ギドン・クレーメル/ユーリ・スミルノフのヴァイオリンソナタ(ハイドン)

またまたLP。オークションで素晴らしいアルバムを手に入れました。

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ギドン・クレーメル(Gidon Kremer)のヴァイオリン、ユーリ・スミルノフ(Youri Smirnov)のピアノで、コレルリのヴァイオリンソナタOp.5のNo.1、ハイドンのヴァイオリンソナタ(ピアノトリオHob.XV:31の編曲)、ショーソンの詩曲Op.25、ヴィエニヤフスキの創作主題による華麗なる変奏曲Op.15の4曲を収めたLP。収録情報は記されていませんが、ネットで調べると1975年にリリースされたもよう。レーベルは旧ソ連のMelodiya。

ジャケットに写るクレーメルが若い! ジャケットの解説には短いクレーメルの紹介文がロシア語に加えて英語でも記されていますが、クレーメルは1969年、イタリアジェノヴァで開催されたパガニーニ国際コンクールで優勝、翌1970年、モスクワで開催されたチャイコフスキー国際コンクールでも優勝しています。レーベル面をよく見てみると、チャイコフスキー国際コンクールの優勝者ギドン・クレーメルと記されており、このLPがそれを受けて録音されたものであろうことがわかります。今でこそ世界最高のヴァイオリニストの1人であることに誰も疑いを持つ人はいないでしょうが、クレーメルが世にその才能を知られるようになった時期の録音であり、しかもそのアルバムにハイドンの曲が含まれているということに運命を感じます。

ちなみにクレーメルのハイドンの録音はほとんどなく、これまで唯一と言ってもいいものが以前取り上げたものです。

2010/07/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : クレーメルの「十字架上のキリストの七つの言葉」

こちらもクレーメルの孤高の才気に触れられる名演奏でした。

さて、今日取り上げるこのアルバム、レコードに針を落とした途端、クレーメルの狂気を帯びたようなヴァイオリンの音色に圧倒されます。1曲目はコレルリのヴァイオリンソナタですが、いきなり圧倒的な存在感。そして伴奏のユーリ・スミルノフもクレーメルの霊気に触発されて神がかったような伴奏。弱音に恐ろしいほどの集中力が宿り、奇跡的なセッション。LPも極上のコンディションゆえ、斬りこむようなヴァイオリンの音色に一瞬にして心を奪われました。

Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
肝心のハイドンです。1曲目のコレルリのあまりの衝撃に耳を奪われていたからか、ハイドンの自然な入りが、やけに大人しく聴こえますが、耳を澄ますとクレーメル独特のえぐるような殺気は健在。徐々にヴァイオリンの響きも強まります。素晴らしいのがユーリ・スミルノフのピアノ。控えめな音量ながら、クレーメルと完全に呼吸が合い、サラサラと伴奏を進めます。クレーメルのヴァイオリンの音色はものすごい浸透力。こちらの耳でははく脳髄を直撃するような音色。デュナーミクの変化の幅の広さ、表情の多彩さ、抑制の効いたボウイング、どれをとっても常人離れしています。演奏からアーティスティックなオーラが出まくっています。
2楽章構成の2楽章はゆったりとしたリズムでスミルノフが入りますが、クレーメルが入ると鋭い音色で緊張感が一気に高まります。特に低い音の迫力がものすごいですね。眼前でヴァイオリンを弾いているようなリアルな録音。最後の弓裁きは神業的。もう言うことありません。

このアルバム、人類の至宝です。デビュー当初のクレーメルの才気あふれる演奏を真空パックで現代にそのまま持ってきたような素晴らしい録音。クレーメルもスミルノフも絶品。この演奏はハイドンの曲の名演奏ではなく、クレーメルという天才ヴァイオリニストのデビュー当時のはちきれんばかりのエネルギーを収めた演奏として貴重だということです。カルロス・クライバーが驚愕を振ったライヴにも同じような印象を抱きましたが、稀有な音楽的才能を持った人だけがなしうる奇跡的な演奏の貴重な記録ということですね。ebayなどでこの演奏を含むドイツ盤などは見かけましたが、このアルバム自体は入手は結構難しいのではないかと思います。出会いに感謝ですね。評価は[+++++]というか、もう一段上げたいくらいです。音源が残っていたら是非CD化すべきアルバムですね。

