【番外】没後20年武満徹オーケストラコンサート

先日聴いたコンサートのライブ盤がリリースされましたので早速入手。

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TOWER RECORDS

2016年10月13日に東京オペラシティタケミツメモリアルホールで武満徹の没後20周年を記念して開催されたコンサートの模様をライヴ収録したSACD。曲目と演奏者はTOWER RECORDSから引用しておきます。

【曲目】
1. 地平線のドーリア (1966)
2. 環礁 ― ソプラノとオーケストラのための (1962)
3. テクスチュアズ ― ピアノとオーケストラのための (1964)
4. グリーン (1967)
5. 夢の引用 ― Say sea, take me! ― 2台ピアノとオーケストラのための (1991)

【演奏】
オリヴァー・ナッセン(指揮)
クレア・ブース(ソプラノ) (2)、高橋悠治(ピアノ) (3,5)、ジュリア・スー(ピアノ) (5)東京フィルハーモニー交響楽団

このアルバムはTOWER RECORDSがリリースする限定盤。TOWER RECORDSは廃盤になった旧譜などの復刻リリースも活発で目が離せませんね。

この日のコンサートの模様は以前記事にしています。

2016/10/16 : コンサートレポート : 没後20年武満徹オーケストラコンサート(東京オペラシティ)

演奏内容などのレビューはコンサートレポートの方に詳しく記載してありますので、そちらをご覧ください。

このアルバムを取り上げたのは、プロダクションがあまりに素晴らしいから。

まずは録音ですが、これがライヴ収録だとは信じがたい精緻なもの。CDプレイヤーにかけて音が出た瞬間に空間に緊張感が漲り、鋭い音色の楽器が鮮明に定位します。これぞ武満。当日の演奏も十分精緻なものと聴こえましたが、録音でこれだけ精緻な音楽を味わえるとは思いませんでした。オリヴァー・ナッセンの振る東京フィルも録音で聴いても全く粗がありません。完璧です!
そして当日のプログラムからそのまま転載された武満徹の研究者である小野光子さんによる作品解説。この解説が非常にわかりやすい。これをそのまま掲載するのは英断ですね。そしてジャケット写真を見ていただければわかる通り、素晴らしいアートワーク。実にセンス良くまとめられ、この歴史的なコンサートにふさわしいプロダクションに仕上がっています。

このとおり、収録内容もアルバムの出来も大手レーベルの完全に上をいってますね。解説の英訳をつけることで、この日の素晴らしいコンサートの模様が全世界に伝えられやすくなるでしょう。

コンサートも貴重な体験でしたが、このアルバム、武満や現代音楽好きな方は必聴のアルバム。手に入れる価値は十分にあります。企画したTOWER RECORDSの中の人、アルバム制作に関わられた全ての人に感謝です。素晴らしい!

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tag : 武満徹 ライヴ録音 SACD

マリス・ヤンソンス/ベルリンフィルの「驚愕」(ハイドン)

久々に映像ものを取り上げます。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

マリス・ヤンソンス(Mariss Jansons)指揮のベルリンフィルの演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、モーツァルトのフルート協奏曲K.314 (285d)、ベルリオーズの幻想交響曲の3曲を収めたBlu-ray。収録は2001年5月1日、ベルリンフィル恒例のヨーロッパコンサートで会場はトルコのイスタンブールの聖イレーネ教会でのライヴ。レーベルはEUROARTS。

この映像、存在は知っていたものの、手に入れたのはごく最近のこと。

マリス・ヤンソンスのハイドンは過去に2度取り上げていますし、昨年バイエルン放送響との来日公演で「軍隊」も聴いています。

2016/11/27 : コンサートレポート : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)
2013/05/11 : ハイドン–交響曲 : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響のロンドン、軍隊
2011/08/11 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番2】マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団のハルモニーミサライヴ

ヤンソンスは皆さんご存知の通り、世界の一流指揮者の一人であり、非常に丁寧なコントロールで音楽をしなやかに聴かせる人です。ヤンソンスのハイドンはそのしなやかな魅力がベースの演奏ですが、過去に取り上げた演奏では、少々磨き過ぎて丁寧に過ぎる印象もちょっと感じさせ、ハイドンの直裁な魅力を十分に表現しきれていない印象も持っていました。ただ、昨年聴いた「軍隊」のコンサートはやはり素晴らしく、ちょっと見直したのが正直なところ。そう思っている中、このBlu-rayが目に入ったので手に入れた次第。

過去に取り上げたアルバムではバイエルン放送響との交響曲集が2003年と2007年、ハルモニーミサが2008年ということで、今日取り上げる2001年の「驚愕」が最も古い演奏ということになります。

Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
聖イレーネ教会は荒い肌の積み石がむき出しのイスタンブール最古の教会。雰囲気はなかなか良いのですが録音に適するようには思えません。ただその辺はうまく音響処理しているのか、普通のコンサートホールでの録音と言われてもわからないほど自然な音に録られています。冒頭が「驚愕」ですが、序奏からヤンソンスの魔法にかかったようにベルリンフィルからビロードのような柔らかい響きが引き出されます。ヤンソンスは指揮棒を持たず、体全体を使って非常にリズミカルな指揮ぶり。そして驚愕の聴きどころである1楽章の緊密な構成を非常に自然に描いていきます。特に素晴らしいのがリズムのキレ。流れるような演奏とはこのことでしょう。そしてヤンソンスの面目躍如なのがすべてのフレーズが丁寧に磨かれているかのような美しさ。映像で見るとなおさら磨きっぷりまでよくわかります。1楽章は大理石の透明感まで伝わるような白亜の大神殿のような優美な姿を見せます。
続くびっくりのアンダンテもこれ以上美しく演奏するのは難しいほど流麗なもの。びっくりの部分は適度な迫力でこなしますが、続く変奏では速めのテンポで見通し良く展開するので抜群の面白さを味わえます。まさに古典の均衡を味わえる見事な演奏。ヤンソンスの指揮姿を見ていると、見通し良くリズムを刻むところに細心の注意を払っていることがよくわかります。
そしてハイドンの交響曲で意外に単調になってしまいがちなメヌエットもヤンソンスの手にかかると躍動感に溢れる舞曲として弾みます。ベルリンフィルもいつもの剛腕ぶりから華麗な響きに変わり、シェフが変わるととろけるような甘みを見せます。
そしてフィナーレもまろやかな入りから、徐々にオケに力が宿り、軽やかに、華麗に、そして時に図太く変化しながら最後のクライマックスに向けて盛り上がっていきます。これほど華麗なこの曲のフィナーレは聴いたことがありません。最後はベルリンフィルの底じからをさらりと聴かせ終わります。いやいや素晴らしい。

マリス・ヤンソンスの驚愕、オーソドックスな演奏ながら、極めて完成度の高い極上の演奏でした。先日実演で聴いた「軍隊」も素晴らしかったんですが、この驚愕も見事の一言。評価は[+++++]とします。ヤンソンスは旧バルト三国のラトビア出身ですが、独墺系の伝統とは少し異なるロマンティックな古典の美しさの表現が上手いですね。実演に接してからヤンソンス流のハイドンにも違和感を感じなくなってきました。先日ハイドン音盤倉庫特選としてザロモンセットの名演奏を選んだ中で、驚愕はクライバー盤を選んだのですが、この映像も驚愕の名演奏としておすすめできるものです。未聴の方は是非。なぜかローチケHMVだけBlu-rayにもかかわらず1000円ちょっとで手に入ります。

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tag : 驚愕 ライヴ録音 Blu-ray

アンドレ・ワッツ デビュー25周年記念ライヴ(ハイドン)

