ヴィルモシュ・タートライ/ハンガリー室内管の昼、受難(ハイドン)

夏休みの東北温泉旅行の記事にかまけておりましたゆえ、レビューはかなり間が空いてしまいました。今日はLPです。

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ヴィルモシュ・タートライ(Vilmos Tátrai)指揮のハンガリー室内管弦楽団(Hungarian Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲7番「昼」、49番「受難」の2曲を収めたLP。LP自体に録音年の表記はありませんが、Apple Musicでこの録音を聴くことができ、Pマークは1988年。レーベルはおそらくハンガリーのQuoliton。

このアルバム、先日DISC UNIONで見かけて手に入れたもの。鮮やかなブルーのジャケットにエステルハーザの夏の宮殿の写真が誇らしげに写っています。そしてなによりタートライ四重奏団の第1ヴァイオリンをつとめたヴィルモシュ・タートライの振るハンガリーのオーケストラということで、ぐっときて手に入れた次第。なんとなくゆったりとした音楽が流れ出してきそうなイメージ満点。なかなか希少なアルバムを手に入れたと思って喜んでいました。このアルバムを聴いてなかなかの演奏ゆえブログに取り上げることにして調べてみると、このコンビネーションでかなりの数のアルバムがリリースされていることがわかりました。これらはApple Musicに登録されています。登録されているアルバムを書き出してみると下記の通り。

交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」
交響曲26番「ラメンタチオーネ」、44番「悲しみ」、45番「告別」
交響曲39番、47番、54番
交響曲49番「受難」、59番「火事」、73番「狩り」
交響曲55番「校長先生」、67番、68番
交響曲27番、88番、100番「軍隊」
交響曲43番「火星」、82番「熊」、94番「驚愕」
交響曲31番「ホルン信号」、73番「狩り」

最後の一枚を除きHUNGAROTONの廉価版レーベルWHITE LABELからCDとしてリリースされていたものがApple Musicに登録されています。これらのアルバム、手元の所有盤にはまったくないもの。Apple Musicに登録されているアルバムの実物を手にいれるかどうかは実に微妙なところ。

ということで、このLPとApple Musicで聴き比べると、Apple Musicの方は聴きやすいものの明らかにデジタルくさい音。DACなどの専用システムは持っていないのでAir Playでの再生環境での比較です。世代的にネットオーディオにはまだ抵抗があり、CDの方がコレクション欲という意味でも音質という意味でも分があります。

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
実に柔らかく瑞々しいオケのの音色。ゆったりとしながらも表情は変化に富んで、ハイドンの書いたメロディーの綾をザックリと音にしていきます。もちろん録音はLPらしいしなやかかつ味わい深いもの。主題に入ると自然な推進力の魅力が滲みでてきます。ソロが活躍するこの曲、ソロヴァイオリンはヴィルモシュ・タートライ本人。
2楽章、短調のレチタティーヴォはこれも適度な劇性をしっとりと表現したもの。そしてつづく後半のアダージョがこの曲の聴きどころ。悠久の時の流れを感じさせるゆったりとした音楽。昼のこの楽章の美しさを際立たせる至福の音楽。
3楽章はメヌエット。適度に粗いオケが音楽の表情を豊かに感じさせます。古き良き時代のハイドンの音楽そのもの。古楽器の演奏も悪くありませんが、この幸福感に勝るものはありません。
フィナーレ。速いパッセージにも適度に余裕があり、実に典雅。フルートのソロの軽やかな音色が印象的。オケが落ち着いてこともなげにフレーズをさばいていく様子が微笑ましい感じ。まさに味わい深い名演奏と言って良いでしょう。

Hob.I:49 Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
名曲「受難」。前曲の印象から悪かろうはずもありません。1楽章のアダージョから実にしっとりとした序奏が心に刺さります。ゆったりとゆったりと進む音楽。シュトルム・ウント・ドラング期特有の仄暗い雰囲気が色濃く出た演奏。古き良き時代のバランスの良いハイドンの交響曲の典型的な演奏。LPだからこそ感じるのどかな印象。
2楽章に入ると前曲同様、自然な推進力の範囲で曲をコントロール。表現が大げさなところは一切ないのに妙にしっとりとくる演奏。ハイドンの曲に宿る気配のようなものを十分に踏まえての演奏に宿る神々しいオーラが充満。よく聴くとフレージングのメリハリは実に豊か。ハイドンの音楽のツボを押さえているからこその演奏でしょう。流石にタートライのコントロール。いぶし銀の弦楽セクション。
メヌエットに入っても穏やかな音楽は変わらず、ホルンの深い響きの魅力が加わって一層響きが魅力的になります。木管陣も金管陣も優秀。フィナーレはざっくりとした弦楽セクションのテクスチャーの面白さがあり、メロディーラインの穏やかな躍動感と不思議にキレを感じる演奏。ライヴに近い緊張感もあり、音楽の行方を追いかけるように聴きますが、荒々しさが逆に心地よさにつながる演奏。最後はキリリと引き締めて終わります。

ヴィルモシュ・タートライの指揮するハンガリー室内管弦楽団の演奏、Apple Musicで多くの演奏を聴くことができますが、LPで聴く古き良き時代のハイドンの交響曲の典型的な演奏もいいもの。同じ演奏でもネットで聴くのと、LPで聴くのはちょっとニュアンスが異なります。少々のスクラッチノイズの向こうには分厚いダイレクトでしなやかな響きが広がっていました。これだけのいい演奏が、これだけの曲数残っているということで、TOWER RECORDの復刻シリーズでの再発売などが期待されます。中の人、この企画いかがでしょうか(笑) やはりCDでの再発売のほうが我々の世代にはありがたいですね。評価は2曲とも[+++++]とします。

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tag : 受難 LP

ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)

あまり知られていない超名演奏、見つけました。

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。

ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。

ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。

指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。

ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。

いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 悲しみ 受難

ジェルノ・ジュスムース/シンフォニア・クラシカの哲学者、受難など(ハイドン)

今日は交響曲ですが、アルバムにはディヴェルティメントと弦楽四重奏曲の管弦楽版が含まれた変わった趣向のもの。

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ジェルノ・ジュスムース(Gerno Süssmuth)指揮のシンフォニア・クラシカ(Sinfonia Classica)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント(Hob.X:3)、交響曲22番「哲学者」、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1の管弦楽版、交響曲49番「受難」の4曲を収めたアルバム。収録は2007年、イングランド南西部のタウストック(Tawstock)にある教区教会でのセッション録音。レーベルは英LandorRecords。

このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいているもの。だだの交響曲のアルバムと思いきや、そうではありませんでした。指揮者のジェルノ・ジェスムースは、以前取り上げたペターセン四重奏団の第2ヴァイオリン奏者。ペターセン四重奏団といえば、ハイドンの最初の弦楽四重奏曲Op.1のあまりに見事な演奏が記憶に新しいところです。

2014/08/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 絶品! ペターセン四重奏団の弦楽四重奏曲Op.1(ハイドン)

その緻密な構成をオケで再現したらと思うと、ちょっとゾクゾクします。しかも収録曲には管弦楽の演奏にもかかわらず、弦楽四重奏曲Op.1のNo.1まで含まれており、否が応でも期待が高まります。はやる期待を抑えて奏者の情報をライナーノーツなどからさらっておきましょう。

シンフォニア・クラシカは、2003年イングランド南西部のヨーヴィル(Yeovil)とバーンスタプル(Barnstaple)のホールでEU室内管弦楽団のメンバーとはじめてコンサートを行った新進オケ。以来この2都市で毎年のように演奏しています。今日取り上げるアルバムがデビュー盤のようです。
指揮者のジェルノ・ジュスムースは9歳でハイドンのヴァイオリン協奏曲を演奏会で演奏したという経歴があり、また若い演奏者のための様々なコンクールの入賞歴があります。1980年にベルリンのハンス・アイスラー音楽院に入学し、旧東独にあった音楽院のオケのリーダーを務めました。その後ベルリン放送交響楽団のコンサートマスターとして働き始め、2003年にはザルツブルクとイギリスで新ベルリン室内管弦楽団を率いてコンサートを開いています。先に触れたペターセン四重奏団には1991年から1999年まで所属し、その間多くの賞を受賞しており、フィレンツェで行われたヴィットリオ・グイ室内楽コンクールで1等を獲っているとのこと。以後バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場で首席奏者、ワイマール国立歌劇場でコンサートマスターなどを務めました。近年ではハンス・アイスラー音楽院で教職についています。

腕利きのヴァイオリン奏者であるジュスムースが率いる新進のシンフォニア・クラシカがペターセン四重奏団ばりの緊密な音楽を生み出すのでしょうか。興味津々。

Hob.X:3 / Divertimento : Baryton Octet Nr.3 [a/A] (1775)
実はジャケットには曲名がHob.X:10と記載されているのですが、聴いてみると明らかに違う曲。X系列の曲を他のアルバムで確認するとこれはHob.X:3であることがわかりました。もともとバリトン八重奏曲として書かれた曲ですが、弦楽合奏にオーボエとホルンのソロが加わったもの。バリトンが加わった演奏は何種か手元にあるのですが、バリトンの不可思議な音色と古楽器の音色のハーモニーを楽しむ曲です。ところがこの演奏ではキレの良いオケによって、バリトンでの演奏で薄れがちなメロディーをしっかり描いた面白さが存分に味わえます。
テンポは中庸、短調のほの暗い響きから入ります。オケはキリリとリズムが引き締まりながらも適度にリラックスして余裕のある演奏。そう、私の好きなタイプの演奏です。アダージョ、アレグロ、アレグレットの3楽章構成で、最後のアレグレットが長い変わったもの。2楽章は晴朗、快活なハイドンらしい曲。こうした曲では演奏のキレの良さが引き立ち、まさに弾むような音楽。ペターセン四重奏団の精妙な演出にはちょっと敵わないとは思いますが、基本的に質の高い演奏。特に第1ヴァイオリンのキレっぷりは見事です。旋律がクッキリと浮かび上がり曲の構造が透けて見えるようです。3楽章はオーボエとホルンのソロが活躍。変奏が次々と進み、バリトン八重奏曲というよりは普通のディヴェルティメントのように聴こえます。こうして聴くと実に穏やかないい曲。音楽の造りはペターセン四重奏団と共通する全体の見通しの良さが感じられます。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
1楽章から独特の曲想がユニークな哲学者、聴き進むうちにトランス状態になりそうな実に穏やかな曲です。かなりクッキリとした規則正しい伴奏のリズムに乗って穏やかなメロディがホルンなどの楽器をつなぎながら奏でられていきます。特にヴァイオリンのメロディーのキレの良さが印象的なのは前曲同様。ハイドンの曲のツボを完全に掌握しています。各パートの丁寧な描写から穏やかな曲に潜む音楽の面白さがにじみ出るような秀演。やはり音楽の構成は精妙。
つづくプレストは竹を割ったような直裁な響きのオケが見事な一体感で攻めてきます。デュナーミクの精緻なコントロールが鮮やか。鮮明、クッキリなオケがグイグイ音楽をまとめていきます。一呼吸おいてさっとメヌエットに移ります。リズムの変化の繊細さも見事。途中から入るホルンも見事なアンサンブル。癖のない精緻なアンサンブルの魅力をストレートに聴かせてきます。フィナーレも慌てず、堅実なアンサンブルが続きます。最後に及んで、湧き上がる喜びのようなものを実にうまく表現していきます。メロディーのエッジをキリリと立てて隈取りクッキリ。素晴らしい推進力。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
弦楽四重奏の演奏とは次元の異なる分厚い響きに最初から圧倒されます。同じく弦楽合奏ではエミール・クライン盤も素晴らしい演奏でしたが、クライン盤が優雅かつ典雅な方向の演奏だったのに対し、こちらはタイトでダイナミックに切り込む感じ。穏やかなばかりの演奏ではありません。楽章ごとに音の厚みというか奏者の人数を変え、楽章間のコントラストはかなりきっちりつけて曲の構造をクッキリと印象づけます。1楽章は分厚くタイトに切れ込み弦楽四重奏では出しにくい力感を見事に描きます。2楽章は少し力を緩めてメヌエットを描きますが、素晴らしいのは中間部のピチカートの部分。ゾクゾクするような立体感。そしてアダージョは弦楽四重奏そのままのように楽器を絞って精妙なハーモニーを聴かせます。4楽章のメヌエットは静けさを切り裂くような弦の強音から入り、強弱の対比をつけながら曲を展開。印象に残る響きを創るのが非常に上手いですね。フィナーレはさっとキレ良く終了。この曲の新たな魅力をまた知った感じです。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最後にシュトルム・ウント・ドラング期の名曲を持ってきました。基本的に鮮明でキレの良いオケですが、音楽に一貫した姿勢があり表現過多には聴こえず、むしろ曲ごとに緻密な設計があって、それを忠実に表現しているよう。この曲では出だしの印象的なアダージョはキレの良さよりも、しっとりとしたほの暗さをうまく演出して、徐々に明るい光が射していく場面への変化も見事です。一貫した味わいのある現代楷書のよう。表現手法はオーソドックスなのに、表現にキレがあり全体のバランスも実にいい感じ。オケの経験と力量からすると、ジェスムースが緻密にコントロールしているということでしょう。
2楽章のアレグロ・アッサイに入ると力感が増しますが、冷静に細部をコントロールしているようでもあり、没入してしまうことはありません。適度な高揚感のもと響きを磨き込むことを意識して、クリアにまとめます。メヌエットはほの暗さを保ったまま、比較的穏やかにまとめ、フィナーレに備えます。期待通りフィナーレに入るとオケのテンションが上がりパート間でせめぎ合います。ただし、曲が進むにつれてテンションがさらに上がるかと思いきや、だんだん抑えてきて最後にあっさりと終わるさらりと粋なところを見せます。

