【新着】ハンス・ロスバウトの交響曲集(ハイドン)

最近手に入れたヒストリカルなアルバム。しかも大物です!

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ハンス・ロスバウト(Hans Rosbaud)指揮のバーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団(Südwestfunkorchester Baden-Baden)を指揮したハイドンの交響曲と協奏曲などの南西ドイツ放送の放送録音を7枚のCDにまとめたもの。もちろんレーベルはSWR CLASSIC。収録場所はバーデン=バーデン、南西ドイツ放送「ハンス・ロスバウト・スタジオ」でモノラル音源です。収録曲目と収録日は下記の通り。記載はCDへの収録順。

交響曲第12番(1961年6月22日)
交響曲第19番(1961年7月9日)
交響曲第48番「マリア・テレジア」(1961年7月8日)
交響曲第52番(1961年12月15日、16日)
交響曲第58番(1959年2月17日)
交響曲第65番(1959年2月16日)
交響曲第83番「めんどり」(1953年11月7日)
交響曲第87番(1952年6月23日)
交響曲第90番(1957年10月26日)
交響曲第93番(1958年12月19日)
交響曲第95番(1959年5月19日)
交響曲第96番(1954年6月25日)
交響曲第97番(1953年12月28日)
交響曲第99番(1952年6月27日)
交響曲第100番「軍隊」(1953年3月25日)
交響曲第102番(1953年3月25日)
交響曲第104番「ロンドン」(1952年6月27日)
チェロ協奏曲2番(1952年12月21日)
 チェロ:モーリス・ジャンドロン(Maurice Gendron)
トランペット協奏曲(1959年4月9日)
 トランペット:ヴァルター・グライスレ(Walter Gleissle)
ヴァイオリン、チェンバロと弦楽オーケストラのための協奏曲ヘ長調 Hob.XVIII:6(1959年2月18日)
 ヴァイオリン;スザンネ・ラウテンバッハー(Susanne Lautenbacher)、チェンバロ:エディト・ピヒト=アクセンフェルト(Edith Picht-Axenfeld)
ピアノ協奏曲 ニ長調 Hob.XVIII:11(1959年4月3日)
 ピアノ:マリア・ベルクマン(Maria Bergmann)
レオポルド・ホフマン(伝ハイドン):フルート協奏曲(1960年7月2日)
 フルート:クラフト=トーヴァルト・ディロー(Kraft-Thorwald Dillo)
交響曲第104番(1962年3月30日、31日)
交響曲第45番「告別」(1958年11月15日-19日)

ただし、最後の「告別」はオケはベルリンフィル、収録場所はベルリンのツェーレンドルフ(Zehlendorf)のプロテスタント教区教会での収録で、この曲のみステレオ収録です。

ハンス・ロスバウトの振るハイドンの交響曲は以前に1度取り上げています。

2013/09/02 : ハイドン–交響曲 : ハンス・ロスバウト/ベルリンフィルのオックスフォード、ロンドン(ハイドン)

これは1956年から57年にかけてベルリンフィルを振った演奏で、1955年にカラヤン体制となったベルリンフィルを見事にコントロールしまとめ上げる匠の技。そのロスバウトがこれほど多くのハイドンの交響曲の録音を残しているということで、リリースを知った時にはかなり驚きました。というよりはやく聴いてみたいということで、すぐに注文を入れそれが先日届いたという次第。ちなみにその驚きの大きさから、amazonに発注していたのうっかり忘れてTOWERにも注文を入れ、なんと手元に2組あります(苦笑)

早速所有盤リストに登録すべくデータを見てみると、交響曲は初期の12番からロンドンまで18曲も収録され、ロンドンは録音交響曲収録時期を見ると1952年から1962年までと、52年と62年の2種が含まれます。また告別のみベルリンフィルと1958年の収録で、先に取り上げたDGとのアルバムの収録の後に南西ドイツ放送の放送録音が残されたことになります。この辺りの経緯を想像すると、この南西ドイツ放送との素晴らしい放送録音がDGに現代音楽で知られるロスバウトにベルリンフィルでハイドンの交響曲集を録音させることを決断させたのではないかと思います。

到着してから色々聴いていますが、骨格のしっかりした演奏で、なおかつハイドンの曲の面白さをしっかりと踏まえた見事な演奏が並び、聴きごたえ充分。ハイドンの交響曲録音、特にドラティによる全集が完成する前の50年代から60年代の交響曲のまとまった録音としては、リステンパルトやアンセルメ、ビーチャムなどと並んで最も完成度が高い演奏であると思います。特にドイツ的なハイドンの面白さを非常によく表現しており、ビーチャムともリステンパルトともアンセルメとも異なる辛口の面白さを感じさせます。この頃の録音は他にも最近CDとしてリリースされたマックス・ゴバーマンとウィーン国立歌劇場管、nonesuchなどからリリースされているレスリー・ジョーンズとリトル・オーケストラ・オブ・ロンドン、アントニオ・アルメイダとハイドン協会管、デニス・ヴォーンとナポリ管など色々ありますが、しっかりと筋の通った演奏はロスバウトが一番です。

ちなみに、いつものペースでレビューするのと1月かかってしまいますので、聴きどころのいくつかの曲を取り上げます。

まずは、このセットの目玉であるベルリンフィルとのステレオ録音。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
1楽章は速めのテンポでしかもインテンポでの颯爽とした入り。畳み掛けるようにグイグイと攻めてきますが、決してバランスを崩すことなく秩序を保ちアクセントもくっきり。まさにこの曲の理想的な演奏。続くアダージョは弱音器付の弦楽器が奏でる穏やかなメロディーを淡々と重ねていきます。1楽章からの繋がりにも一貫性があって音楽が淀みなく流れます。静かな気配の中に流れる悲しげなメロディーの美しさが際立ちます。現代音楽を得意とするだけあって、この研ぎ澄まされた感覚は見事の一言。メヌエットも冷静な進行ながらジワリと情感が香る佳演、というかここまで雰囲気に溢れ美しさが滲み出るメヌエットは滅多にありません。聴きどころのフィナーレ、前半はあえてオケが少し乱れるほどに荒く入ります。ただし造形は必要十分に彫り込まれてスタイリッシュ。そして奏者が1人づつ去るアダージョは実に豊かなニュアンスを伴いながら楽器が少しずつ減っていく絶美の進行。最後のヴァイオリンの音が消えいる瞬間の美しさは例えようがありません。これは素晴らしい演奏です。

続いてちょい地味な90番。これが実に素晴らしい。

Hob.I:90 Symphony No.90 [C] (1788)
冒頭から冷静に引き締まったいい流れ。録音はモノラルながら非常に聴きやすく問題ありません。非常に紳士的な気品に溢れた演奏。テンポが落ちる前のジュリーニの演奏を少々ドイツ的にした感じといえばいいでしょうか。続くアンダンテは、これがまた慈愛に満ちた素晴らしい入り。しかも古びた印象は皆無。感傷的な印象も皆無。ゆったりと楔をうつような中間部の余裕も気品が感じられます。そしてあえて淡々としたフルートのソロも見事すぎる出来。メヌエットも気品に満ちたリズムのキレを聴かせます。そして終楽章は、ラトルが繰り返し取り上げていますが、エンディングを終わりそうで終わらないという演出のコミカルさでまとめるだけでなく、音楽の格調高さも感じさせる秀演。ここでもロスバウトの気品の高さが際立ちます。

そして特に気に入ったのが97番。

Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)
こちらもザロモンセットの中では比較的地味な曲ゆえ、ロスバウトの見通しのよい構成感と気品が絶妙にマッチする曲。少し足早な1楽章から、2楽章に入ると告別同様の素晴らしい雰囲気を堪能できます。こうした緩徐楽章のしなやかな起伏の表現は絶品。よく聴くとフレーズごとに丹念に表情が変化させる緻密なコントロールがなされていることがわかります。木管楽器の悲しげなハーモニーと全奏の慟哭のコントラストも見事。ハイドンの交響曲に込められた機知と変化を見事に表現しています。極上の音楽。メヌエットはこの曲では優雅で雄大。そしてトリオへのつながりのなんとさりげないこと。このセンスの良さはただならぬものがあります。そしてフィナーレはキレ良く軽やかにまとめます。軽快な吹き上がりとオケのバランスを保つ匠の技。

