マリナー/アカデミー室内管の99番、102番(ハイドン)

今日は珍しいCD。

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サー・ネヴィル・マリナー(Sir Neville Marriner)指揮のアカデミー室内管弦楽団(Academy of St Martin in the Fields)の演奏で、ハイドンの交響曲99番、102番の2曲を収めたアルバム。収録は1990年10月、ロンドンのウォルサムストウ・アッセンブリーホールでのセッション録音。レーベルはPHILIPS。

このアルバムは私も最近までその存在を知らなかったもの。マリナーはPHILIPSにハイドンの交響曲を大量に録音していますが、代表的なものあ名前付き交響曲集としてLPならびにCDでリリースされているものと、パリ交響曲集の6曲。ちなみに名前付き交響曲集は手元のCDを確認すると1968年から1981年までの録音。そしてパリセットの方は1976年から1982年にかけての録音。

ちなみにPHILIPSレーベルのハイドンの交響曲録音にはもちろんコリン・デイヴィスがコンセルトヘボウ管を振ったザロモンセットやパリセットもあり、そちらは1975年から1981年にかけての録音。さらに1986年以降90年代はブリュッヘンと18世紀オーケストラによる録音が本格化し、こちらもザロモンセットやパリセット、加えて初期の交響曲まで録音されている状況なんですね。

このようにPHILIPSレーベルではマリナー以降も2人の名指揮者によるハイドンの交響曲のまとまった録音シリーズが進行していた中、一旦一区切りついていたマリナーのシリーズに、1990年に99番と102番が録音されているという、ちょっといわくありげな状況なわけです。このような流れの中で名前のない99番と102番というザロモンセットでも指折りの傑作交響曲が録音されたということは、おそらく直前のコンサートで取り上げた演奏が評判になったので録音されたというのが最もありそうな流れですね。

ということで、このアルバム、まずは所有盤リストに登録するためにCDプレイヤーにかけてみると、いつものマリナーとは異なり、いきなり渾身の響きが流れ出してきます。しかもオケの響きはコンセルトヘボウよりも味わい深さ! もちろんすぐに演奏に惹きつけられたのは言うまでもありません。

Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)
分厚くしなやかな序奏から惚れ惚れとする響きが広がります。まるでコンセルトヘボウでの録音のような響きの美しさ。しかも低音の厚みがあるピラミッドバランス! 主題に入るとここはマリナーらしい愉悦感が広がります。しなやかつ流麗なメロディーの美しさが最大限に活かされた演奏。徐々に力感も満ちてくると同時にイキイキとした推進力に満ち溢れます。ハイドンらしい古典の均衡を踏まえた見事な構成。展開部に差し掛かると曲想の変化をさらりとこなして、推進力はそのまま。このさりげないセンスもハイドンの演奏では非常に重要な要素。1楽章のあまりの完成度に驚きます。
続くアダージョはハイドンの美しいメロディーの見本帳のような楽章。ここでもさらりとした表情の中からジワリと湧き上がる暖かな音楽が絶品。オケの響きの美しさと録音の素晴らしさに圧倒されます。一貫して淀みなく流れる音楽。内声部が実に雄弁で何気に起伏がしっかりとついているので聴きごたえ充分。
メヌエットはオケの吹き上がりの良さを楽しむよう。パート間のバランスも音の溶け合いも完璧。これぞハイドンのメヌエット。トリオはそよ風が吹き抜けるように爽やかにこなし、再びオケが活躍してキレ味抜群な演奏で結びます。
ここまで完璧なオーケストラコントロールを聴かされると嫌が応にもフィナーレに期待が集まります。力むことなく実に軽快にオケがマリナーの指示に応えます。木管陣の軽やかさといったら並ではありません。終盤すっと力を抜くところのセンスも抜群。これぞ最上の演奏と言っていいでしょう。見事。

Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)
99番の出来の良さに惚れ惚れとしていたんですが、続く102番はそれを上回る素晴らしさ。力感の表現が図抜けています。冒頭から不気味な迫力に溢れ、序奏は見事な緊張感に包まれたまま進行します。徐々に力感を増していく件の素晴らしさは他に類を見ないほど。まさに白亜の大神殿が眼前に聳えているような迫力。1楽章だけでもこの曲の真髄をえぐるように押し寄せてきます。
この曲のアダージョも前曲同様美しいメロディーの宝庫です。表現の幅が広がり、奏者もリラックスしての演奏だけに、ゾーンに入って音楽に類希れな一体感が宿ります。メヌエットにも何かが宿ってこちらも類希れな迫力。あえて力を抜いて柔らかくまとめたトリオとの対比も見事。オケも絶好調。フィナーレはオケが指示を待つまでもなくどんどん展開しながらクライマックスに近づいていきます。低音弦の迫力に支えられながら、木管群が響きを乗せていき、最後までセンス良く遊び心を散りばめて終わります。

いやいや、これは素晴らしい。オーソドックスなハイドンの交響曲の演奏を極めた録音と言っていいでしょう。選曲も99番と102番と言うことで問題なし。もしかしたらマリナーは名前のないザロモンセットの録音をすることで、パリセットに続いてザロモンセットの完成を目指していたのかもしれません。このレベルの演奏が補完されればさぞかし素晴らしいザロモンセットが完成していたでしょうね。と言うことでこのアルバム、評価は両曲とも[+++++]を進呈です。未聴の方、是非聴いてみてください!

(参考:これまで取り上げたマリナーの演奏)
2012/10/26 : ハイドン–交響曲 : ネヴィル・マリナー/アカデミー室内管の「悲しみ」
2012/08/21 : ハイドン–交響曲 : マリナー/アカデミー室内管の86番
2011/08/10 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番1】マリナー/ドレスデン・シュターツカペレのネルソンミサ
2011/04/24 : ハイドン–協奏曲 : バリー・タックウェル/マリナーのホルン協奏曲
2011/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ハーデンベルガー、マリナー/ASMFのトランペット協奏曲
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造-2
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造
2010/12/06 : ハイドン–声楽曲 : マリナー/ドレスデン・シュターツカペレの戦時のミサ

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【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(後編)

前記事で突然始めた新企画。一部では「俗な企画」と核心をついた突っ込みをいただきましたが(笑)、乗りかかった船ということでとりあえず継続します。

2017/08/17 : Best Choice of Works : 【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(前編)

前記事を書くために色々なアルバムを掘り起こして短期間に聴き比べてみると、それはそれで意外な発見があるもの。ただし、どうしても比較して聴くようになってしまうため、聴き方が浅くなるような気がしなくもありません。普段のレビューではそのアルバムの背景を色々調べて奏者の気持ちになって聴いていますので演奏に深く触れているような気持ちになるんですね。ということで普段のレビューを続けながら、たまにこうした記事を書くのが良かろうということにしました。勢いに乗って、間をおかずハイドンの交響曲の最高峰であるザロモンセットの後編に突入です!



Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)

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2012/02/14 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】パーヴォ・ベルグルンドのオックスフォード、99番

ハイドンが1791年から92年にかけて訪れたロンドンの旅行が大成功に終わり、再び2回目のロンドン旅行に出かける際、ロンドンでの演奏のためにウィーンで作曲した曲。ザロモンセットの中でも一際優美な曲として知られています。手元の56種の演奏から私が選んだのは、パーヴォ・ベルグルンド指揮のフィンランド室内管の1992年の演奏。ベルグルンドといえばシベリウスなんでしょうが、おそらく唯一だと思われるこのハイドンの録音は純粋無垢な透明感に満たされた素晴らしい演奏。99番の優美な演奏といえばモーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管の燻し銀の演奏が最有力候補なんですが、このベルグルンド盤は純粋さを極めた透明感というか、凛とした美しさに包まれた隠れた名演奏。他にコリン・デイヴィスのコンセルトヘボウとロンドン響の新旧両盤、ハイティンクの振るコンセルトヘボウのLP、そして意外にファイのハイデルベルク交響楽団との演奏も素晴らしいんですが、ベルグルンドの演奏がそれらよりも心に響きました。


Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)

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2012/04/28 : ハイドン–交響曲 : モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」

ハイドンの交響曲の中でも一際派手な演出を伴う曲。軍隊というニックネームは初演前からつけらていたようで、ロンドンでの初演を予告する新聞にも掲載されていたそう。手元には92種もの演奏があり、その中でもこの軍隊交響曲の迫力を最も理想的に表現した演奏は、モーゲンス・ヴェルディケがウィーン国立歌劇場管弦楽団を1956年に振った演奏。このアルバムに収められたザロモンセットの後半6曲はどれも素晴らしい演奏なんですが、中でもこの軍隊は見事。1楽章の序奏から力感に満ち、しかも1956年とは信じられない鮮明かつ優秀な録音により素晴らしい響きが味わえます。2楽章で打ち鳴らされるグランカッサの重低音がズドンと決まりながら音楽は流麗に流れ、力任せに過ぎない品位を保ちます。ジャケットに写る眼光鋭いヴェルディケのコントロールが行き渡って素晴らしい音楽に仕上がっています。オケも流石に絶妙な巧さ!


Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)

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2013/01/07 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルトの驚愕、軍隊、時計

ご存知チクタクでで有名な2楽章が広く知られた曲ですが、驚愕同様、2楽章のみならず全4楽章素晴らしい曲。特に1楽章の迫力に満ちた緊密な構成と美しい目眩くようなメロディーはハイドンの交響曲の白眉と言っていいもの。この迫力と美しさをバランスよく兼ね備えることが時計の演奏のポイントでしょう。手元には98種の録音がありヒストリカルな演奏から古楽器による演奏まで名盤目白押しですが、私が選んだのは知る人ぞ知る、カール・リステンパルトがザール室内管弦楽団を振った1966年の録音。見事に溶け合うオーケストラの響きでこの時計の1楽章をまるで夢の国のような美しい演奏に仕上げていきます。肝心の時計のアンダンテのリズムの軽やかさも最高。時計とはこう演奏するものだとの確信に満ちた王道をゆく演奏。そして覇気に満ちながらも味わい深いメヌエットに淀みないフィナーレとこの曲の理想的な演奏。古い演奏ですが録音も絶妙で少しも古さを感じさせません。時計の普遍的名演と言っていいでしょう。


Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)

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2010/04/04 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンのザロモンセット

ザロモンセットも終盤。第2回ロンドン旅行の2年目である1795年のコンサートのために前年に書いた曲。ニックネームがついていないことから地味な存在ではあるが、曲の構成は円熟を極め、ハイドンの交響曲の最高傑作の一つ。特に2楽章のアダージョのメロディーの温かみのある美しさは素晴らしいもの。手元にある63種の演奏から私が選んだのはフランス・ブリュッヘンの振る18世紀オーケストラによる1991年のライヴ。ブリュッヘンのザロモンセットは古楽器オケらしからぬど迫力のライヴ中心で構成され、中でもこの102番は全編にみなぎる力感とブリュッヘンにしては流れの良さも併せ持つ秀演。メヌエットにブリュッヘンらしいゴリッとした響きでアクセントをつけてきますが、終楽章はしなやかにオケを響かせて響きのコントラストつけ、最後は湧き上がるように盛り上がる見事な演奏。古楽器でのハイドンの演奏の新境地を聴かせたブリュッヘンの面目躍如な演奏です。この曲にはギュンター・ヘルビッヒの振るドレスデンフィルの流れの美しさを極めた演奏もあり、そちらもこの曲の全く別の姿を印象的に描いています。


Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)

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2012/04/04 : ハイドン–交響曲 : ロヴロ・フォン・マタチッチ/ザグレブ・フィルの「太鼓連打」

冒頭のティンパニの独奏から太鼓連打の愛称で知られる曲。ハイドンの第2回のロンドン旅行の最後の年である1795年に作曲された曲。冒頭の太鼓も昔は遠雷のようにドロドロと鳴らすのが常でしたが最近はティンパニのカデンツァのごとき外連味たっぷりの演奏もあり、多彩です。手元の74種の演奏から私が最も好きな演奏は、日本でもお馴染み、ロヴロ・フォン・マタチッチの振るザグレブ・フィルの1979年10月29日のクロアチアの首都ザグレブでのライヴ。冒頭の太鼓のせいかこの曲には畳み掛けるような迫力ある演奏が目白押し。シャーンドル・ヴェーグがカメラータ・アカデミカ伴ってブダペストで行った1995年の感動的なライヴなど素晴らしい演奏がありますが、中でも一番のお気に入りがマタチッチ。全編にみなぎる力感とものすごい推進力。ハイドンのこの曲に込められたエネルギーを最も上手く引き出した演奏。どうもこの曲に込められたエネルギーを十分に発揮するには独墺系以外の指揮者の野性味が必要な気がします。


Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

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2011/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルのロンドン旧録

ハイドン最後の交響曲。ハイドンが2回目のロンドン旅行で行われた一連のコンサートのために最後に書いた総決算たる曲で、言うまでもなくハイドンの交響曲の最高傑作です。最後の作にふさわしく冒頭から壮大な曲想が続き堂々として覇気にあふれ、ハイドンの作曲技法の粋を尽くした見事な構成の曲。このハイドンの最高傑作の演奏には古典の曲としての壮大さの表現がポイントになります。手元の122種の演奏から今回色々聴き直して選んだのが、カラヤンの振るベルリンフィルとの1975年の今はなきEMIの録音。従来私はカラヤンでは1959年のウィーンフィルとのDECCA盤を推していたんですが、今回改めて聴き直すと、全盛期のベルリンフィルの特に弦楽陣の怒涛の迫力の素晴らしさに圧倒されました。カラヤンも大局的な視点でオケをコントロール。特にクライマックスの迫力はさすがにベルリンフィル。ベルリンのフィルハーモニーに響き渡る大音響と全盛期の帝王カラヤンの覇気は、最近の機知に富んだ古楽器の演奏や並み居る名指揮者の名演奏に勝りました。



突然始めた新企画ですが、これまで聴いたザロモンセットの名演奏を取っ替え引っ替え聴き直し、久しぶりに聴いた演奏も多く色々な発見もありました。自分でも意外でしたが、全12曲中古い演奏をかなり多く選んだことになりますね。選んだ演奏は、ハイドンの曲に込められた音楽をしっかりと汲み取った演奏で、やはり歴史の波を経て揉まれて来ただけに、それぞれ説得力のある演奏です。近年話題のファイもミンコフスキも結局選びませんでしたが、しっかり聴きなおした上での選択です。古楽器ではクイケンとブリュッヘンを選びましたが、どちらもハイドンの演奏に一石を投じたものだけに、それ以前の多くの名演奏を上回る説得力を持ったと言うことですね。前記事の冒頭に触れた通り、全ての盤が入手しやすいわけではありませんが、中古やオークションを探せば入手できないわけではありませんので、興味のある盤がある方はぜひ手に入れて楽しんでください。

夏休みの宿題的に時間をかけて記事を書きましたが、普段はこれほど時間をかけられませんので、しばらく通常のレビューに戻ることにいたします。

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tag : 交響曲99番 軍隊 時計 交響曲102番 太鼓連打 ロンドン

マルク・ミンコフスキ/都響の102番(東京文化会館)

昨日7月10日は気になっていたコンサートに出かけました。

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東京都交響楽団:第836回定期演奏会Aシリーズ

場所は上野の東京文化会館。プログラムはマルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski)指揮の東京都交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲102番、ブルックナーの交響曲3番(ノヴァーク1873年初稿版)の2曲。もちろんお目当はハイドンです。

ミンコフスキはハイドン好きの方ならご存知のことでしょう。主兵のルーブル宮音楽隊とのザロモンセットやチェチーリアミサの録音があり、当ブログでもかなり前に取り上げています。

2012/05/18 : ハイドン–声楽曲 : マルク・ミンコフスキ/ルーブル宮音楽隊によるチェチーリア・ミサ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 流石だったぜ、ミンコフスキ
2010/05/15 : ハイドン–交響曲 : 古楽器新世代、弾む機知
2010/05/14 : ハイドン–交響曲 : ミンコフスキのザロモンセット到着

ザロモンセットの方は太鼓連打の奇抜な入りといい、遊び心たっぷりの演奏は世評もかなり良かったように記憶しています。録音では聴いていたものの、この演奏スタイルは是非一度生の演奏を聴いて見たいと思っていた人でした。そのミンコフスキが来日してハイドンの、それも実に通好みの102番を振ると聞いてチケットをとった次第。

