アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(東京オペラシティ)

3月21日月曜は、コンサートに出かけてきました。

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ハイドンファンにはおなじみのアンドラーシュ・シフ(András Schiff)による「ザ・ラスト・ソナタ」と銘打たれた2017年のコンサート。このコンサートに注目したのは、もちろんハイドンのソナタが演奏されるからに他なりません。

当初は3月25日土曜の彩の国さいたま芸術劇場のチケットを取っていたんですが、なんとドンピシャの日に仕事が入ってしまい、やむなくそのチケットを友人に譲り、ネットを駆使して(笑)あらためて東京オペラシティのチケットを取った次第。普段だったら、譲ってあきらめるだけで終わるんですが、なんとなくこういうコンサートは機会を逃すと再びチャンスがこないような気がしたので、私にしては珍しく深追いしたもの。

そういえば、以前もスクロヴァチェフスキと読響のブルックナーの7番も仕事で聴き逃しましたが、あとから考えるとあれを聴いておきたかったという思うばかり。

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この日の公式のプログラムは下記のとおり。

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959

「ザ・ラスト・ソナタ」と名を冠するのにふさわしく、モーツァルトもベートーヴェンもシューベルトも最晩年のソナタを並べていますし、ハイドンもロンドンで作曲された最後の3つのソナタの一つであるXVI:51が選ばれるなど、コンサートの企画としては一本筋の通ったもの。円熟の境地にあるシフの演奏とあって期待が高まりますね。

シフのハイドンのソナタ自体はDENONから1枚、TELDECから2枚組がリリースされていますが、DENON盤が1978年、TELDEC盤が1997年の録音と結構古いもの。フレージングはシフ独特の個性的なもので、多彩なタッチの変化とダイナミクスを強調した演奏が印象に残っています。また奥さんの塩川悠子とボリス・ベルガメンシコフと組んだピアノトリオのアルバムは昨年レビューに取り上げました。

2016/03/15 : ハイドン–室内楽曲 : アンドラーシュ・シフ/塩川 悠子/ボリス・ベルガメンシコフのピアノ三重奏曲(ハイドン)

ピアノソナタ集の方は、ハイドンの曲の良さをもう少し素直に出してもいいのではないかとも思われるもので、今回の実演でそのあたりのシフの個性がどう響くのかを確かめたかった次第。



さて、この日は年度末でバタバタのなか、仕事をやっつけて会場の東京オペラシティには開演の15分前に駆け込み到着。外はあいにくの雨でしたが、ホワイエにはすでに多くの人が駆けつけ、かなりの熱気でした。

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昼飯も抜きで仕事を片付けてきたのでお腹エコペコ。いつものようにサンドウィッチと赤ワインを5分で平らげ、プログラムを買って3分前に着席。この日の席は1階正面8列目とピアノを聴くにはベストポジション。会場はもちろん満員。

定刻の19:00を過ぎると会場の照明が少し落ちて、下手からシフが登場。

すぐにモーツァルトが始まります。コンサートの1曲目ということで、若干硬さも感じられるなか、シフらしく緩急とメリハリをしっかりつけながらフレーズごとの巧みな描き分けが徐々にくっきりと焦点が合ってきて、音楽が淀みなく流れるようになります。ピアノは最近のシフの定番ベーゼンドルファー。厚みというか独特の重みをもった低音に、すこしこもり気味に聴こえる石のような響きの高音が特徴ですが、モーツァルトの曲にはスタインウェイのようなクリアな響きの方が合うような気がしながら聴き進めます。そのうちに左手の表情の豊かさがこの演奏のポイントだという気にさせられ、シフがキレより迫力の表現が引き立つベーゼンドルファーを好む理由がわかったような気がしました。アレグロの起伏の陰影の深さに対し、アダージョの響きの柔らかさの対比は見事。タッチの多様さ表現の変化は流石なところ。そしてアレグレットではタッチの鮮やかさ、躍動感で圧倒されました。弾き進むうちに場内もシフに魔法をかけられたように集中度が上がります。もちろん盛大な拍手が降り注ぎますが、袖に下がることなくすぐに続くベートーヴェンに入ります。

ベートーヴェンは最初の入りは柔らかなハーモニーと力強いアクセントが豊かな情感のなかに交錯するような音楽でした。普段あまり聴かないせいか新鮮に聴こえます。暖かな音色と楔を打つような鋭い音にフレーズごとに巧みに変化する曲想がシフの魔法のようなタッチから紡ぎ出される感じ。ベーゼンドルファーだけに高音の輝きではなく、中低音の輝きが優先するような分厚い響きがベートーヴェンの力感を表すよう。2楽章は分厚い音色に襲われる感じ。タッチの軽さをかなり綿密に制御して、重厚さと軽やかさの対比のレンジが広大。そして3楽章の荘厳な印象も楽章間のコントラストの演出が完璧に決まります。モーツァルトでも豊穣だった響きがさらに豊穣さを増して、観客は皆前のめりでシフのタッチに集中します。またまた拍手が降り注ぎますが、シフはステージを囲う四方の観客に丁寧にお辞儀をしてすぐにピアノに向かいます。

もちろん私の興味はハイドンですが、このコンサートにおけるハイドンの役割はシフの表現力のうち軽やかな機知に満ちた表現に対する適性を垣間見せるという構図のよう。晩年のソナタでも珍しい2楽章構成の曲。最初からタッチのキレの良さが際立ちます。音が跳ね回るように見事な展開。ハイドンのソナタの演奏としては味付けは濃い目ですが、中音部で奏でられるメロディーの面白さはベーゼンドルファーならでは。そしてハイドンだからこそフレーズごとのタッチの変化の面白さが聴きどころ。やはり圧倒的な表現力はシフならではのもの。ハンガリー生まれのDNAに由来するのでしょうか。続く2楽章でもタッチの軽やかが際立ちます。うっとりとしながら人一倍聞き耳を立てて聴き入りますが、短い曲ゆえ、あっと言う間に終わってしまいます。私は2楽章構成と知って聴きますが、他の人は3楽章の始まりを期待しているような終わり方なので、拍手が湧き上がる間も無くすぐに続くシューベルトに入ってしまいます。

この日はやはりシューベルトがメインプログラムでした。普段ほとんどシューベルトは聴きません。その私が聴いてもこれは素晴らしい演奏でした。長大なソナタですが、シフがその魂を抜き取りピアノで再構成したような劇的かつ壮大な音楽。ちょっとくどい感じさえする低音の慟哭がシフの手にかかるとキレよく図太い低音の魅力に昇華され、時折聞かせる長い間が時空の幽玄さすら感じさせます。シューベルトが終わると、まさに嵐のような拍手が降り注ぎ、まさに観客の心をシフが鷲掴みにしてしまったがごとき状況。何度かのカーテンコールにつづいて、アンコールの演奏にシフがピアノの前に座り、演奏を始めました。

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最初はシューベルトの3つの小品から。アンコールとは思えない本格的な構成の曲に再び場内が静まり返ります。コンサートのプログラムも全て暗譜。そしてアンコールに入ってもさらりと演奏をはじめ、はじまると実に豊かな音楽が流れます。すべての曲を完全に自分のものにしきっているところに一流どころのプライドを感じます。シューベルトが終わったところで席を立つ人もいましたが、アンコールは1曲ではありませんでした。プログラム最後のシューベルトの演奏に酔いしれた観客に、さらにシューベルトがだめ押しで加わったかと思うと次はバッハのイタリア協奏曲の1楽章。バッハのアルバムをいろいろリリースしているだけあってシフのバッハを待っていた人も多かったのでしょう。アンコールに寄せられた拍手はどよめきにも近いものに変わります。これで終わりかと思っていると、シフはまたまたピアノに向かい、なんとイタリア協奏曲の2楽章、3楽章を演奏。すでに観客はクラクラ(笑)。完全にシフに魂もってかれてます。もちろん盛大な拍手に迎えられ、シフも引き下がれず、今度はゴリっとした感触が印象的なベートーヴェンの6つのバガテルから。ここまでくると、休憩なしで張り詰めっぱなしの観客とシフの根比べ(笑)。盛大な拍手にアンコールで応えるシフも引き下がらず、その後モーツァルトに最後はシューベルトの楽興の時を披露。聴き慣れた曲が異次元の跳躍感に包まれる至福のひととき。そして盛大な拍手が鳴り止まず、シフが再びピアノの前に座ると、そっと鍵盤の蓋を笑顔で下ろし、長い長いアンコールの終わりを告げ、観客も満足感に包まれました。

プログラムの演奏だけで90分ほど。そしてアンコールを入れると2時間半弱。休憩まったくなしで完璧な演奏を続けたシフ。私はプログラム最後のシューベルトの余韻に浸っていたかった気もしましたが、最後まで聴いてみると、シフの観客をもてなそうとする気持ちもわかり、これがシフの流儀だと妙に納得した次第。ピアノという楽器の表現力の偉大さをまざまざと見せつけられたコンサートでした。

先に紹介したようにシフのハイドンの録音は古いものばかり。この円熟の境地で再びハイドンのソナタに挑んでほしいと思うのは私ばかりではないはず。こころに響くいいコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ モーツァルト ベートーヴェン シューベルト

