エーリヒ・ラインスドルフ/ボストン響の93番、奇跡(ハイドン)

またまた素晴らしい演奏にめぐり合いました!

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エーリヒ・ラインスドルフ(Erich Leinsdorf)指揮のボストン交響楽団(Boston Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲93番、96番「奇跡」の2曲を収めたLP。収録年、収録場所の表記は有りませんが1968年にリリースされたようです。レーベルは米RCA VICTOR RED SEAL。

このLPは最近オークションで手に入れたもの。ラインスドルフはあまり馴染みの指揮者ではありませんが、手元には米MCAからリリースされていたモーツァルトの1番から15番までの初期交響曲の2枚組CDがあり、バランスの良い引き締まった辛口の響きを作る人との印象が残っています。なんとなくモーツァルトよりもハイドンの方が良かろうとの想像が働きます。

一応略歴などをWikipediaからさらっておきましょう。1912年ウィーンで生まれ、モーツァルテウム音楽院で指揮を学び、その後ウィーン大学、ウィーン音楽大学などでチェロとピアノを学んだそう。1934年から1937年までザルツブルク音楽祭でワルター、トスカニーニの助手を務め、その頃から本格的に指揮活動を始めます。1937年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でワルキューレを振り、副指揮者となると翌1938年には常任指揮者となり、特にワーグナーの指揮で名声を得て1939年にはドイツ系レパートリーの責任者に抜擢されるなどとんとん拍子に出世しました。1942年にはアメリカの市民権を得て帰化し、クリーヴランド管、ニューヨーク州ロチェスターフィル、ニューヨークシティオペラなどの音楽監督を歴任。1962年には今日取り上げるアルバムのオケであるボストン交響楽団の音楽監督に就任しRCAレーベルに多くの録音を残しました。ボストン交響楽団の音楽監督は1969年まで務め、その後ウィリアム・スタインバーグが3年務めた後1972年に小澤征爾が就任することとなります。ボストンを退任後は一時ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者を務めますが、世界の著名オケへの客演が中心になり、亡くなったのは1993年でした。オケに厳しい指揮者として知られた人とのこと。

Hob.I:93 Symphony No.93 [D] (1791)
冒頭から図太い低音の響きに支えられたピラミッドバランスなオケの響きに耳を奪われます。キレのいい見事な響き。この曲は赤熱した鉄の塊を打ち出すようなカレル・アンチェルの剛演が耳に残っていますが、それに近い引き締まった響きが険しい規律とバランスを纏って流れてきます。まさに鍛え抜かれたオケが生み出すタイトな響きの魅力に溢れた素晴らしい演奏。しかも小気味よくスタイリッシュときていますので言うことなし。
続くラルゴ・カンタービレでもテンションを緩めることなく一貫してタイトな響きが続きます。テンポはもちろん落ちますがフレーズのエッジをキリリと強調して緊張感を保つ見事なコントロール。モーツァルトでは表情の硬さも感じられたのに対し、ハイドンではラインスドルフの引き締まった音楽が見事にハマり、素晴らしい説得力を帯びています。
これまでの演奏から予想される通り素晴らしかったのが続くメヌエット。彫りの深さと響きの険しさがこの曲の本質をえぐる快演。重くもならず軽くもなくがっちりとした推進力に満ちた揺るぎない音楽。音量を上げて聴くと素晴らしいオケの響きに包まれます。力強い筆さばきの魅力全開です。これぞハイドンのメヌエット!
そして最後は正攻法で仕上げたフィナーレ。全盛期のアメリカのオケの底力を思い知らされます。セルのクリーヴランド、ライナーのシカゴ、オーマンディとフィラデルフィアなどに比べても全く劣らぬ素晴らしい響きをラインスドルフがボストン響から絞り出しました。最後まで手に汗握る迫力を冷静に生み出す見事なコントロールに驚きます。

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Hob.I:96 Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)
LPをひっくり返して続く奇跡。ラインスドルフの見事なコントロールは変わるはずもなく、冒頭から引き締まりまくった響きに耳を奪われるのは言うまでもありません。中庸なテンポでこの曲なミラクルな感じをじっくり描いていくのは先日レビューしたオーマンディ盤と同様。この曲は淡々と険しく攻め込むのがいいようです。オーマンディの方が化粧が上手く表情豊かではありますが、こちらは剛直な良さがあり甲乙つけ難いですね。
続くアンダンテは落ち着き払った入りから、徐々に険しく盛り上がり、起伏の大きさと鮮明な陰影によって実に深い音楽を奏でます。弱音部のリラックス度合いも音楽の深さを増す要因。そしてメヌエットは前曲とは異なり少し力を抜いてきます。この曲ではアンダンテに力点をおいたからでしょう。ザクザクと刻む低音弦に支えられた揺るぎない音楽。中間部のオーボエの明るい響きがこの演奏に華やかさを加えています。
フィナーレはオケの底力の見せ所。軽やかな入りから不気味な迫力が漂い、曲が進むにつれ徐々に力感を増しながらザクザクと低音弦が唸り始めます。気づくと力みとは無縁の余裕たっぷりのクライマックスに到達。やはりラインスドルフは冷静でした。

ジャケットを見ると微笑みを浮かべながら椅子に座るラインスドルフの姿。この演奏の自信のほどをうかがわせる微笑みと受け取るのが正しいでしょう。全盛期のボストン響の鍛え抜かれた響きが堪能できる見事な演奏でした。険しい響きを生み出しながらもニュートラルでスタイリッシュさを感じさせるのがラインスドルフの真骨頂でしょう。LPの録音の良さもありますが、手元のモーツァルトの交響曲集と比べてもハイドンとの相性の方が良いのは明らか。この2曲以外にラインスドルフのハイドンの録音があるかどうかはわかりませんが、他の曲も聴いてみたくなる出来でした。評価は両曲とも[+++++]とします。

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tag : 交響曲93番 奇跡

【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(前編)

突然ですが、新企画です!

