ヤナーチェク四重奏団の「冗談」「五度」「セレナード」(ハイドン)

今週末はちょっと体調がすぐれず、金曜日に家に帰ると38度くらいの熱。葛根湯やらを飲んでちょっと落ち着き、土曜日には元気に歌舞伎に出かけて楽しみました。特に具合は悪くありませんでしたが今日、日曜の朝起きてみると体の節々が痛い。熱も一時39度台まで上がり、心配して休日診療に出かけ、インフルエンザの検査をしてもらったところ、陰性。なんだかよくわかりませんが、とりあえず1日静かにしておりました。今月は記事数も伸びていないため、熱っぽい中記事を書きます(気合!)

今日はオークションで手にいれた LP。

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ヤナーチェク四重奏団(Janáček Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.2「冗談」、伝ハイドン作の弦楽四重奏曲Op.3のNo.5「セレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたLP。1963年5月、ウィーンのソフィエンザールでのセッション録音。レーベルはLONDON。

このLP、ただのLPではなくアナログ全盛期にキングレコードがリリースしていた"THE SUPER ANALOGUE DISC"というシリーズの1枚。同じシリーズのLPでメータとロスフィルによる「シエェラザード」が手元にありますが、当時のシステムで聴いてもスピーカーのウーファーを吹き飛ばさんばかりの重低音が刻まれており、愛聴したものです。若い頃は迫力に弱かったわけですね(笑)。今回手に入れたLPはほぼ新品というか完璧なコンディション。盤面も綺麗でジャケットにも微塵も古びたところがありません。中には「スーパーアナログディスクについて」というちらしが入っており、マスターテープから調整卓をスルーして真空管カッティングアンプにダイレクトにつなぎカットされたとの説明があります。プレスは米国。もちろんずしりと重い180gの重量盤。

あまりの見事なコンディションにためいきをつきつつ、一応VPIのクリーナーで洗浄の上針を落とすと、見事な響きが部屋に満ちます。スクラッチノイズゼロ。CDでは絶対に聴くことのできない実体感あるキレ味。そして音量を上げると録音会場の周りを車が走っているのでしょうか、低い暗騒音も加わり、迫力十分。このLPがリリースされたのが1996年ということでちょうど20年前になりますが、デジタルでもハイレゾでもこの痛快なキレ味を再現することは難しいのではないかと思います。あまりの迫力に熱も吹き飛びそうですが、そうはうまくいきません(笑)

ヤナーチェク四重奏団のハイドンは以前にも一度CDを取り上げています。

2012/07/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ヤナーチェク弦楽四重奏団の「冗談」

こちらは録音も新しく2000年のもの。よく見てみると、メンバーは一人も共通しておらず、世代が変わっているのですね。今日取り上げる演奏の奏者は下記の通り。

第1ヴァイオリン:イルジー・トラヴニチェク(Jiri Traviniček)
第2ヴァイオリン:アドルフ・シーコラ(Adolf Sykora)
ヴィオラ:イルジー・クラトホヴィル(Jiri Karatachvil)
チェロ:カレル・クラフカ(Karel Krafka)

ヤナーチェク四重奏団の創立は1947年とのことですが、このLPの録音時のメンバーのうち第2ヴァイオリンのアドルフ・シーコラ以外は創立時からのメンバーということで、今回のアルバムは創立時に近い響きが聴かれるわけですね。

録音のことばかり書きましたが、このアルバム、演奏も超一級品です。

Hob.III:38 String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
冒頭から素晴らしい覇気。切れ込み鋭いタイトな響きに惚れ惚れ。落ち着いたテンポで入りますが、実体感あふれる4人のアンサンブルの緊密さに圧倒されます。4人ともに音色が揃い、じっくりと進みます。つづくスケルツォでもじっくりと畳み掛けるような充実した響きに聴き入るのみ。中間部の軽やかなメロディーも実に味わい深い音色なので高貴に聴こえます。絶品なのが3楽章のラルゴ。チェロの胴鳴りの美しい響きに乗ってゆったりとヴァイオリンがメロディーを乗せていきます。4人が織り上げる響きの美しさがLP独特のダイレクトな響きによって際立ちます。そしてコミカルな終楽章も4本の弦楽器の絶妙な響きの美しさに彩られ、一気に聴かせきってしまいます。演奏もさることながら、この素晴らしいLPの響きの魅力は圧倒的。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
ホフシュテッターの作曲によるセレナード。1楽章は前曲同様落ち着いたテンポで弦楽器のダイレクトな響きで聴かせます。肝心の2楽章のセレナードもピチカートの音色が冴えまくって絶品。ヴァイオリンがこれほど豊かに響くことに驚かされるような鮮明な録音。弱音器付きのヴァイオリンのメロディーがピチカートに乗ってアーティスティックに響きわたります。続くメヌエットは音楽が優美に弾み、明るいメロディーが次々に登場します。ハイドンのメヌエットの緊密さとはやはり異なりますね。そしてコミカルなフィナーレ。ヤナーチェク四重奏団のタイトな演奏によって、このセレナードもフォーマルに響きます。聴き応え十分。

