オットー・クレンペラーの定番「軍隊」(ハイドン)

たまにはメジャーなアルバムを取り上げないと読者の裾野が広がりませんね。

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オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」、104番「ロンドン」の2曲を収めたLP。収録は軍隊が1965年10月20日から25日、ロンドンが1964年10月14日から16日、いずれもロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルは独EMI Electrola。

この演奏ですが、手元にはCDもあり、ロンドンの方はCDでレビューしています。

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手元にあるこのCDはすでに現役盤ではありません。

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こちらがハイドンの交響曲集ですが、こちらも現役盤ではなく、、、

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現在はバッハやヘンデルの曲も含めて8枚組としてパッケージされたこちらが現役盤です。

さて、今日わざわざこれまでリリースされたアルバムを並べたのは、古くから定評あるクレンペラーの軍隊が、ずっと聴いて来てきた手元にあるCDでは、もう一つ吹っ切れない印象を持っていたのが、最近手に入れたLPを聴いて、ようやく吹っ切れたということが言いたかったからです。つまり手元の古いCDのマスタリングが今ひとつだったではないかとの確信に至ったからです。

実は同じような体験を、カルロス・クライバーの振る椿姫でも感じたことがあります。最初に手に入れたのはCDでしたが、安定感はあるものの曇ったようなぼやけた響きからは、さしたる感動はつたわらなかったものの、偶然手に入れたLPを聴いてびっくり。クライバー特有の地の底から天上に湧き上がるような、あのエクスタシーが弾け散るではありませんか! 

2013/04/05 : オーディオ : LPを聴く楽しみ

今回のクレンペラーの軍隊も、LPを手に入れて初めてこの演奏の真価に触れた気がします。ついでながらこれまでにレビューしたクレンペラーの演奏もさらっておきましょう。

2014/04/10 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管の「オックスフォード」、「ロンドン」(ハイドン)
2010/12/28 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の88番
2010/10/29 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーのトリノの時計
2010/10/26 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーの時計

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
CDで聴くとゆったりとした低音をベースに程よい解像度でオケがゆったりと響きます。クレンペラーらしく一貫したテンポでゆったり大股で風を切って歩くような入りです。LPでは響きの立体感がさらに上がり、クッキリとした表情となにより空気感のようなものが違い、曲が進むにつれ、強音の吹き上がりにゾクゾクします。特にヴァイオリンのボウイングのキレが印象的。CDで感じた雄大な印象よりも精緻さが勝り、カッチリクッキリとした一貫した表情の方の印象が勝ります。1楽章はもはや精緻な迫力による怒涛の演奏。
軍隊の聴きどころの2楽章のアンダンテ。実にオーソドックスな演奏であり、耳を澄ますと演奏に少々ばらつきはありますが、なにか巨大な意思の存在を思わせる一貫性によって不気味な迫力を帯びてきます。小細工なしにグイグイと迫力が増していきます。トライアングルでしょうか、金属の鳴り物が恐ろしくリアルに響くのもLPならでは。アビーロードスタジオに満ちる響き。殺気すら感じるアタックの連続に痺れます。雄大なクレンペラーの魔術が効いてきました。
さらに素晴らしいのが続くメヌエット。LPという媒体の無限の表現力に圧倒されます。非常に状態の良いLPだったのでキレ味も最高。聴き慣れたメロディーが実に新鮮に響きます。50年以上前の録音なのに朝採れ野菜のような水々しさ!ヴァイオリンと木管楽器の響きの美しさに聴き惚れます。
そして曲を結ぶフィナーレ。LPの内周にもかかわらずクォリティは悪くありません。弦楽器が高いテンションで揺るぎ無くたたみかけてくる迫力は別格。流石に定評ある演奏と納得です。鮮明な響きに打たれ続ける快感に酔いしれます。生演奏の迫力とは異なるのですが、これがレコードを聴く楽しみというもの。最後のパーカッション総出演のクライマックスは険しい表情のクレンペラーの真骨頂。クライバーの恍惚とした爆発とは全く異なるものの、睨みを利かせたクレンペラーのオーラが針をつたわってスピーカーから噴出。絶品です。

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クレンペラーの軍隊の素晴らしさをリアルタイムに味わった方はもちろんLPを通してのことでしょう。年齢的には私より上の世代の方々はフルトヴェングラー、ワルター、クレンペラー全盛期にLPで音楽に親しんだ世代。今回このLPを聴いて、あらためて時代の空気に触れたような気になりました。LPもCDももちろんソースとなる録音は同一ながら、マスターテープの状態やマスタリング、媒体のコンディションなどさまさまなものの影響を受けて最終的に我々の耳に届きます。そこで残ったもののバランスが音楽の聴かせどころに大きな影響があるような気がします。LPで聴くクレンペラーの軍隊には、CDで聴くものからは感じられなかった時代の空気やクレンペラーのオーラが詰まっていました。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
裏面のロンドンも同様。ミントコンディションのLPの素晴らしい響きに聴き惚れました。

昨今のLP復興はこうした体験をした多くの方の喜びに支えられているのでしょう。評価は両曲とも[+++++]です。

※現役盤の8枚組のCD、その前の3枚組のCDは手元になく聴いていません。私の手元のCDとは音質が異なる可能性があることをお含みおきください。

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tag : ロンドン 軍隊 ヒストリカル LP

クルト・ザンデルリンク/ドレスデン・シュターツカペレの告別、ロンドン(ハイドン)

先日カワサキヤさんにコメントをいただき、その存在を知ったLPですが、幸いオークションですぐに手に入れることができました。

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クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮のドレスデン・シュターツカペレの演奏で、ハイドンの交響曲45番「告別」、104番「ロンドン」の2曲を収めたLP。収録は1967年5月19日、ドレスデンのルカ教会でのセッション録音です。レーベルはDeutsche Grammophoneの日本盤。

カワサキヤさんのコメントのとおり、クルト・ザンデルリンクのハイドンといえば、ベルリン響を振ったパリセットが有名であり、私も昔から愛聴しているアルバムです。その他ザンデルリンクのハイドンはライヴを中心にいろいろとアルバムがリリースされており、当ブログでもこれまで結構な回数取り上げています。

2013/09/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの「驚愕」ライヴ2種
2013/02/16 : ハイドン–交響曲 : ザンデルリンク/読響の「熊」1990年サントリーホールライヴ
2012/11/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン交響楽団の王妃、86番
2012/06/30 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ザンデルリンク/スウェーデン放送交響楽団の39番ライヴ
2010/11/04 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルの熊ライヴ
2010/06/18 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの86番

ザンデルリンクのハイドンの交響曲は、パリセットに代表されるように、堅実なテンポに乗って、適度な覇気と、適度なメリハリ、そして揺るぎない古典の秩序を感じさせるもの。ハイドン交響曲の理想的な演奏といっていいでしょう。そのザンデルリンクが、いぶし銀の音色をもつドレスデン・シュターツカペレを振った、告別とロンドンのセッション録音ということで、弥が上にも期待が高まります。

いつものようにVPIのレコードクリーナーと美顔ブラシで丹念にクリーニングしてから、やおらプレーヤーに乗せ、針を落とします。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
いきなり燻らせたような渋い響きのドレスデン・シュターツカペレの音色にはっとさせられます。LPの状態は非常によく、ノイズレス。ザンデルリンクらしいバランスを保った上での適度な推進力に心躍ります。徐々にオケに力が満ちていき、劇的な曲想の1楽章に適度な隈取りを与え、軽い陶酔感に至ります。冒頭からバランスの良さに酔います。
つづくアダージョは弱音器付きの弦楽器と木管のしっとりとしたアンサンブルで穏やかにメロディーを奏で、絶妙な翳りを聴かせます。要所でテンポをスッと落として余韻を楽しませながら、ゆったりと音楽を進めます。とろけるように音を重ねるホルンが印象的。
メヌエットも実にしっとりと進めます。力みなく、どこも尖らず、リズムも溜めず、完璧なバランスでゆったりと進む音楽。ルカ教会に響きわたるホルンの余韻の実に美しいこと。さりげない演奏に見えても、デュナーミクのコントロールは実に巧みで、細かい表現の積み重ねで到達した至芸というところ。
そしてフィナーレの前半は適度な喧騒感を催させ、後半への対比をしっかりと印象付けます。微妙な早足感が絶妙な効果。そして奏者が一人ずつ去るアダージョ。なんという癒しに満ちた音楽。深い祈りのような柔らかさに包まれます。ドレスデン・シュターツカペレの燻らしたような音色による素晴らしいメロディーが、少しずつ細くなっていきます。ハイドンの天才を思い知らされる美しすぎる瞬間。最後は室内楽のような純粋な響きに昇華し、静寂に音楽が吸い込まれます。なんという美しさ。絶品です。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
一転して図太い響きがルカ教会に満ちます。ハイドンの最後の交響曲の堂々とした大伽藍が見えたと思うと、ゆったりと音量をコントロールして余韻を楽しませ、再び号砲が轟きます。このあたりの自然さを巧みな演出で聴かせるのはザンデルリンクならでは。力感ではなく演出で浮かび上がる素晴らしいスケール感。一貫してゆったりとしているで、音楽は壮大極まりない、まるで大山脈を遠望するよう。小細工なし、派手な演出もなしながら、大きくうねり盛り上がる曲想。あまりに揺るぎない構築感と説得力に圧倒されます。ロンドンの1楽章の理想的な演奏と言っていいでしょう。
アンダンテもゆったりした流れを引きつぎ、こちらは蛇行する大河の流れのよう。自然ながら巧みにテンポをコントロールして陰影を深く刻み、曲の立体感を保っているのが素晴らしいところ。呼吸の自然さが全ての流れをまとめているよう。
メヌエットももちろん雄大。これが王道の演奏なのでしょう。彫りが深くしっかりとリズムを刻み、要所でメリハリをつけた理想的な演奏。
そしてクライマックスのフィナーレ。入りのしなやかな和音から雰囲気満点。穏やかに緩急、動静を繰り返しながら徐々に盛り上がっていきます。つなぎの部分の柔かさが険しさを引き立て、一貫したテンポが雄大さを際立たせる高度なバランスの上に成り立つクライマックス。最後はドレスデン・シュターツカペレのいぶし銀の響きが振り切れて終了。

