エリザベス・ウォルフィッシュのヴァイオリン協奏曲など(ハイドン)

ようやくCDに戻ります。最近手に入れた協奏曲のアルバム。これもいい。

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エリザベス・ウォルフィッシュ(Elizabeth Wallfisch)の指揮とヴァイオリン、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管弦楽団の演奏による、ハイドンの協奏交響曲、ヴァイオリン協奏曲2曲(Hob.VIIa:4、VIIa:1)の3曲を収めたアルバム。収録は1990年2月、ロンドンのアビーロードスタジオの第1スタジオでのセッション録音。レーベルは英Virgin classics。

このアルバム、リリースされたのはだいぶ前のものですが、コレクションの穴になっていたもの。最近その存在に気づき入手しました。ジャケットのデザインが同じくVirginからリリースされているクイケン指揮のエイジ・オブ・エンライトゥンメント管によるパリセットとテイストが似ていて懐かしい感じ。クイケンのハイドンの交響曲はVirginからいろいろリリースされているのですが、他は手兵のラ・プティット・バンドでパリセットだけがエイジ・オブ・エンライトゥンメント管なんですね。しかもパリセットが抜群にいい出来だった上に録音時期も同じ頃のもということで、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管のこの頃の演奏は悪かろうはずもないとの期待で入手です。

指揮とヴァイオリンのエリザベス・ウォルフィッシュについて、簡単にさらっておきましょう。

エリザベス・ウォルフィッシュは1952年オーストラリア生まれの古楽器ヴァイオリン奏者。12歳でABC(オーストラリア放送)のコンクールでデビュー。ロンドンの王立音楽アカデミーで学び、いくつかのコンクールで優勝して頭角を現しました。1974年にはカール・フレッシュコンクールで入賞し、ソリストとしてや、ロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、王立リヴァプール・フィルなどのオケのリーダーとして主にイギリスで活躍したとのこと。その後は古楽器奏者として活躍しており、このアルバムのオケであるエイジ・オブ・エンライトゥンメント管やハノーヴァー・バンドなどのリーダーを務めるとともに、祖国オーストラリアでもオーストラリア室内管、オーストラリア・ブランデンブルク管などのリーダーとして活躍。近年は教職にあり、王立ハーグ音楽院やロンドンの王立音楽アカデミーでバロック・ヴァイオリンを教えているとのことです。

さて、肝心の演奏ですが、ソロとオケが一体となって溶け合う素晴らしい演奏でした。

Hob.I:105 Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
こちらのヴァイオリン以外のソロは次のとおり。

チェロ:デヴィド・ワトキン(David Watkin)
オーボエ:アンソニー・ロブソン(Anthony Robson)
バスーン:フェリックス・ワーノック(Felix Warnock)

この曲の優雅な入りの雰囲気が実にいい。古楽器オケですが響きが溶け合い、厚みもある聴きやすい録音。自然な定位感が心地よいですね。アビーロードスタジオの録音は何気にいい録音が多いんですね。ヴァイオリンをはじめとするソロ4人はことさら自己主張することもなく自然な演奏で、この曲を聴かせどころを踏まえているよう。特にヴァイオリンとオーボエの音色の美しさが一歩抜けている感じ。オケは非常にリズム感がよく、曲がいきいきと流れ、ソロも演奏しやすそう。ソロの間のメロディーの受け渡しの面白さと、ソロ陣とオケの呼応の双方の面白さに自然に酔える演奏。カデンツァも実に素直な演奏。祝祭感満点の1楽章を存分に楽しめます。
2楽章に入るとオーボエの妙技にヴァイオリンやチェロが寄り添い、メロディーを引き継いでいく手作りの素朴な音楽楽しみに包まれます。そして終楽章はソロとオケのスリリングな掛け合いが聴きどころですが、ソロもオケも実にリズム感がよく、ウォルフィッシュがそろだけでなくオーケストラコントロール能力でも類い稀な力をもっていることがわかります。ヴァイオリンも表現は控えめながらそつなく美音を聴かせます。この曲ではソロのバランスが悪いと流れが悪く聴こえてしまいますが、そうした心配も微塵もなく安定感抜群。オケが軽々と吹き上がる快感。これぞハイドン!

Hob.VIIa:4 Violin Concerto [G] (c.1765/70)
今度はヴァイオリン協奏曲ですが、一聴して以前高評価だったマルク・デストリュベ盤に非常に似たタイプの演奏。デストリュベ盤ではデストリュベのヴァイオリンの妙技も聴きどころだったんですが、いい意味でこちらはソロとオケの一体感が聴きどころ。ウォルフィッシュのヴァイオリンは上手いんですが、オケに溶け込むような上手さ。これはこれで非常にいい感じです。ソロもオケも非常に美しい音色で心地よさ満点。美音に癒されます。ウォルフィッシュはソリストでもありますが、オケのリーダーとしての役割りを踏まえたソリストといった立ち位置でしょう。オケの音色の調和を重視しソロの個性は少し弱める独特のバランス感覚ですね。どう個性を表現しようかというソロが多い中、逆に非常に新鮮に感じます。
その良さが光るのが続く2楽章。この演奏はハイドンのヴァイオリン協奏曲のアダージョ楽章の美しさをもっともいい形で表現した演奏の一つと言っていいでしょう。ソロとオケの素晴らしい一体感からハイドンの曲の美しさが素直に浮かび上がります。純粋無垢なヴァイオリンのメロディーが折り目正しく踊り、華やかさをふりまいていきます。
フィナーレは躍動感とキレが折り目正しく穏やかなテイストにまとまった秀逸なもの。古典期の曲にふさわしい器の中でスリリングさや起伏、変化を聴かせる実に座りのいいもの。ハイドンの協奏曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。

Hob.VIIa:1 Violin Concerto [C] (c.1765)
ヴァイオリン協奏曲をもう1曲。普通はこちらを先にまわす曲順が多いんですが、こちらの方がメロディーが明快で明るく聴き映えがするということで最後にもってきたのでしょう。前曲以上にソロもオケもキレていて申し分なし。1楽章の晴朗な展開、2楽章の癒しに満ちた絶妙な美しさ、3楽章のそよ風のようなヴァイオリンのボウイングということなし。こればかりは聴いていただかなくてはわからないでしょう。

エリザベス・ウォルフィッシュの振る、エイジ・オブ・エンライトゥンメント管による協奏曲集ですが、これは名盤です。ソロもオケも隅々までウォルフィッシュのコントロールが行き渡り、リズミカルに音楽が弾みます。ハイドンの曲の楽しさ、美しさ、センスの良さが全てつまった演奏と言っていいでしょう。オケのエイジ・オブ・エンライトゥンメント管は非常に反応がよく、ハイドンの音楽のツボを完全に掌握。やはりハイドンのヴァイオリン協奏曲はモーツァルトの曲以上に魅力がありますね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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エステルハージ・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)

LPが続いてスミマセン。ただ、あまりに素晴らしい演奏なのでこのアルバムは取り上げざるを得ません。

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エステルハージ・バリトン三重奏団(Esterházy Baryton Trio)による、ハイドンのバリトン三重奏曲11曲(Hob.XI:85、XI:37、XI:121、XI:71、XI:117、XI:113、XI:97、XI:109、XI:70、XI:96、XI:48)を収めたLP2枚組。収録情報は記されておらずPマークが1977年との記載のみ。レーベルは独EMIのELECTROLA。

このアルバムもディスクユニオンの売り場で発見したもの。バリトントリオのアルバムは見かければ無条件に手に入れていますが、このアルバムの存在は知りませんでした。幸いLPのコンディションも非常に良く、針を落とすといきなりバリトントリオ独特の典雅な世界に引き込まれます。非常に落ち着いた演奏から漂う、バリトンの摩訶不思議な音色に興じます。

収録曲を所有盤リストに登録する段階で気づきましたが、ヴィオラの奏者のみ異なる同名のトリオによるEMIのCDを既に所有しており、そのCDはこのLPの続編として1980年にLPでリリースされたものとわかりました。このアルバムの奏者は次の通り。

バリトン:リッキー・ジェラルディ(Riki Gerardy)
ヴィオラ:チャバ・エルデーイ(Csaba Erdélyi)
チェロ:ジョナサン・ウィリアムス(Jonathan Williams)

リッキー・ジェラルディはチェリストで、ヨーロッパでは名の知れた人。バリトンは独学で習得し、チェロでの無伴奏の演奏同様、バリトンにおいても無伴奏のリサイタルを開くなどバリトンでの演奏技術についても意欲的に取り組んできた人とのこと。チャバ・エルデーイはブダペスト生まれで、メニューヒンに師事しイギリスを代表するヴィオラ奏者。ジョナサン・ウィリアムスはピエール・フルニエに師事し、イギリス室内管の世界ツアーなどにも帯同する他、BBCなどの放送でも活躍している人。それぞれ腕は確かな人のようです。