Hob.III:76 String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
一転して重厚な入り。あいかわらず録音の良さは惚れ惚れするほど。主旋律ではないパートの音色の多彩さまでしっかりと伝わるので響きが実に豊かに聴こえます。曲の構成はより緊密となり、骨格ががっしりとした演奏により迫力も素晴らしいものがあります。畳み掛けるように進む1楽章では、優秀な録音もあって、見事な構成感。
この曲のアンダンテでもピチカートの音色の美しさが冴え渡ります。曲が進むにつれて様々な表情を見せますが、フレーズごとに各パートの豊かな響きが微妙に表情に影響を与え、たった4本の弦楽器なのに実に多彩な表情をつくります。演奏はどちらかといえばオーソドックスなんですが、音楽は豊か。
メヌエットは実にユニークなメロディー。チェロパートに耳を傾けて聴くとユニークさが際立ちます。そしてフィナーレは軽やかに入りますが、すぐに構成の緊密さに引き込まれます。最後は力強いフィニッシュ。

このヤナーチェク四重奏団によるスーパーアナログディスク、実に考えさせられるLPでした。演奏は一級品ですが、なによりその響きが素晴らしいんですね。CDでは絶対に味わえないタイトでダイレクトな響き。ビニールの円盤に溝を刻んだだけのLPから、このように迫力あふれる響きが聴かれるのに対し、技術の粋を尽くしたデジタル録音からはこのような心に刺さる響きは聴こえません。おそらく物理特性などではハイレゾなどまで含めればLP時代とは段違いのものが実現されているのでしょうが、音楽の完成度はLP時代の方が高かったのではないかと思わざるを得ません。このLPは家宝にします。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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tag : 冗談 五度 ハイドンのセレナード LP

テルプシコルド四重奏団のOp.33(ハイドン)

最近入手した弦楽四重奏曲の名演盤。

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テルプシコルド四重奏団(Quatuor Terpsycordes)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33からNo.5、No.2「冗談」、No.1の3曲を収めたアルバム。収録は2005年11月20日から23日にかけて、スイス、ラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueでのセッション録音。レーベルはスイスのclaves。

最近アバドとモーツァルト管の協奏交響曲や、つい先日取り上げたファブリツィオ・キオヴェッタのピアノソナタ集などいい録音を相次いてリリースしているスイスのclaves。そのclavesからリリースされている弦楽四重奏曲ということで興味を持った次第。しかも曲もロシア四重奏曲という絶好の選曲。

テルプシコルド四重奏団は初めて聴くクァルテット。1997年にジュネーヴで4人の若者によって創設されたクァルテット。イタリア人、ブルガリア人と2人のスイス人の組み合わせ。

第1ヴァイオリン:ジローラモ・ボッティリェーリ(Girolamo Bottiglieri)
第2ヴァイオリン:ラヤ・ライチェヴァ(Raya Raytcheva)
ヴィオラ:カロリーネ・ハース(Caroline Haas)
チェロ:フランソワ・グリン(François Grin)

設立後、ジュネーヴ音楽院でタカーチ四重奏団の創設者、ガボール・タカーチ=ナジに師事し、音楽院での芸術賞で1等となったのを皮切りにシシリアのトラパニ、ドイツのワイマール、オーストリアのグラーツのでのコンクールで優勝しています。レパートリーは古楽器による演奏から現代音楽までと幅広く、デビュー盤はシューマンの弦楽四重奏曲集。

若手のクァルテットの演奏を聴くのは楽しみですね。

Hob.III:41 / String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
このアルバムでは古楽器にガット弦での演奏。古楽器といっても音色は現代楽器に比較的近いふくよかさはあります。録音は最近のものらしく鮮明。そして名録音会場であるラ・ショー=ド=フォンのSalle de Musiqueらしい、自然な残響がわずかに感じられるバランスの良いもの。テンポは速めに入るのですが、適度にリラックスしていて、折り目正しいというよりは、自然な音楽が心地良い感じ。変に精妙さを表現しようとすることはなく、自然な起伏と躍動感を主体とするスタイルのようです。このロシア四重奏曲の演奏ではそういったスタイルの演奏の方が曲に合っている感じですね。音楽を楽天的に楽しむという本来の姿。ハイドンの美しいメロディーがキレ良く踊る素晴らしい1楽章。
2楽章のラルゴ・カンタービレに入ると自然さはそのまま、短調の翳りのような気配を程よく感じさせるデリケートな表情の変化をみせます。そしてスケルツォでは、テンポを自在に揺らして曲想の面白さを際立たせます。楽章間のスタンスの変化が鮮やかで、音楽にくっきりとメリハリがつきます。そしてさらりとフィナーレに入るあたりのセンスも実にいい。曲が進むにつれて表現の幅が広がり、ハイドンが仕込んだ急転部分も鮮やかにキメます。楽譜を深く読みこなして、そこに潜む音楽を再構成する巧みさがこのクァルテットの聴きどころとみました。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
有名な冗談。実におおらかな表情での入り。いきなり癒しに包まれます。フレーズ毎に実に豊かに表情をつけ、軽さもおおらかさも躍動感もある演奏。あいかわらず楽天的な気分は一貫しています。この気分こそがハイドンらしさなのかもしれませんね。演奏のスタンスは前曲同様一貫していて、楽章ごとにスタイルを変え、またフレーズ毎に大胆に変化をつけていきます。2楽章のスケルツォは遊び心に満ちた表現に引き込まれます。そして3楽章では弦楽器本来の木質系の渋い響き自体の存在感を際立たせます。これまでの楽天的な気分が吹き飛ぶ深い闇。表現のボキャヴラリーの多彩さに驚きます。フィナーレはご存知の通り、軽いタッチで入り、最後まで軽さの表現が見事。意外に3楽章の深さにしびれました。

