絶品! ギュンター・ヴィッヒ/南ドイツ室内フィルのパリセット後半(ハイドン)

以前取り上げてとても良かったギュンター・ヴィッヒのパリセット前半3曲。探していた後半3曲が手に入りました。

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ギュンター・ヴィッヒ(Günther Wich)指揮の南ドイツ室内フィルハーモニー(Süddeutsche Kammerphilharmonie)によるハイドンの交響曲85番「王妃」、86番、87番のパリセット後半3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1974年。レーベルは前半3曲のINTERCORDではなく、VIENNA Classicsという怪しい廉価盤レーベル。

このアルバム、先日のオフ会の後、小鳥遊さんからの情報で注文したもの。もともと前半3曲と同じ体裁のINTERCORDレーベルの後半3曲のアルバムを探していたのですが、手に入れることができず、同じくINTERCORDレーベルの2枚組のLPを手に入れたところ、これは82番から85番の4曲のみ。肝心の86番、87番が含まれていませんでした。諦めかけていたところ、小鳥遊さんからの情報でこのアルバムに辿りつきました。そもそもこのアルバム、ジャケット表面には奏者の表記はなく、amazonの商品情報にも演奏者の表記はないので、検索にも引っかかりません。小鳥遊さんの情報で、ほぼ情報ゼロの状態で注文して海外からの到着を待ち、手元に来て初めて演奏者が確認できた次第。いやいや、世の中口コミほど頼りになる情報はありません。

また、このアルバムの指揮者ですが、以前のレビューの際は、「ギュンター・ウィッチ」と表記していましたが、ドイツ語読みだと、やはり「ギュンター・ヴィッヒ」なのでしょう。以前の表記はNAXOS Music Libraryの呼称を参考にしたんですが、以前N響に何度か客演しており、その時の呼称は「ギュンター・ヴィッヒ」。準国営放送の信頼性を参考にして、以前のレビューにもギュンター・ヴィッヒとの呼称を付記しました。ということで、以前のレビューはこちら。

2015/07/07 : ハイドン–交響曲 : ギュンター・ヴィッヒ(ウィッチ)/南ドイツ室内フィルのパリセット(ハイドン)

到着してCDプレイヤーにかけてみると、あの素晴らしい響きが眼前に広がるではありませんか! これはレビューに取り上げないわけにはいきませんね。

Hob.I:85 Symphony No.85 "La Reine" 「王妃」 [B flat] (1785?)
以前のアルバムと同じ、堂々とした序奏の響きに冒頭から圧倒されます。もちろんオーソドックスな演奏なんですが、オケが非常によく響いて、凡庸な演奏とは全く異なる充実した響きに包まれます。Apple Musicなどにも登録されていて、ネットでも聴けるのですが、響きの充実度はCDの方に軍配が上がります。このわずかな違いが演奏の印象を大きく左右します。以前はApple Musicの85番はかなり歪んだ音のソースでしたが今は改善されており、それでもCDとの差は小さくありません。聴き進むうちに適度な推進力とヴィッヒの落ち着いたコントロールでこの交響曲の構成感とハーモニーの美しさ、自然な造形の魅力が沁みてきます。
自然な流れそのままにふわっと2楽章に移ります。これ以上自然な演奏はあり得ないほどしなやかな流れにうっとり。特にフルートがなぞるメロディーの美しさにさらにうっとり。耳を澄ますと弦楽器のメロディーはかなり前のめりで勢いのあるボウイング。ハイドンの書いたメロディーの内面をえぐるような演奏。こうしたさりげない部分の表現の深さが演奏の味わいを深くしていることがわかります。前記事のテミルカーノフの「昼」の2楽章もそうでしたが、ハイドンのメロディーの真髄に触れるさりげない解釈に唸ります。終盤もフルートの美技に唸るばかり。華麗な音色でメロディーに華やかさを加えていきます。完璧。素晴らしい音楽性。
メヌエットもオーソドックスそのもの。素朴な演奏からにじみ出る味わい。こうした地味ながら素晴らしい演奏こそ、ハイドンの音楽を最も引き立てます。中間部に入るところのちょっとした溜めも絶妙なセンス。ふと歩みをゆるめて音楽の転換を鮮烈に印象づける匠の技。そして再び冒頭のメロディーに戻る時の安心感。至福。木管陣の名演奏にも唸ります。
88番の転がり堕ちるようなフィナーレを予感させるフィナーレもしっとりと美しく輝き、ただただ美しい響きに酔いしれます。ハイドンのフィナーレでこれほどまでに磨き抜かれた美しさを表現する演奏ななかなかありません。もちろんフィナーレなりの展開の面白さはあるのですが、それに増してメロディーラインの軽やかな展開の美しさが印象に残ります。ヴィッヒの確信犯的アプローチにやられた感満点。ブラヴォー。