【追悼】ニコラウス・アーノンクール

古楽器による演奏を世界に広めた立役者の一人、ニコラウス・アーノンクールが3月5日に亡くなりました。報道によれば6日に家族が公表したとのことです。1929年生まれということで享年86歳でした。このところブリュッヘンにホグウッドと古楽器演奏のパイオニア世代の音楽家が次々と亡くなり、そしてこの度のアーノンクールということで、一つの時代が終わりつつあるような複雑な心境です。

当ブログの読者の方ならご存知のとおり、アーノンクールはハイドンの作品も、交響曲ばかりではなく、オラトリオ、ミサ曲などかなりの数のアルバムを残しており、ハイドンの演奏者としても代表格の一人です。もちろん当ブログでも何度も取り上げています。また、最後の来日となった2010年、サントリーホールで天地創造の実演にも接しています。どんぐり眼でオケに鋭い指示を出す姿が脳裏に鮮明に焼き付いています。そのあたりのところは過去の記事を御覧ください。

2013/09/01 : ハイドン–交響曲 : アーノンクール/ベルリンフィルの熊ライヴ
2013/01/02 : ハイドン–オラトリオ : アーノンクールの十字架上のキリストの最後の七つの言葉オラトリオ版
2010/10/31 : ハイドン–オラトリオ : アーノンクールの天地創造旧盤
2010/10/31 : コンサートレポート : アーノンクールの天地創造(サントリーホール10/30)
2010/10/07 : ハイドン–声楽曲 : アーノンクールのハルモニーミサ
2010/06/13 : ハイドン–オラトリオ : 灰汁のぬけたアーノンクールの天地創造新盤
2010/06/11 : 徒然 : アーノンクールの天地創造へ
2010/04/07 : ハイドン–交響曲 : アーノンクールの初期交響曲集

アーノンクールは、古楽器演奏を広めたといってもそれだけではなく、当時としては驚くほど前衛的なスタイルで過去の演奏の垢をそぎ落として、独自というか超個性的な演奏によって音楽界に大きなインパクトを与えた人というのが適切な評価でしょう。他の誰にも似ていない強い個性の持ち主でした。

ただし、もともとレオンハルトとバッハのカンタータ全曲録音など、地味というか時代考証を経た堅実な取り組みで知られるようになり、徐々にその個性が開花、ウィーン交響楽団、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団や手兵のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスなどと多くの個性的な録音を残しましたし、昨今はウィーンフィル、ベルリンフィルなどとロマン派の曲まで演奏するまでになり、その突き抜けた個性によって、バロックや古典のみならず、現代の代表的な指揮者の一人と見做される存在といってもいいでしょう。2010年の来日時には体力の問題から最後の来日と公言していましたし、近年は演奏活動からも引退すると発表したばかりと聞いています。



追悼にあたって、私がアーノンクールの演奏に開眼した思い出のアルバムを何枚か紹介しておきましょう。私がアーノンクールの演奏に衝撃を受けたのは、バッハでもハイドンでもベートーヴェンでもなく、モーツァルトでした。

ブログの最初期に私がハイドンにのめり込んだ経緯を書いていますが、ハイドンに興味を持ったのは1991年のモーツァルトの没後200年のアニバーサリーで、あまりにもモーツァルトを聴いて、ちょっと飽きてしまった反動からでした。天真爛漫なモーツァルトの音楽のなかでも、当時アーノンクールがリリースしたモーツァルトの交響曲25番の演奏が話題になり、レギュラー盤ではなくコンセルトヘボウ100周年記念アルバムにその25番が含まれていたのを最初に入手したのがアーノンクールとの出会いでした。

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このアルバム、現在は検索してもでてきませんね。収録曲は下記のとおり。

モーツァルト:
交響曲25番(Kv 183(173 d B))
「ルーチョ・シッラ」序曲(Kv135)
2台のピアノための協奏曲(フリードリヒ・グルダ、チック・コリア!)(Kv 365(316a))
「劇場支配人」序曲(Kv 486)
交響曲32番(Kv 318)
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

このアルバムの衝撃は忘れませんね。ワルターやベームでモーツァルトに親しんだ耳と脳をかち割るような先鋭的な響きに腰を抜かしたものでした。そしてグルダにチック・コリアというクラシックでは前例のないソロによるモーツァルトの2台のピアノのための協奏曲。こちらもハスキルとアンダ盤が刷り込みだったので、アーノンクールの操るキレキレのオケに乗って、グルダのガラス細工のような透明な音階とチック・コリアとの火花散る共演にゾクゾクしたものです。豪華絢爛、外連味あふれる歌舞伎の舞台のような華やかさ。そもそもモーツァルトの音楽にはちょっと俗っぽい演出が似合うものという真髄をついた演奏と納得したものでした。アーノンクールは激しいアクセントを連発しながらも華やかさとアーティスティックさを振りまきますが、今思うとこれがデフォルメの効いた見栄を切る歌舞伎の演出とかぶりますね。不思議な高揚感に浮かされた名演奏でした。この記事を書くために実に久しぶりにこのアルバムを取り出して聞いてみると、このアルバムを手に入れた頃の新鮮な驚きが蘇ってきました。また最後の32番がこれもいい。


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TOWEER RECORDS / amazon

上のアルバムがあまりに面白かったので手に入れたアルバム。今度はグルダと組んでのピアノ協奏曲23番と26番「戴冠式」。グルダはアバドとウィーンフィルとの演奏が有名で、私も好きな演奏ですが、このアーノンクール盤ではアーノンクールのキレの良いアクセントに刺激されて、グルダもキレキレ。アバド盤の透き通るようなピアノの輝きとは異なり、オケに呼応して色めき立つのを抑えながら演奏するようすが実に面白い演奏です。このころのアーノンクールには後年のちょっとアーティスティックにシフトした演奏とは異なる楽しさがあるような気がします。協奏曲とは対決であると知った演奏です。


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TOWER RECORDS / amazon

そして、次に手に入れたのはこちら。グルダの次はクレーメルです。このアルバム、ウィーンフィルを振ったモーツァルトのヴァイオリン協奏曲5曲を収めたアルバム。全曲素晴らしいのですが、ことに冒頭に置かれたクレーメルとキム・カシュカシュアンをソロに迎えた協奏交響曲が実に面白い。やはり名門ウィーンフィルからウィーンフィルらしからぬ前衛的な響きを引き出し、クレーメル、カシュカシアンともバチバチ火花を飛ばしながらの対決が続きます。非常に聴きごたえのある演奏です。



いずれも懐かしい3組のアルバムを取り出して聴き直してみると、まるでタイムスリップしたような心境になります。このころのアーノンクールには覇気と前衛がみなぎっていました。そしてそのエネルギーをぶつけた先がモーツァルトだったということで、ハイドンを演奏するアーノンクールとは顔つきが違う感じで、奏者自身が楽しんで演奏しているような自然さが、灰汁の強さを中和して音楽に本質的な生命感をもたらしているのだと思います。

古楽器演奏のパイオニア、そして外連派筆頭のアーノンクールの死は、まさに時代の転換点のような気がします。ご冥福をお祈りします。

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tag : モーツァルト

地元で再び静寂に消え入るクラヴィコードに聴き入る

先週、通勤途上でネットを見ていると、Twitterの書き込みでコンサートの情報をみつけました。今年の5月に東京は茗荷谷の学下コーヒーでクラヴィコードの生演奏をはじめて聴いて以来フォローしているクラヴィコード奏者の筒井一貴さんの書き込みですが、その筒井さんのコンサートが、なんと私の自宅のすぐそばで行われるとのこと。しかもその週の土曜日の夜ということで、幸いいろいろ予定が入っていたものの夜は都合がつきそうということで行ってみることにしました。以前に聴いた学下コーヒーでのコンサートの模様はこちら。

2015/05/16 : コンサートレポート : 茗荷谷のカフェでクラヴィコードの響きに耳を欹てる

コンサート会場となる場所は、自宅がら歩いてすぐ! なぜこのようなところでコンサートを開催されたかというと、筒井さんとコンサート会場を提供している会社の担当(社長の息子さん)が大学の同じクラブの先輩後輩という関係とのことだからと後からわかりました。それだけならまだしも、その担当者、なんと私の中学までの同級生でした! 私も父が亡くなるまでは生まれ育った地元を離れて暮らしていて、地元に戻って3年ということで、地元の交友が広いわけではありませんでしたので、今回の再会はまったくの偶然。このコンサートで同級生に約40年ぶりくらいに再会したことになります。

コンサートの情報はこちら。

古典鍵盤楽器奏者/筒井一貴 つれづれ草紙:9月12日/最も静かな鍵盤楽器、クラヴィコード 〜時を超えて蘇る モーツァルトの時代〜@狛江

会場となったのは地元の建設会社の中にあるコミュニティースペース。せっかくなので会場となった会社の方も紹介しておきましょう。

東建ハウジング

そもそも、クラヴィコードに興味を持ったのは、当ブログでクラヴィコードによるハイドンのソナタ集を取り上げた記事に、新潟は三条のクラヴィコード製作者である高橋靖志さんからコメントをいただき、いろいろアドバイスをいただいてから。そのあたりは茗荷谷の記事の方に触れてありますのでお読みください。

ご存知の通りクラヴィコードは音量が非常に小さい楽器ゆえ、録音でもその繊細な音色を伝えるのは非常にむずかしいもの。いろいろなアルバムを聴きましたが、前回の学下コーヒーでの生演奏を聴いて、やはり生で聴くのが一番この楽器の魅力が伝わると知った次第。それゆえ今回も貴重な機会ということで参加する気になったのですが、今回はクラヴィコードの魅力を前回以上に体感することができました。