いやいや素晴らしい演奏でした。ルカ教会での残響の多い録音ゆえ、鮮度に欠けるきらいはあるものの、そうした響きからでもつたわってくる、この素晴らしい完成度は並のものではありません。この録音がなぜCD化されないか理解に苦しみますね。まさにハイドンの交響曲の理想像といていい演奏だと思います。演奏のスタイルは新しいものではありませんが、これが古さを感じるといえば、全くそうではなく、まさに普遍的な魅力を保ち続けるものと言っていいでしょう。絶品です。もちろん評価は両曲共[+++++]とします。

カワサキヤさん、素晴らしいアルバムの情報をいただきありがとうございました!

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tag : ロンドン 告別 LP

アルコ・バレーノによる室内楽版「時計」、99番、「ロンドン」(ハイドン)

またしても湖国JHさんから送り込まれた渋めのアルバムにハマりました。好みが枯れてきています(笑) 

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アルコ・バレーノ(Arco Baleno)による、ペーター・ザロモン(Peter Salomon)編曲の室内楽版の交響曲101番「時計」、99番、104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。収録は2003年8月11日、12日、15日、ベルギーのブリュージュにある聖ジャイルズ教会(Sint-Gilliskerk)でのライヴ。レーベルは蘭ET'CETERA。

ペーター・ザロモンといえば、ハイドンをロンドンに招き、一連のザロモンコンサートを開催した興行主。ハイドンはこのコンサートのために交響曲93番から104番までの12曲の交響曲を作曲し、ロンドンで演奏したことはハイドン愛好家の皆さんならご存知のことと思います。もちろんこの12曲の交響曲がザロモン・セットと呼ばれるのもそのため。そのザロモンはハイドンと1795年、96年に6曲づつの契約を交わし、自分のコンサートで自由に演奏できる権利の他、編曲できる権利なども手に入れ、ロンドンでのハイドンの絶大な人気にあやかって、先の12曲の交響曲をフルート、フォルテピアノ、弦楽四重奏という構成の室内楽に編曲したものを出版し、一般の音楽愛好家に広く演奏されるようになったとのこと。

手元にはこのザロモン版の交響曲の録音が何種かありますが、いずれも元の雄大な交響曲のイメージの縮小版的演奏で、いまひとつ室内楽で演奏する魅力が伝わりきらないきらいがありましたが、このアルコ・バレーノの演奏は、編成が縮小されたことで音楽の純度が濃くなり、各フレーズ、メロディーがイキイキとして、これぞ室内楽の喜びといえるレベルまで研ぎ澄まされています。しかも耳が鋭敏になっている分、室内楽の範囲でのダイナミクスをフルに使ってフル編成のオケとは全く異なるスケール感を得ています。

奏者のアルコ・バレーノは1993年、フランドル地方の音楽大学出身者で結成された室内楽団。アルコ・バレーノとはイタリア語で虹の意。なぜかアルバムにもサイトにもメンバーの個人名は記されていません。個人ではなくアンサンブルとしての団結を大事にしているのでしょうか。

Arco Baleno

ライナーノーツに掲載された写真と、ウェブサイトに写っているメンバーは同じですが、その中のチェロのStefaan Craeynestが2014年9月に亡くなっているようです。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
聴き慣れた時計の序奏のメロディーですが、フルートと弦楽四重奏の純度の高い響きで、まるでオーケストラの音の型紙をとったように響きます。フォルテピアノが雅な響きを加えてオーケストラとは異なる彩。そして主題が始まった途端、様相が一変。オーケストラを上回る鮮やかな推進力で音楽が弾む弾む。この多彩な表情がアルコ・バレーノの演奏の魅力でしょう。室内楽版の編成の小ささを逆に生かして、室内楽的機敏なアンサンブルの魅力全開。1楽章の終盤に至る盛り上がりも音量ではなくアンサンブルの緊張感で表現する素晴らしいもの。一気に演奏に引き込まれます。
さらに素晴らしかったのが、続くアンダンテ。ヴァイオリンが奏でる時計のメロディーの実に艶やかなこと。弦楽器のピチカートが刻むリズムに乗って伸び伸びとヴァイオリンが歌います。途中から加わるフルートのキレの良いタンギングも最高。多彩な音色の変化にアクセントもキリリと効いて原曲以上の面白さ。演奏によってこれほどこの室内楽版が面白く響くとは。このアンダンテは絶品です。
ちょっとスケール感に欠ける印象を持つと思ったメヌエットも逆にキレの良さと鮮度の高い響きでまったくそんな印象を感じさせません。ハイドンが書いたもともとのメロディーの面白さがオーケストラよりもうまく表現できていて、こちらの方がいいくらい。もちろんアンサンブルのそれぞれのパートの息がピタリとあって音楽に統一感があります。指揮者のいないアンサンブルにありがちな平板さは微塵もなく、まるで一人がコントロールしているような音楽の完成度。
耳が慣れたのか、フィナーレは大迫力に聴こえます。畳み掛けるアンサンブル。そして終盤に向けて素晴らしいエネルギーの充実。あまりの素晴らしさに圧倒されます。迫力とは音量ではないと思い知ります。1楽章と終楽章の見事な構成感、アンダンテの楽興、メヌエットのエネルギーが完璧に表現されています。時計という曲の真髄を突く驚きの名演。

Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)
好きな99番。冒頭の柔らかいハーモニーから完璧に響きます。すでにアルコ・バレーノの音楽に完全にハマっていますので、冒頭からこの99番の室内楽なのにゆったりとした流れにどっぷりつかります。フルートとフォルテピアノが実にいい響きを加えます。脳内ではオーケストラ版の雄大な序奏のイメージがチラつかなくもありませんが、研ぎ澄まされた響きにすぐに慣れます。そして主題以降は実に快活。この切り替えの鮮やかさも聴きどころ。各パートが鮮明に聴こえる分、音楽の面白さも倍増。1楽章のクライマックスに向けての盛り上がりもスリリングで、緩急による実にしっかりとした構成感の演出も出色。
美しいメロディーの宝庫のアダージョは、まさに至福の時間。オーケストラではないのに悠然とした大河の流れのようなうねりが感じられるのが素晴らしいところ。この室内楽版を演奏しながら、交響曲の素晴らしいメロディーを想像していた当時の音楽愛好家の気持ちが味わえます。
そして前曲同様小気味よくキレるメヌエットを経て、ハイドンの交響曲の最も特徴的なフィナーレの緊密な高揚感を実に巧みに演出していきます。交響曲の縮小版と感じさせないくっきりとした表情の魅力を保ち、グイグイ攻め込んで盛り上げていくあたりは流石。この99番も見事でした。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
そして、もともと雄大な曲想のロンドンですが、本当に耳が慣れてきたのか、この曲でも小編成なのに音楽にはスケール感が宿り、大迫力に聴こえます。オーケストラ版でも妙に力の入った演奏では逆に力みが耳につくように、スケール感、雄大さというものが力任せでは表現できないということの証のような演奏。室内楽版とはいえ耳に聴こえるダイナミックレンジはかなりのもの。抑えた表現の巧みさが迫力のポイントですね。
続くアンダンテは、前2曲の美しさの限りを尽くした楽章とは少し構成が異なり、1楽章の興奮の箸休め的な印象をうまく表現して、ある意味淡々とした音楽にしています。中間部の盛り上がりで聴かせたあとは、再び淡々とした音楽に戻ります。
そしてメヌエットはこの曲独特の陶酔感のようなものを聴きどころに置いてきました。
最後の雄大なフィナーレは、速めのテンポでクライマックスに至る過程をくっきりと描きながら、あらん限りの緩急、ダイナミクスを駆使して盛り上げます。最後の陶酔の限りを尽くした曲想の盛り上がりは不思議とオーケストラよりもキレの良さを感じさせるほど。最後に万雷の拍手に迎えられて、ライヴ収録であったことを思い出したほど。素晴らしい演奏でした。

