若杉弘/ケルン放送響の88番ライヴ(ハイドン)

このところLPを聴く機会が増えているのですが、以前手に入れて所有盤リストに登録していないものを整理していて、名演盤に出会いました。

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若杉弘指揮のケルン放送交響楽団(Kölner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)の演奏で、ゲルハルト・ヴィンベルガー(Gerhard Wimberger)の大オーケストラのためのプログラム、ハイドンの交響曲88番、モーツァルトのピアノ協奏曲27番の3曲を収めた2枚組のLP。収録は1978年5月10日、ドイツのボンにあるベートーヴェンホールでのライヴ。レーベルはDeutsche Welle。

Deutsche Welle(ドイチェ・ヴェレ)とはドイツの国際放送事業体とのこと。このアルバムはそのドイチェ・ヴェレの創立25周年を記念して行われたコンサートのもようをライヴ収録したもの。ドイチェ・ヴェレについてはWikipediaに記事がありますのでそちらをごらんください。

Wikipedia : ドイチェ・ヴェレ

ドイツの国際放送事業体の25周年を記念して行われたコンサートのプログラムの冒頭に置かれたゲルハルト・ヴィンベルガーの曲は、打楽器や尺八が登場するまさに現代音楽の代表のような曲。ゲルハルト・ヴィンベルガーは1923年ウィーン生まれの作曲家。調べてみるとこの「大オーケストラのためのプログラム」という曲は1977年から78年とこのコンサートの直前に書かれた曲。ライナーノーツによれば、現代音楽はドイツの文化に少なからず影響を与えていたが、それには放送が大きな役割を果たしたとのことで、この曲もそれまでに放送された曲の一つということで取り上げられたとのこと。指揮の若杉弘は1977年にケルン放送交響楽団の首席指揮者に就任しているので、就任直後の演奏ということになります。
現代音楽に詳しいわけではありませんが、1曲目のヴィンベルガーの曲は若杉弘の面目躍如。若杉弘らしいバランス良いオーケストラコントロールで喧騒と静寂が入り混じる難曲を手堅くまとめています。
もちろん、お目当ては2曲目のハイドンです。

Hob.I:88 Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ぐっと重心の低い響きの序奏から入ります。LPのコンディションは最高。響きがぐっと前に迫り出してきます。曲の進行は若杉弘らしく、淡々と過度な演出もなく原曲どおりに描いていくスタイルですが、この88番ではそれが功を奏して、徐々に曲の迫力にのまれていきます。キレ味もほどほどで全体の流れ重視の演奏。主題以降は一貫したテンポで進めることで曲の面白い表情が浮かび上がる感じを与えます。オケは程よく揃ってLPだからこそのエネルギー感。まとまりの良さは相変わらず。
そして2楽章のラルゴでも、一貫したテンポでこの曲の面白さの核心を突くように進めます。ピチカートでリズムを刻みながらユーモラスなメロディーをじっくり描いていく感じ。慟哭のような全奏も程よいバランス感覚で適度なメリハリ。この適度さを保つのがハイドンの演奏の難しい所。曲が進むにつれて起伏も大きくなりますが、やはり適度に落ち着きをしっかりと保ちます。木管楽器をすこし控えめに鳴らすのも良いセンス。
そしてこの曲の聴かせどころのメヌエットでは、すこし起伏が大きくなりオーソドックスな響きのオケにも力が滲みます。このメヌエットの演奏こそ若杉弘の面目躍如。中間部のしなやかな響きがこれまでの力感を引き立てます。
そしてコミカルなメロディーのフィナーレ。これまでの安定した完成度の高い演奏の総決算。これがライヴとは信じがたい素晴らしい完成度。微動だにしないリズム、完璧に揃ったオケ、そして指揮者の秩序に完全に従った音楽。セッション録音でもこうはいかないほどの完成度。終盤の展開をオケが完璧にこなして、再びコミカルな表情に戻ります。最後の集中力も見事。拍手は収録されていません。あまりの完成度にライヴを疑うほど。

このあとLPの2枚目の表裏にゆったりとカッティングされたモーツァルトのピアノ協奏曲27番も見事。ピアノはルドルフ・ブッフビンダー。ハイドンのソナタの録音とは異なり、鮮度の高いタッチでモーツァルト晩年の澄み切ったピアノのメロディーを転がすように音にしていき、伴奏の若杉弘もハイドン同様盤石。録音も素晴らしく聴き応え満点の演奏です。

若杉弘の振るケルン放送交響楽団の1978年のライヴでハイドンの交響曲88番などの演奏。ハイドンの88番にはセルやライナーの飛ぶ鳥を落とすが如き勢いの剛腕の演奏や、クナの諧謔性満点の演奏、古楽器ではブリュッヘンの力感漲る演奏など古くから名演に恵まれていますが、この若杉弘の演奏はオーソドックスながら、この曲の面白さをしっかりと踏まえたベーシックな演奏としておすす目できるものです。ただしこのLP自体がレア盤ということで、なかなか入手が難しいでしょう。地味なアルバムですが、演奏会の記念性といい、演奏の出来といいCD化すべき演奏だと思います。ハイドンの評価は[+++++]とします。

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tag : 交響曲88番

バーンスタイン/ウィーンフィルの交響曲88番、協奏交響曲DVD(ハイドン)

今日は久しぶりのDVDです。

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レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)指揮のウィーンフィルの演奏で、ハイドンの交響曲88番、協奏交響曲の2曲を収めたDVD。収録は88番が1983年、協奏交響曲が1984年、何れもムジークフェラインでのライヴです。レーベルはDREAMLIFE。

このライヴですが、収録時間などから考えておそらく同じ日の演奏がDeutsche GrammophoneからCDがリリースされており、88番についてはCDで既に取りあげていますが、ちょっとした違いもあるため、あらためて取りあげた次第。

バーンスタインのハイドンは世評は高いものの、私は特にウィーンフィルとの晩年の演奏は今ひとつぐっと来ない印象を持っています。むしろ古いニューヨークフィル時代の演奏の方が好みと言っていいでしょう。その辺はこれまでの記事でも書いてきたとおりです。

2012/06/25 : ハイドン–交響曲 : バーンスタイン/ウィーンフィルの102番1971年ライヴ
2011/09/15 : ハイドン–声楽曲 : バーンスタイン/ロンドン交響楽団のテレジアミサ
2011/08/15 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番5】バーンスタイン/ウィーンフィルのテレジアミサライヴ!
2011/05/08 : ハイドン–交響曲 : バーンスタイン/ウィーンフィルの88番、オックスフォード
2010/12/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】バーンスタイン/NYPの97番、98番DVD
2010/09/11 : ハイドン–オラトリオ : バーンスタインの天地創造DVD