学下コーヒーでは10名少し入る程度のとても小さなスペースでしたが、それでも春日通り沿いということで、耳を澄ますと車の往来の暗騒音が常にしている状態でした。ところが今回の会場は、住宅地で、しかも目の前の道路に車が通るのはごく稀。今回お客さんは20名くらいだったでしょうか、もともとマンションの一室のようなフローリングのスペースで、外からの騒音はほぼありません。

コンサートが始まるまではエアコンの音が主な暗騒音でしたが、コンサートのためにエアコンを切ると、かなり静か。前回同様筒井さんがいろいろお話ししながら、くつろいだ雰囲気で演奏が始まります。最初はクラヴィコードの音の小ささに皆さん驚いていたものの、ちょっと音色に慣れたところで、筒井さんが冷蔵庫の電源を切るように告げ、実際に電源を落とすと、本当の静寂が訪れました。

プログラムの構成は前回の学下コーヒーのコンサートとほぼ同じ。曲順が若干変わっているのと数曲入れ替わってますが、コンサートの基本的な流れは同じで、筒井さんがお話しされながら、次々と演奏をしていきます。

J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集より 第1巻第1番プレリュード(BWV846)
モーツァルト:アレグロ(K.3)、メヌエット(K.4)、メヌエット(K.5)
モーツァルト:アレグロ(K.9a)
モーツァルト:グラーフのオランダ語歌曲「われ勝てり」による8つの変奏曲(K.24)
モーツァルト:ウィーンソナチネ第6番
モーツァルト:クラヴィーアのための小品(K.33B)
モーツァルト:ウィーンソナチネ第3番
(休憩)
フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer):組曲集「音楽のパルナス山」より No.3 Melpomene:音楽・叙情詩の女神
パッヘルベル:アリエッタと変奏ヘ長調

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演奏に使っているクラヴィコードは、前回と同じもので、1763年製Johann Andreas Steinの旅行用クラヴィコードの複製でAlfons Huber & Albrecht Czernin(2002)というもの。

前回のコンサートでは耳が慣れた後半の曲の素晴らしい展開に圧倒されんですが、今回は逆に前半の曲のタッチの冴えが印象的でした。そもそも音量が小さな楽器ゆえ、今回のコンサート会場の静寂はクラヴィコードの演奏には理想的。筒井さんもこの会場が大変気に入られたようでした。私見ですが、この会場でクラヴィコードが良く鳴ったのはもちろん静寂が一番大きな理由でしょうが、他にもクラヴィコードをのせていたテーブルが無垢の木材によるかなりしっかりとしたものだったことや、響きすぎない適度な残響だったこと、クラヴィコードを置いた前が空の本棚で、適度に響きを散乱させる効果があったことも好影響だったんだと思います。

最初のバッハの平均律は冷蔵庫の電源を切る前に1回、そして電源を切ったあとに1回、都合2回演奏されましたが、ほんのわずかの騒音の違いが、響きの繊細さ、耳に届く繊細なクラヴィコードの響きの豊穣さに極めて大きな影響があることがわかりました。2度目の演奏の繊細な響きに皆さんウットリ。ここまで静かだとクラヴィコードの音量の小ささによるダイナミックレンジ、つまり強弱のレンジの狭さが全く気にならないどころか、ハープシコードなどと比較しても十分ダイナミックに聴こえることに気づきました。前半のモーツァルトの幼少時の曲は前回と全く同じ曲ですが、音量の小ささはまったく気にならず、逆に非常にダイナミックにも聞こえました。低音部は強く弾くと音程が若干ずれるのはクラヴィコードの構造特有のものですが、実際はかなり抑えたタッチなのに見事にメリハリがついた演奏に、クラヴィコードのさらなる魅力を発見した次第。筒井さんも会場の響きの良さに反応して、前半は前回のコンサート以上にクラヴィコードの音域、音量域を駆使してモーツァルトの曲の演奏を楽しんでいる様子でした。

それなりの人数で空調を切っての演奏が続くと、さすがに温度が上がってきます。前半を終えたところで休憩となり、エアコンを入れます。この日初めてクラヴィコードを聴く人も多かったようで、開演前にもクラヴィコードに近づき、しげしげと眺めている方が多かったんですが、実際にクラヴィコードの音色を聴いたあとなので、休憩時間にはみなさんクラヴィコードに触ってみたりと興味深々で和やかに談笑されていました。

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前回非常に感銘を受けた後半。おそらく筒井さんはこの会場の静寂を意識されて、前回よりもタッチを抑え、弱音の魅力を意識された演奏だったのでしょう。まずはモーツァルトの小曲を2曲のあと、前回とは逆の順で、先にフィッシャー、そしてパッヘルベルの曲順でした。どちらも前回はクラヴィコードの音色に慣れた耳に躍動感のつたわる演奏でしたが、今回は曲のそこここに静寂のなかに響きが消えていく美しさを意識した部分がちりばめられ、メロディーの美しさが印象的でした。パッヘルベルの癒されるような美しいメロディーがしなやかに浮かびあがる演奏はは今回も素晴らしかったです。

あまりに小さな音量に、お客さんも拍手を抑え気味。前回の演奏の時に、うまくいった時ほど拍手の音量が小さくなるんですと筒井さんが言っていたとおり、最後の響きが静寂のなかに消えると、ひとりひとりがクラヴィコードの音量に合わせた拍手で筒井さんの演奏に応えます。筒井さんも響きの良い会場での演奏に満足げ。アンコールは前回同様、モーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョ(K.617a)。筒井さんの言われるとおり、グラハーモニカの繊細な音色を表現するのにクラヴィコードはぴったり。まさに天上の音楽のような研ぎ澄まされた音色に脳内で変換されました。短い曲ですが、モーツァルトが晩年に到達した研ぎ澄まされた世界にトリップ。そしてもう一曲アンコールでモーツァルトのK.333だったでしょうか、筒井さんもここで演奏するのが楽しそうでした。

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演奏後は筒井さんがビール片手に皆さんの質問に気さくに答える談笑タイム。クラヴィコードの仕組みの話やこの楽器が愛好されてきた歴史などを、いつも通り面白おかしく説明してくれました。これも小規模コンサートの楽しみの一つですね。

私はこの日体調がよければこのコンサートを聴きにきた母親を家に残してきていたので、談笑なかばで失礼させていただきました。筒井さんもこの静かな環境を非常に気に入られていたので、またこの会場でコンサートが企画されるかもしれませんね。

実は、この前の週には念願の浜松楽器博物館へ詣でており、筒井さんがこの日にクラヴィコードの歴史の説明で触れられていた、クリストフォリピアノやスクエアピアノ、フォルテピアノなどをいろいろ見てきました。鍵盤楽器の歴史のなかでも、最も表現力があるのはクラヴィコードというのはそのとおりと確信。昔の静かな環境で、蝋燭の火を囲んで家庭で音楽を楽しんでいた時代には、クラヴィコードこそ音楽を身近でたのしむには最適な楽器であり、その繊細かつ豊穣な響きをたのしむ心の豊かさがあったのだろうと、はるか昔に想いを馳せた一夜でした。

浜松楽器博物館詣では次の記事で!

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tag : 古楽器 クラヴィコード モーツァルト バッハ パッヘルベル

茗荷谷のカフェでクラヴィコードの響きに耳を欹てる

今週は水曜日にサントリーホールのコンサートに出かけたばかりですが、もう一つコンサートの予約をしておりました。

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珈琲と古楽 Vol.2 最も静かな鍵盤楽器、クラヴィコード

茗荷谷の学下コーヒーというカフェでクラヴィコードを聴くという15人限定のコンサート。

学下コーヒー
食べログ:学下コーヒー

当ブログのコアな読者の方ならご存知のとおり、いろいろなご縁から、クラヴィコードという楽器の素晴らしさに開眼したのは割と最近のこと。きっかけはたまたま取り上げたマーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるハイドンのピアノソナタ集の記事に新潟のクラヴィコード製作者の高橋靖志さんからコメントをいただいたこと。高橋さんの推薦されたデレク・アドラム盤を聴いて、クラヴィコードの深遠な世界を初めて知った次第。以来、クラヴィコードによる演奏は気になって取り上げている次第。

2015/02/05 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのクラヴィコードによるXVI:20(ハイドン)
2013/07/21 : ハイドン–ピアノソナタ : ウルリカ・ダヴィッドソンのソナタ集
2013/06/05 : ハイドン–ピアノソナタ : 綿谷優子の初期ソナタ集(クラヴィコード&ハープシコード)
2013/03/02 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのフォルテピアノ/クラヴィコードによるソナタ集
2013/01/27 : ハイドン–ピアノソナタ : デレク・アドラムのクラヴィコードによるソナタ集
2012/12/22 : ハイドン–ピアノソナタ : マーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるソナタ集

ハジマーコス盤のレビューでのコメントのやりとりを見ていただければわかるとおり、今回のコンサートの奏者である筒井一貴さんともご縁があったのでしょう。

クラヴィコードはピアノやフォルテピアノと比較すると極端に音量が低い楽器。多くのアルバムが録音に苦労しており、クラヴィコードのひっそりとした美音が自動車の通過音や暗騒音に紛れて聴こえる録音も少なくありません。このクラヴィコードの美しい音を是非生で聴いてみたいと思っていたところ、たまたまネットでこのコンサートの存在を知り、しかも席は15席限定で残り1席という状態だったので、慌てて予約したという次第。生のクラヴィコードをもしかしたら理想的な環境で聴ける千載一遇のチャンスかもしれないと思ったわけです。

