パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集(ハイドン)

10月に入って珍しく交響曲のアルバムが続きました。ということで、勢いで交響曲を取り上げましょう。

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パトリック・ガロワ(Patrick Gallois)指揮のシンフォニア・フィンランディア(Sinfonia Finlandia)の演奏で、ハイドンの交響曲9番、10番、11番、12番の4曲を収めたCD。収録は2005年2月15日から18日にかけて、フィンランド中部の小さなまちスオラハティ(Suolahti)のコンサートホールでのセッション録音。レーベルはNAXOS。

先日レビューしたレストロ・アルモニコのLPを聴いて初期交響曲のアルバムを聴き直してみたくなりました。今更ながら手元の所有盤リストをチェックしてみると、まだレビューを一度もしていない曲があり、このアルバムも評価をつけていないことがわかりましたので、取り上げた次第。同じ奏者によるアルバムは以前に取り上げていて、なかなかいい演奏だったとわかっておりましたので、こちらもよかろうと踏んだという流れです。

2012/03/03 : ハイドン–交響曲 : パトリック・ガロワ/シンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集

指揮者のパトリック・ガロワはフルーティストとしての方が有名でしょうか。奏者については前記事をご覧ください。オケは現在はユヴァスキュラシンフォニアという名称のようですね。

Jyväskylä Sinfonia

Hob.I:9 Symphony No.9 [C] (1762?)
なかなか響きの良いホール。前盤同様小編成でキレのいいオケの響きが心地よい録音。オーソドックスな現代楽器による録音ですが、リズムのキレがよく、アンサンブルの精度も非常に高いレベルの高い演奏。明確にアクセントをつけてリズムを強調することでハイドンの初期の交響曲の面白さがぐっと強まります。ハイドンの初期交響曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。アンダンテは実に落ちついてゆったりとした音楽。素朴で暖かいメロディーの美しさが際立ちます。ハープシコードの音色が加わりなんとも言えない典雅な印象。このアンダンテの美しさを再認識。3楽章構成で終楽章はメヌエット。まさしくハイドンらしいメヌエットで締めくくります。このアルバム最後の楽章にふさわしい壮麗なフィナーレ。キレも推進力も響きの美しさも最高。まさに響きの坩堝と化し、見事なコントロールを見せつけて終わります。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
入りから推進力に溢れた演奏。ところどころレガートで変化をつけながら初期の快活な交響曲の魅力を見事に表現していきます。パトリック・ガロワのコントロールは隙のないもの。リズムのキレと速めのテンポによるスタイリッシュな演奏。メロディーのアクセントのつけ方が巧みなので素晴らしい立体感と躍動感が生まれるんですね。1楽章は疾風のように過ぎ去ります。この曲も3楽章構成。続くアンダンテで穏やかに沈み込む情感を上手くすくい上げながら、美しい響きで包んできます。フィナーレも壮麗。ガロワは響きに関する鋭敏な感覚を持っていますね。これ以上は望めないほど美しくまとまったオケの響きに酔いしれさせられます。

Hob.I:11 Symphony No.11 [E flat] (before 1762)
これまで一度も取り上げていなかった曲。この曲は4楽章構成。入りのアダージョ・カンタービレからハイドンの類い稀な想像力に驚かされる曲。ゆったり流れる音楽に冒頭から身を任せたくなります。ガロワはその癒しのような音楽をじっくりと叙情的に描いていきます。古楽器の演奏ではこうはいかないでしょう。リラックスした分2楽章のアレグロのキレの良さが引き立ちます。快速テンポでの2楽章の入りのはまさに曲のコントラストをはっきりする上でポイントになるでしょう。テンポを上げてもオケの安定感は変わらず。オケは実力者揃いと見ました。メヌエットもしっとりとした魅力を放ち、どこか華やかさが残ります。聴きどころはフィナーレ。難しいリズムの変化の中各パートのせめぎあいの見事な展開。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
1楽章は独特な節回しの曲ですが、その曲をさらにいじって、やや個性的な解釈を加えていきます。メロディーとリズムが面白いところをデフォルメする余裕が出てきました。基本的には爽快な現代楽器の演奏ですが、徐々に個性をどう出すかというテーマを持って演奏しているようです。続いて短調のアダージョに入りますが、見事な憂いと沈み込み。ただ沈み込むだけでなく音楽の呼吸が深く曲の真髄に迫ろうとする覇気を感じるレベル。この曲は3楽章構成。フィナーレはキレ、推進力、壮麗さとどれを取っても素晴らしいもの。このアルバムの最後を飾るにふさわしい出来でした。