今まで室内楽版のザロモンセットというと、ちょっと際物扱いしていたのが正直なところですが、このアルコ・バレーノ盤を聴いて、これは室内楽愛好家には宝物のようなものであるとようやくわかりました。小さな編成でもこれだけの迫力、音楽の魅力が表現でき、大編成のオーケストラにも勝るとも劣らない魅力をもつことができるということを再認識いたしました。まるで、クラヴィコードの魅力を知った時のような衝撃を受けた次第。もちろん全曲[+++++]とします。

アルコ・バレーノの交響曲の演奏にはもう一枚のアルバムがあり、こちらも早速注文を入れました。毎度湖国JHさんの送り込まれるアルバムには脱帽です。

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tag : 時計 ロンドン 交響曲99番

【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの102番、太鼓連打、ロンドン(ハイドン)

室内楽にどっぷりとはまろうと思っていた矢先に届いたアルバム。

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ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの交響曲102番、103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」の3曲を収めたSACD。収録は2013年2月16日、2014年3月23日の両日、ドイツ、エッセンにあるエッセン・フィルハーモニーのアルフレッド・クルップホールでのライヴ。レーベルは独Ars Production。

ブルーノ・ヴァイルとカペラ・コロニエンシスによるハイドンのザロモンセットの録音の4枚目、このシリーズの最後を飾る1枚です。ブルーノ・ヴァイルは手兵、ターフェル・ムジークとの交響曲やミサ曲、天地創造の録音があり、ハイドンの作品を古楽器オケで演奏したアルバムでは注目すべき存在でした。ターフェル・ムジークとの演奏はヴァイルの闊達なコントロールが聴きどころで、私もかなり高く評価していますが、その後、カペラ・コロニエンシスと組んでのこのザロモンセットのシリーズは、ターフェル・ムジークとの演奏と比べてしまっているからか、いまひとつキレを期待してしまうところがあり、ちょっとふっ切れない印象のものが多かったのが正直なところ。そのあたりは、過去の記事をご参照いただければわかるとおりです。

2013/12/17 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの交響曲99番、時計、軍隊(ハイドン)
2013/05/09 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル/ターフェルムジークの86番
2012/08/11 : ハイドン–管弦楽曲 : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/01/24 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの四季
2011/08/14 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番4】ブルーノ・ヴァイルのテレジアミサ、ネルソンミサ
2011/01/10 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイルの天地創造
2010/12/25 : ハイドン–交響曲 : 【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番
2010/03/08 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへ

そのヴァイルのザロモンセットの締めくくりとなるアルバムがリリースされ、届いたということで、期待を込めて取り上げる次第。軍隊などを含む前のアルバムを取り上げたのが2013年の12月と2年前。久々のリリースでようやく完結しました。

ヴァイルの演奏に対する私の視点はこのシリーズの1枚目を取り上げた一番最後のブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへという記事に触れてあります。ハイドンの交響曲録音では、トーマス・ファイ、ギィ・ヴァン・ワース、ジョヴァンニ・アントニーニや、ニコラス・マギーガン、先日取り上げたロビン・ティチアーティらによる斬新な解釈による興味深いアルバムが次々とリリースされており、昔は斬新だったヴァイルも、ちょっと古めかしく感じられなくもありません。

Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)
非常に落ち着いた入り。古楽器ながら分厚い響きとスタティックな印象はブリュッヘンを思わせるもの。弦楽器群は地を這うような迫力を伴い、金管群は古楽器特有の鋭い音色ながら、こちらも分厚い響きで全般に迫力重視のコントロール。リズムはどっしりと安定し、最近の演奏の中ではかなり伝統的な部類の演奏。ただし、この102番の1楽章を堅実にがっちりと演奏することで、良い意味でこの曲の堅実な魅力が引き立ちます。
美しい響きが印象的なアダージョも、抜群の安定感でじんわりと曲の魅力がにじみ出てきます。どこかで斬新さを求めてしまう気持ちがある一方、このしなやかな迫力を帯びた堅実な演奏の魅力も捨てがたいと思う気持ちもあります。これまでヴァイルが切り開いてきた、古楽器によるハイドン演奏の角度がそういった気持ちにさせるのでしょうが、当の本人は我関せず、ハイドンの交響曲の魅力を虚心坦懐に表現しているだけかもしれませんね。
メヌエットでもスタイルは変えず、図太い響きと抜群の安定感で圧倒します。最近の多くの演奏が、鮮やかなリズムや、フレーズ毎の変化で楽しませてくれるので、メヌエットは若干単調に感じなくもありません。
そしてフィナーレに入ると、若干軽やかさに振れたあと、オケがフルパワーで炸裂。音楽のスタイルは終始一貫して、楽章ごとに力感のスロットルをコントロールしていきます。終楽章の迫力はかなりのもので102番の質実な起伏の変化を十分楽しめますが、ハイドンの交響曲にはもう少し違った楽しみもあるはずとの印象も残します。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
そんなに遠くないところで雷が鳴るような冒頭の太鼓。基本的にヴァイルのスタンスは変わらず、迫力重視の質実な演奏ですが、102番の時よりオケに色彩感があり、表現がしなやかに聴こえます。ほんの僅かなニュアンスの違いなんですが、この太鼓連打では、ソロとオケの対比の面白さ、ゆったりと落ち着いた曲の運び、パート間の音色の違いの面白さなどが印象的。前曲がモノクロのすこしラチュードの狭い写真だったのが、こちらは鮮やかとまでいかないまでもナチュラルなカラー写真のような印象。ほんの僅かな違いなのに不思議なものです。力の抜けた部分の存在がそう感じさせるような気がします。ヴァイルも演奏を楽しんでいるような余裕があるのがいいですね。
2楽章に入るとオケ全体に軽やかさが宿り、ライヴらしいノリも感じられます。フレーズごとの曲の描き分けも巧みでテンポも比較的速めに進めることで曲の面白さが際立ち、要所で迫力ある分厚いオケが威力を発揮するので、前曲の剛直な印象は皆無。これはいい。
このスタンスがメヌエットでも活きて、オケが反応よく響きます。結果的にオーソドックスなメヌエットの魅力が際立ち、適度な起伏とリズム感の面白さが前に出てきました。
フィナーレも入りの軽さから徐々に力感が漲っていくダイナミクスの変化は見事。軽さがあるから力感が際立つ好例。オケが軽やかに吹き上がる快感。適度に粗さもあるのがかえってライヴらしくていいですね。古楽器らしいホルンの音がなんとも言えずいい雰囲気。そしてティンパニ奏者が要所で煽る煽る。なかなか見事な演奏。これまで聴いたヴァイルのザロモンセットでは一番の出来です。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
最後のロンドン。102番のイメージの延長からもう少し堂々と来るかと思いきや、意外とあっさりとした序奏。これはこれで悪くありません。古楽器演奏らしいさっぱりとしたフレージングですが、響きは重厚で迫力十分。ロンドンの聴きなれたメロディーの垢が落とされて、新鮮に響きます。オケの吹き上がりはこのオケならでは。図太い低音をベースにしながら、次々とメロディーが展開していく面白さ。ヴァイルのスロットルコントロールがピタリとハマって、この名曲が実に新鮮に響きます。
アンダンテはかなり軽さを意識した入り。サラサラと進みます。1楽章の雄大さも抑え気味だっただけにこのサラサラ感で丁度いい対比がつきます。中間部はテンポを落とさずぐっと力を込めることで起伏を印象付けます。続くメヌエットも速めで非常に見通しの良い設計。オケもかなりリラックスして軽々とこなします。時折りキレの良い吹き上がりを見せ、聴きどころを作ります。中間の2つの楽章をかなりあっさりと流すことで、1楽章とフィナーレの面白さを際立たせようということでしょうか。
そしてフィナーレもさらりと入るのですが、なんとなく緊張感が違います。このあとの盛り上がりへの期待を煽るような気配があり、案の定、オケが徐々に迫力を帯びていきます。演奏によってはくどさを感じさせる終楽章ですが、そんな気配は微塵もなく、この堂々とした名曲を古楽器オケのオーセンティックな魅力でさらりとまとめ上げる手腕の見事さが印象的。人によってはちょっと物足りない印象を持つかもしれませんが、私にはこの響きと展開は新鮮で魅力的でした。最後はヴァイルが煽ってオケもそれに応えて爆発。拍手が入ってないのが惜しいところ。

ブルーノ・ヴァイルとカペラ・コロニエンシスによるハイドンのザロモンセットの締めくくりの1枚。冒頭の102番が固かったので、最初はあまりいい印象を持ちませんでしたが、続く太鼓連打は名演。そして最後のロンドンもこの曲の雄大さを新鮮に表現するこちらも名演ということで、締めくくりにふさわしい出来でした。ターフェル・ムジークとの闊達な魅力の印象が強かったヴァイルですが、カペラ・コロニエンシスとのこの1枚で新たな魅力がわかった気がします。評価は102番が[++++]、他2曲は[+++++]とします。

さて、ヴァイルは昨今のハイドンの新録音ブームの中、今後何をリリースしてくるでしょうか。パリセットの再録などはどうでしょうかね!