Hob.I:86 Symphony No.86 [D] (1786)
偏愛する86番。前曲の素晴らしい余韻が残るなか、軽やかで華やかささえ感じる序奏にまずはうっとり。絶妙なバランス、透明感すら漂う大理石の建物のような優美なフォルム。主題に入るとこの曲独特のリズムに乗ったメロディーラインが心地よく響きます。肩の力は完全に抜けて、この曲のツボを押さえて穏やかに展開します。ヴァイオリンによるメロディーはキレ良く、リズムも心地良いキレ。音楽が進むにつれて明るさと陰りの織りなす綾に包まれます。ここでもフルートが絶品の響きで華やかさを加えます。この曲独特の感興を落ち着いて構築します。
やはりすっと自然にラルゴに入ります。完全にギュンター・ヴィッヒの音楽に浸ります。こちらの想像というか期待に完全に一致した音楽が流れてくる快感。脳内にアドレナリンの大河がゴーッと流れているよう。ところどころでテンポをぐっと落としたりする聴かせどころ配置して変化をつけるセンスも抜群。これほど豊かな音楽が流れる演奏があったでしょうか。全盛期のスイトナーのモーツァルトも絶品でしたが、それを遥かに上回る神がかったような美しさ。
メヌエットに入ってもアドレナリンの大河が流れ続けています。ハイドンの音楽の自然な美しさを完璧にこなしてくるので、すっと耳になじみます。ここにメヌエットが配置され、優雅な音楽が流れるとわかっていて、その通り音楽が流れる快感。そして中間部への展開の巧みさに耳を澄ましているところに、期待通りの展開。演奏とこちらのイメージがシンクロして脳の音楽中枢が非常に鋭敏な状態に維持されます。
そしてフィナーレも前曲同様完璧な美しさ。これほど美しく、余裕たっぷりのフィナーレはなかなかありません。しっかり盛り上がり感も演出しますが、力みは皆無。不思議と軽やかな雰囲気を保ったクライマックスにこれまた酔いしれます。溺愛する86番のベストです。

Hob.I:87 Symphony No.87 [A] (1785)
最後の87番は、ぐっと力が入る導入に軽い驚き。もちろん力んだ感じはありませんが、この交響曲のユニークな入りの真意を見切ったのか、冒頭からフルスロットルでオケが気持ち良く鳴り響きます。グイグイ推進する感じこそこの曲の真骨頂とばかりにオケを煽ります。ギュンター・ヴィッヒにはハイドンの意図が見えているのですね。ただ力が入っているだけでなく、抑えた部分をしっかり抑えきっているので抜群の立体感。ヴァイオリンのキレも尋常ではありません。あまりの表現の切れ味に鳥肌が立つほど。なんでしょう、この冴えに冴えた音楽は。力でも踏み込んだ解釈でもなくオーソドックスな解釈の冴えでこれほどまでにインパクトがあるとは、、、尋常ではありません。
アダージョはもはや至高の音楽。フルートを始めとした木管楽器の響きの美しさは例えようがないほど。オケの出来はあまりに素晴らしく、ウィーンフィルやベルリンフィルもここまで音楽に没入した演奏はできないでしょう。完全にギュンター・ヴィッヒのコントロールが行き渡っています。ハイドンの音楽の暖かさに包まれる至福。
メヌエットももちろんこれまで通り素晴らしい演奏。この曲では時折ハッとするような図太さ、羽毛のような軽さ、癒しに満ちた優しさが顔を出し、音楽の表現できる幅も広がっています。メヌエットからここまでの音楽を引き出せるとは。
最後のフィナーレはもともと流麗な曲想を噛み砕いてフレーズごとに微妙に表情を変化させながら音楽をまとめます。ハイドンのフィナーレの魅力がすべて詰まった素晴らしい演奏。躍動感、輝き、陰り、機知、ハーモニー。すべての最高の演奏としてまとまった素晴らしいフィナーレ。

聴き方によってはオーソドックスな演奏ですが、単なる凡庸な演奏ではなく、ハイドンの交響曲の最高のエッセンスが詰まった見事な、見事すぎる演奏でした。前半3曲も素晴らしかったんですが、こちらはさらに素晴らしい。パリセットの1推し盤と言っていいでしょう。1970年代の録音ながら、古さを感じさせず、またLPと聴き比べてもむしろCDの方がいいくらい。そして演奏も古びた印象は皆無。むしろ時代を超えて聴き続けられるべき普遍性を持った演奏と言えるでしょう。これほどの名演奏ですが、現在はCDとしては入手しやすい状態ではなく、Apple Musicなどネット配信がメインとなります。こうした名盤がいつまでも手に入るよう切に願うばかりです。評価はもちろん[+++++]とします。

小鳥遊さん、貴重な情報ありがとうございました!

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tag : 王妃 交響曲86番 交響曲87番

ウルフ・ビョルリン/カペラ・コロニエンシスの交響曲集(ハイドン)

今日は交響曲のマイナー盤。

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ウルフ・ビョルリン(Ulf Björlin)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの交響曲50番、87番、89番の3曲を収めたアルバム。収録は1983年、85年、ドイツのケルン東方の街、リンドラー(Lindlar)の教育センター(Schulzentrum)でのセッション録音。レーベルは廉価盤のLASERLIGHT。

このアルバム、桜のたよりと共に湖国JHさんから届いたもの。いつもながら誰も知らないようなマイナー盤が届き、聴く前から過呼吸になりそうです(笑)。カペラ・コロニエンシスといえば、最近ではブルーノ・ヴァイルとの録音でハイドンファンにも知られて存在でしょうが、当ブログの読者のようなコアなハイドンファンの方にはハンス=マルティン・リンデによる名演が記憶に残っていることでしょう。