パトリック・ガロアの振るシンフォニア・フィンランディアの初期交響曲集ですが、NAXOSのハイドンの交響曲全集の終盤を飾る素晴らしい演奏でした。ただ素晴らしいだけでなく、一流どころの演奏に劣るどころか収録曲のベスト盤としてもいいレベルに達しています。キレよくハイドンの初期交響曲をまとめる手腕は見事の一言。評価は全曲{+++++]とします。未聴の方は是非!

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tag : 交響曲9番 交響曲10番 交響曲11番 交響曲12番

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)

待ってました!

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ジョヴァンニ・アントニーニ (Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardiono Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲全集の第4巻としてリリースされたアルバム。ハイドンの交響曲60番「迂闊者」、70番、12番と、チマローザのカンタータ「宮廷楽長」の4曲が収められています。収録は2016年3月13日から17日にかけて、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

このアルバム、リリースされたのは先月ですが、注文するのが漏れており、先日はっと気づいて慌てて注文したもの。ハイドンの交響曲全集を目指したプロジェクトゆえ私も特に注視しているわけですね。もちろん、これまでリリースされた3巻は全て取り上げております。

2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

当ブログの読者の方ならこのシリーズの企画についてはご存知だと思いますが、ご存知ない方は第1巻の記事をご参照ください。このシリーズ、第2巻でちょっと力みが見られましたが、第3巻では見事にそれを修正してきて、非常にいい仕上がりを予感させます。果たしてこの巻は如何なものでしょう?

選曲はこれまでの3巻はシュトルム・ウント・ドラング期の曲を軸に構成されていましたが、この巻ではシュトルム・ウント・ドラング期以後の曲を軸においた構成となり、本格的に全集を企てないと録音しない曲に手を伸ばしてきました。そして、中でもリズムの面白さが際立つ曲を集めてきました。選曲に攻めの姿勢を感じるのは私だけでしょうか。

また、アルバムの造りはこれまで通り非常に手のかかった美しいもので、コレクション欲を満たすもの。1巻ずつレギュラープライスで集めるのは値が張りますが、リリースも長期間にわたるため、それほど負担感もありませんね。

Hob.I:60 Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
冒頭の力漲る響きがスカーッと響き渡り、この巻の出来も安心できそうです。もともと喜劇のための劇音楽として書かれた音楽を交響曲にまとめた曲。序奏が終わると喜劇のための音楽とは思えないほどの怒涛のキレ味鋭い響きが襲いかかってきます。まるで竜がのたうちまわるがごとき躍動感。ファイのように一音一音の変化で機知を聴かせるのではなくあくまでも正攻法でグイグイ攻めてくる快感。アクセントの鋭さと迫力はかなりのもの。1楽章は、もはや喜劇の域は完全に超え、神々しささえ感じるほど。
続く2楽章のアンダンテは快速かつ滑らかに行きます。6楽章構成のこの曲の展開上、速めのテンポによる見通しの良さを狙っているのでしょう。オケの各パートの反応の良さもあって多彩な響きを楽しめます。アクセントのキレ、クッキリとした構成感は流石なところ。
メヌエットも速めで通します。舞曲であることを忘れてしまいそうな迫力と展開の面白さ。中間部で漂う異国情緒で一息入れて、再び舞曲に戻ります。
通常はフィナーレとなりますが、フィナーレのような曲調なのに終わりません。嵐の到来を告げるような騒がしさと躍動感の入り混じった楽章。唸る低音弦にジプシー風の旋律が絡まりユニークにまとまっていきます。
この曲の聴かせどころであるアダージョからアレグロへ変化する5楽章。いつもながら入りのメロディーの黄昏た印象からファンファーレに入る予想外の展開に驚きます。ハイドンマジック。
そして本当の終楽章。冒頭ヴァイオリンが音程を外してあえて調弦する様子が盛り込まれていますが、これぞハイドンの遊び心でしょう。こけおどしの面白さ半分、真面目に追い込むのが半分といったところでしょう。

