【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)

なんとなく、このアルバムがリリースされているのは知ってましたが、手元に来たのはつい最近です。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲46番、22番「哲学者」、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの交響曲(BR C-2)、ハイドンの交響曲47番ののあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2014年6月16日から20日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。

このアルバム、ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻に当たるもの。第1巻については以前に記事にしております。

2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

全集の完成はハイドンの生誕300周年にあたる2032年と、東京オリンピックのさらに12年後という気の長い話ですが、ハイドンの全交響曲を演奏、録音するというプロジェクトの大きさを考えると妥当なものでしょう。デビュー盤の第1巻はなかなかの出来だっただけに、2枚目の出来は今後の全集の成否を占うものということで、これまた関心が集まるものです。世の中のハイドンファンもその出来に注目していることでしょう。また、現在全集の半ばまで来ているトーマス・ファイにとっては商業的なライバル出現ということで、うかうかしていられない存在ということかもしれません。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
前作と同様、古楽器のざらついた音色による迫力あふれる演奏が特徴。冒頭から躍動感にあふれ、かなりオケに力が入り、アクセントを執拗につけていくスタイル。ヴィヴァルディを得意としているアントニーニの得意とするスタイルといっていいでしょう。曲はシュトルム・ウント・ドラング期の最高傑作45番「告別」交響曲と同じ頃の作品。演奏によっては構成の見事さに焦点を合わせてくるところですが、アントニーニは荒々しさと力感を強調してきます。前作でアントニーニのアプローチは新鮮に映りましたが、この曲で改めて聴くとハイドンのこの時期の交響曲の魅力の一面を強調しているものの、ちと迫力に焦点を合わせ過ぎというように聴く人もあるかもしれません。このあたりが古楽器演奏の難しいところ。
つづく2楽章のポコ・アダージョは、この時期のハイドン特有の仄暗い情感を味わうべき楽章ですが、アントニーニは表情と音量を抑えて逆にさらりとこなしてきます。1楽章の喧騒に対して、あえて抑えて対比を鮮明にしようということでしょう。
そしてメヌエットは、堂々としたというよりも、こちらも淡々とした表情で描きます。どうしてももう少し豊かな表情づけを期待してしまうのはこちらの聴き方の問題でしょうか。
そして、フィナーレは1楽章の迫力の再来を予感させ、音量を抑えて始まりますが、そここで炸裂を予感させるようなキレ味を垣間見せて、盛り上がり切らず、聴くものをじらすようなコミカルな展開。非常にユニークな構成の曲を力感ではなくユーモアで聴かせる器を見せます。フィナーレはいい仕上がり。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
なぜか惹きつけられるユニークなメロディーのこの曲。アントニーニはこのユーモラスな1楽章を古楽器独特のさらりとした表現でゆったりと描きます。音楽自体の愉悦感に加えて古楽器のちょっとしたフレージングの面白さを織り交ぜて遊び心を加えていきます。弦楽器による伴奏の音階の音量を極端に抑えて静けさのようなものを感じさせ、結果的にユニークなメロディーを引き立てるといった具合。このアプローチはいいですね。
2楽章のプレスト、よくコントロールされた躍動感が心地よい楽章。前曲1楽章のちょっと力任せなところは影を潜め、曲の面白さを踏まえた粋な表現。ところどころで聴かせるキレの良いアクセントが効果的。
前曲につづきこの曲でも、早めのテンポであえてあっさりとしたメヌエットの表現。この曲ではこの表現に一貫性を感じます。最後の一音をさっとたたむように鳴らすあたりにもそうしたアントニーニの意図が見えるよう。そしてフィナーレは快速な躍動感で一気に聴かせます。この哲学者はしっくりきました。

この後、なんとも独特なヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの曲を挟みますが、この全集、ハイドン第1巻にもハイドンと同時代のグルックの曲を挟んでいるところをみると、時代の空気を他の作曲家の作品から呼び込もうという狙いでしょうか。私にはハイドンの引き立て役と感じられます(笑)

Hob.I:47 Symphony No.47 [g] (1772)
このアルバム最後の曲。このアルバムで一番力入ってます。素晴らしい迫力ですが、私にはちと力みすぎに聴こえてしまいます。いきなり耳をつんざくようなアクセントの連続。響きも少々濁って楽器が美しく鳴る範囲を超えているような印象。曲自体はとても美しいメロディーがちりばめられた曲ですが、アントニーニは完全にスロットル全開できます。抑えるところはもちろん抑えているのですが、やはり力みすぎて単調に聴こえてしまうような気がします。
2楽章はこれまで同様、さらりと表情を抑えた速めのアプローチ。あえて歌いすぎないところは古楽器による演奏としては珍しくありません。そしてさらりとしたメヌエットですが、この曲では1楽章からの力感重視のスタイルからか、かなりアクセントを明確につけてきます。そしてフィナーレは予想どおり嵐のような盛り上がり。強音の迫力は1楽章同様ですが、不思議とここでは1楽章ほどクドさを感じません。鮮やかなキレ味でたたみかけて終わります。

ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻。名刺がわりの第1弾につづいて、アントニーニのやりたいことがより鮮明に表されたアルバムということでしょう。演奏評に書いたように、哲学者ではこの曲を面白さを踏まえて余裕あるコントロールで曲を表現しているのに対し、最後の47番ではフルスロットルで痛快という領域を超える灰汁の強い表現を聴かせます。聴く人によって評価が分かれる演奏かもしれません。私の評価は哲学者が[+++++]、冒頭の46番が[++++}、そして47番は[+++]としたいと思います。

膨大なハイドンの交響曲全集の2枚目ですが、力まかせの演奏はちょっと心配です。古楽器では全集に至らぬものの、ホグウッド、ピノック、グッドマンなどの先人の録音がありそれぞれ良さがあります。現代楽器でもファイの知的な解釈による全集がある中、アントニーニのこのシリーズがハイドンの交響曲全集に一石を投じることができるかは、今後のリリースにかかっているといっていいでしょう。

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tag : 交響曲全集 交響曲46番 交響曲47番 哲学者 古楽器

アンタル・ドラティ/フィルハーモニア・フンガリカの84番(ハイドン)

昨日は父の三回忌法要。時のながれるのは速いもので、父が亡くなってから8日で2年になります。亡くなった年は桜が咲くのが遅く、葬儀を行った11日には桜の花吹雪が印象的でした。今年は例年通りでしょうか、桜は既に先日の雨で散り気味でしたが、幸い天気にも恵まれ、無事法要を終えることができました。

さて、4月最初のレビューは、ドラティ盤。ハイドンの交響曲といえば、まずドラティでしょう。

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アンタル・ドラティ(Antal Doráti)指揮のフィルハーモニア・フンガリカ(Philharmonia Hungarica)の演奏で、ハイドンの交響曲84番から95番の12曲を収めた4枚組のアルバム。今日はその中から84番を取りあげます。収録は1971年とだけ記載されています。ネットで調べると収録場所はドイツのエッセン州デュイスブルグの北西にあるマルル(Marl)という街にある聖ボニファティウス教会(St. Bonifatius)でのセッション録音ということです。レーベルはLONDON。

実は、このアルバムを聴こうと思ったのは、前記事で紹介したVPIのレコードクリーナーで、ドラティのLP版交響曲全集の今度は第5巻をクリーニングしたついでに、LPでパリセットのあたりを聴き直し、好きな86番やその前後の曲を聴いていたところ、なかでも84番の彫りの深さにあらためて聴き入ってしまいした。すかさず同曲のCDと聴き比べてみると、やはりLPならではのキレと定位感、骨格の確かさが魅力的な一方、CDの方はデジタルらしい、カチッとしたダイナミクスで、このアルバムの響きは悪くありません。レビューはCDですることにしましたが、クリーニングしたLPから流れ出てくる彫りの深いドラティのサウンドは実にいいものですね。

