ヨーゼフ・メスナーのオラトリオ版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

最近手に入れた非常に古い録音のLP。

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ヨーゼフ・メスナー(Joseph Messner)指揮のザルツブルク大聖堂合唱団(The Salzburg Dome Choir)、モーツァルテウム管弦楽団(The Mozarteum Orchestra)の演奏で、ハイドンのオラトリオ版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めた2枚組のLP。収録情報はこのアルバムには記載されていませんが、同一音源と思われる手元のCD-Rには1950年7月30日のライヴ収録と掲載されています。レーベルは英REMIGTON。

鮮烈な赤地にキリストのイラスト、そして印象的なタイポグラフィのジャケットが所有欲をそそるアルバム。1950年の録音ということでもちろんモノラル。しかもこの曲を2枚組4面に渡って収録してあるもの。先日オークションで入手したアルバムです。音源自体はCD-Rとして出回っているものなので、特段珍しいものではありませんが、このアルバム自体の放つ独特のオーラがたまりませんね。

手元の所有盤リストを調べてみると、オラトリオ版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ではこの演奏が一番録音年代が古く、そのあとはシェルヘン盤の1962年のものということで、この曲の録音史に残るものと言えるでしょう。

指揮者のヨーゼフ・メスナーは1893年、オーストリア西部のアルプス山麓のシュヴァーツという村の生まれ。幼い頃から音楽教育を受け、ミュンヘンで作曲、オルガンを学び、1920年代には作曲家、オルガニストとして活動をし始めます。1922年からはザルツブルク大聖堂のオルガニスト、1926年には楽長となり1969年に亡くなるまでその地位にあったとのこと。オルガン音楽の巨匠として知られ、ブルックナーの後継者とみなされていたということです。凄いのが歌手の布陣。

ソプラノ:ヒルデ・ギューデン(Hilde Guden)
アルト:クララ・エルシュレガー(Clara Ölschläger)
テノール:ユリウス・パツァーク(Julius Patzak)
バリトン:ハンス・ブラウン(Hans Braun)

ギューデンにパツァークとこの時代の一流どころを揃えた見事な配役ということで、いやが上にも期待が高まります。

Hob.XX:2 "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1796)
古いアルバムゆえ、いつものようにクリーニングしてもスクラッチノイズは少々残る感じですが、このくらい古いものだと逆にフィルムの映画同様、ノイズが味わいの要素のように聞こえます。そしてやはりCD-Rよりもリアリティは上。序章の入りは時代がかった古風な雰囲気を感じさせる至極ゆったりとしたもの。序章の後、ハープシコードに続いて滔々と流れる大河のようなコーラスを伴った第1ソナタに入ります。ライヴらしく縦の線が揃わないところもありますが、逆にそれが教会でのリアルな行事のような印象を与えていい感じ。すぐにソロが入りますがやはりギューデンの輝かしく圧倒的な美声が一段と目立ちます。

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第1ソナタが終わると2面に移ります。第2ソナタはまるで劇画音楽のようにドラマティックな展開。荒々しく、しかも力強いコーラスのエネルギーが押し寄せます。じっくり朗々と音楽が語られていくにつれて、巨大なエネルギーに取り込まれていくような錯覚に陥ります。そして第3ソナタはさらにテンポを落として、孤高感が際立ちます。メスナーの自然の呼吸のようなコントロールにオケとコーラスはゆったりと反応。歌手も朗々と歌を合わせていくことで絶妙な一体感に至ります。

再び面を変えて第4ソナタ、第5ソナタ。もはやゆったりとしたテンポに体が慣れてきていますが、第5ソナタのピチカートがここまで遅いとは想像できませんでした。超スローテンポによって歌手による四重唱が聴きどころになった感じ。同じ曲なのに他の演奏とは全く異なる響きに感じてきます。終盤再びピチカートに戻りますが音楽を保つギリギリ所までテンポを落としてきます。キワモノ的解釈という印象はなく、この時代の演奏スタイルと理解すべきでしょう。

最後の面に変えて第6ソナタ、第7ソナタに地震。第6ソナタの途中で「ゴン」というノイズが入ることで、これがライブだと気付かされます。ここまで一貫して遅めのテンポで、ザックリと音楽を作ってきましたが、ただ遅いだけではなく、起伏が実に音楽的であると同時にこれがオラトリオであるとはっきりとわかる祈りの感情を伴わせてきています。終盤に差し掛かったことを思わせる陰りも見事。そして第7ソナタはこれが結びであるとわかる折り目正しさを感じさせる見事な展開。渾身の力で険しさと郷愁を描いていきます。まさに劇的なクライマックス。最後の地震はアンサンブルが若干崩れ気味なのが地震っぽい。力で押すのではなく純音楽的な表現が予想とちょっと違いました。

1950年録音のオラトリオ版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ですが、まさにヒストリカルな演奏。時代の空気と奏者のエネルギーが音溝にしっかりと刻まれていました。演奏としてはもちろん荒く録音も時代なりですが、この演奏の価値はそこではなく、演奏史上の貴重な記録という所でしょう。人によって評価はまちまちでしょうが、私の評価は[++++]としておきます。何より同演奏のCD-Rとはコレクション価値が異なりますね。針音に時代の空気を感じる貴重なアルバムでした。

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アルミン・ジョルダンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

最近手に入れたCD。いやいやこれは素晴らしい!

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TOWER RECORDS / amazon

アルミン・ジョルダン(Armin Jordan)指揮のアンサンブル・オーケストラル・ド・パリ(Ensemble Orchestral de Paris)の演奏で、ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版を収めたCD。収録は1992年10月27日から29日にかけて、パリのナシオン広場近くにあるユージーン・ナポレオン修道院の礼拝堂(Chapelle de la Fondation Eugène Napoléon)でのセッション録音。レーベルはFnac Music。

アルミン・ジョルダンはアンセルメ以来のスイス人の国際的指揮者。少し前に取り上げたシャルル・ミュンシュ同様、ハイドンを振るイメージがあまりない人ですが、ジョルダンのハイドンは手元に「天地創造」と「四季」、エディト・マティスとのアリア集、アンヌ・ケフェレックとのピアノ協奏曲のアルバムがあります。オケはいずれもローザンヌ室内管。このうち「天地創造」とピアノ協奏曲のアルバムはレビューしています。

2013/04/03 : ハイドン–協奏曲 : アンヌ・ケフェレック/アルマン・ジョルダンのピアノ協奏曲(XVIII:11)
2010/08/28 : ハイドン–オラトリオ : アルミン・ジョルダンの天地創造

これまでの演奏から自然体でオケをおおらかに響かせるのが上手い人との印象があります。ケフェレックとの協奏曲の伴奏も見事、天地創造も伸び伸びとした音楽が印象的でした。これまで手元にあったアルバムはいずれも1970年代終わりから80年代初めにかけての録音で、今日取り上げるアルバムはそれより10年以上降った1992年の録音ということで、円熟を深めたジョルダンの演奏に期待が高まります。