響きの美しいウィーンフィルとの演奏ですが、ハイドンにしては少々厚化粧な感じをともなうのは、バーンスタイン一流の濃い表情付けからくる訳です。これが気にならない人にはたまらない演奏かもしれませんね。私はバーンスタインの、特に遅い楽章でのちょっと濃い味付けに少々違和感を感じるため、あまりいい評価にはしてきませんでした。純粋に音から感じるイメージがそういう印象を引き起こしているんだと思います。特に今日取り上げる88番のラルゴのこってりとした雰囲気は評価の分かれ目。先日取りあげたヨッフム/ベルリンフィルとの演奏の古典的な均整のとれた響きとはかなり異なる印象を持ちます。

今回、映像でこの演奏を見ると、逆にこのこってりとした雰囲気があまり気にならず、映像の面白さで一気に見られてしまいます。これが不思議なところ。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
満員の観衆で埋まるムジークフェラインザール。コンサートマスターは山岳事故で亡くなってしまったゲルハルト・ヘッツェル、懐かしい! フルートの長身のディター・フルーリーも若いですね。バーンスタインは顔色も良く、にこやかいハイドンの演奏を楽しんでいるよう。燻したようなウィーンフィルの響きに包まれ、指揮も楽しいそう。流石に名指揮者だけあって、表情豊かに指示を出していき、オケからちょっと濃いめのハイドンの楽興を引き出して行きます。
つづくラルゴはかなり遅めのテンポ。先に触れたように、音だけで聴くよりも表情の濃さは気になりませんが、古典派というよりはロマン派の音楽のよう。バーンスタインの指揮姿はクライバーのように陶酔感を感じるほどではありませんが、オケに対する指示のわかりやすさ、求める音楽を表情で示す表現力は流石。この表現力があとでものを言う事になります。
メヌエットは丁寧に立体感を際立たせて行く感じ。フレーズごとにくっきりと表情をつけていき、柔らかい光で照らして陰影を豊かにつけていきます。
フィナーレは、先日のヨッフム/ベルリンフィルがあまりにも素晴らしかったので比べてしまいがちですが、それに比べると力に頼りがちと聴こえてしまいます。ウィーンフィルはこの曲のDNAを良く踏まえて、徐々に響きの渦持ち込み、最後はバーンスタインに煽られクライマックスに上り詰めて終了。バーンスタインは会場の拍手に応じて礼をしますが、すぐにオケの方にふりかえり、指揮棒を上げます。すると再びフィナーレがはじまりますが、すぐに指揮棒はおろし、顔の表情だけでオケをコントロール。そう、これが有名なバーンスタインの顔だけでの指揮。ハイドンのユーモラスなメロディーに合わせてバーンスタインの表情が変わります。観客もこのパフォーマンスを楽しんでいるようす。一貫したリズムの曲、しかも2度目の演奏なので奏者が指揮に合わせるというより、指揮者が奏者に合わせているのかもしれませんね。最後はムジークフェラインの観客から暖かい拍手が降り注ぎます。CDではこのパフォーマンスの面白さは伝わらないと言う事で取り入れられていないということでしょう。これもハイドンの交響曲の面白さを伝える演奏ですね。

Hob.I:105 / Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
続いて1年後、1984年のライヴ。ちょっと気になるのがバーンスタインの買い色が悪い事。酒好き、タバコ好きで知られるバーンスタインも健康不安を抱えていたのでしょうか。今度はコンサートマスターがウェルナー・ヒンク。ソロは下記の通り。

ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル(Rainer Küchl)
チェロ:フランツ・バートロメイ(Franz Bartolomey
オーボエ:ワルター・レーマイヤー(Walter Lehmayar)
ファゴット:ミカエル・ウェルバ(Michael Werba)

協奏交響曲は、同じウィーンフィルの演奏でも1973年にベームの指揮で演奏した名盤があります。先程の88番がかなりバーンスタイン流にメリハリをつけた演奏だったのに対し、こちらは奏者にかなり自由に演奏させており、自然な流れが心地良い演奏。ソロを担当するウィーンフィルのトップ奏者の音楽に対し、バーンスタインは挑んだり制御したりすることを強制するのではなく、自然体で臨んでいます。88番に対して、こちらはそうした姿勢が良い方向に働いている印象。全楽章、ソロとオケが自然にやりとりするところがいい演奏。そういう意味でバーンスタインらしさは後退していますが、それがマイナスとは感じません。

バーンスタインの名門ウィーンフィルとのハイドンですが、映像で見ると音だけのときとは結構印象が変わると実感した演奏でした。88番の方はフィナーレを顔だけの指揮で繰り返すと言う演出の面白さが加わり、これもハイドンの面白さをあらわすよく考えられた演奏だと感心しきり。そして協奏交響曲の方は、ソロ奏者の演奏を映像で見られる面白さが味わえます。どちらもCDよりもいい印象。ということで、ほぼ音楽は同じと思われますが、評価はそれぞれ[++++]と、1ランクアップとします。

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tag : 交響曲88番 協奏交響曲 ライヴ録音 DVD

オイゲン・ヨッフム/ベルリンフィルの88番、98番(ハイドン)

コンサートや桜見物に興じている間に、レビューから遠ざかっておりました。やはりレビューをこなしてこそ、当ブログの存在意義があるというもの。本日は名演奏家のアルバムですが、ちと変わったもの。

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HMV ONLINEicon(CD ザロモンセット)/ amazon(CD ザロモンセット)/ TOWER RECORDS(CD ザロモンセット)

オイゲン・ヨッフム(Eugene Jochum)指揮のベルリンフィル(Berliner Philharmoniker)の演奏で、ハイドンの交響曲88番、98番を収めたLP。収録の情報はLP自体に記載はありませんが、この演奏を収めているCDのザロモンセットの情報を見ると88番は1961年10月、98番は1962年5月の収録であることがわかります。レーベルはDeutsche Grammophoneです。

CD盤のザロモンセットは手元にあるのですが、このベルリンフィルとの演奏を含まない4枚組のものですが、現行盤はボックスセットの5枚組で、今日取り上げる演奏もオマケのように含まれています。

さて、ヨッフムのハイドンですが、あらためて調べてみると、かなりの回数取りあげていることがわかりました。書いている本人はそれほど取りあげた記憶がないのですが、、、(笑)

2013/07/12 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送響の91番、太鼓連打
2012/03/20 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ウィーン響の驚愕、95番ライヴ
2012/01/25 : ハイドン–声楽曲 : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送響のチェチーリア・ミサ
2011/12/30 : ハイドン–交響曲 : 【600記事記念】オイゲン・ヨッフム/ロンドンフィルの「ロンドン」
2011/09/22 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ-2
2011/09/20 : ハイドン–オラトリオ : オイゲン・ヨッフム/バイエルン放送交響楽団の天地創造ライヴ
2011/06/07 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ロンドンフィルの93番
2011/05/28 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ドレスデン・シュターツカペレの93番
2010/12/29 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ロンドン・フィルの軍隊、時計ライヴ
2010/09/02 : ハイドン–協奏曲 : フルニエ/ヨッフムのチェロ協奏曲
2010/08/05 : ハイドン以外のレビュー : ヨッフム/バンベルク響のモーツァルト後期交響曲