他の曲もいい演奏ばかりで聴きごたえ十分です。

ハンス・ロスバウトによるハイドンの交響曲集ですが、気負いなくハイドンの曲の面白さを見事に表現した名演揃い。1950年代から60年代という録音年代を考えると非常に垢抜けた演奏であり、現在我々が聴いても古さを感じさせるどころかハイドンの普遍的な魅力に迫る見事な演奏という評価が適正でしょう。レビューした3曲はいずれも[+++++]とします。他の曲もざっと聴いた感じでは[+++++]レベルの演奏が多く、少し癖を感じる演奏も混入しているというところ。ハイドンの交響曲がお好きな方は必聴のアルバムと言っていいでしょう。

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tag : 交響曲90番 交響曲97番 告別 ヒストリカル

ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)

4月のベスト盤を選んだと思っていたら世の中はすっかりゴールデンウィークです。こちらは例年通り渋滞を避けて歌舞伎見物をしたり、地元の温泉に行ったりと、近場でのんびり楽しんでおります。今日は最近手に入れたヒストリカルなアルバムです。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン国立歌劇場管弦楽団(Vienna State Opera Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲97番、ウィーン交響楽団(Wiener Symphoniker)の演奏で交響曲1番、45番「告別」の3曲を収めたアルバム。収録は97番が1953年、他2曲が1951年のセッション録音。録音場所の記載はありません。レーベルはSPURAPHON原盤の日本コロムビア。

スワロフスキーの録音は何点かあったと思って、所有盤リストを検索してみると、1点もヒットしません。おかしいなと思って確認すると、当アルバムのスワロフスキーの綴りが間違っていました。ジャケットには堂々と”SWAROWSKI”と記載されていますが、正しくは”SWAROWSKY”。そう末尾が違います。他のアルバムやネットでは全て”SWAROWSKY”ですので、このアルバムが間違いですね。ちなみにガラスによる宝飾品のスワロフスキーは”SWAROVSKI”。オーストリアのチロル地方の創業で、こちらは末尾は”I”ですが、途中の”W”が”V”となります。ということで正しい綴りで検索し直すと、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との「軍隊」、「太鼓連打」、アルフレート・ホラーのソロによるトランペット協奏曲、そして同じくウィーン国立歌劇場管弦楽団を振った「哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ」全曲などのアルバムがあり、軍隊、太鼓連打のアルバムは過去に取り上げています。スワロフスキーの略歴などは下記の記事をご参照ください。

2012/02/21 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の軍隊、太鼓連打(ハイドン)

リンク先の記事にも書いたように、スワロフスキーは指揮法の「名教師」としても名高い人で、ウィーン国立音楽大学指揮科の教授として活躍し、門下にクラウディオ・アバド、マリス・ヤンソンス、ズービン・メータ、アダム・フィッシャー、イヴァン・フィッシャー、ヘスス・ロペス=コボス、ブルーノ・ヴァイルなど錚々たる指揮者を育てました。また、ウィーン国立歌劇場管弦楽団との演奏自体も、現在聴いてもそのコントロールの素晴らしさを堪能できるものです。

そのスワロフスキーのハイドンの未入手の録音と知ってオークションで手に入れたもの。日本コロムビアの「ハンス・スワロフスキーの芸術」というシリーズの第4巻になります。綴りの間違いはイマイチですが、良いシリーズをリリースしてくれたものです。このアルバム自体のリリースは1997年です。

Hob.I:97 Symphony No.97 [C] (1792)
1953年録音ということで、もちろんモノラル録音ですが、音質は充分みずみずしく聴きやすい録音。ゆったりした序奏の後、主題に入ると恐ろしいほどのキレ味で畳み掛けてきます。現代でもこれだけのキレを聴かせるコントロールは滅多にありません。インテンポで物凄い勢いで攻め込まれますが、ゆったりとした休符を挟むので力ませに聴こえない素晴らしいバランス感覚。と思いきや曲の変わり目は休符を半分にしたくらい被せてきます! オケはスワロフスキーに煽られて赤熱する鉄塊のようにヒートアップ。このど迫力、同じくど迫力の名盤、アンチェルの93番を上回るもの。音量を上げて聴くとトップギアのウィーン国立歌劇場管弦楽団の奏者の汗が飛び散ってきそうなほどの迫力。特に弦楽器のボウイングは驚愕の力感。
続く2楽章はリラックスした演奏で入ります。テンポは速めで見通しの良い演奏。典雅な演奏とはこのことでしょう。キリリと引き締まったリズムに乗って秩序正しい演奏。展開部に入ると、オケが牙を剥き始めます。それでも全体的に気品すら感じさせる落ち着いた構成を保って入るのが流石なところ。
メヌエットはちょっとテープのコンディションが悪く、冒頭から少々音程がふらつくところがあります。演奏は前楽章がリズムの軽さを感じさせていたのに対し、こちらは適度な重量感を加えて迫力を増します。音量の対比と表情の変化を一定のリズムにまとめる素晴らしいコントロール。
そして期待のフィナーレは冒頭から冴え渡るオケの音色に釘付け。徐々に赤熱してくるオケ。1楽章の未曾有のキレの再現に耳が集中しますが、今度はキレた流麗さで驚かせます。速めのテンポも手伝って爽快そのもの。オケは余裕たっぷりにキレまくります。ちょっと音が飽和するところもありますが、最後は期待通りオケがキリリと引き締めて終わります。いやいや見事。

Hob.I:1 Symphony No.1 [D] (before 1759)
オケがウィーン交響楽団に変わります。ハイドン最初の交響曲ですが、手元の所有盤リストでは、その1番でも最も録音年代が古いもの。97番の異常とも言える冴え方とは異なり、こちらは平常心(笑)での演奏。ハープシコードが入ります。ただこの曲でも迫力と流麗さは充分に感じられ、やはりバランスの良さを感じさせます。オケも流石にウィーン響ゆえ典雅な音色でスワロフスキーの指示に応えます。1楽章の覇気、2楽章のしっとりとした表情、3楽章のじっくりとした描写と文句なし。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
このアルバムのもう一つの聴きどころはこの告別でした。冒頭の97番の突き抜けたど迫力の演奏に対し、この告別は実に趣深い名演です。録音年代が信じられないほどニュートラルな演奏。オケの精度はウィーン国立歌劇場管弦楽団には及びませんが、情感の濃さはこちらが上。1楽章から旋律のしっとりとした美しさと見通しのよい構成感が両立する素晴らしい演奏。そして2楽章のアダージョに入ると情感はさらに色濃くなりメロディーの美しさに絶妙の翳りが加わり得も言われぬ雰囲気に。そしてあえてさらりとしたメヌエットで気分転換。中間部の陰りが続く終楽章を暗示させるのが流石なところ。
聴きどころの終楽章。前半はインテンポで畳み掛けますが、響きに独特の味わいが乗って迫力ばかりではなく趣深い音楽になります。そして奏者が一人ずつ去っていく有名なアダージョはゆったり優雅な音楽なんですが、スワロフスキーのコントロールには物悲しさを助長するように木管楽器をくっきりと浮かび上がらせます。最初は柔らかく暖かい弦の音色に包まれながらも、楽器が減っていくごとに徐々に響きの純度が上がっていき、テンポも少しずつ遅くなっていきます。最後に残るヴァイオリンの音色の美しさが印象的。この曲の美しさを知り尽くした演奏と言っていいでしょう。