Hob.XX:1 "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 [D] (1785)
序章
非常に柔らかいオケの響き。残響が多めの教会堂での録音ですが、適度に鮮明さもありバランスの良い、音楽を楽しむにはなかなかいい録音。序章は予想通り自然な呼吸の美しい音楽に包まれます。太い筆で書いた書のように輪郭は柔らかいのですが、しなやかな筆の勢いとくっきりと露わになる骨格によって凡庸な印象は皆無。柔らかなオケの響きとともに幸福感に包まれる音楽。まさに円熟の響き。序章から見事な演奏に引き込まれます。

第1ソナタ
ソナタに入ると自然な流れの美しさが一層際立ってきます。やや速めのテンポが見通しの良さを感じさせ、メロディーのしなやかさは独墺系のテイストではなくやはりラテン系の艶やかさを感じます。一定の範囲の起伏が心地よい流れの良さを印象づけます。

第2ソナタ
少しテンポを落として、だんだんメロディーが深く響いてきます。実に自然な音楽の流れ。全奏者がジョルダンのしなやかなタクトに身を任せてゆったりとした音楽の演奏を楽しんでいるよう。川の流れに身を任せて漂っているような陶酔感に包まれます。弦の響きにはほんのりと色彩が乗って淡い色の繊細な変化が見どころのよう。絶美。

第3ソナタ
音楽が進んで、徐々に枯淡の域に近づいてきました。ここにきて少し音量を落としてきたのが効いています。ハイドンが書いた音楽の大きな流れを巧みに汲み取り、ソナタ一つごとに深みを増していく見事なジョルダンのコントロール。弦のメロディーにうっすらと重なるホルンの音色が心地よいですね。

第4ソナタ
波のうねりのような大きな起伏の音楽。ゆったりとしながらも絶妙な迫力を帯び、大きな流れと静けさの繰り返しから生まれる陶酔。一貫した流れが素晴らしい説得力を持ちます。弱音部の翳りと透明感が深い深い淵を感じさせます。

第5ソナタ
ピチカートの伴奏に乗った有名なメロディーのソナタ。ピチカートは目立たせずに切々としたメロディーにスポットライトを当ててきました。やはりジョルダンは全曲に渡る流れの良さを重要視しているようですね。絵巻物を見せられるように連続したソナタの醸し出す険しくも美しいメロディーライン。

第6ソナタ
終盤の慟哭のようなソナタ。木管によってくっきりと浮かび上がるメロディーが新鮮ですね。これまでの曲の流れを回想するような叙情的な雰囲気に酔いしれます。強奏部分でも決して力まない穏やかなコントロール。凄みさえ感じさせる尋常ではない穏やかさ。これがジョルダンの音楽の真髄でしょうか。そしてこのメロディーの美しさはハイドンの天才のなせる技。

第7ソナタ
最後のソナタ。あえて淡々と進めているよう。最後に向けて徐々に力が抜けていく様子の無常さがこの演奏の気高さを物語リます。

地震
地震は適度な迫力で駆け抜けるような演奏。曲全体の絶妙なバランス感覚を印象づけます。よく聴くとメロディーには巧みなアクセントがつけられ、やはり音楽を印象的に聴かせる技を感じる演奏でした。

アルミン・ジョルダンの振るアンサンブル・オーケストラル・ド・パリによる、ハイドンの名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版ですが、穏やかな表現の中に美しいメロディーが詰まった見事な演奏でした。緩徐楽章ばかりが並ぶこの曲で、一つ一つのソナタをしっかり描き分けながらも一貫した流れにまとめるコントロールは円熟のなせる技でしょう。ジョルダンの天地創造も素晴らしかったんですが、これはそれ以上の名演といっていいでしょう。ジョルダンの音楽に癒されました。評価は[+++++]とします。

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ハンス・シュタトルマイア/ミュンヘン室内管の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

やはりLPが続きますが、良いものは良いということでご容赦を。

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ハンス・シュタットルマイア(Hans Stadlmair)指揮のミュンヘン室内管弦楽団(Orchestre de Chambre de Munich)の演奏で、ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版。収録はレーベル面にPマークが1974年とだけ記されています。レーベルは仏DECCA。

ハンス・シュタットルマイアは、モーリス・アンドレのトランペット協奏曲のDG盤の伴奏を務めた人といえばわかる人もいるのではないでしょうか。

2012/06/09 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・アンドレ/ミュンヘン室内管のトランペット協奏曲

ハンス・シュタットルマイアはオーストリア生まれの指揮者で作曲家。1929年、リンツの南の街ノイホーフェン・アン・デア・クレムス(Neuhofen an der Krems)生まれで、終戦後リンツ、およびウィーン音楽院でクレメンス・クラウスとアルフレート・ウールに指揮法を学んだ他、ヴァイオリンや作曲も学びます。1952年にシュツットガルトに移り、オーストリアの作曲家ヨハン・ネポムク・ダーフィトに主に作曲を学びました。その後、シュツットガルトで合唱指揮などを手始めに指揮者として活動し始め、1955年から1995年までこのアルバムのオケであるミュンヘン室内管弦楽団の首席指揮者を務めました。1976年以降はザルツブルク音楽祭にも招かれ活躍しているそう。録音も協奏曲の伴奏を中心に結構な数が残されており、堅実な指揮を旨としていたようです。

今日取り上げるアルバムは最近ディスクユニオンで仕入れたもの。仏DECCA盤という珍しいものであり、いつものようにクリーニングして針を落としてみると、DECCAらしいキレ味と仏盤らしい上品な響きを兼ね備えた素晴らしい響きが吹き出してくるではありませんか。あまりに見事な響きにうっとりとするほど。ということで記事にした次第です。

Hob.XX:1 "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 [D] (1785)
非常に広い空間に気持ち良く響き渡る弦楽オケの音色。厚みはそこそこながら透明感とキレ味は十分。しかもこの曲の序奏に込められた力感を十二分に踏まえた入魂の演奏。しなやかかつ流麗、そして間をしっかりととって劇性も十分。この曲の深い情感を踏まえた見事な序奏です。次々と襲い来るメロディーの波に打たれます。
第1ソナタに入っても、フレージングの深さと燻し銀の弦楽器の音色は変わらず、歴史を感じさせる大理石の彫像の少しデフォルメされた立体感の心地よさのようなアーティスティックさと落ち着きが同居しています。音楽の安定感は揺るぎなく、自信に満ちたもので、ひたすら音楽に没入していく感じ。ここにきて弦楽器の響きの軽さというか風通しのよさがともすると重くなりがちなこの曲の圧迫感を巧みに避けているポイントだと気づきます。不思議に爽やかさも感じるのは音色に秘訣があったよう。
第2ソナタではさらにその爽やかさが曲の重厚な展開を中和し、むしろ午後の柔らかな日差しのまどろみのような気配をも感じさせます。ソロと全奏のしっとりとした対比の美しさもそこそこに、グッと音量の変化をつけたデフォルメで個性的な印象を作ってきます。曲も中盤に入るところで、微妙に踏み込みを見せてくるあたり、シュタットルマイア、かなりの手腕と見ました。特に音を美しく響かせることに対する感覚は非常に鋭敏。弦楽器のみで織りなすテクスチャーの豊かさはかなりのもの。
第3ソナタに入ると、表現の幅はまたまた少し踏み込み、語り口もより深くなってメロディーの展開を一つ一つ慈しみながら進めていくようになります。曲が進むに連れてだんだん表現が深くなっていく面白さ。このデリケートな変化こそこのゆったりした曲が続くこの曲の醍醐味でもあります。穏やかな演奏の中でも、時に大胆に、時に柔らかくと響きが千変万化。名曲ですね。