日頃は1枚1枚のアルバムをレビューすることに徹しておりますが、私の興味の矛先がだんだんマニアックになってきて、レビュー対象もこのところマイナー盤やLPが多くなってきております。自然と読者の方もハイドンマニアの方中心になっており、読者層がなかなか広がらない状態で、これはとりもなおさずハイドンの音楽の素晴らしさを世に広めるという当ブログのミッションの達成が危ぶまれるというもの。ということで、このマンネリズム的状況から脱出すべくハイドンの有名曲のベスト盤をあえて世に問おうという起死回生の新企画を立ち上げます。

私自身は以前ブログに書いた通り、人が良いと勧めるものを聴くということはあまり好まず、自分の耳で聴いて、良い演奏を発掘するすることに無類の喜びを見出し、知る人ぞ知る名盤を発掘する巡礼の旅を続けております。もとより世の中に氾濫するベスト盤的な情報はあんまり信用しておらず、実際に雑誌などで勧められているハイドンのベスト盤などよりも素晴らしい演奏が山ほどあることを長年かかってわかったこともそうした思考に至る理由の一つです。ただし、そんな私も振り返ってみると、これまで雑誌などで目に留まった記事などを頼りに暗中模索的に1枚ずつアルバムを手に入れることを繰り返してながらかなりの数のアルバムを聴いてきた経験があるからこそ、そうした境地に至ったのかもしれないと改めて思った次第。

ということで、新企画はハイドンの音楽の素晴らしさをより多くの人に知っていただくため、膨大なハイドンの録音の収集とレビューを続けている当ブログだからこそ選べる、ハイドンの音楽の真髄に迫る名演奏を選定するもの。選定方針としては、多少の入手のしにくさなどには目をつぶり、その曲が持つ魅力を最も深く味わえる演奏とし、世評は意識せず、私自身が最も好きな演奏を選ぶというのが大方針。日頃ヒストリカルな演奏から古楽器、現代楽器を問わず広く色々な演奏を取り上げておりますが、本企画でもそうした演奏スタイルなどに拘らずに選定していこうと思います。また、選定対象は過去にレビューに取り上げたアルバムが多くなりますが、当ブログの記事を隅々まで読まれている方にも新鮮さを確保するため、ブログに未掲載の演奏も選定対象として加えました。名付けて「ハイドン音盤倉庫特選」シリーズ。手始めにハイドンの交響曲の有名曲として、ザロモンセットの前半6曲の特選盤を新企画最初の記事としてしたためました。



Hob.I:93 Symphony No.93 [D] (1791)

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2010/06/13 : ハイドン–交響曲 : 剛演、アンチェルの93番

作曲順では96番「奇跡」がザロモンセットの最初の曲ですが、ホーボーケン番号が一番若いためにザロモンセットでも最初に収録されることが多い曲。選んだのはチェコの巨匠、カレル・アンチェル指揮のベルリン放送交響楽団の演奏で、1957年4月24日の放送用録音。手元の49種の演奏の中で飛び抜けて印象的な演奏。ブログ初期に取り上げていますが、未だこれを超える演奏には出会っていません。赤熱する鉄の塊から刀鍛冶が渾身の力で刀を打ち出していくかのような激熱の演奏。ハイドンらしい構成感が美しい曲ですが、この典雅な曲からこれほどのエネルギー溢れる演奏が生まれるとは! この演奏を聴くまではこの曲はビーチャムやヨッフムの味わい深い演奏がお気に入りでしたが、この演奏によって曲の印象は一変。ハイドンの楽譜の中にこのエネルギーが込められていたことをアンチェルが見抜いたのでしょう。この1枚でカレル・アンチェルの凄さを知った次第。


Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)

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2013/02/09 : ハイドン–交響曲 : カルロス・クライバー/ケルン放送交響楽団の驚愕1972年ライヴ!

ご存知びっくり交響曲。104番「ロンドン」と並んで人気のある曲。この驚愕こそ世の中の人に最も知られたハイドンの曲であり、ハイドンのイメージを良くも悪くも代表する曲。2楽章のびっくりばかりが一人歩きしていますが、この曲の真髄は1楽章から4楽章までの明確な起承転結の構成感と優美なメロディー。名演奏ひしめく手元の117種の演奏から私がこの曲の決定盤に選んだのは、カルロス・クライバー! クライバーの驚愕には3種の録音がありますが、これはその中でも最も古い1972年のケルン放送交響楽団とのライヴ。世界をあっと言わせたウィーンフィルとの「運命」のDG盤が1975年のリリースですので、それより前の若さみなぎるクライバーの演奏。残念ながら海賊盤しかリリースされていませんが、この録音が音質も一番いいもの。クライバーが振ると、もちろん全編に燃えたぎる力感と優美さが調和する、まるでミケランジェロの彫刻のような存在に昇華されます。最初から最後までクライバーの天才ぶりに圧倒される素晴らしい演奏です。


Hob.I:95 Symphony No.95 [c] (1791)

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2010/04/21 : ハイドン–交響曲 : 枯淡、シューリヒトのハイドン

ザロモンセットの中で唯一の短調の交響曲。それゆえ比較的地味な存在ですが、1楽章冒頭の険しさ、全編に散りばめられた美しいメロディー、そして終楽章の燃え上がるようなクライマックスが魅力の曲。手元の49種の演奏の中で私が最も愛する演奏はカール・シューリヒトがシュツットガルト放送響を振った1955年4月5日の録音。このアルバムは直接レビューしておりませんが、上のブログ初期の記事で86番を取り上げた際にこのアルバムに触れています。シューリヒトのハイドンでは104番ロンドンと86番が味わい深い名演として有名ですが、どっこいこの95番こそシューリヒトの素晴らしさが味わえる演奏です。柔らかくしなやかに響くオーケストラですが、造形は端正で、ハイドンの交響曲の骨格をしっかりと描き、その上そよ風のような心地よさと滲み出るような味わいの深さ。それがこの95番交響曲のもつ可憐な表情を描き切っています。アンダンテの美しさはこの世のものとは思えな境地、そして終楽章の自然で流麗なのにものすごい迫力に至るところは見事の一言!


Hob.I:96 Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)

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2010/02/11 : ハイドン–交響曲 : アバドの「奇跡」

1791年、ハイドンが最初にロンドンを訪れた時、最初に作曲した曲。「奇跡」というニックネームはこの曲の演奏時にハイドンを一目見ようとハイドンの周りに観客が殺到した際、会場のシャンデリアが落下したものの、奇跡的に一人の怪我人も出なかったという逸話によるもの。気のせいか曲自体にもミラクルな感じがするところが面白いところ。手元にある67種の演奏から、このミラクルな曲のミラクルな演奏といえば、クラウディオ・アバドがヨーロッパ室内管を振った1986年の演奏です。この時期、アバドはヨーロッパ室内管とザロモンセットから8曲と協奏交響曲などを録音していますが、そのシリーズの中でも飛び抜けてこの奇跡が素晴らしい出来です。奇跡といえばワルター、クリュイタンスなどの名演盤を推す方もあろうかと思いますが、このアバドの演奏は若手中心のヨーロッパ室内管の驚くほど俊敏な反応の良さで聴かせる演奏。アバドのニュートラルな指揮はこの曲の純音楽的な構成の面白さを際立たせ、終楽章の火を吹くような鮮やかさはまさにミラクル!


Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)

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2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット

ハイドンが第1回目のロンドン旅行中の1792年に作曲した曲。熱狂的に迎えられたロンドンでの充実した日々を経て、交響曲の筆致も熟成を極めたハイドンが書いたハ長調の晴朗、端正な曲。ニックネームがないことから比較的地味な存在ですが、この端正な曲には端正な演奏が似合います。手元の49種の演奏から選んだのがシギスヴァルト・クイケンの振るラ・プティット・バンドによる1993年の録音。古楽器のザロモンセットの録音には古くはグッドマン、ブリュッヘン、ミンコフスキなどのものがありますが、私が一番好きなのはこのクイケンのもの。どの曲も端正な演奏ながら音楽がイキイキとした名演奏なんですが、中でもこの97番は古楽器オケが気持ちよく鳴り響く名録音です。この曲のメヌエットは典雅の極み。古楽器の響きに包まれるエクスタシー。リズムのキレも最高。最後まで一糸乱れぬ古楽器オケによる最高の演奏です。


Hob.I:98 Symphony No.98 [B flat] (1792)

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ザロモンセット前半最後の98番。97番同様第1回のロンドン旅行中の作曲。98番もザロモンセットの中では地味な曲ではありますが、緊密な構成であることはもちろん、美しい緩徐楽章、機知に富んだ展開に溢れ、特に終楽章の最後にチェンバロのソロが登場することで有名な曲。この曲の52種の演奏から私が選んだのは、オイゲン・ヨッフム指揮のロンドンフィルによる1972年録音のアルバム。ヨッフムとロンドンフィルとのザロモンセットは多くの方の愛聴盤となっているいわば定番。98番は特に終楽章に一貫性を持たせるのが難しい曲ですが、ヨッフムの速めのテンポによる非常に流れの良い演奏と自然なデュナーミクによって、まるで絵巻物を見ていくように音楽が一貫して流れる心地よさを味わえます。当初、少し前にレビューしたヨッフムが1962年にベルリンフィルを振った殺気を感じるほどの切れ込みと迫力を味わえる録音を選ぶつもりでしたが、98番についてはロンドンフィル盤の流麗な見通しの良さの素晴らしさが勝ると確信し見直しました。この曲には他にドレスデンシュターツカペレとの盤の燻し銀の響きを味わえる録音もあり、3者とも素晴らしい演奏です。
(参考)2014/04/25 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ベルリンフィルの88番、98番(ハイドン)



以上、ザロモンセット前半6曲の名盤セレクションでした。本記事を書くために色々なアルバムを聴き直しましたが、それはそれで楽しい時間でした。有名曲だけに、読者の皆様も色々と愛聴盤があろうかと思います。ご意見、お叱りなどありましたらコメントの方にどうぞ!

ちょっと間を置いて、ザロモンセットの後半6曲についても書きたいと思いますのでご期待ください。

※本記事で取り上げた演奏について所有盤リストには"Best Choice of Works"というリンクを貼り付けました。

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【新着】コリン・デイヴィス/LSOのライヴ交響曲集(ハイドン)

久々に交響曲の新着アルバム。待望のアルバムですね。

ColinDavisLSO.jpg
HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS

サー・コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)指揮のロンドン交響楽団の演奏によるハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、93番、97番、98番、99番の演奏を収めたアルバム。収録は2010年から11年にかけて、ロンドンのバービカンセンターでのライヴ。収録日は各曲のレビューに記載しましょう。レーベルはご存知LSOの自主制作LSO Live。

コリン・デイヴィスはアムステルダム・コンセルトヘボウ管とザロモンセットなどをPHILIPSに録音したアルバムが有名ですが、CD化されたPHILIPS盤は音質が往時のLPのキレの良い響きの魅力まで届かず、私はLPの方を愛聴しています。コリン・デイヴィスのアルバムはいままで結構取りあげているんですね。

2013/04/21 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウの「春の祭典」
2013/04/19 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】コリン・デイヴィスの88番、99番
2011/10/28 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/バイエルン放送響の「ロンドン」ライヴ
2011/08/19 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の熊、雌鶏
2011/08/13 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番3】コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団のネルソンミサ
2011/06/16 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-2
2011/06/14 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-1
2010/07/17 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィスの時計ライブ

なんと、コリン・デイヴィスの略歴を今まで紹介してきませんでしたので、このアルバムを聴きながら、ちょっと調べてみました。生まれは1927年、イングランドのロンドンの南のサリー州のウェーブリッジ(Weybridge)。貧しい家だったようでピアノを買う事ができず、最初は安価に入手できたクラリネットを学びはじめ、ロンドンの王立音楽大学にすすみます。どうもあまりピアノが上手くなかったようで、指揮者になりたいと思う一方、大学では指揮を学ぶ事ができなかったそう。また一時兵役につき、近衛騎兵連隊のクラリネット奏者として働いていました。ウィンザーに駐留中、ビーチャムやブルーノ・ワルターのコンサートを何度も聴く機会に恵まれ、兵役を終えると、王立音楽大学のかつての生徒を集めてカルマー管弦楽団を立ち上げフリーランスで指揮活動をしていました。クラリネット奏者として働く一方、指揮者としての最初のチャンスは設立されたばかりのチェルシー歌劇場で「ドン・ジョヴァンニ」を振り、すぐにバレエ団の指揮者に就任しますが、3ヶ月で倒産してしまいました。ようやく1957年にBBCスコテッシュ管の副指揮者となり活躍し始めます。転機は1959年、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで体調不良のクレンペラーに代わってドン・ジョヴァンニを振り、これが評判を呼んで有名になりました。また翌年にはグラインドボーンで今度はビーチャムの代役で「魔笛」を振りこれも成功。以後はサドラーズ・ウェルズ・オペラ、ロンドン交響楽団、BBC交響楽団などで活躍しました。1971年からはショルティの後任として、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の首席指揮者に就任。その他、ボストン交響楽団の首席客演指揮者、バイエルン放送交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団名誉指揮者、そして1995年にこのアルバムのオケであるロンドン交響楽団首席指揮者に就任。オケの自主制作レーベルであるLSO Liveからはかなりの数のアルバムがリリースされています。とくにティペット、シベリウス、ベルリオーズを得意としている人という印象。亡くなったのは昨年の2013年の4月、85歳ということでした。

