ガメリート・コンソートのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

最近すっかりピアノトリオの魅力にとり憑かれています。ということでピアノトリオの名盤、ただし激マイナー盤を取り上げます。

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ガメリート・コンソート(Gamerith Consort)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:12)、弦楽四重奏曲「皇帝」の2楽章をハンマーフリューゲルで弾いたもの、スコットランド歌曲集の2曲を編曲したもの、ロンドン・トリオの2番(Hob.IV:2)、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:24)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1982年。レーベルは今は亡きKOCH傘下のedito pro musica。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたものですが、かなり困った造りなんです。このアルバムがリリースされた1982年といえばLP全盛期にCDがはじめてリリースされた年。CD最初期のリリースですが、ジャケットにライナーノーツは完全にLP用のものを無理やりCDの大きさに縮小したもの。つまり字がすんご〜い小さい。今までここまで小さい字のライナーノーツには出会ったことがありません。すなわち米粒に書いた文字を読むがごとき苦労をともなうもので、初期とはいえ老眼症候群の私には非常に読みづらい(笑) それでも、ルーペを駆使して極小フォントの英文を読んでみると、1982年とはハイドンの生誕150年のアニヴァーサリーということで録音されたもののようで、ハイドンがエステルハージ家で過ごした最後の10年間に作曲された作品を集めたものだとわかりました。

奏者のガメリート・コンソートのピアノトリオのアルバムは実は手元にもう一枚あって、そちらもなかなかいい演奏なんですが、今日取り上げるアルバムは、さらにいい演奏なのでレビューに取り上げた次第。

ガメリート・コンソートは1967年に設立された団体で、主に17世紀の作品を古楽器で演奏するアンサンブルとのこと。小さい字をさらに読んで、所有盤リストに登録すべく奏者などを調べていると、ハンマーフリューゲルを弾いているのは、ニコラス・マギーガン。マギーガンといえば、当サイトで主催するH.R.A. Award 2015の交響曲部門を見事射止めたニコラス・マギーガンです。さらにびっくりしたのが、このマギーガン、4曲目に収録されているロンドントリオでは、フラウト・トラヴェルソまで吹いています。あわてて元から手元にある方のガメリート・コンソートのアルバムを取り出して調べてみると、録音は1988年でハンマーフリューゲルはフランツ・ツェビンガーという別人でした。ということで、1982年当時のガメリート・コンソートのメンバーがマギーガンだったということですね。

2015/12/31 : H. R. A. Award : H. R. A. Award 2015
2015/05/09 : ハイドン–交響曲 : 絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)
2011/09/03 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

マギーガンの略歴はロンドンの記事を御覧ください。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
まずはピアノトリオの傑作を冒頭にもってきました。この曲と最後の曲のメンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ゲルトラウド・ガメリート(Gertraud Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)
ハンマーフリューゲル:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)

古楽器によるテンポ良い曲の入り。古楽器の演奏から想像される典雅なものではなく、かなりダイナミックなもの。しかも、この前取り上げたヴィヴェンテ三重奏団ばりの推進力とキレを彷彿させるもの。もちろんその原動力はニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲル。1楽章は速めのテンポに乗って鮮やかに冴え渡るタッチで一気に描き上げる快演。アクセントのキレかたも尋常ではありません。全員のキレが冴えすぎて怖いくらい。
素晴らしいのがつづくアンダンテの沈み方。キレ良い1楽章から見事に切り替え、じっくりと音楽を造っていきます。まさに緩急自在の孤高の美しい音楽。フレーズごとに巧みにテンポを揺らすマギーガンのハンマーフリューゲルに合わせて、ゲルトラウド・ガメリートの伸びやかな古楽器のヴァイオリンが寄り添います。ヴァイオリンの音色の雅な美しさも聴きどころ。チェロもリズムがキレていて鮮度抜群。途中踏み込んだ抑揚で音楽を盛り上げます。
3楽章で再び冴えたリズムを取り戻し、素晴らしい吹き上がりで聴くものを圧倒、徐々にテンションを上げながら頂点にむかっていることを敢えて意識させる高度な演出。終盤の迫力は圧倒的。古楽器でこれほどのダイナミクスを聴かせるとは。自在なタッチのマギーガンのハンマーフリューゲルが出色の出来。なんというキレ。1曲目から圧倒されます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
2曲目は有名な皇帝の2楽章をマギーガンのハンマーフリューゲル独奏で。ピアノトリオの嵐のような演奏から一転、しっとりと落ち着いた演奏。テンポもテンションも落として、じっくりと主題を描いたあとは、変奏で曲の多層構造を克明に描いていきます。流石にマギーガン、フレーズ毎の表情の演出が実に巧み。まさに自在な演奏。変奏から溢れる詩情に蒸せ返るよう。訥々とした演奏から湧き上がる郷愁の念。ハンマーフリューゲルの響きの美しさに聴き入ります。