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LPをひっくり返して第4ソナタに。CDだと曲が切れ目なく続くんですが、LPならではのこの一呼吸も悪くありません。第3ソナタからのエネルギーが絶えずに引き継ぐ感じが第4ソナタの入りのポイント。それを受けて少し冷ますように展開する曲の面白さ。ゆったりとスロットルをコントロールしながら曲の勢いを自在に制御していきます。途中のソロがまた味わい深く、曲の流れに完全に一体となった流れの良さを保ち、見事な弓さばきで絵巻物が進みます。ソロは完全にオーケストラ同じ流れの中でメロディーを置いていきます。これは相当の腕前。
好きな第5ソナタ。非常に控え目なピチカートに鳥肌が立ちます。ピチカートの強さ一つで曲の雰囲気が一変。途中から弦の慟哭のような激しいアクセントも気高く雄大。激しい慟哭はLPならではの溝の転写がわずかに聞こえますが、それもLPの味わいでしょう。再び非常に控え目なピチカートにぞくっとします。一貫してしなやかな展開にこれだけの起伏が織り込まれ、まさに劇的な展開。この曲の表現を極めたと言っていいでしょう。
終盤、第6ソナタは曲想がガラッと変わってもやはり劇的な序奏から入ります。序奏が終わるとお花畑のような幸福感に包まれる優しいメロディー、そして険しい響きが交互に現れ、聴くものに展開の喜びと理解の試練を与えられているよう。ハイドン自身がこの曲に一方ならぬ情熱を注いていたことを思い知らされる素晴らしい音楽の展開。いつもながら凡人の想像力の遥か彼方の閃きが音楽となっていることに打ちのめされます。そして全てを許すような癒しに満ちた音楽に移る絶妙の展開へと続きます。
最後の第7ソナタはクライマックスの火照りの余韻を冷ますような落ち着きを取り戻し、曲を振り返るような郷愁と枯淡の境地の入り混じった雰囲気を感じさせます。7つのソナタの一環した展開の中に、ソナタごとの特徴を絶妙に描き分けてくる非常に多彩な表現力。素晴らしい技術の裏付けがあってのことでしょうが、それを感じさせない自然さを保っているのが素晴らしいところ。
そして、最後の地震はゆったりと落ち着いて、このオケの良いところが全てでた劇的ながら爽やかで、かつアーティスティックなもの。これまで聴いた地震の中でも最もアーティスティック。タイプは違いますがジュリーニの壮年期の演奏のような気品を感じさせる見事さでした。

ハンス・シュタットルマイアと手兵ミュンヘン室内管によるハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ですが、この曲の管弦楽版の数多の録音の中でも1、2を争う名演奏でした。この爽やかかつ深い音楽の素晴らしさ、そして気品溢れる演奏は表現意欲やテクニックという座標とは全く異なる、ハイドンの音楽への深い愛情と指揮者の人生を通して会得した気品のようなものに裏付けられたもの。LPの溝から音楽というか、魂が浮かび上がってきたような素晴らしい演奏です。調べた限りではCD化されたことはなさそうですが、こうした名演奏が現代でも容易に手に入るようにしていただきたいものですね。見かけたら即ゲットをお勧めします。評価は規定外の[++++++]をつけたいくらいですが、平常心を保ち[+++++]としておきます。

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モラヴィア四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

久々のクァルテット。

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モラヴィア四重奏団(Moravské Kvarteto)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は1992年6月4日から5日、チェコ南部の街、イェヴィショヴィツェ(Jevišovice)にあるイェヴィショヴィツェ城のチャペルでのセッション録音。レーベルはIVANČICE。

このアルバム、しばらく前にオークションで手に入れたんですが、大手ネットショップではどこでも見かけません。なかなか素晴らしい演奏なので、多くの人に聴いていただきたいアルバムなんですが、惜しいところです。

奏者はチェコのクァルテット。英語名はMoravian Quartetとなります。ウェブサイトがありましたのでリンクしておきましょう。

MORAVIAN QUARTET

もともとの創立は1923年と古いクァルテットですが、実質的には何度か再結成され名前を継いできたようです。最初はチェコのブルノでモラヴィアの現代音楽などを演奏するために結成されました。30年後の1953年にブルノ音楽院の学生たちによってメンバーが一新され、第二の活動期に入りました。1965年年イタリア国際弦楽四重奏コンクールで優勝し、国際的に活躍するようになりました。現在のモラヴィア四重奏団は1986年に再結成された第3期のクァルテット。それ以来活動を続けています。今日取り上げる演奏の録音時のメンバーは下記のとおりです。

第1ヴァイオリン:イジー・ヤホダ(Jiří Jahoda)
第2ヴァイオリン:ヤン・ジュズニーチェク(Jan Řezníček)
ヴィオラ:イジー・ベネシュ(Jiří Beneš)
チェロ:ベドゥジーフ・ハヴリーク(Bedřich Havlík)

さて、肝心の演奏ですが、チェコらしいテンションの高い演奏。特にチェロのきりりとひきしまったサポートが印象的な正統派の演奏。くっりとした表情のなかに味わい深さがにじむ佳演です。

Hob.III:50-56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
序章
少々荒々しく感じるほど迫力満点の序奏の入り。4人のアンサンブルは非常に精度が高く、まさに響きが渾然一体となって伝わってくる入魂の演奏。テンポはもちろん遅めなのですが、ゆったりという印象はなく、険しく悠然とした感じ。特に持続音が見事な精度、完璧なバランスで響き、すべてが遅いテンポの曲のこれからのドラマの質の高さを予感させます。リズムは堅固さを感じさせるほど揺るぎ無く、そして彫りの深い造形は音楽の陰影の深さを印象づけます。

第1ソナタ
テンポは動かさず、泰然朗々と奏でられる音楽。それぞれのパートが幾分しなやかにメロディーを奏でますが、音楽に宿る規律は変わらず、キリリと引き締まり、特にチェロの一貫して堅固な演奏が曲の骨格を明確にしています。第1ヴァイオリンは目立ちすぎることなく、他のパートと織り成す和音の絶妙な感触を楽しむような余裕があります。純粋に曲の魅力に耳が集中できる素晴らしい演奏。

第2ソナタ
ここにきて第1ヴァイオリンのイジー・ヤホダのヴァイオリンが輝きを帯びてきて、メロディーの美しさがクッキリと浮かび上がってきました。非常にリラックスした演奏。リズムが前のめりになることはなく、心地よい落ち着きのなか、代わる代わる美しいメロディーが現れます。これまでとは変わって楽天的な癒しに包まれます。やはり持続音に最後まで力が満ちているので、音楽に力があります。

第3ソナタ
こんどは幾分音がやわらくなって、しなやかな響きになります。音の角がとれて柔らかさが増したんですが、フレーズごとにしっかりと表情をつけていくところは変わらず。音楽の落ち着いた濃さも変わりません。極上の音楽を完全にリラックスして浴びる快感に包まれます。ここでもチェロが盤石の堅固さでアンサンブルを支えます。チェロの音に集中すると、かなり表現と音量に幅をもたせていることがわかります。ベドゥジーフ・ハヴリーク、かなりの腕利きとみました。

