【新着】ハイデルベルク交響楽団の35番、46番、51番(ハイドン)

前記事で取り上げたトーマス・ファイとハイデルベルク交響楽団による交響曲全集の23巻ですが、今日はその続きでCD2を取り上げます。前記事はこちら。

2017/03/05 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲全集第23巻(ハイドン)

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前記事の再掲になりますが、収録情報にも触れておきましょう。CD2はファイの名前はなく、ベンジャミン・シュピルナー(Benjamin Spillner)がコンサートマスターを務めるハイデルベルク交響楽団の演奏で、交響曲35番、46番、51番の3曲。収録は2016年6月、ハイデルベルクの西20kmくらいのところにあるバート・デュルクハイム(Bad Dürkheim)にあるナチュラルホルンアカデミーでのセッション録音。レーベルはhänssler CLASSIC。

CD1がファイの名前が冠されていただけに、素晴らしい演奏を期待してしまいましたが、ちょっと肩透かしのようになってしまいました。このCD2は、ファイの再起が難しいと判明した後、22巻まで到達した交響曲全集を、オケのみで完成させようと、ある意味開き直っての録音のように思われます。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
冒頭から格別の覇気が宿っています。勢いだけはまるでファイが振っているように錯覚するほど。まさに開き直ったといわんばかりにオケも攻める攻める。この痛快さを待っていました。よく聴くとファイならもう少し意表をついてくると思わせなくはありませんが、CD1よりもずっとイキイキとした演奏に嬉しくなってしまいます。おそらくCD1がファイのコントロールを失った直後の演奏だったのに対し、こちらはファイの意思を受け継いで、ここまで到達した交響曲全集の完成を志すよう、あらためてファイならばどうしたかをオケ全員が考えて演奏しているようです。まるでファイの魂が乗り移ったようなオケの熱演。この鬼気迫るオケの熱演にちょっと込み上げてくるものを感じます。
驚いたのが2楽章のアンダンテ。まるでファイのようにさらりと来ました! これまでのファイの録音を聴いて研究しつくしたのでしょうか。このさりげなさこそファイの緩徐楽章。もちろん、ファイ自身が振っていたら、もっと閃いていたんでしょうが、CD1で感じたやるせなさとは別次元の仕上がり。
ファイの想像力を再現するのが最も難しいと思われるメヌエットは、若干物足りない印象もありますが、中間部をぐっと落とし込むことでなんとかレベルを保ちます。そしてフィナーレで再び痛快さを取り戻します。オケ全員が偉大な才能に追いつこうと決死の演奏で臨みます。オケの心意気が心を打ちます。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
おそらく告別交響曲の後に書かれた曲。ここでもベンジャミン・シュピルナー率いるハイデルベルク交響楽団は、まるでファイが振っているがごとく振る舞い、起伏に富んだ1楽章聴き応え十分な彫りの深さと機知を織り交ぜていきます。これは素晴らしい。よく聴くとファイらしくもあり、ファイらしくなくもあり、ファイなきハイデルベルク響の新たな魅力といってもいいでしょう。指揮者の才能ではなくオケの意思でここまでの演奏に仕上げてくるあたり、気合十分と言っていいでしょう。
つづくポコ・アダージョに入ると表現の変化の幅も十分。ハイドンの音楽を完全に消化して自らの音楽として歌い、仄暗いシュトルム・ウント・ドラング期の静謐な気配まで表現しつくします。指揮者の個性に頼らぬ音楽に聴こえなくもありません。これは見事。
この曲のメヌエットは迷いが無くなり、音楽の説得力が上がります。完全にファイの演奏を真似から脱し、オケ自らの音楽になってきた感じ。フィナーレも絶品。

Hob.I:51 Symphony No.51 [B flat] (before 1774)
前曲同様、表現に迷いなく、素晴らしい演奏。この曲も絶品です。当ブログの読者の皆さんも是非この素晴らしい演奏を聴いていただきたいと思います。

前記事を書いた時に感じた、なんとなくやるせない気持ち、そして悲しい気持ち、そして改めてファイの才能の偉大さに気づいたという気持ち。記事にするかどうか、ちょっとためらい、そしてなんとなくそのまま記事にしてしまったわけですが、今日改めてCD2を聴いて、そうしたもやもやが吹っ切れました。このアルバムが2枚組としてリリースされた深い意味がようやくわかりました。ファイを失い、混乱した状態のCD1に対し、2年という時間をかけてそれを克服し、ファイの遺産に負けないレベルの演奏で残りの曲を演奏し、全集を完成させようとする力強いオケの意思を感じさせるCD2。それをあえてまとめてリリースすることがハイデルベルク交響楽団のやるべきことだと世に問うたのでしょう。私はファイなきハイデルベルク交響楽団の素晴らしい演奏に心から感動しました。評価は3曲とも[+++++]とします。

皆さん、このアルバムは買いです!