当日は19:30開演のところ開場時間の19:00には駆けつけましたが、着いてみると既にほとんどのお客さんが席でコーヒーを楽しんでいるではありませんか。ちょっと出遅れ感です(笑)。

コンサート会場の学下コーヒーは茗荷谷駅から3分ほどの春日どおり沿いにあるカフェ。オーナーの方によると少し前まで目白の学習院下にあったお店がビルの建て替えにともなって茗荷谷に移り、元の学習院下、「学下」の名前のままやっているとのこと。お店のオーナーも古楽好きとのことで、このような企画となっているとのことでした。

お店の入り口からちょっと奥に入ったところに小部屋のような空間があり、そこにテーブル席がいくつかあるという構えですが、その隅にクラヴィコードが置かれ、まわりの席をコンサート向けに少し動かして、15人入るとちょうどいい感じの空間。白壁にシンプルなインテリアで、まるでハイドンの生家でクラヴィコードを聴くような心境になります。

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この日使われた楽器は1763年製Johann Andreas Steinの旅行用クラヴィコードの複製でAlfons Huber & Albrecht Czernin(2002)。演奏前には、この繊細かつ不思議な楽器を皆さんしげしげと見入ってました。

プログラムは次のとおり。

J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集より 第1巻第1番プレリュード(BWV846)
モーツァルト:アレグロ(K.3)、メヌエット(K.4)、メヌエット(K.5)
モーツァルト:アレグロ(K.9a)
モーツァルト:ヴィレム・ファン・ナッソーの歌による7つの変奏曲(K.25)
J. S. バッハ:リュートまたは鍵盤楽器のためのプレリュード、フーガ、アレグロ(BWV998)
(休憩)
モーツァルト:クラヴィーアのための小品(K.33B)
パッヘルベル:アリエッタと変奏ヘ長調
フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer):組曲集「音楽のパルナス山」より No.3 Melpomene:音楽・叙情詩の女神

まさにこの日のクラヴィコードが使われていた時代の音楽。ほどなく開演時時刻になり、奏者の筒井一貴さんが笑顔で登場。

筒井一貴/HASSEL 古典鍵盤楽器奏者(クラヴィコード/フォルテピアノ/チェンバロ)

筒井さんが、作品のことをお話しされて演奏するという、コンサートというよりはまさにサロンで演奏を楽しむという、クラヴィコードの時代のスタイルのような進行。クラヴィコードが最も静かな鍵盤楽器と呼ばれるように、最初にさらりと奏でられた音は、アルバムのみでクラヴィコードを聴いていた私の想像よりもかなり小さなものでした。まさに人が静かにしゃべる声と同じ程度の音。1曲目はバッハの平均律クラヴィーア曲集の冒頭の1曲。馴染みのメロディーですが、まだ耳が慣れないのか、身を乗り出して耳を澄ませて繊細な音色を聴きます。実は最初の1曲の印象はやはりか細いなかの繊細な音色という感じだったのですが、これが曲が進むにつれて、実にニュアンス豊かに聴こえるようになってきます。ちょうど暗い部屋に入ったときにはよく見えないのですが、目が慣れると暗さのなかにも陰影がくっきりついて見えてくる感じ。そう、バッハの曲は耳ならしという意図で配置されていたのでしょう。最初の曲が終わると15人の拍手がクラヴィコードの音以上にカフェに響きわたりますが、曲が進むにつれて拍手も小さな音になります(笑) これは皆さんがクラヴィコードの音に耳があってきたからということでしょう。

そして、続くモーツァルトの幼少時代の曲が何曲か続きます。作曲の背景や曲の成り立ちについてのとてもわかりやすい話に続いて、モーツァルトの天真爛漫なメロディーが奏でられますが、ケッヘル番号の1桁台ということで、1曲ごとにどんどんひらめきが加わり、モーツァルトの才能が急激に開花するようすが手に取るようにわかります。耳がなれて、クラヴィコードの繊細なニュアンスを伴った音楽に引き込まれます。すぐ外は春日通りということで、もちろん車の通る音も聞こえるのですが、お客さんはクラヴィコードの繊細な音色に集中しているので、ほとんど気になりません。小さな部屋で耳を澄ましてひっそりと音楽を楽しむ至福の時間とはこのことでしょう。

前半は小曲が中心で、前半の最後はバッハ。それまでのモーツァルトがクラヴィコードから閃きの進化を聞かせたのに対し、普段はハープシコードでの印象の強いバッハでは、バッハの音楽から華やかな音色という飾りを取り去った素朴な姿を想起させます。静かに耳を澄ませて聴くバッハの音階。静寂に潜む空気のようなものに触れたような気持ちになりました。演奏を終えて静かな拍手に笑顔で応えた筒井さんでした。



休憩を挟んで後半はモーツァルトから。最初の曲はもともと管楽器による演奏をイメージして書かれた曲。筒井さんの説明に従って、これまでの速い曲調ではなく、ゆったりとした曲調の曲を脳内で管楽器の音色を想像して聴いてみると、まさに楽器としてのクラヴィコードの優れた点がわかりました。

クラヴィコードは鍵盤を打鍵すると張られた弦の中央部を下から金属で「押して」その両側の弦が振動して音が鳴る仕組み。鍵盤を打鍵している間だけ音がなり、打鍵している鍵盤を抑える指に弦の振動がつたわってきます。以前クラヴィコードはヴィブラートがかけられると聞き、いったいどういうことなのか想像できなかったんですが、実際に楽器を目の前にして、自身で打鍵してみて初めて仕組みがわかりました。

このようなクラヴィコードだからこそ、管楽器の曲をイメージして演奏できるというわけです。このころの作曲家がクラヴィコードを愛用していた理由もなんとなくわかりました。

続いて演奏されたパッヘルベルのアリエッタと変奏曲。この曲はオルガンのための曲ですが、今度はオルガン用の曲をクラヴィコードで楽しみます。このパッヘルベル、素晴らしかったです。前曲同様、クラヴィコードの音色を聴きながら、オルガンの音色を想像して音楽を楽しみます。最初のテーマから次々と変奏がつづき、耳は完全にクラヴィコードの繊細な響きの変化のレンジに一体化して、デリケートに変化するメロディと音楽に引き込まれます。体を揺らしながら次々に変奏を繰り出す筒井さんの演奏に、カフェの小空間は完全に引き込まれました。カノンばかりが有名なパッヘルベルですが、このアリエッタと変奏曲はいいですね。特にこの日のクラヴィコードの演奏は絶品でした。筒井さんも満足そうに笑顔で暖かく静かな拍手に応えていました。

最後は大バッハがその作品を研究して、影響を受けたと言われるフィッシャーの曲。パッヘルベルに比べて明るく鮮やかなメロディーが織り込まれた組曲。曲が進むにつれて筒井さんのタッチも鮮やかになり、こちらも引き込まれる本格的な演奏。皆さん最初の曲の時とは異なり、クラヴィコードの音量と音色に完全にフォーカスが合って、音楽を楽しまれていました。

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最後も拍手につつまれ、アンコールで弾かれたのはモーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョ(K.617a)。いやいやクラヴィコードは想像力を掻き立てられます。この曲では天上から振り注ぐようなグラスハーモニカの繊細な音色を想像させます。

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いやいやいいコンサートでした。クラヴィコードを楽しむには絶好の規模。カフェの一室がバッハ、モーツァルト、ハイドンの時代にタイムスリップしたようでした。やはり生で聴くクラヴィコードは素晴らしいものでした。

終演後は筒井さんが皆さんの質問に気さくに応えたり、楽器を触らせていただいたりしながらしばらく談笑。リクエストに応じて愛器の前で写真も撮らせていただきました。

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大ホールでのコンサートとはまったく異なり、小さなカフェでクラヴィコードという楽器を存分にたのしませてもらう、まさに至福の時間。今週は仕事が忙しくお昼もろくに食べられないほど忙しかったのですが、このコンサートで心のそこから癒されました。主催者の皆さん、学下コーヒーの皆さん、筒井さん、ありがとうございました!