ミンコフスキは1962年パリ生まれと私と同世代。米ピエール・モントゥー・スクールで指揮を学び、1982年に自身でルーブル宮音楽隊を設立し、バロックオペラを中心に活動してきました。ハイドンでは上記の通り、ザロモンセットの録音が話題になりましたね。有名オケとの共演歴も豊富で、ベルリンフィル、ウィーンフィル、シュターツカペレ・ドレスデンなどを筆頭に各地のオケに招かれています。あんまり知りませんでしたが、来日歴も何度かあり、このコンサートでのオケである都響は2014年8月、2015年12月に続き3回目の客演とのこと。また手兵のルーブル宮音楽隊ともハイドンの没後200年の2009年に初来日以降、2013年にもコンサートを開いていますし、2012年からオーケストラ・アンサンブル金沢のプリンシパル・ゲスト・コンダクターを務めるなど、意外と日本で活動していることがわかりました。

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この日のコンサート会場は東京文化会館。昔はコンサートといえばここが定番でしたがサントリーホール、東京オペラシティ、すみだトリフォニーと新しいホールができて、ここ東京文化会館に来るのは実に20年ぶりくらい。上野には美術館には適当な頻度で来るのですがコンサートでは来なくなっていました。

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先日向かいのル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館が世界遺産に登録されていますが、その日本での一番弟子格であった前川國男設計の東京文化会館は意外に綺麗にメンテナンスされていて、ホワイエに入ると広々とした空間が実に心地よい。やはり名建築ですね。ただ、長年の利用の慣習か什器などが雑然と置かれ、空間の気高さに比べてちょっと雑然とした印象なのが惜しいところ。もう少し綺麗に使ってあげて欲しいところです。

ホール内部もカラフルなシートと昔から変わらぬ壁面の木製のオブジェ的装飾など懐かしい限り。ホール内を見渡し懐かしがっているうちに定刻となりオーケストラの団員が登壇。拍手に迎えられてミンコフスキも笑顔で登場しました。

前半はハイドンの102番。ミンコフスキがタクトを下ろすと音量とテンポを落とした序奏が丁寧に描かれ進みます。オケは出だしだからかちょっと不揃いなところもありましたが主題に入るとミンコフスキ特有の弾力的なリズムと推進力がみなぎり、オケも調子が出てきます。ことさらノンヴィブラート風に演奏するのではなく、躍動感、高揚感を保つよう非常に細かくタクトを震わせオケを煽っていくのが特徴でしょうか。ルーブル宮音楽隊とのザロモンセットの録音でも102番は名演ですので、その録音のオケと比べて聴くとオケの反応の鮮やかさに差があるのは致し方ないところ。ですが、現代楽器のオケによる演奏では、音楽のヴォリューム感というか大きな構造のバランスの良さがよく感じられる面もありますね。1楽章は流石ハイドンを得意とするミンコフスキ、手堅くまとめた印象。
柔らかく美しいアダージョは奇を衒うことなく比較的速めのテンポで色彩感とアゴーギクの面白さを生かした演奏。惜しむらくは、この東京文化会館の硬く乾いた響きで本来ならばもう少し感じられるであろう潤いに欠けていたこと。これはホールの所為でしょうが、都響のホームグラウンドですのでやむを得ないでしょう。
メヌエットは予想通り軽やか、そして生での聴きどころであるフィナーレもオケのキレと高揚感が素晴らしく聴きごたえがありました。意外と言ってはなんですが、都響もこの曲も終盤になると弦パートを始めとしてなかなかの切れ味。都響を聴くのも実に久しぶりですので改めて最近の充実ぶりがうかがえました。もう一つ流石だったのはミンコフスキが古典のハイドンの整然とした印象を保っていたこと。流石ハイドンを得意としている人ですね。

もちろん会場からは期待通りの演奏に拍手が降り注ぎました。

休憩後はブルックナーの3番。しかもノヴァーク1873年初稿版ということで、非常に珍しい版での演奏。解説によるとよく演奏されるのはノヴァーク第3稿でこの1873年版の16年後の版。ブルックナーは自身の曲をなんども修正したことで知られますが、この3番も今回演奏される版は作曲当初の若書きの部分があったりという版とのこと。ブルックナーは嫌いではないんですが、3番はほとんど馴染みがない上に、この若書き版ということで、非常に新鮮に聴けたんですが、、、 ブルックナーとは荘重に響くものという思い込みを木っ端微塵に打ち砕く、ミンコフスキならではの創意というか独創的な解釈というか、もしかしたらハイドンの驚愕で聴かせた悪ふざけというような演奏。速めのテンポでオケをグイグイ煽りながらバリバリ鳴らし、響きの変化とダイナミクスの変化を畳かけるように聴かせる演奏。ブルックナーに詳しい方にこの解釈の評価はお任せすることにして、私自身は驚きというか、違和感というか、アンマッチ感覚を覚えたのが正直なところ。それでも素晴らしかったのはオケの熱演。特にヴィオラやヴァイオリンの熱気は素晴らしく金管も安定感抜群。とにかく良くオケが鳴った演奏でした。

演奏が終わると、オケをフルスロットルで鳴らしきった充実感から、盛大な拍手とブラヴォーが降り注ぎましたが、一方瞬時に席を立って帰るお客さんも目立ち、ミンコフスキの解釈の評価は割れた感じでした。確かにオケの迫力とミンコフスキのコントロールは素晴らしかったんですが、これがブルックナーかと言われると、私は前衛的でちょっと奇異な解釈という印象を受けました。もちろん、私がブルックナーを語れる立場でもなく、一個人の感想に過ぎませんが、ハイドンの演奏でも前衛的で素晴らしい演奏があるのに対し、前衛的でちょっとハイドン本来の魅力をスポイルしてしまっている演奏もあり、どちらかというと後者に近い印象でした。

まあ、私のお目当のハイドンについては前半の素晴らしい演奏で満足しておりますので、この日の目的は達成というところでした。

ミンコフスキは今後も来日公演が予定されているようですので、またの機会にその音楽を確かめたいと思います。

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【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの102番、太鼓連打、ロンドン(ハイドン)

室内楽にどっぷりとはまろうと思っていた矢先に届いたアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINE

ブルーノ・ヴァイル(Bruno Weil)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの交響曲102番、103番「太鼓連打」、104番「ロンドン」の3曲を収めたSACD。収録は2013年2月16日、2014年3月23日の両日、ドイツ、エッセンにあるエッセン・フィルハーモニーのアルフレッド・クルップホールでのライヴ。レーベルは独Ars Production。

ブルーノ・ヴァイルとカペラ・コロニエンシスによるハイドンのザロモンセットの録音の4枚目、このシリーズの最後を飾る1枚です。ブルーノ・ヴァイルは手兵、ターフェル・ムジークとの交響曲やミサ曲、天地創造の録音があり、ハイドンの作品を古楽器オケで演奏したアルバムでは注目すべき存在でした。ターフェル・ムジークとの演奏はヴァイルの闊達なコントロールが聴きどころで、私もかなり高く評価していますが、その後、カペラ・コロニエンシスと組んでのこのザロモンセットのシリーズは、ターフェル・ムジークとの演奏と比べてしまっているからか、いまひとつキレを期待してしまうところがあり、ちょっとふっ切れない印象のものが多かったのが正直なところ。そのあたりは、過去の記事をご参照いただければわかるとおりです。

2013/12/17 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの交響曲99番、時計、軍隊(ハイドン)
2013/05/09 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル/ターフェルムジークの86番
2012/08/11 : ハイドン–管弦楽曲 : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/01/24 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの四季
2011/08/14 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番4】ブルーノ・ヴァイルのテレジアミサ、ネルソンミサ
2011/01/10 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイルの天地創造
2010/12/25 : ハイドン–交響曲 : 【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番
2010/03/08 : ハイドン–交響曲 : ブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへ

そのヴァイルのザロモンセットの締めくくりとなるアルバムがリリースされ、届いたということで、期待を込めて取り上げる次第。軍隊などを含む前のアルバムを取り上げたのが2013年の12月と2年前。久々のリリースでようやく完結しました。