アバドやメータ、アダム・フィッシャーなど名指揮者を育てたハンス・スワロフスキーの振るハイドンの交響曲3曲を収めたアルバムでしたが、このアルバム、「ハンス・スワロフスキーの芸術」というアルバムタイトル通り、スワロフスキーという人の芸術を堪能できる素晴らしいアルバムでした。97番はこれまで聴いたどのアルバムよりも踏み込んだオーケストラコントロールで97番という曲に込められたエネルギーを爆発させたような素晴らしい演奏。ウィーン国立歌劇場管弦楽団がこれほどまでに赤熱した演奏は聴いたことがありません。一方ウィーン響を振った交響曲1番と告別は趣深い名演奏。どちらも古い録音ながら、聴き続けられるべき価値を持った素晴らしい演奏です。評価は全曲[+++++]とします。

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tag : 交響曲97番 交響曲1番 告別 ヒストリカル

レスリー・ジョーンズ/リトル・オーケストラ・オブ・ロンドンのホルン信号、告別など(ハイドン)

LPです。いやいや、LPはいいですね。

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レスリー・ジョーンズ(Leslie Jones)指揮のリトル・オーケストラ・オブ・ロンドン(The Little Orchestra of London)の演奏で、ハイドンの交響曲31番「ホルン信号」、交響曲19番、交響曲45番「告別」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットで検索したところ原盤は1964年にリリースされた模様。レーベルは英PYE RECORDSのライセンスによる日本のテイチク。

レスリー・ジョーンズの交響曲集は以前にもnonsuchのLPを取り上げています。

2013/07/17 : ハイドン–交響曲 : レスリー・ジョーンズ/リトル・オーケストラ・オブ・ロンドンのラ・ロクスラーヌ、78番

リンク先の記事にある通り、レスリー・ジョーンズとリトル・オーケストラ・オブ・ロンドンはかなりの数のハイドンの交響曲の録音があり、現在ではアメリカのHAYDN HOUSEからLPをCD-Rに落としたものを手に入れることができます。上の記事にHAYDN HOUSEへのリンクをつけてありますので、興味のある方はご参照ください。

前記事ではレスリー・ジョーンズの情報が少なく、どのような人かあまり判然としませんでしがが、今回の国内盤には村田武雄さんの解説の最後に演奏者の紹介文が付いています。それによると日本でもチャイコフスキー、ドヴォルザークの弦楽セレナード、グリーク、シベリウスなどの録音がリリースされており、着実、素朴な指揮をする人との評がありました。ハイドンについては先のHAYDN HOUSEに40曲弱の交響曲、「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版、オペラ序曲などの録音があることから格別の愛着を持っていたに違いありません。

今回入手したLPはオークションで手に入れたものですが、針を落としたとたん暖かい素朴な響きにすぐに引き込まれ、これはレビューすべしと即断した次第。テイチク盤ということで音質はあまり期待していなかったんですが、これがいい! 実に味わい深い響きにうっとりです。

Hob.I:31 Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
たっぷりと響く低音、自然な定位、味わい深い弦楽器の音色。針を落としたとたんに素晴らしい響きに包まれます。ホルン信号はもちろんホルンが大活躍の曲ですが、ことさらホルンを目立たせることをせず、実に自然に、しかもイキイキとした音楽が流れます。仄かな明るさと、翳りが交錯しながら素朴な音楽が展開します。ホルン信号の理想像のような演奏。アーノンクールやファイなどに代表される尖った演奏もいいものですが、このオーソドックスかつ素朴な演奏の魅力には敵わないかもしれません。
2楽章のアダージョも最高。至福とはこのこと。ヴァイオリンを始めとする弦楽器の実に美しいこと。まさに無欲の境地。演奏者の澄み切った心境が見えるほど。ピチカートに乗ったヴァイオリンソロとホルンの溶け合うようなメロディーの交換に感極まります。そしてチェロも落ち着いたいい音を出します。絶品。
続くメヌエットも落ち着きはらって、じっくりとリズムを刻んでいきます。オーケストラの響きが全て癒しエネルギーになって飛んでくるよう。先日取り上げたパノハ四重奏団同様、オケのメンバーの全幅の信頼関係があってこその、この揺るぎないリラックスした演奏でしょう。もちろんリズムはキレてます。
曲を回想して締めくくるようなフィナーレ。オケ全員が完全に自分の役割通りに演奏していく安心感。リズムもテンポもフレージングもどこにも揺らぎはなく、これしかないという説得力に満ちた音楽。変奏の一つ一つを慈しむように各楽器が受け継いでいきます。やはりホルンの溶け合う響きが最高。フルートも最高、ヴァイオリンも最高、木管群も最高、チェロも最高、みんな最高です。おそらく奏者自身が最も楽しんでいるはず。曲想が変わって最後の締めくくりも慌てず、しっかりとまとめます。いや〜、参りました。

Hob.I:19 Symphony No.19 [D] (before 1766)
グッとマイナーな曲ですが、ハイドンの初期の交響曲の快活な推進力と展開の妙を楽しめる曲。レスリー・ジョーンズはホルン信号の演奏でもそうでしたが、実に素朴な手腕でハイドンらしい音楽を作っていきます。これはドラティよりいいかもしれません。短い1楽章から、すぐに短調のアンダンテに入りますが、これがまた美しい。絶品の響きにうっとり。次々と変化していくメロディーに引き込まれ、この短い曲の美しいドラマに打たれます。
フィナーレは再び快活に。ハイドンの初期の交響曲の演奏の見本のようなオーソドックスな演奏ながら、これ以上の演奏はありえないと思わせる完成度に唸ります。完璧。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
目玉の告別。これまでの演奏で、レスリー・ジョーンズの素朴ながら見事な手腕にノックアウトされていますので、この告別の最高の演奏を期待しながらB面に針を落とします。もちろん予想通りの素晴らしい入り。適度に速めのテンポで分厚く柔らかな響きに包まれます。音楽の展開と響きの美しさとが音楽の喜びを運んできます。どこにもストレスのない曲の自然な運びによってハイドンの書いた素晴らしい音楽が眼前に広がります。
何度聴いても唸らざるをえない、このアダージョ。弱音器付きの弦楽器によって奏でられる穏やかな音楽。奏者らの絶妙なテクニックがこの自然さを支えていると知りながら、まるで奏者の存在が消えて無くなって音楽自身が流れているような気にさせる見事な演奏。録音も超自然で見事なもの。適度な残響と実に自然な定位感が印象的。これは絶品です。
メヌエットも予想通り適度にキレの良さを聴かせながら落ち着いた演奏。全く野心も邪心もない虚心坦懐な演奏ですが、やはりこれ以上の演奏は難しいでしょう。それほど見事ということです。
この曲1番の聴きどころであるフィナーレ。前半は予想よりも速く、ここでメリハリをつけてくるのかと、聴かせどころを踏まえたコントロールに唸ります。そして一人づつ奏者が席を立つ有名なアダージョ。もう、癒しに満ちた音楽にとろけそう。なんという優しい音楽。ハイドンという天才がはやくもたどり着いた音楽の頂点。各奏者の素晴らしい演奏に打たれっぱなし。これほど美しいアダージョがあったでしょうか。ノイズレスのLPの細い溝から生まれる音楽のあまりの美しさに息を呑みます。楽器が減るにつれ音楽の純度が高まり、最後は静寂だけが残る感動のフィナーレ。

いやいや、これは参りました。絶品です。流石にハイドンの交響曲の録音を多く残した人だけあって、素朴なのに味わい深く、心にぐさっと刺さるハイドンでした。LPならではの美しい響きも手伝って、まさに理想的な演奏。全曲絶品です。これは他の曲も集めなくてはなりませんね。もちろん録音時期などによるムラなどもあるでしょうが、この素晴らしさを知ってしまった以上、追っかけないわけには参りません。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

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tag : ホルン信号 交響曲19番 告別 ヒストリカル LP

クルト・ザンデルリンク/ドレスデン・シュターツカペレの告別、ロンドン(ハイドン)

