ジョナサン・ノット/東響の「浄められた夜」、「春の祭典」(ミューザ川崎)

前週に続き、ミューザ川崎にジョナサン・ノットを聴きに行きました。

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フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2017 東京交響楽団オープニングコンサート

前週に聴いた細川俊夫の「嘆き」とマーラーの「復活」ががあまりに素晴らしかったので楽しみにしていたコンサート。この日のプログラムはジョナサン・ノット(Jonathan Nott)指揮の東京交響楽団でシェーンベルクの「浄められた夜」にストラヴィンスキーの「春の祭典」の2曲。小規模な弦楽合奏に大規模オーケストラの代表曲という絶妙な組み合わせ。これがジョナサン・ノットで聴けるということで、聴く前から期待に胸膨らみます。

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このコンサートはミューザ川崎で毎年行われている夏の音楽祭「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2017」のオープニングコンサート。チケットも通常の公演より安いので何らかの助成があるのでしょう。

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東京も川崎もこの日は酷暑。日なたにいると干物になってしまいそうな強烈な日差しの中、コンサートを楽しみにミューザに向かいました。川崎駅からデッキで直結という便利な立地にもかかわらずホールに着くと汗だく。開演40分前に到着しましたが、幸い既に開場していましたので勝手知ったる2階のドリンクコーナーに直行。ビールで喉を潤します。このビールがよく冷えてて実にうまい。ミューザのドリンクコーナーは年配のバーテンダーのような方が睨みを効かせていて、なかなかサービスが良いのでお気に入りです。

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この日の座席は3階のオケ右。上からオケを見下ろすような席でした。ステージいっぱいにパーカッションなどが配置されていますが、前半の浄められた夜は弦楽合奏の皆ので、前の方にまとめられた小編成の席がオケの配置になります。

プログラムとしては春の祭典が目当てで取ったチケットでしたが、前半の浄められた夜は絶品の出来。前週の細川俊夫の精妙な響きは堪能していたんですが、それをさらに上回る精妙さを聴かせてくれました。

この浄められた夜の刷り込みはカラヤン/ベルリンフィルの弦楽合奏版とラサールクァルテットらによる弦楽六重奏版。特に1970年代の凄みのあるベルリンフィルの弦楽陣の分厚い響きが印象に残っていました。実演でこの曲を聴くのは初めてです。解説にはこの曲の元になったリヒャルト・デーメルの詩の訳が掲載されていて、この詩を読んでこの曲を聴くのは初めてでしたので、曲の理解が深まりました。

冒頭からノットが静寂感をベースに各パートのフレーズをかなり丁寧にコントロールして、静かな夜の情景を彷彿とさせる静謐なアンサンブルを聴かせます。東響のメンバーも見事にノットの棒に応えて緻密な演奏。カラヤンの唸るような分厚い弦の響きが頭に残る中、冷たい空気に満たされた暗い夜空のような空気感に驚きます。まさに精緻な響き。そして曲が進むにつれて弦の響きの艶やかさと、弦の響きの余韻までコントロールされ尽くしたアンサンブルの美しさにさらに耳を奪われます。観客もノットの棒から繰り出される緻密な音楽にのまれるように集中して聴いています。繊細な感情の変化を実にデリケートに扱い、特に後半の第4部「君の身ごもっている子供をきみの心の重荷と思わないように」との詩に対応する部分の深く暖かい響きは印象的、そしてさざめくようなトレモロの美しさ等、ノットの得意とするダイナミクスとは異なる非常にデリケートな弦の扱いに鳥肌がたたんばかり。この第4部の美しさは絶品でした。そして最後の第5部の最後の消え入るような響きの美しさ。最後の音の余韻が静寂に吸い込まれ、ノットがタクトを下ろしながらオケの熱演を両手で讃えようと手を少しあげかかったところで会場からの惜しみない拍手の波に包まれました。いやいや素晴らしい。この曲に込められた心の変化を見事に表現しきった絶美の演奏でした。東響の弦楽陣も絶美。この演奏を共有した観客の感動の深さが伝わるような心がこもった拍手が続き、ジョナサン・ノットも演奏の出来に満足気。前半からあまりに素晴らしい演奏にこのチケットを取って良かったと感慨しきり。

