ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)

旅行記にかまけておりましたが、仕入れは継続しております! 今日は最近オークションで見かけて手に入れたもの。

SalomonSQ_LP.jpg

ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.55のNo.2、Op.64のNo.5「ひばり」の2曲を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

ザロモン弦楽四重奏団はhyperionレーベルに1980年代から90年代にかけて弦楽四重奏をかなりの枚数録音しています。このアルバムに収録されている2曲もhyperionレーベルに録音があるのですが、これはL'OISEAU-LYREレーベルに残されたものでhyperionとは違う音源の録音です。曲は異なりますが、hyperionの録音は以前に一度取り上げています。

2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

手元にhyperionレーベルのシリーズの録音は揃っているのですが、録音年代をチェックすると、一番録音が早いのが1982年の7月で、以降1995年までの間に録音されています。最初の録音のOp.71のNo.1とNo.2は、今日取り上げるLPよりも前の録音になります。この2曲もそれぞれセットとして94年と95年に再録音されています。全くの想像ですが1982年の録音当時、L'OISEAU-LYREとhyperionのそれぞれに録音したものの、セットとして体系的に録音を企画したhyperionの方に録音を継続し、L'OISEAU-LYREとの録音はスポット的に終わってしまったということなのかもしれません。L'OISEAU-LYREからはこのアルバムの他、ホグウッドと組んだザロモン版の室内楽による軍隊とロンドンの2曲のLPがリリースされているのみです。

メンバーはhyperionレーベルの録音と変わりなく、下記の通り。

第1ヴァイオリン:サイモン・スタンデイジ(Simon Standgage)
第2ヴァイオリン:ミカエラ・コンベルティ(Micaela Comberti)
ヴィオラ:トレヴァー・ジョーンズ(Trevor Jones)
チェロ:ジェニファー・ウォード・クラーク(Jennifer Ward Clarke)

ただし、同じ曲で聴き比べると、演奏はこのL'OISEAU-LYRE盤に軍配が上がります。というかこのL'OISEAU-LYRE盤の演奏は絶品なんですね。

Hob.III:61 String Quartet Op.55 No.2 "Lasiermesserquartetett" 「剃刀」 [f] (1788)
hyperionのCDの演奏も悪い演奏ではないんですが、極上のコンディションのL'OISEAU-LYRE盤の磨き抜かれた響きは比べると演奏のしなやかさが数段上。このほんの少しの違いが音楽の深みに大きく影響します。94年録音のhyperion盤が若干平板さを感じさせるのに対し、L'OISEAU-LYRE盤に針を落とすと、瑞々しさに溢れたデリケートな響きに包まれます。音楽の表情の深さと古楽器クァルテットの音色の豊かさに惹きつけられます。演奏に余裕があり、ゆったりとした1楽章の入りの美しさを完璧に表現します。そしてフレーズごとの息の長い音楽の展開が見事。LPながら録音はDIGITAL。L'OISEAU-LYREの見事な録音が演奏に華を添えます。このレベルの録音はうちのオーディオ環境ではLPでしか聞くことができないレベルです。あまりに素晴らしい演奏と録音に1楽章ですでにノックアウト。
切々とした短調の入りから転調して次々と表情を変える2楽章。サイモン・スタンデイジの自然で伸びやかなヴァイオリンがここでも余裕たっぷりな音楽を作っていきます。アンサンブルは神々しいばかりの精度で、未曾有の一体感。ハイドンならではのユニークな曲をあまりに見事に仕上げて、演奏によってはちょっとギクシャクする曲の真価を問います。注意深く聴くと実によくできた曲だと唸ります。
メヌエットは前楽章を受けてか、リズミカルな舞曲ではなく、ここでも技巧を凝らしたメロディーで聴く人を驚かせようという感じ。
フィナーレはハイドンならではのコミカルなメロディーの魅力に溢れた曲。そのコミカルさを軽さとキレ味でさらりと聴かせるセンスの良さも絶品です。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
鳥肌が立つような美しい入り。誰でも知っている冒頭のリズムが非常に滑らかに刻まれ、そしてひばりのさえずりのようなヴァイオリンが伸びやかに歌います。なんと言う美しい響き。冒頭から絶品です。アンサンブルは完璧に揃い、響きは超高鮮度。ボウイングの弓の滑りがしなやかさの限りを尽くします。これほど美しいひばりを聴くのは初めて。そして展開部も迫真の迫力。あまりに素晴らしい1楽章に仰け反ります。
そして緊張感を保ちながらの美しいアダージョ。ここでもサイモン・スタンデイジの伸びやかなヴァイオリンの魅力が圧倒的な存在感で迫ります。途中陰りを感じさせるところの枯れ方が、再び明るさを取り戻す時の対比に効いてきます。伴奏にまわるヴィオラやチェロも表現力豊かにサポート。
静かに閉じた前楽章から活気を取り戻すように踊るメヌエットに入ります。前曲とは全く異なるアプローチがビシッと決まります。やはりメヌエットの王道は躍動感ですね。
そして軽快なフィナーレ。入りからキレよく飛ばし、フーガのような展開部でも軽快さを保ち続ける見事な技。ここでもハイドンならではのユーモラスな展開を意図をしっかり汲んだ素晴らしい演奏で締めます。