さて、アンタル・ドラティによるハイドンは何回か取りあげているものの、当ブログの趣旨からすると、まだ取りあげ足りないのかもしれません。過去のドラティ関連記事はこんな感じです。

2013/07/02 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!
2011/03/09 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティの受難
2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア
2010/12/31 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」2
2010/12/30 : ハイドン–オラトリオ : アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3

今更ですが、これまで当ブログではドラティの略歴についてなど、紹介していませんでしたので、少し調べてみました。

ドラティは1906年、ハンガリーの首都ブダペストの生まれの指揮者、作曲家。誕生日は4月9日ともうすぐですね。父はブダペストフィルのヴァイオリン奏者、母はピアノ教師だったそうです。フランツ・リスト音楽院でコダーイらに作曲、バルトークにピアノを習い、1924年にハンガリー国立歌劇場で指揮者デビュー。1928年にはドレスデン歌劇場でフリッツ・ブッシュのアシスタント、1928年から33年までミュンスター歌劇場の首席指揮者、1934年にモンテカルロ・ロシアバレエ団の指揮者などを歴任。1937年にはアメリカに渡り、ワシントンナショナル交響楽団に客演してアメリカデビュー。ニューヨークのニュー・オペラ・カンパニーの音楽監督、1945年にダラス交響楽団常任指揮者、1949年にミネアポリス交響楽団とアメリカの著名オーケストラの指揮者を歴任。1963年にはイギリスBBC交響楽団の首席指揮者になった事を機にヨーロッパの楽壇に復帰。その後、ヨーロッパの主要な歌劇場に客演、オーケストラの方は、1966年からストックホルムフィルの音楽監督、1971年からワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督、1975年からロイヤル・フィルの首席指揮者、1978年からはデトロイト交響楽団の音楽監督となっています。このアルバムのオケであり、ハイドンの交響曲全集という偉業をなしとげたフィルハーモニア・フンガリカは1957年にハンガリー動乱後の亡命者を中心に西ドイツで結成され、ドラティは設立当初から深い関係があり、後に名誉終身指揮者となっています。1988年にスイスで亡くなっています。

深い独特の険しい風貌が印象的で、繰り出される音楽は風貌同様彫りの深いものでした。特にハイドンの交響曲は今でもその素晴しさは色あせることはありませんね。

Hob.I:84 / Symphony No.84 [E flat] (1786)
この曲独特の深みがあるの癒しに満ちた序奏。ドラティの指揮で聴くとそれに険しい彫りの深さが加わり、素晴しい緊張感。やはりハイドンの交響曲を知り尽くしたドラティならではの手堅い演奏ですが、そこここにアクセントが置かれ、曲に推進力とキリリと引き締まった迫力を与えています。聴き進めるうちにグイグイとオケが引き締まり、1楽章の推進力は抜群。録音はまさに黄金期のDECCAサウンド。素晴しい実体感にとろけるような響きが乗り、音量を上げると眼前にオケが定位する素晴しいもの。教会での録音とのことでしょうが、独特のマルチマイクで鮮明に各楽器が録られ、しかも自然な実体感があります。
アンダンテに入ると、適度なゆったり感でハイドン独特の美しいメロディーをむしろあっさりとこなしていきますが、テンポ設定が絶妙。実に自然で、音楽が活き活きと踊り、しかも練ることはなく爽やかな感じ。分厚い低音弦の波が押し寄せ、徐々に迫力を増して行くところはこの曲の聴き所のひとつでしょう。
アンダンテよりもテンションをすこし下げたメヌエットの入り。メロディーラインの美しさはやはりハイドンならではですが、ドラティはそのメロディーの奥に潜む癒しの気配のようなものを感じ取って、とりわけゆったりとオケを鳴らします。このゆったり感はなかなか出せませんね。
静寂感を受け継ぐようにフィナーレは羽毛のような軽さの入りですが、すぐにオケが全開になります。どこかに静寂感を帯びたような不思議な高揚感。メロディーラインをただ受け継ぐだけではなく気配のようなものをしっかり受け継いでいることがよくわかります。どこか憂いを含むハイドンらしいフィナーレですが、ドラティ独特の骨格のしっかりした展開と推進力に満ちたオケの響きが相俟って、ハイドンの素晴しい音楽が異次元の引き締まり。終盤、穏やかになる部分の絶妙の力の抜き加減に鳥肌が立つよう。最後は彫りの深いドラティサウンド全開で終わります。

ドラティのハイドンは定番だけに、しっかり聴いたのはずいぶん前。特にパリセット以降の曲は他の演奏のレビューに追われてなかなか聴き直す機会がありませんでした。あらためて聴き直してみると、やはり流石ドラティという入魂の演奏。演奏自体の説得力が違います。ハイドンの交響曲の険しさ、優しさ、楽しさを実に良く踏まえた演奏です。いままでこのあたりの曲は[++++]の評価としてきましたが、この評価はかなり昔のもの。いろいろな演奏の素晴らしさを聴き、耳が肥えた現在になってもドラティのハイドンの素晴らしさは変わらないどころか、その本質的な素晴らしさにあらためて気づいたというのが正直なところでしょう。特にこの84番は絶品。[+++++]につけ直しました。

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あんまり素晴らしいので、再びLPで聴き直して楽しんでます。CDとはまた違った深い響きに酔いしれます。

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tag : 交響曲84番 交響曲全集 LP

アダム・フィッシャー/オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団の哲学者、24番

クリスマスやら忘年会やらで、ちょっと間が空きました。今日は前記事で「哲学者」を取りあげて、その独特の調べを他の演奏で聴きたくなって取り出したアルバム。

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アダム・フィッシャー(Adam Fischer)指揮のオーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団(Austro-Hungarian Haydn Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲全集から、今日はCD6の交響曲22番「哲学者」、24番を取りあげます。この2曲の収録は1989年4月、オーストリアのアイゼンシュタット、エステルハージ宮殿のハイドン・ザールでのセッション録音。レーベルはBRILLIANT CLASSICS。

ハイドンファンの方ならおそらく必ずこの全集は所有しているでしょう。ドラティの交響曲全集よりも廉価で手に入れやすいので、ハイドンの交響曲全集の入門盤として偉大な存在となっています。今日は哲学者目当てでこのアルバムのCD6を取り出してCDプレイヤーにかけたのですが、同時期の録音の24番が素晴らしいのでその2曲を取りあげる事にした次第。
アダム・フィッシャーはハイドンの交響曲を演奏したアルバムの中では重要な人なんですが、マイナー盤志向の強い当ブログでは過去2度ほど取りあげたのみ。

2011/01/23 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャーのマーキュリー、悲しみ、告別
2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後

アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲全集は手に入れやすさだけがポイントではありません。特に初期の交響曲でははち切れんばかりのエネルギーと推進力によって、ハイドンの交響曲の魅力をしっかり伝える名演奏にほかなりません。ちょっと残念だったのはハイドン没後200年の2009年に開催された「天地創造」のコンサートのもようを伝えるDVDが演奏が粗く、過去の名盤とはちょっと差がついてしまっていたことでしょうか。いずれにせよアンタル・ドラティに次ぐ交響曲全集をリリースするという偉業を成し遂げたわけですから、ハイドン演奏史に名を残した事は間違いありません。