2014/04/27 : ハイドン–交響曲 : ハンス=マルティン・リンデ/カペラ・コロニエンシスの交響曲36番(ハイドン)
2014/03/10 : ハイドン–交響曲 : リンデ/カペラ・コロニエンシスの交響曲66番、90番、91番(ハイドン)
2013/12/17 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの交響曲99番、時計、軍隊(ハイドン)
2012/08/11 : ハイドン–管弦楽曲 : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/01/29 : ハイドン–協奏曲 : ハンス=マルティン・リンデ/カペラ・コロニエンシスのカンタータ、ヴァイオリン協奏曲
2012/01/24 : ハイドン–オラトリオ : ブルーノ・ヴァイル/カペラ・コロニエンシスの四季
2011/05/24 : ハイドン–交響曲 : ジョシュア・リフキン指揮カペラ・コロニエンシスのホルン信号、72番

その、カペラ・コロニエンシスの演奏ながら、リンデではなく、ウルフ・ビョルリンという未知の人が指揮する交響曲集。しかも50番、87番、89番と陽のあたらない曲ばかり集めたような、普通はあり得ない組み合わせ。普通は1曲ぐらい有名曲を入れ込んでくるはずですが、まったくそうゆう志向がなかったのでしょうか。

調べてみると指揮者のウルフ・ビョルリンは、スウェーデンの作曲家、指揮者として知られた人ということ。1933年に生まれ、1993年に亡くなっています。19歳でザルツブルクにおいてイーゴリ・マルケヴィチに指揮を師事し、またパリ音楽院ではナディア・ブーランジェに師事します。兵役を終えると、ストックホルムのスウェーデン王立歌劇場、スウェーデンのマルメ音楽大学で働き始め、1962年からはスウェーデン放送で映画やテレビ番組のための音楽を作曲する仕事を始めます。彼はまた映画監督のイングマール・ベルイマンのもとで映画の音楽監督の仕事も受け持ちました。晩年はフロリダでフロリダフィル、フロリダ祝祭管、パーム・ピーチ交響楽団などを振って過ごしました。また最後は20世紀で最も活躍したオペラ作曲家とみなされていたということです。

今回調べて始めて知った人ですが、いろいろ他にアルバムも残る中、この録音がどうして企画されたのかを示す情報には出会えませんでした。それだけ不思議なアルバムですが、演奏は心を打つものでした。

Hob.I:50 / Symphony No.50 [C] (1773)
実にしなやかで柔らかな音色のオケが渾身の力で入ります。自身が作曲家でもあるウルフ・ビョルリンは、ハイドンの真価を知っているからなのか、ハイドンの意のままに振ろうというのか、じつに自然なコントロール。オケが一体となってまとまり、音楽が躍動します。パートごとのバランスなどは精緻にコントロールしているのでしょう、それだからこその自然さ。しかも躍動感は並のものではありません。私の好みのど真ん中を突く素晴らしい演奏。この曲独特の力強さがみなぎります。ドラティをもう少ししなやかにしたような音楽。迫力は十分。テンポが速めなのであっという間に終結します。
続くアンダーテ・モデラートはゆったりとした音楽ですが、ビョルリン独特のタイトさを帯びて、緩徐楽章ながら活き活きと弾みます。そしてメヌエットも弾みます。演奏者自身が演奏を目一杯楽しんでいるような音楽。それにしてもオケの一体感は見事。フィナーレもピタリと揃った秀演。低音弦の図太い響きが躍動感の秘訣でしょうか、いずれにせよカペラ・コロニエンシスのゆったりとしながら迫力もある演奏が見事と言うほかありません。

Hob.I:87 / Symphony No.87 [A] (1785)
パリセットの中でも最も地味な存在の87番ですが、ビョルリンの手にかかると、活き活きとした本来の音楽が際立ちます。意外に低音弦の図太さがこの曲のポイントであると気づきます。冒頭から躍動感の塊のような演奏が続きます。1楽章の終盤にかけて繰り返される主題をくっきりと浮かび上がらせたり、テンポの手綱は緩めず、この曲の面白さのツボを押さえたコントロール。よほどにハイドンの楽譜の真髄を読みきっているものと推察されます。この曲も表現過多となるとまとまらない演奏もありますので、この演奏の類稀れなところがわかります。
素晴らしいのが続くアダージョ。ホルンと弦楽器陣がとろけそうな響きを作り、そこにフルートが野に遊ぶ蝶のように舞いながら入ります。そしてオーボエ、ヴァイオリンがメロディーを引き継いでいきます。まさに孤高のひと時。この癒しの音楽をゆるぎない表現にまとめ上げる手腕、並みのものではありません。これは見事。
そして躍動するメヌエットに、軽々と吹き上がるフィナーレ。ハイドンの交響曲のフィナーレの中でも流麗さでは1、2を争う名曲ですが、それを知ってかじっくりと腰を据えて、流麗さを磨く感じ。フルートの装飾がかなり踏み込んで新鮮な響きを作っています。

Hob.I:89 / Symphony No.89 [F] (1787)
最後は「しょ、しょ、しょじょじ」で有名な曲。なぜかメロディーが非常にしっとりとしみてきます。ビョルリンの指揮は、音楽のまとまりと推進力を非常にうまくまとめてきます。聴いている私たちの方が小躍りしてしまいそうなほど。この曲でもメロディーの面白さを際立たせます。躍動感のスロットルを自在にコントロールしておけをわかりやすく操ります。途中の短調への転調と復帰のあたりの演出も実にセンスの良いもの。次々と繰り出されるメロディー面白さに釘付け。
2楽章のアンダンテ・コン・モートは今まででは一番抑え気味にして音楽の宿る静けさに応じます。逆に続くメヌエットはキレのよい鉈を振るうように鋭さを目立たせます。木管陣が時折り鳥の鳴き声のような音色を加えるあたり、なかなか面白い演出です。そしてフィナーレでもビョルリンのハイドンの機知のここぞとばかりに応じた巧みなコントロールは変わらず、最後までハイドンの音楽を楽しめました。