いやいや、これは絶品。旅行記の前にレビューしたスミソン四重奏団のヤープ・シュレーダーといい、このアルバムのサイモン・スタンデイジといい、古楽器草創期の名ヴァイオリニストにが参加した演奏の素晴らしさを再認識した次第。古楽器でのクァルテットの演奏は増え続ける一方ですが、これらの草創期の演奏を超える演奏が増えたかと言うと、そうとも言えないのではないかと言うのが正直なところ。新進気鋭の団体の斬新な演奏もなくはありませんが、これらの演奏を超える魅力があるかと言えば、微妙なところかもしれませんね。剃刀もひばりも絶品のおすすめ盤です。評価は両曲とも[+++++]とします。

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Meta4の弦楽四重奏曲Op.55

今日は久しぶりに若手クァルテットの新譜です。

Meta4.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

Meta4によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.55のNo.1、No.2「剃刀」、No.3の3曲を収めたアルバム。収録は2008年11月4日から6日、ドイツ、ハイデルベルクの南方の街ザントハウゼンにあるクララ・ヴィーク・オーディトリウムでのセッション録音。レーベルは最近良く取りあげているhänssler CLASSIC。

クララ=ヴィークとは調べたところクララ・シューマンのことのようですね。ヴィークが旧姓です。

さて、Meta4ですが、ライナーノーツによると、フィンランドのクァルテット。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アンティ・ティッカネン(Antti Tikkanen)
第2ヴァイオリン:ミンナ・ペンソラ(Minna Pensola)
ヴィオラ:アッテ・キルペライネン(Atte Kilpeläinen)
チェロ:トマス・デュプシェバッカ(Tomas Djupsjöbacka)

2001年に結成され、ヨーロッパ室内楽アカデミーのハット・バイエルレ(アルバン・ベルク四重奏団のヴィオラ奏者)とヨハネス・マイスル(ウィーン・アルティス四重奏団の第2ヴァイオリン)に師事。2004年にモスクワで開催された国際ショスタコーヴィチ弦楽四重奏コンクールで優勝し、同時にショスタコーヴィチのすぐれた演奏によって特別賞も受賞しました。2007年4月にはウィーンで開催されたヨゼフ・ハイドン国際室内楽コンクールでも優勝しました。その後、フィンランド文化省から、フィンランドの若手で将来有望な演奏家たちを奨励するフィンランド賞を授与され、2008年以降、フィンランド内陸部でロシア国境に近い街、クフモで開催されるクフモ室内楽音楽祭の常任クァルテットとなっています。また、2008年9月から、BBC新世代の芸術家に選ばれ、シティ・オブ・ロンドン音楽祭、チェルトナム音楽祭、マンチェスター・ミッドデイ・コンサーツ・ソサエティやバーミンガム・タウン・ホールに招かれているなど、活躍の場を広げています。

ヨーロッパの辺境フィンランドの若手演奏家によるハイドンの比較的地味な曲の録音。ライナーノーツによれば、このクァルテットのデビュー盤で、ハイドンを選んだのはマドリードでのハイドンの弦楽四重奏曲全曲演奏でこのOp.55を演奏したからとのことでしたが、もともと師であるアルバン・ベルク四重奏団のヴィオラ奏者だったハット・バイエルレから2003年にバーゼルで教わり始めた際、「ハイドンを学ばなければならない。ハイドンを演奏出来れば、どんな曲も演奏することができる」と言われたからだとのこと。けだし名言だと思います。