Hob.I:70 Symphony No.70 [D] (before 1779)
この曲もリズムの面白さが聞きどころ。冒頭からリズムの面白さで遊びまくるよう。一つのテーマで曲をまとめるハイドンのユーモアが元になっていますが、演奏の方は攻めの構成で、緊張感を持続します。もう少し遊び心があってもいい気がしなくもありませんが、オケを精緻にコントロールして大迫力で仕上げてきますので、聴き応え十分。
続くアンダンテは弱音器付きの弦楽器の緊密なアンサンブルが聴きどころ。メロディーを様々な楽器が受け継いで進めていく地味ながらなかなか深みのある演奏。
メヌエットはオケがスタジオ中に響き渡る快感に満ちた演奏。非常にしなやかな中間部がうまくエネルギーを中和して一旦落ち着きますが、再び響きのエネルギーが戻り、その対比の面白さを印象付けます。
フィナーレはフーガ風の展開で無限の広がりを感じさせる構成。ここでフーガを持ってくるところにハイドンの冴えたアイデアがあるわけです。メロディーのアイデアも展開もユニーク。

Hob.I:12 Symphony No.12 [E] (1763)
最後に初期の交響曲を持ってきました。素直に爽やかな響きに耳を奪われます。音色の多彩さ、リズムのキレの良さを併せ持つ正統派の古楽器の演奏と言っていいでしょう。欠点らいしいものを見つけるのが難しいバランスの良い演奏。そして迫力やエネルギーも申し分ありません。
短調のアダージョはしっかりと陰りを纏い、落ち着いてじっくりと進めます。この先に到達するシュトルム・ウント・ドラング期の仄暗い雰囲気を先取りするような曲。低音弦の分厚い響きが迫力十分。古楽器とはいえ迫力面で現代楽器に負けている感じはしません。
フィナーレは再び晴朗な空のような明るさを取り戻します。隙のない緊密な演奏が産む充実感。冒頭の主題が次々に展開する面白さ、徐々に迫力を帯びてくる構成の面白さを存分に味わえます。

このあとチマローザの祝祭的なカンタータが置かれています。初めて聴く曲です。悪く言えばどんちゃん騒ぎのような曲ですが、これがめくるめくように展開して意外に面白い。序曲にレチタティーヴォを挟んでバリトンによるアリア2曲が聴きどころ、と書きかけたら、実はアリアよりもレチタティーヴォの方が面白い。こればかりは聴いていただかなくてはわかりませんね。ハイドンの交響曲を聴き終えてちょっとくつろいで聴けるという構成を意図したものでしょう。アントニーニも思いっきりくつろいだコントロール。このノリがハイドンでも欲しいところです(笑)

ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲第4巻ですが、すでに安定期に入りましたでしょうか。古楽器にしては十分な力感を表現できるオケによるキレの良い演奏が揃っています。このアルバムの曲だともう少し遊びがあってもいい気もしますが、アントニーニの狙いはあくまで正攻法によるタイトな演奏ということでしょう。演奏のレベルは非常に高く、鮮度の高い録音も手伝って、ハイドンの交響曲全集の企画にふさわしい安定感もあります。これだけの演奏を揃えられたら、やはりリリースされるごとに揃えたくなってしますね。そういう意味で全集企画は成り立ちそうですね。評価は全曲[+++++]とします。

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【新着】マンフレート・フスの交響曲集

皆様、あけましておめでとうございます。
新年最初に取り上げるアルバムは、ハイドンの初期の交響曲3曲を集めたアルバム。

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ただし、ただの交響曲集ではなく、ハイドンがオペラの序曲として書いた曲を交響曲に転用した曲をあつめた、いわゆる企画ものです。
収録曲と作曲年、元の曲は次のとおり。
交響曲50番(1773年)マリオネットオペラ「フィレモンとバウチス」の序劇「神々の怒り」(1773年)序曲を転用
交響曲12番(1763年)イタリア語オペラ「アチデ」(1762年)序曲を転用
交響曲60番(1774年)ドイツ語演劇「迂闊者」(1774年)の音楽を転用