先日カワサキヤさんにコメントをいただき、その存在を知ったLPですが、幸いオークションですぐに手に入れることができました。

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クルト・ザンデルリンク(Kurt Sanderling)指揮のドレスデン・シュターツカペレの演奏で、ハイドンの交響曲45番「告別」、104番「ロンドン」の2曲を収めたLP。収録は1967年5月19日、ドレスデンのルカ教会でのセッション録音です。レーベルはDeutsche Grammophonの日本盤。

カワサキヤさんのコメントのとおり、クルト・ザンデルリンクのハイドンといえば、ベルリン響を振ったパリセットが有名であり、私も昔から愛聴しているアルバムです。その他ザンデルリンクのハイドンはライヴを中心にいろいろとアルバムがリリースされており、当ブログでもこれまで結構な回数取り上げています。

2013/09/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの「驚愕」ライヴ2種
2013/02/16 : ハイドン–交響曲 : ザンデルリンク/読響の「熊」1990年サントリーホールライヴ
2012/11/13 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン交響楽団の王妃、86番
2012/06/30 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ザンデルリンク/スウェーデン放送交響楽団の39番ライヴ
2010/11/04 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンク/ベルリン・フィルの熊ライヴ
2010/06/18 : ハイドン–交響曲 : クルト・ザンデルリンクの86番

ザンデルリンクのハイドンの交響曲は、パリセットに代表されるように、堅実なテンポに乗って、適度な覇気と、適度なメリハリ、そして揺るぎない古典の秩序を感じさせるもの。ハイドン交響曲の理想的な演奏といっていいでしょう。そのザンデルリンクが、いぶし銀の音色をもつドレスデン・シュターツカペレを振った、告別とロンドンのセッション録音ということで、弥が上にも期待が高まります。

いつものようにVPIのレコードクリーナーと美顔ブラシで丹念にクリーニングしてから、やおらプレーヤーに乗せ、針を落とします。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
いきなり燻らせたような渋い響きのドレスデン・シュターツカペレの音色にはっとさせられます。LPの状態は非常によく、ノイズレス。ザンデルリンクらしいバランスを保った上での適度な推進力に心躍ります。徐々にオケに力が満ちていき、劇的な曲想の1楽章に適度な隈取りを与え、軽い陶酔感に至ります。冒頭からバランスの良さに酔います。
つづくアダージョは弱音器付きの弦楽器と木管のしっとりとしたアンサンブルで穏やかにメロディーを奏で、絶妙な翳りを聴かせます。要所でテンポをスッと落として余韻を楽しませながら、ゆったりと音楽を進めます。とろけるように音を重ねるホルンが印象的。
メヌエットも実にしっとりと進めます。力みなく、どこも尖らず、リズムも溜めず、完璧なバランスでゆったりと進む音楽。ルカ教会に響きわたるホルンの余韻の実に美しいこと。さりげない演奏に見えても、デュナーミクのコントロールは実に巧みで、細かい表現の積み重ねで到達した至芸というところ。
そしてフィナーレの前半は適度な喧騒感を催させ、後半への対比をしっかりと印象付けます。微妙な早足感が絶妙な効果。そして奏者が一人ずつ去るアダージョ。なんという癒しに満ちた音楽。深い祈りのような柔らかさに包まれます。ドレスデン・シュターツカペレの燻らしたような音色による素晴らしいメロディーが、少しずつ細くなっていきます。ハイドンの天才を思い知らされる美しすぎる瞬間。最後は室内楽のような純粋な響きに昇華し、静寂に音楽が吸い込まれます。なんという美しさ。絶品です。

Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
一転して図太い響きがルカ教会に満ちます。ハイドンの最後の交響曲の堂々とした大伽藍が見えたと思うと、ゆったりと音量をコントロールして余韻を楽しませ、再び号砲が轟きます。このあたりの自然さを巧みな演出で聴かせるのはザンデルリンクならでは。力感ではなく演出で浮かび上がる素晴らしいスケール感。一貫してゆったりとしているで、音楽は壮大極まりない、まるで大山脈を遠望するよう。小細工なし、派手な演出もなしながら、大きくうねり盛り上がる曲想。あまりに揺るぎない構築感と説得力に圧倒されます。ロンドンの1楽章の理想的な演奏と言っていいでしょう。
アンダンテもゆったりした流れを引きつぎ、こちらは蛇行する大河の流れのよう。自然ながら巧みにテンポをコントロールして陰影を深く刻み、曲の立体感を保っているのが素晴らしいところ。呼吸の自然さが全ての流れをまとめているよう。
メヌエットももちろん雄大。これが王道の演奏なのでしょう。彫りが深くしっかりとリズムを刻み、要所でメリハリをつけた理想的な演奏。
そしてクライマックスのフィナーレ。入りのしなやかな和音から雰囲気満点。穏やかに緩急、動静を繰り返しながら徐々に盛り上がっていきます。つなぎの部分の柔かさが険しさを引き立て、一貫したテンポが雄大さを際立たせる高度なバランスの上に成り立つクライマックス。最後はドレスデン・シュターツカペレのいぶし銀の響きが振り切れて終了。

いやいや素晴らしい演奏でした。ルカ教会での残響の多い録音ゆえ、鮮度に欠けるきらいはあるものの、そうした響きからでもつたわってくる、この素晴らしい完成度は並のものではありません。この録音がなぜCD化されないか理解に苦しみますね。まさにハイドンの交響曲の理想像といていい演奏だと思います。演奏のスタイルは新しいものではありませんが、これが古さを感じるといえば、全くそうではなく、まさに普遍的な魅力を保ち続けるものと言っていいでしょう。絶品です。もちろん評価は両曲共[+++++]とします。

カワサキヤさん、素晴らしいアルバムの情報をいただきありがとうございました!

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tag : ロンドン 告別 LP

カール・ミュンヒンガー/シュツットガルト室内管の告別、オックスフォード(ハイドン)

年末でいろいろバタついており、ちょっと間が空いてしまいました。今日はコレクションの意外な盲点だったアルバム。

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カール・ミュンヒンガー(Karl Münchinger)指揮のシュツットガルト室内管弦楽団(Stuttgarter Kammerorchester)の演奏による、ハイドンの交響曲45番「告別」、92番「オックスフォード」の2曲を収めたアルバム。収録年や場所はこのアルバムには記載がありません。レーベルはINTERCORD。
カール・ミュンヒンガーはバロック音楽の巨匠という存在ですが、ハイドンの録音もそこそこあり、ウィーンフィルや、シュツットガルト室内管との交響曲や天地創造にミサ曲、フルニエとのチェロ協奏曲などがあります。これまで2度ほど取り上げておりますので、略歴などは小オルガンミサの記事をご参照ください。

2012/08/30 : ハイドン–協奏曲 : ピエール・フルニエ/カール・ミュンヒンガーのチェロ協奏曲2番
2011/08/03 : ハイドン–声楽曲 : カール・ミュンヒンガー/ウィーンフィルの小オルガンミサ