ちなみに手元にあったEMIのCDの方を聴いてみると、LPとは異なり、典雅なというよりかなりキビキビとした演奏で、奏者だけでなく演奏の雰囲気も少し異なります。また収録曲も今日取り上げるLPの方に有名曲が集中しているため、やはりこちらのLPの方が聴きごたえがあります。ということで、今日は11曲の収録曲の中から録音の多い有名な2曲のみ取り上げます。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
バリトントリオを代表する曲。3楽章構成の多い中、この曲だけがアダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、アダージョ、メヌエット、フィナーレの7楽章構成。厳かな入りから実に落ち着き払った演奏。いきなりチェロとヴィオラとバリトンのえも言われぬ不可思議な響きの世界に入ります。時折りポロリと鳴るバリトンの開放弦を爪弾く音がバリトンの存在感を主張しますが、低音楽器3本による音楽はもちろんゆったりとした雰囲気を醸し出します。この落ち着いた雰囲気がバリトントリオの真髄。メロディーは比較的単純で、ニコラウス・エステルハージ候と演奏するためにハイドンが大量にバリトントリオを書いた微笑ましい背景を考えると、テクニックを要さず不思議な響きのアンサンブルと楽しむという目的での完成度は非常に高いものと改めて唸ります。演奏はそうした背景も踏まえた、ストレートにアンサンブルを楽しむ感じがよく出たもの。
2楽章は、少し技巧が上がり、代わる代わる音階の面白さでアンサンブルを組み立てます。バリトンのちょっと潤いに欠けるざらついた音色と素朴なアンンサンブルが地味に曲を盛り上げます。これは演奏したら楽しいでしょうね。めくるめく音階の繰り返し。
続くメヌエットは、クァルテットのメヌエット同様、ハイドンの創意の素晴らしさが光りますが、楽器のバランスがクァルテットとは異なることで、曲の雰囲気も変わります。舞曲らしいリズムを楽しんでいるうちに、突然バリトンの開放弦の不可思議な響きが加わりハッとさせられます。これまでに聴いた録音の中でも最もバリトンが雄弁な演奏ですね。
続くポロネーズはかなり大胆にリズムを刻みます。ユニゾンでグイグイメロディーを引っ張りますが、この辺りのハイドンのアンサンブル構成も見事。
そして、ぐっと暗く沈むアダージョ。いつもながらこのハイドン独特の展開の面白さは絶品。このような曲であっても、音楽の展開の切れ味は手抜きなし。曲が進むにつれ、聴いている方も唸りっぱなし。特にこのエステルハージ・バリトン三重奏団の演奏も、曲を鮮やかに展開させるので、曲の面白さが思い切り引き立ちます。
短いメヌエットを挟んでフーガによるフィナーレに入りますが、ザクザクとダイレクトに響く各パートの織りなすアンサンブルの面白いことと言ったらありません。これは名演ですね。

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Hob.XI:109 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [C] (before 1778, 72-78)
こちらはアダージョ、アレグロ、メヌエットの3楽章構成。郷愁を帯びた中世のころのようなメロディーを静かに奏でる入り。一つ一つのフレーズを実に丁寧に演奏していくことで、ハイドンの書いたメロディーがしっとりと響きます。1楽章のしっとり感を拭うように、2楽章はリズムの角を立てて各楽器がせめぎ合いながら音を重ねていきます。似た音域ながら、楽器それぞれの響きの違いがあり、その違いを生かして曲が書かれているのがわかり、流石のハイドン、玄人好みとはこのこと。それぞれの楽器の高音域の響きの違いにスポットライトが当たります。
そして、曲の最後に置かれたメヌエットは、曲間にある時に増して存在感が際立ちます。アンサンブルが単純なだけにリズムのキレの効果はてき面。弾む曲想に、独特の雰囲気の中間部、再びの弾むメヌエットで曲を閉じますが、見事に締まった感じがするのが流石です。こりゃ面白い。

エステルハージ・バリトン三重奏団による、ハイドンのバリトントリオ11曲を収めたLPですが、直接音重視の時代にしては超鮮明な録音によって3台の楽器が目の前で鳴り響く絶好の定位感。これまでに聴いたバリトントリオの録音の中でもバリトンという楽器が鮮明に響く演奏であり、しかも落ち着き払った堅実な演奏によって、曲自体の面白さも際立つ名演奏と言っていいでしょう。針を落として聴き始めるとグイグイと引き込まれる演奏です。不思議と同じアンサンブルによる別の曲のCDとは聴かせどころが異なり、こちらの方が数段面白いですね。評価は今日取り上げなかった曲も含めて全曲[+++++]としました。CD化に耐えるマーケットはないでしょうから、せめてデジタル音源などで残してほしいものです。そういう意味でこれは貴重なLPですね。

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ルドガー・レミーのブロードウッドピアノによるソナタ集(ハイドン)

今日はハイドンが活躍していた時代のピアノで演奏したピアノソナタを取り上げます。

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ルドガー・レミー(Ludger Rémy)のピアノによる、ハイドンの晩年のピアノソナタ3曲(Hob.XVI:52、XVI:51、XVI:50)を収めたアルバム。ピアノは1794年製のブロードウッドピアノ(John Broadwood 1794)。収録情報はPマークが1987年とだけ記載されています。レーベルはaudio max。

このアルバムに興味を持ったのは、もちろんブロードウッドピアノで弾かれているから。現代のピアノの透徹した響きの美しさもいいものですが、ハイドンが作曲していた頃、どのような響きをイメージして曲を書いたのかということにも興味は尽きません。こうした興味が本格的に生まれたのはクラヴィコードで弾かれたハイドンの素晴らしい演奏を聴いてからです。

2013/01/27 : ハイドン–ピアノソナタ : デレク・アドラムのクラヴィコードによるソナタ集

そのような興味が生まれると、色々と楽器に興味が湧いてくるわけで、その後楽器の変遷を見に、浜松の楽器博物館にも詣でております。

2015/09/15 : 旅行・温泉巡り : 【番外】浜松市楽器博物館詣で+うなぎ!

このアルバムの演奏に使われているのは1794年製のブロードウッドピアノですが、浜松市楽器博物館の所蔵楽器をウェブサイトで調べてみると、なんと7台ものブロードウッドのピアノがヒットします。いずれも1800年以降のものですが、資料番号K-0041、K-0022あたりの楽器がこの演奏に使われたものに近いのではないかと想像しております。

浜松市楽器博物館:所蔵資料データベース:検索=Broadwood

一応ブロードウッドピアノの歴史をWikipediaなどから紐解いておきましょう。
1732年にスコットランドに生まれたジョン・ブロードウッドが1952年にロンドンに移り、チェンバロ製作者のバーカット・シュディの元で働き始めたのが興り。シュディの娘と結婚し1773年にシュディが亡くなりピアノの制作を始め、1780年にはオリジナルなピアノを完成。1795年には息子もピアノ制作に加わりブロードウッド&サンとなります。ブロードウッドピアノの特徴は、それまで手や膝で操作していたペダルを脚で操作する方式を導入するなどの革新をもたらしているとのこと。ブロードウッド社のウェブサイトに掲載されている歴史を辿ると1774年にウィーンのハイドンにハープシコードを届けているという記載が見られるのに加え、1791年の最初のロンドン旅行の際にブロードウッドの楽器を使用しているとのことで、ハイドンとも浅からぬ関係があったようです。

このフォルテピアノから現代のピアノへの進化の途上にあるブロードウッドピアノによって、ハイドンの晩年のソナタがどう響くのか興味津々ですね。

奏者のルドガー・レミーは調べてみると手元の以前レビューしたアルバムでフォルテピアノを弾いていました。

2014/06/27 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ドロテー・ミールズの歌曲集

ルドガー・レミーは1949年、ドイツのオランダ国境に近いカルカー(Kalkar)生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者、音楽学者。フライブルク、パリなどで学び、メインは17世紀から18世紀のドイツ音楽の研究などドイツでの教職のようです。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
ブロードウッドピアノはフォルテピアノよりも音に力強さと厚みがあり、冒頭の力強いタッチから始まる曲の迫力が十分伝わります。ルドガー・レミーは楽器が良く鳴る勘所を踏まえて、楽器のキャパシティいっぱいのダイナミックレンジを使って鮮烈な響きを引き出してきます。フォルテピアノによる雅な響きとは力感が異なり、ピアノに近いダイナミクスで音色はフォルテピアノに近いと言ったらいいでしょうか。手元にある浜松楽器博物館の制作で小倉貴久子さんの弾く1802年製のブロードウッドピアノ(コレクションシリーズ38)と音色は近いんですが、浜松の楽器の方が調律が気持ちよく決まっていて、響きに濁りがありません。逆にルドガー・レミーの演奏の方が力強さを感じますので一長一短というところでしょうか。ピアノに負けないダイナミクスを感じさせます。まさにハイドンがこの曲に込めたダイナミクスはこのブロードウッドピアノがあってのことかもしれません。ピアノの演奏に耳は慣れていますが、この演奏を聴いてフォルテピアノの世界から扉が一つ開いたところを想像します。1楽章のダイナミクスがまさにその象徴のように思えてきました。
続くアダージョも所々に力強いタッチとその余韻を楽しむような曲想であり、進化途上のブロードウッドピアノの響きがそのタッチの魅力をかえって浮かび上がらせるよう。耳をすますとこの先進化を遂げていくピアノの音色に近い響きも聴き取れ、なかなか想像力に訴える演奏。響の濁りも含めてなんだかとても聴き心地がよくなってきました。ルドガー・ラミーは訥々と語りかけるように弾き進め、ブロードウッドピアノならではの響きの余韻も十分に取り入れたダイナミックかつ詩的なニュアンスも踏まえた演奏で応えます。音色になれると演奏の深みがわかってきます。
3楽章に入ると鮮やかなタッチと絶妙な間のコントラストを効かせながらハイドンの素晴らしい音階の交錯による音楽が冴えてきます。澄みきりすぎた現代のピアノからは失われてしまったデリケートな響きのニュアンスもあるのだと知ります。