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イェンセン/読響/シュタイアーのモーツァルト、ショスタコーヴィチ(サントリーホール)

昨日は仕事山積みのなか、そそくさと切り上げてチケットをとってあったコンサートにでかけました。

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読売日本交響楽団:第548回定期演奏会

お目当てはフォルテピアノで自在な演奏を聴かせるアンドレアス・シュタイアー。あまりよく考えずにシュタイアーのフォルテピアノを生で聴いてみたいと思ってチケットをとったんですが、ホールに入ってステージに準備されていたのはフォルテピアノではなくピアノ! 先入観からシュタイアーはフォルテピアノを弾くイメージしかなかったため、ちょっと裏をかかれた感じ。プログラムはよく見てチケットを買わなくてはいけませんね(笑)

曲目はモーツァルトのピアノ協奏曲17番とショスタコーヴィチの交響曲7番「レニングラード」。まあ、このコンサートの来場者の半分以上はショスタコーヴィチ目当てかと思われますが、私はあまりそちらに関心はありませんでした。ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンは好きですし、ブルックナー、マーラー、ファリャ、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、デティユー、メシアン、ブーレーズも守備範囲ですが、正直ショスタコーヴィチは守備範囲外です(笑) 唯一好きなのは交響曲9番とショスタコーヴィチでは変り種。ということで、事前の関心はもっぱらモーツァルト。ショスタコーヴィチは完全にオマケあつかいでした。

奏者についても、この日の指揮者、エイヴィン・グルベルグ・イェンセンは読響初登場ということで、未知の若手指揮者を聴くのも悪くないという程度。

しかし、この日のコンサートで衝撃を受けたのはエイヴィン・グルベルグ・イェンセンのショスタコーヴィチでした。



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いつもどおり、仕事を切り上げてサントリーホールについたのは開演15分前くらい。先に入っていた嫁さんが首尾よくドリンクコーナーでサンドウィッチとワインを注文して待ってましたので、軽く腹ごしらえして、いざホールに入ります。座席はお気に入りのRA席。この日は前から2列目でした。

1曲目のモーツァルトの17番。全く未知のイェンセンでしたが、モーツァルトの序奏からいきなりしなやかな響きを聴かせ、引き込まれます。読響がまるでウィーンフィルのように柔らかに、しかも非常に美しい音色に響きます。優雅にのびのび、しかも要所でクッキリ緩急とアクセントをつける見事なコントロール。イェンセンの略歴を見ると直前までハノーファー北ドイツ放送フィルの首席指揮者を務め、また多くの歌劇場でオペラを振ってきただけにオケを実に巧みにコントロールします。かなりアクションは大きいのですが、動作が流麗なので指示が非常にわかりやすいです。ピアノソロは、ピアノの蓋が正面に向けて開けられていたのでRA席からだと直接音があまり聴こえず、ホールに響くピアノの音を聴く感じ。ピアノ協奏曲の時はRA席ではない方がいいかもしれません。肝心のシュタイアー、手元にある多くのフォルテピアノの録音では鮮烈なキレと自在な緩急による素晴らしい演奏が多く、やはりそんな演奏を期待して聴いてしまうのですが、ピアノでのシュタイアーは、そうしたキレの片鱗を感じさせるものの、演奏スタイルはリズムを少し砕いて、力を抜いた大人な表現。まるで自宅でピアノを前に指慣らしをしながら軽くオケに合わせていくよう。モーツァルトを自身で楽しむような演奏でした。
1曲目のモーツァルトですが、印象に残ったのはイェンセンの繰り出すしなやかな音楽。読響もイェンセンに応えて素晴らしい出来。お客さんも万雷の拍手で演奏を称えました。シュタイアーも快心の出来だったようで、アンコールでモーツァルトのソナタK.330の1楽章が演奏され、こちらも力の抜けた流して弾くようなタッチで聴かせる大人の技。フォルテピアノの冴え渡るキレとは全く別のシュタイアーを楽しむことができました。

休憩の間にピアノが下げられ、ステージ上は大オーケストラ用の配置に転換されます。

オケが入場して、笑顔のイェンセンが颯爽と登場。守備範囲外のショスタコーヴィチをどう料理してくるのか恐る恐る聴き始めます。ショスタコーヴィチ独特の散らかり感ですが、イェンセンの非常に丹念な描写に、あっという間に引き込まれます。長大な(本当に長大!)な1楽章、中間部にラヴェルのボレロを丸ごとショスタコーヴィチ流にアレンジしたような曲が挟まりますが、オケの精度が素晴らしく、特に小太鼓が極度の緊張感の中一定のテンポでリズムを刻み続ける姿を観客も固唾を飲んで見守ります。のけぞるようにバックスイングをともなってオケを煽るイェンセンですが、紡ぎ出される音楽は素晴らしい精度。1楽章はパーカッション郡も金管も大活躍。そして何より素晴らしかったのが各パートの音色の美しさ。途中ヴィオラが奏でるメロディーには鳥肌がたつような美しさ。木管、弦楽器、そしてピアノまでが響きの美しさの限りを尽くした演奏。戦争をテーマにした抑圧された心情のこの曲のなかの一瞬のきらめきのような瞬間がそこここに降り注ぎ、不協和音のなかに虹が浮かぶような不思議な美しさがちりばめられます。読響は私が聴いたなかでは一番の精度。この難曲なのに完璧な演奏で指揮者の期待に応えました。圧倒的な1楽章から普通の長さの2楽章、3楽章、そして間をおかずにフィナーレに続き、最後はブルックナーばりの大伽藍。ホールを揺るがすような大音響がイェンセンに巻き取られて、しばしの沈黙。イェンセンがタクトを下ろした途端にブラヴォーの嵐が降り注ぎました。正直ショスタコーヴィチの真価を初めて身をもって浴びた感じです。もちろんショスタコーヴィチなど詳しいわけもない嫁さんも圧倒され、ワナワナしてました。

イェンセンも会心の出来に満足したようで、小太鼓を皮切りに全奏者を丁寧に指名して祝福。やはり奏者の努力があっての名演奏であることをよくわきまえているようで、なかなかの人柄であることもわかりました。スクロヴァチェフスキからカンブルランときている首席指揮者ですが、つぎはこのイェンセンなどいいかもしれません。

イェンセン、ショスタコーヴィチ、そしてシュタイアーを目一杯楽しめたコンサートでした。今後イェンセンからは目が離せませんね。



ということで、モーツァルトとショスタコーヴィチに酔いしれたコンサートでした。サントリーホールを出るといつものように目の前のアークヒルズのなかの適当なお店で夕食をとって帰ります。この日はおなじみのカレー。

食べログ:フィッシュ

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ここは遅くまでやっているのでコンサート帰りにたまに寄るのでですが、前より味が良くなってますね。まずはビールとコンビネーションサラダ。

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こちらが定番白身魚のカリーライス。揚げた白身魚の旨みがカレーにいい香りを加えていて、癖になる味。

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こちらはキーマカリーライス。なんでしょう、日本のカレーとはかなり異なる香辛料の強烈な香りをベースとしたカレー。こちらも旨いです。

ショスタコーヴィチに酔ったところでカレーを食べながら反省会。このあとの読響のスケジュールを見るとハイドンも幾つかあります。どうしようかな~(笑)

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エドウィン・フィッシャー/ウィーンフィルのピアノ協奏曲(ハイドン)

今日はヒストリカルなアルバム。

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エドウィン・フィッシャー(Edwin Fischer)のピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)などを収めたアルバム。収録は1942年10月28日ウィーンでのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICSですが、新星堂のThe Great Recordings of EMIというシリーズの一枚。

エドウィン・フィッシャーは高明なピアニストであり、手元にもバッハなど何枚かのアルバムがあったはずです。今回このアルバムを手に入れたの機に聴いてみようといろいろひっくりかえして探したのですが見つかりません(苦笑)

仕方なくライナーノーツなどから略歴を紹介しておきましょう。生まれは1886年、スイスのバーゼル。父はバーゼル市管弦楽団のオーボエ奏者とのこと。バーゼル音楽院でハンス・フーバーに師事、1904年に父が亡くなったのを機にベルリンに移り、シュテルン音楽院でリストの弟子だったマルティン・クラウゼに師事。次第にピアニストとして頭角を現します。同音楽院を卒業後演奏活動を開始すると同時にいきなり音楽院で教鞭をとることになります。1920年代以降ベルリン、リューベック、ミュンヘンなどで演奏活動を行い、当初はバッハを得意としていました。1931年、シュナーベルの後任としてベルリン音楽大学ピアノ科の教授に就任し、このころから積極的に録音を残すようになります。1933年にバッハの平均律、1934年にシューベルトの「さすらい人幻想曲」、1937年にフルトヴェングラーの「ピアノと管楽のための交響的協奏曲、そして1942年にフルトヴェングラーとブラームスのピアノ協奏曲2番を録音しています。このアルバムに収められたハイドンはまさにその頃の録音。その後ナチスから逃れるためスイスに戻り、1958年までルツェルン音楽院で教鞭をとります。1950年にはバッハの没後200年を記念してヨーロッパの主要都市でバッハの鍵盤用の全協奏曲を演奏、その後1954年まで演奏、録音活動を続けましたが神経性の腕の麻痺などに悩まされ、54年以降は録音から遠ざかり指揮などで活躍。亡くなったのは1960年、チューリッヒで。74歳でした。

同時代の演奏家である、コルトー、ギーゼキング、フルトヴェングラーと親交がありたびたび共演、またヴァイオリンのクーレンカンプ、チェロのマイナルディとはトリオを結成していた。クーレンカンプ没後シュナイダーハンが加わったとのこと。ピアニストのバドゥラ=スコダ、バレンボイム、ブレンデルはフィッシャー門下ということで教育者としても多くの名演奏家を育てた人でした。