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tag : 交響曲102番 太鼓連打 ロンドン ライヴ録音 SACD

尾高忠明/オーケストラ・アンサンブル金沢の「ロンドン」ライヴ(ハイドン)

ひょんなことから手に入れたこのアルバム。聴いてみるとアルバムとしてなかなかの出来ですね。

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尾高忠明(Tadaaki Otaka)指揮のオーケストラ・アンサンブル金沢(Orchestra Ensemble Kanazawa)の演奏で、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」ほかを収めたアルバム。収録は2009年3月21日、金沢の石川県立音楽堂でのライヴ。レーベルはワーナー・ミュージック・ジャパン。

このアルバムは一夜のコンサートの模様をそのまま収めたもの。ハイドンのロンドンは最後に置かれ、その前に、パーセルの「ディドとエネアス」組曲、モーツァルトのピアノと管弦楽のためのロンド(K.382)、ブリテンのピアノ、弦楽四重奏と弦楽合奏のための「若きアポロ」(Op.16)、ディーリアスの「春を告げるカッコウを聴く」、「夏の夜に川面で」が置かれています。モーツァルトとブリテンの曲のピアノは小菅優。この日のコンサートのコンセプトまでは解説に書かれていませんが、どの曲もイギリスつながりのようです。直接イギリスと関係なさそうなモーツァルトのピアノと管弦楽のためのロンドは、イギリス旅行のあとに書かれたピアノ協奏曲5番(K.175)の第2楽章を置き換えるために書かれたものということで、合点がいきました。このようなイギリスつながりの曲を配したコンサートの最後にハイドンのロンドンが置かれること自体、なかなか通好みのプログラムです。

指揮者の尾高忠明は知らない人はいないでしょうが、ことハイドンの演奏という意味ではほとんど馴染みはありません。私は昔N響を振ったコンサートを聴いたことはありますが、残念ながら記憶もあまり残っておりません。おぼろげな記憶では日本人風の堅実な演奏をする人との印象のみです。ということで、コレクションにも尾高忠明の録音はなく、なんとこのアルバムが初めて手に入れた録音ということになります。

このアルバムを取り上げたのは、やはり演奏が良かったから。最初のパーセルから、モーツァルト、ブリテン、ディーリアスとじつに繊細かつ堅実な仕事。録音が非常に良いのも相まって、ハイドンを聴くまでにすでにこのアルバムの魅力にうっとりです。オーケストラ・アンサンブル金沢、略してOEKのアルバムも初めて聴きます。単なる地方のオケだろうと、ちょっと油断してましたが、演奏はかなりの精度。この録音を聴く限り、かなりの腕利き揃いと見ました。ジャケットに写る石川県立音楽堂も約1500席と小規模ながらサントリーホールと肩を並べるようなクラシック専用のホールで、ここの響きの美しさが録音にプラスになっているようです。特にモーツァルトとディーリアスはかなりいい感じ。ハイドンが権威主義的に感じるほどに、その前にリラックス。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
序奏は小編成のオケながら厚みを感じるほど充実したオケの響き。各楽器の存在が混濁なく鮮明に把握できる録音。迫力もあるの清透な響きを楽しめます。なんとなくディーリアスなどこれまでの曲のしなやかな佇まいは、このロンドンの堂々とした響きを際立たせるために配置されていたような気がします。オケの響きに脂っこいところがまったくないのに迫力と推進力がある不思議な印象。
アンダンテでも印象は変わらず、不思議に爽やかな響きに彩られた音楽が進みます。明らかにヨーロッパの奏者の音楽とは異なる和のテイストを感じます。アクセントは力強くオケの響きも充実しているのにどうしてそういう印象になるのか、いまひとつピンときませんが、メリハリがついていても基本的に淡白な音楽の造りだということでしょうか。
つづくメヌエットに入るとオケの充実した響きはかなりのもの。隙のない見事な演奏ですが、根底には清らかな和のテイストを感じてしまいます。和食がつづいて、ちょっと脂っこいものが恋しくなる時の気分と同じような印象(笑)
フィナーレまでくると、やはり締めも和でなくてはと開き直った心境になります。尾高忠明のオーケストラコントロールは緻密でかなりの精度ですが、ここまできてなんとなく感じたのはフレーズを歌わせるというところの入れ込みがあまりなく、ダイナミクスで聴かせるという音楽の造りが、独特の和風な印象につながっているのではないかということ。最後まで堂々、緻密な面にくらべて、躍動感や歌う感じがおとなしい印象でした。

このアルバムの聴きどころは、メインに据えられたハイドンではなく、パーセル、モーツァルト、ブリテンやディーリアスでしょう。華やかに響くモーツァルト、前衛の気風にあふれたブリテン、そして癒しに満ちたディーリアス、これらの曲の演奏では曲に素直に忠実に演奏していく尾高忠明の指揮が活きて、確かに曲の魅力を上手く引き出せているように感じます。ハイドンまでの曲と、ハイドンでの印象がかなり変わってしまいましたが、これはハイドンの音楽の演奏の難しさを表しているような気がします。ハイドンの曲に仕込まれた堂々として、時にユーモラスにも響くメロディーに命が吹き込まれてはじめて、魅力的に響くということがこの演奏からわかったような気がします。ハイドンの評価は[+++]としますが、このアルバムで、尾高忠明とオーケストラ・アンサンブル金沢の素晴らしさを発見できました。OEKには他にもハイドンの録音があるようなので、聴いてみたくなりました。

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tag : ロンドン ライヴ録音

【追悼】ホグウッド/AAMのロンドン、軍隊(ハイドン)

遅ればせながら追悼記事を。

去る9月24日、古楽器演奏を切り開いてきたクリストファー・ホグウッドが亡くなりました。今年に入って、アバド、マゼールなど名だたる指揮者が亡くなっていますが、ブリュッヘンの後を追うようにホグウッドまで亡くなるとは。ハイドンの演奏にも偉大な足跡を残してきた人だけに、その死が惜しまれます。

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HMV ONLINEicon(交響曲選集) / amazon(別装丁盤) / amazon(交響曲選集) / TOWER RECORDS(交響曲選集)

クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団(The Academy of Ancient Music)の演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」の2曲を収めたアルバム。収録は1983年9月、11月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはもちろんL'OISEAU-LYRE。

当ブログの読者の方ならご存知のとおり、ホグウッドのハイドンの交響曲集は全集を目指した丁寧な作りで続々とリリースされながらも、8合目あたりまで差し掛かった第10巻をリリースしたところでプロジェクトが中止になってしまいました。今日取り上げるアルバムは全集としてリリースされ始める前に、ザロモンセットの有名曲を2枚リリースしたうちの1枚。ホグウッドのハイドンとしては最初期の1983年の録音です。このロンドンと軍隊の他に驚愕と奇跡の録音があります。

このアルバムはジャケットもLP時代のL'OISEAU-LYREのイメージをそのままCDにした古いタイプのものですが、今見ると妙に雅な印象で懐かしい感じですね。私がこのアルバムを手に入れたのはかなり前で、おそらく1992年くらいだと記憶しています。当時確か第4巻から続々とリリースされはじめた交響曲全集の輸入盤をリリースされる度に手に入れ、舐めるように聴き入ったものですが、何巻か手に入れたあとにこのアルバムを入手。当時は初期の交響曲の面白さに開眼したばかりだったので、全集の方は興味深く聴いたものの、こちらのアルバムの方は当時は古楽器登場前のドラティやカラヤン/ウィーンフィルなどの古典的な演奏のイメージが強く、ホグウッドの繰り出すあまりにすっきりとした響きへの違和感が強くあまり楽しめなかった記憶があります。まだまだ耳が若かったわけです(笑)

今はオフィシャルにリリースされた75番までと、このロンドン、軍隊と驚愕、奇跡を合わせたものが交響曲選集として手に入るようになっているようですが、やはりリリースされた頃の古い体裁のアルバムの方に愛着があります。なんとなく時代の空気も一緒に詰まっているような気がして手放せません。

ホグウッドのハイドンでは私は協奏曲の伴奏を高く評価しており、交響曲については、ちょっと控えめな姿勢です(笑) これまでに取り上げた記事の一覧を貼っておきましょう。

2012/09/09 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMのアレルヤ、ホルン信号
2011/11/03 : コンサートレポート : 【サントリーホール25周年記念】ホグウッド/N響の第九
2011/06/08 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMの校長先生
2011/04/02 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンの大オルガンミサ
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンのチェチーリアミサ
2010/09/21 : ハイドン–協奏曲 : ホグウッドのトランペット協奏曲
2010/09/15 : ハイドン–協奏曲 : コワン/ホグウッドのチェロ協奏曲
2010/05/30 : ハイドン–交響曲 : 散歩の収穫、ホグウッド未発売盤

古くは同じL'OISEAU-LYREのプレストンのミサ曲のアルバムでオルガンを弾いているものもあり、それもなかなかいいのですが、私のお気に入りはトランペット協奏曲、オルガン協奏曲、ホルン協奏曲を収めたもの。とりわけオルガン協奏曲がスバラシイ! どの交響曲の演奏よりもオケに勢いというか生気があり、ホグウッド自身が弾くオルガンもキレてます。たまに取り出しては至福の陶酔感を味わっています。