第4ソナタ
この曲の中でもひときわ遅いテンポでの演奏。他のアルバムでもここまでテンポを落とした演奏はなかなかありません。ここに来て堅固な構成からちょっと踏み出して、長めの休符とセットで印象的なフレーズをちりばめてきます。各楽器の燻らしたような深い音色も印象的に働きます。際立つ孤高の気配。

第5ソナタ
前楽章の遅さとは異なり、この楽章はむしろ速めなテンポ設定。ピチカートのリズムが癒しに働くのではなく、現代音楽のような響きのアクセントとして意図しているようです。これまでの演奏から想像したよりあっさりとやり過ごします。

第6ソナタ
大詰めにきた感のある冒頭の印象的な入り。冒頭の序章同様、キリリとした表情を安定したテンポに支えられて描いていくスタイルに戻ります。踏み込んだ表現を聴かせる演奏も多いのですが、こうした抑えた表現の方が曲の切迫感が伝わってくるような気がします。節度を保った誠実さがにじみ出てきます。

第7ソナタ
最後のソナタ。ゆったりと大らかに、少々枯れた雰囲気も感じさせながら音楽を進めます。これまでのソナタをゆっくりと振り返るようにしみじみとした演奏。各パートが第1ヴァイオリンの存在感に負けないくらい、しっかりとメロディーを刻むと、今度は第1ヴァイオリンがクッキリと響きを研ぎ澄ましてきて、音色によるせめぎ合いを聴くよう。音楽の設計が緻密で、全員の意識がピタリと合った演奏が最後まで続きます。最後はやはり消え入るように。

地震
最後の地震は予想どおり、かなり遅め。スローモーションの地震映像を見ているよう。それが不思議とアーティスティックに感じます。迫力よりも、悠然とした雰囲気が印象的。冒頭の序章で感じた印象が帰ってきた感じ。

歴史あるチェコのクァルテットによる、ハイドンの傑作「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。少々個性的な演奏ですが、演奏には一本図太い筋が通った、他のクァルテットとは異なるもの。全般に遅めのテンポながら、しっかりとした骨格を感じさせ、また楽章ごとの演奏スタイルもしっかりと変えてくるなど、手抜きはなし。聴き終わると重厚な彼らの音楽に乗ったハイドンの美しいメロディが不思議と印象に残る演奏でした。私は非常に気に入りました。評価は[+++++]とします。惜しむらくは入手が容易ではなさそうなこと。クァルテット好きな方は是非とも手に入れて聴いて見られることをお勧めします。

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ヴィア・ノヴァ四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

少し間があいてしまいましたが、名盤探求の巡礼は続けております。今日はLP。

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ヴィア・ノヴァ四重奏団(Quatuor Via Nuova)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたLP。収録はPマークが1972年とだけ記載されています。レーベルは今も元気なERATO。

ヴィア・ノヴァ四重奏団はWikipediaなどによると、1968年にサヴォワのラ・プラーニュで開かれた音楽祭を契機にヴァイオリニストのジャン・ムイエールによって設立されたフランスの四重奏団。メンバーは当初パリ音楽院出身者が中心でしたが、1970年代はじめにムイエール以外のメンバーが入れ替わり、当時パリで活躍していた奏者などになったとのこと。なお、ヴィア・ノヴァとは「新しい道」の意で先の音楽祭でムイエールが提唱した芸術運動の名称とのこと。

このアルバムのメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ジャン・ムイエール(Jean Mouillère)
第2ヴァイオリン:アラン・モリア(Alain Moglia)
ヴィオラ:クロード・ナヴォー(Claude Naveau)
チェロ:ロラン・ピドゥー(Roland Pidoux)

Wikipediaに掲載されているメンバーと比べると、ムイエール以外は創設メンバーから替わった後のメンバー。第2ヴァイオリンのアラン・モリアは以前彼の指揮する協奏曲集を取り上げています。

2015/01/04 : ハイドン–協奏曲 : アラン・モリア/トゥールーズ室内管の管楽協奏曲集(ハイドン)

また、チェロのロラン・ピドゥーも以前、三声のディヴェルティメントでチェロを弾いたアルバムを取り上げています。他にハイドンのチェロ協奏曲でソロを務めたアルバムもあり、初めて聴く人ではありません。

2015/02/28 : ハイドン–協奏曲 : エルヴェ・ジュランのホルン協奏曲など(ハイドン)

このアルバムを手にいれたのは、先に紹介した幸松肇著の「レコードによる弦楽四重奏曲の歴史」の上巻にこのアルバムの素晴らしさに触れたくだりがあり、それを読んだ直後にディスクユニオンの店頭で出会ったという偶然もあります。まあ、前置きはこのくらいにしてレビューに入りましょう。

Hob.III:50-56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
LPの状態はノイズもほとんどなく悪くありません。教会堂での録音でしょうか、眼前にクァルテットがリアルに定位しますが、残響それを邪魔せず豊かに響く、この曲に最適な響き。序奏はゆったりとしたテンポで冷静沈着な演奏。祈りにもにた敬虔さが漂う高貴なもの。4本の楽器は対等な音量ですが、やはり微妙にジャン・ムイエールの旋律が浮き上がり、ピリッとします。

第1ソナタに入っても、ゆったりと時間が流れるような絶妙なテンポ感。非常にしなやかにフレーズを磨きこみ、特に弱音分のデリケートなコントロールが秀逸。孤高の響きに耳を奪われます。フレーズからにじみ出る癒し。特にチェロ、ヴィオラの弓の動きがくっきりと浮かび上がり、アンサンブルの面白さが浮かび上がります。

繊細な響きの魅力を帯びた第2ソナタ。一貫して孤高の響きは健在。時折強奏の部分で見せる表情の険しさが演奏の峻厳な陰影の深さを際立たせ、穏やかな表情の部分との対比で詩情を豊かに感じさせる絶妙の演奏。

穏やかで味わい深いいぶし銀の響きのうねりが続きます。薄暗い教会堂に徐々にうっすらと陽の光が差し込むように明るい響きに推移してゆくアンサンブル。チェロに引き継がれたメロディーを体に響き渡るような低い音でただただしっかりと受け継ぎます。穏やかながらも起伏に富んだ音楽の流れに身を任せているうちにA面が終わります。

レコードを裏返して第4ソナタへ。ゆったりとした甘美な雰囲気は変わらず、ときに孤高の響きを聴かせる高貴さも保たれます。第4ソナタはこの曲でも最も寂しげな響きに満ちた曲ゆえ、純粋にヴィア・ノヴァ四重奏団のいぶし銀の響きを楽しみます。

演奏によって大きな表情の違いをみせるピチカート伴奏にのった第5ソナタ。ピチカートはかなり控え目で、時折慟哭する部分とのコントラストがくっきりつきます。全編に響きの味わい深さが感じられるのがこのクァルテットの特徴。険しい部分が険しいだけに終わらない余裕があり、結果として起伏に富んだ音楽のゆったりと流れる様が一望できる感じにまとまります。