ヨッフムのハイドンのザロモンセットはある意味定番とされている録音です。軽やかに吹き上がるタイトな名演盤なんですが、その影にかくれて、いろいろな録音があり、先日取りあげたバイエルン放送響との91番、太鼓連打などやドレスデン・シュターツカペレとの録音、ライヴなどがあり、スタイルは一貫しているものの、演奏の出来はいろいろ。ツボにはまった演奏の素晴しさは格別なものがあります。

今日取り上げる、1960年代初頭の演奏は、数あるヨッフムの演奏の中でも、指折りの一枚です。当時のLPからは若きヨッフムのキレキレの音楽が吹き出してきました。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
冒頭からベルリンフィルらしい、低音弦の力強い響きが印象的。ヨッフムらしい折り目正しい端正なコントロールの序奏。そして軽やかに主題に入りますが、ベルリンフィルらしく弦楽器の切れ込むようなタイトなボウイングが素晴しい緊張感を感じさせます。インテンポで攻め込む弦楽パートのせめぎ合いがスリリング。録音はかなり直接音重視ですが、エコー成分ががかなりあり、ダイレクトなのに潤いを感じる不思議な響き。
バーンスタインの演奏では脂っこさを感じさせる2楽章ですが、ヨッフムのコントロールはまさに端正。ゆったりとしすぎず、適度にリラックスした奏者がアンサンブルを楽しんでいるよう。中盤の盛り上がりも力まず、オケを素直に鳴らし、反響を楽しむようです。ふたたびリラックスしたメロディーラインが戻り、至福のひととき。
意外にメヌエットが練ります。ゆったりと溜めをつくってオケを巧みにコントロール。なんとなく今まで知るヨッフムの印象と異なるので新鮮な感じ。中間部のトルコ風のメロディーの演出の巧みなことに驚きます。何気ないメロディーを実にニュアンス豊かに奏で、音楽が踊るよう。
まったく間を置かずフィナーレに突入。小気味好くメロディーが弾み、めくるめくような変化に富んだ音楽。徐々にヴァイオリンが畳み掛けはじめ、ベルリンフィルの表現意欲のスイッチが入りました。ヨッフムの変化に富んだ棒が活き活きと弾む音楽を繰り出し、音楽は最高潮に上り詰めます。これほどの面白さとは予想だにしなかった陶酔。これはハイドンに聴かせてあげたい、空前絶後の面白さ。いやいや参りました。

Hob.I:98 / Symphony No.98 [B flat] (1792)
LPをひっくり返して、今度は98番。88番と98番とは実に渋い選曲です。序奏から機敏な展開。タイトに響き渡る音楽が心地よい展開。緩急自在とはこのことのように、時に速めのテンポで畳み掛けます。音楽を冷静に捉えると、変化と機知が織りなす感興が極まる素晴しい演奏。そこここで引き締まった音楽が感じられるタイトな進行。
つづくアダージョは凛々しさを保ちながら、ベルリンフィルの演奏とわかる緊張感溢れる音楽が流れます。ゆったりとしきらない音楽。
メヌエットもフレージングの面白さはつづき、CDとはひと味違うダイレクトな感興がスピーカーから流れ出します。クッキリと浮かび上がるメロディーライン。すこし力を抜いたり、輝かしいフレーズを聴かせたりと、ヨッフムのコントロールは自在。オケがそれについていっているので、音楽は一貫して引き締まっています。
前曲同様やはり間を置かずにフィナーレに入ります。ハイドンが書いた音楽はこれほど面白いものと誇示するようなヨッフムのコントロール。録音の鮮度が高いので、まさにそこで演奏しているような緊張感。ベルリンフィルも自然にヨッフムの棒についていきます。LPから流れ出す音楽はまさにヨッフムが楽譜から読みとった機知をそのままあらわすよう。音楽は鮮度を失わず、ソロのヴァイオリンとオケの掛け合いも気合いを失いません。この交響曲独特の展開を楽しむような余裕たっぷりの展開。最後はコミカルな展開を織り交ぜていきますが、チェンバロのソロの聴かせどころの演出の巧みさを印象づけて終わります。

今まで抱いていたヨッフムのハイドンのイメージよりもかなり踏み込んだ演奏。速めのテンポで畳み掛けるだけの演奏ではなく、かなり曲の真髄にせまるタイトなコントロールが聴き所の演奏でした。ロンドンフィルとのザロモンセットの演奏よりも緊張感は数倍上の素晴しい演奏と言っていいでしょう。上のリンク先のボックスセットをお持ちでない方は買い直す価値ありです。評価は両曲とも[+++++]とします。この演奏、両曲ともにそれぞれの曲のベストな演奏と言ってもいい出来です。ブラヴォー!

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tag : 交響曲88番 交響曲98番 LP

ピエール・モントゥー/サンフランシスコ響の88番ライヴ

今日は久々のCD-R。最近オークションで入手したもの。

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ピエール・モントゥー(Pierre Monteux)指揮のサンフランシスコ交響楽団の演奏で、モーツァルトの交響曲35番「ハフナー」、41番「ジュピター」、ハイドンの交響曲88番の3曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1945年1月21日、サンフランシスコの戦争記念歌劇場(War Memorial Opera House)でのライヴ。レーベルはPremiereというCD-Rのレーベル。

ピエール・モントゥーにはハイドンの録音がいくつかありますが、これまでに取りあげたのはモスクワのライヴのみ。

2010/12/07 : ハイドン–交響曲 : ピエール・モントゥーの「驚愕」モスクワライヴ

他にはDECCAにウィーンフィルとの驚愕と時計の録音があります。どちらも1950年代後半の演奏ゆえ、1875年生まれのモントゥーが80歳を超えた年齢での録音でしたが、今日取り上げるアルバムは1945年の録音と言う事で、70歳のころの演奏。モントゥーのエネルギー溢れる指揮が炸裂するのでしょうか。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
モノラルでかつ、かなり荒々しい響き。お世辞にも美しい響きとは言えませんが、エネルギー感はかなりのもの。重厚な序奏に続いて、主題に入ると、いきなりトップギアに入って、素晴しいスピードと推進力。ヴァイオリンからちょっと金属っぽい響きも聴かれますが、これも迫力のうち。突き抜けるような迫力を帯びて、速いパッセージは火の玉のようなエネルギー。一気にまくしたてます。
ラルゴに入ると、豊かな響きに変わります。昔の演奏に特有な燻し銀の響き。主旋律をくっきり浮かび上がらせて美しいメロディーラインを歌わせていきます。フレーズ単位でじっくりと描く事でで音楽の深みも増します。意外とこのラルゴ、じっくり歌うので心にしみます。
メヌエットは1楽章と同様、金属っぽい響きですが、キレはなかなか。やはりフレーズ単位でキリキリ斬り込んできます。曲の構造がカッチリと定まっているのはやはり大指揮者ならではでしょう。ちょっと歪み気味の音を通してさえも、実際の演奏の迫力が想像できます。
フィナーレは独特のリズムの刻みをかなり抑えて、大きな流れに耳がいくような演出。スピードはかなり速めで、音階は滑らかになり、曲の大きな構造に耳が集中するような造り。諧謔性を前面に出した演奏もありますが、モントゥーの筆さばきは筆の勢い重視で、最後まで一気にいきます。まるで一筆書きのように1楽章からフィナーレまでをサクサク振るモントゥー。古き良き時代のハイドンという印象が大きい演奏でした。最後は拍手も収められています。