このアルバムにはハイドンの協奏曲の他に、1937年収録のモーツァルトのピアノ協奏曲17番(K.453)、ダラバーゴの教会のための4声の協奏曲 作品2の9が収められています。ハイドン以外のオケはフィッシャー自身が1934年に結成した室内管弦楽団です。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
原盤は独ElectrolaのSP盤。ヒスノイズとわずかにスクラッチノイズが聴こえますが音質は良好。ちょっと低域が薄いですがキレは十分。もちろんモノラルです。速めの快活なテンポに乗ってウィーンフィルのキレのいい弦楽セクションが伴奏で入ります。フィッシャーのピアノは鮮烈なキレ味。速めのテンポに合わせて実に鮮やかなタッチで音階を刻んでいきます。くっきりとアクセントをつけて音楽が立体的に浮かび上がります。ちょっとドイツ風の重厚な演奏を想像していたのですが、ドイツ風のくっきりした面は感じさせつつもここまでキレたタッチを聴くことができるとは思いませんでした。録音の古さを脳内フィルターで除去するとドイツ風なアルゲリッチのようなピアノのキレ。いやいや見事なタッチです。さらりとしながらもくっきりと香り立つハイドンの古典的楽興。見事な1楽章です。
2楽章は先ほどまでの軽快さから一転、ぐっとウィーンフィルが沈み込み、なかなか深い情感を感じさせます。それに合わせてフィッシャーのピアノは今度は磨き抜かれた輝きを発します。ピークでちょっと音が歪むのはご愛嬌ですが、やはり脳内フィルターで録音のアラを除去すると素晴らしい音楽が流れます。ピアノのメロディーと伴奏のコントラストをかなりはっきりとつけるところなど、現代のピアニストでもこれだけの表現はなかなか聴くことができません。リリカルなメロディーが沁みますが、さすがフィッシャーとウィーンフィルの演奏だけあって高雅さも失いません。カデンツァはシンプルながらピアノの音の美しさは感極まるほど。極上のの輝き。ハイドンの協奏曲のピアノの輝きの極北。最後に暖かい音色のオケが向かいに来るところの安心感はすばらしいものがあります。
フィナーレは再びフィッシャーのピアノの鮮やかなタッチを堪能できます。ピアノの音階はまったく抵抗なく転がり、タッチが冴え渡ります。並のピアニストとは次元の違うタッチの冴え。これを実演で聴いたら鳥肌ものでしょう。最後は迫力よりもキレ味で聴かせて終わります。

このあとのモーツァルトのピアノ協奏曲もハイドン同様の魅力をもった素晴らしい演奏です。録音はさらに古いですが原盤のコンディションが良くノイズは逆に少なく聴きやすい録音です。こちらもオススメ。

エドウィン・フィッシャーのピアノと指揮、ウィーンフィルの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲でしたが、あらためてエドウィン・フィッシャーという人の偉大さを再認識した次第。今聴くと録音のアラが少々気にならなくはないですが、その録音の奥に広がる深淵な魅力は十分伝わります。冴え冴えとしたタッチ、くっきりと浮かび上がるメロディー、恐ろしく立体感にあふれた音楽、そして気高さもあり、ピアノという楽器の表現できる音楽の素晴らしさに打ちのめされた感じ。脳内にアドレナリンが充満です(笑)。もちろん評価は[+++++]。ヒストリカル好きな方は是非入手すべき素晴らしい演奏です。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 モーツァルト

トリオ・カレニーヌのピアノトリオ(ハイドン)、アンヌ・ケフェレックの「ジュノム」(ラ・フォル・ジュルネ)

昨日5日は再び東京国際フォーラムに出かけ、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンを楽しみました。

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ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2014公式サイト

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この日は早朝から千代田区が震度5弱の地震に見舞われ、ちょっと心配しましたが、交通機関もさして乱れることなく、順調に有楽町までやってこれました。取ったプログラムは10:45開演のものと14:00開演のものの2つ。最初のプロブラムがホールではなくG棟での開催だったので、まずはG棟に入ってみます。

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まだまだ10時台なので人出はそれほどでもありませんでした。G棟の吹き抜けはまだ席が残っているプログラムのチケットを販売しています。1時間弱の短いコンサートとはいえ、いくつも聴くには体力がいります。ということで、追加でチケットを買うのはやめにしました。

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東京国際フォーラムは新宿に移転した東京都庁跡地に1997年に完成したコンサートホール、国際会議場などのコンプレックス。国際コンペで勝ったのは当時無名だったラファエル・ヴィニオリ。これを建てている間に日本のバブルは崩壊し、バルブルの象徴と見られていた時期もありましたが、今は純粋に素晴しい空間を楽しめる東京の名建築というところでしょう。巨大な吹き抜け空間と、恐竜の骨格のような露出した構造はいつ見てもスペクタクル。ラ・フォル・ジュルネも今年で10階目ということで、ここでやるのがすっかり定着しているようですね。最初のコンサートがG409という4階の会場ですので、エレベーターで4階に向かいます。

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まだ、開場まで間があるので、吹き抜けに面した廊下でのんびりと開場を待ちます。

最初のプログラムはこちら。

公園番号:361(ホールG409)
ハイドン:ピアノ三重奏曲 ホ長調(Hob.XV:28)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
トリオ・カレニーヌ (ピアノ三重奏)

やはりハイドンのプログラムは聴かない訳には参りません。演奏者のトリオ・カレニーヌ(Trio Karenine)ももちろんはじめて聴く人たちゆえ、興味津々です。メンバーは次のとおり。

ヴァイオリン:アナ・ゲッケル(Anna Göckel)
チェロ:ルイ・ロッドゥ(Louis Rodde)
ピアノ:パロマ・クーイデル(Paloma Kouider)

若手の美女2人にイケメンチェリストの組み合わせでした。トリオの設立は2009年と比較的最近で、トリオ名はトルストイの「アンナ・カレーニナ」に因んだものとのこと。メンバーはパリ国立音楽院、エコールノルマル音楽院の卒業生で、イザイ弦楽四重奏団に師事したそうです。第5回ハイドン室内楽コンクールで特別賞、プロ・ムジチス協会賞を受賞。また2013年にミュンヘン国際音楽コンクールで1位無しの第2位となった若手実力派といったところでしょう。

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会場はG棟の会議室に椅子を並べた簡易的なもの。会議室の中央にステージが設定され、5列の客席で囲んでいます。東京国際フォーラムは場所、ホールはいいのですが、会議室は残響が極端に少なく、演奏者にはちょっと酷な会場ですね。キャンドルスタンド風の照明がピアノの左右におかれ、雰囲気が会議室然としないよう配慮しているのでしょうか。

さて、定刻になりトリオ・カレニーヌのメンバーが登場。デッドな空間に1曲目のハイドンのトリオが響き始めます。抑えたピアノにピチカートを合わせたこの曲独特の入り。間近で聴くとやはりトリオの中でもピアノの音の存在感が際立ちます。1曲目のせいか、ピアノのリズムが少し重く、ヴァイオリンも弓のキレが今ひとつ。チェロの男性のみ最初から活き活きとした演奏を聴かせていました。それでもピアノの響きのデリケートな変化にハイドンが晩年に到達した澄みきった音楽の素晴らしさを感じざるを得ません。トリオ・カレニーヌも徐々にリラックスしてきて、2楽章の暗い中にもきらめきのある名旋律、そして3楽章の軽快な音楽を演奏していきます。それでもどこか少しギクシャクとした固さを残していました。このまま終わったらトリオ・カレニーヌの名前は記憶に残らなかったと思いますが、つづくラヴェルのピアノトリオは圧巻の出来でした。
やはり、得意としていたのはラヴェルでしょう。冒頭から神がかったようなキレ味。特に先程ハイドンでは今ひとつノリが良くなかったヴァイオリンのアナ・ゲッケルが別人のようにキレキレ。演奏技術的にはよほどラヴェルのほうが難しいのでしょうが、音楽として演奏するのはハイドンの方が難しいのでしょうか。前曲をハイドンが作曲したのが1796年、このラヴェルのピアノトリオは1914年ということで、120年の時を経た音楽。同じピアノ、ヴァイオリン、チェロという楽器での音楽ながら、ラヴェルの書法は精緻を極め、色彩感と楽器から引き出す音色の多彩さは比べるべくもありません。トリオ・カレニーヌはまるでラヴェルが乗り移ったような素晴しいキレ味で音楽を演奏していきます。デッドな会場にもかかわらず、観客はトリオ・カレニーヌの演奏に釘付け、素晴しい演奏でした。

会場は拍手の渦。しかしながら、皆さんこの後続くコンサートのチケットをとっているらしく、そそくさと会場を後にします。これもラ・フォル・ジュルネの風物詩ですね(笑)

時間は11:30をまわったところ。ということでG棟の下まで降りて、丸の内側の出口の方に行ってみると、何やら銅像が建っています。これは今まで気づきませんでした。

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台座を見ると太田道灌像とあります。太田道灌といえば室町時代の武将で江戸城築城の主ということで、以前ここにあった東京都庁の敷地内にあったものをここに移転したものとのこと。戦国武将の像が時代を超えて現代建築のなかに雄々しく立ちはだかる姿は、さしずめテルマエ・ロマエさながらのキッチュな存在ですね(笑)

お昼の時間ということで、東京国際フォーラムの中庭の屋台は多くの人でにぎわっていました。なにか屋台で買ってベンチで食べても良かったのですが、生憎多くの人でベンチは満席。ということで有楽町のガードの方に出て、どこかにはいろうかと歩き始めると、最初にあるのが長崎ちゃんぽん、リンガーハット。脳内の記憶中枢に電流が走り、ここしばらく長崎ちゃんぽんは食べていませんし、脳内に長崎ちゃんぽんという記憶領域も薄れかけている事に気づき、嫁さんに「ちゃんぽんでも食うか?」と聞くと、「最近食べてないからいいわよ」と同様の脳の構造、入ってみる事にしました。

食べログ:長崎ちゃんぽんリンガーハット 有楽町店

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ということで、お休みかつ車ではありませんので、ビールです(笑) 店内はお昼時なので満員ですが、注文後すばやくビールが供される風流を解する店でした。うま~。