ペターセン四重奏団のメンバーだったジェルノ・ジェスムースの振るシンフォニア・クラシカのデビューアルバム。オケとしての演奏の精度は見事なものがあり、他の有名指揮者による演奏と比べてもクッキリとした表情の描き方は素晴らしいものがあります。最初のディヴェルティメントと哲学者ではその辺の長所が活きて、曲ともマッチしていたのですが、3曲目の弦楽四重奏曲では、その演出がちょっと強くなった分、曲の新たな魅力を引き出す一方、曲自体の面白さを生かした他の演奏との印象の違いも少々気になる部分を残してしまいました。最後の受難では指揮者のもう一段の踏み込みがあってもいいかもしれないという印象でした。ということで評価は前半2曲は[+++++]、後半2曲は[++++]とします。受難はきっちりとまとまり良い表現に一段良い評価をする人もあるかと思いますが、ちょっと響きに関心が集中しすぎてるのではとの思いです。

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tag : ディヴェルティメント 哲学者 弦楽四重奏曲Op.1 受難

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

ふらっと立ち寄ったTOWER RECORDS新宿店。見慣れないアルバムを手に取り、ちょっと驚きました。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、グルックの「ドン・ジュアン」、ハイドンの交響曲49番「受難」、交響曲1番のあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2013年10月20日から24日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。

Alpha Productionsのアルバムはマーキュリーが丁寧な解説の翻訳をつけて国内に流通してくれているのでお気に入りです。久々に会社帰りにTOWER RECORDS新宿店に立ち寄った際、ハイドンの棚でこのアルバムを発見。なんとハイドンの交響曲全集の第1巻とのことで、つい手が伸びてしまいました。しかも意味ありげに「Haydn2032」とアルバムにデザインされたロゴが記載されているではありませんか。18年後のハイドン生誕300年のアニヴァーサリーでの完成を目指しているという意味でしょう、かなり壮大な計画。

ご存知のように、ハイドンの交響曲全集は1人の指揮者のものとしては、現在アンタル・ドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィスのものがあり、それに続いて、トーマス・ファイが完成を目指して1枚ずつリリースをつづけています。古楽器では先日亡くなってしまったクリストファー・ホグウッドやロイ・グッドマンが多数の録音を残していますが、全集の完成を見ず頓挫してしまっています。ファイは純粋に古楽器の演奏ではなく管楽器のみ古楽器のオケでの全集ですので、このイル・ジャルディーノ・アルモニコの全集が完成すれば、古楽器による初の全集ということになろうかと思いましたが、解説を読んでみると、このプロジェクト、指揮者はジョヴァンニ・アントニーニが通しで務めますが、オケはイル・ジャルディーノ・アルモニコと、バーゼル室内管弦楽団と2つのオケが担当するということです。おそらく後半のパリセット以降くらいからバーゼル室内管が担当するということになるのではないかと想像しています。

ちなみに気になったので過去のハイドンの交響曲全集の録音期間を調べてみました。
ドラティ:1969年~1972年(4年)
アダム・フィッシャー:1987年~2001年(15年)
デニス・ラッセル・デイヴィス:~2009年?(約10年)
トーマス・ファイ(約2/3リリース):1999年~(ここまで16年)
ドラティは集中的に録音したということでしょうが、他のアルバムは10年以上かかっていることを考えれば、今回のプロジェクトの20年近い録音期間はとりわけ長いというわけでもなさそうです。まずは商業的に成功しないと、この全集の完成は危ういことになりますので、特に最初の数枚の出来はこの全集の成否を握ることになりそうですね。

さて、演奏者についても触れておきましょう。指揮者のジョヴァンニ・アントニーニは1965年ミラノ生まれの指揮者、リコーダー奏者。ミラノ市立音楽学校、ジュネーヴ古楽研究所などで学び、1989年、このアルバムのオケである古楽器オーケストラ、イル・ジャルディーノ・アルモニコを設立。イル・ジャルディーノ・アルモニコとはTELDECに膨大なヴィヴァルディの録音を残しており、17~18世紀のイタリア音楽の演奏で知られている存在ということです。近年ではハイドンの交響曲全集の録音を担当することになるバーゼル室内管とベートヴェンの交響曲全集を録音中であったり、また、ベルリンフィル、コンセルトヘボウに客演したりと活躍している人。

残念ながらヴィヴァルディは守備範囲外なため、アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコの偉業の評価をできる立場にはありませんが、ハイドンの交響曲全集の完成を目指すということで、ヴィバルディ風、いやイタリア風の輝かしいハイドンが聴けることになるのでしょうか。これは追いかけざるを得ません。

Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
シュトルム・ウント・ドラング期の短調の名曲を最初にもってきました。速めのテンポでまさに疾風怒濤の勢いで畳み掛ける迫力満点の演奏。古楽器オケですが典雅な響きというよりは、ざらついた音色が迫力を増すような切れ味鋭い響き。ファイの千変万化する響きとは異なり、推進力と迫力にエネルギーが集中しています。1楽章はまさに挨拶代わりに素晴らしいキレを聴かせます。
アンダンテに入ると落ち着きを取り戻しますが、くっきりとアクセントを効かせて、リズムの鮮やかなキレを引き立てます。落ち着いた音楽ですが旋律が活き活きと踊り、飽きさせません。続くメヌエットあえてさらりとこなしメロディーに潜む色彩感で聴かせる感じ。フィナーレに入るとまさにヴィヴァルディを彷彿とさせる嵐の場面のような盛り上がり。タイトに攻めてくる音楽。木管も金管も号砲のように轟き、弦もざわめくように響きます。文字通り疾風怒涛。アントニーニのめざすハイドンの響きを一番わかりやすく伝える曲かもしれません。