以前聴いたモスクワライヴよりエネルギー感は上回ります。ピエール・モントゥーの覇気溢れるハイドンが聴かれると言う意味では、後年の演奏よりもかなり踏みこんだもの。DECCAのウィーンフィルとのセッション録音はかなり録音が良く、典雅な魅力が溢れた演奏でこの演奏がモントゥーのハイドンのイメージを代表ていましたが、この金属っぽく荒々しい音色のライヴは、モントゥーのハイドンの交響曲演奏が、本来エネルギー溢れるハイテンションのものだったことを示す貴重なものでしょう。評価はやはり音質をちょっと割り引いて[+++]とします。ヒストリカル好きな方にはおすすめの一枚です。

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tag : 交響曲88番 ライヴ録音 ヒストリカル

【追悼】コリン・デイヴィスの88番、99番

今週の日曜日4月14日、イギリスの名指揮者、コリン・デイヴィスが亡くなりました。追悼の意味も込めて、デイヴィスの演奏を取りあげましょう。

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amazon(PentaTone classicsCD)

サー・コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲88番、99番の2曲を収めたLP。収録はLPには表記がありませんが、同じ音源だと思われるCDのほうには1975年11月、アムステルダム・コンセルトヘボウでのセッション録音と記載されています。レーベルは蘭PHILIPS。

コリン・デイヴィスのハイドンは下記のように結構とりあげていますが、一部のライヴ盤を除くと無難な評価なものが多いのが正直なところ。ただし、それには原因がありそうです。

2011/10/28 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/バイエルン放送響の「ロンドン」ライヴ
2011/08/19 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の熊、雌鶏
2011/08/13 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番3】コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団のネルソンミサ
2011/06/16 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-2
2011/06/14 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-1
2010/07/17 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィスの時計ライブ

今日取り上げるLPはかなり前に手に入れたもの。実は手に入れたばかりのときに数度針を通しただけで、あまりちゃんとした演奏の記憶がありません。今回追悼を機に聴いたところ、かなり良いのげビックリしたのが正直なところ。手元にはおそらく同じ音源のSACDであるPentaTone classics盤(上記amazonのリンク先のアルバム)があり、引っ張り出して聴いたところ、明らかにLPの方が音質がいいです。PHILIPS自身がリリースしてるザロモンセットのCDもあまりキレが良くないことを考えると、CD化にあたって音質が落ちていると想像されます。迫力、弦のキレ、実体感は明らかにLPの方が良く、デイヴィスのオケのヴォリューム感とコンセルトヘボウをゆったりと鳴らした演奏本来の鮮明な響きの魅力がLPからつたわります。コリン・ディヴィスのハイドンの交響曲は風景画をあしらった上品なジャケットで次々とリリースされ、LPの発売当時はコンセルトヘボウの響きの魅力で、かなり話題になった記憶がありますが、CDではその魅力が薄まっていたのかもしれません。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
アムステルダム・コンセルトヘボウの豊かな瑞々しいオーケストラの響き。デイヴィス特有のアポロン的中庸さの均衡のとれたフォルム。オーケストラを聴く悦びに溢れたバランスの良い響き。そしてLPならではダイレクトな音像。そう、PHILIPSの輸入盤ならではのこの空気感です。ただ音楽が流れることが快感な演奏ですね。音量を絞る部分の透明感も素晴らしく、まさしくHi-Fi録音。コリン・デイヴィスの演奏は実に自然なテンポとリズム、フレージングなのにキレの良さが爽快なもの。
つづくラルゴもじつに穏当なもの。これ以上オーソドックスな演奏はないほどの、ある意味素晴らしい完成度。完璧なフォルムの石膏彫像のような安定感があります。録音がよいからこそ引き立つ自然な響きの魅力。
おそらくこの演奏の白眉はメヌエット。オケの力強い響きがコンセルトヘボウに響き渡ります。抜群の立体感。部屋の中にフルオーケストラがやってきたような異次元の立体感。音量を上げて、メヌエットの響きに打たれます。
88番のコミカルなフィナーレは、コミカルであるよりも律儀な印象なのはデイヴィスの性格に由来するのでしょうか。やはり、明らかにCDとは別格の彫刻的フォルム。中盤以降の変奏の迫力の素晴らしさはLPならではの響きです。最後は転げ落ちるような急激なテンポの変化を聴かせる演奏もありますが、コリン・デイヴィスのコントロールは落ち着き払って、ちょいとテンポを上げるだけですが、彫り込みの深い抜群の迫力で聴かせきってしまいます。やはりLPで聴くと素晴らしい演奏でした。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
つづいてこちらも名曲99番。予想通り大河のごときおおらかさで雄大な響きから入ります。この曲はデイヴィスに合ってますね。弦や管のさざめくような伴奏に対して、分厚い響きの弦楽器群の奏でる旋律が実に大胆にメロディーを乗せていきますが、デイヴィス特有のさっぱりとしたコントロールによって実に純音楽的で、アカデミックな印象を残します。短い音符のキレがいいので、全般に引き締まった緊張感を保ちます。
99番のアダージョは穏やかな表情と徐々に盛り上がる感興が有名な曲。聴き入るうちに大河の流れに浮かんでいるような錯覚に襲われます。大波に身を任せてオーケストラの力強い響きを堪能。
メヌエットも同様。オケの精度が高いため、スピーカーから流れ出るサウンドはまさに正確そのもの。特に短い音の余韻にコンセルトヘボウの美しい響きが乗って、最高の演奏。
フィナーレは前曲同様落ち着き払って、オケをどうしたら良く鳴らせるか熟知しているようですね。手元のこのアルバム、ノイズもなく非常に聴きやすい音。まさに名録音です。

コリン・デイヴィスの指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏で、ハイドンの名曲を2曲録音したLP。どちらの曲もLPのほうがCDよりも音楽の骨格が豊かでかつ、彫りも深く音楽が眼前に展開する素晴らしい録音であることがわかりました。この彫りの深さが、穏当なデイヴィスの音楽にタイトさを加えて、しかも音響的な面白さもかなりアップさせています。LPを再生する装置をお持ちでしたら、このシリーズは是非LPでそろえられるべきかと思います。評価は両曲とも[+++++]とし、CD版とは差を付ける事と致します。

コリン・デイヴィスはハイドンばかりでなく、モーツァルトやベートーヴェン、ベルリオーズ、シベリウス、ストラヴィンスキーと広いレパートリーにいろいろ名盤を残しています。ネットではデイヴィスが亡くなった事をしのんでいろいろなアルバムがレビューされており、今更ながら、穏やかながら人を惹き付けて止まない、流れるような彼の音楽の魅力を再認識した次第です。また一人偉大な指揮者を失いました。ご冥福をお祈りします。