ヴァイルの演奏に対する私の視点はこのシリーズの1枚目を取り上げた一番最後のブルーノ・ヴァイル、ザロモンセットへという記事に触れてあります。ハイドンの交響曲録音では、トーマス・ファイ、ギィ・ヴァン・ワース、ジョヴァンニ・アントニーニや、ニコラス・マギーガン、先日取り上げたロビン・ティチアーティらによる斬新な解釈による興味深いアルバムが次々とリリースされており、昔は斬新だったヴァイルも、ちょっと古めかしく感じられなくもありません。

Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)
非常に落ち着いた入り。古楽器ながら分厚い響きとスタティックな印象はブリュッヘンを思わせるもの。弦楽器群は地を這うような迫力を伴い、金管群は古楽器特有の鋭い音色ながら、こちらも分厚い響きで全般に迫力重視のコントロール。リズムはどっしりと安定し、最近の演奏の中ではかなり伝統的な部類の演奏。ただし、この102番の1楽章を堅実にがっちりと演奏することで、良い意味でこの曲の堅実な魅力が引き立ちます。
美しい響きが印象的なアダージョも、抜群の安定感でじんわりと曲の魅力がにじみ出てきます。どこかで斬新さを求めてしまう気持ちがある一方、このしなやかな迫力を帯びた堅実な演奏の魅力も捨てがたいと思う気持ちもあります。これまでヴァイルが切り開いてきた、古楽器によるハイドン演奏の角度がそういった気持ちにさせるのでしょうが、当の本人は我関せず、ハイドンの交響曲の魅力を虚心坦懐に表現しているだけかもしれませんね。
メヌエットでもスタイルは変えず、図太い響きと抜群の安定感で圧倒します。最近の多くの演奏が、鮮やかなリズムや、フレーズ毎の変化で楽しませてくれるので、メヌエットは若干単調に感じなくもありません。
そしてフィナーレに入ると、若干軽やかさに振れたあと、オケがフルパワーで炸裂。音楽のスタイルは終始一貫して、楽章ごとに力感のスロットルをコントロールしていきます。終楽章の迫力はかなりのもので102番の質実な起伏の変化を十分楽しめますが、ハイドンの交響曲にはもう少し違った楽しみもあるはずとの印象も残します。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
そんなに遠くないところで雷が鳴るような冒頭の太鼓。基本的にヴァイルのスタンスは変わらず、迫力重視の質実な演奏ですが、102番の時よりオケに色彩感があり、表現がしなやかに聴こえます。ほんの僅かなニュアンスの違いなんですが、この太鼓連打では、ソロとオケの対比の面白さ、ゆったりと落ち着いた曲の運び、パート間の音色の違いの面白さなどが印象的。前曲がモノクロのすこしラチュードの狭い写真だったのが、こちらは鮮やかとまでいかないまでもナチュラルなカラー写真のような印象。ほんの僅かな違いなのに不思議なものです。力の抜けた部分の存在がそう感じさせるような気がします。ヴァイルも演奏を楽しんでいるような余裕があるのがいいですね。
2楽章に入るとオケ全体に軽やかさが宿り、ライヴらしいノリも感じられます。フレーズごとの曲の描き分けも巧みでテンポも比較的速めに進めることで曲の面白さが際立ち、要所で迫力ある分厚いオケが威力を発揮するので、前曲の剛直な印象は皆無。これはいい。
このスタンスがメヌエットでも活きて、オケが反応よく響きます。結果的にオーソドックスなメヌエットの魅力が際立ち、適度な起伏とリズム感の面白さが前に出てきました。
フィナーレも入りの軽さから徐々に力感が漲っていくダイナミクスの変化は見事。軽さがあるから力感が際立つ好例。オケが軽やかに吹き上がる快感。適度に粗さもあるのがかえってライヴらしくていいですね。古楽器らしいホルンの音がなんとも言えずいい雰囲気。そしてティンパニ奏者が要所で煽る煽る。なかなか見事な演奏。これまで聴いたヴァイルのザロモンセットでは一番の出来です。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
最後のロンドン。102番のイメージの延長からもう少し堂々と来るかと思いきや、意外とあっさりとした序奏。これはこれで悪くありません。古楽器演奏らしいさっぱりとしたフレージングですが、響きは重厚で迫力十分。ロンドンの聴きなれたメロディーの垢が落とされて、新鮮に響きます。オケの吹き上がりはこのオケならでは。図太い低音をベースにしながら、次々とメロディーが展開していく面白さ。ヴァイルのスロットルコントロールがピタリとハマって、この名曲が実に新鮮に響きます。
アンダンテはかなり軽さを意識した入り。サラサラと進みます。1楽章の雄大さも抑え気味だっただけにこのサラサラ感で丁度いい対比がつきます。中間部はテンポを落とさずぐっと力を込めることで起伏を印象付けます。続くメヌエットも速めで非常に見通しの良い設計。オケもかなりリラックスして軽々とこなします。時折りキレの良い吹き上がりを見せ、聴きどころを作ります。中間の2つの楽章をかなりあっさりと流すことで、1楽章とフィナーレの面白さを際立たせようということでしょうか。
そしてフィナーレもさらりと入るのですが、なんとなく緊張感が違います。このあとの盛り上がりへの期待を煽るような気配があり、案の定、オケが徐々に迫力を帯びていきます。演奏によってはくどさを感じさせる終楽章ですが、そんな気配は微塵もなく、この堂々とした名曲を古楽器オケのオーセンティックな魅力でさらりとまとめ上げる手腕の見事さが印象的。人によってはちょっと物足りない印象を持つかもしれませんが、私にはこの響きと展開は新鮮で魅力的でした。最後はヴァイルが煽ってオケもそれに応えて爆発。拍手が入ってないのが惜しいところ。

ブルーノ・ヴァイルとカペラ・コロニエンシスによるハイドンのザロモンセットの締めくくりの1枚。冒頭の102番が固かったので、最初はあまりいい印象を持ちませんでしたが、続く太鼓連打は名演。そして最後のロンドンもこの曲の雄大さを新鮮に表現するこちらも名演ということで、締めくくりにふさわしい出来でした。ターフェル・ムジークとの闊達な魅力の印象が強かったヴァイルですが、カペラ・コロニエンシスとのこの1枚で新たな魅力がわかった気がします。評価は102番が[++++]、他2曲は[+++++]とします。

さて、ヴァイルは昨今のハイドンの新録音ブームの中、今後何をリリースしてくるでしょうか。パリセットの再録などはどうでしょうかね!

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tag : 交響曲102番 太鼓連打 ロンドン ライヴ録音 SACD

クーベリック/ケルン放送響の時計、102番(ハイドン)

東京は先週末に一気に染井吉野が開花しました。天気にも恵まれたので昼休みには多くの人が近くの公園などで暖かな陽射しのもと桜の花を見上げて楽しんでいました。夜の花見のためにブルーシートを敷いて新入社員が場所取りをしながらノートパソコンで仕事をしているのが微笑ましいですね。これから桜吹雪を楽しむと、程なく木々が芽吹き、一気に新緑の季節になります。街路樹の欅など、何も葉のない枝からあっという間に新緑の葉が吹き出してくるのは毎年ながら自然の力を感じます。

桜は楽しんでいるのですが、新年度に入って仕事もバタバタしており、なかなか音楽をゆっくり楽しめません(涙)。ということでちょっと間が空いてのレビューです。今日は新着アルバム。

Kubelik101_102.jpg
TOWWER RECORDS / HMV ONLINE
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ラファエル・クーベリック(Rafael Kibelík)指揮のケルン放送交響楽団(Kölner Rundfunk-Sinfonie-Orchester 現WDR Sinfonieorchester Köln)の演奏で、ハイドンの交響曲101番「時計」、102番などを収めた3枚組のアルバム。ハイドンの収録は時計が1963年5月31日、102番が1961年4月10日のライヴで、ケルン放送センターの第1ホールでのライヴ。咳払いなどが入っていないので放送用の収録ということでしょうか。レーベルはORFEO D'OR。