演奏はハイドン復興に力を注ぐマンフレート・フス(Manfred Huss)指揮のハイドン・シンフォニエッタ・ウィーン。録音は交響曲50番と12番がが2008年5月~6月、オーストリアグラーツ南部の街シュトラーデンのフローリアン教会、交響曲60番が2009年1月、オーストリアウィーン南部の街ライヒェナウ・アン・デア・ラックスのライヒェナウ城での録音。何れもセッション録音のようです。レーベルはKOCH SCHWANNレーベルからフスの全録音ごと引き取ったスウェーデンのBISレーベル。このアルバムは昨年9月の発売ですが、気づかず未入手だったものHMV ONLINEに発注して年末に入手したもの。

フスのハイドンはこれまで3回取り上げていますので記事のリンクを張っておきましょう。

ハイドン音盤倉庫:アリアの洪水!
ハイドン音盤倉庫:マンフレート・フスのオペラ序曲集
ハイドン音盤倉庫:マンフレート・フスのオペラ序曲集2

1曲目の交響曲50番は年末にブルーノ・ヴァイルの演奏を取り上げたばかりですね。同じ古楽器による演奏、ヴァイル盤との比較も楽しみの一つ。50番の解説はヴァイル盤の方をご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番

50番の1楽章は、静寂からティンパニとともに大迫力のオケの劇的な導入。ハイドン・シンフォニエッタ・ウィーンのいつもキレもノリも良いオケの響き。ヴァイオリンのおとが若干金属っぽい響きがするのがこのオケの音色の特徴でしょうか。旋律の流れをメリハリが圧倒する演奏。リズムがキレまくってます。オペラの序曲からの転用ならでは劇的な展開。
2楽章はあっさりと抑えた演奏。古楽器の雅な音色で聴くハイドンのアンダンテ。途中からティンパニも加わるメリハリのついた曲調に変わり、迫力が増します。
3楽章のメヌエットは迫力を感じるものの規律を残して八分の力でこなしているよう。メヌエットそのものに対する指揮者の捉え方と全体設計の中でのメヌエットの対比上の効果を考えてのことでしょう。
フィナーレは速めのテンポで一気にまくしたてます。徐々にエネルギーを増すオケの響き、強奏時のティンパニと金管のアクセントが演奏を引き締めます。

この曲、ヴァイルの演奏も素晴らしかったですが、フスの演奏も甲乙付けがたいすばらしさです。どちらかというとフスの演奏は古楽器オケにおける力感の表現に、ヴァイルは古楽器オケの域をこえた全体の構成とフレージングに気を配った演奏といえると思いますが、どちらの演奏にも共通するのが抜群の迫力と生気。ハイドンのこの時期の交響曲の演奏に不可欠な要素ですね。

つづいて交響曲12番。こちらはハイドンが副楽長時代の1763年と他の2曲よりだいぶ前の作曲。3楽章構成です。フスは原曲の「アチデ」を世界初録音した当事者だけに思い入れも一入でしょう。
1楽章は郷愁溢れる弦のメロディーに聞き惚れる間もなくリズミカルなオケの入り。ハイドン初期の交響曲にみられる郷愁に溢れたメロディーを起点に展開するシンプルな構成の曲。導入部を繰り返して、低音弦が活躍する展開部。間もなく最初のメロディーに戻り1楽章を閉じます。
2楽章はうら悲しいメロディーが心を打ちます。叙情に溺れることなく淡々と古楽器の雅な音色で聴かせます。
3楽章は美しいメロディーをただ奏でるだけの力感とは無縁の世界に入ります。ただ音符に誠実に弾くという単純なことがなかなか出来ないことを思い知らせる自然な演奏。演奏中に欲と決別したような割り切り。
この曲の演奏はフスの得意な祝祭感溢れる迫力の演奏ではなく、力をぬいて音符に任せる、いつものフスとは少し違った面を感じさせてくれました。