このアルバムのCD6は4曲が収められています。今日取り上げる哲学者と24番は1989年の録音となりまが残りの2曲は2000年と11年も後の録音。この11年の時がフィッシャーの成熟につながったのでしょうか。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
前記事のベルンハルト・クレーほど弦、管楽器の対比を意識せず、純粋にメロディーラインをトレースしていくよう。おなじみの朴訥なメロディーラインの自然な佇まいはなかなか。良く聴くと各楽器が非常にデリケートなフレージングを聴かせています。楽器の精妙な響きの重なり具合が絶妙で非常にコントロールが行き届いています。徐々にホルンの響きの存在感が増していき、弦楽器の対比をしっかりつけるように変わってきて、最後はまた穏やかな表情に戻ります。
アダム・フィッシャーの真骨頂は速い楽章の生気漲る躍動感。これぞハイドンという躍動感でオケが畳み掛けます。不自然を感じさせない歌心もあって、ハイドンの交響曲のスケールに合わせた古典的躍動という感じが実にしっくりきます。
メヌエットは前楽章の流麗なプレストと明確に対比を表現したいのか、振りかぶったようにリズムを強調。楽章ごとの構造的な対比は見事。途中から現れるホルンが良く響いてまるでハイドン・ザールにいるような気分。
フィナーレはまさに躍動感の塊のような演奏。各パートが実にクッキリと浮かび上がりながらも、全体として非常にまとまった演奏。ハイドンの交響曲のフィナーレのツボを実によく押さえた演奏。

Hob.I:24 / Symphony No.24 [D] (1764)
哲学者と同時期の作品ですが、こちらの曲はハイドンらしい晴朗さとしっとりとした郷愁を感じる曲調の初期の佳曲。鮮烈な開始からオケが絶好調。哲学者のフィナーレよりもさらに躍動感にあふれた素晴らしい感興。そこここにちりばめられた創意工夫に目がくらむような展開。一瞬はさまれた短調のフレーズの儚い美しさと、躍動感溢れる明るいメロディーの織りなす万華鏡のような曲をフィッシャーが渾身のコントロール。こうしたハイドンらしい晴朗な交響曲の表現はアダム・フィッシャー盤の最もよいところ。
アダージョはフルートの美しいソロが聴き所。フルートは誰が吹いているのかわかりませんが、かなりの名手。厚みのある美しい音色がハイドン・ザールに響き渡ります。
フィッシャーのメヌエットはかなりしっかりと拍子を刻みます。オケはハイドン演奏のツボを心得ていて、フィッシャーのコントロールか、はたまた奏者の自主性かリズムもデュナーミクも完全に一つの音楽をみんなで奏でているような素晴らしい一体感。ハイドンを演奏する喜びがはじけ出すような演奏。
そしてフィナーレは、躍動することの悦びを我慢するような抑えた入りから、徐々にエネルギーが満ちて、音楽がめくるめく展開。慎み深い瞬間をはさみながらも曲を回想するような変奏が重なり、特に弦楽器が弓をフルに使ったような素晴らしいボウイングでメロディーを浮かび上がらせます。やはりハイドンのフィナーレの最上の見本のような演奏で締めくくります。

このアルバムは交響曲の番号順の収録なので、21番、22番、23番、24番と配置されていますが、今日取りあげなかった21番と23番は先に触れたように2000年と11年も後の録音。良く聴くと録音はやはり鮮明さが一段あがりますが、22番、24番に聴かれたすばらしい躍動感はすこし後退し、演奏も現代的な印象が強くなります。基本路線は変わらないものの印象は少し異なります。私の好きなのはやはり今日とりあげた古い時期の録音の方。アダム・フィッシャーがハイドンの交響曲全集に賭ける意気込みのようなものが伝わってくる熱いものを感じる演奏です。ということで、今日取りあげる演奏の評価は2曲とも[+++++]とします。残りの曲はやはりちょっと差がつくのが正直なところ。これは成熟というよりは、全集の録音がすすむにつれてアダム・フィッシャーの覇気がだんだん枯れてきていると解するべきでしょうか。

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tag : 交響曲全集 哲学者 交響曲24番

ベーラ・ドラホシュ/エステルハージ・シンフォニアのホルン信号他

なぜかNAXOSの交響曲全集巡りの勢いが止められず、次にいきます。

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ベーラ・ドラホシュ(Béla Drahos)指揮のニコラウス・エステルハージ・シンフォニア(Nicholaus Estergázy Sinfonia)の演奏で、ハイドンの交響曲27番、28番、31番「ホルン信号」の3曲を収めたアルバム。収録は1998年2月、ハンガリーの首都ブダペストのフェニックス・スタジオでのセッション録音。

ドラホシュはNAXOSの全集では、Vol.11、12、13、14、15、21、23、25、27の9巻を担当。このアルバムはVol.23です。前記事で取りあげたヘルムート・ミュラー=ブリュールとともにNAXOSのハイドン交響曲全集の中核を担う指揮者です。ドラホシュはなんとNAXOSではベートーヴェンの交響曲全集を担当しており、NAXOSレーベルの信頼も厚い指揮者という事が出来るでしょう。

ドラホシュは1955年、ハンガリーの南西部にあるカポシュヴァール(Kaposvár)生まれの指揮者。1969年、ハンガリー北部のジェール(Györ)音楽院に入り、1971年プラハで行われた国際フルートコンクールで優勝、翌年行われたハンガリーテレビ主催のフルートコンクールでも優勝するなどフルート奏者として有名になりました。1978年、ブダペストのフランツ・リスト・アカデミーを優秀な成績で卒業し、その後プラハ、ブラチスラヴァなどで数多くのコンクールに入賞するなど、旧東欧圏ではフルート奏者として知られた存在だったでしょう。その後ハンガリー放送管楽五重奏団の創設メンバー、リーダーを務め、また1976年からはブダペスト交響楽団の首席フルート奏者として活躍しました。近年は指揮者としての活動が多くなり、1993年からはハンガリー国立交響楽団(現ハンガリー国立フィルハーモニー)の指揮者など指揮者としても有名に。現在はご存知のようにNAXOSの看板指揮者の一人として大活躍です。

ニコラウス・エステルハージ・シンフォニアは1992年、このアルバムの収録にも使われたブダペストのフェニックススタジオのレコーディング・プロデューサーにより設立された録音用のオーケストラ。奏者はハンガリー国内の主要なオケの奏者が中心。NAXOSの録音が中心ですが、コンサートも開くようです。指揮者はドラホシュが終身指揮者となっています。

初期のNAXOSの交響曲全集を支えた1人であるドラホシュの演奏、好きなホルン信号を含むアルバムを選びましたが、これがまた素晴らしいんですね。

Hob.I:27 / Symphony No.27 [G] (before 1766)
非常に自然なソノリティの導入。この初期の曲を流麗な雰囲気を万全に表現。フルート奏者出身と聞いて木管楽器であるオーボエのコントロールに耳を峙てると確かに非常に滑らかなフレージングであることがわかります。ハイドンの活気ある音楽を楽譜通りに演奏し、生気もなかなかのもの。癖のない演奏というのが印象ですが、無色透明な印象の薄い演奏ではなく、ハイドンの音楽が指揮者の個性よりも浮かび上がってくるような理想的な演奏と言えばいいでしょうか、NAXOSがドラホシュを重用する理由がわかります。
2楽章はアンダンテ。弱音器つきの弦楽器が奏でる郷愁を誘うようなメロディーをリズミカルにさらりとこなしていきます。ここでも自然さが際立ちます。
この曲は3楽章構成。初期の曲だけにフィナーレの構成はまだシンプルな曲想ですが、迫力は十分。録音もスタジオ録音ということで空間を感じるような録音ではありませんが、程よくバランスの良いもので鑑賞には十分です。

Hob.I:28 / Symphony No.28 [A] (1765)
少し時代が下って1765年の曲。1楽章は非常にユニークなメロディーラインが特徴。音階の絡み合う様子を楽しむ曲。やはり曲自体の面白さを際立たせる万全のコントロール。かなりメリハリをはっきりつけますが自然さは崩しません。オーボエとホルンが見事な腕前でメロディーを補います。
前曲同様弱音器付きの弦楽器が奏でるほの暗いメロディー。このあと訪れるシュトルム・ウント・ドラング期の沈み込む情感を予感させる素晴らしいメロディー。ドラホシュはこれ以上ないほどに忠実に美しいメロディーを描いていきます。この楽章、ドラホシュのあくまでも自然なソノリティを重視するスタンスがドンピシャ。
メヌエットは耳に残る印象的なメロディーをベースとして、その展開を楽しむもの。中間部のふと昔を思い出すような美しいメロディーはドラホシュのデリケートな扱いで絶品。再び最初のメロディーに戻ります。
フィナーレは何とも言えないじっくりとした楽章。抑えた入りのメロディーが想像しない方向に展開し、聴き手の想像力を超えるハイドンの創意に驚くような造り。ホルンの音色が素晴らしい効果。