Hob.XXXIa:176 - JHW XXXII/3 No.263 "The blue bell of Scotland" 「スコットランドの青い鐘」 (Anne Grant)
続いてゲルトラウド・ガメリートのヴァイオリンとマギーガンのハンマーフリューゲルによる、スコットランド歌曲の「スコットランドの青い瞳」(Hob.XXXIa:176)と「好きなあの娘はまだ小娘」(XXXIa:194) の2曲をもとにハイドンが編曲した変奏曲。この曲がスコットランド歌曲の美しいメロディーを生かした素晴らしい曲。素朴なメロディーをヴァイオリンの伴奏に乗ってハンマーフリューゲルゲルが自在に奏でます。5分少々の曲ですが、一気にスコットランドへの郷愁溢れる雰囲気に。演奏している方も楽しそう。

Hob.IV:2 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
この曲ではマギーガンがハンマーフリューゲルからフラウトトラヴェルソに持ち替えます。

フラウトトラヴェルソ:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)
フラウトトラヴェルソ:ウォルフガング・ガメリート(Wolfgang Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)

歌曲の「貴婦人の姿見」の美しいメロディーを使った1楽章構成の曲。この曲はクイケン三重奏団による素晴らしい演奏がありますが、もちろんテクニックと深みはクイケンですが、逆に素朴な曲の面白さはこちらに分があります。ゆったりとした雰囲気のなか2本のフラウトトラヴェルソによる実に素朴で美しいメロディーが流れ、曲の美しさに引き込まれます。マギーガンのフラウトトラヴェルソ、悪くないどころか、かなりいい線いってます。クイケンのアーティスティックさに対し、こちらは癒しで聴かせる音楽。心に沁みます。

Hob.XV:24 Piano Trio (Nr.38/op.73-1) [D] (1795)
最後に再びピアノトリオ。1曲目同様、全編にみなぎるエネルギーとキレ。アルバムの最初と最後にこの素晴らしいトリオの演奏をもってくるあたり、まるで一夜のコンサートを聴くような構成。アルバムの完成度という意味でも素晴らしい構成。演奏も絶品。1楽章からのキレに加えてうねるようなエネルギーのコントロール、堂々とした風格、そして軽々と音階を上下するマギーガンの鮮やかなタッチと言うことなし。古楽器によるピアノトリオの頂点と言っていい素晴らしさ。

ガメリート・コンソートによるハイドン晩年のピアノ三重奏曲などの室内楽を収めたアルバム。若き日のニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲルとフラウトトラヴェルソを聴ける貴重なアルバムですが、正攻法のピアノトリオを最初と最後に置き、間に美しいメロディーの曲を散りばめるといったアルバムの構成も、もちろん演奏のクオリティも絶品のアルバム。CD草創期のプロダクツゆえ、ジャケットの造りはかなり無理があるものですが、演奏の素晴らしさに目をつむりましょう。まだ手に入りそうですので、室内楽、特にピアノトリオが好きな方(笑)は是非ご入手ください! 評価は全曲[+++++]とします。