久々にCDです(笑)

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アンドレ・ワッツ(André Watts)のデビュー25周年記念で行われたカーネギー・ホールでのコンサートの模様を収録したアルバム。この1曲目にハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)が収められています。その他の収録曲はモーツァルトのK.332、シューベルトのD.784、ブラームスの4つの小品Op.119。収録は1988年4月6日、ニューヨークのカーネギーホールでのライヴ収録。レーベルは今は亡き英EMI。

アンドレ・ワッツは私にとっては懐かしい人。昔、父がFM放送から何曲かエアチェックしたカセットテープあり、好んで聴いましたが、それが誰の曲だったか、記憶があまりにもおぼろげでもはや覚えていません。その記憶以来ワッツの演奏を意識して聴いたことはありませんでしたが、このアルバムのジャケットでにこやかに微笑む姿を見て、懐かしく思った次第。特段ハイドンを演奏するという印象がある人ではありませんでしたが、このアルバムにハイドンの曲が含まれているとわかり手に入れました。

アンドレ・ワッツはWikipediaなどを調べてみると、1946年、ドイツのニュルンベルクでアフリカ系アメリカ人の父とハンガリー人の母の間に生まれました。フィラデルフィア音楽院でピアノを学び、何と9歳でフィラデルフィア管弦楽団とハイドンのピアノ協奏曲を演奏したそう。その後1963年、バーンスタインがCBSテレビの全国放送である「青少年コンサート」に招き、有名になりました。以来ワッツのコンサートはテレビ放送で幾度も取り上げられるなど、テレビによってキャリアを築いてきた人のようです。ワッツの録音を調べてみると、ハイドンのソナタを収めたディスクは他にもあり、コンサートでもハイドンを取り上げていたようです。今日取り上げるディスクはワッツのデビュー25周年を記念してニューヨークのカーネギー・ホールで開催されたリサイタルの模様を収めたものですが、同時期にリンカーンセンターでメータ指揮のニューヨークフィルとの共演 で、ベートーヴェン、リスト、ラフマニノフの協奏曲を演奏したコンサートも催され、こちらもテレビ中継されたとのこと。特にリストを得意とするということで、テクニックには自信があるようです。日本にも1969年に初来日しており、以降何度も来日しているようですので、実演に接した方もいらっしゃるかもしれませんね。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
カーネギーホールに降り注ぐ暖かい拍手から始まる雰囲気たっぷりの録音。非常にデリケートなタッチで優しく音を響かせて入ります。聴衆が耳を澄ましてワッツの美音に聴き入るピンと張りつめた気配包まれての演奏。美しい音階が特徴の曲ですが、その音階を力を抜いてサラサラと清水が流れるように響かせる円熟のタッチ。一音一音を丁寧に置いていきながら、余裕たっぷりに流れをコントールして、淀みを作ったり、さらりと流したりしながら、ハイドンの楽興の彼方に引き込まれていく快感。ホールの空気感が伝わる名録音。1楽章は未曾有の緊張感にしびれます。そして2楽章に入ると指が気持ちよく回り、ハイドンの曲を軽々と弾きこなしていきます。素晴らしいテクニックの持ち主が、力を抜いてさらりとこなす粋な演奏。殺気がみなぎるようなアムランとも異なり、シフのような濃い目の情感を伴うこともなく、純粋無垢な響きに包まれる演奏。純粋に音楽の躍動とハーモニーの透明感、そしてリズムの戯れを味わえる名演奏。最初の1曲目から聴衆を釘付けにする見事な演奏。拍手の前にブラヴォーが気持ちよく響きます。ハイドンのソナタの最上の姿にこの日の聴衆はいきなり幸福感に包まれたことでしょう。

続いてモーツァルトのK.332。これまた素晴らしいモーツァルト。これほど美しく響くモーツァルトは久しぶり。ハイドンも絶品だったんですが、こちらも極上の演奏。まるでカーネギーホールで当時の興奮を味わっているような至福のひととき。自身の四半世紀の活躍の節目というタイミングのコンサートにワッツがどれだけの準備をしたのでしょうか。あまりに完璧な演奏にとろけそうです。そして、シューベルトもブラームスも集中力が途切れることなく完璧な音楽が流れます。

アンドレ・ワッツのデビュー25周年を記念したライヴですが、まさに宝物のようなアルバム。この日のコンサートを聴いた聴衆はワッツのピアノの素晴らしさに打ちひしがれたでしょう。冒頭に置かれたハイドンのソナタのなんたる美しさ。ワッツの円熟のタッチから生み出される美しい響きにノックアウトです。ピアノの好きな方は必聴のアルバムでしょう。もちろんハイドンの評価は[+++++]とします。てにはいるうちにどうぞ。

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tag : ピアノソナタXVI:48 ライヴ録音

ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲XVIII:11(ハイドン)

珍しいアルバムを見つけました。ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲です。この触れ込みでギュンター・ヴァントの伴奏のものだろうと思った方はかなりのハイドン通ですが、今回見つけたのはその演奏ではありません。

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ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノ、アゴスティーノ・オリツィオ(Agostino Orizio)指揮のブレシア・ベルガモ国際音楽祭室内管弦楽団(Orchestra da Camera del Festival Internationale di Bresia e Bergamo)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11とボッケリーニの交響曲ニ短調Op.12-4「悪魔の家(La Casa del Diavolo)」の2曲を収めたアルバム。収録の詳細はこのアルバムには記載されていませんが、ハイドンに関しては同じソースだと思われる別のアルバムには1988年2月21日、ミラノのミラノ音楽院のヴェルディ・ホール(Sala Verdi)でのライヴとの記載があります。レーベルははじめて手に入れる、φωνη fonè。なんと読むのかわかりません(笑)

ニキタ・マガロフのアルバムは少し前に取り上げていて、その気品に溢れた演奏が印象に残っています。

2017/02/18 : ハイドン–ピアノソナタ : ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

前回取り上げたソナタの演奏が1960年とマガロフの壮年期である48歳頃の録音だったのに対し、今回取り上げる協奏曲は亡くなる4年前の76歳頃の録音ということで、時代がかなり下ってからのもの。演奏スタイルがどのように変化したかも興味深いところでしょう。

気になるのは見たことのないレーベルであるφωνη fonè。もう消えてしまったレーベルかと思いきや、バリバリ現役のレーベルでした。

Fonè Records

レーベルは創立30年近くになるクラシックとジャズを主体とする音質にこだわったレーベル。ウェブサイトによると、現在はフィレンツェとピサの間にあるペッチョリ(Peccioli)という田舎町が本拠地のようです。SACDやLPまでリリースしている本格的なレーベルでした。

