クイケン/グダニスク音楽アカデミー室内管の39番(ハイドン)

たまにはリリースされたばかりのアルバムを取り上げましょう。

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TOWER RECORDS / ローチケHMV
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シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のグダニスク音楽アカデミー室内管弦楽団(The Chamber Orchestra of the Academy of Music in Gdańsk)の演奏で、C. P. E. バッハの交響曲(Wq.183/3)、ハイドンの交響曲39番、ベートーヴェンの交響曲1番の3曲を収めたSACD。収録は2015年4月13日から15日にかけて、ポーランドのグダニスクにあるスタニスワフ・モニューシュコ音楽アカデミーのコンサートホールでのセッション録音。レーベルはポーランドのDUX Recording Products。

クイケンは私のお気に入りの音楽家であることは、当ブログの読者の皆さんはご存知のことでしょう。そのクイケンが聞き慣れぬオケを振ったアルバムがリリースされると知り、注文を入れていたもの。

いつものように過去に取り上げたクイケンが振ったアルバムの記事へのリンクをつけておきましょう。

2016/03/03: ハイドン–交響曲 : クイケン/ラ・プティット・バンドのラメンタチオーネ、52番、帝国(ハイドン)
2016/01/05 : ハイドン–協奏曲 : エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)
2012/11/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】クイケン/ラ・プティット・バンドの「朝」、「昼」、「晩」
2011/09/14 : ハイドン–声楽曲 : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのテ・デウム
2011/07/04 : ハイドン–オラトリオ : クイケン/ラ・プティット・バンド1982年の天地創造ライヴ
2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット
2010/03/21 : ハイドン–交響曲 : クイケンのパリ交響曲集

このアルバムのオケはグダニスクのスタニスワフ・モニューシュコ音楽アカデミーで1999年に設立され、弦楽器専攻者を中心にアカデミーの選りすぐりのメンバーで構成されているとのこと。これまで多くのポーランドや国外の指揮者を招いて演奏活動をしてきましたが、その中でも別格の実績をもつシギスヴァルト・クイケンを招いて録音されたのがこのアルバムということです。選曲も古典派の交響曲の発展の歴史を俯瞰するような意欲的な構成ということで、なかなかの好企画と言っていいでしょう。

1曲目のC. P. E. バッハの交響曲は、ハイドンに比べると構成の緊密さではかなり劣るものの奇想天外なメロディーと野性味あふれる低音弦の迫力が特徴。この曲を聴く限りオケは優秀。特に弦楽セクションの鋼のようなキレ味はなかなかのもの。ハイドンで聴かせる冷静ななかから音楽の悦びがにじみ出るクイケンのコントロールとは一味ちがって、ちょっと踏み込んだ表現が新鮮。SACDらしく録音は鮮度の高いものですが、オケがちょっと平板に聴こえるのは会場もしくはマイクセッティングの問題でしょうか。

Hob.I:39 Symphony No.39 [g] (before 1770)
2曲目が肝心のハイドン。ハイドンではいつものクイケンの素晴らしいコントロールが聴かれました。やはりC. P. E. バッハとは異なり、疾走しながら流れる短調のメロディーの美しさは文句無し。耳を澄ますと、やはり弦楽器がキリリとキレていて、実に端正な趣。しかもフレーズのコントロールの緻密さ、響きの多彩さは期待どおり。1楽章からグイグイ引き込まれていきます。全般にテンポ設定が自然なのに劇的に聴こえるいつものクイケンの素晴らしさ。
つづくアンダンテでは弦楽セクションの優秀さがさらに際立ちます。フレーズごとにくっきり鮮やかにコントラストをつけ、ハイドンの機知に富んだメロディーをアーティスティックなレベルに昇華させた完璧な演奏。
メヌエットでも弦楽器が主体。ホルンや木管はレベルを落として控え目な存在になっています。クイケンの意図か、オケの意図かはわかりませんが、弦楽器の表現力がこの演奏のポイントになっています。そしてフィナーレも弦にみなぎる覇気は素晴らしいものがあります。若手中心のオケが発散する素晴らしいエネルギー。クイケンもそれを素直に活かそうということで、あえて抑えにいきませんので、最後は少々力任せな印象が残ります。手兵のラ・プティット・バンドとの演奏のようにクイケンの意図が隅々までいきわたった洗練の極みのような演奏とは少々差がつくところですね。

このあとに間をあまりおかずにベートーヴェンの1番が始まります。ハイドンの余韻を鎮める間をとった方がいいですね。ベートーヴェンの演奏は均整のとれた中にも弦の迫力を生かした、ハイドンと同じ路線のものですが、ハイドンがいい線いっているのに対し、ベートーヴェンでは、ベートーヴェンの音楽に込められたエネルギーや多彩な変化をより豊かに表現する演奏が多いなか、個性を発揮しきれていない感も残してしまいます。

ハイドン自体はなかなかいい演奏ですが、クイケンのこれまでリリースした演奏とは少々路線が異なり、あのクイケンのハイドンの素晴らしさとは少々レベル差があるのが正直なところ。学生中心の若手オケの演奏としてみればテクニックも精度も確かであり、それなりに評価できますが、プロダクションとしての完成度など若干難があるところです。これはプロデューサー、プロダクションの差なのかもしれませんね。ハイドンの評価は[++++]としておきます。

クイケンはベルギーのACCENTからいまも少しずつハイドンのアルバムをリリースしています。直近では朝、昼、晩がありますが、これらの続きのアルバムのリリースを期待しましょう。

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tag : 交響曲39番 SACD

【ブログ開設5周年記念】ピノック/イングリッシュ・コンサートによる交響曲集(ハイドン)

