2009年2月に急逝したため、現在はチェロはディートマール・シュワルケ(Dietmar Schwalke)に替わっています。

このアルバム、聴き始めると曲間にドイツ語の語りを挟んだもの。アルバムは核戦争防止国際医師会議(IPPNW:International Physicians for the Prevention of Nuclear War)が主催するコンサートのようで、同じ企画では以前にモーシェ・アツモン指揮のワールド・シンフォニー・オーケストラの天地創造アッシジライヴを取りあげました。

2011/09/27 : ハイドン–オラトリオ : モーシェ・アツモン/ワールド・シンフォニー・オーケストラの天地創造アッシジライヴ-2
2011/09/26 : ハイドン–オラトリオ : モーシェ・アツモン/ワールド・シンフォニー・オーケストラの天地創造アッシジライヴ

こちらもコンサートマスターがベルリンフィルの安永徹さんですので、ベルリンフィルとIPPNWは関係が深いのでしょうか。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
ライヴとは思えない鮮明な録音で、メロディーラインがクッキリと浮かび上がる演奏。序章はいつもの聴き慣れたメロディーですが、非常に冷静、冷徹とも言える演奏。一人一人の音は鮮明で浸透力のある音色で、アンサンブルは精緻で良くそろっています。リズムもテンポも揺るぎなく、小細工は一切無し。何となくベルリンフィルらしい演奏と言えばお分かりでしょうか。演奏の方もライヴとは思えない質の高いもの。孤高の険しさを感じます。心に切々とメロディーが刺さります。
ドイツ語でのおそらく関連する聖書の一節の朗読を挟んで、第1ソナタから第7ソナタが次々と演奏されます。
ソナタごとの演奏の変化というよりは、序章のスタイルを保ったまま一貫した演奏が続きます。じっくり一貫した演奏からに情感がにじみ出てくる感じ。この曲は表情を大きくつけた演奏よりも、こうした曲自体に語らせる演奏のほうが深い情感を表せるような気がします。この曲の究極の姿を表現しているようです。さすがベルリンフィルの一線級のメンバー。ちょうどひとつづつ異なった山景をもつ7峰からなる山脈を4×5のカメラで鮮明に捉えた山岳写真のよう。夕日に輝く峰々の美しさを遠くから眺めて慈しみます。1峰1峰の起伏はそれぞれ異なるものの峰の連なりが克明にわかり、硬調のネガを柔らかい調子の印画紙に丁寧に焼きこんだアンセル・アダムスの風景写真のごとき詩情を放ちます。
聴き所のひとつ、第5ソナタのピチカート主体の部分はチェレスタの様な不思議な響きの成分を感じさせる独特のもの。ただヴァイオリンの突き刺さるようなメロディーが被さり、恐ろしい迫力を帯ています。
また最後の地震は弦楽器の金属的な響きが怪しい妖気を放つなど、弦楽器の表現を極めた演奏。最後は拍手につつまれるものと思ったら、拍手はカットされていました。

ベルリンフィルの主要メンバーで構成されたフィルハーモニア・クァルテット・ベルリンによる、ハイドンの名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は青白く光る日本刀の名刀を眺めるような洗練と静かな妖気につつまれた絶品の演奏でした。ライヴならではの一発の緊張感をはらみながらも、演奏の完成度は究極の出来。単にテクニックだけではない、長年の演奏経験、普段オケで共演しているものだからこそもつ一体感、そして冷徹なまでの芸術性の表現方向の一致。素晴らしいの一言です。ハイドンの音楽のもつ険しさを非常に上手くあらわした秀演でしょう。評価はもちろん[+++++]とします。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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