これだからマイナー盤はあなどれません。数多あるレギュラー盤よりよほどハイドンの音楽の真髄を楽しめる名演奏でした。指揮者のウルフ・ビョルリン、かなりの実力者と見ましたが、おそらくハイドンの録音はこれ以外には知られていないのではないのでしょうか。これは名盤です。カペラ・コロニエンシスも抜群の演奏で応えています。ハイドンの交響曲好きの方、必聴です。このマイナーな曲のなかにハイドンの機知と微笑みが詰まっています。評価は3曲とも[+++++]です。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 交響曲50番 交響曲87番 交響曲89番

デュトワ/モントリオール・シンフォニエッタの87番

メジャー盤ながら、デュトワのパリ交響曲集のアルバムはまだ取りあげていませんでした。

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おなじみ、シャルル・デュトワ(Charles Dutoit)指揮のモントリオール・シンフォニエッタ(Sinfonietta de Montréal)の演奏による、ハイドンのパリ交響曲6曲を収めた2枚組のアルバム。今日はこのなかから交響曲87番を取りあげます。87番の収録は1991年5月、カナダ、モントリオールのサン=テュスタシュ(St Eustache)でのセッション録音。レーベルは英DECCAのLONDONレーベル。

シャルル・デュトワは日本ではおなじみの人でしょう。N響の音楽監督を務めていたので実演に触れた事もある方が多いのではないでしょうか。かく言う私もその一人で、ちょうど1年前、昨年の12月にNHKホールで、なんとマーラーの8番「一千人の交響曲」の実演を聴いています。

2011/12/04 : コンサートレポート : デュトワ/NHK交響楽団のマーラー「一千人の交響曲」

この時の素晴らしい演奏の事は前の記事に譲るとして、デュトワはハイドンを振る人との印象はあまりありません。フランスものや現代もののスペシャリストというのが大方の人の印象。ハイドンを振ったアルバムはおそらくこれ1組のみ。ただ、このアルバムもハイドンの「パリ」交響曲集であり、これも広義のフランスものというのでしょうか(笑)

デュトワの事をきちんと調べた事がなかったので、この機会に調べておきましょう。1936年、スイス、ローザンヌ生まれの指揮者。若い頃はアンセルメと交流があったそう。ジュネーブの音楽院でヴァイオリンやヴィオラ、打楽器、指揮等を学び、その後タングルウッド音楽祭で、シャルル・ミュンシュ、ルツェルン音楽祭ではカラヤンに奏者として教えを受けていました。学生の頃からヴィオラ奏者として各地のオーケストラに在籍して経験を重ね、1959年にローザンヌ放送所属のオーケストラで指揮者デビュー。スイス・ロマンド管弦楽団やローザンヌ室内管弦楽団の客演指揮者を務めて腕を磨き、1964年にカラヤンの招きでウィーン国立歌劇場でバレエの指揮を担当。その後様々なオケを経て、1977年にモントリオール交響楽団の音楽監督に就任、同楽団を世界有数のオーケストラに育て上げました。モントリオール交響楽団は「フランスのオーケストラよりもフランス的」と言われるほど色彩感豊かな演奏が印象に残っています。日本でも同楽団とのアルバムがDECCAレーベルから数多くリリースされたため、以降はおなじみという方が多いと思います。

このアルバムの演奏を担当するモントリオール・シンフォニエッタはデュトワの手兵モントリオール交響楽団とどのような関係にあるのか、情報があまりないのでわかりません。モントリオール・シンフォニエッタの名で録音されているアルバムはこのアルバムを含めてごくわずかなので、モントリオール交響楽団の縮小編成のオケかもしれませんね。

さて、このアルバム、デュトワらしい華やかな響きのオーケストラがインテンポでグイグイ推していく演奏なのですが、このアルバムでことさら素晴らしいのがアルバムの最後に置かれた87番。作曲順では6曲中最初に書かれている曲ですが、パリセットの中では地味な曲。ただ、このアルバムではこの87番がダントツに素晴らしいので取りあげた次第です。

Hob.I:87 / Symphony No.87 [A] (1785)
冒頭から気合い入りまくりのもの凄い勢いで入ります。弦楽器は弓が飛び交うようなキレ方。87番は86番に次いで好きな曲ですが、この冒頭のエネルギーは滅多に聴ける音楽ではありません。良く聴くとデュトワの特徴であるクッキリと華やかなオケの明晰な響きが聴かれますが、速めのテンポによる暴風のような勢いが支配しており、音色を楽しむなどというのどかな事は言ってられません。1楽章は冒頭の勢いを保ったまま駆け抜けるように終了。
つづくアダージョはデュトワらしいしっかりした骨格設計のもと、表情をおさえてゆったりした曲をかっちり描いていくもの。冷静に引き締まった美しさを表現していきます。このあたりはデュトワの真骨頂でしょう。絃楽器の懐の深い音色も見事な物。
メヌエットは再びギアを戻して、ざっくりした表情で漲る力感をすこし抑えて入ります。デュトワの指揮は不思議と曲の構造の巨大さを感じさせるもの。淡々と部分を描いていく事で、何か非常に大きな物を感じさせるところがあります。このメヌエットもその淡々とした印象が不気味な迫力を帯びています。
フィナーレは郷愁を感じさせるメロディーラインから入りますが、徐々にオケに力が宿り、最後にフォーカスを絞って、盛り上がっていきます。ヴァイオリンの美しいメロディーが絶妙の力の抜け具合。最後に向けて変奏がクッキリと華やかになり、陶酔の彼方へ。素晴らしいフィナーレ。

