デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻 その2(ハイドン)

珍しく深追い(笑)。前記事の演奏が実に面白かったので続きもレビューしてみたくなりました。

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デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏で、ハイドンの初期交響曲7曲(Hob.I:1、I:37、I:18、I:2、I:15、I:4、I:10)を収めたLP。題して「モルツィン時代の交響曲集第1巻」。収録は1980年8月19日から24日にかけて、ロンドン、ウッドサイドパークの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英SAGA。

今日は前記事で取り上げた3曲以降の4曲目から7曲目までを取り上げます。前記事で聴いた中では1番がちょっと固かっただけで、その後の2曲は絶品でした。こうなると残りもしっかり聴かざるを得ません。

2017/10/03 : ハイドン–交響曲 : デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻(ハイドン)

奏者やアルバムについては前記事をご覧ください。

Hob.I:2 Symphony No.2 [C] (before 1764)
リズムの面白さは変わらず躍動感満点。丁寧に演奏していながらキリリとアクセントが効いて、古楽器の爽やかな音色でハイドンのユーモラスなメロディーの面白さが滲み出てきます。つづくアンダンテはさらりと流すような楽章ですがメロディーの重なりの奥に深い情感が宿る見事な展開。微妙な起伏をしっかりと描いていくことで得られる面白さ。フィナーレもフレーズをくっきりと描きまとめます。初期のハイドンの交響曲の面白さを実に自然に料理してワンプレートにバランスよく並べたような、普段から楽しめる、味わい深い音楽。

Hob.I:15 Symphony No.15 [D] (before 1764)
癒しに満ちたアダージョから入ります。ピチカートに乗って優雅なフレーズが漂います。ホルンのとろけるような響きが重なり、こちらもとろけそうになったところでプレストのキレのいいメロディーが癒しを断ち切ります。全てが必要十分。大げさなところはないのにキレ味は十分。再びアダージョにもどって1楽章を結びます。つづくメヌエットはもっともハイドンらしい楽章。ここでもゆったりとしながらも活き活きとしたオケの響きが素晴らしく、音楽が弾みます。そして3楽章のアンダンテの光と陰が交錯する透明感。フィナーレはコンパクトなキレの良さ。最後の一音のキレが耳に残ります。

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Hob.I:4 Symphony No.4 [D] (before 1762)
3枚組、6面中の5面目。前2曲のみが1面につめこまれていたのに対し、この曲を含む他の曲は1面1曲とゆったりカッティングされており、響きにも余裕が感じられます。リズムのキレは変わらず、軽やかさも十分で音楽がポンポン弾む快感を味わえます。続くアンダンテは弱音器付きのヴァイオリンによる実にユニークな美しいメロディーに驚きます。ソロモンスもこの翳りに満ちた美しい気配を見事に表現していきます。その静けさを断ち切る明るいメヌエットで曲を締めくくる見事な構成。1曲1曲の構成感をしっかり描いてきます。

Hob.I:10 Symphony No.10 [D] (before 1762)
このアルバム最後の曲。もう安心して身を任せていられます。必要十分な小気味好い展開の魅力にすっかりハマります。それもそのはず、メンバー表を見てみるとヴァイオリンにはモニカ・ハジェット、ロイ・グッドマン、チェロにはアンソニー・プリース、ホルンにはアンソニー・ハルステッドなど名手の名が並びます。印象的なのは2楽章のアンダンテの静けさに染み入るような演奏。古楽器の弦の透明感あふれる響きの美しさが際立ちます。フィナーレももちろん見事。言うことなし。

デレク・ソロモンスの振るレストロ・アルモニコによる交響曲集ですが、CBSからリリースされている3巻の印象が、ピノックやホグウッドなどを聴いた耳にはあまりぱっとした印象がなかったことからこれまであまり注目していませんでしたが、偶然手に入れた彼らの最初の交響曲集のLPを聴くと、流石に古楽器によるハイドンの交響曲の草分けたる見事な演奏であることがわかりました。名奏者集団による鮮やかな演奏であるばかりでなく、ハイドンの初期の交響曲の箱庭的な面白さをバランスよく表現した名演奏と言っていいでしょう。今回取り上げた4曲はいずれも[+++++]といたします。CBSの録音も今一度聞き直して見たくなりましたね。

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デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの交響曲集第1巻(ハイドン)

最近手に入れたLP。

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デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏で、ハイドンの初期交響曲7曲(Hob.I:1、I:37、I:18、I:2、I:15、I:4、I:10)を収めたLP。題して「モルツィン時代の交響曲集第1巻」。収録は1980年8月19日から24日にかけて、ロンドン、ウッドサイドパークの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルは英SAGA。

デレク・ソロモンスとレストロ・アルモニコによるハイドンの交響曲集はCBSから国内盤ではシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集が3巻リリースされていますが、この3巻については1981年から83年にかけての録音ということで、今日取り上げるLPはその直前に録音されたもの。レーベルはCBSではなくイギリスのSAGA Recordsというところです。手元にはこちらも最近手に入れたSAGAの「モルツィン時代の交響曲集第2巻」があり、同じく1980年の録音。この2巻の録音を聴いてCBSにレーベルを移して録音が継続されたという流れでしょう。

デレク・ソロモンスとレストロ・アルモニコの演奏は以前に一度CBSの録音から告別を取り上げています。

2012/09/10 : ハイドン–交響曲 : デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの告別

CBSの録音の解説には世界初の古楽器によるハイドンの交響曲の体系的な録音であると触れられており、レーベルは異なりますがそのシリーズの中でも一番録音が古いのがこのLP。ちなみに当ブログの所有盤リストをざっと調べてみたところ、このLPより録音の古い古楽器の演奏は、ヘルムート・ミュラー=ブリュール指揮のカペラ・クレメンティナによる朝、昼、晩(1979年録音)とホグウッドとアカデミー室内管のメンバーによる室内楽版の驚愕(1978年録音)が見つかるくらいで、まさにソロモンスの録音が古楽器によるハイドンの交響曲の最初の体系的録音であるようです。これらにつづいてピノック、ホグウッド、クイケン、グッドマン、アーノンクールが次々と古楽器による交響曲録音に挑んでいったわけですね。そういった意味でまさに古楽器によるハイドンの交響曲の草分け的存在であるばかりでなく、このアルバムがその一番最初の録音にあたる、まさに記念碑的な録音なわけです。

ということで、今日はこの中からLPの1面目、2面目に収録された交響曲1番と37番を取り上げます。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
律儀なリズムが刻まれる入り。これが時代の幕を開ける演奏だと思うと感慨一入。今聴くと特段個性的な演奏ではありませんが、古楽器独特の媚びないフレージングの爽やかさはこの時代には個性的に響いたのでしょう。特にキリッとしたアクセントが後年、ホグウッドらによって洗練されて、現代楽器の演奏とは異なるムーヴメントを生んでいくことになります。1楽章はあえて表現を突き詰めないことでなんとなく理性的に響きます。
つづくアンダンテこそ、古楽器のさらりとした演奏の良さがしみじみ感じられます。あえて大きな流れよりも、あっさりとした表情の中に音楽のエッセンスを込めて、時代を俯瞰するような冷静なアプローチが冴えます。曲が進むにつれて微妙な表情の変化の面白さも感じられるようになり、ちょっと硬さを感じた1楽章に対し、このアンダンテに入って音楽が活き活きとしてきました。
そしてフィナーレは落ち着いた入り。まくしたてるようなそぶりはまったく見せずにむしろじっくりとフレーズを噛みしめるような展開。現代楽器による切れ味鋭いタイトな演奏と完全に語法を変えたコントロール。派手な演奏ではありませんが、この演奏が古楽器によるハイドンの交響曲演奏の幕を開けたのは確かなこと。