グルックのバレエ音楽「ドン・ジュアン」はオペラの音楽のような湧き上がる興奮が味わえるなかなかいい曲。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最初の39番同様、シュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。ほの暗いアダージョから始まる曲のコントロールが聴きどころ。穏やかなメロディーをじっくり描き、キレばかりではなくしっとりした表情の作り方もなかなかです。古楽器ならでは直裁な表現ながら、コントラストを落とし、短く音を切りながらも大きな波のようなうねりを加えて爽やかなほの暗さをあらわしていきます。
2楽章は予想どおりキレキレ。弦楽器のエッジがキリリと立って、クッキリとメロディーを描いていきますが、表現が適度で荒れた感じはしません。このへんのバランス感覚はハイドンの交響曲の演奏の勘所かもしれませんね。速めのテンポで要所にしっかりアクセントをつけてメロディーの面白さが引き立つこと! 力を抜く部分とアクセントの対比が実に巧み。さざめくように進む音楽が徐々に活気を帯びて自在に跳躍。
この曲でもさらりとしたメヌエットの魅力は健在。この独特のセンス、悪くありません。間奏曲のような軽さで音楽が流れ、箱庭的美学が感じられる面白さ。
フィナーレはそここに湧き上がるようなエネルギーをちりばめながらもまとまりよく速めのテンポで畳み掛けます。痛快に吹き上がるオケ。意外に正攻法なアプローチで曲の魅力をあえて引き出そうということでしょうか。

Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
最後は交響曲全集の第1巻にふさわしく交響曲1番をもってきました。ハイドンの交響曲の楽しさが全てつまった宝石箱のような小交響曲ですが、ワクワクするような魅力をストレートに表現。最初の39番で荒れ狂うヴィヴァルディっぽさの片鱗を垣間見せましたが、基本的にはまとまりよく躍動感を詰め込んだオーソドックスな演奏。メロディーのキレとコントラストが良いので、ダイナミックでハイドンの交響曲のスペクタクルな魅力がうまく引き出されているということでしょう。
アンダンテは速めの軽い足取りで、やはり爽やか。そしてフィナーレは壮麗爽快。アクセントを見事に効かせて素晴らしい躍動感。ハイドンの初期の交響曲の素朴な魅力をたっぷり味わえました。

新時代のハイドンの交響曲全集の第1巻を飾るにふさわしい、素晴らしい演奏でした。古楽器をダイナミックに鳴らし、クッキリとアクセントをつけていきますが、基本的に音楽のまとまりはオーソドックス。アーティスティックさを狙って、表現が重くなるということは一切なく、ハイドンの曲を演奏する悦びをストレートに表現しているような姿勢がハイドンの曲の真髄を突いています。これまでの交響曲全集のなかで一番曲を楽しめるアルバムとなりそうな予感です。これからレギュラープライスで1巻づつ集めるのは、CD激安時代の現在、ちょっとハードルが高いかもしれませんが、ハイドンの交響曲全集を改めて聴きなおす良いきっかけかもしれません。私は激気に入りました。したがって評価は全曲[+++++]といたします。

次のリリースが待ち遠しいですね。

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tag : 交響曲39番 受難 交響曲1番

【新着】リチャード・エガー/AAMの「受難」(ハイドン)

今日は新着アルバム。

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リチャード・エガー(Richard Egarr)指揮のエンシェント室内管弦楽団(Academy of Ancient Music)の演奏で、ヘンデルのオラトリオ「サウル」からシンフォニア、F.X.リヒターのグランド・シンフォニー第7番、シュターミッツのシンフォニア第4番、モーツァルトの交響曲第1番、そしてハイドンの交響曲第49番「受難」の5曲を収めたアルバム。収録は2011年9月21日から23日、ロンドンの聖ユダ・オン・ザ・ヒル教会(St Jude-on-the-Hill)でのセッション録音。レーベルはAAMとオケの自主世作レーベル。

エンシェント室内管弦楽団AAMといえば、ハイドンに造詣の深い皆様は良くご存知のとおり、クリストファー・ホグウッドと組んで古楽器演奏の草創期を代表するオケ。今回調べてみると、設立は1973年、やはりホグウッドが18世紀から19世紀の音楽を当時の楽器で演奏するために創設したオーケストラ。L'OISEAU-LYREレーベルからリリースされたモーツァルトやハイドン、バロック期の繊細、典雅な録音の数々は多くの人が耳にしたと思います。ホグウッドの監督のもと、1996年からはオーボエ奏者のポール・グッドウィンが副指揮者、ヴァイオリン奏者のアンドルー・マンゼが副音楽監督となっていたそうですが、この時期の録音が少ないため、日本ではホグウッドのイメージが強いでしょう。2006年からはこのアルバムの指揮を担当するリチャード・エガーが音楽監督に就任し、ホグウッドは名誉音楽監督になっているとのこと。

リチャード・エガーはイギリス生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者。鍵盤楽器はハープシコード、フォルテピアノ、現代ピアノとなんでもこなします。少年合唱から音楽を学び始め、ヨーク・ミンスター、マンチェスター、ケンブリッジなど各所で学び、古楽はグスタフ・レオンハルトに師事しました。上で紹介したように2006年にホグウッドの創設したエンシェント室内管弦楽団の音楽監督に就任しています。それまで、ハイドン&ヘンデル・ソサイアティー、ターフェル・ムジークなどにも客演し、また現代オケもいろいろ振っているそう。

今日取り上げるアルバムのタイトルは「交響曲の誕生(Birth of the Symphony)」。ヘンデルのシンフォニアに聴かれる交響曲の萌芽から、徐々に交響曲の形式が定まり、ハイドンの名交響曲「受難」で締めるという構成。聴いていると、まさに時代の大きな流れを俯瞰しているように感じる見事な企画。ハイドンに至るまでのエガーのコントロールは、まさに自然なソノリティが美しい古楽器オーケストラの演奏。ホグウッドやピノックなどによって開拓されてきた古楽器の演奏は、現代楽器のアンチテーゼたる、古楽器らしい響きを意図的に演出した演奏だったと気づかされました。そうと感じるほどに、このエガーの演奏は自然。ここに至って古楽器演奏は、時代のパースペクティブに素直に位置づけられる自然さを獲得したかのように感じる説得力があります。