そしてホグウッドは実演も2度聴いています。いずれもN響に客演した時で、最初は2009年9月にはにハイドンの「ロンドン」をメインとしたプログラム、そして上の記事にも書いた2011年11月のサントリーホール25周年の第九。ホグウッドがハイドンの交響曲を録音していた1980年代、90年代からずいぶんたって実演を聴き、交響曲演奏のころも萌芽があった新古典主義的諧謔性が音楽に活気を与えていたのが印象的でした。小刻みに体を縦に揺らしてオケを煽っていくホグウッドの姿が今も記憶に残っています。

ブリュッヘンやピノックらとともに古楽器演奏の潮流をつくり、ハイドンの演奏史にも偉大な足跡を残したホグウッドの、ハイドンの交響曲の演奏の原点たるこのアルバム、今聴き直すとどう感じるのでしょうか。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
このアルバムを聴いた時の驚きが蘇ります。古楽器独特のキリリとした響きによる序奏が轟きます。現代楽器の響きに慣れた耳に衝撃的に響くオーセンティックな音の塊。今は古楽器演奏は珍しくはありませんので、ホグウッドの溜めのない直裁なフレージングに違和感はありませんが、当時はモーツァルトの交響曲とともにホグウッドの演奏で古楽器の時代のはじまる息吹を浴びたのを懐かしく思い出します。速めのテンポでグイグイではなくサラサラと流れていく音楽。迫力よりも繊細な響きの変化を聴けと言われているような流れの良さ。独特の弦、木管、そして硬質なティンパニの響き。どれもが新鮮でした。聴きなれたロンドンが垢をを落とされ、修復工事を終え製作当時の鮮やかな色彩を取り戻したシスティーナ礼拝堂のミケランジェロのフレスコ画に接するような新鮮なものに映りました。
アンダンテも速めにサラサラと流れ、これまでのゆったりとした感興ではなく、清流のようなしなやかな音楽として響きます。途中にホグウッドのものか唸るような声が入りますが、当時は気づいていませんでした。メヌエットは透明でキレの良いヴァイオリンの切れ込むような音色が印象的。一貫して速めのテンポが当時は非常に新鮮でした。フィナーレも弦の切れ味とオケの吹き上がりの痛快さを楽しむような演奏。今聴くと迫力もそれなりにあって、ロンドンの演奏としては非常にまとまりのよいもの。時代を切り開いてきた息吹が存分に味わえる演奏です。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
軍隊の方も速めのテンポで流れの良い演奏なんですが、意外に迫力があります。他の演奏との対比からあまり迫力がある演奏との記憶はありませんでしたが、今聴くと、記憶の印象のせいかスバラシイ迫力の方に驚きます。響きの美しいキングスウェイホールに古楽器の響きとその余韻が広がる快感。ここにも後年芽をふくホグウッドの新古典主義的なリズム感がほんのりと感じられます。オケが次々と吹き上がる陶酔感。迫力のみならずキリリと引き締まった速めのテンポで統率され、高雅な魅力に満ちています。
聴きどころの2楽章は意外にオーソドックス。こちらの耳が古楽器に慣れたのでしょう。最近では迫力重視の灰汁の強い演奏が増えたため、逆にオーソドックスに聴こえるということですね。それでも木管をはじめとした古楽器の音色の美しさを存分に聞かせながら、サラリと爆発するところの手腕は見事と言うほかありません。淀みなく音楽が流れますが、そこここにさりげないアクセントがあり、穏やかな刺激が脳に届きます。
メヌエットも同様、これほどの完成度だったかと認識を新たにします。演奏によっては平板な印象もあることがあるホグウッドの演奏ですが、実に表情豊か。そしてフィナーレもオケが気持ち良く鳴り響きます。タクトを振る快感を疑似体験するような素晴らしいオケの吹き上がり。この曲ではオケの俊敏な切れ味を堪能できます。ホグウッドの素晴らしいオーケストラコントロールを再認識させる名演でした。

このアルバムをちゃんと聴き直したのはもしかしたら20年ぶりくらいかもしれません。記憶に残る演奏は当時の驚きの分、新鮮さと直裁な印象が勝っていましたが、今聴きなおすと、意外にオーソドックスでかつ、その完成度も素晴らしいものがありました。ロンドンの新鮮な響きもいいのですが、何より軍隊のバランスの良い迫力は秀逸。今聴いても古さを感じるどころか、逆に名演ひしめく古楽器の演奏のなかでも指折りのものと再認識しました。ホグウッドのハイドンの交響曲の原点の録音たるこのアルバム、あらためて聴きなおし、心に焼き付けなおしました。やはり古楽器演奏の時代を切り開いたというのにふさわしい偉大な存在でした。評価はロンドンは[++++]のまま、軍隊は[+++++]にアップです。

生きていれば未完のハイドンの交響曲全集を完成させるという偉業に挑むこともできたでしょうが、亡くなってしまい、それも叶わぬこととなりました。また一人時代をつくった偉大な個性が失われました。こころよりご冥福をお祈りいたします。

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tag : ロンドン 軍隊

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管の「オックスフォード」、「ロンドン」(ハイドン)

所有盤リストを眺めながら、これまで取りあげていない大物のアルバムをさがしていると、ありました!

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amazon / amazon(新装盤)/ TOWER RECORDS(新装盤)

オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団(New Pilharmonia Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲88番、92番「オックスフォード」、95番、98番、100番「軍隊」、101番「時計」、102番、104番「ロンドン」の8曲を収めたアルバム。今日はこの中からCD3に収められた「オックスフォード」と「ロンドン」を取りあげましょう。収録は「オックスフォード」が1971年9月、「ロンドン」が1964年10月、ロンドンのアビーロード・スタジオでのセッション録音。レーベルは英EMI。

もちろんクレンペラーのハイドンは何回か取りあげていますし、このセットからも88番をレビューしています。

2010/12/28 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の88番
2010/10/29 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーのトリノの時計
2010/10/26 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーの時計

なぜかマニアックにライヴの時計を2枚取りあげていますが、肝心のこのセットからは88番のみということで、このセットの真価を紹介しきれていないわけですね。しかも演奏者の背景を知り演奏を聴くことを旨としている当ブログですが、クレンペラーについては過去にきちんと紹介しておりませんので、簡単にさらっておきましょう。

オットー・クレンペラーは1885年、当時ドイツ領だったブレスラウ、現ポーランドのヴロツワフ生まれの指揮者、作曲家。もちろん近代の巨匠指揮者の一人とみなされていることは皆さんご存知のことでしょう。4歳でハンブルクに移り、母親にピアノの手ほどきを受けた後、フランクフルトのホッホ音楽院で学び、ベルリンでは作曲、指揮、ピアノを専攻しました。22歳の時マーラーの推挙でプラハのドイツ歌劇場の指揮者となって以降、ヨーロッパの歌劇場で指揮を重ね、またベルリンフィルでデビューするなどしましたが1933年、ナチスの台頭などにともないアメリカに亡命しました。アメリカではロサンジェルスフィル、ピッツバーグ交響楽団を指揮しますが1939年、脳腫瘍で倒れ、その後後遺症や躁鬱などにともないアメリカでの活躍は終わる事となりました。
戦後1947年から、ハンガリー国立歌劇場の音楽監督に就任しますが、3年で共産党政権と衝突し辞任。その後ロンドンでの客演がEMIのウォルター・レッグの耳にとまり、1952年からEMIとレコーディング契約を結びます。1954年からフィルハーモニア管弦楽団とのレコーディングを開始し、多くの録音をリリース。それがヒットし巨匠として世界的な名声を得る事となったとのことです。その後1964年からは楽団がニュー・フィルハーモニア管弦楽団となったあとも関係は続きましたが、1972年1月には体の衰えが進み、楽壇から引退し、1973年、スイスの自宅で亡くなりました。