ということで、このアルバムはデイヴィスが80歳を超えた最晩年の貴重なライヴ。ザロモンセットが揃わないのが惜しいところですが、選曲も実に渋いところを突いています。特に、97、98、99番を取り上げるところなど、ハイドンの真髄はここにありと言わんばかりの渋さ。

聴くとすべての邪心を捨て、虚心坦懐にオケを鳴らすまさに燻し銀のハイドン。もともとアポロン的構築感と中庸の美学を重んずるハイドンを聴かせていただけに、最晩年に至って、力が抜け、オケに身を任せながらハイドンの交響曲の面白さを描ききる素晴しい演奏です。録音もSACDらしい自然なリアリティに富んだ素晴しいもの。いや、以前聴いた天地創造がちょっと期待と異なる演奏だっただけに、これほどの演奏とは思いませんでした。曲ごとに聴き所を書いておきましょう。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
2011年10月2日、4日のライヴ。バービカンセンターに轟くオケの分厚い響きが痛快。音量を上げて聴くと、部屋がバービカンセンターになったような素晴しい迫力。会場のノイズや咳払い、拍手はカットされていますが、リアリティは失われていません。スピーカーから等身大のオケが吹き出してくるよう。デイヴィスのコントロールは極めてオーソドックス。奇を衒うようなところは皆無。1楽章は分厚いオケに圧倒されます。
アダージョに入っても大河の流れのように、滔々とした音楽の流れが印象的。時折デイヴィスの声らしき鼻声がうっすらと聴こえます。すこし穏やかになったと思いきや、中間部でオケが炸裂。またしてもオケの風圧を感じるような図太い響き。終盤になるに従って音が溶け合うようになり、長い間と木管の掛け合いの美しい響きにとろけそう。
メヌエットは予想どおり、グイグイとオケの迫力で聴かせます。楽章間のバランスのよい構成はデイヴィスなならでは。そして聴き所のフィナーレの入りは軽やか、すぐに怒濤のオケに飲み込まれます。オケのスロットルのコントロールが見事。フルオーケストラの分厚い響きと軽やかなヴァイオリンの音階を自在に切り替えながら、ハイドンの名旋律を落ち着いて聴かせます。リズム感の良さは流石デイヴィス。演奏スタイルどうこうを全く意識させない、正統派の堂々としたハイドンの名演奏。

Hob.I:93 / Symphony No.93 [D] (1791)
2011年12月11日、13日のライヴ。前曲とは別の日ですが、音響は非常に良くそろっています。分厚いLSOの響きはそのまま。威風堂々とした序奏にたじろぎます。主題に入ってもあまりに素晴しいオケの響きにのけぞらんばかり。正統派の演奏の魅力にただただ立ちすくみます。93番がこれほど力感に満ちて響くとは。キレは適度ながら、推進力とリズムの正確さは素晴しいものがあります。1楽章は均整のとれたギリシャ彫刻のごとく圧倒的な存在感。
ラルゴは独特の情感を醸し出しながら、やはりオケの迫力の素晴しさで聴かせます。抑えた表現のところでもそのうちオケの響きに飲み込まれる予感が緊張をはらみます。
メヌエットは畳み掛けるよう。次々と響きの波が襲いかかり、手に汗握る展開。そしてフィナーレは少し推進力をおとしてじっくりと攻める感じで入り、ところどころリズムに力が漲って、最後の盛り上がりへ向けてオケが空ぶかしで煽ります。最後は冷静に盛り上がってフィニッシュ。

Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
2010年5月6日、9日とこのアルバムでは一番古い日付。好きな97番。デイヴィスのこの演奏スタイルで聴かされるとあって、聴く前から身構えます。デイヴィスは1楽章の機知にあふれた曲想を相変わらず大局的な視点でグイグイ音にして行きます。前2曲にくらべて少し枯れて聴こえはするものの、オケの迫力は相変わらず。人間80歳を越えてこのような迫力に溢れた音楽を生み出せることに驚きます。アダージョ、メヌエットは前2曲同様、オケの迫力をベースにした上での自然な表現。フィナーレも最後に間をしっかりとってハイドンの仕込んだユーモアをきっちり描いて終わります。いやいや見事。

CDを入れ替えて2枚目。

Hob.I:98 / Symphony No.98 [B flat] (1792)
2011年12月4日、6日のライヴ。冒頭から力漲るサウンド。やはり前曲でちょっと枯れた印象があったのは録音の期日が古かったからでしょうか。この曲では響きは鮮明、デイヴィスのコントロールは手綱のテンションが少し下がって、オケに身を任せているようです。刻むリズムの迫力に徐々に打たれて行きます。コントロールはしなやかさを増し、実に柔らかい響きを造っています。このアルバムでもっとも自然体な演奏スタイル。1楽章終盤はすこしリズムが重く感じました。
アダージョははじめてぐっと沈み込みます。これまで中庸なリズムと大河のような流れの一貫性で聴かせてきたデイヴィスですが、この曲のアダージョに至って情が深くなり、音楽に陰りが見えまず。ほんの少しの違いですが、すこし感情移入の方にに振れてきました。
メヌエットに入っても力の抜け具合はいい感じ。フィナーレは意外に朴訥な感じで入ります。最後に鍵盤がコミカルに加わるイメージがあるので、そこここにその前振りがあり、このころの交響曲でも独特のユーモラスな曲調。デイヴィスも力が抜けてゆったりとコントロールしているよう。最後はリズムを強調して、珍しく誇張した表現。金管が一音とちりますが、気にせず終了。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
2011年5月28日、6月2日のライヴ。1楽章はこのアルバムでも一番踏み込んだ演奏。穏やかかに聴かせる演奏が多い曲ですが、リズムが活き活きとして快活。デイヴィスの棒が冴えているのがわかります。穏やかな曲なのに素晴しい高揚感と引き締まった響きにぐっと来ます。
アダージョに入るとオケの奏者のソロが絶妙なキレを聴かせ、絡み合うメロディーの綾に魅せられます。時折大波のように押し寄せる弦楽器の艶やかなこと。絶品。デイヴィスも唸ってます。中間部の展開の迫力はこのアルバム共通。
メヌエットはやはりスロットルコントロールによってオケが自在に吹き上がる快感に溢れたもの。ティンパニのリズムが冴え、ホールの空気を自在に揺らしている感じ。最後はかなり溜めてフィナーレの入りを引き立てます。
フィナーレはアルバムの最後にふさわしく神々しいばかりに堂々とした演奏。途中のコミカルなフレーズは抑え気味でオケの迫力を際立たせるのでしょうか。正統派のオケの魅力を振りまくような素晴しい迫力。最後は本当に怒濤の迫力で締めます。バービカンセンターに本当は鳴り響いたであろう拍手がカットされているのが惜しいところ。素晴しい演奏でした。