ハイドンの直前に置かれたモーツァルトの1番(K.16)が想像を絶する素晴らしさ。ホグウッド盤、ピノック盤でも印象に残りましたが、古楽器ながら実に自然にフレーズが進み、音の重なりが織りなす感興が噴出。落ち着いたエガーの棒から生気が迸り出るよう。音量を上げて聴くと、まさに交響曲と言う形式がすぐ後の時代に高みに昇りつめるのを予感させるような迫力。堂々とした響きから音楽の力が伝わります。今まで聴いたモーツァルトの1番ではダントツの出来。モーツァルトの爽やかなメロディーに酔いしれます。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
冒頭から感動的な響きが沁みます。実にしっとりとした序奏。ゆっくりゆっくりと朝日が昇るようすを眺めるようなさわやかな気分にさせられる入り。これ以上自然な表情をつくるのは難しいと思わせる完成度。描かれるメロディーラインとその間に全神経が集中。小規模なオケなのに、凄い厚みと迫力が宿っています。オケの鳴らしどころをわきまえた素晴しいデュナーミクのコントロール。現代楽器のような色濃い表情ながら、時折ハッとするようなノンヴィブラートのヴァイオリンの旋律の爽やかさにこの演奏が古楽器であることに気づかされます。
続く2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、古楽器のキレと、押し寄せる現代楽器並みの迫力が両立して、聴くものを凛とさせる素晴しい攻め。本当の意味で楽器の区別を無用にするような説得力。この名旋律あふれる曲の真髄をとらえた迫真の演奏。手に汗握るとはこのことです。エガーの実に巧みなコントロールにオケが鮮やかに反応し、瞬時に畳み掛ける変化を聴かせます。
メヌエットは、シュトルム・ウント・ドラング期独特のほの暗い情感の濃さを落ち着いて描いていきます。柔らかな木管楽器群にとろけるようなホルンの音色が重なり、メロディーに潜む色を滲ませていきます。良く出汁の効いた吸い物をいただくような至福の心境。メロディーと響きが五感をフルに刺激しながら、超リラックス。分析的過ぎない録音もグッドです。
フィナーレに入ると、わずかにレガートを効かせるなどをしながら変化をつけますが、聴き所は図太いエネルギーを巧みにコントロールするアクセルワーク。速いパッセージをこなしながらめくるめくスペクタクルな演出。自然な力感に自然な感興、そして曲の素晴しさを堪能できるダイナミックさもあわせもつ演奏。このアルバムの締めに相応しい完璧な演奏でした。

古楽器演奏の礎を築いたエンシェント室内管の新たな時代を切り開くような素晴しい演奏。交響曲の誕生と題されたこのアルバムの企画も冴えており、演奏も文句なし。古楽器か現代楽器かというような議論を無意味にさせるような本質的な魅力をもつ演奏というのが偽らざるところ。真実はわかりませんが、ハイドンの時代から現代の演奏に至るまでの演奏スタイルの変遷の中には、現代に構築された、さも古楽器然とした演奏ではなく、このエガーのような自然な力感と音楽を演奏する悦びに満ちたダイナミックな演奏があったのではないかと思います。一聴すると才気に溢れる個性的な演奏ではありませんが、実に音楽的に練られた良い演奏。激、気に入りました。新世代の古楽器演奏として、ギィ・ヴァン・ワースとレザグレマンの演奏とともに要注目の演奏でしょう。評価はもちろん[+++++]です。

ここまで書けば、ハイドン好きな皆さんは素通りできませんね(笑)

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tag : 受難 古楽器

アンタル・ドラティの交響曲全集英LONDONのLP入手!

今日は時間がとれず、レビューはなしです。

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オークションで、ハイドン交響曲全集の金字塔、アンタル・ドラティ指揮のフィルハーモニア・フンガリカの48枚組LPを手に入れました。アメリカ向けのイギリスプレス盤のようです。

みかん箱の半分ほどの箱に入って、ずしりと腰に来る重さ。レコードの内袋には”LONDON ffrr”(Full Frequency Range Recording)と印刷され、盤厚もかなり厚手のもの。音質にこだわった仕様のものでしょうか。

まずは49番「受難」の含まれる箱を開けて盤面を確認します。盤面は一般的な中古盤の範疇で、ちょっと心配したんですが、針をおろしてみると、瑞々しい音が溢れ出てきます。スクラッチノイズも皆無。

ドラティの受難はCDでレビューしており、評価も良かったんですが、LPから流れ出てくる音楽はまた格別。ダイレクトな音の感触と繊細な響き、揺るぎない安定感など素晴しいものがあります。今日はレビューというより、純粋にLPの音楽に浸らせていただきます。いやいや至福の時間とはこの事でしょう。

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tag : LP 受難

ヤーノシュ・ローラ/フランツ・リスト室内管の受難、告別

最近手に入れた交響曲の名盤。最初に言っておきますが、これは真の名盤です。

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ヤーノシュ・ローラ(János Rolla)指揮のフランツ・リスト室内管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲49番「受難」と45番「告別」の2曲を収めたアルバム。収録はブダペストの改革派教会でのセッション録音、Pマークが1983年との表記のみで日付はわかりません。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

このアルバム、フランツ・リスト室内管のメンバーがエステルハーザ宮殿の階段でたたずむ写真がジャケットに使われていますが、エステルハーザ宮殿は現在ハンガリー領にあり、ブダペストからも160キロと、そう遠くありません。彼らにとってハイドンは地元の作曲家ということでしょうから、これは本場物ということになります。加えて、曲がエステルハーザの離宮での夏の長期労働を強いられたオーケストラの団員の希望を侯爵に伝えるために書かれた傑作交響曲告別を含むということで、このオケにとっては渾身の一枚であるはず。残念ながらアルバムは中古以外に流通していませんが、iTunesで聴く事ができます。

ヤーノシュ・ローラはフランツ・リスト室内管弦楽団のコンサートマスター、音楽監督。フランツ・リスト室内管弦楽団は1963年、フランツ・リスト音楽院の教授だったフリギエシュ・シャンドール(Frigyes Sándor)を中心に、音楽院の学生達により設立されたブダペストを本拠地とするオーケストラ。現在はコンサートマスターのヤーノシュ・ローラが芸術監督を務めています。基本的に指揮者を置かず、ローラのリーダーシップにより演奏を行っているそう。フランツ・リスト室内管の演奏は協奏曲の伴奏でこれまで2度取りあげています。

2010/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ペレーニの至芸、チェロ協奏曲
2010/06/05 : ハイドン–協奏曲 : ハイドン第2のホルン協奏曲?