Hob.III:37 / String Quartet Op.33 No.1 [b] (1781)
このアルバム最後の曲。短調の入りからタイトさと色彩感と素朴な感じがいいバランス。響きを揃えるという視点はなく、音楽を自在に描いていこうとする姿勢の一貫性が素晴らしい。しかもいい意味で適度な粗さがあって、無理やり緻密に弾こうとしていないのが肩肘張らない感じにつながっているのでしょう。さらりと2楽章のスケルツォに入り、鮮やかにフレーズを切り替えていくところは同じ。3楽章のアンダンテはユーモラスな表情をじっくりと描いていきます。これまで特段ボッティリェーリのヴァイオリンが目だったわけではないのですが、この楽章ではなかなか美しいヴァイオリンを聴かせます。そしてフィナーレでは鮮やかな弓捌きの饗宴。かなり速いパッセージながらテクニックの誇示のように聴こえる部分は皆無。音楽としのまとまりがしっかりとついています。

事前の予想ではもうすこし若さや表現意欲が先に立つ演奏かと思いきや、音楽の表現の幅が広く、表情の豊かさはかなりのもの。若手ではありますが、これは要注目のクァルテットでしょう。ハイドンをこれだけ上手くこなすということでも、このクァルテットの並々ならぬ実力が伺い知ることができますね。私は非常に気に入りました。ということで評価は3曲とも[+++++]とします。ハイドンの録音はもう一枚「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」がリリースされていますので、これは早速入手しなければなりませんね。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 冗談 古楽器

驚愕の名演 シャロン四重奏団の冗談、五度(ハイドン)

皆さま、明けましておめでとうございます。地道にハイドンの名演奏発掘を志すマイナーなブログですが、本年もよろしくお願いいたします。

年始一発目はこちら。

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シャロン四重奏団(THe Sharon Quartet)の演奏による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5、いわゆる「ハイドンのセレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.5「冗談」、Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ドイツ、ケルンの聖ヨハネ教会でのセッション録音。レーベルはDISCOVER INTERNATIONAL。

DISCOVER INTERNATIONALといえば、先日取りあげたワリド・アクルのピアノソナタ集などをリリースしているレーベル。アクルのアルバムでは"KOCH" DISCOVER INTERNATIONALとKOCHの名前が入っていたのですが、このアルバムにはKOCHの名前が入っていません。今日取り上げるアルバムの方が録音年代が古いことを考慮すると、この後このレーベルをKOCHが傘下に収めたということでしょうか。この辺の状況はわかりません。KOCH自体ももう存在しませんが、KOCHといえばハイドンマニアの方は、マンフレッド・フスによる室内楽、管弦楽の素晴しい演奏の数々を思い浮かべるでしょう。そう、ハイドンマニアには注目のレーベルなんですね。幸いフスの録音は現在スゥエーデンのBISからかなりの量リリースされていおり、現在も流通しているものと思います。

前振りが長くなりましたが、このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいたもの。地味なジャケットですが、かく言う背景から、DISCOVER INTERNATIONALのロゴにアンテナがピンときました。

演奏者のシャロン四重奏団はもちろんはじめて聴く団体。設立は1984年で、第1ヴァイオリンがギル・シャロンということが楽団名の由来のようです。メンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:ギル・シャロン(Gil Sharon)
第2ヴァイオリン:ロディカ=ダニエラ・チョチョイ??(Rodica-Daniela Ciocoiu)
ヴィオラ:ゲオルク・ハーグ(Georg Haag)
チェロ:カタリン・イレア=マイアー(Catalin Ilea-Meier)

第1ヴァイオリンのギル・シャロンはどうやらルーマニアの人のよう。ブカレストで学び、ルーマニア国内各地を演奏してまわったそう。1961年イスラエルに渡り、テル・アヴィヴ大学のルービン・アカデミーで引き続き学びます。その後イスラエル軍弦楽四重奏団の創設メンバーとなり、ダヴィド賞を受賞、1971年にはロンドンで開催されたエミリー・アンダーソン国際ヴァイオリンコンクール優勝しました。その後、マーストリヒト交響楽団のコンサートマスター、バルセロナ交響楽団の客演コンサートマスターなどとして活躍すると同時にソロヴァイオリニストとしても活動し、ヨーロッパ各国、イスラエルなどでコンサートを開いています。室内楽ではこのシャロン四重奏団とアマティ・アンサンブルを創設して活動しているとのことです。

このアルバム、聴くとシャロンの落ち着いたヴァイオリンをベースとしたのどかな音楽が流れてきます。最近非常に凝った表現のアルバムが多いなか、テンポはほとんど揺らさず、メリハリもそこそこ、かといって一本調子になるでもなく、じつに落ち着いた音楽が流れ、癒されるようなハイドン。そういった意味で貴重な演奏でしょう。