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tag : ピアノ三重奏曲 古楽器 ロンドン・トリオ 皇帝 スコットランド歌曲集

ランパル、シュルツ、オダンの「ロンドン・トリオ」(ハイドン)

今日は手持ちのアルバムから未レビューのアルバムを。

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ジャン=ピエール・ランパル(Jean-Pierre Rampal)、ウォルフガング・シュルツ(Wolfgang Schulz)のフルート、ジルベール・オダン(Gilbert Audin)のファゴットでハイドンの「ロンドン・トリオ」No.1〜No.4他を収めたアルバム。収録は1991年5月12日から14日にかけて、パリのサン・ラザール駅のちょっと東にあるプロテスタント教会(Église Allemande Protestante, Paris)でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ロンドン・トリオは以前、クイケンらによる名盤をレビューしております。また、No.2のみですが、他に2枚のアルバムをレビューしています。曲の説明などは下記をご覧ください。

2011/11/25 : ハイドン–その他 : ハイドンとアビンドン卿
2011/11/23 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」
2011/04/02 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽

ランパルはご存知フルートの巨匠。ハイドンの録音は多くはありませんが、このアルバムと同じロンドン・トリオをアイザック・スターン、ロストロポーヴィチとの組み合わせで録音したアルバムや、リラ・オルガにザータ協奏曲をフルートで吹いたアルバムなどがあります。これまでレビューには取り上げていませんでしたので略歴をさらっておきましょう。

1922年マルセイユ生まれで音楽院の教授だった父からフルートの手ほどきを受けました。最初は医学を志すものの、第二次大戦の影響からパリ音楽院に入り、わずか5ヶ月でプルミエ・プリ(卒業資格)を得ます。1947年にジュネーブ国際コンクールで優勝しソロで活動を始め、1956年からパリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者となり1962年まで務めました。退団後はソロ活動で世界的に活躍、2000年に78歳で亡くなっています。

そしてウォルフガング・シュルツはウィーンフィルの首席フルート奏者を長年務めた人。シュルツのアルバムは一度取り上げています。

2011/09/02 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】ウォルフガング・シュルツによるリラ・オルガニザータ協奏曲

そして、ファゴットのジルベール・オダンは1956年生まれ。フランス南部のニーム音楽院、そしてパリ音楽院で学び、その後パリオペラ座管弦楽団の首席ファゴット奏者、パリ音楽院の教授となっています。

ロンドン・トリオの原曲はフルート2本とチェロですが、このアルバムではチェロのパートをファゴットが担当しているということでしょう。私自身はこの曲は名手バルトルト・クイケンの演奏するアルバムがお気に入りなんですが、このランパル盤はロンドン・トリオを実に豊穣に響かせます。吸い込まれるような静謐はクイケンに対し、黄金の輝きのようなラグジュアリーな感じといえばいいでしょうか。

Hob.IV:1 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
冒頭から実に豊かで輝かしいフルートの掛け合い。チェロの代わりのファゴットがかえってテンポ感が明確で悪くありません。めくるめくようなフルートの音階に目がくらみます。よく聴くとランパルとシュルツの音色というかフルートの音色がよく揃っていて、音階の掛け合いが実に自然。よくぞこれほどのメロディーを書いたと思わせる巧みなメロディーのからまり。モーツァルトの天に昇るようなメロディーとは異なりますが、ハイドンの筆は冴え渡り、フルートの音色の真髄をつく音楽を紡ぎ出していきます。冒頭からフルートとファゴットの妙技に圧倒され気味。
つづくアンダンテでは2本のフルートがピタリと重なり、ゆったりとメロディーを描いていきます。フルートの響きの豊かさはちょっと官能的ですらあります。ちょっと控えめにファゴットがサポートしますが、オダンのファゴットは先ほどから安定感抜群。
フィナーレは早いパッセージをいとも軽々とこなしていきます。タンギングのキレがよくフルートの聴かせどころ。鮮やかな手腕に唸ります。流石にフルートの大御所2人。