どちらのアルバムの演奏もオーソドックスながら、情感の濃いなかなかの演奏だっただけに、この組み合わせでのこの曲は、かなり期待できます。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
予想どおり、しっとりと情感の乗った響きから入ります。まさにこの曲はこう演奏されべきというようなオーソドックスさ。じっくりじっくりメロディーを音にしていき、まったく外連味なし。録音は少し古びた印象がなくはありませんが、HUNGAROTON特有の石のような響きの癖は感じず、十分優秀。適度な残響がリラックスして音楽を楽しむのにぴったり。1楽章はアダージョ。楽章全体が序奏のような位置づけですが、ハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の名旋律がゆったりと教会に響きわたります。モダン楽器でのこの曲の演奏の王道中の王道を行くような堂々と揺るぎない響き。
2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、フランツ・リスト室内管のちょっとザラッとした弦楽器群が抜群のエネルギー感でグイグイ引っ張ります。メロディーの彫りは深く、覇気溢れる峻厳な音楽、室内管とはいっても迫力は十分。木管等に対して弦が圧倒的なプレゼンス。おそらく得意としている曲でしょう、説得力が違います。
メヌエットは意外としなやか。リズムよりもながれを強調した演奏。この郷愁溢れる名旋律をさらりとこなしていくあたりに弾き慣れた貫禄を感じますね。
フィナーレはここ一番の躍動感。慌てるそぶりはなく、じっくりとスピードに乗ってアンサンブルの精度も程々に、各奏者の力が漲ります。弦楽器陣による図太い主旋律が素晴しい迫力。転調や強弱の変化をじつにしっくり表現しながら進みますが、この曲のツボをきちんと押さえているので、アクセルワークが見事。これ以上の表現はないほど。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
つづいて告別。聴き慣れた1楽章ですが、オケはキレまくり。いきなりフルスロットル、入魂の迫力。流石本場と唸らざるを得ません。怒濤の弦楽器群がほの暗さを明るさの綾を見事に描き上げていきます。冒頭から圧倒されっぱなしです。穏やか部分で一度力を抜いて、再びオケが怒濤の迫力へ。鬼気迫るとはこのこと。告別の1楽章が圧倒的な存在感で押し寄せます。これほどのエネルギーだったとは。
2楽章のアダージョはあらためて思いますが、ハイドンの創作意欲の結晶のような音楽。弱音器をつけたヴァイオリンが奏でる静かな音楽の精妙さに聴き入ります。どうしてこのようなメロディーが浮かんでくるのかと思わせる実に不思議で趣き深い、実に深い音楽。それを知ってかヤーノシュ・ローラは音楽を淡々とこなしていきます。ハイドンの創意とローラの実に懐の深い音楽に、ただただ浸るように聴きます。
受難のメヌエットとは異なり、こちらはかなりリズムの面白さを強調した演奏。一貫してゆったりしたテンポながら、時折明るさがパッとさすような変化をを強調して、曲に潜む魅力を実にうまく表現していきます。ホルンのとろけるような響きも最高。これまでホルンや木管は脇役に徹していましたので、音量のコントロールをかなり明確にしているようです。かなり大胆に音量の変化をつけた秀演。
そして、クライマックのフィナーレ。前半は予想通り、怒濤の迫力。弦楽器のエネルギーが素晴しい。これから起こるドラマを予感させるようなざわめきすら感じさせる、極度の緊張感。ほの暗い雰囲気。闇の深さを暗示させるような気配。後半は一人一人去っていく場面。一転して平穏な癒しに満ちた雰囲気に変わります。波のない湖にうつる満月を見るような心境。やはりこの曲、傑作ですね。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管の入魂の演奏で聴くと、まさにハイドンが描きたかった音楽そのものが存在するよう。深い深い感動。徐々に生気を失っていくように、命が途絶えていくように、音楽が消えていくように、一人一人奏者が去っていきます。音楽が魂になって昇華いくよう。最後に残った楽器も消え入るように音量を落としていきます。

絶品です。ハイドンの偉大さに直接触れるような名演奏。言葉になりません。

このアルバム、多くの人に聞いていただくべき名盤中の名盤ですね。評価は両曲とも[+++++]です。告別は決定盤と断じます。

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tag : 受難 告別

ハルトムート・ヘンヒェン/C.P.E.バッハ室内管のラメンタチオーネ、受難、悲しみ

今日はお気に入りのハルトムート・ヘンヒェンの名前つき交響曲集から。

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ハルトムート・ヘンヒェン(Hartmut Haenchen)指揮のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンの名前つき交響曲集。全6枚に交響曲18曲、序曲1曲を収めたアルバム。今日はその中からCD1の交響曲26番「ラメンタチオーネ」、49番「受難」、44番「悲しみ」、歌劇「無人島」序曲(Hob.Ia:13)の4曲を取りあげます。収録は1987年11月と手元の記録にはありますが、ライナーノーツには記載されていません。レーベルはedel CLASSICS。

このアルバムからは以前「哲学者」を取りあげていますが、すばらしい演奏でした。演奏者などの情報はこちらの記事をご参照ください。

2011/01/26 : ハイドン–交響曲 : ハルトムート・ヘンヒェンの哲学者

なんとなく交響曲のいい演奏が聴きたくなり取り出したアルバム。今日はシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲を選びました。