String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
久しぶりに聴く「ハイドンのセレナード」。録音は時代なり。教会での演奏らしく、適度に残響がのった聴きやすい録音。先に触れた通り、非常にオーソドックスな弦楽四重奏。キリリと締まった表情、テンポ良く進め、外連味は一切なく堅実この上ない演奏。4人の奏者の息はぴったりですが、やはり第1ヴァイオリンのギル・シャロンの美音が印象的な演奏。このオーソドックスな演奏がかえって新鮮です。
有名な二楽章のアンダンテ・カンタービレは速めのテンポでこれ以上ない安定感。デリケートに抑えられた3人のピチカートに乗って、ギル・シャロンが優雅にメロディーを奏でます。良く聴くと素晴しい完成度。美しい音楽だけが流れます。これは絶品。
メヌエットも4楽章のスケルツァンドも速めで音楽の見通しは極めてよく、久しぶりに粋な演奏を聴いたという感想。まったく力まず、軽々と音楽を奏でていき、特に4楽章は踊り出すような活き活きとした表情をつくっていきます。この演奏の良さは、弦楽四重奏曲を聴き込んだ人にはわかると思います。1曲目からあまりに見事な演奏に驚きます。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
シャロン四重奏団の演奏スタイルが絶対に映えそうな選曲。予想通り軽やかなメロディーが流れてきます。前曲同様、1楽章から素晴しい音楽。どの楽章も速めのテンポで、楽章間の対比をつけるような意図はなく、一貫した音楽が流れますが、ただただ美しい音楽が見通しよく流れていき、聴いているうちに実に幸せな気分になります。1、2楽章は予想通りだったんですが、驚いたのは3楽章のラルゴ。これほど美しいラルゴを聴けるとは。冒頭から信じられないような美音で、ようやく深くテンポを落としてじわりと心に迫ってきます。チェロとビオラの奏でる伴奏の美しさったらありません。またそれに乗ってギル・シャロンのボウイングが冴え渡ります。まさに至福のラルゴ。お正月気分が吹き飛びます。またもや絶品。
そして、この曲の聴き所。過度にくだける事はなく、凛々しい印象のまま、軽々とフレーズを刻んでいきます。まさに正統派の演奏。すべてのクァルテットの教科書になりそうな、見事な完成度。最後の聴かせどころも素晴しいセンスでまとめます。

Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
すでに完全にノックアウトされています。この完成度で五度を聴かされたらと思いながら、まさにワクワク感満点で聴き始めます。速めのテンポは変わらず。そしてバランスの良い落ち着いた演奏スタンスも変わらず、五度の最も美しい冒頭の部分を畳み掛けるように進めていきます。この素晴しい完成度、神々しいというのが相応しいでしょう。素晴しい音楽が流れていきます。良く聴くと時折、ぐっと音量をしぼっているので、引き締まった印象が保たれている事がわかります。
やはり、この曲でもアンダンテが沁みます。情に流されない素晴しいアンサンブル。ヴァイオリンの美音。ハイドンのアンダンテはこのように演奏するのだと諭されているよう。なぜか心にぐっさりささる音楽。終盤の孤高の境地。
五度でもっとも表現が難しいと思われるメヌエット。野暮な演奏で聴くと、ただ荒々しいだけの殺伐とした音楽に成り下がってしまうリスクをはらみますが、流石シャロン四重奏団はツボを押さえて、心に刺さると同時に気高さも感じるタイトな音楽に仕立てました。
フィナーレはこのアルバムで最も力の入った演奏。力が入ったというより、力感の表現が秀逸だといったほうが正しいでしょう。斬り込むような鋭い音色が続きますが、クッキリとまとめて音楽の一体感が際立ちます。いやいや参りました。湖国JHさんが苦手だったこの曲をこの演奏を聴いて好きになったというのが頷ける演奏です。

実はこのアルバム、年末から何度も聴いていてあまりの素晴しさに打たれ続けていたもの。やはりお正月最初に取りあげるのが相応しいとの思いで、レビューを先送りしてきました。弦楽四重奏曲はたった4本の弦楽器のアンサンブルですが、その表現の幅はまことに広く、実に様々な演奏があります。今日とりあげたシャロン四重奏団のハイドンは、まさにハイドンの弦楽四重奏の原点、それも容易には真似の出来ない恐ろしいまでに完成された原点たる演奏といって良いでしょう。このすばらしさは多くの人に聴いていただく価値があります。残念ながら現役盤ではありませんが、amazonなどではまだ手に入るようですので、是非! 3曲とも決定盤、評価は[+++++]以外にはあり得ません。新年の幕開けに相応しい名盤でした。

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tag : ハイドンのセレナード 冗談 五度 弦楽四重奏曲Op.33 弦楽四重奏曲Op.76

クァルテット・アルモニコの「冗談」(ハイドン・トータル)

今月は弦楽四重奏曲を取りあげることにしたので、まだ所有盤リストに未登録のハイドン・トータルを取り出して、いろいろ聴いていたところ、名演を発見しました!

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東京藝術大学音楽学部室内楽科とウィーン音楽演劇大学ヨゼフ・ハイドン室内楽研究所による共同ブロジェクト"haydn total"。ハイドンの弦楽四重奏曲全68曲を収めた22枚組のCDBOX。今日はこの中からCD10のクァルテット・アルモニコ(Quartetto Armonico)によるOp.33のNo.2「冗談」を取りあげます。収録は2009年2月18日、東京芸術大学千住キャンパスのAスタジオでのセッション録音。レーベルというより発売元は東京藝術大学出版会。

このアルバムの基本的なことは前記事をご覧ください。

2013/02/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】ハイドン・トータル!