Hob.IV:2 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
2番は歌曲の「貴婦人の姿見」の美しいメロディーを使った1楽章構成の曲。ゆったりと奏でられる柔らかな響き。教会に響きわたる残響が心地よい。フルートが声にも負けない多彩なニュアンスを描くことができる楽器であることを物語るような情感溢れる演奏。もともと美しいメロディーが名手2人の手にかかってこその美しい表情。オダンのファゴットも実に味わい深い。

Hob.IV:3 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.3 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
3番はぐっと曲が引き締まり緊密な構成。ランパルとシュルツの音の重なり具合が絶妙。完全にシンクロしてふたたびめくるめくような音階の掛け合いに陶酔。速めのテンポでアンサンブルが爽快に進みます。ファゴットが柔らかく刻むリズムに乗って、フルートが自在に駆け回ります。タンギングのキレがいいのでリズムが冴えまくり、有無をも言わさぬ緊密さ。高音の抜けるような冴え。ふと短調に振れるところの翳り具合。
この曲でもアンダンテでの2本のフルートの重なりと、ふわりと浮かぶような軽いフレーズの美しさが印象的。そしてフィナーレでふたたび軽快に響くフルート。あまりの響きの豊かさに圧倒されます。

Hob.IV:4 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.4 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
4番も1楽章構成。すでにランパルとシュルツの妙技の連続に感覚が麻痺している感じ。この感じ、純粋に奏者の虚心坦懐な姿勢から滲み出る音楽だからこそだと思います。実に自然な流れで、変な作為は皆無。終盤、少しテンポを落とす部分のセンスの良さに唸ります。これまた名演でした。

このあと弦楽四重奏曲Op.76のNo.5をフルートデュエットに編曲した曲など2曲が続きますが、2人の妙技は変わらないため、レビューは割愛させていただきます。

いやいや、久しぶりに聴きなおしたこのアルバム、2人のフルーティストの存在感は図抜けたものがありますね。ランパルの豊穣な響きは想像通りですが、シュルツはさすがウィーンフィルの首席奏者だった人だけに、ランパルの美点を踏まえて完璧に合わせてきています。そしてこの名演の影の立役者はファゴットのジルベール・オダン。この人のリズミカルかつ軽やかなタッチのサポート無くしてこの名演は成り立たなかったでしょう。聴き終わると不思議に幸せな気持ちになる演奏でした。古楽器による静謐な響きのクイケン盤に対し、現代フルートの豊かな音色でのゴージャスなアンサンブルがこのアルバムのポイント。ゴージャスといっても悪趣味さは皆無。純粋に豊かな響きの魅力が圧倒的だということです。未聴の方は是非。評価は未レビューの曲も含めて全曲[+++++]とします。

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tag : ロンドン・トリオ

ハイドンとアビンドン卿

前記事でアップしたクイケン・アンサンブルのロンドン・トリオがあまりに良かったので、ロンドン・トリオがらみの未聴のアルバムを取りあげます。

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デレク・マカロック(Derek McCulloch)カフェ・モーツァルト(Cafe Mozart)の演奏による、ハイドンとハイドンの友人でもあったのアビンドン卿の室内楽や歌曲まとめた企画もの。収録は2007年5月31日と6月1日、ロンドンの北約50キロのヒッチン(Hitchin)近郊の街プレストン(Preston)にあるテンプル・ディンスレー(Temple Dinsley)でのセッション録音。ご覧のとおりレーベルはNAXOS。

アルバムタイトルは「ハイドンのアビンドン卿」。アビンドン卿とは、第4代アビンドン伯爵、ウィロービー・バーティという人で1740年生まれのイギリスの貴族。イギリス中部のマンチェスター東方のゲインズバラ(Gainsborough)生まれで、政治記者をしていた上、音楽家にとってのパトロンであった他、自身も作曲をしていた人。義理の父の縁でクリスチャン・バッハなどと親交があった他、ハイドンの友人でもあったようで、作曲はハイドンがすすめたとされています。