Hob.I:31 / Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
そしてこのアルバムの目玉のホルン信号。なんと極上の響き。トスカニーニ盤の素晴らしい冒頭のエネルギーを彷彿とさせる音の塊。各奏者のテクニックは非常に安定感のあるもの。ハンガリーの主要オケの名だたる奏者が集まっている事が頷けます。ホルンを目立たせたり、メロディーラインを強調する演奏が多いものの、ドラホシュはあくまでも自然な音楽を作る事に集中しているようで、オケ全体の音色が溶け合うように絶妙なバランスを保ちながら、活き活きとした音楽を作り上げていきます。ホルンの正確なリズムが痛快。ヴァイオリンを主体とした弦楽器のキレもハンガリー風のキレのいいもの。フルートももちろんニュアンスに富んだ演奏。1楽章は圧巻の出来。
2楽章のアダージョはソロ活躍する曲ですが、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ホルンとも抜群の腕前。ベルリンフィルよりもソロの腕前は上といっていいくらいの出来。各奏者が虚心坦懐に全体と調和しているという点ではベルリンフィル以上でしょう。まとめるドラホシュの腕前も確かなもの。ここでもハイドンの美しい音楽だけが抜群の存在感で残ります。終盤はとろけるようにしっとりとした展開。10分を超える長い楽章ですが聴き手を惹き付けてあっという間と感じさせる素晴らしい出来。
メヌエットは前楽章を踏まえてか、ゆったりとした入り。オケ全体の力が抜けて素晴らしい感興。うっすら聴こえるハープシコードの響きが雅さも加えて、オケ全体がスタジオ録音とは思えないほど溶け合った響き。完璧な響き。この曲の落ち着いた流れの真髄をつく演奏。
フィナーレは再びソロが活躍。絶品のソロがメロディーを受け継いでいきます。ヴァイオリン、フルート、ホルンと続きますが、それぞれ不安定さは微塵もなく惚れ惚れするような出来。終盤にはコントラバスのソロまであり、一貫した音楽が続きます。最後は全奏で盛り上がって終了。

ベーラ・ドラホシュ指揮のニコラウス・エステルハージ・シンフォニアの演奏するハイドンの初期交響曲3曲を収めたアルバム。そのナチュラルな解釈は個性的かどうかという議論が意味がないほどハイドンの交響曲の真髄をついたもの。今回あらためて聴き直してみ直した次第。評価はホルン信号が「+++++」他の2曲が[++++]としたいと思います。

同じNAXOSではミューラー=ブリュールがキビキビとした爽快さ、ニコラス・ウォードがじっくりとした古典の均衡を、ケヴィン・マロンは古楽器による色彩感豊かさ、パトリック・ガロワがレガート効かせたデュナーミクのコントロールと様々な個性を聴かせながら全体として素晴らしい演奏で全集を構成しています。このなかではミュラー=ブリュールが少し画一的な印象をかんじさせるくらいで、それぞれ素晴らしい演奏です。

唯一取りあげていないVol.1から5を担当するバリー・ワーズワース指揮のカペラ・イストロポリターナがちょっと粗さが目立ち、しかもザロモンセットなど大曲を多く担当しているので、その印象がNAXOSの交響曲全集の印象に影響しているのかも知れません。こうして取りあげたワーズワース以外の交響曲の演奏はどの演奏も一級品。千変万化するハイドンの交響曲を6人の指揮者で構成した異色の全集ですが、特に初期、中期の交響曲の出来は素晴らしいものがありますので、まだ手に入れていない方は是非入手してみてください。

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tag : 交響曲27番 交響曲28番 ホルン信号 交響曲全集

ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲

最近定番のNAXOSの交響曲全集巡り。今日はヘルムート・ミュラー=ブリュールです。

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ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲13番、36番、協奏交響曲の3曲を収めたアルバム。収録は1999年4月29日、8月26日から31日、ケルンのドイツ放送コンサートスタジオでのセッション録音。

ミュラー=ブリュールは今数えたところだとNAXOSの交響曲全集では、Vol.16、17、18、19、22、24、26、28の8枚のアルバムを担当。NAXOSの全集の出来を左右する中核を担当しているというところ。このアルバムはVol.22です。ミュラー=ブリュールは古いCharlin(シャルラン)のアルバムを以前取りあげていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

いままで当ブログでもちゃんと取りあげていませんでしたが、ミュラー=ブリュールの演奏も侮れません。

Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)
この曲は先日、橋本英二の素晴らしい演奏を取りあげたばかりですが、ミュラー=ブリュールの演奏もそれに劣らず、弾むロイヤルな感じが素晴らしい入りです。ティンパニが入ることで加わる厚み、ホルン4本で加わる潤いがこの曲の特徴でしょう。やや几帳面かなと思わせなくはありませんが、それはリズムを正確に刻んでいる事から来る印象でしょう。良く聴くとメリハリがきっちりついて、かなり踏み込んだコントロール。なおかつインテンポで畳み掛ける感じがえも言われず、素晴らしい1楽章の入り。キビキビとしたミュラー=ブリュールのコントロール、最高です。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。チェロのソロが大活躍。まるでチェロ協奏曲の2楽章のような展開。チェロは協奏交響曲でチェロを担当しているオレン・シェヴリン(Oren Shevlin)。シェヴリンのチェロはあっさりしながらも情感溢れる伸びのある弓使いでフレーズを重ねていきます。淡々とした表情に宿る深い郷愁といった感じ。
3楽章のメヌエットは音色は流麗ですが、フレージングはちょっと落ち着ききらない感じもして、メヌエットらしい割り切りと楔を打つような表現をもとめて少々未練も残ります。展開部の滑稽な感じは悪くありません。
フィナーレは例のジュピターと似た流れの曲ですが、ちょっとあっさり気味のヴァイオリンと豊かな響きのティンパニや管楽器の不思議な解け合いの中に進む感じ。1曲目はほどほどキビキビ感と新鮮な響きの織りなす美しい演奏といったニュアンス。

Hob.I:36 / Symphony No.36 [E flat] (before 1769)
おそらく前の13番より前に作曲された曲ではないかと思います。前曲同様のキビキビした感触が心地よい演奏。ハイドンの初期の交響曲の特徴を良く捉えた演奏。軽快なリズムに乗ってオケがキビキビと進めるようすは痛快そのもの。1楽章はただ推進力があるだけではなく、キレとアクセントの変化もあり、かなりメリハリのある素晴らしい演奏。
2楽章のアダージョはヴァイオリン、チェロのソロの生成りの布のような素朴なアンサンブルの美しさを聴くべき曲。特にヴァイオリンの良く通るフレーズは流石です。
メヌエットは弾む感じを良く残したもの。ホルンが被さって弾む感じをかなりうまく表現しています。じっくりした印象もあるものの基本的に鮮度で聴かせる演奏。ここは機転を利かせてささっといきます。
フィナーレも軽さがうまく表現された演奏。特徴的なメロディーラインの繰り返しで聴かせる曲ですが、室内管弦楽団の面白さが味わえる演奏と録音。