今日取り上げる録音のうちロンドンはニュー・フィルハーモニア管となった頃、そしてオックスフォードは、クレンペラー最晩年の録音ということになりますね。これらの経歴を知ってこの2曲を聴くと歴史のパースペクティヴが一層よくわかります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
幽玄さすら感じさせる雄大な序奏。なぜかクレンペラーは巨大なものを感じさせるんですね。主題に入ってもテンポは雄大なまま、慌てるそぶりはなく、ゆったりと言うより岩のような堅牢さで進みます。オケは一切の小細工を禁じられ、禁欲的にさえ思えるほど表情を変えず、一貫して重たいリズムを刻みます。ただし演奏には不思議と生気が宿り、なにか気迫にみちた熱気を帯びています。岩の巨人がのしのし歩いてくるような迫力。録音はそこそこ鮮明。特にヴァイオリンパートはかなりの鮮明さで切れ込んできます。これぞクレンペラーのハイドン。
普通の演奏では伸びやかな感興が聴き所のアダージョですが、最晩年のクレンペラーの手にかかると、まさに枯淡の境地。ゆったりではなくやはり幽玄。東洋的な、禅の境地のような緊張感が漂います。ハイドンの機知に富み、活き活きと美しく響くはずのアダージョが三途の川のBGMのように響きます。中間部の木管楽器の演奏を聴きながらがなぜか恐山の宇曽利湖の記憶が浮かびます。
メヌエットもかなり遅めで来るかと思いきや、意外と普通のテンポで逆にビックリ。間をたっぷりとって立体感を際立たせます。徐々にリズムが重さを帯び、忍び寄る迫力は殺気すら感じさせます。
指揮者によっては踊り出すような躍動感を感じさせるフィナーレの入りですが、クレンペラーはそこはあっさりこなし、すぐに重量感あふれるオケがフルスロットルに。大排気量のスポーツカーがブォーっと爆音をたてて走りすぎて行くよう。最晩年のクレンペラーの鬼気迫る気迫がオケに伝わってもの凄い迫力。険しい岩のようなオックスフォードでした。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
クレンペラーらしい堅固な印象は感じさせつつも、こんどは表情にしなやかさと生気が宿り、クレンペラー全盛期の余裕が感じられるサウンド。ニュー・フィルハーモニア管として生まれ変わったオケとの充実した演奏。ロンドンという記念碑的な曲に相応しい祝祭感も感じさせ、響きも前曲よりかなり柔らか。まさにロンドンに期待される神々しさを帯びた素晴しい響き。ところどころに岩の塊のような堅固な響きをちりばめ、要所でリズムの重さを聴かせます。中盤から終盤にかけての盛り上がりは79歳の頃の演奏ということを考えると信じられないようなエネルギーを発散しています。クレンペラーの凄さを再認識しました。
続くアンダンテは、やはり枯れてました。侘び寂びを感じるような淡々として、また音色にも和の印象が感じられるような枯れ方。この曲でも幽玄な世界は健在。ただ、オックフォードほど枯れきっていない感じ。オックスフォードは葉の落ちた冬の梅の古木の様な世界でしたが、こちらは晩秋の紅葉の終わりのような風情。と思っていたら中間部で恐ろしく覇気に満ちた爆音を轟かせ、本当にビックリ。
ロンドンでもメヌエットはテンポが上がり、素晴しい躍動感。むしろ速いくらい。クレンペラーは全体に遅いテンポと思いがちですが、このメリハリがあるから素晴しいのでしょうね。
フィナーレはオーソドックスなんですが荘厳さを帯びて聴こえるのがクレンペラーらしいところ。ところどどころ力が抜けて、盛り上げるばかりではなく、かなりメリハリをつけながら、それでも一貫して頑固な印象を与えるところは流石。ロンドンの終楽章は力任せにいくと一本調子に聴こえてしまうことを踏まえてか、クレンペラーにしてはきめ細かくアクセルをコントロールしている感じ。最後は弦楽器群がグッと図太い響きを聴かせて素晴しいクライマックス。

実に久々にちゃんと聴き直したクレンペラーのハイドン。やはり余人には真似の出来ない演奏であることは間違いありません。最晩年の演奏であるオックスフォードはクレンペラーのハイドンの中でももっとも枯れた演奏。オックスフォードの演奏としては相当マニアックな演奏です。逆にロンドンはオーソドックスな範疇に入る名演奏。クレンペラーのハイドンを代表する演奏と言ってもいいでしょう。評価は特にオックスフォードが難しいですね。元は[+++]としていましたが、聴き手の器の問題かもしれませんね。今回あらためて聴き直してみると、やはりクレンペラーの覇気が満ちた名演ということが出来ると思いますが、オックスフォードの演奏としては変わり種。ということで[++++]につけ直すことにします。また、ロンドンは[+++++]のままとします。

クレンペラーのハイドンを取りあげるということで、最後にライムンドさんのブログを紹介しておきましょう。やはりクレンペラーはライムンドさんの縄張りですから(笑)

いまでもしぶとく聴いてます:クレンペラーのロンドン交響曲 ニュー・フィルハーモニア管

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tag : オックスフォード ロンドン ヒストリカル

ユベール・スダーン/東京交響楽団のオール・ハイドン・プログラム(東京オペラシティ)

先日ブログのコメントでSOSさんから情報をいただたハイドンのコンサート、行ってきました!

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コンサート情報 | 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA

3月22日(土)東京オペラシティで行われた東京交響楽団による「東京オペラシティシリーズ 第78回」。指揮は東京交響楽団の音楽監督ユベール・スダーン(Hubert Soudant)、フォルテピアノがピート・クイケン(Piet Kuijken)、コンサートマスターはグレブ・ニキティン(Greb Nikitin)。プログラムは下記のとおり。

ハイドン:交響曲 第1番 ニ長調 Hob.I:1
ハイドン:ピアノ協奏曲 ハ長調 Hob.XVIII:5
ハイドン:ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11 op.21
ハイドン:交響曲 第104番 ニ長調 Hob.I:104 「ロンドン」

ということで、日本では非常に珍しいオール・ハイドン・プログラム。プログラム構成も企画意図を感じさせる、交響曲の父と呼ばれるハイドンの交響曲1番ではじまり、最後はハイドン最後の交響曲104番で終わるというもの。間にクラヴィーアのための協奏曲2曲を挟んだという、まさにハイドンファン向けのプログラム。

普段はあまり熱心にコンサート情報をチェックしていないため、コンサートに出かけるときも、行き当たりばったりですが、ブログに寄せられた情報を見て、これは行かねばならないコンサートであるとピンときたもの。というのも、東京交響楽団ははじめて聴くオケ(当初東京都交響楽団と勘違いしていました)、そして指揮者のユベール・スダーンもはじめて聴く人ながら、このハイドン愛に満ちたプログラムを組むとあっては、ハイドンマニアを自負する私が聴きにいかないわけにはいきません。加えて、東京交響楽団の音楽監督を2004年から続けてきたユベール・スダーンは今月でその座を降り、後任のジョナサン・ノットに譲るとのこと。自身の10年のキャリアを終える時期にオール・ハイドン・プログラムを組むと言う事はよほどのこと。ユベール・スダーンと言う人がハイドンをどう振るのか興味は尽きません。

ユベール・スダーンは1946年、オランダの南端、マーストリヒト生まれの指揮者。当初ホルンを学びホルン奏者として活躍していましたが指揮者に転向。ブサンソン国際指揮者コンクールで優勝、カラヤン国際指揮者コンクール2位、グイド・カンテルリ国際コンクール優勝などの受賞歴があります。1994年から2004年まで、フランス国立ペイ・ドゥ・ラ・ロワール管弦楽団の音楽監督、同じく1994年から2004年まで、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の音楽監督などをつとめ、2004年から東京交響楽団の音楽監督に就任しています。2004年7月にはザルツブルク市名誉市民となり、またオーストリア・ザルツブルク州ゴールデン勲章を授与されているそうです。ハイドンやモーツァルトなど古典を得意とするのはザルツブルクでの経験があってのことと想像されます。まさに本場もののハイドンを知る人ということでしょう。

まさに、今日のハイドンは古典の矜持を守るハイドンという趣でした。



今日はもともと歌舞伎に行く予定だったため、急遽歌舞伎のチケットを嫁さんの友人に譲り、私のみこのコンサートへ。ということで、通い慣れた東京オペラシティに向かいます。開演は14:00。幸い天気も良く、不幸にして花粉飛びまくりのなか、小田急線の参宮橋駅から歩いてオペラシティに向かいます。

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参宮橋駅から10分くらいなので開場時刻ちょうどのタイミングでオペラシティのタケミツメモリアルホールに到着します。

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一人だったのと、車ではないので、安心してワインを楽しめます(笑)

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今日の入りは9割強。私ははじめてですが、東京交響楽団も常連さんが多いようで、ここ10年親しんだユベール・スダーンの最後とあって、お客さんも名残り惜しそう。

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今日の席は2回席右奥。そう、サントリーホールでお気に入りの位置ですが、先日デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の第九に母親連れで来た時にはじめてこのホールの2階の席をとり、こちらも1階席よりも見やすく、音もダイレクトに響くということで、狙っていた席です。ご覧のようにステージを直下に見下ろすなかなかいい眺めの席。



さて、定刻の14:00となり、奏者が入場してきます。こちらもはじめて聴く指揮者とオケへの期待で、ちょっといい緊張感。グラス一杯のワインで、聴覚も鋭敏になっています。スダーン入場で、開場からは割れんばかりの拍手が降り注ぎます。

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
コンサートでは滅多に演奏されないであろう、交響曲1番。頭のなかではやはりドラティの快活な演奏が刷り込まれています。指揮棒をもたずにスダーンがさっと手をあげると、オケから、ドラティ以上の快活さでリズミカルな1楽章が流れ出します。クッキリとリズムの線を明確した折り目正しい演奏。流石モーツァルテウムで鍛えられた人の音楽と腑に落ちます。オーソドックスな演奏ながら、そこここにアクセントをつけて、スタティックな躍動感と言えばいいのでしょうか、カッチリしながらも推進力をもったバランスの良い演奏でした。特にヴァイオリンパートはコンサートマスターのニキティンがリードしてクッキリとしたアクセントを効かせます。つづくピアノ協奏曲でソロを務めるピート・クイケンが通奏低音を担当し、要所で装飾をかなり施し、華を添えますが、若干リズムが重くオケの快活さとすこし方向が違う感じを残します。管楽器陣はホルンが少し音をはずしたのと、オーボエが少し固い他、安定していい演奏。1番は流石の出来で、ハイドンらしい快活さとバランスの良さが印象的な演奏でした。