最後は交響曲60番「迂闊者」。こちらは1曲目の交響曲50番の1年後の1774年の作曲。他の2曲は原曲が知られていますが、この曲の元となったドイツ語演劇「迂闊者」に関する録音は私の知る限りリリースされていないと思います。この曲はご存知のとおり6楽章構成。この曲の解説は前に記事にしてありますのでそちらもご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:デヴィッド・ブラムの交響曲集

前2曲とは時と場所を変えての録音。こちらの方が録音の鮮度と響きの調和がよく、聴き応えがあります。
1楽章から熱狂の渦のような素晴らしい力感。速めの速度とフス独特の鮮度抜群の畳み掛けるアクセントが効果的に効いて素晴らしい高揚感。
2楽章は落ちついた展開に変わりますが、フレーズの呼吸が深く、ヂュナーミクの幅もより大きくなっています。50番の2楽章でみられた流すようなあっさりしたものとは明らかに異なり、フレーズにクッキリとしたメリハリを加えて、より濃い演出。今までのフスの演奏から、明らかに一歩踏み込んだ感があります。この演奏が一番最近の録音であることを考えると、表現が進化しているように伺えます。
3楽章はメヌエット。こちらも50番のメヌエットよりも表現意欲が上がっているように聴こえます。最初と最後の舞曲の部分よりも中間部の表現の充実が目立ちます。
4楽章は通常の交響曲でいうフィナーレにあたりますし、曲調もこの曲で終わってもおかしくない曲調。にぎやかな曲調を古典の格調を保ちながらすばらし突抜け感で演奏。これは見事。
5楽章は4楽章から間をおかず安らぎにみちたメロディーに移ります。途中に行進曲風のトピックをはさみふたたび美しいメロディー。演劇用音楽を転用したものとうなづける曲調。
6楽章は調律をする部分がふくまれたりコミカルな要素を含むどんちゃん騒ぎ的展開。こちらも古典的な節度とお祭り感のバランスが見事。

このアルバムに含まれる曲の評価は、結局全曲[+++++]としました。ただし、それぞれの曲ごとに聴き所がことなります。50番はこれまでのフスの演奏から期待される、ライヴ感と言うかオペラの幕があくざわめきのようなものを感じる演奏。12番は力の抜けた非常に完成度の高い演奏。そして最後の60番は、フスの新境地、一歩踏み込んで今までのフスよりも表情を濃くつけて、踏み込んだ表現というところ。

企画ものという意味でも素晴らしいアルバム。ハイドンのことを熟知したフスならではの視点でしょう。何れの曲もハイドンが劇場のために書いた曲から感じられるドラマを感じられます。古楽器によるハイドンの交響曲のおすすめ盤として多くの人に聴いていただきたいアルバムです。

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アンドレアス・シュペリングのカンタータ集

今日は、アーノンクールのハルモニーミサ盤に含まれていたカンタータのところで触れたシュペリングのアルバムを取り上げておきましょう。

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上が私の手元にあるアルバム。

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こちらはパッケージをあらためた現行盤。harmonia mundiのパッケージ改訂にはいろいろ背景があるんでしょうが、リリース当初のパッケージの美しさは捨て難いもの。個人的には上のデザインの方が購買意欲が湧きます。

アルバムは「エステルハージ家のためのカンタータ集」と題され、3曲のカンタータと交響曲12番の4曲を収めたもの。何れも1763年から64年にかけて作曲されたもの。ハイドンは1732年3月31日生まれですので30代に入ったばかり。このころハイドンはエステルハージ家の副楽長の立場としてエステルハージ家のために数々の作品を書いています。

収録曲目は収録順に次のとおり。

・祝賀カンタータ「目覚めよ、我を信ずる者たち」XXIVa:2(1763年12月10日ニコラウス・エステルハージ侯爵の命名祝日のために作曲)
・祝賀カンタータ「主君の幸運の帰還を祝い」XXIVa:3(1764年12月6日ニコラウス・エステルハージ侯爵の旅行帰還祝賀のために作曲)
・祝賀カンタータ「今やいかなる疑いが」XXIVa:4(1764年12月6日ニコラウス・エステルハージ侯爵の命名祝日のために作曲)
・交響曲第12番(1763年作)

