パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集(ハイドン)

10月に入って珍しく交響曲のアルバムが続きました。ということで、勢いで交響曲を取り上げましょう。

Gallois9_12.jpg
TOWER RECORDS / amazon

パトリック・ガロワ(Patrick Gallois)指揮のシンフォニア・フィンランディア(Sinfonia Finlandia)の演奏で、ハイドンの交響曲9番、10番、11番、12番の4曲を収めたCD。収録は2005年2月15日から18日にかけて、フィンランド中部の小さなまちスオラハティ(Suolahti)のコンサートホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

先日レビューしたレストロ・アルモニコのLPを聴いて初期交響曲のアルバムを聴き直してみたくなりました。今更ながら手元の所有盤リストをチェックしてみると、まだレビューを一度もしていない曲があり、このアルバムも評価をつけていないことがわかりましたので、取り上げた次第。同じ奏者によるアルバムは以前に取り上げていて、なかなかいい演奏だったとわかっておりましたので、こちらもよかろうと踏んだという流れです。

2012/03/03 : ハイドン–交響曲 : パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集

指揮者のパトリック・ガロワはフルーティストとしての方が有名でしょうか。奏者については前記事をご覧ください。オケは現在はユヴァスキュラシンフォニアという名称のようですね。

Jyväskylä Sinfonia

Hob.I:9 Symphony No.9 [C] (1762?)
なかなか響きの良いホール。前盤同様小編成でキレのいいオケの響きが心地よい録音。オーソドックスな現代楽器による録音ですが、リズムのキレがよく、アンサンブルの精度も非常に高いレベルの高い演奏。明確にアクセントをつけてリズムを強調することでハイドンの初期の交響曲の面白さがぐっと強まります。ハイドンの初期交響曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。アンダンテは実に落ちついてゆったりとした音楽。素朴で暖かいメロディーの美しさが際立ちます。ハープシコードの音色が加わりなんとも言えない典雅な印象。このアンダンテの美しさを再認識。3楽章構成で終楽章はメヌエット。まさしくハイドンらしいメヌエットで締めくくります。このアルバム最後の楽章にふさわしい壮麗なフィナーレ。キレも推進力も響きの美しさも最高。まさに響きの坩堝と化し、見事なコントロールを見せつけて終わります。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
入りから推進力に溢れた演奏。ところどころレガートで変化をつけながら初期の快活な交響曲の魅力を見事に表現していきます。パトリック・ガロワのコントロールは隙のないもの。リズムのキレと速めのテンポによるスタイリッシュな演奏。メロディーのアクセントのつけ方が巧みなので素晴らしい立体感と躍動感が生まれるんですね。1楽章は疾風のように過ぎ去ります。この曲も3楽章構成。続くアンダンテで穏やかに沈み込む情感を上手くすくい上げながら、美しい響きで包んできます。フィナーレも壮麗。ガロワは響きに関する鋭敏な感覚を持っていますね。これ以上は望めないほど美しくまとまったオケの響きに酔いしれさせられます。

Hob.I:11 Symphony No.11 [E flat] (before 1762)
これまで一度も取り上げていなかった曲。この曲は4楽章構成。入りのアダージョ・カンタービレからハイドンの類い稀な想像力に驚かされる曲。ゆったり流れる音楽に冒頭から身を任せたくなります。ガロワはその癒しのような音楽をじっくりと叙情的に描いていきます。古楽器の演奏ではこうはいかないでしょう。リラックスした分2楽章のアレグロのキレの良さが引き立ちます。快速テンポでの2楽章の入りのはまさに曲のコントラストをはっきりする上でポイントになるでしょう。テンポを上げてもオケの安定感は変わらず。オケは実力者揃いと見ました。メヌエットもしっとりとした魅力を放ち、どこか華やかさが残ります。聴きどころはフィナーレ。難しいリズムの変化の中各パートのせめぎあいの見事な展開。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
1楽章は独特な節回しの曲ですが、その曲をさらにいじって、やや個性的な解釈を加えていきます。メロディーとリズムが面白いところをデフォルメする余裕が出てきました。基本的には爽快な現代楽器の演奏ですが、徐々に個性をどう出すかというテーマを持って演奏しているようです。続いて短調のアダージョに入りますが、見事な憂いと沈み込み。ただ沈み込むだけでなく音楽の呼吸が深く曲の真髄に迫ろうとする覇気を感じるレベル。この曲は3楽章構成。フィナーレはキレ、推進力、壮麗さとどれを取っても素晴らしいもの。このアルバムの最後を飾るにふさわしい出来でした。

パトリック・ガロアの振るシンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集ですが、NAXOSのハイドンの交響曲全集の終盤を飾る素晴らしい演奏でした。ただ素晴らしいだけでなく、一流どころの演奏に劣るどころか収録曲のベスト盤としてもいいレベルに達しています。キレよくハイドンの初期交響曲をまとめる手腕は見事の一言。評価は全曲{+++++]とします。未聴の方は是非!