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tag : 交響曲88番 交響曲99番 LP

ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの88番、ロンドン

ちょっと仕事が忙しくて間が空きました。今日は今まで取りあげていなかった著名演奏家の演奏シリーズ。なぜかシリーズ化になりました(笑)

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エフゲニー・ムラヴィンスキー(Evgeni Mravinsky)指揮のレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(Leningrad Philharmonic Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲88番、104番「ロンドン」、リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲1番の3曲を収めたアルバム。収録は88番が1964年4月20日、ロンドンが1965年10月3日、何れもレニングラード(現サンクト・ペテルスブルク)のフィルハーモニー大ホールでのライヴ。レーベルはRussian DISCというアメリカかカナダのレーベル(CDはアメリカ、ライナーノーツはカナダの印刷とのこと)。

ムラヴィンスキーはチャイコフスキーやショスタコーヴィチなどの演奏では有名なことは知ってはいますが、いまひとつちゃんと聴いた事がない人。ハイドンの録音も少しありますが、あまり印象に残る演奏ではありませんでした。食わず嫌いはいけないとのことで、実に久々にCDラックから取り出したアルバム。

ムラヴィンスキーの略歴を紹介しておきましょう。1903年、レニングラード生まれの指揮者。父は貴族、母は歌手と言う家柄。6歳からピアノを習い始めたが当初はペテログラード大学で生物を専攻。その後1924年 にレニングラード音楽院に入り直し、作曲と指揮を学びました。1931年にレニングラード音楽院を卒業後マリインスキー劇場(当時の名称はレニングラード・バレエ・アカデミー・オペラ劇場)で指揮者デビューを果たし、以後1938年まで務めました。ムラヴィンスキーの手兵となるレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団には1931年から客演をはじめ、1938年に全ソ指揮者コンクールに優勝したのを機にレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者となり、以後、亡くなる1988年まで50年にわたりこのオケの常任指揮者であったとのこと。日本には1973年、75年、77年、79年と4回来日しています。

普段からロシアものなどには縁遠い存在のため、私自身はムラヴィンスキーの偉大さを身を以て知っているというわけではありません。もちろん、ムラヴィンスキーのハイドンとはかなり特殊なレパートリーであったことと想像される訳ですが、ハイドンの多様な演奏を通してその真髄に迫ろうという当ブログが避けて通ることができない存在であるのは確かなところ。もう一枚、時計のライヴも手元にあるのですが、どちらかと言うと今日取り上げるアルバムの方が聴きやすいため、このアルバムを選びました。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ちょっと遠めに定位するざらついた響きのオケ。録音のせいか響きが枯れていて、あまり潤いのある音ではありません。標準的なテンポでメロディーラインを整理しながらわかりやすく、クッキリとしたメロディーラインを描いていきます。派手な訳ではありませんが、ちょっとしたアクセントのキレがよく、ちょっと迫力がある演奏。爆発するのでしょうか。まさに冷静にクッキリとした表情付けをしている感じ。牙をいつ剥くのかちょっとそわそわします。スリムなのに筋骨隆々なハイドン。爆発には至らず、筋肉美をみせるだけ。
ラルゴも標準的なテンポ。なにげに彫りが深く、メロディーもクッキリ浮かび上がります。この楽章をきっちり彫り上げることでアーティスティックな魅力を引き出します。録音がもう少し良ければもう少し魅力的になりますね。
期待通りメヌエットも引き締まった演奏。もうすこし激しい演奏を想像していましたが、非常に冷静な正統的演奏。良くキレる鉈の切れ味。ムラヴィンスキーの鋭い眼差しが見えるよう。終盤、力感の漲りが素晴らしいです。
フィナーレこそ爆発するでしょうか。徐々にテンポを上げ、力感も増してきます。最後にいたる盛り上がりは流石ムラヴィンスキー、ウサイン・ボルトのスタートダッシュのような引き締まった美しさと瞬発力を一瞬垣間見せますが、さっと力をぬいて終了。ムラヴィンスキー流のハイドンの機知の表現でしょう。最後は拍手も録られています。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
そして期待のロンドン。こちらは音質はすこし粗いながら、迫力は上。冒頭の序奏の力感はなみなみならぬもの。曲の違いからか最初からかなりの力感。まさに筋肉美を誇る演奏。黒光りするボディービルダーの体を連想させる力感。力感一方ではなく、抜くところのセンスもいいため、非常にメリハリがついています。霧のロンドンなどハイドンが経験したロンドンの面影を感じさせるというよりは、木炭でデフォルメしてデッサンを書いたお手本のような演奏。ビシッと決まった陰影と太い隈取り。なぜか禁欲的なまでにアーティスティックな雰囲気が濃い演奏。
アンダンテはレガートをきかせて、筋肉をすこし目立たせなくしています。意図して流れをよくしようということでしょうか。あいかわらず気高さを感じさせるムラヴィンスキーのコントロールですが、手綱を少し緩めてほっとさせてくれます。
メヌエットも手綱は引き締めません。前曲のメヌエットとは異なり、流れを重視した演奏。後半に入ると、やはり徐々に鋭さを増して、きりりと引き締まった響きを聴かせます。
そして、聴かせどころのフィナーレ。速いです。ここにきて一気に集中力が上がります。これまで溜めていたエネルギーを一気に噴出させようということでしょうか。ヴァイオリンパートは粗いながらもかなりのキレ。速い音階をザクザク刻んでいきます。終盤に入るといよいよ来ました。往時のトスカニーニを思わせる素晴らしい力感。全曲のなかでもここに明確な頂点をもってきて、別格の高みを表現するところは常人ばなれしたものです。やはりクライマックスの禁欲的なまでの引き締まった盛り上がりは見事なものでした。

エフゲニー・ムラヴィンスキーと手兵レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団によるハイドンの88番とロンドンは、流石ムラヴィンスキーと言える、正統派の筋骨隆々とした演奏でした。もちろんハイドンの交響曲の演奏としては王道を行くものではありませんが、トスカニーニやセル、ライナーなどが目指した引き締まったハイドンの交響曲演奏の流れに近いもので、ムラヴィンスキーならではのポイントは厳格な禁欲性というか非常にストイックな雰囲気があることでしょう。この演奏、もうすこし録音に潤いがあれば一層魅力的なんでしょう。それほど悪い録音ではありませんが、この迫力をよりリアルな音で聴いてみたいと思うのは私だけでしょうか。評価は録音の分を少し差し引いて両曲とも[++++]とします。

このシリーズ、続けましょうか(笑)、乞うご期待。

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tag : 交響曲88番 ロンドン ヒストリカル ライヴ録音