今日取り上げる演奏は、ハイドン・トータルのOp.33を収めた第5巻のCD11をかけていたところ、一際精緻で彫りの深い音楽ににハッとさせられたもの。一度聴いたあと、演奏者を調べたりして、もう一度聴き直しちゃいました。演奏者のクァルテット・アルモニコはまったく知らない団体でしたが、コンサート活動をしている実力派のようです。

メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:菅谷 早葉(Sayo Sugaya)
第2ヴァイオリン:生田 絵美(Emi Ikuta)
ヴィオラ:坂本 奈津子(Natsuko Sakamoto)
チェロ:富田 牧子(Makiko Tomita)

Zクァルテット アルモニコ

クァルテット・アルモニコは1995年に東京芸術大学在学中に結成されたクァルテット。大学院を終了後2004年にかけてウィーン国立音楽大学で学び、2007年からは毎年コンサートを開いているそうです。第4回シューベルト国際コンクール優勝、第8回ロンドン国際弦楽四重奏コンクール2位、第2回ハイドン国際室内楽コンクールで最高位などの受賞歴がある実力派です。ウェブサイトもありましたが、お知らせを見てみると2012年の定期公演はお休みとなり、現在充電期間中とありました。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
このシリーズ、録音はどれも素晴しく、クァルテットの演奏を鮮明な響きで楽しめます。良く磨かれた穏やかな響きからはじまりますが、すぐに第1ヴァイオリンの伸びのある良く響く高音の美しさに耳を奪われます。あまりに美しいヴァイオリンにいきなりノックアウトです。ハイドンの晴朗な曲を、ハイドンらしいウィットも含みながら、メロディーの美しさをあぶり出し、何といっても圧倒的な迫力で描いていく素晴しい演奏。フレージングに余裕があり、音楽をしっかり描いていくので活き活きとしたこの曲の面白さを存分に楽しむ事ができます。それにしてもこのヴァイオリンの響きは美しい。フレーズごとのアクセントもクッキリとついて言うことなしです。1楽章から圧倒的なパフォーマンス。
つづくスケルツォは、自在に踊るヴァイオリンの美しさに加えて、溜めをつくりながら刻まれるリズムの面白さが際立ちます。早いパッセージのキレもよく、この楽章のの面白さを表現しきっています。
そしてラルゴに入ると音楽の神様降りてきました。冬の太陽に照らされ、クッキリと陰影の浮かび上がる峰々を眺めるような峻厳な音楽。ヴィオラやチェロの穏やかな音色と、ヴァイオリンのクッキリした音色が渾然一体となって奏でられる癒しの音楽。息を飲むような緊張感に痺れます。後半のチェロのクッキリとした音色もいいですね。
フィナーレはハイドンがこの曲に込めたウィットと音楽としてのフォーマルな完成度が拮抗した素晴しい演奏。この楽章を聴くとクァルテットの特徴がよくわかるのですが、クァルテット・アルモニコの演奏はハイドンらしいウィットを感じさせながらも、純粋に音楽としてこれだけ素晴しいものだとあらためて教えられるような、完璧な演奏でした。いやはや、これだけの素晴しい演奏だったとは。

まだすべて聴いた訳ではありませんが、これまで聴いたハイドン・トータルの演奏の中ではピカイチの演奏。というよりこの曲の演奏として一押しの演奏といって良いでしょう。確かなテクニックと第1ヴァイオリンの菅谷さんの素晴しい伸びのある美音は圧倒的。それでいてハイドンらしさをしっかり保っているあたりは、このクァルテットの音楽性の高さを証明しているといって良いでしょう。評価は文句なしの[+++++]とします。絶品です。

これだけ素晴しい演奏を聴かせるクァルテットですので、是非実演を聴いてみたいと思っています。充電完了したら教えてください!(もちろんこの記事をご覧になっていたらですが、、、)

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 冗談

エマーソン弦楽四重奏団のOp.20のNo.5、冗談

今日は珍しくメジャー盤を取りあげます。

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エマーソン弦楽四重奏団(Emerson String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲7曲(Op.20のNo.5、Op.33のNo.2「冗談」、Op.54のNo.1、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.74のNo.3「騎士」、Op.76のNo.2「五度」、Op.77のNo.1)を収めたアルバム。収録は2000年12月、2001年1月、2001年5月、ニューヨークのクィーンズ・カレッジのレフラック・コンサートホールでのセッション録音。レーベルは名門DG。

このアルバム、”THE HAYDN PROJECT”との輝かしいタイトルがつけられています。奏者のエマーソン弦楽四重奏団はDGの看板アーティストとして、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ショスタコーヴィチ、バルトーク、ヴェーベルンなど主立った作曲家の弦楽四重奏曲全集を録音しています。名門レーベルの重責を担うクァルテットといって間違いないでしょう。

このアルバム、手に入れたのはかなり前でしたが、あまりちゃんと聴いていませんでしたし、所有盤リストに登録し損ねていたので、ちょっと忘れられた存在となっていました。最近CDラックを整理していて、おっとこれあまり聴いていなかったと気づいてようやく注目した次第です。

エマーソン弦楽四重奏団について、さらっておきましょう。エマーソン弦楽四重奏団は1976年に設立された、ニューヨークを拠点に活動するクァルテット。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に所属するクァルテットです。すでにアルバムは30種以上リリースされ、グラミー賞も受賞しています。エマーソンと言う名前はアメリカの哲学者、詩人であるラルフ・ワルド・エマーソンに由来しているとのことです。この演奏当時のメンバーは下記の通り。