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tag : ピアノ三重奏曲 ヴァイオリンソナタ LP

アルベルト・ボローニ/ジュゼッペ・モドゥーニョのヴァイオリンソナタ

2日ほど仕事が多忙で更新をお休みしてしまいました。今日は珍しい曲を。

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アルベルト・ボロー二(Alberto Bologni)のヴァイオリン、ジュゼッペ・ファウスト・モドゥーニョ(Giuseppe Fausto Modugno)のフォルテピアノの演奏で、ハイドンのヴァイオリンソナタ5曲を集めたもの。ハイドンにはヴァイオリンソナタとして作曲されたものはほとんどないのですが、ピアノ三重奏曲の中にはヴァイオリンとフォルテピアノのために当初書かれたものを編曲したものが残っているということが知られています。それ以外にもハイドンの作曲によるヴァイオリンソナタがあるのではということでまとめられたアルバム。収録は2009年1月12日、13日にイタリアのボローニャ南部のF1サーキットが有名なイモラのモンシニャーニ・ササテッリ宮殿でのセッション録音。レーベルはマーキュリーが輸入するCONCERTOというイタリアのレーベル。いつも通り気が利いたキャッチコピーの帯と丁寧な日本語解説がついたもの。今回も帯の名コピーを紹介しておきましょう。

『誰も知らなかったハイドンの新境地?! その「極上の実体」は、本盤を聴いてのお楽しみ』

このアルバム、古楽器による演奏なんですが、独特の味わい深い音色。特にモドゥーニョの弾くフォルテピアノの音はかなり変わってます。楽器はJohann Schantzという人の作で1815年のものとの記載。ついでにヴァイオリンはSanto Serafinoという1734年のもの。こちらも高音の伸びが素晴らしい音色です。

ヴァイオリンのボローニはフィレンツェ、ロッテルダムで学び、ヨーロッパの様々なコンクールで入賞し、その後は室内楽アンサンブルなどで活躍。日本の蓼科音楽際にも来ているそうなのでご存知の方もいるでしょうか。現在はアメリカの大学や、イタリア、ピサ近郊のルッカのボッケリーニ高等音楽院で教鞭をとっている人。

フォルテピアノのモドゥーニョはボローニャのマルティーニ音楽院を卒業後、ボローニャ大学で文学を学び、作曲や指揮もするそう。イェルク・デムスやニキタ・マガロフなどに師事したとのこと。欧米や日本でもコンサートを重ねているほか。カリフォルニア大学や、昭和音楽大学でも講義を持っているそう。昭和音楽大学は調べたら新百合ケ丘の駅前なのですぐ近くです。2004年から2007年まではアバドが振っていたモーツァルト・オーケストラの実務秘書を務めるなど、いろんなことをしていますね。

二人とも教鞭をとる身故か演奏はキリッと引き締まったいい演奏。

Hob.XVa:1 / Sonata [B flat] (????)
最初の3曲はハイドン作か疑わしいと指摘するサイトもあります。まずはモドゥーニョの味わい深いフォルテピアノの音色と古楽器の雅な音色でキリッと伸び伸び弾くボロー二のヴァイオリンの音色の美しさに耳がいきます。1楽章の曲想はハイドンの作にしては少々単調に感じるのが正直なところ。研究者ではありませんので真偽のほどを判定する能力は持ち合わせていませんが、伴奏とメロディーがハッキリわかれ、それぞれの変化と絡み合いの妙のようなものが感じられないのが正直なところ。2楽章のアダージョ・カンタービレもメロディーラインはシンプルなものの、中間部の盛り上がりはなかなかの迫力。フィナーレは明るいあっけらかんとしたなかにほのかな影がある曲想。なかなか味わいのある曲ですが、ハイドンの曲想とは少し異なるような気もします。