今日取り上げるアルバムは廃盤のようですが、この録音の1楽章のみ別途リリースされているベスト盤に収録されていますので、自信のある録音ということなのでしょうね。確かに録音にはこだわりを感じます。TELARKのようなダイナミックさを求める録音ではなく演奏のライヴ感を重視した録音。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
いきなり透明感の高いオーケストラの響きが広がります。指揮者のアゴスティーノ・オリツィオは知らない人ですが、オーケストラコントロールはキリリと引き締まったリズムを基調とした堅実でキレもあるもの。オケは迫力十分。驚くのがニキタ・マガロフのピアノの瑞々しさ。落ち着いたテンポで堂々としていながら、キラメキ感に満ちた素晴らしいタッチ。70歳代の演奏ゆえリズムに鈍さを感じるところもなくはないのですが、それを上回る覇気に満ちた演奏。ハイドンの曲を味わいながら演奏しているのがよくわかります。フレーズの一つ一つを丁寧にこなしながら、全体にしっかりとしたエネルギーが込められ、実に気品と風格に溢れた演奏。まるでベートーヴェンを演奏しているような推進力と覇気に圧倒されます。オケの方もマガロフの気合に触発されて輝きを増していきます。名ピアニストの力演を支えよとする、こちらも奏者のエネルギーを感じます。カデンツァでもマガロフの放つオーラにホール中の聴衆が集中していることがわかります。
続くアダージョは力をスッと抜いたオケの伴奏の爽やかさに気を取られているうちにマガロフの磨き抜かれた美音によるメロディーが入ります。特に高音の澄んだ響きの美しさが印象的。老練なタッチから生み出されるしなやかな音楽。マガロフの意を汲んでか、オケが実に情感溢れるいい伴奏を聴かせます。ピアノに劣らず雄弁な伴奏にマガロフも高揚している様子。繰り返しゆったりと訪れる波のような起伏が音楽を心地良いものに感じさせます。そしてとどめはあまり聴いたことのない実に気品に溢れたカデンツァ。マガロフ自身のものでしょうか。
フィナーレは予想通り落ち着いた、そしてじっくりとした演奏。噛みしめるようにピアノとオケが旋律を展開させていきながら、ハイドンのアイデアの変化の面白さを次々と繰り出していきます。それぞれのフレーズに揺るぎない意味が込められていることがよくわかる演奏。ピアノからオケ、オケからピアノへ受け渡されるメロディーの面白さを存分に味わえます。マガロフのピアノのタッチはどんどん冴えてきて最後は鮮やかさで観客を圧倒。最後の音が消えるのを待たずに万雷の拍手に包まれます。

続くボッケリーニもはじめて聴く曲ですが、変化に富んだ奇妙な展開が繰り返される実に興味深い曲。ピアノが入る訳ではないので、オケの力量を示すものですが、こちらも見事なコントロールで拍手喝采。

ニキタ・マガロフの晩年の充実した演奏をたっぷりと楽しめる素晴らしいアルバムでした。堂々とた正統派のピアノの揺るぎない響きがこれほどまでに音楽を活き活きとさせる稀有な事例と言っていいでしょう。このアルバムはネットショップを探しても見当たらないことから既に廃盤かもしれませんので、なかなか入手は難しいかと思いますが、こうしたアルバムこそ、手に入るようにしておく価値がありますね。当ブログがその真価の証を刻んでおくべきでしょう。見かけたら是非入手をおすすめいたします。評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ライヴ録音

【新着】絶品! ミヒャエル・シェーンハイトの天地創造ライヴ(ハイドン)

またまた素晴らしいアルバムを発掘しました!

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ミヒャエル・シェーンハイト(Michael Schönheit)指揮のメルゼブルガー・ホフムジーク(Merseburger Hofmusik)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」のライヴを収めたアルバム。合唱はコレギウム・ヴォカーレ・ライプツィヒ(Collegium Vocale Leipzig)、シュロスカペレ・ザールフェルト室内合唱団(Kammerchor der Schlosskapelle Saalfeld)。収録は2015年9月11日と12日、ライプツィヒの西約20kmにあるメルゼブルク(Merseburg)にあるメルゼブルク大聖堂でのライヴ。レーベルはQUERSTAND。

このアルバム、最近リリースされた天地創造の新録音ですが、指揮者もオケもソロも未知のもの。天地創造は全種コンプリートを目指して収集中ゆえ何気なく注文したもので、結構時間がかかって最近到着したもの。いつも通りさして期待もせずCDプレイヤーにかけて聴きはじめたところ、最初は大聖堂での残響の多い古楽器のライヴだなあという印象でしたが、すぐに非常にニュアンスの豊かなフレージングとキビキビとしたコントロール、そして粒揃いの歌手陣、コントロールの行き渡ったコーラスに惹きつけられ、あっという間に全曲を楽しんでしまいました。最近の録音らしく会場ノイズは皆無ですが、第3部の終曲が終わり残響が静寂の中に消えた瞬間、ものすごい拍手が降り注ぎ、拍手は次第に地鳴りを伴うようになり、当日の観客の興奮までもがリアルに収められています。聴き終わった私が岡本太郎的形相で「なんだこれは?」と叫んだのはもちろんのこと(笑) いやいやこれは素晴らしい演奏です。

あらためてアルバムを見てみると、なんだか天地創造を表すような想像力爆発な絵画に加え、フォントにはカラフルなグラデーションが施されています。ジャケットは決して品がいいとは言えないものですが、このアルバムに込められたエネルギーを象徴するよう。

この素晴らしい演奏を生み出した指揮者のミヒャエル・シェーンハイトは、1961年、ライプツィヒの南にあるザールフェルト(Saalfeld)生まれの指揮者、オルガニスト。同じくオルガニストだった父ワルター・シェーンハイトからピアノとオルガンを教わり、1978年まで、地元ザールフェルトの少年合唱団に所属、その後ライプツィヒ・メンデルスゾーン音楽アカデミーで指揮とピアノを学びます。卒業後父のあとを継ぎ、ザールフェルトのヨハネ教会のオルガニストと合唱指揮者に就任します。1986年にはライプツィヒ・ゲヴァントハウスのオルガニストとライプツィヒ・バロックオーケストラのメンバーとなり、有名指揮者と共演するようになります。1995年にはクルト・マズアの振るニューヨークフィルにソリストとしてデビュー。1996年にはメルゼブルクの教会のオルガニストに就任、そして1998年にこのアルバムのオケであるメルゼブルガー・ホフムジークを設立します。このオケはライプツィヒ・ゲヴァントハウスの奏者などによる古楽器オケとのこと。

ライナーノーツによるとそもそもシェーンハイトの指揮者としてのデビューは1982年、ハイドンの生誕250年のアニヴァーサリーイヤーに父が振る予定だった天地創造のコンサートの際、父の急病により代打として指揮台に立った時で、以来30年以上に渡って天地創造の研究を重ねてきたとのこと。それだけ天地創造には思い入れがあるのでしょう。

歌手陣は下記の通り。
ガブリエル/エヴァ:ユーリア・ゾフィー・ヴァーグナー(Julia Sophie Wagner)
ウリエル:ロタール・オディニウス(Lothar Odinius)
ラファエル/アダム:アンドレアス・シャイブナー(Andreas Scheibner)

Hob.XXI:2 "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭のカオスは、何気なく聴くと流れのいい普通の演奏なんですが、注意深く聴くとデュナーミクもアゴーギクも実に巧み。緊張感を保ちながらも一貫して堂々とした流れの良いテンポで音楽が進みます。場面場面にしっかりとした特徴を持たせながらも、スイスイ音楽が流れて行くので非常に見通しの良い演奏。そしてそこここにキリリとしたアクセントをつけて行くので、変化に富んだ感じも十分。かなり演奏を重ねてきた円熟を感じます。歌手も揃って若々しい声で悪くありません。ラファエルのアンドレアス・シャイブナーは柔らかで自然な声質、ウリエルのロタール・オディニウスはキリリと澄んだ声、ガブリエルのユーリア・ゾフィー・ヴァーグナーは線は細いもののふくよかな響きを感じさせるソプラノ。調べてみると夏目三久似のコケティッシュな人でした。期待のガブリエルのアリアは端正な歌唱。シュワルツコップから芳香を抜いてスッキリさせた感じ。コーラスは透明なハーモニーがくっきりと浮かび上がる素晴らしいもの。流石に合唱指揮も手がけてきただけのことはあります。先に触れたように非常に流れの良い演奏ですが、第1部のクライマックスに至る第12曲から13曲に至るところ盛り上げ方、アクセントを効かせた展開は見事そのもの。胸のすくようなクライマックスへの盛り上がり。音量を上げて聴くと大聖堂に響き渡るオケとコーラスの波にのまれる感じ。