クルト・マズア/イスラエル・フィルの88番ライヴ

今日はちょっと苦手としている指揮者のハイドン。

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クルト・マズア(Kurt Masur)指揮のイスラエル・フィルハーモニック管弦楽団の演奏による、ハイドンの交響曲88番、チャイコフスキーの交響曲6番「悲愴」の2曲を収めたアルバム。収録は2008年6月、テル=アヴィヴのマン・オーディトリウムでのライヴ収録。レーベルはイスラエル・フィルの自主制作レーベルのhelicon classics。

クルト・マズアは暗黒街のボスのようなドスのきいた顔つきの指揮者。顔が恐いから苦手と言うわけではなく、食わず嫌いで、これまでマズアのアルバムはほとんど聴かずにきました。ただ、一時ニューヨーク・フィルの音楽監督を務めるなど、暗黒街ではなくクラシック音楽界でもメジャーな存在であるのは間違いのないところ。そのマズアが珍しくハイドンを振ったアルバムが手元にありましたので、今日は怖いものみたさ半分で取りあげます。もちろん、マズアのアルバムを聴くのも滅多にないことゆえ、この人がどのような音楽を奏でるのかもあまり把握しておりません。いつものように新鮮な心境でマズアのハイドンに対峙します。

クルト・マズアは1927年に旧東独のブリーク(Brieg)、現在はポーランド領のブジェク(Brzeg)に生まれた指揮者。ライプツィヒでピアノ、作曲、指揮を学びました。1960年から64年にかけてベルリン・コーミッシェ・オーパー、1955年から58年と1967年から72年までドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を務めて腕を磨きました。1970年にはライプツィヒ市の楽長とライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者に就任し、この立場は1996年までつづきました。1991年から2002年までズビン・メータの後任としてニューヨーク・フィルの音楽監督を務めたました。最近では2000年から2007年までロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、2002年から2008年までフランス国立管弦楽団の音楽監督と要職を歴任しています。まさに、世界の一流オケの音楽監督を務めている訳です。

このアルバムはマズアが客演指揮者を務めるイスラエル・フィルハーモニックの2008年のコンサートを収めたものゆえ、イスラエル・フィルにとっては録音をリリースする甲斐のあるコンサートだったという事でしょう。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
思ったよりあっさりとした入り。ライヴの緊張感漲るかといえばそうでもなく、非常にリラックスしてまるでセッション録音のように入ります。オケの音色はヴィブラートは弱めと最近の流行に乗ったものですが、癖もなく程よいテンポでハイドンの曲を素直に演奏していきます。弦楽器の響きは木質系のもので、非常に素直で柔らかい響き。内声部の響きにも耳が向くような充実した響き。怖い顔とはまったく逆の純粋無垢な音楽ですね。オケのテクニックは十分で、88番の見本のようなオーソドックスな、なかなかいい演奏です。
ラルゴは少しごつい印象を残しながらの優しい音楽。細かい響きを磨き込むのではなく、荒削りな木炭デッサンのような風情で、これはこれで悪くありません。逆に音楽の骨格が浮かび上がり、ハイドンの曲の構造の面白さがが良く表現されています。朴訥な魅力。
予想通り、メヌエットはマズアのスタイルが一番ハマった演奏。細かいところに気をとられずに音楽をザクザク進めます。別段細かいところが粗い訳ではありません。要は音楽のつくりが全体の構造にフォーカスを当てた物であるという事です。そっと重ねられるティンパニが粋ですね。
フィナーレもマズアのスタイルが活きています。ザクザクと素朴な音楽を刻み、ここぞと言う時の盛り上げも素晴らしいもの。終始一貫してリズムを刻み、大きな音楽のうねりまで含めてざっくりと描いていくところは、個性の深さではだいぶ違いますが、クナッパーツブッシュの音楽に近いものを感じます。最後は観客の暖かい拍手にすぐに包まれて終わります。

マズアのハイドンは、最近多い、音自体を磨き抜いたり、デュナーミクの繊細な変化をコントロールする演奏とは異なり、音楽の骨格にフォーカスを当てた朴訥な音楽でした。漁師料理のような細かいところを気にしないスタンスながら、味は実に旨い鍋のような風情。これはこれで貴重な演奏だと思います。以前聴いた時にはもう少し突っ込んだ個性があればと思ったのですが、どっこいこれはなかなかの演奏だということがわかりました。このライヴをリリースした意図が見えた気がします。このあと収められた「悲愴」も良く聴くとハイドンで感じられたマズアらしさが感じられる演奏。ちょっとマズアの音楽に触れた気がします。評価は[++++]とします。

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クナッパーツブッシュ/ウィーンフィルの88番

今日はヒストリカルな交響曲。

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ハンス・クナッパーツブッシュ(Hans Knappertsbusch)指揮のウィーンフィルの演奏でハイドンの交響曲88番、シューベルトの「未完成」の2曲を収めたCD-R。収録は1958年11月9日。レーベルはEn LarmesというCD-Rではよく見るレーベル。

このCD-Rのジャケットには演奏はベルリンフィルで収録は1950年代と表記してありますが、クナッパーツブッシュの膨大なディスコグラフィーを整理した下記のサイトによると表記は誤りで、ウィーンフィルとの演奏で収録も上記のとおり。ディスクユニオンの店頭で見かけた時にはクナとベルリンフィルとの88番ということで、お宝発見かと思って入手したんですが、そうではありませんでした。ただウィーンフィルとの88番も未入手でしたのよしとします(笑)

Hans Knappertsbusch Discography(英文)

ウィーンフィルとの演奏は調べてみるとDreamlifeから正規盤が出ているようですね。せっかくですからリンクを張っておきましょう。

Knappertsbush88DR.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

先のHans Knappertsbusch Discographyによるとクナの指揮による88番は4種の録音があるようですが、これで3種が入手できた事になります。以前、当ブログでクナの88番を1度取りあげていますので、クナの略歴などはそちらをご覧ください。

2011/03/04 : ハイドン–交響曲 : 超弩演、ハンス・クナッパーツブッシュ/ヘッセン放送響の88番

ヘッセン放送響の88盤はクナッパーツブッシュの鬼才ぶりが遺憾なく発揮された素晴らしい演奏。録音も鮮明で余人には理解できない感興とビックリするようなギアチェンジが聴き所の素晴らしい演奏。音楽とは何であるか深く考えさせる演奏と言えばいいでしょうか。そのクナがウィーンフィルを振った88番はどのような演奏ではないでしょうか。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
分厚いウィーンフィルの響きからはじまる1楽章。クナらしい覇気が漲ってますが、主題からいきなりスローダウン。ヘッセン放送響との演奏より表現が穏やかなのはオケがウィーンフィルということででしょうか。テンポの変化は大きくないもののクナッパーツブッシュらしいざっくりしたフレージングが特徴。録音もすこし鮮明さに欠けますが十分いい録音。会場ノイズのようなものはないので放送録音かセッション録音でしょう。
2楽章のラルゴは幽玄さを感じさせるような穏やかな展開。微妙なフレージングでもなくザクザク淡々とすすめているのに慈しみ深いというクナ独特の風情。オケの精度はあまり高くありません。ワーグナーの楽劇のような重厚さを伴ってこの楽章を盛り上げます。
一番クナらしいのがメヌエット。テンポは落ち着いてクナがその場で指示しているような緊張感につつまれ、荒々しく大胆なフレーズをジェントルなウィーンフィルが演奏。意外と起伏もきっちりつけて迫力も十分。がっつり決まります。
そして期待の終楽章。入りは意外とオーソドックス。重厚なテンポでザクザク刻みながら進みますがどこでギアが変わるのか手ぐすね引いて待つ感じがたまりません。意外とそのまま普通に終わってしまうのではないかとの思いもよぎります。流石ウィーンフィルだけに伝統の重みを感じさせる重厚さ。そう思った矢先、最後の部分でやはり突然ギアチェンジしてテンポを上げ、クナのこの曲の定番、崖から転がり落ちるようなテンポでフィニッシュ。やはり一筋縄では行きませんでしたね。