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Hob.I:37 Symphony No.37 [C] (before 1758?)
LPをひっくり返して裏面に移ります。なんと、第1番とはうって変わって実に変化に飛んだリズムが躍動します。37番といっても作曲年代は1番とさして変わらぬごく初期の作品。ハイドンの筆致のあまりの進歩に驚きます。レストロ・アルモニコも千変万化する響きを駆使して、ハイドンの曲の面白さを描ききります。
続くメヌエットはレストロ・アルモニコの演奏のキレを飛び越えてハイドンのウィットに富んだメロディーの面白さに釘付け。それだけ演奏が曲の核心に迫っているということでしょう。3楽章は短調のアンダンテで、すでにシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い雰囲気を先取りするような翳りが顔を出します。次々にメロディーが変化していくのを追う快感。音数は少ないのに恐ろしく豊かな音楽が流れていきます。
そして4楽章のプレストも改めて聴くと驚くべき変化。当時のハイドンが実験精神に溢れていた証左のような展開。この曲では一貫してリズムが活き活きと弾み、オケの表現もキレています。

この2曲でレビューは終えようと思っていましたが、あまりに面白いのでもう1曲。3面目の18番です。

Hob.I:18 Symphony No.18 [G] (before 1766)
1番が少々硬かっただけで、この曲も実に楽しげな入り。アンダンテで刻まれるリズムに乗って音楽が流れ、徐々に躍動していきます。単純なリズムもこれだけ表情豊かだと聴きごたえ十分。ハイドンの初期の交響曲のツボを完全に掌握している感じ。1楽章全体が序奏のような感じ。そして躍動感あふれる2楽章に。必要十分なキレ味を見せながらハイドンの曲の面白さを存分に感じさせます。リズムもメロディーも展開もスリリング。エッジのキリリと効いた演奏で曲の面白さがさらに際立ちます。ホグウッドよりもキレていて、ピノックよりも躍動し、アーノンクールよりも粋。これは素晴らしい。3楽章は予想に反してかなり崩し気味なスタイル。踏み込んできました。明らかに曲に没入して表現の自在さのレベルが上がった感じ。中間部の不可思議な感じも最高。1曲1曲聴きどころをしっかり押さえてきます。いやいや素晴らしい!

全曲いきたいところですが、時間の都合もあり、今日はこの辺で。ハイドンの交響曲の古楽器による最初の体系的録音と言う位置付けになる、デレク・ソロモンス指揮のレストロ・アルモニコによるハイドンの交響曲集。1曲目こそちょっと硬さが見られましたが、徐々に演奏のキレが増し、まさに草分けの存在意義が確認できる素晴らしい演奏だったことがわかります。CBSの録音はどうもパッとしない印象を持っていましたが、その前に録音されたこのアルバムから素晴らしさは十分に伝わりました。評価は1番が[++++]、他2曲は[+++++]と致します。

このアルバム、見かけたらゲットですね!

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トン・コープマンのクラヴィーア四重奏曲集(ハイドン)

東京もめっきり涼しくなってきたので、涼やかな響きを楽しめる室内楽のアルバムを取り上げます。

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トン・コープマン(Ton Koopman)のハープシコード、ラインハルト・ゲーベル(Reinhard Goebel)、アルダ・ストゥーロプ(Alda Stuurop)のヴァイオリン、チャールズ・メドラム(Charles Medram)のチェロで、ハイドンのクラヴィーア四重奏曲6曲(Hob.XIV:12、XIV:3、XVIII:F2、XIV:8、XIV:9、XIV:4)を収めたLP。収録年はLPには記載がありませんが、同じ音源を収めたと思われるCDも手元にあり、Pマークは1980年、82年と記載があります。レーベルは蘭PHILIPS。

このLPは最近手に入れたものですが、同音源を含む下のCDはかなり前から手元にあります。

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amazon

こちらのCDは上のLPにクラヴィーア協奏曲なども加えた2枚組の廉価盤です。こちらも廃盤のようですが、amazonではまだ入手可能のようです。これまでコープマンについて取り上げた記事は下記の通り。

2016/06/23 : コンサートレポート : トン・コープマン オルガン・リサイタル(ミューザ川崎)
2011/03/12 : 徒然 : 追悼:アヴェ・ヴェルム・コルプス
2011/01/14 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】コープマン3度目のオルガン協奏曲
2010/09/23 : ハイドン–交響曲 : 新着! コープマンの97、98番

コープマンはハイドンの録音を色々残していますが、97番、98番の記事にも書きましたが、交響曲の録音はなんとなくイマイチで、モーツァルトの交響曲のキレの良さと比べると、ちょっと聴き劣りするもの。そんな中ででもオルガン協奏曲やクラヴィーア協奏曲の古い録音はなかなかいいんですね。今日取り上げるアルバムもコープマンの面目躍如。才気迸るとはこのことでしょう。

共演者のラインハルト・ゲーベルは1952年生まれてムジカ・アンティクァ・ケルンの創設者。アルダ・ストゥーロプの情報は見つかりませんでしたが、ハイドンの録音ではリチェルカール・コンソートのバリトン八重奏曲のアルバムやエステルハージ四重奏団のメンバーとして録音を残すなどで知られた人。チェロのチャールズ・メドラムは1949年、トリニダード・トバゴ出身でモーリス・ジャンドロン、ニコラウス・アーノンクールに師事した人と、古楽器の名手揃い。

収録されている曲は元はディヴェルティメントやコンチェルティーノ(小協奏曲)などと呼ばれていますが、編成はハープシコードにヴァイオリン2、チェロということで、ピアノ四重奏曲、あるいはクラヴィーア四重奏曲というのがわかりやすいでしょう。ピアノ三重奏曲が晩年の作品が多いのに比べ四重奏の方は1760年代と若い頃の作品が多いのが特徴でしょう。

Hob.XIV:12 Concertino [C] (c.1760)
いきなり鮮明な響きにつつまれます。コープマンのハープシコードの音色がくっきりと浮かび上がり、その周りにヴァイオリンとチェロがこちらもくっきり定位。LPのコンディションも最高。流石PHILIPSでしょう。この演奏、LPもいいんですが、CDの方も廉価盤であるにもかかわらず素晴らしい録音が堪能できます。同じPHILIPSのDUOシリーズのコリン・デイヴィスの交響曲集がLPとは異なる鈍い響きで失望させられたのに比べると雲泥の仕上がり。曲の構成は3楽章構成でアレグロ、アダージョ、アレグロ。初期の作品らしくシンプルでメロディーも明快。テンポは揺らさずキリリと引き締まった音楽が流れます。特にアダージョのメロディーラインの美しさが印象的。

Hob.XIV:3 Divertimento [C]
この曲もまるで練習曲のように屈託のないシンプルさ。アレグロ・モデラート、メヌエット、アレグロ・ディ・モルト。非常に短い曲ですがハイドンの作品らしく構成は明快。3楽章には足を踏み鳴らすような音が入り、ハイドンの遊び心に呼応します。

Hob.XVIII:F2 Concertino [F] (c.1760)
ホーボーケン番号では協奏曲に分類される曲ですが、今はクラヴィーア四重奏の仲間と見做されています。モデラート、アダージョ、アレグロ・アッサイの3楽章。作曲年代は前2曲と変わらないためか、前2曲と変わらぬ構成感ですが、音階の美しさや、構成の変化の付け方にだんだん磨きがかかってきたようにも思えます。演奏の方もヴァイオリンがかなり踏み込んだアクセントをつけて、アンサンブルの緊張感も上がります。