クーベリックのハイドンは気になる存在ゆえ、わりと取り上げています。これまでのレビューは下記のとおり。

2013/12/27 : ハイドン–交響曲 : クーベリック/バイエルン放送響の時計1970年10月ライヴ(ハイドン)
2012/07/24 : ハイドン–交響曲 : クーベリック/バイエルン放送響の99番1982年9月7日ライヴ
2012/01/27 : ハイドン–声楽曲 : クーベリック/バイエルン放送響の「戦時のミサ」
2010/10/11 : ハイドン–協奏曲 : フルニエ/クーベリックのチェロ協奏曲2番
2010/05/24 : ハイドン–オラトリオ : クーベリックの天地創造

今日取り上げるアルバムは最近リリースされたもので、ハイドンの曲が入っているのに最近気づいて慌てて注文したものです。クーベリックのハイドンの交響曲の録音はライヴを中心に99番、時計、102番が残されており、この3曲がお気に入りだったものと推察されます。その録音のなかでも最初期の録音です。

アルバム自体は1960年から63年にかけてケルン放送交響楽団との録音を集めたもので、残念ながら録音はすべてモノラルですが、ジャケットの写真のとおり、晩年の温厚な姿とは異なる、ギラつく視線とアーティスティックな雰囲気がにじみ出る若きクーベリックの覇気あふれる時代の録音です。上のバイエルン放送響との99番の記事に記したとおり、クーベリックは1961年からバイエルン放送響の首席指揮者に就任しており、まさに脂の乗りきった時代。晩年は中庸の美学で聴かせたクーベリックの覇気が聴かれるのでしょうか。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
緊張感を帯びた入り。テンポはゆったりながら、ビンと張り詰めた序奏。録音はモノラルでわずかながら金属っぽい響きを感じますが鮮明さもほどほどあり悪くありません。低音がちょっとボンつき気味でピークが抑えられていますが、音量を上げていくとかなりのリアリティ。後年のクーベリックが聴かせる絶妙のバランス感覚はすでに健在。ザクザクと音楽を刻みますが、迫力だけではなく折り目正しさもあり、ハイドンが仕組んだ1楽章の構成感を見事に描いていきます。
見事なのは2楽章。時計のリズムを正確に刻みながら、イキイキとメロディーが浮かび上がり、各パートが代わる代わるヴァイオリンの奏でるメロディーにからみ、聴き進むうちに至福の心境に。中盤の盛り上がりも実に心地よい吹き上がり。オケの精度も高く、キリリと引き締まった表情で音楽が流れます。終盤は枯淡の境地。静寂の中にリズムが打たれ、彫りの深い表情で凛と迫ります。時計の2楽章でこれほど迫ってくるとは。
メヌエットはまさにクーベリックの美点が活きる楽章。バランスを保ちながらも、ザクザクと迫ってくる音塊。LPのモノラル盤の迫力のような引き締まった響きに鳥肌が立ちそう。中間部のフルートソロが実に心に沁みます。
そしてフィナーレ。落ち着いた入りから徐々にスロットルが開き、オケが分厚く鳴り響きます。最後にゆったりとした印象を残しながらのスロットルコントロール。徐々にクライマックスに昇りつめていきますが、音量を落とす部分は騒めくような気配を残して対比をつけます。最後は落ち着いてフィニッシュ。これはこれまでのクーベリックのベストのハイドンかもしれません。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
続く102番。先ほどよりも録音は2年ほど古いですが、コンディションはこちらの方が上で、鮮明度は上がります。低音のボンつきはおさまり、金属っぽい残響もなくなります。モノラルながらタイトないい録音。102番独特の穏やかなメロディーですが、前曲同様ザクザクと切り込み、迫力は十分。一貫してタイトな表情。オケは前曲よりもすこし荒く、力感重視な演奏。前曲での演奏がスロットルコントロールの面白さで聴かせたのに対し、この曲1楽章では力で押す感じでしょうか。
好きな2楽章ですが、この曲独特の穏やかな起伏を柔らかく描くのではなく、タイトに描いていきます。やはりこの時代の空気なのでしょうか、ザクザクとしたオケの表情が時折顔を覗かせます。
その表情はつづくメヌエットへの伏線だったのでしょう、メヌエットはキレのいいオケが楔を打ち込むように実に気持ち良く鳴ります。ゆったりとアダージョを聴かせるところではなく、ザクザクと鳴りまくるメヌエットに焦点をあてた設計。そのキレと迫力が効いているので中間部の木管陣によるメロディーが実に柔らかく響きます。
フィナーレはクーベリックの真骨頂、バランスと迫力が拮抗した素晴らしい演奏。オケのキレも最高潮。冴え冴えとしたヴァイオリンに分厚く迫る低音弦。そして特に音量をすっと下げるスロットルワークの巧みさが神々しいほど。最後はオケが研ぎ澄まされたように純度が上がり、フィニッシュ。出だしの1楽章が若干力み気味な印象を残したものの、聴き進むうちにオケが覚醒、最後は冴えまくって終わりました。

ラファエル・クーベリック指揮のケルン放送響による1960年代初頭のハイドンの名曲2曲の演奏。やはりクーベリックが飛ぶ鳥を落とす勢いで名声を得ていったころの覇気があふれる素晴らしい演奏でした。録音はモノラルですが、かえってモノラルならではの迫力が楽しめるという見方もできるでしょう。時計は緩急自在の演奏、102番は冴えまくるオケに圧倒される演奏でした。これまで聴いたクーベリックのハイドンでは両曲ともベストでしょう。評価は両曲とも[+++++]とします。

山梨では桃の花が盛りとの情報! 明日は山梨に桃の花を愛でにいってみましょうか、、、

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【新着】チェリビダッケ/フランス国立放送管の102番ライヴ(ハイドン)

チェリビダッケの102番のライヴと聞けばちょっと気になります。早速入手してレビュー。

Celibidache102.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

セルジュ・チェリビダッケ(Sergiu Celibidache)指揮のフランス国立放送管弦楽団(Orchestre National de l'ORTF)の演奏で、ウェーバーの「魔弾の射手」序曲、ハイドンの交響曲102番、シューマンの交響曲2番の3曲を収めたアルバム。収録は1974年2月27日、パリのシャンゼリゼ劇場でのライヴ。

チェリビダッケはハイドンを得意としていたわけではなさそうですが、手元にはいろいろ録音があり、これまでもライヴを中心に3度取り上げています。

2012/07/23 : ハイドン–交響曲 : チェリビダッケ/ミュンヘンフィルの「ロンドン」1983年7月3日ライヴ
2010/11/11 : ハイドン–交響曲 : チェリビダッケ、RAIナポリの102番、ロンドンライヴ
2010/05/04 : ハイドン–交響曲 : 磨き抜かれた逸品、チェリのロンドン

ザロモンセットについては、ロンドン、太鼓連打、驚愕などの有名曲とこの102番に複数の録音があります。やはり遅いテンポで雄大な演奏をする人との印象があり、怖いもの見たさというところもあり気になる存在です。この102番についても1955年のライブと1971年の録音がすでに手元にありますが、演奏、録音ともにベストのものとは言えないものゆえ、この1974年のシャンゼリゼ劇場のライヴに期待が集まります。しかもAltusのリリースということで、クォリティの高い復刻を期待するところです。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
期待通り、録音はそれなりに自然なもの。手に入れたのはCDですが、他にSACDシングルレイヤーもリリースされているということで、録音の質が悪かろうはずがありません。予想通り序奏は実にしなやかに荘重なもの。弦楽器のシルキーな感じと管楽器のクリアな音色がフランスのオケであることを物語ります。やはりチェリビダッケのコントロールは壮大かつ壮麗なもの。音量を上げて聴くと、特に弦楽器の緊張感ある伸びやかさがチェリビダッケならでは。アクセントはかなり抑えて壮麗さを意識したコントロール。録音のせいか重厚さはあまり感じず、低音弦はかなり抑え気味で、弦も高域重視で鮮やかな印象。ホールに響く弦の余韻を楽しむように気持ち良く弓を操ります。
つづくアダージョでも極度にしなやかな弦楽器が印象的。かなりゆったりとしたフレージングで弦の魅力を嫌という程聴かせます。この極端なバランスがチェリビダッケの個性でしょう。管楽器もかなり抑えて、まるで弦楽器の響きの調味料程度に音色をブレンドしているよう。この滔々たる弦楽器による大波のようなメロディーが音楽の核になっています。終盤のもりあがりでようやく低音弦や管楽器が存在感をアピールします。非常に大きなつくりの音楽。
メヌエットもチェリビダッケの手にかかるとかなり壮麗な音楽に聴こえます。やはり弦楽器群のエキセントリックな響きが全体の音楽のポイントになっています。揺るぎない信念にみちたゆったりとした進行。確信にみちた音楽がホールに響き渡ります。オケの音色が脳の官能中枢に直接作用するような独特の快感に浸ります。スタティックなのに恐ろしく艶やかな音楽が続きます。メロディーには躍動感がともないますが、響き自体はブルックナーのような壮麗さを感じるのが不思議なところです。
フィナーレは、その壮麗な響きはそのまま、コミカルな表情を加え、オケが気持ち良く反応し、クライマックスの爆発の予感を感じさせます。奏者の感覚も鋭敏になり、アンサンブルもタイトに引き締まっていきます。オケは異次元の集中を聴かせ、実に心地良い響きでチェリビダッケの指示に従います。最後はさっと力を抜いて粋なところを見せて終わります。じんわりと拍手に包まれるところにこのコンサートの聴衆の満足度合いが表れているよう。