Hob.I:26 / Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
柔らかい音色のオーケストラが繊細なハープシコードの響きを伴って、この曲独特のほの暗い旋律を生気溢れる演奏で描いていきます。ヴァイオリンの軽さと低音弦の迫力、リズムのキレの良さが抜群。小編成オケでしょうが響きのまとまりは非常に良く、まさにこの曲独特の雰囲気を万全に表していきます。活き活きとしたメロディ、哀愁に満ちた響き、小気味好いキレ。必要十分というか完璧です。
2楽章のアダージョは爽快さを感じさせるほどの速めのテンポ。メロディーラインの描き方が上手く、速いながらも情感は十分。こなれた音響によるすばらしい感興。録音は鮮明さは最新のものに劣るものの鑑賞には十分。繊細なハープシコードの響きが雅さを加えています。オケは奏者全員が高い音楽性を身につけているよう。
フィナーレはこれ以上ないほどの生気が漲る演奏。インテンポで入るアタックのキレが素晴らしく、肩に力が入っていないのに踊り出すような音楽。中世のバシリカの窓から差し込む光が、重厚な石積みの立体感を活き活きと浮き彫りにしているよう。ラメンタチオーネにはニコラス・ウォードの中庸の美学を極めた名演盤がありますが、このヘンヒェンの演奏も速めのテンポによる、爽快なのに実に味わい深い名演と言えるでしょう。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
深く沈み込むオーケストラの音色。大きく表情を浮き彫りにする素晴らしいフレージング。彫りの深い演奏はまるで部屋にパルテノン神殿が出現したよう。絶妙の呼吸とデュナーミク。暗黒の淵を覗くような深い情感。名演の予感です。冒頭から素晴らしい響き。ハープシコードもじつに効果的。1楽章は圧巻の出来です。ヘンヒェンのコントロールは情感と立体感をバランス良く表現。くどさもわざとらしさも感じさせず、見事という他ありません。
2楽章に入り速度はあまり上げませんが、やはりエネルギーが満ちてきます。高低に変化する旋律の対比がすばらしいですね。音階が音の連なりの糸を引くようなところがなく非常にキレのいいのが特徴。音色も柔らかくするところとカッチリするところメリハリが見事。なにより音楽が活き活きとしていて、ハイドンの見事な音楽がまさに生きているような進行。
メヌエットも安心して聴いていられる安定感。弦楽器に宿るうら悲しいエネルギーが顔を出すたびに、この曲がシュトルム・ウント・ドラング期の作品であることを思い起こさせます。
フィナーレは、予想していたのとは少し異なり、流すような流麗なもの。最後にこの力の抜き具合は見事です。1楽章の圧倒的な存在感がこの演奏のポイント。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
名曲「悲しみ」。穏やかに入りますが、最初のテーマの速い音階にちょっと癖のある表情で変化をつけます。前2曲にくらべて、力が抜けた演奏と言えるでしょう。1楽章の聴き所であるヴァイオリンの音階はことさらキレを強調する事なく、音楽全体の流れを重視するようですが、音楽がすすむにつれて徐々にエネルギーが満ちていき、最後にクライマックスを持っていくあたりが流石。
メヌエットはハイドンのこの時期の交響曲のなかでも素晴らしい出来のもの。メヌエットなのに情感が溢れ出す素晴らしいもの。ヘンヒェンはこのメヌエットの魅力を余裕たっぷりに表情をつけ、じっくりと描いていきます。やはりフレージングの上手さが際立ち、さりげないのに表現の彫りの深さは素晴らしいですね。
アダージョも絶品。立ちのぼるシュトルム・ウント・ドラング期の香り。ハイドンの時代にタイムスリップしたよう。
フィナーレは弦楽器のキレが最高潮に。弦楽器のキレがメロディーを見事に浮き上がらせ、ザクザクとメロディーを刻んでいきます。最後に迫力を見せつけて終了です。

Hob.XXVIII:9 / "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779) 序曲
最後はオペラの序曲。シュトルム・ウント・ドラング期のちょっと後の作曲。序奏から独特の劇性があり、じっくりと畳み掛ける主題、ほのかな明るさを感じさせる中間部と、なかなか聴き応えのある曲。ここでもヘンヒェンはじっくりとオペラの幕が上がる前のざわめき感を上手く聴かせて、このアルバムの素晴らしい演奏を締めくくります。

ハルトムート・ヘンヒェンとカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲3曲の演奏。昔から好きなアルバムでしたが、あらためて取り出して聴くと、その素晴らしさはやはり図抜けています。やはり説得力がちがうというか、ハイドンの時代にタイムスリップしたような素晴らしい響きを聴かせてくれます。評価は序曲を含めて4曲全曲[+++++]です。

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tag : ラメンタチオーネ 受難 悲しみ オペラ序曲 ハイドン入門者向け

ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ/フライブルク・バロック・オーケストラの「受難」等

今日は古楽器のアルバム。

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ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツ(Gottfried von der Goltz)指揮のフライブルク・バロック・オーケストラの演奏によるハイドンの交響曲80番、ヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)、交響曲49番「受難」の3曲を収めたアルバム。収録は2008年8月、ドイツ、フライブルクのパウルス教会(多目的ホール)でのセッション録音。レーベルは名門仏harmonia mundi。

ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツは1964年、ドイツのヴュルツブルク生まれのチェロ奏者、指揮者。ドイツ人の父とノルウェー人の母から最初に音楽を学びました。ハノーヴァー、ニューヨークのジュリアード音楽院、フライブルク音楽院などで音楽教育を受け、フライブルクでは元ベルリンフィルのコンサートマスターのライナー・クスマウルの指導を受けたとのこと。21歳で北ドイツ放送交響楽団に入ったものの2年で退団し、室内楽、独奏、指揮等に活動を移しました。現在はこのアルバムのオケであるフライブルク・バロック・オーケストラの音楽監督を務めています。またフライブルク音楽院でヴァイオリン、バロック・ヴァイオリンを教えているとのこと。

手元にはゴルツの伴奏によるシュタイアーのピアノ協奏曲集などがあり、以前にレビューしています。

2010/09/05 : ハイドン–協奏曲 : シュタイアーのピアノ協奏曲

ゴルツの伴奏は鮮明な古楽器の音色を生かしたカッチリとしたものでした。少し固さを感じるほど鮮明な響きがゴルツのコントロールの特徴。今日取り上げるアルバムではどうでしょうか。

Hob.I:80 / Symphony No.80 [d] (before 1784)
短調の緊張感溢れる入り。期待通りゴリッとした感触のある古楽器のダイレクトな音色で迫力満点の入り。ノンヴィブラートのストレートなオケの音色が耳に刺さります。程よく刺激的で荒々しい感じが迫力につながっているよう。逆に滑らかさにちょっと欠けるよう聴こえ、それが直裁な印象も与えてしまうギリギリのところという感じです。
アダージョ楽章は緩む感じはせず、1楽章と同様のテンションのまま入ります。音色の一貫性からそうゆう印象につながるのでしょう。特にヴァイオリンのキリッと引き締まった張りのある音色の印象が大きいですね。徐々にリズム感がつよくなり、曲の起伏を表現していきます。意外と休符を長くとり、曲の大きな流れをしっかり描いていき、構えの大きな演奏としています。
メヌエットは弦楽器群の強い響きと、柔らかなホルンの音色の対比を意図しているよう。直裁なアクセントが耳に残ります。
フィナーレは静かにかけ声を掛けるような不思議なメロディーから入りますが、その後おもちゃ箱をひっくり返したような散乱する響きの魅力で聴かせるもの。音響的快感と音楽的熟成とでいうと前者を主体とした演奏。アーノンクール、トーマス・ファイほどの節回しに灰汁の強さはないんですが、不思議と音楽が固く、少し単調さをはらんでしまってます。

Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
続いてヴァイオリン協奏曲。古楽器では先日カルミニョーラの超名演が印象深いところ。この曲でもオケの直裁さは変わらす、演奏の基調にあるものの、ゴルツ自身によるヴァイオリンは比較的穏やかな弓さばき。音色は渋めで演奏も適度なメリハリでじっくりとしたもの。オケの指揮の時の表現とは明らかに異なる音楽を奏でていきます。録音もソロが意外と控えめで、オケの迫力と厚みを優先しているよう。カデンツァは納豆が糸をひくような粘りのあるフレージングの長いもの。ずいぶん穏やか。
アダージョに入るとヴァイオリンがピチカートのオケに乗ってくっきりと浮かび上がる美しい曲。ゴルツのヴァイオリンは明らかに1楽章よりも張りがあって、メロディーラインの美しさも向上しています。軽く推移する音階も見事。最後はヴァイオリンの存在感が際立つ圧倒的な音楽に。調子が出てきました。
フィナーレは、明らかにこれまでで一番音楽が豊かに流れる楽章。固さがとれ、音楽が起伏と流れの両面で緊張感溢れる展開。低音弦の迫力あるうなりも効果的。素晴らしい感興。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
名曲「受難」を最後にもってきました。明らかに冒頭の80番よりも響きの密度が上がりました。古楽器の演奏としては意外に劇画タッチ。規律溢れる鋭敏な響きではなく、じっくり攻める現代楽器風の演奏と聴こえます。もちろん古楽器オケのままです。短調の序奏から、徐々に光が差してくるようになる様子を描写したような1楽章前半。この曲では1楽章がアダージョになります。じっくりとした進行がかえっていい感じ。
2楽章は鮮烈なアレグロ。オケは明らかに起伏を増し、素晴らしい推進力でグイグイ引っ張ります。こうゆう時は、力を抜いた部分をしっかり落とす事で緊張感をたもてますが、文字通り、フレーズごとにきっちりメリハリをつけます。素晴らしい迫力。
メヌエットはシュトルム・ウント・ドラング期ならではうら悲しい響き。前楽章の響宴のような響きに対し、落ち着いた流れを重視した演奏。
そしてフィナーレはオケの秩序が乱れる寸前まで髪を振り乱した演奏。奏者一人一人にゴルツの意思が宿ったような抜群の生気。技よりエネルギーという演奏。ライヴできいたらさぞかし盛り上がるでしょう。

ゴットフリート・フォン・デア・ゴルツの指揮によるフライブルク・バロック・オーケストラの演奏。古楽器の演奏としては力感を重視した演奏です。ただファイのような機知を感じるところはなく、正攻法の力漲る演奏。力の入れ過ぎというか、力感に頼る部分では単調さをはらんでしまう部分もあります。曲ごとに出来に差があるのも正直なところ。最初の80番は[+++]、ヴァイオリン協奏曲と「受難」は[++++]としました。もう少し歳を重ねることで円熟味が加わるとこなれて、よりいい演奏になると思います。

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tag : 交響曲80番 ヴァイオリン協奏曲 受難

アントニオ・ヤニグロ/ラジオ・ザグレブ交響楽団の「受難」

前記事でとりあげたヤニグロのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。勢いでもう1曲取りあげておきましょう。

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繰り返しになりますが、アルバムを紹介。

アントニオ・ヤニグロ(Antonio Janigro)指揮のラジオ・ザグレブ交響楽団(Symphony Orchestra of Radio Zagreb)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は1963年8月19日、20日、当時はユーゴスラビア、現在はクロアチアのザグレブ(録音場所は不明)でのセッション録音。レーベルはVANGUARD CLASSICS。

今日はこの中から最後の1曲、49番「受難」です。前記事で取りあげた「悲しみ」以降、「告別」から「マリア・テレジア」までの曲はすこしゆったり感が不足した勢い重視の演奏でしたが、聴き進むと、最後の「受難」が別格の深み。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
柔らかい木質系の響きの滔々と流れる大河のような1楽章のアダージョ。なんと構えの大きな音楽なんでしょうか。録音は「悲しみ」同様最高。たっぷりと間をとってこれ以上濃い情感を表現することが難しいほどの濃さ。それなのにくどい感じはいっさいなく、むしろさっぱりした印象さえ感じさせるのが流石なところ。弦楽器中心のオケは完璧なアンサンブル。ヤニグロの棒にピタリと張り付くような演奏。1楽章だけでも鳥肌がたつような集中力。この劇的なアダージョがハイドンが楽長に就任したばかりのエステルハーザ離宮に響き渡ったのでしょうか。
2楽章はきっちりギアチェンジして快速にはいり、深い音色はそのままにキビキビとした展開。受難と言う曲の素晴らしさを思い知らされる素晴らしい展開。アダージョから入りこの展開となる独創性、この深いメロディの連続、そしてハッとさせられるような構成。リズムの拍子を先に打つような心地よいテンポ感。すでに曲に酔いしれます。
そして慈愛に満ちたメヌエット。もはや音楽を完全に掌握しているヤニグロのコントロールは、自然にメロディーが湧き出てくるような音楽。これ以上の自然さはないくらい。シンプルなメロディーなはずですが、音楽は信じ難いほど豊かなもの。
フィナーレはオケの線がいい意味で少しばらけるような響きに聴こえますが、軽いタッチで推進力ある展開。リズムは一貫してキレよく進み、木管楽器の色彩感がアクセントをつけます。全体の構成がしっかり変化を付けている分、各楽章はそれぞれしっかり演奏するだけで、曲全体の構成感はクッキリ浮かび上がります。

チェリスト、アントニオ・ヤニグロが第二の故郷とみなしたクロアチアのザグレブのオケを振ったハイドンの交響曲集の最後を飾る交響曲49番「受難」。この曲の理想的な演奏として心に刺さる、情感深い名演奏です。各楽章の最後にテンポをかなりしっかり落とすところに時代を感じますが、この曲の楽譜の奥に潜む魂のようなものまで表現した素晴らしい演奏であると言えるでしょう。ハイドンの交響曲の名演奏として燦然と輝く価値をもった演奏です。評価はもちろん[+++++]としました。

このアルバムのレーベルであるVANGUARD CLASSICSはいいアルバムが多いですね。

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tag : 受難 ヒストリカル ハイドン入門者向け

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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2017年7月のデータ(2017年7月31日)
登録曲数:1,361曲 登録演奏数:10,291
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