ヴァイオリン:ユージン・ドラッカー(Eugene Drucker)
ヴァイオリン:フィリップ・セッツァー(Philip Setzer)
ヴィオラ:ローレンス・ダットン(Lawrence Dutton)
チェロ:デイヴィッド・フィンケル(David Finckel)

第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンは曲によって交代するという体制だそうです。2人のヴァイオリンの力量が拮抗しているということでしょうか。

今日はこのアルバムから、最初の2曲を取りあげます。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
聴き慣れたメロディーラインですが、弦の音に深みがあって、良い楽器を使っていそうな響き。少々残響が多めのホールでの収録。エマーソンの演奏は太く安定感がありながらビロードのようなきめ細かい肌合いの弦の音色に特徴があります。テンポやフレージングはオーソドックスな範疇ですが、良く磨き込まれている感じがつたわります。アメリカのクァルテットらしく、癖もなく、きっちり機能的な印象もあり、ほの暗いはずのこの曲の陰りよりも、じつは健康的な印象が残るのが不思議なところ。音楽の根底に美しく磨き上げながらも、あっけらかんとした明るさのようなものがある印象。続くメヌエットでも美しくメロディーラインを描いていきますが、陰影の深さはそこそこあるものの、美しい響きをつくることに集中しているような印象があります。高い技術に裏付けられた均質な演奏がそう感じさせるのでしょうか。響きを美しくすることと音楽の深さでは前者に力点があるよう。
エマーソンの意図が功を奏しているのが続くメヌエット。やはり響きの美しさは一級、しかもフレージングの自在さは一段上がって、この曲の面白さを良く踏まえた演奏。滑らかな演奏を聴いているうちにえも言われぬ境地に。
フィナーレのフーガは精度の高いアンサンブルと独特の燻製をかけたような音色の魅力がうまく出た演奏。後半の迫力はこのクァルテットのポテンシャルを示すよう。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
前曲の印象からこの曲はエマーソンに合うと思っていましたが、ドンピシャ。やはりこの晴朗な明るさと快活さの表現は得意としているようです。リズミカルに進むこの曲の1楽章は、この曲に求められる快活さをじつに上手く表現しています。ロシア四重奏曲の澄み渡るような晴朗さはエマーソンにぴったり。グイグイ攻めていきます。楽器が良く鳴っている感じ。
スケルツォに入ると、鮮明さとドライヴ感がさらに上がり、一定のリズムに乗ってヴァイオリンが伸び伸びとメロディーを乗せていきます。キレの良さも相変わらず。
前曲同様ラルゴの磨き込まれた美しい響きが別格の美しさ。とくにヴァイオリンの凛とした引き締まった響きが旋律をクッキリ浮かび上がらせて、鮮明な音楽をつくっていきます。
冗談という曲名のもととなったコミカルなフィナーレは、正攻法の演奏でちょっと真面目過ぎるきらいもあります。ヴィオラとチェロのやわわらかな音色が表情を穏やかにしていますが、コミカルな印象は後退。この楽章を聴くと真面目なクァルテットだという印象を強くします。

エマーソン弦楽四重奏団のハイドンは、高い技術に裏付けられた、美しい響きが特徴の演奏でした。演奏の質は非常に高く、弦楽四重奏の面白さを十分感じさせる一方、響きを磨く事に集中しているようで、音楽自体の面白さ、表現の面白さは、すこし控え目。音楽の深さと言う面では、先達のハイドンの名演奏とは少し距離があるようにも感じます。Deutsche Grammophoneの看板アーティストとして弦楽四重奏の有名曲をきっちり録音するという意味では安定した力をもっているのでしょう。ハイドンの弦楽四重奏曲を教科書的演奏で楽しむ演奏というところでしょう。評価は両曲とも[++++]としておきます。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.20 弦楽四重奏曲Op.33 冗談

アポニー四重奏団のOp.33のNo.5、冗談

今日はTwitterで気になる書き込みをみて、ラックから取り出したアルバム。

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アポニー四重奏団(Appónyi-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.33の6曲、通称ロシア四重奏曲集を収めたアルバム。収録は1993年5月、ドイツケルンのDLFケルン放送ホールでのセッション録音です。レーベルはドイツ、フライブルクを拠点とするARS MUSICI。

Twitterでこのアポニー四重奏団のメンバーはフライブルク・バロック・オーケストラのメンバーであると書いているのを見て、気になっていたもの。ラックから取り出してメンバーを見てビックリ。

第1ヴァイオリン:ゴッドフリート・フォン・デア・ゴルツ(Gottfried von der Goltz)
第2ヴァイオリン:ペトラ・ミューレジャン(Petra Müllejeans)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセズ(Christian Goosses)
チェロ:グイド・ラリシュ(Guido Larisch)

フライブルク・バロック・オーケストラのメンバーということですが、チェロのグイド・ラリシュ以外はソリストとしても名の知れた人で、特にゴルツとミューレジャンはコンサートマスターとして、フライブルク・バロック・オーケストラが指揮者を置かずに演奏する際、実質的に音楽を造っている人だと思います。手元にハイドンのアルバムもあります。

Freiburger Barockorchestrer

ゴッドフリート・フォン・デア・ゴルツはヴァイオリニスト、指揮者(コンサートマスター?)として多くのアルバムを出している人。当ブログでもハイドンやモーツァルトの交響曲やヴァイオリン協奏曲などを取りあげています。