演奏はアンドレアス・シュペリング(Andreas Spering)指揮のカペラ・コロニエンス(WDR)、合唱はケルン声楽アンサンブル、ソロはソプラノがスンハエ・イム(Sunhae Im)、ヨハンナ・ストイコヴィチ(Johanna Stojikovic)、テノールがマックス・チョレク(Max Ciolec)。交響曲のみ指揮がニコラス・クレーマー(Nicholas Kraemer)の指揮。

シュペリングは私のお気に入りの指揮者。古楽器オケによるハイドンの演奏がいろいろリリースされていますが、どれも名演。古楽器の音色を生かしたさっぱりとした表現が特徴。楽譜を忠実に演奏するだけのように見えますが、爽やかなアクセントによって爽快感を特徴とした演奏が多いですね。古楽器の演奏の一つの理想型だと思ってます。シュペリングの演奏だとハイドン曲自体を当時の響きで純粋の楽しめるような気がします。

カンタータとは本来、単声または多声のための器楽伴奏付の声楽作品のこと。このアルバムに収録された3曲のカンタータは、1762年に兄パウル・アントン・エステルハージ侯爵が亡くなり、弟のニコラウス候が侯爵を継いだばかりの時期に、その侯爵を讃えるために作曲した一連の声楽作品ということでしょう。

これらはハイドンがエステルハージ家の副楽長としてのオフィシャルな仕事で作曲したもの。今で言えば宮内庁楽部が天皇家の公式行事のための祝賀曲を作曲したというようなものでしょう。当時の祝賀行事の華やかさが想像できますね。ハイドン自身も自分の曲が250年近くを経て、CDとなって音楽ファンに聴かれることを想像だにしなかったことでしょう。

1曲目の「目覚めよ、我を信ずる者たち」XXIVa:2は6部構成、18分ほどの曲。歌詞の英訳を見ると侯爵を讃える歌そのもの。ソプラノのレシタチーヴォから始まります。イムは清楚で艶のある良く通る声。続いてソプラノとテノールのデュエット。チョレクのテノールも若々しい声でイムと非常に良く合ってます。ソプラノの短いレシタティーヴォをはさみ今度はソプラノ2人のデュエット。2人目のソプラノはストイコビッチ。名前からするとユーゴ方面の人でしょうか。2人の声質も合っていい歌唱です。最後は合唱。オペラの大団円のような曲。コーラスも透明感のあるいい響きですね。1曲目から非常にいい出来です。

2曲目の「主君の幸運の帰還を祝い」XXIVa:3はニコラウス候が旅行から帰還したのを祝して作曲されたもの。私も旅行帰りにカンタータを演奏してほしいものです(笑) 2部構成の10分弱の短い曲。最初はレシタティーヴォ。冒頭から華やかなオーケストレーション。低音弦の特徴的なメロディーをモチーフに曲が展開。オペラの一場面のような絶妙の間をとりソプラノが美しい歌と語り。続いて合唱曲でソロを交えたコーラスが美しいメロディーを歌いハープシコードが装飾をふんだんに加えて華やかさを増します。

3曲目の「今やいかなる疑いが」XXIVa:4は1曲目の翌年のコラウス侯の命名祝日のための曲。4部構成でソプラノと合唱による曲。前年の曲より一層誉れ高い仕上がり。前記事のアーノンクールの小節を利かせた演奏とはことなり、古楽器の雅な音色による祝賀カンタータとして素晴しい仕上がり。前年の曲よりも一層華やかさを増し、ソプラノに求められる音域も広がり、技巧的になります。ソプラノの晴れ舞台の曲としても十分通用する曲調。私の部下がこの曲を書いたら7階級特進の人事を発令しますね(笑)
聴き所はもちろんソプラノ素晴しい艶のある美声。トラック10のアリアはほれぼれする出来。イムの美声を堪能できます。