所有盤リストに登録するにも録音年がわからないアルバムは悩みの種。ネットでいろいろ調べてみると告別の方は1951年10月1日、スイス、ジュネーヴのヴィクトリアホールで録音したというLPの情報がでてきますが、今日取り上げるCDの録音はステレオで1951年録音というクォリティではなく、音の鮮度はかなりいいもの。他に今日のアルバムの2曲に48番「マリア・テレジア」、88番を加えた4曲を収めた2枚組のLPがINTERCORDからリリースされており、そのアルバムの表記に1980年とあることから、1980年頃の録音ではないかと想像していますが、あまり自信もありません。この辺のことがわかる方がいらっしゃいましたら是非情報をいただきたいところです。
ミュンヒンガーは1915年生まれで1988年で引退していますので、もし1980年頃の演奏だとすれば65歳の頃ということになります。
このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいからに他なりません。落ち着いて堂々とした古き良き時代のハイドンの交響曲の演奏の代表例といっていいでしょう。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
ゆったりとした、しかし揺るぎない構築感を感じるテンポでの入り。先に触れたように録音はステレオで実体感もあり、残響も程よく乗った非常に聴きやすいもの。弦楽器の響きの美しさもなかなか。1楽章はインテンポで攻めてくる演奏も多いですが、ミュンヒンガーはじっくりとテンポを動かさず、確信に満ちた堂々とした演奏が当然と言わんばかりの安定感重視の入り。
弱音器をつけた弦楽器によるアダージョの入りも同様、一定のテンポでしっかりとした足取り。ただしこの楽章の要であるデリケートなニュアンスの表現は秀逸。よく聴くとフレーズごとに非常に表情豊かで、しっかりと起伏と変化をつけていきます。ホルンや木管の響きの美しさも手伝って、聴き応え十分。
メヌエットでもこのテンポしかないと感じるほどの安心感を感じる入り。弦楽器に音を重ねるホルンの響きの美しさが印象的。テンポがしっかりと安定することで、素晴らしい安定感をもたらすということがよくわかります。
そして、この曲の目玉のフィナーレ。やはりここで、少しギアチェンジして緊張感が高まります。ここではじめてインテンポになりますが、程よい範囲で曲想の変化をしっかり印象付けます。そして奏者が一人ずつ退場していく後半のアダージョも実に落ち着いた表現で淡々と曲想に沿ってメロディーを進めていきますが、淡々とした表情がかえって情感を深めていくよう。最後にヴァイオリンが残るあたりもヴァイオリンの音色が徐々に失われる描写が見事。ミュンヒンガーの演奏は古さを全く感じさせないオーソドックスな名演と言っていいでしょう。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
2曲目はオックスフォード。こちらも告別同様、録音は悪くはありません。おそらく同時期の録音と想像できます。演奏スタイルは告別と同じくオーソドックスなもの。そしてしっかりと地に足のついたテンポで曲を描き、ハイドンの描く美しいメロディーから沸き立つ情感をあますところなく伝える名演奏。1楽章のキリリと引き締まった表情、2楽章の実にニュアンス豊かな表現、そしてメヌエットのおおらかさとハイドンの交響曲の普遍的な魅力を実によく踏まえた演奏。フィナーレの入りはやはり格別軽やかな表情が魅力的。以前聴いた朝比奈隆盤で、この楽章の入りのメロディーについて認識を新たにしたんですが、ミュンヒンガーもそれに劣らず、繊細な扱いをみせました。適度な推進力と落ち着いたテンポで進み、最後は落ち着き払って堂々たるフィニッシュを迎えます。このオックスフォードもハイドンの交響曲のオーソドックスな名演と言っていいでしょう。

昔はヴィヴァルディの四季の演奏で日本でもよく知られていたカール・ミュンヒンガーと、手兵、シュツットガルト室内管によるハイドンの名交響曲2曲の演奏。録音年代が今ひとつはっきりしませんが、この演奏は見事。ハイドンの交響曲の面白さをよくわかった演奏であり、この揺るぎない説得力は流石と言わざるを得ません。録音のコンディションも良く、お勧めのアルバムですが、残念ながら入手は難しいでしょう。評価は[+++++]とします。

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tag : 告別 オックスフォード

ヤーノシュ・ローラ/フランツ・リスト室内管の受難、告別

最近手に入れた交響曲の名盤。最初に言っておきますが、これは真の名盤です。

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ヤーノシュ・ローラ(János Rolla)指揮のフランツ・リスト室内管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲49番「受難」と45番「告別」の2曲を収めたアルバム。収録はブダペストの改革派教会でのセッション録音、Pマークが1983年との表記のみで日付はわかりません。レーベルはハンガリーのHUNGAROTON。

このアルバム、フランツ・リスト室内管のメンバーがエステルハーザ宮殿の階段でたたずむ写真がジャケットに使われていますが、エステルハーザ宮殿は現在ハンガリー領にあり、ブダペストからも160キロと、そう遠くありません。彼らにとってハイドンは地元の作曲家ということでしょうから、これは本場物ということになります。加えて、曲がエステルハーザの離宮での夏の長期労働を強いられたオーケストラの団員の希望を侯爵に伝えるために書かれた傑作交響曲告別を含むということで、このオケにとっては渾身の一枚であるはず。残念ながらアルバムは中古以外に流通していませんが、iTunesで聴く事ができます。

ヤーノシュ・ローラはフランツ・リスト室内管弦楽団のコンサートマスター、音楽監督。フランツ・リスト室内管弦楽団は1963年、フランツ・リスト音楽院の教授だったフリギエシュ・シャンドール(Frigyes Sándor)を中心に、音楽院の学生達により設立されたブダペストを本拠地とするオーケストラ。現在はコンサートマスターのヤーノシュ・ローラが芸術監督を務めています。基本的に指揮者を置かず、ローラのリーダーシップにより演奏を行っているそう。フランツ・リスト室内管の演奏は協奏曲の伴奏でこれまで2度取りあげています。

2010/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ペレーニの至芸、チェロ協奏曲
2010/06/05 : ハイドン–協奏曲 : ハイドン第2のホルン協奏曲?

どちらのアルバムの演奏もオーソドックスながら、情感の濃いなかなかの演奏だっただけに、この組み合わせでのこの曲は、かなり期待できます。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
予想どおり、しっとりと情感の乗った響きから入ります。まさにこの曲はこう演奏されべきというようなオーソドックスさ。じっくりじっくりメロディーを音にしていき、まったく外連味なし。録音は少し古びた印象がなくはありませんが、HUNGAROTON特有の石のような響きの癖は感じず、十分優秀。適度な残響がリラックスして音楽を楽しむのにぴったり。1楽章はアダージョ。楽章全体が序奏のような位置づけですが、ハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の名旋律がゆったりと教会に響きわたります。モダン楽器でのこの曲の演奏の王道中の王道を行くような堂々と揺るぎない響き。
2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、フランツ・リスト室内管のちょっとザラッとした弦楽器群が抜群のエネルギー感でグイグイ引っ張ります。メロディーの彫りは深く、覇気溢れる峻厳な音楽、室内管とはいっても迫力は十分。木管等に対して弦が圧倒的なプレゼンス。おそらく得意としている曲でしょう、説得力が違います。
メヌエットは意外としなやか。リズムよりもながれを強調した演奏。この郷愁溢れる名旋律をさらりとこなしていくあたりに弾き慣れた貫禄を感じますね。
フィナーレはここ一番の躍動感。慌てるそぶりはなく、じっくりとスピードに乗ってアンサンブルの精度も程々に、各奏者の力が漲ります。弦楽器陣による図太い主旋律が素晴しい迫力。転調や強弱の変化をじつにしっくり表現しながら進みますが、この曲のツボをきちんと押さえているので、アクセルワークが見事。これ以上の表現はないほど。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
つづいて告別。聴き慣れた1楽章ですが、オケはキレまくり。いきなりフルスロットル、入魂の迫力。流石本場と唸らざるを得ません。怒濤の弦楽器群がほの暗さを明るさの綾を見事に描き上げていきます。冒頭から圧倒されっぱなしです。穏やか部分で一度力を抜いて、再びオケが怒濤の迫力へ。鬼気迫るとはこのこと。告別の1楽章が圧倒的な存在感で押し寄せます。これほどのエネルギーだったとは。
2楽章のアダージョはあらためて思いますが、ハイドンの創作意欲の結晶のような音楽。弱音器をつけたヴァイオリンが奏でる静かな音楽の精妙さに聴き入ります。どうしてこのようなメロディーが浮かんでくるのかと思わせる実に不思議で趣き深い、実に深い音楽。それを知ってかヤーノシュ・ローラは音楽を淡々とこなしていきます。ハイドンの創意とローラの実に懐の深い音楽に、ただただ浸るように聴きます。
受難のメヌエットとは異なり、こちらはかなりリズムの面白さを強調した演奏。一貫してゆったりしたテンポながら、時折明るさがパッとさすような変化をを強調して、曲に潜む魅力を実にうまく表現していきます。ホルンのとろけるような響きも最高。これまでホルンや木管は脇役に徹していましたので、音量のコントロールをかなり明確にしているようです。かなり大胆に音量の変化をつけた秀演。
そして、クライマックのフィナーレ。前半は予想通り、怒濤の迫力。弦楽器のエネルギーが素晴しい。これから起こるドラマを予感させるようなざわめきすら感じさせる、極度の緊張感。ほの暗い雰囲気。闇の深さを暗示させるような気配。後半は一人一人去っていく場面。一転して平穏な癒しに満ちた雰囲気に変わります。波のない湖にうつる満月を見るような心境。やはりこの曲、傑作ですね。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管の入魂の演奏で聴くと、まさにハイドンが描きたかった音楽そのものが存在するよう。深い深い感動。徐々に生気を失っていくように、命が途絶えていくように、音楽が消えていくように、一人一人奏者が去っていきます。音楽が魂になって昇華いくよう。最後に残った楽器も消え入るように音量を落としていきます。