前記事でスタバト・マーテルを取り上げましたが、ちょうど4年前の12月のコルボの演奏の記事を読んでいるうちに、ふと気がつきました。そうです、この12月で当ブログは開設5周年なんです。このブログの最初の記事をアップしたのが2009年12月14日。ということで、本日2014年12月14日でちょうど5年経過したことになります。

普段はかなり飽きっぽい性格の私が5年にわたって記事を書き続けてこれたというのは、かなり希少なこと。普段の仕事も忙しいのですが、家に帰ってから音楽をあれこれ聴いて、ちょっと背景を調べて、そして聴いた印象を文章にするというそこそこ時間のかかる作業をこれだけの期間続けられているというのも、ハイドンの音楽の素晴らしさとともに、このニッチな分野のブログを読んでコメントやメールなどを送ってくださる皆さんの存在があってのこと。あらためて読者の皆様に感謝申し上げます。

5年たったからどうだというのは特にないものの、なんとなく節目感はあります。こんな心境になったのは、2010年12月のブログ開設1周年と、昨年10月に記事数が1000記事となった時。それからまだ1年少しですので、もちろんブログは続いておりますが、毎日書いたり、義務感が生じてしまっては長続きしませんので、無理なく気楽なペースでやらせてもらっています。ということで、次は10年か、はたまた2000記事の時にまた振り返ることにしましょう。



さて、当ブログの本分は演奏のレビューでありますから、戯言だけ言っているわけにはまいりません。この機会になにかいいアルバムをと考えて、今日取り上げたのはこちら。

PinnockVol1.jpg
HMV ONLINEicon(ハイドン全録音集) / amazon / amazon(ハイドン全録音集) / TOWER RECORDS(ハイドン全録音集)

トレヴァー・ピノック(Trevor Pinnock)指揮のイングリッシュ・コンサート(The English Consert)の演奏で、ハイドンの交響曲35番、38番、39番、59番「火事」の4曲を収めたアルバム。収録は38番と火事が1988年4月、残りは1989年2月、ロンドンのヘンリーウッドホールでのセッション録音です。レーベルは名門ARCHIV。

このアルバム、以前に記事で書いたように、私がハイドンにはまるきっかけとなったピノックの交響曲集。

2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3
2010/01/23 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-2
2010/01/21 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?

何度もリンクしているので、今更ではありますが、私がハイドンに興味をもつに至った経緯をブログの初期に書いたものです。この記事で書いているように、このピノックのハイドンの疾風怒濤期の交響曲集が私がハイドンに興味をもつきっかけとなった演奏なんですが、なかでもで最初に第1巻としてリリースされたこのアルバムとの出会いが本当の原点。今はなき六本木WAVEの店頭でモーツァルトに飽きてきた心境でこのアルバムを手に取らなかったら、ハイドンにこれほど興味を持つことはなかったかもしれません。ということで原点を振り返るために今日はこのアルバムを取り上げた次第。

2011/04/06 : ハイドン–交響曲 : ピノックのラメンタチオーネ、受難、58番
2010/11/18 : ハイドン–交響曲 : ピノック/イングリッシュ・コンサートの朝、昼、晩
2010/09/08 : ハイドン–ピアノソナタ : ピノックのソロ、ウィグモアホールライヴ

いつものようにピノックの過去の記事を振り返ってみると、どの記事でも振り返ってましたね(笑) やはりピノックのこの曲集は私の原点なんです。

実に久しぶりに取り出しで聴きます。このアルバムを手に入れた1991年頃のクラシック界はまさにモーツァルトの生誕200年アニヴァーサリーで祭り騒ぎ。小学館とPHILIPSと組んでモーツァルト全集が発刊されたり、様々な企画物もリリースされ、景気もバブル絶頂期で全て右肩上がりな世の中でした。当時はモーツァルトのかなりの曲のアルバムを手に入れ、交響曲ではホグウッドのモーツァルトの交響曲全集を1巻づつ手に入れ、古楽器演奏の潮流に飲み込まれるような勢いでモーツァルトの初期交響曲集を聴き込んだものでした。特にモーツァルトの初期の作品の千変万化する響きに引き込まれ、いろいろ聴いたものの、鮮やかな響きの変化にもちょっとしたものたりなさを感じるようになっていた、まさにその時、このアルバムが売り場で目に入ったわけです。モーツァルトのちょっと前の時代のハイドンの初期交響曲集。しかも当時バッハやヘンデルなどの演奏で一世を風靡していたピノックのアルバムということで、なんとなく手に入れた一枚。家に帰って聴いてみたときの驚きというか新鮮さは今でも忘れません。ほの暗い雰囲気のなか、曲ごとに構成感に満ち、一曲一曲が実によくできていて飽きさせません。もちろん、当時リリースされていた第2巻以降のアルバムを手にいれることは即断でした。この閃きのような瞬間が、その後の私の興味を決定づけたわけです。もちろん、このアルバムのインパクトもありますが、当時のモーツァルトにちょっと飽きてきたという私の心情もあって、ハイドンの魅力がひときわ鮮明に浮かび上がったというところでしょう。

