ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管の13番、36番、協奏交響曲

最近定番のNAXOSの交響曲全集巡り。今日はヘルムート・ミュラー=ブリュールです。

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ヘルムート・ミュラー=ブリュール(Helmut Müller-Brühl)指揮のケルン室内管弦楽団(Cologne Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲13番、36番、協奏交響曲の3曲を収めたアルバム。収録は1999年4月29日、8月26日から31日、ケルンのドイツ放送コンサートスタジオでのセッション録音。

ミュラー=ブリュールは今数えたところだとNAXOSの交響曲全集では、Vol.16、17、18、19、22、24、26、28の8枚のアルバムを担当。NAXOSの全集の出来を左右する中核を担当しているというところ。このアルバムはVol.22です。ミュラー=ブリュールは古いCharlin(シャルラン)のアルバムを以前取りあげていますので、略歴などはそちらをご覧ください。

2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

いままで当ブログでもちゃんと取りあげていませんでしたが、ミュラー=ブリュールの演奏も侮れません。

Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)
この曲は先日、橋本英二の素晴らしい演奏を取りあげたばかりですが、ミュラー=ブリュールの演奏もそれに劣らず、弾むロイヤルな感じが素晴らしい入りです。ティンパニが入ることで加わる厚み、ホルン4本で加わる潤いがこの曲の特徴でしょう。やや几帳面かなと思わせなくはありませんが、それはリズムを正確に刻んでいる事から来る印象でしょう。良く聴くとメリハリがきっちりついて、かなり踏み込んだコントロール。なおかつインテンポで畳み掛ける感じがえも言われず、素晴らしい1楽章の入り。キビキビとしたミュラー=ブリュールのコントロール、最高です。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。チェロのソロが大活躍。まるでチェロ協奏曲の2楽章のような展開。チェロは協奏交響曲でチェロを担当しているオレン・シェヴリン(Oren Shevlin)。シェヴリンのチェロはあっさりしながらも情感溢れる伸びのある弓使いでフレーズを重ねていきます。淡々とした表情に宿る深い郷愁といった感じ。
3楽章のメヌエットは音色は流麗ですが、フレージングはちょっと落ち着ききらない感じもして、メヌエットらしい割り切りと楔を打つような表現をもとめて少々未練も残ります。展開部の滑稽な感じは悪くありません。
フィナーレは例のジュピターと似た流れの曲ですが、ちょっとあっさり気味のヴァイオリンと豊かな響きのティンパニや管楽器の不思議な解け合いの中に進む感じ。1曲目はほどほどキビキビ感と新鮮な響きの織りなす美しい演奏といったニュアンス。

Hob.I:36 / Symphony No.36 [E flat] (before 1769)
おそらく前の13番より前に作曲された曲ではないかと思います。前曲同様のキビキビした感触が心地よい演奏。ハイドンの初期の交響曲の特徴を良く捉えた演奏。軽快なリズムに乗ってオケがキビキビと進めるようすは痛快そのもの。1楽章はただ推進力があるだけではなく、キレとアクセントの変化もあり、かなりメリハリのある素晴らしい演奏。
2楽章のアダージョはヴァイオリン、チェロのソロの生成りの布のような素朴なアンサンブルの美しさを聴くべき曲。特にヴァイオリンの良く通るフレーズは流石です。
メヌエットは弾む感じを良く残したもの。ホルンが被さって弾む感じをかなりうまく表現しています。じっくりした印象もあるものの基本的に鮮度で聴かせる演奏。ここは機転を利かせてささっといきます。
フィナーレも軽さがうまく表現された演奏。特徴的なメロディーラインの繰り返しで聴かせる曲ですが、室内管弦楽団の面白さが味わえる演奏と録音。