2012/06/22 : ハイドン–交響曲 : ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ/フライブルク・バロック・オーケストラの「受難」等
2010/09/05 : ハイドン以外のレビュー : シュタイアーのピアノ協奏曲(モーツァルト)
2010/09/05 : ハイドン–協奏曲 : シュタイアーのピアノ協奏曲

ゴルツは指揮もヴァイオリンもちょっと硬直したところがありますが、キレとテクニックは素晴らしいものがあります。

もう一人のヴァイオリンはペトラ・ミューレジャンで、彼女もフライブルク・バロック・オーケストラのコンサートマスター。レビューはしていませんが、ハイドンでは朝、昼、晩を入れたアルバム、ジャン=ギアン・ケラスがチェロを弾いてチェロ協奏曲のアルバムがあります。

そして、ヴィオラのクリスティアン・グーセズは、名曲、ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲集のアルバムがあり、こちらはレビューしています。

2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集

要するにメンバーは、現在も一線で活躍する、古楽器の腕利き揃いのクァルテットということです。気になるのはアポニー四重奏団として残されたアルバムは、このハイドンのロシア四重奏曲集と、ボッケリーニの弦楽四重奏曲集が見つかるくらいで、他に録音が見当たらないこと。

ライナーノーツを読んでみると、1986年に設立され、古楽器による演奏は、アンナー・ビルスマ、ラインハルト・ゲーベル、ニコラウス・アルノンクールらに影響を受けているとのこと。コンサート活動ではオランダのユトレヒト古楽音楽祭やブリュージュ・フランダース音楽祭などに出演していたようですが、それ以外のことはよくわかりません。フライブルク・バロック・オーケストラの設立も1985年とほぼ同じ頃であるということを考えると、彼らが弦楽四重奏や古楽器オケという活動をいろいろしてみた結果、オーケストラの活動の方にシフトしていったものと思われます。この1993年の録音は彼らが弦楽四重奏に挑んだ貴重な記録であると見る事もできます。

こうゆうパースペクティブで見てみると、この演奏が、フライブルク・バロック・オーケストラの演奏に共通する、硬質で先鋭的であり、時に硬直的でもある響きを通して、音楽を彫り込んでいくスタイルと近いものであるのが自然に感じられます。

今日はアルバムの中から最初の2曲を選びました。

Hob.III:41 / String Quartet Op.33 No.5 [G] (1781)
教会やホールではなくスタジオで録られているような残響が少なく直接音重視の鮮明な録音。フライブルク・バロック・オーケストラの演奏同様、インテンポでグイグイ食い込んでくるタイトな演奏。テクニックとアンサンブルの精度は抜群。古楽器独特の張りつめたテンションで鋭角的な響きが非常に高いテンションで迫ります。生で聴いたら手に汗握るであろう、迫真のアンサンブル。本来、おおらかで明るい表情のロシア四重奏曲ですが、アポニー四重奏団の演奏で聴くと、奏者のテクニックと掛け合いの妙で勝負する険しさにもスポットライトが当たります。オーケストラの曲で時折垣間見せる、硬直感はそれほど感じられず、圧倒的なプレゼンスにのまれる印象。
2楽章のラルゴでは、ハイドンの緩徐楽章できかれるユーモアやリラックス感よりも、まだ緊張感の残る演奏に聴こえます。このあたりの落ち着きが増すと音楽が深くなると思うのですが。続くスケルツォも非常にテンションが高く、一体感と各楽器のせめぎ合いによる恍惚感を感じるほどのテンション。
フィナーレに至り、ようやく力がぬけて、いい意味で流すような演奏の気楽さが加わり、音楽も豊かになります。力が抜けたところで、音楽の表情の変化が大きくなり、変奏が進むごとに変化する表情の面白さが増していきます。

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
続く名曲「冗談」も基本的なスタイルは変わりませんが、曲想からか、冒頭から少しリラックスムードで入ります。聴き進むうちにわかってきたのは、強音のところが録音のせいか、演奏のせいか、力を入れ過ぎというか混濁感があるというか、ちょっと響きが粗くなってしまうところが欠点かもしれないということです。力を抜いたところの表情にくらべて強奏部分で音楽の表情が平板になってしまうような過度な力感になっているように聴こえます。もう少し力を抑えてデリケートな表情の変化の面白さを追求するとさらに音楽の豊かさが増すのではないかと思った次第。この迫力も貴重なものだけに、違いは紙一重といったところでしょう。
2楽章のスケルツォはキレのよい前半部にユーモラスなメロディを挟んで再びキレで聴かせる楽章。古楽器特有の繊細な音色を生かしながらコンパクトにまとめます。こうしたところはキリッと引き締まって流石の出来。
続く3楽章はヴィオラとチェロの二重奏からヴァイオリンの二重奏に移る精妙な響きの魅力も流石。それぞれ腕利きの奏者だけにこうゆう部分の繊細なコントロールは秀逸ですね。
そしてフィナーレも抑えて入り、フレーズを小刻みに切りながら繰り返していく面白さは十分。コミカルな展開をささっとこなし、粋な表情を残して終わります。