私のハイドンへの興味の本当に原点たるこのアルバム。今聴くとどのように聴こえるのでしょうか。

Hob.I:35 / Symphony No.35 [B flat] (1767)
躍動感にあふれたピノックのコントロールする古楽器オーケストラ。流れるメロディーと独特の音色が相俟って脳の郷愁中枢を直撃。痺れます。このアルバムをはじめて聴いたときの衝撃というか興奮が再来。なんたる屈託のなさ。エネルギーに満ちたオケが小気味よく晴朗なのに少し陰りのある音楽を奏でていきます。ホルンが音が割れるほどのアクセントで曲を引き締めます。モーツァルトとは全く異なるキリリと引き締まった構成感。1楽章の躍動に対して、2楽章の穏やかな表情のアンダンテ。シンプルなのに慈しみ深いメロディー。演奏は端正なのにメロディーの向こうに人知れぬ情感が宿って妙にあたたかい気持ちになります。ピノックのコントロールは情に流されることなく淡々とメロディーを置いていくのですが、それがかえっていいんですね。メヌエットでは直裁な表情で一段落、そしてキレ味鋭く畳み掛けるようなフィナーレ。金管と木管、弦楽器群のメロディーのやりとりのキレのいいこと。響きの良いヘンリー・ウッド・ホールであえてオンマイク気味にとらえたイングリッシュ・コンサートのざらついたような響きの迫力がスピーカーから吹き出します。ホルンの美しい響きがアクセントになりますね。シリーズの出だしを飾るのにふさわしい素晴らしい出来。古楽器草創期の演奏ということで多少古さを感じるかと思いきや、今も新鮮です。

Hob.I:38 / Symphony No.38 [C] (before 1769)
そしてなによりビックリしたのがこの曲。一体どうしてこのような曲想が生まれたのか想像がつかないほど斬新というか、予想だにしないメロディーに本当にビックリ。祝祭感あふれるものの、根本的にユーモラスな印象もあり、この曲を最初にニコラウス侯に聴かせる機会はどんなものだったのでしょうか。ピノックの演奏はこの曲の祝祭感を際立たせる方向で、リズムのキレと金管が前に出てくるエネルギーが素晴らしいものです。まさに交響曲の演奏でトランス状態寸前。ピノックは確信犯的にこの奇怪な1楽章のエネルギーに焦点を当てた演奏。この曲が素晴らしいのは2楽章のアンダンテ・モルトの静謐な美しさ。ヴァイオリンの奏でる美しいメロディーに聴き入ります。そして堂々としたメヌエットが切々と美しく進んできた静寂を切ります。ピノックの迷いのないメリハリの効いた直裁なコントロールが曲の良さを素直に伝えます。フィナーレに入るとやはり鮮やかなオケのキレ味が聴きどころですが、なかでもオーボエが上手さが際立ちます。いま聴き直すと、ピノックのこのシリーズにかける意気込みのようなものが伝わる素晴らしい演奏です。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
短調の名曲。先日交響曲全集の第1巻をリリースした、イル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏を取り上げたばかりですが、録音の鮮明さは時代の違いを感じさせるものの、あらためて聴き直すとこちらもエネルギー感みなぎる素晴らしい演奏。キビキビとした運びとテンポのキレの良さはピノックならでは。有無をも言わせぬ説得力があります。この曲も2楽章がアンダンテ。ピノックの踏み込みすぎないアンダンテはどの曲も好感触。適度なメリハリをつけながら切々とメロディーを描いていきます。メヌエットからフィナーレの後半の展開はちょっと力任せになってしまっているかもしれません。

Hob.I:59 / Symphony No.59 "Feuersymphony" 「火事」 [A] (before 1769)
最後は「火事」と名付けられた曲。1774年にエステルハーザを訪れたヴァール劇団の「火事」という演劇の間奏音楽として作曲されたとのこと。1楽章からコミカルなメロディーが印象的な曲。1楽章は緊密な構成をタイトに表現するピノックのスタイルにピタリとあった曲。そそくさと進む1楽章に対し、しっとりとした曲調の2楽章が聴きどころでしょう。告別の最後に出てくるメロディーに似ていてちょっとセンチメンタルな印象。コンティニュオはピノック自身が弾くハープシコードですが、この音色が繊細な印象を残しています。2楽章の余韻を上手く踏まえた軽いタッチのメヌエットをはさんで、フィナーレに突入。やはりピノックのコントロールするオケはフィナーレのような入り組んだスコアをキリリと引き締めて演奏するのが得意のよう。ホルンがあまりに見事なのでメンバー表を見るとアンソニー・ホールステッドの名が見えます。ヴァイオリンにはサイモン・スタンデイジやアンドリュー・マンぜの名もあり、この時期のイングリッシュ・コンサートの充実ぶりが伺えます。

実に久々に取り出して聴いたこのアルバム。1991年ということで今から20年以上も前にハイドンに傾倒するきっかけを作ってくれたアルバムだけに、その時の感動が再び蘇りました。ピノックのタイトなコントロールでハイドンの名曲がキリリと引き締まった姿で浮かび上がります。このアルバムの各曲の評価はあまり高くつけてはいませんでしたが、いま聴き直しても、その新鮮さはなかなかのもの。その後色々な演奏を聴いてのこのアルバムの評価でしたが、ちょっと過小評価でした。あらためて評価をつけると、39番の後半、ちょっと型にはまった印象を残したのを踏まえて[++++]、他の曲は[+++++]とします。冒頭の35番、そして度肝を抜く38番、最後の「火事」の見事なエネルギー感は今もってハイドンの交響曲の名演奏としてオススメできるものです。

さて、次のブログ開設10周年を目指して、淡々とレビューを続けていくといたしましょう。皆様今後ともよろしくお願いいたします。

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tag : 交響曲35番 交響曲38番 交響曲39番 火事 古楽器

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

ふらっと立ち寄ったTOWER RECORDS新宿店。見慣れないアルバムを手に取り、ちょっと驚きました。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、グルックの「ドン・ジュアン」、ハイドンの交響曲49番「受難」、交響曲1番のあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2013年10月20日から24日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。

Alpha Productionsのアルバムはマーキュリーが丁寧な解説の翻訳をつけて国内に流通してくれているのでお気に入りです。久々に会社帰りにTOWER RECORDS新宿店に立ち寄った際、ハイドンの棚でこのアルバムを発見。なんとハイドンの交響曲全集の第1巻とのことで、つい手が伸びてしまいました。しかも意味ありげに「Haydn2032」とアルバムにデザインされたロゴが記載されているではありませんか。18年後のハイドン生誕300年のアニヴァーサリーでの完成を目指しているという意味でしょう、かなり壮大な計画。