やはり、デュトワはオーケストラコントロールの達人だと唸らされる演奏。1楽章のエネルギー、2楽章の静謐ですらある磨かれた美しさ、3楽章の力感の表現、そしてフィナーレの華やかな陶酔。曲の聴き所のツボを押さえて、オーストリアのハイドンというよりやはりフランス風のハイドンと聴こえるように料理してくるのは流石です。このアルバム、どの曲もいいのですが、やはりこの87番は別格。もちろん評価は[+++++]をつけます。

デュトアは大曲を得意としているだけに、天地創造など振る機会はありますでしょうか。マーラーの8番がすばらしかっただけに、天地創造もさぞかし素晴らしいことでしょう。N響の中の人、よろしくお願いします!

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tag : 交響曲87番

リボール・ペシェク/スロバキア・フィルハーモニーの85番「王妃」、86番、87番

今日も未整理のラックの隙間から取り出した一枚。

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リボール・ペシェク(Libor Pešek)指揮のスロバキア・フィルハーモニー管弦楽団(Slovak Philharmonic Orchestra)の演奏でハイドンの交響曲85番「王妃」、86番、87番の3曲を収めたアルバム。収録は85番が1982年3月、他が1982年9月、スロバキアの首都ブラチスラヴァのスロバキア・フィルハーモニー管弦楽団コンサート・ホールでのセッション録音。レーベルはチェコのGramofonové závody Lodĕnice。なんて読むのかわかりません(笑)

いかにも廉価盤然とした、安っぽいジャケットですが、こうゆうアルバムにもいい演奏はあるもの。しかもブラチスラヴァはウィーンの東40キロほど、アイゼンシュタットからも遠くありません。いわばご当地ものということでなんとなく取りあげようと思った次第。手に入れたのはだいぶ前で聴いた覚えはあるんですが、遥か昔で印象も思い出せないアルバム。今日取り上げるアルバムはパリセットの後半3曲ですが、同じデザインのジャケットの前半3曲のアルバムも手元にあります。

指揮のリボール・ペシェクは1933年チェコのプラハ生まれの指揮者。プラハ音楽芸術アカデミーでピアノやチェロ、トロンボーンなどを学び、またヴァーツラフ・スメターチェクやカレル・アンチェルなどチェコの巨匠に指揮を学びました。その後ピルゼンやプラハの歌劇場で働き、1958年にプラハ室内ハーモニー管弦楽団を創設。1964年まで音楽監督を務めました。ちょうどこのアルバムを録音した1980年から1981年までスロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者であり、また、1982年から1990年までチェコ・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務めました。1987年からは1998年までロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督、2007年からはチェコ・ナショナル交響楽団の音楽監督となっています。ドボルザークを得意としている他、チェコ・ナショナル交響楽団とはマーラーの交響曲のアルバムが5曲リリースされています。

チェコの指揮者としてはノイマン、スメターチェク、アンチェルなどと比べるとややマイナーな存在で、私もペシェクといえばこうゆう演奏という感触がありませんので、この機会に知っておきたいところ。今日はハイドンのパリセットの中でも好きな86番、87番が含まれたこちらのアルバムをセレクト。

Hob.I:85 / Symphony No.85 "La Reine" 「王妃」 [B flat] (1785?)
ハリのある鮮明な序奏の響き。録音は1982年としては時代なりです。主題に入ると明確に意図したようなさっぱりしたフレージングで音階の一音一音を切り気味にリズム感を強調してくっきり浮かび上がらせます。余分な情感を排除して音楽の骨格を裸にしていくようなアプローチ。若干単調さをはらむ危険なアプローチでもありますが、潤いのある木管楽器の響きや、ハイドンの曲自体の豊かな情感、そしてこのアプローチで現れた普段以上の曲の立体感によって、なかなかいいところをついている感じを与えます。
2楽章は前楽章と同じく少し乾き気味の音色のスロヴァキア・フィルハーモニー弦楽セクションがリズム感を強調しながらザクザクと弾き進めます。楽章が変わって流麗さを帯びてくる部分もありますが、基調は変わりません。
なぜかメヌエットに入りぐっと滑らかな音楽に。木管楽器と弦楽器の美しいフレージングはこれまでの楽章とはかなり異なります。メヌエットという音楽はハイドンの交響曲ではリズム感を強調して演奏されることが多いんですが、この演奏は全く逆。この曲で一番情感がこもった演奏。音楽とは複雑なものですね。それにしても木管は巧いですね。
メヌエットで音楽のノリが良くなってフィナーレは再びリズムを強調する感じがすこし戻りますが、ワクワクさせるようなスリリングな感じも帯び、また推進力のよさも感じさせてきます。落ち着いたコントロールのもと、音楽のいろいろな面を感じさせる演奏ですね。なかなかユニークな解釈。