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LPをひっくり返して後半3曲。

Hob.XIV:8 Divertimento [C] (c.1768/72)
アレグロ・モデラート、メヌエット、フィナーレの3楽章。いつもながらハイドンの曲の書き分けの巧みさには驚くばかり。1楽章ではリズムをためる面白さを強調しますが、何も仕込みがないところの鮮やかなタッチがあってこそ、このリズムの変化が面白く聞こえます。ハイドンが仕込んだネタをしっかりと汲み取って、しっかりと響かせます。所々で短調の響きが交錯する面白さを拾います。4人は軽々と演奏しているようですが、こうした演奏のポイントをしっかり踏まえていきます。

Hob.XIV:9 Divertimento [F] (before 1767)
アレグロ、メヌエット、アレグロ・モルト。冒頭からコミカルなリズムが弾みます。演奏の方も愉悦感たっぷりにハイドンの書いたリズムを汲み取っていきます。もはや曲に没入しての演奏ですが、推進力は徐々に上がってアンサンブルの呼吸もピタリと揃います。細かいリズムの変化がパート間でしっかりと受け継がれる快感が味わえます。

Hob.XIV:4 Divertimento [C] (1764)
あっと言う間に最後の曲。アレグロ・モデラート、メヌエット、フィナーレの3楽章構成、最後だからか心なしか落ち着いて演奏しているように聞こえます。コープマンはリズムを自在に動かしてフレーズの終わりをなぜか今までの曲よりしっかりと間を取り、一歩一歩踏みしめながら歩いていくような足取り。ヴァイオリンもそれに合わせてメリハリをしっかりとつけます。これはオリジナルのLPの曲の配置だからわかることでしょう。

トン・コープマンの若き日のハイドンのクラヴィーア四重奏曲集の録音。それぞれの曲はやはり若書きゆえ深みがあるとは言えませんが、それでもハイドンならではの構成の面白さは満喫できます。そしてこのアルバムのポイントはコープマンの自在なハープシコードさばきに加えて弦楽器の3人の端正な演奏が生み出す、室内楽の面白さが詰まったアンサンブル。古楽器ならではの繊細な響きから、クッキリとした音楽が浮かび上がる快感。CDでもこの面白さは味わえますが、LPになると鮮明な定位と実体感ある響きの力強さで、さらに楽しめます。評価は全曲[+++++]といたします。

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tag : 古楽器 ディヴェルティメント

絶品! グラーフ/スタルク/デーラーによるフルート三重奏曲集(ハイドン)

今日は室内楽のLP。宝物がまた1枚増えました。

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ペーター=ルーカス・グラーフ(Peter-Lukas Graf)のフルート、クロード・スタルク(Claude Starck)のチェロ、ヨルグ・エヴァルト・デーラー(Jörg Ewald Dähler)のフォルテピアノで、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:17、XV:15)を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、隣接するレコード番号のLPが1984年リリースとありますので、LPの状態も勘案して1980年代中盤の録音と想像しています。レーベルはclaves。

ハイドンのフルート三重奏曲はピアノトリオのヴァイオリンパートをフルートの華やかな音色で置き換えたもので、この曲の出版当時からフルート版の楽譜も出版されていたとのことでフルートでの演奏も多くなっているとのこと。これまでもかなりのアルバムを取り上げています。

2016/08/26 : ハイドン–室内楽曲 : ムジカ・ドメスティカのフルート三重奏曲集(ハイドン)
2016/06/21 : ハイドン–室内楽曲 : ラ・ガイア・シエンツァによるフルート三重奏曲と室内楽版「驚愕」(ハイドン)
2015/08/28 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2015/02/21 : ハイドン–室内楽曲 : トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)
2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲

この録音が1980年代中頃の録音だとすれば、手元のアルバムでは古楽器による最も古い録音ということになります。

奏者のペーター=ルーカス・グラーフは有名なフルート奏者ゆえご存知の方も多いでしょう。1929年チューリッヒ生まれ。チェロのクロード・スタルクは1928年ストラスブール生まれ。フォルテピアノのヨルグ・エヴァルト・デーラーは1933年ベルン生まれと、録音当時50代の名奏者揃い。

Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
LPのコンディションは最高。針を落とすと鮮明な響きが飛び出してきます。フォルテピアノのデーラーが刻む速めの一定したリズムに乗ってフルートのグラーフがきりりと引き締まったメロディーを重ねていきます。古楽器によるオーソドックスな演奏と思いきや、実に豊かなニュアンスを帯びた演奏にすぐに引き込まれます。フルートのリズムが冴えまくって超鮮明に曲を描いていきます。
続く2楽章は絶品。静寂にとぼとぼと刻まれるフォルテピアノのリズムに乗って幽玄なフルートの音色が響き渡ります。フォルテピアノの左手の刻むリズムと、右手の奏でるメロディーも絶美。デーラーも只者ではありませんね。チェロも含めてリズム感が良いので音楽が淀みなく流れます。
そのよさが活きるのが終楽章。くっきりとメロディーが浮かび上がり、ハイドン独特の絡み合うメロディーの面白さが際立ちます。思った以上にフォルテピアノが雄弁なのが効いています。

Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
一転して軽やかなタッチのフォルテピアノの入り。リズムよりも流れの良さを感じさせます。相変わらずグラーフのフルートの音色は深みのある美しいもの。曲に合わせてか、両者ともリラックスした入り。中盤から印象的な慟哭が続きますが音色の硬軟を織り交ぜながら進みます。この曲ではタッチの変化を聴かせどころに持ってきました。

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ここでLPをひっくり返して2楽章へ。宝石のような響きの流れに身をまかせる快感に浸ります。一貫したリズムの流れの瞬間瞬間の情感のデリケートな変化が繰り返されるうちに至福の境地へ。最後は静寂に吸い込まれて終わります。

Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
再び鮮明なリズムに乗った快活なメロディーへ。この曲の明るさと翳りが繰り返される美しさは筆舌に尽くしがたいもの。それをグラーフの見事なフルートとデーラーの表情豊かなフォルテピアノで鮮やかに演奏され、曲の美しさが完璧に表現されます。何気にチェロのスタルクもキレ味鋭く、2人に負けていません。世の中にこれほど美しい曲があるのでしょうか。そしてあまりに見事な演奏に言葉を失うほど。この曲の真髄に迫ります。
1楽章のあまりの完成度にのけぞっていたところに癒しに満ちたフォルテピアノの音色が沁み入ります。グラーフのフルートは素晴らしい音量と伸びやかさで孤高の境地。広い空間に響き渡るフルートの響き。これほど美しいフルートの音色は初めてです。
終楽章は前2楽章の素晴らしさの余韻の中、メロディーの戯れを楽しむような演奏。この軽さというか自在さはこれまでの妙技の数々をこなしてきたからこその境地でしょう。

絶品です! これまで取り上げてきたフルート三重奏曲はいずれも素晴らしい演奏でしたが、このアルバムはそれを超えるもの。この曲集の決定盤としていいでしょう。グラーフのフルートがこれほど素晴らしいものだと改めて認識しました。そしてデーラーのフォルテピアノも絶品。また曲の並びも作曲順ではXV:16、15、17ですが、このアルバムでは16、17、15の順で収録されており、LPのカッティングの都合で2楽章の17を真ん中に置いたものとは思いますが、そのおかげでXV:15の見事な演奏が最後に配置され、アルバムの完成度を上げる結果につながっています。特にこのXV:15の素晴らしさは心に刻まれました。評価はもちろん全曲[+++++]といたします。