絶品です。ハイドンの偉大さに直接触れるような名演奏。言葉になりません。

このアルバム、多くの人に聞いていただくべき名盤中の名盤ですね。評価は両曲とも[+++++]です。告別は決定盤と断じます。

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tag : 受難 告別

ダニエル・バレンボイム/ECOの悲しみ、告別、マリア・テレジア

前記事でとりあげたバレンボイムのLPが良かったので、すかさずamazonにバレンボイムの現役盤CDを注文。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番「マリア・テレジア」の3曲を収めたアルバム。収録は「悲しみ」が1975年9月エジンバラ、その他の2曲が1978年3月、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでの世ション録音です。

このアルバム、国内盤でユニバーサルから"The Best 1200"というシリーズでリリースされたもの。この手の国内盤はほとんど買ったことがありませんでしたが、バレンボイムのハイドンの初期交響曲で現在入手しやすいのはこれしかないため、躊躇せず注文したものです。

国内盤はジャケットのセンスも今一。仕事は丁寧ですが、所有欲をかき立てるかというとそうではなく、どうしても輸入盤の方にいってしまうのが正直なところです。このアルバムもジャケットもせっかくのDG風のものに茶色の縁取りとThe Best 1200というセンスの悪いロゴが入って、今ひとつどころか、美的感覚が疑われるところ。ただし内容は悪くありませんでした。

上記のHMV ONLINEのリンクをご覧戴くとわかるとおり、「高精度ルビジウム・クロック・カッティング」が売り物で、帯にも「ルビジウム・クロック・カッティングによるハイ・クォリティ・サウンド」とのコピーが踊ります。LPで聴かれた繊細かつデリケートなコントロールが最新のリマスターでどのように蘇ったのか、興味は尽きません。

バレンボイムの情報は前記事を参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
前記事で取りあげたLPの演奏の穏やかな感覚とは異なり、流石に名曲「悲しみ」は冒頭から力感に満ちた入り。テンポも速めでバレンボイムがかなり煽っているのがわかります。いい意味で期待したよりも覇気に溢れた演奏。バレンボイムらしく音量を落とした部分の丁寧な演出は健在です。オケのイギリス室内管は名手ぞろいで、くすんだイギリスの空のような深みのある音色が魅力。弦パートのキレの良さは他のアルバムでも聴き所なほどイギリス室内管の特徴的なもの。ハイドンの名曲の実に味わい深い演奏です。肝心の音質は、もちろん音にこだわったCDですので安定しています。ただし、LPほどの繊細な解像感はないものの、ダイナミックレンジと迫力は最新のリマスターらしくなかなかのものです。
2楽章のメヌエットはほの暗く、サラッとオーソドックスな演奏。良く聴くと表情の変化があって聴き応えはありますが、バレンボイムらしく実に地味な展開。
秀逸なのは3楽章のアダージョ。やはり前記事のLPから期待した、非常にデリケートな弱音部のコントロールが絶妙。抑えているのに非常に表情豊かな演奏。ハイドンの緩徐楽章のツボをおさえた演奏ですね。古き良きハイドンの魅力を存分に味わえます。
そしてフィナーレに入ると図太い低音弦の象徴的なメロディーが巨大構造物のごとき存在感で非常に印象的。楽章の変わり目の呼吸というか演出が非常に上手いですね。フィナーレは弦の分厚い響きによるザクザクとした演奏が大迫力。オケ全体から立ちのぼる気迫とエネルギーが伝わります。まさに力感の塊のような演奏。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
演奏場所が変わってヘンリー・ウッド・ホールでの録音。どちらかというと、前曲のエジンバラでの録音の方がキレがあるように聴こえます。基本的には聴きやすい録音ですが、響きが前曲と比べると固まって、余韻の漂う感じが薄れ、多少デッドな印象です。この録音の印象が演奏の印象にも影響して、やはり第一印象はオーソドックスで地味目なもの。ただし良く聴くとイギリス室内管の魅力ある演奏でもあり、バレンボイムらしいオーソドックスながら豊かな表情も聴き取れます。
続くアダージョも同様、前曲で聴かれた繊細なコントロールほどの緻密さは感じず、実にオーソドックス。これはLPで聴くともうすこし表情がくっきり浮かんでくるような気がします。ただ、曲が進むにつれて抑えた部分の表情は豊かになってくるところはバレンボイムの意図通りなのでしょうか。
そしてメヌエットは吹っ切れたような自然なソノリティが魅力。前楽章のデリケートなコントロールのあとに、ある意味淡々としたメヌエットを重ね、楽章ごとの変化を印象づけます。
そして聴き所のフィナーレ。前半は予想通りクッキリした表情で淡々といきます。後半も予想通りあっさり淡々とした入り。徐々に楽器が減るところでも一貫した表情で特に目立った演出は加えません。徐々に寂しさが浮かび上がってきて,ふと我に返るような演奏ですね。

Hob.I:48 / Symphony No.48 "Maria Theresia" 「マリア・テレジア」 [C] (before 1769?)
最後はマリア・テレジア。録音会場は前曲同様ヘンリー・ウッド・ホールですが、響きの力感と鮮明さはむしろ1曲目の悲しみに近い印象。このアルバムで一番クッキリハッキリした録音に聴こえます。クッキリしすぎてちょっと整理し過ぎな印象もある感じです。祝祭感あふれるこの曲らしく、力感とエネルギー感を感じさせるコントロールですが、逆にデリケートさは交代して、若干の単調さをはらんでしまっています。
2楽章に入るとデリケートなニュアンスが戻ってきました。陰りのあるイギリス室内管のしっとりとした響きとバレンボイムのあっさりとしたコントロールが実にいい感じ。木管楽器の美しい音色と弱音器付きの弦楽器群の織りなすハーモニーが美しく溶け合います。
メヌエットは祝祭感満点。クッキリ明るい部分は若干古風な印象もありますが、すぐに展開して、陰りが強くなり陽と陰のコントラストを見せます。そしてフィナーレもクッキリした明解な響きが基調となり、バレンボイムもクライマックスに向けてテンポを上げて煽ります。フィナーレは快速テンポで一気に聴かせてしまいます。

バレンボイムの指揮するイギリス室内管の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲集。前記事のLPが一貫してゆったりかつ抑えた部分の表情の美しさで聴かせたのに比べると、こちらはテンションの高い力感を重視した演奏に聴こえますが、曲によっては、力感重視のところは単調な印象もはらみますね。CDとしてのリマスタリングは手間をかけているように聴こえ、音質もなかなかのものですが、やはりLPによる繊細な響きの魅力は捨て難く、比べるとLPに軍配が上がりますでしょうか。評価は「悲しみ」が[+++++]、告別が[++++]、マリア・テレジアは[+++]とします。