Hob.XVa:2 / Sonata [D (????)
この曲は前曲とは異なり、かなり充実した曲想。単にメロディーと伴奏という枠を越えて、楽器間の掛け合いと感興が感じられる名曲。ヴァイオリンが空間に響き渡る快感とフォルテピアノが刻むリズムの妙。1楽章は充実感が残ります。2楽章のポコ・アダージョは落ち着いたフォルテピアノのリズムにのってヴァイオリンが遊ぶような曲想が時間に溶け込むような自然さ。フィナーレはフォルテピアノがリードして曲を盛り上げます。この曲はハイドン作のような気がします。

Hob.XVa:3 / Sonata [C] (????)
曲の真贋判定のような雰囲気になってきましたが、3曲目はまた少し形式的な感じを強く感じる曲想。ヴァイオリンとフォルテピアノの掛け合いのスリリングさを強く感じる曲ですが、かなりわかりやすいメロディーラインをテーマにした曲。行進曲というか独特のメロディーが耳に残る曲。きっとライヴ受けする曲だと思います。2楽章のポコ・アダージョも決まった旋律をキーにした曲で、フィナーレも演奏は規律を保ったものの華美な印象の曲。ここまで聴いた感じだと2曲目が最も充実した曲想。

Hob.XV:31 / Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
ここからはハイドンのピアノ3重奏曲として知られた曲ですが、オリジナルがヴァイオリンとピアノのために書かれた曲ということです。短調の陰鬱なメロディーからはじまり徐々に明るさを帯びてくるところは流石の展開。この曲は2楽章構成。知っている曲だからかどうか、ハイドンの深みに溢れた曲に聴こえるところが不思議なところ。明らかに沈みこみが深く、表現の幅はだいぶ起伏が激しくなっています。曲もそうですが演奏も古楽器の演奏としては素晴らしいものです。ケチをつけるような部分は皆無。この曲の理想的な演奏と聴きました。

Hob.XV:32 / Piano Trio (Nr.31) [G] (before 1794)
やはり後半2曲の充実度は桁違い。ただ弾くだけでハイドンの音楽が溢れ出て来る感じが素晴らしい演奏。もはや言葉で説明する必要がないほどの充実感ですね。聴き慣れた曲の充実の演奏。フォルテピアノの几帳面な伴奏にのってヴァイオリンが自由に駆け回る様子は安心して聴ける素晴らしいもの。
2楽章のアレグロも落ち着いた演奏の中に古楽器の音色の閃きと、天才的なフレージングが同居。やはり前3曲とは深さが異なるのが正直なところ。特に後半2曲の充実ぶりは明らか。結果的にハイドンの作品の閃きを浮かび上がらせることになってしまいました。

丁寧な造りとコンセプチュアルなアプローチはマーキュリーが輸入するアルバムに共通したもの。このアルバム自体は珍しい曲も収めているのですが、やはり前半3曲の完成度を考慮すると、前半の曲は[++++]、そして後半の2曲は[+++++]としました。

ハイドンのヴァイオリンソナタに焦点を当てた好企画のアルバムですが、結果的にハイドン作と確定した曲の素晴らしさにスポットライトを当てることになった形。ハイドンは天才ということでしょう(笑)

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tag : ピアノ三重奏曲 ヴァイオリンソナタ 古楽器

メニューイン&ブリテンによるヴァイオリンソナタ

今日は帰りがおそかったので短いレビューで失礼します。

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ユーディ・メニューイン(Yehudi Menuhin)とベンジャミン・ブリテンの組み合わせによるハイドンのヴァイオリンソナタ(XV:32)、ドビュッシーのヴァイオリンソナタ、シューベルトのヴァイオリンソナタ2曲(D574、D934)を収めたアルバム。演奏は1959年6月27日のオールドバラ音楽祭での録音。オールドバラはロンドン北東部の海岸沿いの街。ライヴとの表記もなく、録音に会場ノイズもあまりないことから放送用に収録されたものでしょうか。