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tag : 交響曲35番 交響曲46番 交響曲51番

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)

なんとなく、このアルバムがリリースされているのは知ってましたが、手元に来たのはつい最近です。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲46番、22番「哲学者」、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの交響曲(BR C-2)、ハイドンの交響曲47番ののあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2014年6月16日から20日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。

このアルバム、ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻に当たるもの。第1巻については以前に記事にしております。

2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

全集の完成はハイドンの生誕300周年にあたる2032年と、東京オリンピックのさらに12年後という気の長い話ですが、ハイドンの全交響曲を演奏、録音するというプロジェクトの大きさを考えると妥当なものでしょう。デビュー盤の第1巻はなかなかの出来だっただけに、2枚目の出来は今後の全集の成否を占うものということで、これまた関心が集まるものです。世の中のハイドンファンもその出来に注目していることでしょう。また、現在全集の半ばまで来ているトーマス・ファイにとっては商業的なライバル出現ということで、うかうかしていられない存在ということかもしれません。

Hob.I:46 Symphony No.46 [B] (1772)
前作と同様、古楽器のざらついた音色による迫力あふれる演奏が特徴。冒頭から躍動感にあふれ、かなりオケに力が入り、アクセントを執拗につけていくスタイル。ヴィヴァルディを得意としているアントニーニの得意とするスタイルといっていいでしょう。曲はシュトルム・ウント・ドラング期の最高傑作45番「告別」交響曲と同じ頃の作品。演奏によっては構成の見事さに焦点を合わせてくるところですが、アントニーニは荒々しさと力感を強調してきます。前作でアントニーニのアプローチは新鮮に映りましたが、この曲で改めて聴くとハイドンのこの時期の交響曲の魅力の一面を強調しているものの、ちと迫力に焦点を合わせ過ぎというように聴く人もあるかもしれません。このあたりが古楽器演奏の難しいところ。
つづく2楽章のポコ・アダージョは、この時期のハイドン特有の仄暗い情感を味わうべき楽章ですが、アントニーニは表情と音量を抑えて逆にさらりとこなしてきます。1楽章の喧騒に対して、あえて抑えて対比を鮮明にしようということでしょう。
そしてメヌエットは、堂々としたというよりも、こちらも淡々とした表情で描きます。どうしてももう少し豊かな表情づけを期待してしまうのはこちらの聴き方の問題でしょうか。
そして、フィナーレは1楽章の迫力の再来を予感させ、音量を抑えて始まりますが、そここで炸裂を予感させるようなキレ味を垣間見せて、盛り上がり切らず、聴くものをじらすようなコミカルな展開。非常にユニークな構成の曲を力感ではなくユーモアで聴かせる器を見せます。フィナーレはいい仕上がり。

Hob.I:22 Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
なぜか惹きつけられるユニークなメロディーのこの曲。アントニーニはこのユーモラスな1楽章を古楽器独特のさらりとした表現でゆったりと描きます。音楽自体の愉悦感に加えて古楽器のちょっとしたフレージングの面白さを織り交ぜて遊び心を加えていきます。弦楽器による伴奏の音階の音量を極端に抑えて静けさのようなものを感じさせ、結果的にユニークなメロディーを引き立てるといった具合。このアプローチはいいですね。
2楽章のプレスト、よくコントロールされた躍動感が心地よい楽章。前曲1楽章のちょっと力任せなところは影を潜め、曲の面白さを踏まえた粋な表現。ところどころで聴かせるキレの良いアクセントが効果的。
前曲につづきこの曲でも、早めのテンポであえてあっさりとしたメヌエットの表現。この曲ではこの表現に一貫性を感じます。最後の一音をさっとたたむように鳴らすあたりにもそうしたアントニーニの意図が見えるよう。そしてフィナーレは快速な躍動感で一気に聴かせます。この哲学者はしっくりきました。