第2部は美しいメロディーの宝庫だけにシェーンハイトのコントロールの美点が活きて、第1部以上に聴き応え十分。かなり速めのテンポでドンドン進みます。この見通しの良さはあらたな発見。ゆったりと流れるメロディーもいいものですが、大曲をまとまりよく聴かせるというコンセプトだと思います。やはりクッキリとしたメリハリが効いているのでセカセカした感じはしません。ガブリエル、ラファエル、ウリエルのそれぞれのアリアは純粋にメロディーの美しさに聴き惚れんばかり。次々と歌われるアリアの快感。そして第2部のクライマックスたる第26曲から28曲までの展開も迫力十分。決して力むことなく音楽の流れで表現される迫力。大迫力なのに透明感と軽々とした躍動感に満ちている素晴らしい瞬間。

そして天上の音楽のような期待の第3部。冒頭からオケの自然で透明な響きに聴き惚れます。とろけるようなホルンが鳴り響き、ウリエルのレチタティーヴォももとろけるよう。そして聴きどころのアダムとエヴァのデュエットはテンポを落とし、普通のテンポになります。歌手とオケとコーラスが完璧に響きあう至福のひととき。続く大迫力の合唱は速めのテンポでタイトにまとめ、2番目のデュエットでも再び至福のひとときが訪れます。エヴァのソプラノのなんと美しいこと。そして第3部のクライマックスたる第34曲の堂々とした入り、荘厳さを帯びたフーガ、次々とコーラスの波が襲い、オケがそれに呼応。素晴らしい迫力でのフィニッシュ。そして先に触れたように万雷の拍手が地鳴りを伴い降り注ぎます。

いやいやなんと素晴らしい演奏でしょう。じっくり克明に描く天地創造も多い中、全3部を一気に聴かせるタイトな演奏。しかもこれがライヴだとは信じがたい素晴らしい集中力。30年以上に渡って天地創造を研究してきたというミヒャエル・シェーンハイトの言葉に偽りはないでしょう。名演の多い天地創造ですが、名だたる一流どころの演奏と比べて劣るどころか、それら以上に素晴らしい演奏と言っていいでしょう。歌手、コーラス、オケ、録音も素晴らしい仕上がりのアルバムとして多くの人に聴いていただくべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : 天地創造 ライヴ録音 古楽器

ニコラス・クレーマー/BBCフィルの哲学者、ラメンタチオーネなど(ハイドン)

今日はちょっと心ときめくマイナー盤。

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ニコラス・クレーマー(Nicholas Kraemer)指揮のBBCフィルハーモニック(BBC Philharmonic)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、26番「ラメンタチオーネ」、67番、80番の4曲を収めたCD。収録は哲学者が2008年6月26日、ラメンタチオーネが2009年1月28日、残り2曲が2007年6月21日、マンチェスターの新放送室第7スタジオでのライヴ。2009年のBBC music誌(Vol.17 No.11)の付録CD。

BBC music誌の付録はこれまでにもホグウッドの未発表録音だった交響曲76番、77番や、ジャナンドレア・ノセダの太鼓連打など、珍しい録音を何枚か手に入れています。今日取り上げるアルバムも含めてこれらは全て中古での入手。このアルバムもディスクユニオンで入手しました。

ニコラス・クレーマーはあまり知らない人と思いきや、以前に一度演奏を取り上げていました。

2010/10/09 : ハイドン–声楽曲 : アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

上の記事のアンドレアス・シュペリングの祝祭カンタータ集の最後に収められた交響曲12番がクレーマーの指揮でした。シュペリングの繰り出す華やかな響きに対して、ゆったり慈しみ深い演奏が印象に残っています。

Wikipediaなどによるとニコラス・クレーマーは1945年スコットランドのエジンバラ生まれの指揮者、ハープシコード奏者。最初はハープシコード奏者として主にオーケストラのコンティニュオを担当していましたが、徐々に指揮する機会に恵まれ、1970年代にはイギリス室内管などの弾き振りなどで活躍、レパートリーもバロックから現代音楽まで拡大しました。その後1986年から92年までアイルランド室内管弦楽団、1985年から93年までロンドン・バッハ管弦楽団の音楽監督を務め、現在はマンチェスター・カメラータとシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの首席客演指揮者、スイスのヴィンタートゥール・ムジークコレギウム管弦楽団の永世客演指揮者となっています。ライナーノーツによると、このアルバムのオケであるBBCフィルハーモニックとは日常的に仕事をしているそうです。

このアルバムに収められた4曲の交響曲ですが、これがまた癒しに満ちた素晴らしい演奏でした。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
冒頭からゆったりとしたオーケストラの美しい響きに癒されます。規則的なテンポに乗って各楽器が独特のシンプルなメロディーを受け継いでいきますが、録音は非常に良く、オケのそれぞれの楽器が溶け合って極上のとろけるような響き。弦楽器のビロードのような柔らかさ、木管楽器の自然な表情、そしてホルンの膨らみある柔らかさと言うことなし。BBCフィル素晴らしいですね。いきなりこの曲の真髄を突く演奏に惹きつけられます。
つづくプレストは穏やかながら躍動感満点。オーソドックスな演奏なんですが、このしなやかに躍動するリズムと、実に丁寧に繰り出される旋律の美しいこと。メロディーよりも支える内声部のハーモニーの美しさを意識したのか、若干弱めのメロディーがいいセンス。
メヌエットも穏やかながら実にキレのいい表現。奏者が完全にクレーマーのリズムに乗って素晴らしい一体感。ただ演奏するだけでハイドンの名旋律の美しさにとろけます。そしてフィナーレも期待どおり。ホルンがここぞとばかりにキリリとエッジを効かせてアクセントを加えます。素晴らしい疾走感。オケの響きは相変わらず極上。速いパッセージも落ち着きはらってさらりとこなす余裕があります。これは素晴らしい名演奏。名演の多いこの曲のベストとしても良いでしょう。放送用の録音ということでしょうか、最後に拍手が入ります。

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
哲学者以上に好きな曲。仄暗い始まりはシュトルム・ウント・ドラング期のハイドン特有の気配を感じさせます。この曲はピノックのキビキビとした演奏や、ニコラス・ウォードの名演が印象に残っていますが、同じスコットランドのウォードの演奏と似たオーソドックスなスタイルながら、ニュアンスの豊かさと響きの美しさはウォードを凌ぐ超名演。この曲でも美しい響きとメロディーのしなやかな展開、さっと気配を変える機転とクレーマーの繰り出す音楽にノックアウト。これは素晴らしい。オケも素晴らしい安定感。ライヴのノイズも皆無なのにライヴらしい躍動感に溢れています。
聴きどころの2楽章は予想より少し速めのテンポでサラリと入ります。聴き進むうちにじわりとこの曲の美しさに呑まれていきます。1楽章の豊かな響きをサラリと流すような清涼感が心地よいですね。
フィナーレも素晴らしい充実度。微妙にテンポを動かして豊かな音楽に。いやいや参りました。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
録音が少しクリア度を増した感じ。冒頭から素晴らしい迫力と躍動感に圧倒されます。オーソドックスな演奏なんですが、正攻法での充実した演奏に圧倒されます。時代は古楽器やノンヴィブラート流行りですが、こうした演奏を聴くと、小手先ではなく曲をしっかりふまえた演奏の素晴らしさこそが重要だと改めて思い知らされます。よく聴くと弱音部をしっかりと音量を落として、しっかりと彫りの深さを表現していることや、畳み掛けるような迫力と力を抜く部分の表現のコントラストを巧みにつけるなど、やることはしっかりやっています。
弱音器付きの弦の生み出すメロディーのユニークさが聴きどころの2楽章のアダージョ。うねる大波のような起伏と、木管の美しい響きを象徴的に配して、静けさのなかにアクセントを鏤める見事なコントロール。終盤のピチカートは聴こえる限界まで音量を落とす機転を利かせます。
堂々としたメヌエットにヴァイオリンのリリカルな演奏が印象的な中間部とこれも見事。大胆なコントラストをつけているのに落ち着ききった演奏。そしてフィナーレは素晴らしい覇気のオケの響きを楽しめます。前2曲よりも時代が下ったことでオーケストレイションも充実していることを踏まえての表現でしょう。この曲ではコントラストの鮮明さが印象的でした。この曲も見事。

Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
最後の曲。さらに時代が下り、オケも迫力十分。クレーマーの丁寧なコントロールは変わらず、オケのとろけるような響きの良さと安定度も変わらず。この曲のみ低音弦の音量が他曲より抑えている感じ。
アダージョのしっとりと落ち着きながらのゆるやかに盛り上がる曲想の表現、メヌエッットの自然さを保ちながらのキビキビとしたリズムのキレ、フィナーレの掛け声の応報のようなコミカルな展開の汲み取り方など非常に鋭敏なセンスで演奏をまとめます。もちろんこちらも見事。

BBC music誌の付録としてリリースされたアルバムですが、これが類稀なる名演奏でした。指揮のニコラス・クレーマー、特に日本ではほとんど知られていないと思いますが、以前取り上げた交響曲12番とこのアルバムを聴くと、そのオーケストラコントロール力はかなりのもの。特にハイドンの交響曲のツボを押さえていますね。この優しい、しなやかな演奏を好む人は多いと思います。ニコラス・ウォードのハイドンを超える素晴らしい演奏です。ということで4曲とも評価は[+++++]とします。中古で見かけたら即ゲットをお勧めします。

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tag : 哲学者 ラメンタチオーネ 交響曲67番 交響曲80番 ライヴ録音

エノッホ・ツー・グッテンベルク/バッハ・コレギウム・ミュンヘンの「四季」(ハイドン)

すみません、年明けから怒涛の新年会ラッシュでだいぶ間が空いてしまいました。久しぶりに大曲四季を取り上げます。

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エノッホ・ツー・グッテンベルク(Enoch zu Guttenberg)指揮のノイボイエルン合唱団(Chorgemeinschaft Neubeuern)、バッハ・コレギウム・ミュンヘン(Bach Colleggium München)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「四季」を収めたLP。収録は1988年4月24日、ミュンヘンのガスタイク・フィルハーモニーでのライヴ。レーベルは独obligat。

このアルバム、最近ディスクユニオンで仕入れたもの。売り場でこのアルバムを見たときはエノッホ・ツー・グッテンベルクの振る四季はCDが手元にあったはずだと思って所有盤リストを確認してみると、CDとしてリリースされている録音とは別物ということが判明したため、いそいそとレジに進みました(笑) CDの方は2004年のセッション録音で、オケはクラング・フェアヴァルトゥング管。それに対してこちらは1988年と16年遡った日のライヴでオケはバッハ・コレギウム・ミュンヘンです。指揮者のエノッホ・ツー・グッテンベルクはあまり知られた人ではありませんが、CDの方の演奏は引き締まった秀演だったため、ちょっと記憶に残っていました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクは、1946年、ドイツのバイロイト近郊のグッテンベルク(Guttenberg)に生まれた指揮者。グッテンベルク家はバイロイト一帯を含むフランケン地方の貴族であり、父カール・テオドールは1967年から69年までクルト・ゲオルク・キージンガー内閣の首相府政務次官を務めた政治家、息子カール=テオドールはメルケル内閣で経済・科学技術相、国防相を務めた政治家。息子の方はメルケルの有力な後継者とみなされるほど人気があったそうですが2011年、バイロイト大学に提出した論文に盗用疑惑が持ち上がり辞任したとのこと。
本人もドイツの大規模なワイナリーの所有者だったりと貴族の流れを汲む資産家のようですね。もともと、このアルバムで合唱を担当するノイボイエルン合唱団を1967年に創設し、すぐにドイツ国内のコンクールなどで優勝し、1980年からはフランクフルト・チェチーリア協会の合唱指揮者にも就任し、以後2つの合唱団や各地のオケなどを指揮して様々な音楽祭に招かれ、特に現代楽器でのバッハの演奏で知られるようになります。レパートリーはオラトリオを中心に現代音楽までとのこと。

歌手は下記の通り。

ハンネ:平松 英子(Eiko Hiramatsu)
ルーカス:ウェルナー・ホルウェグ(Werner Hollweg)
シモン: アントン・シャリンジャー(Anton Scharinger)

Hob.XXI:3 "Die Jahreszeiten" 「四季」 (1799-1801)
後のCDの引き締まった演奏とは異なり、かなり自然でおおらかな入り。LPですがデジタル録音の時代に入っていますので、録音は自然かつ精緻で聴きやすいもの。LPもいいコンデションのためノイズもほとんどなくスピーカーの周りにホールの空間が広がります。シモンのアントン・シャリンジャー、ルーカスのウェルナー、ハンネの平松英子ともに、ホールによく響く通りの良い声。特にコーラスは大河の流れのように分厚いハーモニー。流石に合唱指揮出身のグッテンベルクのコントロールというところでしょう。ジャケットの中開きには演奏風景の写真がありますが、コーラスは100人規模の大編成。第4曲のシモンのアリア「農夫は今、喜び勇んで」に入ると美しいアリアのメロディーに乗ってオケがだんだん引き締まってきて、ライヴらしい陶酔感が漂います。そして第6曲のソロに合唱が加わるところが圧巻。まさにコーラスの海に包まれるような幸福感。ハイドンが農夫の喜びを描いた心情がまさに音楽の悦びとして歌われる至福の瞬間。ライヴそのままの盛り上がりを味わえます。グッテンベルクはオケをことさら煽らず、曲に素直に大局を見据えて自然なコントロールに徹しており、歌手もオーソドックスながら皆素晴らしい歌唱で支えます。そして、第8曲の「おお、今や何と素晴らしい」の冒頭、オケがホールいっぱいに響き渡る素晴らしい迫力。録音の素晴らしさも手伝って類い稀な高揚感。まさにコンサート会場にいるような盛り上がりに圧倒されます。

LPをひっくり返して夏。前曲最後の盛り上がりから一転して、暗く静かな音楽に変わりますが、音楽の自然でしなやかな流れは変わらず。最初のシモンのアリア「眠りを覚ました羊飼いは今」はしっとりと美しく響きます。そして「朝焼けが訪れて」の輝かしいクライマックスでは再び大河のようなコーラスに包まれます。オケとコーラスのスロットルコントロールが自然ながらかなりの幅で、フルスロットルのエネルギーはかなりのもの。この自然なダイナミクスのコントロールがグッテンベルクの魅力でしょう。この後、レチタティーヴォなどで代わる代わるしっとりとソロを聴かせたあと、終盤のコーラスによる「ああ、嵐が近づいた」で再びオケとコーラスが爆発。そして最後の「黒い雲は切れ」でもコーラスが加わると一段とハーモニーが厚みを帯びて音楽に生気が宿りが宿ります。まさにコーラスが曲の中心にあるよう。