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デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻 その2(ハイドン)

珍しく深追い(笑)。前記事の演奏が実に面白かったので続きもレビューしてみたくなりました。

LestroArmonicoVol1.jpg

デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏で、ハイドンの初期交響曲7曲(Hob.I:1、I:37、I:18、I:2、I:15、I:4、I:10)を収めたLP。題して「モルツィン時代の交響曲集第1巻」。収録は1980年8月19日から24日にかけて、ロンドン、ウッドサイドパークの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英SAGA。

今日は前記事で取り上げた3曲以降の4曲目から7曲目までを取り上げます。前記事で聴いた中では1番がちょっと固かっただけで、その後の2曲は絶品でした。こうなると残りもしっかり聴かざるを得ません。

2017/10/03 : ハイドン–交響曲 : デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻(ハイドン)

奏者やアルバムについては前記事をご覧ください。

Hob.I:2 Symphony No.2 [C] (before 1764)
リズムの面白さは変わらず躍動感満点。丁寧に演奏していながらキリリとアクセントが効いて、古楽器の爽やかな音色でハイドンのユーモラスなメロディーの面白さが滲み出てきます。つづくアンダンテはさらりと流すような楽章ですがメロディーの重なりの奥に深い情感が宿る見事な展開。微妙な起伏をしっかりと描いていくことで得られる面白さ。フィナーレもフレーズをくっきりと描きまとめます。初期のハイドンの交響曲の面白さを実に自然に料理してワンプレートにバランスよく並べたような、普段から楽しめる、味わい深い音楽。

Hob.I:15 Symphony No.15 [D] (before 1764)
癒しに満ちたアダージョから入ります。ピチカートに乗って優雅なフレーズが漂います。ホルンのとろけるような響きが重なり、こちらもとろけそうになったところでプレストのキレのいいメロディーが癒しを断ち切ります。全てが必要十分。大げさなところはないのにキレ味は十分。再びアダージョにもどって1楽章を結びます。つづくメヌエットはもっともハイドンらしい楽章。ここでもゆったりとしながらも活き活きとしたオケの響きが素晴らしく、音楽が弾みます。そして3楽章のアンダンテの光と陰が交錯する透明感。フィナーレはコンパクトなキレの良さ。最後の一音のキレが耳に残ります。

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Hob.I:4 Symphony No.4 [D] (before 1762)
3枚組、6面中の5面目。前2曲のみが1面につめこまれていたのに対し、この曲を含む他の曲は1面1曲とゆったりカッティングされており、響きにも余裕が感じられます。リズムのキレは変わらず、軽やかさも十分で音楽がポンポン弾む快感を味わえます。続くアンダンテは弱音器付きのヴァイオリンによる実にユニークな美しいメロディーに驚きます。ソロモンスもこの翳りに満ちた美しい気配を見事に表現していきます。その静けさを断ち切る明るいメヌエットで曲を締めくくる見事な構成。1曲1曲の構成感をしっかり描いてきます。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
このアルバム最後の曲。もう安心して身を任せていられます。必要十分な小気味好い展開の魅力にすっかりハマります。それもそのはず、メンバー表を見てみるとヴァイオリンにはモニカ・ハジェット、ロイ・グッドマン、チェロにはアンソニー・プリース、ホルンにはアンソニー・ハルステッドなど名手の名が並びます。印象的なのは2楽章のアンダンテの静けさに染み入るような演奏。古楽器の弦の透明感あふれる響きの美しさが際立ちます。フィナーレももちろん見事。言うことなし。

デレク・ソロモンスの振るレストロ・アルモニコによる交響曲集ですが、CBSからリリースされている3巻の印象が、ピノックやホグウッドなどを聴いた耳にはあまりぱっとした印象がなかったことからこれまであまり注目していませんでしたが、偶然手に入れた彼らの最初の交響曲集のLPを聴くと、流石に古楽器によるハイドンの交響曲の草分けたる見事な演奏であることがわかりました。名奏者集団による鮮やかな演奏であるばかりでなく、ハイドンの初期の交響曲の箱庭的な面白さをバランスよく表現した名演奏と言っていいでしょう。今回取り上げた4曲はいずれも[+++++]といたします。CBSの録音も今一度聞き直して見たくなりましたね。

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【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!

最近の古楽器による定番はファイ。リリースはされていましたが、先週手に入れたばかりのアルバム。

Fey14510.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ご存知トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のハイデルベルク交響楽団(Heidelberger Sinfoniker)のハイドンの交響曲1番、4番、5番、10番とハイドンの交響曲の最初期の作品。収録は2011年7月7日、13日から16日、ハイデルベルク近郊のヒルシュベルク=ロイタースハウゼンにあるユダヤ教旧会堂でのセッション録音。レーベルはもちろんhänssler CLASSIC。

このアルバムはファイによるハイドンの交響曲全集の第17巻。そろそろ終わりが見えてきましたでしょうか。最初は違和感もあったファイのかなり踏み込んだ表現も、最近は慣れたというより、すっかりハマり気味。これほど自在なコントロールは他に類を見ません。最近とりあげたものは、おしなべて良い評価をつけています。