Hob.I:105 / Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
意外と迫力を感じる入り。他の演奏から想像される流麗さではなく、音を切り気味して演奏され、曲の構造を透き通るように聴かせる演奏。各ソロのテクニックは確かなものですが、溶け合うというよりは拮抗するアンサンブルという感じ。キレのいいリズムに乗って各楽器が鬩ぎあう感じ。録音上ティンパニがかなりのプレゼンス。後半は波が押し寄せるようなうねりの迫力が魅力の演奏。最後は各ソロがゆったりと溜めを伴った演奏から一同に介してオケに呑まれるように進み1楽章を閉じます。
耳に残るこの曲の他の演奏のイメージとはちょっと違いますが、各ソロがかなり鬩ぎあってまとまりこの曲の美しいメロディーを演奏するあたりの雰囲気は、独特のものがあります。聴き慣れた演奏の歴史に似せるのではなく、楽譜に忠実に演奏を構成したような新鮮さを伴う演奏。意外と踏み込んだ演奏ですね。
フィナーレは鮮度の高い演奏。ここでも音を切り気味にして新鮮さを表現しています。テンポはかなり速めだと思います。バスーンとオーボエがかなりのテクニックと美音で聴かせます。と思っているとヴァイオリンも素晴らしい響き。速いテンポを通しながら要所で聴かせる器もみせて曲を閉じます。最後は曲を聴かせながらもキレのいい迫力の音響で終了。

ヘルムート・ミュラー=ブリュールの指揮するケルン室内管弦楽団のハイドンの交響曲。NAXSOSレーベルの交響曲全集の中核を担う演奏です。キレのいいオケの響きが特徴の演奏ですが、ハイドンの真髄に迫る迫力と解釈という意味ではこれまでに紹介したウォード、ガロワ、マロンとはちょっとだけ差がつくのが正直なところ。鮮度の高い演奏で小気味好い響きが聴かれるものの、心情的にもう一歩の踏み込みが欲しい印象もあります。ただ、安定した演奏であるのも間違いなく、曲の面白さもそこそこ表現できており評価は微妙な線で悩みます。このアルバムは全曲[++++]と言うところでしょう。

久しぶりに聴き直していますがNAXOSの交響曲全集は廉価盤レーベルとは思えない踏み込みがあり、また6人の指揮者の個性を聴き分ける楽しみもあるいい全集でもあります。あと2人の指揮者の担当する演奏も近々取りあげなくてはなりませんね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲13番 交響曲36番 協奏交響曲 交響曲全集

ニコラス・ウォード/ノーザン室内管の77番、78番、79番

最近何枚か取りあげている、NAXOSの交響曲集。

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ニコラス・ウォード(Nicholas Ward)指揮のノーザン室内管弦楽団(Northern Chamber Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲77番、78番、79番と渋めの選曲。収録は1995年9月23日、24日、イギリス、マンチェスターの新放送センターのコンサートホールでのセッション録音。

ニコラス・ウォードはNAXOSの交響曲全集でも好きな指揮者の一人。以前26番「ラメンタチオーネ」を含むアルバムを当ブログで取り上げ、Haydn Disk of the Monthにも選定した名盤。その記事はこちら。

2010/12/14 : ハイドン–交響曲 : 【ブログ開設1周年記念】ニコラス・ウォードのラメンタチオーネ

ウォードの紹介は上のリンク先をご覧ください。ウォードの演奏は一言で言えばハイドンの現代楽器の演奏の原点の様な演奏。自然でハイドンの演奏の悦びに溢れていて、安心して身を任せて聴くことができる演奏。特段の踏み込みはないんですが、逆に音楽が吹き出してくるような実に慈しみ深い演奏。

今日このアルバムを選んだのは、NAXOSの交響曲全集の整理をしていると、ウォードが担当した1992年から93年にかけて録音された全集のVol.6からVol.10までの5枚からぽつんと離れて、1枚だけ1995年に録音されたこのアルバムがVol.20としてリリースされており、ちょっと聴き直してみたくなったから。

Hob.I:77 / Symphony No.77 [B flat] (1782?)
中野博詞さんの「ハイドン復活」などによると、ヴァントが得意とするこの前の76番交響曲とこの後の78番との3曲セットで1782年ごろに作曲されたもの。ハイドンがロンドン旅行を計画し、「イギリス紳士の音楽趣味をも考慮して作曲した」とされ、「美しく華やかで、しかも長すぎない三つの交響曲」として作曲されたとの事。ウォードの演奏はまさにこの言葉を地でいくようにイギリス趣味のさっぱりとしながらも気高い感じの演奏。中庸なテンポ、柔らかいオケの響き、そして自然な響きながら生気が満ちて幸福感満点。ホルンのとろけるような響きが加わりえも言われぬような気分。フレーズ間の間をたっぷり取る事で非常に落ち着いた展開。転調して展開するところも音楽の面白さのツボを抑えたコントロール。1曲目からウォードの術中にハマります。この中期の地味な曲の真髄をえぐる演奏。NAXOS交響曲全集の白眉と言っていいでしょう。ヴァントの76番に劣らぬ素晴らしい感興。
2楽章は弱音器付きのヴァイオリンの音色が美しいメロディーラインを奏でます。シュトルム・ウント・ドラング期のような濃い情感ではなく、どことなく爽やかさが漂うのがこの時期の特徴でしょうか。ウォードはここも自然さを保って、まさにこうしか演奏できないでしょうという説得力。
3楽章のメヌエットは弦のキレとアクセントの面白さがポイントの曲。
フィナーレは弾むメロディーを慌てずじっくり弾きこなしていきながら、徐々に興奮のピークを演出していきます。もはや曲を完全に掌握した上で自在にコントロールする感じ。フィナーレ盛り上げ方を聴いていると、まさに勝手知ったる自宅の庭を手入れするような完全にすべてを掌握して進める感じ。他のウォードのアルバムより録音が新しい分、多少明晰さもアップしています。NAXOSのアルバムの自然な録音は質が高いですね。これ以上の録音は必要ないと思わせる完成度があります。

Hob.I:78 / Symphony No.78 [c] (1782?)
短調の畳み掛けるメロディーラインからはじまる曲。冒頭からエネルギー感溢れる演奏。ツボははずしません。メロディーラインの美しさだけでなく、途中のアクセントの険しさはなかなかのもの。オケの秩序を乱しかねないくらいムチを入れているようで、オケもそれに応えて迫真の演奏。格別な生気が宿ります。
一転して慈しみ深い和音からはじまるアダージョ。前楽章の火照りを鎮めるような楽章。途中から短調に転調して、ハッとさせられますが、ウォードの演奏はその辺の変化を実に上手くコントロールして、やはり曲をこれ以上に上手く演出することは出来そうもないほどの説得力をもっています。かなりのダイナミックレンジにも関わらず、非常に自然な演奏。シンプルなメロディが様々に絡み合って非常に面白い効果をあげている様子が手に取るようにわかります。
前曲とはまた異なる面白い曲想のメヌエット。導入部も面白いのですが中間部が実にユニーク。ベースになるメロディーが変化して全く異なる曲想にからまれ、また戻るという感じ。
フィナーレも実にユニーク。いたずらっ子が走り回るような曲想。これは聴いていただかなくてはわかりませんね。78番は非常にユニークな曲。ここでもウォードは完璧な演奏。

Hob.I:79 / Symphony No.79 [F] (before 1784)
この曲は好きな曲。1784年頃の作品。ハイドンの交響曲の晴朗流麗な魅力が満ちた素晴らしい曲。ウォードは勘所をびしっと押さえてバランス感覚溢れる素晴らしい演奏。ハイドンファンの気持ちをぐっとたぐり寄せる演奏。演奏の美しさに鳥肌がたち動けなくなるような感覚に襲われるほどの素晴らしい演奏。晴朗さに脳内のアドレナリン噴出。後半様々に変化するメロディーがハイドンの筆の冴えを物語ります。
2楽章はヴァイオリンの奏でるメロディーと木管、ホルンの掛け合いによるくつろいだ曲。後半は速い曲になりますが、その変化と巧みなアクセントコントロールは室内オーケストラとしては最高のセンスとテクニックを聴かせます。
続いてどの曲にも似ていないメヌエット。フルートの奏でる旋律が弦に重なって響きに彩りを加えます。
フィナーレはイギリス趣味でしょうか、おさえて滑稽なメロディーを繰り返した入りから展開したところで、力をはじめて見せ、再び押さえたメロディーに戻り、その繰り返しで音楽が深まっていきます。ここでも間をしっかりとることで、音楽をキリッと引き締めます。この曲も名演。