Hob.XVI:51 Piano Sonata No.61 [D] (probably 1794)
今度は落ち着き払った入り。噛みしめるようにしっとりとブロードウッドピアノをしっとりと鳴らしながらハイドンの素朴な音楽を奏でていきます。フレーズごと微妙に明るさと翳りが変化する様子を巧みに表現していき、ピアノでは表現できない音色の多彩さがあることに気づきます。やはりフォルテピアノよりもわずかにダイナミクスの表現に秀でていることの大きさが効いています。抑えた部分では音色の美しさ、強音では弱音との音色の変化の大きさがピアノ以上にダイナミクスを感じさせます。穏やかな1楽章に対して、少しタッチを強める2楽章への変化も実に面白く聴こえます。

Hob.XVI:50 Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
そして冒頭のXVI:52とともにハイドンのソナタの頂点をなすこの曲では、さらにタッチの強弱の絶妙な力加減がブロードウッドピアノをとうして生む音色の変化の面白さに耳を奪われます。ルドガー・レミーのタッチも精緻を極め、ブロードウッドピアノという楽器を知り尽くした人だけが、楽器の響きを活かし尽くすように操る妙技。音楽に創意がみなぎり、タッチは自在の極致へ至ります。久々に脳内にアドレナリンが溢れてきます。完全にルドガー・レミーの音楽に圧倒されます。1楽章のタッチとリズムの変化、2楽章の抑制された美しさ、3楽章の軽妙さと、どれをとっても現代ピアノでの表現の幅を上回る豊穣な音楽が湧き出てきます。これは見事。絶品です。

ルドガー・レミーがハイドン存命時の楽器であるブロードウッドピアノで弾いた最後の3つのソナタ。この演奏を聴いて、新たな時代の楽器の潜在力がハイドンのこの3つのソナタの作曲に際して大きな影響があったというふうに思えるような素晴らしい演奏でした。特に最後のXVI:50は絶品。現代ピアノに比べればダイナミクスでも音色の統一感でもまだまだ進化途上のものですが、逆にハイドンのこのこれらのソナタには、タッチの強さによる音色の変化や、響きの美しさが際立つ面白さがあることがわかります。これは是非皆さんに聴いていただきたいアルバムですね。評価はもちろん全曲[+++++]とします。

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カスタリアン・バンドのスコットランド歌曲集(ハイドン)

今日は久々の歌曲。歌曲の未入手盤を見かけることもあまりない中、オークションで手に入れたアルバム。

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カスタリアン・バンド(Castalian Band)によるハイドンが編曲を担当したスコットランド歌曲集から12曲(曲名別記)とピアノソナタを編曲したヴァイオリンソナタ(XVI:24)、ピアノ三重奏曲(XV:23)を収めたアルバム。収録は1990年12月、ロンドン西方の街、ニューベリー(Newbury)にあるイースト・ウッドヘイ教会でのセッション録音。レーベルは独musicaphon。

演奏者のカスタリアン・バンドはソプラノ、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの4人組。ジャケットを開いてみるとメンバーの写真があり、男性1人、女性3人の組みあわせ。よく見ると見覚えのある顔が。そう、Brilliantのスコットランド歌曲全集で美声を聴かせるロルナ・アンダーソンではありませんか。

調べてみると、カスタリアン・バンドは1988年に設立され、バロックから古典期に書かれたソプラノとトリオのための音楽をレパートリーとしています。創立メンバーは全員スコットランド出身であることから、スコットランドの音楽に格別の愛着を持っています。そもそもカスタリアン・バンドという名前はスコットランドのジェームズ6世(イングランドのジェームズ1世)統治下の16世紀末の詩人、音楽家の集まりに因んで付けられたものとのことです。メンバーは次の通り。

ソプラノ:ロルナ・アンダーソン(Lorna Anderson)
ヴァイオリン:リチャード・グウィルト(Richard Gwilt)
チェロ:イモージェン・セス=スミス(Imogen Seth-Smith)
フォルテピアノ:ルーシー・キャロラン(Lucy Carolan)

このアルバム、Brilliantの全集のロルナ・アンダーソンの素晴らしい歌唱そのまま。このアルバムがあったことでBrilliantが全集に起用したのではないかと想像しています。声質も美しいのですが、スコットランド風の英語の発音もあって歌にスコットランドの魂が宿っているように感じます。演歌はサブちゃん、レゲエはボブ・マーリー、スコットランド歌曲はロルナ・アンダーソンです。伴奏も古楽器の腕利き揃いでしっとりと見事なもの。曲数が多いので、曲ごとに簡単なコメントを。

Hob.XXXIa:115bis - JHW XXXII/3 No.239 "The minstrel" (Mr Pickering)
広い空間に古楽器の弦楽器とフォルテピアノの仄暗くも味わい深い伴奏が響き渡り、ロルナ・アンダーソンが入ります。いきなり素晴らしい歌唱にうっとり。minstrelとは吟遊詩人のこと。いきなりスコットランドの空気に包まれるよう。録音も歌曲にふさわしいしっとりとした響きの表情をうまくとらえたもの。

Hob.XXXIa:20bis - JHW XXXII/3 No.212 "Fy let's a' to the bridal - The blithsome(blythsome) bridal"
陽気な結婚式とでも訳したらいいのでしょうか、速めのテンポの快活な曲調の曲。アンサンブルも伴奏に徹して艶やかな響きでアンダーソンを支えます。

Hob.XXXIa:232 - JHW XXXII/4 No.289 "The border widow's lament" (Walter Scott)
隣の未亡人の嘆きという意味でしょうか。この曲は伴奏がフォルテピアノのみ。伴奏のフォルテピアノから滲みでる情感の深さが印象的。ロルナ・アンダーソンの歌の美しいことと言ったらありません。これは名曲。絶品。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 "Mary's dream" 「メリーの夢」 (Alexander Lowe)
前半4曲の締めにあたる曲。聴いているうちにちょっと感極まるような美しい曲。この曲にはスーザン・ハミルトンの名盤がありますが、聴き比べてみたところ、ハミルトンが透き通るような声の美しさで聴かせたのに対し、このロルナ・アンダーソンの方がオーソドックスな良さがあります。伴奏もこちらの方が味わい深く、この曲のベストと言っていいでしょう。ハミルトン盤はアーティスティック過ぎるかもしれません。

Hob.XVI:24 Piano Sonata No.39 [D] (1773)
4曲の歌曲の後に、ピアノソナタXVI:24をヴァイオリンとフォルテピアノのためのに編曲した曲が挟まります。もともとピアノソナタの演奏が刷り込まれているので、フォルテピアノ主体の演奏にヴァイオリンがちょっとした伴奏を加えているように聴こえてしまいます。軽い曲想を生かした演奏。フォルテピアノはあまり大きく抑揚をつけず、ヴァイオリンの音色が加わることによる華やかさで聴かせる演奏。古楽器による雅な音色の美しさと、大らかな表情の変化がかえって心地よいですね。歌曲の合間の箸休め的演奏と割り切れる面白さがあります。

Hob.XXXIa:226 - JHW XXXII/4 No.226 "The braes of Ballochmyle" (Robert Burns)
中盤の4曲の歌曲に入ります。バロックマイルの丘という曲。バロックマイルはグラスゴーの南にある街。穏やかな丘陵を思わせるしっとりとした曲。

Hob.XXXIa:227 - JHW XXXII/3 No.229 "O wise and valiant Willy" "Rattling roaring Willy" 「おおかしこき勇敢なウィリー」 (Anne Grant)
1分ちょっとの短い曲。この曲も伴奏はフォルテピアノのみ。軽快なテンポのフォルテピアノに合わせてロルナ・アンダーソンも軽快に歌います。

Hob.XXXIa:229 - JHW XXXII/3 No.213 "Sleep'st thou, or wak'st thou" "Deil tak' the wars" 「眠っているの、それとも起きているの?」 (Robert Burns)
中盤の聴きどころ。穏やかな曲ながら、郷愁を感じるメロディーがしっとりと響きます。伴奏が時に非常にシンプルになりますが、それが実にセンスが良く、曲を引き立てます。流石ハイドン。

Hob.XXXIa:28 - JHW XXXII/1 No.28 "Up in the morning early" (Robert Burns)
中盤最後の曲。スコットランド歌曲の中では比較的録音が多く、先に触れたスーザン・ハミルトン盤があります。軽快な中に独特の雰囲気が宿り、伴奏と歌が掛け合いながら曲が展開します。

Hob.XV:23 Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
そして、今度は短調のピアノトリオを1曲挟みます。短調による影のある入りですが、曲が進むにつれて適度な鮮やかさと適度にリラックスしたアンサンブルとわかり、こちらの聴き方もゆったりしながら聴きます。こちらも単独で演奏する時のように攻め込む様子はなく、歌曲の箸休め的な配置なんですね。最近冴えたトリオの演奏が多かったので、対峙して聴くスタンスになっちゃってたことを少し反省。ピアノトリオはこうしてリラックスした演奏もいいものです。展開部も余裕たっぷりに繰り広げられる演奏にゆったりと身を任せます。
素晴らしいのが続く2楽章。ゆったりしていながら深みを感じる展開。特にフォルテピアノのルーシー・キャロランの表現力によるものでしょう。しなやかなタッチから繰り出させる慈しみ深い響き。
フィナーレはいつもながらハイドンの想像力に驚かされるところ。先ほどからルーシー・キャロランのフォルテピアノに耳をそばだてながら聴き入りますが、ここでも見事なタッチで演奏を支えます。キャロランの穏やかなたちがヴァイオリンとチェロを引き立てます。