腕利き揃いのアポニー四重奏団によるハイドンのロシア四重奏曲集から2曲を聴きましたが、やはりフライブルク・バロック・オーケストラと同様、かなり明確にアクセントをつけ、しかもその強音がちょっとキツいと言うか、くどさを感じさせてしまうところも同様な印象。弦楽四重奏として抑えた部分の精緻な演奏は流石と思わせるものがあり、演奏の技術的完成度の高さにくらべて、表情の硬さでちょっと損をしているように感じます。ハイドンの弦楽四重奏の面白さを表現しきれていないもどかしさも残してしまいます。評価は[++++]とします。

さて、あっという間に月末ですね。

追伸:湖国JHさんありがとうございます。届きました!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.33 冗談 古楽器

ヤナーチェク弦楽四重奏団の「冗談」

久々のOp.33。

JanacekSQ.jpg
TOWER RECORDS

ヤナーチェク四重奏団(Janáček String Quartet)の演奏にによるハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.2「冗談」、ヤナーチェクの四重奏曲1番、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲Op.96「アメリカ」の3曲を収めたアルバム。収録は2000年1月、チェコでもウィーンに近いブルノ・ザーブルドヴィツェの前プレモントレ修道会の食堂でのセッション録音。レーベルはTop Moravia Artというはじめて手に入れるレーベル。

演奏を担当するヤナーチェク四重奏団は1947年にチェコのブルノ音楽院の学生によって結成されたクァルテット。オフィシャルウェブサイトがありましたので紹介しておきましょう。

Janacek Quartet

設立当時はJAMU四重奏団と言う名前でヤナーチェクの類いまれな演奏、録音により1949年ブルノ出身の偉大な作曲家ヤナーチェクの名を冠するクァルテットとなりました。メンバーはそれぞれ何度かかわったものの現在でも現役のクァルテット。この演奏当時のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ミローシュ・ヴァチェク (Miloš Vacek)
第2ヴァイオリン:ヴィテズスラフ・ザバディリク(Vítězslav Zavadilík)
ヴィオラ:ラディスラフ・キセラーク(Ladislav Kyselák)
チェロ:ブレティスラフ・ブイビラル (Břetislav Vybíral)

ヴィオラ以外は現在のメンバーと同一メンバーのようです。オフィシャルウェブサイトにはこのアルバムに収められたヤナーチェクの弦楽四重奏曲の音源がアップされている他、他のアルバムも紹介されており、ハイドンでは十字架上のキリストの最後の七つの言葉の録音もあるようです。これは手に入れなくてはなりませんね。

ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33は1781年の作曲。シュトルム・ウント・ドラング期の傑作四重奏曲Op.20から9年後の作品。このOp.33はロシア四重奏曲集と言われていますが、前作が緊密な構成感とほの暗い独特の表情で知られるのに対し、単純明快で長調の美しい旋律に満ちた曲集。いつも紐解く中野博詞さんの「ハイドン復活」ではこの時期、以前ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集の記事で触れた、ルイジア・ポルツェリという美しい歌手との恋がこのロシア四重奏曲の磨かれた美しさに影響があるとしています。ヌリア・リアルの記事は下記の通り。

2010/11/06 : ハイドン–オペラ : ヌリア・リアルのオペラ挿入アリア集

Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
冒頭から揺るぎない素晴らしい充実した響き。ずば抜けた安定感。堅実な演奏から音楽が吹き出してくるよう。すこし残響が多めの録音ですが、過度ではないためゆったり音楽を楽しめます。磨き抜かれた各楽器。引き締まっていながら美しく磨かれた響き。完璧なプロポーションのギリシャ彫刻のような完成度。大理石の透き通るような白の美しさに満ちています。テンポは落ち着いていますが、各楽器が攻め込むように交互に掛け合い、リズムのキレも抜群。ヤナーチェク弦楽四重奏団、恐ろしいほどのテクニックと音楽性です。ヴァイオリンのヴァチェクの伸び伸びとした美しい音色が素晴らしいですね。
2楽章はスケルツォ。有り余るテクニックを誇示せず音楽をゆったりと表現するような余裕たっぷりの演奏。ここでも素晴らしい音楽の立体感。
3楽章のラルゴは完璧なアンサンブルで、独特の美しいフレーズを静かに奏でていきます。心に楔を打つような激しいアクセントを交えて、磨き抜かれた美しい弦を響き渡らせます。ヴァイオリンの伸びのある音色はここでも素晴らしいですが、チェロの控えめながらしっとりした音色も印象的。あまりのアンサンブルの精度に息を飲むような緊張感。
フィナーレの入りは素晴らしい軽さ。徐々に楽器が重なっていき響きが厚くなっていく様子は見事の一言。コミカルな表情のこの曲を、絶妙の間を挟みながら、抜群の機知を感じさせます。

ヤナーチェク四重奏団ははじめて聴きますが、あまりの素晴らしさに腰を抜かしたほど。なるほどヤナーチェクの弦楽四重奏曲の類いまれな演奏を出来るということが有り余るテクニックを示していますね。この[冗談」は抜群の出来。ヤナーチェクのスペシャリストであると同時にハイドンのスペシャリストと言っても過言ではありません。ヤナーチェク独特の情感を存分に表す力をもって、ハイドンの晴朗な四重奏曲を碧々と突き抜けんばかり青空のもとに表現しており、見事の一言。評価はもちろん[+++++]。このあとのヤナーチェク、ドヴォルザークも渾身の演奏。このアルバムあまり売り場でもネットでも見かけませんでしたが、弦楽四重奏好きの皆様にはぜひお薦めしたい名盤です。

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tag : 冗談 弦楽四重奏曲Op.33

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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