コリン・デイヴィスの亡くなる2年前の最晩年に手兵ロンドン交響楽団を振ったハイドンの交響曲5曲を収めたアルバム。夕暮れのビッグベンを写したジャケットの写真といい、ホールの雰囲気をそのまま伝える鮮明な録音といい、そしてライヴらしい活きた音楽の流れといい、ハイドンを聴くには絶好のアルバム。コリン・デイヴィスと言う人の生き様を音にしたような、素晴しいライヴでした。人は80歳を越えて、これほど純粋無垢な音楽を奏でられるものなのでしょうか。特に99番は絶品。フィナーレこそ岩のような堅牢さを聴かせたものの、デイヴィスが踏み込むようすがよくわかる演奏。そして冒頭のオックスフォード、93番も名演です。期待した97番、98番は他の3曲の素晴しさと比べるとちょっと差がついてしまうというのが正直なところ。オックスフォード、93番、99番を[+++++]、他2曲は[++++]ということにしておきましょう。

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トーマス・ビーチャム/ロイヤルフィルの93番

いままで取りあげていなかった有名盤。

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サー・トーマス・ビーチャム(Sir Thomas Beecham)指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ハイドンのザロモンセットの前半6曲を収めたアルバムから、今日は93番を取りあげます。収録は1957年10月4日、パリのサレ・ワグラムでのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。

ビーチャムのハイドンは古くから名盤として親しまれていますが、なぜか交響曲をこれまで取りあげてきませんでした。これまでレビューしたのは四季のみ。しかも非常にあっさりと取りあげたのみ。

2012/09/02 : ハイドン–オラトリオ : トーマス・ビーチャム/ロイヤル・フィルの四季

ビーチャムの紹介は上の記事をご参照ください。ビーチャムのハイドンはまさに古き良き時代のハイドンの演奏というのがぴったりでしょう。鳴らしすぎず、踏み込みすぎず、こだわらずという一貫した姿勢でハイドンの交響曲をこなしていきますが、そこには、ジェントルで高雅な雰囲気が漂い、えも言われぬ雰囲気を醸し出します。まさに奏者たちが余裕をもって楽しんでいるような演奏です。

わたしは、たまにではありますが、ビーチャムのようなハイドンが無性に聴きたくなることがあります。峻厳なドラティの演奏とはまた違った魅力があるわけです。

Hob.I:93 / Symphony No.93 [D] (1791)
しっかりと芯のある響き。1957年とは思えない程よい鮮明さ。ゆったりと雄大な序奏から入ります。この曲の刷り込み盤となっている、カレル・アンチェル盤の狂気に近いザクザクとした展開とは異なり、あくまでも穏やかかつ中庸を保った演奏。ただ良く聴くと、ヴァイオリンのボウイングには力が宿り、高音域のキレもそこそこあり、この曲に内在する迫力の片鱗を感じさせます。1楽章は穏やかなテンポに乗った燻し銀の出来。踏み込みが足りない印象は微塵もなく、テンポ設定、デュナーミクのコントロール、フレージングのすべてが高次のバランスで成り立つ完成度の高い演奏。簡単に真似の出来るものではありません。
素晴しいのが続くラルゴ・カンタービレ。穏やかさは変わらないのですが、穏やかな中にもキリリと引き締まった風情があり、音楽が進むにつれて要所をわきまえたアクセントと休符で、クッキリとしたメリハリがつきます。まさにジェントルな演奏。
メヌエットは記憶のなかのビーチャムの演奏とは少し印象が異なり、ヴァイオリンの鋼のような張りのある音色にちょっと驚かされます。これまでの楽章よりもテンションが上がり、やはり穏やかながら、クッキリ度がまた一段上がります。
そしてフィナーレは、高貴さの範囲での盛り上がり。髪のセットが乱れないスタイリッシュな盛り上がり。イギリス紳士の矜持を一番感じる楽章。燃え上がるような爆発も聴きたいのですが、ビーチャムのような粋な盛り上がりも良いものです。歌舞伎の型にはまった荒事が粋なように、ビーチャムのハイドンもビーチャム独特の美学の上に成り立つもの。最後は音量ではなく、テンポを一段ギアチェンジして高揚感を演出。

ビーチャムのハイドンの交響曲の演奏。何度聴いても素晴しい完成度。先日聴いたパイヤールの演奏でも感じた、古き良き時代のハイドンの典型的なイメージの演奏です。伝え聞くところではビーチャムのリハーサルは通しの演奏を好み、細かいところをさらう事は嫌ったそう。音楽全体のつくりにコントロールのポイントがあり、細かいつくりはオケにゆだねているからこそできる、このバランスなのではないかと想像しています。踏み込みすぎず、さりとて踏み込み足りないところはない絶妙な音楽。これぞハイドンです。評価は[+++++]とします。ザロモンセットのアルバムとしても、お薦めできる良い演奏です。

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tag : 交響曲93番 ヒストリカル

オイゲン・ヨッフム/ロンドンフィルの93番

今日は先日聴いたヨッフム指揮のドレスデン・シュターツカペレの交響曲93番を受けて、比較のためロンドンフィル盤を取りあげましょう。

JochumLPOSet.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

オイゲン・ヨッフム(Eugen Jochum)指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲93番から104番までの12曲、いわゆるザロモン・セットを収めたアルバム。今日は先日と同一曲である交響曲93番を取り上げます。93番の録音は1972年4月の録音。収録は全曲ロンドン近郊バーキングの公会堂。写真は現役盤ですが、私の手元にあるのはロンドンの風景画のジャケットの輸入盤のレギュラー盤で4枚組、、、とここまで書いたところで気づいたんですが、現役盤は5枚組! 上のHMV ONLINEのリンクの収録曲目を見てみると、CD5に手元にない録音が収められているではありませんか! 61年ベルリンフィルとの88番、58年バイエルン放送響との91番
、そして62年ベルリンフィルとの98番。ん~、これは手に入れなくてはなりません。こう言うことってたまにあるので油断なりません。ちょっと脱線してしまいましたね。