この後、なんとも独特なヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの曲を挟みますが、この全集、ハイドン第1巻にもハイドンと同時代のグルックの曲を挟んでいるところをみると、時代の空気を他の作曲家の作品から呼び込もうという狙いでしょうか。私にはハイドンの引き立て役と感じられます(笑)

Hob.I:47 Symphony No.47 [g] (1772)
このアルバム最後の曲。このアルバムで一番力入ってます。素晴らしい迫力ですが、私にはちと力みすぎに聴こえてしまいます。いきなり耳をつんざくようなアクセントの連続。響きも少々濁って楽器が美しく鳴る範囲を超えているような印象。曲自体はとても美しいメロディーがちりばめられた曲ですが、アントニーニは完全にスロットル全開できます。抑えるところはもちろん抑えているのですが、やはり力みすぎて単調に聴こえてしまうような気がします。
2楽章はこれまで同様、さらりと表情を抑えた速めのアプローチ。あえて歌いすぎないところは古楽器による演奏としては珍しくありません。そしてさらりとしたメヌエットですが、この曲では1楽章からの力感重視のスタイルからか、かなりアクセントを明確につけてきます。そしてフィナーレは予想どおり嵐のような盛り上がり。強音の迫力は1楽章同様ですが、不思議とここでは1楽章ほどクドさを感じません。鮮やかなキレ味でたたみかけて終わります。

ジョヴァンニ・アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第2巻。名刺がわりの第1弾につづいて、アントニーニのやりたいことがより鮮明に表されたアルバムということでしょう。演奏評に書いたように、哲学者ではこの曲を面白さを踏まえて余裕あるコントロールで曲を表現しているのに対し、最後の47番ではフルスロットルで痛快という領域を超える灰汁の強い表現を聴かせます。聴く人によって評価が分かれる演奏かもしれません。私の評価は哲学者が[+++++]、冒頭の46番が[++++}、そして47番は[+++]としたいと思います。

膨大なハイドンの交響曲全集の2枚目ですが、力まかせの演奏はちょっと心配です。古楽器では全集に至らぬものの、ホグウッド、ピノック、グッドマンなどの先人の録音がありそれぞれ良さがあります。現代楽器でもファイの知的な解釈による全集がある中、アントニーニのこのシリーズがハイドンの交響曲全集に一石を投じることができるかは、今後のリリースにかかっているといっていいでしょう。

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tag : 交響曲全集 交響曲46番 交響曲47番 哲学者 古楽器

レイモン・レッパード/イギリス室内管の交響曲39番(ハイドン)

このところ間が空きがちになってましてスミマセン。あっという間に3月も終盤。湖国JHさんに貸していただいた3月の課題曲があと1枚のこってますので、それを取りあげましょう。

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レイモン・レッパード(Raimond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、交響曲39番、ハリー・ニューストン(Harry Newstone)指揮のハイドン管弦楽団(Haydn Orchestra)の演奏で交響曲46番、52番の3曲を収めたアルバム。米Haydn HouseのCD-Rなんですが、収録情報は記載されておりません。ネットでレイモン・レッパードの方を調べたところ、この39番とおそらく同時期の録音だと想像される交響曲22番と47番を一緒に収めたLPの収録がPマークが1969年、47番はPHILIPSのマリナーの名前付き交響曲集に、マリナーの録音がなかったので、穴埋めでレッパードの録音が収められており、こちらは1968年12月の録音との記載があることから、おそらく同じ1968年12月の録音であろうと想像されます。またハリー・ニューストンの録音はおそらく1950年代から60年代と想像されますが、詳細はわかりません。

レイモン・レッパードのハイドンはこれまで知らず知らずのうちに、結構な数取りあげています。

2013/06/01 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・ジャンドロンのチェロ協奏曲1番、2番
2012/08/27 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパード/イギリス室内管のラメンタチオーネ
2011/02/20 : ハイドン–協奏曲 : アルテュール・グリュミオーのヴァイオリン協奏曲
2010/11/03 : ハイドン–オペラ : ベルガンサのオペラアリア集
2010/06/05 : ハイドン–交響曲 : レイモン・レッパードのハイドン