Hob.I:105 / Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
意外と迫力を感じる入り。他の演奏から想像される流麗さではなく、音を切り気味して演奏され、曲の構造を透き通るように聴かせる演奏。各ソロのテクニックは確かなものですが、溶け合うというよりは拮抗するアンサンブルという感じ。キレのいいリズムに乗って各楽器が鬩ぎあう感じ。録音上ティンパニがかなりのプレゼンス。後半は波が押し寄せるようなうねりの迫力が魅力の演奏。最後は各ソロがゆったりと溜めを伴った演奏から一同に介してオケに呑まれるように進み1楽章を閉じます。
耳に残るこの曲の他の演奏のイメージとはちょっと違いますが、各ソロがかなり鬩ぎあってまとまりこの曲の美しいメロディーを演奏するあたりの雰囲気は、独特のものがあります。聴き慣れた演奏の歴史に似せるのではなく、楽譜に忠実に演奏を構成したような新鮮さを伴う演奏。意外と踏み込んだ演奏ですね。
フィナーレは鮮度の高い演奏。ここでも音を切り気味にして新鮮さを表現しています。テンポはかなり速めだと思います。バスーンとオーボエがかなりのテクニックと美音で聴かせます。と思っているとヴァイオリンも素晴らしい響き。速いテンポを通しながら要所で聴かせる器もみせて曲を閉じます。最後は曲を聴かせながらもキレのいい迫力の音響で終了。

ヘルムート・ミュラー=ブリュールの指揮するケルン室内管弦楽団のハイドンの交響曲。NAXSOSレーベルの交響曲全集の中核を担う演奏です。キレのいいオケの響きが特徴の演奏ですが、ハイドンの真髄に迫る迫力と解釈という意味ではこれまでに紹介したウォード、ガロワ、マロンとはちょっとだけ差がつくのが正直なところ。鮮度の高い演奏で小気味好い響きが聴かれるものの、心情的にもう一歩の踏み込みが欲しい印象もあります。ただ、安定した演奏であるのも間違いなく、曲の面白さもそこそこ表現できており評価は微妙な線で悩みます。このアルバムは全曲[++++]と言うところでしょう。

久しぶりに聴き直していますがNAXOSの交響曲全集は廉価盤レーベルとは思えない踏み込みがあり、また6人の指揮者の個性を聴き分ける楽しみもあるいい全集でもあります。あと2人の指揮者の担当する演奏も近々取りあげなくてはなりませんね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲13番 交響曲36番 協奏交響曲 交響曲全集

橋本英二/18世紀音楽アンサンブルの初期交響曲集

前記事のパトリック・ガロワ初期交響曲集を聴いて、もう少し初期のものを聴きたくなった次第。最近手に入れた1枚ですが、これが驚きの出来。

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橋本英二(Eiji Hashimoto)指揮の18世紀音楽アンサンブル(Ensemble for Eighteenth Century Music)の演奏で、ハイドンの交響曲4番、6番「朝」、9番、13番の4曲を収めたアルバム。収録は1997年5月23日から25日、アメリカ、オハイオ州のシンシナティにあるシンシナティ大学音楽院のコルベット・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルは以前シェンクマンのピアノソナタで取りあげたアメリカ、ロスのCENTAUR。

橋本英二は日本人のハープシコード奏者、指揮者。本人のサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

EIJI HASHIMOTO(英文)

私はもちろん、はじめて聴く人。生年などはわかりませんが、1975年から2000年まで、このアルバムのオケである18世紀音楽アンサンブルの音楽監督の立場だったようですね。このオケは録音場所であるシンシナティ大学音楽院のオーケストラのようです。他に1991年から93年まで日本の津田コンソート、1996年から98年までイタリアのルッカ室内管弦楽団の音楽監督も務めていたとのこと。2001以降、現在までシンシナティ大学音楽院の名誉教授の地位にあるようです。なお、日本でもリサイタルを開いたり、「バロックから初期古典派までの音楽の奏法―当時の演奏習慣を知り、正しい解釈をするために」というような著書があったりと、本人のサイトは英語版しかないのですが日本でもご存知の方は、ご存知でしょうか。

