デヴィッド・ブラムの交響曲39番、70番、73番、75番(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。年度末で仕事も飲みもあって今週はヘロヘロ。遅く帰るとなかなか思うように記事が書けませんでした。

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デヴィッド・ブラム(David Blum)指揮のエステルハージ管弦楽団(Esterhazy Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、70番、73番「狩」、75番の4曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の記載はありませんが、Pマークは1966年とありますので、録音は1960年代中頃までだと想像できます。レーベルは優秀録音の多いVANGUARD CLASSICS。

デヴィッド・ブラムの交響曲集は以前に別のアルバムを取りあげています。

2010/10/24 : ハイドン–交響曲 : デヴィッド・ブラムの交響曲集

この記事を読まれた湖国JHさんにアルバムを貸したところ、それが良かったのか、今日取り上げるアルバムを湖国JHさんが手に入れ、逆に貸していただいたというもの。ニッチなハイドンの演奏の激ニッチなアルバムをいろいろ聴こうと思うと、こうした地道なやり取りが非常に重要になってくる訳です(笑)

さて、ブラムの情報は前記事にゆずるとして、今日取り上げるアルバムの収録曲は4曲で、そのうち交響曲70番は前に取りあげたアルバムにも収録されていますので、新たに聴くのは3曲と言うことになります。念のため両方のアルバムの交響曲70番を聴き比べてみましたが、アルバムのリリースも1990年と92年ということで近い時期であることもあって、録音の鮮度は変わりませんでした。

ジャケットは黒地にボタニカルアートが配されたシックなもの。以前のアルバムの出来から察するに、素晴しい音楽が流れてきそうな予感です。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
直接音重視のほどよく鮮明な録音。シュトルム・ウント・ドラング期独特のほの暗い陰りがある曲調ですが、全体にキビキビとしたブラムのコントロールで程よい緊張感を帯びています。録音のせいか、力感よりも軽さで聴かせ、短調の曲なのに爽やかさを感じる入り。アンダンテに入ってもこのキビキビ感は変わらず、ハイドンのこの時期の交響曲のキリリと引き締まった等身大の良さが滲み出てきます。弱音器つきの弦楽器が奏でる軽やかなメロディーが心地よく漂い、時折ハープシコードの雅な音色が華やぎを加えます。メヌエットはどちらかというとリズムよりも流麗さを意識したもの。滑るように滑らかな弦楽器のボウイングによる入りと、小気味好い中間部と、表現を明確にわけて表現の幅をつけていきます。フィナーレはほどほどの力感ながら、勢いは畳み掛ける印象を与える、こちらも適度な緊張感。曲に没入せず、どこかに冷静に俯瞰する視点を保ちながら、程よく主観的に音楽に乗っていく感じ。ブラム自身が曲に程よく浸る快感を味わっているよう。この時期の小交響曲の演奏としては完璧でしょう。

Hob.I:73 / Symphony No.73 "La Chasse" 「狩」 [D] (before 1782)
以前取りあげたアルバムにも含まれている70番を飛ばして、次の「狩」。響きの軽さはこのアルバムの特徴でしょう。定位感を含めて鮮明さはあるのですが、迫力と言うより響きの厚みがもう少しあればと思わせます。前曲ではそれが曲の規模と演奏スタイルに合っていたんですが、どうゆう訳かこの曲では少し迫力不足に聴こえてしまいます。入りは実にゆったりとした序奏から。主題に入ると前曲のキビキビ感は影をひそめ、落ち着いた表情を出そうとしているのか、リズムもすこし鈍く聴こえます。曲をじっくりと描いていこうということでしょう。終楽章の噴き上がりへの対比を意図しているのでしょうか。演奏によっては躍動感溢れる感じになる曲ですが、かなり抑えた演奏。つづくアンダンテも同じ調子を保ちます。起伏はほどほど。アンダンテは1楽章ほどの違和感はありません。さざめく弦の魅力がよく出ています。なぜかメヌエットとフィナーレが一緒のトラック。メヌエットはささっと済ませるように片付け、いざフィナーレ! と思いきや、噴き上がりません。1楽章と同様、落ち着いて曲を丹念に描いて行くアプローチ。1楽章のスタンスからこのフィナーレの展開は読めませんでした。ある意味知的刺激を含む演奏ということでしょう。

Hob.I:75 / Symphony No.75 [D] (before 1781)
最後の曲。一転今度は荘重な序奏に続きキビキビとした展開。39番同様のスタイルの予感です。鮮やかに吹き上がるヴァイオリンの音階。1楽章は一貫してタイトな期待通りの名演でした。つづくポコ・アダージョはゆったりゆったりと実に慈しみ深い音楽。このアルバム一番の聴きどころでもあります。深い呼吸と大きな起伏、そして各奏者の息がピタリとあってうねるように音楽が流れます。癒しのシャワーを浴びているよう。75番のアダージョがこれほど素晴らしかったとは。メヌエットはこのアルバムで最もバランスの良いもの。小気味良いとはこのことでしょう。ヴァイオリンソロの軽やかさが印象的。フィナーレは軽やかさを引き継ぎながら次々にメロディーが展開して、落ち着いて終わります。