ニコラス・ウォードによるハイドンの中期交響曲集。地味な存在の3曲ですが、それを極上の演奏で素晴らしく聴き応えのある曲として見事に演奏しています。やはりウォードの魅力はハイドンの曲の真髄をつく自然なコントロール。ただ自然なだけではなく、良く聴くと緻密なフレージングとメリハリのコントロール。技術に裏付けられた緻密さと言っていいでしょう。評価はもちろん3曲とも[+++++]につけ直します。やはりウォードのハイドンは絶品です。NAXOSでは先日とりあげた、パトリック・ガロワ、ケヴィン・マロンが透明感溢れる見事なコントロールで色彩感溢れる素晴らしい演奏を聴かせていますが、ウォードはこれとは異なり、オーソドックスなアプローチです。オーソドックスとはいえ、類いまれな説得力を持ち、ドラティやヴァントなどとならぶ素晴らしい演奏になっています。まだ聴かれていない方、必聴です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲77番 交響曲78番 交響曲79番 ハイドン入門者向け 交響曲全集

ケヴィン・マロン/トロント室内管の交響曲、序曲集

先日取りあげたパトリック・ガロワの交響曲集の新鮮な響きに惹かれて、NAXOSの交響曲全集のなかからもう1枚。

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ケヴィン・マロン(Kevin Mallon)指揮のトロント室内管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲62番、107番(シンフォニアA)、108番(シンフォニアB)、歌劇「変わらぬまこと」序曲、歌劇「薬剤師」序曲の5曲を収めたアルバム。収録は2008年6月25日から27日、カナダのトロントにある聖アン教会でのセッション録音。

このアルバム、NAXOSが6人の指揮者を投じて完成させたハイドンの交響曲全集の最後を飾るVol.34となるもの。ケヴィン・マロンはVol.30、Vol.31と合わせて3枚を担当。バラで集め始めたため、ずっとバラで購入してきましたが、あらためて整理すると、2枚ほど未入手であることが最近わかり、バラで注文しました。未入手は先日取りあげたガロワ指揮の残りの2枚です。バラはバラで収集欲をみたすもの。

ケヴィン・マロンはアイルランド生まれの指揮者で現在カナダ在住。指揮はジョン・エリオット・ガーディナーに、作曲はペーター・マクスウェル・デイヴィスのもとで学びました。イギリス中部のマンチェスターにあるチャタム音楽院、王立ノーザン音楽院などで音楽を学び、最初はハレ管弦楽団やBBC交響楽団のヴァイオリニストとして活動をはじめました。後にレザール・フロリサン(Les Arts Florissants)やル・コンセール・スピリチュエル(Le Concert Spirituel)のコンサート・マスターとして活躍するなど腕は確かなよう。ヨーロッパやアイルランドを中心に活動していましたが、カナダに渡り、トロント大学やターフェルムジークなどで働いたのち、1996年にアラディア・アンサンブルを自ら設立し音楽監督となりました。特にバロック期の音楽、オペラを得意としているよう。その後このアルバムのオケであるトロント室内管弦楽団の音楽監督をはじめとして、カナダの主要なオケの客演指揮などを務めているようです。

トロント室内管弦楽団はトロント交響楽団やカナダ歌劇場管弦楽団、ターフェルムジーク、アラディア・アンサンブルなどの主要な奏者で組織された室内管弦楽団。バロック期から現代まで幅広いレパートリーをこなし、多くの楽員は古楽器も演奏するとの事。この演奏も聴く限り古楽器演奏のよう。

Hob.I:62 / Symphony No.62 [D] (before 1781)
まずは、中期の交響曲から。バロック期の音楽を得意とするだけに、キビキビしたリズムに透明感の高いオケの響きが心地いい入り。ヴァイオリンのフレーズは滑らかに磨かれ、アクセントをデリケートに変化させることで、ハイドン特有のえも言われぬ高揚感を上手く表現しています。デュナーミクのコントロールは緻密そのもの。ハイドンの生気と躍動感が素晴らしい演奏。爽やかさが優先するなかの躍動感という感じで、正統派のハイドンという印象の1楽章です。アルバムの出だしとしては見事な入り。
2楽章はあまりしょっちゅう聴く曲でははないだけに、構成のユニークさに今更ながら驚きます。弱音器をつけた弦楽器がそっと奏でる蝶々の飛翔のようなメロディーのおぼろげな感じが良く出ています。
メヌエットも颯爽とした展開。リズムのキレが良いので聴いていて気持ちいいですね。録音は新しいものだけにスピーカーの少し後ろに弦楽器が自然に広がり、ハープシコードの雅な音色が加わってまさに自宅が教会になったような素晴らしいもの。
フィナーレはあえて少し抑え気味の入りがいいセンス。間で聴かせるところと推進力で聴かせるところの対比が鮮明で非常に聴き応えがあります。おそらくあえてでしょう、中盤以降はすこしたどたどしさを感じるほどテンポを落として、あえてじっくり攻めます。バロックオペラの演奏経験などをふまえた演出のように聴こえました。ケヴィン・マロンのコントロールは正統派爽やか系かと思いきや、意外な引き出しがあります。

Hob.I:107 / Symphony No.107 "A" [B flat] (before 1762)
番号は107番ながら初期の作曲のもの。前曲よりもすこしテンポを落とし気味で、じっくりとしながらも弾む感じを追求したようなコントロール。前曲と同じアプローチであればもうすこしスピーディーに入るでしょう。曲の諧謔的な側面をすこし表現したかったのでしょうか。面白い表現ですが、若干単調さをはらむリスクがありますね。
2楽章のアンダンテはハイドンの時代の曲というより、フランスのバロックオペラの一場面のような雰囲気。演奏次第でいろいろなニュアンスが漂うものですね。前曲の演奏との違いから曲ごとにアプローチを変えてコントロールしていることに気づきます。
3楽章も同様のアプローチ。ハイドンの曲に華やかさが加わり、オーストリアというよりやはりフランスの曲の様な印象に。オケの各奏者のテクニックは素晴らしいものがあります。各奏者が大きくからだを揺らして演奏しているようなエネルギーの波動を感じる演奏。

Hob.I:108 / Symphony No.108 "B" [B flat] (before 1765)
この曲は流麗華麗な入り。めくるめく響きの変化が素晴らしい。落ち着き払っているのにえも言われぬダイナミックさを感じるコントロール。この曲に至ってマロンの狙いがよくわかってきました。オーケストラコントロールはトン・コープマンの指揮するアムステルダム・バロック・ソロイスツのような柔軟さですが、もしかしたらそろえよりもナチュラルさでは上かもしれません。
この曲では2楽章がメヌエット。メヌエットもそっと羽毛に触れるような絶妙のタッチが極上の演奏。シンプルなメヌエットが非常に繊細な響きを伴い、耳が響きの変化に集中します。
3楽章はほの暗い短調で入り、徐々に明るさが射してくる曲調の変化を落ち着いて表現。ハイドンの初期の交響曲の面白さが凝縮された楽章。
やはりハイドンのフィナーレは速めのテンポと躍動感を前面に出した方が聴き応えがありますね。1曲目の62番のフィナーレの表現が冒険を含んでいたものとこの曲の演奏を聴き再認識。曲の面白さを素直に表現しており、指揮もオケもキレて最高の演奏。