今日はもちろんハイドンのヴァイオリンソナタ(XV:32)のレビュー。この曲はホーボーケン番号の体系からもピアノ三重奏曲ですが、いつも紐解く大宮真琴さんの本では触れていないので、「作曲家別名曲解説ライブラリー26ハイドン」という大部な本を取り出して調べると、もともとこの曲はチェロを欠いた二重奏が原曲であり、チェロパートはハイドン以外の人物によってあとから加えられたものと考えられているとのこと。はじめて知りました!
この曲は昨日取り上げたバイロン・シェンクマンのアルバムでも取り上げられていいて、それとの比較も楽しみで本盤を取り上げたのが正直なところ。

メニューインはもう紹介の必要はないかと思いますが、一応おさらい。 1916年ニューヨークに生まれたユダヤ系のヴァイオリニスト、教育者。テクニシャンというより、音色の精神性で聴かせるような印象を持っています。私はもう20年くらい前に昭和女子大人見記念講堂で外山雄三指揮のN響とベートヴェンのヴァイオリン協奏曲を生で聴いた覚えがあります。印象に残ったのはメニューインのヴァイオリンもですが、外山雄三のコントロールするN響が昭和女子大の素晴らしい響きに包まれてものすごいパワフルなサポートだったこと。メニューインのベートーヴェンも見事だったんですが、アンコールに取り上げたバッハのシャコンヌがのこぎりを自在に扱うような曲芸的演奏だったので逆にちょっと興ざめしたのを覚えてます。あとはメニューインが語ったものを本にまとめた「メニューインが語る 人間と音楽」という本も思い出深いですね。音楽を聴き始めた頃によんだのでこちらは非常に良い本だったとの記憶。振り返ってみるとメニューインの録音は実はほとんど持っていなくて、実はテレビや雑誌などの露出と比べても私にはなじみがない奏者だったんだと今気づいた次第。亡くなったのは1999年ベルリンにて。

一方ブリテンは作曲家でもありますが、私には指揮者としてのほうがなじみがあります。クリフォード・カーゾンと入れたモーツァルトのピアノ協奏曲20番、27番の演奏は昔ずいぶん聴いた愛聴盤。実はブリテンの作曲した曲のアルバムはほとんど持っておらず、完全な空白分野です(笑) とりあえず、指揮やピアノの名手としても知られていることは皆さんご存知のことでしょう。

さて、このアルバムの冒頭におかれたハイドンのヴァイオリンソナタの出来はどうでしょう。

1楽章は1959年としては十分に聴きやすい録音。ピアノの堂々とした響きが印象的な開始。ヴァイオリンはざらついた音色でメニューインらしく求心的な音色。現代の録音では決して出ないアーティスティックなヴァイオリンの音色ですね。古い録音を愛好する方にはたまらない音色でしょう。ヴァイオリンもピアノも軽さはなくザクザクとした実体感ある音色で厳しい掛け合い。昨日のシェンクマンの演奏とは50年近い時空を隔てた演奏ゆえ、表現方法も音色もすべて異なります。ヴァイオリンの名手の険しくも自在なヴァイオリンの音色と宝石のようなピアノの音色による名アンサンブルと言ったところでしょう。
2楽章も素晴らしく実体感溢れる音色の掛け合いは続きます。ヴァイオリンが音色の変化にそうとう気を使っている様子がわかります。一方ピアノは転がるように美しい音色で音を重ねていきます。掛け合いは火花がバチバチちるようなスリリングなもの。最初は昨日の演奏とくらべて音色の古さが耳についていましたが、レビューのために何度か聴いていると、古い音色の向こうにハイドンの音符の素晴らしい解釈が聴こえてくるから不思議です。なかなか良い演奏。この演奏も現在このような演奏をすること自体難しいでしょう。

シェンクマンの演奏とは全く異なりますが、この演奏も、ヴァイオリン、ピアノ奏法のテンポとメリハリが十分生気を持っていいて素晴らしい演奏に違いありません。この演奏も[+++++]とします。