先日取りあげたドレスデン・シュターツカペレとの93番のレビュー記事へのリンクを張っておきましょう。

2011/05/28 : ハイドン–交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ドレスデン・シュターツカペレの93番

Hob.I:94 / Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlagk" 「驚愕」 [G] (1791)
落ち着いた響きの入り。録音年が近いだけに演奏は非常に似た傾向。速めのテンポでぐいぐい進めるところは流石ヨッフム、音楽の流れを切らさず流麗な迫力で聴かせきってしまいます。音響的にはドレスデン・シュターツカペレのほうがオケに力が漲っていて、響きも重厚な印象がありますが、残念なことに録音が平板な印象で聴き劣りします。こちらのロンドンフィルはオケ自体の充実度合いでは負けている印象があるものの、比較すると録音に瑞々しさと実体感があり、アルバムとしての聴きごたえはこちらの盤の方に軍配が上がります。タイミングをみると今日取り上げるロンドンフィル盤の方がどの楽章も若干速め。ところどころレガートを効かせて変化を付けていきます。速めのテンポで一気に仕上げる筆の勢いを楽しむような1楽章。
2楽章のラルゴ・カンタービレ。1楽章につづき流れに乗った、力の抜けた序奏からはじまり、途中でずしんと力漲るメロディーがはさまり、また力の抜けた流麗なフレーズに戻ります。ヨッフム老練のタクトで練りも滞りもなく適度なめりはりで、適度にさらっと弾いていきます。力を入れる部分の余裕加減がハイドンを振り慣れているヨッフムならではでしょう。音楽が切れ目なくつながっていく感じ。最後は適度にテンポをおとして情感を増します。
3楽章も必要十分な力感と言うか、音楽が続いている感じなので曲の一部という一体感は十分。ティンパニの抑えたトレモロが妙に効果的。後半少しザクザクした粗さを見せ変化を付けるあたりも効果的。
間を空けずにフィナーレに突入。いい意味で軽さが特徴。大オーケストラの迫力で聴かせるのではなくクイックなテンポ感とウィットに富んだフレージングで聴かせるところはヨッフムならでは。良く聴くとフレーズごとの演出はかなり変化を付けているんですが、通して聴くと非常に自然な流れに聴こえます。力みなど全くなく、音符を音楽にするのを楽しむような軽い演奏。クイックなインテンポが心地いい演奏。

全般にドレスデン・シュターツカペレ盤よりも旋律の流れとフレージングの流麗さの印象が残る演奏。ハイドンのザロモンセットの曲の演奏として広くおすすめできる演奏ということができるでしょう。評価はそれでも[++++]と、ドレスデン・シュターツカペレ盤と同じ評価としておきます。これといって欠点のない演奏ですし、流麗さはなかなかのものですが、逆に突き抜けたもの感じられないという面もあります。93番にはアンチェルの度肝を抜く名演などもあります。また、ヨッフムで言えばモーツァルトの交響曲の素晴らしい演奏もあり、このハイドンの演奏が、他の演奏で聴かれる最上のヨッフムの演奏を知るものとして、期待を満たすものとするにはちょっと抵抗があるというところ。

ここ数年、いろいろライヴ盤がリリースされているヨッフムのこと。晩年のライヴのハイドンの交響曲など未発掘の録音がまだ眠っているような予感がしますので、掘り起こしに期待したいと思います。

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tag : 交響曲93番 おすすめ盤

オイゲン・ヨッフム/ドレスデン・シュターツカペレの93番

だいぶご無沙汰してしまいました。本当は先週が忙しく、今週はもうすこし余裕があるかと思ったんですが、いろいろあって、結果的に地獄ような忙しさ。早朝から深夜まで、おまけに本日も早朝からさきほどまで仕事でした。ブログを更新できないほど忙しいのはやはりストレスですね。ドタバタな一週間でしたが、今日のレビューはちょっと気になってたヨッフムのマイナーな録音。

JochumDresden.jpg

オイゲン・ヨッフム(Eugen Jochum)指揮のドレスデン・シュターツカペレ(Staatskapelle Dresden)の演奏でハイドンの交響曲93番、94番「驚愕」、95番、98番の4曲の演奏を収めたアルバム。収録は1967年11月、ドレスデンのルカ教会でのセッション録音。レーベルはBERLIN Classics。今日もそこそこ忙しく時間もないので、この中から93番のみを取りあげましょう。

ヨッフムにはこの録音の少し後の1971年から73年にかけてロンドンフィルとのザロモンセットの録音がDeutsche Grammophoneにもあり、そちらの方が広く知られたアルバムですね。一方こちらのアルバムは現在は廃盤になっているようで、その存在もあまり広く知られていないのではないでしょうか。当ブログではヨッフムのロンドンフィル盤もまだ取りあげていませんが、まずはマイナーな方から取りあげるべきとのことで、今日のアルバムを選定しました。

ヨッフムについて過去に3回取りあげてきていますので、いつものようにリンクを張っておきましょう。

2010/12/29 : ハイドン?交響曲 : オイゲン・ヨッフム/ロンドン・フィルの軍隊、時計ライヴ
2010/09/02 : ハイドン?協奏曲 : フルニエ/ヨッフムのチェロ協奏曲
2010/08/05 : ハイドン以外のレビュー : ヨッフム/バンベルク響のモーツァルト後期交響曲

ヨッフムは皆さんおなじみの指揮者かと思いますが、ブルックナーやモーツァルト、ブラームス、果てはオルフのカルミナ・ブラーナなどなど得意分野も多く非常に味わい深い演奏をする人。私自身は以前のブログに書いたように、モーツァルトの交響曲の演奏が一際印象に残っています。 1902年生まれで、亡くなったのが1987年3月26日とのこと。それほど昔のことではないように記憶していますが、すでに20年以上も前だったんですね。特に最晩年のブルックナーのライヴアルバムはかなりの数がリリースされ愛聴盤にされている方も多いのではないでしょうか。