このアルバム、はじめにバラしちゃいますが、久々に心に深く残る交響曲の演奏。絶品です。

Hob.I:4 / Symphony No.4 [D] (before 1762)
現代楽器のオケらしい引き締まった響きではじまります。若手中心のオケのようですが、溌剌とた生気にあふれてなかなかいい演奏。1楽章はかなり弾んだ感じがいいですね。ハイドンの交響曲に込められたエネルギー感が上手く出せています。抑えた部分の表現も上手く、曲が立体的に浮かび上がります。
絶品なのが2楽章のアンダンテ。シュトルム・ウント・ドラング期を彷彿とさせる素晴らしいうら悲しさを表現。いきなり濃い情感があふれます。ハイドンの時代にタイムスリップしたような素晴らしい響き。
フィナーレは一転して鮮度あふれる響き。清々しいリズムの繰り返し。ハイドンの曲の真髄をつく表現。

Hob.I:6 / Symphony No.6 "Le matin" 「朝」 [D] (1761?)
普通は「昼」と「晩」とセットで演奏されることが多いですが、ここでは「朝」のみでの演奏。ここでも清々しいリズムが基調となってハイドンの曲の晴朗な響きの魅力が溢れます。キレのいいオケに支えられた、何もしていないように聴こえるのに豊かな音楽。抜群のセンス。
2楽章のはじまりに意外に心にぐさっと刺さるアクセント。じつに味わい深い演奏。表現欲ではなく心からにじみ出る音楽の浸透力。最後のアダージョも絶品。
メヌエットはリズム感のよいこの演奏の特徴が良く出たもの。暖かみに溢れた弦楽器と各楽器が次々と繰り出す美しいメロディー。究極の自然さ。若々しい奏者が演奏する諦観すら感じさせる枯れたメロディー。
期待のフィナーレ。ここでも落ち着き払ったコントロール。アメリカのオケである事を忘れさせる、非常に慎み深い音楽。2曲聴いたところでこのアルバムの凄さがわかってきました。

Hob.I:9 / Symphony No.9 [C] (1762?)

10分ほどの短い曲。オケが木質系の実にいい響き。録音もオンマイク気味ながらオケの自然な楽器の音が良く録られて秀逸。この曲でもリズム感の良さは素晴らしいもの。オケのキレも抜群。
2楽章は癒しに満ちたシンプルなアンダンテ。こうゆう短い曲の美しさにハイドンの天才を感じてしまいます。何の外連味もなくすんなり進むアンダンテ。
3楽章構成の3楽章はメヌエット。この曲もシンプルそのもの。心を洗われるような純粋無垢な曲。

Hob.I:13 / Symphony No.13 [D] (1763)

何でしょう、この愉悦感に満ちた導入。これ以上弾む演奏はあり得ないほどの素晴らしいリズム。この曲のみティンパニが加わり、しかもそのティンパニが慎ましやかにそっとなでるだけのような絶妙な存在感。天才的なコントロール。素晴らしすぎて言葉になりません。展開部は音量はほどほどなのに転調とリズムで攻め込む感じを上手く演出。ホルンも強調しすぎる事なく絶妙のサポート。絶品!
2楽章はアダージョ・カンタービレ。チェロのソロがゆったりとメロディーを奏でる曲。ソロの自然さも素晴らしいもの。
3楽章のメヌエットは今までの曲よりも本格的なもの。リズムの面白さが際立ちます。中間部の静かな曲想も斬新なもの。そしてざっくりえぐるようなメロディーにもどってオケが鳴りきります。
フィナーレはモーツァルトのジュピターのようなメロディーが出現することで知られる曲。橋本英二のコントロールはここでも自然さを保ちながら、必要十分なメリハリと中庸の美学を地でいくもの。それにしても彫りの深い立体感溢れる音響は流石のもの。この曲も抜群でした。

正直存在も、名前も知らなかった橋本英二の指揮する18世紀音楽アンサンブルによるハイドンの初期交響曲集。これは絶品。初期交響曲の現代楽器による演奏の一押しのアルバムです。このような素晴らしいハイドンの演奏があったかと、今更知った次第。ハイドンはいろいろ聴いているつもりですが、まだまだ修行が足りません。評価はもちろん全曲[+++++]です。ハイドンの交響曲好きなすべての人に聴いていただきたい、じわりとくる名演奏です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲4番 交響曲9番 交響曲13番 ハイドン入門者向け

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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