4曲目は交響曲12番。指揮がクレーマーに変わり、オケの音色がまろやかに。非常にオーソドックスな演奏。この演奏とくらべるとシュペリングのコントロールの方が音に華があるように聴こえます。「朝」、「昼」、「晩」の少し後に書かれた曲。ハイドン初期のほの暗い感じよく出たいい曲です。非常に落ち着いたテンポでゆったり入りますが、デリケートなニュアンスに富んでいていい演奏。技術力は非常にありながら、それをひけらかさない通好みの演奏と聴きました。1楽章は淡々とこなし、2楽章の深い陰影をソフトッタッチで聴かせるなかなかの演出。そして3楽章の明る響きを落ち着いた中でも彩りある響きで聴かせます。アルバム的にはオマケの演奏ですが、実にいい演奏。気に入りました。

このアルバムはハイドンのマイナーなカンタータの魅力を素晴しい演奏で伝える逸品と評価します。もちろんカンタータは3曲とも[+++++]、そして交響曲12番も[+++++]です。

ハイドンが好きな方には是非お薦めしたい名盤ですね。

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tag : カンタータ 交響曲12番 おすすめ盤 ハイドン入門者向け

新着! ウィーンフィルの交響曲集

ウィーンフィルの自主制作によるハイドンの交響曲集3枚組がHMV ONLINEに入荷し、昨日届きました。

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曲目は、ドホナーニの12番(91年)、メータの22番哲学者(72年)、ウェザー=メストの26番ラメンタチオーネ(98年)、アーノンクールの93番、103番太鼓連打(2009年)、ウェザー=メストの98番(2009年)、そしてブーレーズの104番ロンドン(96年)の7曲です。ハイドンイヤーとなった昨年の演奏が中心ですが、古い録音も含めたウィーンフィルのライヴ録音をまとめたものです。

意外ですが、ウィーンフィルのハイドンの交響曲の録音は多くなく、近年ではバーンスタインとプレヴィンが数曲づつ録音したものがあるくらいで、その他ベームの録音などで、あとはDECCA時代のカラヤンやクレメンス・クラウス、フルトヴェングラー、ワルター、モントゥーなどの時代までさかのぼってしまいます。
ムジークフェラインやコンツェルトハウスなどでのライヴ録音だという意味も含めて今回の選集は貴重な録音ということが出来るでしょう。

良かったのはドホナーニの12番、意外ですがメータの哲学者、そしてアーノンクールの2曲です。
メータの録音は72年ですから、メータ全盛期だったんでしょう。今は無難な演奏が多く、いまいち踏み込めてない感じが拭えないのですが、この哲学者は名演奏です。単調で独特なこの曲の面白さを良く表現できていて、微笑ましさのでた良い演奏です。
そしてアーノンクールですが、特に太鼓連打はいいですね。所々にアーノンクールらしいタメがあって、ちょっと癖が強いところがあるんですが、ライヴ特有の盛り上がりで聴かせきってしまいます。冒頭のティンパニも祝祭感を高めるような独特のバチさばき。昔は独特のアクの強さが鼻について好きになれなかったんですが、程よいアクとそのアクから生まれる独特の高揚感がハイドン、特にこの曲の曲想を見事に表現しています。

ウェザー=メストの演奏は悪くないんですが、今ひとつどのように表現したいのか伝わりきらないもどかしさもあります。おそらく小沢征爾に変わってウィーン国立歌劇場の音楽監督(だったかしら?)につくという立場から、このアルバムに演奏が選ばれたんじゃないかと邪推してます。(笑)

あと、ブーレーズのロンドン。こちらも期待通りブーレーズらしい音符を忠実に表したような演奏で、これはこれでいい演奏だと思います。ロンドンの音符を自然ながら曲全体を見渡した構築感のある演奏とでもいったらいいでしょうか。ただ、私はブーレーズにはブルックナーの8番の爆演の呪縛もあり、いつも過度な期待をしてしまい、ちょっと空振り感も感じてしまいました。

古い録音も含めて総じて録音も良く、拍手が入った構成もいいです。ホールはムジークフェライン、コンツェルトハウス、ルツェルンでの録音ですが、やはりコンツェルトハウスで録ったアーノンクールのセッションが最もいい音響でした。
ウィーンフィルの極上の音響とライヴの興奮を味わえるいいアルバムです。おすすめです。

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tag : 交響曲12番 哲学者 交響曲93番 ラメンタチオーネ ロンドン 太鼓連打 おすすめ盤 ウィーンフィル ライヴ録音

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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