レッパードの略歴はイギリス室内管とのラメンタチオーネの記事をご参照ください。このアルバムのオケでもあるイギリス室内管には1960年代、70年代に頻繁に客演していたそうですので、親密な関係にあったのでしょう。今一地味な存在ですが、職人気質の指揮者として、いろいろなアルバムで堅実な演奏をきかせている人ですね。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
そのレッパードの名曲39番。短調の疾走する曲調から入りますが、この演奏は、これまで聴いたレッパードの交響曲ではハイドンの良さを上手く表現しています。速めのテンポで畳み掛けるように入りますが、いい意味で落ち着き、バランス感覚があり余裕を感じます。リズムのキレもあり、余裕もあるという理想的な演奏。タイトながら入り込みすぎず、落ち着いたキビキビ感。曲を読みこなして、さらりと仕上げる、まさに職人の技。
つづくアンダンテに入ると、さっとテンポを切り替えて、こんどは淡々とハイドンの諧謔的なメロディーラインを奏でて行きます。淡々とはしているものの適度な彫りの深さもあり、独特の時の流れを感じさせます。この時期のハイドンの哀愁を帯びた独特の響きと間。
そして、絶妙なつなぎを経てメヌエット。メロディーが象徴的に浮かびあがり、そのメロディーの起伏だけで聴かせる圧巻のコントロール。やはり淡々としながら、音楽から立ちのぼる詩情。私の好きな素朴な演奏。ハイドンの交響曲の最も本質的な魅力が迫ってきます。主旋律の起伏だけでこれだけの聴き応えとは素晴しい。
フィナーレは予想通りバランスの良いもの。ジェントルに畳み掛けます。適度な起伏と古典の均衡の範疇での盛り上がり。迫力と均整のとれたフォルムのバランスが絶妙。これは快心の演奏!

つづくハリー・ニューストンの演奏は簡単に。ネットで調べたところ2006年の訃報の記事が見つかりました。1916年にロシア移民としてカナダのウィニペグに生まれ、建築の仕事から音楽に転身、1950年頃このアルバムのオケであるハイドン管弦楽団を設立したとの事。はじめて聴く人家と思いきや、手元には伝ハイドンのオーボエ協奏曲のアルバムがありました。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
レッパードの演奏は録音は非常にバランスの良いものでしたが、こちらはそれより若干の古さを感じさせ、直接音重視で少しデッド気味。ただし音の厚みと迫力はなかなかのもの。オケはざっくりとした風合いの音色。原盤はL'Oiseau LyreのLP。オケの精度は今ひとつなところもありますが、クナの指揮のように、時にザクザクと、時にゆったりと妙に味わいを感じさせる演奏です。これは好きな人がいそうな演奏ですね。

Hob.I:52 / Symphony No.52 [c] (before 1774)
前曲と同様のサウンド。前曲よりも躍動感があり、悪くありません。推進力の1楽章に続いて印象的な静寂からはじまるアンダンテ、後半2楽章は独特の陰影の深さがある味わい深い演奏でした。

メインに聴いたレイモン・レッパードの39番は名演奏ですね。レッパードの面目躍如ですね。やはり相当ハイドンを演奏している人らしく、ハイドンの本質をよく理解して、手堅く仕上げてくるあたり、流石の手腕でしょう。評価は[+++++]とします。また、ハリー・ニューストンの2曲も悪くありません。独特のざっくりとした表情は個性的であり、味わいもある佳演。こちらは2曲とも[++++]としておきましょう。

これで湖国JHさんの3月の課題曲、終了です(笑) いつものように次の指令をお待ちしています!

さてさて、手元の未聴盤の山が、高くなったままですので、少々片付けることにしましょう。

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tag : 交響曲39番 交響曲46番 交響曲52番

ダニエル・バレンボイム/ECOの交響曲46番、47番 - 燻し銀

まだまだLPいきます。先日ディスクユニオンで仕入れたアルバム。

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ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲46番、47番を収めたLP。収録の情報はLPには記載されていませんが、Pマークは1981年。レーベルは独Deutsche Grammophone。

ダニエル・バレンボイムは、ハイドンの没後200年の2009年のウィーンフィルのニューイヤーコンサートで、ウィンナワルツの間に敢えてハイドンの交響曲45番「告別」の一人一人楽団員が退場していく有名なシーンを取りあげ、華やかなムジークフェラインに、ほの暗いシュトルム・ウント・ドラング期の陰りを持ち込み、マニア好みのこの曲を一躍メジャーに取りあげた功労者。ただし、ハイドンの録音は多くなく、デュ・プレのチェロ協奏曲の伴奏や、パリセット、そしてこのアルバムの他に告別やマリア・テレジアなどを入れたものくらい。私が知る限り、ピアニストとしてピアノソナタを入れたアルバムなどあっていいはずですが、こちらも未だ見た事もありません。