ご存知のように、ハイドンの交響曲全集は1人の指揮者のものとしては、現在アンタル・ドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィスのものがあり、それに続いて、トーマス・ファイが完成を目指して1枚ずつリリースをつづけています。古楽器では先日亡くなってしまったクリストファー・ホグウッドやロイ・グッドマンが多数の録音を残していますが、全集の完成を見ず頓挫してしまっています。ファイは純粋に古楽器の演奏ではなく管楽器のみ古楽器のオケでの全集ですので、このイル・ジャルディーノ・アルモニコの全集が完成すれば、古楽器による初の全集ということになろうかと思いましたが、解説を読んでみると、このプロジェクト、指揮者はジョヴァンニ・アントニーニが通しで務めますが、オケはイル・ジャルディーノ・アルモニコと、バーゼル室内管弦楽団と2つのオケが担当するということです。おそらく後半のパリセット以降くらいからバーゼル室内管が担当するということになるのではないかと想像しています。

ちなみに気になったので過去のハイドンの交響曲全集の録音期間を調べてみました。
ドラティ:1969年~1972年(4年)
アダム・フィッシャー:1987年~2001年(15年)
デニス・ラッセル・デイヴィス:~2009年?(約10年)
トーマス・ファイ(約2/3リリース):1999年~(ここまで16年)
ドラティは集中的に録音したということでしょうが、他のアルバムは10年以上かかっていることを考えれば、今回のプロジェクトの20年近い録音期間はとりわけ長いというわけでもなさそうです。まずは商業的に成功しないと、この全集の完成は危ういことになりますので、特に最初の数枚の出来はこの全集の成否を握ることになりそうですね。

さて、演奏者についても触れておきましょう。指揮者のジョヴァンニ・アントニーニは1965年ミラノ生まれの指揮者、リコーダー奏者。ミラノ市立音楽学校、ジュネーヴ古楽研究所などで学び、1989年、このアルバムのオケである古楽器オーケストラ、イル・ジャルディーノ・アルモニコを設立。イル・ジャルディーノ・アルモニコとはTELDECに膨大なヴィヴァルディの録音を残しており、17~18世紀のイタリア音楽の演奏で知られている存在ということです。近年ではハイドンの交響曲全集の録音を担当することになるバーゼル室内管とベートヴェンの交響曲全集を録音中であったり、また、ベルリンフィル、コンセルトヘボウに客演したりと活躍している人。

残念ながらヴィヴァルディは守備範囲外なため、アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコの偉業の評価をできる立場にはありませんが、ハイドンの交響曲全集の完成を目指すということで、ヴィバルディ風、いやイタリア風の輝かしいハイドンが聴けることになるのでしょうか。これは追いかけざるを得ません。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
シュトルム・ウント・ドラング期の短調の名曲を最初にもってきました。速めのテンポでまさに疾風怒濤の勢いで畳み掛ける迫力満点の演奏。古楽器オケですが典雅な響きというよりは、ざらついた音色が迫力を増すような切れ味鋭い響き。ファイの千変万化する響きとは異なり、推進力と迫力にエネルギーが集中しています。1楽章はまさに挨拶代わりに素晴らしいキレを聴かせます。
アンダンテに入ると落ち着きを取り戻しますが、くっきりとアクセントを効かせて、リズムの鮮やかなキレを引き立てます。落ち着いた音楽ですが旋律が活き活きと踊り、飽きさせません。続くメヌエットあえてさらりとこなしメロディーに潜む色彩感で聴かせる感じ。フィナーレに入るとまさにヴィヴァルディを彷彿とさせる嵐の場面のような盛り上がり。タイトに攻めてくる音楽。木管も金管も号砲のように轟き、弦もざわめくように響きます。文字通り疾風怒涛。アントニーニのめざすハイドンの響きを一番わかりやすく伝える曲かもしれません。

グルックのバレエ音楽「ドン・ジュアン」はオペラの音楽のような湧き上がる興奮が味わえるなかなかいい曲。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最初の39番同様、シュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。ほの暗いアダージョから始まる曲のコントロールが聴きどころ。穏やかなメロディーをじっくり描き、キレばかりではなくしっとりした表情の作り方もなかなかです。古楽器ならでは直裁な表現ながら、コントラストを落とし、短く音を切りながらも大きな波のようなうねりを加えて爽やかなほの暗さをあらわしていきます。
2楽章は予想どおりキレキレ。弦楽器のエッジがキリリと立って、クッキリとメロディーを描いていきますが、表現が適度で荒れた感じはしません。このへんのバランス感覚はハイドンの交響曲の演奏の勘所かもしれませんね。速めのテンポで要所にしっかりアクセントをつけてメロディーの面白さが引き立つこと! 力を抜く部分とアクセントの対比が実に巧み。さざめくように進む音楽が徐々に活気を帯びて自在に跳躍。
この曲でもさらりとしたメヌエットの魅力は健在。この独特のセンス、悪くありません。間奏曲のような軽さで音楽が流れ、箱庭的美学が感じられる面白さ。
フィナーレはそここに湧き上がるようなエネルギーをちりばめながらもまとまりよく速めのテンポで畳み掛けます。痛快に吹き上がるオケ。意外に正攻法なアプローチで曲の魅力をあえて引き出そうということでしょうか。