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休憩時間のホワイエは笑顔に包まれた観客がくつろぐ姿が印象的でした。

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そして休憩中に春の祭典に向けて、ステージいっぱに席を作り直し、重要な役割をもつパーカッション奏者が楽器の鳴りを確かめるようにステージ上で調整を始めます。中でもグランカッサは休憩中から不気味な重低音をホール内に轟かせ、まるでスーパーの試食品コーナーのホットプレートが放つ香ばしい焼けた香りが客の購買意欲を煽るように、次なる春の祭典の大爆発を予感させ、休憩中の観客の期待を煽っていました(笑)

お目当ての春の祭典は期待通りの素晴らしい演奏でした。出だしのファゴットから東響は素晴らしい演奏。もちろん春の祭典は手元に色々なアルバムがあり、実演でもカンブルラン/読響のフランスのエスプリ香る演奏を聴いています。録音でもブーレーズの新旧名演、コリン・デイヴィスのコンセルトヘボウの空気ごと揺らす怪演、アバドの鋭利な刃物のような切れ味、マゼールのおどろおどろしい外連味、ムーティのスーパーカーのようなスピード感など、それぞれ指揮者の個性が生きる曲でもあります。ノットは出だしで持ち前のデリケートなコントロールで現代音楽としてのキレ味よりもメロディーの美しさにスポットライトを当て、最初はノットらしく非常に丁寧な入り。ただ、曲が進むにつれてオケもノットのタクトが非常に細かく指示する通りにコントラストを上げ、すぐに響きの渦を巻き起こすように炸裂。細かくテンポを変えるノットの指示にしっかりと追随して見事な演奏を聴かせます。やはりダイナミクスのコントロールはノットの真骨頂。緻密に表情を変えながら曲の本質をしっかりと見据えて大局的な視点で曲の頂点を見据えてオケを煽ります。ここぞという時の爆発力はその前後の緻密なコントロールによって鋭利さと迫力を見事に演出します。ノットの体の動きが奏者にわかりやすいのか各パートもノットの意図通りにダイナミクスをコントロールできているので全体として見事な統一感に包まれます。第二部の「乙女の神秘的な踊り」の最後の11発のど迫力の打撃から始まる終盤への畳み掛けるような展開は、静寂と爆発のコントラスト操縦の見事さを見せつけ観客を圧倒。ここにきて3階席だと打楽器陣の低音の圧倒的な音量の反射に他の楽器の演奏が埋もれてしまいます。つくづくもう少し良い席を取っておけば良かったと反省。そんなこととは関係なくオケは大爆発を続け、最後の「生贄の踊り」は打楽器陣が快演。ティンパニの刻むの鋭いリズムに皆が引っ張られるように乱舞。グランカッサも銅鑼も荒れ狂うリズムに乗って渾身の一撃を繰り返します。この音楽を書いたストラヴィンスキーの尋常でない狂気の冴え方に圧倒されながらのオケの熱演に身を任せます。最後の一撃が観客全員にぶっ刺さって観客も腰が抜けたことでしょう。もちろん嵐のような拍手とブラヴォーで場内騒然でした。ノットも演奏に満足したのか、何度も拍手に呼び戻される度に深々と観客に一礼していました。

やはりジョナサン・ノットは只者ではありませんね。繰り出す音楽の幅の広さが違います。コジ・ファン・トゥッテで聴かせた鮮やかなモーツァルトに細川俊夫の静謐な響き、マーラーの雄大さ、そしてこの日のシェーンベルクの精妙な弦のコントロール。とどめは春の祭典のダイナミクスの表現。東響とは2026年までと異例の長期契約を結んだとのことですので、ノットも東響とこのミューザでの演奏がお気に入りなのでしょう。これからも目が離せませんね。