このアルバムには30曲が収められていますが、約半数がアビンドン卿が作曲したもの。もちろんハイドンと比べると作品の質に差のあるのは当然のことながら、こうして200年以上経過してから録音されアルバムになるとはアビンドン卿自身も想像だにしなかった事でしょう。

今日はそのなかから、もちろんハイドンの曲を選んでレビューしましょう。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールはロジャーズ・カーヴィー=クランプ(Rogers Cobey-Crump)、伴奏はスクエア・ピアノでキャサリン・メイ(Katharine May)。イギリスっぽい発音の艶のあるテノールによる聴き慣れた曲。スクエア・ピアノの音はチェンバロっぽい音ですが、チェンバロとも少し違い箱っぽい音に感じます。朗々とした声の魅力で聴かせる歌ですが、スクエア・ピアノのリズムがちょっと重いのが惜しいところ。録音は鮮明で比較的オンマイクの音。前後に置かれたアビンドン卿の曲のリコーダーの音色が実に手作り感ある音楽だけに、この曲が逆に引き立つ感じなのが微笑ましいところ。

Hob.IV:9 / Op.38-4 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.4 [G] (1784)
バリトン・トリオの曲に由来するフルート三重奏曲。ロンドン・トリオ同様1794年に書かれた曲。演奏はフルートはエドウィナ・スミス(Edwina Smith)、ヴァイオリンがオリヴァー・センディグ(Oliver Sändig)、バス・ヴィオールがイアン・ガミー(Ian Gammie)の3人。バリトンの精妙な音色のイメージが濃い曲ですが、フルートの清涼な音色に変わり、曲のイメージも変わってきます。アンサンブルの精度はそれほど悪くありませんが、やはりリズムの重さが少々気になるところ。知り合いの演奏会のようなカジュアルな感じに聴こえます。ハイドンの演奏当時はみんなで演奏をこのように楽しんだのだと言われているような演奏。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
1曲目と同様テノールのカーヴィー=クランプとスクエア・ピアノのキャサリン・メイの組み合わせの歌曲。カーヴィー=クランプの声はハイドンの歌曲にぴったりの声。朗々としかし叙情的なニュアンスも感じさせるデリケートな歌唱。ここではスクエア・ピアノの箱庭的な音色も雅な感じがしてなかなか盛り上げます。訥々とつぶやくようなスクエア・ピアノがようやく本領発揮。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
歌手がソプラノのレイチェル・エリオット(Rachel Elliott)に替わります。非常に透明感のある伸びの良い声。ハイドンの歌曲のイメージにドンピシャで絶妙の美しさ。短い曲ながらこのアルバムの聴き所でもあります。

Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
ロンドン・トリオの2番の「貴婦人の姿見」のメロディーをフルート三重奏曲にしたものですが、ここでは最初のフレーズをテノールのカーヴィー=クランプ、指揮のデレク・マカロック、ヴァイオリンのミカエル・サンダーソンの3人が歌った導入という凝った演出。その後はフルートはジェニー・トーマス(Jenny Thomas)、エドウィン・スミス(Edwin Smith)とバス・ヴィオールがイアン・ガミーの3人の演奏。もちろん前記事のクイケン・アンサンブルの演奏の完成度には及びませんがなぜか手作り感のある演奏がとても印象に残ります。技術的な完成度だけが音楽を印象づけるものではないことを示してるような演奏。ハイドンの美しいメロディーを一生懸命演奏している汗を感じるような演奏。チェロではなくバス・ヴィオールの音色が変化を加えていますね。

Hob.XXVIa:16 / 12 Lieder No.4 "Gegenliebe" 「かなえられた恋」 [G] (1781)
先程美声に酔ったレイチェル・エリオットのソプラノに今度はイアン・ガミーのギターが伴奏を担当。やはり美しい声にうっとり。気に入りました。

Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
こちらは声の入らないフルート三重奏曲。2番のメンバーと同じメンバー。この演奏を聴くと逆にクイケン・アンサンブルの超自然的演奏の素晴らしさが際立ちます。もちろんこちらの演奏が悪い訳ではく、先程来の手作り感を感じるなかなかの演奏。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲「精霊の歌」をレイチェル・エリオットの透明な声とスクエア・ピアノの組み合わせで。表現の幅はそこそこながら、透明感溢れる声の美しさは絶品。特に高音域の自然な響きと伸びは素晴らしいもの。

Hob.XXXIa:180 - JHW XXXII/3 No.173 / "Tak your auld cloak about ye"
この曲は作品番号ではこれなんですが、アルバムの曲には"When icicles hang on the wall"とあり、スコットランド歌曲集には同名の作品が見当たりません。カーヴィー=クランプのテノールにヴァイオリン、スクエア・ピアノ、バス・ヴィオールの組み合わせ。1分少々の小品。不思議と叙情的な語るような歌。アルバムの最後に置かれた曲。

カフェ・モーツァルトという団体の「ハイドンとアビンドン卿」という企画もの。アビンドン卿の曲にはちゃんと触れませんでしたが、ハイドンの時代に同時代で聴いているようなくつろいだ雰囲気が味わえる好企画と言ってよいでしょう。どの曲も技術的にはまだまだ上があるような演奏ですが、不思議に懐かしい感じと技術の欠点が粗と映らないない素朴な音楽の楽しみを感じるアルバム。ハイドンが好きな方には一度聴かれる事をお薦めします。評価は全曲[++++]とします。

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tag : スコットランド歌曲 ロンドン・トリオ 英語カンツォネッタ集 歌曲

クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」

今日は好きなアルバム。

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クイケン・アンサンブル(The Kuijken Ensemble)の演奏で、ハイドンのフルート三重奏曲「ロンドン・トリオ」の4曲とおそらくハイドンの作ではないフルート四重奏曲Op.5の6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は1992年の1月と3月、アムステルダムの西方10キロほどの街、ハールレムにあるVereenigde doopsgezinde Kerkという教会でのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。今日はハイドンの室内楽の名曲ロンドン・トリオ4曲を取りあげます。ロンドン・トリオの演奏はフルート・トラヴェルソがバルトルド・クイケン(Barthold Kuijken)とマルク・アンタイ(Marc Hantaï)、チェロがヴィーラント・クイケン(Wielaand Kuijken)の3人。

ACCENTは私にとって憧れの神聖なレーベル。LP全盛期の1980年代はじめに代々木のジュピターレコードのご主人に教えていただいた当時は知る人ぞ知るレーベル。センスのいいジャケットと透明感溢れる素晴らしい録音のLPを何枚か薦められて手に入れました。穏やかな朱を少しさしたベージュのような微妙な色の地にギリシャ雷紋模様の縁取りがえもいわれぬ高貴な感じを与えて何とも所有欲を満たすレーベルでした。

その当時そのACCENTの代表的なアーティストがクイケン3兄弟でした。クイケンのアルバムは今でこそいろいろなレーベルからリリースされ人気のほどが窺えますが、このレーベルの雰囲気の良いジャケットとクイケンの清楚な音楽が非常に新鮮に感じられたものです。

ロンドン・トリオは1794年、ハイドンがロンドンに滞在している間に作曲したもの。2本のフルート・トラヴェルソとチェロのための4曲の三重奏曲。第1番と第2番は歌曲のHob.XXXIc:17「貴婦人の姿見」のメロディをもとにした変奏曲。ベルリンに保管されている自筆譜に「ロンドン、1794年」との注記があるとのこと。3番と4番も他の場所で発見されたが前2曲と明らかに同じシリーズのもの。

貴婦人の姿見の演奏は下記をご覧ください。

Hob.XXXIc:17a / "Lady's Looking Glass" 「貴婦人の姿見」 [D] (1791/95)