ジャケットに目をやれば、才気あふれる若者がかなり挑戦的な眼差しでたたずむ姿。これまでのハイドンの弦楽四重奏曲の演奏史に、この新たな才能が一石を投じる事が出来るでしょうか。以前取りあげたミネッティ四重奏団もそうですが、若手のクァルテットのアルバムを聴くのは、非常に楽しみな事です。老練なハイドンもいいですが、若い才能がハイドンをどう料理するかも興味深いですね。今日はこのアルバムの最初の2曲を取りあげます。

Hob.III:60 / String Quartet Op.55 No.1 [A] (1788)
非常に鮮明かつダイレクトな音響。刺激が強すぎる一歩手前の鮮明な尖った音の録音。若手らしく音符から精一杯のメリハリを汲みとり、クッキリとしたソノリティを再現。特に高音域の鮮明さが音響上の特徴でしょうか。北欧だからかわかりませんが、透徹した氷のような響き。各奏者が自在にメロディを奏でていますが、テイストがそろっているせいか一体感は悪くありません。一音一音のチュナーミクをきっちりコントロールして、研ぎすまされた響きをつくっていくような演奏。テクニックは確かなものがあります。特に第1ヴァイオリンの磨き抜かれた高音のメロディーの浸透力は流石なもの。
2楽章のアダージョ・カンタービレは、クッキリした表情のままくつろいだ表現に。現代音楽ばりの精妙な響きで演奏されるハイドン特有の暖かいメロディー。ユニークな演奏ではありますが、悪くありません。ハイドンを良く理解して演奏しているようなので、表現が浮ついていませんし、なかなかの情感。
メヌエットは鋼のような強さのヴァイオリンがリードしてリズミカルな演奏。鮮度とリズム感を重視した意外とオーソドックスな演奏。ハイドンの難しいところは表現重視になれば、曲の美しさをスポイルしかねず、かといって大人しい演奏では凡庸に聴こえてしまうので、どこまで表現を踏み込むかのバランス感覚を鍛えられるところ。Meta4は、このバランスをうまくわきまえ、きっちり個性を出しながらも、ハイドンのクァルテットの演奏として踏み外さないバランス感覚を身につけているようです。
フィナーレも軽さをうまく表現しながら、持ち前の強い音色と表現を上手く織り交ぜて、自分たちのハイドンの表現をしっかり持った演奏にまとめています。フィナーレはコミカルな表情を上手く取り入れて、ハイドンらしさを十分表現しています。出だしの1曲目からなかなかの腕を披露していますね。

Hob.III:61 / String Quartet Op.55 No.2 "Lasiermesserquartetett" 「剃刀」 [f] (1788)
切れる剃刀に困っていたハイドンが、カミソリと交換しようと提案したエピソードで知られるこの曲。音響的には前曲そのままですが、表情が少し穏やかになって、ハイドンのメロディーを素直に楽しむ余裕がでてきました。短調の悲しげなメロディーを切々と弾いていきます。途中から顔を出すチェロのソロの柔らかい音色が妙にいい音。後半の明るい展開部の素朴な表現は1曲目の険しい表情とは打って変わってほのぼのとしたもの。
2楽章はアダージョではなくアレグロ。中庸なテンポと、程よいメリハリでハイドンの曲をじっくり描いていきます。時折見せるレガートが変化をつけます。軽さと輝きが同居してフーガのような深遠な波を表現して、徐々にタイトな表現に変化していきます。
メヌエットも適度なテンションで変化の幅を比較的大きくとり自在な表現を加えます。特に中間部の起伏は見事なもの、両端部は落ち着いているので対比も十分。
フィナーレは軽さとテンションの高い部分の繰り返しを鮮明に描き、この曲の面白さを際立たせる演出。ハイドンを研究し尽くした上での表現でしょう。この曲でも表現の踏み込みが個性的かつやり過ぎない絶妙のところにあり、なかなかのものとうならされる演奏。かなりの才能と見ました。

フィンランドの俊英によるMeta4のハイドンのOp.55の3曲を収めたアルバム。ジャケットに写る自信満々の挑戦的な姿そのもの攻めるハイドン。若手らしく尖ったところも見せながら、ハイドンの弦楽四重奏曲のハイドンらしさの域を超えないあたりも、賢明な判断です。鮮明かつ浸透力ある音響、テクニックも安定しており、音楽性も十分.
才能あふれるクァルテットですね。ハイドンを良く研究し、ハイドンを得意としたアルバン・ベルク四重奏団の元ヴィオラ奏者ハット・バイエルレに学んだだけのことはあります。評価はNo.1が[++++]、No.2の「剃刀」が[+++++]とします。今後が楽しみなクァルテットです。

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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