Hob.XXXIa:201 - JHW XXXII/3 No.251 "The tears of Caledonia" (Tobias Smollet)
終盤の歌曲4曲に入ります。カレドニアの涙という曲。カレドニアとはグレートブリテン島の北部を指す言葉とのこと。ゆったりとした哀愁に満ちた伴奏から情感がこもります。ロルナ・アンダーソンの美声がそれに乗って物憂げな美しいメロディーを置いていきます。メロディーの美しさだけでグッとくる曲。

Hob.XXXIa:247 - JHW XXXII/4 No.285 "Happy Dick Dawson" (Hector Macneill)
幸せ者、ディック・ドーソンとでも訳すのでしょうか。穏やかな明るい曲調に影を感じるロルナ・アンダーソンの声が乗って、なんとも言えない柔らかい曲。

Hob.XXXIa:81bis - JHW XXXII/4 No.81bis "Macgregor of Ruara's lament" (translated from the Gealic by Anne Grant)
終盤で一番美しい曲。典雅の極み。ロルナ・アンダーソンの声質に合っているからでしょうか、高音の響きの美しさは素晴らしいものがあります。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 "Jenny's bawbee" 「ジェニーのボービー」 (Alexander Boswell)
最後は明るい有名曲を持ってきました。最後にさらりとした曲で終わるこの配置はハイドンらしいですね。

スコットランド出身の歌手と奏者による、スコットランド民謡にハイドンが伴奏をつけたスコットランド歌曲集。歌も伴奏も録音も非常にレベルが高く、そして、本場物らしい説得力もある素晴らしいアルバムでした。評価は全曲[+++++]とします。途中で触れたスーザン・ハミルトン盤は伴奏も一流どころですがオーセンテックさを強調した演奏のため、オーソドックスな演奏を楽しむには、このカスタリアン・バンド盤かキャサリーン・ボット盤がオススメです。特にこのカスタリアン・バンド盤は選曲がよく、名曲ぞろい。スコットランド歌曲集のファーストチョイスとしてもオススメできます。が、古いアルバム故、手に入るうちにどうぞ。

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バセットホルン三重奏によるバリトントリオ(ハイドン)

いやいや、珍しいアルバムを見つけました!

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ル・トリオ・ディ・バセット(Le Trio di Bassetto)による、ハイドンのバリトン三重奏曲6曲(Hob.XI:96、XI:97、XI:123のアダージョのみ、XI:65、XI:87、XI:69)を収めたアルバム。収録は2010年3月17日から19日にかけて、フランス東部のストラスブール近郊の街、サルブール(Sarrebourg)の聖ウルリッヒ修道院の講堂(auditorium du couvent de saint ulrich)でのセッション録音。レーベルはharmonia mundi傘下のK617。

このアルバム、amazonでハイドンのピアノ三重奏曲の未入手のアルバムを物色中に発見したもの。なぜかTOWER RECORDSなどでは見かけないアルバムです。

ご存知のとおり、ハイドンは仕えていたニコラウス・エステルハージ候が好んだバリトンと言う不思議な楽器のためにかなりの数の作品を残しており、バリトン・トリオを126曲、バリトン八重奏曲を7曲、バリトン五重奏曲を1曲残しています。バリトンのための曲は何度か取り上げてレビューしています。

2014/07/09 : ハイドン–室内楽曲 : ウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団のディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/03/23 : ハイドン–室内楽曲 : ダヴィド・ゲリンガス/エミール・クラインのバリトン二重奏曲集(ハイドン)
2013/11/14 : ハイドン–室内楽曲 : ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)
2013/06/29 : ハイドン–室内楽曲 : エステルハージ・アンサンブルのバリトン五重奏曲
2013/05/03 : ハイドン–室内楽曲 : イジー・ホシェク、ドミニカ・ホシュコヴァーによるバリトン二重奏曲集
2011/06/30 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】バレストラッチのバリトン三重奏曲集
2010/12/21 : ハイドン–室内楽曲 : 【年末企画】アンサンブル・リンコントロのバリトン・トリオ

なかでもバリトンという不思議な音色を奏でる楽器のために書かれたトリオを、この不思議な音色の特色を取り除いて曲自体の面白さを浮き彫りにしたのがリンコントロの演奏ですが、今日取り上げるアルバムは、同様の趣旨でしょうか、全てのパートをバセット・ホルンというクラリネットのような楽器で演奏したもの。し、し、しかも演奏にはグラス・ハープ、一般にはグラス・ハーモニカと言われている楽器で演奏しているという、超マニアックな趣向のアルバム。

グラス・ハーモニカといえばモーツァルトが晩年に書いたk.356(617a)グラスハーモニカのためのアダージョが有名ですが、我々想像するグラスハーモニカはテーブルの上に水を入れたワイングラスを並べたもの。ところが、これは正式にはグラスハープと呼ぶそうで、グラスハーモニカとは異なるもの。詳しくはWikipediaをごらんください。

アルモニカ - Wikipedia

今日取り上げるアルバムのレーベル名はK617で、これも曰くありげですね(笑)

さて、奏者のル・トリオ・ディ・バセットはバセットホルン奏者のトリオであるのみならず、全員グラスハープも演奏しているようです。アルバムの中にテーブルに水の入ったワイングラスを並べ、3人がこすっている写真が収められています!

バセットホルン、グラス・ハープ:ジャン=クロード・ヴェイヤン(Jean-Claude Veilhan)
バセットホルン、グラス・ハープ:エリク・ロロ(Éric Lorho)
バセットホルン、グラス・ハープ:ジャン=ルイ・ゴシュ(Jean-Louis Gauch)

バリトンの不可思議な響きをバセットホルンとグラスハープで演奏するという奇妙奇天烈な企画、これが存外に素晴らしい響きを聴かせるんですね。

Hob.XI:96 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [b] (before 1772?, 69-71)
1曲目は有名曲。3楽章構成。冒頭のメロディーは聴き覚えがあります。ちなみに上のバレストラッチ盤を取り出して比較してみましたが、バリトンのカサカサとした音色に弦楽器の織り成す独特の風情に対し、バセットホルン3本による響きは全く異なるものの、まろやかなのに陰のある不可思議な音色はバリトンに引けをとるものではありません。むしろ不可思議度はバリトンの上を行く感じ。これがクラリネットだったら、もっと洗練されているのでしょうが、いい具合に饐えた印象も加わり、味わい深い響きを聴かせます。ハイドンがバリトンのために書いた和音も実に不思議な音の組み合わせが多く、曲が進むにつれて、様々に表情を変えていく様はよく耳を澄ますとまるでラビリンスをさまよっていくよう。穏やかに曲が進みますが、音量はかなりの幅で変化していきます。最初のラルゴからアレグロに変わり、リズミカルにバセットホルンがメロディを刻みます。終楽章はメヌエットですが、いつものようにハイドンの想像力に驚きます。作曲したのはまさにシュトルム・ウント・ドラング期ということで、メロディーの端々に仄暗い気配が漂います。挨拶がわりの1曲目。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
つづく曲もバリトン三重奏曲で、こちらも7楽章構成で、録音も多い曲なので聴いたことがある人も多いのではないかと思います。前曲同様バセットホルンの不可思議な響きで再現されますが、前曲とちょっと異なるのが、1楽章からバリトン独特の、開放弦を響かせるところで、コップを叩くようなガラスの音色を加えているところ。これはグラスハープのグラスを叩いているに違いありません。実に奇抜な展開と驚きます。このバセットホルンとグラスハープによる響きがえも言われぬ心地を演出します。
1楽章のアイデアに驚くと、続く2楽章はバセットホルンの実に鮮やかなアンサンブルにハッとさせられます。木管楽器の音色の美しさを極めた演奏。
3楽章は1つ目のメヌエット。ここでもグラスハープを叩く音がそっと添えられバリトンを彷彿とさせます。あまりに巧みなバセットホルンの妙技と、グラス・ハープの織り成す音楽に興味津々。
アイデアはこれだけではありませんでした。つづく4楽章のポロナーゼでは足を踏み鳴らすような音も加わり、ほぼやりたい放題(笑) 音楽は音を楽しむと書くとおり、じつに楽しげな演奏です。
そして、またまた驚かされるのが続く短いアダージョ。ここでこれほど沈んでくるとは思いませんでした。完全に奏者の術中にはまっています。
そして6楽章目はこの曲2つ目のメヌエット。メヌエットが2つあってもアイデアとメロディーが尽きることはありません。そして最後のフィナーレはフーガでまとめてきました。驚かされるばかりの巧みな構成。メロディー、音色、アイデア、構成、演奏の全てが斬新。参りました。

Hob.XI:123 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (before 1778, 72-78)
3曲目はバリトントリオからアダージョのみ抜き出し、こんどは本当にグラスハープのみの演奏。モーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョを彷彿とさせる、繊細なグラスハープの演奏。暑い夏ですが、まるで風鈴で涼を楽しむごとき風流さ。原曲はBrilliantのエステルハージ・アンサンブルの演奏にのみ含まれている希少な曲ゆえ、原曲の印象はあまりなく、純粋にグラスハープの心地よい響きを楽しめます。曲の美しさはモーツァルトに劣るものではありません。モーツァルトの曲は亡くなる年、1791年の作曲で、ハイドンのこの曲は1770年代の作曲ということで、モーツァルトが最晩年に到達した境地にすでにはやくから到達していたのだとでも言いたげな演奏です。