Hob.I:86 / Symphony No.86 [D] (1786)
つづいて、好きな86番。聴き慣れた序奏から滑らかな音楽が心地よいですね。リズムの拍子をすこし速く打つような速めのスピードと、鋭いアクセントが特徴でしょうか、前曲の1楽章の骨格を強調するアプローチが前曲のみのものであったことがわかります。かなり流麗なフレージングできびきびとした演奏。録音は前曲の方が良く聴こえます。響きが少し高域寄りで若干弦楽器に濁り感が伴いますが、前曲と比べて少しという程度。かなり鮮烈な響きを聴かせる非常にキレのいい演奏。好みのテンポよりも若干速く、この楽章はスピーディーなところを聴かせたいとの意図でしょう。
2楽章のラルゴは落ち着きよりも爽やかさを感じさせるようなアプローチ。こちらも流麗な弦楽器と時折聴かせる鮮烈なアクセントがポイント。なかなか聴かせます。
この曲ではメヌエットは普通の位置づけ。キレよくリズム感よくクッキリ進めます。
そして、フィナーレがこの曲一番の聴き所でしょう。ご当地ものを感じさせる非常に手堅い演奏ながら、一音一音のキレと全体の構成感、推進力、迫力どれをとっても抜群の出来。この曲のペシェクのコントロールのポイントは全体的に非常に鮮度の高いキレでしょう。曲に生気がやどっていると言えばいいでしょうか。唯一高音にちょっと歪み感を感じる録音が惜しいところ。

Hob.I:87 / Symphony No.87 [A] (1785)
87番も86番と同時に録音されていることからわかるとおり、冒頭かキレキレです。録音の特徴も同様。速めのテンポでぐいぐい行きます。またアクセントの鮮烈さも86番同様。オケもコンディションが最高の時を狙って録られているのでしょう。全員の感覚が研ぎすまされている感じ。87番は畳み掛けるような速めのテンポの似合う曲だけに、ペシェクの意図がピタリハマります。大活躍の弦楽器群は素晴らしい表現の幅。ここまで気合いのこもった演奏には滅多にお目にかかれません。少々粗いところはありますが、凄まじいエネルギー感に圧倒され、細かい事は一切気になりません。1楽章は心に刺さる超弩演。
嵐の後の平穏な風景のようなのどかな開始。対比が見事。いきなりホルンとフルートの美音にうっとり。落ち着いたフレージングと印象的な間、フレーズごとのコントラストのクッキリついた変化もすばらしい効果。このアルバムでもっともリラックスした演奏。これぞハイドンのアダージョというべき完璧な演奏です。ペシェクのこの曲への思い入れがわかるような素晴らしい演奏。
続くメヌエットも完璧。神々しいまでに生気が漲っています。特に印象的なのは効果的に差し込まれた間。余韻の消え入るところを非常に巧く表現しています。張りつめた静けさ。逆に強音部分は余裕のある威風堂々とした弦楽器群がここでも素晴らしいエネルギー感。
この曲はハイドンの交響曲のフィナーレでも名作のひとつ。意外にこのアルバムのはじめの85番の1楽章に通じる音を少し切り気味演奏する構造を強調した演奏。86番風に来るのかと思いきや意外な展開。しかし全3楽章圧倒的な出来からのつながりは意外に悪くありません。アルバムのはじまりと終わりに韻を踏んでいるのでしょうか。だとしたら相当凝った演出です。じっくり名曲を料理して前3楽章の火照りを鎮めるような淡々とした演奏。といっても弦楽器、特にヴァイオリンのキレは最高です。

意外に深い演奏だったリボール・ペシェクのハイドンのパリセットの後半3曲。中東欧圏のオケは弦楽器のキレがいいオケが多いのでその期待もありましたが、そのとおりの演奏。評価は85番「王妃」が[++++]、86番、87番はもちろん[+++++]とします。特に87番は素晴らしい演奏。鬼気迫る迫力に圧倒される演奏です。

今日は雪のなか、これから銀座に玉三郎の歌舞伎を見に行ってきます。夜には歌舞伎レビューをアップの予定です。

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tag : 王妃 交響曲86番 交響曲87番

アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団の87番ライヴ

昨夜は痛飲して帰ったため(笑)、ブログ更新をお休みさせていただきました。東北の地酒に飲まれた格好。日高見を頼んで岩手盛岡出身の店員さんと絡み始めてスイッチが入っちゃいました。すすめられるままに美味しい日本酒を堪能。今日も仕事で遅くなったので、短い曲のレビューですみません。

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アンドレ・プレヴィン(Andre Previn)指揮のロンドン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲87番の演奏。1977年7月31日ザルツブルク音楽祭でのライヴ録音。いつものようにザルツブルク音楽祭のウェブサイトで調べてみました。

ザルツブルク音楽祭:1977年7月31日

プログラムはハイドンのこの演奏を皮切りに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲2番(ピアノ:ミシェル・ベロフ)、ラフマニノフの交響曲第2番というプログラム。アルバムの方にはもう1曲プレヴィンの振るフィルハーモニア・オーケストラとチョン・キョンファのヴァイオリンで、ウォルトンのヴァイオリン協奏曲が収められており、こちらは1982年3月29日のライヴ。

アンドレ・プレヴィンのハイドンは以前一度取り上げています。

ハイドン音盤倉庫:プレヴィン/ウィーンフィルのオックスフォード

アンドレ・プレヴィンは1929年生まれということで、今年81歳、このアルバムのコンサートの時は48歳と覇気溢れる年代。

交響曲87番は86番と並んで好きな曲。82番から87番までの6曲をパリ・セットと呼びますが、作曲は番号順ではなく、87番、85番「王妃」、83番「雌鶏」、84番、86番、82番「熊」の順で、最初の3曲が1785年、それ以降が翌年の1786年の作曲ということで、パリのオーケストラ、コンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックのために作曲された曲。87番はその冒頭を飾る曲ということですね。