交響曲93番(Hob.I:93)1791年作曲
93番独特の楔を打つような序奏。録音が若干平板な印象を与えているような雰囲気ですが、その録音を通して聴こえる響きは非常に鮮明な音響。ドレスデン・シュターツカペレと言えばケンペとのリヒャルト・シュトラウスの分厚い弩迫力の音色を思い起こさせますが、ヨッフムが振るとキレのいい鮮明な響きに変貌。ヨッフムのコントロールの特色を感じさせる1楽章はいきなりフルスロットルで音響ではなく音楽として大迫力の演奏。インテンポで畳み掛け、ヴァイオリンキレキレ。テンポはヨッフムらしく速めで練りはあまりなく変化も少なめですが、大きな流れをしっかり保ちながらディティールも抵抗なくさらっと流れ、不思議と有機的なフレージング。一貫して速めのテンポできりっと引き締まった1楽章。素晴らしい緊張感で1楽章の音楽的構造を表現。
2楽章のラルゴは、こちらもヨッフム独特ののさらりとした表情ながら深い情感を表出。オケの分厚さを感じるような録音ではなく、むしろ繊細な表情を楽しむような雰囲気。音楽に身を任せているうちに大きな感動の波に自然に呑まれていくような不思議な感覚に陥る演奏。これもヨッフムのコントロールならでは。
3楽章も自然な推進力に溢れたメヌエット。さらっとした調子で流麗に弾き進めるメヌエット。適度なメリハリはあるんですが、すべての旋律が流れにそって非常に自然に弾かれ、アクセントまでが流れに支配されている感じ。全曲を通して一貫した速いテンポの流麗さを感じます。
フィナーレは微風のような優しい力加減で入りますが、徐々にコミカルな主題に移るにつれ力を帯びてきます。力んでいる感じではなく、流れにそった力感。だんだん響きのカオスのように旋律が入り組み始め、複雑に絡み合い、そして綺麗にほどけていく様をスローモーションで見るようなクリアな視界。最後は力が抜けながらも見事なフィニッシュ。

この演奏の評価は、ヨッフム全盛期の覇気溢れる演奏ながら、録音年代を考えると少し迫力に欠ける録音と、ドレスデン・シュターツカペレの分厚い音色への期待が先行してしまい、キレのいいヨッフムのコントロールの純粋な魅力に溢れた演奏にちょっと水を差してしまった印象も拭えません。ということで本演奏の評価は[++++]としたいと思います。

明日も仕事ゆえ、今日はこの辺で。

※記事中、Deutsche Grammophoneのアルバムをロンドン交響楽団と表記していましたが、正しくはロンドンフィルでした。訂正致しました(5/29)

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tag : 交響曲93番

セル/クリーヴランド管の93番、驚愕

引き続きセルです。あんまり印象の良くなかったセルのハイドンの交響曲ですが、先日取り上げたunited archives盤の素晴らしさにつられて、手持ちの盤を掘り起こしつつレビューしてます。

SzellCleveland93.jpg

今日は交響曲93番と94番驚愕を収めた1枚。こちらも現役盤ではありませんが、装丁を変えて現役盤もあるようですし、ソニークラシカルからリリース予定の交響曲10曲セットにも同じ演奏が含まれています。

http://www.hmv.co.jp/news/article/1006280028/

録音が、93番が1968年4月19日、94番驚愕が1967年5月5日。両方ともセッション録音でステレオです。

このアルバムは私がはじめて手に入れたセルのハイドンの交響曲集。おぼろげながら最初の印象は非常にスタティックな印象を受けました。

あらためて聴き直してみると、やはり当初感じた印象の影響は大きいですね。1950年代の覇気漲るセルのハイドンと比べると、かなりおとなしくなり、均整のとれたまさにスタティックな印象。私のセルのハイドンの印象はこのアルバムによって決定づけられた訳です。

93番は昨日ライヴ演奏などを取り上げましたが、その演奏に比べると、オケの巧さは格上なものの、セルのハイドンの美点であるタイトなオケのコントロールは陰を潜め、均整のとれたバランスの良い演奏となっています。68年ということはセルが70歳をすぎての演奏。亡くなったのが万博の年である1970年ですので、死の2年前の演奏になる訳で、50年台の脂がのりきった年代とはエネルギーのレベルが違うというところでしょう。93番であえて特徴的な部分は3楽章のメヌエットの最後でテンポをぐっと落とすところ。セルにしては大胆なテンポの変化ですね。

94番驚愕は93番以上にスタティックな印象を強くします。バランスのとれた演奏を目指すあまり、ダイナミックさや生気が薄まってしまってます。1楽章の構成感はそこそこですが、畳み掛ける迫力は今ひとつ。2楽章のビックリは淡々と標準的なもの。私が94番の白眉だと思うフィナーレの展開も、壮年期の素晴らしい覇気に溢れた演奏とははっきり差がついてしまいます。

ということで、このアルバムに収められた2曲の60年代後半の演奏については、セルのハイドンの魅力は放つ演奏とは言い難いものという評価です。
いつもの評価は93番が[++++]、94番驚愕は[+++]としています。

ここまでセルのハイドンを聴き直してみて感じたのは、最初に聴いた演奏の印象が非常に大きいということ。もしunited archivesに収められた壮年期のセルの素晴らしい演奏を最初に耳にしていれば、セルのハイドンに対する印象は大きく変わったことと思います。

皆さんそれぞれお気に入りの演奏家がいるかと思いますが、その演奏家の演奏でもいいもの悪いものもあります。要は出会いというか、偶然性にもずいぶん左右されているということですね。
まあ、それだから面白い訳ですが(笑)

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tag : 交響曲93番 驚愕

セル1954年の93番ライヴ録音2種

先日来気になっているセルのハイドンの交響曲録音。手元にあるCDをいろいろひっくり返してみました。その中でクリーヴランド管とのスタジオ録音以外のアルバムを紹介しましょう。

SzellRAI93.jpg
HMV ONLINEicon

まずはARCHIPELレーベルの1954年5月29日ローマでの演奏。放送用録音でしょうか、会場ノイズなどはありません。曲目はハイドンの交響曲93番。オケはRAIローマ交響楽団。アルバムは1958年のケルンでのブラームスの交響曲第2番との組み合わせ。