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tag : 悲しみ 告別 マリア・テレジア

オルフェウス室内管の交響曲81番、告別

土曜の歯の定期検診とイタリアンのあと立ち寄ったディスクユニオンで発見したアルバム。

OrpheusCO81.jpg

オルフェウス室内管弦楽団(Orpheus Chamber Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲81番と45番「告別」の2曲を収めたアルバム。収録は1987年3月、ニューヨーク州立大学パーチェス校のパフォーミング・アーツ・センターでのセッション録音。レーベルは名門DG。

黄色いタイトルのきちんとデザインされたアルバム。黄金期のDGのプロダクションですが、現在は廃盤のもよう。手元にオルフェウス室内管のハイドンの交響曲のシリーズが何枚かありますが、いま取り出して確認したところこれで5枚目。これまでに3回取りあげていますが、いづれも2010年とだいぶ前のこと。

2010/10/27 : ハイドン–交響曲 : オルフェウス室内管弦楽団のマリア・テレジア、受難
2010/09/07 : ハイドン–交響曲 : オルフェウス室内管弦楽団の60番、91番
2010/06/27 : ハイドン–交響曲 : オルフェウス室内管の哲学者

これまでの記事を読んでいただければわかるとおり、オルフェウス弦楽四重奏団のハイドンの交響曲は、曲によってハマる曲もあれば、もう一歩踏み込みが欲しい曲もあり、素晴らしく気に入っている訳ではありません。しかし
、そのムラがあるからこそ、ちょっと聴いてみたくなるものです。指揮者なしの小編成オケのオルフェウス故、告別はなかなかいいのではないかとの期待もあります。譜面台をおいて立ち去る楽団員の写真があしらわれたなかなか品のいいジャケットも期待を煽ります。

前記事を確認すると、演奏者をちゃんと紹介していませんでした。

Home | Orpheus Chamber Orchestra

オルフェウス室内管弦楽団は1972年に設立された室内管弦楽団。指揮者なしでの演奏に特徴があります。本拠地はニューヨークで、カーネギーホールなどでコンサートを開いているよう。
ウェブサイトを確認すると、現在33名のメンバーによって構成され、活動もいまだ活発にしているようです。今シーズンは設立40周年とのことで、ウェブサイトもお祝いムードですね。

Hob.I:81 / Symphony No.81 [G] (before 1784)
パリセット直前の珍しい81番。現代楽器の小編成オケらしいキビキビとした入り。キビキビとした演奏がぴったりの快活な曲。しっかりアクセントをつけてメリハリも十分。アメリカのオケらしい機能美を感じさせるスタイリッシュな演奏。指揮者の個性ではなくロジカルというかよく考えられたデュナーミクが説得力がありますが、ちょっと遊びが欲しいと思わせるところもあります。音量を抑えてフレーズをつないでいく部分の華やぎはハイドンらしい魅力的な部分。
つづくアンダンテは、淡々と非常に整った音楽。情感をを抑えて音楽がオケの響きとして即物的に迫ってくる感じ。非常に冷静な奏者が完璧な演奏しようと張りつめているようです。もうすこしリラックスたほうが音楽に余裕がでるのではと思った瞬間、変奏に入るところで、期待通りすこし力が抜けて音楽の表情も豊かになります。こちらの考えていることが読まれているような不思議な感覚。弦のピチカートも加わり、ほのぼのとした音楽になります。
メヌエットは実にユーモラスな曲想。引き締まった響きで淡々とこなして行きますが、やはり演奏は規律重視。ピンと背筋が伸びた音楽。リズムのエッジがキリッと立って切れ味はなかなか。
そしてフィナーレは規律を保ったまま、テンポを上げますが、演奏スタイルは端正なままで進みます。テクニック的には上手い演奏なんですが、心に入り込んでくるというよりは、磨かれた響きを聴くべき演奏でしょうか。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
おなじみの告別。前曲と同様、小編成オケのタイトな響きは変わりませんが、曲の構えの大きさに対して、演奏の構えがちょっと小さいように聴こえます。不思議にオケの響きがちょっと揺れているように聴こえるのはテープのコンディション由来の問題でしょうか。均整を保ちながら畳み掛けてくる不思議な演奏。ここに来て指揮者がいないということの欠点が少し目立つようになってきました。やはり大きな視点での音楽の設計が欠けているのだとわかります。キビキビタイトな演奏であっても、楽章ごとのニュアンスの変化や、個性的なコントロールが聴かれず、ちょっと単調さをはらんでしまっています。アンダンテも同様、ディテールは磨かれている印象にも関わらず、音楽としてのまとまりがいまひとつ。遅めテンポでじっくり聴き込みたいのですが、すこし音楽の緊張感が薄らいでいるのがわかります。
メヌエットに入ると一層ゆったりした遅さが気になるようになります。ショーケースに美しくライティングされてディスプレイされた音楽のよう。本来は活き活きと音楽が弾むべきでしょう。
フィナーレはご存知のように2部構成。前半はオルフェウスの魅力的な弦楽器群がザクザクと刻み、オケのテクニックを堪能できます。後半は奏者が一人ずつ退場していく有名な部分。これまでの遅い楽章の平板に近い印象よりはすこしクッキリ感が残り、また、楽器が減っていくに連れて、一人一人の奏者の上手さが引き立つように変わります。この楽章の自然さ、淡々と楽器が減っていく様子はなかなか深い音楽。最後に近いフレーズの、奏者が寂しげに音楽を弾き込んでいるようすは実に趣き深いもの。いつ聴いても最後の奏者の音色が静寂の中に消えていくところはいいですね。このへんが名曲の名曲たる所以でしょう。

久しぶりに出会ったオルフェウス室内管弦楽団の交響曲は、ちょっと期待が大きすぎたのか、イメージした演奏とはちょっと異なるニュアンスのものでした。1曲目の81番は小編成オケの良さを素直に生かした演奏ですが、2曲目の告別は、この見事な交響曲のデリケートなニュアンスを描ききれていないもどかしさを感じます。ディテールの出来はいいのに、大きな音楽の流れが造れていない印象が残ります。これが音楽の複雑かつ難しい部分でしょう。評価は81番が[++++]、告別が[+++]とします。

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tag : 交響曲81番 告別

デレク・ソロモンス/レストロ・アルモニコの告別

まだ取りあげた事のない演奏者のアルバム。古楽器による演奏としてはホグウッドよりもさらに前の録音。

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デレク・ソロモンス(Derek Solomons)指揮のレストロ・アルモニコ(L'Estro Armonico)の演奏でハイドンの交響曲6曲を収めたアルバム。アルバムにはVol.9と記載されていますが、たしか3巻しかリリースされなかったと思います。収録は1983年11月から12月にかけて、ロンドンの聖バルナバ教会でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICALではなくCBS MASTERWORKS。

今日はこのアルバムから名曲交響曲45番「告別」を取りあげましょう。

レストロ・アルモニコはヴァイオリニストのデレク・ソロモンスによって1973年に設立された古楽器オーケストラ。訳すと「調和の霊感」、アントニオ・ヴィヴァルディの作品名として知られています。メンバーは英国の室内楽演奏家の腕利き揃い。イングランド西部のバースという街で行われる音楽祭にヴィバルディの生誕300年の年であった1978年にに招かれたり、ハイドンの生誕250年の年である1982年にに再びバース音楽祭招かれる等、古楽器オーケストラとしては草分けとして活躍したオーケストラ。

メンバー表を見ると、昨日取りあげたホグウッド盤のアカデミー室内管弦楽団とヴァイオリンのクリストファー・ハイロンズとホルンのアンソニー・ホールステッドという主要メンバーが共通しています。ただし、オケとしての響きはかなり異なります。