世の中はお盆で帰省ラッシュですが、このお休みはのんびり過ごそうと思います。

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tag : フルート三重奏曲 LP 古楽器

ザロモン弦楽四重奏団らの室内楽版ロンドン、軍隊(ハイドン)

先日素晴らしい演奏を取り上げたザロモン弦楽四重奏団ですが、偶然ディスクユニオン店頭でこのアルバムを見つけてゲットしました。

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TOWER RECORDS(この演奏が含まれる全集CD) / amazon(CD) / ローチケHMVicon(この演奏が含まれる全集CD)

ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)、リサ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)のフルート、クリストファー・ホグウッド(Christpher Hogwood)のフォルテピアノによる、ハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」のザロモンによる室内楽への編曲版の演奏を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

L'OISEAU-LYREのLPは裏面の文字のタイポグラフィーも含めて装丁が美しいのでコレクション意欲を満たしますね。私がL'OISEAU-LYREのLPを初めて手に入れたのは予備校生時代にかつて代々木にあったジュピターレコードでのこと。店頭のレコードラックを物色しているとL'OISEAU-LYREとかベルギーのACCENTのアルバムは特別なオーラを放っていました。あれからかれこれ35年くらい経ちます。このLPも偶然出会ったものですが、状態の良いジャケットからはかつて感じたオーラが出ていました。

ザロモン弦楽四重奏団の演奏は取り上げたばかりですね。

2017/06/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)
2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

前記事にも書きましたが、hyperionからリリースされているシリーズよりも、その前に録音されたL'OISEAU-LYREの演奏の方がいい演奏です。剃刀、ひばりを収めたLPの収録は、今日取り上げるLPと同じ1982年11月で、録音会場も同じ。ということでほぼ同時期の収録ゆえその演奏にも期待できますね。

収録曲目であるペーター・ザロモン(Peter Salomon)編曲の室内楽版交響曲については、以前取り上げたアルバムの記事をご参照ください。

2016/01/31 : ハイドン–交響曲 : アルコ・バレーノによる室内楽版「時計」、99番、「ロンドン」(ハイドン)

このアルコ・バレーノの演奏も素晴らしかったのですが、名手ヤープ・シュレーダー率いるザロモン弦楽四重奏団にホグウッドまで加わったメンバーによる演奏が悪かろうわけもありませんね。このLP、コンディションも最高。針を落とすと予想通り鮮烈な響きが広がりました。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
有名なロンドンの序奏ですが、もちろん室内楽版ゆえ重厚な響きとはいきません。LPは万全なコンディションなのでノイズは皆無。LPに刻まれたクリアな響きによって丁寧に描かれるメロディーの面白さ際立ちます。主題に入ると推進力が漲り、グイグイと引っ張っていきます。脳内では大オーケストラのこの曲の響きを想像しながらの鑑賞でしたが、徐々にこの室内楽版の面白さに気づき、スケール感よりもメロディーの起伏とパート間のメロディーのつなぎに耳が集中してきます。演奏は変わらすグイグイと進みもう大オーケストラの演奏以上に迫力を感じさせます。極上のアンサンブルによりまさにロンドンの大オーケストラの響きが脳内に浮かび上がります。迫力は音量にあらず。室内楽版とはいえ素晴らしい盛り上がりに圧倒されます。
続くアンダンテは室内楽版らしくメロディーラインがクッキリと浮かび上がり、本来のオーケストラ版よりも楽しめる感じ。これもヤープ・シュレーダーのヴァイオリンとホグウッドのフォルテピアノ、そしてリサ・ベズノシウクのフルートの冴えによるもの。特にフルートが加わることでオーケストラの音色を想像しやすくなっていますね。
メヌエットは迫力ではオケ版にはかないませんが、絶妙なテンポ感とリズムのキレで十分聴かせます。アンダンテ同様、各パートの絡みはオケ版よりもはっきり認識できるので、音楽の面白さはこちらに軍配が上がります。
フィナーレも絶妙な入り。耳が慣れてきたせいか、迫力も十分なものに聴こえてきました。速めのテンポで鮮やかにまとめ、聞き進むうちに大迫力に聞こえてきました。それだけ演奏に生気が宿っています。最後は大いに盛り上がって終了。

Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
もちろん、軍隊の方も悪かろうはずもなく、針を落とすとロンドン同様、緻密で丁寧な序奏に惹きつけられます。主題に入ると実に鮮烈な響きが繰り出され、快速テンポでグイグイ進みます。異様にキレの良いリズムが推進力の源になり、独特な構成の1楽章をまとめていきます。ロンドン以上にキレの良い演奏で、この曲の陶酔感までを表現しきります。
軍隊の行進のアンダンテはもちろん打楽器なしですが、脳内で打楽器群が盛大に鳴っているように聴こえるのが不思議なところ。演奏の方も雄大さを表すようにあえてゆったり進んでいるのがそう感じさせるのでしょう。最後のクライマックスもトランペットも打楽器もないのに素晴らしい迫力を感じさせるのが見事。神業ですね。これはすごい。
メヌエットはその迫力の余韻をさらりと消し去るように軽快そのもの。楽章ごとの演奏スタイルもよく考えられて、楽章間の変化をしっかりつけてきます。
そして聴きどころのフィナーレはキリリとメリハリを効かせてフレーズごとに表情をしっかりつけ、推進力も十分。ハイドンの見事なフィナーレの構成をオケ版以上にクッキリと描ききり、迫力も十分。そして最後の頂点は打楽器もないのにスリリングにパンチアウト! 見事としか言いようがありません。

この演奏を聴いて、ようやくザロモン版のこの編曲の真価がわかりました。当時ロンドンではハイドンは熱狂的に迎えられたと聞きます。そのハイドンの音楽を室内楽で演奏して楽しむというニーズはよくわかります。そしてこの演奏を聴くと、あたかもハイドンの交響曲が演奏されているような錯覚に陥るほどの素晴らしい演奏。室内楽版の交響曲の演奏はこれまでに数種のアルバムがリリースされていますが、この演奏は室内楽版の交響曲のベストと言っていいでしょう。今まで聴いていなかったのはたまたまですが、ようやくこの素晴らしさがわかりました。LPのみならず、CD化もされており、直近ではホグウッド、ブリュッヘン、ダントーネらによる古楽器の交響曲全集にも含まれていることから入手も難しくありません。ハイドンファンなら一度は聴いておくべき名盤だと思います。もちろん評価は両曲とも[+++++]といたします。

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エーリッヒ・ペンツェル/コレギウム・アウレウムのホルン協奏曲(ハイドン)

久々の協奏曲のアルバム。最近オークションで手に入れたもの。

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エーリッヒ・ペンツェル(Erich Penzel)のホルン、コレギウム・アウレウム(Collegium Aureum)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)と、以前はハイドンの作と見做されていた時期もあった、レオポルド・ホフマンのフルート協奏曲の2曲を収めたLP。収録はPマークが1966年との記載。シュツットガルト近郊にあるキルヒハイム(Kirchheim)にあるキルヒハイム城でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

エーリッヒ・ペンツェルは1930年、ライプツィヒに生まれたホルン奏者。ウィルヘルム・クリューガー(Wilhelm Krüger)とアルビン・フレーゼ(Albin Frehse)にホルンを師事し、1949年から1961年まで地元ゲヴァントハウス管のソロホルン奏者、1961年から1972年までケルンの西ドイツ放送交響楽団のホルン奏者を務めた人。また、バイロイト祝祭管のメンバーでもありました。教職ではデルモルト音楽院、ケルン音楽大学、マーストリヒト音楽大学などの教授を歴任し、多くのホルン奏者を育てました。