SzellVSO93.jpg

もう1枚はORFEOレーベルからリリースされていた先の演奏の直後の1954年6月17日、コンツェルトハウスの大ホールでのライヴ録音。収録曲目はハイドンの交響曲93番とプロコフィエフの交響曲5番の2曲。オケはウィーン交響楽団。こちらは一日のコンサートをまとめたもののよう。こちらのアルバムは既に廃盤のようですね。

先日取り上げたunited archivesのV字とロンドンが1954年4月9日にクリーヴランド管とのスタジオ録音で、素晴らしいキレ具合だったのを踏まえて、今回のアルバムを選択したわけです。同じく1954年の5月と6月という非常に近接した期間に録音された交響曲録音。これらのアルバムにどのような違いがあるのか興味深いですね。

まずは最初のローマでの93番。音源はLPのようですね。スクラッチノイズが混入してますが、音の実体感は悪くなく、図太い音で鑑賞には支障ありません。オケの精度はクリーヴランド管の演奏には敵いません。セルのタイトに締め上げるオーケストラコントロールの魅力は感じられるものの強烈な印象を残すほどではありません。ザルツブルク音楽祭ライヴでのオックスフォード同様客演のオケですが、こちらのRAIローマ交響楽団での演奏は、セルの美点はうっすらという程度にとどまってます。こちらの評価は[+++]としました。

ウィーン交響楽団の93番は、オケの音色がまろやか。セルが締め上げてもウィーン響の柔らかな音色は特色を保っています。音の出始めの角が丸いというか、奏者がエッジを効かせるというより響きのブレンドを狙っているような印象。音色はともかくセルのコントロールはキレのいい強音のアクセントを鮮明にしていき、オケは徐々にセルに飼いならされた状態となります。第2楽章のアダージョはオケの音色の魅力も加わってなかなかのもの。フィナーレの盛り上がりもびしっと決まり、セル風でありながらウィーン風でもある93番としてフィニッシュ。盛大な拍手をさそいます。こちらは録音もなかなかよく、聴きやすい音響。こちらの評価は[++++]としました。

両盤ともに、残念ながらunited archives盤のはち切れんばかりセルの魅力を感じるレベルには至っていませんでした。やはり手塩にかけたオケとの周到な準備があってあのレベルに到達した訳ですね。

残るはクリーヴランド管とのスタジオ録音。近日中にレビューに取り上げるべき伏線が張られてしまいましたね(笑)

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tag : 交響曲93番 ヒストリカル ライヴ録音

剛演、アンチェルの93番

ハイドンの演奏をいろいろ集めていると、たまには出会い頭に凄い演奏にぶつかるものです。

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残念ながら、既に廃盤の模様ですが、たまに中古店で見かけますので、手に入らないものではないでしょう。

アンチェル指揮のベルリン放送交響楽団の演奏で、1957年4月24日の演奏。ドイツラジオのアーカイブから復刻とのこで、拍手も咳ないことから放送用録音だと思います。TAHRAの丁寧なリマスターによりモノラルながら鮮明な音。若干デッドな音です。

これは凄い演奏です。まさに鋼を刀鍛冶が打ち出すような趣。火花飛びまくりです。93番をこのように弾くという想像を超えた演奏です。

第1楽章はトスカニーニ近いインテンポでぐいぐい進めていきますが、とくに凄い、というかエグイにちかいヴァイオリンの刻み。直接音重視の録音も手伝ってものすごい迫力。ハイドンが聴いていたら腰を抜かすかもしれません。迫力だけでなく厳しい規律も感じさせるのが凄みを増しています。第2楽章は、ゆったりしたテンポでの演奏。第1楽章の厳しさを沈めるような淡々とした表情ですすめますが、そこここに表情の厳しさは残っています。第3楽章のメヌエットはまた弦楽器の刻みが耳にのこり、フィナーレへ。最後はハイドンの機知をインテンポでザクザク刻んでフィニッシュ。

このCDはTAHRAのカレル・アンチェルエディションとして全6枚で企画されたシリーズ物。その第1巻の冒頭におかれたのが、このハイドンの93番だったわけですので、アンチェルの遺産を代表するという位置づけのものと判断してのことでしょう。

個人的にアンチェルの演奏でこれといった記憶がなかっただけに、この盤を聴いた時の衝撃は忘れられません。
私としては、93番の名盤を薦めろと言われれば、まずこの盤ということになりますが、これは広くハイドンの交響曲の名盤をといわれても、この盤はその選択肢の一つとして挙げなくてはならないものだと思います。

未聴の方、必聴ですよ!!

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tag : おすすめ盤 交響曲93番 ヒストリカル ハイドン入門者向け

古楽器新世代、弾む機知

昨日到着をおしらせしたミンコフスキのハイドン、まずははDisc1と2の前半6曲を聴いています。

ミンコフスキのハイドンの特徴はなんといってもこれまでの古楽器での演奏とは逆のベクトルの動的な曲想表現にあると思います。
傾向としては、コープマンやノリントンに近いのかもしれません。ただし、コープマンの動的な演奏には流麗というか美しく響かせようとする秩序を感じさせ、ノリントンの動的な部分の根底には奇抜な発想と既成概念の破壊のような意図を感じさせるのに対し、ミンコフスキの方は純粋に弾むエネルギーの表現を志向し、ハイドンの機知を即興性で表現しようとする方向性の違いがあります。

このような演奏スタイルがライヴで非常に評判がいいことにつながっているよのでしょう。実際、このアルバムでも、奇跡や95番のフィナーレの盛り上がりはなかなかの盛り上がり具合で、フィニッシュまでのスペクタクルが楽しめます。
逆に、アダージョ楽章は意外とあっさりとした表現で、もしかしたら、もうすこしゆったりと演奏することでハイドンの曲のメリハリをもう少し生かせるんじゃないかと思う部分もあります。

オケの音響は録音の影響もあるかもしれませんが、低音弦が強いようで、怒濤のごとく畳み掛けるような部分はブリュッヘンに近いかもしれません。

前半6曲での私のおすすめは、96番奇跡、95番、98番といったところでしょうか。
ネット等であまり評判のよろしくない、驚愕の2楽章びっくりの部分は、むしろ悪い印象はなく、許される遊びというような印象です。

明日は、後半6曲を。
こちらも話題のドラムロールは如何に!

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tag : 交響曲93番 驚愕 交響曲95番 奇跡 交響曲97番 交響曲98番 おすすめ盤 古楽器 ライヴ録音

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものは末尾に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

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