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
最後は交響曲全集の第1巻にふさわしく交響曲1番をもってきました。ハイドンの交響曲の楽しさが全てつまった宝石箱のような小交響曲ですが、ワクワクするような魅力をストレートに表現。最初の39番で荒れ狂うヴィヴァルディっぽさの片鱗を垣間見せましたが、基本的にはまとまりよく躍動感を詰め込んだオーソドックスな演奏。メロディーのキレとコントラストが良いので、ダイナミックでハイドンの交響曲のスペクタクルな魅力がうまく引き出されているということでしょう。
アンダンテは速めの軽い足取りで、やはり爽やか。そしてフィナーレは壮麗爽快。アクセントを見事に効かせて素晴らしい躍動感。ハイドンの初期の交響曲の素朴な魅力をたっぷり味わえました。

新時代のハイドンの交響曲全集の第1巻を飾るにふさわしい、素晴らしい演奏でした。古楽器をダイナミックに鳴らし、クッキリとアクセントをつけていきますが、基本的に音楽のまとまりはオーソドックス。アーティスティックさを狙って、表現が重くなるということは一切なく、ハイドンの曲を演奏する悦びをストレートに表現しているような姿勢がハイドンの曲の真髄を突いています。これまでの交響曲全集のなかで一番曲を楽しめるアルバムとなりそうな予感です。これからレギュラープライスで1巻づつ集めるのは、CD激安時代の現在、ちょっとハードルが高いかもしれませんが、ハイドンの交響曲全集を改めて聴きなおす良いきっかけかもしれません。私は激気に入りました。したがって評価は全曲[+++++]といたします。

次のリリースが待ち遠しいですね。

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tag : 交響曲39番 受難 交響曲1番

レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)

このところ間が空きがちになってましてスミマセン。あっという間に3月も終盤。湖国JHさんに貸していただいた3月の課題曲があと1枚のこってますので、それを取りあげましょう。

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レイモン・レッパード(Raimond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、交響曲39番、ハリー・ニューストン(Harry Newstone)指揮のハイドン管弦楽団(Haydn Orchestra)の演奏で交響曲46番、52番の3曲を収めたアルバム。米Haydn HouseのCD-Rなんですが、収録情報は記載されておりません。ネットでレイモン・レッパードの方を調べたところ、この39番とおそらく同時期の録音だと想像される交響曲22番と47番を一緒に収めたLPの収録がPマークが1969年、47番はPHILIPSのマリナーの名前付き交響曲集に、マリナーの録音がなかったので、穴埋めでレッパードの録音が収められており、こちらは1968年12月の録音との記載があることから、おそらく同じ1968年12月の録音であろうと想像されます。またハリー・ニューストンの録音はおそらく1950年代から60年代と想像されますが、詳細はわかりません。

レイモン・レッパードのハイドンはこれまで知らず知らずのうちに、結構な数取りあげています。

2013/06/01 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・ジャンドロンのチェロ協奏曲1番、2番
2012/08/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管のラメンタチオーネ
2011/02/20 : ハイドン–協奏曲 : アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン協奏曲
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集
2010/06/05 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパードのハイドン

レッパードの略歴はイギリス室内管とのラメンタチオーネの記事をご参照ください。このアルバムのオケでもあるイギリス室内管には1960年代、70年代に頻繁に客演していたそうですので、親密な関係にあったのでしょう。今一地味な存在ですが、職人気質の指揮者として、いろいろなアルバムで堅実な演奏をきかせている人ですね。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
そのレッパードの名曲39番。短調の疾走する曲調から入りますが、この演奏は、これまで聴いたレッパードの交響曲ではハイドンの良さを上手く表現しています。速めのテンポで畳み掛けるように入りますが、いい意味で落ち着き、バランス感覚があり余裕を感じます。リズムのキレもあり、余裕もあるという理想的な演奏。タイトながら入り込みすぎず、落ち着いたキビキビ感。曲を読みこなして、さらりと仕上げる、まさに職人の技。
つづくアンダンテに入ると、さっとテンポを切り替えて、こんどは淡々とハイドンの諧謔的なメロディーラインを奏でて行きます。淡々とはしているものの適度な彫りの深さもあり、独特の時の流れを感じさせます。この時期のハイドンの哀愁を帯びた独特の響きと間。
そして、絶妙なつなぎを経てメヌエット。メロディーが象徴的に浮かびあがり、そのメロディーの起伏だけで聴かせる圧巻のコントロール。やはり淡々としながら、音楽から立ちのぼる詩情。私の好きな素朴な演奏。ハイドンの交響曲の最も本質的な魅力が迫ってきます。主旋律の起伏だけでこれだけの聴き応えとは素晴しい。
フィナーレは予想通りバランスの良いもの。ジェントルに畳み掛けます。適度な起伏と古典の均衡の範疇での盛り上がり。迫力と均整のとれたフォルムのバランスが絶妙。これは快心の演奏!

つづくハリー・ニューストンの演奏は簡単に。ネットで調べたところ2006年の訃報の記事が見つかりました。1916年にロシア移民としてカナダのウィニペグに生まれ、建築の仕事から音楽に転身、1950年頃このアルバムのオケであるハイドン管弦楽団を設立したとの事。はじめて聴く人家と思いきや、手元には伝ハイドンのオーボエ協奏曲のアルバムがありました。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
レッパードの演奏は録音は非常にバランスの良いものでしたが、こちらはそれより若干の古さを感じさせ、直接音重視で少しデッド気味。ただし音の厚みと迫力はなかなかのもの。オケはざっくりとした風合いの音色。原盤はL'Oiseau LyreのLP。オケの精度は今ひとつなところもありますが、クナの指揮のように、時にザクザクと、時にゆったりと妙に味わいを感じさせる演奏です。これは好きな人がいそうな演奏ですね。

Hob.I:52 / Symphony No.52 [c] (before 1774)
前曲と同様のサウンド。前曲よりも躍動感があり、悪くありません。推進力の1楽章に続いて印象的な静寂からはじまるアンダンテ、後半2楽章は独特の陰影の深さがある味わい深い演奏でした。

メインに聴いたレイモン・レッパードの39番は名演奏ですね。レッパードの面目躍如ですね。やはり相当ハイドンを演奏している人らしく、ハイドンの本質をよく理解して、手堅く仕上げてくるあたり、流石の手腕でしょう。評価は[+++++]とします。また、ハリー・ニューストンの2曲も悪くありません。独特のざっくりとした表情は個性的であり、味わいもある佳演。こちらは2曲とも[++++]としておきましょう。

これで湖国JHさんの3月の課題曲、終了です(笑) いつものように次の指令をお待ちしています!