手元にペンツェルがホルンを吹くアルバムは数枚ありますが、いずれもハイドンの真作ではない曲の演奏。当ブログでも一度、2つのホルンのための協奏曲の演奏を取り上げています。

2011/10/05 : ハイドン–交響曲 : ヘルムート・ミュラー=ブリュール/ケルン室内管弦楽団の交響曲72番等

ということで、ようやく手に入れたハイドンのホルン協奏曲の演奏。名演奏の多い曲ですが、この演奏も負けず劣らず素晴らしいものでした。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
絶妙のコンディションのLPから湧き出るしなやかなオケの響き。極めてキレの良いリズムで軽快な序奏が転がるように響き渡ります。ペンツェルのホルンはびっくりするほど柔らかく深い音色。オケのリズムのキレに劣らず素晴らしいリズム感で朗々とホルンを吹いていきます。音階の安定感、ハイドン特有の低音の響きの安定感も万全。コレギウム・アウレウムの素晴らしい伴奏に乗って、軽々とホルンを鳴らしていきます。ペンツェルの素晴らしいテクニックに惚れ惚れ。1楽章のカデンツァは音程のジャンプを多用したシンプルなものですが、微塵の揺らぎもない完璧な演奏で締めくくります。
聴きどころのアダージョは、ここでも伴奏のコレギウム・アウレウムのしっとりと濡れているような柔らかなオーケストラの響きだけで昇天しそう。そこにペンツェルの柔らかなホルンが加わってこの世のものとは思えない幸福感に包まれます。そして音程が下がっていくところのホルンの響きは実に自然。これほど美しいホルンの音色は聴いたことがないほど。極上のオケと極上のホルンの織りなす素晴らしい響きに酔いしれます。ハイドンの書いた美しいメロディーが染み渡ります。2楽章のカデンツァもテクニックではなく、美しい響きを楽しませるシンプルなもの。
予想通り落ち着いたフィナーレ。噛みしめるようにじっくりとしたリズムで入るオケに、ここでもペンツェルはさらりと軽やかにホルンの響きを乗せていきます。聴き進むうちにオケが音階をデフォルメする聴きどころを設けてハッとさせられます。実に自然な戯れにほくそ笑みます。最後のカデンツァは乱高下する音階を通してホルンの響きの魅力をじっくりと表現。いやいや素晴らしい演奏にノックアウトです。

ホルン奏者に詳しい訳ではありませんが、エーリッヒ・ペンツェルという人の印象はこのアルバムでしっかりと刻み込まれました。ホルンという楽器は演奏が難しいのはご存知の通りですが、このアルバムでのペンツェルの演奏は神々しささえ感じるほど見事なもの。テクニックは素晴らしいのでしょうが、アクロバティックな印象は皆無で、実に自然で美しい音色を自在に繰り出してきます。ジャケット裏面にはペンツェルがホルンを吹いている写真が掲載されていますが、優に60cmはありそうな円に巻かれたナチュラルホルンを吹く姿。このアルバムの演奏がこのナチュラルホルンだったとしたら超絶的なテクニックなのでしょう。

ふと出会ったアルバムでしたが、またまた宝物を見つけたレベルの名演でした。評価はもちろん[+++++]とします。

B面のハンス=マルティン・リンデのソロによるフルート協奏曲も演奏は絶品です。

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tag : ホルン協奏曲 フルート協奏曲 古楽器 LP

スミソン弦楽四重奏団のOp.9、Op.17(ハイドン)

1501記事目は先日コダーイ四重奏団のOp.9を激賞した記事を書いた際に、いつも含蓄に富みまくったコメントをいただくSkunJPさんからその存在を教えていただき入手したアルバム。ようやく手に入りました!

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4、Op.17のNo.3とNo.5の3曲を収めたアルバム。収録は1986年10月23日から25日にかけて、米国ワシントンD.C.のスミソニアン美術館レンリック・ギャラリー(Renwick Gallery of the Smithsonian American Art Museum)のグランド・サロンでのセッション録音。レーベルは優秀録音の多いDORIAN。

このアルバム、冒頭に書いたようにSkunJPさんから教えていただいたもの。このアルバムと同時に頼んで先についたOp.77とOp.103があまりに見事な出来だったので、そちらを先に記事にしてしまったもの。それも合わせて、このアルバムが3枚目のレビューとなります。

2017/06/13 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

スミソン弦楽四重奏団については、リンク先をご覧ください。録音年代はOp.54が1985年、Op.77が1988年、今日取り上げるアルバムが1986年ということで、集中した時期に録音されていることがわかります。したがって、このアルバムも前出2盤と同じメンバーでの録音ということになります。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

まだ、Op.77とOp.103の名演の余韻が耳に残る中、早速聴きはじめます。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
Op.20の前の目立たない存在の曲ですが、作曲年代は名作が並ぶシュトルム・ウント・ドラング期。しかも短調のグッと沈む曲想が見事な曲。前盤同様古楽器の木質系の響きの美しさは見事なもの。前盤がヴァイオリンのヤープ・シュレーダーがとりわけ目立っていたのに対し、この演奏では4人のバランスの良いアンサンブルで聴かせる演奏。しかもその一体感は絶妙なるレベルでこの曲の魅力をゆったりと描いていきます。たっぷりを墨を含んだ鮮やかな筆の運びでメロディーが活き活きと躍動するところは流石スミソンと唸ります。この時期はこのクァルテットにとっても絶頂期だったのでしょう。神がかったような妙技に冒頭から惹きつけられます。
続くメヌエットもしなやかなアンサンブルが仄暗い舞曲の魅力を存分に炙り出していきます。徐々にヤープ・シュレーダーの美音の存在感が増してきて、演奏の隈取りがキリリと明らかになってきます。素晴らしいのが中間部の音色を少しざらつかせた表現。艶やかな音色との対比で音楽の深みを増しています。このあたりの音楽の造りは絶妙。
そしてラルゴに入ると晴れやかな音楽の魅力が全開。糸を引くようにシュレーダーのヴァイオリンのメロディーが伸び伸びと躍動します。そしてすっと翳ったかと思うと、再び伸びやかに展開する妙技の連続。この曲の面白さを再認識させられます。他のパートもも音量を絶妙にコントロールしてヴァイオリンパートを引き立てます。終盤カデンツァのようなヴァイオリンのソロが印象的。
フィナーレはフーガのような展開からハイドンならではの複雑に絡み合う音楽。全パートのボウイングが冴えまくってここぞクライマックスという緊張感に包まれます。これほど緊密なこの曲のフィナーレは聴いたことがありません。予想通りとはいえ見事すぎる演奏にいきなりノックアウト。

Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
いつもながらハイドンのアイデアというかメロディーの展開の見事さに驚きます。冒頭からメロディーラインの面白さに釘付け。特にクァルテットというジャンルはメロディーと各パートの絡み合う展開の面白さを純粋に味わえるため、この曲でも冒頭から全神経が曲の展開の面白さに集中します。もちろんスミソンの演奏は絶妙を通り越して神々しささえ漂うレベルなのは前曲同様。Op.17ももちろんシュトルム・ウント・ドラング期の作品。こうして聴くとOp.20と比較しても決して劣らない素晴らしい作品であることがわかります。この曲ではメンバーも演奏を存分に楽しんでいる様子が伝わります。それこそが音楽。溢れんばかりの楽しさに包まれます。
驚くのがメヌエットのメロディーの奇抜さ。奏者もハイドンのアイデアの冴えの素晴らしさを解して、微笑みながら演奏しているよう。創意に満ち溢れる音楽。これぞハイドンの音楽の真髄でしょう。
そしてアダージョのなんたる癒し。大海原にプカプカと浮かびなながらのんびりとする心境になったかと思うと切々と切り込んでくるヴァイオリンの美しいメロディーにうっとり。しかも間近で聴くライヴのような素晴らしい録音によってグイグイとこちらの心に浸透してきます。ヴァイオリン以外のパートも素晴らしい演奏で迫ってきます。絶品。
深い感動の淵から涼風に目覚めさせられたようなフィナーレの入り。軽やかな各パートのさえずりからはじまり、音色とダイナミクスがめくるめくように変化していく快感に浸れます。