Hob.XVIII:5 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [C] (before 1763)
つづく協奏曲は、ステージ上から奏者が何人か下がり、ぐっと小編成となります。この曲はオルガンソロで演奏されることが多い曲ですが、どれも快活な印象でした。スダーンはテンポをかなり落とし、また表情をかなり磨いて、快活さよりもあえてしっとりとした表情を出そうとしているようでした。ソロのピート・クイケンはヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のヴィーラント・クイケンの次男とのこと。クイケン兄弟といえば竹を割ったような直裁なリズム感と淡々と語るなかから滲み出る音楽が特徴ですが、息子世代のピート・クイケンの音楽はかなり異なり、即興的にばらつくタッチと重めのリズムで、じっくりと音楽を奏でるもの。交響曲1番での快活さを考えると、スダーンはこの曲ではピート・クイケンに合わせてしっとりしたコントロールに振ったのかもしれません。クイケンはこうした音楽性からか、オケとすこし合わずに指がまわっていないように聴こえる部分もあるなど、本調子でなかったかもしれません。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
ステージ上に先程下がったオケの団員が戻り、編成が少し大きくなります。ハイドンのピアノ協奏曲と言えばこの曲。冒頭のオケは一転して鮮烈かつリズミカルな入り。やはりスダーンのコントロールは芯がしっかりとした快活な部分の華やかさに特徴があります。オケがしっかりとリズムを刻むなか、ピート・クイケンが独特のタッチでしっとりとソロを刻みますが、オケがつくった推進力に乗り切れていない印象を残してしまう部分もあり、この辺は個性のぶつかり合いといえるほどの存在感をクイケンが残せていない印象でした。ただ、会場からあ割れんばかりの拍手が降り注ぎ、フォルテピアノソロのアンコールが演奏されました。アンコールは私の好きなアダージョ(XVIII:9)。こちらは独特の即興的なタッチで静かに弾き散らかすような演奏。演奏によっては香り立つような詩情を発する曲ですが、訥々とした別の魅力が浮かび上がったのも事実。こちらは悪くありませんでした。




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休憩を挟んで、最後はハイドン最後の交響曲。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

ステージ上からフォルテピアノが搬出され、オケの人数がぐっと増えます。またティンパニはバロックティンパニ。ロンドンはオーソドックスながら、やはりユベール・スダーンの折り目正しさとオーケストラコントロールの素晴らしさが良く出た秀演でした。オケの規模が大きくなって、ティンパニなどが加わったせいか、冒頭から大迫力の序奏。バランス良くクッキリとメロディーを描いていくスダーンの特徴が良く出た演奏。オケの集中力に会場も固唾をのむように聴き入っているのがわかります。1楽章の終盤の怒濤の盛り上がりもバランスを崩すことなく古典の均衡を保ったもので、構築感を上手く表現していました。
素晴らしかったの続くアンダンテ。規律をたもちながらじわりじわりと盛り上がってくる曲ですが、途中から躍動する部分でのオケの音を重ねて行く部分の立体感は鳥肌がたつほど。ロンドンはどうしても1楽章と終楽章に耳がいきますが、このスダーンのアンダンテのコントロールは見事。今日一番の聴き所でした。
そしてメヌエットとフィナーレは期待通りの盛り上がり。冒頭に聴いた1番から35年以上あと、2度目のロンドン旅行の際に書かれたハイドンの交響曲の総決算たる曲ですが、構成、スケール感、メロディーラインの複雑なからまりなど、第1番交響曲とは次元の異なる仕上がり。一日のコンサートの中でハイドンの交響曲創作の歴史の始点と終点の双方を並べるあたり、ユベール・スダーンの企画意図がしっかりつたわりました。この曲ではティンパニが活躍しますが、バロックティンパニの直裁な響きが鋭い迫力につながっていました。最後はスダーンに嵐のような拍手が降り注ぎました。このオケを10年間振ってきたスダーンに対する観客の暖かい拍手が印象に残りました。

普段N響や読響はたびたび聴きに行っているのですが、はじめて聴く東京交響楽団の響きは新鮮でした。安定感のある折り目正しい弦楽器、管楽器群も総じて優秀ですが、読響などに比べると、すこし潤いに欠けるところもありました。やはりスダーンによるこの10年の取り組みの成果でしょうか、クッキリとした表情は流石に上手く、古典的な曲ではその部分はかなりのレベルにあると思います。

今日は聞き慣れたホールで、聴き慣れたハイドンの曲を、はじめての指揮者とオケで聴くと言う得難い経験でした。やはり生で聴く音楽には録音されたものとは異なる力があります。自身の最後の一連のコンサートにオール・ハイドン・プログラムをもってきたユベール・スダーンと言う人。やはりハイドンの素晴しい音楽の価値を知る人でした。ホールに鳴り響くロンドンの終楽章がもつ力、会場内の多くの人の心に、スダーンと言う人の記憶とともに残りましたね。いいコンサートでした。

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tag : 東京オペラシティ 交響曲1番 ピアノ協奏曲XVIII:5 ピアノ協奏曲XVIII:11 ロンドン

ヒクメット・シムセク/ハンガリー国立管の驚愕、ロンドン(ハイドン)

いつも通り、マイナー盤。不思議な組み合わせの演奏です。

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ヒクメット・シムセク(Hikmet Şimşek)指揮のハンガリー国立管弦楽団(Hungarian State Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲94番「驚愕」、交響曲104番「ロンドン」の2曲を収めたアルバム。収録情報は記載されておらず、Pマークが1990年。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

こちらも最近ディスクユニオン店頭で発掘したもの。最近はディスクユニオンの交響曲の棚は見ても未知の盤の発掘につながることがあまりないため、滅多に寄りません。先日神保町のディスクユニオンに実に久しぶりに寄ったところ、神保町の棚はジャンル別・作曲家別ではなく、作曲家別・ジャンル別に並んでいるため、久々に交響曲の棚を見る事になり、このアルバムを発見した次第。まだまだ未聴盤がありますね。

指揮者のヒクメット・シムセクはトルコの東端、イラクにも近いスィイルト(Siirt)県のペルヴァリ(Pervari)生まれの指揮者。生まれるとすぐにアンカラの南のコンヤ(Konya)に移り、1936年、コンヤの兵学校に入ります。アンカラに移り、軍隊の教育を受け続けましたが、1946年、卒業を待たずに、突然アンカラ音楽院に移り音楽の道に転身、1953年にアンカラ音楽院を卒業しました。卒業後アンカラ音楽院で教える事となり、1959年以降は、トルコ大統領府交響楽団の副指揮者となります。シムセクはトルコで日曜に放送されるトルコ放送のクラシック番組に出演していた事から、トルコで最も知られた指揮者と言う存在だったようです。演奏の前には曲の解説等も織り交ぜ、日本で言えば山本直純さんのような存在といったところでしょうか。また、トルコ放送の外国語放送でトルコの作曲家を国外に紹介するなどの功績が認められ、1981年、トルコ政府よりState Artist(文化勲章のようなものでしょうか)を授与されました。また1980年代にはトルコの作曲家による音楽のシリーズものをリリースしています。調べてみると、まさにトルコ音楽界を代表する人のようですね。ライナーノーツによるとヨーロッパや、アメリカ、日本なども含む地域で国際的に活躍したそうです。2001年、アンカラの陸軍病院にて脳腫瘍で亡くなったとのことです。

このアルバム、トルコのシムセクが、ハンガリーを訪れ、ハンガリーのレーベルに、ハンガリーの地元の作曲家であるハイドンの交響曲、それも最も有名な「驚愕」と「ロンドン」を収録したということで、それだけでも「驚愕」の存在!

よほど素晴しい演奏をして、HUNGAROTONのプロデューサーを唸らせたことと想像されますが、アルバムを聴いてみると、その想像もあながち見当違いとも言い切れません。冒頭から分厚い響きのオケが素晴しい覇気の演奏。グイグイ来ます!