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そして定番長崎ちゃんぽんに餃子をたのみました。個人的にはチェーン店はあまり好きな方ではありませんが、ここはいいですね。チャンポンも出汁たっぷり。そして箸の袋に餃子に柚子胡椒をつけて食べると美味しいとの記載があり、店側のマーケティングにマルノリして、ちょっと柚子胡椒をつけていただくと、、、 これは美味い!
お手軽にお昼をすませて、すこしまわりをうろうろして午後のプログラムまでの時間を過ごします。

午後とったプログラムはこちら。

公演番号:343(ホールC)
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136
モーツァルト:ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 K.271 「ジュノム」
アンヌ・ケフェレック (ピアノ)
横浜シンフォニエッタ
ジョシュア・タン (指揮)

ケフェレック目当てでとったプログラムです。ケフェレックは過去に2ほど演奏を取りあげています。

2013/04/03 : ハイドン–協奏曲 : アンヌ・ケフェレック/アルマン・ジョルダンのピアノ協奏曲(XVIII:11)
2011/02/06 : ハイドン–ピアノソナタ : アンヌ・ケフェレックのピアノソナタ集

実演でも香り立つようなピアノが会場を圧倒しました。

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3日のホールAはかなり後ろの席だったのでアルゲリッチのピアノも遠くに聴こえましたが、今回のホールCでは前から5列目で、十分ダイレクトな音が楽しめる席です。先程のG棟とは違い、音楽専用ホールだけに残響も多めでいい響きです。昨年このホールで、アンサンブル・アンテルコンタンンポランの超絶の名演を聴いています。

さて、ケフェレック目当てと書きましたが、1曲目はモーツァルトのディヴェルティメントK.136。指揮者のジョシュア・タンはシンガポールの指揮者で中国、台湾、シンガポールなどで活躍している人。もちろんはじめて聴く人でしたが、1曲目のモーツァルトは素晴しい仕上がり。速めのテンポなんですが、オケを非常にふくよかに鳴らし、晴朗なモーツアルトの名曲を、実に伸びやかに演奏。横浜シンフォニエッタもはじめて聴きましたが、アンサンブルの精度も高く、かなりの腕利き揃いとみました。このオケの伴奏でケフェレックのモーツァルトを聴けるということで期待十分です。1曲目から拍手喝采。ホールも大いに盛り上がります。

そしてピアノをステージ中央にに動かして、ケフェレック登場。1948年生まれということで、もう70近いお歳にもかかわらず、優美な舞台姿は流石です。ジュノムの最初のピアノの一音から雰囲気のあるピアノにうっとりです。最初はちょっとオケとのやり取りのリズムが固いところもありましたがすぐに一体化。ふくよかに弾むオケに優美なピアノが乗って絶品の演奏。華やかな1楽章、沈む2楽章、そして華麗に展開するフィナーレと雰囲気満点。音楽はテクニックで聴かせるものではなく、溢れ出すような情感で聴かせるものですね。最後の一音がホールに響き渡ったあと、万来の拍手に包まれます。何度もカーテンコールに呼び出され、ジョシュア・タンに促されてアンコールで弾いたのがヘンデルのメヌエット。訥々と語られるような音楽にホール中がのまれているのがよくわかりました。これは絶品。音楽家という職業、楽器を演奏するのではなく、人の心を打つのが仕事だと言わんばかりの沁みる演奏。もちろんブラヴォーの嵐。文字通り香り立つようなモーツァルトとヘンデルに心を奪われたコンサートでした。

いやいや、やはり生はいいですね。横浜シンフォニエッタも流石の出来でした。

コンサートが終わって、時刻はちょうど15時頃。先程近くをうろついた時に向かいのビックカメラの中に結構な品揃えの酒屋さんがあることがわかり、そこで1本仕入れです。

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好きなニッカのモルトですが、12年は製造終了ということで、この機会にゲットです(笑) そして新宿経由で帰宅し、ゴールデンウィークのイベントごとは終了。

東京のゴールデンウィークの風物詩ですが、適当に楽しむにはいい企画。ラ・フォル・ジュルネ、来年はハイドン特集という、、、わけはないですね(笑) 

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カラヤン/ベルリンフィルの「ジュピター」1956年ライヴ

今日12月5日はモーツァルトの命日。モーツァルトは1791年12月5日に亡くなりました。ハイドンとモーツァルトが互いに尊敬しあっていたのは有名なのでご存知のことでしょう。折角の記念日なので、久しぶりにモーツァルトのお気に入り盤を取りあげます。

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HMV ONLINEicon / amazon(何れもaudite盤)

ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトの交響曲41番「ジュピター」K.551、35番「ハフナー」K.385、ピアノ協奏曲20番K.466の3曲を収めたアルバム。収録はジュピターとピアノ協奏曲が1956年1月21日、ベルリンのツェーレンドルフ、パウロ派教区信徒会館でのライヴ、ハフナーは1955年2月27日、アメリカ、ワシントンでのライヴ。レーベルは伊JOKER。

このアルバム、手に入れたのはずいぶん前。たしか今は亡き六本木WAVEで入手したものです。それもモーツァルト没後200年の1991年頃だったと記憶しています。手に入れた当初は、カラヤンのモーツァルトということで、さして期待していませんでしたが、冒頭に置かれたジュピターを聴き始めたところ、もの凄いエネルギーに満ちた演奏でビックリ。しかも、そのエネルギーが徐々に高まり、終楽章は圧倒的な迫力。後年はスタイリッシュかつスタティックな演奏が多かったカラヤンですが、50年代は違いました。

1956年と言えばモーツァルト生誕200年の年。モーツァルトの誕生日は1月27日ですから、まさに誕生日の少し前、生誕200周年のアニヴァーサリーに沸いていた頃でしょう。まさにモーツァルトの生誕を祝うコンサートということで、カラヤン自身も尋常なテンションではなかったことと想像しています。

以来、このアルバムは愛聴盤として、ラックの取り出しやすいところに置いてたまに楽しんでいましたが、流石にハイドンのブログをはじめてからは手にとっていませんでしたので、久しぶりに聴く事になります。今日はこのジュピターです。

モーツァルト 交響曲41番「ジュピター」
音質はモノラル、時代なりですが、そこそこ聴きやすいもの。入りはカラヤンらしく整ったフォルムで整然とした印象。徐々にベルリンフィル弦楽器が力を帯びてきます。カラヤンらしい迫力を帯びても余裕がある表情。曲全体を見渡した造形。きりりと引き締まったリズムにのって、オケが輝きます。音量を上げて聴くと陽光に輝く大理石の神殿のごとき威容。どこをとっても完璧なプロポーション。このころのカラヤンはレガートを多用せず、むしろフレージングはさっぱりして、音楽の骨格をクッキリ表現しているよう。1楽章は実に気高い演奏。
2楽章に入ると、きっちり流麗なテンポに乗って、ダイナミックレンジを大きく取って弦楽器陣がフレーズではなく音楽の振幅を聴かせるような迫力ある演奏。カラヤン時代のベルリンフィルの特徴である分厚い弦楽器の響き。唸るように歌いますが、気高さを保って情に流されないところは流石。ライヴのためかオケは適度に荒れていますが、それが妙に迫力につながっています。後年は室内楽的な透明感を帯びるような演奏も多かったですが、この覇気は貴重。
メヌエットに入ると、さらに迫力が増しますが、オケにはまだ余裕があるのが流石。カラヤンの曲全体を見渡した骨格設計は完璧。カラヤンの覇気が吹き出してきそう。大迫力なのに優雅。
フィナーレに入ると、明らかにオケにスイッチが入ります。ここでようやく本気モード。録音に少々混濁感がともないますが、それも迫力のうち。フーガのフレーズが次々と唸るように襲ってきて、素晴しい推進力。適度に荒れた表情のベルリンフィルが髪を振り乱してカラヤンのコントロールにあわせて爆音を轟かせます。最後はホール中に轟く音塊に圧倒されます。このときカラヤン48歳。最も覇気が溢れていたときのカラヤンとベルリンフィルの底力を思い知らされます。最後は拍手入り。

モーツァルトの生誕200年を祝うコンサートに登場したカラヤンとベルリンフィル。この前年の1955年にベルリンフィルの終身首席指揮者兼芸術総監督に就任し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった頃でしょう。古い録音を通してさえ、その時の空気のようなものが伝わってくる演奏でした。このアルバム、紹介したJOKER盤はおそらく海賊盤で入手は難しいでしょうが、同じソースだと思われるaudite盤は流通しています。こちらは未聴なので録音の程度がどうかはわかりませんが、そこそこ楽しめる物だと想像しています。

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tag : モーツァルト ヒストリカル ライヴ録音 ベルリンフィル

クララ・ハスキル/ゲザ・アンダのモーツァルトとバッハの2台のピアノのための協奏曲

誰にでも時々無性に聴きたくなるアルバムがあります。まだまだ、LPシリーズいきますが、今日はハイドンではありません。

IMG_4340.jpg
HMV ONLINEicon(国内盤CD)/ amazon(輸入盤CD)

クララ・ハスキル(Clara Haskil)とゲザ・アンダ(Geza Anda)のピアノ、アルチェオ・ガリエラ(Alceo Galliera)指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏で、モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲(K.365)とバッハの2台のピアノのための協奏曲の2曲を収めたLP。収録は1956年4月25日、26日、ロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルは仏PATHE MARCONI。