ピアニストに指揮者にと大活躍のバレンボイムですが、私自身バレンボイムの演奏のツボを知るほど聴き込んではいないため、むしろ未知の指揮者というところです。欧米での活躍と比べると日本でももっと着目されていい人だと思いますが、日本での人気は今ひとつということなのでしょうか。

ダニエル・バレンボイムは1942年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれのピアニスト、指揮者。両親はロシア出身のユダヤ系移民とのこと。両親からピアノや音楽を学び、7歳でブエノスアイレスで公開演奏会を開き、ピアニストとしてデビューしました。1952年にイスラエルに移住し、1954年にはザルツブルクでイーゴリ・マルケヴィチの指揮のマスタークラスに参加し、またフルトヴェングラーに会っています。その他、アバドとともにフランコ・フェラーラの指揮クラスに参加したり、パリでナディア・ブーランジェの和声と作曲を習ったりと恵まれた教育を受けました。ヨーロッパでのピアニストデビューは1952年、ウィーンとローマで。つづいて1955年にパリで、1956年にロンドンで、1957年にはストコフスキーの指揮でニューヨークでデビュー。10代で世界中に知られる存在となったわけです。21歳のころにはベートーヴェンのピアノソナタの全曲公開演奏を行う等、才能に恵まれました。1966年からはこのアルバムのオケであるイギリス室内管弦楽団とモーツァルトの交響曲録音で指揮者デビューを果たし、以後ピアニストとしても指揮者としても膨大なレパートリーを誇ります。指揮者としては、パリ管弦楽団の首席指揮者、シカゴ交響楽団の音楽監督、ベルリン国立歌劇場の音楽総監督、ミラノ・スカラ座音楽監督など有名どころを歴任していますが、これぞバレンボイムという決定盤があるかといえば、なかなかそうゆうものがないのが正直なところでしょう。ハイドンではやはり、1967年、当時奥さんだったジャクリーヌ・デュ・プレとのチェロ協奏曲1番の指揮が印象に残るものでしょうか。

とらえどころのないバレンボイムの指揮するハイドンの交響曲の出来は如何なるものか、興味深く聴きます。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
もう少しキレのいい音を予想しましたが、LPとしては穏やかなサウンド。若干ハイ落ちなのがそのような印象につながっているのでしょう。LPのコンディションもすこし摺れている感じ故致し方ありません。バレンボイムのコントロールは至極オーソドックスなもの。曲のどこかにスポットライトを当てるというよりも、極力指揮者の個性を排除して楽譜通りに音楽を再現しようとしているような印象。ただ、徐々にオケの演奏に力が入り始め、高音弦のきれの良さが印象に残ります。
2楽章のポコ・アダージョは、逆にオーソドックスさが活きて、この時期のハイドン特有の陰りを、しっとりとさりげなく描き、曲自体の素朴な魅力を楽しめます。短いアダージョからメヌエットへの入りの転換は意外に効果的で、メヌエットの立体感がくっきりと浮かび上がります。演奏はオーソドックスですが、等身大のハイドンの魅力を上手く表現して、地味にいい楽章。
フィナーレも実にオーソドックスな入り。LPならではの音の厚みと実体感で音楽が弾み、実に味わい深いニュアンスが漂います。オーケストラの重なりあうそれぞれの楽器の醸し出す複雑なハーモニーがえも言われぬ雰囲気。最後の静けさのあとのフィニッシュは音楽を聴く悦びに溢れたものでした。地味ながら、地味なりに深い味わいがありますね。