前置きはこのくらいにしてレビューに入りましょう。

Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
1番は3楽章構成。1楽章は2本のフルート・トラヴェルソの音階の織りなす素晴らしい音楽。クイケンとアンタイの息がピタリと合って、素朴なフルート・トラヴェルソの美音を満喫。チェロはキリッとしたリズムでサポートします。たった3本の楽器のアンサンブルですが、その奏でる音楽の豊かさは素晴らしいもの。ハイドンは楽器の音色に対する鋭敏な感覚をもっていたと思いますが、まさにフルート・トラヴェルソの音色の特色を存分に発揮した曲。
2楽章はアンダンテ。ぐっと沈み込む情感。3人の奏者が互いの奏でるメロディーをよく聴いて演奏しているような、完璧な音の重なり。
フィナーレはフルート・トラヴェルソの音階によってトランス状態に達しそうな独特の旋律。究極的な自然さ。各楽器のテンポの刻みの正確さと弾むようなリズム、自然なデュナーミク。そしてワンポイント録音のような極上の自然な響き。まさに室内楽の最高の楽しみを味わえる曲ですね。

Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
2番はアンダンテとアレグロの2楽章構成。アンダンテは上記の「貴婦人の姿見」のメロディーそのままの曲。最近聴いたカークビーの美声の記憶が蘇ります。ハイドンのつくったメロディーの中でも最高に美しい曲の一つでしょう。フルート・トラヴェルソの奏でるメロディーもソプラノに劣らず素晴らしいもの。意識が天上に吸い寄せられていくような快感。脳内に静かにアドレナリンが広がる感じ。至福の一時です。雅な音色、完璧な演奏、技巧を超えた祈りにも似た純粋さ。アレグロは前楽章の変奏のようなフルート・トラヴェルソの音階を主体とした短い曲。前曲の興奮を鎮めるような曲。

Hob.IV:3 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.3 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
第3番は再び3楽章構成。1楽章はスピリトーソ。快活なメロディーを2本のフルート・トラヴェルソが交互に押し寄せるさざ波ように呼応するように響宴。このメロディーのやり取りは録音で聴くのは惜しいですね。実演でのやりとりを実際に見てみたいです。美しいメロディーなのにスリリングな音楽的魅力もある演奏。
つづくアンダンテは前楽章の溌剌とした演奏を冷ますようにゆったりと落ち着いた音楽。フルート・トラヴェルソの中低域の美音を満喫できます。深い深い呼吸と吸い込まれるような間の織りなす究極のリラックス。フルート・トラヴェルソの持続音が永遠に続きそうな響き。
3楽章はアレグロ。今度は色彩感を鮮明にしようとするように吹き上がる音階の魅力。良く聴くと速いパッセージのメリハリのついた音量コントロールが非常に巧みで、自然な音楽が技術に裏付けられている事がわかります。

Hob.IV:4 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.4 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
最後の曲は1楽章構成。アレグロでソナタ形式の構成。この曲でも冒頭からフルート・トラヴェルソの美音に耳を奪われます。交互に吹き上がるフルート・トラヴェルソの音階の美しさが絶妙。途中チェロのリズムがすこし練るように変化して変化をつけているのがわかります。

クイケン・アンサンブルの演奏によるハイドンの「ロンドン・セット」は室内楽を聴く最高の悦びに溢れた演奏。自然な感興、雅な音色、超自然な録音と素晴らしいプロダクションです。今更ながらハイドンの全盛期に書かれたこの曲の素晴らしさを再認識した次第。もちろん評価は[+++++]としています。