Hob.III:29 String Quartet Op.17 No.5 [G] (1771)
Op.17の最後の曲。もうすぐそこに太陽四重奏曲があります。このアルバムに収められた3曲がどうして選ばれたかはわかりませんが、この3曲にはハイドンの音楽のエッセンスが全て含まれているような気がします。有名曲ではありませんが、ハイドンのアイデアと創意の豊富さと音楽の展開の独創性の面で突き抜けた魅力をもつ3曲のように感じます。ひばりや皇帝も素晴らしいですが、こうした曲にこそハイドンの音楽の真髄が詰まっていますね。この曲でもハイドンの斬新さに驚かせられ続けます。なんたるアイデア。なんたる展開。なんたる構成力。もう全てがキレキレ。そしてスミソンもキレキレ。ハイドンの時代の人々が聴いたら前衛音楽と聴こえたかもしれません。
この曲でも2楽章がメヌエット。ハイドンのアイデアの暴走は止まりません(笑) ユニークなメロディーを展開しながら曲としてまとめていく手腕の鮮やかさ。これぞ創意とハイドンがほくそ笑む姿が目に浮かびます。
そしてアダージョではグッと沈み、闇の深い黒色のグラデーョンの魅力で聴かせる音楽のような入り。そしてさっと光が射し、ゆったりとした音楽のほのかな輝きが、入りの闇の深さによって浮かび上がります。こうした表情の変化の面白さはスミソンの素晴らしい演奏だからこそ楽しめるもの。並みの演奏ではハイドンの音楽の真髄にはたどり着けません。
フィナーレはリズミカルな入りから意外にオーソドックスな展開に逆に驚きます。ここまでの3楽章のユニークさからするとちょっと意外でしたが、ハイドンの意図が聴くものを驚かせるような創意にあるとすれば、ユニークな曲の連続をオーソドックスなフィナーレで締めることこそハイドンの意図だったのかもしれません。最後はなんとフェードアウト! あまりに見事な展開にやられた感満点(笑) 曲の真髄に迫る素晴らしい演奏ゆえ、演奏ではなく曲自体を楽しめたということでしょう。

SkunJPさんに教えていただいたアルバムですが、やはりただのアルバムではありませんでした。このアルバムの中にハイドンの弦楽四重奏曲の真髄が全て詰まっています。Op.77とOp.103の方も曲の本質を突く素晴らしい演奏でしたが、こちらはさらに一歩、ハイドンの創意の源に迫る迫真の演奏。選曲、演奏、録音とも絶品。全ての人に聴いていただくべき名盤と断じます。もちろん評価は[+++++]といたします。

前記事でブログ開設1500記事となりましたが、実はこのアルバムのレビューとしてまとめる予定でした。ただ、聴き進むうちに、単独の記事としてまとめるべきアルバムだと思い別記事にした次第。その痕跡を前記事の写真に残したところ、すかさずSkunJPさんに気づかれてしまいました(笑) いやいや素晴らしいアルバムの情報をありがとうございました!

(追伸)
月末企画は次の記事です! 遅れてスミマセン!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.9 弦楽四重奏曲Op.17 古楽器

ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)

旅行記にかまけておりましたが、仕入れは継続しております! 今日は最近オークションで見かけて手に入れたもの。

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ザロモン弦楽四重奏団(The Salomon String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.55のNo.2、Op.64のNo.5「ひばり」の2曲を収めたLP。収録は1982年11月、ロンドン北東部のウッドフォード教区教会(Woodford Parish Church)でのセッション録音。レーベルは英EDITION DE L'OISEAU-LYRE。

ザロモン弦楽四重奏団はhyperionレーベルに1980年代から90年代にかけて弦楽四重奏をかなりの枚数録音しています。このアルバムに収録されている2曲もhyperionレーベルに録音があるのですが、これはL'OISEAU-LYREレーベルに残されたものでhyperionとは違う音源の録音です。曲は異なりますが、hyperionの録音は以前に一度取り上げています。

2011/10/29 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ザロモン四重奏団のOp.74のNo.2、騎士

手元にhyperionレーベルのシリーズの録音は揃っているのですが、録音年代をチェックすると、一番録音が早いのが1982年の7月で、以降1995年までの間に録音されています。最初の録音のOp.71のNo.1とNo.2は、今日取り上げるLPよりも前の録音になります。この2曲もそれぞれセットとして94年と95年に再録音されています。全くの想像ですが1982年の録音当時、L'OISEAU-LYREとhyperionのそれぞれに録音したものの、セットとして体系的に録音を企画したhyperionの方に録音を継続し、L'OISEAU-LYREとの録音はスポット的に終わってしまったということなのかもしれません。L'OISEAU-LYREからはこのアルバムの他、ホグウッドと組んだザロモン版の室内楽による軍隊とロンドンの2曲のLPがリリースされているのみです。

メンバーはhyperionレーベルの録音と変わりなく、下記の通り。

第1ヴァイオリン:サイモン・スタンデイジ(Simon Standgage)
第2ヴァイオリン:ミカエラ・コンベルティ(Micaela Comberti)
ヴィオラ:トレヴァー・ジョーンズ(Trevor Jones)
チェロ:ジェニファー・ウォード・クラーク(Jennifer Ward Clarke)

ただし、同じ曲で聴き比べると、演奏はこのL'OISEAU-LYRE盤に軍配が上がります。というかこのL'OISEAU-LYRE盤の演奏は絶品なんですね。

Hob.III:61 String Quartet Op.55 No.2 "Lasiermesserquartetett" 「剃刀」 [f] (1788)
hyperionのCDの演奏も悪い演奏ではないんですが、極上のコンディションのL'OISEAU-LYRE盤の磨き抜かれた響きは比べると演奏のしなやかさが数段上。このほんの少しの違いが音楽の深みに大きく影響します。94年録音のhyperion盤が若干平板さを感じさせるのに対し、L'OISEAU-LYRE盤に針を落とすと、瑞々しさに溢れたデリケートな響きに包まれます。音楽の表情の深さと古楽器クァルテットの音色の豊かさに惹きつけられます。演奏に余裕があり、ゆったりとした1楽章の入りの美しさを完璧に表現します。そしてフレーズごとの息の長い音楽の展開が見事。LPながら録音はDIGITAL。L'OISEAU-LYREの見事な録音が演奏に華を添えます。このレベルの録音はうちのオーディオ環境ではLPでしか聞くことができないレベルです。あまりに素晴らしい演奏と録音に1楽章ですでにノックアウト。
切々とした短調の入りから転調して次々と表情を変える2楽章。サイモン・スタンデイジの自然で伸びやかなヴァイオリンがここでも余裕たっぷりな音楽を作っていきます。アンサンブルは神々しいばかりの精度で、未曾有の一体感。ハイドンならではのユニークな曲をあまりに見事に仕上げて、演奏によってはちょっとギクシャクする曲の真価を問います。注意深く聴くと実によくできた曲だと唸ります。
メヌエットは前楽章を受けてか、リズミカルな舞曲ではなく、ここでも技巧を凝らしたメロディーで聴く人を驚かせようという感じ。
フィナーレはハイドンならではのコミカルなメロディーの魅力に溢れた曲。そのコミカルさを軽さとキレ味でさらりと聴かせるセンスの良さも絶品です。

Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
鳥肌が立つような美しい入り。誰でも知っている冒頭のリズムが非常に滑らかに刻まれ、そしてひばりのさえずりのようなヴァイオリンが伸びやかに歌います。なんと言う美しい響き。冒頭から絶品です。アンサンブルは完璧に揃い、響きは超高鮮度。ボウイングの弓の滑りがしなやかさの限りを尽くします。これほど美しいひばりを聴くのは初めて。そして展開部も迫真の迫力。あまりに素晴らしい1楽章に仰け反ります。
そして緊張感を保ちながらの美しいアダージョ。ここでもサイモン・スタンデイジの伸びやかなヴァイオリンの魅力が圧倒的な存在感で迫ります。途中陰りを感じさせるところの枯れ方が、再び明るさを取り戻す時の対比に効いてきます。伴奏にまわるヴィオラやチェロも表現力豊かにサポート。
静かに閉じた前楽章から活気を取り戻すように踊るメヌエットに入ります。前曲とは全く異なるアプローチがビシッと決まります。やはりメヌエットの王道は躍動感ですね。
そして軽快なフィナーレ。入りからキレよく飛ばし、フーガのような展開部でも軽快さを保ち続ける見事な技。ここでもハイドンならではのユーモラスな展開を意図をしっかり汲んだ素晴らしい演奏で締めます。

いやいや、これは絶品。旅行記の前にレビューしたスミソン四重奏団のヤープ・シュレーダーといい、このアルバムのサイモン・スタンデイジといい、古楽器草創期の名ヴァイオリニストにが参加した演奏の素晴らしさを再認識した次第。古楽器でのクァルテットの演奏は増え続ける一方ですが、これらの草創期の演奏を超える演奏が増えたかと言うと、そうとも言えないのではないかと言うのが正直なところ。新進気鋭の団体の斬新な演奏もなくはありませんが、これらの演奏を超える魅力があるかと言えば、微妙なところかもしれませんね。剃刀もひばりも絶品のおすすめ盤です。評価は両曲とも[+++++]とします。

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tag : 剃刀 ひばり 古楽器 LP

スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)

先日取り上げたコダーイ四重奏団のOp.9の記事にSkunJPさんからコメントをいただき、スミソン弦楽四重奏団のOp.9の入ったアルバムを発注したのですが、そのアルバムはまだ到着せず、同時に注文したこちらが先に着いたので、こちらを取り上げます。もちろん、演奏が素晴らしいからに他なりません。

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スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1988年11月17日から20日にかけて、スイスのベルン州にあるブルーメンシュタインのプロテスタント教会(Evangelischen kirche Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。

スミソン弦楽四重奏団のアルバムは以前、1度取り上げています。

2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54

古楽器のヴァイオリニストのヤープ・シュレーダー率いる古楽器によるクァルテット。略歴は以前の記事を参照いただきたいのですが、前記事と録音年も近いことから、メンバーは同一です。

第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
教会での録音らしく残響は少々多めですが、木質系のしなやかな響きなのでむしろ心地良い感じ。冒頭からテンポよく勢いのある演奏。古楽器の音色の美しさはなかなかのもので、響きの魅力にまず惹きつけられます。リズムに生気が宿り、実にイキイキとした演奏。晩年のハイドンの澄み切った心境を映すような演奏という感じ。ほぼ30年前の演奏ながら、録音も演奏も全く古さを感じさせない、素晴らしい充実度。
続くアダージョでは響きの美しさを存分に聴かせます。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは自然体のボウイングの美しさと、この曲が本来もつ枯れた雰囲気をも感じさせる円熟の演奏。ハーモニーは透明感高く、ソロ部分では孤高の心境が宿るよう。
落ち着いた演奏を断ち切るようにメヌエットに移ります。鋭いボウイングによってハイドンの書いた音楽のキレが強調されます。ちょっと驚くのが中間部をどっしりとまとめてきたところ。色々な演奏を聴いていますが、なかなかのアイデアですね。これによって両端のメヌエットの鮮やかさが一層引き立ちます。
そしてフィナーレは軽やかに入ったと思っていたところ、リズムを変えて次々に襲いくるメロディーの特に低音のアクセントを強調したり、複雑に絡み合うメロディーのエッジが綺麗に立って音楽の綾を実に魅力的に仕上げてきます。目眩く変化する音楽の面白さに釘付けになります。これは見事。なんと鮮やかなフィナーレでしょう!

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲の鮮やかさを受け継ぐような壮麗な入り。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは絶好調。鮮度高く、滑らかさと勢いのバランスも絶品。耳を澄ますとクッキリとしたメロディーと流すような音階との対比をかなり鮮明につけています。ヤープ・シュレーダーの自在なボウイングにうっとりしっぱなし。秀逸なのが、展開部の途中でかなり音量を落として沈み込むところのセンス。ゾクゾクさせるようなスリリングさ。この曲でこんな印象を持ったのは初めてのこと。シュレーダー以外のメンバーも見事な音楽性でシュレーダーの冴え冴えとした演奏を支えます。見事。
続くメヌエットでも美しいヴァイオリンの音色とキレは健在。生気漲るとはこのことでしょう。その勢いと見事な対比を見せて沈む中間部が実に印象的。音量のみならず表情の対比がこれほど決まる演奏はそうはありません。
そしてこの曲の白眉の枯れたアンダンテ。この曲に込められた寂しさを帯びた明るさがしっかりと描かれます。音楽が展開するごとに深みが増していく喜び。この曲を書いたハイドンの心情をトレースしていくような演奏に心打たれます。これは絶品、世の中にこれほどシンプルに豊かな心情を表す音楽があるでしょうか。
素晴らしい音楽の締めくくりにふさわしいフィナーレ。天真爛漫に歌う小鳥のようなメロディーを3本の楽器が支えます。フレーズの受け渡しの面白さと、ユニークなメロディに低音の意外にメリハリのついた演奏と最後まで気を抜けません。ヴァイオリンのさえずりを聞かせて、最後はしっかりと展開した音楽をまとめて終わります。この曲も最高。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン絶筆の曲。流石に力が抜けてきますが、音楽の豊かさは変わらす。ハイドン最後の音楽を微笑みながら演奏している姿が目に浮かびます。構成感をしっかりと印象づけながらも、落ち着いてゆったりと音楽を紡いでいく姿勢に打たれます。たっぷりと墨を含んだ太い筆でゆったりと筆を運ぶように音楽を作っていきます。
そして、最後のメヌエットは残った力を振り絞るような渾身の音楽。ここにきてチェロの力強さにハッとさせられます。妙に染みる中間部を挟んで、切々としたメヌエットに戻り、残った音符の数を惜しむように曲を結びます。最後の厳しい和音を書き、ハイドンが筆を置いた心境がオーバーラップします。

ふと手に入れたこのアルバムですが、このロプコヴィッツ四重奏曲3曲のベスト盤と言っていいでしょう。演奏によってはハイドン最後の音楽という深みを感じられないものもありますが、この演奏は別格の深さを持っています。古楽器での演奏ながらヤープ・シュレーダーの自在なボウイングから繰り出される音楽の表情は非常に多彩。そしてアンサンブル全体に生気が漲った超がつく名演です。このアルバムを聴いてようやくこの曲の真髄に触れた気になりました。評価はもちろん全曲[+++++]とします。弦楽四重奏曲好きな皆さん、手に入るうちにどうぞ!