Hob.XI:65 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (1767-68)
再びバセットホルン3本による快活な演奏に戻ります。アレグロ、メヌエット、フィナーレの3楽章構成。快活な導入に、独特なメロディーの面白さで聴かせるメヌエット、爽やかに展開するフィナーレとまさにディヴェルティメントの軽妙な楽しみが詰まったような曲。バリトンの演奏を愛したニコラウス侯の笑顔が目に浮かぶようです。

Hob.XI:87 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [a] (before 1772?, 69-71)
一転してリリカルなメロディーが印象的な曲をもってきました。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエットという3楽章構成の曲。バセットホルンの音色がさらにイキイキと響き、曲の深い陰影を引き立てます。選曲のセンスも抜群。各パートの重なり合う響きの実に美しいこと。また、メロディーに紛れて微かにバセットホルンのメカニカルキーがパタパタいう音も聴こえて、それがリアリティを増しています。リリカルさを保ちながら、楽章がかわり、テンポが上がり、こちらが予想だにしないメロディーが展開します。いつもながらハイドンの豊富なアイデアに痺れます。そしてフィナーレは落ち着いて畳みにきます。

Hob.XI:69 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (1767-68)
アダージョ・アヴェック・ヴァリエーション、メヌエット、フィナーレという3楽章構成。まるでバセットホルンのために書かれた曲のように自然に響きます。ゆったりとした行進曲のような入り。表情を緩めたり、リズムを強調したり、穏やかさに包まれながらの妙技に惚れ惚れ。バセットホルンがこれほど豊かな表情を表現できるとは知りませんでした。最後の曲で忘れかけていたところにグラスハープが顔を出してコミカルな表情を加えます。バセットホルンも強弱硬軟織り交ぜてあらん限りのテクニックを駆使します。
メヌエットはいつもながらのハイドンのアイデア博覧会のごとき様相。そしてフィナーレはあっけらかんと明るい表情でこのアルバムの締めにふさわしい晴朗な表情で締めます。

これは、驚きのアルバムです。以前バリトントリオの曲をバリトンなしで演奏した、リンコントロのアルバムやウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団のアルバムがあり、バリトントリオの独特の音色を取り去って、曲の美しさに焦点を当てたアルバムとして、素晴らしい成果を挙げていましたが、今日取り上げたル・トリオ・ディ・バセットの演奏は、バリトントリオのバリトンの不可思議な響きのイメージを、全く異なるバセットホルンとグラスハープを用いて再構成し、原曲より素晴らしいと思わせる恐ろしい説得力と完成度でまとめてきました。私自身ちょっと衝撃を受けたアルバムです。これは、当ブログ読者の中でも室内楽に造詣の深い諸兄には是非聴いていただかなくてはなりませんね。なぜかamazon以外では見かけませんが、手に入るうちに、この不可思議ながら実に趣深い音楽にふれていただきたいものです。評価はもちろん[+++++]といたします。

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tag : バリトン三重奏曲 古楽器

【新着】ヴィニシウス・ペレスのリュートによるソナタ(ハイドン)

本日は珍しいアルバム。リュートでハイドンのソナタを演奏しているアルバムです。

ViniciusPerez.jpg
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ヴィニシウス・ペレス(Vinícius Perez)の13弦リュートによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:10)、カール・コハウト(Karl Kohaut)のリュートソナタ、モーツァルトのディヴェルティメント(KV439b/II)、クリスティアン・ゴットリーブ・シャイドラー(Christian Gottlieb Scheidler)のモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」の主題による変奏曲の4曲を収めたアルバム。収録は2015年5月9日、10日、スイスのバーゼルの南の街バインウィルにあるバインウィル修道院(Kloster Beinwil)でのセッション録音。レーベルは独ライプツィヒのklanglogo。

ハイドンのピアノソナタが鍵盤楽器以外で演奏されるのは非常に珍しいこと。ブログを始めた頃にアコーディオンで弾いたアルバムを取り上げたことはありますが、これも鍵盤楽器の範疇でしょう。

2010/02/02 : ハイドン–ピアノソナタ : 珍盤! アコーディオンソナタ

さて、リュートといえば当ブログによくコメントをいただくmichaelさんの縄張り(笑)。私自身はリュートに詳しいわけでもなく、たまに聴く程度なんですが、リュートやギターは好きな楽器です。特にリュートの吸い込まれてしまうような雅な響きは格別魅力的です。普段ハイドンばかり聴いているのですが、ちょっと確認してみたところ、リュートのアルバムも以前に2度ほど取り上げています。

2011/05/16 : ハイドン–室内楽曲 : ヤコブ・リンドベルイのリュートによる室内楽
2010/06/28 : ハイドン以外のレビュー : ポール・オデットのリュート

特にポール・オデットのアルバムは手元に何枚かあり、時折リュートの音色が恋しくなった時にかけて楽しんでおります。

今日取り上げるアルバムでリュートを引いているヴィニシウス・ペレスは、まったく初めて聴く人。ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ生まれで幼少時からギターを学び、その後リュートなどの古楽器へ興味を持つようになります。スイスのバーゼルのスコラ・カントルム・バジリエンシスでその道の権威であるホプキンソン・スミスに師事し、現在はソリストやコンティニュオ奏者として活躍しているとのこと。どうやらこのアルバムがデビューアルバムということのようです。

最新の録音らしく鮮明な響きでリュートの美音が楽しめるアルバムです。例によってハイドンの曲のみレビュー。

Hob.XVI:10 Piano Sonata No.6 [C] (before 1760)
ピアノソナタをペレスがリュート演奏用に編曲したもの。もちろんメロディーは同じですが、音色が異なるだけで雰囲気はまったく異なり、中世の曲を聴いているような気になります。このソナタの冒頭はピアノで弾くとリズムのキレで聴かせるのですが、リュートの弦を弾くの若干のリズムの重さが逆にアルカイックな雰囲気を濃く感じさせます。静かな修道院のホール響き渡るリュートの響き。スピーカーの前にリュートが定位。比較的近くで弾いている感じです。右手の位置を巧みに変え、音色を変化させるのはギター同様の手法。音色と音量を巧みに操り、またリュートらしい余韻の長い響きに包まれながらの演奏。フレーズごとに表情を少しずつ変えることで音楽の彫りが深くなっていくところも流石です。1楽章は落ち着いた表情を保ちながら実にデリケートなコントロール。終盤の高音の美しい響きさらりと聴かせ、また音量をすっと落として、吸い込まれるような魅力を振りまきます。
続くメヌエットは音楽の流れの良さで聴かせます。微妙なリズムの変化の面白さに集中します。中間部のトリオではじっくりとメロディーを焼き付けるような印象的な演奏。ハイドンらしい美しいメロディーに中世のお化粧を施したよう。そして再びメヌエットのメロディーがサラサラと流れます。
フィナーレでは程よく快適な速さながら落ち着きを保った演奏。高音の主旋律だけがクッキリと浮かび上がるよう、右手のタッチは見事なもの。フレーズごとに音色が次々と変わりますが、流れの良さはしっかり保つことで、曲がまとまります。最後の一音の余韻が空間に消えていくようすを楽しんで終わります。

つづくコハウト、モーツァルト、シャイドラーの演奏も落ち着いた深い響きを存分に楽しめる名演奏。ヴィニシウス・ペレス、若いのにじつに穏やかな音楽を聴かせる人でした。

リュートという楽器にはなにか特別な神々しい雰囲気を感じさせます。ハイドンという作曲家が英知を尽くして書いた曲なんですが、作曲家の個性を上回る響きの個性が曲に満ちることで、ハイドンの音楽というよりリュートの音楽に聴こえてしまうのが不思議なところ。心に触れる高音の典雅な響き、長く漂う余韻、微妙に変化する音色。ヴィニシウス・ペレスという人は、このリュートの魅力をふまえて、控えめな表現で静かに深い音楽を奏でる人でした。この深さは思慮深い控えめさがポイントなのでしょう。これからが楽しみな人ですね。ハイドンの評価は[+++++]とします。

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【新着】ミナーシ、エメリャニチェフ、トッファーノによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

待望のピアノトリオの新着アルバム。

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リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)のヴァイオリン、マクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)のフォルテピアノ、フェデリコ・トッファーノ(Federico Toffano)のチェロで、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:25、XV:38、XV:13、XV:1)を収めたアルバム。収録は2013年8月2日から5日にかけて、イタリア、ジェノヴァの西の街モンドヴィ(Mondvi)にあるアカデミア・モンティス・レガリスのホールでのセション録音。レーベルはdeutsch harmonia mundi。

このアルバム、最近リリースされたものですが、奏者の名前に見覚えがあり、注文したもの。ヴァイオリンのリッカルド・ミナーシとフォルテピアノのマキシム・エメリャニチェフの演奏は今年協奏曲集で取り上げています。

2016/02/16 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-2(ハイドン)
2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)

2人の情報はリンク先の記事を参照いただきたいのですが、リッカルド・ミナーシは指揮者としても素晴らしい力を持っており、マキシム・エメリャニチェフは最近話題のクルレンツィスによるフィガロの結婚で通奏低音を担当するなどなかなかの実力者です。チェロのフェデリコ・トッファーノは2009年にヴェネチア音楽院を卒業した若手チェリスト。すでに2005年からヴェネト音楽院管弦楽団の主席チェリストを務め、2010年にはアバドが創設したグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団、モーツァルト管弦楽団、またヴェローナで毎年開催されるアレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭にも参加するなどかなりの実力者。2012年にロンドンの王立音楽院でバロックチェロを学ぶと、以降はミンコフスキ率いるグルノーブル・ルーヴル宮音楽隊や前記事で取り上げたイル・ポモ・ドーロなどで活躍しています。