クナ3種目の88番。ヘッセン放送響とのクナらしさが存分に表現された爆演と比べると穏やかではありますが、逆にハイドンのオーソドックスな演奏に近い雰囲気ながらクナらしさが表現されたバランスのいい演奏でもあります。クナらしい演奏と言う意味ではヘッセン放送響との演奏を薦めますが、こちらも悪くありません。評価は[+++++]とします。クナの88番にはもう一種未聴のものがありますので、引き続き捕獲候補リストに入れて、出会いを待ちたいと思います。

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tag : 交響曲88番 ヒストリカル ウィーンフィル CD-R

【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

最近交響曲のアルバムをしばらく取りあげていないので、手元の未聴盤からの一枚。

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ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)指揮のフィルハーモニア・バロック管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、88番、101番「時計」の3曲を収めたアルバム。収録はロンドンが2007年2月10、11日、88番が2008年11月15、16日、時計が2009年9月12、13日、何れもサンフランシスコの対岸、バークレーにある第一組合教会(First Congregational Church)でのライヴ。レーベルはフィルハーモニア・バロック・プロダクションというオケの自主制作レーベルでしょうか。

指揮者のマギーガンは1950年、ロンドン北部の街、サウブリッジワースの出身。ケンブリッジのコーパス・クリスティ・カレッジやオックスフォードのマグダレナ大学で学び、1985年以来、このアルバムのオケであるサンフランシスコを本拠地にするフィルハーモニア・バロック管弦楽団の音楽監督の地位にあります。またドイツのゲッティンゲンの国際ヘンデルフェスティバルの芸術監督でもあります。フィルハーモニア・バロック管弦楽団はアメリカでも指折りの古楽器オケとみなされるまでになっているとのことです。いつものようにマギーガンのサイトへのリンクを張っておきましょう。

Nicholas McGegan(英文)

マギーガンと言えばヘンデルなんでしょう、かなりの数のオペラ等の録音がリリースされています。ただ、私はあまりヘンデルに明るくないので、マギーガンの力量の程はあまり知りません。それゆえ、真っ白なキャンバスのような状態でマギーガンの奏でるハイドンの音楽を聴きます。

このアルバムはハイドンの交響曲の名曲集のような選曲。普通はロンドンを最後にもってくるのでしょうが、このアルバムでは最初。録音日時を見ると録音順で曲を並べているようです。それぞれの曲の演奏の間は1年ほどの間が空いているので、その演奏のテンションの違いも聴き所となりますね。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
初っ端はロンドン。古楽器オケ特有の雅な響き。ミンコフスキのような響きのダイナミクスを狙ったものでもなく、ブリュッヘンのエネルギー感、ワースのナチュラルさとも違い、端正でバランスの良い力感。フレーズはくっきり,テンポは安定して非常に正統的な演奏に聞こえます。高音弦のキレの良さも感じさせ、癖もなくいい演奏。ちょっと惜しいのはライヴとしては今一歩踏み込んだエネルギー感が欲しいところ。録音は最近のものだけに万全。教会でのライヴですが残響は過度でなく自然なもの。会場ノイズはほとんど聞こえず最後の拍手がなければライヴとわからないくらい。
2楽章のアンダンテは古楽器らしく若干速めのテンポでさっぱりとしたフレージング。ただしアクセントはかなり明確に付けているので、くっきりした感じがして飽きさせません。
メヌエットからはすこし気合いが乗り始め、白熱した演奏に。良く聴くとフレーズごとのアクセントを巧みに変化させて響きを魅力的にしてみます。ピチカートの部分の音量の変化など非常にデリケートなもの。曲自体のメロディーが直裁に聞こえるのはヴァイオリンをはじめとした弦楽器ビヴラートが弱く響きが透明だからでしょう。
フィナーレはライヴなりの盛り上がりをみせますが、弾むようなフレーズを多用して重厚感よりもキレを重視したコントロール。最後はライヴらしく燃え上がりますが、かたや最後まで巧みにアクセントのコントロールが効いている印象も残るロンドンでした。最後は万来の拍手。

Hob.I:88 / Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ロンドンよりも約1年半後のライヴ。出だしの印象はロンドンのときよりすこしリラックスした感じと活き活きとした感じが加わってよりライヴらしい演奏に感じます。オケの響きもすこし荒れは感じられますが一体感は増している感じに。1楽章の後半リズムが変わるところでのモーフィングのような処理は面白いですね。オケ全員が乗って演奏しているような躍動感がポイントでしょう。キレもノリもよくなった2楽章。
2楽章のラルゴは木管楽器の響きの美しさがいきなり素晴らしい演奏。この楽章もリラックスして弾いているようすがつたわってきます。フレージングもゆったり感が感じられてて余裕があります。
メヌエットは舞曲らしい愉悦感が良く出た演奏。ロンドンのときはコントロールに気をつかって巧みなアクセントをつけたり、盛り上げたりと、ちょっと作為に気をとられているような印象もちょっぴり感じたんですが、88番のほうは自然な流れが基調にあり、音楽としてのまとまりも良いように感じます。
フィナーレはこの曲特有のコミカルなメロディーを自然に演奏していきます。時折アクセントを効かせて、最後はテンポを適度に煽ってもりあげ、やはり万来の拍手を浴びます。

Hob.I:101 / Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
最後は時計。最も最近である2009年9月のライブ。マギーガンの演奏の特徴がだいたい把握できてきました。時計の1楽章は非常に変化に富んだ充実した楽章。現代楽器の演奏では大きな視点で流麗でテンポの速めな演奏が聴き映えがするんですが、マギーガンはすこし近視的にフレーズ単位のコントロールでくっきり感を出すことを狙っているようで、大局的な視点が少し弱い感じ。代わりにくっきりしたメロディーと雅な古楽器にしては力強いアクセントを楽しめます。
2楽章の時計のメロディーは予想通り速めのテンポで、フレーズも非常に爽快にすすめます。奏者の反応も俊敏で聞き応えは十分。最近の演奏のほうがオケの反応の鮮やかさを聴かせどころにしてきているように感じます。音量を落とした部分も含めて各奏者がきっちりと時計のリズムに合わせて音楽を奏でていくところはなかなか見事。
メヌエットも少し速め。88番同様自然なフレージングで好印象。
フィナーレも時計の聴き所の一つ。意外とテンポは中庸で、予想したほど速くありません。マギーガンらしくアクセントをくっきりつけて曲の流れよりもフレーズごとのメリハリを重視した演奏。最後の変奏はメロディの絡み合いを分解してみせるような演出。最後に金管がうなり、盛り上がってフィニッシュ。