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
厳かな序奏から緊張感が伝わります。主題に入ると分厚い響きのオケに力が漲り、素晴しい覇気。オーソドックスな演奏なんですが、力感の素晴らしさはこの曲に期待される理想の響きといっていいでしょう。トルコと聞くと派手な鳴りものを想像しますが、それとは正反対。ぐっと沈み込む重心の低い迫力の響き。派手さはありませんが、その代わりに内なる赤熱するマグマのようなエネルギーを感じる演奏。独墺系のオケよりよほど正統な響きです。音量を上げて聴くとまさに響きの良いコンサートホールで聴く実物大のオケのよう。録音も自然な定位感と素晴しい力感をうまく録っています。HUNGAROTONとしてはかなりいい録音でしょう。1楽章は力感に圧倒されます。
ビックリの2楽章はアンダンテらしい、少し速めの足取りで、例のところはビックリさせるよりは雄大に響かせるような演出。聴衆はビックリしないのを踏まえた演出のよう(笑) 以降はしなやかにオケをコントロールして、やはり図太い響きを織り交ぜながら、誠実かつ豪快に曲を進めます。オケの低音セクションの安定感は素晴しいものがあります。
メヌエットは分厚いオーケストラを軽々と響かせ、まさに踊り出さんばかりにオケが弾みます。曲の真髄に迫っているからこその自然な音楽の流れ。単調さは微塵もなく、オケの反応から指揮者の指示を想像しながら音楽を楽しみます。実に伸びやかな音楽。これがハイドンが意図したメヌエットでしょう。
フィナーレもまるでハイドン自身の指揮のように、曲が本来そうあるべき姿のように軽々とした入り。オケは緩急織り交ぜ、非常にリラックスして要所でガッチリと響きの印象を残し、また、つなぐ部分では軽やかに弾み、まさしくハイドンの音楽はかくあるべしとの確信に満ちた演奏。良く聴くとティンパニが実にいいタイミングで響きを引き締めているのも安定感に寄与しているようですね。1曲目から、期待を大きく上回る素晴しい演奏に驚きます。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
驚愕の調子でこのロンドンを演奏すれば、名盤というか、決定盤間違いなしの素晴らしさでしょう。力感も陰りも憂いもある素晴しい序奏。響きも深く、慈愛に満ちた神々しさ。あまりの素晴しさに感情の高ぶりを抑えられません。ハイドンの最後の交響曲の輝きに満ちたメロディーが分厚い響きで鳴り渡り、まさに古典と言う時代の頂点に相応しい演奏。表現が大げさすぎず端正な印象さえあるのが美点でしょう。カラヤン/ウィーンフィルの名演奏を彷彿とさせ、響きはそれよりスケール感を感じるもの。シムセクのコントロールは力感がありながら響きに優しさもあるのが特徴。ロンドンも万全の入り。
ロンドンのアンダンテは、今度は少し遅め。しかも暮れる前の夕日のような静かな情緒に満ちた音楽。間をたっぷりと取りながら音量を落としてじっくり音楽を奏でていきます。木管群の美しい響きと、それをきっかけに唸るようなオケの波が押し寄せます。長大なアンダンテをニュアンス豊かに進め、そこここで情感が迸ります。このアルバム一番の聴き所。
メヌエットも前曲の踊るようなメヌエットとはスタンスが異なり、ぐぐっと攻め込むメヌエット。ハイドンを得意としていたのかはわかりませんが、この楽章毎にアプローチをデリケートに変えてくるシムセクのコントロールはハイドンに対する深い理解を感じさせます。
フィナーレはようやくオーソドックスなアプローチ。キレよく盛り上がり、徐々に恍惚とするほどのクライマックスに至ります。ここに来て虚心坦懐にハイドンの書いた複雑に絡み合う楽譜をクッキリと描いていきます。分厚い響きのオケがタクトに俊敏に反応して鮮やかに吹き上がる様子は、まさにロンドンのフィナーレのクライマックスに相応しいもの。最後は素晴しい盛り上がりで曲を終えます。

いままであまり聴いた事のないトルコの指揮者のハイドン。マイナーな演奏どころか、独墺系のどの演奏よりもハイドンの本質に近い、雄大なスケールながら端正さ、響きの深さ、優しさに溢れた演奏。これほどまでに素晴しいとは思っていませんでした。ネットを検索したところ、amazonでも中古は欠品中。これほど素晴しい演奏が現役盤ではないことは、大きな損失です。この演奏、多くの人に聴いていただきたい名演と断じます。もちろん両曲とも[+++++]とします。
タワーレコードの中の人、日本とトルコの更なる友好のために、是非このアルバムを日本で復刻すべきです。声が届かないかしら(笑) 意外といい企画だと思うんですが、、、

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tag : 驚愕 ロンドン

ハンス・ロスバウト/ベルリンフィルのオックスフォード、ロンドン

前記事で聴いたアーノンクール/ベルリンフィルの熊があまりにも素晴しかったので、手元にあるベルリンフィルの演奏をあれこれ物色。そして選んだのがこれ。

Rosbaud92.jpg
HMV ONLINEicon(発売予定のSHM-CD)/ amazon

ハンス・ロスバウト(Hans Rosbaud)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲4番、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。ヴァイオリン独奏はウォルフガング・シュナイダーハン。収録はオックフフォードが1956年3月、ロンドンが1957年3月、何れもベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルは名門Deutsche Grammophone。

手元の所有盤リストでベルリンフィルのハイドンの交響曲の演奏を探すと、もちろんカラヤン、ラトル、以前ライヴを取りあげたザンデルリンクなどが出てくるのですが、あとはチェリビダッケやリヒターといったところ。これまで取りあげた事のない指揮者という意味てロスバウトを選んだ次第。

ライナーノーツには、冒頭に高名なハイドン研究者であるロビンス・ランドンが1950年代に書いた批評が紹介されています。ランドンはこのロスバウトのオックスフォードとロンドンの演奏のことを「Grammophoneの録音の歴史上、これから録音されるであろう数多の演奏も含めて、最も完成度の高い演奏である」との言葉を残しているそう。これはちょっと気になります。

そのハンス・ロスバウトですが、1895年、オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。母はピアニストで、フランクフルトのホーホ音楽院に進み、1920年からはマインツ市立音楽学校の校長となります。指揮者としては1929年にフランクフルト交響楽団の音楽監督となり、ヒンデミット、バルトーク、ストラヴィンスキー、シェーンベルクらの作品を上演して、現代音楽を積極的に紹介しました。戦後はミュンヘンフィル、南西ドイツ放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管の指揮者として活躍し、1962年にスイスのルガーノで亡くなっています。エルネスト・ブールとともに指揮者としてのピエール・ブーレーズに影響を与えたということです。

フルトヴェングラーの急逝によってカラヤンがベルリンフィルの芸術監督となったのが1955年ということですから、このロスバウトの演奏はその直後の録音ということになります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
現代音楽が得意と聞いてこの入りを聴くと、実に緻密なコントロールに聴こえるのが不思議なところ。朝陽が差すような淡いトーンからオケが踏み込んでくるまでの序奏の変化は非常に巧みな演出だと感じます。ちょっと古びた音色に違いありませんが、録音を脳内補正して聴くと、オケはやはりベルリンフィルらしい覇気に満ちあふれています。実に引き締まった良い表情。引き締まったタイトな響き。ベルリンフィルはベルリンフィルなんですね。
流石なのが続くアダージョ。音楽の流れが大きくなり、深い呼吸としっとりした響きがえも言われぬ柔らかさ。タイトさとこの柔らかさの対比が絶妙。そしてメヌエットは、沈着冷静な進行。出来るだけ客観的に演奏しようとしているのか、テンポは揺らさず、淡々と、しかし引き締まったダイナミックさは保とうとしているよう。
フィナーレの有名な入りは弾む感じとキレ、推進力の高度なバランスを保った演奏。速めのテンポで快活が前面に出ます。オケの吹き上がりは流石ベルリンフィル、意外に端正なロスバウトの指揮に、オケの方から煽りを入れてくるような印象もあります。オケがインテンポで次々と畳み掛けてきます。オケのキレを楽しめる素晴しいフィナーレ。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
変わってハイドン最後の交響曲「ロンドン」。録音は1年新しいのですが、音のクォリティーはさして変わらず。なんとなくロンドンの方がスケール感のある演奏を期待して、同じレベルの録音なのに、耳がスケール感を求めてしまって損している感じ(笑)
オックスフォードのリズムがキレていたので、ロンドンの1楽章は若干重い感じに聴こえます。ただ、淡々と立体感溢れる音楽を紡ぎ出してくるあたりは流石の出来です。聴き進むと重さもスケール感を出そうとしてのことだとわかります。1楽章は徐々に盛り上がって最後は覇気炸裂。
アンダンテはかなり大胆にテンポを落とします。一貫してキリッとした表情から、覇気が滲み出してくる演奏。やはりベルリンフィルの合奏力あってのコントロールでしょう。こうゆうオケを指揮するのは楽しいのでしょうね。
そしてメヌエットも録音年代を考えるとモダンな演奏。オケの合奏力によるメリハリが素晴しいので、淡々とした表情が活きます。
フィナーレは言わずもがな。耳が慣れて録音をちゃんと割り引いて、当時の響きを聴き取ろうとしてますので、迫力は十分。この余裕のある覇気はベルリンフィル独特のものでしょう。素晴しい陶酔感すら感じるフィナーレの展開。途中、テンポをかなり意識的に落として沈み込むあたり、ハイドンを知り尽くした至芸と聴こえます。最後は響きの坩堝のようになって終了。

ハンス・ロスバウトの指揮するベルリンフィルは、1950年代にもかかわらず、ベルリンフィルらしい素晴しい覇気のある演奏でした。オケの伝統とはこれほどの歴史があるものと再認識。オケの響きは長年かかってそのオケらしい音が形作られていくものだとあらためて再認識した次第。この録音をちゃんと聴くとベルリンフィルの素晴らしさがよくわかります。評価は両曲とも[+++++]としました。

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tag : オックスフォード ロンドン ヒストリカル ベルリンフィル

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

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