この102番に関しては手元の3種の中ではベストなもの。神がかった迫力が聴かれるかと思いましたがさにあらず。落ち着いたコントロールによって、ハイドンの交響曲の面白さのツボを押さえた理想的な演奏となっています。ちょっとチェリビダッケの演奏ということで事前期待が大きすぎましたでしょうか。ただ、そうしたこちらの想いを良い意味で裏切る堅実な名演奏というところでしょう。落ち着いた入りに対して、曲の終盤にはこの曲の面白さを完全に把握した見事なコントロールを聴かせました。聴き始めた時は無難な演奏との印象もありましたが、やはり流石はチェリビダッケ。これは名演ですね。評価は[+++++]とすることにいたしました。

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tag : 交響曲102番 ライヴ録音 SACD

【新着】パウル・クレツキ/フランス国立管の102番

いやいや、暑い日がつづきますね。今日は新着アルバム。

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パウル・クレツキ(Paul Kretzki)指揮のフランス国立管弦楽団の演奏で、ショパンのピアノ協奏曲1番、ハイドンの交響曲102番の2曲を収めたアルバム。ショパンのピアノはマリツィオ・ポリーニです。ハイドンの収録は1952年10月30日、パリでのライヴ。会場の表記はありません。レーベルはヒストリカル復刻の雄ARCHIPEL。

ジャケットには若きポリーニの眼光鋭い姿が見えますが、ポリーニが加わっているのはショパンだけなので、今日のレビューは純粋にクレツキとパリ国立管のハイドンの102番の演奏のみとなります。

パウル・クレツキは1900年、ポーランド中央部のウッチ(Łódź)の生まれ。地元のオケに15歳で入った後、第一次世界大戦に出兵。その後ワルシャワ大学で哲学などを学び1921年にベルリンに移ります。1920年代に彼が作曲した作品は当時トスカニーニやフルトヴェングラーに評価され、フルトヴェングラーは1925年に彼をベルリンフィルに招いて、指揮する機会を提供しました。ユダヤ人だったため、1933年にはドイツを離れますが、イタリアでもファシスト政権の反ユダヤ主義的政策の苦労したため、1936年にソ連に逃れます。今度はスターリンの大粛正のため、結局スイスに亡命します。彼の代表作である交響曲3番「イン・メモリアム」はナチスの犠牲者のための墓碑として1939年に作曲されたとのこと。両親や姉妹を含む肉親をホロコーストによって殺害され、精神を破壊されたということで、1942年以降作曲することはなくなりました。戦後は指揮者として活動し、ベートーヴェンとマーラーを得意としていました。1954年から55年までロイヤル・リヴァプール・フィルの音楽監督、1958年から61年までダラス交響楽団の首席指揮者、1966年から亡くなる1973年までスイス・ロマンド管の音楽監督を務めました。来日もしていて日本フィルハーモニー交響楽団を振ったこともあるようです。2度の大戦に翻弄されながらも、多くの録音を残した偉大な指揮者だったのですね。

今日取り上げるクレツキの102番、終戦からしばらく経ってからのパリでのライヴ。彼の経歴を知って聴くと、重みも増すのでしょうか。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
録音は時代なり。ヒストリカルなライブ独特の饐えた感じが少々ありますが、音像は鮮明。残響はそれなりにあるホールですが、かなりオンマイクな録音なので、実体感は抜群。幽玄な序奏につづいて、速めのテンポによる畳み掛けるように主題に入ります。クレツキがオケを煽っているのでしょう、オケは足並みが乱れるところもありますが、細かいところは気にせず、グイグイドライブをかけて怒濤の迫力。ハイドンの交響曲の1楽章の類いまれな構成感を良く理解して、もの凄く緊密な演奏。入魂の演奏とはこのことでしょう。
2楽章のアダージョはオケの粗さはそのままに、穏やかなこの曲ではありますが、彫りの深い彫刻的な演奏。噛み締めるようにフレーズ毎に険しい表情で鉈で木を荒々しく削りこんでいくよう。癒しを感じる演奏が多い楽章ですが、クレツキの演奏には張りつめたものがあり、真剣勝負な気迫が漲っています。荒々しい響きがかえって迫力につながっています。
メヌエットはざらついたオケの迫力が尋常ではありません。微妙にテンポを落として迫力を感じさせたり、テンポをちょっと上げたり、意外とデリケートなクレツキのコントロールが行き渡ってます。途中テープの伸びでしょうか、一瞬音程が揺らぎますが、一カ所だけ。木管陣はヴィブラートをほとんどかけず、持続音をきっちりふききりメロディーを重ねていくことで、剛直な感じを演出。さらりとした荒々しさが次のフィナーレの爆発を予感させます。
入りから、気合いが漲っているのがわかります。冒頭はヴァイオリンの音階さらりとこなし、盛り上がってからは、各パートがしのぎを削って畳み掛けます。ゴリゴリザクザクメロディーラインが展開するうちにエネルギーが集まり始めます。音量を上げて聴くと素晴しい迫力。最後のリズムの面白さを聴かせる部分もなかなかの演出。楽章間の咳払いなどはすべて録られているのに最後の一音が鳴ったあとはさっと絞って拍手はカットです。不思議なライヴ収録。

パウル・クレツキ入魂のハイドン。時代なりの粗い録音から、当時のホールの様子がリアルに伝わります。手に汗握る迫力の演奏。ライヴ独特の粗さはありますが、手綱を締め上げながらオケをコントロールするクレツキの様子がよくわかる録音です。ヒストリカル、ライヴ好きの方には是非聴いていただきたい演奏です。わたしはクレツキの略歴を調べているうちに、苦難の人生を送ったパウル・クレツキと言う人にちょっと興味をもちました。戦争が終わり、家族を失っても指揮台に立ち、実に彫りの深い音楽を奏でる不屈の人と言うイメージをもちました。音楽とは心で感じるもの。このアルバムから流れる響き以上に何か深いものを感じざるを得ません。心に残る良い演奏でした。評価は[+++++]とします。クレツキの交響曲3番、手に入れて聴いてみたいと思います。

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アダム・フィッシャー/ハイドン・フィルの97番、102番

今日はハイドンといえばこの人、アダム・フィッシャーのアルバム。

AdamFischer97.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アダム・フィッシャー(Adam Fischer)指揮のオーストリア・ハンガリー・ハイドン・フィルハーモニー(Österreisch-Ungarische Haydn-Philharmonie)の演奏でハイドンの交響曲97番、序曲「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」、交響曲102番の3曲を収めたアルバム。収録は2006年9月14日から17日、アイゼンシュタットのハイドンザールでのセッション録音。レーベルはmDG。

このアルバムのライナーノーツにはハイドンザールのステージに立つアダム・フィッシャーとハイドンフィルのメンバーの素晴しい写真が収められているので、こちらも紹介しておきましょう。

AdamFischer97_2.jpg

アダム・フィッシャーと言えばこのウェブサイト。

アダム・フィッシャー&ハイドンフィルハーモニーファンクラブ

こちらはご存知の方も多いでしょう。

もちろん、当ブログでもアダム・フィッシャーのハイドンは何度が取りあげています。ドラティに次いでハイドンの交響曲全集を完成させた人として、ハイドンファンの皆様はおなじみの人でしょう。