さてさて、手元の未聴盤の山が、高くなったままですので、少々片付けることにしましょう。

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tag : 交響曲39番 交響曲46番 交響曲52番

デヴィッド・ブラムの交響曲39番、70番、73番、75番(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。年度末で仕事も飲みもあって今週はヘロヘロ。遅く帰るとなかなか思うように記事が書けませんでした。

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デヴィッド・ブラム(David Blum)指揮のエステルハージ管弦楽団(Esterhazy Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、70番、73番「狩」、75番の4曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の記載はありませんが、Pマークは1966年とありますので、録音は1960年代中頃までだと想像できます。レーベルは優秀録音の多いVANGUARD CLASSICS。

デヴィッド・ブラムの交響曲集は以前に別のアルバムを取りあげています。

2010/10/24 : ハイドン–交響曲 : デヴィッド・ブラムの交響曲集

この記事を読まれた湖国JHさんにアルバムを貸したところ、それが良かったのか、今日取り上げるアルバムを湖国JHさんが手に入れ、逆に貸していただいたというもの。ニッチなハイドンの演奏の激ニッチなアルバムをいろいろ聴こうと思うと、こうした地道なやり取りが非常に重要になってくる訳です(笑)

さて、ブラムの情報は前記事にゆずるとして、今日取り上げるアルバムの収録曲は4曲で、そのうち交響曲70番は前に取りあげたアルバムにも収録されていますので、新たに聴くのは3曲と言うことになります。念のため両方のアルバムの交響曲70番を聴き比べてみましたが、アルバムのリリースも1990年と92年ということで近い時期であることもあって、録音の鮮度は変わりませんでした。

ジャケットは黒地にボタニカルアートが配されたシックなもの。以前のアルバムの出来から察するに、素晴しい音楽が流れてきそうな予感です。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
直接音重視のほどよく鮮明な録音。シュトルム・ウント・ドラング期独特のほの暗い陰りがある曲調ですが、全体にキビキビとしたブラムのコントロールで程よい緊張感を帯びています。録音のせいか、力感よりも軽さで聴かせ、短調の曲なのに爽やかさを感じる入り。アンダンテに入ってもこのキビキビ感は変わらず、ハイドンのこの時期の交響曲のキリリと引き締まった等身大の良さが滲み出てきます。弱音器つきの弦楽器が奏でる軽やかなメロディーが心地よく漂い、時折ハープシコードの雅な音色が華やぎを加えます。メヌエットはどちらかというとリズムよりも流麗さを意識したもの。滑るように滑らかな弦楽器のボウイングによる入りと、小気味好い中間部と、表現を明確にわけて表現の幅をつけていきます。フィナーレはほどほどの力感ながら、勢いは畳み掛ける印象を与える、こちらも適度な緊張感。曲に没入せず、どこかに冷静に俯瞰する視点を保ちながら、程よく主観的に音楽に乗っていく感じ。ブラム自身が曲に程よく浸る快感を味わっているよう。この時期の小交響曲の演奏としては完璧でしょう。

Hob.I:73 / Symphony No.73 "La Chasse" 「狩」 [D] (before 1782)
以前取りあげたアルバムにも含まれている70番を飛ばして、次の「狩」。響きの軽さはこのアルバムの特徴でしょう。定位感を含めて鮮明さはあるのですが、迫力と言うより響きの厚みがもう少しあればと思わせます。前曲ではそれが曲の規模と演奏スタイルに合っていたんですが、どうゆう訳かこの曲では少し迫力不足に聴こえてしまいます。入りは実にゆったりとした序奏から。主題に入ると前曲のキビキビ感は影をひそめ、落ち着いた表情を出そうとしているのか、リズムもすこし鈍く聴こえます。曲をじっくりと描いていこうということでしょう。終楽章の噴き上がりへの対比を意図しているのでしょうか。演奏によっては躍動感溢れる感じになる曲ですが、かなり抑えた演奏。つづくアンダンテも同じ調子を保ちます。起伏はほどほど。アンダンテは1楽章ほどの違和感はありません。さざめく弦の魅力がよく出ています。なぜかメヌエットとフィナーレが一緒のトラック。メヌエットはささっと済ませるように片付け、いざフィナーレ! と思いきや、噴き上がりません。1楽章と同様、落ち着いて曲を丹念に描いて行くアプローチ。1楽章のスタンスからこのフィナーレの展開は読めませんでした。ある意味知的刺激を含む演奏ということでしょう。

Hob.I:75 / Symphony No.75 [D] (before 1781)
最後の曲。一転今度は荘重な序奏に続きキビキビとした展開。39番同様のスタイルの予感です。鮮やかに吹き上がるヴァイオリンの音階。1楽章は一貫してタイトな期待通りの名演でした。つづくポコ・アダージョはゆったりゆったりと実に慈しみ深い音楽。このアルバム一番の聴きどころでもあります。深い呼吸と大きな起伏、そして各奏者の息がピタリとあってうねるように音楽が流れます。癒しのシャワーを浴びているよう。75番のアダージョがこれほど素晴らしかったとは。メヌエットはこのアルバムで最もバランスの良いもの。小気味良いとはこのことでしょう。ヴァイオリンソロの軽やかさが印象的。フィナーレは軽やかさを引き継ぎながら次々にメロディーが展開して、落ち着いて終わります。