Hob.XXVIII:8 / "La vera costanza" 「変わらぬまこと」 (before 1779)
5部に別れた全体で10分弱の曲。プレスト、アレグレット、アレグロ・モデラート、アンダンテ、アレグロ・モデラートという小交響曲のような構成。スペクタクルな変化に富んだ面白い曲。マロンの得意とする落ち着いているのに素晴らしい躍動感が良く出た演奏。特に速いが楽章の柔らかいのにキレのいい楽章とゆったりと力を抜いた楽章の対比がコンパクトに凝縮して素晴らしい出来。

Hob.XXVIII:3 / "Lo speziale" 「薬剤師」 (1768)
今度は落ち着いたテンポで入ります。プレストですので演奏によってはもうすこし畳み掛ける感じで入りますが、この曲ごとのわずかなテンポ感の違いが面白いですね。この曲はプレスト、アンダンテ、プレストの三部構成。こちらも序曲の面白さを良く表現できています。マンフレート・フスの演奏のような幕が開く前のソワソワ感を表すようなアプローチとは異なり、落ち着いて曲の面白さをじっくり表現するもの。曲の面白さのツボを抑えた演奏です。

NAXOSの交響曲全集の最後を飾るケヴィン・マロンとトロント室内管弦楽団による1枚。初期の頃を担当した特に名曲を多く含む選曲の演奏はオススメできないものもある一方、このマロンやガロワの担当するものは、驚くほど質の高い演奏。このマロン盤も素晴らしい出来です。トン・コープマンばりのやわらく千変万化する響き。流石にバロック期の演奏を得意とするだけあります。評価は交響曲107番は[++++]、それ以外は[+++++]としたいと思います。いやいや、NAXOSの交響曲全集、まだまだちゃんと聴き直さなくてはならないアルバムが沢山ありますね。

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tag : 交響曲62番 交響曲107番 交響曲108番 変わらぬまこと 薬剤師 古楽器 交響曲全集

アンタル・ドラティの受難

今日は仕事から帰るのが遅かったので、何を取り上げようかとラックの前をうろうろ。

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困った時は、交響曲全集の決定盤、アンタル・ドラティの全集から。

アンタル・ドラティ(Antal Dorati)指揮のフィルハーモニアフンガリカの演奏でハイドンの交響曲49番「受難」。録音は1969年、ドイツのドルトムントから北東100kmほどのところにある街、ビーレフェルト(Bielefeld)でのセッション録音。ドラティの録音は1月に「マリア・テレジア」を取り上げました。その際今後ドラティを定期的に取り上げるといっていたんですが、その後はいろいろ他に目がいっちゃってました。今日はドラティの演奏するハイドンの交響曲49番を。単に48番「マリア・テレジア」の次の曲だという理由です。すみません、ひねる時間の余裕がなかったのが正直なところ(笑)

前記事のリンクをいつものように張っておきましょう。

2011/01/24 : ハイドン–交響曲 : アンタル・ドラティのマリア・テレジア

この曲は、シュトルム・ウント・ドラング期のハイドンの傑作交響曲の一つ。宗教的行事の際に演奏する目的で作曲されたもので、短調の劇的な、そしてこの時代のハイドンの特徴であるうら悲しい美しいメロディーに満ちた名曲です。

1楽章はいきなりドラティらしい張りのある音色による深々とした呼吸のアダージョ。弦楽器のフレージングの大胆かつデリケートな弓さばきが冒頭からもの凄い緊張感。チェンバロの音がオケの音色に雅さを加えています。繰り返してからはスピードを落としてさらに不気味な迫力を帯びてきます。ドラティのアダージョの演奏ってこれほど劇的だったでしょうか。堂々としながら繊細さを併せ持つすばらしい弦楽器の存在感。アダージョから大山脈を俯瞰するような素晴らしい彫り込み。
2楽章はアレグロ・ディ・モルト。生成りの布のようなざらっとした手触りと柔らかさをもつ弦楽器がハイドンの素晴らしい音楽を起伏に富んだメリハリをつけて奏でていきます。ドラティゆえ推進力は十分。なんでしょうこの異次元の説得力は。ドラティのハイドンの交響曲全集の演奏に共通する、ハイドンの楽譜の奥に潜む響きを最も理解している者だけが出来るコントロール。
3楽章のメヌエットはなぜかレガートをきかせて非常に滑らかな弓使い。穏やかな音楽が流れていきます。中間部の木管とホルン主体のメロディーのなんと牧歌的なこと。ふたたび分厚くうら悲しい弦楽器のメロディーにもどり、最後はゆったりと力をぬいて終了。
フィナーレは一転、弦のエッジをきっちりたてて、クッキリとしたフレーズ。弦楽器のアクセントの付け方が尋常ではありません。メヌエットとの対比をきっちりつけようという意図だとおもいますが、オケの迫力ある音色も手伝って素晴らしい力感の表現。フィナーレに相応しい盛り上がりをみせて曲を閉じます。

ドラティの交響曲全集は手に入れた頃はすり切れるほど聴いたものですが、このところはしばらくラックの肥になってました。あらためて聴くと、人によっては古くさい印象をもつかもしれませんが、やはり素晴らしい説得力に打たれます。図太い筆で勢いよく書いた古老の楷書の書を見るような、なんとも身が引き締まる演奏。「マリア・テレジア」同様[+++++]と評価をつけ直しました。私のハイドンの原点はドラティの演奏だけに、この演奏は掛け替えのないもの。ハイドンの全交響曲を最初に録音しようとした気合いが時代を超えて心にブッ刺さります。

前にも触れましたが、ハイドンの交響曲全集のファーストチョイスはドラティです。ドラティを聴かずにハイドンを語るなかれ、です。

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tag : 受難 おすすめ盤 交響曲全集

デニス・ラッセル・デイヴィスの火事

本日はデニス・ラッセル・デイヴィスの交響曲全集から。今日の展開を予想できた人、当ブログ通です(笑)

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一昨日、アダム・フィッシャーの交響曲全集から、昨日、アンタル・ドラティの交響曲全集からとくれば、今日はデニス・ラッセル・デイヴィスの交響曲全集に触れざるを得ません。ただしこの全集。もしかしたら中古以外では手に入らないかもしれません。販売時には限定発売とのふれこみでしたので。HMV ONLINEでは現在カタログにありません。

1人の指揮者によって作られたハイドンの交響曲全集としては史上3番目の交響曲全集ですが、前ぶれなく突然彗星のように現れた全集。デニス・ラッセル・デイヴィス(Dennis Russell Davies)指揮のシュトゥットガルト室内管弦楽団の演奏によるハイドンの交響曲全集。CD37枚組のこの全集からCD13の交響曲59番「火事」を取り上げましょう。収録年の表記はありませんがPマークが2009年ですので最近の録音でしょう。シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツセンターでのライヴ収録。

デイヴィスのハイドンの交響曲の録音は一度CD-R盤を取り上げており、その際デイヴィスの情報をまとめてありますので、リンク先をご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:デニス=ラッセル・デイヴィス/ライプツィヒゲヴァントハウスの2009年ライヴ

さて、デイヴィスの全集の中の1曲、どのような演奏でしょうか。

交響曲59番「火事」はおそらく1768年頃の作曲。1774年にエステルハージ家で上演されたヴァール一座の上演した「大火事」が上演された際に、この交響曲が伴奏音楽として流用されたもの。1768年といえばハイドンがエステルハージ家の楽長に就任して2年後のことで、ハイドンの創意が漲っていた頃。そして大宮真琴さんの「新版ハイドン」巻末の年表には「アイゼンシュタット初の大火」との表記が。いずれにせよ火事をモチーフにしたか火事のモチーフにふさわしいコミカルな表情を持つ曲なことは確かです。