1楽章は最初から木質系の分厚いオケの響きと推進力に圧倒されます。低音弦の特徴的な音階のアクセントも明解でプレヴィンのコントロールは冒頭からキレまくってます。1楽章のメロディーとアクセントの入り組んだ面白さが浮き彫りになる演奏。ホールに響き渡るオケの大音響を的確に捉えた録音もなかなか。咳や会場ノイズが聴こえますが適度な範囲で鑑賞には全く問題なし。ライヴ感満点の素晴しい録音。後半はプレヴィンがオケを煽っているのがわかりますね。スタジオ録音とは面白さの次元が異なります。
2楽章は中庸なテンポでオケのフレージングの面白さ、美しさを堪能できる演奏。冒頭のフルートのメロディーラインからオーボエにつながる流れだけでも素晴しい緊張感。豊かな陰影感と時折長い休符を織り交ぜてアダージョの繊細なメロディーラインを織り上げていきます。盛り上がる瞬間に力を抜いたり、巧みなデュナーミクのコントロールが行き届いて至福のアダージョ。
3楽章のメヌエットは荒々しい雰囲気をちょっとだけ感じさせて、変化を付けます。テンポは中庸、アクセントもほどほどながら、こちらも味わい深い演奏。
フィナーレも木質系のオケの響きが美しい、じっくり楽しめるフィナーレ。流石プレヴィンですね。曲自体で楽しませるツボを押さえてます。これほど柔らかな聴き応えのあるフィナーレは滅多にありません。最後は割れんばかりの拍手喝采。当日の幸運な聴衆がうらやましいですね。

評価は[+++++]です。プレヴィンらしい、一聴して個性的な演奏ではないんですが、きわめて味わい深い演奏。このコンサート興奮をダイレクトに伝える録音の良さもあり、良いアルバムです。ライヴの好きな方には絶対のおすすめ盤ですね。

明日も忘年会ですが、開始が早いのでレビューを一本書けるかもしれません。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲87番 ライヴ録音 ザルツブルク音楽祭 CD-R

トーマス・ファイの69番、86番、87番

8月最初の記事は、トーマス・ファイのハイドンの交響曲集を取り上げましょう。

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トーマス・ファイのハイドンの交響曲はhänsslerから、たしか12枚目までリリースされいますが、これは7枚目にあたるもの。収録は2006年3月、7月。収録曲は69番ラウドン、86番、87番の3曲。ジャケットには”Joseph Haydn Complete Symphonies”との看板が掲げられていますので、ハイドンの大山脈、交響曲全集を目指した壮大な企画です。完成すればドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・ディヴィスに続いて4番目の全集(多数の演奏家の合作であるNAXOS盤を含めると5番目)となるわけですが、今までの録音ペースからすると完成するのはだいぶ先になるんでしょうね。

手元にもファイのシリーズはこのアルバムを含めて9枚のアルバムがありますが、このアルバムを最初に紹介するのは好きな86番が含まれているため。

トーマス・ファイはライナーノーツによれば、ハイデルベルク-マンハイム音楽学校でピアノと指揮を学び、その後古楽器奏法をザルツブルクのモーツァルテウムでアーノンクールに学んだとのこと。また、バーンスタインの指揮コースにも参加しているということで、一聴してわかる激しい表現はアーノンクールとバーンスタインに学んだことに端を発している訳ですね。

指揮者としての活動も精力的で、このアルバムのオケであるハイデルベルク交響楽団も彼自身が立ち上げ1994年にデビューしたオケとのこと。金管楽器のみ古楽器で、ピッチは現代楽器にあわせているそうです。前身は自ら学生時代の87年に古楽を主に演奏するために組織したシュリアバッハ室内管弦楽団。最近も2003年にアンサンブル・ラ・パッショーネというバロックオーケストラ、マンハイム・モーツァルト・オーケストラというオケなどを立ち上げ、演奏活動をしているということで有名楽団のポストにおさまるということではなく、次々と自身でオケを作っているあたり、既存の枠には収まらないというか、音楽は創造だとの意気込みも感じます。

ハイデルベルク交響楽団HP(英文)

肝心のこのアルバムの演奏ですが、ハイドンの創意をファイの創意溢れる演奏で浮き彫りにした見事なもの。

冒頭の69番ラウドン。いきなりアーノンクールばりのメリハリの利いた音響が眼前に広がります。音色はアーノンクールに近いものがありますが、メリハリの付け方が違います。アーノンクールは灰汁の強い溜の利いたアクセントが特徴ですが、ファイの場合、変化はフレーズ単位というより音単位でときおりレガートを利かせたり千変万化する多彩さ。速めのテンポのせいかフレーズのつながりはアーノンクールより滑らかで、構成感は緊密さを保ってます。フィニッシュのティパニや金管のアクセントはアーノンクール直系のキレを感じます。
2楽章は意外に穏やかさが引き立ちます。静けさの中に浮かび上がる弦と木管系の音色の変化にスポットライトを当ててつぶやくようなフレージング。3楽章のメヌエットは一転して端正。
フィナーレは期待通りファイの持ち味炸裂。インテンポで畳み掛けるように盛り上げ、びしっと終わります。

続いて、作曲順に87番。87番は序奏なしにいきなり主旋律から始まるちょっと変わった曲。この主旋律の表情づけがきわめて面白い。主旋律の変奏がつづきますが、ファイの千変万化する表情づけが非常に効果的。メロディーラインの面白さがこれだけ表現されている演奏はないでしょう。
2楽章はここでも木管楽器の美しさが引き立ちますね。メヌエットとフィナーレもラウドンと同様の傾向ですが、完成度はこの曲の方が上。特にフィナーレの素晴らしさは息をのむほど。87番は名演です。