2012/12/26 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー/オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団の哲学者、24番
2011/01/23 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャーのマーキュリー、悲しみ、告別
2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後

アダム・フィッシャーといえば、当初Nimbus Recordsで全集の録音をはじめ、途中でNimbusの活動休止に伴い断念したかと思いきや、廉価盤勃興の祖、BRILLIANT CLASSICSからいきなりNimbus未発表の録音もまとめて全集として発売されビックリしたのが懐かしいですね。その全集後、今度はmDGレーベルからザロモンセットと序曲等をあしらったアルバムがSACDとしてリリースされ、ザロモンセットを再録音かと思いきや、今日取り上げる3枚目がリリースされた以降、次が出ていない状態かと思います。

上の哲学者と24番の記事で触れた通り、アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲では、全集の完成にかなりの年数を要しており、録音年の古い曲では躍動感漲る素晴しい演奏が多いのに対し、後年になるほど、冷静さが目立つようになっていく傾向があります。今日取り上げるアルバムは2006年とかなり最近の録音で、しかもハイドンザールで収録したSACDということで、あらためてフィッシャーの最近のハイドン演奏を知る上では重要なものでしょう。

Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
SACDだけに録音は万全。ハイドンザールに響きわたる小編成オケの響きが鮮明にとらえられています。アダム・フィッシャーのコントロールは速めのテンポでキビキビした非常に精度の高いもの。前記事で聴いたマリス・ヤンソンスの演奏とは異なり、ハイドン演奏の伝統の延長にある演奏。アタックの力感をカッチリと出して、97番の楽興を畳み掛けるように実に上手く表現していきます。1楽章は見事な構築感。
続くアダージョはサラサラと軽めの表現と中間部の爆発の対比の構図を鮮明に表す事を狙ったのでしょう。ハイドンが仕組んだ機知を汲み取って、ホールにいるハイドンに伝えているよう。ハイドンの音楽を知り尽くしたフィッシャーならではの自在な表現。2楽章の終わり方一つとっても、かなりのこだわりがあるようです。
メヌエットも実に痛快。ティンパニの響かせ方が最高。メロディに潜んでいる遊び心がそこここに芽吹いてくるようすがよくわかります。鮮明な録音で各楽器の重なりも鮮明に分解され、フレーズひとつひとつが鮮明に浮かび上がります。録音の威力ですね。
フィナーレも機敏な演奏。リズムがキレて、フレーズのクッキリ度がさら上がります。ハイドンの書いた楽譜に仕込まれたリズムとメロディ、ウィット、演奏者や聴衆を驚かせようとした機知が鮮明に浮かび上がります。これぞハイドン。素晴しすぎます。97番のベスト。

Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」序曲 (1791)
劇的な序奏からはじまる曲。オペラの幕が上がる前の興奮をそのまま伝える演奏。まるでライヴを聴いているような素晴しい迫力と躍動感。これまた素晴しい。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
そして名曲102番。おだやかな曲想を踏まえてか、アダム・フィッシャーは97番ほどのキレを見せず、むしろニュートラルな表情を意識しているよう。アクセントとは逆に音を印象的に抑えるところを上手くつかって変化をつけていきます。ただ、徐々に盛り上がっていくのがこの曲の面白さ。そこを十分にふまえて徐々にアクセルを踏んでいくのがよくわかります。1楽章のフィニッシュに至ってオケがフルスロットルに。
2楽章のアダージョはハイドンの交響曲のアダージョの中でも穏やかな美しさが印象的な曲。古い演奏の中にもメロディーの美しさが印象的なものが多い名曲です。フィッシャーはメロディーの美しさを適度に表しながらも、終盤の爆発との対比を鮮明に演出して、メロディーの表現は抑え気味にします。これもハイドンを熟知したフィッシャーならではの表現。
メヌエットではハイドンフィルの意外に迫力のある音色が実に効果的。少し溜めて迫力を演出。中間部ののどかな響きをあえて室内楽的な手作り感あふれる雰囲気にまとめるあたり、ハイドンのディヴェルティメントを聴いているよう。
期待のフィナーレは、コミカルな導入からにクライマックスまでの躍動感溢れる盛り上げ方が聴き所。フレーズごとの表情付けの多彩な変化はアダム・フィッシャーならでは。流石に交響曲全集の録音を成し遂げている人ならではの経験が活きています。ハイドンの交響曲の面白さが詰まった曲であることがこの演奏でよくわかります。最後のテンポとトーンを落とすところは見事の一言。

アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲の最新録音。ハイドンを知り尽くしたアダム・フィッシャーによって、ハイドンの交響曲の最高の演奏がハイドンザールでの素晴しい響きとともに鮮明な録音で収められた素晴しいプロダクション。久しぶりに取り出して聴いてみて、その素晴らしさにあらためて打たれました。3曲とも素晴しいのですが、特に97番はこの曲のベストと断定します。97番の面白さを最も上手く表現した演奏でしょう。評価は全曲[+++++]とします。ハイドンの交響曲の面白さを堪能です。

この続き、是非リリースしてほしいものです。

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tag : 交響曲97番 交響曲102番 哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ SACD

【新着】アイヴァー・ボルトンの102番、太鼓連打

久しぶりの新着アルバムの紹介。HMV ONLINEに他のアルバムと一緒に注文してあった物が今日着きました。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

アイヴァー・ボルトン(Ivor Bolton)指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の演奏による、ハイドンの交響曲102番、103番「太鼓連打」の2曲を収めたアルバム。収録は2011年5月17日から19日、ザルツブルクの文化フォーラム、ドロテア・ポルシェ・ホールでのセッション録音。レーベルはOEHMS CLASSICS。

アイヴァー・ボルトンのハイドンはこれまで、3回取りあげています。おそらくこれがボルトンのハイドンの全録音。ボルトンの紹介は天地創造の記事をご覧ください。

2011/05/14 : ハイドン–オラトリオ : アイヴァー・ボルトンの天地創造
2011/05/09 : ハイドン–交響曲 : アイヴァー・ボルトンの奇跡、88番、迂闊者
2010/12/13 : ハイドン–オラトリオ : アイヴァー・ボルトン/モーツァルテウム管弦楽団の四季ライヴ

ボルトンの交響曲がこれが2枚目。記事を読んでいただければわかるとおり、奇跡、88番、迂闊者を収めたアルバムは極上の演奏でした。現代楽器に金管や打楽器は古楽器というザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との演奏はトーマス・ファイほどエキセントリックではないものの、ハイドンの交響曲の響きの変化とキレを見事に表現して、ハイドンマニアを唸らせる演奏でした。四季も同様、非常に充実したライヴでしたが、天地創造が録音が少し災いしてちょっと評価を下げています。

ボルトンがハイドンの交響曲の2枚目にザロモン・セットのなかでは地味ながら音楽的に充実した102番と太鼓連打を選んでいるところがボルトンのハイドンに対する造詣の深さを物語っています。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
最新の録音らしく鮮明な音像。ヴィブラートの少ない現代風の演奏ながらフレージングに滑らかさ、デリケートさもあり、しかも迫力もあるという理想的な演奏。102番の曲想を踏まえた物でしょうか。テンポは中庸。ことさらキレに走らない落ち着いた音楽がボルトンらしいところでしょう。ただ、ここぞという時にもあらぶる事なく響きのバランスに集中しているように感じるところは、多少踏み込み不足感を残してしまいます。
美しい旋律が有名なアダージョは現代風のあっさりとしたフレージングですが、大きなうねりの表現は緻密で、分厚い弦楽器の音響に打たれる演奏。
メヌエットもオケが良くそろって、躍動感もありますが、ボルトンは響きとフレージングのバランスに神経が集中しているようで、冷静に盛り上げてくる感じ。ハイドンのメヌエットの面白さを知的に処理している感じ。音響的には完璧な仕上がり。響きの変化やノリの良さを感じさせるミンコフスキよりも理性的に聴こえます。
フィナーレは予想通り、抑えた部分のに神経が張り巡らされた良くコントロールされた演奏。一貫したリズムのなかでダイナミクスのコントロールに変化をつけて小気味好い感じを上手く出し、振り切れる事はないのですが、迫力も緻密に演出。フィナーレも完璧な演奏。完璧すぎてちょっと没入しきれないという余韻も残します。