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103 古楽器

【新着】フランチェスコ・コルティのソナタ集(ハイドン)

今日はハープシコードによるソナタ集。

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フランチェスコ・コルティ(Francesco Corti)のハープシコードによる、ハイドンのファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:37、XVI:31、XVI:32、XVI:46、XVI:26)、カプリッチョ「8人のヘボ仕立屋に違いない」(XVII:1)の7曲を収めたアルバム。収録はパリのピエール・マルボスというピアノ販売店の4'33ホールでのセッション録音。レーベルは初めて手に入れるevidenceというレーベル。

フランチェスコ・コルティという人は初めて聴く人。調べてみると、何と今週近所で行われる調布音楽祭に来日するとのこと。いつものように略歴をさらっておきましょう。イタリアのフィレンツェの東南にあるアレッツォで1984年に生まれ、ペルージャでオルガン、ジュネーブとアムステルダムでハープシコードを学びました。2006年ライプツィヒで開催されたヨハン・セバスチャン・バッハ・コンクール、2007年に開催されたブリュージュ・ハープシコード・コンクールで入賞しているとのこと。2007年からはマルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴルのメンバーとして活躍している他、主要な古楽器オケとも多数共演しているそうで、ハープシコード界の若手の注目株といったところでしょうか。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
速めのテンポでハープシコード特有の雅な音色が響き渡ります。使っている楽器はDavid Ley作製の1739年製のJ. H. Gräbnerと記載されています。録音は割と近めにハープシコードが定位するワンポイントマイク的なもので、ハープシコードの雅な響きを堪能できる録音。約6分ほどの小曲ですが、ハープシコードで聴くとメロディーラインが全体の響きの中に調和しつつもくっきりと浮かび上がり、この曲の交錯するメロディーラインの面白さが活きます。しかも速めにキリリと引き締まった表情がそれをさらに強調するよう。最後に音色を変えるところのセンスも出色。普段ピアノやフォルテピアノで聴くことが多い曲ですが、ハープシコードによる演奏、それもキレキレの演奏によってこの曲のこれまでと違った魅力を知った次第。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
軽快なテンポは変わらずですが、今度は所々でテンポをかなり自在に動かしてきます。また、休符の使い方も印象的。ちょっとした間を効果的に配置して、ソナタになると少し個性を主張してきます。速いパッセージのキレの良さは変わらず、ハープシコードという楽器につきまとう音量の変化の幅の制限を、テンポと間の配置で十分解決できるという主張でしょうか。次々と繰り出される実に多彩なアイデアに驚くばかり。ピアノとは異なる聴かせどころのツボを押さえてますね。驚くのが続く2楽章。予想に反してグッとテンポを落とし、一音一音を分解してドラマティックに変化します。ハープシコードでここまでメリハリをつけてくるとは思いませんでした。そしてフィナーレでは軽快さが戻り、見事な対比に唸ります。フィナーレもハイドンの機知を上手く汲み取ってアイデア満載。見事なまとめ方です。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
冒頭のメロディーのハープシコードによるクリアな響きが印象的。この曲では落ち着いた入り。一音一音のタッチをかみしめるように弾いて行きながら、徐々にタッチが軽くなっていく様子が実に見事。曲想に合わせて自在にタッチを切り替えながら音楽を紡いでいきます。瞬間瞬間の響きに鋭敏に反応しているのがわかります。ここでも印象的な間の取り方で曲にメリハリがしっかりとつきます。アレグレットの2楽章は壮麗な曲の構造を見事に表現、そしてフィナーレではハープシコードの音色を生かしたリズミカルな喧騒感と楽章に合わせた表現が秀逸でした。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
ピアノでの演奏が耳に残る曲で、低音の動きの面白さが聴きどころの曲ですが、コルティのハープシコードで聴くと、新鮮な響きでその記憶が刷新されるよう。ハイドンはハープシコードの華やかな響きも考慮して作曲したのでしょうか。古楽器では迫力不足に聴こえる演奏も少なくない中、そういった印象は皆無。むしろキレのいいタッチの爽快感が上回ります。続くメヌエットでは調が変わることによる気配の変化が印象的に表現されます。ピアノではここまで変化が目立ちません。そして短調のフィナーレは目眩くような爆速音階が聴きどころ。コルティ、テクニックも素晴らしいものを持っていますね。最後の一音の余韻に魂が漲ります。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
初期のお気に入りの曲。壮麗な1楽章、この曲が持つ静かな深みのような不思議な気配を見事に捉えたタッチに引き込まれます。メロディ中心の穏やかな曲想だけに、落ち着いたタッチで穏やかに変化する曲想をじっくり楽しむことができます。やはり曲想に応じて巧みにタッチをコントールしており、その辺りの音楽性がハイドンの真髄を捉えているのでしょう。特に高音のメロディの研ぎ澄まされた美しさを聴かせどころで披露するあたりも見事。そして、アダージョではさらに洗練度が上がり、響の美しさは息を呑むほど。このアルバム一番の聴きどころでしょう。微視的にならずに曲全体を見渡した表現に唸ります。比較的長い1楽章と2楽章をこれだけしっかり聴かせるのはなかなかのものですね。そしてそれを受けたフィナーレは爽快さだけではなく、前楽章の重みを受けてしっかりとしたタッチで応じ、最後に壮麗な伽藍を見せて終わります。

Hob.XVI:26 Piano Sonata No.41 [A] (1773)
ソナタの最後はリズムの面白さが際立つハイドンらしい曲。コルティは機知を汲み取り、リズムの変化を楽しむかのようにスロットルを自在にコントロールしていきます。そして明るさと陰りが微妙に入れ替わるところのデリケートなコントロールも見事。途中ブランデンブルク協奏曲5番の間奏のようなところも出てきますが、これぞハープシコードでの演奏が活きるところ。曲が進むにつれて繰り出されるアイデアの数々。コルティの多彩な表現力に舌を巻きます。メヌエットは端正なタッチで入りますが、終盤音色を変えてびっくりさせ、非常に短いフィナーレではさらに鮮やか。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「8人のへぼ仕立屋に違いない」 [G] (1765)
最後はユーモラスなテーマの変奏曲。この曲を最後に持ってくるあたりにコルティのユーモアを感じざるを得ません。ハープシコードでの演奏に適したソナタ数曲のまとめに、軽い曲を楽しげに演奏するあたり、かなりハイドンの曲を研究しているはずですね。もちろん演奏の方はソナタ同様素晴らしいものですが、力を抜いて楽しんでいる分、こちらもリラックスして聴くことができます。まるでソナタ5曲をおなかいっぱい味わった後のデザートのよう。聴き進むとデザートも本格的なものでした! 最後はびっくりするような奇怪な音が混じるあたりにコルティの遊び心とサービス精神を味わいました。

久々に聴いたハープシコードによるソナタ集。まるで眼前でハープシコードを演奏しているようなリアルな録音を通してフランチェスコ・コルティの見事な演奏を存分に楽しめました。これは名盤ですね。評価は全曲[+++++]とします。調べてみると、これまでにも色々とアルバムをリリースしているようですので、私が知らなかっただけだと思いますが、若手の実力派と言っていいでしょう。コルティのウェブサイトにもリンクしておきましょう。

Francesco Corti

これは是非実演を聴いてみたいところですが、折角近所で行われる調布音楽祭にコルティが出演する6月14日も17日もあいにく都合がつきません。次回の来日を期待するとしましょう。

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ジャンル : 音楽

tag : ファンタジアXVII:4 ピアノソナタXVI:37 ピアノソナタXVI:31 ピアノソナタXVI:32 ピアノソナタXVI:46 ピアノソナタXVI:26 8人のへぼ仕立屋に違いない 古楽器

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Daisy


Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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