レコードを替えて後半へ。秋は収穫の喜びが満ち溢れた曲が続きます。三重唱とコーラスによる「こんなに自然は、勤労に報いてくれた」で最初のクライマックスに至り、ハンネとルーカスによる美しいデュエット「町から来た美しい人、こちらへおいで!」、そしてシモンのアリア「広い草原を見渡してごらん!」では実にデリケートなオケの伴奏によって絶妙なニュアンスが引き出されます。そしてホルンのファンファーレが轟く「聞け、この大きなざわめき」では、ホルンが朗々と響き渡りますが、弱音のコントロール、遠方で鳴る響きのパースペクティブの演出まで含めて見事。オケのテクニックは素晴らしいものがあります。秋の終曲はコーラスによる「万歳、万歳、ぶどう酒だ」。舞曲が流れる中、コーラスが最高に盛り上がって終わります。

そして最後の冬。しっとりと沈んだ描写の美しさもこの演奏の特徴。音量を落としてもデリケートなニュアンスと陰影がしっかり描かれているので音楽が雄大に展開していきます。前半は歌手が絶妙なレチタティーヴォで引き締め、中盤の聴きどころの糸車の歌では、コーラスが土着的なメロディーを素朴に歌い上げます。その後もアリアとレチタティーヴォの美しいメロディーの連続にとろけそう。オケは要所でキリリと引き締まり、終曲で明るい和音が轟く瞬間の自然な輝かしさはなんとも言えない朗らかさ。節度を伴ってじんわり盛り上がる終曲のコントロールまで緊張感が保たれました。

エノッホ・ツー・グッテンベルクによるハイドン最後のオラトリオ「四季」の1988年のライヴでしたが、流石に合唱指揮者出身だけあって分厚く響くコーラスの魅力に溢れた名演でした。この大曲を実に自然な流れの中でまとめ上げる手腕は見事。オケのコントロールも素晴らしく、ハイドンの農民讃歌たるこの曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。演奏のキレを聴かせるという意図は皆無で全編自然な音楽に溢れた演奏でした。残念ながらCD化はされていないようで、入手は容易ではないかとは思いますが、この素晴らしさは多くの人に聴いていただくべき価値があると思います。後年録音されたCDも引き締まったいい演奏ですが、私はこの自然な大河の流れのようなライヴの方が好みです。評価は[+++++]です!

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tag : 四季 ライヴ録音 LP

【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

ちょっとご無沙汰しておりました。相変わらず仕事でバタバタとしているのですが、今日帰宅すると、ちょっと楽しみにしていたアルバムがamazonから届いていました。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

飯森範親指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、17番、35番の3曲を収めたSACD。収録は2015年6月5日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

このアルバム、大阪をホームグラウンドとする日本センチュリー交響楽団とその首席指揮者の飯森範親が8年をかけてハイドンの交響曲全集を演奏しようとする「ハイドンマラソン」という企画の第1回のコンサートの模様をライブ収録したもの。飯森範親のハイドンは少し前にNHKで放映されていて、ちらっと見て、かなり本格的なものとの印象を受けているので、この録音の出来は気になっていた次第です。

飯森範親さんは、録音もかなりリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。いちおう略歴をさらっておきましょう。

1963年鎌倉に生まれ、桐朋学園指揮科で学び卒業後はドイツに留学、1985年民音コンクール2位、1987年ブサンソン指揮者コンクール2位などの経歴があります。1989年からバイエルン国立歌劇場でウォルフガング・サヴァリッシュについて修行、1994年から東京交響楽団専属指揮者、モスクワ放送交響楽団特別客演指揮者、1995年から広島交響楽団正指揮者などを務め、2007年から山形交響楽団音楽監督となっています。この間世界の有名オケに客演を重ね、このアルバムのオケである日本センチュリー交響楽団の首席指揮者には2014年に就任しています。日本でも実力者の一人と言っていいでしょう。

私自身は録音も生もあまりちゃんと聴いたことがない人ですが、手元のアルバムでは水野由紀がチェロを弾くチェロ協奏曲集の伴奏を日本センチュリー交響楽団を振って担当したアルバムがあることに気づきました。が、アイドルものということで、オケに注目して聴いていませんでした。

今一度、アルバムの帯をよく見てみると、「ハイドン;交響曲集Vol.1」との表記。コンサートの企画自体は交響曲全集の演奏ですが、録音自体が全集を目指すという志はない模様です。あれば「交響曲集」ではなく「交響曲全集」となるわけですので。これには少々がっかり。

これまでハイドンの交響曲全集に挑んだ指揮者はいたものの、完成に至ったのはアンタル・ドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィスの3名のみ。古くはマックス・ゴバーマン、クリストファー・ホグウッド、ロイ・グッドマン、トーマス・ファイなどが、かなりの数の録音を残したものの、完成を見ずに断念しています。もし全集の録音を志すとしたら、そこに日本人にである飯森範親が急遽加わる形になります。ヨーロッパではジョバンニ・アントニーニが主兵、イル・ジャルディーノ・アルモニコと2032年の完成を目指した全集が第3巻までリリースされている中、我が日本でもついにハイドンの交響曲全集が企画されるのかとの期待もありましたので。まあ、このアルバムの出来が今後の録音リリースの判断材料にもなろうということで、襟を正してアルバムをかけてみます。朝はつい最近、佐渡裕の振るウィーンのトーンキュンストラー管の超名演盤がリリースされたばかり。こちらとの比較も気になるところです。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
佐渡盤も素晴らしい録音でしたが、こちらもDSD録音のSACDということで、ホールの空気感たっぷりの素晴らしい録音。会場ノイズは皆無で音楽に集中することができます。冒頭から精緻な演奏。オケの響きはライヴとは思えない精度。朝靄がはれていくようなハイドンの音楽が立体的に響きます。演奏はオーソドックスですがオケもリズミカルに反応して、素晴らしい展開。弦の響きの潤いは一流オケとは少々差がつくところですが、素晴らしいホールの響きに支えられて悪くありません。若干ホルンが重いところもなくはありませんが、木管や弦を中心に全体にキレよく非常にクリアな演奏。
つづくアダージョはソロの腕の見せ所。ヴァイオリンはコンサートマスターの松浦奈々でしょうか、しっとりとした弓さばきで艶やかかつ味わい深いソロ。チェロも軽々とした弓さばきでさざめくような静けさにしなやかにメロディーを描いていきます。
メヌエットは柔らかくたっぷりと響く低音につつまれて、キレよりも穏やかさを感じさせる演奏。相変わらずオケの精度はすばらしくわずかな乱れもありません。中間部のファゴットのソロはぐっとテンポを落としてコントラバスがファゴットを表情豊かに引き立てます。中間部と両端のコントラストが十分について再びオケに勢いが戻ります。
フィナーレはソロを効果的に配しながらオケとの掛け合いが聴きどころの曲。ソロの精度は十分でオケとの呼吸もぴったり。ハイドンの描いた複雑にからみあう音楽の面白さがクッキリと見事に描かれています。1曲目からクリアで端正、精緻な演奏でした。