終盤の聴きどころの第6ソナタ。表現の幅と峻厳さに磨きがかかります。そしてすっと朴訥に現れる美しいテーマに心が洗われます。アンサンブルの険しさから逃れるように優しく響く第1ヴァイオリンにはっとします。中間部は神がかったような陶酔感。4本の楽器が激しくせめぎ合いながら天に昇ってゆくような不思議な感覚に襲われます。そして再び美しいテーマに戻り、興奮が鎮まります。

そして大詰め第7ソナタ。夕暮れどきのような黄昏れた気配に満ちた入り。これまでを振り返るようにしながらも、遅くなりすぎないように歩みを進め、弱音器つきの楽器によるタイトなアンサンブルがうねります。4人の音楽が完全に揃い、一糸乱れぬアンサンブルによる穏やかな緊張感。情感タップリな演奏とは逆に、抑えた表現から滲み出る味わいの豊かさを感じさせるもの。最後は消え入るように。

そして終曲の地震。程よい迫力の甘美な響き。迫力よりもむしろ精緻なアンサンブルと、響きの美しさで聴かせる演奏。これが弦楽四重奏曲版での正しい表現のあり方でしょう。

今から40年以上前に録音された、フランスのヴィア・ノヴァ四重奏団による「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。独墺系の演奏とはやはり一味ちがう品の良さというか、センスの良さがあり、そしてフランスらしいくっきりとした弦のアンサンブルが堪能できるアルバムでした。このアルバムもどうしてCD化されていないのか不思議なものです。ハイドンの名曲を洗練されたフランスのクァルテットの演奏で聴くことができる貴重なアルバムと言っていいでしょう。演奏にはまったく古さを感じさせることなく、今でも素晴らしい輝きに満ちたものと言っていいでしょう。なかなか入手は難しいでしょうが、手に入れる価値のあるアルバムです。評価は[+++++]です。

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テルプシコルド四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

先日、Op.33を取り上げたテルプシコルド四重奏団。その少し後の録音が手に入りましたので取り上げます。

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テルプシコルド四重奏団(Quatuor Terpsycordes)によるハイドンの弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は2008年10月21日から25日にかけて、スイスのベルン州のブルーメンシュタインの教会(Église de Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはベルギーのRICERCAR。

テルプシコルド四重奏団の情報については以前取り上げたアルバムの記事をご参照ください。

2015/03/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : テルプシコルド四重奏団のOp.33(ハイドン)

Op.33の演奏が2005年の録音、そして今日取り上げる演奏はその3年後の2008年の録音ということでいずれも比較的最近の録音。前アルバムでは若手クァルテットながら非常に成熟した演奏を聴かせていただけに、その実力で「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を弾かれたらさぞかし素晴しかろうと思っていたもの。奏者も変わらず、この切々たる曲をスイスの片田舎の小さな教会で録音するというところで、このアルバムへの意気込みがつたわってこようというもの。

実際に聴いてみると、いや、予想が的中。これはなかなかの出来です。

Hob.III:50-56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
ストイックな演奏も多いこの曲ですが、テルプシコルド四重奏団の手にかかると、この曲の劇性が色気を伴い実にアーティスティックに響きます。演奏は語りなどを含まないオーソドックスなタイプで、序奏から穏やかながら雄弁。一音一音の響きをじっくりと練った形跡があり、4人の響きがピタリと合って、まるで一人で演奏しているような純度で迫ってきます。
ソナタに入ると余裕たっぷりに落ち着きはらった安定した表情を保ちます。聴覚に全神経を集中させ、覚醒しきったようなキレ味での演奏が続きます。力みは皆無。しなやかにメリハリをつけながらソナタを刻んでいきます。ハイドンの美しいメロディーがキラ星のように輝きながら次々に奏でられる快感。この曲でこれだけ癒させるような快感を覚えるのは珍しいこと。どこかに宗教曲的な印象が残るのですが、テルプシコルド四重奏団の演奏は恍惚とした音楽の魅力一色。ソナタごとにどう弾きわけるかといったことではなく、一巻の絵巻物を描いていこうとしているよう。ここには音楽の気配や心のざわめき、色気のようなものが潜んでいて、次々とめくるめくように現れる美しいメロディーに合わせて代わる代わる顔を出してきます。テクニックで聴かせようというようなところはなく、純粋に音楽の力だけで曲を描いていきます。鳥肌がたつような静けさ、鋭く楔を打つようなアタックもありますが、すべてほどよく力が抜けた表現で、結果的にコントロールされたアーティスティックな彫りの深い音楽になっているという具合。第1ソナタから第7ソナタまで水も漏らさぬ集中力を保ち、一気に聴いてしまいます。
最後の地震はこれまでの流れから予想されるとおり、力任せではなく、アーティスティックにまとめます。

いやいや、ここまで素晴らしい音楽が聴けるとは思いませんでした。古楽器による「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」でここまで表現を凝らせた演奏はこれまで聴いたことがありません。詩情あふれる映画を一本見終えたような充実感。この名曲を完全に彼らのものに噛み砕いて演奏しています。この曲には別にオラトリオ版、ピアノ版がありますが、この演奏を聴くと、この弦楽四重奏版が最も音楽の本質を捉えているように感じざるを得ません。いろいろ名演奏の多いこの曲ですが、私はこの曲のベスト盤としてもいいと思います。絶品の演奏、皆さんも是非どうぞ。もちろん評価は[+++++]です。

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ジャン=クロード・ペヌティエの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ラ・フォル・ジュルネ)

このところゴールデンウィークには毎年出かけているラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン。東京のゴールデンウィークの風物詩として定着しています。今年のテーマは、これまでの特定の作曲家、特定の時代などをテーマとしていた流れから変わり、PASSIONS(パシオン)「恋と祈りといのちの音楽」ということです。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」2015公式サイト

ここ数年聴いたプログラムは下記のとおり。なかでもアンサンブル・アンテルコンタンポランのブーレーズはライヴにもかかわらず超精密な演奏に衝撃を受けるほどのすばらしさでした。

2014/05/06 : コンサートレポート : トリオ・カレニーヌのピアノトリオ(ハイドン)、アンヌ・ケフェレックの「ジュノム」(ラ・フォル・ジュルネ)
2014/05/04 : コンサートレポート : アルゲリッチ、クレーメルによる動物の謝肉祭(ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン)
2013/05/05 : コンサートレポート : 【番外】ラ・フォル・ジュルネで衝撃のブーレーズライヴ

さて、今年チケットを取ったのは1つだけです。

公演番号:252 “受難曲の傑作~ハイドンの劇的受難曲(ピアノ独奏版)”

今年のプログラムでハイドンが含まれるのはいくつかありましたが、日程があったのがこれ。祈りのパシオンということで、ハイドンの傑作「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のピアノ演奏版です。他に弦楽四重奏曲版、珍しいハープ独奏版のコンサートプログラムも入っていましたが、ハイドンの祈りはこの曲ばかりではないんですが、それでも今やメジャーとなったラ・フォル・ジュルネでハイドンが取り上げられるだけでもよしとしましょう。

奏者はフランスのピアニスト、ジャン=クロード・ペヌティエ。以前にソナタ集を取り上げています。奏者の情報はこちらをごらんください。

2010/11/24 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=クロード・ペヌティエのピアノソナタ集