実力者3人が揃ってのハイドンのピアノトリオの演奏、これがなかなかのものでした。

Hob.XV:25 Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
ピアノトリオの代表格のこの曲が、今まで聴いたことのないような不思議が雰囲気で始まります。リッカルド・ミナーシのヴァイオリンは、ハイドンではなくまるで中東の音楽のような不思議な響きで入り、エメリャニチェフのフォルテピアノはゆったりと装飾音のようにヴァイオリンにまとわりつきます。ゆったりとしたテンポで瞑想の音楽のように豊かな残響の中にメロディーが漂います。この曲からこの雰囲気をつくっていく発想に脱帽です。まったく想像だにしなかった音楽にびっくり。じきにそのような気配からハイドン自体の音楽が浮かび上がってきて、いつもの愉悦感に包まれていきます。温泉につかってしばらくで体に癒しが回ってきたときのような心境。そういえば冒頭から実に癒しに満ちた音楽という印象でした。
ヴァイオリンの和音の温かい音に包まれるようなポコ・アダージョ。もちろん前楽章以上にゆったりと漂うような音楽が流れます。エメリャニチェフのフォルテピアノはキレの良いタッチではなく鍵盤をなぞるように音を置いていきます。チェロのトッファーノは息の長い音をこちらもゆったりと漂わせます。音楽が熟成しきってゆったりとゆったりと進みますが、ここぞというところでミナーシのヴァイオリンが突然輝きに満ちた美音を轟かせ、はっとさせられます。
これまでの雰囲気を断ち切るようにキレたフィナーレに入り、本当のジプシーの路上パフォーマンスのように、悪く言うと見世物のような誇張された演奏ですが、これが実に面白い。クラシックの本格的な教育を受けた人の演奏ではなく路上でチップが集められる演奏と言えばいいでしょうか。ジプシーロンドとはこう演奏するものだと初めて気づかされました。見事!

Hob.XV:38 Piano Trio (Nr.13) [B flat] (before 1760)
ぐっと時代が遡った初期の曲。今度は初期の曲を余裕たっぷりに演奏を楽しむような入り。音楽とは楽しむために演奏するものだと言わんばかり。このトリオの恐ろしいばかりの才能に気づかされます。すべてのフレーズがイキイキと踊るような躍動感あふれる演奏。今度はエメリャニチェフが主導権をとって愉悦感を存分に表現したタッチで先導します。ミナーシのヴァイオリンは引きずるような流動的なボウイングで新体操のリボンの軌跡のようにメロディーを置いていきます。明るさと仄暗さの間を行き来する実にデリカシーに富んだ音楽の素晴らしさがじわりとつたわってきます。
続くアンダンテはリズムのキレを基調とした演奏。曲ごとに自在にスタイルを変えてきます。キリリと引き締まったリズムに乗りながらもミナーシのヴァイオリンが飛び回って喜びを振りまきます。耳を澄ますとトッファーノのチェロもチェロとは思えなほどのかなりのキレ味。
初期の曲ながらフィナーレの展開の面白さは圧倒的。いつもながらハイドンの発想の豊かさには度肝を抜かされます。その発想にインスパイアされた3人がリズムとメロディーが高度に交錯した見事な演奏で応えます。あまりの見事さに呆然と聴き惚れます。ブラヴォー!

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
前曲のフィニッシュの興奮を鎮めるようなしっとりとした短調の入り。曲の配置もよく考えられています。ミナーシのヴァイオリンの奏でるメロディーのあまりの美しさにきき惚れます。エメリャニチェフとトッファーノの伴奏も完全に息が合っていて完璧。3人の表現のベクトルが微塵もずれることなく調和して、よどみなく音楽が流れます。聴き手の魂を揺さぶる深い音楽。
この曲の2楽章も不思議な音楽ですが、この演奏を聴いてはじめてハイドンの真意を理解したような気になります。冒頭から荒れんばかりの激しい曲調。この曲には、少し前に聴いたヴィヴェンテ三重奏団の見事な演奏がありますが、これは表現の深さでヴィヴェンテを上回るものがあります。次々と変化していく曲に合わせて千変万化する演奏。まるでハイドンの創意を追いかけているような刺激に満ちた演奏。クライマックスに向けてテンションが徐々に上がっていくようすは痛快そのもの。楽器が響ききっていく様子の見事さは圧倒的です。

Hob.XV:1 Piano Trio (Nr.5) [g] (c.1760-62?)
ハイドンのピアノトリオの初期の作品の素晴らしさを際立たせようというのでしょうか。挨拶代わりにジプシーロンドを冒頭に置いたあとは全て初期の曲。しかもいずれの曲もその曲のベストと言ってもいい素晴らしい演奏をならべてきて、最後にXV:1をもってきました。掴みもオッケー、そしてアルバム自体の企画も冴え渡ります。この曲がこれほど面白く響くことを再認識。雄弁なミナーシのヴァイオリン、エメリャニチェフのフォルテピアノの自在なタッチの変化、そして、他の2人の演奏の陰でリズムのキレで演奏を支えるトッファーノと3人とも完璧。印象的なアクセントが響き渡る間に音楽が心に刺さってきます。古楽器の表現力に対するこちらの想像の範囲を完全に超えた演奏。もちろん音色には雅なところもありますが、演奏は現代楽器以上にダイナミックに感じます。
メヌエットにはいるとさらにダイナミック。曲に潜むエネルギーを蘇らせているよう。フォルテピアノもチェロも鋭いアタックで音楽を引き締めています。そして間をおかずにフィナーレに移ります。エネルギーはそのまま、短いながらも創意に満ちた音楽を嵐のような勢いと完璧なコントロールでまとめます。最後まで演奏のレベルは最高な状態を保ったままでした。

イタリア人奏者3人によるハイドンのピアノトリオ4曲の演奏。古楽器によるハイドンのピアノトリオのベスト盤と言っていいでしょう。演奏の技術、精度はもちろん、そうしたことを全く意識させない圧倒的な表現力による素晴らしい演奏でした。エメリャニチェフは前記事の協奏曲集では今ひとつなところもあったのですが、このアルバムでは非の打ち所がありません。3人の息が完全に合った完璧な演奏でした。トリオの名前がなく3人の名前でアルバムをリリースしているところから、今後の録音がどうなるかはわかりませんが、是非ハイドンのピアノトリオをもう少し録音してほしいものです。評価はもちろん[+++++]とします。ピアノトリオに格別な愛着を持つ読者の方、必聴です!

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ガラテア三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

久々にピアノトリオです!

TrioGalatea.jpg
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ガラテア三重奏団(Trio Galatea)によるハイドンのピアノ三重奏曲3曲(Hob.XV:27、XV:28、XV:29)にクレメンティのソナタOp.27-No.2の4曲を収めたアルバム。収録は2004年5月24日から26日にかけて、 ベルギーのブリュッセルの東方の街、シント=トロイデン(Sint-Truiden)のアカデミーホールでのセッション録音。レーベルはET'CETERA。

このアルバム、ゴールデンウィーク中に前記事で書いたラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンのコンサートのために有楽町に行った際、ついでに立ち寄った山野楽器銀座本店で偶然見つけて手に入れたもの。山野楽器はネット系のTOWER RECORDSやamazonとは品揃えが異なるので、たまに行くと見たことのないアルバムが見つかるので侮れません。ただし値段は少々高め。円高のこの頃ですので、もうちょっと安いと戦闘意欲も増してくるのですが、ネット系とかなり価格差があり、何枚も物色するような気にならないのは致し方なしでしょう。このアルバムはネット系にももちろん出回っていますが、売り場で手にとってみると、ピアノフォルテはなんと、あの、トム・ベギンではありませんか。ネットでは意図して検索しないとこういう出会いはなかなかありません。

2011/12/06 : ハイドン–声楽曲 : アンドレア・フォラン/トム・ベギンによるハイドンの歌曲集
2011/11/27 : ハイドン–ピアノソナタ : 【新着】トム・ベギンのハイドン鍵盤独奏曲全集

さて、このガラテア三重奏団ですが、ネットを調べてもウェブサイトが見つかりませんので、現在は活動を継続していないかもしれませんね。ライナーノーツを読んでみると、設立は2000年で、埋もれていた18世紀の鍵盤楽器の伴奏をともなうソナタの演奏を意図したトリオとのことで、主にアメリカ東海岸の音楽祭や放送で活動していたようです。メンバーばは下記の通り。

ピアノフォルテ:トム・ベギン(Tom Beghin)
ヴァイオリン:エリザベス・ブルーメンストック(Elizabeth Blumenstock)
チェロ:エリザベス・ル・グイン(Elisabeth LeGuin)

ヴァイオリンとチェロは多くの録音に参加しているベテラン奏者とのことです。このアルバム、やはり聴きどころはトム・ベギンのピアノフォルテでしょう。このレコーディングに使用されたのはハイドンの時代のクレメンティ・ピアノのレプリカ。

Chris Caene, Ruiselede, 2004, after Longman & Clementi,1798

さて、最近はピアノトリオの名演盤をいろいろ聴いて耳が肥えております。トム・ベギンのクレメンティ・ピアノは如何に!