Hob.I:47 / Symphony No.47 [g] (1772)
基本的に前曲と同様の響き。オケは前曲よりも心なしかリラックスして演奏しているように聴こえます。また曲想のせいか、弾む感じも良く出て、ハイドンの初期交響曲の魅力を上手く引き出しています。派手なところは一切なく、バレンボイムは実に誠実にオケをコントロールしています。
8分以上かかる長い2楽章ですが、主題の変奏が弱音器付きの弦楽器を中心に引き継がれていきながら、音楽が展開。低音弦が丁寧に描くメロディーラインの美しさは格別。静かな音楽が心に刺さります。作為のない大きな音楽の流れであることが徐々に明らかになり、少しずつメロディーがくっきりとしてきて素晴しい迫力に。終盤は逆に静寂の中に音楽が沈み込みます。この静寂の美しさはLPならではのデリカシー。
穏やかな短いメヌエットを経て、フィナーレはヴァイオリンの実に柔らかく力の抜けたメロディーと、オケの全奏のコントラストが見事。良く聴くとこの絶妙に力みのないフレージングには格別のこだわりがありそうです。ハイドンらしい柔らかい響きを得るためにかなりデリケートなコントロールが行き渡っているように感じます。気づいてみると、これまでも弱音の自然さを保ちながら絶妙の柔らかいコントロールがバレンボイムの特徴でしょうか。弱音よって強奏部分の活き活きとした表情も映えてくるというものです。実に玄人好みの音楽作りということでしょう。

ダニエル・バレンボイムの指揮によるハイドンの初期交響曲2曲でしたが、さほどコンディションのよくないLPにもかかわらず、ハーモニーの美しさ、静寂感、音の柔らかな表情はLPならではの美しさ。とらえどころのない人と思っていたバレンボイムのコントロールは、穏やかな表情の中に実に豊かな音楽が流れる、まさに燻し銀といった風情でした。評価は46番が[++++]、47番は[+++++]とします。

バレンボイムのハイドンは、手元にあるパリセットのCDもちょい聴きした程度であまり聴き込んでいませんし、また、今日取りあげた曲と同時期の録音と思われる、DG国内盤の「悲しみ」、「告別」、「マリア・テレジア」の高精度ルビジウム・クロック・カッティング盤も昨年リリースされ、こちらも未聴。これは手に入れなくてはなりませんね。

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tag : 交響曲46番 交響曲47番 LP

イェジー・マクシミウク/ポーランド室内管の「悲しみ」、46番

今日もラックの中からふと取り出した1枚。ラックの肥になってました(笑)

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イェジー・マクシミウク(Jerzy Maksymiuk)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は、「悲しみ」と「告別」が1979年9月、「受難」が1977年3月、その他が1978年7月、何れもロンドンのアビー・ロード・スタジオのスタジオ1でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。

このアルバム、ハイドンの名演が多いポーランドものということで取りあげました。ポーランドの悲しみと言えば、知る人ぞ知るこれです。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

読んでいただければわかるとおり、衝撃の1枚でした。特にヴァイオリンの凄まじいキレ具合は麻薬的なもの。たまに取り出しては聴いていますが、この「悲しみ」は素晴らしいものでした。以来、ポーランドものは気になる存在となりました。

このアルバム自体は結構前に手にいれていましたが、あまり積極的に評価できる印象はありませんでした。今日、久しぶりに取り出して1曲目の「悲しみ」をかけたところ、来てます。ゲルテンバッハばりのヴァイオリンのキレです。1楽章で早くも素晴らしい陶酔感。これはちゃんとレビューしなくては。