そして、お目当ての86番。基本的な構成は前2曲と同様すばらしい完成度ですが、先人の演奏によるこの曲の純音楽的な偉大な側面が刷り込まれているせいか、どうにも表現が小手先に聴こえてしまう印象が否めません。これは私の個人的な好みによるものだと思いますが、86番というパリセットのなかでは群を抜いた非常に純音楽的な構成を持った曲であることに起因しているかもしれません。
そんな中、ファイの表現が効果的なのが3楽章のメヌエット。今までの演奏では聴いたことがない装飾音が効果的に配され、新鮮な響き造り出しています。
そしてフィナーレはやはりファイの独壇場。

ファイの演奏をまとめると、古楽器風のノンヴィブラートの弦と古楽器風の奏法による一見アーノンクール風の祝祭的演奏ながら、音色とフレージングを千変万化させることで曲の本質に達しようという表現意欲漲る演奏ということでしょう。ハイドンの古楽器演奏による新次元を切り開いている演奏です。この感じはラトルがウィーンフィルでベートーヴェンの全集を入れた時、そして最近ではパーヴォ・ヤルヴィのベートーヴェンを聴いたときとおなじ感触ですね。

評価は87番が最高評価の[+++++]、69番ラウドンと名演ひしめく86番が[++++]としました。86番目当てでこのアルバムを取り上げましたが、意外にもこのアルバムの聴き所は87番でした。

古楽器系の演奏ではホグウッド、グッドマン、ブリュッヘンと何れもハイドンの交響曲全集の完成を見ていません。このすばらしいファイの企画が完成を見ることを祈らんばかりです。
全集が完成したときのファイのジャケット写真は、アダム・フィッシャーのアルバムに含まれる着手時の若々しい写真と完成時の老いた姿と同様な時の流れを感じさせるのでしょうね。

第4のハイドンの交響曲全集が完成にいたるよう、ファイのアルバムの売上げを支えなくてはいけませんね(笑)
私も未入手のアルバムを注文することにしましょうかね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 交響曲86番 交響曲87番 ラウドン将軍 おすすめ盤 古楽器

クイケンのパリ交響曲集

今日はクイケンのパリ交響曲集を。

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これは現在入手可能なヴァージンでの録音集。26番、52盤、53番と82番から92番までの録音のセットもの。なぜか82番から87番の6曲のみオケがエイジ・オブ・エンライトメント管弦楽団で、のこりはクイケンお抱えのラ・プティット・バンド。
このオケの違いが今回のポイント。

ちなみに、パリセットの方の旧盤のジャケット写真がネットでみつかりましたので、のせておきましょう。

kuijken82.jpg
こちらが、82、83、84番。

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こちらが84、85、86番の方。

同じヴァージンでの録音の他の曲とよく聴き比べてみると、このパリセットの2枚の出来が目立っていいんです。本来クイケンが組織したラ・プティット・バンドの方がいいのではとの憶測も働くんですが、そうではない。

両者とも古楽器での演奏とうたわれていますが、オケの奏でる音響の自然さが明らかに違います。ラ・プティット・バンドの方が明らかに弦が金属っぽい響きの癖が強い。それにつられてフレージングや響きの自然さ、ニュアンスの豊かさが違います。
パリセットはクイケンのハイドンの最上の録音なんじゃないかと思います。

もともとクイケンの指揮は、癖のない淡々とした枯淡の境地のような特徴があり、ある意味もう一歩の没入というか、踏み込みを求めてしまうところがありますが、このパリセットは、響きの自然な美しさすばらしく、またフレージンングも端正さの極みというレベルまで達しており、古楽器によるパリ交響曲集の代表的名盤といえるでしょう。

オケの違いと、もう一つは録音サイト。パリセットの方はアビーロードスタジオ。
アビーロードスタジオと言えばビートルズなんでしょうが、ウェブサイトに行ってみると巨大なオーケストラ用のスタジオもあります。スタジオ1というのがそれです。このウェブサイトの写真には音楽の生まれるプロの現場が見えてわくわくします。

http://www.abbeyroad.com/studios/studio1/

パリセットの録音はオケの美しい響きが聴かれますが、このスタジオでの録音と音響処理によるものなんでしょう。ホールの空間そのもの音響のように巧く録られていますが、うちのオーディオセットでは、アムステルダムコンセルトヘボウのような極上の響きに聴こえます。
逆にその他はオランダ、アムステルダムそばのハールレムのDoopsgezinde Gemeentekerkというところの録音。ドイツハルモニアムンディのザロモンセットの録音場所もここであることからラ・プティット・バンドのいつもの録音場所ということでしょう。ヴァージンによるこちらの録音の方は、アビーロードスタジオと比べる響きが足りず、また堅さも感じられ、逆に少々響きに不自然さを感じてしまいます。
聴いている装置にもよるとおもいますが、こうした音質の違いも演奏の評価と切り離せませんね。

ザロモンセットの方はレーベルが異なりドイツハルモニアムンディでもあり、録音もパリセットよりも新しいものですので、だいぶ改善されていますから、要は録り方ということなんだと思います。こちらの方はまた別の機会に取り上げましょう。

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tag : パリセット 雌鶏 交響曲84番 王妃 交響曲86番 交響曲87番 おすすめ盤 古楽器

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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