さて、昨日5月3日は快晴。汗ばむほどの陽気でした。毎年ゴールデンウィークに開催されるラ・フォル・ジュルネの時期は暑い日が多いですね。

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東京国際フォーラムの中庭に植えられた欅は新緑の緑が濃くなり、葉が鬱蒼と茂り始めてます。

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コンサートの始まる12:15より少し前について、会場をうろうろ。プログラムを見るとほとんどの公園が売り切れで、会場はすでに多くのお客さんで賑わっています。

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お昼時とあって中庭では食事を楽しむ人たちでごった返していました。この陽気、もちろんコンサート前に一杯煽らずにはいられません(笑)

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屋台でプレミアムモルツと白ワインを手に入れ、グビッと一杯。いやいやキンキンに冷えた生ビールを青空の下で飲むというのはいいものです。そうこうしているうちに開場時間となります。

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開場は有楽町から東京国際フォーラムに入ってすぐ左のD7ホール。エレベーターに乗り、ホールに入ると、席はピアノの正面の絶好の席でした。

ステージを見ると、ピアノとは別に譜面台が置かれています。ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は、1786年、スペインのカディス大聖堂からの依頼によって作曲された曲で、聖金曜日の礼拝において、福音書のキリストの十字架上での七つの言葉をそれぞれ読み、瞑想する時間に演奏されるための音楽ということ。ヨーロッパの録音では曲間にこの福音書の朗読が入るものもあります。ということで、今日の演奏は、音楽祭のテーマである「祈りのパシオン」らしく、福音書の朗読が入るものと想像されました。

定刻となり、ピアニストのペヌティエがのそのそと登場。すると、ピアノを弾く前に自ら譜面台の前に立ち、ドスの効いたフランス語の低い声で朗読を始めます。壁面に字幕が投影され、この十字架上のキリストの最後の七つの言葉の語りの意味を噛み砕いて始めて聴くという機会となりました。

ペヌティエの語りは、語り役としても素晴らしいほどのもの。暗闇の中でスポットライトを浴び、オーソン・ウェルズのような鋭い眼光で会場をギラリとにらみながらの語りは雰囲気抜群。ピアノより語りの方が印象的といったら怒られますでしょうか。

序奏から生のピアノの力感はかなりのもの。演奏は虚飾を配して、ゆったり訥々と進めるものですが、やはり左手から繰り出される図太い低音はかなりのもの。時折タッチが乱れることもありましたが、図太い音楽の一貫性は流石なところ。そして各ソナタの間に語りが挟まれ、かなりゆったりとした進行。キリストが磔にされ、絶命するまでの様子が語られ、その物語の余韻に浸りながら聴く音楽ということがよくわかりました。プログラムでは12:15から13:25までと70分の予定でしたが、終わったのは13:30過ぎ。ゆったりとした音楽と、ゆったりとした語りを存分に楽しめました。特に第5ソナタから第7ソナタに至る後半の曲調の変化の演出は流石というところ。そして最後の地震はタッチはかなり乱れたものの、迫力で押し切る気迫の演奏。

最後は会場から拍手が降り注ぎ、何度も呼び戻され嬉しそうにそれに応えるペヌティエの笑顔が印象的でした。

ラ・フォル・ジュルネではこれも恒例ですが、コンサートが伸びると、次のプログラムの始まりに間に合わない方が席を立ち、そそくさと出ていく姿が見られました。幸いこのプログラムでは語りが挟まれるので、演奏中に離席するひとがいなかったのが幸い。これもこの音楽祭の風物詩でしょう。



会場から出るのはエレベーターのみということで少々待ってから外に出ると、先ほどよりさらに気温が上がって汗ばむほど。お昼の時間ということで、となりの旧読売会館、今はビックカメラの上にあるタイ料理、コカレストランに向かいました。

食べログ:コカレストラン&マンゴツリーカフェ 有楽町

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なにはともあれシンハービール(笑) 先ほどビールを飲んだのですが、暑い日は喉が乾くのです(笑)

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そしてトムヤムヌードルに蟹チャーハン。トムヤムヌードルは酸味とピリッとした辛味が流石。スープの完成度高いです。実に旨味の濃いスープでした。蟹チャーハンもタイ風の味付けでこれも絶品。これはおすすめですね。

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そして嫁さん注文のデザート。マンゴプリンにタロイモケーキ。こちらも美味しかった。ここは2度目ですがリーズナブルで美味しいいい店です。



さてお腹も未知たので、この日最後の行き先は上野の西洋美術館。

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国立西洋美術館:グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家

こちらは本題から外れてしまいますので、紹介だけ。日本ではイマイチマイナーな存在のグエルチーノですので、連休中でも比較的ゆったり観られます。おすすめです。

ということで連休後半は文化的に始まりました。

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tag : ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 東京国際フォーラム

カザルス四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

ちょっと間をあけてしまいました。珍しく九州出張や飲み会続きで今週は家で夕食食ってません。ようやく週末ということで、CDラックをほじくり返して、レビューすべきアルバムをいろいろつまみ聴きして選んだアルバムがこちら。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

カザルス四重奏団(Cuarteto Casals)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は2012年11月、ベルリンのテルデックススタジオでのセッション録音。レーベルは仏harmonia mundi。

カザルス四重奏団ははじめて取り上げます。スペイン、マドリードのソフィア女王音楽院で1997年に設立されたクァルテット。その後バルセロナなどで学び、ケルンではアルバン・ベルク四重奏団にも師事しています。彼らの名が知られるようになったのは2000年にロンドンで開催された国際弦楽四重奏コンクール、2002年にハンブルクで開催されたブラームスコンクールでそれぞれ1等に輝いてから。2006年には国際的な活躍が認められ、スペイン音楽賞に輝きました。

Cuarteto Casals - official website

彼らのウェブサイトを見るとすでに12枚のアルバムが名門harmonia mundiからリリースされています。ハイドンについてはこのアルバムの他に2008年録音のロシア四重奏曲6曲の録音があり、すでに手元にあります。メンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:アベル・トマス・レアルプ(Abel Tomàs Realp)
第2ヴァイオリン:ヴェラ・マルティナス・メーナー(Vera Martinez Mehner)
ヴィオラ:ジョナサン・ブラウン(Jonathan Brown)
チェロ:アルノー・トーマス・レアルプ(Arnau Tomàs Realp)

ということで、ヨーロッパでも高く評価されているであろう、カザルス四重奏団の十字架、どのように響きますでしょうか。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
スタジオ録音とは思えない豊かな残響。部屋にこだまする響きをともなう録音。現代楽器のようですが、響きは古楽器風の直裁なもの。ヴィブラートは控え気味で、逆に弓の弾き終わりにぐっとアクセントをつけて響きを豊かにしようとしています。序章は鋭く峻厳。4人の一体感は素晴らしく、冷徹なまでにボウイングが揃ってます。互いの音がよく聞こえているのでしょう。音楽はスタイリッシュな鋭い劇性を帯び、現代音楽のように響きます。音量を抑えた部分の表現の繊細さも流石です。