ハイドンのあとにつづくドビュッシーも聴き入ってしまうほどの響きの変化。ヒストリカルなアルバムも良いですね。

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tag : ヴァイオリンソナタ ヒストリカル おすすめ盤

絶品、バイロン・シェンクマンのピアノソナタ集

今日は最近手に入れた中でとても良かったピアノソナタ集を取り上げます。

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バイロン・シェンクマン(Byron Schenkman)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集。ピアノソナタ5曲(XVI:35、XVI:36、XVI:34、XVI:30、XVI:37)とピアノ三重奏曲としても知られるヴァイオリンソナタ(XV:32)、そしてピアノ三重奏曲の2楽章をもとにしたアダージョ(XV:22/II)の計6曲。収録は2005年の5月、アメリカ中部のアイオワ州、アイオワ州立大学クラップリサイタルホールでのセッション録音。久々にアメリカものですね。レーベルはロスにあるCENTAURというレーベル。レーベルの赤いマークを見てわかるとおりケンタウルス(半人半馬の怪物)という意味のようです。

ピアノソナタの未聴盤はわりと積極的に手に入れるようにしているんですが、もちろん玉石混合。このアルバムは1つ前のレビューで紹介したデートレフ・クラウスの素晴らしい枯淡の表現を感じたアルバムとともに、最近手に入れた中では抜群の出来の一枚。

ピアニストのバイロン・シェンクマンははじめて聴く人。ジャケットには仏の慈悲のごとく微笑む優しい笑顔のピアニストが、ピアノの前にたたずむ姿。ジャケットからもオーラが出ています。アメリカ人のピアニストでハープシコードやフォルテピアノも弾くようです。ニューイングランド音楽院やインディアナ大学などで音楽を学び、最初はハープシコード、フォルテピアノ奏者として活躍し、その後ピアニストとしてデビューとのこと。このアルバムにはモダンピアニストとしてはじめての録音であることが表記されています。本人のサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

Byron Schenkmanのサイト(英文)

要はピアニストとしては本盤がデビュー盤ということですが、そうは思えない円熟の響きが聴かれます。

1曲目はハ長調のXVi:35、1780年頃の作曲。いきなり透明感の高い素晴らしい響き。最新の録音らしくホールに響くピアノの美しい音色が印象的。速めのテンポで指もよくまわってよく流れるメロディーライン。フレーズの切れ目はたっぷりと休符をとり、ふたたび快速テンポのメロディーラインに移り快速のまま終了。
2楽章は非常にゆったりした流れ、このアダージョ楽章の透明感と情感の高次のバランスがこのアルバムの聴き所の一つになっています。力が抜けて、メロディーのエッセンスのみが響いていく感じは悪くありません。
3楽章はアクセントをキリッと決めて、メリハリ感も聴かせどころになります。1曲目は全体の印象を左右する重要な役割がありますが、透明感とテンポ感、表現の幅ともに良い演奏。最初の1曲はシェンクマンの力を正直に表した良い演奏と言えるでしょう。

2曲目はXVI:36、1780年以前の作曲。冒頭はぐっと大振りな勢いで挨拶代わりに見栄を切るようなインパクトのある特徴的な出だし。以降は、若干重さを感じるようなゆったりしたテンポで1楽章のメロディーを訥々と表現して行きます。2楽章は軽いタッチで美しい音色を生かした展開。抑えた部分の軽さの表現も十分にコントロールされています。このの人の巧さは、デリケートな弱音のコントロールでしょう。綿菓子をさわるときはその軽さに合わせて触れますが、そういった力加減が非常に巧い人という印象。3楽章のメヌエットはゆったり感満点の展開。ゆったりした流れのなかにハイドンの暖かいメロディーを楽しむ絶妙の演奏。