1楽章は最新の録音らしく、ライヴながら鮮明な音響。小編成の現代楽器オケらしくタイトな響き。フレーズの流れの流麗さよりは、律儀に刻むリズムを重視しているような演奏。テンポは遅めです。弦楽器の響きはおそらくノンヴィブラートの透明感のある響き、ほとんど溜めもなくキチッキチッとリズムを刻んでいきます。ただし、ちょっと気になるのはリズムの重さ。デイヴィスの交響曲全集の最大の課題がリズムが重いこと。これはハイドンの交響曲の演奏上、私は最大の魅力を削いでいるように聴こえてしまいます。デイヴィスは現代音楽やブルックナーを得意としている指揮者故、音符を正確に表現することに感心が払われているように思われますが、これでテンポが快活でリズムがキレていたらさぞかし素晴らしい録音となったことと想像しています。
2楽章は焼け落ちた家をみて途方に暮れる人の心情を描いたような曲想に聴こえてしまいます。2楽章も几帳面なリズム感は基調をなしています。
3楽章もリズムがちょっとスタティックな印象がつきまといます。フィナーレはホルンの号砲から。盛り上がるところでも冷静なリズムを刻むためいまいち覚めた印象を伴ってしまいます。この曲はホルンのキレは非常にいいです。最後は拍手に迎えられます。

デニス・ラッセル・デイヴィスのハイドンの火事の演奏、現代楽器の小編成オケの演奏ですが、期待されたキビキビ感が弱く、リズムが重いのが魅力を少々削いでいるのが惜しいところ。火事の演奏の評価は[+++]とします。

ハイドンの交響曲全集としては3種目のものですが、この曲以外にもいろいろ聴いた感想でとしては、偉大な前2者を超えるというものではありませんでした。デイヴィス盤の特徴はクリアな音響による均質な演奏。ただしハイドンの交響曲にはそれ以上の魅力もあり、歴史上の多くの演奏によって光が当てられてきました。ハイドンの全交響曲を演奏するという壮大な取り組みを成し遂げたという偉業という意味ではすばらしいアルバムですが、逆に交響曲全集としての前2者の偉大さを浮き彫りにする結果ともなってしまったというのが正直なところでしょう。

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tag : 火事 交響曲全集 ライヴ録音

アンタル・ドラティのマリア・テレジア

昨日アダム・フィッシャーの交響曲を取り上げたので、今日はやはりドラティ盤を取り上げるのが筋(笑) 手元のアルバムは、だいぶ古い輸入盤です。

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アンタル・ドラティ指揮、フィルハーモニア・フンガリカの演奏によるハイドンの交響曲全集の分売で48番から59番までを収めた4枚組。今日はこの中から48番「マリア・テレジア」を取り上げます。収録は1971年、ドイツのオランダ国境に近いエッセン近郊の街マルル(Marl)の聖ボニファティウス教会でのセッション録音。

昨日のアダム・フィッシャーと同様、ドラティの交響曲の演奏も当ブログでまだちゃんと取り上げていなかったため、まずは曲を選んできちんとレビューしようとの主旨。ただし、ドラティの交響曲全集からなぜこのアルバムを選んだかと言うと、個人的に思い出深いアルバムということからだけなんです。

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写真のシールはウィーン国立歌劇場の建物内のショップ、ARCADIAオペラ・ショップのもの。値段は760ナントカ。当時オーストリアはクローネだったでしょうか。シールの日付は1991年2月19日とあります。これは約20年前の1991年に新婚旅行でウィーンを訪れた際に、ARCADIAオペラ・ショップでお土産に購入したアルバム。当時はドラティの全集はすべて4枚組のセット8組で成り立っていましたが、他は日本でほぼ手に入れ、偶然このアルバムのみ未入手。ARCADIAオペラ・ショップの店頭でこのアルバムを見つけ、荷物になるので国内で買えばいいかと思っていると、収録曲の1曲目が48番「マリア・テレジア」ではありませんか。ウィーンまで来て買うお土産(もちろん自分用!)としては文句なし、ということで買った記憶があります。

ARCADIAオペラ・ショップ

さきほど、アルバムを久しぶりに手にするとシールが残っているのをみつけて、ちょっと懐かしくなっちゃいました。この時はローマ、フィレンツェ、ミラノ、ヴェネチアを経て列車でウィーンに入り、ウィーンではオペラやコンサート、オットー・ワグナーやハンス・ホラインの建築やクリムトの絵などをゆっくり見て回る優雅な旅行でした。今では時間がなかなか取れず、時間をかけた旅行はなかなかできませんね。国立歌劇場ではタンホイザーの今とは違った重厚な演出とウィーン国立歌劇場管弦楽団のここぞというときの爆発を聴いてうっとり。幕間にシャンパンやワインをのみながら至福の時間。ムジークフェラインではアリシア・デ・ラローチャのピアノリサイタルを楽しみました。あれからもう20年、はやいものです。

脱線してすみません。ドラティのハイドンですが、現在は全集のボックスが安く販売されているようですので、昔に比べて手に入れやすくなっていますね。

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HMV ONLINEicon / amazon

この箱のデザインのものが現行盤だと思いますが、なぜかHMV ONLINEにあるのは旧デザインの高い方。リンクは旧デザインの方になります。

さて、肝心のマリア・テレジアの演奏。ドラティの特徴である彫りの深いオーケストレイションが痛快。ハイドンの機知をはじけんばかりの生気溢れるオケがぐいぐい弾いていきます。リズムの表現が秀逸でまさに弾むような演奏。マリア・テレジアのハ長調の晴朗な曲想も相俟って、すばらしいキレ。ティンパニがズドンと腹にくる感じも迫力を増しています。
2楽章は冒頭から抑えた弦の可憐なメロディーとホルンの美しい響きが印象的。繰り返しを経て美しさがさらに際立ちます。
3楽章のメヌエットはまさに舞曲のような弾むリズムが心地よい音楽。舞曲の力の抜け加減とアクセントの対比が見事。必要十分というかハイドンの交響曲におけるメヌエットの位置づけを良く踏まえた力加減だと思います。
フィナーレは筋肉質のオケがリズミカルにハイドンの楽譜をこなしていく快感を素直に楽しむ楽章。ふたたび素晴らしい生気。よく聴くと細かいフレーズごとのメリハリやアクセントをかなり巧みにつけているのがわかりますが、小細工のように聴こえるところは皆無。図太いエネルギーに貫かれているせいか、怒濤のように音楽が進みフィニッシュ。

ドラティのハイドンの交響曲はやはり私のオリジンでもあり、これを聴かずにハイドンの交響曲を語ることができない素晴らしいもの。アダム・フィッシャーがハイドンの自然な響きと素朴なフレージングに焦点を合わせたのに対し、ドラティはハイドンの交響曲の楽譜から、その彫刻的な面白さと生気を録音によって際立たせました。まるで普通の大理石彫刻とミケランジェロの彫刻の埋められない差のような度肝を抜く立体感と生気。マリア・テレジアという短い交響曲からですら浮かび上がるハイドンの創意のエネルギー。久しぶりのドラティの演奏はこのアルバムを何度も感動しながら聴いていた遥か昔を思い出させる、素晴らしい時間でした。

実はドラティのハイドンの評価はリストを造り始めた時からあまり変えていませんが、ちゃんとよく聴いて評価をつけ直さなくてはならないと思っています。マリア・テレジアはもちろん[+++++]です。

記事を書いていたら、次の「受難」素晴らしい音楽が流れてきました。惜しいところですが、またの機会にレビューすることに致しましょう。

これから、しばらく、ドラティの交響曲全集の魅力再発見のため、たまにドラティの交響曲をレビューに取り上げていきたいと思います。私はハイドンの交響曲の全集ならば、まずはドラティを薦めます。もちろん今日は「ハイドン入門者向け」タグも進呈。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : マリア・テレジア 交響曲全集 ハイドン入門者向け

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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