デヴィッド・ブラムとエステルハージ管弦楽団による2枚目の交響曲集ですが、前回取り上げたアルバム同様、ハイドンの交響曲に対する深い理解を感じる演奏でした。オケも流石にエステルハージ管弦楽団を名乗ることだけあり素晴しい腕前。このアルバムの中では「狩」だけがちょっと異色な演奏。終楽章が有名な曲ですが、盛り上げるばかりがこの曲の解釈ではないとでも言いたげな演奏。もともとこの曲のみ録音日が別なのかもしれませんね。評価は「狩」が[++++]、他2曲が[+++++]とします。

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tag : 交響曲39番 交響曲70番 交響曲75番

【新着】ザンデルリンク/スウェーデン放送交響楽団の39番ライヴ

昨日HMV ONLINEから届いたばかりの新着アルバム。

Sanderling39.jpg
HMV ONLINEicon / TOWER RECORDS

クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮のスウェーデン放送交響楽団の演奏で、シューベルトの交響曲9番「グレイト」、ハイドンの交響曲39番の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1992年10月16日、ストックホルムのベルワルトホールでのライヴ。レーベルは最近いいライヴをリリースしているWEITBRICK。

クルト・ザンデルリンクにはハイドンのパリセットの名盤があり、愛聴盤の1枚です。当ブログではザンデルリンクのハイドンはベルリンフィルとの「熊」のライヴを取りあげたことがあるのみ。

2010/11/04 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルの熊ライヴ

前記事で触れなかったので、Wikipediaなどの情報をもとにザンデルリンクの略歴を紹介しておきましょう。クルト・ザンデルリンク1912年、東プロイセンのアリス(現在のポーランドの北西部でベラルーシやリトアニア国境に近い街オジシュ)に生まれ、10歳でケーニヒスベルク(現在のロシア領カリーニングラード、こちらリトアニアとポーランドの間のロシアの飛び地のようなところ)のギムナジウムで音楽を学び始めたました。1931年にベルリン市立歌劇場のコレペティートルとして働き始めましたが、母親がユダヤ人であったためドイツ国籍を剥奪され、1935年にソビエト連邦に亡命、モスクワ放送交響楽団でアシスタントとして腕を磨きました。
1937年にモスクワで「後宮からの誘拐」で指揮者としてデビューし、1939年にはハリコフ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、1941年にはレニングラート・フィルハーモニー交響楽団の第一指揮者に就任し、エフゲニー・ムラヴィンスキーの下で研鑚を積みました。その後1960年に東ドイツに帰国しベルリン交響楽団の芸術監督、首席指揮者に就任、1964年から1967年まではシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者も兼務するなど、東欧圏の代表的な指揮者と言う立場になりました。
1965年にザルツブルク音楽祭にデビューしたことで西側にもその名を知られるようになり、1972年には健康の衰えはじめたオットー・クレンペラーを補佐するためフィルハーモニア管弦楽団の首席客演指揮者に就任、後に名誉指揮者の称号も得る事になります。
日本にもたびたび訪れ、1973年のシュターツカペレ・ドレスデンの来日公演に帯同、読売日本交響楽団にもたびたび客演しこちらも名誉指揮者となっています。
1977年にベルリン響のポストを退いてからはフリーの立場で世界各地のオケに客演しましたが、2002年に高齢を理由に指揮活動から引退、5月19日にベルリン響や内田光子との引退演奏会が最後の演奏となりました。そして昨年2011年9月18日、ベルリンで老衰により98歳で亡くなりました。98歳とは大往生でしょう。

ザンデルリンクの生まれたポーランドのオシジュを調べていたら、近くのオシジュ湖の綺麗な写真がありましたので紹介しておきましょう。なんと素晴らしい自然。

Panoramio:Lake Orzysz

私はザンデルリンクの演奏で記憶に残っているのはシベリウスの6番、7番を収めたLP。リリシズムを感じるような研ぎすまされた室内学的な響き。黒地に雪に包まれた赤い実の写るジャケットも印象的なものでした。
肝心のザンデルリンクのハイドンはまさに中庸の美学を地でいくもの。生気と感興、推進力が高次にバランスした演奏。パリセットも素晴らしい仕上がりでしたが、新たにリリースされた39番というシュトルム・ウント・ドラング期の成熟を予感させる交響曲のライブに期待も集まります。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
堅実な響きから入ります。この時期特有の憂いを秘めた濃い情感を含んだメロディーの曲。短調の曲なんですが、基底には不思議と明るさも宿ります。おそらくリズムの几帳面な刻みと、弦楽器の正確なボウイングから編み出されるクッキリ感がそう思わせているのでしょう。小気味好いリズム感の良さが気品を帯びるほど。まさにハイドンのツボを抑えたコントロール。録音はちょっと鮮明さに欠けますが、鑑賞には問題ないレベル。オーケストラのスケール感はコンパクト。
アンダンテもテンポ感よく進み、メロディーラインを適度に変化をつけて重ねながら、自然に音を紡ぎ出していくようです。ハープシコードが雅さを加えます。オケは腕利きというほどではありませんが、アンサンブルは良くそろっています。ザンデルリンクの統制が行き渡っている感じ。まさに手作りの音楽の良さが味わえる音楽。ハイドンの書いた機知に富んだ旋律の本質を捉えたザンデルリンクの見事なコントロール。音楽が溢れてきます。
ざらっとした音色の弦楽器にるメヌエット。ここでもメロディーラインの演出が見事。楽譜に潜む情感を非常に見事に描いていきます。
そしてフィナーレは強弱の変化、対比を非常に見事に表した演奏。テンポは思ったほど速くなく落ち着いた範囲。ただその中で演奏されるメロディーは、フレーズごとに鮮明に強弱の対比がつけられハイドンらしい端正さを保ちながら、表情豊かに描かれます。非常に落ち着いたコントロールのもとオケがザンデルリンクの棒にピタリと従って、箱庭の美学のような緊密な音楽。速いパッセージのキレもそこそこあり、見事なアンサンブル。最後は拍手に迎えられます。