デヴィッド・ブラムとエステルハージ管弦楽団による2枚目の交響曲集ですが、前回取り上げたアルバム同様、ハイドンの交響曲に対する深い理解を感じる演奏でした。オケも流石にエステルハージ管弦楽団を名乗ることだけあり素晴しい腕前。このアルバムの中では「狩」だけがちょっと異色な演奏。終楽章が有名な曲ですが、盛り上げるばかりがこの曲の解釈ではないとでも言いたげな演奏。もともとこの曲のみ録音日が別なのかもしれませんね。評価は「狩」が[++++]、他2曲が[+++++]とします。

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tag : 交響曲39番 交響曲70番 交響曲75番

ジークハルトの中期交響曲、神降臨

今日はORFEOレーベルの良心の結晶。

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マルティン・ジークハルト指揮のシュトゥットガルト室内管弦楽団によるハイドン中期の交響曲集。収録曲目は交響曲47番、62番、75番と何れも名前のついていない中期の3曲。ハイドンの交響曲で全集を目指すということではないときにこの3曲を選んでくるとは、ただならないコンセプトです。一体狙いはどこにあるのでしょう。

まずは、レーベルの意向でしょうか。ハイドンの録音多い独墺圏のなかでも、 ORFEOレーベルはハイドンのマイナー曲の録音に熱心です。日本のレコード会社ではあり得ない企画だと思います。
もう一つは想像ですが、指揮者ジークハルトの純音楽的な好みを反映してのことじゃないかと思ってます。このアルバムを聴いてみて、ネタばらしですが、その演奏は極上のもの。どう極上かと問われれば、ハイドンの交響曲の有名曲ではない手あかのついていない曲のなかで、純音楽的に楽しめるものを選んで、その面白さに焦点をあわせたような演奏だからです。これは確信犯的選曲でしょう。

ジークハルトは本人のウェブサイトがありました。

マルティン・ジークハルト(独語)

最初の47番。1楽章からいきなり生き生きとしたオーケストラの魅力で聴かせる展開。ホルンと弦の溶け合いが見事。ハイドンの曲に潜むいたずらっぽいところ見事に表現していますね。ジークハルトのCDははじめてですが、「おぬし、できるな」とつぶやきそうないい出来。
2楽章は弱音器つきの弦の優しいフレーズが心をうちます。主題のメロディーの変奏がすすむにつれ呼吸が深くなり、曲の神髄に到達。
3楽章のメヌエット、楽器の重なりとメロディーの楽器感の引き継ぎが見事。ただ聴いているだけで幸せな気分になるメヌエット。これは素晴らしい。
4楽章の入りは気づかぬような滑らかな入り。弦の優しさと生気の高度な融合。力が入り過ぎがちな終楽章ですが、完璧な力の抜け具合。このフィナーレはただ者ではありません。弦の弓さばきに細心の気が配られた演奏。最後は勢いを緩やかに抜いて1曲目からノックアウトです。

つづく62番。決して名手ぞろいではないオケをたくみにコントロールして、1楽章冒頭の美しいフレーズの素晴らしいメリハリを表現。弦中心なのに素晴らしいメリハリでただならない迫力。展開部の入りの押さえた表現とアクセントの対比も見事。前曲につづき、奇跡的な美しさ。スタジオ録音なのに神様が降りてきています。素晴らしい生気とキレ。
続く2楽章のすばらしさは筆舌に尽くし難し。こちらも弱音器付きの弦楽器と木管,金管との絡みの妙。
3楽章のメヌエットはさっぱりとした展開。
そして終楽章。非常に滑らかな弱音の弦から快活なリズムに入るまでの素晴らしい展開。快速のテンポに乗ってオケの各楽器が乗り切ったキレまくりのメロディーライン。ヴァイオリンのアクセントの付け方がキリッとしていながらしつこくないのがジークハルトのセンスでしょうか。

そして最後の75番。荘重な序奏。短調の劇的な展開。主題が頭角を現したとたんにギアチェンジして快速テンポに。弦を中心としたキレも最高潮に。なんという生気、素晴らしい力感、緻密な静と動の対比、ハイドンの交響曲の素晴らしさを極限まで引き出した演奏とはこの演奏のことでしょう。
2楽章は素晴らしい抑制。ピキピキです(笑) なんたる間。細切れのメロディーをつぶやくように並べ、詩情豊かな楽章に。展開部までふくめて素晴らしい仕上がり。
3楽章のメヌエット。大きな構えで落ち着きはらった展開。音楽が満ちあふれたメヌエット。類いまれな出来。
フィナーレは荘重さをベースに、これまでの楽章の総決算。最後も決まりましたね。

もちろん、3曲とも[+++++]としました。このアルバムはハイドンの交響曲の特に中期の魅力を伝える名盤として文句なしのおすすめ盤。もしかすると中期に限定せず、ハイドンの交響曲の魅力を最もうまく表現した最高のアルバムという位置づけが相応しいかもしれません。ハイドンが好きなすべての人に聴いていただきたい名盤です。

ORFEOレーベルには首を傾げるような演奏が一つもありません。アルバムを出すにあたってプロデューサーの眼力が確かで、アルバムとしてリリースする甲斐のあるものをきちんと仕上げてくるということでしょう。
音楽ファンの味方として、これからも支えていかなくてはならないレーベルですね。今後もいいアルバムをリリースし続けていただきたいものです。

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tag : 交響曲47番 交響曲62番 交響曲75番 おすすめ盤

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2016年9月のデータ(2016年9月30日)
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