ノットと東響は10月にハイドンの86番とチェロ協奏曲のプログラムがあるんですね〜。また12月にはドン・ジョバンニも。もちろん両方すでにチケットは押さえてあります。ハイドンの交響曲の中から86番を選ぶとはハイドン通でもあります! いやいや、今から楽しみです。

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ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)

7月16日(土)は以前からチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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東京交響楽団:川崎定期演奏会 第61回

このチケットを取ったのも、昨年12月に聴いたモーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」が非常に面白かったからに他なりません。ジョナサン・ノットはフォルテピアノを弾きながらの指揮でしたが、実にイキイキとした音楽を繰り出し非常に引き締まった舞台を作っていたのが印象的でしたが、そのジョナサン・ノットがマーラーを振ったらどうなるのかというのが今回の聞きどころということでチケットを取った次第。

2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

この日のプログラムは下記の通り。

細川俊夫:「嘆き」 ~メゾ・ソプラノとオーケストラのための〜
グスタフ・マーラー:交響曲2番 「復活」

指揮:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott) 東京交響楽団
ソプラノ:天羽明恵
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
合唱:東響コーラス

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会場は東響のホームグラウンドで、響きのとても良いミューザ川崎シンフォニーホール。この日の席は2階のオケの真右で上から指揮者とオケを俯瞰できる好きな席。ミューザ川崎は客席が螺旋状にオケを取り囲む座席配置なので、奏者との一体感もあり、サントリーホールや東京オペラシティよりも響きに癖がないのでお気に入りのホールです。1曲目の細川俊夫の曲も大編成のようで、ステージいっぱいに座席が設けられ、ホールに入った時には一部の奏者が音出しをしているのはいつもの通り。この時点でホールの響きの良さがわかります。

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1曲目の細川俊夫の「嘆き」は解説によればこの東日本大震災の津波の犠牲者、特に子供を失った母親に捧げられる哀悼歌とのこと。歌詞はザルツブルクの表現主義の詩人ゲオルク・トラークルによる2通の手紙と嘆きという構成。ザルツブルク音楽祭の委嘱により2011年から12年にかけて作曲され、2013年の同音楽祭でデュトワ指揮のN響、アンナ・プロハスカの独唱で初演。今回はメゾ・ソプラノの藤村実穂子のために書き下ろされた改訂版ということで、2015年5月に京都市交響楽団のヨーロッパ公演の壮行演奏会で広上淳一指揮で初演されたとのこと。私は現代音楽も嫌いではないんですが、細川俊夫の作品は初めて聴きます。手元にもアルバムはありません。

定刻になり、団員が登場。チューニングを終えるとジョナサン・ノットと真っ赤なドレスの藤村実穂子が登壇。ジョナサン・ノットがタクトを下ろすと、精緻な弱音での序奏が始まります。藤村実穂子は最初は手紙の朗読が中心、歌わないかと思いきや、途中から美声を轟かせ、会場の視線を釘付けにします。解説の歌詞対訳を見ながら聴きますが、「最近、恐ろしい出来事があり、私はもはやその影から逃れることができない。(訳:細川俊夫)」と始まるテキストの深い心の傷を表すような暗澹たる印象を感じますが、静寂に響きが浮かび上がるような現代音楽特有の感覚が続き、時折トラアングルやタムタム、風鈴など響きが印象的な打楽器を織り交ぜて色彩感を巧みに表現していきます。響きの精緻さ、美しさは武満に迫るものがあり、日本人らしい清透な感覚に貫かれた素晴らしい響きに満たされます。ジョナサン・ノットは非常に丁寧に響きを作っていき、この曲に込められた心情をしっかりと表現できていたと思います。素晴らしかったのは藤村実穂子のメゾ・ソプラノ。流石に一流どころだけあって圧倒的な存在感でした。最後の一音の余韻が静寂に吸い込まれて沈黙が続き、ノットがタクトをすっと下ろすと万雷の拍手。これは素晴らしかった! 会場が完全にのまれた感じでした。東響も完璧な演奏で最後まで集中力を保ってノットの指示に見事に応えていました。

休憩を挟んで、マーラーの復活。これまた素晴らしかった!