クルト・ザンデルリンク指揮のスウェーデン放送響の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期直前の傑作交響曲39番。オケは決して一流ではなく、音色も垢抜けている訳ではありませんが、演奏は一流です。指揮者の重要性をあらためて感じる演奏。流石にハイドンを得意としているザンデルリンクだけあって、このオケからハイドンの交響曲の真髄にふれる見事な演奏を引き出しています。この演奏の特徴は変化に富んだフレーズの演出と端正な構築感。ハイドンらしい端正さを基調としながらも、フレーズごとの巧みな変化をつけて、まさに箱庭の美学。オケの精度の分減点するという評価もあるかもしれませんが、減点しません! このような演奏こそハイドンの真髄を突いた演奏と言えるでしょう。ということで評価は[+++++]とします。

気づいてみれば今日は月末ですね。恒例の今月の一枚を選び始めましょうか、、、

※7月1日追記
コメントに記載されたmaro_chroniconさんのご意見をもとに、39番がシュトルム・ウント・ドラング期のものかについて記事を修正させていただきました。maro_chroniconさん、いつもありがとうございます!

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tag : 交響曲39番 ライヴ録音

SWF交響楽団の39番、「悲しみ」、71番

今日は珍しい、1つのオケを3人の指揮者が振った演奏を1枚に収めたアルバムです。

SWF.jpg

オケはSWF交響楽団。収録曲目、指揮者と録音年がそれぞれ次のようになってます。
交響曲39番:ハンス=マルティン・シュナイト(Hanns-Martin Schneidt)1993年2月26日
交響曲44番「悲しみ」:アーノルド・エストマン(Arnold Östman)1994年3月23日
交響曲71番:若杉弘、1987年1月27日

レーベルはARTE NOVA CLASSICS。廉価盤レーベルですがリリースするアルバムは侮れません。どういった経緯かわかりませんが、面白い企画に違いありません。同じオケを異なる指揮者がどのように料理するかということを1枚で味わえるアルバム。

まずは、オケ。SWF交響楽団はドイツのバーデン・バーデンに本拠をおく1946年設立のオケ。現代音楽を主なレパートリーとして、シェーンベルクやストラヴィンスキーなどもコンサートに登場した名門。多くの有名指揮者が振ったようですが、近年はミヒャエル・ギーレンが1986年から、そして現在読売日本交響楽団の常任指揮者であるカンブルランが1999年から音楽監督をつとめています。録音は80年代後半から90年代前半にかけてのものゆえ、ギーレンの時代の録音ということになりますね。

まずはシュナイトの39番。疾風怒濤期の畳み掛ける情感。瑞々しい現代楽器のキビキビしたオケがテンポよく陰影の深いメロディーを奏でます。弦の旋律がクッキリと浮かび上がり、非常に端正な仕上がり。2楽章のアンダンテもテンポよく美しい弦楽器の音色を生かして爽やかに進めます。3楽章のメヌエットもテンポ、表情はそのまま、楽章間の対比をつけるというよりはキビキビ感で一貫した演奏。フィナーレまで一気に到達。
シュナイトのコントロールは、ハイドンの楽譜の背景を読んで表情をつけていくというより、一貫した音響によってハイドンのメロディーを浮かび上がらせるという姿勢。楽章間の対比をもうすこしつけても良いように感じますが、これがシュナイトの持ち味なんでしょう。

つづくエストマンの悲しみ。音響はほとんど同じようなオケながら、少しゆったりして、オケの自由度が上がったというかコントロールが緩くなった感じ。曲自体は疾風怒濤期の傑作故、情感溢れる曲なんですが、表現の密度はシュナイトの前曲の方が聴き応えがあるというのが正直なところでしょう。この曲は3楽章にアダージョがくる変則的なもの。特徴的なのが、最後のフィナーレをかなりじっくり描いているところ。若干重さが気になってしまうくらいに遅いテンポで描きます。

そして若杉弘の71番。時代はだいぶ後の曲故、前2曲のほの暗い、深い情感とはことなり、晴朗な曲調に変わります。1楽章は日本人らしい明解なフレージングで、曲の構造を図面で見るような明晰さ。メロディを流麗に奏でようというよりは、楽譜に忠実なことを狙ったような演奏に聴こえます。秀逸なのは、弱音器つきの弦のメロディーが美しい2楽章のアダージョ。基本的に1楽章の延長のスタイルなんですが、慈しみ深い雰囲気がよく出ていて癒されます。メヌエットは徐々にオケが慣れたのか、だいぶ表現が深くなり、なかなか味のあるフレージングに変化しています。フィナーレは絶品。響き自体は厚いものではないんですが知らぬ間にオケが非常に流麗に変わっています。1楽章の最初が固かったということでしょうか。弱音の使い方がうまく、非常に珍しい静けさを感じるフィナーレ。いいですね。

評価は、シュナイトの39番が[++++]、エストマンの悲しみが[+++]、若杉の71番が[++++]としました。若杉弘さんは昨年亡くなられてしまいましたが、私も20年くらい前にベートーヴェンの4番、7番だったかのコンサートにいって、細身の体から渾身の力を振り絞ってオケをタイトにドライブする姿に感銘を受けたものです。

若杉さんの清々しい演奏に久しぶりにふれて、昔のことを思い出しましたね。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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