聴き終わって感じたのは、やはりアメリカのオケだということ。くっきりしたフレージングとハイドンの音楽の時代感覚のようなものとは関係なく、古楽器による音楽的な面白さを追求しているような演奏。マギーガンのくっきりとした表現もそうした印象につながっているような気がします。音楽的にはハイドンの名曲をうまく料理して曲の面白さを表現していますが、ハイドンの演奏としてはちょっと実験的な印象もあります。評価は全曲[++++]とします。

関西地方は今日は台風の影響で大雨や強風で大変だったようですね。東京も降ったり止んだリというところ。せっかくの土曜だったのに出かけなかった人も多かったのではないでしょうか。おかげさまで夕方のスポーツクラブは空いていて、いつもよりゆったり泳ぐことができました。先週の長野旅行で栄養過多ですので、しっかり絞らなくては(笑) 明日も絞ります。

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アイヴァー・ボルトンの奇跡、88番、迂闊者

今日はアイヴァー・ボルトンの交響曲集。

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アイヴァー・ボルトン(Ivor Bolton)指揮のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲96番「奇跡」、最近おなじみの88番、60番「迂闊者」の3曲を収めたアルバム。収録は2008年10月22日、23日、ザルツブルクのモーツァルテウム大ホールでのセッション録音。レーベルはOEHMS CLASSICS。

ボルトンはあまりなじみの指揮者ではありませんが、以前取りあげたオラトリオ「四季」の演奏が抜群によかったので、ボルトンのハイドンの他のアルバムをさがしていました。「四季」のレビュー記事のリンクを張っておきましょう。

2010/12/13 : ハイドン–オラトリオ : アイヴァー・ボルトン/モーツァルテウム管弦楽団の四季ライヴ

「四季」は現代楽器のライヴ演奏ながら古楽器奏法をとりいれた非常に引き締まった響きが印象的な演奏でした。はたして同じコンビの交響曲のセッション録音は如何な出来でしょうか。

交響曲96番「奇跡」(Hob.I:96)1791年作曲
奇跡の導入部は期待したタイトな響き。速めのテンポと引き締まったオケの響きの魅力がいきなり炸裂。しかもコミカルな印象を感じさせる余裕があります。奇跡の1楽章のメロディーの面白さが存分に表現されてます。小編成オケのようで透明な響きが美しいもの。2楽章のアンダンテは各楽器のアタックが鮮明にわかる演奏。演奏によっては優しくゆったりした印象のものもありますが、このアンダンテはクッキリ鮮明なメロディーが痛快。最後の部分の木管楽器の掛け合いが印象的。3楽章のメヌエットもアタックの明解、各楽器が気持ちよく弾き抜けるような演奏。中間部のオーボエのソロ、巧いですね。そしてフィナーレは意外と落ち着いた入り。途中から祝砲が撃たれたような腰に響くアタック。途中一部の楽器がスパートしかけますが抑えて落ち着きを保ったまま最終部へ。興奮の坩堝へと思いきや、あえて低音を抑えて意外に透明感を狙った終結。なかなかのアイデアです。演奏としては、音色とスタイルはトーマス・ファイに似てなくもありませんが、ファイほど曲想を揺らさず、曲に素直な解釈。純粋に古楽器のような音色によるエネルギーとタイトさを狙った演奏のように感じます。

交響曲88番(Hob.I:88)1787年?作曲
つづいて最近よくとりあげる88番。前記事でバーンスタインの激こってりな演奏を取りあげたばかりですね。ボルトンの88番は前曲同様タイトな響きで88番の名旋律を刻んでいきます。まるで別の曲のような引き締まった響き。2楽章のラルゴも同様。鍛え上げた筋肉美の体操選手の床運動をみるがごときラルゴ。3楽章はすこしスピードをあげて爽快感を増します。フィナーレはコミカルなメロディーにかなり表情の変化を付けます。強奏部分の意図的なレガート。これは意外ですが、これまで逆に表情をおさえてフィナーレまで来た意図が分かりました。盛り上がる音楽的感興。これはボルトンの作戦勝ちですね。88番のユニークな曲想をどう表現するかをかなりコンセプチュアルに考えてのことでしょう。いやいや巧みです。

交響曲60番(Hob.I:60)1774年以前に作曲
最後は「迂闊者」。88番のあっぱれな演出で、次のこの曲も期待が高まります。1楽章から抜群なアイデアのキレ。音響的迫力で聴かせる部分もあるんですが、これぞハイドンの機知といわんばかりのフレージングがキレまくってます。鳥肌クラスです。楽譜を単純に弾くところは皆無。すべてのフレーズに生気と創意が宿ってます。見事! 2楽章はアンダンテ。ボルトンの真髄はタイトながら旋律に潜む表情をウィットに富んだ表現でコントロールしていくところ。この楽章はあまりのアイデアのキレに痺れる感じ。3楽章のメヌエットはあえて表情を抑えてカッチリと表現。中間部のトルコ風な曲想をふくめて多彩な表情。4楽章は嵐が過ぎ去るのを待つような激しい曲。そして5楽章は静けさが印象的な美しい曲。前楽章との対比が見事。そして弦のチューニング風景をもりこんだ終楽章。このアルバムに取りあげられた曲はどの曲もハイドンのユーモア溢れる豊かな曲想が特徴の曲。ボルトンの選曲意図が十分につたわる素晴らしい演奏ですね。

気に入りました。ハイドンの交響曲に含まれる機知の真髄をウィットに富んだ表現で聴かせるボルトンのコントロールは見事の一言。もちろん全曲[+++++]としました。奇跡も88番も迂闊者も見事。古典的であり、オーセンティックでもあり、ユーモアに富んでいて、音楽的にも刺激的な演奏と言えば良いでしょうか。これは多くの人に聴いていただきたい素晴らしい演奏。「ハイドン入門者向け」タグもつけちゃいます。売り場ではあまり見かけませんが現役盤。HMV ONLINEで注文したものなので入手もおそらく容易でしょう。こうなると、ボルトンの天地創造も聴いてみなくてはなりませんね。もちろん、同時に入手済みなので手元にあるんですね(笑)

こうゆう楽しみが趣味ならでは。天地創造は大物故今週末にとっておくことにしましょう。

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tag : 奇跡 交響曲88番 迂闊者 ハイドン入門者向け

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2016年9月のデータ(2016年9月30日)
登録曲数:1,361曲(前月比+3曲) 登録演奏数:9,608(前月比+87演奏)
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