このアルバム長らくCDで愛聴してきましたが、先日状態のいい仏PATHE MARCONI盤を見つけて手に入れたもの。CDのほうはバッハ、モーツァルトにアンダがソロを務めるベートーヴェンのピアノ協奏曲1番の3曲をカップリングしたもの。LPの方はベートーヴェンが入らず、曲順もモーツァルトが先になっています。

演奏はすでに評価の高いものですので、多くの人が聴いているでしょう。ハスキルとアンダのコンビが、このアルバムに収められたモーツァルトとバッハと言う全く異なる音楽を、どちらも絶妙の呼吸と、香しいまでに詩情の溢れる気高いタッチによって、神々しいまでに昇華した至福の演奏。

モーツァルトはハスキル独特の全く溜めのない直裁なタッチで転がるように滑らかな音階が行き来きする至高の音楽。オケにもピアノにもえも言われぬ詩情が漂い、まさに音楽の神様が降りてきたような演奏。アンダもハスキルをそっと支える見事な呼吸。そしてガリエラのコントロールするフィルハーモニア管弦楽団が非常にテンポのいい演奏。すべてが完璧にそろった奇跡のひとときです。この演奏CDもかなりいい録音なんですが、LPと聴き比べると、クリーンなCDの魅力もあるのですが、弦楽器のキレとピアノの存在感はやはりLPに分があります。聴いているうちに感極まる見事な演奏。

バッハの方は冒頭からポリフォニーの響きの渦に身を任せるような恍惚とした音楽。響きに耳を傾けているうちにバッハの書いた数多の音符が大河となって押し寄せてきて、トランス状態になります。こちらもモーツァルトに負けず劣らず感極まります。音階の繰り返し、重なり、変化が宇宙のごとき雄大さを表すと同時に、じつにしっとりと人間的な印象も合わせもつ希有な演奏。
2楽章のハイドンとは異なるバッハ独特の静謐な陰りが美しく、淡々としたタッチがグールドの過度にアーティスティックな印象ではなく、バッハ本来の敬虔な感情と、純粋に音楽を奏でる喜びの感情を浮かび上がらせます。最後のロンドは深遠なメロディーの循環を繰り返しながら一歩ずつ天上への階段を登っていくよう。

遅くに家に帰って、好きなアルバムをターンテーブルに乗せて、厳かに針を落として音楽に没入。今日も一日働いた疲れが一瞬で吹き飛びます。明日もがんばって働かねば(笑)

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【番外】シューリヒト/ウィーンフィル1956年モーツァルト週間ライヴ

今日はハイドンではなくモーツァルト。ラック掃除をしていて久々に取り出したアルバム。

Mozartwoche.jpg
amazon

カール・シューリヒト(Carl Schuricht)指揮のウィーンフィルの演奏による、モーツァルトの交響曲23番(KV 181)、ピアノ協奏曲22番(KV 482)、交響曲35番「ハフナー」(KV 385)の3曲を収めたアルバム。収録は1956年1月26日、ザルツブルクのモーツァルテウムの大ホールでのライヴ。レーベルは国際モーツァルテウム財団のMorzart Woche 1956(1956年モーツァルト週間シリーズ)。

1956年といえばもちろん、モーツァルトの生誕200年を記念する年。モーツァルトは1756年1月27日生まれですので、生誕200年の前夜に行われたコンサートの模様を収めた録音です。

モーツァルト週間はこの演奏の年、1956年に創設され、以後モーツアルトの誕生日の1月末に毎年開催されている音楽祭で、ザルツブルク観光局のウェブサイトによれば「冬のザルツブルク音楽祭」と呼ばれているとのこと。ザルツブルク観光局のサイトは日本語のページもあって情報も充実しています。

Salzburg.info モーツァルト週間

このアルバムは茶色の地にアーティストの写真をあしらった品のいい物。この1956年のモーツァルト週間のライヴのシリーズには当時のモーツァルト演奏の最高峰と思われる素晴らしいコンサート・プログラムが並んでおり、今日取り上げるアルバムを含めて4枚がリリースされています。

・ベーム/ウィーンフィルとウィルヘルム・バックハウスによるピアノソナタとピアノ協奏曲27番
・ベルンハルト・パウムガルトナー/カメラータ・アカデミカ、リタ・シュトライヒ、イーゴリ・オイストラフによるアリア、ヴァイオリン協奏曲5番、交響曲29番
・カラヤン/フィルハーモニア管弦楽団とクララ・ハスキルによるピアノ協奏曲20番と交響曲39番

これらのアルバムも手元にありますので、そのうち番外で取りあげたいと思います。

シューリヒトはハイドンの演奏も素晴らしいのですが、もちろんモーツァルトも絶品。はじめに置かれた23番は短い曲ですが、響きの間のゾクゾクするような不思議な気配というか霊感のようなものが特徴の曲。続く22番も3楽章に同様な響きが聴かれます。

交響曲23番(KV 181)
この曲はモーツァルトが1773年、3回目のイタリア旅行からザルツブルクに帰ったあとに作曲したもの。1773年と言えばハイドンがシュトルム・ウント・ドラング期の頂点を迎えた直後。この23番はモーツァルトの交響曲でも華麗な曲想で独特の美しさをもつ3楽章構成の小曲。ハイドンがシュトルム・ウント・ドラング期に極めたメロディーと構成と詩情の結晶とは異なる次元の、天真爛漫な音楽が陰りをともなって滔々とわき出す曲。特にこのシューリヒトのモーツァルト生誕200年を記念するコンサートのライヴは、シューリヒト燻し銀のコントロールで、モーツァルトの書いた華麗な曲から白檀の芳香が立ちのぼるような実に慈しみ深い演奏。録音は流石に古いですか、その古い録音から流れ出すような珠玉の音符たち。音楽の流れは淀みなく、シューリヒト独特の拍子を早く刻みながらさっぱりと淡白なフレージングによって、流麗なのに慈しみ深い、詩情溢れる展開。遥か高い天空に限りなく上昇していく音楽。
楽章間は切れ目なくつながり、ゆたりとギアをチェンジしてテンポを落とします。2楽章はオーボエの絶妙に美しいメロディーが印象的。古いモノクロ映画の音楽のような響きが曲想を引き立てます。演奏はかなり力を抜いて各パートそれぞれがつながりながらも、独立しているように、メロディーを慈しむよう。
フィナーレは直裁なヴァイオリンの切り込みの力強さが印象的ですが、そこにもシューリヒト独特の詩情が漂うところが流石です。疾風のように過ぎ去って、モーツァルテウムの会場の暖かい拍手に迎えられます。

ピアノ協奏曲22番(KV 482)
ピアノにタチアナ・ニコラーエワ(Tatjana Nikolajewa)を迎えてピアノ協奏曲22番。こちらは1785年と前曲より少し後の作品。このころモーツァルトはハイドンにハイドン四重奏曲を献呈しています。前年にモーツァルトの父宛の手紙にハイドンの名がはじめて登場したとのことで、モーツァルトがハイドンの素晴らしさを知った頃でしょう。この曲の陰りのある明るさと愉悦感溢れる曲想がシューリヒト好みということで選ばれたものでしょうか。演奏はシューリヒトの伴奏は完璧。我々がシューリヒトの演奏に期待するすべての要素がつまってます。特に短調の2楽章のあっさりと淡白な演奏なのに実に深い詩情を発散するところはシューリヒトならでは。ニコラーエワのピアノはシューリヒトの伴奏にピタリとあったもの。もうすこし癖のある演奏をする人との記憶でしたが、今聴くと非常に慎ましい美しい響きに満ちあふれたシューリヒトと同様自然さから詩情が滲み出すピアノ。特に速いパッセージのコロコロ転がるような滑らかな指さばきと右手のきらめき感はモーツァルトにぴったり。このライヴは22番の名演の一つとして数えられるべき演奏でしょう。

交響曲35番(KV 385)
最後は「ハフナー」。1782年作曲。コンサートの最後に相応しい素晴らしいエネルギー感。モーツァルト渾身の曲が彫刻的なフォルムを現し始めます。録音は意外と良く、この演奏の立体感と力感を見事に表現できています。特に分厚い低音弦セクションの響きが全曲とは異なる迫力。オケの規模も大きくなっているのでしょう。ハフナーもモーツァルトの後期交響曲のなかでは地味な存在ですが、シューリヒトの手にかかると実に慈しみ深い音楽に変貌します。シューリヒトの音楽は骨格設計がしっかりしていて、そのうえ深い詩情を帯びた上品なコントロールということで、このハフナーも3Dのような素晴らしい立体感と響きの余韻がもたらす典雅な雰囲気が相俟って最高の出来。やはり割れんばかりの拍手に迎えられます。

モーツァルト生誕200年のアニヴァーサリーとして企画されたザルツブルクのモーツァルト週間の最初の年のライヴ。ここにモーツァルトの真髄がありました。当時の最高の演奏者を集めたのでしょう、他の日のコンサートのメンバーを見てもわかるとおり、めくるめくような布陣。その中でもこの日の演奏は歴史に残るものでしょう。録音から伝わる静かな熱気と、シューリヒトの気品にあふれた表現を通してモーツァルトの音楽の魅力がわき出すよう。我が家のコレクションでも家宝級のものです。モーツァルト好きの方は、みかけたら是非手に入れてください。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
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