Hob.I:103 / Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
大相撲の櫓太鼓を思わせる太鼓連打。ティンパニ、なかなかいいです。前曲同様、ボルトンの緻密なコントロールに耳を奪われます。ただなぜか前曲よりもすこしノリがよくなり、フレージングにも勢いを感じます。ヴォリューム感の表現が秀逸で、タイトながら迫力ある響きの波が次々と襲ってきます。最後の太鼓連打はドラムソロのような自在な表現で曲を引き締めます。気づいてみると金管の響きがかなり抑えられた録音故、塊のようなオケの一体感ある響きにつながっているようです。
2楽章のアンダンテはあっさりしながらもヴァイオリンの表情が前曲より豊かに聴こえます。奏者の音楽性を優先させたのでしょうか。リズムが弾み、メロディーも活き活きしています。やはり抑えた部分の表情のコントロールは上手い。中間部の図太い響きと木管楽器の軽やかの旋律の掛け合いよくコントロールされて、一貫したボルトンの音楽になっています。
壮麗典雅なメヌエットの入り。速めのテンポによって華やかさが増し、オケは相変わらず良く引き締まった響きを奏でます。中間部は音量をかなり抑えて、繊細な印象で両端部との対比を鮮明にします。終盤は惰性に流される印象をもつ演奏が多い中、緊張感を保ち続けます。
フィナーレは流麗な入りから響きのカオスのような盛り上がりに突入し、オケのエネルギーも高まります。力任せではなく、やはり緩急降りまぜた手綱捌きによって非常に引き締まった演奏になります。終盤ギアがトップに入り、このアルバム一番の盛り上がりを聴かせて終了します。ティンパニが腹にきくような迫力。

アイヴァー・ボルトンとザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による最新録音のこのアルバム。ボルトンらしい現代風のコントロールの行き届いた完璧な演奏でした。太鼓連打の方はボルトンもオケも演奏を楽しんでいるような印象だったのに対し、102番の方は響きのコントロールに神経が集中しているようで、もう一段の生気を求めたいところです。両曲とも質の高いいい演奏であるのは書いた通り。ボルトンはおそらくライヴをアルバムにした方がいいような印象を持ちました。ということで評価は102番が[++++]、太鼓連打は[+++++]とします。

今日から年末のお休み。音楽を聴く環境も引越し後調整等特にしていませんでしたが、時間が出来たので少し調整しました。引越し前はスピーカーとアンプが少し離れていたので、スピーカーケーブルは長かったのですが、引越し後もそまま長めに使っていました。今日は一念発起して、新しい部屋に合わせてケーブルを切り縮めたところ響きと定位感が一段鮮明になりました。どうやら余った長さを巻いていたのが良くなかったようです。こうしたちょっとした事の積み重ねで、少しづつ音がなじんでいくんですね。鮮明な音響となって、ボルトン盤の鮮明な響きの魅力がいっそう高まりました。

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tag : 交響曲102番 太鼓連打

バーンスタイン/ウィーンフィルの102番1971年ライヴ

交響曲が続きます。

Bernstein102.jpg

レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)指揮のウィーンフィルの演奏による、ハイドンの交響曲102番、ラヴェルのピアノ協奏曲(ピアノはバーンスタイン自身!)の2曲を収めたアルバム。収録は1971年2月21日、ウィーンのムジークフェライン・ザールの大ホールでのライヴ。レーベルはDeutsche Grammophone。

このアルバムを見て懐かしいと思った方も多いのではないでしょうか。1992年にウィーンフィル創立150周年を記念してリリースされたDGのシリーズ。ウィーンフィルの創立は1842年です。モーツァルト没後200年の喧噪がさめやらぬ頃ですね。その中の1枚がこのアルバム。

実はこのアルバム、あんまりちゃんと聴いた覚えがありません。ご存知のとおり、私はバーンスタインのハイドン、特に後年のものはあまり好きなタイプの演奏ではないため、このアルバムも食わず嫌いだったのかもしれません。バーンスタインは調べてみると1969年のシーズンを最後にニューヨークフィルを離れて、活動の場をヨーロッパに移します。このアルバムの録音はそのニューヨークフィル最後のシーズンの翌シーズンの録音。ということで、バーンスタインの覇気がウィーンフィルに出会って、ヨーロッパの響きが加わったばかりの演奏でしょう。

そうこういっても、バーンスタインの演奏はこれまでに結構な数、取りあげています。当ブログとしては多い方でしょう。

2011/09/15 : ハイドン–声楽曲 : バーンスタイン/ロンドン交響楽団のテレジアミサ
2011/08/15 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番5】バーンスタイン/ウィーンフィルのテレジアミサライヴ!
2011/05/08 : ハイドン–交響曲 : バーンスタイン/ウィーンフィルの88番、オックスフォード
2010/12/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】バーンスタイン/NYPの97番、98番DVD
2010/09/11 : ハイドン–オラトリオ : バーンスタインの天地創造DVD

なんとなくバーンスタインを取りあげた時はブログのアクセス数も伸びるような印象があります。カラヤンやショルティなどとならぶ巨匠の一人ということで、ファンの方も多いのでしょうね。

ウィーンフィルに客演し始めたころのバーンスタインが、名曲102番をどう料理するか、なぜか非常に新鮮な気分(笑)

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
おどろおどろしい序奏。録音はあまり良くありません。会場ノイズが入るのは嫌いではありませんが、ちょっと高音にチリチリする雑音が入るのが今一。響きはムジークフェラインならではですが、高音が薄く饐えた感じ。コンディションはそれほど良くありません。しかし、問題はその演奏。バーンスタイン特有のじっくりと息の長いフレーズを奏でて進みますが、主題に入った途端、ムジークフェラインを吹き飛ばさんばかりの凄まじいエネルギーがホール充満。ゴトゴト音がするのはバーンスタインが飛び跳ねているからでしょうか。筋肉が浮かび上がるようにデヴォルメされたミケランジェロのダビデ像のような素晴らしい立体感。録音のハンディをものともしない素晴らしい充実した響き。一音一音に力が漲り、有機的に連なる音符が生き物のようにうねります。展開部ではちょっと音が飽和気味ですが、そんなことは気になりません。名手ぞろいのウィーンフィルが髪を振り乱して演奏しているような素晴らしい力感。バーンスタイン特有の表情の濃さは感じるものの、過度な感じはありません。
102番の白眉、2楽章のアダージョはウィーンフィルならではの豊かな響きに包まれます。じっくりこってりと音符を料理していきますが、間を上手く取っているので詩的な印象もあり、くどすぎることはありません。非常にロマンティックな演奏です。2楽章のこの盛り上がりはベートーヴェンを超えるような大山脈のような圧巻の迫力。
メヌエットもタクトがバックスイングを伴って振りおろされるようすを音にしたような、一音一音を慈しむような演奏。ただ迫力がある演奏とは異なり、音がホールに響き渡るようすを奏者が克明に聴きながら演奏しているよう。テンポは揺るぎなく、音塊が次々と飛んでくる感じ。ゆったりした部分の滑らかさはビロードのよう。それでいてウィーンらしい弦楽器の柔らかな響きが相俟って、まさに極上のひと時。
そしてフィナーレは嵐の予感。入りは意外と落ち着いたものでしたが、主題に入ると徐々にオケにエネルギーが満ち始め、爆発の時を待ちます。最後にウィーンフィルのヴァイオリンセクションが牙を剥きます。鬼気迫るフィニッシュ。もちろん会場から爆発のような拍手が降り注ぎます。

録音が悪いのが欠点ではありますが、おそらくこの演奏はバーンスタイン最上のハイドンの交響曲演奏の一つでしょう。後年のくどさはなく、またニューヨークフィルを自在に操っていたころの覇気があり、オケはウィーンフィルの極上の響き。言う事ありません。バーンスタインがこのコンサートに102番という傑作を選んだのも酔眼。評価はもちろん[+++++]とします。惜しむらくはこのアルバムが現役盤ではないこと。数は出たアルバムだと思いますので中古で丹念に探せば出会えるでしょう。

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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