冒頭の唸るような低音弦から東響のコントラバス奏者の迫真の演奏に釘付け。鬼気迫るとはこのこと。ノットのマーラーは初めてですが、フレーズごとに非常に丁寧に曲を描いていくセンスとここぞという時の鋭いアクセントが絶妙。モーツァルトでも感じたフレッシュさを感じさせる音楽づくりがマーラーでもいきていました。その上、この日のオケの集中力は素晴らしく、オーボエのくっきり浮かび上がるようなソロをはじめとして、2台のティンパニ、トランペットなど金管陣も絶品。弦楽器の迫力、特にコントラバスは往時のベルリンフィルのような地響きを伴うようなうねりを感じるほど。1楽章半ばのクライマックスの炸裂で観客の度肝を抜き、完全にノットペースに。これは録音では味わえないもの。そして思った以上にバンダ隊の演奏箇所が多いこともわかりました。
1楽章のほとぼりを冷ますように、ゆっくりとコーラスが入場する間、しばらくノットもオケも静止。2楽章はゆったりとした音楽。こうした音楽でもジョナサン・ノットは華やかさをしっかり感じさせ、くっきりとした印象を保ちます。そして3楽章の「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」は各パートの音色の変化を巧みに強調していきます。ここでもコントラバスとティンパニが大活躍。フレーズごとに変化をさせながらバランス良く統一感を保っているのがノットの非凡なところでしょう。時折グランカッサが微弱音で不気味な気配を感じさせるのも実演で初めてわかること。
4楽章からメゾソプラノの藤村実穂子が入ります。1楽章終わりのコーラスの入場時にもソロの入場がないなと思っていたところに、いきなり藤村実穂子の声が轟きびっくりしますが、どうやら指揮者から見てオケの右側にいたらしく、私の席から死角になっていたようです。やはり艶やかで見事な歌。
最後の長大な5楽章は4楽章の響きが消えかかるところにノットが振りかぶって渾身の一撃から始まります。オケもこれまでノットのタクトに俊敏に反応して大音響を轟かせてきましたが、この静寂を断ち切るような大音響こそマーラーの真髄。このキレ味はこのコンビの現在の調子を物語るようですね。そしてそれに続いて美しい牧歌的なメロディーが流れ、曲が進みます。ここでもバンダ隊の金管陣とステージ上のピッコロとの掛け合いが見事にキマリます。終楽章でようやくコーラスが登場しますが、思ったより終盤の出でしたね。そして最初は座ったまま精妙な弱音のハーモニーを聴かせます。このコーラスの純度の高い響きも素晴らしかった。そしてソプラノの天羽明恵とメゾ・ソプラノの藤村実穂子も加わり、壮大なクライマックスへノットが最後の煽りをかけていきます。驚いたのはそれまでトライアングルやグロッケンシュピールを担当していたパーカッションの女性が終盤ティンパニの横に移動し、2台のティンパニを3人で同時に演奏する場面があること。これが楽譜の指示かはわかりませんが、巧みに書かれた大曲にも意外に細かい工夫があることがわかりました。最後は未曾有の迫力で鐘が打ち鳴らされながらのフィナーレ。観客もこのクライマックスには我慢できず、最後の音が消える前に大拍手に包まれました。これは致し方ないでしょう。

私が聴いたマーラーの演奏では間違いなく一番素晴らしかった演奏。昔小澤征爾が新日本フィルを振った千人も素晴らしかったですが、ジョナサン・ノットは見事なコントロールでこの大曲の真髄に迫る圧倒的な迫力と情感溢れる美しい響きをバランス良くまとめ上げました。拍手は弱まる気配を見せず、何度もジョナサン・ノットと歌手、合唱指揮者が呼び戻され、この日の素晴らしい体験を共有した観客と喜びを分かち合っていました。ノットは定年退団するメンバーを讃え、観客もひときわ大きい拍手を送っていたのが印象的でした。これは東響の演奏史に残る名演と言っていいでしょう。

これは東響とジョナサン・ノット、今後も楽しみですね。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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