Hob.I:17 Symphony No.17 [F] (before 1766)
2曲目は推進力が魅力の曲。冒頭から楽天的なハイドンの音楽がリズミカルに進みます。注意して聴くとオケのパートがそれぞれカラフルな音色で代わる代わるメロディーを引き継いでいく様子が鮮明にわかり、実に面白い。上下に乱舞するメロディーの面白さ。時折挟まれる異なる響きのアイデアを存分に楽しめます。この曲ではホルンの重さも解消されました。
2楽章のアンダンテは程よいテンポと程よい抑揚で音楽が進みしっとりとした曲の魅力に集中できます。ここにきてヴァイオリンの音色も十分艶やかさを加えて、音楽も深みを帯びてきました。
フィナーレは堂々とした分厚い響きできかせるもの。特に低音弦の厚みが効いて迫力十分。この小交響曲の魅力を十分に活かした演奏でした。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
すこし時代が下って、シュトルム・ウント・ドラング期の交響曲。この曲もオケの力感が素晴らしく、素晴らしい録音でオケが自宅にやってきたよう。演奏には力感が漲り、グイグイと攻めてきます。曲も全2曲よりも引き締まっていて、この時代のハイドンの充実した筆致が演奏の勢いに乗り移っています。テンポの変化こそ少ないものの、カラフルなオケの魅力は変わらず、力強いメロディーがほんのりと色づいて聴こえて響きを華やかにしています。
つづくアンダンテは1楽章のエネルギーを冷ますようにしっとりとした音楽。オケも緊張感が途切れず、充実した演奏。ゆったりとした流れの中で穏やかに変化を聴かせるコントロール。
メヌエットは迫力満点。まるで大オーケストラの演奏のように力が漲った演奏。中間部のソロで勢いを変化させるものの、両端部分は図太い響きの迫力で一貫して押してくるため、ちょっと一本調子な印象も感じなくはありません。
そしてフィナーレも正攻法の迫力で押してくる演奏。オケも見事に応えて、曲をまとめます。

飯森範親と日本センチュリー交響楽団のハイドンマラソンという交響曲全曲の演奏会の第1回のコンサートのもようを収めたライブ盤。事前の印象どおり、ライヴとは思えない精度の高い演奏で、ハイドンの交響曲の演奏としては素晴らしいものでした。演奏は日本人らしい正攻法で磨き上げた演奏でオケも精度の高い演奏で非常に高レベルな仕上がりです。若干気になるのは、演奏スタイルのせいか、録音のせいかは判然としないのですが、ハイドンの初期の交響曲の演奏としては、ちょっと力感重視に寄っているところ。特に35番の分厚いオケの響きは、まるでベートーヴェンの演奏のように聴こえるところもあります。ハイドンの初期の交響曲の面白さは次々と変化するアイデアにあふれた曲想の変化をどう表現するかにあります。どちらかというとこの演奏スタイルはハイドンであればザロモンセットなど後期のものに会うスタイルかもしれませんね。このアルバムに収められた3曲の中では真ん中の17番はこのコンビの一番いいところが出ていて深みを感じさせるいい演奏でした。ということで評価は17番が[+++++]、他2曲は[++++]としました。

このプロジェクト、オーケストラのウェブサイトをみると、コンサートの方はすで6回ほど行われていて、アルバムの方もリリースされていくものと思われます。続くリリースも期待して待ちたいと思います。

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tag : 交響曲17番 交響曲35番 ライヴ録音 SACD

【新着】佐渡裕/トーンキュンストラー管の朝、昼、晩(ハイドン)

最近LPや古い録音ばかり取り上げていますが、新譜にも気になるアルバムがないわけではありません。

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佐渡裕(Yutaka Sado)指揮のトーンキュンストラー管弦楽団(Tonkünstler-Orchester)の演奏で、ハイドンの交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」の3曲を収めたアルバム。収録は2015年10月から2016年5月にかけて、ウィーンのムジークフェラインでのライヴ。レーベルはトーンキュンストラー管の自主制作レーベル。

佐渡裕のハイドンはもちろん初めて聴きます。いつものようにWikipedeiaなどから略歴をさらっておきます。1961年京都生まれと、私と同世代。京都市立芸術大学フルート科を卒業。ブラスバンドや関西二期会の副指揮者をへて小澤征爾、レナード・バーンスタインに師事します。その後ヨーロッパに渡りバーンスタインに師事しながら1989年にブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し指揮者としてデビューしました。その後多くのオケに客演して経験を積み、2002年に日本のシエナ・ウィンド・オーケストラの音楽監督、西宮の兵庫県芸術文化センターの建設にともない兵庫県芸術文化協会芸術監督に就任、そして2015年10月から今日取り上げるアルバムのオケであるトーンキュンストラー管弦楽団の首席指揮者に就任しています。特に日本では日曜朝に放送している題名のない音楽会の司会者として同じみですね。また2011年にはベルリンフィルの定期に登場した際の模様も放送されました。

皆さんもそうでしょうが、佐渡裕がハイドンを振るイメージはないのですが、トーンキュスンストラー管の自主制作アルバムの第2弾にハイドン、しかも「朝」「昼」「晩」と質実なところを持ってきたのはちょっと驚きでした。ベルリンフィルの定期でも、汗だくになりながらオケから強烈な響きを絞り出すように鳴らす姿が印象に残っていますので、ハイドンの小規模な交響曲を振るイメージは全くありません。そこにこのアルバムということで、逆に興味深いアルバムと言うのが正直なところ。ということで早速聴いてみましたが、これはこれまでの佐渡裕のイメージを払拭する整然とした名演でした。

Hob.I:6 Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
ムジークフェラインだからか、オケの響きの厚みと溶け合い方が見事。ライブですが会場のノイズはまったく聴こえず、ノイズ除去に伴う定位感の乱れもありません。実に見事な録音。オーソドックスなテンポに乗って品のいいアクセントを伴いリズムが躍動。デュナーミクの変化もしっかりつけてメリハリも充分。何より一貫して爽やかさを保って1楽章から見事。
続くアダージョはソロが活躍する楽章ですが、オケの美音に包まれながらヴァイオリンソロの自在なフレージングはまるで草原を飛び回る蝶のごとく自在。相変わらずリズムが清々しく、このリズムが基調にあることで非常に爽やかな印象。オケも非常にリラックスして、ノンヴィブラート気味の透明感溢れる響きと相まって実に穏やかな音楽が流れます。弱音の扱いも見事。
そして、さらに見事なのがメヌエット。実に自然で堂々とした入りにづづいてフルートの美音に耳を奪われます。自身がフルート奏者出身だからか、フルートと木管楽器のコントロールは特に見事。中間部で一旦曲調が変わる所の一瞬の変化の鮮やかさは音楽の気配までコントロールしているよう。しなやかなコントラバスのソロも効果的。各パートがイキイキとメロディーを重ねていくことでハイドンの音楽の見事な綾が輝きます。再び現れるメヌエットのメロディーは力が抜けて余裕たっぷり。
フィナーレも力むことなくよく抑制を効かせながらリズミカルにハイドンの音楽をトレースしていきます。ヴァイオリンのメロディーに耳を奪われがちですが、副旋律を担当するフルートや他の楽器の抑揚のついた演奏も素晴らしく結果的に豊かな音楽を作っていきます。いやいや、ここまでハイドンの音楽に集中してくるとは思いませんでした。会場からは暖かい拍手が降り注ぎます。これは見事!