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
聴き慣れたフォルテピアノとはほんのすこし異なる響きに感じるクレメンティ・ピアノ。言われなければ違いはわかりませんが、高音が少々こもり気味、低音は逆に力強くに聴こえます。トム・ベギンのタッチはアクセントが明快で迫力もあり、早いパッセージの軽やかさもあり、冒頭の一音からキレのよいもの。ヴァイオリンもチェロもキレの良い演奏で質の高いアンサンブルを聴かせます。古楽器としてはかなり踏み込んだ躍動感を感じさせるのは、やはりトム・ベギンのリードによるものでしょう。ただし、トム・ベギンの演奏には終始冷静な視点を感じさせ、指先を自在にコントロールして躍動感を冷静に演出しているような印象があります。全体が見えているのでしょうね。
続くアンダンテでは自在にテンポを動かしながら、ハイドンの書いたメロディーのフレーズ一つ一つにくっきりと表情をつけていきます。トム・ベギンがかなり強めのアクセントと時折深い溜めを挟んで音楽を刻んでいきますが、くどい印象は皆無で、むしろ音楽がキリリと引き締まります。耳を澄ますとヴァイオリンもチェロも非常に堅実。無理に聴かせどころを作ろうとせず、しっかりと寄り添いながら適度にキレる見事な演奏。この曲の素晴らしいところは明るさと陰りが微妙に交錯しながら変化していくところ。そのあたりを落ち着いてさばくデリケートさが見事。
フィナーレはベギンのタッチの鮮やかさが聴きどころ。やはりヴァイオリンの堅実な寄り添いっぷり、チェロの見事な脇役ぶりが印象的。いますこしの輝かしさを追求してしまいたくなるのでしょうが、コントロールされた堅実さがぐっとくる演奏といえばわかりますでしょうか。聴かせどころはトム・ベギンに譲っているということでしょう。3人の高い技巧に裏付けられた素晴らしいアンサンブル。最後は響きに溺れそうになるような変わった響きに包まれる部分もあり、ヴィヴェンテとはまた異なる聴かせどころをもった演奏といっていいでしょう。

Hob.XV:28 Piano Trio (Nr.44/op.75-2) [E] (1796)
続く曲では、とぼとぼと進むトム・ベギンのクレメンティ・ピアノに合わせて入りは朴訥な雰囲気に包まれます。曲に潜む気配を察しての表現でしょうが、それをぐっと踏み込んで来るあたりに自信が窺えます。徐々に音量と迫力を増しながら曲が進み、テンポ感もだんだん良くなります。途中、一瞬、前曲最後に聴かせた柔らかな響きを聴かせてアッと言わせ、テンポを戻して落ち着いた展開。1楽章から余裕のあるアイデアで落ち着いて攻めてきます。
2楽章のアレグレットは短調の単調なリズムの入りにトム・ベギンが硬直気味にメロディーを乗せてきますが、微妙な明るさの変化のみが聴かせどころとして、リズムを刻んでいきます。このあたりは曲の構造を見通した表現でしょう。やはり間を十分にとって曲の面白さを存分に表現します。
フィナーレでも緩急自在の表現は健在。静けさをただよわせながら冷静な表現意欲がほとばしる不思議な感覚。音楽は勢いでも美しさだけでもなく気配の再現だとでも言いたげな演奏。最後をゆったりと締めるベギンのアプローチに脳が覚醒します。

間にクレメンティのソナタを挟んで、最後の曲。

Hob.XV:29 Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
最初の和音からいきなり長い間をとって、コンセプチュアルな入り。ハイドンに仕組まれた音楽上の機知をセンス良くデフォルメして、象徴的な印象を与え、曲に新鮮な表情をつけていくのが実に楽しそう。愉快犯的アプローチでしょう。とは言っても不自然さは皆無で、音楽の流れを保っているので聞く方にも違和感はありません。ピアノトリオの迫力ばかりではなく、じっくりと曲を味わい尽くすのに向いたアブローチ。いままで聴いてきたピアノトリオの演奏とは全く異なる静かなる感興に酔わされる演奏。いまさらながらトム・ベギンの表現力に舌を巻く次第。
2楽章はハイドンが晩年にたどり着いた枯淡の境地を代表するような枯れた美しさをを感じさせる名曲ですが、その境地を実に深い音楽として聴かせる素晴らしい演奏。穏やかながら、深い陰りを感じさせる曲。
短い2楽章が終わると、さっと気配を切り替えて明るい音階をゆったりと行き来するフィナーレに入り、2楽章との表情の対比を見事なコントラストで焼き付けます。曲の構造を印象付けるためか、かなり溜めを効かせた表現も痛快。次々と変化するフレーズを見事に描きわけ、最後は冒頭のメロディーの変奏を見事にこなしてフィニッシュ。いやいや名シェフによっていつもと違う個性的なハイドンに仕立てあげられました。

いやいや、見事な演奏でした。ガラテア三重奏団、ヴァイオリンもチェロも素晴らしい演奏ですが、なんと言ってもこのトリオの個性はトム・ベギンのクレメンティ・ピアノによるところが大きいでしょう。ハイドンのピアノトリオでは流麗、ダイナミックな演奏は多いですが、このアルバムの演奏の饒舌な語り口と、メロディーや仕組まれた機知を象徴的に響かせ面白く聴かせるコンセプチュアルなアプローチは類例がありませんでした。ピアノ・トリオの演奏を楽しむ次元が広がったような新鮮さ。このアルバム、室内楽好きな諸兄に是非聴いていただきたい名盤と言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]といたします。このような演奏を聴くと音楽の楽しみは無限に広がっていることがわかりますね。

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【新着】ハリー・クリストファーズ/ヘンデル&ハイドン・ソサエティの昼、雌鶏など(ハイドン)

5月の最初のアルバム。

Christophers7.jpg
TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ハリー・クリストファーズ(Harry Christophers)指揮のヘンデル&ハイドン・ソサエティ(Handel and Haydn Society)の演奏によるハイドンの交響曲7番「昼」、ヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:1)、交響曲83番「雌鶏」の3曲を収めたアルバム。収録は2015年1月23日、25日、ボストンのシンフォニー・ホールでのセッション録音。レーベルはCORO。

ちょっと前にリリースされたアルバムですが、最近になって他のアルバムと一緒に手に入れたもの。3年前にリリースされた同じ奏者による交響曲集を取り上げていますが、そのアルバムの延長の企画。

2013/09/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ハリー・クリストファーズ/ヘンデル&ハイドン・ソサエティの朝、熊など

どちらのアルバムも配曲は一夜のコンサートのように構成されていて、1曲目が「朝」と「昼」、2曲目がヴァイオリン協奏曲のHob.VIIa:4とVIIa:1、3曲目が「熊」と「雌鶏」とまったく相似形のプログラム。これでまとめてリリースされているならいざ知らず、2枚のアルバムの間に3年を置いてるところが、雄大というかおおらかな企画。察しのいい読者の方なら、次はまた3年後に「晩」、ヴァイオリン協奏曲VIIa:1、「王妃」が来ると想像していることでしょう。パリセットは6曲構成なので名前付きの3曲を組み合わせると読みました(笑)

このアルバムを取り上げたのは、このアルバムのリリースによってシリーズものとしての企画の面白さに気づいたことと、3年前のアルバムがほどよくいい演奏ながら、少々の硬さと力みを感じるもので、3年の歳月が音楽をほぐしてくれるかどうかを知りたかったから。奏者の情報などは前記事をご覧ください。

Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
最新の録音だけあって、ボストン・シンフォニー・ホールに響き渡る古楽器オケの鮮烈なサウンドが鮮明に録られています。ハリー・クリストファーズのコントロールは予想通り、迫力十分の力感みなぎるもの。アメリカのオケらしくしっかりと機能美を誇る精緻な演奏。そして前録音よりもしなやかさを増して、音楽の硬さは少し和らいでいます。
快活な1楽章から、短調による劇的な展開のレチタティーヴォを経てアダージョに入ります。このレチタティーヴォの迫力ある描写がこのオケの力量を示しています。そしてアダージョも大きな起伏をうまく表現して、緊張感を保った安らぎを伝えます。古楽器から雅さではなく機能美を引き出してくるあたりがアメリカのオケ。演奏はテンポを落とし気味にしてじっくり精緻な響きを作っていきます。終盤のヴァイオリンとチェロのじっくりと進む掛け合いのクッキリとした表情は聴きどころの一つ。
つづくメヌエットは覇気に満ちた充実の響き。精緻でダイナミックですが、ほどよく力も抜けていていい感じ。そしてフィナーレですが、ここは力が入ってリズムが少々重いのが惜しいところ。クリストファーズはこの小交響曲のフィナーレに迫力を求めているようです。

Hob.VIIa:1 Violin Concerto [C] (c.1765)
続いてヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は前アルバムと同じくアイスリン・ノスキー(Aisslinn Nosky)。ハリー・クリストファーズ率いるヘンデル&ハイドン・ソサエティのちょっと重めリズムによる精緻な演奏という傾向がわかってきました。もう少しリズムに軽さがあればスリリングな印象なんでしょうが、ちょっとリズムの重さが気になってしまいます。アイスリン・ノスキーのヴァイオリンは特に高音部が張りのあるいい音を鳴らしていますが、演奏自体はオケの重さにひきづられて少々平板な印象。ヴァイオリンの美音とオケの迫力はかなりのものですが、掛け合いの妙というかスリリングさが感じられず曲が単調に響いてしまいます。
つづく2楽章に入るとノスキーのヴァイオリンがさらさらと奏でるヴァイオリンの美音が心地よく響きます。これまでの楽章とは逆に、このアダージョ、速めであっけないほどサラサラと進めるので逆にびっくり。カデンツァではノスキーのヴァイオリンの高音の抜けるような美音を堪能できます。
そしてフィナーレは再び力感みなぎる精緻な響きに満たされます。1楽章ほど重みは感じず、ヴァイオリンとオケの適度な掛け合いを楽しませてくれます。