第1ソナタに入ると、テンポはあまり落とさず、意外にサクサクと進めていきます。表情をかなりデフォルメしての演奏ですが、ミケランジェロの彫刻のような筋肉の存在を浮き立たせるようなものではなく、あくまでスタイリッシュでアーティスティック。モノクロームのオリジナルプリントを見るよう。黒の深みのなかに豊かな階調が表現されているような凛とした雰囲気を醸し出します。終盤どことなく不協和音のような響きを織り交ぜ、表情を引き締めます。

第2ソナタは彼らの劇性の表現がわかってきましたので、落ち着いて音楽に身を委ねられます。聴きなれたメロディーですが、メロディーは馴染むものの、響きはかなり鋭敏で峻厳。この曲の祈りのような静謐感を完全にアーティスティックに昇華した感じ。この曲の美しいメロディーは終盤、宝石のように輝くのですが、その光が青白く光るような艶かしさ。

静寂感の美しい第3ソナタ。力がうまく抜けて、メロディーの美しさが際立ちます。よく聴くとかなりのうねりをともなうボウイング。少しもくどい印象は残さず、一貫してアーティスティック。アルノー・トーマス・レアルプのチェロのみが柔らかく木質系の音色なので、鋭いヴァイオリンの音色を逆に引き立てます。

第4ソナタでは強音と弱音のコントラスをしっかりつけた演奏。ヴァイオリンの音に浸透力があり、こちらが圧倒されるほどの迫力。続く第5ソナタはピチカートの伴奏が独特の表情をもたせる好きな曲。こちらはそれほど凝らずに自然な表情の美しさで聴かせます。やはり迫力はかなりのもの。強音とそうでない部分のコントラストも重要なのでしょう、中盤の盛り上がりはムチがしなるような強音をちりばめ、そのくっきりとした影の美しさで聴かせます。ここが表現上、この曲の頂点としているよう。時折奏者の唸り声のようなものまで録られています。

そして大詰め、第6ソナタは険しい入りから陽が射すような暖かな音楽への転換で聴かせます。響きの変化を巧みに操り、影の部分の険しさから、しなやかな暖かいフレーズへの移りかわりを何度か繰り返します。張り詰めた高音と寄り添う伴奏の響きが共鳴し合いながら音楽をつくっていきます。暖かい音楽になるたびに緩む緊張が心地よいですね。

最後のソナタ、第7ソナタはこれまでの緊張を解きほぐすようにゆったりと抑えた音楽。弱音器により響きが抑えられ、鋭い音色が鈍く変わり、響きのエッセンスのみ音楽に。抑えながらも表現意欲がほとばしるような演奏。消え入るように音楽が沈んでいきます。

最後の地震はこのソナタで一番の強音。まさに天地が裂けるような音楽にします。アンサンブルの精度も最高。たった4本の弦楽器とは思えない、オーケストラのような響き。怒涛のフィニッシュ。最後に入魂の演奏が待ってました。

カザルス四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲の第2弾。この前に録音されたロシア四重奏曲ではこのアルバム同様の古楽器然とした演奏による美麗な演奏でしたが、もう一歩の踏み込みが欲しいと思わせるものがありましたが、この十字架の方はその一歩の踏み込みがありました。現代のクァルテットの表現力を誇示しながらも、冷徹、峻厳、そして時に抑えが効いた素晴らしい音楽を奏でています。ハイドンのこの名曲には様々なスタイルの演奏が存在しますが、現代のスタイリッシュなタイプの演奏のオススメ盤として広く聴いていただきたい名演奏です。評価は[+++++]とします。

早いもので、明日は1月に亡くなった叔父の四十九日です。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉

ショスタコーヴィチ四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

今日は珍しいロシアものの弦楽四重奏曲。

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ショスタコーヴィチ四重奏団(Shostakovich Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は1986年とだけ記されております。レーベルはロシアのVISTA VERA。

このアルバム、お正月にディスクユニオンで発見したもの。

弦楽四重奏版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は、切々とした響きの魅力があり、お気に入り。この日もディスクユニオン新宿店の弦楽四重奏曲のハイドンの棚を徘徊していいて、見慣れぬアルバムにドキリ。しかも未知のロシアものということで、期待大であります。

演奏者のショスタコーヴィチ四重奏団は、1966年にモスクワ音楽で設立されたクァルテット。1970年のミュンヘン、1973年のブダペストでそれぞれ行われた弦楽四重奏の国際コンクールで1等を獲り有名になりました。1979年にはソ連の文化省よりショスタコーヴィチの名を冠することを許されました。以降、ソ連、ロシア国内を中心にコンサート活動を重ねるようになり、38カ国を演奏旅行、50枚以上のアルバムの録音をこなし、日本も含むロシア、ヨーロッパ各国でリリースされるに至りました。メンバーは全員モスクワ音楽院の教授職にあるということです。

第1ヴァイオリン:アンドレイ・シシコフ(Andrei Shishlov)
第2ヴァイオリン:セルゲイ・ピシューギン(Sergei Pischugin)
ヴィオラ:アレクサンドル・ガリコフスキー(Alexander Galkovsky)
チェロ:アレクサンドル・コルチャギン(Alexander Korchagin)

このアルバム、ロシアものタイトな演奏かと思いきや、一貫した淡々とした語り口の燻し銀の演奏。過度な感情を排した、穏やかかな表情の演奏。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
録音は86年なり、というよりもう少し鮮明さが欲しくなるのが正直なところ。まあ、ロシアものとしては想定内です。華美な響きではなく、弦の内なるエネルギーを素直に表出したような演奏。オーソドックスなテンポで淡々とハイドンの劇的なメロディーラインを描いていく事で、封じられた悲しみを描いていくよう。この淡々とした演奏から立ちのぼるほのかな情感がいいんですね。4人のアンサンブルはピタリと合って、引きずるような表現も4人のベクトルがはっきり一致しています。
曲が進むにつれて、テンポはむしろ上がりながらこなれていき、純粋にメロディーラインの美しさが浮かび上がってきます。良く聴くと第1ヴァイオリンのシシコフはかなり強弱の変化をつけてメロディーを立体的に浮かび上がらせていることがわかります。ちょっとした音の揺れに儚さがにじみ、表現の幅が広がっています。むしろ速めのテンポだからこそ浮かび上がるソノリティの美しさ。奏者の集中度も上がって、徐々に音楽に生気が漲ってきます。技術と録音を越えて音楽が流れ出してきます。このハイドンの名曲に宿る魂に灯が灯ったよう。
第3ソナタに入るとぐっと情感がこもり、テンポが落ちます。蓮の花が一輪咲いたような不思議な華やぎと静かな凛とした美しさを感じる独特の心境。ハイドンの曲に込められた心情を静かにあぶり出すような見事な演奏。決して華美に走らない燻し銀の表現。序章で感じた淡々とした印象から、気づいてみるとグイグイ引き込まれる素晴しい音楽。枯淡の極致のような枯れた中に滲む音楽。続く第4ソナタも同様、すばらしい集中が続きます。そして第5ソナタのピチカートの名旋律は弦の胴鳴りの美しさが素晴しい! 力みはまったくなく、まるで一人の奏者が弾いているような音楽の一体感。次々と変化しているメロディの面白さを楽しんでいるよう。聴いているこちらにも微笑みが移るよう。
第6ソナタに入ると、象徴的に冒頭のメロディーをデフォルメして、流れの変わり目を印象づけます。印象的な音形を際立たせ、曲のメリハリをつけるところは流石。流すところとクッキリさせるところの潮目の変化で曲の構成を際立たせるあたり、このクァルテットの音楽性のポイントでしょう。ここにきてチェロの雄弁な演奏も耳に残ります。回想するような美しいメロディーの繰り返しに感極まります。
そして最後のソナタでは、意図してか再び淡々とした表情にもどり、封じられた悲しみを再現。最後の地震は迫力を殺して、パントマイムを見るような骨格だけの音楽。これはユニークですし、表現もしっくりきます。この曲の聴き所が7つのソナタの心情の変化にあることを確信的に表現した演奏でしょう。