次は名曲XVI:34ホ短調。1780年代の作曲。冒頭の特徴的な曲想を軽々とさっぱりした指使いでこなします。速いパッセージを軽々とこなしますが、テクニックの誇示と言うような雰囲気は微塵もなく、素晴らしい指の動きで1楽章を終えます。2楽章のアダージョの音楽性は素晴らしいもの。この楽章にハイドンが込めた詩情を非常に自然に表現。特にテンポのコントロールが巧みで、ちょっとしたところでテンポを落とすのを効果的に使い、フレーズの切れ目を巧く表現しています。3楽章のクッキリした推進力も見事。勢いだけではなくフレーズのコントロールが巧いため曲のメリハリを有機的に描いているように聴こえます。この曲も素晴らしい演奏。これは凄い。

次のXVI:30は1776年の作曲。この曲も素晴らしい演奏。1楽章の非常に変化に富んだメロディーを巧く表現しているのに加え、後半のぐっとテンポを落とすところの表現も見事。ハイドンの曲の面白さをのツボがわかっている感じですね。2楽章は変奏曲ですが、変奏ごとの表情の付け方は孤高と言ってもいい澄み切ったもの。

ソナタの最後は名曲XVI:37、1780年頃の作曲。1楽章のクッキリとした旋律を右手の輝きに満ちたタッチで描き、テンポのコントロールも一定ながら、フレーズ感の休符を長めにとってメリハリ感は十分。あっさりとした演奏ながらこれ以上の表現は必要ないとも思わせる完成度。2楽章は意外に迫力に満ちたもの。冒頭の一音から聖堂の大伽藍を思わせる重厚な音色。そして消え入るようにつづくフレーズ。なんという解釈。この楽章はハスキルの演奏に代表される情感を色濃くだすものと思っていましたが、シェンクマンの描く2楽章は全く異なる険しい世界でした。そしてつづく3楽章は前楽章の静寂をうけて静かに始まりますが、途中から険しさも顔をみせるようになり、右手のキラメキ感とともに曲をすすめ、フィニッシュ。デュナーミクの繊細なコントロールが印象的な名演奏ですね。

そしてピアノ三重奏曲としても知られるヴァイオリンソナタ(XV:32)。ヴァイオリンはケイティ・ウォルフェ(Katie Wolfe)。アイオワ州立大学の准教授としてヴァイオリンを教えている人のよう。本人のサイトがありましたので、リンクを張っておきましょう。

Katie Wolfeのウェブサイト(英文)

ヴァイオリンとピアノの息がピタリとあって素晴らしいアンサンブル。シェンクマンのピアノに寄り添うようなケイティの落ち着いた音色のヴァイオリン。楽器が2台になったとたん掛け合いの妙が楽しめるんですね。この曲も素晴らしい出来。

最後はこのアルバムのアンコールピースのようなピアノ3重奏曲からのアダージョ(XV:22/II)。そっとピアノに振れるようなタッチで優雅なアダージョをゆったりと弾いていきます。ハイドンならではのシンプルながら味わい深いメロディー。この感興は聴いていただかないと伝わらないと思いますが、しみじみ心に響く名旋律。シェンクマンの極上のタッチで存分に楽しめます。最後の余韻の消え入る美しさは絶品ですね。

ふと見つけたこのアルバムですが、その演奏はハイドンのピアノソナタの魅力を存分に味わえる名演奏でした。評価はすべて[+++++]としました。別に超絶的なテクニックでも、突き抜けた個性を持つ訳でもないんですが、さらっと弾いているようでハイドンのピアノソナタの本質をえぐるような表現力があり、非常に説得力があります。久々に「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。ハイドンをこれから聴こうというひとにおすすめの一枚。今日はシェンクマンの素晴らしい演奏に酔いしれました。良いお休みでした。

この人にはこのアルバムより前に入れたフォルテピアノによる初期のハイドンのソナタ集が同じCENTAURレーベルよりリリースされているんですが、こちらも注文しなくてはなりませんね。

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tag : ピアノソナタXVI:35 ピアノソナタXVI:36 ピアノソナタXVI:34 ピアノソナタXVI:30 ピアノソナタXVI:37 ヴァイオリンソナタ ハイドン入門者向け

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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