Hob.I:83 Symphony No.83 "La Poule" 「雌鶏」 [C] (1785)
やはりかなり力の入った入り。独特の曲想の入りを速めのテンポで畳み掛けるようにきました。音量を上げるとちょっとキンキンするほどの迫力。ただ、これまでの2曲がちょっとスタティックな印象だったのに対し、この曲では流麗でダイナミック。アクセントもしなやかさが加わり、曲の流れがよくなりました。
そしてアンダンテに入るとさらに表情がしなやかさを増し、曲自体の良さに近づいてきた感じ。自然な陰影と力感はやはり大事ですね。このアンダンテがこのアルバム一の聴きどころでしょう。
メヌエットでも爽やかさが保たれ、そしてフィナーレは1曲目でのちょっとくどい感じとは異なり、流れの良さを保ちます。最後の曲が一番しなやかな演奏でした。

アメリカ最古の古楽器オーケストラであるヘンデル&ハイドン・ソサエティによるハイドンの交響曲などを収めた好企画のアルバム。ヨーロッパのオケとは全く異なる文化をもったオケという印象で、精緻でクリアな響きで緻密に演奏することを狙っているようですが、ハイドンの交響曲の真髄にはちょっと届かないのかもしれません。前アルバムよりは力が抜けてきたものの、音楽の流れの面白さはもう一超えほしいところ。オケのテクニックは確かなものがあるだけに、これは指揮者の器の問題なのかもしれませんね。企画自体は興味をそそられるものゆえ、次のリリースを待ちたいと思います。評価は交響曲2曲が[++++]、ヴァイオリン協奏曲は[+++]とします。

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tag : 雌鶏 ヴァイオリン協奏曲 古楽器

クイケン/ラ・プティット・バンドのラメンタチオーネ、52番、帝国(ハイドン)

本日はなぜかクイケン/ラ・プティット・バンドの初期交響曲集。ずいぶん前に手にいれたものです。

Kuijken26.jpg
amazon / amazon(別装丁盤) / TOWER RECORDS(別装丁盤)

シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のラ・プティット・バンド(La Petite Bande)の演奏で、ハイドンの交響曲26番「ラメンタチオーネ」、52番、53番「帝国」の3曲を収めたアルバム。収録は1988年3月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルはVirgin classics。

クイケンは指揮者としてもヴァイオリン奏者としても、最近はスパッラ奏者としても活躍しており、室内楽のアルバムも多数リリースしています。指揮者としてハイドンの曲を振ったアルバムだけでもこれまでずいぶんな数を取り上げています。

2016/01/05 : ハイドン–協奏曲 : エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)
2012/11/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】クイケン/ラ・プティット・バンドの「朝」、「昼」、「晩」
2011/09/14 : ハイドン–声楽曲 : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのテ・デウム
2011/07/04 : ハイドン–オラトリオ : クイケン/ラ・プティット・バンド1982年の天地創造ライヴ
2010/03/22 : ハイドン–交響曲 : クイケンのザロモンセット
2010/03/21 : ハイドン–交響曲 : クイケンのパリ交響曲集

というか、クイケンの構えなく自然な演奏の中に深い音楽を感じさせる演奏、私はとても気に入っているということなんです。また、4年前にはコンサートにも出かけ、最近のクイケンのOVPPで透明度を増しながらも音楽の真髄に近付こうとする純度の高い演奏に生で触れる事ができました。

2011/07/02 : コンサートレポート : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲

クイケンを取り上げようと思ったのは、今週末に再びクイケン/ラ・プティット・バンドのコンサートに出かけるから。今週末のプログラムは、実はちょっと苦手にしているマタイ受難曲。普段は晴朗かつ変化に富んだハイドンの音楽ばかり聴いているので、バッハの中でも受難曲という重くドラマティックな曲を長時間聴き続けるのにはかなりの努力を要するわけです。ということで、クイケンのキレのいいハイドンで脳をリフレッシュしておこうという狙いです(笑)

Hob.I:26 Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
古楽器のシャープな音色による疾走する入り。いきなり鮮度高く、キレのいい古楽器オケのタイトなアンサンブルが響きわたります。冴え冴えとしたリズムのキレが印象的。独特の仄暗さを感じさせるこの曲の1楽章をキリリと締め上げのっけから見事。
美しいメロディーが印象的な2楽章のアダージョ。哲学者の1楽章同様、淡々とメロディーを置いていきますが、その淡々としたメロディーがよく聴くと実にくっきりと浮かび上がります。単調さとは無縁の際立つ孤高感。古楽器だけにゆったりとした感じはしないのですが、逆にしっかりと引き締まった響きから詩情がにじみ出る感じ。こりゃ絶品です。
3楽章はメヌエット。かっちり引き締まったオケから、キレのいいアクセントと木管の加わった独特の響きが雰囲気を盛り上げます。この曲に宿るハイドンの時代の空気のようなものが立ち上るような感覚を覚えます。古楽器の演奏のなかでも冴え渡るオーケストラの魅力を最も感じる演奏と言っていいでしょう。

Hob.I:52 Symphony No.52 [c] (before 1774)
続いて52番。いきなりこの曲のリズムの面白さと素晴らしい躍動感に圧倒されます。小編成ゆえ重低音は期待できないのですが、代わりに引き締まりまくったタイトな響きの魅力は並ではありません。クイケンはオケをグイグイドライブしていきます。今更ながら古楽器オーケストラの真の魅力に触れた感じ。
続く弱音器つきの弦楽器によるアンダンテも引き締まったオケが冴え渡ります。記憶の中の演奏より数段キレています。流石にクイケンといったところ。ゆったりとした歩みなのに冴え冴えとした感覚に包まれる恍惚感、さりげないメロディーなのにものすごい立体感が見事。メロディーが繰り返されながら至福の境地に至ります。
メヌエットは深い憂いに包まれた音楽。この曲のメヌエットがここまで深みを帯びて聴こえるとは改めて驚きを感じるほど。音楽が進むにつれてしなやかに響きが変化し、起伏も大きく大胆さまで感じるほどに成長します。
フィナーレも陰りがつきまといます。冒頭から想像力の限りを尽くした展開が圧巻。このメロディーの綾を成長させて大きな流れを作っていくハイドンの筆致とそれをあまりに見事に織り上げるクイケン/ラ・プティット・バンドの演奏に圧倒されます。偉大な創造力にひれ伏します。言葉にならないほど完璧な演奏。

Hob.I:53 Symphony No.53 "L'Imperiale" 「帝国」 [D] (1778/9?)
このアルバム最後の曲。冒頭から陽光に輝く白亜の神殿のような堂々とした響きに驚きます。次々に変化するメロディーと意表をつく展開に手に汗握ります。恐ろしいばかりのハイドンの想像力。どうしたらこのような展開が思いつくのか凡人には理解できません。次々と繰り出されるアイデアが有機的に絡まり、大きな幹に育っていく様子はまさに天才的なもの。そしてクイケンもそうした創造の産物を実に巧みに織り上げ、引き締まった響きで料理していきます。この曲の面白さをあらためて認識した次第。
続くアンダンテの弾むようなリズムの活き活きとした様子はこれまた見事と思っていたら、あっという間に陰りのあるしなやかな中間部に変化しています。曲想に追いつくのに脳細胞が覚醒して対応。あまりの展開の面白さにこちらも冴え渡ります。オーケストラは楽器の音色の変化も加わることで、変化の面白さも格別。
メヌエットはオーソドックスで逆に驚きます。常に聴き手の期待の矛先をかわすいたずら心に満ちています。中間部はそれを面白がるようなコミカルな曲想。ほくそ笑むハイドンの顔が見えてきそうです。
フィナーレは流線型のフォルムに包まれた明るい音楽。フレーズごとに表情を微妙に変えながら展開、印象的な転調、はっとするような展開をいくつも経てクライマックスへ向かいますが、迫力ではなくあまりにキレたアイデアの連続に圧倒される感じ。いやいや聴き終わるとアイデアを追いかけるのに総動員した脳細胞がエクスタシー状態。ハイドンの創意にノックアウトされます。

実に久しぶりに取り出したクイケンのアルバムですが、記憶に残る演奏とは段違いのすばらしさに改めて驚きました。ハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期からそれ以降にかけての交響曲の演奏の頂点と言ってもいい素晴らしい演奏でした。全編に冴え渡り、タイトな響きに包まれ、そしてハイドンの創意の真髄に触れる面白さ。録音も古楽器演奏の魅力を万全にとらえた見事なもの。今でこそ古楽器演奏はいろいろ選択肢はありますが、このころの演奏の中で頭ひとつ抜けた特別の存在と言っていいでしょう。評価は[+++++]に付け直しました。

さて、週末のマタイ、クイケンの現在の音楽と私の器が合いますでしょうか、、、

(追伸)Ponisさん、貴重な情報ありがとうございます!

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tag : ラメンタチオーネ 交響曲52番 帝国 古楽器

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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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