2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
いやいや、あんまり速いテンポでびっくらこきました。ハイドンが本来どのように演奏してほしいと思ったかとは無縁の解釈でしょう。最初期の交響曲をどう料理しようかという解釈側の視点の強い演奏です。あまりの速さに面食らったものの、聴き進めるうちに面白く聴こえてくるから不思議なものです。これをライヴできいたらのけぞる事請け合いでしょう。1楽章は暴風のように吹き抜けます。
2楽章のアンダンテは一転普通のテンポと、ファイ特有の時折変化や修飾を利かせたフレージングに戻ります。音楽自体はシンプルなものですが、そこここに遊びを入れて曲を面白く聴かせようというファイの面目躍如。
フィナーレも速いですが、普通の速さの範囲。自在に炸裂する各楽器の中でホルンの裏返るような音がアクセントになっています。まさに疾風のように過ぎ去っていきました。アル・ディ・メオラの速弾きギターを彷彿させる面白さがあります。

Hob.I:4 / Symphony No.4 [D] (before 1762)
このアルバムは耳にも心にも刺激になります。この曲も速い(笑) ただし急激なテンポダウンというアクセントつき。聴き手の器を探るようなファイのいたずらに、勝負に応じてやろうという邪心が芽生えます。まさに音楽自体が演奏者の器を示しているような風情。これは痛快。刺激的な演奏に対しては、ハイドンに敬意を表して一貫して冷静な立場をとってきましたが、これは面白い。ファイのハイドンの交響曲集でもっとも刺激に富んだアルバムと言っていいでしょう。
アンダンテは暗闇のなかに微妙な陰影を表現したような曲。さらりとした表現の奥に、微妙に浮き上がる艶かしい立体感。ぞくっとするような洗練された解釈。この曲からこれほどの刺激を引き出すとは。
一転して晴朗なメヌエット。一音一音が生き物のように振る舞うまさに活きた音楽。落ち着いたメヌエットの表現も秀逸。意図的なリズムの重さな何とも心地よいではありませんか。これだけ自在に音楽を操るとは、やはりファイ、只者ではありません。

Hob.I:5 / Symphony No.5 [A] (before 1762)
またまた一転してテンポをかなり落とし、音楽の織り目をじっくり強調してデフォルメしたようなアダージョの入り。名場面をスローモーションで見るがごとき曲の構造を素っ裸にするような分析的演奏。ホルンの抜けるような音色とチェンバロの繊細な響き。古びたフレスコ画のような色の滲みが醸し出す極度にアーティスティックな時間。変幻自在とはこの事でしょう。
続くアレグロはファイだからこそできる、絶妙なアクセントのかかったメロディーラインが暴れまくり、額縁を飛び出さんばかりの筆の勢いを誰も止める事は出来ません。奏者もこれだけのメリハリをつけた演奏の痛快さに酔いしれるよう。途中にリズムの混濁を現すような場面がありますが、逆手にとって混濁を楽しむよう。この曲がこれほど刺激的だったとは。
メヌエットは、穏やかな表情に戻りますが、あまりに刺激的な楽章の箸休めのように聴こえてしまいます。
フィナーレは最盛期のザロモンセットのフィナーレにも劣らない素晴らしい興奮。まさに爆風が吹き抜けるような素晴らしい演奏。脳内のアドレナリンが全噴出!

Hob.I:10 / Symphony No.10 [D] (before 1762)
アドレナリン、まだ噴出を続けます。このアルバムの最後の曲ですが、入りからフルスロットル、超ハイテンション、オケ全開です。ホルン奏者のつばが飛んできそうなリアリティ。すでにファイの術中にはまり、金縛りにあったようになってます。
このアルバム唯一の癒し楽章。10分近い長い楽章ですが、レガートをきかせて穏やかに淡々と語っていく語り口は、前楽章からは想像できないほどの穏やかさ。この表現のコントラストこそファイの真骨頂の一つでしょう。安心して身を委ねられますが、このまま済むとは思えません。フィナーレの前の静けさといったところでしょうか。
そして爆発というより、冴え渡る覚醒のようなフィナーレ。異常に冴え渡る感覚。さっと風が吹き抜けるような楽章。脳内の感覚がこれまでの変化に鋭敏に反応してどうくるかと待ち構えるなか、やはり想像とは異なる角度で攻めて来ました。あっぱれ。

トーマス・ファイによるハイドンの最初期の交響曲集。刺激的な演奏であろうことは想像してはいましたが、その想像を遥かに超える、むせ返るような知的刺激に満ちた演奏。この演奏、ハイドン自身に聴かせたいと久々に思ったものです。ファイのアプローチにはもちろん慣れてはいますが、正直に言って、これまでのファイの演奏中、最高の出来と言っていいでしょう。素材としての最初期の交響曲をファイ流に再構成して、速度やアクセントの変化と装飾をちりばめ、しかもそれを実に面白く聴かせるという離れ業。有名曲ではありませんが、これもハイドンの真髄を突く演奏と言っていいでしょう。いや、脱帽です。素晴らしい。もちろん評価は前曲[+++++]です。

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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