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tag : ロンドン・トリオ ジュピターレコード

【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽

今日はホグウッドの室内楽と歌曲などを集めたアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団の演奏によるハイドンの室内楽と歌曲。ハイドンがイギリスを訪問した際に作曲した曲を集めたアルバム。DECCAオーストラリアによる廉価盤のシリーズであるELOQUENCEシリーズの2枚組です。収録曲目は収録順にスコットランド歌曲5曲、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:18)、弦楽四重奏曲曲Op.71 No.3、英語による歌曲「貴婦人の鏡台」(Hob.XXXIc:17a)、ロンドン・トリオNo.2(Hob.IV:2)、英語による歌曲「牧歌」、「人魚の歌」、フォルテピアノのための小品、ロンドン・トリオNo.3(Hob.IV:3)、英語によるカンツォネッタ「おお、美しい声よ」(Hob.XXVIa:42)、そして最後は交響曲94番「驚愕」の室内楽編曲版。収録は1978年9月にロンドンのロスリン・ヒル教会で。

アルバムにはこの組み合わせでの初CD化との記載があります。今日はこのアルバムから歌曲を中心にいくつかの曲を取り上げましょう。歌はソプラノがユディス・ネルソン(Judith Nelson)、テノールがポール・エリオット(Paul Elliott)です。

ユディス・ネルソンは1939年アメリカシカゴ生まれのソプラノ。ミネソタ州ノースフィールドのSt. Olaf Collegeで音楽を学び、1979年ブリュッセルでモンテベルディの「ポッペアの戴冠」でオペラ界にデビュー、その後は欧米で活躍。ポール・エリオットは、1950年生まれのイギリスのテノール。最初はロンドンのセント・ポール寺院の合唱隊で歌っていたが、その後声楽のトレーニングを受けて実力をつけ古楽の世界で活躍するようになったとのこと。

CD1-4 「エジンバラの花」(Hob.XXXIa:90)
CD1枚目の冒頭に置かれたスコットランド歌曲5曲の中で抜群に美しい曲。ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏による序奏は郷愁に溢れたメロディー。伴奏は落ち着いた響き。ユディス・ネルソンの歌は非常に艶やかで表情豊か。この録音時39歳ということになりますが、非常に若々しい張りのある声。

CD2-1「貴婦人の鏡台」(Hob.XXXIc:17a)1794/5年作曲
先日取り上げたエマ・カークビーのアルバムにも取り上げられていた曲。フォルテピアノの伴奏による短い曲ですが、ネルソンの声の美しさが堪能できる曲。カークビーとはまた違った良さがありますね。驚くのは次の曲。

CD2-2 フルート3重奏曲「ロンドン・トリオ」No.2(Hob.IV:2)1794年作曲
これは「貴婦人の鏡台」と同じメロディー。2本のフルートとチェロによる美しいメロディのアンサンブル。声も良いのですが、美しいフルートの音色によるメロディーもいいもの。えも言われぬ至福感。つぎつぎと訪れるメロディーのさざ波。チェロの雅な響きとフルートの音色が醸し出す優しい響きが静かな感動を呼び起こします。

CD2-3 「牧歌」(Hob.XXVIa:27)「人魚の歌」(Hob.XXVIa:25)1794年作曲
こんどは英語によるカンツォネッタ集から2曲。ホグウッドのフォルテピアノによる伴奏にのってまたユディス・ネルソンの若々しい声の魅力を味わえる歌。ホグウッドは特に雄弁でもなく、さっぱりとした伴奏。

このアルバムに含まれる曲はライナーノーツによればすべて1978年9月の収録ということで、バラバラに収録されたものを集めたアルバムではなさそうです。「貴婦人の鏡台」「エジンバラの花」「おお、美しい声よ」がいい出来で[+++++]としました。その他の曲は[++++]です。ピアノ三重奏曲、弦楽四重奏曲もなかなか聴き応えがあります。ハイドンがイギリスを訪問したときに作曲したものをまとめた企画ものという意味でも良いアルバムですですので、歌曲好き、室内楽好きの方にはおすすめの良いアルバムです。

(追記)後日聞き直したところ、ザロモンによる交響曲94番「驚愕」の室内楽編曲版も素晴らしい演奏ということで評価を[+++++]にしました。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : スコットランド歌曲 英語カンツォネッタ集 ピアノ三重奏曲 ロンドン・トリオ 弦楽四重奏曲Op.71 古楽器

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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