イェジー・マクシミウクは1936年、ポーランドの東端から少し入ったベラルーシのフロドナ生まれ。ポーランドのワルシャワ音楽院でヴァイオリンとピアノ・指揮・作曲を学び、1964年にパデレフスキ・ピアノコンクールで優勝しました。その後指揮活動が中心となって、ワルシャワ大劇場で指揮者として働くようになりました。自身で創設したこのアルバムのオケであるポーランド室内管弦楽団とともに1977年イギリスでデビューし、その後世界的に活動するようになりました。1975年から77年まではポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者、1993年からはポーランド南部の街、クラクフのクラクフ・フィルハーモニーの首席指揮者として活躍しています。1983年以降はイギリスでBBCスコティッシュ交響楽団をはじめとして数多くのオケと共演、ヨーロッパの主要オケや日本、アメリカのオケとも仕事をするという国際的な活躍をしている人です。ベラルーシ生まれとはいえ活動のオリジンはポーランドにあるようですね。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
来ました。冒頭のタイトな小編成オケの響きに続いてヴァイオリンの素晴らしいキレ具合の音階。ゲルテンバッハばりの素晴らしい音階。悲しみの1楽章の聴き所といえば、この素晴らしい音階です。恍惚感すら感じるキレ具合。時折レガートを効かせて変化をつけます。どことなくストイックな雰囲気が集中力を高めます。これは確信犯的アプローチですね。ポーランドのオケの伝統でしょうか。速いパッセージを素晴らしい弓さばきで松ヤニをまき散らしながら演奏。アクロバチックな印象すら与える弦楽器のキレ。
2楽章は音を切り気味にした特徴的な演奏。じっくりとリズムを刻みながら叙情に傾かないコントロール。若干デッド気味の録音がかえって響きの純度を高めて、音楽の浸透力を増しているようです。素朴さが際立ちます。
3楽章のアダージョは弱音器つきのヴァイオリンの聴き慣れたメロディ。デュナーミクのコントロールは緻密というより素っ気なさも感じる直截なもの。溢れる情感が沸き上がる演奏というよりは素朴な肌合いと素直さが心情というような演奏。これもハイドンの魅力でしょう。ここまで聴き進んでマクシミウクの狙いがようやく見えてきました。ちょっと無骨さをも感じる荒っぽさで、仕上げを気にするというより骨格の表現にすぐれた木炭デッサンのような音楽。それでも沸き上がるシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い情感。
フィナーレは再びヴァイオリンのキレた音階が蘇ります。ヴァイオリンセクションは速くてキレのいいメロディを弾く事に絶対の自信をもっているよう。このキレは只者ではありません。非常に鮮明な主張をもった音楽。両端楽章のキレとエネルギー感は素晴らしいものがあります。

もう1曲行きます。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
CD1枚めの3曲目に置かれた交響曲46番。この前の45番「告別」なかなかまとまった演奏ですが、46番の方にマクシミウクの特徴が出ていると思い取りあげました。冒頭からヴァイオリンをキレをどこで表現しようか迷いがあるのか、ちょっとつんのめった腰高な演奏。弦楽器のキレは相変わらずいいのですが、曲が落ち着かず、速弾きのような慌てた感じ。これがこの曲のコミカルな側面を表していて意外と面白い表情。
2楽章のポコ・アダージョはじわりと沁みる演奏を期待してしまいますが、この楽章も箱庭的なコミカルさが基調にある演奏。ハイドンの交響曲に潜むユーモラスなところを見事に表していると取る事もできますね。かなりユニークな演奏ですが、指揮者の視点が明確にわかるという点ではなかなか含蓄ある演奏と言えるかもしれません。
メヌエットもざっくりして、溜めなく気負いなく、すすっと入り、すすっと進めます。意外と表情の変化やアクセントを付けて楽しませてくれます。この気負いのない音楽こそハイドンの本質を表しているかもしれませんね。
フィナーレはまた来ました! リズムの鮮度と曲の面白さを手作りの音楽で楽しませてくれます。ヴァイオリンのメロディのキレはやはり流石。短調への転調と表情の変化、盛り上がる感興。迸る機知。ヴァイオリン奏者が自慢げに髪を振り乱してメロディーをザクザク刻む姿が目に浮かびます。純粋無垢の子供のような心で解釈して演奏したらこうなるだろうというような演奏。なかなか面白いです。

イェジー・マクシミウク指揮のポーランド室内管弦楽団の演奏でハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。出だしの「悲しみ」のヴァイオリンのキレは素晴らしいもの。ただし、テクニックを誇る演奏ではなく、音楽を演奏する楽しみに溢れた、素朴で、純粋無垢な心を感じる演奏。並みいる名演盤と並べると、表情の豊かさ、深さ、完成度ではかなり差がつくのも正直なところですが、この演奏には音楽を演奏する素朴な楽しみのエッセンスがあるような気がします。指揮者もオケも純粋にハイドンの交響曲の演奏を楽しんでいるよう。これもハイドンの真髄に迫った演奏と言えるかもしれません。評価は「悲しみ」が[++++]、46番は[+++]とします。このアルバム、ハイドンの交響曲をいろいろ聴きこんだ耳の肥えた方にお薦めしたいですね。これもいいアルバムです。

追伸)
有田さん、拍手コメントありがとうございます! 返信ができないのでこちらで失礼。心に触れるレビューを目指して精進します。とても大切なお仕事につかれていることを知り応援したい気持ちになりました。今後ともよろしくお願い致します。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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