今日取り上げる告別の所有盤リストをチェックすると、古楽器による演奏ではこのレストロ・アルモニコ盤が最も古い録音ということになり、まさに古楽器によるハイドンの交響曲演奏の草分け的存在である事がわかります。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
ホグウッドとアカデミー室内管がクッキリとした響きを特徴としていたのに対し、こちらは音の塊のエネルギーに主眼をおいたような演奏。古楽器による演奏ですが、演奏のスタンスは現代楽器に近いもの。キビキビしたところはありますが、響きは塊となって、ホグウッドのコントロールのような洗練された響きを感じさせるものではなく、渾然一体となったもの。告別の1楽章は畳み掛けるような曲想の魅力がありますが、ちょっと浮き足立った感じもあって、十分な迫力まで至りません。カチャカチャとした印象が面白くもあります。若干深みに欠ける録音に起因するような気がしなくもありません。
弱音器をつけた弦楽器によるアダージョは、オーソドックスな展開。シュトルム・ウント・ドラング期特有の憂いに満ちた音楽を淡々と演奏していきます。1楽章よりも自然さが増しています。音量の変化はそれほど大きくなく表情の変化もそこそこ。淡々とした演奏でも溢れ出る情感。ハイドンの曲自体に情感が宿っているという事でしょう。ホルンの余韻と弦の響きが溶け合い、えも言われぬ雰囲気になっています。
メヌエットは鮮明さを取り戻し、クッキリした表情。確かに古楽器の音色なんですが、古楽器らしいとゆうより、純粋に溶け合う響きの美しさを楽しめと言われているよう。
フィナーレの前半に入り、ようやくオケの迫力に触れたよう。各楽器が畳み掛けるように攻め入る様はソロモンスの意図がようやくしっくり来た感じです。後半は有名な一人一人去っていく音楽。指揮者の実直さが伝わってくるような真面目な演奏。ここに来てホルンの安定感のある図太い低音の響きの魅力が際立つようになります。少しづつ楽器が減っていく様はどの演奏でもちょっと侘しい感じがしていいものです。

デレク・ソロモンス指揮のレストロ・アルモニコの演奏は、古楽器による演奏ということに媚びる事なく、実に自然な演奏。個性的な演奏ではありませんが、この演奏を好む方が多いのも頷けるところ。1楽章のちょっと浮き足立った印象が多少マイナスですが、曲がすすむにつれてじわりと魅力を引き出すあたり、ソロモンスの実力というところでしょう。評価は[++++]ということにします。以前より一段階アップです。

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tag : 告別 古楽器

トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」

これも最近手に入れたアルバムです。

Fey64.jpg
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トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)によるハイドンの交響曲64番「時の移ろい」、45番「告別」の2曲を収めたアルバム。収録はPマークが1999年で、ドイツのハイデルベルグ北方のメルレンバッハ(Mörlenbach)のコミュニティーセンターでのセッション録音。レーベルはファイの交響曲集をリリースし続けているhänssler CLASSIC。

このアルバムはファイのハイドン交響曲全集の第2巻にあたりますが、第1巻を含めて他のアルバムのオケがハイデルベルク交響楽団なのに対し、このアルバムのみシュリアバッハ室内管弦楽団と異なり、しかもHMV ONLINE上では既に廃盤というもの。調べたところシュリアバッハ室内管弦楽団はハイデルベルク交響楽団の前身で、1993年にハイデルベルク交響楽団に変わったとのこと。この巻のみ廃盤な理由はわかりませんが、ハイデルベルク交響楽団として録り直す予定でもあるのでしょうか。

このアルバムは廃盤だったので入手できていませんでしたが、ディスクユニオンでたまたま見かけたのでようやく手に入れたもの。おそらく編成の大きさのみの違いで奏者は同じ人も多いのではないかとと思いますので、オケの音色の違いはそれほどないのではないかと想像しています。ファイのハイドン交響曲全集の第2弾ということで、最近の録音との演奏の違いなどがあるかどうかが気になるところです。

これまで取りあげたレビューを紹介しておきましょう。

2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

これまで取りあげたのは、それぞれ第7巻、14巻、15巻と比較的最近のもの。7巻の録音も2006年ということで、ファイの交響曲全集の初期のアルバムは取りあげていないことになります。この第2巻の1997年以前の録音がどのような出来かというのも興味あるところです。

Hob.I:64 / Symphony No.64 "Tempora mutantur" 「時の移ろい」 [A] (before 1778)
告別交響曲よりも少し後に作曲された曲。大宮真琴さんの新版ハイドンによると、筆写譜の4楽章に"Tempora mutantur"との書き込みがあるのでこの標題がついたという事ですが、それが何を意味するのかはわかっていないそう。冒頭から、落ち着いていながらも楽譜に書かれたハイドンの音楽を題材にファイらしいしっかりしたアクセントと奏法上のメリハリを凝らした演奏。オーケストラのテクニックはかなりしっかりしており、管楽器以外は古楽器という編成で、スペクタクルな展開。ハイドンの音楽に新風を吹き込もうというファイの心意気が感じられる素晴らしい演奏。この演奏は全集を創る価値があると頷けるものです。そこここにちりばめられた弦楽器のレガートが印象的。録音は鮮明で、響きも固すぎず心地よい音響。
2楽章のラルゴは弱音器つきの弦楽器が奏でる静かな曲。弱音部の美しさに焦点を合わせ、かなりテンポを落としたじっくり静かな音楽。
メヌエットは弾む感じを上手く出した、軽いタッチの演奏。オケは良くそろってファイの棒に忠実についていきます。研ぎすまされた集中力によって、フレーズごとに巧みにコントロールされ、各奏者の力の入れ加減がピタリとそろったフレージングを実現。
フィナーレは、知情のバランスが非常にいい演奏。行き届いたコントロールはそのままに、音楽の推進力が増し、交響曲の結びにふさわしエネルギーをそこここで噴出。これは見事。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
疾走する悲しみという言葉が相応しい入り。機知とエネルギーが満ちた素晴らしい入り。速めのテンポでぐいぐい行きます。弾む感じ、古楽器のアタック特有の快感、現代オケに負けないダイナミックレンジを感じさせながらも、一貫してファイの音楽。十分にコントロールされた見事な入りです。徐々に制御よりもエネルギーが勝るようになり素晴らしい盛り上がりを見せます。オケもいい意味で乱れた部分もあり、この交響曲に込められたエネルギーを素晴らしい表現で響きに込めています。
2楽章のアダージョは意外に素っ気ない感じで入ります。弱音器つきの弦楽器が奏でる聴きなれたメロディーを表情を抑え気味にして、ことさら磨く事なく、淡々と進めていきます。おそらく楽章間の対比が主眼にあり、この楽章自体の表現は押さえ込むという狙いだと思います。ここもじっくり静かな音楽。
3楽章のメヌエットは一転して浮き足立った展開。速めのテンポと速めに拍子を打つような速度感の演出で対比を鮮明にします。告別のメヌエットとしてはかなり速い方でしょう。
その勢いそのままにフィナーレに突入。前半は1楽章の再来のようなはち切れんばかりのエネルギーを放出。ほの暗いシュトルム・ウント・ドラング期特有のハイドンの魂が見えてくるよう。奏者が去っていく最後のアダージョにはいり、テンポと表情が落ち着きます。表情は淡々としたまま少しずつ楽器が減り、最後の弦楽器の1台になるまで表情はそのまま。抑えた表情が一層曲想を強調するような展開でした。

トーマス・ファイとシュリアバッハ室内管によるハイドンの交響曲全集第2巻。「告別」と「時の移ろい」という珍しい曲の組み合わせでしたが、その演奏はファイらしい創意と自然さを保った前衛的な側面もあるバランスの良い演奏。特に印象的なのが楽章間の対比と、告別の1楽章、4楽章の素晴らしいエネルギー感。この頃はハイドンの交響曲全集のまだ出だしでしたのでファイ自身にも緊張感が漲っていたように聴こえました。評価は両曲とも[+++++]とします。

今日は朝から雨ですが、府中は連休恒例のくらやみ祭りがはじまりました。街中に大きな太鼓の音色が轟いてます。昨年は震災の影響で中止となってしまいましたので、2年ぶりの太鼓の音色です。やはり普通のことが普通に行われるのがいいものですね。

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ジャンル : 音楽

tag : 時の移ろい 告別 古楽器

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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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