聴きはじめの印象から、曲が進むにつれてどんどん音楽が濃くなり、しかも抑制された表現の中でのデリケートな変化。ハイドンのこの名曲の素晴しい音楽を知り尽くした設計に打たれました。華美さを避け、音楽の内なるエネルギーをしなやかに表出する名人芸。実に深い音楽を聴く事ができました。当初はもうすこし低い評価をつけようかと思いましたが、この音楽性は只者ではなく、演奏もジェントルななか十分個性的。ということで、[+++++]をつけることとしました。弦楽四重奏曲の実に深い奥行き。この燻し銀の音楽、お好きな方にはたまらないでしょう。

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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉

スカールホルト四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

今日は弦楽四重奏曲の最新のアルバム。非常に珍しいアイスランドのレーベルのもの。

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スカールホルト四重奏団(The Skálholt Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は2003年8月4日から7日、アイスランドの首都、レイキャビクから東に約50Kmほど内陸に入ったスカールホルト(Skálholt)カテドラルでのセッション録音。レーベルはアイスランドのSmekkleysaというレーベル。

クァルテットの名前でもあり、録音された教会のある街の名前でもあるスカールホルトについて調べてみたところ、中世アイスランドの文化的、政治的中心地であり、当時はアイスランド最大の街だったとのこと。現在はこのカテドラルと数軒の家しかない静かな街。

このスカールホルト・カテドラルでは毎年夏に音楽祭が開かれ、クァルテットのメンバーはその音楽祭のコンサートの常連で、メンバーは下記のとおりです。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:読めません!(Rut Ingólfsdóttir)
ヴィオラ:読めません!(Svava Berhardðdóttir)
チェロ:読めません!(Sigurður Halldórsson)

ヤープ・シュレーダーはホグウッドとのモーツァルトの交響曲全集で有名な人ですのでご存知の方も多いでしょう。当ブログでもシュレーダーが第1ヴァイオリンを務めるクァルテットのアルバムを2度ほど取りあげています。

2013/09/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : クァルテット・エステルハージのOp.20
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

シュレーダー以外のメンバーはアイスランドの人でしょうか。一東洋人たる私にはポーランド語もまったく発音が想像がつきませんが、このアイスランド語らしき文字も皆目読めません。クァルテットとして活動を開始したのは1996年からで、アイスランドはもとよりフランスなどでコンサートを開き、またアイゼンシュタットのエステルージ宮殿で毎年開かれているハイドンフェスティバルにも招待され、この十字架上のキリストの最後の七つの言葉を披露したとのことで、彼らにとってハイドンは重要なレパートリーとなっているようです。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
序章
アルバムに古楽器との表記はないのですが、古楽器然とした鋭い弦の音色。かなり残響の多いカテドラルに鋭い音色の響きがこだまします。非常に個性的な録音。スカールホルトカテドラルの響きをそのまま収めるという意図でしょう。かなり濃いめにフレーズしっかり奏で、エキセントリックというか緊迫感のある演奏スタイル。切々と劇画タッチでメロディーを描いていきます。ヤープ・シュレーダーのこれまでの演奏スタイルとはちょっと異なるスタイル。徐々に個性的な録音にも慣れてきて、意外にじっくり語るこのスタイルの魅力がわかるようになってきました。
第1ソナタ
第1ソナタはメロディーをクッキリ浮かび上がらせるスタイルが続き、第1ヴァイオリン以外は陰に寄り添うようについていきます。間をたっぷりとるので幽玄な感じも漂います。古楽器にしては異例のメリハリ。
第2ソナタ
色濃い表情が徐々に透明感を帯びてきたように感じます。若干表情のメリハリが枯れてきたのがそのような印象につながっているのでしょうか。意図したコントロールだとしたら見事です。
第3ソナタ
曲調にしたがって、本当に穏やかさが増してきているようで、まさに透明感を感じる展開。すべての楽器の表情が研ぎすまされてきて、凪の水面のような心境になってきました。序章からここまで、演奏スタイルを穏やかにへんかさせてくるあたりの大局を見据えたコントロールはただものではありませんね。終盤はアンサンブルのクリアさよりも心情の吐露のような乱れも生じて一瞬劇的な展開に。
第4ソナタ
前ソナタの乱れの余韻を継いで、これまでの恍惚としたような表情が、少し純朴な方向に振れて、良い意味で心に刺さるようになります。音楽のエッセンスの微妙な変化を楽しみます。
第5ソナタ
ピチカートに乗ったヴァイオリンの美しいフレーズが有名な曲。ピチカートをかなり抑え気味にして、ヴァイオリンはちょっとざらついた鋭い音でえぐるように名旋律を奏で、曲が進むにつれて、各楽器がグイグイ攻めこんできて、ぐぐっと心に迫ってきます。決して磨かれた音ではなくむしろ荒々しさを感じる弦楽器の響きが迫力につながっています。
第6ソナタ
序奏で強音を象徴的に響かせたあと、穏やかなメロディーに入り対比を鮮明に描きます。少し疲れたのか音程の安定度が少し揺らぐ場面があります。終盤にかけてもかなり踏み込んで強音を響かせ、慟哭のような効果を生みます。
第7ソナタ
最後のソナタ。ここまでソナタ毎に演奏スタイルを微妙に変化させて、曲の背景に潜む気配のようなものを丹念に描いてきました。最後のソナタでは、枯れ行く木々の葉が落ちる侘しさのようなものを実に上手く描いて、枯淡の境地に浸ります。フレージングのメリハリが妙に心に残る印象的なもの。最後は消え入るように。
地震
再び序奏の衝撃のようなものが蘇ります。ゆったりとしながらもエキセントリックな響き。音量での迫力ではなく、デフォルメされたメロディラインの迫力が襲いかかります。

この演奏は立場的にヤープ・シュレーダーが主導権をとっているものと思いますが、この演奏の荒々しくも恍惚とした迫力は、もしかするとスカーホルト・カテドラルそのものに宿る伝統、歴史のようなもののイコンが乗り移っているのかもしれません。広々としたカテドラルの豊かな残響のなかに浮かび上がるざらついた弦楽器の響きによって浮かび上がるハイドンの傑作ソナタ。弦楽四重奏曲としてバランスの良い演奏とは言えないものの、ここで聴かれる音楽は、まさにハイドンの手になる名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の本質をえぐるものであることは間違いありません。私は非常に気に入りました。ちょっと粗い面もあり、一般の方へのおすすめ度合いを考慮して評価は[++++]としておきます。いろいろなクァルテットの世界を楽しみたいベテランの方にはもちろん、激オススメです!

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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