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
テミルカーノフの秀演で俄然注目するようになった「昼」。前曲の出来から悪かろうはずもなく、安心して耳を傾けます。相変わらずのムジークフェラインでの素晴らしい響き。録音上はウィーンフィルよりも美しく聴こえます。豊かな響き、規律正しく躍動するリズム、フレーズ毎にしなやかに迫りくる迫力、穏やかな表情付けと非の打ち所がありません。極上の心地よい音楽に身を任せます。ヴァイオリンも木管群も最高。佐渡裕もリラックスして指揮を楽しんでいるよう。この曲ではホルンの柔らかい音色がさらに印象的に加わります。
ハイドン渾身の音楽と気づいた昼の2楽章。もちろんここでも手を抜くはずもなく、劇的な展開を古典の規律の範囲で豊かにまとめてきます。素晴らしい緊張感を保ちながら美しすぎる音楽を織り上げていきます。ヴァイオリンもチェロもフルートも最高。終盤のソロの掛け合いも遊び心を高度に昇華させたやりとりが素晴らしいですね。
メヌエットでは低音弦がリズムの軽やかさを保ったまま迫力たっぷりの響きを聴かせます。中間部のコントラバスの活躍する場面はぐっとテンポを落として絶妙な語り口。さらりと寄り添うホルンも絶妙なテクニック。
フィナーレはこれまでの見事な演奏の総決算。佐渡裕もスロットルを巧みにコントロールして、オケを束ね、ハイドンのアイデアの結集した音楽をまとめます。昼のコミカルな側面にスポットライトを当てた名演出でした。

Hob.I:8 Symphony No.8 "Le soir" 「晩」 [G] (1761?)
「朝」も「昼」も絶妙の演奏が続いたので、安心して「晩」に入れます。もちろんこれまでの見事な演奏と同様の素晴らしさ。コミカルなメロディーが転調して展開していく推移の面白さは尋常ではありません。吹け上がりの良いオケが軽々と響く痛快さ。短い1楽章も聴きどころ十分。
晩の聴きどころといえば続くアンダンテでしょう。美しいメロディーと静けさが同居する至福の時間。2本のヴァイオリンの磨かれたメロディーに深みのあるチェロとファゴットが応じ、十分に間をとって音楽がしっとりと進みます。
アンダンテの安らぎを断ち切るように柔らかくも直裁な響きで入るメヌエット。楽章間の転換の見事さもこの演奏の特徴でしょう。ちょっとしたセンスが重要なんですね。トリオは再びコントラバスの聴かせどころ。今度は敢えて鈍い感じを意図したのでしょう、曲に応じて見事な語り口の使い分け。再びメヌエットに戻ると、今度は適度に躍動させます。
そして締めくくりのフィナーレ。どうしてこのようなメロディーが浮かんでくるのかわからないほど入り組んだ構成とメロディーに釘付け。佐渡裕の鮮やかな手腕でハイドンの創意が見事に音になっていきます。最後はキレよく終了。もちろんこの大人のハイドンに聴衆から暖かい拍手が降り注ぎました。

いい意味で予想を完全に覆す超名演盤でした。佐渡裕が新たに首席指揮者に就任後、オケの自主制作レーベルの第二弾としてリリースされたこのアルバム。そこにハイドン、しかも初期の「朝」「昼」「晩」という質素な名曲を選んだ理由がわかりました。佐渡裕さん、ハイドンの交響曲の演奏のツボを完全に掌握していました。一流の料理人が作った親子丼のように、きっちり親子丼ですが、味の深さ、素材の活かし方、バランス、食後の余韻まで並みの親子丼とは次元の異なる味わい深さ。なのに親子丼としての素朴さを失っていない名人芸。ホールを鳴らしきるような迫力の演奏もできる腕力を封印し、ハイドンのこの粋な交響曲のまさに「粋」たる部分をしっかり表現した名演奏と言っていいでしょう。録音は万人が想像するムジークフェラインの黄金のとろけるような響きを捉えて完璧。現代楽器による「朝」「昼」「晩」の入門盤でかつ決定盤と断じます。もちろん評価は全曲「+++++]。全ての人に聴いていただきたい素晴らしいアルバムです。

これは是非、さらなるハイドンの録音を期待したいところですね!(佐渡さん本人は見ていないでしょうね〜)

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ディノ・チアーニのピアノソナタXVI:52ライヴ(ハイドン)

今日もヒストリカルなアルバム。

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ディノ・チアーニ(Dino Ciani)の演奏を6枚のCDにまとめたトリビュートアルバム。この中にハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:52)のライヴが含まれています。ハイドンの収録は1966年2月12日、イタリアのジェノヴァ近郊の港町、ラパッロ(Rapallo)でのライヴ。レーベルは伊DYNAMIC。

ピアノファンの方には怒られそうですが、ディノ・チアーニについては今まで知りませんでした。今回ハイドンの演奏が含まれているということと、ちょっとだだならぬアルバムの雰囲気にピンときて注文した次第ですが、アルバムが到着して色々調べてみると、このディノ・チアーニという人、凄い人でした。

ディノ・チアーニは1941年生まれのイタリアのピアニスト。Wikipediaなどによれば、生まれはアドリア海沿いのイタリアの街、トリエステのすぐ南にある、現クロアチア領のフィウメ(Fiume)。イタリアのジェノヴァでピアノを学び、その後ローマの音楽学校でアルフレッド・コルトーの上級クラスに進み、コルトーから不世出の奇才と称えられたとのこと。1961年にはブダペストのリスト=バルトーク・コンクールで準優勝となり、以後は世界的に活躍しましたが、32歳のとき交通事故で急逝してしまいました。ピアノ愛好家からはチアーニが健在だったらポリーニの現在の地位は危うかったであろうとか、ミケランジェリを脅かす存在とかと言われているとのこと。夭逝の演奏家といえば、リパッティ、デニス・ブレイン、ユーリ・エゴロフなどが知られていると思いますが、彼らと同じオーラを感じますね。

肝心の演奏はどうでしょう。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
音質は年代なりで、響きの良いホールでの演奏を少し遠くから録ったもの。冒頭からテンポよくキレのいい溌剌とした演奏。ライヴなのでちょっとしたタッチの乱れなどありますが、演奏はエネルギーに満ち、オーラのようなものが漂います。高音がクリアにキレてメロディーラインが輝くあたり、只者ではありません。展開部に入るところでスロットルを一気にしぼって極端に力を抜くあたり、はっとさせられる演出に才能を感じます。曲の構造を見切っての見事な構成。ライヴでのこの確かな設計、細かいところではなく大局をみての演奏と納得させられます。1楽章はやはり流石の出来といっていいでしょう。
つづくアダージョは弾き流すようなくだけた表情の演奏。ピアノの強固な響きの美しさで聴かせる演奏が多い中、キレのいい1楽章のほとぼりを冷ますようにサラサラと進め、ところどころにデフォルメ気味のアクセントをあしらってメリハリをつけることで個性を主張します。この独特の演奏から醸し出される表情は他の演奏とは異なる曲の表情に気づかせてくれます。くだけているのに俊敏な不思議な感覚。
フィナーレは速いパッセージが続きますが、クッキリとした表情を保っているのは確かなテクニックを持っている証拠。グールドとは異なりますが、独特の固い響きにはグールドのような人を寄せ付けないオーラのようなものを感じさせます。大胆なテンポの変化、透徹した響きの魅力、冴え渡るタッチなど、そこここに天才の片鱗を感じさせる演奏でした。最後は拍手も録音されています。

このあとにモーツァルトのファンタジア(K.475)、ハ短調ソナタ(K.457)が続きますが、録音がデッドでクリアにガラッとかわり、なかなかいいコンディションの録音でモーツァルトが楽しめます。

ポリーニやミケランジェリと比較される夭逝のピアニスト、ディノ・チアーニによるハイドンのピアノソナタの貴重な録音。くっきりとクリアにキレたタッチ、速いパッセージに宿るエネルギー、鳥肌がたつような弱音への変化、そして全体を見通した見事な構成感、長生きしていれば、おそらく現代を代表するピアニストとして活躍していただろうことは想像に難くありません。この一曲だけからでも、その才能はつたわります。アルバム自体にはハイドン以外の演奏もいろいろ含まれており、いろいろ楽しめるものですので、興味のある方は是非手に入れて才能を直接感じてください。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : ピアノソナタXVI:52 ヒストリカル ライヴ録音

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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Joseph Haydn Discography at H. R. A.
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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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